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特開2023-70184C-アリールグリコサイド誘導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070184
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】C-アリールグリコサイド誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 7/04 20060101AFI20230511BHJP
   C07D 333/16 20060101ALI20230511BHJP
   C07H 15/02 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 31/7042 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20230511BHJP
   C07C 327/22 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 31/519 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C07H7/04
C07D333/16 CSP
C07H15/02
A61K31/381
A61K31/7042
A61P43/00 111
A61P3/10
A61K31/22
C07C327/22
A61K31/519
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178237
(22)【出願日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021182050
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】真島 和志
(72)【発明者】
【氏名】劒 隼人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 智哉
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C057BB02
4C057EE04
4C057JJ03
4C086AA03
4C086AA04
4C086BB02
4C086CB05
4C086EA01
4C086EA05
4C086NA20
4C086ZC20
4C086ZC35
4C086ZC41
4C206AA03
4C206AA04
4C206JA23
4C206NA20
4C206ZC20
4C206ZC35
4C206ZC41
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC60
4H006TN60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規チオエステル誘導体及びその製造方法、新規ケトン誘導体及びその製造方法、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体の新規製造方法、並びにC-アリールグリコサイド誘導体の新規製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(I):

で表されるチオエステル誘導体(I)を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるチオエステル誘導体(I)。
【請求項2】
下記式(II):
【化2】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるケトン誘導体(II)。
【請求項3】
請求項1に記載のチオエステル誘導体(I)を製造する方法であって、
塩基の存在下、
下記式(III):
【化3】
[式中、W、R及びnは、請求項1と同義である。]
で表されるチオール誘導体(III)と、
下記式(1):
【化4】
[式中、Rは、前記と同義である。]
で表されるカルボン酸無水物(1)と、
を接触させて、前記チオエステル誘導体(I)を製造する工程を含む、前記方法。
【請求項4】
下記式(2):
【化5】
[式中、Wは、前記と同義である。]
で表されるチオール(2)と、
下記式(3):
【化6】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるグリニャール試薬(3)と、
下記式(IV):
【化7】
[式中、R及びnは、前記と同義である。]
で表されるアシル保護ラクトン誘導体(IV)と、
を接触させて、前記チオール誘導体(III)を製造する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記チオール(2)と前記グリニャール試薬(3)と前記アシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させて前記チオール誘導体(III)を製造する工程において、前記チオール(2)と前記グリニャール試薬(3)との反応によりマグネシウムチオラートが形成された後、前記マグネシウムチオラートと前記アシル保護ラクトン誘導体(IV)との反応により前記チオール誘導体(III)が形成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記チオール(2)と前記グリニャール試薬(3)と前記アシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させることにより得られた反応混合物から前記チオール誘導体(III)を単離することなく、前記反応混合物に前記カルボン酸無水物(1)を添加することにより、前記チオール誘導体(III)と前記カルボン酸無水物(1)とを接触させて前記チオエステル誘導体(I)を製造する工程を行う、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
請求項2に記載のケトン誘導体(II)を製造する方法であって、
請求項1に記載のチオエステル誘導体(I)と、
下記式(4a):
【化8】
[式中、Wは、請求項2と同義であり、Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるグリニャール試薬(4a)、及び、
下記式(4b):
【化9】
[式中、W及びXは、前記と同義である。]
で表されるグリニャール試薬(4b)
から選択されるグリニャール試薬(4)と、
銅塩と、
を接触させて、前記ケトン誘導体(II)を製造する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
前記工程において、前記グリニャール試薬(4)と前記銅塩とを接触させて有機銅試薬を形成させた後、前記有機銅試薬と前記チオエステル誘導体(I)とを接触させて前記ケトン誘導体(II)を製造する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記銅塩が、シアン化銅(I)、塩化銅(I)、酢酸銅(I)及びチオフェン-2-カルボン酸銅(I)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、前記銅塩を1モル以上3モル以下の量で用いる、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程において、-20℃以上150℃以下の温度範囲で、前記チオエステル誘導体(I)と前記グリニャール試薬(4)と前記銅塩とを接触させる、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
下記式(V):
【化10】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
100は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリール基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する方法であって、
請求項2に記載のケトン誘導体(II)と塩基とを接触させて、前記ケトン誘導体(II)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸をさらに接触させて、前記C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程を含む、前記方法。
【請求項13】
下記式(VI):
【化11】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
mは、2を表す。]
で表されるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)を製造する方法であって、
下記式(IIA):
【化12】
[式中、
及びmは、前記と同義であり、
Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。]
で表されるケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを接触させて、前記C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)を製造する工程を含む、前記方法。
【請求項14】
下記式(VII):
【化13】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるC-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する方法であって、
請求項12に記載の方法により前記C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造した後、得られたC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)とシラン化合物とを接触させて、前記C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオエステル誘導体及びその製造方法、ケトン誘導体及びその製造方法、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体の製造方法、並びにC-アリールグリコサイド誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SGLT2阻害剤は、抗糖尿病薬として有用である。なお、「SGLT2」は、ナトリウム-グルコース共輸送担体-2を意味する。SGLT2阻害剤としては、例えば、カナグリフロジン(1-(β-D-グリコピラノシル)-4-メチル-3-[5-(4-フルオロフェニル)-2-チエニルメチル]ベンゼン)、エンパグリフロジン((1S)-1,5-アンヒドロ-1-C-{4-クロロ-3-[(4-{[(3S)-オキソラン-3-イル]オキシ}フェニル)メチル]フェニル}-D-グルシトール)、イプラグリフロジン((1S)-1,5-アンヒドロ-1-C-{3-[(1-ベンゾチオフェン-2-イル)メチル]-4-フルオロフェニル}-D-グルシトール-(2S)-ピロリジン-2-カルボン酸)、ダパグリフロジン((2S,3R,4R,5S,6R)-2-[4-クロロ-3-(4-エチルオキシベンジル)フェニル]-6-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-チオール)等が知られている。
【0003】
SGLT2阻害剤の製造方法として、1-(β-D-グリコピラノシル)-4-メチル-3-[5-(4-フルオロフェニル)-2-チエニルメチル]ベンゼン前駆体の保護基を脱保護してカナグリフロジンを合成することが提案されている(特許文献1参照)。1-(β-D-グリコピラノシル)-4-メチル-3-[5-(4-フルオロフェニル)-2-チエニルメチル]ベンゼン前駆体は、C-アリールヒドロキシグリコサイド誘導体とも称され、SGLT-2阻害薬を製造するための中間体として注目されている(特許文献1~2及び非特許文献1~3)。
【0004】
C-アリールヒドロキシグリコサイド誘導体の製造方法として種々の提案がされており、例えば、-78℃の超低温下において、D-グルコノラクトン誘導体にアリールリチウムを作用させてアリール基を付加反応させる方法(非特許文献1及び3)、-20~-10℃の低温下において、D-グルコノラクトン誘導体にArMgBr・LiCl(Arはアリール基を表す)等のターボグリニャール試薬を作用させてアリール基を付加反応させる方法(非特許文献2)、リチウムトリn-ブチルマグネサート(nBuMgLi)から得られたマグネシウムアート錯体を用いて、-15℃程度の温度環境下、D-グルコノラクトン誘導体にアリール基を付加反応させる方法(特許文献2)等が知られている。また、ニッケル触媒存在下でチオエステル誘導体に有機亜鉛試薬を反応させることによりカップリングが起こり、ケトン誘導体が得られることが報告されている(非特許文献4及び5)。
【0005】
また、下記式(X)で表されるレムデシビル(Remdesivir)は、抗ウイルス薬として用い得る化合物である。レムデシビルは、例えば、RSウイルス、コロナウイルス等の一本鎖RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示す。
【0006】
【化1】
【0007】
特許文献3には、レムデシビル及びその中間体の製造方法が開示されている。特許文献3には、クロロトリメチルシラン(TMSCl)及びn-ブチルリチウム存在下、下記式(XI)で表されるラクトンと、下記式(Ar’’)で表されるブロモピラゾールとを、-78℃で反応させることにより、下記式(XII)で表されるヒドロキシヌクレオシドが得られることが記載されている。このヒドロキシヌクレオシドは、レムデシビル合成のための中間体として用いることができる。なお、「Bn」はベンジル基を表す。
【0008】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2010/043682号公報
【特許文献2】WO2015/012110号公報
【特許文献3】WO2012/012776号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.Med.Chem.2008,51,1145-1149
【非特許文献2】Org.Lett.2014,16,4090-4093
【非特許文献3】J.Org.Chem.1989,54,610-612
【非特許文献4】Tetrahedron Letters 2002,43,1039-1042
【非特許文献5】Chem.Eur.J.2018,24,8774-8778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
C-アリールヒドロキシグリコサイド誘導体又はレムデシビル若しくはその中間体の製造に従前用いられてきた手法はいずれも、厳しい低温条件下で高価な試薬を用いて実施する必要があり、設備コスト又はランニングコストが極めて高価となり、最終原薬を安価に量産することが困難である。このため、C-アリールヒドロキシグリコサイド誘導体又はレムデシビル若しくはその中間体を工業的に安価で効率的に製造することを可能とする、チオエステル誘導体及びその製造方法、ケトン誘導体及びその製造方法、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体の製造方法、並びにC-アリールグリコサイド誘導体の製造方法が求められている。
【0012】
本発明は、新規チオエステル誘導体及びその製造方法、新規ケトン誘導体及びその製造方法、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体の新規製造方法、並びにC-アリールグリコサイド誘導体の新規製造方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の発明を提供する。
[1]下記式(I):
【化3】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるチオエステル誘導体(I)。
【0014】
[2]下記式(II):
【化4】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるケトン誘導体(II)。
【0015】
[3][1]に記載のチオエステル誘導体(I)を製造する方法であって、
塩基の存在下、
下記式(III):
【化5】
[式中、W、R及びnは、[1]と同義である。]
で表されるチオール誘導体(III)と、
下記式(1):
【化6】
[式中、Rは、前記と同義である。]
で表されるカルボン酸無水物(1)と、
を接触させて、前記チオエステル誘導体(I)を製造する工程を含む、前記方法。
【0016】
[4]下記式(2):
【化7】
[式中、Wは、前記と同義である。]
で表されるチオール(2)と、
下記式(3):
【化8】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるグリニャール試薬(3)と、
下記式(IV):
【化9】
[式中、R及びnは、前記と同義である。]
で表されるアシル保護ラクトン誘導体(IV)と、
を接触させて、前記チオール誘導体(III)を製造する工程を含む、[3]に記載の方法。
【0017】
[5]前記チオール(2)と前記グリニャール試薬(3)と前記アシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させて前記チオール誘導体(III)を製造する工程において、前記チオール(2)と前記グリニャール試薬(3)との反応によりマグネシウムチオラートが形成された後、前記マグネシウムチオラートと前記アシル保護ラクトン誘導体(IV)との反応により前記チオール誘導体(III)が形成される、[4]に記載の方法。
【0018】
[6]前記チオール(2)と前記グリニャール試薬(3)と前記アシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させることにより得られた反応混合物から前記チオール誘導体(III)を単離することなく、前記反応混合物に前記カルボン酸無水物(1)を添加することにより、前記チオール誘導体(III)と前記カルボン酸無水物(1)とを接触させて前記チオエステル誘導体(I)を製造する工程を行う、[4]又は[5]に記載の方法。
【0019】
[7][2]に記載のケトン誘導体(II)を製造する方法であって、
[1]に記載のチオエステル誘導体(I)と、
下記式(4a):
【化10】
[式中、Wは、[2]と同義であり、Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるグリニャール試薬(4a)、及び、
下記式(4b):
【化11】
[式中、W及びXは、前記と同義である。]
で表されるグリニャール試薬(4b)
から選択されるグリニャール試薬(4)と、
銅塩と、
を接触させて、前記ケトン誘導体(II)を製造する工程を含む、前記方法。
【0020】
[8]前記工程において、前記グリニャール試薬(4)と前記銅塩とを接触させて有機銅試薬を形成させた後、前記有機銅試薬と前記チオエステル誘導体(I)とを接触させて前記ケトン誘導体(II)を製造する、[7]に記載の方法。
【0021】
[9]前記銅塩が、シアン化銅(I)、塩化銅(I)、酢酸銅(I)及びチオフェン-2-カルボン酸銅(I)からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[7]又は[8]に記載の方法。
【0022】
[10]前記チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、前記銅塩を1モル以上3モル以下の量で用いる、[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
【0023】
[11]前記工程において、-20℃以上150℃以下の温度範囲で、前記チオエステル誘導体(I)と前記グリニャール試薬(4)と前記銅塩とを接触させる、[7]~[10]のいずれかに記載の方法。
【0024】
[12]下記式(V):
【化12】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
100は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリール基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する方法であって、
[2]に記載のケトン誘導体(II)と塩基とを接触させて、前記ケトン誘導体(II)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸をさらに接触させて、前記C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程を含む、前記方法。
【0025】
[13]下記式(VI):
【化13】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
mは、2を表す。]
で表されるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)を製造する方法であって、
下記式(IIA):
【化14】
[式中、
及びmは、前記と同義であり、
Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。]
で表されるケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを接触させて、前記C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)を製造する工程を含む、前記方法。
【0026】
[14]下記式(VII):
【化15】
[式中、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリールアルケニル基を表し、
nは、1又は2を表す。]
で表されるC-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する方法であって、
[12]に記載の方法により前記C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造した後、得られたC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)とシラン化合物とを接触させて、前記C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、新規チオエステル誘導体及びその製造方法、新規ケトン誘導体及びその製造方法、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体の新規製造方法、並びにC-アリールグリコサイド誘導体の新規製造方法が提供される。本発明によれば、安価で効率的なチオエステル誘導体、ケトン誘導体、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体及びC-アリールグリコサイド誘導体の工業的製造が可能となり、原料コスト、設備コスト、ランニングコスト等を大幅に抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施例1で得られた化合物2のH NMRスペクトル(400MHz,CDCl,30℃)を示す図である。
図2図2は、実施例1で得られた化合物2の13C{H} NMRスペクトル(100MHz,CDCl,30℃)を示す図である。
図3図3は、実施例2で得られた化合物3のH NMRスペクトル(400MHz,CDCl,30℃)を示す図である。
図4図4は、実施例2で得られた化合物3の13C{H} NMRスペクトル(100MHz,CDCl,30℃)を示す図である。
図5図5は、実施例2で得られた化合物3の19F{H} NMRスペクトル(376MHz,CDCl,30℃)を示す図である。
図6A図6Aは、実施例11で得られた化合物4の19F{H} NMRスペクトル(376MHz,DMSO-d,30℃)を示す図である。
図6B図6Aにおける2本のピークの拡大図である。
図7図7は、実施例12で得られた化合物5のH NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d,30℃)を示す図である。
