(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106903
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】二酸化炭素を循環利用する脱硫方法及び脱硫システム
(51)【国際特許分類】
B01D 53/62 20060101AFI20240801BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240801BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240801BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20240801BHJP
C01F 11/46 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B01D53/62 ZAB
B01D53/14 200
B01D53/14 100
B01D53/78
B01D53/50
B01D53/50 245
C01F11/46 102K
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011391
(22)【出願日】2023-01-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/カーボンリサイクル・次世代火力推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発委託研究/海水と生体アミンを用いたCO2鉱物化法の研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000191135
【氏名又は名称】株式会社日本海水
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝又 聡
(72)【発明者】
【氏名】植田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】渡部 哲也
(72)【発明者】
【氏名】朝山 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】安元 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 道生
(72)【発明者】
【氏名】森安 賢司
(72)【発明者】
【氏名】吉馴 太一
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G076
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AA12
4D002AC04
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA02
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4D002CA20
4D002DA31
4D002DA32
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4D002EA02
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4D002EA14
4D002FA02
4D002GA01
4D002GB08
4D002GB09
4D002GB11
4D002GB20
4D020AA03
4D020AA06
4D020BA02
4D020BA09
4D020BA16
4D020BA19
4D020BA21
4D020BB01
4D020BB03
4D020BC06
4D020CA06
4D020CB01
4D020CB03
4D020CB25
4D020CC01
4D020CC12
4D020CC21
4D020DA03
4D020DB06
4D020DB07
4D020DB08
4D020DB20
4G076AA14
4G076AB24
4G076AB26
4G076BA09
4G076BA30
4G076BB03
4G076BC02
4G076BC06
4G076BE11
4G076CA02
4G076DA29
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の排出量を削減することのできる、脱硫方法を提供する。
【解決手段】炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する脱硫方法であって、脱硫剤の少なくとも一部として、当該脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を利用するようにした。そして、排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)の存在下で、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンとを接触させる製造方法であって、前記アミン化合物(A)に起因する前記カルシウムイオン含有水溶液(B)のpH上昇を、前記排ガス(C)を利用して抑制する工程(S)を含む製造方法により製造されるものとした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する脱硫方法であって、 前記脱硫剤の少なくとも一部として、前記脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を利用し、
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)の存在下で、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンとを接触させる製造方法であって、前記アミン化合物(A)に起因する前記カルシウムイオン含有水溶液(B)のpH上昇を、前記排ガス(C)を利用して抑制する工程(S)を含む製造方法により製造される、脱硫方法。
【請求項2】
前記工程(S)は、
前記アミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、前記排ガス(C)とを接触させて、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する第一の接触工程(S1-1)
を含む、請求項1に記載の脱硫方法。
【請求項3】
前記工程(S)は、
前記第一の接触工程(S1-1)の後に、
前記アミン水溶液(A2)と、前記カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させる第二の接触工程(S1-2)
を含む、請求項2に記載の脱硫方法。
【請求項4】
前記工程(S)は、
前記アミン化合物(A)と、前記カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)とを同時に接触させる接触工程(S2)
を含む、請求項1に記載の脱硫方法。
【請求項5】
前記工程(S)は、
前記アミン化合物(A)と、前記カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて、前記アミン化合物(A)と前記カルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液(AB)を調製する第一の接触工程(S3-1)、及び
前記第一の接触工程(S3-1)の後に、前記混合液(AB)と、前記排ガス(C)とを接触させる第二の接触工程(S3-2)
を含む、請求項1に記載の脱硫方法。
【請求項6】
前記生体内で合成されるアミンが、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン、ノルスペルミジン、及びノルスペルミンからなる生体アミン群から選択される1種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項7】
前記人工的に合成されるアミンが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジグリコールアミン、メチルジエタノールアミン、ピペラジン、及びエチレンジアミンからなる群から選択される1種以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項8】
前記アミン化合物(A)が、前記生体内で合成されるアミンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項9】
前記カルシウムイオン含有水溶液(B)が、海水である、請求項1~8のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項10】
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相から前記アミン化合物(A)を回収し、前記工程(S)において用いる前記アミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給工程(U)をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の脱硫方法。
【請求項11】
炭酸カルシウムを脱硫剤として利用した脱硫方法を実施するための脱硫システムであって、 前記脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システムと、前記製造システムにより製造される前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を前記施設において利用される前記脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置とを備え、
前記製造システムは、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、前記排ガス(C)とを接触させて、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する第一の接触部(P1-1)、
前記アミン水溶液(A2)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて、前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる第二の接触部(P1-2)、及び
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収部(Q)
を備える、脱硫システム。
【請求項12】
前記製造システムは、前記第一の接触部(P1-1)を複数備える、請求項11に記載の脱硫システム。
【請求項13】
前記製造システムは、前記第二の接触部(P1-2)を複数備える、請求項11又は12に記載の脱硫システム。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の脱硫システムにおいて、
前記第二の接触部(P1-2)を備えることなく、前記第一の接触部(P1-1)において前記アミン水溶液(A2)と前記カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させる、脱硫システム。
【請求項15】
炭酸カルシウムを脱硫剤として利用した脱硫方法を実施するための脱硫システムであって、
