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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095303
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/043 20060101AFI20230629BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20230629BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230629BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20230629BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C22F1/043
C22C21/02
C22C21/00 M
C22F1/04
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211112
(22)【出願日】2021-12-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/アルミニウム素材の高度資源循環システム構築に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐 永鵬
(72)【発明者】
【氏名】堀田 善治
(72)【発明者】
【氏名】富田 雄人
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】一谷 幸司
(72)【発明者】
【氏名】戸次 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺田 大将
(57)【要約】
【課題】FeやSiの含有量が比較的多い場合であっても良好な特性を備えたアルミニウム合金材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金材の製造方法においては、Si:0.5質量%以上5.0質量%以下及びFe:0.3質量%以上3.0質量%以下を含むアルミニウム合金からなり、Al母相中に形成された金属間化合物相の円相当径の最大値が5μmを超えるアルミニウム合金材を準備する。アルミニウム合金材に2GPa以上の圧力下でひずみを導入することにより金属間化合物相を分断し、前記金属間化合物相の円相当径の最大値を5μm以下とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.5質量%以上5.0質量%以下及びFe:0.3質量%以上3.0質量%以下を含むアルミニウム合金からなり、Al母相中に形成された金属間化合物相の円相当径の最大値が5μmを超えるアルミニウム合金材を準備し、
前記アルミニウム合金材に2GPa以上の圧力下でひずみを導入することにより前記金属間化合物相を分断し、前記金属間化合物相の円相当径の最大値を5μm以下とする、アルミニウム合金材の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム合金材は、5000系合金、6000系合金または7000系合金のうちいずれかのアルミニウム合金から構成されている、請求項1に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金材は、Si:0.6質量%超え5.0質量%以下、Fe:0.3質量%以上3.0質量%以下及びMg:0.25質量%以上1.2質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している、請求項1または2に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金材の化学成分には、更に、Cu:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.02質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.40質量%以下及びZr:0.01質量%以上0.40質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素が含まれている、請求項3に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金材中の前記金属間化合物相を分断した後に、前記アルミニウム合金材を溶体化温度以上の温度に加熱した後焼入れして溶体化処理を行う、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項6】
Si:0.6質量%超え5.0質量%以下及びFe:0.3質量%超え3.0質量%以下を含むアルミニウム合金からなり、
Al母相中に金属間化合物相が分散した金属組織を有し、
