(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009300
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】アルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/42 20060101AFI20230112BHJP
C07D 307/12 20060101ALI20230112BHJP
C07D 407/04 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
C07D307/42
C07D307/12
C07D407/04
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184878
(22)【出願日】2022-11-18
(62)【分割の表示】P 2021141396の分割
【原出願日】2017-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2016126723
(32)【優先日】2016-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016172826
(32)【優先日】2016-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究事業(先端的低炭素化技術開発(ALCA))、「非可食バイオマスからカルボン酸およびアルコール類の高効率合成」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中島 清隆
(72)【発明者】
【氏名】福岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】キム ミンジュン
(72)【発明者】
【氏名】青島 敬之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 武士
【テーマコード(参考)】
4C063
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC81
4C063CC82
4C063DD75
4C063EE05
(57)【要約】
【課題】バイオマス原料からアルコールを製造するに当たり、副反応を抑制して目的とするアルコールを高収率で得ることができると共に、長期操業安定性にも優れたアルコールの製造方法を提供する。
【解決手段】バイオマス原料からアルコールを製造するに当たり、フラン骨格を有するアセタール中間体を経由してアルコールを製造する方法。アセタール中間体を製造し、これを水素ガスを用いて水素化する工程を経ることによりアルコールを製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料から誘導される糖類原料からフランジメタノールまたはテトラヒドロフランジメタノールを製造する方法において、第一工程として前記糖類原料からヒドロキシメチルフルフラールを製造し、第二工程として固体触媒存在下で前記ヒドロキシメチルフルフラールからヒドロキシメチルフルフラールのアセタール中間体を製造し、次いで前記アセタール中間体の水素化を行うことを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記アセタール中間体を水素ガスを用いて水素化することによりアルコールを製造する請求項1に記載のアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記アセタール中間体を水と有機溶媒との混合溶媒を用いて製造する請求項1または2に記載のアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記アセタール中間体が環状アセタールである請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記環状アセタールが6員環環状アセタールである請求項4に記載のアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記水素化を50℃以上で行う請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアルコールの製造方法。
【請求項7】
前記第1工程で得られたヒドロキシメチルフラフールを、前記第2工程前に精製する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアルコールの製造方法。
【請求項8】
前記アセタール中間体が下記式(1A)~(1D)のいずれかで表される請求項1ないし7のいずれか1項に記載のアルコールの製造方法。
【化1】
【請求項9】
前記固体触媒がゼオライト、またはNb2O5を含む請求項1ないし8のいずれか1項に記載のアルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス原料からアルコールを製造する方法に関するものであり、詳しくは、バイオマス原料からアルコールを製造する際に、フラン骨格を有するアセタール中間体を経由することで、副反応を抑制して目的とするアルコールを高収率で得ると共に、長期操業安定性にも優れたアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料枯渇問題、大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境負荷の問題に対する対策が必要となっている。このような社会的要請から現在の大気圏の地球環境下で植生したバイオマス原料から各種有用化学品を製造するプロセスの開発が着目され、精力的に取り進められている。バイオマス原料を化学原料の出発物質として活用する手法は、例えば、植物原料生産が各地に分散して多様化できるので、原料供給が非常に安定していること、および大気圏の地球環境下において為されるために、二酸化炭素の吸収および放出の物質収支の較差が比較的均衡する為に、化石資源原料には全く期待できない、リサイクルを含めた循環型社会の実現性を潜在的に保有する利点を有し、産業上の利用価値は極めて大きい。
【0003】
これまで、化学品原料をバイオマス原料に求める技術としては、CO2排出量削減に大きく貢献する技術として、バイオマス原料そのものを汎用樹脂の原料として用いる手法や該樹脂の原料となるモノマーへバイオマス原料を誘導する手法が種々提案されている。また、バイオマス原料の構造を活用してバイオマス原料から高機能化学品へ誘導する手法の開発も盛んである(非特許文献1)。
【0004】
バイオマス原料から有用化学品へ誘導する反応としては、バイオマス原料の発酵法による生物学的変換方法、触媒反応を代表とする化学的変換方法、電気化学手法を用いた変換方法等が開発されている。しかしながら、これらのバイオマス原料から誘導される化学品を、化石資源から誘導される化学品と代替したり汎用材に適用したりする技術の多くは、汎用化ないし普及にまで至っていないのが実情である。その最大の理由は、化石資源から誘導される原料に比べて、バイオマス原料並びにそこから誘導される原料は、一般に、バイオマス原料特有の窒素含有化合物、硫黄含有化合物、金属塩等の不純物を多く含み、また、ヒドロキシル基やカルボニル基等の反応性官能基を多く有するために、製造時に副反応を引き起こしやすい特徴があることに起因する。すなわち、バイオマス原料を出発物質として適用したプロセスにおいては、これらの不純物や副生物の除去工程が必須となり、製造プロセスが煩雑化し、製造コストが高騰するばかりでなく、製造時の消費エネルギーも高騰するといった経済性ならびに環境負荷の観点で多くの課題を有する。
【0005】
従って、本発明で対象とするバイオマス原料からの誘導化反応においては、如何に効率的な変換反応プロセスを設計できるかが求められ、上記の変換反応の中では、特に触媒反応を用いた化学変換方法が注目されている。例えば、このような効率的な変換技術としては、触媒反応を用いたセルロースからの単糖類や糖アルコール変換技術が、特許文献1~3等に提案されている。
【0006】
一方、バイオマス原料から有用化学品を誘導する一連の触媒反応の中では、フラン環を有する化合物を経由するプロセスが、その機能性、用途の多様性、環境負荷ならびに経済性の観点から特に重要なプロセスとして提案されている。例えば、本発明の製造対象の一つであるフランジメタノールは、一般的に以下の反応で製造されている。
【0007】
【0008】
具体的な製造方法としては、例えば、グルコースやフルクトース等の単糖類から含水ニオブ酸の存在下にヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を製造する方法が特許文献4に提案されている。また、HMFの接触水素化でフランジメタノールを製造する方法については、30~35℃程度の常温付近で製造する手法が特許文献5,6に提案されている。一方、特許文献7では、HMFから接触水素化で1,2,6-ヘキサントリオールや1,6-ヘキサンジオールを製造する方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、上記のバイオマス資源からHMFを経由してアルコールを製造する反応においては、アルデヒド基ならびにヒドロキシル基といった反応性官能基を有するHMFが中間体となり、この反応性中間体の熱安定性が悪いことに起因して、HMFの重合や開環反応等が進行し、特に高温での反応が必要とされるプロセスにおいては、フミン等のオリゴマーならびにポリマーやレブリン酸等の形成により反応収率が低下するばかりでなく、副生するオリゴマーやポリマーが反応器や配管内に付着することにより、反応器の熱伝導効率の低下や配管内閉塞を引き起こし、安定した長期操業が困難になるといった課題がある。また、これらの副生物は一般に着色物であることが多く、製品中に混入して製品の着色を引き起こし、更には、これらの副生物の製品への混入により製品の耐久安定性を損ね、製品中の異物生成の要因にも繋がるといった課題もある。特に、工業製造プロセスにおいて、製造プロセスの長期安定操業が、プロセス設計上の重要な課題となるが、この本質的な課題はバイオマス原料を活用する化学品の製造プロセスにおいては未だ解決されていないのが実情である。従って、原料をバイオマス原料に求める製造プロセスにおいては、反応収率を向上させた効率的な変換反応プロセスの設計のみならず、反応中間体の熱安定性ならびに反応安定性を向上させる反応プロセスの設計が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2011/036955