前記脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システムと、前記製造システムにより製造される前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を前記施設において利用される前記脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置とを備え、
前記製造システムは、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)とを同時に接触させて、前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる接触部(P2)、及び
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収部(Q)
を備える、脱硫システム。
【請求項16】
炭酸カルシウムを脱硫剤として利用した脱硫方法を実施するための脱硫システムであって、
前記脱硫方法を採用している施設から排出される前記排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システムと、前記製造システムにより製造される前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を前記施設において利用される前記脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置とを備え、
前記製造システムは、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液(AB)を調製する第一の接触部(P3-1)、
混合液(AB)と、前記排ガス(C)とを接触させて、前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる第二の接触部(P3-2)、及び
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収部(Q)、
を備える、脱硫システム。
【請求項17】
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相から前記アミン化合物(A)を回収し、前記第一の接触部(P1-1)、前記接触部(P2)、又は前記第一の接触部(P3-1)において使用する前記アミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給部(R)、
をさらに備える、請求項11~16のいずれか1項に記載の脱硫システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脱硫方法及び脱硫システムに関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染の要因となる硫黄酸化物(以下、「SOx」ともいう)の発生を抑制する方法として、脱硫剤を用いて燃焼排ガスからSOxを除去する、乾式法及び湿式法等の各種脱硫法が提案されている。
例えば、特許文献1には、石炭を燃料とし、石灰石を脱硫剤として、燃焼装置で燃焼する、乾式炉内脱硫法に関する技術について開示されている。
また、特許文献2には、燃焼排ガスを石灰石粉末の水スラリーに接触させて燃焼排ガス中のSOxを吸収させ、石膏にして回収する、湿式石灰-石膏法に関する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07-174471号公報
【特許文献2】特開平04-243520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、地球温暖化の原因物質と言われている温室効果ガスの中でも、特に影響が大きいのが二酸化炭素であり、大気中の二酸化炭素濃度の増大を防止することが地球温暖化抑制手段の1つとなりうる。
そこで、上記のような脱硫法について、地球温暖化抑制の観点から、二酸化炭素の排出量を削減する新たな手法の創出が望まれる。
【0005】
本開示は、かかる要望に鑑みてなされたものであって、二酸化炭素の排出量を削減することのできる、脱硫方法及び脱硫システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、下記[1]~[4]が提供される。
[1] 炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する脱硫方法であって、
前記脱硫剤の少なくとも一部として、前記脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素の原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を利用し、
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)の存在下で、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンとを接触させる製造方法であって、前記アミン化合物(A)に起因する前記カルシウムイオン含有水溶液(B)のpH上昇を、前記排ガス(C)を利用して抑制する工程(S)を含む製造方法により製造される、脱硫方法。
[2] 炭酸カルシウムを脱硫剤として利用した脱硫方法を実施するための脱硫システムであって、
前記脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システムと、前記製造システムにより製造される前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を前記施設において利用される前記脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置とを備え、
前記製造システムは、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、前記排ガス(C)とを接触させて、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する第一の接触部(P1-1)、
前記アミン水溶液(A2)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて、前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる第二の接触部(P1-2)、及び
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収部(Q)
を備える、脱硫システム。
[3] 炭酸カルシウムを脱硫剤として利用した脱硫方法を実施するための脱硫システムであって、
前記脱硫方法を採用している施設から排出される排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システムと、前記製造システムにより製造される前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を前記施設において利用される前記脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置とを備え、
前記製造システムは、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)とを同時に接触させて、前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる接触部(P2)、及び
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収部(Q)
を備える、脱硫システム。
[4] 炭酸カルシウムを脱硫剤として利用した脱硫方法を実施するための脱硫システムであって、
前記脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システムと、前記製造システムにより製造される前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を前記施設において利用される前記脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置とを備え、
前記製造システムは、
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液(AB)を調製する第一の接触部(P3-1)、
混合液(AB)と、前記排ガス(C)とを接触させて、前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる第二の接触部(P3-2)、及び
前記排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収部(Q)、
を備える、脱硫システム。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、二酸化炭素の排出量を削減することのできる、脱硫方法及び脱硫システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の脱硫システムの実施形態の一例を示す概略図である。
【
図2】本実施形態の脱硫システムについて、乾式炉内脱硫法を適用した場合の実施形態の一例を示す概略図である。
【
図3】本実施形態の脱硫システムについて、湿式石灰-石膏法を適用した場合の実施形態の一例を示す概略図である。
【
図4】本実施形態の脱硫方法に組み込まれる第一実施形態の製造方法の一例を示す工程概略図である。
【
図5】本実施形態の脱硫方法に組み込まれる第一実施形態の製造方法の好ましい態様の一例を示す工程概略図である。
【
図6】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第一実施形態の製造システムの一例を示す概略図である。
【
図7】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第一実施形態の製造システムについて、好ましい態様の一例を示す概略図である。
【
図8】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第一実施形態の製造システムについて、好ましい態様の他の例を示す概略図である。
【
図9】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第一実施形態の製造システムのさらに好ましい態様の一例を示す概略図である。
【
図10】本実施形態の脱硫方法に組み込まれる第二実施形態の製造方法の一例を示す工程概略図である。
【
図11】本実施形態の脱硫方法に組み込まれる第二実施形態の製造方法の好ましい態様の一例を示す工程概略図である。
【
図12】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第二実施形態の製造システムの一例を示す概略図である。
【
図13】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第二実施形態の製造システムについて、好ましい態様の一例を示す概略図である。
【
図14】本実施形態の脱硫方法に組み込まれる第三実施形態の製造方法の一例を示す工程概略図である。
【
図15】本実施形態の脱硫方法に組み込まれる第三実施形態の製造方法の好ましい態様の一例を示す工程概略図である。