図8図8は、実施例12で得られた化合物5の19F{H} NMRスペクトル(376MHz,CDCl,30℃)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について説明する。
【0030】
≪用語の説明≫
以下、本明細書で用いられる用語について説明する。以下の説明は、別段規定される場合を除き、本明細書を通じて適用される。なお、「値A~値B」という表現は、別段規定される場合を除き、値A以上値B以下を意味する。
【0031】
ハロゲン原子
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択される。
【0032】
アルキル基
アルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~10(例えば、1~8、1~6、1~5、1~4、1~3又は1~2)である。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。直鎖状のアルキル基の炭素数は1以上であり、分岐鎖状のアルキル基の炭素数は、3以上である。
【0033】
アルケニル基
アルケニル基の炭素数は、例えば2~20、好ましくは2~10である。アルケニル基の炭素数は、例えば、2~8、2~6、2~5、2~4又は2~3である。アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。直鎖状のアルケニル基の炭素数は2以上であり、分岐鎖状のアルケニル基の炭素数は3以上である。
【0034】
シクロアルキル基
シクロアルキル基の炭素数は、例えば3~10、好ましくは3~8、より好ましくは3~6である。
【0035】
ヘテロシクロアルキル基
ヘテロシクロアルキル基は、例えば、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から独立して選択される1個又は2個のヘテロ原子を含む。ヘテロシクロアルキル基は、例えば、4~7員環のヘテロシクロアルキル基である。ヘテロシクロアルキル基は、酸素原子をヘテロ原子として含むことが好ましい。ヘテロシクロアルキル基としては、例えば、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。ヘテロシクロアルキル基は、好ましくは、テトラヒドロフラニル基である。
【0036】
アリール基
アリール基は、例えば、単環式、二環式又は三環式の炭素数4~14、好ましくは6~14、より好ましくは6~10の芳香族炭化水素環基である。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アリール基は、好ましくは、フェニル基である。
【0037】
ヘテロアリール基
ヘテロアリール基は、例えば、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から独立して選択される1個、2個又は3個のヘテロ原子を含む。ヘテロアリール基は、例えば、単環式又は二環式の4~10員、好ましくは5~10員の芳香族複素環基である。ヘテロアリール基は、好ましくは、チエニル基、ベンゾチオフェニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基又はピリジル基であり、より好ましくは、チエニル基又はベンゾチオフェニル基である。
【0038】
ハロアルキル基、ハロアリール基及びハロヘテロアリール基
ハロアルキル基、ハロアリール基及びハロヘテロアリール基は、それぞれ、1以上のハロゲン原子を有するアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基であり、アルキル基、アリール基及びヘテロアリール基に関する説明は、上記の通りである。ハロアルキル基、ハロアリール基又はハロヘテロアリール基が有するハロゲン原子の数は、例えば1~3、好ましくは1又は2、より好ましくは1である。
【0039】
アルキレン基、アリーレン基及びヘテロアリーレン基
アルキレン基、アリーレン基及びヘテロアリーレン基は、それぞれ、アルキル基、アリール基及びヘテロアリール基から1個の水素原子を除去することにより生成される2価の官能基であり、アルキル基、アリール基及びヘテロアリール基に関する説明は、上記の通りである。
【0040】
ハロアルキレン基、ハロアリーレン基及びハロヘテロアリーレン基
ハロアルキレン基、ハロアリーレン基及びハロヘテロアリーレン基は、それぞれ、ハロアルキル基、ハロアリール基及びハロヘテロアリール基から1個の水素原子を除去することにより生成される2価の官能基であり、ハロアルキル基、ハロアリール基及びハロヘテロアリール基に関する説明は、上記の通りである。
【0041】
アリールアルキル基
アリールアルキル基は、1以上のアリール基を有するアルキル基であり、アルキル基及びアリール基に関する説明は、上記の通りである。アリールアルキル基が有するアリール基の数は、例えば1~3、好ましくは1又は2、より好ましくは1である。
【0042】
アリールアルケニル基
アリールアルケニル基は、1以上のアリール基を有するアルケニル基であり、アルケニル基及びアリール基に関する説明は、上記の通りである。アリールアルケニル基が有するアリール基の数は、例えば1~3、好ましくは1又は2、より好ましくは1である。
【0043】
アルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基
アルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基は、それぞれ、式:-CO-アルキル基及び式:-CO-アリール基で表される基であり、アルキル基及びアリール基に関する説明は、上記の通りである。
【0044】
アルキルオキシ基、ハロアルキルオキシ基、ヘテロシクロアルキルオキシ基及びアリールアルキルオキシ基
アルキルオキシ基、ハロアルキルオキシ基、ヘテロシクロアルキルオキシ基及びアリールアルキルオキシ基は、それぞれ、式:-O-アルキル基、式:-O-ハロアルキル基、式:-O-ヘテロシクロアルキル基及び式:-O-アリールアルキル基で表される基であり、アルキル基、ハロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基及びアリールアルキル基に関する説明は、上記の通りである。
【0045】
アルキルチオ基、ハロアルキルチオ基、ヘテロシクロアルキルチオ基及びアリールアルキルチオ基
アルキルチオ基、ハロアルキルチオ基、ヘテロシクロアルキルチオ基及びアリールアルキルチオ基は、それぞれ、式:-S-アルキル基、式:-S-ハロアルキル基、式:-S-ヘテロシクロアルキル基及び式:-S-アリールアルキル基で表される基であり、アルキル基、ハロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基及びアリールアルキル基に関する説明は、上記の通りである。
【0046】
アルキルオキシカルボニル基
アルキルオキシカルボニル基は、式:-CO-O-アルキル基で表される基であり、アルキル基に関する説明は、上記の通りである。アルキルオキシカルボニル基に含まれるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より好ましくは1~6、より好ましくは1~4である。
【0047】
モノアルキルアミノ基
モノアルキルアミノ基は、式:-NH(-Q)[式中、Qは、アルキル基を表す。]で表される基であり、アルキル基に関する説明は、上記の通りである。Qで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、より好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0048】
ジアルキルアミノ基
ジアルキルアミノ基は、式:-N(-Q)(-Q)[式中、Q及びQは、それぞれ独立して、アルキル基を表す。]で表される基であり、アルキル基に関する説明は、上記の通りである。Q又はQで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、より好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0049】
脂環式アミノ基
脂環式アミノ基は、例えば、5又は6員環の脂環式アミノ基であり、5又は6員環の脂環式アミノ基としては、例えば、モルホリノ基、チオモルホリノ基、ピロリジン-1-イル基、ピラゾリジン-1-イル基、イミダゾリジン-1-イル基、ピペリジン-1-イル基等が挙げられる。脂環式アミノ基は、脂環式アミノ基の結合手を有する窒素原子に加えて、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から独立して選択されるヘテロ原子(例えば、1個のヘテロ原子)を含んでいてもよい。脂環式アミノ基は、好ましくは、モルホリノ基である。
【0050】
アミノカルボニル基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基及び脂環式アミノカルボニル基
アミノカルボニル基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基及び脂環式アミノカルボニル基は、それぞれ、式:-CO-アミノ基、式:-CO-モノアルキルアミノ基、式:-CO-ジアルキルアミノ基及び式:-CO-脂環式アミノ基で表される基であり、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基及び脂環式アミノ基に関する説明は、上記の通りである。
【0051】
置換基群α
置換基群αは、以下の置換基で構成される。
(α-1)ハロゲン原子
(α-2)ニトリル基
(α-3)ニトロ基
(α-4)アミノ基
(α-5)アルキル基
(α-6)ハロアルキル基
(α-7)モノアルキルアミノ基
(α-8)ジアルキルアミノ基
(α-9)脂環式アミノ基
(α-10)アルキルオキシカルボニル基
(α-11)アミノカルボニル基
(α-12)モノアルキルアミノカルボニル基
(α-13)ジアルキルアミノカルボニル基
(α-14)脂環式アミノカルボニル基
(α-15)保護基で保護されていてもよいヒドロキシ基
(α-16)保護基で保護されていてもよいチオール基
【0052】
置換基群β
置換基群βは、以下の置換基で構成される。
(β-1)式(i)で表される置換基
(β-2)式(ii)で表される置換基
【0053】
以下、置換基群α及びβについて説明する。
【0054】
(α-5)及び(α-6)において、アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より好ましくは1~6、より好ましくは1~4、より好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。(α-6)において、ハロアルキル基が有するハロゲン原子の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2、より好ましくは1である。
【0055】
保護基で保護されていてもよいヒドロキシ基
ヒドロキシ基保護基は、目的の反応を行う際にはヒドロキシ基を保護することができ、目的の反応の終了後にはヒドロキシ基から脱離させることができるものであることが好ましい。ヒドロキシ基保護基としては、例えば、アルキルカルボニル型保護基、アリールカルボニル型保護基、アリールアルキル型保護基、アルキル型保護基、アリールアルキルオキシアルキル型保護基、アルキルオキシアルキル型保護基、シリル型保護基、オキシカルボニル型保護基、アセタール型保護基、アリール型保護基等が挙げられる。これらの保護基は、1以上のハロゲン原子を有していてもよい。
【0056】
アルキルカルボニル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルキルカルボニル基が挙げられる。置換基は、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4のアルキルオキシ基、炭素数2~11、好ましくは炭素数2~9、より好ましくは炭素数2~7、より好ましくは炭素数2~5のアルキルオキシカルボニル基等から選択することができる。1以上の置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、イソプロパノイル基、ピバロイル基等が挙げられる。アルキルカルボニル型保護基は、好ましくは、炭素数2~5のアルキルカルボニル基、より好ましくは、アセチル基又はピバロイル基であり、より好ましくは、アセチル基である。
【0057】
アリールカルボニル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数7~11のアリールカルボニル基等が挙げられる。置換基の具体例は、アルキルカルボニル型保護基と同様である。1以上の置換基を有していてもよい炭素数7~11のアリールカルボニル基としては、例えば、ベンゾイル基、4-ニトロベンゾイル基、4-メチルオキシベンゾイル基、4-メチルベンゾイル基、4-tert-ブチルベンゾイル基、4-フルオロベンゾイル基、4-クロロベンゾイル基、4-ブロモベンゾイル基、4-フェニルベンゾイル基、4-メチルオキシカルボニルベンゾイル基等が挙げられる。
【0058】
アリールアルキル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数7~11のアリールアルキル基等が挙げられる。置換基の具体例は、アルキルカルボニル型保護基と同様である。1以上の置換基を有していてもよい炭素数7~11のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、ジフェニルメチル基、1,1-ジフェニルエチル基、ナフチルメチル基、トリチル基等が挙げられる。アリールアルキル型保護基は、好ましくは、ベンジル基である。
【0059】
アルキル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基等が挙げられる。置換基の具体例は、アルキルカルボニル型保護基と同様である。アルキル型保護基は、好ましくは、1以上の置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、tert-ブチル基であり、より好ましくは、メチル基である。
【0060】
アリールアルキルオキシアルキル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数8~12のアリールアルキルオキシメチル基、1以上の置換基を有していてもよい炭素数9~13のアリールアルキルオキシエチル基、1以上の置換基を有していてもよい炭素数10~14のアリールアルキルオキシプロピル基等のアリールアルキルオキシアルキル基が挙げられる。置換基の具体例は、アルキルカルボニル型保護基と同様である。アリールアルキルオキシアルキル型保護基は、例えば、1以上の置換基を有していてもよいベンジルオキシメチル基、好ましくは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基又はメチルオキシ基で置換されていてもよいベンジルオキシメチル基、より好ましくはベンジルオキシメチル基である。
【0061】
アルキルオキシアルキル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルキルオキシメチル基、1以上の置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキルオキシエチル基、1以上の置換基を有していてもよい炭素数4~10のアルキルオキシプロピル基等のアルキルオキシアルキル基が挙げられる。置換基の具体例は、アルキルカルボニル型保護基と同様である。アルキルオキシアルキル型保護基は、好ましくは、1以上の置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルキルオキシメチル基、より好ましくは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチルオキシ基又はエチルオキシ基を有していてもよい炭素数2~6のアルキルオキシメチル基、より好ましくは、メチルオキシメチル基である。
【0062】
シリル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、1以上の置換基を有していてもよい炭素数7~11のアリールアルキル基及び1以上の置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基から選択される官能基を有するシリル基が挙げられる。置換基の具体例は、アルキルカルボニル型保護基と同様である。シリル型保護基は、好ましくは、炭素数1~10のアルキル基及び炭素数6~10のアリール基から選択される官能基を有するシリル基、より好ましくは、炭素数1~5のアルキル基及びフェニル基から選択される官能基を有するシリル基、より好ましくは、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基又はtert-ブチルジフェニルシリル基である。
【0063】
オキシカルボニル型保護基としては、例えば、1以上の置換基を有していてもよい炭素数2~10のアルキルオキシカルボニル基、1以上の置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルケニルオキシカルボニル基、1以上の置換基を有していてもよい炭素数8~12のアリールアルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。置換基の具体例は、アルキルカルボニル型保護基と同様である。オキシカルボニル型保護基は、好ましくは、炭素数2~6のアルキルオキシカルボニル基、炭素数3~6のアルケニルオキシカルボニル基又はベンジルオキシカルボニル基、より好ましく、メチルオキシメチル基、アリルオキシカルボニル基又はベンジルオキシカルボニル基である。
【0064】
アセタール型保護基としては、例えば、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0065】
アリール型保護基としては、例えば、フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0066】
保護基で保護されたヒドロキシ基は、式:-O-Qで表される基であることが好ましい。Qは、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、ハロアリール基、ヘテロシクロアルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又はアリールアルキル基を表す。式:-O-Qで表される基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8である。Qは、アルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アルキルカルボニル基又はアリールアルキル基であることが好ましく、エチル基、テトラヒドロフラニル基、アセチル基又はベンジル基であることがより好ましい。
【0067】
保護基で保護されていてもよいチオール基
チオール基保護基は、目的の反応を行う際にはチオール基を保護することができ、目的の反応の終了後にはチオール基から脱離させることができるものであることが好ましい。チオール基保護基としては、例えば、アルキルカルボニル型保護基、アリールカルボニル型保護基、アリールアルキル型保護基、アルキル型保護基、アリールアルキルオキシアルキル型保護基、アルキルオキシアルキル型保護基、シリル型保護基、オキシカルボニル型保護基、アセタール型保護基、アリール型保護基等が挙げられる。これらの保護基は、1以上のハロゲン原子を有していてもよい。これらの保護基に関する説明は、上記の通りである。
【0068】
保護基で保護されたチオール基は、式:-S-Qで表される基であることが好ましい。Qに関する説明は、上記の通りである。
【0069】
式(i)で表される置換基
【化16】
【0070】
式(i)において、R11、R12及びR13は、それぞれ独立して、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、ハロアリール基又は保護基で保護されていてもよいヒドロキシ基を表す。保護基で保護されていてもよいヒドロキシ基は、上記式:-O-Qで表される基であることが好ましい。aは、0以上3以下である。
【0071】
式(ii)で表される置換基
【化17】
【0072】
式(ii)において、V10は、アルキレン基、ハロアルキレン基、アリーレン基、ハロアリーレン基、ヘテロアリーレン基、ハロヘテロアリーレン基、エステル結合、エーテル結合又はカルボニル基を表す。アルキレン基又はハロアルキレン基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましい。アリーレン基、ハロアリーレン基、ヘテロアリーレン基又はハロヘテロアリーレン基の炭素数は、4~14であることが好ましく、6~14であることがより好ましい。V10は、アルキレン基であることが好ましく、メチレン基又はエチレン基であることがより好ましい。
【0073】
式(ii)において、bは、0又は1を表す。bは、1であることが好ましい。
【0074】
式(ii)において、W10は、アルキレン基、ハロアルキレン基、アリーレン基、ハロアリーレン基、ヘテロアリーレン基、ハロヘテロアリーレン基、エステル結合、エーテル結合又はカルボニル基を表す。W10は、ヘテロアリーレン基であることが好ましく、硫黄原子をヘテロ原子として含む5員環のヘテロアリーレン基であることがより好ましく、チエニレンであることがより一層好ましい。
【0075】
式(ii)において、cは、0又は1を表す。cは、1であることが好ましい。
【0076】
式(ii)において、X10は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
【0077】
10で表されるアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基は、1以上の置換基を有していてもよく、1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群αから選択することができる。1以上の置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルキルオキシ基、ハロアルキルオキシ基、アルキルチオ基、ハロアルキルチオ基、ヘテロシクロアルキルオキシ基及びヘテロシクロアルキルチオ基から選択することが好ましく、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキルオキシ基及びヘテロシクロアルキルオキシ基から選択することがより好ましく、フッ素原子、エチルオキシ基及びテトラヒドロフラニルオキシ基から選択することがより好ましい。
【0078】
10は、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基であることが好ましく、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキルオキシ基又は酸素原子をヘテロ原子として含むヘテロシクロアルキルオキシ基を有するアリール基、或いは、非置換のヘテロアリール基であることがより好ましく、フッ素原子、エチルオキシ基又はテトラヒドロフラニルオキシ基を有するフェニル基、或いは、非置換のベンゾチオフェニル基であることがより好ましい。
【0079】
≪チオエステル誘導体(I)≫
チオエステル誘導体(I)は、下記式(I)で表される。
【0080】
【化18】
【0081】
式(I)において、nは、1又は2を表す。
【0082】
式(I)において、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。アルキル基に関する説明は、上記の通りである。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より好ましくは1~6、より好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。アルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0083】
式(I)において、n=1の場合、4個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、4個のRはすべてメチル基である。
【0084】
