(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090481
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】光電変換素子および光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230622BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 168
H01L31/04 162
H01L31/04 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205450
(22)【出願日】2021-12-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/フィルム型超軽量モジュール太陽電池の開発(重量制約のある屋根向け)(超軽量ペロブスカイト系太陽電池の研究開発)事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】中村 元志
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一生
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】多田 圭志
(72)【発明者】
【氏名】別所 毅隆
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA20
5F151BA11
5F151BA16
5F151CB15
5F151CB27
5F151CB29
5F151CB30
5F151DA15
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5F151FA02
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5F151FA04
5F151FA06
5F151FA17
5F151GA02
5F151GA03
(57)【要約】
【課題】ホール輸送層と透明導電層の間にバッファ層を形成することなく、光電変換の効率を改善できる光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子は、光吸収層と、光吸収層の光励起で生じた正孔を輸送するホール輸送層と、ホール輸送層に接するともにホール輸送層から正孔を受ける透明導電層と、を備える。透明導電層のキャリア密度は1×10
16cm
-3より大きく1×10
20cm
-3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収層と、
前記光吸収層の光励起で生じた正孔を輸送するホール輸送層と、
前記ホール輸送層に接するともに前記ホール輸送層から前記正孔を受ける透明導電層と、を備え、
前記透明導電層のキャリア密度は1×1016cm-3より大きく1×1020cm-3以下である
ことを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記ホール輸送層は、前記ホール輸送層を酸化させて前記ホール輸送層のキャリア密度を増加させる添加剤を含む
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記添加剤は、リチウムを含む
請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記ホール輸送層の材料と、前記リチウムとの濃度比が0.6以上である
請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記添加剤は、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチル)イミド(LiTFSI)である
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記ホール輸送層のキャリア密度は1×1018cm-3以上である
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記ホール輸送層の厚さは130nm以下である
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記透明導電層は、インジウム、亜鉛、錫のいずれかを含む金属酸化物で形成され、
前記ホール輸送層は、Spiro-OMeTADを含む
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記光吸収層は、ペロブスカイト構造を有する化合物を含む
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記光電変換素子は、多接合太陽電池のボトムセルに積層される太陽電池セルである
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項11】
光電変換素子の製造方法であって、
光吸収層を形成する工程と、
前記光吸収層の光励起で生じた正孔を輸送するホール輸送層を形成する工程と、
前記ホール輸送層に接するともに前記ホール輸送層から前記正孔を受ける透明導電層を形成する工程と、を有し、
前記透明導電層のキャリア密度は1×1016cm-3より大きく1×1020cm-3以下である
ことを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
前記ホール輸送層は、前記ホール輸送層を酸化させる添加剤を含み、
前記ホール輸送層が酸素プラズマに曝される
請求項11に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記酸素プラズマは、前記透明導電層をスパッタ法で形成するときの放電で生成され、
前記放電のパワー密度は、0.8W/cm2以上である
請求項12に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記酸素プラズマの生成時に導入されるガスの酸素濃度は0.5%以上である
請求項12または請求項13に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子および光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代型太陽電池の1つとして、中心金属に鉛、スズ等を用いたペロブスカイト構造の材料を含むペロブスカイト太陽電池が注目されている。高い効率を示すペロブスカイト太陽電池は、受光面側から順に、n型半導体からなる電子輸送層、ペロブスカイト層、p型半導体からなるホール輸送層が並んだいわゆるn-i-p型の積層構造を有している。上記のホール輸送層には、一般的にSpiro-OMeTADなどの有機薄膜が適用される(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
例えば、多接合太陽電池に適用するために、ペロブスカイト太陽電池の金属電極を透明導電層に置換して半透明化すると、効率が大きく低下することが知られている(例えば非特許文献2参照)。上記の対策として、ペロブスカイト太陽電池のホール輸送層と透明導電層との間にバッファ層としてMoOx等を導入することで効率の改善を図ることが可能である(例えば非特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Min, H., Kim, M., Lee, S.-U., Kim, H., Kim, G., Choi, K., Lee, J.H., and Seok, S. Il (2019). Efficient, stable solar cells by using inherent bandgap of α-phase formamidinium lead iodide. Science (80-. ). 366, 749-753
【非特許文献2】Kanda, H., Uzum, A., Baranwal, A.K., Peiris, T.A.N., Umeyama, T., Imahori, H., Segawa, H., Miyasaka, T., and Ito, S. (2016). Analysis of Sputtering Damage on I-V Curves for Perovskite Solar Cells and Simulation with Reversed Diode Model. J. Phys. Chem. C 120, 28441-28447.
【非特許文献3】Loper, P., Moon, S.J., Martin De Nicolas, S., Niesen, B., Ledinsky, M., Nicolay, S., Bailat, J., Yum, J.H., De Wolf, S., and Ballif, C. (2015). Organic-inorganic halide perovskite/crystalline silicon four-terminal tandem solar cells. Phys. Chem. Chem. Phys. 17, 1619-1629.
