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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075369
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】二価のサマリウム化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/10 20200101AFI20230524BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20230524BHJP
   C25B 3/13 20210101ALI20230524BHJP
   C01F 17/253 20200101ALI20230524BHJP
【FI】
C01F17/10
C25B1/00 Z
C25B3/12
C01F17/253
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020067666
(22)【出願日】2020-04-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「分子触媒を用いたアンモニア合成に関する研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西林 仁昭
(72)【発明者】
【氏名】荒芝 和也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 隆正
【テーマコード(参考)】
4G076
4K021
【Fターム(参考)】
4G076AA01
4G076AA08
4G076AB04
4G076BA11
4G076BB02
4G076BF06
4G076CA07
4G076CA10
4G076DA30
4K021AC27
4K021BA11
4K021BA18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金属サマリウムを使用することを回避して、省エネルギーで二価のサマリウム化合物を製造する、二価のサマリウム化合物の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の存在下、三価のサマリウム化合物を還元して、二価のサマリウム化合物を生成する還元工程を含む、二価のサマリウム化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の存在下、三価のサマリウム化合物を還元して、二価のサマリウム化合物を生成する還元工程
を含む、二価のサマリウム化合物の製造方法。
【請求項2】
前記金属原子が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金又はサマリウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記サンドイッチ化合物が、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ベンゼン)金属錯体又はビス(シクロオクタテトラエニル)金属錯体である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記サンドイッチ化合物が、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記三価のサマリウム化合物が、ハロゲン化サマリウム(III)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化サマリウム(III)が、ヨウ化サマリウム(III)である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
金属原子及び二つのアレーン配位子からなり、酸化還元電位が、-1.78V以下のサンドイッチ化合物の存在下、三価のサマリウム化合物を還元して、二価のサマリウム化合物を生成する還元工程
を含む、二価のサマリウム化合物の製造方法。
【請求項8】
金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の再生産方法であって、請求項1乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の製造方法において副生するサンドイッチ化合物の酸化体を電解反応で還元することによりサンドイッチ化合物を再生する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に二価のサマリウム化合物の製造方法及び該製造方法で副生したサンドイッチ化合物の酸化体を電解反応で還元してサンドイッチ化合物を再生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二価のサマリウム化合物、例えば、ヨウ化サマリウム(II)は、有機合成反応において官能基選択的還元反応、炭素-炭素結合生成反応等に利用されている重要な還元剤の一つである(非特許文献1)。例えば、還元剤としてヨウ化サマリウム(II)を用いて、モリブデン触媒、窒素ガス及びプロトン源として水を使用した常温常圧条件によるアンモニア合成技術が報告されており(非特許文献2)、このアンモニア合成技術をエネルギーキャリアとして利活用する研究が進められている。
一方、ヨウ化サマリウム(II)の調製方法は、例えば、金属サマリウムにヨウ素を反応させる方法、無水テトラヒドロフラン中で金属サマリウムに1,2-ジヨードエタン又はジヨードメタンを反応させてテトラヒドロフラン溶液として調製する方法、ヨウ化サマリウム(III)と金属サマリウムとの均一化反応から調製する方法等が報告されている(非特許文献1)。出発原料の金属サマリウムは還元蒸留や溶融塩電解等を行うことで得られることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Organic Synthesis using Samarium Diiodide: A Practical Guide 2009年
【非特許文献2】Nature 2019年, 568(7753)巻, 536-540ページ
【非特許文献3】レアメタル便覧 2011年, 1巻, 217-233ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術では、ヨウ化サマリウム(II)を製造するにあたり、出発原料に原子価が0価である金属サマリウムが必要であること、さらに、その金属サマリウムを得るための還元蒸留や溶融塩電解によるエネルギー消費が大きいことも課題であり、省エネルギーでヨウ化サマリウム(II)を製造できる代替方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属サマリウムを使用することを回避して、省エネルギーで二価のサマリウム化合物を製造する製造方法を提供することを目的とする。
さらに、二価のサマリウム化合物の製造方法で副生する化合物を再利用できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の存在下、三価のサマリウム化合物を還元することで二価のサマリウム化合物を生成する製造方法及び、該製造方法で副生したサンドイッチ化合物の酸化体を電解反応で還元してサンドイッチ化合物を再生産する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、第1観点として、金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサン
ドイッチ化合物の存在下、三価のサマリウム化合物を還元して、二価のサマリウム化合物を生成する還元工程
を含む、二価のサマリウム化合物の製造方法に関する。
第2観点として、上記金属原子が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金又はサマリウムである第1観点に記載の製造方法に関する。
第3観点として、上記サンドイッチ化合物が、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ベンゼン)金属錯体又はビス(シクロオクタテトラエニル)金属錯体である、第1観点又は第2観点に記載の製造方法に関する。
第4観点として、上記サンドイッチ化合物が、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)である第1観点に記載の製造方法に関する。
第5観点として、上記三価のサマリウム化合物が、ハロゲン化サマリウム(III)である、第1観点に記載の製造方法に関する。
第6観点として、上記ハロゲン化サマリウム(III)が、ヨウ化サマリウム(III)である、第5観点に記載の製造方法に関する。
第7観点として、金属原子及び二つのアレーン配位子からなり、酸化還元電位が、-1.78V以下のサンドイッチ化合物の存在下、三価のサマリウム化合物を還元して、二価のサマリウム化合物を生成する還元工程
を含む、二価のサマリウム化合物の製造方法に関する。
第8観点として、金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の再生産方法であって、第1観点乃至第7観点のうちいずれか一に記載の製造方法において副生するサンドイッチ化合物の酸化体を電解反応で還元することによりサンドイッチ化合物を再生する工程
を含む、方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法は、金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物を用いて三価のサマリウム化合物を還元することで二価のサマリウム化合物を製造できることにより、二価のサマリウム化合物を省エネルギーで製造できるという効果を奏する。
【0009】
さらに、本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法は、二価のサマリウム化合物の製造方法で副生したサンドイッチ化合物の酸化体を電解反応で還元することで、サンドイッチ化合物を容易に再生産することができ、本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法に再利用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の存在下、三価のサマリウム化合物を還元して、二価のサマリウム化合物を生成する還元工程
を含む、二価のサマリウム化合物の製造方法を対象とする。
更に詳細に本発明を説明する。
なお、サンドイッチ化合物を還元剤として用いて、ヨウ化サマリウム(II)を製造した報告例は本発明者らの知る限りない。
【0011】
本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法では、還元工程において金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物を用いる。該金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の金属原子としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニ
ウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、サマリウム等が挙げられ、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム及びイリジウムが好ましく、コバルトがより好ましい。
【0012】
また、上記金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ベンゼン)金属錯体、ビス(シクロオクタテトラエニル)金属錯体等が挙げられ、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体及びビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体が好ましく、錯体の安定性と副反応抑制の観点より、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体がより好ましい。
【0013】
これら金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の中でも、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)(以下、デカメチルコバルトセンとも記載する)を好適な例として挙げられる。
【0014】
本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法では、還元剤として用いるサンドイッチ化合物の酸化還元電位が一つの観点となる。非特許文献のOrganometallics 1987年, 6巻, 1703-1712ページにおいて、Ag/Ag+電極を用いた硝酸銀を0.1mol/Lにて溶解させたアセトニトリル溶媒における各種サンドイッチ化合物の酸化還元電位が記載されており、例えば、デカメチルコバルトセンの酸化還元電位は-1.78Vであり、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロム(II)の酸化還元電位は、-1.35Vであると報告されている。本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法において、還元剤として用いるサンドイッチ化合物としては、-1.36V以下の負の酸化還元電位を有するサンドイッチ化合物が好ましく、-1.78V以下の負の酸化還元電位を有するサンドイッチ化合物がより好ましい。
【0015】
本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法において、二価のサマリウム化合物に対して、金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物を使用する量は、例えば、二価のサマリウム化合物のモル数の1倍以上2倍以下使用することが好ましく、1倍以上1.1倍以下使用することがより好ましい。
【0016】
本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法において、二価のサマリウム化合物は、三価のサマリウム化合物を原料として得られる。そのような三価のサマリウム化合物としては、例えば、ハロゲン化サマリウム(III)等が挙げられる。該ハロゲン化サマリウム(III)としては、ヨウ化サマリウム(III)、臭化サマリウム(III)、塩化サマリウム(III)、フッ化サマリウム(III)が挙げられ、ヨウ化サマリウム(III)、臭化サマリウム(III)及び塩化サマリウム(III)が好ましく、特許文献2のアンモニア合成技術での活用する観点より、ヨウ化サマリウム(III)がより好ましい。
【0017】
