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特開2023-99957無線通信方法、無線通信装置および無線通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099957
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】無線通信方法、無線通信装置および無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/14 20090101AFI20230707BHJP
   H04W 4/80 20180101ALI20230707BHJP
   H04W 74/08 20090101ALI20230707BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20230707BHJP
   H04B 5/02 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
H04W16/14
H04W4/80
H04W74/08
H04W84/12
H04B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000257
(22)【出願日】2022-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】大槻 信也
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 俊介
【テーマコード(参考)】
5K012
5K067
【Fターム(参考)】
5K012AB03
5K012AB19
5K012AC01
5K012AC08
5K012AC10
5K067AA03
5K067AA43
5K067KK03
(57)【要約】
【課題】この開示は、バックスキャッタ(BS)通信の利用に好適な無線通信方法に関し、無線LANの信号とBS信号との衝突を避けつつ、無線LANの通信とBS通信とを併存させることを目的とする。
【解決手段】無線LANのアクセスポイントとしての機能を有する無線装置10が、無線LANで規定されているプリアンブル信号50とBS信号52とを含むBS用信号12を送信する。BS装置16は、BS用信号12から駆動電力を取得して変調信号14を送信する。変調信号14を受信した無線装置10は、当該変調信号14を処理してBS通信を成立させる。CSMA/CAの手法でデータ送信を制限する機能を有する無線端末18は、前記プリアンブル信号50に反応してデータ送信を制限する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線LANのアクセスポイントとしての機能を有する無線装置が、無線LANで規定されているプリアンブル信号とBS信号とを含むBS用信号を送信するステップと、
BS装置が、前記BS用信号から駆動電力を取得して生成した変調信号を送信するステップと、
前記変調信号を受信した無線装置が、当該変調信号を処理するステップと、
CSMA/CAの手法でデータ送信を制限する機能を有する無線端末が、前記プリアンブル信号に反応してデータ送信を制限するステップと、
を含む無線通信方法。
【請求項2】
前記BS用信号を送信する無線装置と、前記変調信号を受信する無線装置とが異なる位置に設置される別個の装置である請求項1に記載の無線通信方法。
【請求項3】
前記BS用信号は、宛て先のBS装置に対応する識別信号を含み、
前記BS装置が、前記識別信号に基づいて、受信したBS用信号が自身に宛てられたものであるか否かを判断するステップと、
前記BS装置が、受信したBS用信号が自身に宛てられたものではないと判断した場合に、当該BS用信号を無視するステップと、
前記BS装置が、受信したBS用信号が自身に宛てられたものであると判断した場合に、前記変調信号を生成するステップと、
を更に含む請求項1または2に記載の無線通信方法。
【請求項4】
前記BS用信号は、前記識別信号の後に規定のインターバルを挟んで前記BS信号を含む請求項3に記載の無線通信方法。
【請求項5】
前記無線装置が前記BS用信号を送信してから、前記無線装置が前記変調信号を受信するまでの時間差を算出するステップと、
前記時間差に基づいて、前記無線装置と、前記変調信号を送信したBS装置との距離を推定するステップと、
前記変調信号と、推定された前記距離とを関連付けるステップと、
を更に含む請求項1乃至4の何れか1項に記載の無線通信方法。
【請求項6】
前記変調信号を受信する無線装置は、複数のアンテナを備え、
当該無線装置が、前記複数のアンテナの夫々で受信される前記変調信号の位相差に基づいて、当該変調信号の到来方向を推定するステップと、
前記変調信号と、推定された前記到来方向とを関連付けるステップと、