【非特許文献4】Duong, T., Lal, N., Grant, D., Jacobs, D., Zheng, P., Rahman, S., Shen, H., Stocks, M., Blakers, A., Weber, K., et al. (2016). Semitransparent Perovskite Solar Cell With Sputtered Front and Rear Electrodes for a Four-Terminal Tandem. IEEE J. Photovoltaics 6, 679-687.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ペロブスカイト太陽電池のホール輸送層と陽極の透明導電層との間にMoOx等のバッファ層を形成すると、耐熱性の低下や光透過率の低下などが生じ、製造時の製膜工程も煩雑になってしまう。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、ホール輸送層と透明導電層の間にバッファ層を形成することなく、光電変換の効率を改善できる光電変換素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の光電変換素子は、光吸収層と、光吸収層の光励起で生じた正孔を輸送するホール輸送層と、ホール輸送層に接するともにホール輸送層から正孔を受ける透明導電層と、を備える。透明導電層のキャリア密度は1×1016cm-3より大きく1×1020cm-3以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ホール輸送層と透明導電層の間にバッファ層を形成することなく、光電変換の効率を改善できる光電変換素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の太陽電池の一例を示す厚さ方向断面図である。
【
図2】本実施形態の太陽電池の別例を示す厚さ方向断面図である。
【
図4】透明導電層とホール輸送層の電子準位接続モデルを示す図である。
【
図5】ホール輸送層のキャリア密度に対するデバイス特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】ホール輸送層の厚さに対するデバイス特性を示す図である。
【
図7】実施例と比較例の各種デバイス特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。
実施形態では、その説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造または要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面において、各要素の形状、寸法などは、模式的に示したもので、実際の形状や寸法などを示すものではない。
【0011】
<光電変換素子の構成例>
次に、図面を参照して、本実施形態の光電変換素子の一例である太陽電池の構成例について説明する。本実施形態の光電変換素子は、光吸収層にペロブスカイト構造の光電変換材料を用いたペロブスカイト太陽電池である。本実施形態の太陽電池は、単接合セルの構成と、トップセルとボトムセルを積層した多接合セルの構成のいずれであってもよい。
以下の説明では、単接合セルの場合と多接合セルの場合の太陽電池の全体構成をそれぞれ説明した後、両者に共通するペロブスカイト太陽電池の構造を詳細に説明する。
【0012】
図1は、単接合のペロブスカイト太陽電池の一例を示す厚さ方向断面図である。
図1の太陽電池10は、基板11の上に、下(基板側)から順に、第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16、第3導電層17が順次積層された積層構造を有する。
【0013】
図1に示す基板11は、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等の透明ガラス基板、樹脂基板、金属基板、セラミック基板などから選択可能であり、市販品を好適に使用できる。基板11は、透光性を有しない基板と、透光性を有する基板のいずれであってもよい。なお、基板11は、フレキシブル基板であってもよい。
ここで、本明細書において「透光性を有する」とは、200nmから2000nmの波長を有する光のうち、いずれかの波長において10%以上の光が透過することを意味する。
【0014】
基板11が透光性を有する場合、光は、太陽電池10に対して基板11側(図中下側)から入射してもよく、第3導電層17側(図中上側)から入射してもよい。一方、基板11が透光性を有しない場合、光は、太陽電池10に対して第3導電層17側(図中上側)から入射する。
【0015】
図2は、ペロブスカイト太陽電池を含む多接合型太陽電池の一例を示す厚さ方向断面図である。
図2の太陽電池10Aは、トップセルTCとボトムセルBCとが積層配置された積層構造を有する。
図2の構成では、光は、太陽電池10Aに対してトップセルTC側(図中上側)から入射する。トップセルTCでは、入射光のうち短波長側の光が光電変換される。また、ボトムセルBCでは、入射光のうちトップセルTCを透過した長波長側の光が光電変換される。
【0016】
トップセルTCは、ペロブスカイト太陽電池層である。トップセルTCは、図中上(受光面側)から順に、基板11、第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16、第3導電層17が順次積層された積層構造を有する。なお、
図2のトップセルTCでの基板11は、透光性を有する基板である。
【0017】
ボトムセルBCは、図中下(受光面の反対側)から順に、基板20、第1の電極層21、光電変換層22、バッファ層23、第2の電極層24が順次積層された積層構造を有する太陽電池層である。ボトムセルBCとしては、例えば、CZTS系太陽電池、CIGS系太陽電池、CdTe系太陽電池、GaAs系太陽電池などの化合物系太陽電池や、シリコン系太陽電池、有機系太陽電池等の公知の太陽電池の構成を適用できる。そのため、ボトムセルBCの構成に関する説明はいずれも省略する。なお、ボトムセルBCのバッファ層23は省略されてもよい。