本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法において、溶媒にサンドイッチ化合物及び三価のサマリウム化合物を混合して還元することが好ましい。そのような溶媒としては、特に限定するものではないが、ハロゲン化炭化水素系溶媒、環状エーテル系溶媒、鎖状エーテル系溶媒等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、例えば塩化メチレンやクロロホルム等が挙げられる。環状エーテル系溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)や1,4-ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテル系溶媒としては、例えばジエチルエーテル等が挙げられる。テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン及びジエチルエーテルが好ましく、テトラヒドロフラン(THF)がより好ましい。
【0018】
本発明の二価のサマリウム化合物の製造方法において、上記還元工程の反応温度として
は、特に限定するものではないが、-20℃から60℃が好ましく、-10℃から40℃がより好ましく、常温(室温)である20℃から30℃が更により好ましい。反応雰囲気は、不活性雰囲気、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気が好ましい。反応時間は、特に限定するものではないが、通常は数十分乃至数十時間の範囲で設定すればよい。
【0019】
ここで、本発明の好ましい態様の一つは、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)の存在下、ヨウ化サマリウム(III)を還元して、ヨウ化サマリウム(II)を生成する下記式(1)で表される還元工程
を含む、ヨウ化サマリウム(II)の製造方法に関する。
【化1】
【0020】
本発明は、さらに上記の二価のサマリウム化合物の製造方法で副生するサンドイッチ化合物の酸化体を電解反応で還元することによりサンドイッチ化合物を再生する工程
を含む、金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の再生産方法を対象とする。
以下に好適な実施形態を示す。
【0021】
本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法において、副生するサンドイッチ化合物の酸化体とは、上記した二価のサマリウム化合物の製造方法で使用された金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の酸化体である。従って、その金属原子、二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の酸化体としては、上記した金属原子、二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物が挙げられる。
金属原子としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、サマリウム等が挙げられ、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム及びイリジウムが好ましく、コバルトがより好ましい。
【0022】
また、上記金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の酸化体としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体、ビス(ベンゼン)金属錯体、ビス(シクロオクタテトラエニル)金属錯体等が挙げられ、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体及びビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体が好ましく、錯体の安定性と副反応抑制の観点より、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)金属錯体がより好ましい。
【0023】
金属原子及び二つのアレーン配位子からなるサンドイッチ化合物の酸化体の中でも、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(III)ヘキサフルオロホスファートを好適な例として挙げられる。
【0024】
本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法において、溶媒にサンドイッチ化合物を混合して電解反応で還元することが好ましい。そのような溶媒としては、特に限定するものではないが、ハロゲン化炭化水素系溶媒、環状エーテル系溶媒、鎖状エーテル系溶媒等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、例えば塩化メチレンやクロロホルム等が挙げられる。環状エーテル系溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)や1,
4-ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテル系溶媒としては、例えばジエチルエーテルなどが挙げられる。テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン及びジエチルエーテルが好ましく、テトラヒドロフラン(THF)がより好ましい。
【0025】
本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法において、イオン液体を上記溶媒に溶解させることが好ましい。そのようなイオン液体としては、例えば、ジエチル-メチル-(2-メトキシエチル)アンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ジエチル-メチル-(2-メトキシエチル)アンモニウム-テトラフルオロボレート、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチル-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メチル-プロピルピロリジウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ブチル-メチルピロリジウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ブチルピリジニウム-テトラフルオロボレート、ブチルピリジニウム-トリフルオロメタンスルホナート、1-エチルピリジニウムヘキサフルオロボレート、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイト、又はそれらの組み合わせが挙げられる。1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及び1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェイトが好ましい。
【0026】