式(I)において、n=2の場合、5個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、5個のRはすべてメチル基である。
【0085】
式(I)において、Wは、
(1)置換基を有していてもよいアルキル基、
(2)置換基を有していてもよいアルケニル基、
(3)置換基を有していてもよいシクロアルキル基、
(4)置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、
(5)置換基を有していてもよいアリール基、
(6)置換基を有していてもよいヘテロアリール基、
(7)置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は
(8)置換基を有していてもよいアリールアルケニル基
を表す。
【0086】
以下、官能基(1)~(8)について説明する。
【0087】
置換基を有していてもよいアルキル基
アルキル基に関する説明は、上記の通りである。アルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0088】
置換基を有していてもよいアルケニル基
アルケニル基に関する説明は、上記の通りである。アルケニル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0089】
置換基を有していてもよいシクロアルキル基
シクロアルキル基に関する説明は、上記の通りである。シクロアルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0090】
置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基
ヘテロシクロアルキル基に関する説明は、上記の通りである。ヘテロシクロアルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0091】
置換基を有していてもよいアリール基
アリール基に関する説明は、上記の通りである。アリール基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0092】
置換基を有していてもよいヘテロアリール基
ヘテロアリール基に関する説明は、上記の通りである。ヘテロアリール基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0093】
置換基を有していてもよいアリールアルキル基
アリールアルキル基に関する説明は、上記の通りである。アリールアルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0094】
置換基を有していてもよいアリールアルケニル基
アリールアルケニル基に関する説明は、上記の通りである。アリールアルケニル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0095】
一実施形態において、式(I)におけるWは、置換基を有していてもよいアルキル基、好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1~16のアルキル基、より好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基である。
【0096】
一実施形態において、チオエステル誘導体(I)は、下記式(Ia)で表されるチオエステル誘導体(Ia)である。チオエステル誘導体(Ia)は、n=2であるチオエステル誘導体(I)の一例である。
【0097】
【化19】
【0098】
式(Ia)において、R~Rは、それぞれ独立して、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を表す。Rは、式(I)と同義である。R~Rは、異なるヒドロキシ保護基であってもよいが、ヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一のヒドロキシ基保護基であることが好ましい。一実施形態において、R~Rはすべてアセチル基である。
【0099】
式(Ia)において、Wは、式(I)と同義である。一実施形態において、式(Ia)におけるWは、置換基を有していてもよいアルキル基、好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1~16のアルキル基、より好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基である。Wが置換基を有していてもよいアルキル基であるチオエステル誘導体(Ia)としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。なお、「Ac」はアセチル基を表す(本明細書を通じて同様である)。
【0100】
【化20】
【0101】
上記化合物において、Wに対応する-C1225は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0102】
上記化合物において、Wに対応する-C1225は、他のアルキル基に変更可能である。他のアルキル基としては、例えば、-C1021、-C1123等が挙げられる。他のアルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0103】
別の実施形態において、チオエステル誘導体(I)は、下記式(Ib)で表されるチオエステル誘導体(Ib)である。チオエステル誘導体(Ib)は、n=1であるチオエステル誘導体(I)の一例である。
【0104】
【化21】
【0105】
式(Ib)におけるR、R、R、R及びWは、式(Ia)と同義である。
【0106】
≪ケトン誘導体(II)≫
ケトン誘導体(II)は、下記式(II)で表される。
【0107】
【化22】
【0108】
式(II)において、R及びnは、式(I)と同義である。したがって、R及びnに関する上記説明は、式(II)におけるR及びnにも適用される。
【0109】
式(II)において、n=1の場合、4個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、4個のRはすべてメチル基である。
【0110】
式(II)において、n=2の場合、5個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、5個のRはすべてメチル基である。
【0111】
式(II)において、Wは、
(1)置換基を有していてもよいアルキル基、
(2)置換基を有していてもよいアルケニル基、
(3)置換基を有していてもよいシクロアルキル基、
(4)置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、
(5)置換基を有していてもよいアリール基、
(6)置換基を有していてもよいヘテロアリール基、
(7)置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、
(8)置換基を有していてもよいアリールアルケニル基
を表す。
【0112】
官能基(1)~(8)は、式(I)と同義であり、官能基(1)~(8)に関する上記説明は、式(II)における官能基(1)~(8)にも適用される。
【0113】
官能基(5)(すなわち、置換基を有していてもよいアリール基)において、アリール基の結合手を有する炭素原子(すなわち、式(II)において-CO-(-CO-Wにおける-CO-)と結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子は、置換基を有さないことが好ましい。残りの炭素原子は、置換基を有していてもよい。
【0114】
官能基(6)(すなわち、置換基を有していてもよいヘテロアリール基)において、ヘテロアリール基の結合手を有する炭素原子(すなわち、式(II)において-CO-(-CO-Wにおける-CO-)と結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子又はヘテロ原子は、置換基を有さないことが好ましい。残りの炭素原子又はヘテロ原子は置換基を有していてもよい。
【0115】
は、Wと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0116】
は、下記式(iv)で表されることが好ましい。
【0117】
【化23】
【0118】
式(iv)において、Y10は、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。アルキレン基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましい。アリーレン基又はヘテロアリーレン基の炭素数は、4~14であることが好ましく、6~14であることがより好ましい。
【0119】
10で表されるアルキレン基、アリーレン基又はヘテロアリーレン基は、1以上の置換基を有していてもよく、1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群αから選択することができる。1以上の置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルキルオキシ基、ハロアルキルオキシ基、アルキルチオ基及びハロアルキルチオ基から選択することが好ましく、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基及び炭素数1~3のアルキルオキシ基から選択することがより好ましい。
【0120】
10は、置換基を有するアリーレン基であることが好ましく、ハロゲン原子又は炭素数1~3のアルキル基を有するアリーレン基であることがより好ましく、フッ素原子、塩素原子又はメチル基を有するフェニレン基であることがより好ましい。
【0121】
10は、-CO-(-CO-Wにおける-CO-)と結合する炭素原子の両隣に位置する炭素原子は置換基を有さず、残りの炭素原子は置換基を有していてもよいアリーレン基、又は、-CO-(-CO-Wにおける-CO-)と結合する炭素原子の両隣に位置する炭素原子若しくはヘテロ原子は置換基を有さず、残りの炭素原子若しくはヘテロ原子は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基であることが好ましい。Y10は、-CO-(-CO-Wにおける-CO-)と結合する炭素原子に対してオルト位には置換基を有さず、メタ位及び/又はパラ位には置換基を有していてもよいフェニレン基であることがより好ましい。
【0122】
式(iv)において、V10、W10、X10、b及びcは、それぞれ、式(ii)と同義である。
【0123】
あるいは、Wは、下記式(vi)で表されることが好ましい。
【0124】
【化24】
【0125】
式(vi)において、R41及びR42は、それぞれ独立して、水素原子又はアミノ基の保護基を表す。アミノ基の保護基としては、カルバメート系、アシル系、アミド系、スルホンアミド系、フタロイル基等、いずれの保護基を用いてもよい。カルバメート系の保護基としては、例えば、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基等が挙げられる。アシル系の保護基としては、例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。アミド系の保護基としては、例えば、トリフルオロアセチル基等が挙げられる。スルホンアミド系の保護基としては、例えば、p-トルエンスルホニル基、2-ニトロベンゼンスルホニル基等が挙げられる。アミノ基の保護基は、アシル系又はアミド系の保護基であることが好ましい。アミノ基の保護基は、ピバロイル基又はトリフルオロアセチル基であることがより好ましい。R41及びR42は、互いに結合してフタロイル基等のアミノ基の保護基を形成していてもよい。Wが式(vi)の構造を有していると、レムデシビルの中間体として好適に用いることができる。
【0126】
ケトン誘導体(II)には、下記式(IIA)で表されるケトン誘導体(IIA)が包含される。ケトン誘導体(IIA)は、n=2であるケトン誘導体(II)に相当する。
【0127】
【化25】
【0128】
式(IIA)において、W及びRは、式(II)と同義であり、mは2を表す。
【0129】
一実施形態において、ケトン誘導体(II)は、下記式(IIa)で表されるケトン誘導体(IIa)である。ケトン誘導体(IIa)は、n=2であるケトン誘導体(II)(すなわち、ケトン誘導体(IIA))の一例である。
【0130】
【化26】
【0131】
式(IIa)において、R~Rは、それぞれ独立して、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を表す。Rは、上記と同義である。R~Rは、異なるヒドロキシ基保護基であってもよいが、ヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一のヒドロキシ基保護基であることが好ましい。一実施形態において、R~Rはすべてアセチル基である。
【0132】
式(IIa)において、Wは、式(II)と同義である。一実施形態において、式(IIa)におけるWは、置換基を有していてもよいアリール基である。Wが置換基を有していてもよいアリール基であるケトン誘導体(IIa)としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。なお、「Ac」はアセチル基を表す(本明細書を通じて同様である)。
【0133】
【化27】
【0134】
上記化合物において、Wに対応するフェニル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0135】
式(II)、(IIA)又は(IIa)におけるWは、ケトン誘導体(II)、(IIA)又は(IIa)をSGLT-2阻害薬又はその誘導体の製造原料として用いる観点から、SGLT-2阻害薬が有する官能基と同一であるか、SGLT-2阻害薬が有する官能基を誘導化した官能基であることが好ましい。
【0136】
ここで、カナグリフロジン(1-(β-D-グリコピラノシル)-4-メチル-3-[5-(4-フルオロフェニル)-2-チエニルメチル]ベンゼン)、エンパグリフロジン((1S)-1,5-アンヒドロ-1-C-{4-クロロ-3-[(4-{[(3S)-オキソラン-3-イル]オキシ}フェニル)メチル]フェニル}-D-グルシトール)、イプラグリフロジン((1S)-1,5-アンヒドロ-1-C-{3-[(1-ベンゾチオフェン-2-イル)メチル]-4-フルオロフェニル}-D-グルシトール-(2S)-ピロリジン-2-カルボン酸)及びダパグリフロジン((2S,3R,4R,5S,6R)-2-[4-クロロ-3-(4-エチルオキシベンジル)フェニル]-6-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-チオール)をはじめとするSGLT-2阻害剤は、下記式(A)で表される官能基を有する。
【0137】
したがって、式(II)、(IIA)又は(IIa)におけるWは、下記式(A)で表される官能基であることが好ましい。
【0138】
【化28】
【0139】
式(A)において、dは、0~4の整数を表す。dは、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。dが2以上である場合、d個のRは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0140】
式(A)において、d個のRは、それぞれ独立して、置換基群αから選択することができる。d個のRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルキルオキシ基、ハロアルキルオキシ基、アルキルチオ及びハロアルキルチオ基から選択することが好ましく、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基及び炭素数1~3のアルキルオキシ基から選択することがより好ましい。
【0141】
式(A)において、Ar’は、下記式(v)で表される基である。
【0142】
【化29】
【0143】
式(v)において、W10、X10及びcは、それぞれ、式(ii)と同義である。
【0144】
式(A)において、Ar’は、以下の式(Ar’-1)、(Ar’-2)又は(Ar’-3)で表される基であることが好ましい。
【0145】
【化30】
【0146】
式(Ar’-1)、(Ar’-2)及び(Ar’-3)において、pは、0~5の整数である。pは、好ましくは0~3の整数、より好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
【0147】
式(Ar’-1)、(Ar’-2)及び(Ar’-3)において、p個のRは、それぞれ独立して、置換基群α、置換基群αから選択される1以上の置換基を有していてもよいアリール基、及び、置換基群αから選択される1以上の置換基を有していてもよいヘテロアリール基から選択することができる。p個のRは、それぞれ独立して、置換基群α、及び、置換基群αから選択される1以上の置換基を有していてもよいアリール基から選択することが好ましい。置換基群αから選択される1以上の置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルキルオキシ基、ハロアルキルオキシ基、アルキルチオ基、ハロアルキルチオ基、ヘテロシクロアルキルオキシ基及びヘテロシクロアルキルチオ基から選択することが好ましく、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルキルオキシ基及びヘテロシクロアルキルオキシ基から選択することがより好ましく、フッ素原子、エチルオキシ基及びテトラヒドロフラニルオキシ基から選択することがより好ましい。
【0148】
pが2以上である場合、p個のRは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0149】
式(Ar’-1)において、pは、好ましくは1であり、Rは、好ましくは、置換基を有していてもよいフェニル基であり、より好ましくは、ハロゲン原子を有するフェニル基であり、より好ましくは、フッ素原子を有するフェニル基である。非置換又は置換のフェニル基が結合している位置は、好ましくは、チオフェン環の2位である。ハロゲン原子を有するフェニル基において、ハロゲン原子が結合している位置は、好ましくは、ベンゼン環の4位である。
【0150】
式(Ar’-2)において、pは、好ましくは0である。
【0151】
式(Ar’-3)において、pは、好ましくは1であり、Rは、好ましくは、置換基を有していてもよいアルキルオキシ基又は置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキルオキシ基である。置換基を有していてもよいアルキルオキシ基は、好ましくは、炭素数1~3のアルキルオキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基である。置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキルオキシ基は、好ましくは、テトラヒドロフラニルオキシ基である。置換基を有していてもよいアルキルオキシ基又は置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキルオキシ基が結合している位置は、好ましくは、ベンゼン環の4位である。
【0152】
d=1である場合、式(A)で表される官能基は、下記式(B)で表される基であることが好ましい。
【0153】
【化31】
【0154】
式(B)において、R及びAr’は、式(A)と同義である。
【0155】
式(A)又は(B)で表される基は、下記式(Ar-1)、(Ar-2)、(Ar-3)又は(Ar-4)で表される基であることが好ましい。なお、「Et」は、エチル基を表す(本明細書を通じて同様である)。
【0156】
【化32】
【0157】
ケトン誘導体(II)、(IIA)又は(IIa)は、例えば、Wが、式(Ar-1)で表される基である化合物である。このような化合物としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。なお、「Ac」はアセチル基を表す(本明細書を通じて同様である)。
【0158】
【化33】
【0159】
別の実施形態において、ケトン誘導体(II)は、下記式(IIb)で表されるケトン誘導体(IIb)である。ケトン誘導体(IIb)は、n=1であるケトン誘導体(II)の一例である。
【0160】
【化34】
【0161】
式(IIb)において、R、R、R、R及びWは、式(IIa)と同義である。
【0162】
≪チオール誘導体(III)≫
チオール誘導体(III)は、下記式(III)で表される。
【0163】
【化35】
【0164】
式(III)において、W、R及びnは、式(I)と同義である。したがって、W、R及びnに関する上記説明は、式(III)におけるW、R及びnにも適用される。
【0165】
式(III)において、n=1の場合、3個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、3個のRはすべてメチル基である。
【0166】
式(III)において、n=2の場合、4個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、4個のRはすべてメチル基である。
【0167】
一実施形態において、チオール誘導体(III)は、下記式(IIIa)で表されるチオール誘導体(IIIa)である。チオール誘導体(IIIa)は、n=2であるチオール誘導体(III)の一例である。
【0168】
【化36】
【0169】
式(IIIa)において、R~Rは、式(Ia)と同義である。したがって、R~Rに関する上記説明は、式(IIIa)におけるR~Rにも適用される。
【0170】
式(IIIa)において、R~Rは、異なるヒドロキシ保護基であってもよいが、ヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一のヒドロキシ基保護基であることが好ましい。一実施形態において、R~Rはすべてアセチル基である。
【0171】
別の実施形態において、チオール誘導体(III)は、下記式(IIIb)で表されるチオール誘導体(IIIb)である。チオール誘導体(IIIb)は、n=1であるチオール誘導体(III)の一例である。
【0172】
【化37】
【0173】
式(IIIb)において、R~Rは、式(Ib)と同義である。したがって、R~Rに関する上記説明は、式(IIIb)におけるR~Rにも適用される。
【0174】
式(IIIb)において、R~Rは、異なるヒドロキシ保護基であってもよいが、ヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一のヒドロキシ基保護基であることが好ましい。一実施形態において、R~Rはすべてアセチル基である。
【0175】
≪アシル保護ラクトン誘導体(IV)≫
アシル保護ラクトン誘導体(IV)は、下記式(IV)で表される。
【0176】
【化38】
【0177】
式(IV)において、R及びnは、式(I)と同義である。したがって、R及びnに関する上記説明は、式(IV)におけるR及びnにも適用される。
【0178】
式(IV)において、n=1の場合、3個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、3個のRはすべてメチル基である。
【0179】
式(IV)において、n=2の場合、4個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、4個のRはすべてメチル基である。
【0180】
一実施形態において、アシル保護ラクトン誘導体(IV)は、下記式(IVa)で表されるアシル保護ラクトン誘導体(IVa)である。アシル保護ラクトン誘導体(IVa)は、n=2(すなわち6員環)であるアシル保護ラクトン誘導体(IV)の一例である。
【0181】
【化39】
【0182】
式(IVa)において、Rは、式(IV)と同義である。
【0183】
≪C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)≫
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、下記式(V)で表される。
【0184】
【化40】
【0185】
式(V)において、W及びnは、式(II)と同義である。したがって、W及びnに関する上説明は、式(V)におけるW及びnにも適用される。
【0186】