【0018】
次に、ペロブスカイト太陽電池に含まれる第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16および第3導電層17について詳細に説明する。
【0019】
(第1導電層12)
第1導電層12は、太陽電池の陰極として作用する層であり、基板11に積層されて形成される。
【0020】
第1導電層12の材料としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性透明材料、金属ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、金属リチウム、金属マグネシウム、金属アルミニウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al/Al2O3)混合物、アルミニウム-フッ化リチウム(Al/LiF)混合物等が挙げられる。上記の材料は、単独で用いられてもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0021】
第1導電層12は、透光性を有することが好ましい。しかし、基板11が透光性を有さず、光が第3導電層17側から入射する太陽電池10の場合、第1導電層12が透光性を有していなくてもよい。
【0022】
第1導電層12は、例えば、蒸着法やスパッタ法等の公知の製膜方法によって形成することができる。特に限定するものではないが、第1導電層12の厚さは、0.1μm~5.0μmの範囲であることが好ましい。第1導電層12の厚さが0.1μm未満であると十分な導電性が得られにくい。一方、第1導電層12の厚さが5.0μmを超えると、第1導電層12の光の透過率が低下し、光電変換効率が低下しやすくなる。
【0023】
(電子輸送層13)
電子輸送層13は、光吸収層14の光励起により生成した電子を第1導電層12に輸送する機能を担う。したがって、電子輸送層13は、光吸収層14で生成した電子が電子輸送層13に容易に移動でき、かつ電子輸送層13の電子が容易に第1導電層12に移動可能な特性を有する材料で形成される。
【0024】
電子輸送層13の材料としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化タングステン(WO2、WO3、W2O3等)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb2O5等)、酸化タンタル(Ta2O5等)、酸化イットリウム(Y2O3等)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3等)、酸化スズ(SnO2)等の無機物材料だけでなく、フラーレン(C60、C70等)やその誘導体(PC60BM、PC70BM、ICBA、水素化C60、水酸化C60等)の有機物材料が挙げられる。上記の材料は、単独で用いられてもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0025】
電子輸送層13は、単層構造であってもよいが、緻密な構造を有する緻密層13aと、多孔質の構造を有する多孔質層13bを有する積層構造であることが好ましい。電子輸送層13において、緻密層13aは第1導電層12と多孔質層13bに臨み、多孔質層13bは緻密層13aと光吸収層14に臨むように積層して形成される。
【0026】
緻密層13aは、多孔質層13bと共に電子輸送層13を構成する層であり、多孔質層13bと比べて空隙が少なく、光吸収層14を形成する際に溶液などが浸潤しない層である。緻密層13aは、光起電力低下の原因となる第1導電層12と第2導電層16の接触を防止する機能と、第1導電層12とホール輸送層15の接触を防止する機能を担う。したがって、緻密層13aを設けることで、光起電力の低下を抑制することができる。
なお、緻密層13aの厚さは、例えば、5nm~200nmの範囲が好ましく、10nm~100nmの範囲がさらに好ましい。
【0027】
一例として、電子輸送層13を酸化チタンで形成する場合、緻密層13aは、以下の製法で形成することができる。まず、チタンキレート化合物を含む塗布液を調製し、スピンコート法、スクリーン印刷法、スプレーパイロリシス法、エアロゾルデポジション法等の製膜方法によって塗布液を第1導電層12上に塗布する。その後、焼成を行うことによって酸化チタンの緻密層13aが形成される。また、焼成後に、酸化チタンの緻密層13aを4塩化チタンの水溶液に浸してもよい。これにより、緻密層13aの緻密性を増すことができる。
【0028】
酸化チタンの緻密層13aの形成に使用できるチタンキレート化合物としては、アセト酢酸エステルキレート基を持つ化合物や、β-ジケトンキレート基を持つ化合物が好ましい。
上記のチタンキレート化合物のうち、アセト酢酸エステルキレート基を持つ化合物としては、ジイソプロポキシチタニウムビス(メチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(プロピルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(ブチルアセトアセテート)、ジブトキシチタニウムビス(メチルアセトアセテート)、ジブトキシチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、トリイソプロポキシチタニウム(メチルアセトアセテート)、トリイソプロポキシチタニウム(エチルアセトアセテート)、トリブトキシチタニウム(メチルアセトアセテート)、トリブトキシチタニウム(エチルアセトアセテート)、イソプロポキシチタニウムトリ(メチルアセトアセテート)、イソプロポキシチタニウムトリ(エチルアセトアセテート)、イソブトキシチタニウムトリ(メチルアセトアセテート)、イソブトキシチタニウムトリ(エチルアセトアセテート)などが挙げられる。