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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074945
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】抵抗変化型記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11C 13/00 20060101AFI20230523BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20230523BHJP
   H10B 63/00 20230101ALI20230523BHJP
   H10N 70/00 20230101ALI20230523BHJP
   H10N 99/00 20230101ALI20230523BHJP
【FI】
G11C13/00 360
C01B32/168
G11C13/00 240
G11C13/00 480B
H01L27/105 448
H01L45/00 Z
H01L49/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188160
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】小尻 尚志
(72)【発明者】
【氏名】寺本 章伸
【テーマコード(参考)】
4G146
5F083
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC02
4G146BA04
4G146BB23
4G146CA02
4G146CB09
4G146CB17
4G146DA07
5F083FZ10
5F083GA30
5F083JA36
5F083JA39
5F083JA40
5F083JA60
5F083PR03
5F083PR21
5F083PR22
5F083PR23
(57)【要約】
【課題】抵抗変化層において固定不良が発生した際に、固定不良が発生した抵抗変化層を修復して回復させることができる抵抗変化型記憶装置を提案する。
【解決手段】抵抗変化型記憶装置1は、上部電極105と下部電極102との間に第1の極性のパルス電圧を印加すると抵抗変化層104が低抵抗状態から高抵抗状態へ変化する一方、上部電極105と下部電極102との間に第2の極性のパルス電圧を印加すると高抵抗状態から低抵抗状態へ変化する抵抗変化型記憶装置1において、抵抗変化層104において固定不良が発生した際に、上部電極105と下部電極102との間に正常動作時と同じ極性かつ正常動作時よりも大きいパルス電圧を印加して固定不良が発生した抵抗変化層104を修復して回復させる固定不良回復処理を行う処理回路12を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを有する抵抗変化層が上部電極と下部電極とで挟まれてなるメモリセルを備える抵抗変化型記憶装置であって、前記上部電極と前記下部電極との間に第1の極性のパルス電圧を印加することによって前記抵抗変化層が低抵抗状態から高抵抗状態へ変化する一方、前記上部電極と前記下部電極との間に前記第1の極性とは逆の第2の極性のパルス電圧を印加することによって前記高抵抗状態から前記低抵抗状態へ変化する抵抗変化型記憶装置において、
前記抵抗変化層において固定不良が発生した際に、前記上部電極と前記下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ正常動作時よりも大きいパルス電圧を印加して前記固定不良が発生した前記抵抗変化層を修復して回復させる固定不良回復処理を行う処理回路を備えることを特徴とする抵抗変化型記憶装置。
【請求項2】
前記処理回路は、前記上部電極と前記下部電極との間に前記第1の極性のパルス電圧または前記第2の極性のパルス電圧を印加する毎に前記上部電極と前記下部電極との間の抵抗値を測定し、測定された前記抵抗値が所定の範囲内にない場合には、前記上部電極と前記下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ同じ大きさのパルス電圧を印加するベリファイ処理を、該ベリファイ処理後の前記抵抗値が前記所定の範囲に入るまで繰り返し行い、前記ベリファイ処理を所定の回数行った後にも前記抵抗値が前記所定の範囲内に入らなかった場合には、前記固定不良が発生したと判断する、請求項1に記載の抵抗変化型記憶装置。
【請求項3】
前記処理回路は、前記抵抗変化型記憶装置を製造後最初に使用する際に、前記上部電極と前記下部電極との間に、両電極間の抵抗値が4.0×10-10Ω・m以上となるように前記第1の極性のパルス電圧を印加してフォーミング処理を施して、前記抵抗変化層を前記高抵抗状態と前記低抵抗状態とに可逆的に変化することが可能な状態にする、請求項1または2に記載の抵抗変化型記憶装置。
【請求項4】
前記処理回路は、前記固定不良回復処理において、前記フォーミング処理の際に印加するパルス電圧の大きさ以下のパルス電圧を印加する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抵抗変化型記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗変化型記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラッシュメモリに代わる不揮発性記憶装置として、メモリセルの電気抵抗値を高抵抗状態と低抵抗状態とに変化させてデータを記憶する抵抗変化型記憶装置(ReRAM)が注目されている。抵抗変化型記憶装置は、消費電力が低く、高密度化が可能であり、さらに読み出しが高速である等の利点を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、抵抗変化層が金属酸化物で構成された抵抗変化型不揮発性記憶装置が記載されている。また、特許文献2には、抵抗変化層がMn、Fe、Ni、Co、Ti、Cu、Vなどの変化金属を含む酸化物または酸窒化物で構成された可変抵抗素子について記載されている。
【0004】
さらに近年、力学的強度、光学特性、電気特性、熱特性、分子吸着能等の各種特性に優れ、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料等の機能性材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも称する。)が使用されるようになってきている。そして、特許文献3には、抵抗変化層をカーボンナノチューブで構成することが記載されている。
【0005】
ところで、抵抗変化型記憶装置においては、製造上のばらつき、抵抗変化層に印加する電圧のばらつき、ノイズなどの影響により、一過性のソフトエラーであるランダムエラーが一定の確率で発生する。ランダムエラーに対処する技術としては、パリティチェックによりデータに発生した符号誤りを検出して訂正するECC(Error Correction Code)を用いた技術が挙げられる。
【0006】
また、抵抗変化型記憶装置においては、経年劣化、摩耗故障、確率的故障などにより、抵抗変化層が高抵抗状態から低抵抗状態、あるいは低抵抗状態から高抵抗状態に変化できない固定不良が発生する場合がある。固定不良は、ランダムエラーとは異なり、書き換え/消去を行う度に発生するハードエラーである。固定不良に対処する技術としては、固定不良が発生した記憶装置を代替の記憶装置で置き換えることによってエラーを訂正するECP(Error Correction Pointer)を用いた技術が挙げられる。
【0007】
例えば、特許文献4には、発生したエラーの種別あるいは特性に応じてECCとECPとを使い分け、エラーの訂正を効率的に行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4705998号明細書
【特許文献2】特開2007-188603号公報
【特許文献3】特開2012-22742号公報
