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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107098
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】鳥類の作出方法および卵の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/0276 20240101AFI20240801BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
A01K67/0276 ZNA
C12N15/09 100
A01K67/0276
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090890
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2021121244の分割
【原出願日】2016-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2015168372
(32)【優先日】2015-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】堀内 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】江崎 僚
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
(72)【発明者】
【氏名】半田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】笹原 亮
(72)【発明者】
【氏名】児玉 大介
(57)【要約】
【課題】卵のアレルゲン性を十分に低減することができる鳥類の作出方法およびアレルゲン性が十分に低減された卵の製造方法を提供する。
【解決手段】鳥類の作出方法は、鳥類の多能性および生殖細胞分化能を有する細胞のオボムコイド遺伝子座を、transcription activator-like effector nucleaseで切断し、改変する改変ステップと、オボムコイド遺伝子座を改変した細胞を、鳥類の胚に移植する移植ステップと、を含む。transcription activator-like effector nucleaseは、第1のヌクレアーゼおよび第2のヌクレアーゼであって、改変ステップでは、第1のヌクレアーゼを発現するベクターおよび第2のヌクレアーゼを発現するベクターが1つのベクターにされたoneベクターを細胞に導入する。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類の多能性および生殖細胞分化能を有する細胞のオボムコイド遺伝子座を、transcription activator-like effector nucleaseで切断し、改変する改変ステップと、
オボムコイド遺伝子座を改変した前記細胞を、鳥類の胚に移植する移植ステップと、
を含み、
前記transcription activator-like effector nucleaseは、
第1のヌクレアーゼおよび第2のヌクレアーゼであって、
前記改変ステップでは、
前記第1のヌクレアーゼを発現するベクターおよび前記第2のヌクレアーゼを発現するベクターが1つのベクターにされたoneベクターを前記細胞に導入する、
鳥類の作出方法。
【請求項2】
前記改変ステップでは、前記細胞のオボムコイド遺伝子座のシグナル配列を切断する、
請求項1に記載の鳥類の作出方法。
【請求項3】
前記移植ステップでは、
前記オボムコイド遺伝子座のシグナル配列に変異を含む前記細胞を、前記胚に移植する、
請求項1または2に記載の鳥類の作出方法。
【請求項4】
前記移植ステップでは、
前記オボムコイド遺伝子座の5’末端から数えて3番目のエクソンに終止コドンを含む前記細胞を、前記胚に移植する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の鳥類の作出方法。
【請求項5】
前記第1のヌクレアーゼは、
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなり、
前記第2のヌクレアーゼは、
配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の鳥類の作出方法。
【請求項6】
前記移植ステップにおいて前記細胞を移植された胚を含む卵を孵化させてキメラ個体を作出する孵化ステップと、
前記キメラ個体を交配することで、改変された前記オボムコイド遺伝子座をホモ接合で有するゲノムを有する鳥類を作出する作出ステップと、
をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の鳥類の作出方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の鳥類の作出方法で作出された鳥類が産む卵を得ることを含む、
卵の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥類の作出方法および卵の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏卵は、日本人の食物アレルギーの原因食物の第1位である。鶏卵中のいくつかのタンパク質が食物アレルギーを引き起こすアレルゲンとなる。鶏卵に含まれるアレルゲンとしては、オボムコイド、オボアルブミン、リゾチームおよびオボトランスフェリンなどが挙げられる。
【0003】
鶏卵を原因食物とする食物アレルギーを引き起こさないために、上述のアレルゲンを鶏卵から除去する試みがなされている。鶏卵からアレルゲンを除去するには、アレルゲンをコードする遺伝子が破壊されたニワトリを作出すればよい。
【0004】
非特許文献1には、オボアルブミン遺伝子をtranscription activator-like effector nuclease(TALEN)でノックアウトした遺伝子改変ニワトリが開示されている。当該遺伝子改変ニワトリによれば、オボアルブミンを含まない鶏卵が得られると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Park TS、外4名、「Targeted gene knockout in chickens mediated by TALENs.」、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、2014年、111(35)、12716-12721