【
図16】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第三実施形態の製造システムの一例を示す概略図である。
【
図17】本実施形態の脱硫システムに組み込まれる第三実施形態の製造システムについて、好ましい態様の一例を示す概略図である。
【
図18】実施例において排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造した際の液中pHの経緯時変化を示す図である。
【
図19】実施例において排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造した際の液中CO
2濃度の経緯時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本開示の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
さらに、本明細書に記載された「アミン」及び「ポリアミン」は、特に断りのない限り、生体内で合成されるアミン及び人工的に合成されるアミンから選択されるアミンを意味する。
【0010】
[本実施形態の脱硫方法及び脱硫システム]
本実施形態の脱硫方法は、炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する脱硫方法であって、脱硫剤の少なくとも一部として、当該脱硫方法を採用している施設から排出される脱硫済みの排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を利用するようにしている。
そして、排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)の存在下で、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンとを接触させる製造方法であって、前記アミン化合物(A)に起因する前記カルシウムイオン含有水溶液(B)のpH上昇を、前記排ガス(C)を利用して抑制する工程(S)を含む製造方法により製造される。
【0011】
また、本実施形態の脱硫システムの一例を
図1に示す。
図1に示す脱硫システムZ1は、炭酸カルシウムを脱硫剤として利用した脱硫方法を実施するための脱硫システムであって、当該脱硫方法を採用している施設Z11から排出される排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システム1と、製造システム1により製造される排ガス由来炭酸カルシウム(X)を施設Z11において利用される脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置Z21とを備える。
【0012】
つまり、本実施形態の脱硫方法及び脱硫システムは、炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する従来の脱硫方法を採用している施設に、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造するための製造方法又は製造システムが付加されている。そして、脱硫剤の少なくとも一部として、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を利用することで、排ガス(C)中の二酸化炭素を循環利用して、二酸化炭素の排出量を削減するようにしている。
炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する従来の脱硫方法を採用している施設としては、例えば、火力発電所等の化石燃料等を燃焼する施設が代表的な施設として挙げられるが、これに限定されるものではなく、紙製造工場、セメント製造工場、石油精製工場、廃棄物焼却炉等の施設も挙げられる。
【0013】
なお、排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、脱硫剤の少なくとも一部として利用すればよく、脱硫方法及び脱硫システムに利用される脱硫剤の全量基準で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%~100質量%である。なお、二酸化炭素の排出量をより大きく削減する観点から、脱硫方法及び脱硫システムに利用される脱硫剤の排ガス由来炭酸カルシウム(X)の置換量を増加させることが好ましい。
【0014】
<炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する脱硫方法>
炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する脱硫方法は、特に制限されないが、例えば乾式炉内脱硫法及び湿式石灰-石膏法等が挙げられる。
【0015】
(乾式炉内脱硫法)
乾式炉内脱硫法では、石炭等の含硫黄燃料と脱硫剤である石灰石(炭酸カルシウム)とを燃焼炉に供給し、燃焼させる。これにより、含硫黄燃料の燃焼によって生じたSOxが脱硫剤と反応し、硫黄分濃度が低減された排ガス(C)が排出される。当該排ガス(C)には二酸化炭素が含まれる。本実施形態では当該二酸化炭素を排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成に用いるようにしている。これにより、排ガス(C)中の二酸化炭素を循環利用して、二酸化炭素の排出量を削減するようにしている。
【0016】
図2に、乾式炉内脱硫法を利用した本実施形態の脱硫システムの実施形態の一例を示す。
図2に示す脱硫システムZ1aは、燃焼装置Z11aと、燃焼装置Z11aから排出される排ガス(C)に含まれる二酸化炭素を原料として排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システム1と、製造システム1により製造される排ガス由来炭酸カルシウム(X)を燃焼装置Z11aにおいて利用される脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置Z21とを備える。
燃焼装置Z11aは、特に制限されず、乾式炉内脱硫法において一般的に採用される燃焼装置(例えば流動床ボイラー等)を適宜採用することができる。
なお、図示省略するが、燃焼装置Z11aの後段には、脱硝装置、集塵装置、及び熱交換器等から選択される1種以上を備えるようにし、燃焼装置Z11aから排出される排ガス(C)に対し、脱硝処理、集塵処理、及び熱交換処理(冷却処理)から選択される1種以上の処理を施すようにしてもよい。
【0017】
(湿式石灰-石膏法)
湿式石灰-石膏法では、石炭等の含硫黄燃料を燃焼する燃焼装置から排出される燃焼排ガスを、石灰石粉末の水スラリーに接触させて燃焼排ガス中のSOxを吸収させ、石膏にして回収する。これにより、含硫黄燃料の燃焼によって生じたSOxが脱硫剤と反応し、硫黄分濃度が低減された排ガス(C)が排出される。当該排ガス(C)には二酸化炭素が含まれる。本実施形態では当該二酸化炭素を排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成に用いるようにしている。これにより、排ガス(C)中の二酸化炭素を循環利用して、二酸化炭素の排出量を削減するようにしている。
【0018】
図3に、湿式石灰-石膏法を利用した本実施形態の脱硫システムの実施形態の一例を示す。
図3に示す脱硫システムZ1bは、燃焼装置Z11bと、燃焼装置Z11bから排出される燃焼排ガスと接触することでSOxを吸収する、石灰石(炭酸カルシウム)の水スラリーを備える脱硫装置Z12bと、脱硫装置Z12bから排出される排ガス(C)に含まれる二酸化炭素を原料として排ガス由来炭酸カルシウム(X)を製造する製造システム1と、製造システム1により製造される排ガス由来炭酸カルシウム(X)を脱硫装置Z12bにおいて利用される脱硫剤の少なくとも一部として供給する供給装置Z21とを備える。
燃焼装置Z11b及び脱硫装置Z12bは、特に制限されず、湿式石灰-石膏法において一般的に採用される燃焼装置及び脱硫装置を適宜採用することができる。
なお、図示省略するが、燃焼装置Z11bの後段には、脱硝装置、集塵装置、及び熱交換器等から選択される1種以上を備えるようにし、燃焼装置Z11bから排出される排ガス(C)に対し、脱硝処理、集塵処理、及び熱交換処理(冷却処理)から選択される1種以上の処理を施すようにしてもよい。
なお、燃焼装置Z11bの後段とは、燃焼装置Z11bの後段であって、脱硫装置Z12bの前段もしくは後段又は脱硫装置Z12b自体を意味する。
【0019】
(脱硫方法の好適態様)
本実施形態において採用可能な脱硫方法は、上記に例示したものには限定されず、炭酸カルシウムを利用する各種脱硫方法を適宜採用することができる。
ここで、本実施形態においては、二酸化炭素の排出量のさらなる削減の観点から、乾式炉内脱硫法を採用することが好ましい。
【0020】
[製造方法及び製造システム]
以下、炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する脱硫方法及び脱硫システムに組み込まれる製造方法及び製造システムの具体例として、第一実施形態から第三実施形態について、詳細に説明する。
なお、以降の説明において、製造システム1a、1a’、1a’’、11a、1b、11b、1c、及び11cは、
図1~3に示す脱硫システムの製造システム1に対応する。
【0021】
[第一実施形態の製造方法]
第一実施形態の製造方法の一例を
図4に示す。
図4に示す製造方法は、アミン化合物(A)に起因するカルシウムイオン含有水溶液(B)のpH上昇を、排ガス(C)を利用して抑制する工程(S)(以下、「工程(S)」と略記することもある。)として、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させて、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する第一の接触工程(S1-1)を含む。
また、
図4に示す製造方法は、工程(S)として、工程(S1-1)の後に、アミン水溶液(A2)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させる第二の接触工程(S1-2)を含む。
さらに、
図4に示す製造方法は、工程(S)の後に、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収工程(T)をさらに含む。
【0022】
また、第一実施形態の製造方法の好ましい態様の一例を
図5に示す。
図5に示す製造方法は、工程(S)及び回収工程(T)に加え、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からアミン化合物(A)を回収し、工程(S)において用いるアミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給工程(U)をさらに含む。
【0023】
次に、第一実施形態の製造方法を実施するための製造システムの一例を
図6に示す。
図6に示す製造システム1aは、第一の接触部(P1-1)、第二の接触部(P1-2)、及び回収部(Q)を少なくとも備える。
第一の接触部(P1-1)では、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させて、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する。