100は、後述するように、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する際に用いられる酸によって決まる基である。具体的には、R100は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリール基である。式(V)における置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基は、式(I)と同義であり、官能基(1)及び(5)に関する上記説明は、式(V)における置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基にも適用される。R100は、好ましくは、水素原子、メチル基、フェニル基又はメチルフェニル基であり、より好ましくは、メチル基である。
【0187】
一実施形態において、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、下記式(Va)で表されるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Va)である。C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Va)は、n=2(すなわち6員環)であって、かつ、R100が水素原子であるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)の一例である。式(Va)において、Wは、式(V)と同義である。
【0188】
【化41】
【0189】
他の実施形態において、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、下記式(Vb)で表されるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Vb)である。C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Vb)は、n=2(すなわち6員環)であって、かつ、R100がR101であるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)の一例である。R101は、水素原子以外の基、換言すれば、置換基を有していてもよいアルキル基、又は、置換基を有していてもよいアリール基である。R101は、好ましくは、メチル基、フェニル基又はメチルフェニル基であり、より好ましくは、メチル基である。式(Vb)において、Wは、式(V)と同義である。
【0190】
【化42】
【0191】
≪C-アリールグリコサイド誘導体(VI)≫
C-アリールグリコサイド誘導体(VI)は、下記式(VI)で表される。
【0192】
【化43】
【0193】
式(VI)において、Wは、式(II)と同義であり、mは2を表す。したがって、Wに関する上記説明は、式(VI)におけるWにも適用される。
【0194】
一実施形態において、C-アリールグリコサイド誘導体(VI)は、下記式(VIa)で表されるC-アリールグリコサイド誘導体(VIa)である。式(VIa)において、Wは、式(VI)と同義である。
【0195】
【化44】
【0196】
≪C-アリールグリコサイド誘導体(VII)≫
C-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、下記式(VII)で表される。
【0197】
【化45】
【0198】
式(VII)において、W及びnは、式(II)と同義である。W及びnに関する上記説明は、式(VI)におけるW及びnにも適用される。
【0199】
一実施形態において、C-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、下記式(VIIa)で表されるC-アリールグリコサイド誘導体(VIIa)である。C-アリールグリコサイド誘導体(VIIa)は、n=2(すなわち6員環)であるC-アリールグリコサイド誘導体(VII)の一例である。式(VIIa)において、Wは、式(VII)と同義である。
【0200】
【化46】
【0201】
≪ラクトン誘導体(VIII)≫
ラクトン誘導体(VIII)は、下記式(VIII)で表される。
【0202】
【化47】
【0203】
式(VIII)において、nは、式(I)と同義である。したがって、nに関する上記説明は、式(VIII)におけるnにも適用される。
【0204】
一実施形態において、ラクトン誘導体(VIII)は、下記式(VIIIa)で表されるラクトン誘導体(VIIIa)である。ラクトン誘導体(VIIIa)は、n=2(すなわち6員環)であるラクトン誘導体(VIII)の一例である。
【0205】
【化48】
【0206】
≪カルボン酸無水物(1)≫
カルボン酸無水物(1)は、下記式(1)で表される。
【0207】
【化49】
【0208】
式(1)において、Rは、式(I)と同義である。したがって、Rに関する上記説明は、式(1)におけるRにも適用される。
【0209】
式(1)において、2個のRは、異なっていてもよいが、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基の効率的な導入及び除去の観点から、同一であることが好ましい。一実施形態において、2個のRはすべてメチル基である。すなわち、一実施形態に係るカルボン酸無水物(1)は、無水酢酸である。
【0210】
式(1)におけるRは、式(III)におけるRと異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。一実施形態において、式(1)におけるR及び式(III)におけるRはすべてメチル基である。
【0211】
≪チオール(2)≫
チオール(2)は、下記式(2)で表される。
【0212】
【化50】
【0213】
式(2)において、Wは、式(I)と同義である。したがって、Wに関する上記説明は、式(2)におけるWにも適用される。
【0214】
≪グリニャール試薬(3)≫
グリニャール試薬(3)は、下記式(3)で表される。
【0215】
【化51】
【0216】
式(3)において、Wは、
(1)置換基を有していてもよいアルキル基、
(2)置換基を有していてもよいアルケニル基、
(3)置換基を有していてもよいシクロアルキル基、
(4)置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、
(5)置換基を有していてもよいアリール基、
(6)置換基を有していてもよいヘテロアリール基、
(7)置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、
(8)置換基を有していてもよいアリールアルケニル基
を表す。
【0217】
官能基(1)~(8)は、式(I)と同義であり、官能基(1)~(8)に関する上記説明は、式(3)における官能基(1)~(8)にも適用される。
【0218】
官能基(5)(すなわち、置換基を有していてもよいアリール基)において、アリール基の結合手を有する炭素原子(すなわち、式(3)においてMgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子は、置換基を有さないことが好ましい。残りの炭素原子は、置換基を有していてもよい。
【0219】
官能基(6)(すなわち、置換基を有していてもよいヘテロアリール基)において、ヘテロアリール基の結合手を有する炭素原子(すなわち、式(3)においてMgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子又はヘテロ原子は、置換基を有さないことが好ましい。残りの炭素原子又はヘテロ原子は置換基を有していてもよい。
【0220】
は、W及び/又はWと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0221】
式(3)において、Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択することが好ましく、塩素原子及び臭素原子から選択することがより好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
【0222】
一実施形態において、式(3)におけるWは、置換基を有していてもよいアルキル基である。アルキル基に関する説明は、上記の通りである。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より好ましくは1~6、より好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。アルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0223】
別の実施形態において、式(3)におけるWは、置換基を有していてもよいアリール基である。アリール基に関する説明は、上記の通りである。アリール基の炭素数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。アリール基は、例えば、フェニル基である。アリール基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。1以上の置換基は、それぞれ独立して、置換基群α及びβから選択することができる。置換基群αから1以上の置換基を選択するとともに、置換基群βから1以上の置換基を選択してもよい。
【0224】
がアルキル基であるグリニャール試薬(3)としては、例えば、アルキルマグネシウムブロミド、アルキルマグネシウムクロリド等が挙げられ、これらのうち、アルキルマグネシウムクロリドが好ましい。
【0225】
アルキルマグネシウムブロミドとしては、例えば、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、n-プロピルマグネシウムブロミド、イソプロピルマグネシウムブロミド、n-ブチルマグネシウムブロミド、イソブチルマグネシウムブロミド等が挙げられる。
【0226】
アルキルマグネシウムクロリドとしては、例えば、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、n-プロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムクロリド、n-ブチルマグネシウムクロリド、イソブチルマグネシウムクロリド等が挙げられる。
【0227】
がアリール基であるグリニャール試薬(3)としては、例えば、アリールマグネシウムブロミド、アリールマグネシウムクロリド等が挙げられ、これらのうち、アリールマグネシウムクロリドが好ましい。
【0228】
アリールマグネシウムブロミドとしては、例えば、フェニルマグネシウムブロミド等が挙げられる。
【0229】
アリールマグネシウムクロリドとしては、例えば、フェニルマグネシウムクロリド等が挙げられる。
【0230】
≪グリニャール試薬(4)≫
グリニャール試薬(4)は、下記式(4a)で表されるグリニャール試薬(4a)及び下記式(4b)で表されるグリニャール試薬(4b)から選択される。
【0231】
【化52】
【0232】
【化53】
【0233】
式(4a)及び(4b)において、Wは、式(II)と同義である。すなわち、式(4a)及び(4b)において、Wは、
(1)置換基を有していてもよいアルキル基、
(2)置換基を有していてもよいアルケニル基、
(3)置換基を有していてもよいシクロアルキル基、
(4)置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキル基、
(5)置換基を有していてもよいアリール基、
(6)置換基を有していてもよいヘテロアリール基、
(7)置換基を有していてもよいアリールアルキル基、又は、
(8)置換基を有していてもよいアリールアルケニル基
を表す。Wに関する上記説明は、式(4a)及び(4b)におけるWにも適用される。
【0234】
官能基(5)(すなわち、置換基を有していてもよいアリール基)において、アリール基の結合手を有する炭素原子(すなわち、式(4a)又は(4b)においてMgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子は、置換基を有さないことが好ましい。残りの炭素原子は、置換基を有していてもよい。
【0235】
官能基(6)(すなわち、置換基を有していてもよいヘテロアリール基)において、ヘテロアリール基の結合手を有する炭素原子(すなわち、式(4a)又は(4b)においてMgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子又はヘテロ原子は、置換基を有さないことが好ましい。残りの炭素原子又はヘテロ原子は置換基を有していてもよい。
【0236】
式(4a)及び(4b)において、Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択することが好ましく、塩素原子及び臭素原子から選択することがより好ましく、臭素原子であることがより好ましい。式(4a)及び(4b)におけるXは、式(3)におけるXと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0237】
≪チオエステル誘導体(I)を製造する方法≫
チオエステル誘導体(I)は、塩基の存在下、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させて、チオエステル誘導体(I)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0238】
一実施形態において、チオエステル誘導体(I)は、チオエステル誘導体(Ia)である。チオエステル誘導体(Ia)は、塩基の存在下、チオール誘導体(IIIa)とカルボン酸無水物(1)とを接触させて、チオエステル誘導体(Ia)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0239】
別の実施形態において、チオエステル誘導体(I)は、チオエステル誘導体(Ib)である。チオエステル誘導体(Ib)は、塩基の存在下、チオール誘導体(IIIb)とカルボン酸無水物(1)とを接触させて、チオエステル誘導体(Ib)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0240】
チオール誘導体(III)及びカルボン酸無水物(1)は、市販品であってもよいし、常法に従って製造してもよい。
【0241】
塩基の存在下、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させると、チオール誘導体(III)に含まれるヒドロキシ基が、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基で保護され、チオエステル誘導体(I)が得られる。
【0242】
チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)との接触は、溶媒中で行われることが好ましい。チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを溶媒中で混合することにより、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させることができる。溶媒は、好ましくは有機溶媒である。溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメチルオキシエタン、ジグライム、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の極性非プロトン性溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性溶媒が挙げられる。1種の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の溶媒の組み合わせて用いてもよい。溶媒は、好ましくはTHF、tert-ブチルメチルエーテル、塩化メチレン、トルエン又はこれらの混合溶媒である。
【0243】
溶媒の使用量は、チオール誘導体(III) 1gに対して、例えば1~200mL、好ましくは2~100mLである。
【0244】
チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)との接触は、塩基の存在下で行われる。
カルボン酸無水物(1)の使用量は、チオール誘導体(III) 1モルに対して、例えば0.1~10モル、好ましくは0.2~5モル、より好ましくは0.5~3モルである。
【0245】
塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン(4-DMAP)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、イミダゾール、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジエチルアニリン等の有機アミン、酢酸ナトリウム、ショッテンバウマン条件等が挙げられる。
【0246】
塩基の使用量は、チオール誘導体(III) 1モルに対して、例えば0.1~10モル、好ましくは0.2~5モル、より好ましくは0.3~3モルである。
【0247】
チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-30~100℃、好ましくは-10~80℃、より好ましくは0~50℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.1~24時間、好ましくは0.5~17時間、より好ましくは0.5~5時間である。接触環境は、不活性雰囲気下であることが好ましく、アルゴン雰囲気下又は窒素雰囲気下であることがより好ましい。
【0248】
得られたチオエステル誘導体(I)は、以下の方法で単離することができる。
【0249】
先ず、反応液にクエンチ液(例えば、水、HCl水溶液等)を加えて、反応を停止させる。クエンチ液を加えた反応液を撹拌して、水層と有機層とに分離させる。有機層を抽出した後、水層に有機溶媒を加えて、有機層と水層とに再び分離させる。有機層を抽出し、先に抽出した有機層と合わせて総有機層を得る。総有機層を、洗浄液(例えば、水、HCl水溶液、飽和NaHCO水溶液、食塩水等)で洗浄した後、硫酸ナトリウム等を用いて乾燥させて、チオエステル誘導体(I)の生成物を含む残渣を得る。
【0250】
水層に加えられる有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメチルオキシエタン、ジグライム、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。1種の有機溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いてもよい。有機溶媒は、好ましくは塩化メチレン、トルエン、ヘキサン又はこれらの混合溶媒であり、より好ましくは塩化メチレンである。
【0251】
チオエステル誘導体(I)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認することができる。
【0252】
チオエステル誘導体(I)を製造する方法は、チオール誘導体(III)を製造する工程を含んでいてもよい。この場合、チオール誘導体(III)を製造する工程の後に、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させて、チオエステル誘導体(I)を製造する工程が行われる。
【0253】
チオール誘導体(III)は、トリアルキルアルミニウムの存在下、チオール(2)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させ、生成した化合物とカルボン酸無水物(1)と接触させることにより製造することができる。トリアルキルアルミニウムの存在下、チオール(2)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させることにより生成した化合物は、ヒドロキシ基を含む。このヒドロキシ基が、カルボン酸無水物(1)との反応により、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基で保護されることにより、チオール誘導体(III)が得られる。トリアルキルアルミニウムは、反応剤の役割を果たす。トリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロプルアルミニウム等が挙げられる。トリアルキルアルミニウムの存在下で行われるチオール(2)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)との反応条件等については、国際公開第2020/129899号、Tiffany Malinky Gierasch,Zhangjie Shi及びGregory L.Verdine,“Extensively Stereodiversified Scaffolds for Use in Diversity-Oriented Library Synthesis” ORGANIC LETTERS,2003,Vol.5,No.5 621-624等を参照することができる。
【0254】
但し、従来から反応剤として用いられているトリメチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムは、発火性が高いため、その取り扱いには注意を要する。したがって、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させて、チオール誘導体(III)を製造することが好ましい。グリニャール試薬(3)は、トリメチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムと比較して発火性が低いため、使用環境に比較的注意を払う必要がない。したがって、グリニャール試薬(3)を用いる場合、トリメチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムを用いる場合と比較して、効率的にチオール誘導体(III)を製造することができ、ひいては、チオール誘導体(III)の大量生産を実現することができる。
【0255】
一実施形態において、チオール誘導体(III)は、チオール誘導体(IIIa)である。チオール誘導体(IIIa)は、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IVa)とを接触させることにより製造することができる。
【0256】
チオール(2)、グリニャール試薬(3)及びアシル保護ラクトン誘導体(IV)は、市販品であってもよいし、常法に従って製造してもよい。
【0257】
チオール(2)としては、例えば、エタンチオール、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、ベンジルメルカプタン、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール等が挙げられる。
【0258】
チオール(2)の使用量は、1モルのアシル保護ラクトン誘導体(IV)に対して、例えば0.5~4モル、好ましくは0.7~3モル、より好ましくは0.9~2モルである。チオール(2)の物質量は、アシル保護ラクトン誘導体(IV)の物質量より多いことが好ましい。
【0259】
グリニャール試薬(3)は、アシル保護ラクトン誘導体(IV)を開環させた後、チオール(2)と反応させる反応剤として作用する。1種のグリニャール試薬(3)を単独で用いてもよいし、2種以上のグリニャール試薬(3)を組み合わせて用いてもよい。
【0260】
チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させると、好ましくは、チオール(2)とグリニャール試薬(3)との反応によりマグネシウムチオラートが形成された後、マグネシウムチオラートとアシル保護ラクトン誘導体(IV)との反応によりチオール誘導体(III)が形成される。すなわち、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とが反応すると、下記式に示すように、炭化水素(WH)とマグネシウムチオラート(XMgSW)とが生成すると考えられる。そして、生成したマグネシウムチオラートとアシル保護ラクトン誘導体(IV)とが反応すると、チオール誘導体(III)が生成すると考えられる。
【0261】
【化54】
【0262】
1モルのチオール(2)に対するグリニャール試薬(3)の使用量は、例えば0.1~1モル、好ましくは0.3~1モル、より好ましくは0.5~1モルである。