【特許文献2】特許第5894387号公報
【特許文献3】特許第5823756号公報
【特許文献4】特開2009-215172号公報
【特許文献5】特開2015-48349号公報
【特許文献6】特開2015-229657号公報
【特許文献7】特開2015-3308号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Green Chemistry 15 (2013) 1740-1763
【非特許文献2】Journal of Catalysis 265 (2009) 109-116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、バイオマス原料からアルコールを製造するに当たり、副反応を抑制して目的とするアルコールを高収率で得ることができると共に、長期操業安定性にも優れたアルコールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、バイオマス原料からアルコールを製造する際に、フラン骨格を有するアセタール中間体を経由することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下の[1]~[9]に存する。
【0014】
[1]バイオマス原料からアルコールを製造する方法において、フラン骨格を有するアセタール中間体を経由することを特徴とするアルコールの製造方法。
【0015】
[2]前記アセタール中間体を水素ガスを用いて水素化することによりアルコールを製造することを特徴とする[1]に記載のアルコールの製造方法。
【0016】
[3]前記アセタール中間体を水と有機溶媒との混合溶媒を用いて製造することを特徴とする[1]または[2]に記載のアルコールの製造方法。
【0017】
[4]前記アセタール中間体が環状アセタールであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【0018】
[5]前記環状アセタールが6員環環状アセタールであることを特徴とする[4]に記載のアルコールの製造方法。
【0019】
[6]前記バイオマス原料が糖類原料であることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【0020】
[7]前記アルコールがフランジメタノールまたはテトラヒドロフランジメタノールであることを特徴とする[1]ないし[6]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【0021】
[8] 下記式(1)で表される化合物。
【0022】
【0023】
(式中、R1は水素原子、-CH2OH、-CH2OR2又は-CH2O(C=O)R2で表される基であり、R2は炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。)
【0024】
[9] [8]に記載の化合物からアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の製造方法によれば、バイオマス原料からアルコールを製造する際に、アセタール中間体を経由することで、反応中間体の熱安定性を向上させて、反応中間体の重合や開環反応といった副反応を抑制し、目的とするアルコールの収率を向上させることができる。また、副反応を抑制することによって副生成物の混入による製品品質の低下や、副生重合物による配管閉塞、伝熱効率の低下といった操業トラブルを防止して、アルコールの連続生産を安定かつ効率的に行うことができる。更には、製造したアルコールを原料として誘導される製品の着色や異物の発生をも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本発明において、「当量」とは、モル当量を意味する。
【0028】
本発明のアルコールの製造方法は、バイオマス原料からアルコールを製造する方法において、フラン骨格を有するアセタール中間体を経由することを特徴とする。
【0029】
なお、以下においては、本発明に従ってアルコールとしてテトラヒドロフランジメタノールを製造する場合を主として例示して本発明を説明するが(下記反応式(A))、本発明のアルコールの製造方法は、テトラヒドロフランジメタノールの製造方法に何ら限定されず、例えば、テトラヒドロフルフリルアルコール、フランジメタノール、フルフリルアルコール等のアルコールの製造にも有効に適用することができる。
【0030】
例えば、テトラヒドロフルフリルアルコールを製造する場合は、以下に説明するテトラヒドロフランジメタノールの製造において、炭素数が6の糖類単位を主成分として含むバイオマス原料、又はバイオマス原料から糖化工程を経て製造される炭素数が6の糖類を含む原料(以下、「糖類を含む原料」を「糖類原料」と称す。)を、炭素数が5の糖類単位を含むバイオマス原料又は糖類原料に変更することによりテトラヒドロフルフリルアルコールを製造することができる(下記反応式(B))。また、テトラヒドロフルフリルアルコールは、用いる触媒及び/又は溶媒を適宜変更することにより炭素数が6の糖類からも製造することもできる。また、アルコールとして、フランジメタノール、フリルアルコールを製造する場合は、以下に説明するテトラヒドロフランジメタノールの製造において、使用する触媒や適用する反応条件を適宜選定することにより、フランジメタノール(下記反応式(C))、フルフリルアルコール(下記反応式(D))を製造することができる。
【0031】
【0032】
[メカニズム]
本発明者らは、バイオマス原料および/又はバイオマス原料から誘導される糖類原料から脱水反応により生成するフラン骨格を有するアルデヒド中間体を経由してアルコールを製造する従来法においては、該アルデヒド中間体の熱安定性の悪さに起因して上記の種々の問題が生じることを見出した。そこで、本発明者らは、これらの問題を解決すべく検討を重ね、脱水反応で生成するフルフラール(以下「FRL」と略記する。)やヒドロキシメチルフルフラール(以下「HMF」と略記する。)等のアルデヒド中間体を、アルコール、より好ましくは、ジオールとの反応により直ちにアセタール化、特に好ましくは脱水反応によるフラン骨格の形成と同時にアセタール化することにより、熱安定性が高いアセタール中間体を得、引き続き該中間体の水素化反応により各種アルコールを製造することで、上記の種々の問題を解決することができることを見出した。
【0033】
以下フラン骨格を有するアルデヒドがHMFであり、好ましい態様として、環状アセタールを形成させる場合を例に説明すると(下記反応式(E))、バイオマス原料および/又はバイオマス原料から誘導される糖類原料からの脱水反応により生成したHMFを環状アセタール化するには、反応系にジオールを存在させればよい。使用するジオールは、好ましいジオールとして、1,3-プロパンジオール(1,3-PD)又はエチレングリコール(EG)が選ばれ、形成されるアセタールの熱安定性が顕著に向上する理由から6員環環状アセタール体を形成できる1,3-プロパンジオール(1,3-PD)が特に好ましい。
【0034】
具体的には、脱水反応系内に1,3-プロパンジオール(1,3-PD)又はエチレングリコール(EG)を存在させることで、下記反応式に示すように、脱水反応で生成したHMFは、直ちに1,3-プロパンジオール(1,3-PD)又はエチレングリコール(EG)と反応して、HMFの1,3-プロパンジオールアセタール化物(以下「PD-HMF」と略記する。)又はHMFのエチレングリコールアセタール化物(以下「EG-HMF」と略記する。)に変換される。
【0035】
一方、使用するアルコールは、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、プロパノール(PrOH)、ブタノール(BuOH)等の後述のモノアルコール、又は炭素数が1~6のアルキル置換基を有しても良いフェノール等を用いても良い(下記反応式(F))。この場合も、具体的には、下記反応式に示すように、脱水反応系内にモノアルコール(ROH(Rは炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数が1~6のアルキル置換基を有しても良いフェニル基を表す。))を存在させることで、下記反応式(F)に示すように、脱水反応で生成したHMFは、直ちにモノアルコール(ROH)と反応して、HMFのモノアルコールアセタール化物(以下「R-HMF」と略記する。)に変換される。
【0036】
【0037】
後述の実験例1に示されるように、これらのアセタール化物、特にPD-HMF、EG-HMF等の環状アセタールは、HMFに比べて熱安定性に優れるため、このようなアセタール中間体を経由することで、
(1) HMFの重合によるオリゴマーやポリマーの形成が抑制される。
(2) 上記(1)より、反応収率を高く維持することができる。
(3) 上記(1)より、反応器や配管内に副生成物に起因する汚れが付着し難く、熱伝導率の低下や配管内閉塞といったトラブルを防止して安定生産を行える。また、副生物に起因する着色や異物の発生を防止して高品質の製品を得ることができる。
といった効果が奏される。
【0038】
なお、フルフラールをアセタール化するには、上記の通り、反応系にアルコールを添加する必要があり、一方で、アセタール中間体の水素化でアルコールを製造する際には、以下の通り、アルコールが副生する。本発明のプロセスにおいては、この工程で副生するアルコールは、通常、例えば、蒸留等の手法を用いて回収され、アセタール化工程のアセタール化剤として再利用される。勿論、副生するアルコールは、製造プロセスの経済性が保たれる場合は、そのまま廃棄してもよい。
【0039】
【0040】