前記金属間化合物相の円相当径の最大値が5μm以下である、アルミニウム合金材。
【請求項7】
前記アルミニウム合金は、Si:0.6質量%超え5.0質量%以下及びFe:0.3質量%超え3.0質量%以下及びMg:0.25質量%以上1.2質量%以下を含有し残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している、請求項6に記載のアルミニウム合金材。
【請求項8】
前記アルミニウム合金には、更に、Cu:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.02質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.40質量%以下及びZr:0.01質量%以上0.40質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素が含まれている、請求項7に記載のアルミニウム合金材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、金属としては密度が小さい、比強度が高い等の特徴を活かし、自動車用部材や航空機用部材、機械部品、構造材料などの種々の用途に用いられている。これらの中でも高い強度を有する5000系合金や6000系合金、7000系合金などのアルミニウム合金は、自動車のボディパネル等に用いられていることが多い。
【0003】
例えば特許文献1には、mass%で、Mg:3.0~6.0%、Si:0.1~0.6%、Fe:0.1~1.0%および残部Alを本質的成分としてなり、FeまたはSiを含んだ晶出物の円相当直径の平均が2μm以下、前記晶出物の平均アスペクト比が1.8以下であり、かつ平均結晶粒径が30μm以下である、成形性に優れたAl-Mg系Al合金板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-262263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、省エネルギー及び省資源の観点から、アルミニウム合金の廃材を鋳造原料として再利用し、アルミニウム合金材を作製する技術の重要性が高まっている。しかし、アルミニウム合金の廃材中には、アルミニウム以外に種々の添加元素が含まれている。これらの添加元素の中でも、Fe(鉄)及びSi(シリコン)は、アルミニウム合金から取り除くことが難しい。そのため、アルミニウム合金の廃材を鋳造原料として再利用する場合、リサイクルされたアルミニウム合金材中のFeやSiの含有量が多くなりやすいという問題がある。また、アルミニウム合金材中のFeやSiの含有量が過度に多くなると、アルミニウム合金材中に粗大な晶出物が形成され、アルミニウム合金材の機械的特性等の悪化を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、FeやSiの含有量が比較的多い場合であっても良好な特性を備えたアルミニウム合金材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、Si(シリコン):0.5質量%以上5.0質量%以下及びFe(鉄):0.3質量%以上3.0質量%以下を含むアルミニウム合金からなり、Al母相中に存在する金属間化合物相の円相当径の最大値が5μmを超えるアルミニウム合金材を準備し、
前記アルミニウム合金材に1GPa以上の圧力下でひずみを導入することにより前記金属間化合物相を分断し、前記金属間化合物相の円相当径の最大値を5μm以下とする、アルミニウム合金材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
前記の態様の製造方法においては、まず、Si及びFeの含有量が前記特定の範囲内であるアルミニウム合金からなるアルミニウム合金材を準備する。このようなアルミニウム合金材中には、Si及び/またはFeを含む粗大な金属間化合物相が形成される。このアルミニウム合金材に1GPa以上の圧力下でひずみを導入し、いずれかの断面における金属間化合物相の円相当径の最大値が5μm以下となるように金属間化合物相を分断することにより、粗大な金属間化合物相による機械的特性等への影響を低減することができる。また、前記製造方法においては、アルミニウム合金材に高圧下でひずみを導入することにより、アルミニウム合金材におけるAl母相の結晶粒を微細化したり、アルミニウム合金材中の添加元素の再固溶を促進したりすることができる。
【0009】
これらの結果、前記の態様の製造方法によれば、FeやSiの含有量が比較的多い場合であっても良好な特性を備えたアルミニウム合金材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、参考例におけるHPT加工の説明図である。
図2図2、参考例における、HPT加工後の試験材B1を種々の径方向位置において観察して得られる光学顕微鏡像である。