第二の接触部(P1-2)では、アミン水溶液(A2)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる。
回収部(Q)では、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する。
排ガス(C)は、施設Z11から供給される。また、排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、供給手段Z21により施設Z11に供給される。これにより、施設Z11から排出される二酸化炭素が系内で循環利用され、二酸化炭素排出量が削減される。
【0024】
また、第一実施形態の製造方法を実施するための製造システムの好ましい態様の一例を
図7に示す。
図7に示す製造システム1a’は、第一の接触部を複数備える。
図7では、第一の接触部が2つ備えられているが(符号(P1-1)、(P1-1)’)、第一の接触部は3つ以上であってもよい。
また、
図7に示す製造システム1a’は、第二の接触部を複数備える。
図7では、第二の接触部が2つ備えられているが(符号(P1-2)、(P1-2)’)、第二の接触部は3つ以上であってもよい。
なお、第一実施形態における製造システムは、第一の接触部と第二の接触部の双方が複数備えられる態様には限定されず、第一の接触部を複数備え、第二の接触部は1つだけ備えられる態様であってもよい。また、第二の接触部を複数備え、第一の接触部は1つだけ備えられる態様であってもよい。
【0025】
さらに、第一実施形態の製造方法を実施するための製造システムの好ましい態様の他の例を
図8に示す。
図8に示す製造システム1a’’は、第二の接触部(P1-2)を備えることなく、第一の接触部(P1-1)においてアミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させるようにしている。
なお、図示省略しているが、
図8に示す製造システム1a’’においても、第一の接触部は複数備えるようにしてもよい。
【0026】
また、第一実施形態の製造方法を実施するための本実施形態の製造システムのさらに好ましい態様の一例を
図9に示す。
図9に示す製造システム11aは、第一の接触部(P1-1)、第二の接触部(P1-2)、及び回収部(Q)に加えて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からアミン化合物(A)を回収し、第一の接触部(P1-1)において使用するアミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給部(R)をさらに備える。
なお、
図9に示す製造システム11aは、
図6に製造システム1aに、アミン化合物回収・供給部(R)をさらに備えるものとしているが、このような態様には必ずしも限定されない。
例えば、
図7に示す製造システム1a’において、アミン化合物回収・供給部(R)をさらに備えるようにしてもよい。また、
図8に示す製造システム1a’’において、アミン化合物回収・供給部(R)をさらに備えるようにしてもよい。
【0027】
以下、第一実施形態の製造方法について、当該方法を実施するための製造システムの構成を説明しながら、詳細に説明する。
【0028】
<第一の接触工程(S1-1)>
第一の接触工程(S1-1)では、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させて、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させることで、排ガス(C)中の二酸化炭素がアミン水溶液(A1)に効率よく吸収され、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)が効率よく調製される。アミン水溶液(A2)に含まれる二酸化炭素由来の炭酸イオンは、第二の接触工程(S1-2)において、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させるための炭酸イオン源として機能する。
【0029】
以下、アミン水溶液(A1)、排ガス(C)、及びアミン水溶液(A1)と排ガス(C)との接触方法について、詳細に説明する。
【0030】
(アミン水溶液(A1))
アミン水溶液(A1)は、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物を含む。
【0031】
本開示者らは、海洋生物の炭酸カルシウム形成解明研究の一環として、炭酸カルシウムの顆粒を形成する海洋細菌の研究を行っていた。この海洋細菌は、カルシウムを含む人工培地で培養すると、菌体外にダンベル状や球状の形をした炭酸カルシウム(カルサイト)を形成する。本開示者らは、このメカニズムを研究する過程で、海洋細菌が産生するアミンが大きな働きをしていることを究明した。
つまり、海洋細菌の培養中にみられるダンベルや球状の炭酸カルシウム顆粒は、海洋細菌の増殖に伴い培地中に増えたアミンが、培地中の炭酸イオン濃度を高めることで、炭酸カルシウムの結晶化を促すことがわかった。
炭酸カルシウムの顆粒形成が見られた海洋細菌の培養液のアミンを食品衛生検査指針における「食品中の不揮発性腐敗アミンの分析」に準じて、ダンシルクロライドで蛍光誘導化し、HPLCにより分析した結果、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、カタベリン、スペルミン、スペルミジン、ノルスペルミジン、及びノルスペルミン等のアミン類が検出された。
以上のことから、海洋細菌が産生するアミンが空気中の二酸化炭素と結合し、その後加水分解されることで、培地中の炭酸イオン濃度が上昇し、炭酸カルシウムが析出するということがわかった。なお、炭酸カルシウムの析出は、海洋細菌が存在しない水溶液中にアミンと塩化カルシウムとを混合して静置した場合にも確認された。このことから、炭酸カルシウムの析出は、海洋細菌の不存在下でも起こることがわかった。つまり、海洋細菌が産生するアミンは、海洋細菌の不存在下においても、二酸化炭素と塩を形成することで、炭酸イオンを効率よく生成し得ることがわかった。
【0032】
しかしながら、本開示者らがさらに鋭意検討した結果、ポリアミン等のアミン類を海水と混合した場合、炭酸カルシウムを十分に効率よく生成することができないことがわかった。この理由は、海水にアミン類を添加すると、海水のpHが一時的に上昇し、海水中にカルシウムイオンの3倍量存在するマグネシウムイオンが水酸化マグネシウムとなり、これが炭酸カルシウムの生成を阻害するためと推察された。
【0033】
そこで、第一実施形態の製造方法では、第一の接触工程(S1-1)において、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させるようにしている。これにより、第二の接触工程(S1-2)において排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させるための炭酸イオンが、アミン水溶液(A2)中に効率よく生成される。しかも、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させるための炭酸イオンが、アミン水溶液(A2)に効率よく生成されることで、アミン水溶液(A2)のpHの上昇も抑えられる。そのため、アミン水溶液(A2)をカルシウムイオン含有水溶液(B)と接触させた際に、カルシウムイオン含有水溶液(B)のpH(アミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液のpH)の上昇も抑えられる。したがって、カルシウムイオン含有水溶液(B)にマグネシウムイオンが含まれていたとしても、水酸化マグネシウムの生成に起因する炭酸カルシウムの生成阻害も抑制される。よって、第二の接触工程(S1-2)において、炭酸カルシウムが極めて効率よく生成される。
【0034】
アミン化合物(A)としては、生体内(例えば、海洋細菌の生体内)で合成されるアミン(モノアミン及びポリアミン)を特に制限なく用いることができる。当該アミンの中でも、アミン水溶液(A2)中の炭酸イオンを増大させやすくする観点から、1,3-プロパンジアミン、プトレシン(ブタン-1,4-ジアミン)、カタベリン(ペンタン-1,4-ジアミン)、スペルミン(1,11-ジアミノ-4,9-ジアザウンデカン)、スペルミジン(1,8-ジアミノ-4-アザオクタン)、ノルスペルミジン(3,3’-イミノビス(プロパン-1-アミン))、及びノルスペルミン(3,3’-[(プロパン-1,3-ジイル)ビスイミノ]ビス(プロパン-1-アミン))からなる群から選択される1種以上のポリアミンを用いることが好ましい。
また、本発明者らの実験によると、アミン化合物(A)として、人工的に合成されるアミンを用いた場合にも、生体内で合成されるアミンと同様の効果が奏され得ることが確認されている。したがって、人工的に合成されるアミンを用いることもできる。人工的に合成されるアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、ジグリコールアミン(DGA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、並びにピペラジン及びエチレンジアミンなどのジアミン等が挙げられる。
また、アミン化合物(A)としては、上記アミンから誘導される基を含むポリマー(生体内で合成されるアミンから誘導される基を含むポリマー、人工的に合成されるアミンから誘導される基を含むポリマー)を用いてもよい。
上記アミンから誘導される基を含むポリマーとしては、上記アミンから誘導される基を少なくとも末端に含むポリマーが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば、上記アミンから誘導される基とエチレン性不飽和二重結合とを有する化合物由来の構成単位を有するポリマー、ポリアルキレンイミン等が挙げられ、好ましくはポリアルキレンイミンである。
ポリアルキレンイミンのアルキレン基の炭素数は、好ましくは2~4、より好ましくは2~3、更に好ましくは2である。
なお、「上記アミンから誘導される基」とは、上記アミン(生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン)の水素原子の少なくとも1つを除いた1価以上の基を意味する。例えば、エチレンジアミンから誘導される基としては、1価基である-NHCH2CH2NH2等が挙げられる。
また、上記アミンから誘導される基を含むポリマーの、沸点上昇法により測定される数平均分子量は、好ましくは500~50,000、より好ましくは500~40,000、更に好ましくは500~35,000である。
アミン化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、アミン化合物(A)としては、生体内で合成されるアミンを用いることが好ましい。生体内で合成されるアミンを用いることで、アミンを合成したり輸送したりすること等により排出される二酸化炭素を削減することができる。したがって、二酸化炭素排出量をより効果的に削減し得る。
【0035】
なお、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させて、二酸化炭素がアミン水溶液(A1)に吸収されると、当該二酸化炭素がアミン水溶液(A1)中のアミン化合物(A)と反応して、アミン水溶液(A1)中で炭酸イオンを生じ、アミン化合物(A)はカチオンになるものと推測される。