を更に含む請求項1乃至5の何れか1項に記載の無線通信方法。
【請求項7】
無線LANのアクセスポイントとしての機能を有する無線装置であって、
無線LANの通信に用いる無線信号、およびBS通信に用いるBS用信号並びに変調信号を送受信する無線通信部と、
前記無線通信部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、無線LANが規定するプリアンブル信号とBS通信のためのBS信号とを含むBS用信号を、前記無線通信部に送信させるように構成されている無線通信装置。
【請求項8】
無線LANのアクセスポイントとして機能すると共に、BS用信号を送信する機能を有するように構成された無線装置と、
前記BS用信号から駆動電力を取得して生成した変調信号を送信するBS装置と、
前記変調信号を受信して処理する無線装置と、
CSMA/CAの手法でデータ送信を制限する機能を有する無線端末と、を備え、
前記無線装置は、前記BS用信号に、BS通信のためのBS信号に加えて無線LANで規定されているプリアンブル信号を含めるように構成されている無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、無線通信方法、無線通信装置および無線通信システムに係り、特に、バックスキャッタ通信の利用に好適な無線通信方法、無線通信装置および無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、バックスキャッタ(Back Scatter: 以下、「BS」とする)通信の技術と、無線LAN(Local Area Network)の技術とを組み合わせる技術が開示されている。BS通信は、レーダ技術を応用して、電源を用いることなくモノとモノとの間でのデータ通信を可能とする技術である。
【0003】
BS通信では、質問を発する無線装置と、質問を受けるBSタグとが用いられる。BSタグは、無線装置から発せられる無線信号(以下、「BS信号」とする)から駆動電力を取得して、BS信号を反射するオン状態と、BS信号を反射しないオフ状態とを切り替える。オン状態とオフ状態は、反射波が質問に対する回答となるように切り替えられる。以下、この反射波を「変調信号」と称す。
【0004】
変調信号には、例えば、BSタグの識別子を埋め込むことができる。或いは、BSタグにセンサを搭載して、そのセンサの検出値を変調信号に埋め込むこともできる。質問を発した無線装置は、BSタグからの変調信号を受信して、その質問に対する回答を得ることができる。
【0005】
下記非特許文献1には、BSタグが発する変調信号を、WiFi(登録商標)での通信が可能な無線端末に受信させる技術が開示されている。この技術によれば、BS通信をインターネットに繋げることが可能となる。BSタグは、無給電で作動させることができるため、様々な場所に容易に組み込むことができる。このため、BS通信と無線LANとの組み合わせによれば、消費電力の小さなIoT(Internet of Things)の可能性を大きく広げることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Wi-Fi backscatter: Internet connectivity for RF-powered devices", Bryce Kellogg, Aaron Parks, Shyamnath Gollakota, Joshua R. Smith, and David Wetherall, University of Washington, Proceedings of the 2014 ACM Conference on SIGCOMM. 2014, Page 607-618.https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/2619239.2626319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、無線LANの分野では、複数の無線機器が同時にデータを送信することによる信号の衝突を避けるために、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)の手法が用いられることがある。CSMA/CAの手法では、無線機器の夫々が、共用の無線チャネルを継続的に監視し、一定時間以上継続してそのチャネルが空いていることを確認して信号を送信する。
【0008】
一方で、BS通信で用いられる従来のBS信号は、無線LANの規則に準拠するものではない。このため、BS通信と無線LANによる通信とが重なる環境下では、無線LANの無線機器によりBS信号が認識されない事態が生じ得る。そして、この場合、BS信号が送信されているにも関わらず、無線LANの無線機器が、チャネルの空きを誤認してデータを送信してしまい、無線LANの信号とBS信号とが衝突する事態が生じ得る。