図3図3は、実施例1における試験材C1、C2、D1及びD2の応力-ひずみ曲線を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記製造方法においては、まず、Siの含有量及びFeの含有量が前記特定の範囲内であり、金属間化合物相を含むアルミニウム合金材を準備する。アルミニウム合金材は、例えば、DC鋳造によって作製された鋳塊やビレットであってもよい。また、アルミニウム合金材は、例えば、DC鋳造によって作製された鋳塊等に、さらに熱間加工及び/または冷間圧延を施してなる展伸材であってもよい。アルミニウム合金材には、その作製過程において、均質化処理や焼鈍などの熱処理が施されていてもよい。
【0012】
アルミニウム合金材は、少なくとも、Si:0.5質量%以上5.0質量%以下及びFe:0.3質量%以上3.0質量%以下を含むアルミニウム合金から構成されている。すなわち、アルミニウム合金材は、例えば、Si:0.5質量%以上5.0質量%以下及びFe:0.3質量%以上3.0質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。アルミニウム合金材中のSiの含有量及びFeの含有量を前記特定の範囲とすることにより、前記アルミニウム合金材の鋳造原料としてアルミニウム合金の廃材を使用する場合においても、化学成分の調整を容易に行うことができる。
【0013】
アルミニウム合金材中のSiの含有量は0.6質量%超え5.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以上5.0質量%以下であることがさらに好ましい。この場合には、Si量の調整がより容易となるため、前記アルミニウム合金材の鋳造原料として使用し得るアルミニウム合金の廃材の範囲をより広げることができる。
【0014】
また、アルミニウム合金材中のSiの含有量が多くなると、鋳造時に形成される金属間化合物相のサイズをより大きくするとともに、金属間化合物相の数をより多くすることができる。そして、このようなアルミニウム合金材に高圧下でひずみを導入することにより、ひずみが導入された後のアルミニウム合金材により多数の金属間化合物相を形成することができる。その結果、アルミニウム合金材の強度をより向上させることができる。
【0015】
アルミニウム合金材中のFeの含有量は、0.5質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。この場合には、Fe量の調整がより容易となるため、前記アルミニウム合金材の鋳造原料として使用し得るアルミニウム合金の廃材の範囲をより広げることができる。
【0016】
また、アルミニウム合金材中のFeの含有量が多くなると、鋳造時に形成される金属間化合物相のサイズをより大きくするとともに、金属間化合物相の数をより多くすることができる。そして、このようなアルミニウム合金材に高圧下でひずみを導入することにより、ひずみが導入された後のアルミニウム合金材に、より多数の微細な金属間化合物相を形成することができる。その結果、アルミニウム合金材の強度をより向上させることができる。
【0017】
アルミニウム合金材中のSiの含有量とFeの含有量との合計は、1.0質量%以上であることが好ましく、1.3質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、2.5質量%以上であることが特に好ましく、3.5質量%以上であることが最も好ましい。アルミニウム合金材中のSiの含有量とFeの含有量との合計を多くすることにより、ひずみを導入する前のアルミニウム合金材中に、より多量の金属間化合物相を形成することができる。そして、かかるアルミニウム合金材に高圧下でひずみを加え、金属間化合物相を分断することにより、最終的に得られるアルミニウム合金材中に金属間化合物相を微細に分散させることができる。その結果、分散強化によりアルミニウム合金材の強度を向上させることができる。
【0018】
アルミニウム合金材中には、必須成分としてのSi及びFe以外に、任意成分として、Mn(マンガン)、Mg(マグネシウム)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、Ti(チタン)、B(ホウ素)などの元素から選択される1種または2種以上の元素が含まれていてもよい。すなわち、アルミニウム合金材は、2000系合金、3000系合金、4000系合金、5000系合金、6000系合金または7000系合金のうちいずれかのアルミニウム合金であってもよい。
【0019】
より強度の高いアルミニウム合金材を得る観点からは、前記アルミニウム合金材は、5000系合金、6000系合金または7000系合金のうちいずれかのアルミニウム合金から構成されていることが好ましい。これらのアルミニウム合金からなるアルミニウム合金は、例えば自動車のボディパネル等に好適である。
【0020】