アミン化合物(A)がプトレシンである場合について推測される反応式を以下に示す。
【化1】
【0036】
アミン水溶液(A1)中のアミン化合物(A)の含有量は、アミン水溶液(A1)中に二酸化炭素を効率よく吸収させやすくする観点から、アミン水溶液(A1)の全量基準で、好ましくは1質量%~50質量%、より好ましくは10質量%~40質量%、更に好ましくは25質量%~35質量%である。
【0037】
排ガス(C)と接触させる前のアミン水溶液(A1)のpHは、吸収する二酸化炭素の量を考慮するとともに、第二の接触工程(S1-2)における反応性を考慮して決定される。具体的には、排ガス(C)と接触させた後の、二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)のpHが、好ましくは6以上に、より好ましくは7以上に、さらに好ましくは8以上になるように、排ガス(C)と接触させる前のアミン水溶液(A1)のpHが調整される。
また、排ガス(C)と接触させる前のアミン水溶液(A1)のpHは、第二の接触工程(S1-2)において析出させる炭酸塩種に応じて調整されてもよい。例えば、炭酸カルシウムを析出させやすくする観点から、排ガス(C)と接触させた後の、二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)のpHが、好ましくは7~12、より好ましくは7~9になるように、排ガス(C)と接触させる前のアミン水溶液(A1)のpHが調整されてもよい。また、炭酸カルシウムを析出させやすくする観点から、第二の接触工程(S1-2)において、二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させた際のこれらの混合液のpHが、好ましくは8~9になるように、排ガス(C)と接触させる前のアミン水溶液(A1)のpHが調整されてもよい。
【0038】
アミン水溶液(A1)と排ガス(C)とを接触させる際のアミン水溶液(A1)の温度は、二酸化炭素を効率よく吸収して、アミン水溶液(A2)中の炭酸イオン濃度を増大させやすくする観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃~50℃である。本工程ではアミンと二酸化炭素の結合が失われることを抑制するため、アミン水溶液(A1)と排ガス(C)とを接触させる際のアミン水溶液(A1)の温度は、50℃以下に維持することが好ましい。
【0039】
アミン水溶液(A1)と排ガス(C)とを接触させる時間は、接触方式、アミン水溶液(A1)の温度、アミン水溶液(A1)中のアミン化合物(A)の含有量、及び排ガス(C)の温度、二酸化炭素濃度、二酸化炭素のガス流量、並びに容器(反応槽)の大きさ等に応じて適宜設定される。一般には30分~3時間であり、好ましくは1時間~24時間である。
【0040】
(排ガス(C))
排ガス(C)は、炭酸カルシウムを脱硫剤として利用する施設排出される脱硫済みの排ガスである。当該排ガスには、二酸化炭素が含まれているため、これを排ガス由来炭酸カルシウム(X)を生成するための原料として用いることができる。
なお、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成効率を向上させて、二酸化炭素の排出量をさらに削減しやすくする観点から、排ガス(C)は、二酸化炭素濃度が高濃度である排ガスが好ましい。具体的には、含硫黄燃料として石炭を利用する脱硫システムから排出された排ガスであることが好ましい。
【0041】
(アミン水溶液(A1)と排ガス(C)との接触方法)
アミン水溶液(A1)と排ガス(C)との接触方法は、アミン水溶液(A1)中に二酸化炭素を効率よく吸収できる方法であれば特に制限されない。
【0042】
ここで、アミン水溶液(A1)と排ガス(C)との接触方法の一例について、第一実施形態における製造システムに基づいて説明する。
第一実施形態の製造システム1a,1a’、1a’’、及び11aにおいて、第一の接触工程(S1-1)は、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させて、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する第一の接触部(P1-1)において実施される。
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)は、貯留タンク21に収容され、供給ライン21aを介して、第一の接触部(P1-1)に供給される。
一方、排ガス(C)は、施設Z11から供給され、例えばブロア22により、供給ライン22aを介して第一の接触部(P1-1)に供給される。
また、排ガス(C)は、必要に応じて、脱硝処理、集塵処理、及び熱交換処理(冷却処理)から選択される1種以上の処理を施してもよい。
【0043】
第一の接触部(P1-1)におけるアミン水溶液(A1)と排ガス(C)との接触方法としては、例えば、下記(1)~(4)の方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、気体を液体に溶かすことを目的とした各種方法を使ってもよい。
(1)反応槽にアミン水溶液(A1)を収容してアミン水溶液(A1)を撹拌翼等で撹拌しつつ、アミン水溶液(A1)の液面近傍に排ガス(C)を吹き付ける。
(2)反応槽にアミン水溶液(A1)を収容し、アミン水溶液(A1)中に排ガス(C)を直接吹き込む。
(3)密閉された反応塔の下部から排ガス(C)を導入して上昇させるとともに、反応塔の上部からアミン水溶液(A1)をノズル等で噴霧し、排ガス(C)とアミン水溶液(A1)とを向流接触させる。
(4)排ガス(C)をファインバブル化してアミン水溶液(A1)中に導入する。これにより、アミン水溶液(A1)と排ガス(C)との接触面積を向上させて、より効率よく二酸化炭素をアミン水溶液(A1)中に吸収させることができる。
なお、第一の接触部(P1-1)におけるアミン水溶液(A1)と排ガス(C)との接触は、好ましくは50℃以下でかつ常圧下、より好ましくは常温(25±15℃)でかつ常圧下で行われる。
【0044】
第一の接触工程(S1-1)で調製された、二酸化炭素に由来する炭酸イオンを豊富に含むアミン水溶液(A2)は、第二の接触工程(S1-2)に供給される。
アミン水溶液(A2)が二酸化炭素に由来する炭酸イオンを豊富に含むことで、第二の接触工程(S1-2)において、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出しやすくなる。また、アミン水溶液(A2)が二酸化炭素に由来する炭酸イオンを豊富に含むことで、第二の接触工程(S1-2)において、アミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させた際に、これらの混合液の急激なpH上昇が抑えられる。したがって、第二の接触工程(S1-2)において、アミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させた際に、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を直ちに析出させやすくすることができる。換言すれば、二酸化炭素を効率よく固定化することができる。
また、アミン水溶液(A2)が二酸化炭素に由来する炭酸イオンを豊富に含むことで、カルシウムイオン含有水溶液(B)のカルシウムイオン濃度が低濃度であっても、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させることが可能になる。例えば、カルシウムイオン濃度が300質量ppm(さらには400質量ppm)であるカルシウムイオン含有水溶液(B)を用いた場合にも、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させることが可能である。
【0045】
<第二の接触工程(S1-2)>
第二の接触工程(S1-2)では、第一の接触工程(S1-1)で調製されたアミン水溶液(A2)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる。
第一の接触工程(S1-1)で調製されたアミン水溶液(A2)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させることで、アミン水溶液(A2)中の炭酸イオンとカルシウムイオン含有水溶液(B)中のカルシウムイオンとが反応し、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出する。アミン水溶液(A2)中の炭酸イオンは、排ガス(C)中の二酸化炭素を原料として生成されているため、二酸化炭素が排ガス由来炭酸カルシウム(X)として固定されることになる。
【0046】
以下、第二の接触工程(S1-2)で用いるカルシウムイオン含有水溶液(B)、及びアミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との接触方法について、詳細に説明する。
【0047】
(カルシウムイオン含有水溶液(B))
カルシウムイオン含有水溶液(B)は、排ガス由来炭酸カルシウム(X)のカルシウム源として用いられる。
ここで、カルシウムイオン含有水溶液(B)は、マグネシウムイオンを含んでいてもよい。
第一実施形態では、第一の接触工程(S1-1)において、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)を含むアミン水溶液(A1)と、排ガス(C)とを接触させるようにしている。これにより、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)のpHの上昇が抑えられるため、アミン水溶液(A2)をカルシウムイオン含有水溶液(B)と接触させた際に、アミン水溶液(A)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液のpHの上昇も抑えられる。そのため、カルシウムイオン含有水溶液(B)にマグネシウムイオンが含まれていたとしても、水酸化マグネシウムの生成に起因する炭酸カルシウムの生成阻害も抑制される。したがって、第二の接触工程(S1-2)において、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が極めて効率よく生成される。
【0048】
したがって、カルシウムイオン含有水溶液(B)として、海水を用いることができる。海水は入手容易である反面、カルシウムイオンとともに、マグネシウムイオンがカルシウムイオンよりも多く含まれている。そのため、既述のように炭酸カルシウムの生成阻害が生じる問題がある。しかし、第一実施形態の製造方法によれば、カルシウムイオン含有水溶液(B)として海水を用いた場合であっても、水酸化マグネシウムの生成に起因する炭酸カルシウムの生成阻害が抑制されるため、入手容易である海水をカルシウムイオン含有水溶液(B)として用いても、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が極めて効率よく生成される。しかも、海水を用いる場合、カルシウム源物質を合成したり、カルシウム源物質を輸送したりすることにより排出される二酸化炭素を削減することができる。したがって、二酸化炭素排出量をより効果的に削減し得る。
【0049】
また、カルシウムイオン含有水溶液(B)としては、海水以外にも、例えば、海水を淡水化した際に得られる廃海水、海水から水酸化マグネシウムや塩やにがりを製造した際に生じる濃縮海水;塩湖かん水;地下かん水;及び汽水等のかん水を用いることができる。