【特許文献4】国際公開第2021/029143号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4に記載された技術は、固定不良が発生した記憶装置自体を回復させるものではない。そのため、固定不良が発生した記憶装置はもはや利用できない問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、抵抗変化層において固定不良が発生した際に、固定不良が発生した抵抗変化層を修復して回復させることができる抵抗変化型記憶装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]カーボンナノチューブを有する抵抗変化層が上部電極と下部電極とで挟まれてなるメモリセルを備える抵抗変化型記憶装置であって、前記上部電極と前記下部電極との間に第1の極性のパルス電圧を印加することによって前記抵抗変化層が低抵抗状態から高抵抗状態へ変化する一方、前記上部電極と前記下部電極との間に前記第1の極性とは逆の第2の極性のパルス電圧を印加することによって前記高抵抗状態から前記低抵抗状態へ変化する抵抗変化型記憶装置において、
前記抵抗変化層において固定不良が発生した際に、前記上部電極と前記下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ正常動作時よりも大きいパルス電圧を印加して前記固定不良が発生した前記抵抗変化層を修復して回復させる固定不良回復処理を行う処理回路を備えることを特徴とする抵抗変化型記憶装置。
【0012】
[2]前記処理回路は、前記上部電極と前記下部電極との間に前記第1の極性のパルス電圧または前記第2の極性のパルス電圧を印加する毎に前記上部電極と前記下部電極との間の抵抗値を測定し、測定された前記抵抗値が所定の範囲内にない場合には、前記上部電極と前記下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ同じ大きさのパルス電圧を印加するベリファイ処理を、該ベリファイ処理後の前記抵抗値が前記所定の範囲に入るまで繰り返し行い、前記ベリファイ処理を所定の回数行った後にも前記抵抗値が前記所定の範囲内に入らなかった場合には、前記固定不良が発生したと判断する、前記[1]に記載の抵抗変化型記憶装置。
【0013】
[3]前記処理回路は、前記抵抗変化型記憶装置を製造後最初に使用する際に、前記上部電極と前記下部電極との間に、両電極間の抵抗値が4.0×10-10Ω・m以上となるように前記第1の極性のパルス電圧を印加してフォーミング処理を施して、前記抵抗変化層を前記高抵抗状態と前記低抵抗状態とに可逆的に変化することが可能な状態にする前記[1]または[2]に記載の抵抗変化型記憶装置。
【0014】
[4]前記処理回路は、前記固定不良回復処理において、前記フォーミング処理の際に印加するパルス電圧の大きさ以下のパルス電圧を印加する、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の抵抗変化型記憶装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抵抗変化層において固定不良が発生した際に、固定不良が発生した抵抗変化層を修復して回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】抵抗変化層がカーボンナノチューブを有する抵抗変化型記憶装置の電流-電圧特性の模式図である。
図2】本発明による抵抗変化型記憶装置の一例を示す模式図であり(a)は全体図、(b)はメモリセルの一例を示す図である。
図3】カーボンナノチューブのt-プロットの一例を示す図である。
図4A】従来例の抵抗変化型記憶装置の一例に対するメモリセルの書き込み/消去サイクルと上部電極と下部電極との間を流れる電流との関係を示す図である。
図4B】実施例1の抵抗変化型記憶装置に対するメモリセルの書き込み/消去サイクルと上部電極と下部電極との間を流れる電流との関係を示す図である。
図4C】実施例2の抵抗変化型記憶装置に対するメモリセルの書き込み/消去サイクルと上部電極と下部電極との間を流れる電流との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明による実施形態について説明する。本発明による抵抗変化型記憶装置は、カーボンナノチューブを有する抵抗変化層が上部電極と下部電極とで挟まれてなるメモリセルを備える抵抗変化型記憶装置であって、上部電極と下部電極との間に第1の極性のパルス電圧を印加することによって抵抗変化層が低抵抗状態から高抵抗状態へ変化する一方、上部電極と下部電極との間に第1の極性とは逆の第2の極性のパルス電圧を印加することによって高抵抗状態から低抵抗状態へ変化する抵抗変化型記憶装置である。ここで、抵抗変化層において固定不良が発生した際に、上部電極と下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ正常動作時よりも大きいパルス電圧を印加して上記固定不良が発生した抵抗変化層を修復して回復させる固定不良回復処理を行う処理回路を備えることを特徴とする。
【0018】
図1は、抵抗変化層がカーボンナノチューブを有する抵抗変化型記憶装置(以下、単に「記憶装置」とも称する。)の電流-電圧特性の模式図を示している。図1に示したような電流-電圧特性を有する記憶装置において、抵抗変化層が低抵抗状態Sにある場合に、抵抗変化層を挟み込む上部電極と下部電極との間に第1の極性(図1においては負の電圧)のパルス電圧を印加すると、電圧VLHにおいて、抵抗変化層は低抵抗状態Sから高抵抗状態Sに変化する。
【0019】
一方、抵抗変化層が高抵抗状態Sにある場合に、第2の極性(図1においては正の電圧)のパルス電圧を印加すると、電圧VHLにおいて、抵抗変化層は高抵抗状態Sから低抵抗状態Sに変化する。なお、抵抗変化層がカーボンナノチューブを有する場合、図1に示すように、高抵抗状態Sから低抵抗状態Sに変化する電圧VHLの絶対値は、低抵抗状態Sから高抵抗状態Sに変化する電圧VLHの絶対値よりも小さい。また、図1に示されたIcは、メモリセルに流れる電流値の上限として設定された電流コンプライアンス値である。
【0020】
上述のように、抵抗変化型記憶装置においては、抵抗変化層が高抵抗状態Sから低抵抗状態Sに、あるいは低抵抗状態Sから高抵抗状態Sに変化できない固定不良が発生する場合があり、従来、固定不良は、再度のアクセスや再起動を行っても復旧しない恒久的な故障と考えられてきた(例えば、特許文献4の段落[0004]参照)。そのため、固定不良が発生した場合には、特許文献4に記載された技術のように、例えばECPを用いて固定不良の発生した記憶装置を代替の記憶装置で置き換えることによってエラー訂正を行っていた。
【0021】
一般に、抵抗変化型記憶装置においては、上部電極と下部電極との間にパルス電圧を印加する毎に上部電極と下部電極との間、すなわち抵抗変化層の抵抗値を測定し、測定された抵抗値が所定の範囲内にない場合には、上部電極と下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ同じ大きさのパルス電圧を印加するベリファイ処理が行われている。
【0022】
上記ベリファイ処理は、抵抗変化層の抵抗値が上記所定の範囲に入るまで繰り返し行っており、所定の回数(例えば、20回)行っても抵抗値が上記所定の範囲内に入らなかった場合、抵抗変化層に固定不良が発生したと判断している。
【0023】
本発明者らは、固定不良が発生した抵抗変化層は、正常動作時のパルス電圧が繰り返し印加されても修復されなかったものであることを受けて、抵抗変化層に正常動作時よりも大きなパルス電圧を印加して、抵抗変化層において劣化した抵抗変化パス以外に新たな抵抗変化パスを形成することに想到した。そして、後述する実施例に示すように、上記固定不良の抵抗変化層に正常動作時よりも大きなパルス電圧を印加することにより、抵抗変化層が修復して回復できることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0024】