【0009】
本開示は、上記の課題に着目してなされたものであり、無線LANの信号とBS信号との衝突を避けつつ、無線LANの通信とBS通信とを併存させるための無線通信方法を提供することを第一の目的とする。
また、本開示は、無線LANの信号とBS信号との衝突を避けつつ、無線LANの通信とBS通信とを併存させるための無線通信装置を提供することを第二の目的とする。
更に、本開示は、無線LANの信号とBS信号との衝突を避けつつ、無線LANの通信とBS通信とを併存させるための無線通信システムを提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1の態様は、上記の目的を達成するため、無線通信方法であって、
無線LANのアクセスポイントとしての機能を有する無線装置が、無線LANで規定されているプリアンブル信号とBS信号とを含むBS用信号を送信するステップと、
BS装置が、前記BS用信号から駆動電力を取得して生成した変調信号を送信するステップと、
前記変調信号を受信した無線装置が、当該変調信号を処理するステップと、
CSMA/CAの手法でデータ送信を制限する機能を有する無線端末が、前記プリアンブル信号に反応してデータ送信を制限するステップと、
を含むことが望ましい。
【0011】
また、本開示の第2の態様は、無線LANのアクセスポイントとしての機能を有する無線装置であって、
無線LANの通信に用いる無線信号、およびBS通信に用いるBS用信号並びに変調信号を送受信する無線通信部と、
前記無線通信部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、無線LANが規定するプリアンブル信号とBS通信のためのBS信号とを含むBS用信号を、前記無線通信部に送信させるように構成されていることが望ましい。
【0012】
また、本開示の第3の態様は、無線通信システムであって、
無線LANのアクセスポイントとして機能すると共に、BS用信号を送信する機能を有するように構成された無線装置と、
前記BS用信号から駆動電力を取得して生成した変調信号を送信するBS装置と、
前記変調信号を受信して処理する無線装置と、
CSMA/CAの手法でデータ送信を制限する機能を有する無線端末と、を備え、
前記無線装置は、前記BS用信号に、BS通信のためのBS信号に加えて無線LANで規定されているプリアンブル信号を含めるように構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、無線LANの信号とBS信号との衝突を避けつつ、無線LANの通信とBS通信とを併存させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施の形態1の無線通信システムの構成を説明するための図である。
図2図1に示す無線通信システムに含まれる無線装置の構成を説明するためのブロック図である。
図3図1に示す無線通信システムに含まれるBS装置の構成を説明するためのブロック図である。
図4図1に示す無線通信システムに含まれる無線端末の構成を説明するためのブロック図である。
図5】本開示の実施の形態1の無線通信システムの構成と特徴を説明するための図である。
図6】本開示の実施の形態1の無線通信システムにおいて実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図7】本開示の実施の形態1の無線通信システムの変形例の構成を説明するための図である。
図8】本開示の実施の形態2の無線通信システムの構成と特徴を説明するための図である。
図9】本開示の実施の形態2においてBS装置で実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図10】本開示の実施の形態3の無線通信システムの構成と特徴を説明するための図である。
図11】本開示の実施の形態4において無線装置で実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図12】本開示の実施の形態5の無線通信システムの構成と特徴を説明するための図である。
図13】本開示の実施の形態5において無線装置で実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本開示の実施の形態1の無線通信システムの構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態の無線通信システムは、無線装置10を備えている。無線装置10は、無線LANのアクセスポイント(AP)としての機能を有しており、図示しない有線の経路を介して上位の通信機器と接続されている。APとしての機能には、CSMA/CAの手法で、チャネルの空きが一定時間以上確認できた場合に無線信号を送信する機能が含まれている。