なお、かん水とは、塩化ナトリウムなどの塩分を含んだ水であり、通常、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンからなる群から選択される1種以上のアルカリ土類金属イオン(特に、カルシウムイオン)を含んでいる。したがって、カルシウムイオン含有水溶液(B)として、かん水を利用することで、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を生成するためのカルシウムイオンを簡易に供給することが可能である。
ここで、上記廃海水や上記濃縮海水には、カルシウムイオンが高濃度に含まれているため、第二の接触工程(S1-2)において、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成源となるカルシウムイオンを効率よく供給することができる。したがって、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成効率をより向上させることができ、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の収量の向上を図ることが可能となる。これにより、二酸化炭素の排出量のさらなる削減を図ることができる。また、第二の接触工程(S1-2)を行う第二の接触部(P1-2)をコンパクト化して製造システムの小型化を図ることもできる。また、ウユニ塩湖に代表される塩湖かん水、米国ソルトンレイクに代表される温水かん水なども、同様に、カルシウムイオン濃度が高いため、好ましい。近年、再生可能エネルギーとして地熱発電の開発が盛んに行われている。これらの地下温水かん水も同様に、好ましい。
したがって、カルシウムイオン含有水溶液(B)としては、カルシウムイオン濃度が好ましくは400質量ppm以上のもの、より好ましくは600質量ppm以上のもの、更に好ましくは800質量ppm以上のもの、より更に好ましくは1,000質量ppm以上のもの、更になお好ましくは1,500質量ppm以上のもの、一層好ましくは1,800質量%ppm以上のものを用いることができる。
なお、カルシウムイオン含有水溶液(B)として例示したものは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
なお、濃縮海水は、海水を原料として、イオン交換膜法、蒸発法、及び逆浸透法等の公知の方法により製造することができる。
【0051】
また、カルシウムイオン含有水溶液(B)として、マグネシウムイオン濃度が500質量ppm以下(好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下)であるカルシウムイオン含有水を用いてもよい。
例えば、海水からの工業的な水酸化マグネシウム製造工程では、副生成物としてマグネシウムイオン濃度が500質量ppm以下であるカルシウムイオン含有水が生じる。第一実施形態では、このような副生成物の有効利用を図ることもできる。
また、海水からの工業的な水酸化マグネシウム製造工程では、海水に石灰乳を添加することで、生成した水酸化マグネシウムスラリーを抜き出した後に、副生成物としてマグネシウムイオン濃度が500質量ppm以下であるカルシウムイオン含有水が生じる。このような副生成物には、海水に石灰乳を添加することによって、副生成物であるカルシウムイオン含有水のカルシウムイオン濃度が、海水よりも高まる(例えば、好ましくは400質量ppm以上、より好ましくは600質量ppm以上、更に好ましくは800質量ppm以上、より更に好ましくは1,000質量ppm以上、更になお好ましくは1,500質量ppm以上、一層好ましくは1,800質量%ppm以上)。そのため、副生成物であるカルシウムイオン含有水からカルシウムイオンを全量回収するためには、アミン水溶液(A1)のアミン化合物濃度を高める必要がある。アミン水溶液(A1)のアミン化合物(A)の濃度を高めると、アミン水溶液(A1)のpHが上昇するため、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成反応が進行し難くなる。しかし、第一実施形態では、アミン水溶液(A1)に排ガス(C)を接触させることで、カルシウムイオン濃度が海水よりも高いカルシウムイオン含有水をカルシウムイオン含有水溶液(B)として用いても、pH上昇を抑えて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を効率よく生成することができる。
【0052】
(アミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との接触方法)
アミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との接触方法は、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が効率よく生成できる方法であれば特に制限されない。
【0053】
ここで、アミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との接触方法の一例について、第一実施形態における製造システムに基づいて説明する。
第一実施形態における製造システム1a,1a’、及び11aにおいて、第二の接触工程(S1-2)は、アミン水溶液(A2)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる第二の接触部(P1-2)において実施される。
アミン水溶液(A2)は、第一の接触部(P1-1)から、供給ライン2aを介して、第二の接触部(P1-2)に供給される。
一方、カルシウムイオン含有水溶液(B)は、貯留タンク31に収容されており、供給ライン31aを介して、第二の接触部(P1-2)に供給される。
【0054】
第二の接触部(P1-2)におけるアミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)の接触方法としては、例えば、下記(5)及び(6)の方法等が挙げられる。
(5)反応槽内にアミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)とを導入し、撹拌翼等を用いて撹拌し混合する。
(6)アミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)とをラインミキサー等に導入し、撹拌翼等を用いた撹拌を行うことなく、乱流撹拌等により混合する。
ここで、(5)の方法において、反応槽として、液相中に析出して分散混合される排ガス由来炭酸カルシウム(X)を、重力の作用で沈降させて液相から分離することができる、シックナー沈降分離装置を用いることが好ましい。この場合、第二の接触部(P1-2)は、後述する回収部(Q)の機能を兼ね備えることができる。
第二の接触部(P1-2)におけるアミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との接触の際の各溶液の温度は、10℃~45℃、好ましくは25℃~40℃である。
また、第二の接触部(P1-2)へのアミン水溶液(A2)の供給量とカルシウムイオン含有水溶液(B)の供給量との比率は、アミン水溶液(A2)の二酸化炭素(炭酸イオン)モル量と、カルシウムイオンモル量とが、当量程度となるように適宜調整される。
なお、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の析出は短時間で起こる。また、上記ポリアミンを用いることで高pH化を防ぐことができるため、水酸化マグネシウムの析出を抑えつつ、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させやすいという利点もある。
【0055】
<第一の接触工程(S1-1)と第二の接触工程(S1-2)の好ましい態様>
第一の接触工程(S1-1)は、
図7に示すように、複数の第一の接触部において実施されることが好ましい。
また、第二の接触工程(S1-2)も、
図7に示すように、複数の第二の接触部において実施されることが好ましい。
具体的には、1基目(第一の接触部(P1-1))ではアミン水溶液(A1)を製造し、排ガス(C)を接触させて、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を調製する。そして、2基目(第一の接触部(P1-1)’)には既に調製されたアミン水溶液(A2)を準備しておくことで、1基目においてアミン水溶液(A2)を調製している間に、2基目から第二の接触部にアミン水溶液(A2)を供給し、第二の接触工程(S1-2)を実施することができる。
第二の接触部においても同様に、1基目(第二の接触部(P1-2))でアミン水溶液(A2)とカルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる。その間、2基目(第二の接触部(P1-2)’)では、アミン水溶液(A2)を受け入れることができる。または、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の回収部への払い出しを行うことができる。
【0056】
また、
図8に示すように、第二の接触部(P1-2)を備えることなく、第一の接触部(P1-1)にて、第一の接触工程(S1-1)及び第二の接触工程(S1-2)を行うことも可能である。この場合にも、第一の接触部(P1-1)を複数備えることで、回収部(Q)への排ガス由来炭酸カルシウム(X)の連続供給が可能となる。
【0057】
第一の接触部(P1-1)と第二の接触部(P1-2)を、複数とするか単数とするか、あるいは第一の接触部にて第一の接触工程(S1-1)及び第二の接触工程(S1-2)を実施するかは、目的とする二酸化炭素の固定量等の条件・要求に応じて選択することができる。
【0058】
また、第一の接触部(P1-1)を密閉された反応塔を用いた交流接触方式とし、第二の接触部(P1-2)を連続式撹拌槽型反応器やラインミキサーとすることで、プロセス全体を連続式とすることができる。
【0059】
<回収工程(T)>
回収工程(T)では、第二の接触工程(S1-2)において生成した排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する。
排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、析出して沈殿するので、濾過及び遠心分離等から選択される1種以上の固液分離処理により、分離して回収することができる。
排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、回収部(Q)において回収される。
図6~
図9に示す製造システム1a、1a’、1a’’、及び11aにおいて、回収部(Q)は、例えばサブタンクであり、第二の接触工程(S1-2)で得られた排ガス由来炭酸カルシウム(X)を含む液相をサブタンク等に移送し、サブタンク内で固液分離処理が行われて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が回収される。
なお、既述のように、第二の接触部(P1-2)において、反応槽としてシックナー沈降分離装置を用いた場合には、第二の接触部(P1-2)は、回収部(Q)の機能を兼ね備えることができる。
【0060】
回収した排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、必要に応じて水洗し、さらに乾燥して、施設Z11に供給してもよい。