このように、アルコールを添加してアセタール化し、次いで脱アルコールするというように、後工程で除去することになる成分を前工程で添加し、回収する工程は、当業者が通常行うことではなく、反応系にあえてアルコールを添加してフルフラールをアセタール化する本発明のアルコールの製造方法は、従来の合成法からは容易に想起し得ないものである。上記の特徴を有するバイオマス原料又はその誘導体を原料として扱う際には、反応中間体を如何に安定化してバイオマス原料由来の副生物の生成を抑制するかが、プロセス全体を設計する上で特に重要である。本発明の手法を採用することにより、バイオマス原料又はその誘導体を原料とする製造プロセスにおいて特有の上記の種々の課題を解決することができる。
【0041】
尚、本発明における環状アセタールは HMFの場合に、ヒドロキシル基がカルボン酸無水物((R2CO)2O(R2は、炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。))との反応によりエステル基に誘導された環状体アセタール、或いはヒドロキシル基がアルコール(R2OH(R2は、炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。))との反応によりエーテル基に変換された環状体アセタールであっても良い。
【0042】
以下、本発明の好ましい形態について詳細に説明する。
【0043】
[バイオマス原料]
本発明におけるバイオマス原料とは、植物の光合成作用で太陽の光エネルギーがデンプンやセルロース、ヘミセルロースなどの形に変換されて蓄えられたもの、植物体を食べて成育する動物の体や、植物体や動物体を加工してできる製品等が含まれる。バイオマス原料としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、おから、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、タピオカ、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。この中でも木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、おから、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、タピオカ、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、古紙、製紙残渣等の植物資源が好ましく、より好ましくは、木材、稲わら、籾殻、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、バガス、芋、油脂、古紙、製紙残渣であり、最も好ましくはとうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、バガス、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバーである。
【0044】
本発明においては、例えば、Green Chemistry 16 (2014) 4816-4838、ならびにその引用文献に記載の文献等の公知手法を用いて、これらのバイオマス原料から直接FRLやHMFへ誘導し、その後、該FRLや該HMFとアルコールとの反応によりアセタールへ誘導する手法は、バイオマス原料からの糖化工程を経る必要がなく、最終目的物までの反応ステップ数が少なくなる理由から、好ましい態様である。また、バイオマス原料とアルコールとを共存させ、該手法を用いて直接FRLやHMFのアセタール体へ誘導しても良い。反応ステップ数が少なく、反応プロセスが効率的であるという点では、後者のバイオマス原料とアルコールとを共存させ、直接アセタールを得る手法が好ましい。
【0045】
[糖化]
本発明においては、上記のバイオマス原料からFRLやHMFならびにそれらのアセタール体へ直接誘導する手法以外にも、特に限定はされないが、例えばバイオマス原料を酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、物理的処理等の公知の前処理・糖化の工程を経て、バイオマス原料に含まれる多糖類をその構成単位である糖類まで分解(糖化)してオリゴ糖、2糖や単糖を含む糖液を得、その糖液からFRLやHMFを得て、上述の通り、ジオールと反応させることにより、それらのアセタール体へ誘導する手法も、好適に使用できる。この手法を用いることにより、バイオマス原料に含まれる異物や不純物によるアセタール化反応の反応収率や生成アセタール体の純度の低下を回避することが可能となる。
【0046】
バイオマス原料の糖化方法については、特に限定されず、例えば、Green Chemisry 16 (2014) 4816-4838、ならびにその引用文献に記載の文献等の、公知手法を用いることができる。
【0047】
その工程は、特に限定はされないが、通常、バイオマス原料をチップ化する、削る、擦り潰す等の前処理による微細化工程が含まれる。必要に応じて、更にグラインダーやミルによる粉砕工程が含まれる。こうして微細化されたバイオマス原料は、更に前処理・糖化の工程を経て糖液が製造されるが、その具体的な方法としては、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸等の強酸による酸処理、アルカリ処理、アンモニア凍結蒸煮爆砕法、溶媒抽出、亜臨界流体処理、超臨界流体処理、酸化剤処理等の化学的方法や、微粉砕、蒸煮爆砕法、マイクロ波処理、電子線照射等の物理的方法、微生物や酵素処理による加水分解といった生物学的処理、或いはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
上記のバイオマス原料から誘導される糖類としては、通常、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース、ペントサン、キシラン、サッカロース、澱粉、セルロース等の2糖・オリゴ糖・多糖類、が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、キシロースが好ましい。その中でも、反応収率が高い理由から、フルクトース、キシロースが特に好ましい。一方、より広義の植物資源由来の糖類としてはセルロースやヘミセルロースが好ましい。
【0049】
バイオマス原料の糖化で得られる糖液は通常、糖類の水溶液であり、水と糖類以外に他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されないが、例えばバイオマス原料から糖類を得た際に生じる糖類以外の副生成物や糖原料に含まれる不純物を含んでいてもよい。このような不純物としては、具体的には、糖類以外のカルボニル化合物、脂肪族共役アルコール等のアルコール化合物、リグニン由来のフェノール化合物や、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、窒素化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、硫酸イオン等の無機化合物等が挙げられる。
【0050】
本発明における糖液中に含まれる糖類の合計濃度(以下「糖濃度」という)は、糖液の由来や、含有する糖の種類等によって大きく変動し、特に限定されないが、その下限は、通常1質量%以上、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、一方、その上限は通常60質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下である。この糖液は、そのまま次工程に供してもよく、必要に応じて、減圧下で水を留去する方法、加熱して水を留去する方法、又は、国際公開WO2010/067785に記載のナノ濾過膜および/または逆浸透膜に通じて濾過する方法等を用いて、糖成分が濃縮された濃縮糖液を得、次工程に供しても良い。特に、糖液を濃縮する手法は、その後の脱水反応ならびにアセタール化反応において、プロセス全体の生産性が向上する点で好ましい。
【0051】
また、その他の手段として、公知の手法を用いて、糖液からグルコース、フルクトース、キシロース等の単糖類を分離し、分離した単糖類を次工程に供する方法は、原料中の不純物量を低減させることが可能となり、その後の反応工程の反応収率が向上すると共に、ロット間のその変動量を低減させることが可能となる為、安定した長期操業が可能である点で最も好ましい態様である。これらの単糖類は、現在工業スケールで入手が可能である。本発明では、糖成分の含有量が多い糖液を得る為に、単離された単糖類を追添加しても良い。
【0052】
[脱水・アセタール化]
本発明におけるアセタール中間体を経由するアルコールの製造においては、バイオマス原料から直接アセタール中間体を製造する方法、或いはバイオマス原料から糖化工程を経て糖類原料へ一旦誘導し、該糖類原料からアセタール中間体を製造する方法が用いられる。
【0053】
また、これらの手法において、バイオマス原料及び/又は糖類原料からアセタール中間体を製造する為には、バイオマス原料及び/又は糖類原料からFRL及び/又はHMFを製造する工程と、FRL及び/又はHMFからアセタール体を製造する工程との2工程を経て行ってもよく(以下、この方法を「2段法」と称す。)、バイオマス原料及び/又は糖類原料から生成したFRL及び/又はHMFを直ちにアセタール体に変換するように1工程で行ってもよい(以下、この方法を「1段法」と称す。)。即ち、後述のアセタール化用アルコールの存在下では、熱安定性が低いFRL及び/又はHMFは直ちにFRL及び/又はHMFのアセタール体に変換されるため、バイオマス原料や糖類原料から脱水反応により生成するFRL及び/又はHMFの製造反応系にアセタール化用アルコールを存在させておくことにより、同一の反応系内で熱安定性が高いアセタール中間体を形成させることができる。これにより、中間体の反応収率が向上するばかりでなく、副生する着色物や重合物の生成を低減することが可能になり、これらの製品への混入が抑制された工業的に有利な製造プロセスとなる。特に、本発明の効果は、HMFアセタール中間体を経由する製造プロセスを採用することにより顕著となる。
【0054】
なお、2段法でアセタール中間体を製造する場合、一旦製造したFRL及び/又はHMFを単離及び/又は精製(以下「単離/精製」と記載する。)して別の反応容器でアセタール化を行ってもよく、FRL及び/又はHMFを単離/精製することなく同一の反応容器でアセタール化を行ってもよい。