また、上記のチタンキレート化合物のうち、β-ジケトンキレート基を持つ化合物としては、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトネート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(2,4-ヘプタンジオネート)、ジブトキシチタニウムビス(アセチルアセトネート)、ジブトキシチタニウムビス(2,4-ヘプタンジオネート)、トリイソプロポキシチタニウム(アセチルアセトネート)、トリイソプロポキシチタニウム(2,4-ヘプタンジオネート)、トリブトキシチタニウム(アセチルアセトネート)、トリブトキシチタニウム(2,4-ヘプタンジオネート)、イソプロポキシチタニウムトリ(アセチルアセトネート)、イソプロポキシチタニウムトリ(2,4-ヘプタンジオネート)、イソブトキシチタニウムトリ(アセチルアセトネート)、イソブトキシチタニウムトリ(2,4-ヘプタンジオネート)などが挙げられる。なお、緻密層13aの材料は、これらに限定されるものではない。
【0029】
一方、多孔質層13bは、緻密層13aと比べて空隙が大きく、光吸収層14を形成する際に溶液などが浸潤する層である。光吸収層14の材料は多孔質層13bの空孔に充填されて保持される。したがって、多孔質層13bは、電子輸送層13と光吸収層14の接触面積を拡大し、光吸収層14での光励起で生成した電子を効率よく電子輸送層13に移動させる機能を担う。これにより、光吸収層14での光励起で生成した電子を多孔質層13bによって効率よく電荷分離することができ、電子および正孔の再結合を抑制できる。この結果、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
なお、多孔質層13bの厚さは、例えば、10nm~2000nmの範囲が好ましく、20nm~500nmの範囲がさらに好ましい。
【0030】
一例として、電子輸送層13を酸化チタンで形成する場合、多孔質層13bは、以下の製法で形成することができる。まず、例えば、酸化チタン粒子を含む塗布液を調製し、スピンコート法、スクリーン印刷法、スプレーパイロリシス法、エアロゾルデポジション法等の製膜方法によって塗布液を緻密層13a上に塗布する。その後、焼成を行うことによって酸化チタンの多孔質層13bが形成される。なお、上記の塗布液に有機バインダが含まれる場合には、有機バインダを焼成処理で消失させることが必要である。
【0031】
ここで、酸化チタンにはいくつかの結晶型が存在するが、酸化チタンの多孔質層13bを形成する場合には、アナターゼ型の酸化チタン粒子を用いることが好ましい。
酸化チタンの多孔質層13bの形成に用いる塗布液は、例えば、酸化チタン粒子(日本アエロジル社製P-25など)をアルコール(エタノールなど)に分散することや、酸化チタンペースト(日揮触媒化成社製PS5-24NRTなど)をアルコール(エタノールなど)で希釈することで調製できる。
【0032】
また、上記の塗布液に使用できる有機バインダとしては、特に限定されないが、エチルセルロースやアクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂は、低温分解性に優れ、低温焼成を行う場合でも有機残渣量が少ないため、特に好ましい。アクリル樹脂は、300℃程度の低温で分解するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート及びポリオキシアルキレン構造を有する(メタ)アクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマーを重合した重合体が好適に用いられる。
【0033】
なお、酸化チタンで多孔質層13bを形成する場合、多孔質層13bの空孔の径は、酸化チタン粒子の粒子径の変更や、有機バインダの種類や添加量の変更によって調整することが可能である。
【0034】
(光吸収層14)
光吸収層14は、ペロブスカイト構造を有する化合物を含み、入射光を吸収して電子と正孔を発生させる機能を担う。光吸収層14では、光吸収層を構成する物質における低いエネルギーの電子が入射光により光励起され、より高いエネルギーの電子と正孔とが発生する。光励起で発生した電子は電子輸送層13に移動し、光励起で発生した正孔はホール輸送層15に移動することにより、電荷分離が行われる。
【0035】
ペロブスカイト構造を有する化合物は、無機材料に由来する性質を持つため、有機材料で構成される光吸収層と比べて耐久性が高い。
ペロブスカイト型結晶構造の基本単位格子は、
図3のように示される。光吸収層14に使用できるペロブスカイト構造を有する化合物は、立方晶系の基本単位格子を有している。立方晶の各頂点には有機基Aが配置され、体心には金属Bが配置され、金属Bを中心とする立方晶の各面心にはハロゲンXが配置される。このペロブスカイト構造を有する化合物は、一般式A-B-X
3によって表現される。
【0036】
一般式A-B-X3において、有機基Aの具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、ホルムアミジン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、アゾール、イミダゾリン、カルバゾール及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なお、これらの有機基は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ホルムアミジン及びこれらのイオンやフェネチルアンモニウムが好ましく、メチルアミン、ホルムアミジン及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)、ホルムアミジウム(CHN2H4)等)がより好ましい。金属Aの具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。なお、これらの金属は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。有機基と金属が同時に2種以上併用されてもよい。
【0037】
