(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009638
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】循環型飼育水浄化システム
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20230113BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20230113BHJP
【FI】
A01K63/04 F
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
C02F3/34 101D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113084
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】514099123
【氏名又は名称】ジャパンマリンポニックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内尾 義信
(72)【発明者】
【氏名】川岸 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 久典
(72)【発明者】
【氏名】浅井 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻本 裕二
(72)【発明者】
【氏名】坂井 徹
【テーマコード(参考)】
2B104
4D040
【Fターム(参考)】
2B104ED01
2B104ED16
2B104EF01
4D040BB04
4D040BB14
4D040BB42
4D040BB54
4D040BB56
4D040BB82
4D040BB91
4D040BB93
(57)【要約】
【課題】固形分除去槽、硝化槽、脱窒槽のサイズを変更することなく、各処理槽の能力を制御可能な循環型飼育水浄化システムを提供する。
【解決手段】少なくとも、飼育水槽2、硝化槽4、及び脱窒槽5を備え、前記飼育水槽2と前記硝化槽4との間で飼育水を循環させる循環型の飼育水浄化システムであって、前記脱窒槽5が、前記硝化槽4とのみ連通する、循環型飼育水浄化システム1を選択する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、飼育水槽、硝化槽、及び脱窒槽を備え、前記飼育水槽と前記硝化槽との間で飼育水を循環させる循環型の飼育水浄化システムであって、
前記脱窒槽が、前記硝化槽とのみ連通する、循環型飼育水浄化システム。
【請求項2】
固形分処理槽をさらに備える、請求項1に記載の循環型飼育水浄化システム。
【請求項3】
前記硝化槽への前記飼育水の流量が、前記飼育水槽内の前記飼育水が1日当たり0.1~10回入れ替わる量である、請求項1又は2に記載の循環型飼育水浄化システム。
【請求項4】
前記硝化槽の温度が20~35℃である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の循環型飼育水浄化システム。
【請求項5】
前記硝化槽から前記脱窒槽への前記飼育水の流量が、前記硝化槽内の前記飼育水が1日当たり0.1~10回入れ替わる量である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の循環型飼育水浄化システム。
【請求項6】
前記飼育水に酸素を供給する酸素供給装置をさらに備える、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の循環型飼育水浄化システム。
【請求項7】
前記脱窒槽内の前記飼育水の溶存酸素濃度(Do値)が、0.2~3.5ppmである、請求項6に記載の循環型飼育水浄化システム。
【請求項8】
前記酸素供給装置が、空気ファインバブルと酸素ファインバブルとを選択的に発生させる、請求項6又は7に記載の循環型飼育水浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環型飼育水浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
閉鎖型循環飼育においては、飼育水の水質管理が重要である。飼育水中に、アンモニア、亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオン等の飼育体に悪影響を与える汚染物質が増加すると、飼育魚介類は、生死に直面した重大な影響を受ける。特に、アンモニアは、血液成分の1つであり飼育体の全身の細胞に酸素を運搬する役目を担うヘモグロビンと結合し易く、飼育水中にアンモニアが増加すると、飼育体である魚介類は窒息状態となり、最悪の場合に死に至る恐れがある。
【0003】
飼育水において、アンモニアは、飼育体である魚介類の残餌又は排泄物からなる残滓をバクテリアが分解する際に生じる。残滓はタンパク質をはじめとした有機窒素化合物からなり、この有機窒素は不溶性と水溶性に分かれる。
【0004】
有機窒素化合物は不溶性であり、微生物の働き又は酵素反応等により水溶性有機窒素である尿素等へ分解され、水溶性有機窒素はアンモニアに分解される。例えば、排泄物のうち水溶性有機窒素である尿素は尿素分解酵素であるウレアーゼによって二酸化炭素とアンモニアとに分解される。
【0005】
アンモニアは水溶性であり、アンモニウムイオンとして存在する。アンモニウムイオンは、好気性雰囲気においてアンモニア酸酸化菌により、亜硝酸イオンを生成する。亜硝酸イオンは、好気性雰囲気で亜硝酸酸化菌により硝酸イオンを生成する。
NH4
+ + 2O2(アンモニア酸酸化菌) → NO2
+ +2H2O
【0006】
亜硝酸イオン及び硝酸イオンの処理方法として、物理学的処理方法と生物学的処理方法との2種類が存在する。このうち、物理学的処理方法としては、イオン交換法、電気透析法、逆浸透膜法及び触媒脱窒法が知られており、一方、生学物的処理方法としては、従属栄養性脱窒法及び独立栄養性脱窒法が知られている。