【0055】
バイオマス原料及び/又は糖類原料からのFRL又はHMF、更にはそのアセタール体の製造は、触媒の存在下に、溶媒中で行うことが好ましい。触媒としては、バイオマス原料又は糖類原料からFRL又はHMF、更にはそのアセタール体を製造することができるものであればよく、特に制限はないが、通常、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、ホウ酸等の無機酸およびそれらのアルカリ金属又はアルカリ土類金属等の金属塩、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸およびそれらのアルカリ金属又はアルカリ土類金属等の金属塩、アンバーリスト、アンバーライト、ダイヤイオン等の酸性陽イオン交換樹脂、ゼオライト、Al2O3、TiO2、ZrO2、SiO2-Al2O3、SiO2-MgO、SiO2-TiO2、Nb2O5、YNbO4、SnO2、In2O3、Ga2O3、WO3、MoO3、Ta2O5、CeO2、Nb2O5-WO3、Nb2O5-MoO3、TiO2-WO3、TiO2-MoO3、SiO2-Nb2O5、SiO2-Ta2O5、SiO2-ZrO2等の金属酸化物や金属複合酸化物、粘土、硫酸化ZrO2等の硫酸固定化触媒、リン酸で処理したチタニアやニオビア等のリン酸固定化触媒、ヘテロポリ酸等が挙げられる。
【0056】
また、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸等の脂肪族モノカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アコニット酸、イタコン酸、オキサロ酢酸、フマル酸、マレイン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸等の脂肪族トリカルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、メロファン酸、プレニト酸、ピロメリト酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリト酸等の芳香族カルボン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等のヒドロキシカルボン酸等の有機酸およびこれらの有機酸の少なくとも一部を中和したアルカリ金属やアルカリ土類金属等の塩も触媒として用いることができる。
【0057】
本発明においては、上記触媒の中では、反応溶媒に不溶の固体触媒を用いて不均一系で反応を行うことが、連続流通反応が容易であり且つ反応選択性が高い点で好ましい。具体的には、上記触媒の中では、アンバーリスト、アンバーライト、ダイヤイオン等の酸性陽イオン交換樹脂、ゼオライト、Nb2O5、YNbO4、Ta2O5、Nb2O5-WO3、Nb2O5-MoO3、TiO2-WO3、TiO2-MoO3、SiO2-Nb2O5、SiO2-Ta2O5等の金属酸化物や金属複合酸化物、粘土、硫酸化ZrO2等の硫酸固定化触媒、リン酸で処理したチタニアやニオビア等のリン酸固定化触媒等が好ましい。中でも、HMFのアセタール化反応のみを選択的に進行させるという点で、ゼオライト、Nb2O5、Nb2O5-WO3、Nb2O5-MoO3がより好ましく、特にゼオライト、Nb2O5が好ましい。
【0058】
これらの触媒は、単独で用いても、2種類以上組み合わせて用いてもよい。触媒を2種類以上用いるときは、その組み合わせは特に限定されず、それぞれの金属が触媒活性を有するもの(共触媒)でも、1種類以上の金属の触媒活性を向上させるもの(助触媒)であってもよい。
【0059】
これらの触媒は、触媒が溶媒に可溶な場合は、バイオマス原料又は糖類原料に対して、通常、その下限は、0.001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、一方その上限は、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。一方、反応溶媒に不溶の固体触媒を用いて、例えば、固定床反応器や懸濁床反応器で連続式反応を行う場合はこの限りではない。
【0060】
溶媒としては、通常、水や有機溶媒が使用されるが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましい場合がある。コスト優位性の観点からは、反応溶媒として単一の溶媒を用いることが好ましく、アセタール中間体の収率向上の観点からは、反応溶媒として水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましい場合がある。有機溶媒の選択によっては、均一混合溶媒で反応を行うことができるが、生成するFRLやHMF又はそれらのアセタール体の重合や分解反応を抑制し、アセタール体の収率が向上するため、水層と有機層の2層系となる有機溶媒を用いることが好ましい場合がある。即ち、この手法を用いることにより、生成したFRLやHMF又はそのアセタール体を有機溶媒中に抽出する連続抽出反応を行うことができ、反応後、反応液を2層分離することで、生成物を有機溶媒層から効率的に分離することができる。
【0061】
用いる有機溶媒としては、生成するFRL、HMF、並びにそれらのアセタール化反応を阻害するものでなければ、特に限定されるものではないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ブチルエーテル、ペンチルエーテル、ヘキシルエーテル、オクチルエーテル、ノニルエーテル、デシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数4~20のエーテル類;2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、シクロヘキサノン、4-メチル-2-ペンタノン、2-ヘプタノン、5-メチル-2-ヘキサノン、2,4-ジメチルペンタノン、5-ノナノン、4-デカノン、5-デカノン、2-ウンデカノン、4-ウンデカノン、3-ドデカノン、2-トリデカノン、2-テトラデカノン、4-テトラデカノン、2-ペンタデカノン、3-ペンタデカノン、7-ペンタデカノン、2-ヘキサデカノン、3-ヘキサデカノン、4-ヘキサデカノン、6-ヘキサデカノン、2-ヘプタデカノン、4-ヘプタデカノン、9-ヘプタデカノン、3-オクタデカノン、アセトフェノン等の炭素数4~20のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソドデカンなどの炭素数3~12の飽和脂肪族炭化水素化合物類;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、1-メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、ヘキサクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;その他、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルモルホリン、N-メチル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、スルホラン、イソソルビド、イソソルビドジメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ならびにこれらの混合物等が挙げられる。その他、例えば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムブロミド等のピロリジニウム塩;1-ブチル-1-メチルピペリジニウムトリフラート等のピペリジニウム塩;1-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート等のピリジニウム塩;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイミダゾリウム塩;テトラブチルアンモニウムクロリド等のアンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムブロミド等のホスホニウム塩;トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等のスルホニウム塩、等のイオン性液体を用いても良い。
【0062】
これらの中では、前記有機溶媒が、エーテル、ケトン、エステル、アルコール、フェノール、ラクトン、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素および飽和脂肪族炭化水素よりなる群の少なくとも1つから選ばれることが好ましい。これらの中では、環境負荷が少ないという理由からは、エーテル、ケトン、エステル、ラクトン、芳香族炭化水素、および飽和脂肪族炭化水素よりなる群の少なくとも1つから選ばれることが好ましい。
【0063】
また、2層系で反応を行う場合は、アセタール体の抽出効率が高く、また、有機溶媒の水への溶解量が少ない点で、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、1-メチルナフタレン、シクロヘキサン、イソドデカンが好ましく、これらの中では特に、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ブチルフェノール、シクロヘキサノン、トルエンが好ましい。これらの有機溶媒は溶媒の回収・再利用を考慮すると1種のみを用いるのが好ましいが、2種以上を用いてもよい。
【0064】