【0263】
1モルのアシル保護ラクトン誘導体(IV)に対するグリニャール試薬(3)の使用量は、例えば0.1~1モル、好ましくは0.3~1モル、より好ましくは0.5~1モルである。
【0264】
なお、「グリニャール試薬(3)の量」は、1種のグリニャール試薬(3)が用いられる場合には当該1種のグリニャール試薬(3)の量を意味し、2種以上のグリニャール試薬(3)が用いられる場合には当該2種以上のグリニャール試薬(3)の合計量を意味する。その他の物質の量についても同様である。
【0265】
チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-30~50℃、好ましくは-20~40℃、より好ましくは-10~30℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.1~5時間、好ましくは0.2~4時間、より好ましくは0.5~3時間である。接触環境は、不活性雰囲気下であることが好ましく、アルゴン雰囲気下又は窒素雰囲気下であることがより好ましい。
【0266】
チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)との接触は、溶媒中で行われることが好ましい。チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを溶媒中で混合することにより、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させることができる。溶媒は、好ましくは有機溶媒である。溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。1種の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。溶媒は、好ましくはTHF、ジブチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン又はこれらの混合溶媒である。
【0267】
溶媒の使用量は、アシル保護ラクトン誘導体(IV) 1gに対して、例えば0.5~100mL、好ましくは2~50mLである。
【0268】
チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを溶媒中で接触させる際、チオール(2)、グリニャール試薬(3)、アシル保護ラクトン誘導体(IV)及び溶媒の添加順序は特に限定されない。例えば、アシル保護ラクトン誘導体(IV)に、チオール(2)及び溶媒を添加した後、グリニャール試薬(3)を添加することができる。グリニャール試薬(3)の添加は、例えば、滴下により行うことができる。
【0269】
チオール誘導体(III)は、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させることにより得られた反応混合物から単離した後にカルボン酸無水物(1)との反応に用いてもよいし、該反応混合物から単離することなくカルボン酸無水物(1)との反応に用いてもよい。
【0270】
一実施形態において、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させることにより得られた反応混合物からチオール誘導体(III)を単離することなく、該反応混合物にカルボン酸無水物(1)を添加することにより、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させてチオエステル誘導体(I)を製造する工程を行う。この実施形態において、カルボン酸無水物(1)の使用量は、アシル保護ラクトン誘導体(IV) 1モルに対して、例えば0.5~10モル、好ましくは0.8~5.0モル、より好ましくは1.0~3.0モルである。この実施形態では、反応混合物に含まれるグリニャール試薬(3)が塩基として作用するため、反応混合物に塩基を添加する必要はない。すなわち、この実施形態によれば、グリニャール試薬(3)の下、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させて、チオエステル誘導体(I)を製造することができる。
【0271】
得られたチオール誘導体(III)の単離は、例えば、以下の方法により行うことができる。
【0272】
先ず、反応液に氷冷水等のクエンチ液を加えて、反応を停止させる。次に、クエンチ液添加後の反応液に、ブレンステッド酸を加えることが好ましい。これにより、チオール誘導体(III)が、環化してアシル保護ラクトン誘導体(IV)の構造へと変化することを抑制することができる。特に、5員環の環員数を有するアシル保護ラクトン誘導体(IV)を基質として得られるチオール誘導体(III)は、6員環の環員数を有するアシル保護ラクトン誘導体(IV)を基質として得られるチオール誘導体(III)と比較して、基質の構造へと変化し易い。このような問題に対して、反応液のpHを酸性にすることにより、チオール誘導体(III)の環化を抑制し、その収率が高められる。
【0273】
ブレンステッド酸の量は、1モルのアシル保護ラクトン誘導体(IV)に対して、例えば1モル以上、好ましくは3モル以上、より好ましくは5モル以上である。ブレンステッド酸の量の上限は特に限定されないが、一例によると、30モル以下である。
【0274】
ブレンステッド酸としては、例えば、ハロゲン化水素、硫酸(HSO)、炭酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸等が挙げられる。1種のブレンステッド酸を単独で用いてもよいし、2種以上のブレンステッド酸を組み合わせて用いてもよい。ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素(HF)、塩化水素(HCl)、臭化水素(HBr)ヨウ化水素(HI)等が挙げられる。ブレンステッド酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸等が挙げられる。ブレンステッド酸を水に溶解させた酸性溶液を用いてもよい。
【0275】
ブレンステッド酸として1M 塩酸を用いる場合、その量は、1gのアシル保護ラクトン誘導体(IV)に対して、10~30mLであることが好ましい。
【0276】
次に、ブレンステッド酸を加えた反応液を撹拌して、水層と有機層とに分離させる。有機層を抽出した後、水層に有機溶媒を加えて、有機層と水層とに再び分離させる。有機層を抽出し、先に抽出した有機層と合わせて総有機層を得る。総有機層を、洗浄液(例えば、水、HCl水溶液、飽和NaHCO水溶液、食塩水等)で洗浄した後、硫酸ナトリウム等を用いて乾燥させて、チオール誘導体(III)の生成物を含む残渣を得る。
【0277】
水層に加えられる有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメチルオキシエタン、ジグライム、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。1種の有機溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いてもよい。有機溶媒は、好ましくは塩化メチレン、トルエン、ヘキサン又はこれらの混合溶媒であり、より好ましくは塩化メチレンである。
【0278】
チオール誘導体(III)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認することができる。
【0279】
チオエステル誘導体(I)を製造する方法が、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させて、チオール誘導体(III)を製造する工程を含む場合、チオエステル誘導体(I)を製造する方法は、アシル保護ラクトン誘導体(IV)を製造する工程を含んでいてもよい。この場合、アシル保護ラクトン誘導体(IV)を製造する工程の後に、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させて、チオール誘導体(III)を製造する工程が行われる。
【0280】
アシル保護ラクトン誘導体(IV)は、ブレンステッド酸の存在下、ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを接触させることにより製造することができる。
【0281】
ブレンステッド酸の存在下、ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを接触させると、ラクトン誘導体(VIII)に含まれるヒドロキシ基が、式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基で保護され、アシル保護ラクトン誘導体(IV)が得られる。
【0282】
一実施形態において、アシル保護ラクトン誘導体(IV)は、アシル保護ラクトン誘導体(IVa)である。アシル保護ラクトン誘導体(IVa)は、ブレンステッド酸の存在下、ラクトン誘導体(VIIIa)とカルボン酸無水物(1)とを接触させることにより製造することができる。
【0283】
カルボン酸無水物(1)の使用量は、ラクトン誘導体(VIII) 1モルに対して、例えば1~200モル、好ましくは1~100モル、より好ましくは1~50モルである。
【0284】
ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)の接触は、無溶媒で行ってもよいが、溶媒中で行われることが好ましい。ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを溶媒中で混合することにより、ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを接触させることができる。溶媒は、好ましくは有機溶媒である。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、塩化メチレン、トルエン、酢酸エチル、ジオキサン、t-ブチルメチルエーテル等が挙げられる。1種の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の溶媒の組み合わせて用いてもよい。溶媒は、好ましくは塩化メチレン、トルエン又はこれらの混合溶媒である。ブレンステッド酸としては、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)、硫酸、メタンスルホン酸等が挙げられ、好ましくはTFA、硫酸等である。
【0285】
溶媒の使用量は、ラクトン誘導体(VIII) 1gに対して、例えば0~100mL、好ましくは0~50mL、より好ましくは0~10mLである。
【0286】
ブレンステッド酸の使用量は、ラクトン誘導体(VIII) 1gに対して、例えば0.1~100mL、好ましくは0.5~50mL、より好ましくは1~30mLである。
【0287】
ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)との接触は、塩基の存在下で行ってもよい。
【0288】
塩基の具体例は、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させる際に用いられる塩基の具体例と同様である。
【0289】
塩基の使用量は、ラクトン誘導体(VIII) 1モルに対して、例えば0~10モル、好ましくは0.1~5モル、より好ましくは0.5~3モルである。
【0290】
ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-10~50℃、好ましくは-5~40℃、より好ましくは0~30℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.1~10時間、好ましくは1~8時間、より好ましくは2~5時間である。接触環境は、不活性雰囲気下であることが好ましく、アルゴン雰囲気下又は窒素雰囲気下であることがより好ましい。
【0291】
アシル保護ラクトン誘導体(IV)は、ブレンステッド酸の存在下、ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを接触させることにより得られた反応混合物から単離した後にチオール(2)及びグリニャール試薬(3)との反応に用いてもよいし、該反応混合物から単離することなくチオール(2)及びグリニャール試薬(3)との反応に用いてもよい。例えば、ブレンステッド酸の存在下、ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを接触させることにより得られた反応混合物にトルエン等の溶媒を加え、揮発性を有するブレスレット酸及びカルボン酸無水物(1)を蒸発させることにより、アシル保護ラクトン誘導体(IV)を濃縮してもよい。濃縮物は、そのまま(すなわち、濃縮物からアシル保護ラクトン誘導体(IV)を単離することなく)、チオール(2)及びグリニャール試薬(3)との反応に用いることができる。
【0292】
一実施形態において、ブレンステッド酸の存在下、ラクトン誘導体(VIII)とカルボン酸無水物(1)とを接触させることにより得られた反応混合物からアシル保護ラクトン誘導体(IV)を単離することなく、該反応混合物にチオール(2)及びグリニャール試薬(3)を添加することにより、チオール(2)とグリニャール試薬(3)とアシル保護ラクトン誘導体(IV)とを接触させてチオール誘導体(III)を製造する工程を行う。そして、得られた反応混合物からチオール誘導体(III)を単離することなく、該反応混合物にカルボン酸無水物(1)を添加することにより、チオール誘導体(III)とカルボン酸無水物(1)とを接触させてチオエステル誘導体(I)を製造する工程を行う。この実施形態において、カルボン酸無水物(1)の合計使用量(アシル保護ラクトン誘導体(IV)の製造に用いられるカルボン酸無水物(1)の使用量と、チオエステル誘導体(I)の製造に用いられるカルボン酸無水物(1)の使用量との合計)は、ラクトン誘導体(VIII) 1モルに対して、例えば1~200モル、好ましくは1~100モル、より好ましくは1~50モルである。
【0293】
≪ケトン誘導体(II)を製造する方法≫
ケトン誘導体(II)は、チオエステル誘導体(I)と、グリニャール試薬(4a)及びグリニャール試薬(4b)から選択されるグリニャール試薬(4)と、銅塩とを接触させて、ケトン誘導体(II)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0294】
一実施形態において、ケトン誘導体(II)は、ケトン誘導体(IIa)である。ケトン誘導体(IIa)は、チオエステル誘導体(Ia)と、グリニャール試薬(4a)及びグリニャール試薬(4b)から選択されるグリニャール試薬(4)と、銅塩とを接触させて、ケトン誘導体(IIa)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0295】
別の実施形態において、ケトン誘導体(II)は、ケトン誘導体(IIb)である。ケトン誘導体(IIb)は、チオエステル誘導体(Ib)と、グリニャール試薬(4a)及びグリニャール試薬(4b)から選択されるグリニャール試薬(4)と、銅塩とを接触させて、ケトン誘導体(IIb)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0296】
グリニャール試薬(4)として、グリニャール試薬(4a)及びグリニャール試薬(4b)の一方を選択してもよいし、両方を選択してもよい。両方を選択する場合、両者の混合物を反応系に添加してもよいし、両者を別々に反応系に添加してもよい。
【0297】
グリニャール試薬(4a)は、市販品であってもよいし、常法に従って製造してもよい。
【0298】
グリニャール試薬(4)は、反応速度を向上させる観点から、グリニャール試薬(4b)を含むことが好ましい。なお、グリニャール試薬(4b)は、ターボグリニャール試薬と呼ばれる。
【0299】
グリニャール試薬(4b)は、市販品であってもよいし、常法に従って製造してもよい。グリニャール試薬(4b)は、例えば、不活性化ガス(例えば、窒素、アルゴン等)に置換した反応容器において、リチウム塩の存在下、マグネシウムと、式:WX[式中、W及びXは、上記と同義である。]で表されるハロゲン有機化合物とを、有機溶媒中で反応させることにより製造することができる。
【0300】
また、グリニャール試薬(4b)は、Angew Chem.Int.Ed2006,45,2958等に記載の公知の方法に従って、式:TMPMgX・LiY[式中、TMPは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを表す。]で表されるノッシェル・ハウザー塩基と、式:W-Hで表される化合物とを反応させることにより製造してもよい。
【0301】
【化55】
【0302】
銅塩としては、例えば、塩化銅(I)(CuCl)、塩化銅(II)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、臭化銅(II)(CuBr)、シアン化銅(I)(CuCN)、3-メチルサリチル酸銅(I)、メシチレン銅(I)(MesCu)、イソプロポキシ銅(I)(iPrOCu)、ヨウ化銅(I)(CuI)、ヨウ化銅(II)(CuI)、酢酸銅(I)(CuOAc)、酢酸銅(II)(Cu(OAc))、硫酸銅(II)(CuSO)、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、ピバル酸銅(I)(CuOPiv)、ピバル酸銅(II)(Cu(OPiv))、硫黄(S)を含む銅塩等が挙げられる。
【0303】
硫黄(S)を含む銅塩としては、例えば、チオフェン-2-カルボン酸銅(I)(CuTC)等が挙げられる。Sは、Cuとの親和性が高く、銅塩において、SがCuに配位し易い。この配位により、Cuが活性化され、収率が高まる。
【0304】
銅塩に含まれる銅原子の価数は、通常1価又は2価であるが、好ましくは1価である。銅原子の価数が1価である銅塩は、触媒作用が優れている。銅原子の価数が1価である銅塩のうち、CuCN、CuCl、CuI、CuBr、CuOAc及びCuTCは、触媒作用が特に優れている。したがって、銅塩は、CuCN、CuCl、CuI、CuBr、CuOAc又はCuTCであることが好ましく、CuCN、CuCl、CuOAc又はCuTCであることがより好ましい。
【0305】
チオエステル誘導体(I)と、グリニャール試薬(4)と、銅塩とを接触させることにより、ケトン誘導体(II)を高収率で得ることができる。本発明者らは、この理由を、下記式(10)に表されるアニオン性錯体(10)又は下記式(11)に表されるアニオン性錯体(11)が形成されているためと推測している。すなわち、チオエステル誘導体(I)の炭素-硫黄結合の酸化的付加が、中性ではなくアニオン性である錯体(10)又は(11)に対して促進されるためであると考えられる。
【0306】
【化56】
【0307】
【化57】
【0308】
なお、アニオン性錯体(10)は、CuCN以外の銅塩(例えば、CuCl、CuBr、CuI、CuOAc等)を用いた場合に形成され、アニオン性錯体(11)は、銅塩としてCuCNを用いた場合に形成されると考えられる。
【0309】
銅塩の使用量は、グリニャール試薬(4) 1モルに対して、好ましくは0.1~1モル、より好ましくは0.3~0.9モル、より好ましくは0.4~0.8モルである。グリニャール試薬(4)に対する銅塩の使用量を上記範囲とすることにより、アニオン性錯体(10)又は(11)の形成が円滑に進行する傾向にある。銅塩の使用量は、グリニャール試薬(4) 1モルに対して、一例によると、0.5~0.9モルであり、他の例によると、0.6~0.8モルである。
【0310】
グリニャール試薬(4)がグリニャール試薬(4b)を含む場合、銅塩の使用量は、グリニャール試薬(4b) 1モルに対して、例えば0.1~1モル、好ましくは0.3~0.9モル、より好ましくは0.4~0.8モルである。あるいは、グリニャール試薬(4)がグリニャール試薬(4b)を含む場合、銅塩の使用量は、グリニャール試薬(4b) 1モルに対して、一例によると、0.4~0.92モルであり、他の例によると、0.5~0.82モルであり、さらに他の例によると、0.6~0.72モルである。
【0311】
銅塩の使用量は、チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、例えば0.1~10モル、好ましくは0.5~5モル、より好ましくは1~3モルである。
【0312】
グリニャール試薬(4)の使用量は、チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、例えば1~10モル、好ましくは1~5モル、より好ましくは1.5~4モルである。グリニャール試薬(4)の使用量は、チオエステル誘導体(I)の使用量に対して過剰量である必要はない。
【0313】
グリニャール試薬(4)として、グリニャール試薬(4a)及びグリニャール試薬(4b)の両方を選択する場合、グリニャール試薬(4b)の量は、例えば、グリニャール試薬(4a)及びグリニャール試薬(4b)の合計質量を基準として、10~90質量%である。
【0314】
チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩との接触は、溶媒中で行われることが好ましい。チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを溶媒中で混合することにより、チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させることができる。溶媒は、好ましくは有機溶媒である。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、塩化メチレン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。1種の溶媒を用いてもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。溶媒は、好ましくは、THF、トルエン又はこれらの混合溶媒である。
【0315】
溶媒の使用量は、チオエステル誘導体(I) 1gに対して、例えば1~100mL、好ましくは2~50mLである。
【0316】
チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-20~150℃、好ましくは-10~120℃、より好ましくは0~70℃、より好ましくは0~50℃である。グリニャール試薬(4)を用いることにより、比較的高い温度条件下でもケトン誘導体(II)を製造することができる。したがって、ケトン誘導体(II)の合成条件に-10℃より低い超低温を必要とする方法と比較して、温度管理に関連した設備コストを抑制し、ケトン誘導体(II)のより安価な工業的生産を実現することができる。また、接触温度(反応温度)が上記温度範囲内であると、ケトン誘導体(II)の収率がより高まる傾向にある。
【0317】
チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させる際、接触時間(反応時間)は、例えば0.5~72時間、好ましくは1~48時間である。
【0318】
チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させる際、グリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させて有機銅試薬を形成させた後、チオエステル誘導体(I)を混合し、有機銅試薬とチオエステル誘導体(I)とを接触させることが好ましい。これにより、ケトン誘導体(II)を高収率で得ることができる。
【0319】
グリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-20~150℃、好ましくは-10~100℃、より好ましくは0~50℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.1~5時間、好ましくは0.2~2時間、より好ましくは0.5~1時間である。
【0320】
有機銅試薬とチオエステル誘導体(I)とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-20~150℃、好ましくは-10~100℃、より好ましくは0~50℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.1~5時間、好ましくは0.2~2時間、より好ましくは0.5~1時間である。