【0007】
非特許文献1には、硝化および脱窒設備を備えた閉鎖循環型陸上養殖設備において、閉鎖循環型の飼育水の流路に、飼育水槽、固形分除去槽、硝化槽、及び脱窒槽を全て直列に接続したシステム、及び飼育水槽と固形分除去槽と硝化槽を直列に接続し、脱窒槽を並列に接続したシステムが記載されている。
【0008】
しかしながら、各処理槽を直列に接続して水処理する方法では、飼育水槽内の魚種、魚密度、水温、Do値(溶存酸素)等の数値が、硝化槽や脱窒槽で生物処理すべき成分であるアンモニア、亜硝酸、硝酸の濃度に応じて個別に増加させることが極めて難しく、固形分除去槽、硝化槽、脱窒槽のそれぞれの能力を個別に制御することが極めて難しい問題があった。
【0009】
また、飼育水槽、固形分除去槽、硝化槽は、飼育魚および好気性微生物の存在により、Do値(溶存酸素)を高めて運転する必要があるが、脱窒槽が嫌気性微生物による処理のためDo値(溶存酸素)をできる限り低くして運転する必要があるため、個別に制御することが難しい問題があった。
【0010】
特許文献1には、脱窒槽から飼育水槽に直接処理水が戻る構成の養殖設備が記載されている。このような構成の養殖設備では、脱窒槽からDo値(溶存酸素)が低い飼育水が飼育水槽に直接入るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】循環濾過式飼育技術について(総説) 第1報 システム構成と要素技術 北大試研報86,81-102(2014) Sci.Rep. Hokkaido Fish.Res.Inst.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1及び特許文献1に記載の飼育水浄化システムにおいては、固形分除去槽、硝化槽、脱窒槽への飼育水の流れが、全部もしくは一部直列に接続されているため、それぞれの能力(処理水量)、溶存酸素量(Do値)、飼育水温度を個別に制御することが難しい問題があり、各処理槽が過剰なサイズとなる場合があるという問題があった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、固形分除去槽、硝化槽、脱窒槽のサイズを変更することなく、各処理槽の能力を制御可能な循環型飼育水浄化システムを提供することを課題とする。
【0015】
また、本発明は、飼育水の充分な浄化性能を維持しつつ、設備費及び運転費の低減が可能な循環型飼育水浄化システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 少なくとも、飼育水槽、硝化槽、及び脱窒槽を備え、前記飼育水槽と前記硝化槽との間で飼育水を循環させる循環型の飼育水浄化システムであって、
前記脱窒槽が、前記硝化槽とのみ連通する、循環型飼育水浄化システム。
[2] 固形分処理槽をさらに備える、[1]に記載の循環型飼育水浄化システム。
[3] 前記硝化槽への前記飼育水の流量が、前記飼育水槽内の前記飼育水が1日当たり0.1~10回入れ替わる量である、[1]又は[2]に記載の循環型飼育水浄化システム。
[4] 前記硝化槽の温度が20~35℃である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の循環型飼育水浄化システム。
[5] 前記硝化槽から前記脱窒槽への前記飼育水の流量が、前記硝化槽内の前記飼育水が1日当たり0.1~10回入れ替わる量である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の循環型飼育水浄化システム。
[6] 前記飼育水に酸素を供給する酸素供給装置をさらに備える、[1]乃至[5]のいずれかに記載の循環型飼育水浄化システム。
[7] 前記脱窒槽内の前記飼育水の溶存酸素濃度(Do値)が、0.2~3.5ppmである、[6]に記載の循環型飼育水浄化システム。
[8] 前記酸素供給装置が、空気ファインバブルと酸素ファインバブルとを選択的に発生させる、[6]又は[7]に記載の循環型飼育水浄化システム。
【発明の効果】
【0017】
本発明の循環型飼育水浄化システムは、固形分除去槽、硝化槽、脱窒槽のサイズを変更することなく、各処理槽の能力を制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の循環型飼育水浄化システムの一実施形態における構成を概略的に示すブロック図である。
【
図12】従来の循環型飼育水浄化システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した循環型飼育水浄化システムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の一実施形態として、例えば
図1に示す循環型飼育水浄化システム1について説明する。なお、
図1は、循環型飼育水浄化システム1の構成を説明するための概略模式図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の循環型飼育水浄化システム(飼育水浄化システム)1は、飼育水が収容されている飼育水槽2と、飼育水槽2に接続されており、固形分のフィルタリング機能と内部に好気性菌による有機物分解処理が主体となる固形分処理槽3と、内部に硝化菌担持粒子が充填されており、好気雰囲気下で流入する飼育水のアンモニア分の硝化処理を行う硝化槽4と、内部に脱窒菌担持粒子が充填されており、貧酸素雰囲気下で飼育水槽2からの飼育水の硝酸分を還元する脱窒反応処理を行う脱窒槽5と、飼育水槽2に接続されており、飼育水の酸素濃度を高める酸素供給装置6と、を備えて概略構成されている。
【0022】
具体的には、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、飼育水槽2と固形分処理槽3とが、流路および循環ポンプを介して接続されている。また、固形分処理槽3と飼育水槽2とは、戻り流路により連通されている。