尚、本発明においては、アセタール化剤としてアルコールを反応試剤として使用するが、アルコール自体を反応溶媒として使用することができ、その後の反応溶媒の回収、精製工程での煩雑さが回避できる理由から、アルコールを反応溶媒兼アセタール化剤として使用する手法は、好ましい態様の一つである。そのようなアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデシルアルコール、1-ラウリルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデカノール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデカノール、シス-9-ヘキサデセン-1-オール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、16-メチルヘプタデセン-1-オール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール等の炭素数1~20のモノアルコール類;エチレングリコール、プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1-フェニル-1,3-プロパンジオール、2-フェニル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1-フェニル-エチレングリコール等の炭素数1~6のアルキル基や、アルキル置換基を有しても良い炭素数6~12のアリール基を置換基として有するジオール類;フェノール、メチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール等の炭素数6~12のフェノール類が挙げられる。
【0065】
本発明において、水と有機溶媒の混合溶媒を用いる際の有機溶媒の使用量は、本発明の趣旨を損ねない限り、特に限定されないが、水に対して10~5000質量%であることが好ましく、特に10~1000質量%であることが好ましい。上記範囲よりも有機溶媒の使用量が少な過ぎると、生成するFRLやHMF又はそれらのアセタール体の重合や分解反応が起こりやすく、それに伴いアセタール中間体の収率が低下する傾向があり、一方、多過ぎると、生成するアセタール中間体を回収する際に多量の有機溶媒を除去する必要が生じ、回収効率が低下し、プロセスが煩雑化するばかりでなく、反応設備が大きくなり経済的に不利になる傾向が有る。
【0066】
従って、糖類原料として、糖液を用いる場合は、糖液中の水に対して、上記範囲となるように有機溶媒或いは水と有機溶媒を添加することが好ましい。
【0067】
HMFのアセタール化のために添加するアルコール(以下「アセタール化用アルコール」と称す場合がある。)は、具体的には、使用される反応溶媒として例示したモノアルコール類、ジオール類、フェノール類が例示される。その中では、生成するHMFのアセタールが環状アセタール構造を有し、アセタールの熱安定性が高く、重合や開環反応といった副反応が抑制され、また、着色が起こりにくい理由から、ジオール類が好ましい。このような熱安定性が高いHMFの環状アセタール中間体を製造する際には、添加するジオール(以下「環状アセタール化用ジオール」と称する場合がある。)は、生成させる環状アセタール中間体の種類に応じて適宜決定され、PD-HMFの製造には6員環環状アセタールを形成可能なジオールが、EG-HMFの製造には5員環骨格のアセタールを形成可能なジオールが使用される。その中でも、アセタール中間体は6員環環状アセタールであることが好ましいために、使用するジオールも6員環環状アセタールが形成可能なジオールが好ましい。具体的には、PD-HMFの製造には1,3-プロパンジオールが、EG-HMFの製造にはエチレングリコールが代表的な例として例示されるが、何らこれらに限定されるものではなく、炭素数1~6のアルキル基やアルキル置換基を有しても良い炭素数6~12のアリール基を置換基として有する2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1-フェニル-1,3-プロパンジオール、2-フェニル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1-フェニル-エチレングリコールであっても良い。また、カテコールも好適に用いられる。これらの環状アセタール化用ジオールは2種以上を用いることも可能であるが、通常1種類が用いられる。尚、本発明においては、環状アセタール化剤として上記のジオールを反応試剤として使用するが、該ジオールを上記の有機溶媒として使用することもでき、その後の反応溶媒の回収、精製工程での煩雑さが回避できる理由から、ジオールを溶媒兼アセタール化剤として使用する手法は、好ましい態様の一つである。
【0068】
反応溶媒に対するバイオマス原料及び/又は糖類原料の使用量は、特に反応を不均一系で実施する際は特に制限はない。
【0069】
反応溶媒に原料を溶かして均一系で行う場合、反応溶媒に対する原料の濃度として、通常、その下限は、0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上、より好まくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上である。一方、その上限は、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好まくは25質量%以下である。原料濃度が上記下限値以上であると、アセタール中間体と溶媒との分離効率が高くなる傾向があり、原料濃度が上記上限値以下であると副反応を抑制できアセタール体の収率が高くなる傾向があり、好ましい。なお、反応を均一系で行う際の反応液中の原料の濃度とは、2段法の場合は、反応に用いられる溶媒(糖液を用いる場合、糖液中の水を含む)と触媒と原料との合計に対する原料の割合であり、1段法の場合は、更に上記のアセタール化用ジオールを加えた合計に対する原料の割合である。
【0070】
2段法の場合、HMFを得る脱水反応の反応温度は、100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上であって、250℃以下であることが好ましく、より好ましくは230℃以下である。反応温度が上記下限値以上であると、反応の進行が速くなる傾向があり、生成物の生産性が向上する。反応温度が上記上限値以下であると、生成物及び反応中間体の分解や重合を抑制し、生成物の収率を向上させる傾向があるため好ましい。また、2段法の場合、脱水反応でFRLやHMFを生成させた後、生成FRLやHMFを単離/精製して、或いは単離/精製せずに上記のアセタール化用アルコールを添加して更に脱水・アセタール化を行って、FRL又はHMFのアセタール体を得てもよい。アセタール化に用いる前述のアセタール化用アルコールは、想定されるFRL又はHMFの生成当量以上であればよく、通常想定されるFRL又はHMFの生成量に対して1~10当量倍添加して(但し、アセタール化用アルコールを反応溶媒として使用する際には、反応溶媒量のアルコールを添加して)、反応温度は10~150℃で行うことが好ましい。
【0071】
また、1段法の場合、反応液中の単糖類濃度及び反応溶媒中の有機溶媒量が前述の範囲となるように、単糖類又は糖液に溶媒を加え、更に前述のアセタール化用アルコールを想定されるFRL又はHMFの生成量に対して1~10当量倍添加して(但し、アセタール化用アルコールを反応溶媒として使用する際には、反応溶媒量のアルコールを添加して)、反応温度の下限としては、通常100℃以上、好ましくは120℃以上であって、一方、その上限は、通常250℃以下、好ましくは230℃以下で、脱水及びアセタール化反応を行うことが好ましい。
【0072】
このようにして2段法又は1段法でアセタール中間体を生成させた反応液は、そのまま、以下の水素化に供してもよく、生成したアセタール中間体を単離/精製した後、水素化に供してもよい。
【0073】
[水素化]
アセタール中間体の水素化は、触媒の存在下に行うことが好ましく、本発明において使用される水素化触媒は、特に制限はされないが、接触水素化能を有する金属元素(以下、「特定金属成分」と称する場合がある。)を有効成分として含む触媒が挙げられる。
【0074】
特定金属成分としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、口ジウム、オスミウム、パラジウム、白金、金、イリジウム、銅、亜鉛、銀、モリブデン、タングステン、クロム、マンガン、レニウム、及びこれらの混合物が挙げられる。その中でも、水素化触媒能が高く、反応選択性が良好である理由から、ニッケル、鉄、ルテニウム、口ジウム、パラジウム、白金、金、イリジウム、銅、亜鉛、モリブデン、クロム、マンガン、レニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む固体触媒であると好ましく、特に好ましくはニッケル、ルテニウム、口ジウム、パラジウム、白金、金、イリジウム、銅、亜鉛、モリブデン、レニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む固体触媒である。
【0075】
この特定金属成分は、水素化能を示すのであれば、金属状態であっても、陽イオンの状態であってもよい。これらの中では、金属状態の方が水素化能が強く、還元雰囲気下で安定であるため、金属状態であることが好ましい場合がある。特定金属成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて、固体触媒に含有された状態で用いることができる。また、特定金属成分を2種以上用いる場合、それらの組み合わせ、混合比率及び形態について特に制限はなく、個々の金属の混合物、あるいは、合金又は金属間化合物のような形態で用いることができる。
【0076】
これらの特定金属成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられるものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、アンミン錯体及びカルボニル錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0077】
本発明で使用される水素化触媒は、金属成分として特定金属成分を単独で又は接触水素化能を有しない金属と組み合わせて用いることもできる。その例としては、特定金属成分の金属微粉末で構成されるパラジウムブラック及び白金ブラックのような触媒、並びに、特定金属成分とアルミニウムと少量の添加物とから合金を形成し、その後にアルミニウムの全部又は一部をリーチングさせることにより調製されるスポンジ触媒が挙げられる。
【0078】