前記アルミニウム合金材が6000系合金から構成されている場合、アルミニウム合金材は、Si:0.6質量%超え5.0質量%以下、Fe:0.3質量%以上3.0質量%以下及びMg:0.25質量%以上1.2質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、前記アルミニウム合金材が6000系合金から構成されている場合、アルミニウム合金材には、更に、Cu:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.02質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.40質量%以下及びZr:0.01質量%以上0.40質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素が含まれていてもよい。また、アルミニウム合金材には、鋳塊組織の微細化を目的として、Ti(チタン):0.01質量%以上0.15質量%以下が含まれていてもよい。アルミニウム合金材中にTi:0.01質量%以上0.15質量%以下が含まれている場合、アルミニウム合金材中には、更に、B(ホウ素):0.0001質量%以上0.05質量%以下が含まれていてもよい。
【0021】
Siの含有量及びFeの含有量が前記特定の範囲内であり、ひずみが導入される前のアルミニウム合金材中には、鋳造時に形成された金属間化合物相が含まれている。この金属間化合物相には、Fe及びSiのうち少なくとも一方の元素が含まれている。また、アルミニウム合金材中に存在する金属間化合物相の円相当径の最大値は5μmを超える。すなわち、歪みを導入する加工を施す前のアルミニウム合金材中には、円相当径が5μmを超える粗大な金属間化合物相が存在している。ここで、金属間化合物相の円相当径とは、断面における金属間化合物相の面積と等しい面積の円の直径をいう。また、ひずみが導入される前のアルミニウム合金材中には、種々の断面のうちいずれかの1つの断面において5μmを超える円相当径を有する金属間化合物相が含まれていればよい。
【0022】
なお、ひずみが導入される前のアルミニウム合金材中には、円相当径が5μm以下の金属間化合物相が含まれていてもよい。
【0023】
前記製造方法においては、このようなアルミニウム合金材に、1GPa以上の圧力下でひずみを導入する。この加工により、ひずみが導入される前のアルミニウム合金材中に存在していた粗大な金属間化合物相を、いずれの断面においても円相当径が5μm以下となるように分断し、粗大な金属間化合物相によるアルミニウム合金材の機械的特性等への影響を低減することができる。さらに、前記製造方法においては、アルミニウム合金材に高圧下でひずみを導入することにより、アルミニウム合金材におけるAl母相の結晶粒を微細化することができる。
【0024】
前記製造方法においては、これらの効果が相乗的に作用することにより、FeやSiの含有量が比較的多い場合であっても良好な特性を備えたアルミニウム合金材を得ることができる。それ故、前記製造方法によれば、アルミニウム合金の廃材を鋳造原料として再利用し、良好な特性を備えたアルミニウム合金材を得ることができる。
【0025】
前記製造方法において、アルミニウム合金材にひずみを導入する方法は、種々の態様を採り得る。例えば、前記製造方法においては、アルミニウム合金材を高圧下でせん断変形させることにより、アルミニウム合金材にひずみを導入する方法を採用することができる。このような方法としては、例えば、高圧下でアルミニウム合金材をねじり変形させるHPT(High Pressure Torsion)加工が挙げられるが、HPT加工に限らず、アルミニウム合金材にひずみを導入し、金属間化合物相を分断することができる方法であれば特に限定されることはない。例えば、アルミニウム合金材を高圧下でせん断変形させる方法としては、高圧下でアルミニウム合金材をせん断変形させるHPS(High Pressure Sliding)加工などを採用することもできる。また、アルミニウム合金材にひずみを導入する加工は、例えば室温下において行えばよい。
【0026】
前記製造方法において、高圧下でひずみが導入されたアルミニウム合金材は、分断された金属間化合物相がAl母相中に微細に分散しているとともに、Al母相の結晶粒が微細化された金属組織を有している。そのため、高圧下でひずみが導入されたアルミニウム合金材は、ひずみを導入する前に比べて高い強度を有している。このようなアルミニウム合金材は、特に高い強度が求められる用途に好適である。
【0027】
また、前記製造方法においては、高圧下でひずみが導入されたアルミニウム合金材に展伸加工や熱処理等を行うことにより、アルミニウム合金材を調質してもよい。例えば、前記製造方法においては、アルミニウム合金材中の金属間化合物相を分断した後に、前記アルミニウム合金材に熱間圧延及び冷間圧延のうち少なくとも一方を行ってもよい。
【0028】
また、前記製造方法においては、アルミニウム合金材中の金属間化合物相を分断した後に、前記アルミニウム合金材を加熱して焼鈍してもよい。この場合には、アルミニウム合金材中に導入されたひずみを回復させ、アルミニウム合金材の延性をより向上させることができる。
【0029】