【0023】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、固形分処理槽3と硝化槽4とが、流路および循環ポンプを介して接続されている。また、硝化槽4と固形分処理槽3との間、及び硝化槽4と飼育水槽2との間には、それぞれ戻り流路が設けられている。
【0024】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、硝化槽4と脱窒槽5とが、流路および循環ポンプを介して接続されている。また、脱窒槽5と硝化槽4とは、戻り流路により連通されている。換言すると、脱窒槽5は、硝化槽4とのみ連通されている。
【0025】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、飼育水槽2と酸素供給装置6とが、流路および循環ポンプを介して接続されている。また、酸素供給装置6と飼育水槽2とは、戻り流路により連通されている。
【0026】
固形分処理槽3は、飼育水槽2との間で、主に飼育水中の固形分の除去と、一部の固形分分解のために固形分酸化分解処理とを行なう機構を備えており、飼育水槽2との間で飼育水の循環処理を行なう機能を有している。固形分処理槽3を設けることで、固形分が完全に除去された飼育水のみを、後段(二次側)に位置する硝化槽4及び脱窒槽5に移送できる。
【0027】
飼育水槽2から固形分処理槽3への飼育水の流量(
図1中に示す符号Qf)は、飼育水槽2で飼育されている魚の数、魚の体長、給餌量により、魚から排出されるアンモニア量が変動するため、1日あたり、飼育水槽2中の水量の10~30倍、望ましくは15~20とすることが望ましい。
【0028】
固形分処理槽3では、飼育水中の溶存酸素濃度(Do2)が高い方が好ましい。また、固形分処理槽3と硝化槽4との間で飼育水が連通することにより、効率よく処理することができる。
【0029】
硝化槽4は、内部に硝化菌担持粒子が充填されており、好気雰囲気下で粒子流動を利用して流入された飼育水の硝化処理を行う。硝化菌の作用により、飼育水中に含まれる有機窒素とアンモニアとが亜硝酸イオンと硝酸イオンとに分解されるが、粒子流動を利用することで、硝化反応速度が3~4倍となる。このため、標準的なシステムと同じ硝化効率を目標とした場合、飼育水の処理量、つまり、硝化槽4の貯蔵容量を標準的なシステムの2分の1から3分の1まで低減することができ、硝化槽4の所要面積を低減できるため、循環型飼育水浄化システム1の小型化が可能となる。
【0030】
また、流動化した硝化菌担持粒子の充填層(流動床)は、通常の充填層に比べて通液時の抵抗が少ないことから、循環ポンプの所要動力を低減できる。さらに、流動化した充填層には残滓が付着し難く、付着したとしてもすぐに剥離するため、濾材の目詰まりが生じない。従って、安定した硝化効率が得られ、清掃が不要となる。
【0031】
硝化菌担持粒子は、粒子径が小さいほど粒子と飼育水との接触面積が増加して反応速度が増加するため、粒子径が小さい方が望ましいが、これら充填粒子の径が小さ過ぎると流路への流出や流路の詰まりの生じる恐れがある。このため、粒子径としては、直径2mm以上8mm以下であることが好ましい。
【0032】
また、飼育水の比重は、1.00g/cm3以上1.05g/cm3以下であるため、これよりも硝化菌担持粒子の密度が小さいと水面に浮きあがって飼育水との接触面積が低下し、逆に、これより硝化菌担持粒子の密度が大きいと底面に沈んでしまい飼育水との接触面積が低下する。従って、硝化菌担持粒子の密度としては、1.00g/cm3以上1.05g/cm3以下であることが好ましい。
【0033】
また、硝化菌担持粒子が単純な球形粒子である場合、担持された菌が粒子の流動により剥離する恐れがあるため、粒子の中心部まで貫通している孔が設けられていることが望ましい。この孔の径は小さすぎると、表面張力により内部に飼育水が浸透せず、逆に大きすぎると担持された菌が剥離する恐れがある。このため、孔の径としては、5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0034】
硝化菌担持粒子は、これらの条件を満たす粒子であれば特に限定されないが、菌との親和性の良いセラミック、プラスチック、又は樹脂などを用いることが好ましい。
【0035】
固形分処理槽3から硝化槽4への飼育水の流量(
図1中に示す符号Qn)は、飼育水槽2で飼育されている魚の数、魚の体長、給餌量により魚より排出されるアンモニア量が変動するため、固形分処理槽3内の飼育水が1日当たり0.1~10回、望ましくは0.1~3回、さらに望ましくは、0.5~1.5回入れ替わる量とすることが望ましい。
【0036】
飼育水槽2と硝化槽4とは、それぞれの槽内の飼育水の温度を独立して調整する温度調整装置(図示略)を備えることが好ましい。
温度調整装置は、それぞれの槽内の飼育水の温度を独立して調整できるものであれば、特に限定されない。このような温度調整装置としては、ヒータ等の加温装置、チラー等の冷却装置、熱交換器などが挙げられる。
温度調整装置は、飼育水槽2及び硝化槽4の槽内に、それぞれ取り付けるものであってもよい。また、温度調整装置は、飼育水槽2及び硝化槽4の外側に設置し、それぞれの槽内から取り出した飼育水の一部を加温あるいは冷却した後、再び槽内に戻すものであってもよい。
さらに、温度調整装置は、飼育する魚種や飼育環境などに応じて、加温装置及び冷却装置の一方又は両方を適宜設置してもよい。
【0037】
飼育水槽2内の飼育水の温度(以下、単に「水温」という場合もある)は、特に限定されるものではなく、飼育する魚種に応じて適宜選択できる。
例えば、南方系の魚を飼育する場合では、飼育水槽2内の水温を28~30℃とすることができる。この場合、飼育水槽2内の水温は、硝化槽4、及び脱窒槽5の槽内の飼育水の温度を同等となるため、飼育水槽2、及び硝化槽4にヒータ等の温度調整装置を設けることが好ましい。
また、北方系の魚(サーモン、サバ、等)を飼育する場合では、飼育水槽2内の水温を12~20℃に設定する必要がある。この場合、飼育水槽2には、温度調整装置として加熱設備と冷却設備との両方を設けることが好ましい。これに対して、硝化槽4には、ヒータ等の加熱設備のみを設けることが好ましい。
【0038】