以上の説明から明らかなように、本発明による記憶装置は、抵抗変化層において固定不良が発生した際に、当該固定不良が発生した抵抗変化層を回復させる処理回路を備えることを特徴としており、その他の構成要件は特に限定されない。以下、本発明による記憶装置を具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されない。
【0025】
図2は、本発明による抵抗変化型記憶装置の模式図の一例を示しており、(a)は全体図、(b)はメモリセルをそれぞれ示している。図2(a)に示した記憶装置1は、複数のメモリセル(図示せず)で構成されたメモリセルアレイ11と、処理回路12とを備える。メモリセルは、カーボンナノチューブを有する抵抗変化層が上部電極と下部電極とで挟まれてなる。
【0026】
処理回路12は、抵抗変化層において固定不良が発生した際に、メモリセルにおいて抵抗変化層を挟む上部電極と下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ正常動作時よりも大きいパルス電圧を印加して上記固定不良が発生した抵抗変化層を修復して回復させる固定不良回復処理を行う。
【0027】
具体的には、本発明による抵抗変化型記憶装置は、上部電極と下部電極との間に第1の極性のパルス電圧を印加することによって抵抗変化層が低抵抗状態から高抵抗状態へ変化し、第1の極性とは逆の第2の極性のパルス電圧を印加することによって高抵抗状態から低抵抗状態へ変化する。このような記憶装置について、低抵抗状態から高抵抗状態へ変化しない固定不良が発生した際には、第1の極性かつ正常動作時よりも大きなパルス電圧を上部電極と下部電極との間に印加する。一方、高抵抗状態から低抵抗状態へ変化しない固定不良が発生した際には、第2の極性かつ正常動作時よりも大きなパルス電圧を上部電極と下部電極との間に印加する。
【0028】
なお、本発明者らの検討によれば、高抵抗状態から低抵抗状態へ変化しない固定不良の場合、上記第2の極性かつ正常動作時よりも大きなパルス電圧を上部電極と下部電極との間に印加しても抵抗変化層を修復できない場合があることが分かった。その場合には、逆の極性、すなわち第1の極性かつ正常動作時よりも大きなパルス電圧を印加し、メモリセルを初期状態の高抵抗状態に一旦リセットすることによって、抵抗変化層を修復できる。このように、固定不良が発生した抵抗変化層を修復して回復させることができる。
【0029】
上述のように、上部電極と下部電極との間に印加するパルス電圧の大きさは、正常動作時よりも大きくするが、抵抗変化層の内部に新たな抵抗変化パスが形成される確率が高くなることから、より大きい方が好ましい。一方、パルス電圧が大きすぎる場合にはメモリセルが破壊される確率が高まること、および記憶装置に搭載されている回路の出力には上限があることから、パルス電圧の大きさは、後述するフォーミング処理において印加するパルス電圧の大きさ以下とすることが好ましい。
【0030】
処理回路12は、メモリセルの上部電極と下部電極との間に第1の極性のパルス電圧または第2の極性のパルス電圧を印加する毎に上部電極と下部電極との間(すなわち、抵抗変化層)の抵抗値を測定し、測定された抵抗値が所定の範囲内にない場合には、上部電極と下部電極との間に正常動作時と同じ極性かつ同じ大きさのパルス電圧を印加するベリファイ処理を、該ベリファイ処理後の上記抵抗値が所定の範囲に入るまで繰り返し行うことが好ましい。例えば、ベリファイ処理を所定の回数行った後にも抵抗値が上記所定の範囲内に入らなかった場合には、当該抵抗変化層に固定不良が発生したと判断することができる。ベリファイ処理を行う回数は、特に限定されないが、1回以上10回以下とすることが好ましく、1回以上5回以下とすることがより好ましい。
【0031】
なお、処理回路12は、抵抗変化型記憶装置1を製造後最初に使用する際に、上部電極と下部電極との間に、両電極間の抵抗値が4.0×10-10Ω・m以上となるように第1の極性のパルス電圧を印加してフォーミング処理を施すことが好ましい。これにより、抵抗変化層を高抵抗状態と低抵抗状態とに可逆的に変化させることができる。
【0032】
図2(b)はメモリセルの一例を示している。図2(b)に示したメモリセル10は、基板としてシリコン基板100を備える。シリコン基板100の直径、面方位、導電型などは、設計に応じて適宜設定することができる。例えば、シリコン基板100の直径は、150mm、200mm、300mm、450mmなどとすることができる。また、シリコン基板100の面方位は、(001)、(110)、(111)などとすることができる。さらに、シリコン基板100の導電型は、適切なドーパントを用いてn型またはp型とすることができ、p型ドーパントとしてはホウ素(B)など、n型ドーパントとしてはリン(P)などを用いることができる。また、シリコン以外の半導体基板を用いても構わない。
【0033】
シリコン基板100上には、絶縁膜101が形成されている。絶縁膜101は、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(Si)などで構成された絶縁膜101が形成されている。絶縁膜101は、CVD法、スパッタリング法などにより形成することができる。
【0034】
絶縁膜101上には、下部電極102が形成されている。下部電極102は、窒化チタン(TiN)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)などで構成することができる。下部電極102は、CVD法、スパッタリング法などにより形成することができる。下部電極102は、電子ビーム(EB)リソグラフィー法、ドライエッチング法などによりピラー状にパターニングされている。
【0035】
ピラー状にパターニングした下部電極102上には、絶縁膜103が形成されている。絶縁膜103は、酸化シリコン(SiO)や窒化シリコン(Si)などで構成することができる。絶縁膜103は、ピラー状の下部電極102の表面が露出するように形成されている。このような絶縁膜103は、CVD法、ALD法、スパッタリング法などにより絶縁膜103を堆積した後、化学機械研磨(CMP)法などを用いて、堆積した絶縁膜103の表面を研磨することにより形成することができる。
【0036】
ピラー状の下部電極102が露出した表面には、抵抗変化層104が形成されている。本発明においては、抵抗変化層104はカーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも言う。)を有するように構成されている。下部電極102と、後述する上部電極105との間に、第1の極性のパルス電圧を印加すると、抵抗変化層104を構成するCNT間の距離が変化し、抵抗変化層104が低抵抗状態Sから高抵抗状態Sに変化する。一方、下部電極102と上部電極105との間に、第1の極性とは逆の第2の極性のパルス電圧を印加すると、抵抗変化層104が高抵抗状態Sから低抵抗状態Sに変化する。
【0037】
上記CNTを有する抵抗変化層104は、例えばCNTの分散液(以下、「CNT分散液」とも言う。)をピラー状の下部電極102が露出した表面に塗布することにより形成することができる。CNTの詳細、CNT分散液の調製方法および抵抗変化層104の形成方法については、後に詳述する。
【0038】
抵抗変化層104の厚みは、特に限定されないが、一層構造の場合には、例えば10nm~30nmとすることができる。抵抗変化層104の厚みを10nm以上とすることにより、抵抗変化層104の膜厚均一性を確保して記憶装置1がショートするのを防止することができる。一方、抵抗変化層104の厚みを30nm以下とすることによってスイッチング電圧VLH、VLHが過大になるのを防止することができる。
【0039】
抵抗変化層104上には上部電極105が形成されている。この上部電極105は、窒化チタン(TiN)や、タングステン(W)、アルミニウム(Al)などで構成することができ、CVD法やスパッタリング法などにより形成することができる。
【0040】