また、触媒の活性、選択性及び物性等を一層向上させるために、アルカリ金属元素としてリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム、アルカリ土類金属元素としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム、ハロゲン元素としてフッ素、塩素、臭素及びヨウ素、補助添加元素としてアルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、ケイ素、鉛、ビスマス、錫、テルル及びアンチモンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の元素の化合物(以下、特定添加成分と称する場合がある。)を、前述の特定金属成分と共に触媒に添加して用いることもできる。これらの特定添加成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられたものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩及びアンミン錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、特定添加成分の添加方法、及び特定添加成分と特定金属成分との比率についても特に制限はない。
【0079】
本発明で使用される水素化触媒において、特定金属成分に非金属物質を組み合わせて用いることもできる。非金属物質としては、例えば、主に、元素単体、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩及びリン酸塩が挙げられる(以下、「特定非金属成分」と称する場合がある。)。その具体例としては、例えば、グラファイ卜、ダイアモンド、活性炭、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリ力)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化クロム、アルミノシリケ一ト、アルミノシリコホスフエート、アルミノホスフエ一ト、ポロホスフエ一ト、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)、塩化アパタイト、フッ化アパタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸バリウムが挙げられる。特定非金属成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。2種以上を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率、形態については特に制限はなく、個々の化合物の混合物、複合化合物、又は複塩のような形態で用いることができる。工業的に用いる観点から、簡便で廉価に得られる特定非金属成分が好ましい。
【0080】
水素化触媒としては、特定金属成分を単独で用いてもよく、特定金属成分と特定非金属成分とを組み合わせて用いてもよく、場合によっては、これらに加えて特定添加成分を含んでもよい。
【0081】
水素化触媒の製造方法は特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。その例として、特定金属成分の原料化合物を、特定非金属成分上に含浸する方法(担持法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分の原料化合物とを適当な溶媒に共に溶解させた後にアルカリ化合物などを用いて同時に析出させる方法(共沈法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分を適当な比率で混合均一化する方法(混練法)などが挙げられる。
【0082】
水素化触媒の組成又は触媒調製法の都合によっては、特定金属成分を陽イオンの状態で調製した後に還元処理して、金属状態とすることもできる。そのための還元方法及び還元剤としては、従来公知のものを用いることができ、特に制限はない。還元剤としては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニア、ヒドラジン、ホスフィン及びシランのような還元性無機ガス、メタノール、ホルムアルデヒド及びギ酸のような低級含酸素化合物、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化リチウムアルミニウムのような水素化物が挙げられる。その中では還元処理後に分離精製の必要がない水素ガスが好ましい。これらの還元剤が存在する気相中又は液相中で、陽イオンの状態の特定金属成分を還元処理することにより、特定金属成分は低原子価金属の状態に変換される。この時の還元処理条件は、特定金属成分及び還元剤の種類や分量などにより、好適な条件に設定することができる。この還元処理の操作は、アセタール中間体の水素化の前に、別途、触媒還元装置を用いて行ってもよく、アセタール中間体の水素化反応器中で反応開始前又は反応操作と同時に行ってもよい。
【0083】
また、水素化触媒の金属含有量及び形状にも特に制限はない。その形状は粉末状であっても成形したものであってもよく、成形した場合の形状及び成形法についても特に制限はない。例えば、球状品、打錠成形品及び押出成型品、並びにそれらを適当な大きさに破砕した形状を、適宜選択して用いることができる。
【0084】
水素化触媒における金属の含有量は、特に限定されないが、金属に換算した重量百分率で、触媒の全重量に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上より好ましくは1質量%以上であり、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。金属含有量を前記範囲内とすることにより、十分な触媒活性を得ることができる。なお、以下の触媒の記載において、質量%と記載されている値は、その触媒の全重量に対する金属含有量を示す。
【0085】
水素化に用いる水素源としては特に限定はされないが、反応終了後に分離精製の必要がない気体の水素を用いることが望ましい。
【0086】
水素ガス圧は、特に限定はされないが通常、水素ガスの加圧条件下で行われる。水素化反応時の水素ガス圧は、通常0.1MPa以上、好ましくは0.3MPa以上、より好ましくは0.4MPa以上で、通常15MPa以下、好ましくは20MPa以下、より好ましくは5MPa以下、更に好ましくは3MPa以下である。
【0087】
一般的には、反応圧力を上昇させると水素化触媒への水素供給が促進され、反応速度が向上する。一方で、高い反応圧力で実施するには特別に耐圧性を高めた反応器等の設備が必要となるほか、水素化能力が上るため水素化分解が進行する可能性がある。
【0088】
また、水素ガス雰囲気における水素濃度は、特に限定はされないが、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上であり、上限は通常100体積%である。
【0089】
アセタール中間体の水素化は、原料であるアセタールのみを用い無溶媒の環境下で反応を行ってもよく、反応溶媒を用いてもよい。
【0090】
反応溶媒を用いる場合、水素化還元に不活性な状態であれば、その種類や濃度に特に制限はない。ただし、アセタールよりも水素化触媒における特定金属成分と強く相互作用するような反応溶媒を用いると、極端に反応速度が低下したり、反応が停止したりすることがある。このような観点から、例えば、リン、窒素、硫黄を含有する化合物は、反応溶媒として用いない方が好ましいが、反応速度に大きく影響を与えない程度の微量であれば、用いてもよい。反応溶媒として好ましいのは、水、炭化水素類、エステル類、エーテル類及びアルコール類であり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0091】
反応溶媒としては、例えば、水、ペンタン、ヘキサン、2,2-ジメチルブタン、へプタン、2,2,4-卜リメチルペンタン、オクタン、オクタン、及びノナンやその異性体、デ力ン、ペンタデ力ン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンやその異性体、デカリン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、1-メチルナフタレンなどの炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸シクロヘキシル、及び吉草酸メチルやその異性体などのエステル類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジプロプルエーテル、ジブチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルペンチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、エチルシクロペンチルエーテル、エチルシクロヘキシルエーテル、プロピルシクロペンチルエーテル、プロピルシクロヘキシルエーテル、ブチルシクロペンチルエーテル、ブチルシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン及びジメチル-1,4-ジオキサンやそれらの異性体などのエーテル類が挙げられる。また、アルコール類としては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデシルアルコール、1-ラウリルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデカノール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデカノール、シス-9-ヘキサデセン-1-オール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、16-メチルヘプタデセン-1-オール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、エチレングリコール、プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1-フェニル-1,3-プロパンジオール、2-フェニル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1-フェニル-エチレングリコールなどが挙げられる。これらは、複数組み合わせて混合溶媒として使用しても良い。