硝化槽4内の飼育水の温度は、20~35℃が好ましく、25~30℃がより好ましい。硝化槽4内の水温を上げることで、微生物反応を活発化することが可能となり、あわせて硝化槽4のサイズを小さくすることが可能となる。
【0039】
特に、低水温に適した魚種を飼育する場合において、飼育水槽2内の水温は低いことが望ましいが、例えば、硝化槽4と脱窒槽5の槽内の水温を、低温に適した魚種の飼育水槽2の水温である12~14℃として運転する場合、硝化槽4内の担体表面に付着している硝化菌の働きは弱くなるのが通例である。
【0040】
硝化槽4内の微生物の働きが弱くなる場合、硝化槽4における規定量の硝化作用を行なうためには、菌の量を増加させる必要がある。つまり、硝化槽4内の菌体を保持する材料(担体)の量を増加させる必要があるため、必然的に硝化槽4のサイズを大きくする必要がある。
【0041】
これに対して、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、硝化槽4の硝化菌の働きを高めるために硝化槽4内の水温を飼育水槽2の水温よりも高め(25℃~30℃)に制御することにより、硝化槽4の小型化が可能となる。
【0042】
また、硝化槽4内の飼育水の溶存酸素濃度(Do3)は、飼育水の温度における飽和酸素溶解度の80%~150%、望ましくは、100%~120%の範囲が望ましい。
【0043】
硝化槽4内の担持粒子を流動させる(流動床)ために攪拌を行なう必要があるが、攪拌機を用いた場合、攪拌時に攪拌翼と担持粒子とが接触することにより、担持粒子が粉化することが起こるため、水流による攪拌および空気や酸素による気体攪拌を実施することが望ましい。
【0044】
水流で攪拌する方法としては、ポンプなどの動力を利用して水流を形成してもよい。また、空気や酸素を用いた気体による攪拌の場合、ポンプを利用して気体を水中に噴出させてもよいし、圧力の高い気体を水中に噴出させて攪拌を行なっても良い。
【0045】
脱窒槽5は、内部に脱窒菌担持粒子が充填されており、貧酸素雰囲気下で粒子流動(流動床)を利用して飼育水の脱窒反応処理を行う。脱窒菌の働きにより、飼育水中の亜硝酸イオンと硝酸イオンとが、窒素と酸素とに変えられ、有害物質の濃度が上限未満に低減されるまで硝化槽4と脱窒槽5との間で飼育水の循環が繰り返される。
【0046】
脱窒槽5では、粒子流動(流動床)を利用することで、接触効率と反応速度が標準的な固定床のシステムの場合に比して2倍程度と高いため、所要動力と所要面積の低減が可能となる。さらに、安定した脱窒効率が得られ飼育水の交換が不要となる。
【0047】
脱窒菌担持粒子は、粒子径が小さいほど粒子と飼育水との接触面積が増加して反応速度が増加するため、粒子径が小さい方が望ましいが、これら充填粒子の径が小さ過ぎると流路への流出や流路の詰まりの生じる恐れがある。このため、脱窒菌担持粒子の粒子径としては、直径2mm以上8mm以下程度であることが好ましい。
【0048】
また、飼育水の比重は1.00g/cm3以上1.05g/cm3以下であるため、粒子の密度が小さいと水面に浮きあがって飼育水との接触面積が低下する、逆に、粒子の密度が飼育水の比重よりも大きいと底面に沈んでしまい飼育水との接触面積が低下する。従って、脱窒菌担持粒子の密度としては、1.00g/cm3以上1.05g/cm3以下が好ましい。
【0049】
また、粒子が単純な球形粒子である場合、担持された菌が粒子の流動により剥離する恐れがあるため、粒子の中心部まで貫通している孔が設けられていることが望ましい。
【0050】
この孔の径が小さすぎると、表面張力により内部に飼育水が浸透せず、逆に大きすぎると担持された菌が剥離する恐れがある。このため、脱窒菌担持粒子の径としては、5μm以上40μm以下が好ましい。脱窒菌担持粒子は、これらの条件を満たす粒子であれば特に限定されない。脱窒菌担持粒子としては、菌との親和性の良いセラミック、プラスチック、又は樹脂などを用いることが好ましい。
【0051】
脱窒槽5には、反応促進と脱ガスのため、図示しない撹拌羽及び撹拌モータが設けられている。撹拌モータは、回転数が高い程、反応と脱ガスの効率は向上するが、回転数の上昇に伴い所要電力も増加するため、10~120rpmの回転数であることが望ましい。攪拌羽と脱窒菌担持粒子が接触して粉化するリスクがあるため攪拌モータを利用しない攪拌方法がのぞましい。攪拌羽を利用しない攪拌方法として、水中ポンプなどを用いて水流を起して攪拌しても良い。
【0052】
また、脱窒反応には炭素を必要とするため、この脱窒槽5には図示しない炭素源供給装置が設けられている。炭素源は、炭素を含んでいるものなら何でも良いが、脱窒菌は水中で細胞内に炭素成分を取り込むため、水溶性の炭素源であることが望ましい。炭素源としては、菌の多くが、炭素元素が1つであるような化合物(例えばメタンやメタノール)しか分解できないため、このような炭素元素が1つであるような化合物を用いることが望ましい。
【0053】
水溶性の炭素源として、メタノールを用いても良い。固体の炭素源としては、生体分解性プラスチックを用いることが望ましい。生分解性プラスチックとしては、一般に、PLA(polylactic acid)系、PBS(polybutylene succinate)系、PCL(poly caprolactone)系、PHB(poly hydroxybutyrate)系の樹脂が知られているが、生分解性プラスチックとしては、ジカルボン酸由来の構成単位を有する生分解性プラスチックが用いられることが好ましい。また、ジカルボン酸うち、コハク酸由来の構成単位を有することが好ましく、即ち、ブチレンサクシネート単位を主たる繰り返し単位とするPBS系の生分解性プラスチックが好ましい。PBS系の生分解性プラスチックとしては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)(PBSA)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)等が好ましい例として挙げられる。特に、PBSAが、生分解性が高い点から、また、脱窒に必要な炭素源を徐放的に供給できる点から好ましい。さらにPBSAは、PHB系等その他の生分解性プラスチックより分解し易いため、脱窒菌が生育、増殖する上での基質あるいは水素供与体として好ましい。これらの液体状の炭素源の供給速度は、菌による消費速度と同等であることが望ましいが、菌による消費速度を上回り飼育水に残存した炭素源であれば、連通した硝化槽4で好気性菌により分解され無害化される。