上記抵抗変化層104および上部電極105は、フォトリソグラフィー法およびドライエッチング法により連続的にパターニングして、素子分離されている。その際、上部電極105のパターニングを、上部電極105と下部電極102との間に上部電極105のチャージアップによる電位差が生じないエッチング方法により上部電極105をエッチングすることにより行うことが好ましい。これは、例えばマイクロ波励起表面波プラズマエッチング法により行うことができる。これにより、カーボンナノチューブで構成された抵抗変化層104の破壊を抑制して、記憶装置の製造の歩留まりを向上させることができる。
【0041】
素子分離された抵抗変化層104および上部電極105上には、これらを覆うように、保護膜106が形成されている。保護膜106は、酸化シリコン(SiO)や窒化シリコン(Si)などで構成することができ、CVD法やスパッタリング法などにより形成することができる。
【0042】
そして、保護膜106には、抵抗変化層104および上部電極105の上方にて保護膜106を貫通して上部電極105を露出する貫通孔h1が設けられている、また、抵抗変化層104および上部電極105が存在しない部分において、保護膜106および絶縁膜103を貫通して下部電極102を露出する貫通孔h2が設けられている。
【0043】
<カーボンナノチューブ>
ここで、抵抗変化層104に含まれるCNTについて説明する。CNTとしては、特に限定されることなく、単層CNTおよび/または多層CNTを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのCNTであることが好ましく、単層CNTであることがより好ましい。単層CNTを使用すれば、多層CNTを使用した場合と比較し、CNTの分散性に優れる分散液を得ることができる。
【0044】
また、CNTとしては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満のCNTを用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超のCNTを用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超のCNTを用いることがさらに好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを使用することにより、CNTの分散性に一層優れる分散液を得ることができる。
【0045】
なお、「CNTの平均直径(Av)」および「CNTの直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTの平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0046】
そして、CNTとしては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0047】
さらに、CNTは、ラマン分光法を用いて評価した際に、RadialBreathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層CNTのみからなるCNTのラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0048】
また、CNTは、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、CNTの分散性に一層優れる分散液を得ることができる。
【0049】
さらに、CNTの平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがさらに好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。CNTの平均直径(Av)が0.5nm以上15nm以下であれば、CNTの分散性に一層優れる分散液を得ることができる。
【0050】
また、CNTは、合成時におけるCNTの平均長さが100μm以上であることが好ましい。なお、合成時のCNTの長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断等の損傷が発生し易いので、合成時のCNTの平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
【0051】
そして、CNTのアスペクト比(長さ/直径)は、10を超えることが好ましい。なお、CNTのアスペクト比は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて無作為に選択しCNT100本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0052】
さらに、CNTのBET比表面積は、400m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。CNTのBET比表面積が400m/g以上であれば、得られる分散液を用いて形成した抵抗変化層104の強度および自立性をさらに高めることができる。また、CNTのBET比表面積が2500m/g以下であれば、得られる分散液中のCNTの分散性を一層高めることができる。
【0053】
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0054】
ここで、上述したCNTは、後述のスーパーグロース法によれば、CNT成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、CNTの質量密度は、0.002g/cm以上0.2g/cm以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm以下であれば、液中でのCNT同士の結びつきが弱くなるため、CNT分散液中でCNTを均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm以上であれば、CNTの一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため、取り扱いが容易になる。
【0055】
さらに、CNTは、複数の微小孔を有することが好ましい。CNTは、中でも、孔径が2nmよりも小さいマイクロ孔を有するのが好ましく、その存在量は、下記の方法で求めたマイクロ孔容積で、好ましくは0.40mL/g以上、より好ましくは0.43mL/g以上、更に好ましくは0.45mL/g以上であり、上限としては、通常、0.65mL/g程度である。CNTが上記のようなマイクロ孔を有することで、液中でのCNTの凝集が抑制され、得られる分散液中のCNTの分散性を一層高めることができる。なお、マイクロ孔容積は、例えば、CNTの調製方法および調製条件を適宜変更することによって調整することができる。
【0056】
ここで、「マイクロ孔容積(Vp)」は、CNTの液体窒素温度(77K)での窒素吸脱着等温線を測定し、相対圧P/P0=0.19における窒素吸着量をVとして、式(I):Vp=(V/22414)×(M/ρ)より、算出することができる。なお、Pは吸着平衡時の測定圧力、P0は測定時の液体窒素の飽和蒸気圧であり、式(I)中、Mは吸着質(窒素)の分子量28.010、ρは吸着質(窒素)の77Kにおける密度0.808g/cmである。マイクロ孔容積は、例えば、「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を使用して求めることができる。
【0057】
上記CNTは、例えば、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることによって、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造することができる。
【0058】