一般式A-B-X3において、金属Bの具体例としては、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユーロピウム等が挙げられる。これらの中でも、金属Bが鉛であると、光吸収層14の特性が良好であるため好ましい。なお、これらの元素は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
一般式A-B-X3において、ハロゲンXは塩素、臭素又はヨウ素であり、これらの元素は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でも、エネルギーバンドギャップが狭くなることから、Xにヨウ素が含まれることが好ましい。
【0039】
また、光吸収層14は、式(CHN2H4)p(CH3NH3)qArPbX3で示されるペロブスカイト構造を有する化合物を含む層であることが好ましい。ただし、式中、Xはハロゲン原子であり、AはNa、K、Rb、Csであり、rは0≦q≦1で表される数であり、qは0≦y≦1で表される数であり、pは0≦p≦1で表される数であり、p+q+r=1である。
また、上記の式(CHN2H4)p(CH3NH3)qArPbX3で示される化合物において、Xにヨウ素が含まれることがさらに好ましい。
【0040】
光吸収層14として使用できるペロブスカイト構造を有する化合物は、AXで示される化合物とBX2で示される化合物を原料として合成できる。具体的には、ペロブスカイト構造を有する化合物は、AX溶液とBX2溶液を混合して撹拌することで合成できる(1段階法)。また、ペロブスカイト構造を有する化合物は、BX2溶液を例えば多孔質層13b上に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜上にAX溶液を塗布し、BX2とAXを反応させることで合成できる(2段階法)。1段階法及び2段階法のいずれの方法も光吸収層14の形成に利用できる。溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スクリーン印刷法、浸漬塗布法等を適用することができる。
【0041】
(ホール輸送層15)
ホール輸送層15は、光吸収層14と第2導電層16に臨む層である。ホール輸送層15は、光吸収層14で生じた正孔を捕捉し、陽極である第2導電層16に移動させる機能を担う。ホール輸送層15は、2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene(Spiro-OMeTAD)またはpoly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](PTAA)からなるマトリックス成分を含む。なお、光吸収層14とホール輸送層15の間には、正孔と電子の再結合を抑制するために、金属酸化物または有機薄膜からなるパッシベート層(不図示)が設けられていてもよい。
【0042】
また、ホール輸送層15は、キャリア密度が1×1018cm-3以上である特性を有する。ホール輸送層15のキャリア密度を1×1018cm-3以上とすることで、ホール輸送層15と第2導電層16の間でトンネル効果が得られやすくなる。この点については後述する。
【0043】
また、ホール輸送層15は、ホール輸送層15を酸化してキャリア密度を増加させる添加剤を含む。上記の添加剤はリチウム(Li)を含む。一例として、添加剤としては、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチル)イミド(LiTFSI)を適用することができる。また、添加剤のリチウム濃度は、ホール輸送層15の材料であるマトリックス成分との濃度比(モル比)で0.6以上であることが好ましい。
【0044】
ホール輸送層15の厚さは、20nm~500nmの範囲が好ましく、70nm以上130nm以下の範囲がさらに好ましい。
例えば、Spiro-OMeTADでホール輸送層15を形成する場合、ホール輸送層15の厚さを130nm以下とすると、第2導電層16をスパッタリングで製膜するときの酸素プラズマでSpiro-OMeTADが酸化されやすくなる。Spiro-OMeTADの酸化によりホール輸送層15のキャリア密度を一層向上させることができる。
【0045】
また、ホール輸送層15は、非晶質層であってもよい。また、ホール輸送層15は、有機バインダ樹脂、可塑剤等を含んでもよい。
【0046】
ホール輸送層15は、例えば、以下の製法で形成することができる。まず、上記のマトリックス成分の化合物を有機溶媒に溶解させて塗布液を調製し、該塗布液を光吸収層14(あるいは上記のパッシベート層)の上に塗布する。その後、有機溶媒を除去することでホール輸送層15が形成される。ホール輸送層15の形成時に使用する有機溶媒は、光吸収層14の上に塗布するため、有機無機ハイブリッド化合物の結晶構造を乱さない溶剤が好ましい。具体的には、クロロベンゼン、トルエンなどが挙げられる。塗布液の塗布方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スクリーン印刷法、浸漬塗布法等が挙げられる。
【0047】
(第2導電層16)
第2導電層16は、透光性を有する透明導電層であり、太陽電池の陽極として作用する。第2導電層16は、ホール輸送層15の上に形成され、ホール輸送層15と接している。また、本実施形態の第2導電層16は、キャリア密度が1×1016cm-3より大きく1×1020cm-3以下である特性を有している。
【0048】
図4は、透明導電層とホール輸送層の電子準位接続モデルを示す図である。
図4(a)は第1比較例の構成を示し、
図4(b)は第2比較例の構成を示す。これに対し、
図4(c)は本実施形態の第2導電層16とホール輸送層15の構成を示している。
【0049】
図4(a)に示すように、透明導電層とホール輸送層が接する構造では、透明導電層とホール輸送層の接合界面にショットキー障壁が形成される。そのため、ホール輸送層から透明導電層への正孔の流れはショットキー障壁によって妨げられ、効率が低下する。
【0050】
また、