また、前記製造方法においては、アルミニウム合金材中の金属間化合物相を分断した後に、前記アルミニウム合金材を溶体化温度以上の温度に加熱した後焼入れして溶体化処理を行うこともできる。この場合には、アルミニウム合金材中に導入されたひずみを回復させるとともに、アルミニウム合金材中の金属間化合物相や析出物をAl母相中に固溶させることができる。これにより、アルミニウム合金材の延性及び強度をバランスよく向上させることができる。
【0030】
アルミニウム合金材が熱処理型合金である場合には、溶体化処理を行った後のアルミニウム合金材に、更に時効処理を行うこともできる。この場合には、アルミニウム合金材の延性を維持しつつ、強度をより向上させることができる。
【0031】
前述した製造方法により得られるアルミニウム合金材は、例えば、Si:0.6質量%超え5.0質量%以下及びFe:0.3質量%超え3.0質量%以下を含むアルミニウム合金から構成されており、
Al母相中に金属間化合物相が分散した金属組織を有している。
また、アルミニウム合金材中の金属間化合物相の円相当径は5μm以下である。
【0032】
前記製造方法により作製されたアルミニウム合金材においては、ひずみを導入する前に存在していた金属間化合物相が分断され、Al母相中に微細に分散している。さらに、ひずみの導入により、Al母相の結晶粒が微細化されている。このようなアルミニウム合金材の平均結晶粒径は、例えば20μm以下である。なお、アルミニウム合金材の平均結晶粒径は、電子後方散乱回折法により算出される値である。
【0033】
アルミニウム合金材は、例えば、2000系合金、3000系合金、4000系合金、5000系合金、6000系合金または7000系合金のうちいずれかのアルミニウム合金から構成されていてもよい。
【0034】
アルミニウム合金材が6000系合金から構成されている場合、アルミニウム合金材を構成するアルミニウム合金は、Si:0.6質量%超え5.0質量%以下、Fe:0.3質量%以上3.0質量%以下及びMg:0.25質量%以上1.2質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、前記アルミニウム合金材が6000系合金から構成されている場合、アルミニウム合金を構成するアルミニウム合金には、更に、Cu:0.05質量%以上1.0質量%以下、Mn:0.02質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.40質量%以下及びZr:0.01質量%以上0.40質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素が含まれていてもよい。このアルミニウム合金には、更に、Ti:0.01質量%以上0.15質量%以下が含まれていてもよい。アルミニウム合金中にTi:0.01質量%以上0.15質量%以下が含まれている場合、アルミニウム合金中には、更に、B:0.0001質量%以上0.05質量%以下が含まれていてもよい。
【0035】
このようなアルミニウム合金材は、前述したように、その作製過程において粗大な金属間化合物相が分断されているとともにAl母相の結晶粒が微細化されているため、Si及びFeの含有量が比較的多い場合であっても良好な特性を有している。
【実施例0036】
前記アルミニウム合金材及びその製造方法の実施例を以下に説明する。なお、本発明にかかるアルミニウム合金材及びその製造方法の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0037】
(参考例)
本例においては、高圧下でひずみが導入されたアルミニウム合金材の金属組織の例を説明する。本例では、まず、DC鋳造により表1の合金記号A1に示す化学成分を有する鋳塊を作製する。なお、表1中における「Bal.」は残部であることを示す記号である。各元素の含有量は、カントメーターにより測定される値である。
【0038】
次に、アルミニウム合金鋳塊から円板状の試験片を採取する。そして、図1に示すように、一対の治具2(2a、2b)の間に試験片1を挟持する。この状態で、治具2を介して試験片1を厚み方向に圧縮しつつ、一方の治具2aを他方の治具2bに対して相対的に回転させることにより、試験片1をねじり変形させる。以上により、試験片1にせん断ひずみを導入することができる。
【0039】
本例においては、試験片1に加える圧力は6GPaとし、治具2aの回転速度は1rpmとする。また、試験片1にひずみを導入する加工は、室温環境下で実施すればよい。治具2aの回転数は、表2に示す通りとする。以上により、表2に示す試験材B1を得ることができる。
【0040】
なお、試験片1に導入されるひずみの大きさは、相当ひずみ量で表される。相当ひずみ量εeqは、具体的には、試験片1の中心からの距離r(単位:mm)、試験片1の厚みt(単位:mm)及び回転数Nを用い、下記式(1)により算出することができる。各試験材における、中心からの距離が0.5mm、1mm、2mm、3mm、4mm及び5mmである位置における相当ひずみ量の計算値を表2に示す。なお、試験片の厚みtは約1mmである。