なお、CNTは、CNTの開口処理が施されておらず、t-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。ここで、一般に、吸着とは、ガス分子が気相から固体表面に取り去られる現象であり、その原因から、物理吸着と化学吸着に分類される。そして、t-プロットの取得に用いられる窒素ガス吸着法では、物理吸着を利用する。なお、通常、吸着温度が一定であれば、CNTに吸着する窒素ガス分子の数は、圧力が大きいほど多くなる。また、横軸に相対圧(吸着平衡状態の圧力Pと飽和蒸気圧P0の比)、縦軸に窒素ガス吸着量をプロットしたものを「等温線」といい、圧力を増加させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「吸着等温線」、圧力を減少させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「脱着等温線」という。
【0059】
そして、t-プロットは、窒素ガス吸着法により測定された吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得られる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、CNTのt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0060】
ここで、表面に細孔を有する試料の典型的なt-プロットを図3に示す。表面に細孔を有する試料では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、図3に示すようにt-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0061】
そして、本発明で用いるCNTのt-プロットは、図3に示すように、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となり、上に凸な形状を示す。このようなt-プロットの形状は、CNTの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、CNTに多数の開口が形成されていることを示しており、その結果として、CNTは、凝集しにくくなる。
【0062】
なお、CNTのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0を満たす範囲にあることがさらに好ましい。t-プロットの屈曲点の位置が上記範囲であるとCNTがさらに凝集しにくくなり、CNTの分散性に一層優れる分散液が得られる。ここで、「屈曲点の位置」とは、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0063】
さらに、CNTは、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。S2/S1が0.05以上0.30以下であれば、CNTがさらに凝集しにくくなり、CNTの分散性に一層優れる分散液が得ることができる。
【0064】
また、CNTの全比表面積S1および内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、600m/g以上1400m/g以下であることが好ましく、800m/g以上1200m/g以下であることが更に好ましい。一方、S2は、30m/g以上540m/g以下であることが好ましい。
【0065】
ここで、CNTの全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、図3に示すt-プロットにより説明すると、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0066】
因みに、CNTの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0067】
((CNT分散液の調製方法))
次に、抵抗変化層104の形成に用いるCNT分散液の調製方法について説明する。抵抗変化層104の形成に用いるCNT分散液は、上述したCNTと、溶媒とを含み、任意に、分散剤などの添加剤をさらに含むことができる。
【0068】
<溶媒>
上記溶媒としては、例えば、非ハロゲン系溶媒、非水溶媒等が挙げられる。具体的には、上記溶媒としては、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコール、メトキシプロパノール、プロピレングリコール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、α-ヒドロキシカルボン酸のエステル、ベンジルベンゾエート(安息香酸ベンジル)等のエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、モノメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系極性有機溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼン、等の芳香族炭化水素類;サリチルアルデヒド、ジメチルスルホキシド、4-メチル-2-ペンタノン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。中でも、分散性に特に優れる観点から、水、乳酸エチル、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンが好ましい。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0069】
本実施形態のCNT分散液中のCNTの濃度は、上記溶媒1Lに対して、上記CNTが1mg以上含まれることが好ましく、100mg以上含まれることがより好ましい。また、10,000mg以下であることが好ましい。溶媒1Lに対してCNTが1mg以上含まれれば、導電性や強度に優れる抵抗変化層104を形成することができる。また、溶媒1Lに対して含まれるCNTが10,000mg以下であれば、CNTの凝集を抑制して、CNTの分散性に一層優れる分散液を得ることができる。
【0070】
CNT分散液中のCNTの濃度は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。CNTの濃度が0.005質量%以上であれば、導電性や強度に優れる抵抗変化層104を形成することができる。また、CNTの濃度が5質量%以下であれば、CNTの凝集を抑制して、CNTの分散性に一層優れる分散液を得ることができる。
【0071】
CNT分散液は、分散剤を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「実質的に含まない」とは、不可避的に混入する場合を除いて能動的に配合はしないことをいい、具体的には、CNT分散液中の含有量が、0.05質量%未満であることが好ましく、0.01質量%未満であることがより好ましく、0.001質量%未満であることがさらに好ましい。
【0072】
なお、上記分散剤としては、界面活性剤、合成高分子、天然高分子等が挙げられる。
【0073】
また、界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0074】
また、合成高分子としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0075】
また、天然高分子としては、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、並びに、その塩または誘導体等が挙げられる。
【0076】
CNT分散液は、CNTの分散性が一層向上し、これにより均一な抵抗変化層を形成できて、特性の安定した電子部品を作成できる観点から、個数基準のモード径が500nmより大きい粒子が実質的に含まれないことが好ましい。特に、個数基準モード径が300nmより大きい粒子が実質的に含まれないことが好ましい。
【0077】
本明細書において、個数基準モード径とは、以下の方法で求めることができる。
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA-960」等)を用いて、CNT分散液中に含まれるCNTの粒子径を測定する。そして、横軸を粒子径、縦軸をCNTの個数とした粒子径分布曲線を得て、その極大値における粒子径を、CNTの個数基準のモード径として求める。