図4(b)に示すように、透明導電層とホール輸送層の間に酸化モリブデンなどのバッファ層を形成すると、酸化モリブデンのフェルミ準位によってホール輸送層のバンドが真空準位に近づく方向に曲がる。したがって、
図4(b)の場合では、
図4(a)のようなショットキー障壁は形成されない。しかしながら、
図4(b)の場合、バッファ層を形成する分の製膜工程が増えることに加えて、酸化モリブデンの薄膜による耐熱性の低下や透光性の低下が生じうる。特に、ペロブスカイト太陽電池を多接合セルのトップセルに用いる場合、トップセルの透光性が低下すると多接合セル全体での効率が低下することにつながる。
【0051】
これに対し、
図4(c)に示す本実施形態の構成では、透明導電層のキャリア密度を1×10
16cm
-3より大きく1×10
20cm
-3以下に設定し、ホール輸送層に比べ透明導電層のキャリア密度を低下させている。これにより、
図4(c)に示す透明導電層では、キャリア密度を高めたホール輸送層との接合により、透明導電層とホール輸送層の接合界面でトンネル効果が発現し、ホール輸送層から透明導電層へ正孔を移動させることができる。したがって、
図4(c)に示す本実施形態の構成では、バッファ層を形成することなく、ショットキー障壁による効率の低下を解消できることが分かる。
【0052】
第2導電層16の材料としては、公知の導電性透明材料を用いることができるが、インジウム、亜鉛、錫のいずれかを含む金属酸化物であることが好ましい。第2導電層16の材料としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性透明材料や導電性透明ポリマー等が挙げられる。
【0053】
本実施形態の第2導電層16は、スパッタ法によってホール輸送層15上に形成される。第2導電層16をスパッタ法で形成すると、添加剤を含むホール輸送層15がスパッタリングの放電による酸素プラズマに曝されて酸化する。これにより、第2導電層16の形成の際に、ホール輸送層15を酸化させてキャリア密度を向上させることが可能となる。
【0054】
ここで、ホール輸送層15の酸化を促進する観点からは、第2導電層16のスパッタ製膜中の放電パワー密度は、0.8W/cm2以上であることが好ましい。また、第2導電層16のスパッタリングにおいて、酸素プラズマを発生させるためにスパッタ装置に導入するキャリアガスの酸素濃度(酸素/(キャリアガス+酸素))は0.5%以上であることが好ましい。
【0055】
また、例えば、第2導電層16の材料がITOの場合、第2導電層16の厚さは5nm~1000nmの範囲が好ましく、10nm~100nmの範囲がより好ましい。
【0056】
(第3導電層17)
第3導電層17は、第2導電層16に積層して形成される補助電極層である。第3導電層17は、陽極の電極全体としての抵抗を下げ、第2導電層16のみで陽極の電極を構成する場合で不足する導電率を改善する機能を担う。第3導電層17は、透明電極であってもよく、金属グリッド等の集電極であってもよい。第3導電層17が透明電極である場合、その材料は第2導電層16の材料と同じでもよく、第2導電層16と異なる材料であってもよい。
【0057】
また、第3導電層17が透明電極である場合、第3導電層17のキャリア密度はいかなる値でもよい。もっとも、デバイスの効率を高める観点からは、第3導電層17のキャリア密度は1×1020cm-3より大きいことが好ましい。また、第3導電層17における透光性を確保する観点からは、第3導電層17のキャリア密度は1×1022cm-3以下であることが好ましい。
【0058】
第3導電層17の材料としては、従来から公知の電極材料を用いることができる。例えば、金、銀、銅、アルミ、ニッケル等の金属材料や、ヨウ化銅(CuI)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性透明材料、導電性透明ポリマー等が挙げられる。上記の材料は、単独で用いられてもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0059】
第3導電層17は、例えば、蒸着や印刷等の通常の方法によって陽極材料の膜を第2導電層16上に形成することで製造できる。また、蒸着マスク等を用いてメッシュ形状やグリッド形状の第3導電層17を形成してもよい。
【0060】
以上のように、上記実施形態の太陽電池は、光吸収層14の光励起で生じた正孔を輸送するホール輸送層15と、ホール輸送層15に接するともにホール輸送層15から正孔を受ける透明導電層16と、を備える。
上記実施形態では、透明導電層16のキャリア密度を1×1016cm-3より大きく1×1020cm-3以下の範囲に設定し、ホール輸送層に比べ透明導電層のキャリア密度を低下させることで、ホール輸送層15との接合界面でトンネル効果を発現させてホール輸送層15から透明導電層16に正孔を移動させることができる。これにより、バッファ層を形成することなく、ショットキー障壁による効率の低下を解消して光電変換の効率を改善できる。また、上記実施形態では、バッファ層の形成に伴う耐熱性の低下や透光性の低下を抑制でき、製膜工程を簡素化することもできる。
【0061】
<実施例の説明>
次に、上記実施形態のペロブスカイト太陽電池の実施例について説明する。
実施例では、評価対象となる単接合セルの太陽電池を、以下の(1)~(7)の工程で製造した。
【0062】
(1)基板および第1導電層
フッ素ドープされたSnO2導電膜(FTO蒸着膜)が750nmの厚さで製膜されているガラス基板(厚さ1.1mm)を用意した。上記のガラス基板を25mm×25mmのサイズに切断した。切断後、UV光照射を30分間行った。
【0063】
(2)電子輸送層の緻密層
まず、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトネート)(Titanium(IV) bis(acetylacetonate) diisopropoxide)の75質量%1-ブタノール溶液(Sigma-Aldrich社製)を1-ブタノールで希釈して、チタンキレート化合物の濃度が0.02mol/Lである緻密層用の塗布液を調製した。次に、上記(1)の工程で得たガラス基板のFTO蒸着膜上に、上記の緻密層用の塗布液をスプレー法により塗布した。その後、塗布液の塗布層を400℃以上500℃以下で10分間加熱して、膜厚約50nmの酸化チタンの緻密層を形成した。