【0061】
<アミン化合物回収・供給工程(U)>
アミン化合物回収工程(U)では、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からアミン化合物(A)を回収し、第一の接触工程(S1-1)において用いるアミン水溶液(A1)中のアミン化合物(A)の少なくとも一部として供給する。
アミン回収・供給工程(U)により、アミン化合物(A)を製造方法及び固定化システムの系内で繰り返し利用することが可能となり、アミン化合物(A)にかかるコスト等を抑えることができる。
また、アミン化合物(A)を循環利用することで、アミン化合物(A)の合成原料調達時及び合成時等に生じる二酸化炭素排出量を削減する効果も奏される。
【0062】
以下、アミン化合物回収・供給工程(U)において行われる、アミン化合物(A)の回収方法及び回収したアミン化合物(A)の供給方法について、詳細に説明する。
【0063】
(アミン化合物の回収方法)
排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からのアミン化合物(A)の回収は、例えば、以下に説明する、吸着剤を利用した方法により行うことができる。ここで説明する方法は、イオン交換クロマトグラフィーの原理と方法と同等である。アミン化合物(A)の回収は、既知の方法を利用すれば良く、吸着剤を利用した方法に限定されるものではい。具体的には電気透析法、透析膜法、限界濾過法を用いることができる。
【0064】
-吸着剤-
吸着剤は、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相を接触させることで、アミン化合物(A)を回収することができる固体状の吸着剤が用いられる。
固体状の吸着剤としては、例えば、-SO3M(Mは、水素原子又はアルカリ金属を示す)で表される置換基を有するものが用いられる。
Mとして選択し得るアルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、又はフランシウム(Fr)である。
水溶性及び操作性の観点から、Mは、Na又は水素原子であることが好ましい。
なお、固体状の吸着剤は、1種を単独で用いてもよいし、Mが異なる2種以上の固体状の吸着剤を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
固体状の吸着剤は、担体に上記置換基が結合することで、アミン化合物(A)の回収機能を発揮する。担体としては、上記置換基が結合可能であれば特に限定されないが、例えば、シリカゲル、アルミナ、ガラス、カオリン、マイカ、タルク、クレイ、水和アルミナ、ウォラストナイト、鉄粉、チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭化珪素、窒化珪素、炭酸カルシウム、炭素、硫酸バリウム、ボロン、フェライト、セルロース、及び活性炭等が挙げられる。
担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
固体状の吸着剤の形状は特に限定されず、例えば、粉末状、粒状、シート状であってもよい。また、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗等であってもよい。
【0067】
-液相と固体状の吸着剤との接触-
排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相と固体状の吸着剤とを接触させることで、アミン化合物(A)が固体状の吸着剤に回収される。この際、液相のpHは1~7であることが好ましい。また、液相の温度は特に限定されないが、好ましくは20℃~40℃である。
【0068】
排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相と固体状の吸着剤とを接触方法は、特に制限されないが、取り扱いの容易性等の観点から、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗を用い、これに液相を流通させることが好ましい。
【0069】
-アミン化合物(A)の溶出-
固体状の吸着剤に回収されたアミン化合物(A)は、固体状の吸着剤に溶出液を接触させることで、溶出液中に溶出させて回収することができる。
溶出液としては、塩基性化合物を含有する水溶液(有機溶媒を添加もしくは一部を置換したものを含む)が挙げられる。
塩基性化合物は、回収対象であるアミン化合物(A)との間で化学的反応を実質的に生じないものであって、水に溶解ないし混和可能なものを適宜用いることができる。好ましい塩基性化合物としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、トリエチルアミン、ピリジン、ヒスチジン、ジアザビシクロウンデセン、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0070】
塩基性化合物の濃度は、アミン化合物(A)の溶出効率向上の観点から、塩基性化合物と有機溶媒との合計100質量%を基準として、0.5質量%~10質量%が好ましい。
【0071】
有機溶媒は、回収対象であるアミン化合物(A)と塩基性化合物とを溶解する一般的な有機溶媒を用いることができるが、操作性等の観点から、低粘性、低沸点の有機溶媒が好ましく、更には水と均一に混合するものが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、及び2-プロパノール等の炭素数1~3の低級アルコール;アセトン;アセトニトリル等が挙げられる。
なお、有機溶媒は、塩基性化合物を含有する水溶液の調整のために少量添加または混合してもよいが、塩基性化合物を含有する水溶液は、有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0072】
アミン化合物(A)を溶出液に溶出させる際の溶出液の温度は特に限定されないが、一般には、20~40℃である。
【0073】
固体状の吸着剤に回収されたアミン化合物(A)を溶出させる方法は、特に制限されないが、取り扱いの容易性等の観点から、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗を用いる場合には、これに排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相を流通させてアミンを回収した後、アミン化合物(A)が回収された固体状の吸着剤に溶出液を流通させて、当該溶出液中にアミン化合物(A)を溶出させて回収する方法が挙げられる。
したがって、アミン化合物回収・供給部(R)を構成するアミン化合物回収手段としては、例えば、供給ライン51aから供給される液相を流通させて、アミン化合物(A)を回収するための、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗と、当該カートリッジ、カラム、又は漏斗に溶出液を流通させる供給ライン(不図示)とを備える構成が挙げられる。
【0074】
(アミン化合物(A)の供給方法)
溶出液中に回収されたアミン化合物(A)は、供給ライン51bを介して、貯留タンク21に供給される。これにより、第一実施形態の製造方法及び固定化システムにおいて、アミン化合物(A)が系内で循環利用される。
なお、溶出液中に回収されたアミン化合物(A)は、溶出液ごと貯留タンク21に供給してもよいし、溶出液の少なくとも一部を分離してアミン化合物(A)を濃縮した後、貯留タンク21に供給してもよい。
【0075】
なお、上述したアミン化合物回収・供給工程(U)では、固体状の吸着剤を用いてアミン化合物(A)を回収する例を説明したが、アミン化合物(A)の回収は、この方法には限定されず、例えば、イオン交換膜電解装置、逆浸透膜装置、電気透析装置、拡散透析装置、イオン交換樹脂を備える装置等を用いて行うようにしてもよい。
したがって、第一実施形態の製造システムは、アミン化合物回収・供給工程(U)を実施するためのアミン化合物回収・供給部(R)として、イオン交換膜電解装置、逆浸透膜装置、電気透析装置、拡散透析装置、又はイオン交換樹脂を備える装置を備えていてもよい。 また、アミン化合物(A)として、生体アミンから誘導される基を含むポリマーを用いる場合、アミン化合物を、限界濾過膜(UF膜)で回収するようにしてもよい。
【0076】
[第二実施形態の製造方法]
第二実施形態の製造方法の一例を
図10に示す。
図10に示す製造方法は、工程(S)として、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、排ガス(C)とを同時に接触させる接触工程(S2)を含む。
さらに、
図10に示す製造方法は、工程(S)の後に、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収工程(T)を含む。
排ガス(C)は、施設Z11から供給される。また、排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、供給手段Z21により施設Z11に供給される。これにより、施設Z11から排出される二酸化炭素が系内で循環利用され、二酸化炭素排出量が削減される。
【0077】
第二実施形態の製造方法では、接触工程(S2)において、アミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、排ガス(C)とを、同時に接触するようにしている。したがって、アミン化合物(A)に起因するカルシウムイオン含有水溶液(B)のpH上昇を、カルシウムイオン含有水溶液(B)中に生成した、排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンによって抑えながら、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を効率よく生成することができる。
【0078】
また、第二実施形態の製造方法においても、
図11に示すように、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からアミン化合物(A)を回収し、工程(S)において用いるアミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給工程(U)をさらに含むことが好ましい。
【0079】
次に、第二実施形態の製造方法を実施するための製造システムの一例を
図12に示す。
図12に示す製造システム1bは、接触部(P2)及び回収部(Q)を少なくとも備える。
接触部(P2)では、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、排ガス(C)とを同時に接触させて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる。
回収部(Q)では、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する。
【0080】
図12に示す製造システム1bでは、アミン化合物(A)は、アミン水溶液(A1)として、貯留タンク21に収容され、アミン水溶液(A1)が供給ライン21aを介して、接触部(P2)に供給される。
カルシウムイオン含有水溶液(B)は、貯留タンク31に収容され、供給ライン31aを介して、接触部(P2)に供給される。
排ガス(C)は、施設Z11から供給され、例えばブロア22により、供給ライン22aを介して接触部(P2)に供給される。