【0078】
なお、CNT分散液中に含有されているCNTのモード径は、CNTやCNT分散液の製造条件を調節することによって、任意に変更することができる。
【0079】
CNT分散液は、CNT分散液中の不純物が少なくなり、また、特性の安定した長寿命の電子部品を作製できる観点から、CNT分散液中の金属不純物の濃度が、1×1018原子/cm未満であることが好ましく、15×1010原子/cm未満であることがより好ましい。
【0080】
CNT分散液は、CNT分散液中の不純物が少なくなり、また、特性の安定した長寿命の電子部品を作製できる観点から、CNT分散液中の重金属不純物の濃度が、1×1018原子/cm未満であることが好ましく、1×1011原子/cm未満であることがより好ましい。本明細書において、重金属とは、比重5g/mL以上の金属をいう。
【0081】
CNT分散液は、CNT分散液中の不純物が少なくなり、また、特性の安定した長寿命の電子部品を作製できる観点から、CNT分散液中の第1属元素および第2族元素の不純物の濃度が、1×1018原子/cm未満であることが好ましく、1×1011原子/cm未満であることがより好ましい。
【0082】
CNT分散液は、CNT分散液中の不純物が少なくなり、また、特性の安定した長寿命の電子部品を作製できる観点から、CNT分散液中の変化金属元素の不純物の濃度が、1×1018原子/cm未満であることが好ましく、1×1011原子/cm未満であることがより好ましい。
【0083】
CNT分散液は、CNTの分散性が一層向上する観点から、CNTの沈殿物および凝集物が実質的に含まれないことが好ましい。なお、本明細書において、沈殿物、凝集物とは、10,000Gで20分間遠心して沈殿するCNTをいう。
【0084】
CNT分散液は、CNTの分散性が一層向上し、また、均一な抵抗変化層104を形成し特性の安定した電子部品を作製できる観点から、粒径が300nm超の粒子状不純物が実質的に含まれないことが好ましく、粒径が100nm超の粒子状不純物が実質的に含まれないことがより好ましく、粒径が45nm超の粒子状不純物が実質的に含まれないことがさらに好ましい。
【0085】
なお、本明細書において、粒子状不純物の粒径および濃度は、基板上にCNT分散液を塗布し、表面を、パターンなしウェーハ表面検査装置(例えば、商品名「surfscan」KLATencor Corporation製)等を用いて測定することができる。
【0086】
<物性>
CNT分散液の粘度は、0.5mPa・s以上であることが好ましく、1mPa・s以上であることがより好ましく、1000mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以下であることがより好ましい。CNT分散液の粘度が0.5mPa・s以上1000mPa・s以下であれば、CNTの分散性に優れる。なお、本発明において、「CNT分散液の粘度」は、JISZ8803に準拠して、温度25℃で測定することができる。
【0087】
CNT分散液の、分光光度計を用いて測定した吸光度は、分散性の観点から、光路長:1mm、波長:1000nmにおいて、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。CNT分散液の吸光度が0.1以上であれば、CNT分散液中のCNTの量を十分に確保することができる。また、CNT分散液の吸光度が5.0以下であれば、CNT分散液中に含まれている分散性の高いCNTの割合を高め、また、導電性および強度に優れる抵抗変化層104を形成することができる。
【0088】
CNT分散液の吸光度比は、凝集物が少なく高純度となり、また、CNTの分散性に優れる観点から、0.5以上であることが好ましく、0.7~1.0であることがより好ましい。
【0089】
なお、本発明において「吸光度比」は、以下の方法によって求めることができる。まず、後述する精製処理を施す前と施した後のCNTそれぞれを、乳酸エチルに添加して分散液を調製する。次いで、各分散液について、分光光度計(日本分光社製、商品名「V670」)等を用いて、光路長10mm、波長550nmでの吸光度を測定する。精製処理を施す前と施した後のサンプルの吸光度を、それぞれ「未精製分散液の吸光度」および「精製後分散液の吸光度」としたとき、吸光度比は、(精製後分散液の吸光度)/(未精製分散液の吸光度)として求められる。
【0090】
抵抗変化層104を形成するためのCNT分散液の調製方法としては、複数本のCNTと、溶媒とを含む分散液を遠心分離し、複数本のCNTの一部を沈殿させる工程(遠心分離工程)と、遠心分離工程で遠心分離した分散液から上澄み液を分取する工程(分取工程)とを含む方法などが挙げられる。
【0091】
CNT分散液の調製方法としては、例えば、多量のCNTを溶媒中に添加して粗分散液を形成し、粗分散液を超音波等により撹拌して分散させて分散液を得てもよい。また、超音波処理した撹拌後の分散液を遠心分離して、CNTを含む上澄み液を回収してもよい。また、遠心分離後の沈殿物に、再度溶媒を添加して混合し、超音波処理で分散させた後に、遠心分離をして、CNTを含む上澄み液を回収してもよい。また、遠心分離後の沈殿物に溶媒を添加して混合し、超音波処理で分散させた後に、遠心分離をして上澄み液を回収する処理を、複数回繰り返してもよい。
【0092】
上記調製方法において、遠心分離工程前の分散液や粗分散液には、任意により分散剤を添加することができる。しかし、安定した特性を有する抵抗変化層104を製造する観点から、分散剤を添加しないことが好ましい。
【0093】
上記CNT分散液の製造方法によれば、凝集したCNTや不純物が少ない、CNTの分散性に優れるCNT分散液が得られる。
【0094】
<分散液調製工程>
上記分散液調製工程では、溶媒中に複数本のCNTを添加してなる粗分散液を分散処理に供して、複数本のCNTと溶媒とを含む分散液を得ることができる。なお、上記分散液は、分散液調製工程を実施することなく、複数本のCNTを溶媒に分散させてなる市販のCNTの分散液を用いて後述する遠心分離工程を実施してもよいが、所望の分散性を有するCNT分散液を容易に得る観点からは、分散液調製工程を実施して調製した分散液を用いることが好ましい。
【0095】
溶媒に添加するCNTは、添加する前に、金属や非晶性炭素等の粒子状不純物を分離し、アルカリ金属イオン、ハロゲンイオン、オリゴマー、ポリマーを減らすために、前処理を行ってもよい。
【0096】
金属を分離する精製処理としては、例えば、硝酸、塩酸等の酸溶液中にCNTを分散させて金属不純物を溶解させる精製処理、磁力精製処理等が挙げられる。中でも、酸溶液中にCNTを分散させて金属不純物を溶解させる精製処理が好ましい。
【0097】
また、粒子状不純物を分離する前処理としては、例えば、超高速遠心機等を用いた高速遠心処理;重力ろ過、クロスフローろ過、真空ろ過等を用いたフィルターろ過処理;非フラーレン炭素材料の選択的酸化;これらの組み合わせ;などの精製処理が挙げられる。
【0098】
[粗分散液]
上記粗分散液は、特に限定されることなく、上述したCNTと、上述した溶媒とを既知の方法で混合することにより得ることができる。
【0099】
また、粗分散液には、上述した成分以外に、CNT分散液の製造に一般に用いられる添加剤を更に添加してもよい。なお、分散液には、界面活性剤や樹脂などの高分子(イオン粒子に属するイオン性ポリマーを除く)を添加しないことが好ましい。
【0100】
[分散処理]
上記粗分散液を分散処理に供して分散液を調製する際の分散処理方法としては、特に限定されることなく、CNTを含む液の分散に使用されている既知の分散処理方法を用いることができる。中でも、粗分散液に施す分散処理としては、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理が好ましい。キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理を使用すれば、CNTを良好に分散させることができるため、得られるCNT分散液の分散性をさらに高めることができる。