【0321】
チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させる際、下記式(5a):
【化58】
で表される有機亜鉛化合物(5a)、及び、
下記式(5b):
【化59】
で表される有機亜鉛化合物(5b)の一方又は両方を、グリニャール試薬(4)及び銅塩と併用してもよい。有機亜鉛化合物(5a)及び有機亜鉛化合物(5b)は、チオエステル誘導体(I)に基Wを導入するための試薬として用いることができる。
【0322】
式(5a)及び(5b)において、Wは式(II)と同義である。したがって、Wに関する上記説明は、式(5a)及び(5b)におけるWにも適用される。
【0323】
式(5a)において、Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択することが好ましく、塩素原子及び臭素原子から選択することがより好ましく、臭素原子であることがより好ましい。式(5a)におけるXは、式(4a)及び(4b)におけるXと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0324】
チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを混合する際、有機亜鉛化合物(5a)及び有機亜鉛化合物(5b)のいずれも、できるだけ用いないことが好ましい。有機亜鉛化合物(5a)及び有機亜鉛化合物(5b)を含むと、ケトン誘導体(II)の収率が低下する傾向にある。有機亜鉛化合物(5a)及び有機亜鉛化合物(5b)の合計使用量は、チオエステル誘導体(I)の質量を基準として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。下限値は、ゼロである。
【0325】
有機亜鉛化合物(5a)としては、例えば、アリール亜鉛ハライド(式(5a)において、Wがアリール基であり、Xがハロゲン原子、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である化合物)、アルキル亜鉛ハライド(式(5a)において、Wがアルキル基であり、Xがハロゲン原子、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である化合物)等が挙げられる。
【0326】
有機亜鉛化合物(5b)としては、例えば、ジアリール亜鉛(式(5b)において、Wがアリール基である化合物)、ジアルキル亜鉛(式(5b)において、Wがアルキル基である化合物)等が挙げられる。
【0327】
有機亜鉛化合物(5a)及び有機亜鉛化合物(5b)は、市販品であってもよいし、常法に従って製造してもよい。
【0328】
有機亜鉛化合物(5a)及び/又は有機亜鉛化合物(5b)は、例えば、塩化リチウム等のリチウム塩とともに用いてもよい。有機亜鉛化合物(5a)は、リチウム塩と複合体を形成していてもよい。有機亜鉛化合物(5a)とリチウム塩との複合体は、例えば、下記式(5c)で表すことができる。
【0329】
【化60】
【0330】
式(5c)において、W及びXは、式(5a)と同義である。
【0331】
が、アリール基の結合手を有する炭素原子(式(II)において-CO-(すなわち、-CO-Wにおける-CO-)と結合するWの炭素原子、式(4a)又は(4b)においてMgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子は置換基を有さず、残りの炭素原子は置換基を有していてもよいアリール基、又は、ヘテロアリール基の結合手を有する炭素原子(式(II)において-CO-(すなわち、-CO-Wにおける-CO-)と結合するWの炭素原子、式(4a)又は(4b)においてMgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子若しくはヘテロ原子は置換基を有さず、残りの炭素原子若しくはヘテロ原子は置換基を有していてもよいヘテロアリール基である実施形態では、ケトン誘導体(II)を製造する方法において、下記式(6):
【化61】
で表されるグリニャール試薬(6)を用いてもよい。
【0332】
式(6)において、Wは、少なくとも一方のオルト位に置換基を有し、メタ位及び/又はパラ位に置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
【0333】
式(6)において、Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択することが好ましく、塩素原子及び臭素原子から選択することがより好ましく、臭素原子であることがより好ましい。式(6)におけるXは、式(4a)及び(4b)におけるXと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0334】
グリニャール試薬(6)は、グリニャール試薬(4a)及び(4b)の一方又は両方とともに用いることができる。この場合、グリニャール試薬(4a)及び(4b)の一方又は両方とグリニャール試薬(6)との混合物を反応系に添加してもよいし、グリニャール試薬(4a)及び(4b)の一方又は両方とグリニャール試薬(6)とを別々に反応系に添加してもよい。
【0335】
グリニャール試薬(4)及びグリニャール試薬(6)に加えて、その他のグリニャール試薬を用いてもよい。この場合、グリニャール試薬(4)及びグリニャール試薬(6)の合計量は、グリニャール試薬(4)、グリニャール試薬(6)及びその他のグリニャール試薬の合計質量を基準として、80質量%以上であることが好ましく、100質量%であってもよい。
【0336】
グリニャール試薬(6)を用いる場合、チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とグリニャール試薬(6)とを接触させることにより、ケトン誘導体(II)を製造することができる。
【0337】
下記式(4’)で表される化合物は、Wが、アリール基の結合手を有する炭素原子(Mgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子は置換基を有さず、残りの炭素原子は置換基を有していてもよいアリール基、又は、ヘテロアリール基の結合手を有する炭素原子(Mgと結合する炭素原子)の両隣に位置する炭素原子若しくはヘテロ原子は置換基を有さず、残りの炭素原子若しくはヘテロ原子は置換基を有していてもよいヘテロアリール基であるグリニャール試薬(4a)又は(4b)の一例である。
【0338】
【化62】
【0339】
式(4’)において、MgXと結合する炭素原子の両隣に位置する炭素原子、すなわち、オルト位は、置換基を有さない。MgXと結合する炭素原子に対するメタ位は、R21及びR23を有する。MgXと結合する炭素原子に対するパラ位は、R22を有する。R21、R22及びR23は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基群α及びβから選択される置換基である。fは、0又は1である。
【0340】
下記式(6’)で表される化合物は、グリニャール試薬(6)の一例であり、以下、Wの詳細を説明する。
【0341】
【化63】
【0342】
式(6’)において、R31、R32、R33、R34及びR35は、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を表す。MgXと結合する炭素原子に対するメタ位に結合するR31及びR35の少なくとも一方は、置換基である。R31及びR35の両方が置換基であることが好ましい。
【0343】
置換基は、例えば、アルキル基、アリールアルキル基、ハロゲン基、ニトリル基、ジアルキルアミノ基、アルキルオキシ基、アリールアルキルオキシ基、アルキルチオ基又はアリールアルキルチオ基である。アルキル基、ジアルキルアミノ基、アルキルオキシ基又はアルキルチオ基の炭素数は、1~10であることが好ましい。アリールアルキル基、アリールアルキルオキシ基又はアリールアルキルチオ基の炭素数は、5~14であることが好ましい。
【0344】
置換基は、アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。Wの好ましい具体例としては、2,4,6-トリメチルフェニル基(メシチル基)、2,6-ジメチルフェニル基(2,6-キシリル基)等が挙げられる。
【0345】
グリニャール試薬(6)を用いると、ケトン誘導体(II)の収率をより高めることができる。本発明者らは、この理由を次のように推測している。グリニャール試薬(4a)及び(4b)は、Wが、Mgと結合する炭素原子の両隣に位置する炭素原子が置換基を有さないアリール基又はMgと結合する炭素原子の両隣に位置する炭素原子若しくはヘテロ原子が置換基を有さないヘテロアリール基である化合物である。グリニャール試薬(6)は、Wが、Mgと結合する炭素原子の両隣に位置する炭素原子の少なくとも一方が置換基を有するフェニル基である。したがって、グリニャール試薬(4a)及び/又は(4b)とグリニャール試薬(6)とを用いると、下記式(12)に表されるアニオン性錯体(12)が形成されると考えられる。アニオン性錯体(12)において、Wは少なくとも一方のオルト位に置換基を有しているため、立体障害が生じ、-SWから-Wへの置換反応が阻害される。これにより、-SWから-Wへの置換反応が促進される。その結果、アニオン性錯体(10)又は(11)を用いる場合と比較して、グリニャール試薬(4a)及び(4b)の使用量あたりのケトン誘導体(II)の収率をより高めることができる。また、オルト位の置換基は電子供与効果によりWの反応性を高めることができる。さらに、反応に供しないWを反応剤(有機銅試薬)に導入することにより実際に反応するWを発生させるグリニャール試薬の仕込み量を低減することができる。
【0346】
【化64】
【0347】
また、グリニャール試薬(6)を用いると、チオエステル誘導体(I)における-SWから-Wへの置換反応を促進することができるため、銅塩及びグリニャール試薬(4)の量を、比較的低減することができる。
【0348】
グリニャール試薬(6)を用いる場合、銅塩の使用量は、グリニャール試薬(4) 1モルに対して、例えば、0.1モル以上10モル以下であり、好ましくは、0.5モル以上5モル以下であり、さらに好ましくは、0.5モル以上2モル以下である。
【0349】
グリニャール試薬(6)を用いる場合、銅塩の使用量は、グリニャール試薬(6) 1モルに対して、例えば、0.1モル以上10モル以下であり、好ましくは、0.5モル以上5モル以下であり、さらに好ましくは、0.5モル以上2モル以下である。一例によると、銅塩の使用量は、グリニャール試薬(6) 1モルに対して、1モル以上3モル以下である。
【0350】
グリニャール試薬(6)を用いる場合、銅塩の使用量は、チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、例えば、0.1モル以上10モル以下であり、より好ましくは、0.5モル以上5モル以下であり、さらに好ましくは、0.5モル以上1.4モル以下である。
【0351】
グリニャール試薬(6)を用いる場合、グリニャール試薬(4)の使用量は、チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、例えば、0.1モル以上10モル以下、好ましくは0.5モル以上5モル以下、より好ましくは0.5モル以上1.4モル以下である。
【0352】
グリニャール試薬(6)を用いる場合、グリニャール試薬(6)の使用量は、グリニャール試薬(4) 1モルに対して、例えば、0.01モル以上1モル以下、好ましくは0.01モル以上0.8モル以下、より好ましくは0.1モル以上0.8モル以下である。
【0353】
グリニャール試薬(6)を用いる場合、グリニャール試薬(6)の使用量は、チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、例えば、0.1モル以上10モル以下、好ましくは0.1モル以上5モル以下、より好ましくは0.1モル以上1.0モル以下である。
【0354】
グリニャール試薬(6)を用いる場合のその他の条件(溶媒、反応温度、反応時間等)については、上記と同様である。
【0355】
チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とグリニャール試薬(6)とを接触させる際、グリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させ、次いで、グリニャール試薬(6)を接触させて有機銅試薬を形成させた後、チオエステル誘導体(I)を混合し、有機銅試薬とチオエステル誘導体(I)とを接触させることが好ましい。これにより、ケトン誘導体(II)を高収率で得ることができる。
【0356】
グリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させる際の接触温度(反応温度)及び接触時間(反応時間)は、上記と同様である。
【0357】
グリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させた後、グリニャール試薬(6)を接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-20~150℃、好ましくは-10~100℃、より好ましくは0~70℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.1~5時間、好ましくは0.2~3時間、より好ましくは0.5~2時間である。
【0358】
有機銅試薬とチオエステル誘導体(I)とを接触させる際の接触温度(反応温度)及び接触時間(反応時間)は、上記と同様である。
【0359】
銅塩としてCuCNを用いる場合、グリニャール試薬(6)の使用量が多いと、ケトン誘導体(II)の収率が低下するおそれがある。したがって、銅塩としてCuCNを用いる場合、グリニャール試薬(6)の使用量は、グリニャール試薬(4) 1モルに対して、好ましくは1モル以下、より好ましくは0.5モル以下、より好ましくは0.1モル以下であり、チオエステル誘導体(I) 1モルに対して、好ましくは1モル以下、より好ましくは0.5モル以下、より好ましくは0.1モル以下である。銅塩としてCuCNを用いる場合、グリニャール試薬(6)の使用量の下限はゼロである。
【0360】
≪C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する方法≫
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、ケトン誘導体(II)と塩基とを接触させて、ケトン誘導体(II)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸をさらに接触させて、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0361】
一実施形態において、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Va)又は(Vb)である。C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Va)又は(Vb)は、ケトン誘導体(IIa)と塩基とを接触させて、ケトン誘導体(IIa)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸をさらに接触させて、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Va)又は(Vb)を製造する工程を含む方法により製造することができる。式(V)におけるR100の種類(式(Va)では水素原子、式(Vb)ではR101)は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する際に用いられる酸によって決まる。
【0362】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、式(IIa)において、Rがアセチル基であり、R~Rがアセチル基以外のヒドロキシ基保護基(例えば、ベンジル基)であるケトン誘導体から、Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させ、次いで、環化させ、次いで、R~Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させることにより製造することもできる。しかしながら、この場合、Rで表されるヒドロキシ基保護基の脱離工程と、環化工程と、R~Rで表されるヒドロキシ基保護基の脱離工程が必要となる。これに対して、ケトン誘導体(II)と塩基とを接触させて、ケトン誘導体(II)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸をさらに接触させて、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程を含む方法によれば、ケトン誘導体(II)から、式:-CO-Rで表される全てのヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸との反応により環化工程が行われる。したがって、環化工程後に、ヒドロキシ基保護基の脱離工程を行う必要がない。よって、ケトン誘導体(II)からC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を簡便かつ効率よく得ることができる。
【0363】
塩基としては、例えば、アルカリ金属アルコキシド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0364】
塩基の使用量は、ケトン誘導体(II) 1モルに対して、例えば0.01~50、好ましくは0.1~20モル、より好ましくは0.5~10モルである。
【0365】
ケトン誘導体(II)と塩基との接触は、溶媒中で行われることが好ましい。ケトン誘導体(II)と塩基とを溶媒中で混合することにより、ケトン誘導体(II)と塩基とを接触させることができる。溶媒は、好ましくは水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒である。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、t-ブタノール、テトラヒドロフラン(THF)、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、水等が挙げられる。
【0366】
溶媒の使用量は、ケトン誘導体(II) 1gに対して、例えば0.5~100mL、好ましくは1~80mL、より好ましくは2~50mLである。
【0367】
ケトン誘導体(II)と塩基とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-20~100℃、好ましくは-10~70℃、より好ましくは0~50℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.1~24時間、好ましくは0.2~17時間、より好ましくは0.5~8時間である。接触環境は、不活性雰囲気下であることが好ましく、アルゴン雰囲気下又は窒素雰囲気下であることがより好ましい。
【0368】
ケトン誘導体(II)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、脱保護されたケトン誘導体(II)に酸を接触させることにより、脱保護されたケトン誘導体(II)を環化して、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造することができる。
【0369】
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、メチルスルホン酸等のアルキルスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等のアリールスルホン酸等が挙げられる。酸は、好ましくは、メチルスルホン酸である。
【0370】
式(V)におけるR100の種類(式(Va)では水素原子、式(Vb)ではR101)は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する際に用いられる酸によって決まる。具体的には、酸が塩酸又は硫酸である場合、式(V)におけるR100は水素原子であり、酸が式:R100-SOH(式中、R100は、置換基を有してもよいアルキル基を表す)で表されるアルキルスルホン酸である場合、式(V)におけるR100は置換基を有してもよいアルキル基であり、酸が式:R100-SOH(式中、R100は、置換基を有してもよいアリール基を表す)で表されるアリールスルホン酸である場合、式(V)におけるR100は置換基を有してもよいアリール基である。より具体的には、酸がメチルスルホン酸である場合、式(V)におけるR100はメチル基であり、酸がp-トルエンスルホン酸である場合、式(V)におけるR100はメチルフェニル基であり、酸がベンゼンスルホン酸である場合、式(V)におけるR100はフェニル基である。
【0371】
酸の使用量は、ケトン誘導体(II) 1モルに対して、例えば0.01~100、好ましくは0.1~50モル、より好ましくは0.5~10モルである。
【0372】
脱保護されたケトン誘導体(II)と酸との接触は、溶媒中で行われることが好ましい。脱保護されたケトン誘導体(II)と酸とを溶媒中で混合することにより、脱保護されたケトン誘導体(II)と酸とを接触させることができる。溶媒は、好ましくは水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒である。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、t-ブタノール、テトラヒドロフラン(THF)、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、水等が挙げられる。
【0373】
脱保護されたケトン誘導体(II)と酸と接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-20~60℃、好ましくは-10~50℃、より好ましくは0~40℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば0.5~48時間、好ましくは1~24時間、より好ましくは2~17時間である。接触環境は、不活性雰囲気下であることが好ましく、アルゴン雰囲気下又は窒素雰囲気下であることがより好ましい。
【0374】
脱保護されたケトン誘導体(II)と酸と接触させて、脱保護されたケトン誘導体(II)を環化させることにより、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Vb)を製造する場合、中間体として、5員環のC-アリールグリコサイド誘導体(VIa)及び6員環のC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Va)からなる群より選ばれる少なくとも1種が生成されてもよい。
【0375】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)のうち、n=2(すなわち6員環)であるC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)が特に有用である。
【0376】
得られたC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで単離してもよいし濃縮残渣として未精製のまま次工程に用いてもよい。
【0377】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認することができる。
【0378】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する方法は、ケトン誘導体(II)を製造する工程を含んでいてもよい。この場合、ケトン誘導体(II)を製造する工程の後に、ケトン誘導体(II)と塩基とを接触させて、ケトン誘導体(II)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸をさらに接触させて、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程が行われる。
【0379】