【0016】
無線装置10は、また、無線LANの周波数を用いるBS通信のための信号を処理する機能を有している。より具体的には、BS通信のためのBS用信号12を送信する機能と、BS通信のための変調信号14を受信する機能とを有している。BS用信号12は、BS装置16に到達する他、無線装置10の周辺に存在する無線端末18にも到達する。
【0017】
BS装置16は、例えば、IoTのシステムに組み込まれる各種装置に装着可能なタグ形状を有することができる。BS装置16は、BS用信号12から駆動電力を取得して、その信号を反射するオン状態と、その信号を反射しないオフ状態とを切り替える。BS装置16は、オン状態とオフ状態とを切り替えてBS用信号12を適宜反射することにより、BS通信で伝えるべき情報を埋め込んだ変調信号14を生成する。
【0018】
無線端末18は、無線LANの機能により無線装置10と通信する機能を有している。例えば、スマートフォン、タブレット端末が無線端末18に該当する。無線端末18は、APと同様に、CSMA/CAの手法でチャネルを空きが確認できた場合にデータ送信を開始する機能を有している。
【0019】
図2は、無線装置10の構成の一例を説明するためのブロック図である。無線装置10は、制御部20を備えている。制御部20は、演算処理ユニットとメモリを備えている。制御部20の機能は、メモリに格納されているプログラムに沿った処理を演算処理ユニットが実行することで実現される。
【0020】
無線装置10は、無線通信部22を備えている。無線通信部22は、無線LANの規則に従って無線信号を送信および受信する機能を有している。この機能には、上述したCSMA/CAの機能が含まれている。また、無線通信部22は、上記のBS用信号12を送信する機能と、上記の変調信号14を受信する機能を有している。
【0021】
無線装置10は、また、有線通信部26を備えている。有線通信部26は、無線装置10を、上位の通信機器に接続する機能を有している。無線装置10は、有線通信部26を介して、インターネット等の外部ネットワークに接続されている。
【0022】
無線装置10では、制御部20の指令に応じて無線通信部22が適切な処理を行うことにより、BS装置16との通信、並びに無線端末18との通信が確立される。そして、無線装置10では、制御部20の指令に応じて有線通信部26が適切な処理を行うことにより、BS装置16および無線端末18の夫々と、上位のネットワークとの間での情報通信が確立される。
【0023】
図3は、BS装置16の構成の一例を説明するためのブロック図である。図3に示すように、BS装置16は、制御部30を備えている。制御部30には、センサ32とRFスイッチ34とが接続されている。また、RFスイッチ34には、BS用信号12を受信するためのアンテナ36が接続されている。
【0024】
制御部30には、アンテナ36が受信したBS用信号から駆動電力を取得する電源回路が含まれている。BS装置16は、その電源回路が取得する電力により作動する。このため、BS装置16は、バッテリを搭載することなく、かつ、外部からの電力供給を行うことなく、持続的に作動させることができる。
【0025】
制御部30は、アンテナ36がBS用信号12を受信すると、規定の規則に従ってRFスイッチ34を駆動する。RFスイッチ34は、制御部30の指令に応じて、BS用信号12を反射するオン状態とBS用信号12を反射しないオフ状態を適宜切り替える。これにより、BS用信号12は、二値化された変調信号14に変調される。そして、変調信号14は、アンテナ36から反射波として放射される。
【0026】
制御部30には、識別子が割り当てられていてもよい。この場合、制御部30は、その識別子が変調信号14に埋め込まれるようにRFスイッチ34を駆動してもよい。また、制御部30は、センサ32から検出値を取得して、その検出値が変調信号14に埋め込まれるようにRFスイッチを駆動してもよい。これらの動作によれば、変調信号14に、BS装置16に割り当てられた識別子と、センサ32の検出値を埋め込むことができる。
【0027】
図4は、無線端末18の構成の一例を説明するためのブロック図である。図4に示すように、無線端末18は、制御部40を備えている。制御部40は、演算処理ユニットとメモリを備えている。制御部40の機能は、メモリに格納されているプログラムに沿った処理を演算処理ユニットが実行することで実現される。
【0028】
無線端末18は、無線通信部42を備えている。無線通信部42は、無線LANの規則に従って無線信号を送信および受信する機能を有している。この機能には、上述したCSMA/CAの機能が含まれている。
【0029】
[実施の形態1の特徴]