【0101】
[[キャビテーション効果が得られる分散処理]]
ここで、キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。この分散方法を用いることにより、CNTを良好に分散させることができる。
【0102】
そして、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌による分散処理等が挙げられる。これらの分散処理は一つのみを行なってもよく、複数の分散処理を組み合わせて行なってもよい。より具体的には、例えば、超音波ホモジナイザー、ジェットミルおよび高剪断撹拌装置が好適に用いられる。これらの装置は従来公知のものを使用すればよい。
【0103】
CNTの分散に超音波ホモジナイザーを用いる場合には、粗分散液に対し、超音波ホモジナイザーにより超音波を照射すればよい。照射する時間は、CNTの量等により適宜設定すればよく、例えば、3分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、また、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。また、例えば、出力は20W以上500W以下が好ましく、100W以上500W以下がより好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0104】
また、ジェットミルを用いる場合、処理回数は、CNTの量などにより適宜設定すればよく、例えば、2回以上が好ましく、100回以下が好ましく、50回以下がより好ましい。また、例えば、圧力は20MPa以上250MPa以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0105】
さらに、高剪断撹拌装置を用いる場合には、粗分散液に対し、高剪断撹拌装置により撹拌および剪断を加えればよい。旋回速度は速ければ速いほどよい。例えば、運転時間(機械が回転動作をしている時間)は3分以上4時間以下が好ましく、周速は5m/秒以上50m/秒以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0106】
なお、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理は、50℃以下の温度で行なうことがより好ましい。溶媒の揮発による濃度変化が抑制されるからである。
【0107】
[[解砕効果が得られる分散処理]]
また、解砕効果が得られる分散処理は、CNTを溶媒中に均一に分散できることは勿論、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理に比べ、気泡が消滅する際の衝撃波によるCNTの損傷を抑制することができる点で有利である。
【0108】
この解砕効果が得られる分散処理では、粗分散液にせん断力を与えてCNTの凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷し、また必要に応じ、粗分散液を冷却することで、気泡の発生を抑制しつつ、CNTを溶媒中に均一に分散させることができる。
【0109】
なお、粗分散液に背圧を負荷する場合、粗分散液に負荷した背圧は、大気圧まで一気に降圧させてもよいが、多段階で降圧することが好ましい。
【0110】
ここに、粗分散液にせん断力を与えてCNTをさらに分散させるには、例えば、以下のような構造の分散器を有する分散システムを用いればよい。すなわち、分散器は、粗分散液の流入側から流出側に向かって、内径がd1の分散器オリフィスと、内径がd2の分散空間と、内径がd3の終端部と(但し、d2>d3>d1である。)、を順次備える。
【0111】
そして、この分散器では、流入する高圧(例えば10~400MPa、好ましくは50~250MPa)の粗分散液が、分散器オリフィスを通過することで、圧力の低下を伴いつつ、高流速の流体となって分散空間に流入する。その後、分散空間に流入した高流速の粗分散液は、分散空間内を高速で流動し、その際にせん断力を受ける。その結果、粗分散液の流速が低下すると共に、CNTが良好に分散する。そして、終端部から、流入した粗分散液の圧力よりも低い圧力(背圧)の流体が、CNTが分散した液として流出することになる。
【0112】
なお、粗分散液の背圧は、粗分散液の流れに負荷をかけることで粗分散液に負荷することができ、例えば、多段降圧器を分散器の下流側に配設することにより、粗分散液に所望の背圧を負荷することができる。そして、粗分散液の背圧を多段降圧器により多段階で降圧することで、最終的に分散液を大気圧に開放した際に、分散液中に気泡が発生するのを抑制できる。
【0113】
また、この分散器は、粗分散液を冷却するための熱交換器や冷却液供給機構を備えていてもよい。というのは、分散器でせん断力を与えられて高温になった粗分散液を冷却することにより、粗分散液中で気泡が発生するのをさらに抑制できるからである。なお、熱交換器等の配設に替えて、粗分散液を予め冷却しておくことでも、CNTを含む液中で気泡が発生することを抑制できる。
【0114】
上記したように、この解砕効果が得られる分散処理では、キャビテーションの発生を抑制できるので、時として懸念されるキャビテーションに起因したCNTの損傷、特に、気泡が消滅する際の衝撃波に起因したCNTの損傷を抑制することができる。加えて、CNTへの気泡の付着や、気泡の発生によるエネルギーロスを抑制して、CNTを均一かつ効率的に分散させることができる。
【0115】
以上のような構成を有する分散システムとしては、特に限定されないが、例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)等の高圧乳化分散装置等を用いることができる。そして、解砕効果が得られる分散処理は、このような分散システムを用い、分散条件を適切に制御することで、実施することができる。
【0116】
<遠心分離工程>
遠心分離工程では、複数本のCNTと、溶媒とを含む分散液を遠心分離し、複数本のCNTの一部を沈殿させることができる。そして、遠心分離工程では、凝集性の高いCNTが沈殿し、分散性に優れるCNTは上澄み液中に残存する。
【0117】
分散液の遠心分離は、特に限定されることなく、既知の遠心分離機を用いて行うことができる。中でも、得られる上澄み液中に分散性に優れるCNTを適度に残存させ、分散性に優れるCNT分散液を得る観点からは、分散液を遠心分離する際の遠心加速度は、2000G以上であることが好ましく、5000G以上であることがより好ましく、20000G以下であることが好ましく、15000G以下であることがより好ましい。
【0118】
また、得られる上澄み液中に分散性に優れるCNTを適度に残存させ、分散性に優れるCNT分散液を得る観点からは、分散液を遠心分離する際の遠心分離時間は、20分間以上であることが好ましく、30分間以上であることがより好ましく、120分間以下であることが好ましく、90分間以下であることがより好ましい。
【0119】
<分取工程>
分取工程では、遠心分離工程で遠心分離した分散液から上澄み液を分取することができる。そして、上澄み液の分取は、例えば、デカンテーションやピペッティング等により、沈殿層を残して上澄み液を回収することにより行うことができる。具体的には、例えば、遠心分離後の分散液の液面から5/6の深さまでの部分に存在する上澄み液を回収すればよい。
【0120】
((抵抗変化層の形成方法))
続いて、抵抗変化層104の形成方法について説明する。抵抗変化層104の形成は、上述した方法で調整されたCNT分散液を用いて形成することができる。
【0121】
<成膜工程>
成膜工程では、CNT分散液から溶媒を除去して、抵抗変化層104を成膜する。具体的には、成膜工程では、CNT分散液をピラー状にパターニングした下部電極102上に塗布した後、塗布したCNT分散液を乾燥させることにより、CNT分散液から溶媒を除去し、抵抗変化層104を成膜する。
【0122】
[塗布]