【0054】
固体状の炭素源の場合は、菌が消費する分だけ炭素源が消費される、即ち、飼育水中に炭素源が拡散しないため固形分の消費状態を把握しやすい効果がある。また、菌が必要な量だけ供給可能なため、連通した硝化槽の負荷をむやみに増加させることがない効果も同時に得られる。
【0055】
脱窒槽5の飼育水中の溶存酸素濃度(Do4)は、嫌気性菌が活発に働くために、0.2ppm~3.5ppmの範囲があることが必要であり、0.5~2.5ppm以下の貧酸素条件であることが望ましい。
【0056】
脱窒槽5では、脱窒槽5と連通している硝化槽4の好気性菌が酸素を活発に消費することにより、硝化槽4とのみ連通している脱窒槽5に供給される飼育水中の溶存酸素濃度は適度な貧酸素状態に制御することが可能となる。すなわち、硝化槽4での活発な硝化が飼育水中の溶存酸素濃度を下げ、ひいては脱窒槽5の処理効率に大きく影響を及ぼす。
【0057】
脱窒槽5内の飼育水の温度(脱窒槽5内の水温)は、嫌気性菌が活発に働くために、20~35℃であることが好ましく、25~30℃であることがより好ましい。本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、硝化槽4と脱窒槽5とが連通していることにより、硝化槽4と脱窒槽5とが連通していることにより、硝化槽4の加温された(具体的は25℃~30℃)飼育水が脱窒槽5に導入される。このため、脱窒槽5の水温は必然的に上昇し、水温の上昇により嫌気性菌の活動が活発になることから、脱窒槽5の能力は相対的に高まり、脱窒槽5、ひいては循環型飼育水浄化システム1の小型化が可能となる。
【0058】
硝化槽4から脱窒槽5への飼育水の流量(
図1中に示す符号Qd)は、飼育水槽2で飼育されている魚の数、魚の体長、給餌量により魚より排出されるアンモニア量が変動するため、硝化槽4内の飼育水が1日当たり0.1~10回、望ましくは0.1~3回、さらに望ましくは、0.5~1.5回入れ替わる量とすることが望ましい。
【0059】
本実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、脱窒槽5が硝化槽4とのみ連通しており、硝化槽4の好気性菌によって溶存酸素濃度(Do3)が低い状態とされた飼育水が脱窒槽5に導入される。また、硝化槽4での好気性菌の働きが活発になるほど処理水中(流量Qd)の溶存酸素は好気性菌により消費され、結果として脱窒槽5の入口水中の溶存酸素濃度が下がる。このため、連通している脱窒槽5の溶存酸素濃度(Do4)が低く抑えられる(0.2ppm~3.5ppm)という効果が得られる。すなわち、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、硝化槽4の水温を上げることで、好気性菌(硝化菌)の酸素消費量が増加し、硝化槽4とのみ連通する脱窒槽5に移送する飼育水(処理水)中の酸素濃度を下げることができ、嫌気性菌(脱窒菌)の働きが高まるという相乗効果が得られる。最終的に、脱窒槽5の嫌気性菌は、溶存酸素の少ない環境での活発な脱窒反応を保持することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、脱窒槽5が硝化槽4とのみ連通しているため、脱窒槽5で溶存酸素濃度(Do4)が低下した飼育水は硝化槽4に返送される。これにより、溶存酸素濃度が低下した飼育水が脱窒槽5から、直接、飼育水槽2に入ることがないため、飼育水槽2の溶存酸素濃度(Do1)が低下することを防ぐことが可能となる。
【0061】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、固形分処理槽3からの戻りの飼育水は、空気ブロワをともなった空気曝気装置(図示略)を通過した後、飼育水の水温における空気中の酸素分圧(21vol%)での飽和溶存酸素の状態で飼育水槽2に戻ることとなる。
【0062】
酸素供給装置6は、飼育水中の酸素濃度を制御する。酸素供給装置6としては、空気ファインバブルと酸素ファインバブルとを選択的に発生させるものが好ましい。
飼育水槽2中の魚の数や魚の体重などと共に、固形分処理槽3、硝化槽4における微生物が消費する溶存酸素量を勘案し、飼育水中の酸素濃度を高める必要がある場合、旋回流式のファインバブル発生ノズルを用いた酸素供給装置を用いることで、飼育水槽2内の飼育水中の溶存酸素濃度(Do1)を高める制御が可能となる。
【0063】
酸素供給装置6として、アスピレータ機能を呈するオリフィス部分に気体(空気、酸素等)を供給してファインバブル(空気ファインバブル、酸素ファインバブル)を発生させるアスピレータ方式と、旋回流を発生させるノズルに酸素を供給するファインバブル発生ノズルのいずれかを用いることで、飼育水中の溶存酸素を高めることが可能となる。
【0064】
酸素供給装置6において、旋回流を発生させるノズルに酸素を供給するファインバブル発生ノズルを用いる場合、ファインバブル発生ノズルがマイクロバブルとウルトラファインバブルとの両方を効率良く発生すること可能である。
【0065】
酸素供給装置6により、飼育水槽2中の飼育水の溶存酸素濃度(Do1)を最適な状態に維持することができる。また、旋回流式のファインバブル発生ノズルを用いることにより、効率よく溶存酸素濃度を高めることができ、ウルトラファインバブルを飼育水中に拡散させることにより、循環型飼育水浄化システム1の装置構成を最小化することが可能となる。
【0066】
ウルトラファインバブルは、バブルを飼育水中に拡散させることにより飼育水中の溶存酸素が少なくなると、バブルの状態から水中へ酸素が溶けこむ働きを発揮する。このため、飼育水の処理槽の部分的な貧酸素状態を緩和する有効な手段となる。