図5は、本実施形態の無線通信システムの特徴を説明するための図である。より具体的には、図5は、無線装置10から発せられるBS用信号12に、プリアンブル信号50とBS信号52が含まれる様子を示している。つまり、本実施形態において、無線装置10は、レーダなどで用いられる信号で構成されるBS信号52に、無線LANで規定されているプリアンブル信号50を加えたBS用信号12を送信する。尚、BS信号52は、例えば、CW(Continuous Wave)信号の他、時間と共に周波数が増加または減少するチャープ信号、或いは、時間の経過と共に周波数が直線的に上昇するFMCW信号などで構成することができる。
【0030】
無線装置10は、CSMA/CAの手法でチャネルの空きを確認する機能を備えている。このため、無線装置10は、無線端末18が無線信号を送信していない時期を選んでBS用信号12を送信することができる。また、BS用信号12にプリアンブル信号50が含まれているため、無線端末18は、BS用信号12が送信されていれば、CSMA/CAの手法でその存在を認識することができる。このため、BS用信号12と衝突するタイミングで無線端末18から無線信号が送出されることはない。従って、本実施形態の無線通信システムによれば、信号の衝突を避けつつ、無線LANの通信とBS通信とを併存させることができる。
【0031】
[実施の形態1における処理の流れ]
図6は、上記の機能を実現するべく、本実施形態において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。図6に示す例では、先ず、無線装置10からBS用信号12が送信される(ステップ100)。上記の通り、BS用信号12は、CSMA/CAの手法に従って無線LANの信号と衝突しないタイミングで送信される。
【0032】
上記ステップ100において送信されたBS用信号12は、BS装置16に到達する。BS装置16は、BS用信号12に含まるBS信号52を受信し(ステップ200)、自身の識別子等を埋め込んだ変調信号14を生成する(ステップ202)。
【0033】
BS装置16において生成された変調信号14は、無線装置10において受信される(ステップ102)。これにより、無線装置10とBS装置16との間でのBS通信が実現される。無線装置10は、BS装置16から取得した情報をインターネット等を介して他の機器に提供することができる。
【0034】
上記ステップ100で送出されたBS用信号12は、無線端末18にも到達する。無線端末18は、BS用信号12に含まれるプリアンブル信号50を受信し(ステップ300)、CSMA/CAの機能により、他の機器が無線信号を送信していることを認識する。
【0035】
この場合、無線端末18では、送信制限の処理が実行されて(ステップ302)、無線信号の送信が禁止される。これにより、BS用信号12と衝突するタイミングで無線端末18から無線信号が送信されるのを回避することができる。このため、本実施形態の無線通信システムによれば、信号の衝突を生じさせることなく、無線LANの通信とBS通信とを併存させることができる。
【0036】
[実施の形態1の変形例]
図7は、本実施形態の無線通信システムの変形例の構成を説明するための図である。図7に示す無線通信システムは、図1に示す構成に加えて無線装置10-2を備えている。無線装置10-2は、BS装置16で生成された変調信号14を受信して処理する機能を有している。
【0037】
つまり、上述した実施の形態1では、APとしての機能を有する無線装置10が、BS用信号12を送信する機能と、変調信号14を受信して処理する機能を共に備えている。しかしながら、BS装置16の設置位置等によっては、変調信号14の受信は、無線装置10の設置位置とは異なる位置で実施することが望ましい場合がある。このような場合には、BS用信号12を送信する機能と、変調信号14を受信する機能とを、図7に示すように別個の無線装置10,10-2に担わせることとしてもよい。
【0038】
その場合、無線装置10は、変調信号14を受信する機能を有していてもよく、或いは、その機能を有していないくてもよい。また、無線装置10-2は、無線装置10と同様に有線の経路を介して上位のネットワークと接続されていてもよい。或いは、無線装置10-2は、変調信号14を中継して無線装置10に提供するものであってもよい。
【0039】
更に、上述した実施の形態1では、無線通信システムが、BS装置16および無線端末18を、夫々一台ずつ含む構成を例示しているが、BS装置16および無線端末18の数は、何れも一台に制限されるものではない。同様に、図7に示す変形例において、変調信号14を受信する無線装置10-2も一台に限定されるものではない。BS装置16、無線端末18、および無線装置10-2は、何れも複数台存在していてもよい。
【0040】
尚、上記の変形は、以下に説明する他の実施形態の無線通信システムについても同様に施すことが可能である。
【0041】
実施の形態2.