CNT分散液を下部電極102上に塗布する方法としては、公知の塗布方法を採用できる。具体的には、塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、ロールナイフコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法、ミストコート法などを用いることができる。
【0123】
[乾燥]
下部電極102上に塗布したCNT分散液を乾燥する方法としては、公知の乾燥方法を採用できる。乾燥方法としては、熱風乾燥法、真空乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温~400℃、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、0.1~150分である。
【0124】
なお、成膜工程では、上澄み液中の溶媒は完全に除去する必要はなく、溶媒の除去後に残ったCNTが膜状の集合体(抵抗変化層104)としてハンドリング可能な状態であれば、多少の溶媒が残留していても問題はない。
【0125】
なお、上記抵抗変化層104の形成方法では、CNTの分散性に優れるCNT分散液を成膜することにより、下部電極102への密着性に優れる抵抗変化層104が得られると推察される。
【0126】
<抵抗変化層の後処理>
また、上記抵抗変化層104の形成方法では、任意に、成膜工程において成膜した抵抗変化層104をプレス加工して密度を更に高めてもよい。CNTの損傷または破壊による特性低下を抑制する観点からは、プレス加工する際のプレス圧力は3MPa未満であることが好ましく、プレス加工を行なわないことがより好ましい。
【実施例0127】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0128】
(実施例)
図2に示した抵抗変化型記憶装置1を複数作製した。メモリセル10は、まずシリコン基板100上に絶縁膜101としてのSiO層を形成した。次いで、下部電極102としてのTiN層をSiO層の上に形成し、EBリソグラフィー法およびドライエッチング法によってTiN層をピラー状にパターニングした。続いて、ピラー状にパターニングしたTiN層上に絶縁膜103としてのSiO層を形成した。次に、CMP法を用いて、SiO層の表面を研磨して、ピラー状のTiN層を表面に露出させた。続いて、CNT分散液を調製し、TiN層上に塗布して抵抗変化層104としてのカーボンナノチューブ層(CNT:単層スーパーグロースCNT)を形成した。その後、カーボンナノチューブ層上に上部電極105としてのTiN層を形成した。そして、TiN層およびカーボンナノチューブ層を、RLSA装置を用いたマイクロ波励起(2.45GHz)プラズマにより、上部電極105としてのTiN層およびカーボンナノチューブ層をパターニングして素子分離させた。続いて、素子分離されたTiN層およびカーボンナノチューブ層を覆うように、保護膜106としてのSiN層を形成した。最後に、上部電極105としてのTiN層およびカーボンナノチューブ層の上方にてSiN層を貫通して上部電極105としてのTiN層を露出する貫通孔107を形成するとともに、上部電極105としてのTiN層およびカーボンナノチューブ層が存在しない部分において、保護膜106としてのSiN層および絶縁膜103としてのSiO層を貫通して下部電極102としてのTiN層を露出する貫通孔108を形成した。こうして、メモリセル10を作製した。メモリセル10は、上部電極105と下部電極102との間(すなわち、抵抗変化層104)の抵抗値が50kΩ以下の場合が低抵抗状態、500kΩ以上の場合が高抵抗状態として構成した。
【0129】
処理回路12は、抵抗変化層104を高抵抗状態から低抵抗状態に変化させた際に両電極間の抵抗値が50kΩを超えた場合、または低抵抗状態から高抵抗状態に変化させた際に両電極間の抵抗値が500kΩ未満だった場合、同一の極性および同一の大きさのパルス電圧を印加するベリファイ処理を行うように構成した。ベリファイ処理は、最大20回まで行うように設定し、20回のベリファイ処理によっても状態が変化しなかった場合には、抵抗変化層104に固定不良が発生したと判断するように構成した。そして、処理回路12は、抵抗変化層104に固定不良が発生した際、上部電極105と下部電極102との間に、正常動作時と極性が同一であり、かつフォーミング処理時と同じパルス電圧(大きさ:4.5V、パルス幅:200ms)を印加して、固定不良が発生した抵抗変化層104を修復して回復させる固定不良回復処理を行うように構成した。こうして、実施例による抵抗変化型記憶装置1を複数作製した。
【0130】
(従来例)
実施例と同様に、カーボンナノチューブで抵抗変化層が構成された抵抗変化型記憶装置を複数作製した。ただし、処理回路12は、固定不良が発生した場合に固定不良回復処理を行うように構成しなかった。その他の構成は、実施例と全て同じである。
【0131】
図4A~Cは、書き込み/消去サイクルと上部電極と下部電極との間に流れる電流との関係を示しており、図4Aは従来例、図4Bは実施例の一例(以下、「実施例1」と言う。)、図4Cは実施例の別の例(以下、「実施例2」と言う。)に対するものである。なお、図4A~Cにおいて、10-5A、10-6Aの電流値は、それぞれ抵抗変化層104の50kΩ、500kΩの抵抗値に対応しており、電流値が10-5A以上であれば、抵抗変化層104の抵抗値が50kΩ以下であり、設定された低抵抗状態の抵抗値の範囲にあることを示している。また、電流値が10-6A以下であれば、抵抗変化層104の抵抗値が500kΩ以上であり、設定された高抵抗状態の抵抗値の範囲にあることを示している。
【0132】
図4Aに示すように、従来例の記憶装置においては、書き換え/消去サイクルを繰り返すにつれて、高抵抗状態の電流値が徐々に減少し、230サイクル程度でベリファイ処理を行っても高抵抗状態から低抵抗状態に変化することができなくなり、従来例の記憶装置は、書き換え/消去動作を正常に行うことができなくなった。
【0133】
これに対して、図4Bに示すように、実施例1の記憶装置については、82サイクル目の高抵抗状態から低抵抗状態への変化の際に、10回のベリファイ処理を行っても低抵抗状態に変化しなかった(高抵抗状態への張り付き)。しかし、処理装置12が固定不良回復処理を行ってパルス電圧(大きさ:4.5V、パルス幅:200ms)を印加し、その後再度高抵抗状態から低抵抗状態へ変化させる正常動作時のパルス電圧を印加したことにより抵抗変化層104が回復し、抵抗変化層104を流れる電流が増加して抵抗変化層104は低抵抗状態に変化することができるようになった。そして、実施例1の記憶装置は、従来であれば82サイクル目で固定不良故障が発生したと判定されるメモリセルを、716サイクルまで抵抗変化をさせることができた。
【0134】
また、図4Cに示すように、実施例2の記憶装置については、56サイクル目の低抵抗状態から高抵抗状態への変化の際に、10回のベリファイ処理を行っても高抵抗状態に変化しなかった(低抵抗状態への張り付き)。しかし、処理装置12が固定不良回復処理を行ってパルス電圧(大きさ:4.5V、パルス幅:200ms)を印加し、その後再度低抵抗状態から高抵抗状態へ変化させる正常動作時のパルス電圧を印加したことにより抵抗変化層104が回復し、抵抗変化層104は高抵抗状態に変化することができるようになった。そして、実施例2の記憶装置は、従来であれば56サイクル目で固定不良故障が発生したと判定されるメモリセルを、788サイクルまで抵抗変化をさせることができた。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、抵抗変化層において固定不良が発生した際に、固定不良が発生した抵抗変化層を修復して回復させることができる。
【符号の説明】
【0136】
1 抵抗変化型記憶装置
10 メモリセル
11 メモリセルアレイ
12 処理回路
100 シリコン基板
101,103 絶縁膜
102 下部電極
104 抵抗変化層
105 上部電極
106 保護膜
h1,h2 貫通孔
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C