飼育水槽2から直列に接続された固形分処理槽3、硝化槽4では、飼育水中の溶存酸素量が多いことが好気性菌の働きを活発にさせるため、結果として固形分処理槽3、硝化槽4の小型化とポンプ動力の削減が可能となる。
【0067】
また、装置の簡素化と縮小化及び所要動力の削減により、装置の初期コストと運転費を従来の閉鎖型循環型飼育の設備に比較して低減可能である。これにより小規模のシステムでも閉鎖循環型飼育による陸上養殖事業の採算性が取りやすくなるメリットがある。すなわち、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、装置の小型化かつ簡易化が可能となり、充分な浄化性能を維持しつつ、設備費及び運転費の低減化を図ることができると共に、清掃コストの低減化を図ることができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、固形分処理槽3、硝化槽4、脱窒槽5のサイズを変更することなく、各処理槽の能力(例えば、溶存酸素濃度、水温、流量等)を制御可能である。
【0069】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、脱窒槽5が硝化槽4とのみ連通しており、脱窒槽5で溶存酸素濃度が低下した飼育水を硝化槽4に返送し、溶存酸素濃度が低下した飼育水を脱窒槽5から、直接、飼育水槽2に供給することがない。このため、飼育水槽2の溶存酸素濃度の低下を防止でき、酸素供給装置6の小型化、運転動力の低減が可能となる。
【0070】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、固形分処理槽3、硝化槽4、脱窒槽5への飼育水の流量の制御と、硝化槽4および脱窒槽5の菌の働きを保つための加温(温度制御)を実施することにより、魚の飼育に適切な飼育水の温度と、硝化槽4および脱窒槽5の処理に適切な飼育水の温度との間に乖離がある場合であっても、飼育水の処理と飼育水槽2内の水の温度が飼育対象に適した陸上養殖が可能となる。
【0071】
より具体的には、全ての処理槽が直列につながっている従来の循環型飼育水浄化システムでは、飼育水槽内の飼育水のうち、大量の飼育水を温めた後に硝化槽、及び脱窒槽を通過させていた。このため、水を循環させるポンプの動力や、飼育水温を調節する加熱装置や冷却装置(温度調整装置)の動力、すなわち大きなエネルギーが必要であった。
【0072】
これに対して、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、硝化槽4、及び脱窒槽5において処理される窒素系成分の濃度が低いため、飼育水槽2内の飼育水の全量を循環処理する必要がない。このため、飼育水槽2内の飼育水の温度(水温)と、硝化槽4及び脱窒槽5内の飼育水の温度(水温)の差が大きい場合、飼育水槽2から硝化槽4及び脱窒槽5へ循環させる飼育水の流量(すなわち、
図1中に示すQfに対して、Qn及びQd)を可能な限り低減することで、ポンプの動力及び温度調整装置の動力を含む全体の消費電力を低減できる。また、飼育水槽2内の水温と、硝化槽4及び脱窒槽5内の水温の差が小さい(あるいは無い)場合であっても、飼育水槽2から硝化槽4及び脱窒槽5へ循環させる飼育水の流量を適切に制御することで、ポンプの動力を削減できる。
【0073】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、飼育水槽2内の飼育水中の溶存酸素濃度については、旋回流式のファインバブル発生ノズルを有する酸素供給装置6を用いて、飼育水中にファインバブルを発生させことにより、マイクロバブルとウルトラファインバブルとの両方を効率良く発生することができ、飼育水槽2中の飼育魚と固体成分処理、窒素系の処理をおこなう好気性菌に対して効率よく酸素の供給が可能となる。
【0074】
また、本実施形態の循環型飼育水浄化システム1によれば、装置の簡素化と縮小化、及び所要動力の削減により、装置の初期コストと運転費を従来の閉鎖型循環型飼育の設備に比較して50%以上削減可能である。これにより、小規模のシステムでも閉鎖循環型飼育による陸上養殖事業の採算性が取りやすくなる。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。上述した実施形態の循環型飼育水浄化システム1では、飼育水槽2、固形分処理槽3、硝化槽4及び脱窒槽5が、それぞれを接続する流路に循環ポンプを備える構成を一例として説明したが、流路に循環ポンプを設けない構成としてもよい。例えば、固形分処理槽3が硝化槽4よりも高い位置に設けられている場合、固形分処理槽3と硝化槽4とを接続する流路には循環ポンプを設けることなく、液ヘッドにより固形分処理槽3から硝化槽4へ飼育水を供給する構成としてもよい。また、飼育水槽2、固形分処理槽3、硝化槽4及び脱窒槽5を接続する流路に開閉バルブをそれぞれ設けて飼育水の流量を調整する構成としてもよい。
【実施例0076】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0077】
<実施例1>
本発明の循環型飼育水浄化システムとして、
図1に示す循環型飼育水浄化システムを用い、長期飼育試験を行った。以下に試験条件を示す。
(試験条件)
・試験期間:328日
・設備概要
・・飼育水槽:15m
3(15t)、有効容積:11m
3 1基
・・酸素供給装置:
・・固形分処理槽:3.0m
3、有効容積:1.8m
3 2基
・・硝化槽:3.0m
3、有効容積:2.5m
3 1基
(硝化担体:クラゲール、450L投入)
・・脱窒槽:3.0m
3、有効容積:2.5m
3 1基
(脱窒剤:生分解性樹脂BioPBS、35kg投入)
・設備内
・・全水量:19.6m
3
【0078】
(飼育水の調整)
設備内に水道水19.6m3に投入し、人工海水うみしお(株式会社日本海水製)を、塩分濃度3質量%となるように添加・混合し、溶解させた。その後、水道水に含まれる次亜塩素酸カルシウム由来の塩素を除去するため、3週間、設備内に魚を投入していない状態で、飼育水槽で曝気を行いつつ、設備全体に水を循環させた。
【0079】
(飼育水の浄化処理)