【0064】
(3)電子輸送層の多孔質層
まず、酸化チタンのエタノール分散液(日揮触媒化成製PS5-24NRT)0.6gをエタノール4.2gで希釈し、多孔質層用の塗布液を調製した。次に、上記の(2)の工程で得た緻密層の上に、上記の多孔質層用の塗布液をスピンコート法で塗布した後に焼成した。焼成条件は、550℃、15分間とした。
【0065】
次に、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩(Li-TFSI)(Sigma-Aldrich社製)28.7mgをアセトニトリル1mLに溶解させてドープ用塗布液を調製した。そして、上記のドープ用塗布液をスピンコート法により塗布した後に焼成した。焼成条件は、450℃、30分間とした。これにより、膜厚100nm~200nmの酸化チタンの多孔質層を形成した。
【0066】
(4)光吸収層
まず、PbI2(東京化成工業社製)529mg、PbBr2(東京化成工業社製)74.3mg、MABr(GreatCell Solar社製)22.7mg、FAI(東京化成工業社製)188mgをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(富士フイルム和光純薬社製)0.8mLとジメチルスルホキシド(DMSO)(富士フイルム和光純薬社製)0.2mLの混合溶媒に溶解させて前駆体液を調製した。この前駆体液に対し、ヨウ化カリウム(東京化成工業社製)249mgをDMSO 1mLに溶解させた溶液を5%の容量比で加えることで塗布液を調整した。
【0067】
そして、上記の塗布液を、上記(3)の工程で得た多孔質層上にスピンコート法で塗布することで塗布膜を形成した。また、スピンコート法による塗布液の塗布中には、0.7mLのクロロベンゼンを基板中心に滴下した。そして、塗布後の塗布膜をホットプレート上で焼成した。焼成により塗布膜がすぐに黄褐色から黒色に変化し、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物が形成されたことを確認できた。このようにして1段階法により光吸収層を形成した。
【0068】
(5)ホール輸送層
まず、Spiro-OMeTAD(Sigma-Aldrich社製)を秤量し、72.3mg/mLとなるようにクロロベンゼンを加えて溶かし溶液Aを得た。また、Li-TFSI(Sigma-Aldrich社製)520mgを秤量し、1mLのアセトニトリル(Sigma-Aldrich社製)を加え溶かし溶液Bを得た。
【0069】
次に、1mLの溶液Aに溶液Bを17.5μL加え、さらに4-tert-ブチルピリジン(Sigma-Aldrich社製)を28.75μL添加して攪拌した。この溶液を、上記(4)の工程で得た光吸収層上にスピンコート法で塗布した。そして、塗布膜を加熱乾燥させて有機溶媒を除去し、Li/Spiroのモル比が0.54となる膜厚約180nmのホール輸送層を形成した。
【0070】
(5)の工程では、さらに溶液Aの濃度を36.5mg/mL、57.8mg/mL、48.2mg/mLと変更した溶液を用いて上記と同様の工程を行った。これにより、Li/Spiroのモル比が0.67、0.81、1.07にそれぞれ調整したホール輸送層を形成した。
【0071】
(6)第2導電層
上記(5)の工程で得た各々のホール輸送層上に、DCスパッタリングを用いてITOを陽極として形成し、有機無機ハイブリッド光電変換素子を作製した。DCスパッタリングにおいて、キャリアガスは水素5%を含むArガスを用い、O/(Ar+O)比で0%、0.5%、1.5%、2.5%となるように酸素ガスを添加した。これにより、キャリア密度が4×1020cm-3、1×1020cm-3、1.5×1019cm-3、6×1016cm-3と異なる物性値を有するITOが形成された。製膜中のベース圧力は0.5Paとなるよう調整し、1.6W/cm2の出力で製膜した。なお、第2導電層の膜厚はそれぞれ50nmとなるように製膜時間を調整した。
【0072】
(7)第3導電層
上記(6)の工程で得た各々の第2導電層上に、DCスパッタリングを用いてITOを第3導電層として形成した。DCスパッタリングにおいて、キャリアガスは水素5%を含むArガスを用い、O/(Ar+O)比で1%の酸素ガスを添加し、膜厚がそれぞれ250nmとなるように製膜時間を調整した。
【0073】
(透明導電層のキャリア密度とデバイス特性)
上記の工程で得られる評価対象の太陽電池において、ホール輸送層に接する透明導電層のキャリア密度Nに対する太陽電池のデバイス特性の関係を表1に示す。なお、Jscは短絡電流を示し、Vocは開放電圧を示し、FFは曲線因子を示す。
【0074】
【0075】
表1に示すように、透明導電層のキャリア密度Nが1×1016cm-3より大きく1×1020cm-3以下の範囲では、他の範囲よりも高い効率が得られる。このように、トンネル効果を発現させるためには、ホール輸送層に接する透明導電層のキャリア密度Nは1×1016cm-3より大きく1×1020cm-3以下の範囲が好ましいことが分かる。
【0076】
(ホール輸送層のドープ濃度とデバイス特性)
また、上記の評価対象の太陽電池において、ホール輸送層のドープ濃度に対する太陽電池のデバイス特性の関係を表2に示す。表2の例において、ホール輸送層に接する第2導電層は、いずれもキャリア密度Nが6×1016cm-3の透明導電層である。
【0077】
【0078】
表2に示すように、添加剤のリチウム濃度がSpiro-OMeTADとのモル比で0.6よりも大きいときには、上記のモル比が0.6より小さい場合と比べて効率が高くなることが分かる。なお、透明導電層とホール輸送層が接する構造の光電変換素子では、ホール輸送層へのリチウムのドープ濃度は、一般に0.5程度が最適値とされている。
【0079】
(ホール輸送層のキャリア密度とデバイス特性)
また、ホール輸送層のキャリア密度に対するデバイス特性の値を、SCAPS(Solar Cell Capacitance Simulator)を用いたシミュレーションで求めた。