【0092】
溶媒の使用量は、無溶媒の環境下での反応も可能である為特に限定されないが、アセタールに対して、質量比で、下限は、通常1倍以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、更に好ましくは4倍以上、最も好ましくは5倍以上であり、一方、上限は、通常100倍以下、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下、更に好ましくは20倍以下、最も好ましくは8倍以下である。溶媒の使用量が多すぎると、反応容器が大きくなりすぎ、生産効率が低下して経済性が求められる工業プロセスとして好ましくない。また、少なすぎると、反応速度が低下して反応時間が長くなる傾向があり好ましくない場合がある。しかしながら、本発明に係るアセタール中間体は、特に環状アセタール中間体の場合、熱安定性ならびに重合安定性に優れ、高濃度条件下でもフミン等のオリゴマーならびにポリマーやレブリン酸等の副生が起こりにくい特徴があるため、溶媒の使用量をより低減させた、すなわち、より高濃度条件下でのアルコールの生産が可能となる。
【0093】
また、HMFの水素化反応においては、塩基を存在させると、環状アセタールの安定性が向上して反応中間体の重合や開環反応といった副反応を抑制することができると共に、目的とするアルコールの収率を向上させることができる場合があるため、塩基存在下で反応を行っても良い。このような塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、トリエチルアミン等の有機塩基が挙げられる。
【0094】
塩基を存在させて水素化反応を行う際の塩基の使用量は、特に限定されないが、HMF環状アセタールに対して、その下限は、0.01当量以上、好ましくは0.1当量以上であり、その上限は、5当量以下、好ましくは、1当量以下、より好ましくは、0.5当量以下である。このような使用量を採用することにより、環状アセタールの安定性が向上して反応中間体の重合や開環反応といった副反応を抑制することができると共に、目的とするアルコールの収率を向上させることができる。
【0095】
水素化反応における反応温度は、特に限定されないが、通常20℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは90℃以上、通常350℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。反応温度が前記範囲内であることにより、目的とするアルコールを高収率で得ることができる。特に本発明のアセタール中間体を経由する手法は、該中間体の熱安定性が優れる理由から、高温でのプロセスが有利となる。
【0096】
水素化の反応時間については、アセタール中間体が水素化されて目的のアルコールを得ることができれば特に限定されない。通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、通常24時間以下、好ましくは12時間以下、より好ましくは5時間以下である。尚、連続で水素化反応を行う場合には、反応時間はこの限りではない。
【0097】
水素化で用いられる反応装置についても、特に限定されないが、通常は高圧反応が可能な高圧反応器が使用される。連続反応器の使用も可能であり、触媒を反応器に充填し、原料液と水素ガスを流通させて反応を行うこともできる。連続反応器の場合は、触媒の分離工程が不要であり、大量生産を行なう場合は連続反応器の方が望ましい。
【0098】
[生成物の回収方法]
前述の各工程で得られた生成物は、反応終了後、単離及び/又は精製して回収してもよいし、単離及び/又は精製工程を経ずに次の工程の原料として使用してもよい。
【0099】
単離/精製を経ずに次工程の原料と使用する際には、反応をバッチ式反応で行う場合には、反応終了後の反応液をそのまま次工程の反応器に導入してもよく、或いは反応終了後の反応液から異なる有機溶媒を用いて該生成物を抽出して、該抽出液を次工程の反応器に導入してもよい。また、反応を流通反応で実施する場合には、流通反応プロセス下、反応液をそのまま次工程の反応器に流通させてもよく、該反応液を異なる有機溶媒と接触させて該生成物を抽出した後、該抽出液を次工程の反応器に導入してもよい。
【0100】
一方、各工程で得られた生成物を単離/精製する際には、生成物の物性に依存するが、通常、溶媒留去手法、溶媒留去後有機溶媒で抽出する手法、蒸留手法、昇華手法、晶析手法、クロマト手法により生成物を回収することができる。これらの中では、特に、取り扱い温度条件下で生成物が液体の場合は、蒸留手法により生成物を精製しながら回収する方法が好ましく、取り扱い温度条件下で生成物が固体の場合は、晶析手法により生成物の精製を行いながら回収する方法が好ましい。またその際、得られた固体生成物は、洗浄により精製する手法は好ましい態様である。
【0101】
[環状アセタール]
本発明において特に好ましい環状アセタールは、下記式(2)で表されるFRL又はHMFの1,3-プロパンジオールアセタール化物(以下「環状アセタール(2)」と称す場合がある。)であり、前述の脱水・環状アセタール化において、環状アセタール化用ジオールとして1,3-プロパンジオールを用いることにより製造される。
【0102】
【0103】
(式中、Aは水素原子、又は-CH2OHを表す。)
【0104】
この環状アセタールは、後述の実験例1に示されるように、熱安定性に優れ、前述の酸化的エステル化の原料として用いて、本発明に従って、カルボン酸エステル又はカルボン酸を工業的に有利に製造することができる。
【0105】
更に、この環状アセタール(2)は、Aが-CH2OH基の場合に、ヒドロキシル基をカルボン酸無水物((R2CO)2O(R2は、炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。))との反応によりエステル基に、或いはアルコール(R2OH(R2は、炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。))との反応によりエーテル基に変換することにより、下記式(3)で表されるさらに熱安定性に優れたアセタール中間体に誘導できる。下記式(3)で表されるアセタール中間体は、HMFのヒドロキシル基をカルボン酸無水物((R2CO)2O(R2は、炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。))との反応によりエステル基に、或いはアルコール(R2OH(R2は、炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。))との反応によりエーテル基に変換した後に、プロパンジオールとの反応により誘導されたものであっても良い。
【0106】
【0107】
(式中、Bは、-CH2OR2又は-CH2O(C=O)R2(R2は、炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。)を表す。)
なお、上記R2がアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基の場合、アルキル置換基としては炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0108】
すなわち、上記式(2)及び(3)を考慮して、本発明において、下記式(1)で表される化合物が好ましい環状アセタール中間体として挙げられる。
【0109】
【0110】
式(1)中、R1は水素原子、-CH2OH、-CH2OR2又は-CH2O(C=O)R2で表される基であり、R2は炭素数1~6のアルキル基、又は、アルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。なお、R2がアルキル置換基を有する場合の好ましい置換基としては、炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【実施例0111】
以下、実験例及び実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
[実験例1-1:HMFとHMFアセタールの熱安定性評価]
【化9】
【0113】
HMF(シグマアルドリッチ社製)と、後述の実験例7に記載された方法により得られた2種類のHMFアセタール(PD-HMF、EG-HMF)について、下記の方法により熱的安定性の評価を行った。
耐圧NMRチューブに3~4mgの試料を導入し、室温にて真空排気下で2時間処理することにより、試料に含有されている水分を除去した。その後、チューブをオーブンに入れて10℃/minにて室温から200℃まで昇温して200℃で2時間保持した。加熱後の試料に1mLのCDCl
3と内部標準(安息香酸、1mg)を加え、
1H NMRで試料の残存率を分析して熱安定性を評価した。残存率が多い程熱安定性に優れる。結果を
図1に示す。
【0114】
図1より、HMFアセタールはHMFに比べて熱安定性に優れることが分かる。
【0115】
[実験例1-2:FRLとFRLアセタールの熱安定性評価]
【化10】
【0116】
FRL(シグマアルドリッチ社製)と後述の実験例7に記載された方法により得られたFRLアセタール(PD-FRL)について、実験例1-1と同様の方法により、熱的安定性の評価を行った結果、2時間後の残存率として、FRLの場合は12%であったのに対して、PD-FRLの場合は80%と著しく向上し、環状アセタールの熱安定性が高いことが分かった。
【0117】
[実験例1-3:PD-HMFのエステル体とエーテル体の熱安定性評価]
【化11】
【0118】
後述する実験例7に記載の方法により得られたHMFアセタール(PD-HMF)のエステル体(PD-HMF-アセテート)とエーテル体(PD-HMF-エーテル)について、実験例1-1と同様の方法により熱安定性の評価を行った結果、2時間後の残存率として、それぞれ76%、74%となり、HMFに比べて熱安定性に優れることが分かった。
【0119】