【0041】
【数1】
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
図2(a)~図2(f)に、試験材B1における、中心からの距離が0.5mm、1mm、2mm、3mm、4mm及び5mmである位置における光学顕微鏡像をそれぞれ示す。図には示さないが、HPT加工を施す前の試験材B1は、Al母相(α相)中にAlFeやAlFeなどの粗大な金属間化合物相が分散された金属組織を有している。一方、図2(a)~図2(f)に示すように、試験材B1の金属組織においては、HPT加工を施す前の試験材B1に存在していた粗大な金属間化合物相が消失しており、Al母相中に金属間化合物相が微細に分散している。また、図2(a)~図2(f)の比較から、試験材B1に導入したひずみの量が大きくなるほど、金属間化合物相の大きさが小さくなることが理解できる。
【0045】
これらの結果から、アルミニウム合金材を高圧下でねじり変形させてひずみを導入することにより、鋳塊に存在していたAlFeやAlFe等の粗大な金属間化合物相を分断できることが理解できる。
【0046】
(実施例)
本例においては、アルミニウム合金圧延板に高圧下でひずみを導入することにより得られるアルミニウム合金材の例を説明する。まず、DC鋳造により表1の合金記号A2に示す化学成分を有する鋳塊を作製する。この鋳塊に熱間圧延及び冷間圧延を行い、アルミニウム合金圧延板を作製する。なお、本例において用いるアルミニウム合金圧延板の調質は、H18である。
【0047】
次に、アルミニウム合金圧延板から円板状の試験片を採取する。この試験片に、参考例と同様の方法によりせん断ひずみを導入する。本例においては、試験片に加える圧力は2GPaとし、治具の回転速度は1rpmとする。また、試験片にひずみを導入する加工は、室温環境下で実施すればよい。治具の回転数は、1回転または10回転とする。以上により、表3に示す試験材C1及び試験材C2を得ることができる。
【0048】
また、以上のようにして得られる試験材C1及び試験材C2に溶体化処理を行うことにより、表3に示す試験材D1及び試験材D2を得ることができる。本例においては、溶体化処理における加熱温度は550℃とし、保持時間は30分とする。また、本例においては、加熱が完了した後、直ちに試験材を水に浸漬して水焼入れを行い、試験材の温度が室温となるまで急冷する。
【0049】
本例においては、表3に示す試験材を用いてJIS Z2241:2011に準拠した方法により引張試験を行うことにより、図3に示す各試験材の応力-ひずみ曲線を取得する。この応力-ひずみ曲線に基づいて各試験材の機械的特性を評価することができる。表3に、応力-ひずみ曲線に基づいて算出した各試験材の引張強さ及び伸びを示す。なお、図3の縦軸は公称応力(単位:MPa)であり、横軸は公称ひずみである。引張試験は室温環境中で行い、引張試験における初期ひずみ速度は3.0×10-3-1とする。
【0050】
また、図3には、試験材C1~C2及び試験材D1~D2との比較のため、ひずみを導入する加工が施されていないアルミニウム合金圧延板(試験材R1、試験材S1)の応力-ひずみ曲線を示す。試験材R1は、ひずみを導入する加工を施す前のアルミニウム合金圧延板である。また、試験材S1は、試験材R1に前述した条件で溶体化処理が施されたアルミニウム合金圧延板である。
【0051】
また、表3の「平均結晶粒径」欄に示した値は、電子後方散乱回折法により算出された、各試験材のAl母相の平均結晶粒径であり、「金属間化合物相の円相当径の最大値」欄に示した値は、走査型電子顕微鏡による二次電子観察像に基づいて算出された、各試験材中の金属間化合物相の円相当径の最大値である。なお、これらの欄に示した記号「-」は、平均結晶粒径または金属間化合物相の円相当径の最大値を算出していないことを示す。
【0052】
【表3】
【0053】
図3及び表3に示した試験材のうち、溶体化処理を施していない試験材同士を比較すると、ひずみを導入する加工を施した試験材C1及び試験材C2は、ひずみが導入されていない試験材R1に比べて引張強さが格段に高くなっている。従って、これらの結果によれば、アルミニウム合金圧延板に高圧下でひずみを導入する加工を施すことにより、粗大な金属間化合物相の影響を低減し、高い強度を有するアルミニウム合金材が得られることができることが理解できる。
【0054】
また、溶体化処理が施されている試験材同士を比較すると、ひずみを導入する加工を施した試験材D1及び試験材D2は、ひずみが導入されていない試験材S1に比べて引張強さが高くなっている。さらに、試験材D1及び試験材D2は、溶体化処理が施されていない以外は同様の製造方法により作製された試験材C1及び試験材C2に比べて伸びが格段に大きくなっている。
【0055】
従って、これらの結果によれば、アルミニウム合金圧延板に高圧下でひずみを導入する加工を施した後、溶体化処理を施すことにより、強度及び伸びの両方に優れたアルミニウム合金材が得られることが理解できる。
【符号の説明】
【0056】
1 試験片
2 治具
図1
図2
図3