飼育水槽中の飼育水の一部を、固形分処理槽、硝化槽、脱窒槽に循環させ、飼育水の固形分およびアンモニア、亜硝酸イオン、硝酸イオンを除去した。
【0080】
(飼育条件)
・魚種:ハイブリッドハタ(ローンフーバン)
・飼育密度:初期条件1200尾/槽、平均10g/個体
・給餌方法:飽和給餌、2回/日
・エサ:日清丸紅飼料株式会社、「ひらめEP F-6 浮上性飼料」
【0081】
(飼育水の分析)
試験期間の151日目以降、飼育水槽の飼育水を1回/週の頻度で100ml採取した。その後、飼育水の全窒素(TN)(mg/l)、アンモニア態窒素(NH4-N)(mg/l)、亜硝酸態窒素(NO2-N)(mg/l)、硝酸態窒素(NO3-N)(mg/l)、全有機炭素(TOC)(mg/l)の測定を行った。
なお、飼育水の窒素分の分析において、「NH4-N」はアンモニア中の窒素の量を示し、「NO2-N」は亜硝酸イオン中の窒素の量を示し、「NO3-N」は硝酸イオン中の窒素の量を示す。「TN」は有機窒素、「NH4-N」、「NO2-N」、「NO3-N」の合計量を示す値である。また、「TOC」は、飼育水中の有機物由来の炭素量を示し、飼育水中の固形物量の指標である。
【0082】
(各水質項目の分析方法)
飼育水の全窒素(TN)、全有機炭素(TOC)は、JIS K0557に記載の燃焼酸化法に従って測定を実施した。
「NO3-N」は、JIS K 0102 43.2.5に記載のイオンクロマトグラフ法に従って実施した。
「NH4-N」は、JIS K 0102 42.2に記載のインドフェノール青吸光光度法に従って実施した。
「NO2-N」は、JIS K 0102 43.1.1に記載のナフチルエチレンジアミン吸光光度法に従って実施した。
【0083】
(飼育試験結果)
飼育期間328日時点の飼育結果は、以下の通りであった。
・生存率:95.2%(1143尾生存)
・累積給餌重量:603.8kg
また、各槽内、DO値については、以下の通りであった。
・飼育水槽:5.0~7.2mg/Lの範囲を維持していた。
・固形分処理槽:7.0~7.8mg/Lの範囲を維持していた。
・硝化槽:7.0~7.8mg/Lの範囲を維持していた。
・脱窒槽:1.5~3.5mg/Lの範囲を維持していた。
【0084】
(飼育水水質結果)
上記の方法で、328日間の長期飼育試験を行い、飼育水の水質の変動を評価した。試験期間における飼育水のT-N、NH
4-N、NO
2-N、NO
3-N、TOCの結果を、それぞれ
図2~6に示す。
なお、
図2のTN理論値は、累積給餌重量とN排出係数(3.5%)の積により算出した値であり、飼育水の浄化処理を行わない場合での飼育水の全窒素(TN)を示す指標である。
また、N排出係数は、別途、1t水槽(有効容積:0.7m
3)において、ハイブリッドハタ(ローンフーバン)200尾/槽を、飼育水浄化処理を行わない条件で、30日間飼育し、その飼育期間での累積給餌量(kg)と飼育水中に排出された全窒素量(kgTN)から算出した値であり、給餌量に対し、魚体から飼育水中に排出される全窒素量の比率を示す値である。
また、
図3~6に記載の値は、全て実測値である。
【0085】
図2に示すように、飼育水のTNの結果から、飼育期間中のTN実測値は、TN理論値よりも低い値で推移していた。また、TN理論値では、飼育日数の経過とともに上昇したのに対し、TN実測値では、一部の期間で上昇したものの、TN理論値ほどの上昇は見られず、魚体の生育への影響が低いとされる500mg/l未満の範囲内で推移していた。
【0086】
図3及び
図4に示すように、飼育期間中の飼育水のNH
4-N、NO
2-Nは、どちらも0.3mg/l未満の範囲内で推移しており、本発明の設備において、硝化処理によりアンモニアおよび亜硝酸イオンが良好に分解されたことが確認された。
【0087】
図5に示すように、飼育期間中、飼育水のNO
3-NとTN実測値の値がほぼ同等であることから、TN中の窒素分はほぼ全てNO
3-Nであると考えられる。よって、飼育水の有機窒素においても、アンモニアと亜硝酸イオンと同様に、本発明の設備における硝化処理により、良好に分解されたことが確認された。一方、NO
3-Nについては、TNと同様、TN理論値のような上昇は見られず、魚体の生育への影響が低いとされる500mg/l未満の範囲内で推移していた。このことから、本発明の設備において、脱窒処理による硝酸イオンの還元が良好に進んだことが確認された。
【0088】
図6に示すように、試験期間中の飼育水のTOCは、50mg/l未満の範囲で推移しており、本発明の設備において、固形分処理槽により固形物が良好に除去されたことが確認された。
【0089】
<実施例2>
本発明の循環型飼育水浄化システムとして、
図1に示す循環型飼育水浄化システムを用い、長期飼育試験を行った。実施例2として、1tの容積の飼育水槽を用いた。以下に試験条件を示す。
(試験条件)
・試験期間:108日
・設備概要
・・飼育水槽:1m
3(1t)、有効容積:0.7m
3 1基
・・酸素供給装置:
・・固形分処理槽:0.3m
3、有効容積:0.24m
3 1基
・・硝化槽:0.3m
3、有効容積:0.25m
3 1基
(硝化担体:クラゲール、20L投入)
・・脱窒槽:0.3m
3、有効容積:0.25m
3 1基
(脱窒剤:生分解性樹脂BioPBS、6.2kg投入)
・設備内
・・全水量:1.44m
3
【0090】
(硝化槽及び脱窒槽まわりの流量)
・固形分処理槽→硝化槽:3.2L/min
・硝化槽→飼育水槽:3.2L/min
・硝化槽→脱窒槽:1.2L/min
・脱窒槽→硝化槽:1.2L/min
【0091】
(飼育水の調整)
設備内に水道水1.44m3に投入し、人工海水うみしお(株式会社日本海水製)を、塩分濃度3質量%となるように添加・混合し、溶解させた。その後、水道水に含まれる次亜塩素酸カルシウム由来の塩素を除去するため、3週間、設備内に魚を投入していない状態で、飼育水槽で曝気を行いつつ、設備全体に水を循環させた。
【0092】
(飼育水の浄化処理)
飼育水槽中の飼育水の一部を、固形分処理槽、硝化槽、脱窒槽に循環させ、飼育水の固形分およびアンモニア、亜硝酸イオン、硝酸イオンを除去した。