アミン水溶液(A1)中のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、排ガス(C)とは、接触部(P2)にて同時に接触し、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が生成する。
なお、アミン化合物(A)は、アミン水溶液(A1)として接触部(P2)に供給される態様には限定されず、アミン化合物(A)を接触部(P2)に直接供給する態様であってもよい。
【0081】
なお、図示省略するが、第二実施形態の製造方法を実施するための製造システムにおいて、接触部(P2)は、複数備えられていてもよい。
【0082】
また、第二実施形態の製造方法を実施するための本実施形態の製造システムの好ましい態様の一例を
図13に示す。
図13に示す製造システム11bは、接触部(P2)及び回収部Qに加えて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からアミン化合物(A)を回収し、接触部(P2)において使用するアミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給部(R)をさらに備える。
【0083】
なお、第二実施形態において、第一実施形態と共通する態様及び構成については、好適な態様及び構成も第一実施形態と同様であり説明は省略する。
例えば、第二実施形態で用いられるアミン化合物(A)、アミン水溶液(A1)、カルシウムイオン含有水溶液(B)、及び排ガス(C)は、第一実施形態と同様であり、好適態様等も第一実施形態と同様である。
また、回収工程(T)、アミン化合物回収・供給工程(U)、回収部(Q)、及びアミン化合物回収・供給部(R)も、第一実施形態と同様であり、好適態様等も第一実施形態と同様である。
【0084】
[第三実施形態の製造方法]
第三実施形態の製造方法の一例を
図14に示す。
図14に示す製造方法は、工程(S)として、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とを接触させて、アミン化合物(A)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液(AB)を調製する第一の接触工程(S3-1)、及び第一の接触工程(S3-1)の後に、混合液(AB)と、排ガス(C)とを接触させる第二の接触工程(S3-2)を含む。
さらに、
図14に示す製造方法は、工程(S)の後に、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する回収工程(T)を含む。
排ガス(C)は、施設Z11から供給される。また、排ガス由来炭酸カルシウム(X)は、供給手段Z21により施設Z11に供給される。これにより、施設Z11から排出される二酸化炭素が系内で循環利用され、二酸化炭素排出量が削減される。
【0085】
アミン化合物(A)とカルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液(AB)に、排ガス(C)を接触させることでも、アミン化合物(A)に起因するカルシウムイオン含有水溶液(B)のpH上昇を抑えながら、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を効率よく生成することができる。
但し、pH上昇をより抑制しやすくして、排ガス由来炭酸カルシウム(X)をより効率よく生成する観点から、混合液(AB)の調製後、できる限り速やかに、排ガス(C)を接触させることが好ましい。
【0086】
また、第三実施形態の製造方法においても、
図15に示すように、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からアミン化合物(A)を回収し、第一の接触工程(S3-1)において用いるアミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給工程(U)をさらに含むことが好ましい。
【0087】
次に、第三実施形態の製造方法を実施するための製造システムの一例を
図16に示す。
図16に示す製造システム1cは、第一の接触部(P3-1)、第二の接触部(P3-2)、及び回収部(Q)を少なくとも備える。
第一の接触部(P3-1)では、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)との混合液(AB)を調製する。
第二の接触部(P3-2)では、混合液(AB)と、排ガス(C)とを接触させて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を析出させる。
回収部(Q)では、排ガス由来炭酸カルシウム(X)を回収する。
【0088】
図16に示す製造システム1cでは、アミン化合物(A)は、アミン水溶液(A1)として、貯留タンク21に収容され、アミン水溶液(A1)が供給ライン21aを介して、第一の接触部(P3-1)に供給される。
カルシウムイオン含有水溶液(B)は、貯留タンク31に収容され、供給ライン31aを介して、第一の接触部(P3-1)に供給される。
アミン水溶液(A1)中のアミン化合物(A)と、カルシウムイオン含有水溶液(B)とは、第一の接触部(P3-1)で接触して混合され、混合液(AB)が調製される。
混合液(AB)は、供給ライン2aを介して第二の接触部(P3-2)に供給される。第二の接触部(P3-2)中の混合液(AB)は、施設Z11から供給され、例えばブロア22により、供給ライン22aを介して第二の接触部(P3-2)に供給される、排ガス(C)と接触し、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が生成する。
なお、アミン化合物(A)は、アミン水溶液(A1)として第一の接触部(P3-1)に供給される態様には限定されず、アミン化合物(A)を第一の接触部(P3-1)に直接供給する態様であってもよい。
【0089】
また、図示省略するが、第二実施形態の製造方法を実施するための製造システムにおいて、第一の接触部(P3-1)は、1つ備えられていてもよく、複数備えられていてもよい。また、第二の接触部(P3-2)は1つ備えられていてもよく、複数備えられていてもよい。
また、図示省略するが、
図16に示す製造システム1cは、第二の接触部(P3-2)を備えることなく、第一の接触部(P3-1)において混合液(AB)と、排ガス(C)とを接触させるようにすることが好ましい。このような構成を採用することで、第一の接触部(P3-1)において混合液(AB)を調製した後、速やかに排ガス(C)を接触させやすく、排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成効率をより向上させやすい。
【0090】
また、第三実施形態の製造方法を実施するための本実施形態の製造システムの好ましい態様の一例を
図17に示す。
図17に示す製造システム11cは、第一の接触部(P3-1)、第二の接触部(P3-2)、及び回収部(Q)に加えて、排ガス由来炭酸カルシウム(X)が析出した後の液相からアミン化合物(A)を回収し、第一の接触部(P3-1)において使用するアミン化合物(A)の少なくとも一部として供給するアミン化合物回収・供給部(R)をさらに備える。
【0091】
なお、第三実施形態において、第一実施形態と共通する態様及び構成については、好適な態様及び構成も第一実施形態と同様であり説明は省略する。
例えば、第三実施形態で用いられるアミン化合物(A)、アミン水溶液(A1)、カルシウムイオン含有水溶液(B)、及び排ガス(C)は、第一実施形態と同様であり、好適態様等も第一実施形態と同様である。
また、回収工程(T)、アミン化合物回収・供給工程(U)、回収部(Q)、及びアミン化合物回収・供給部(R)も、第一実施形態と同様であり、好適態様等も第一実施形態と同様である。
【0092】
なお、上述した第一実施形態の製造方法、第二実施形態の製造方法、及び第三実施形態の製造方法では、アミン化合物(A)の存在下で、カルシウムイオン含有水溶液(B)と、前記排ガス(C)中の二酸化炭素由来の炭酸イオンとを接触させるようにしている。但し、カルシウムイオン含有水溶液(B)のマグネシウムイオン濃度がカルシウムイオン濃度と比較して低濃度であり、カルシウムイオンが主要な構成成分である場合には、マグネシウムイオンによる炭酸カルシウム析出阻害が起こり難い。このような場合には、アミン化合物(A)に代えて、水酸化ナトリウム等のアミン化合物(A)以外の塩基を用いるようにしてもよい。
【実施例0093】
[排ガス由来炭酸カルシウム(X)の生成]
<使用した塩基>
・「塩基1」:アミン化合物(A)としてプトレシン(1,4-ブタンジアミン)を用い、プトレシン濃度を10質量%に調整したアミン水溶液(A1)に、二酸化炭素を導入した、二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)。
なお、二酸化炭素の導入は、0.4Lのアミン水溶液(A1)に対し、エアストーンを介して11~3L/min、平均1.3L/min(いずれも標準状態換算)で出光興産株式会社の所有する石炭ボイラーの燃焼排ガス(CO
2ガス濃度12.8%)を5時間添加することにより炭酸イオンを含むアミン水溶液(A2)を得た。結果を
図18(pHの時間変化)および
図19(アミン水溶液中のCO
2ガス吸収量の時間変化)に示す。
液中のCO
2濃度は、株式会社東亜ディーケーケーのポータブル炭酸ガス濃度計CGP-31を用いて測定した。
液中のpHは、株式会社東興化学研究所のpHメータ TPX-999を用いて測定した。
【0094】
<炭酸カルシウムの生成>
続いて、脱マグネシウム海水2Lに、塩基1(アミン水溶液(A2))を0.2L添加した。
脱マグネシウム海水は、海水(天然海水)に石灰乳を添加した後、生成した水酸化マグネシウムスラリーを除去して生成した。脱マグネシウム海水のマグネシウム濃度は、500質量ppm以下である。
続いて、析出した炭酸カルシウムを孔径0.1μmのPTFE製メンブレンフィルターを用いて濾別して、乾燥機で乾燥することによって、排ガス由来炭酸カルシウム(X)20gを得た。
【0095】
<石灰石膏法による脱硫用石灰石としての利用>
市販の石灰石90g(太平洋セメント株式会社から購入)に排ガス由来炭酸カルシウム(X)10gを混合したものを出光興産株式会社の所有する上記石炭ボイラーの脱硫剤として投入した。脱硫への影響はまったくなかった。
【0096】
[二酸化炭素削減量の試算]
施設Z11として、乾式炉内脱硫法を採用した施設における脱硫システムZ1a(
図2を参照)での二酸化炭素削減量を試算した。
1日当たりの石炭の炉内投入量を600トンと仮定する(600トン/日)。
また、1日当たりの排ガス由来炭酸カルシウム(X)の炉内投入量を35トンと仮定する(35トン/日)。
なお、炉内に投入する石炭に対する排ガス由来炭酸カルシウム(X)の量(対石炭比率)は、乾式炉内脱硫法において一般的な6%と仮定した。
炭酸カルシウム中における排ガス(C)中の二酸化炭素の含有量は、44質量%である。なお、炭酸カルシウムのモル質量は100g/モルであり、二酸化炭素のモル質量は44g/モルである。
したがって、二酸化炭素の回収・循環量は、35トン/日×0.44で試算することができ、15.4トン/日であることが試算された。なお、この値を年換算(365日/年)にすると、5,621トン/年であることが試算された。
したがって、本実施形態の脱硫システムは、二酸化炭素排出量の削減効率に優れることがわかった。