ケトン誘導体(II)は、チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させて、ケトン誘導体(II)を製造する工程を含む方法により製造することができる。この方法に関する説明は、上記の通りである。
【0380】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する方法が、チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させてケトン誘導体(II)を製造する工程を含む場合、チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させることにより得られた反応混合物からケトン誘導体(II)を単離した後、塩基と接触させてもよいし、該反応混合物からケトン誘導体(II)を単離することなく、該反応混合物に塩基を添加し、塩基と接触させてもよい。後者の場合、チオエステル誘導体(I)とグリニャール試薬(4)と銅塩とを接触させることにより得られた反応混合物からケトン誘導体(II)を単離する必要がないため、効率よくC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造することができる。
【0381】
≪C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)を製造する方法≫
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)は、ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを接触させて、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0382】
一実施形態において、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VIa)である。C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VIa)は、ケトン誘導体(IIa)とリパーゼとを接触させて、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VIa)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0383】
リパーゼとしては、例えば、微生物に由来するリパーゼ、動物又は植物の組織又は細胞に由来するリパーゼ等が挙げられるが、これらのうち、微生物に由来するリパーゼが好ましい。リパーゼは、常法に従って、微生物の菌体、動物又は植物の組織又は細胞等から得ることができる。
【0384】
リパーゼの起源となる微生物は、野生株であってもよいし、変異株であってもよいし、遺伝子組み換え等の遺伝子工学的手法により誘導されたものであってもよい。リパーゼの起源となる微生物としては、例えば、ペニシリウム(Penicillium)属微生物、ムコール(Mucor)属微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属微生物、フミコラ(Humicola)属微生物、アスペルギルス(Aspergillus)属微生物、カンジダ(Candida)属微生物、セラチア(Serratia)属微生物等が挙げられる。より具体的には、ペニシリウム シクロピウム(Penicillium cyclopium)、ムコール ジャバニカス(Mucor javanicus)、ムコール ミエヘイ(Mucor miehei)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス セパシア(Pseudomonas cepasia)、フミコラ ラヌギノーサ(Humicola lanuginosa)、アスペルギルス ニガー(Aspergilus niger)、カンジダ シリンドラシア(Candida cylindracea)、カンジダ アンタークティカ(Candida antarctica)、セラチア マルセッセンス(Serratia marcescens)等が挙げられる。
【0385】
リパーゼは、例えば、精製酵素又は部分精製酵素(粗精製酵素)の形態で使用することができる。微生物由来のリパーゼである場合、微生物の菌体、培養物、それらの処理物(例えば、培養上清、菌体破砕物、菌体抽出物等)等の形態で使用してもよい。動物又は植物の組織又は細胞に由来するリパーゼである場合、組織又は細胞の抽出物等の形態で使用してもよい。
【0386】
リパーゼは、固定化酵素の形態で使用してもよい。固定化は、例えば、カラギーナンゲル、ポリアクリルアミド、アルギン酸ゲル、寒天ゲル、セライト、光架橋性樹脂等の担体を使用して、常法に従って実施することができる。
【0387】
リパーゼは、市販のリパーゼであってもよい。市販のリパーゼとしては、例えば、リパーゼG(天野製薬製,起源:ペニシリウム シクロピウム)、リパーゼM(天野製薬製,起源:ムコール ジャバニカス),リパーゼP(天野製薬製,起源:シュードモナス フルオレセンス)、リパーゼCE(天野製薬製,起源:フミコラ ラヌギノーサ)、ノボジーム388(ノボ社製,起源:ムコール ミエヘイ)、ノボジームIM(ノボ社製,起源:ムコール ミエヘイ)、リパーゼA(シグマ社製,起源:アスペルギルス ニガー)、ノボジーム435(ノボ社製,起源:カンジダ アンタークティカ)、リパーゼSP523(ノボ社製,起源:フミコラ sp.)、リパーゼSP524(ノボ社製,起源:ムコール ミエヘイ)、リパーゼSP525(ノボ社製,起源:カンジダ アンタークティカ)、リパーゼSP526(ノボ社製,起源:カンジダ アンタークティカ)等が挙げられるが、これらのうち、ノボジーム435が好ましい。
【0388】
ケトン誘導体(IIA) 1g当たりのリパーゼの使用量は、例えば1~100000Uのオリーブ油分解活性を有する量、好ましくは50~50000U、より好ましくは100~20000Uのオリーブ油分解活性を有する量である。オリーブ油分解活性は、オリーブ油にリパーゼが作用するときにエステル結合の切断に伴って増加する脂肪酸の量を測定する脂肪消化力試験法(「医薬研究」11〔3〕(1980) p.505-506)に従って求めることができる。
【0389】
ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとの接触は、溶媒中で行われることが好ましい。ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを溶媒中で混合することにより、ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを接触させることができる。溶媒は、好ましくは水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒である。溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、水等が挙げられる。1種の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の溶媒を含む混合溶媒を用いてもよい。溶媒は、好ましくはアセトニトリル、エタノール、水又はこれらの混合溶媒である。
【0390】
ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとの接触は、リパーゼが酵素活性(リパーゼ活性)を発揮し得るpHで行われることが好ましく、リパーゼの至適pHで行われることがより好ましい。ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとの接触が溶媒中で行われる場合、ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを接触させる際に用いられる溶媒のpHは、リパーゼが酵素活性(リパーゼ活性)を発揮し得るpHであることが好ましく、リパーゼの至適pHであることがより好ましい。リパーゼが酵素活性(リパーゼ活性)を発揮し得るpHは、例えば6~10、好ましくは6.5~10、より好ましくは7~9である。
【0391】
ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを接触させる際に用いられる溶媒には、溶媒のpHを調節及び/又は維持するために、緩衝液が含まれていてもよい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液等が挙げられる。
【0392】
溶媒の使用量は、ケトン誘導体(IIA) 1gに対して、例えば1~100mL、好ましくは3~70mL、より好ましくは4~50mLである。
【0393】
ケトン誘導体(IIA)とリパーゼとを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば0~80℃、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~40℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば1~48時間、好ましくは2~24時間、より好ましくは5~20時間である。
【0394】
得られたC-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで単離してもよいし、濃縮残渣として未精製のまま次工程に用いてもよい。
【0395】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(VI)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認することができる。
【0396】
≪C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する方法≫
C-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)とシラン化合物とを接触させて、C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0397】
一実施形態において、C-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、C-アリールグリコサイド誘導体(VIIa)である。C-アリールグリコサイド誘導体(VIIa)は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(Va)又は(Vb)とシラン化合物とを接触させて、C-アリールグリコサイド誘導体(VIIa)を製造する工程を含む方法により製造することができる。
【0398】
C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する方法は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程を含んでいてもよい。この場合、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程の後に、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)とシラン化合物とを接触させて、C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を製造する工程が行われる。
【0399】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)は、ケトン誘導体(II)と塩基とを接触させて、ケトン誘導体(II)から式:-CO-Rで表されるヒドロキシ基保護基を脱離させた後、酸をさらに接触させて、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)を製造する工程を含む方法により製造することができる。この方法に関する説明は、上記の通りである。
【0400】
シラン化合物は、還元剤として作用する。したがって、C-アリール-ヒドロキシグリコシド誘導体(V)とシラン化合物と接触させると、C-アリール-ヒドロキシグリコシド誘導体(V)の還元反応が進行し、C-アリールグリコサイド誘導体(VII)が得られる。
【0401】
シラン化合物としては、例えば、トリエチルシラン、トリイソプロピルシラン、フェニルシラン、ジメチルフェニルシラン、tert-ブチルジメチルシラン、トリイソブチルシラン、トリクロロシラン、トリメトキシヒドロシラン、トリエトキシヒドロシラン、テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。反応性や価格の点から、シラン化合物は、好ましくは、トリメトキシヒドロシラン、トリエトキシヒドロシラン、テトラメチルジシロキサン等であり、より好ましくは、テトラメチルジシロキサンである。
【0402】
シラン化合物の使用量は、反応を充分進行させる点から、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V) 1モルに対して、好ましくは1~10モル、より好ましくは1~5モル、より好ましくは1~3モルである。
【0403】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)とシラン化合物との接触は、ルイス酸の存在下で行うことが好ましい。
【0404】
ルイス酸としては、BF・EtO(三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体)、BF・THF(三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン)、AlCl、ZnCl、FeCl、チタン化合物等が挙げられる。これらのうち、チタン化合物が好ましい。チタン化合物を用いることにより、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)の還元反応を低温で速やかに進行させることができ、目的とするC-アリールグリコサイド誘導体(VII)を高選択的かつ高収率で得ることができる。
【0405】
チタン化合物としては、例えば、チタンが0価であるもの、チタンが2価であるもの、3価であるもの、4価であるもの等が知られているが、いずれのチタン化合物であってもよい。チタン化合物としては、トリイソプロポキシ一塩化チタン(IV)、ジイソプロポキシ二塩化チタン(IV)、モノイソプロポキシ三塩化チタン(IV)、塩化チタン(IV)、臭化チタン(IV)、ヨウ化チタン(IV)、酸化チタン(IV)等の4価のチタン塩又はその溶媒和物;塩化チタン(III)、臭化チタン(III)等の3価のチタン塩又はその溶媒和物;塩化チタン(II)等の2価のチタン塩又はその溶媒和物;金属Ti等の0価のチタン又はその溶媒和物が挙げられる。溶媒和物としては、例えば、水、テトラヒドロフラン等の溶媒が配位したものが挙げられる。
【0406】
チタン化合物は、式:TiR (OR[式中、Rは、ハロゲン原子であり、Rは、置換又は非置換のアルキル基であり、r及びsは、r+s=3又は4を満たす0~4の整数である。]で表される3価又は4価のチタン塩又はその溶媒和物であることが好ましい。Rは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であることが好ましく、Rは、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0407】
チタン化合物は、好ましくは、トリイソプロポキシ一塩化チタン(IV)、ジイソプロポキシ二塩化チタン(IV)、モノイソプロポキシ三塩化チタン(IV)、塩化チタン(IV)、塩化チタン(III)等であり、より好ましくは、塩化チタン(IV)である。塩化チタン(IV)は、融点が低く、常温で液体であるため、ハンドリングが容易である点、安価である点等で好ましい。
【0408】
ルイス酸の使用量は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V) 1モルに対して、例えば0.1~3モル、好ましくは0.5~2モル、より好ましくは1~1.5モルある。チタン化合物を用いる場合、チタン化合物の使用量は、C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V) 1モルに対して、例えば0.05~10モル、好ましくは0.1~7モル、より好ましくは1~5モルである。
【0409】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)とシラン化合物との接触は、溶媒中で行われることが好ましい。溶媒は、好ましくは有機溶媒である。溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等の脂肪族ニトリル類、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-THF、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。1種の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。溶媒は、好ましくは、アセトニトリル、塩化メチレン又はこれらの混合溶媒である。これらは、非プロトン性極性溶媒であり、シラン還元を受けにくい点で好ましい。
【0410】
溶媒の使用量は、C-アリール-ヒドロキシグリコシド誘導体(V) 1gに対して、例えば1~100mL、好ましくは1~50mL、より好ましくは2~20mLである。
【0411】
C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体(V)とシラン化合物とを接触させる際、接触温度(反応温度)は、例えば-100℃~100℃の範囲、より好ましくは-78℃~50℃、より好ましくは-60℃~10℃であり、接触時間(反応時間)は、例えば10分~48時間、好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~17時間である。
【0412】
反応雰囲気は、特に限定されないが、水分の混入を抑制するため、不活性ガス雰囲気下又は空気雰囲気下であることが好ましい。
【0413】
反応系内は、大気圧下、加圧下、減圧下のいずれであってよいが、これらのうち、大気圧下で反応を実施することが好ましい。
【0414】
還元反応により、C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を得ることができる。還元反応によって得られる生成物は、β-C-アリールグリコシド誘導体(以下「β体」という場合がある。)と、α-C-アリールグリコシド誘導体(以下「α体」という場合がある。)との混合物であり得る。ルイス酸としてチタン化合物を使用する場合、β-C-アリールグリコシド誘導体を高選択的かつ高収率で製造することができるので、生成物におけるβ体の比率が高い。
【0415】
得られたC-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、反応系内から取り出すことが好ましい。C-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、例えば、反応液に水を加えた後、酢酸エチル、トルエン、tert-ブチルメチルエーテル、塩化メチレン等の難水溶性有機溶媒と接触させ、C-アリールグリコサイド誘導体(VII)を該難水溶性有機溶媒で抽出することにより、反応系内から取り出すことができる。
【0416】
得られたC-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、カラム分離、再結晶等の公知の方法を使用して、より高純度化することもできる。但し、シリカゲルカラム等のカラム精製によって、β体とα体とを分離することは困難である。したがって、β-C-アリールグリコシド誘導体を高選択的かつ高収率で製造することができる本発明の有用性は非常に高い。
【0417】
得られたC-アリールグリコサイド誘導体(VII)は、抗糖尿病薬として有用なSGLT2阻害剤又はその合成中間体として、好適に使用することができる。
【0418】
C-アリールグリコサイド誘導体(VII)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認することができる。
【実施例0419】
〔実施例1〕アセチル保護チオエステル体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物1(D-(+)-グルコノ-1,5-ラクトン)から化合物2を製造した。なお、「Ac」はアセチル基を表し、「Pr」はイソプロピル基を表す。以下同様である。
【0420】
【化65】
【0421】
化合物1(1.78g,10.0mmol,1.00当量)に、無水酢酸(10.0mL,106mmol,10.6当量)及びトリフルオロ酢酸(TFA)(1.00mL,13.1mmol,1.31当量)を加え、次いで、反応混合物を室温で3時間撹拌した。トルエン(10mL×3)を用いてすべての揮発性物質を留去した後、残渣に、1-ドデカンチオール(3.00mL,12.6mmol,1.26当量)及びテトラヒドロフラン(THF)(50.0mL)を加えた。得られた混合物に、PrMgClのTHF溶液(2M,6.30mL,12.6mmol,1.26当量)を0℃で5分かけて滴下した。1時間撹拌した後、無水酢酸(1.40mL,14.8mmol,1.48当量)を0℃で加え、反応混合物を室温でさらに1時間撹拌した。1N HCl水溶液(10mL)で反応をクエンチした後、酢酸エチル(50mL)を加え、有機層を1N HCl水溶液(50mL)、飽和NaHCO水溶液(50mL)及び食塩水(50mL)で洗浄した。硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥させ、溶媒を真空引きすることにより除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:1)により精製して、化合物2を無色油状物として収率91%(5.36g)で得た。
【0422】
化合物2のNMR分光分析結果は下記の通りであった。
H NMR(400MHz,CDCl,30℃) δ 5.67(dd,J=5.5,3.8Hz,1H),5.48(d,J=3.7Hz,1H),5.45(t,J=5.7Hz,1H),5.03(dt,J=5.7,4.6,Hz,1H),4.30(dd,J=12.2,4.5Hz,1H),4.13(dd,J=12.1,5.5Hz,1H),2.87(dt,J=7.4,3.8,1H),2.24(s,3H),2.10(s,3H),2.09(s,3H),2.05(s,3H),2.04(s,3H),1.57-1.50(m,2H),1.34-1.25(m,18H),0.88(t,J=6.8Hz,3H)
13C{H} NMR(100MHz,CDCl,30℃) δ 196.0,170.5,169.8,169.8,169.7,169.3,76.2,69.7,69.1,68.8,61.5,32.0,29.7,29.6,29.5,29.2,29.1,28.9,28.8,22.8,20.8,20.7,20.7,20.5,14.2
【0423】
化合物2のH NMRスペクトル(400MHz,CDCl,30℃)を図1に、化合物2の13C{H} NMRスペクトル(100MHz,CDCl,30℃)を図2に示す。
【0424】
〔実施例2〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。なお、「Mes」はメシチル基を表す。以下同様である。
【0425】
【化66】
【0426】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
切削片状マグネシウム(48.6mg,2.00mmol,2.00当量)に、THF(2.00mL)及び1,2-ジブロモエタン(0.05mL)を加えて活性化させた後、2-(5-ブロモ-2-メチルベンジル)-5-(4-フルオロフェニル)チオフェン(BMB)(361mg,1.00mmol,1.00当量)のTHF溶液(2.00mL)を加えた。80℃で3時間還流した後、得られた溶液をケトン化反応に用いた。
【0427】
0.25M MesMgBrのTHF溶液の調製
切削片状マグネシウム(48.6mg,2.00mmol,2.00当量)に、THF(2.00mL)及び1,2-ジブロモエタン(0.05mL)を加えて活性化させた後、2-ブロモメシチレン(200mg,1.00mmol,1.00当量)のTHF溶液(2.00mL)を加えた。80℃で3時間還流した後、得られた溶液をケトン化反応に用いた。
【0428】
ケトン化反応