【0093】
(飼育条件)
・魚種:ハイブリッドハタ(ローンフーバン)
・飼育密度:初期条件200尾/槽、平均8g/個体
・給餌方法:飽和給餌、1回/日
・エサ:日清丸紅飼料株式会社、「ひらめEP F-6 浮上性飼料」
【0094】
(飼育水の分析)
試験期間の1日目以降、飼育水槽の飼育水を1回/週の頻度で100ml採取した。その後、飼育水の全窒素(TN)(mg/l)、アンモニア態窒素(NH4-N)(mg/l)、亜硝酸態窒素(NO2-N)(mg/l)、硝酸態窒素(NO3-N)(mg/l)、全有機炭素(TOC)(mg/l)の測定を行った。
なお、飼育水の窒素分の分析において、「NH4-N」はアンモニア中の窒素の量を示し、「NO2-N」は亜硝酸イオン中の窒素の量を示し、「NO3-N」は硝酸イオン中の窒素の量を示す。「TN」は有機窒素、「NH4-N」、「NO2-N」、「NO3-N」の合計量を示す値である。また、「TOC」は、飼育水中の有機物由来の炭素量を示し、飼育水中の固形物量の指標である。
【0095】
(各水質項目の分析方法)
上述した実施例1と同様にして行った。
【0096】
(飼育試験結果)
飼育期間108日時点の飼育結果は、以下の通りであった。
・生存率:94.0%(188尾生存)
・累積給餌重量:20.2kg
また、各槽内、DO値については、以下の通りであった。
・飼育水槽:6.0~9.2mg/Lの範囲を維持していた。
・固形分処理槽:7.0~7.8mg/Lの範囲を維持していた。
・硝化槽:7.0~7.8mg/Lの範囲を維持していた。
・脱窒槽:1.5~3.5mg/Lの範囲を維持していた。
【0097】
(飼育水水質結果)
上記の方法で、108日間の長期飼育試験を行い、飼育水の水質の変動を評価した。試験期間における飼育水のT-N、NH
4-N、NO
2-N、NO
3-N、TOCの結果を、それぞれ
図7~11に示す。
なお、
図7のTN理論値は、
図2と同様に、累積給餌重量とN排出係数(3.5%)の積により算出した値である。
また、
図8~11に記載の値は、全て実測値である。
【0098】
図7に示すように、飼育水のTNの結果から、飼育期間中のTN実測値は、TN理論値よりも低い値で推移していた。また、TN理論値では、飼育日数の経過とともに上昇したのに対し、TN実測値では、一部の期間で上昇したものの、TN理論値ほどの上昇は見られず、魚体の生育への影響が低いとされる200mg/l未満の範囲内で推移していた。
【0099】
図8及び
図9に示すように、飼育期間中の飼育水のNH
4-N、NO
2-Nは、どちらも0.7mg/l未満の範囲内で推移しており、本発明の設備において、硝化処理によりアンモニアおよび亜硝酸イオンが良好に分解されたことが確認された。
【0100】
図10に示すように、飼育期間中、飼育水のNO
3-NとTN実測値の値がほぼ同等であることから、TN中の窒素分はほぼ全てNO
3-Nであると考えられる。よって、飼育水の有機窒素においても、アンモニアと亜硝酸イオンと同様に、本発明の設備における硝化処理により、良好に分解されたことが確認された。
一方、NO
3-Nについては、TNと同様、TN理論値のような上昇は見られず、魚体の生育への影響が低いとされる200mg/l未満の範囲内で推移していた。このことから、本発明の設備において、脱窒処理による硝酸イオンの還元が良好に進んだことが確認された。
【0101】
図11に示すように、試験期間中の飼育水のTOCは、50mg/l未満の範囲で推移しており、本発明の設備において、固形分処理槽により固形物が良好に除去されたことが確認された。
【0102】
<比較例>
比較例の循環型飼育水浄化システムとして、
図12に示す従来の循環型飼育水浄化システムを用い、長期飼育試験を行った。
なお、従来の循環型飼育水循環システムは、
図12に示すように、飼育水槽、固形分処理槽、硝化槽、及び脱窒槽が直列に接続されており、固形分処理槽及び硝化槽からオーバフローした飼育水を飼育水槽へそれぞれ返送する以外、脱窒槽から飼育水槽へ飼育水を直接返送するものである。
【0103】
以下に試験条件を示す。
(試験条件)
・試験期間:80日
・設備概要
・・飼育水槽:1m3(1t)、有効容積:0.7m3 1基
・・酸素供給装置:
・・固形分処理槽:0.3m3、有効容積:0.24m3 1基
・・硝化槽:1.1m3、有効容積:0.9m3 1基
(硝化担体:クラゲール、70L投入)
・・脱窒槽:1.1m3、有効容積:0.9m3 1基
(脱窒剤:生分解性樹脂BioPBS、23kg投入)
・設備内
・・全水量:1.44m3
【0104】
(硝化槽及び脱窒槽まわりの流量)
・飼育水槽→固形分処理槽:12L/min(
図12中に示す符号Q
f)
・固形分処理槽→飼育水槽:0.5L/min(
図12中に示す符号R
f1)
・固形分処理槽→硝化槽:11.5L/min
・硝化槽→飼育水槽:0.5L/min(
図12中に示す符号R
f2)
・硝化槽→脱窒槽:11L/min
・脱窒槽→飼育水槽:11L/min
【0105】
「飼育水の調整」、「飼育水の浄化処理」、「飼育条件」、「飼育水の分析」、及び「各水質項目の分析方法」については、上述した実施例2と同様にして行った。
【0106】
(飼育試験結果)
飼育期間80日時点の飼育結果は、以下の通りであった。
・生存率:95%(190尾生存)
・累積給餌重量:20.2kg
また、各槽内、DO値については、以下の通りであった。
・飼育水槽:6.0~9.2mg/Lの範囲を維持していた。
・固形分処理槽:7.0~7.8mg/Lの範囲を維持していた。
・硝化槽:7.0~7.8mg/Lの範囲を維持していた。
・脱窒槽:1.5~3.5mg/Lの範囲を維持していた。
【0107】
比較例1の設備において、硝化処理によりアンモニアおよび亜硝酸イオンが良好に分解されたことが確認された。
しかしながら、比較例1の設備では、すべての処理槽が直列で接続されており、硝化槽(及び脱窒槽)の飼育水の処理量(11L/min)が、実施例2の硝化槽の飼育水の処理量(3.2L/min)の約3.7倍であった。
また、比較例1の設備では、飼育水の処理量に応じた充填剤量が必要となり、それぞれ実施例2の約3.7倍であった。