[実施の形態2の構成と特徴]
次に、図8および図9を参照して本開示の実施の形態2について説明する。図8は、本開示の実施の形態2の無線通信システムの構成と特徴を説明するための図である。図8に示すシステムは、無線装置10が無線装置10-3に、またBS装置16がBS装置16―2に、夫々置き換えられている点を除いて、実施の形態1のシステムと同様である。尚、図8において、図1に示す要素と同一の要素については、共通する符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0042】
図8は、より具体的には、無線装置10-3が、識別信号54を含むBS用信号12-2を送信している様子を示している。つまり、本実施形態において、無線装置10-3は、プリアンブル信号50、識別信号54およびBS信号52を、その順で含むBS用信号12-2を送信する。
【0043】
本実施形態の無線通信システムには、実施の形態1の場合と同様、BS装置16-2が複数台含まれることがある。このような環境下では、無線装置10-3は、複数のBS装置16-2のうち、一台または一部の装置にだけ質問を発したい事態が生じ得る。識別信号54は、その質問の宛て先を指定するための信号である。
【0044】
BS装置16-2は、BS用信号12-2を受信した際に、識別信号54に基づいて、その信号が自身に宛てられたものであるか否かを判断する。そして、BS用信号12-2が自身に宛てられたものであれば、その信号に反応して変調信号14を生成する。他方、BS用信号12-2が自身に宛てられたものでなければ、その信号を無視する。
【0045】
[実施の形態2における処理の流れ]
図9は、上記の機能を実現するために、本実施形態においてBS装置16-2が実施する処理の流れを説明するためのフローチャートである。尚、図9において、上記図6に示すステップと処理が共通するステップについては、共通する符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0046】
図9に示すように、本実施形態のBS装置16-2は、ステップ200においてBS用信号12-2を受信すると、その信号が自身に宛てられたものであるか否かを判断する(ステップ210)。この判断は、BS用信号12-2に含まれる識別信号54が、自身の識別子と対応しているか否かに基づいて行われる。
【0047】
その結果、受信したBS用信号12-2が自身に宛てられたものであると認識できた場合は、ステップ202の処理により変調信号14が生成される。一方、その信号が自身に宛てられたものではないと判断された場合は、ステップ202の処理がスキップされる。
【0048】
以上説明した通り、本実施形態では、BS用信号12-2に識別信号54を追加することにより、BS通信の変調動作を制御することが可能になる。そして、宛て先として指定されていないBS装置16-2での信号処理をスキップさせることが可能となる。このため、本実施形態によれば、無線通信システムの全体において、省電力化を実現することができる。
【0049】
また、本実施形態においても、BS用信号12-2には、実施の形態1の場合と同様に無線LANで規定されているプリアンブル信号50が含まれている。このため、本実施形態によっても、実施の形態1の場合と同様に、無線LANの信号とBS用信号12-2との衝突を適切に回避することができる。
【0050】
実施の形態3.
次に、図10を参照して、本開示の実施の形態3について説明する。図10は、本開示の実施の形態3の無線通信システムの構成と特徴を説明するための図である。図10に示すシステムは、無線装置10-3が無線装置10-4に置き換えられている点を除いて、実施の形態2のシステムと同様である。尚、図10において、図8に示す要素と同一の要素については、共通する符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0051】
図10は、より具体的には、無線装置10-4が、識別信号54を送信した後、T秒間のインターバル56を空けてBS信号52を送信している様子を示している。つまり、本実施形態において、無線装置10-4は、プリアンブル信号50と、識別信号54と、インターバル56と、BS信号52とをその順で含むBS用信号12-3を送信する。
【0052】
BS装置16-2は、BS用信号12-3を受信すると、識別信号54に基づいて、その信号が自身に宛てられたものであるか否かを判断する。そして、自身を指定する識別信号54が認められた場合は変調信号14の生成を開始する。識別信号54とBS信号52との間にインターバル56が存在していない場合、BS装置16-2は、識別信号54の受信中に、BS用信号12-3が自身に宛てられたものであるか否かを判断する必要がある。
【0053】
これに対して、インターバル56が存在していれば、そのインターバル56が終わるまでに上記判断を終えれば良いことになる。この場合、インターバル56が存在しない場合に比してBS装置16-2に求める応答性を低く抑えることができる。このため、本実施形態によれば、実施の形態2の場合に比して、BS装置16-2の簡素化、低コスト化、低消費電力化等を実現することができる。
【0054】
実施の形態4.