CuCN(33.6mg,0.375mmol,1.50当量)のTHF溶液(1.25mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(1.50mL,0.375mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。反応混合物に、0.25M MesMgBrのTHF溶液(0.750mL,0.188mmol,0.750当量)を加え、反応混合物を室温でさらに10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(148mg,0.250mmol,1.00当量)のTHF溶液(1.5mL)を加え、次いで、反応混合物を80℃で20時間還流した。反応混合物に、飽和NaHCO水溶液(1mL)及び酢酸エチル(5mL)を加えて反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(10mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を黄色油状物として収率51%(85.3mg)で得た。
【0429】
化合物3のNMR分光分析結果は下記の通りであった。
H NMR(400MHz,CDCl,30℃) δ 7.81(d,J=1.7Hz,1H),7.73(dd,J=7.9,1.9Hz,1H),7.49-7.45(m,2H),7.28(d,J=8.0Hz,1H),7.04-7.00(m,3H),6.66(d,J=3.6Hz,1H),6.10(d,J=5.1Hz,1H),5.73(t,J=4.8Hz,1H),5.49(dd,J=6.8,4.3,Hz,1H),5.14-5.10(m,1H),4.31(dd,J=12.4,3.0Hz,1H),4.17(s,2H),4.08(dd,J=12.4,5.9Hz,1H),2.38(s,3H),2.13(s,3H),2.04(s,6H),2.03(s,3H),1.94(s,3H)
13C{H} NMR(100MHz,CDCl,30℃) δ 192.8,170.8,170.0,169.8,169.7,169.6,162.3(d,C-F=245.2Hz),143.6,142.4,142.0,139.1,133.3,131.1,130.9(d,C-F=3.6Hz),129.8,127.3(d,C-F=7.7Hz),127.2,126.4,122.9,115.9(d,C-F=21.9Hz),72.6,69.5,68.9,68.8,61.9,34.1,20.9,20.8,20.6,20.5,20.5,20.019F{H} NMR(376MHz,CDCl,30℃) δ -116.1HRMS(FAB)m/z C3435FO11S ([M]) 計算値670.1884 実測値670.1888
【0430】
化合物3のH NMRスペクトル(400MHz,CDCl,30℃)を図3に、化合物3の13C{H} NMRスペクトル(100MHz,CDCl,30℃)を図4に、化合物3の19F{H} NMRスペクトル(376MHz,CDCl,30℃)を図5に示す。
【0431】
〔実施例3〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。
【0432】
【化67】
【0433】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M ArMgBrのTHF溶液を調製した。
【0434】
ケトン化反応
CuCl(24.8mg,0.250mmol,1.00当量)のTHF溶液(2.00mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(1.50mL,0.375mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(148mg,0.250mmol,1.00当量)のTHF溶液(1.5mL)を加え、次いで、反応混合物を80℃で20時間還流した。反応混合物に、1M HCl水溶液(1mL)及び酢酸エチル(5mL)を加え、反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(10mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、1M HCl水溶液(5mL)、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を黄色油状物として収率23%(38.5mg)で得た。
【0435】
実施例3で得られた化合物3のNMR分光分析結果は、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0436】
〔実施例4〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。なお、「2,6-Xylyl」は、2,6-キシリル基を表す。以下同様である。
【0437】
【化68】
【0438】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M ArMgBrのTHF溶液を調製した。
【0439】
0.25M 2,6-XylylMgBrのTHF溶液の調製
切削片状マグネシウム(48.6mg,2.00mmol,2.00当量)に、THF(2.00mL)及び1,2-ジブロモエタン(0.05mL)を加えて活性化させた後、2,6-キシリルブロミド(185mg,1.00mmol,1.00当量)のTHF溶液(2.00mL)を加えた。80℃で3時間還流した後、得られた溶液をケトン化反応に使用した。
【0440】
ケトン化反応
CuCl(37.1mg,0.375mmol,1.50当量)のTHF溶液(1.25mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(1.50mL,0.375mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。反応混合物に、0.25M 2,6-XylylMgBrのTHF溶液(0.750mL,0.188mmol,0.750当量)を加え、反応混合物を室温でさらに10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(148mg,0.250mmol,1.00当量)のTHF溶液(1.5mL)を加え、次いで、反応混合物を40℃で20時間加熱した。反応混合物に、1M HCl水溶液(1mL)及び酢酸エチル(5mL)を加え、反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(10mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、1M HCl水溶液(5mL)、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を黄色ガム状物として収率17%(29.0mg)で得た。
【0441】
実施例4で得られた化合物3のNMR分光分析結果は、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0442】
〔実施例5〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。
【0443】
【化69】
【0444】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M ArMgBrのTHF溶液を調製した。
【0445】
0.25M MesMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M MesMgBrのTHF溶液を調製した。
【0446】
ケトン化反応
CuCl(37.1mg,0.375mmol,1.50当量)のTHF溶液(1.25mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(1.50mL,0.375mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。反応混合物に、0.25M MesMgBrのTHF溶液(0.750mL,0.188mmol,0.750当量)を加え、反応混合物を室温でさらに10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(148mg,0.250mmol,1.00当量)のTHF溶液(1.5mL)を加え、次いで、反応混合物を80℃で20時間還流した。反応混合物に、1M HCl水溶液(1mL)及び酢酸エチル(5mL)を加え、反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(10mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、1M HCl水溶液(5mL)、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を黄色油状物として収率39%(65.2mg)で得た。
【0447】
実施例5で得られた化合物3のNMR分光分析結果は、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0448】
〔実施例6〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。
【0449】
【化70】
【0450】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M ArMgBrのTHF溶液を調製した。
【0451】
0.25M MesMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M MesMgBrのTHF溶液を調製した。
【0452】
ケトン化反応
CuCl(37.1mg,0.375mmol,1.50当量)のTHF溶液(1.25mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(1.50mL,0.375mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。反応混合物に、0.25M MesMgBrのTHF溶液(0.750mL,0.188mmol,0.750当量)を加え、反応混合物を室温でさらに10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(148mg,0.250mmol,1.00当量)及びLiCl(53.0mg,1.25mmol,5.00当量)のTHF溶液(1.5mL)を加え、次いで、反応混合物を80℃で20時間還流した。反応混合物に、1M HCl水溶液(1mL)及び酢酸エチル(5mL)を加え、反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(10mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、1M HCl水溶液(5mL)、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を黄色油状物として収率45%(75.1mg)で得た。
【0453】
実施例6で得られた化合物3のNMR分光分析結果は、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0454】
〔実施例7〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。
【0455】
【化71】
【0456】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M ArMgBrのTHF溶液を調製した。
【0457】
0.25M MesMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M MesMgBrのTHF溶液を調製した。
【0458】
ケトン化反応
CuOAc(46.0mg,0.375mmol,1.50当量)のTHF溶液(1.25mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(1.50mL,0.375mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。反応混合物に、0.25M MesMgBrのTHF溶液(0.750mL,0.188mmol,0.750当量)を加え、反応混合物を室温でさらに10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(148mg,0.250mmol,1.00当量)のTHF溶液(1.5mL)を加え、次いで、反応混合物を80℃で20時間還流した。反応混合物に、1M HCl水溶液(1mL)及び酢酸エチル(5mL)を加え、反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(10mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、1M HCl水溶液(5mL)、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を淡黄色ガム状物として収率21%(35.1mg)で得た。
【0459】
実施例7で得られた化合物3のNMR分光分析結果は、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0460】
〔実施例8〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。
【0461】
【化72】
【0462】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M ArMgBrのTHF溶液を調製した。
【0463】
0.25M MesMgBrのTHF溶液の調製
実施例2と同様にして、0.25M MesMgBrのTHF溶液を調製した。
【0464】
ケトン化反応
CuTC(チオフェン-2-カルボン酸銅(I))(71.5mg,0.375mmol,1.50当量)のTHF溶液(1.25mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(1.50mL,0.375mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。反応混合物に、0.25M MesMgBrのTHF溶液(0.750mL,0.188mmol,0.750当量)を加え、反応混合物を室温でさらに10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(148mg,0.250mmol,1.00当量)のTHF溶液(1.5mL)を加え、次いで、反応混合物を80℃で20時間還流した。反応混合物に、1M HCl水溶液(1mL)及び酢酸エチル(5mL)を加え、反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(10mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、1M HCl水溶液(5mL)、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を黄色ガム状物として収率25%(41.8mg)で得た。
【0465】
実施例8で得られた化合物3のNMR分光分析結果は、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0466】
〔実施例9〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。
【0467】
【化73】
【0468】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
切削片状マグネシウム(122mg,5.00mmol,2.00当量)に、THF(2.00mL)及び1,2-ジブロモエタン(0.05mL)を加えて活性化させた後、2-(5-ブロモ-2-メチルベンジル)-5-(4-フルオロフェニル)チオフェン(BMB)(903mg,2.50mmol,1.00当量)のTHF溶液(8.00mL)を加えた。80℃で3時間還流させた後、得られた溶液をケトン化反応に使用した。
【0469】
0.25M MesMgBrのTHF溶液の調製
切削片状マグネシウム(60.8mg,2.50mmol,2.00当量)に、THF(2.00mL)及び1,2-ジブロモエタン(0.05mL)を加えて活性化させた後、2-ブロモメシチレン(249mg,1.25mmol,1.00当量)のTHF溶液(3.00mL)を加えた。80℃で3時間還流させた後、溶液をケトン化反応に使用した。
【0470】
ケトン化反応
CuCN(134mg,1.50mmol,1.50当量)のTHF溶液(5.00mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(6.00mL,1.50mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。反応混合物に、0.25M MesMgBrのTHF溶液(3.00mL,0.750mmol,0.750当量)を加え、反応混合物を室温でさらに10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(591mg,1.00mmol,1.00当量)のTHF溶液(6.0mL)を加え、次いで、反応混合物を40℃で40時間還流した。反応液に飽和NaHCO水溶液(5mL)及び酢酸エチル(20mL)を加えて反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(20mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、食塩水(5mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3をオレンジ色油状物として収率55%(369mg)で得た。
【0471】
実施例9で得られた化合物3のNMR分光分析結果は、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0472】
〔実施例10〕アセチル保護ケトン体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物2から化合物3を製造した。
【0473】
【化74】
【0474】
0.25M ArMgBrのTHF溶液の調製
実施例9と同様にして、0.25M ArMgBrのTHF溶液を調製した。
【0475】
ケトン化反応
CuCN(134mg,1.50mmol,1.50当量)のTHF溶液(8.00mL)に、0.25M ArMgBrのTHF溶液(6.00mL,1.50mmol,1.50当量)を加え、反応混合物を室温で10分間撹拌した。得られた有機銅試薬(cuprate agent)に、化合物2(591mg,1.00mmol,1.00当量)のTHF溶液(6.0mL)を加え、次いで、反応混合物を40℃で20時間還流した。反応混合物に、飽和NaHCO水溶液(5mL)及び酢酸エチル(20mL)を加えて反応をクエンチし、次いで、酢酸エチル(20mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、食塩水(20mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/3→1/1)により精製して、化合物3を淡黄色ガム状物として収率59%(399mg)で得た。
【0476】
実施例10で得られた化合物3のNMRスペクトルは、実施例2で得られたデータと一致していた。
【0477】
〔実施例11〕C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物3から化合物4を製造した。
【0478】
【化75】
【0479】
0.1M リン酸緩衝液(pH8.5)の調製
NaHPO(0.477mmol,57.2mg)及びNaHPO・7HO(9.52mmol,2.55g)を水(100mL)に溶解させた。
【0480】
化合物3の脱アセチル化
化合物3(115mg,0.171mmol)のアセトニトリル溶液(3.00mL)及び0.1M リン酸緩衝液(pH8.5)(12mL)の混合液に、ノボジーム435(≧5000U/g,3.00g)を加えた。反応混合物を室温で12時間撹拌した。反応混合物を、酢酸エチル(15mL×3)を用いて、セライトパッドを通じてろ過した。有機層を、飽和NaHCO水溶液(15mL)及び食塩水(15mL)で洗浄した。有機層を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた後、溶媒を真空引きすることにより除去した。残渣を分取薄層クロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/2)により精製して、化合物4を白色固体として収率38%(30.2mg)で得た。
【0481】
化合物4のNMR分光分析結果は下記の通りであった。
H NMR(400MHz,DMSO-d,30℃) δ 7.95-7.93(m,3H),7.63-7.47(m,4H),7.14(dd,J=15.3,10.1Hz,1H),6.93-6.86(m,1H),6.30-6.16(m,3H),5.76(d,J=15.4Hz,1H),4.37-4.12(m,1H),3.65-3.55(m,3H),2.23-2.12(m,3H)
19F{H}NMR(376MHz,DMSO-d,30℃)δ-117.3,-117.5
【0482】
化合物4の19F{H} NMRスペクトル(376MHz,DMSO-d,30℃)を図6A及び図6Bに示す。なお、図6Bは、図6Aにおける2本のピークの拡大図である。
【0483】
〔実施例12〕C-アリール-ヒドロキシグリコサイド誘導体の製造
下記式で示される反応を行い、化合物3から化合物5を製造した。
【0484】
【化76】
【0485】
化合物3(168mg,0.250mmol,1.0当量)のメタノール溶液(5.00mL)に、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(質量濃度28%、Aldrich,code No.:28-3391-5,0.05mL,0.250mmol,1.00当量)を加えて、0℃で5時間攪拌した。その後、1当量の塩酸(1mL)及び酢酸エチル(10mL)を加えて反応をクエンチし、有機層を食塩水(5mL)洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣にメタノール(5mL)及びメチルスルホン酸(24.0mg,0.250mmol,1.00当量)を加えて、40℃で18時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム(1mL)及び酢酸エチル(10mL)を加えて反応をクエンチし、有機層を食塩水(5mL)洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を真空引きすることにより除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n-ヘキサン=1/2→1/1)により精製して、化合物5を茶色ガム状物として収率17%(20.7mg)で得た。
【0486】
化合物5のNMR分光分析結果は下記の通りであった。
H NMR(400MHz,DMSO-d,30℃) δ 7.78-7.72(m,1H)7.62-7.55(m,2H),7.38-7.14(m,5H),6.89-657(m,1H),5.54(t,J=6.0Hz,1H),4.52(d,J=5.9Hz,1H),4.37-4.22(m,2H),4.19-4.09(m,2H),4.04-3.92(m,1H),3.88-3.74(m,1H),3.63-3.60(m,1H),3.31-3.19(m,4H), 2.91-2.89(m,1H),2.39-2.27(m,4H)
19F{H}NMR(376MHz,DMSO-d,30℃) δ -117.3,-117.4.
【0487】
化合物5のH NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d,30℃)を図7に、化合物5の19F{H} NMRスペクトル(376MHz,CDCl,30℃)を図8に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8