[実験例2:HMFアセタールの熱分解の温度依存性]
実験例1において、PD-HMFを150℃又は180℃で2時間保持した以外は、実施例1と同様の方法で、加熱後の試料について1H NMRにより残存率を分析し、結果を実験例1における200℃加熱の結果と共に、下記表1に示した。
【0120】
【0121】
表1より、加熱温度と残存率には相関はないことが分かる。なお、PD-HMFの分解生成物のうち、約50%程度は溶媒持込みの水分によるアセタール体の加水分解物であるHMFであった。
【0122】
[実験例3-1~3-8:HMFからのPD-HMFの収率評価]
HMF(シグマアルドリッチ社製、50mg)と、1,3-プロパンジオール(75μL)と、触媒とを2.5mLの各種溶媒に加えて、攪拌することで、反応を行い、PD-HMFを得た。なお、触媒、溶媒、反応温度及び反応時間は、表2に示す通りである。なお、実験例3-4~3-7で使用したβ型ゼオライトは、使用前に大気中にて550℃で8時間焼成を行った。反応後の溶液に内部標準としてクロロベンゼンを加え、生成したPD-HMFを、カラムガスクロマトグラフィー(島津製作所社製「GC2025」)にて定量し、PD-HMFの収率を求めた。なお、カラムは、DB-FFAP(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。得られた結果を表2に示す。
【0123】
【0124】
[実験例4:バイオマス原料から誘導された単糖類からのHMFアセタールの合成I]
含水ニオブ酸(CBMM社製「HY-340」)を400℃で4時間焼成して得られたNb2O5を触媒として用い、触媒量を変えてグルコースからHMFアセタールを合成する実験を行った。
【0125】
100mg又は200mgのNb2O5と、20mgのグルコースを耐圧ガラス容器に入れ、そこにTHF1.8mL、水0.2mL、1,3-プロパンジオール0.2mLを加えて密閉した。ガラス容器を125℃に予熱してあるオイルバスに入れ、撹拌しながら1時間加熱した。1時間の加熱撹拌の後、容器をすぐに冷水に導入して反応を停止させ、内部標準として25μLのクロロベンゼンを加え、生成したHMFおよびPD-HMFをガスクロマトグラフィー(島津製作所社製:GC-2025、カラム:DB-FFAP)にて定量し、グルコースに対する収率を求め、結果を表3に示した。
【0126】
【0127】
表3より、触媒量を100mgとしたNo.1よりも200mgとしたNo.2の方が、PD-HMFの収率が高いことが分かる。
【0128】
[実験例5:単糖類からのHMFアセタールの合成II]
触媒として以下のものを用い、触媒を変えてグルコースからHMFアセタールを合成する実験を行った。
【0129】
Nb2O5:含水ニオブ酸(CBMM社製「HY-340」)を400℃で4時間焼成して得られたNb2O5
H-BEA-25:クラリアント触媒社製 酸型β-ゼオライト触媒「H-BEA-25」
Amberlyst-15:シグマアルドリッチ社製 強カチオン交換樹脂「Amberlyst-15」
TiO2:昭和タイタニウム(株)社製 酸化チタン「JRC-TIO-11(触媒学会,参照触媒)」
【0130】
表4に示す触媒200mgと、20mgのグルコースを耐圧ガラス容器に入れ、そこにTHF1.4mL、水0.6mL、1,3-プロパンジオール0.2mLを加えて密閉した。ガラス容器を125℃に予熱してあるオイルバスに入れ、撹拌しながら1時間加熱した。1時間の加熱撹拌の後、容器をすぐに冷水に導入して反応を停止させ、実験例4と同様に、生成したHMFおよびPD-HMFをガスクロマトグラフィーにて定量し、グルコースに対する収率を求め、結果を表4に示した。
【0131】
【0132】
表4より、触媒としてはNb2O5が好ましいことが分かる。
【0133】
[実験例6:単糖類からのHMFアセタールの合成III]
含水ニオブ酸(CBMM社製「HY-340」)を400℃で4時間焼成して得られたNb2O5を触媒として用い、原料の単糖類を変えてHMFアセタールを合成する実験を行った。
【0134】
200mgのNb2O5と、20mgのグルコース又はフルクトースを耐圧ガラス容器に入れ、そこにTHF1.8mL、水0.2mL、1,3-プロパンジオール0.2mLを加えて密閉した。ガラス容器を125℃に予熱してあるオイルバスに入れ、撹拌しながら2時間加熱した。2時間の加熱撹拌の後、容器をすぐに冷水に導入して反応を停止させ、実験例4と同様に、生成したHMFおよびPD-HMFをガスクロマトグラフィーにて定量し、グルコース又はフルクトースに対する収率を求め、結果を表5に示した。
【0135】
【0136】
[実験例7:その他の試料の合成]
<HMFアセテート体の合成>
HMF(シグマアルドリッチ社製)が溶解しているアセトニトリル溶液(0.1mol/L)に対して、1.5モル当量の無水酢酸と2モル当量のトリエチルアミンを加え、室温で1時間撹拌することによってHMFの水酸基をアセテートへと変換した。得られた生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、HMFアセテート体を得た。
【0137】
<EG-HMFの合成>
上述の方法により得られたHMFアセテートをジクロロメタン溶液に溶解し(HMFアセテートの濃度:0.1mol/L)、そこに触媒量(0.01当量)のインジウムトリフルオロメタンスルホネート(In(OTf)3)と過剰量のオルトギ酸トリメチルおよびエチレングリコールを加え、室温にて撹拌することによってフラン環に結合しているアルデヒド部位を環状アセタールへと変換した。最後にメタノール溶液中にて生成物と炭酸ナトリウムとを反応させてアセテート部位を分解することによって、目的のエチレングリコール-HMFアセタール(EG-HMF)を得た。
【0138】
<PD-HMFの合成>
上述の方法により得られたHMFアセテートをジクロロメタン溶液に溶解し(HMFアセテートの濃度:0.1mol/L)、そこに触媒量(0.01当量)のインジウムトリフルオロメタンスルホネート(In(OTf)3)と過剰量のオルトギ酸トリメチルおよび1,3-プロパンジオールを加え、室温にて撹拌することによってフラン環に結合しているアルデヒド部位を環状アセタールへと変換した。最後にメタノール溶液中にて生成物と炭酸ナトリウムとを反応させてアセテート部位を分解することによって、目的のプロパンジオール-HMFアセタール(PD-HMF)を得た。
【0139】
<PD-HMF-エーテルの合成>
HMF(シグマアルドリッチ社製、50mg)、メタノール(2mL)、および1,3-プロパンジオール(0.1mL)の混合溶液に、HMFに対して0.01モル当量のIn(OTf)3と過剰量のオルトギ酸トリメチルを加えて室温にて3時間撹拌した。反応後の溶液から触媒を分離し、さらにカラムクロマトグラフィーにて精製することによって、目的のPD-HMF-エーテルを得た。
【0140】
<PD-HMF-アセテートの合成>
上述の方法により得られたHMFアセテート体が溶解しているジクロロメタン溶液に(HMFアセテートの濃度:0.1mol/L)、HMFアセテート体に対して0.01モル当量のIn(OTf)3と過剰量のオルトギ酸トリメチルおよび1,3-プロパンジオールを加え、その溶液を室温にて3時間撹拌した。反応後の溶液から触媒を分離し、さらにカラムクロマトグラフィーにて精製することによって、目的のPD-HMF-アセテートを得た。
【0141】
<PD-FRLの合成>
プロトン型ベータゼオライト(50mg)、フルフラール(シグマアルドリッチ社製、0.1mmol)、および1,3-プロパンジオール(75μL)を2mLのジクロロメタンに加え、室温にて3時間撹拌した。濾過によって固体触媒を分離した後、カラムクロマトグラフィーにて精製することによって、目的のPD-FRLを得た。
【0142】
[実施例1:バイオマス原料からPD-HMFを経由するアルコールの製造]
実験例7に基づき合成したPD-HMF30mgを1,3-プロパンジオール3.5mlに溶解し、パラジウム(2質量%)を酸化ジルコニウム担体に担持した触媒10mgの存在下、オートクレーブ内で水素ガスを8MPaで注入して230℃で、3時間水素化反応を行った。
反応終了後の反応液をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製:GC-2025、カラム:RESTEK社製Rxi-35SilMS)で分析した結果、テトラヒドロフラン-2,5-ジメタノールがGC面積比で80%の高い選択率で生成しており、オートクレーブ内の汚れの付着物も少なかった。
【0143】
[比較例1:バイオマス原料由来のHMFからアルコールの製造]
上記のアルコールの製造(実施例1)において、PD-HMFの代わりにHMF(シグマアルドリッチ社製)を用いること以外は同様に反応を行うと、テトラヒドロフラン-2,5-ジメタノールはGC面積比で70%の選択率で生成しており、反応液中の副生不明物種も多い特徴があった。また、反応液は著しく着色しており、オートクレーブ内の汚れの付着物も多かった。
【0144】
[実施例2:バイオマス原料からPD-HMFを経由するアルコールの製造]
実験例7に基づき合成したPD-HMF148mg(0.80mmol)を水2mLに溶解し、金(1質量%)を酸化アルミニウム担体に担持した触媒50mgの存在下、高圧反応器内で水素ガスを5MPa注入し、140℃で、4時間水素化反応をおこなった。なお、140℃での圧力は7MPaであった。
反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、フランジメタノールの選択率は34%であり、高圧反応器内の汚れの付着物も少なかった。
【0145】
[比較例2:バイオマス原料由来のHMFからアルコールの製造]
上記のアルコールの製造(実施例2)において、PD-HMFの代わりにHMF100mg(0.80mmol)(シグマアルドリッチ社製)を用いること以外は同様にして反応を行った結果、フランジメタノールの選択率は22%であり、反応液は濃い黄色に着色しており、液中の副生不明物種が多い特徴があった。
本発明により得られるアルコールは、ポリエステル樹脂等の樹脂原料アルコールなどとして工業的に有用であり、特にテトラヒドロフランジメタノールは、その環状骨格により、耐熱性に優れた樹脂を提供することができるため、その工業的価値は極めて高い。