[実施の形態4の構成と特徴]
次に、図5と共に図11を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施形態の無線通信システムは、実施の形態1の場合と同様に、図5に示す構成により実現することができる。但し、本実施形態において、無線装置10は、図6に示すルーチンに代えて図11に示すルーチンを実行する。
【0055】
図11は、本実施形態において無線装置10が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。尚、図11において、図6に示すステップと同様のステップについては、共通する符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0056】
図11に示すように、本実施形態においても、無線装置10は、ステップ100およびステップ102の処理を実行する。つまり、無線装置10は、BS用信号12を送信して、変調信号14を受信する。BS用信号12には、実施の形態1の場合と同様にプリアンブル信号50とBS信号52とが含まれる。このため、本実施形態のシステムによっても、実施の形態1の場合と同様に、無線LANの信号とBS用信号12との衝突は適切に回避することができる。
【0057】
本実施形態において、無線装置10は、上記ステップ102の処理を終えると、次に、BS用信号12を送信してから変調信号14を受信するまでの時間差を算出する(ステップ110)。この時間差は、BS用信号12の伝搬時間と、BS装置16の応答時間と、変調信号14の伝搬時間の合計値である。BS装置16の応答時間は既知であるから、その時間差が判ると信号の伝搬時間を知ることができる。そして、信号の伝搬時間は、無線装置10とBS装置16の距離に対応する。このため、無線装置10は、上記の時間差から、無線装置10からBS装置16までの距離を計算することができる。
【0058】
BS装置16は、無線装置10からの距離が異なる位置に複数配置されることがある。この場合、BS用信号12を送信した後、無線装置10には、複数のBS装置16の夫々が発した変調信号14が順次到来する。上記ステップ110では、この場合、順次到来する変調信号14の夫々について、上記の時間差を算出する。
【0059】
時間差の算出を終えると、次に、その時間差に基づいて無線装置10とBS装置16との距離が推定される(ステップ112)。無線装置10が、複数の変調信号14を受信している場合は、夫々の時間差に基づいて、変調信号14の夫々に対応する距離が推定される。
【0060】
上記の処理によれば、無線装置10は、受信した変調信号14の夫々を、それらを発したBS装置16までの距離と組み合わせることができる。そして、その組み合わせが把握できると、BS装置16の夫々に識別子を割り当てることなく、受信した変調信号14がどのBS装置16から発せられたものであるかを認識することができる。このため、本実施形態の無線通信システムによれば、BS通信を利用して、実施の形態1の場合に比してより精密なデータ収集を、より簡便に実現することができる。
【0061】
[実施の形態4の変形例]
ところで、上述した実施の形態4では、BS装置16が、無線装置10からの距離が異なる位置に複数配置される場合について説明している。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではなく、BS装置16は一つだけであってもよい。
【0062】
また、上述した実施の形態4では、時間差に基づいて距離を推定する技術を、実施の形態1のシステムに組み合わせることとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、距離を推定する技術は、識別信号54を用いる実施の形態2のシステムと組み合わせてもよい。この場合、複数のBS装置16-2の夫々に個別に変調信号14を返信させることができ、複数の変調信号14が衝突するのを避けることができる。また、個々のBS装置16-2の設置位置が既知でなくても、その設置位置までの距離を知ることができるため、データ収集の精度を高めることができる。
【0063】
実施の形態5.