本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法において、電解反応を行う反応容器は、電極、作用極反応層、対極反応層、隔膜を具備する容器であれば、特に限定するものではないが、H型セルが好ましい。電極としては、例えば、白金電極、カーボンペーパー電極、Ag/AgCl電極等が挙げられる。作用極反応層及び対極反応層は溶媒とイオン液体より構成される。隔膜としては、例えば、多孔性のフィルター、ガラスフィルター、イオン交換膜等が挙げられる。イオン交換膜としては、例えば、カチオン交換膜、アニオン交換膜等が挙げられる。カチオン交換膜としては、例えば、アストム社のネオセプタ(登録商標)、AGC社のセレミオン(登録商標)、旭化成社のAciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、Fumatech社のfumapem(登録商標)、デュポン社のナフィオン(登録商標)、ソルヴェイ社のアクイヴィオン(登録商標)、AGC社のフレミオン(登録商標)、日本ゴア合同会社のゴアセレクト(登録商標)等が挙げられる。アニオン交換膜としては、例えば、第四級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有するアニオン交換樹脂を含有する固体高分子膜が挙げられる。アニオン交換膜の具体例としては、例えば、Fumasep社製のアニオン交換膜であるFAP、FAP-450、FAA-3、FAS、FAB、AMI-7001、AGC社製のアニオン交換膜であるAMV、AMT、DSV、AAV、ASV、ASV-N、AHO、APS4等が挙げられる。本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法において、使用する隔膜は、ガラスフィルターが好ましい。
【0027】
本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法において、定電位電解反応の電位は、-1.5Vから-2.5Vが好ましく、-1.8Vから-2.2Vがより好ましい。
【0028】
本発明のサンドイッチ化合物の再生産方法において、反応温度としては、特に限定するものではないが、-20℃から60℃が好ましく、-10℃から40℃がより好ましく、常温(室温)である20℃から30℃が更により好ましい。反応雰囲気は、不活性雰囲気、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気が好ましい。反応時間は、特に限定するものではないが、通常は数十分乃至数十時間の範囲で設定すればよい。
【0029】
ここで、本発明の好ましい態様の一つは、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)の再生産方法であって、上記のヨウ化サマリウム(II)の製造方法において副生するビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(III)ヘキサフルオロホスファートを電解反応で還元することによりビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)を再生する下記式(2)で表される工程
を含む、方法に関する。
【化2】
【0030】
なお、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)は、アルカリ金属のカリウムを用いてビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(III)の塩から得る方法(J. Am. Chem. Soc. 1985年, 107(20)巻, 5657-5663頁)が報告されているが、本発明の電解反応で還元する方法は、新規であることに加えて、取り扱いが難しいカリウムを使用しない点においても優れている。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
ファラデー効率は、全反応電荷量に対して、目的とする電解による生成物の生成に用いられた電荷量の割合を示したものである。具体的には、以下の数式(A)を用いて算出した。
ファラデー効率(%)
=[(目的の電解生成物のために用いられた反応電荷量(C))/(全反応電荷量(C))]×100 (%) (A)
【実施例0033】
[実施例1]
ヨウ化サマリウム(II)の製造方法を以下に示す(下記式(3))。
ヨウ化サマリウム(III)(26.3mg、0.050mmol)、還元剤としてデカメチルコバルトセン(16.3mg、0.050mmol)及びテトラヒドロフラン(2.5mL)を反応容器に加え、アルゴン雰囲気下室温にて、反応を3時間行った。その後、反応溶液を紫外可視分光法にて測定して得られたUV-visスペクトルより算出して、ヨウ化サマリウム(II)を収率68%にて確認した。
【化3】
【0034】
実験例1の結果とデカメチルコバルトセンの酸化還元電位が-1.78Vであることより、酸化還元電位が-1.78V以下のサンドイッチ化合物は、ヨウ化サマリウム(III)をヨウ化サマリウム(II)へ還元できると云える。
【0035】
[実施例2]
電解反応を用いたデカメチルコバルトセンの製造方法を以下に示す(下記式(4))。
ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(III)ヘキサフルオロホスファート(7.3mg、15μmol)及び1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(844.82mg、2mmol)をテトラヒドロフラン(10mL)に溶解させた溶液を、作用極と対極をガラスフィルターで接続したH型セルの作用極側に加え、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(844.82mg、2mmol)をテトラヒドロフラン(10mL)へ溶解させた溶液を、H型セルの対極側に加えた。H型セルの作用極はカーボンペーパー(TGP-H-090(東レ社製))の電極を装着し、対極は白金電極を装着し、参照極はAg/AgCl電極を装着した。窒素雰囲気下室温で-2.0Vの定電位電解反応を2時間行った。その後、作用極側の反応溶液を紫外可視分光法にて測定して得られたUV-visスペクトルより算出して、デカメチルコバルトセンを収率90%(ファラデー効率72%)にて確認した。
【化4】
【0036】
[比較例1]
還元剤としてビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロム(II)(16.1mg、0.050mmol)を用いて、反応を24時間行ったこと以外は、実施例1に記載と同じ方法で、ヨウ化サマリウム(II)の製造を行った。反応後、反応溶液を紫外可視分光法にて測定して得られたUV-visスペクトルより算出して、ヨウ化サマリウム(II)が得られなかったことを確認した。
【0037】
上記の比較例1の結果、及びビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロム(II)の酸化還元電位が-1.35Vであることの二点により、ビス(η-ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロム(II)よりも酸化還元電位が負であるサンドイッチ化合物は、ヨウ化サマリウム(III)をヨウ化サマリウム(II)へ還元できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、金属サマリウムの使用を回避して、省エネルギーで二価のサマリウム化合物を製造する新規な方法を提供する。これにより、エネルギーキャリアとして利活用できる実用化向けのアンモニア合成方法への利用が可能となる。