図5にシミュレーションの結果を示す。
図5(a)、(b)の横軸は、それぞれホール輸送層(Spiro-OMeTAD)のキャリア密度を示す。
図5(a)の縦軸はエネルギー変換効率(PCE)を示し、
図5(b)の縦軸は曲線因子(FF)を示す。
【0080】
図5(a)、(b)に示すように、ホール輸送層のキャリア密度が1×10
18cm
-3以上の場合には、上記のキャリア密度が1×10
17cm
-3の場合と比べて、エネルギー変換効率および曲線因子がいずれも高い値を示す。そのため、トンネル効果を発現させるためには、ホール輸送層のキャリア密度は1×10
18cm
-3以上が好ましいことが分かる。
【0081】
(ホール輸送層の厚さとデバイス特性)
また、上記の評価対象の太陽電池において、ホール輸送層の厚さに対する太陽電池のデバイス特性の関係を
図6に示す。
図6の横軸はホール輸送層(Spiro-OMeTAD)の厚さを示す。
図6の縦軸はエネルギー変換効率(PCE)を示す。
【0082】
図6に示すように、ホール輸送層の厚さが75nm以上で130nm以下の範囲では、エネルギー変換効率は17%を超える実測値を示す。しかし、ホール輸送層の厚さが180nmになるとエネルギー変換効率の実測値は15.5%程度に低下する。このように、スパッタリングによる酸化でホール輸送層のキャリア密度をより向上させるためには、ホール輸送層の厚さは130nm以下が好ましいことが分かる。
【0083】
(透明導電層のスパッタ製膜時のパワー密度)
また、評価対象の太陽電池において、ホール輸送層に接する透明導電層のスパッタ製膜時のパワー密度に対する太陽電池のデバイス特性の関係を表3に示す。表3において、透明導電層の材料はいずれもITOであり、スパッタ製膜時のO/(Ar+O)はいずれも2.5%に固定した。
【0084】
【0085】
表3に示すように、スパッタ製膜時のパワー密度が0.3W/cm2のとき効率9.3%であるのに対し、上記のパワー密度が0.8W/cm2以上のときの効率は15%を超える値を示す。このように、スパッタ製膜時の酸素プラズマでホール輸送層の酸化を促進してホール輸送層のキャリア密度を高めるためには、スパッタ製膜時のパワー密度は0.8W/cm2以上が好ましいことが分かる。
【0086】
(透明導電層のスパッタ製膜時におけるガスの酸素濃度)
また、評価対象の太陽電池において、透明導電層のスパッタ製膜時のキャリアガスの酸素濃度(O/(Ar+O))に対する透明導電層のキャリア密度の関係を表4に示す。表4において、透明導電層の材料はいずれもITOである。
【0087】
【0088】
表4に示すように、キャリアガスの酸素濃度(O/(Ar+O))が増えるほど、透明導電層のキャリア密度は低下していく。また、キャリアガスの酸素濃度が0.5%以上であれば、ホール輸送層に接する透明導電層のキャリア密度を1×1020cm-3以下にできることが分かる。
【0089】
(バッファ層の有無とデバイス特性)
次に、
図7を参照して、本実施形態の実施例と、MoO
xのバッファ層を有する比較例とのデバイス特性について説明する。ここで、実施例は、MoO
xのバッファ層がなく、ITOのキャリア密度は6.4×10
16cm
-3であり、Li/Spiro-OMeTADのモル比が0.81である。
【0090】
図7(a)は、実施例と比較例のJ-V特性を示すグラフである。
図7(a)の縦軸は電流(mA cm
-2)を示し、
図7(a)の横軸は電圧(mV)を示す。
図7(a)において、バッファ層を有する比較例と比べて、実施例は高い効率を示すことが分かる。
【0091】
図7(b)は、実施例と比較例の透過スペクトルを示すグラフである。
図7(b)の縦軸は透過率(%)を示し、
図7(b)の横軸は波長(nm)を示す。
図7(b)において、バッファ層を有する比較例と比べて、実施例はいずれの波長域でも高い透過性を示すことが分かる。
【0092】
図7(c)は、85℃加熱時における実施例と比較例の変換効率の時間推移を示すグラフである。
図7(c)の縦軸はエネルギー変換効率を示し、
図7(c)の横軸は時間(hour)を示す。
図7(c)において、バッファ層を有する比較例と比べて、実施例は加熱時における効率の低下が抑制されていることが分かる。
【0093】
また、実施例と比較例の各種デバイス特性を表5に示す。バッファ層を有する比較例と比べて、実施例は、効率、800-1200nm平均透過率、維持率がいずれも高い性能を示している。
【0094】
【0095】
<実施形態の補足事項>
上記実施形態では、光電変換素子の一例としてペロブスカイト太陽電池の構成例について説明した。しかし、本発明の光電変換素子の構成は、例えば、フォトダイオード、光センサなどに適用されるものであってもよい。
【0096】
上記実施形態では、1つの太陽電池セルである単接合セルの構成と、太陽電池セルを2層積層した多接合型太陽電池の構成を説明した。しかし、本発明の光電変換素子の構成は、太陽電池セルを3層以上積層した多接合型太陽電池にも同様に適用できる。この場合において、本発明の光電変換素子の構成は、トップセルに限定されることなくいずれのセルにも適用できる。
【0097】
以上のように、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。実施形態は、上記以外の様々な形態で実施することが可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更など、を行える。実施形態およびその変形は、本発明の範囲および要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明およびその均等物についても、本発明の範囲および要旨に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
10,10A…太陽電池、11…基板、12…第1導電層、13…電子輸送層、13a…緻密層、13b…多孔質層、14…光吸収層、15…ホール輸送層、16…第2導電層、17…第3導電層、21…第1の電極層、22…光電変換層、23…バッファ層、24…第2の電極層、TC…トップセル、BC…ボトムセル