[実施の形態5の構成と特徴]
次に、図12および図13を参照して本開示の実施の形態5について説明する。図12は、本開示の実施の形態5の無線通信システムの構成と特徴を説明するための図である。図12に示すシステムは、無線装置10が無線装置10-5に置き換えられている点を除いて、実施の形態1のシステムと同様である。尚、図12において、図1に示す要素と同一の要素については、共通する符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0064】
図12に示すように、本実施形態における無線装置10-5は、複数のアンテナ24-1~24-nを備えている。また、無線装置10-5は、複数のアンテナ24-1~24-nで変調信号14を受信し、夫々の受信波の位相を解析することで、変調信号14の到来方向を推定する機能を有している。
【0065】
図13は、無線装置10-5が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。尚、図13において、図6に示すステップと同様のステップについては、共通する符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0066】
図13に示すように、本実施形態においても、無線装置10は、ステップ100およびステップ102の処理を実行する。つまり、無線装置10は、BS用信号12を送信して、変調信号14を受信する。BS用信号12には、実施の形態1の場合と同様にプリアンブル信号50とBS信号52とが含まれる。このため、本実施形態のシステムによっても、実施の形態1の場合と同様に、無線LANの信号とBS用信号12との衝突は適切に回避することができる。
【0067】
本実施形態において、無線装置10は、上記ステップ102の処理を終えると、次に、受信した変調信号14の到来方向を推定する(ステップ120)。到来方向は、複数のアンテナ24-1~24-nの夫々が受信する信号の位相差に基づいて推定する。変調信号14、その信号を発したBS装置16の方向から到来する。このため、本ステップ120で推定される到来方向は、BS装置16の設置方向として認識することができる。
【0068】
BS装置16は、無線装置10の周囲に複数配置されることがある。この場合、BS用信号12を送信した後、無線装置10には、複数のBS装置16の夫々が発した変調信号14が順次到来することがある。上記ステップ120では、この場合、順次到来する変調信号14の夫々について、上記の到来方向を推定する。
【0069】
上記の処理によれば、無線装置10は、受信した変調信号14の夫々を、それらを発したBS装置16の設置方向と組み合わせることができる。そして、その組み合わせが把握できると、BS装置16の夫々に識別子を割り当てることなく、受信した変調信号14がどのBS装置16から発せられたものであるかを認識することができる。このため、本実施形態の無線通信システムによれば、BS通信を利用して、実施の形態1の場合に比してより精密なデータ収集を、より簡便に実現することができる。
【0070】
[実施の形態5の変形例]
ところで、上述した実施の形態5では、BS装置16が、無線装置10の周囲に複数配置される場合について説明している。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではなく、BS装置16は一つだけであってもよい。
【0071】
また、上述した実施の形態5では、無線装置10-5が、BS装置16の設置位置に関して、変調信号14の到来方向だけを推定することとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、実施の形態4の処理を実施の形態5に組み合わせて、無線装置10-5に、BS装置16の設置位置に関して、方向と距離の双方を推定させることとしてもよい。
【0072】
また、上述した実施の形態5では、到来方向を推定する技術を、実施の形態1のシステムに組み合わせることとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、到来方向を推定する技術は、識別信号54を用いる実施の形態2のシステムと組み合わせてもよい。この場合、複数のBS装置16-2の夫々に個別に変調信号14を返信させることができ、複数の変調信号14が衝突するのを避けることができる。また、個々のBS装置16-2の設置位置が既知でなくても、その設置方向を知ることができるため、データ収集の精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0073】
10、10-2、10-3、10-4、10-5 無線装置
12、12-2、12-3 BS用信号
14 変調信号
16、16-2 BS装置
18 無線端末
20、30、40 制御部
24、24-1~24 アンテナ
50 プリアンブル信号
52 BS信号
54 識別信号
56 インターバル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13