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オボアルブミンが含まれない鶏卵であっても、卵白には、オボムコイドが10%程度含まれている。オボムコイドは、鶏卵中で最もアレルゲン性が強いタンパク質である。オボムコイドは物理化学的に高い安定性を有するため、オボムコイドのアレルゲン性は加熱しても維持される。したがって、前記非特許文献1に開示された方法によって、鶏卵にオボアルブミンが含まれないようにしたり、あるいはオボアルブミンを加熱により失活させたりしても、鶏卵のアレルゲン性を十分に低減したとは言い難い。
【0007】
しかも、上記非特許文献1では、始原生殖細胞が用いられている。始原生殖細胞は発生過程に存在する個数がわずかであるため、始原生殖細胞を培養する技術が必要となる。これまでに複数の始原生殖細胞の培養方法が報告されているが、その報告はいくつかの研究機関に限られており、報告された手法に従って培養しても培養できないため、確実性が乏しいといった不都合がある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、卵のアレルゲン性を十分に低減することができる鳥類の作出方法およびアレルゲン性が十分に低減された卵の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来の相同組換え法を用いて、ニワトリのオボムコイド遺伝子をノックアウトした。しかし、従来の相同組換え法では、細胞の培養に長期間を要し、細胞が損傷を受け、核型に異常が見られた。さらに、相同組換え法で得られたキメラニワトリ同士を交配してもオボムコイド遺伝子がノックアウトされたホモ接合のニワトリは得られなかった。当該キメラニワトリが産む卵には、レシピエントのゲノム由来のオボムコイドが含まれ、卵のアレルゲン性が十分には低減されていなかった。
【0010】
そこで、本発明者は鋭意研究を重ね、ゲノム編集技術を適用することで本発明を完成させた。すなわち、
本発明の第1の観点に係る鳥類の作出方法は、
鳥類の多能性および生殖細胞分化能を有する細胞のオボムコイド遺伝子座を、transcription activator-like effector nucleaseで切断し、改変する改変ステップと、
オボムコイド遺伝子座を改変した前記細胞を、鳥類の胚に移植する移植ステップと、
を含み、
前記transcription activator-like effector nucleaseは、
第1のヌクレアーゼおよび第2のヌクレアーゼであって、
前記改変ステップでは、
前記第1のヌクレアーゼを発現するベクターおよび前記第2のヌクレアーゼを発現するベクターが1つのベクターにされたoneベクターを前記細胞に導入する。
【0011】
また、前記改変ステップでは、前記細胞のオボムコイド遺伝子座のシグナル配列を切断する、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記移植ステップでは、
前記オボムコイド遺伝子座のシグナル配列に変異を含む前記細胞を、前記胚に移植する、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記移植ステップでは、
前記オボムコイド遺伝子座の5’末端から数えて3番目のエクソンに終止コドンを含む前記細胞を、前記胚に移植する、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記第1のヌクレアーゼは、
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなり、
前記第2のヌクレアーゼは、
配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記移植ステップにおいて前記細胞を移植された胚を含む卵を孵化させてキメラ個体を作出する孵化ステップと、
前記キメラ個体を交配することで、改変された前記オボムコイド遺伝子座をホモ接合で有するゲノムを有する鳥類を作出する作出ステップと、
をさらに含む、
ことしてもよい。
【0016】
本発明の第2の観点に係る卵の製造方法は、
上記本発明の第1の観点に係る鳥類の作出方法で作出された鳥類が産む卵を得ることを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、卵のアレルゲン性を十分に低減することができる。また、本発明によれば、アレルゲン性が十分に低減された卵が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニワトリのオボムコイド遺伝子座における5’末端から数えて最初のエクソン(エクソン1)の塩基配列、2番目のエクソン(エクソン2)の塩基配列、および3番目のエクソン(エクソン3)の塩基配列を示す図である。
図2】エクソン1およびエクソン3において同定したTALEN認識領域を示す図である。
図3】エクソン1およびエクソン3を標的とするTALENの相対的な切断活性を示す図である。
図4】エクソン3を標的とするTALEN発現ベクターを導入した胚盤葉上層由来多能性幹細胞のゲノムにおける標的領域の塩基配列を示す図である。
図5】エクソン3を標的とするTALENおよびエクソン1を標的とする高活性型のTALENの相対的な切断活性を示す図である。
図6】TALEN発現ベクターの構成を示す図である。
図7】ニワトリ細胞内でのTALENの相対的な切断活性を示す図である。
図8】TALEN発現ベクターによる胚盤葉上層由来多能性幹細胞への変異導入を示す図である。(A)はゲノミックPCR(polymerase chain reaction)の結果を示す。(B)はCel-Iアッセイの結果を示す。
図9】クローンのオボムコイド遺伝子座の塩基配列の一部と該塩基配列でコードされるアミノ酸配列を示す図である。(A)、(B)および(C)はノックアウト変異が得られたクローンを示す。(D)は野生型を示す。
図10】クローン化したノックアウト変異を有する胚盤葉上層由来多能性幹細胞株のコロニーを示す図である。
図11】クローン化したノックアウト変異を有する胚盤葉上層由来多能性幹細胞株および野生型におけるオボムコイド遺伝子座の塩基配列の一部を示す図である。
図12】クローン化したノックアウト変異を有する胚盤葉上層由来多能性幹細胞株のオボムコイド遺伝子座の塩基配列の一部ならびに該塩基配列でコードされるアミノ酸配列および野生型のオボムコイド遺伝子座の塩基配列でコードされるアミノ酸配列の一部を示す図である。(A)は胚盤葉上層由来多能性幹細胞株#4の塩基配列とアミノ酸配列とを示す。(B)は胚盤葉上層由来多能性幹細胞株#5および#5-3の塩基配列とアミノ酸配列とを示す。
図13】ノックアウト変異を有する胚盤葉上層由来多能性幹細胞株から作出されたノックアウトキメラニワトリの写真を示す図である。(A)は胚盤葉上層由来多能性幹細胞株#5由来のキメラニワトリを示す。(B)は胚盤葉上層由来多能性幹細胞株#4由来のキメラニワトリを示す。
図14】オボムコイドノックアウト用CRISPR/Cas9ベクターの構成を示す図である。
図15】オボムコイドノックアウト用CRISPR/Cas9ベクターに組み込まれた各オリゴDNAの塩基配列を示す図である。
図16】オボムコイドノックアウト用CRISPR/Cas9ベクターのHEK293細胞内での相対的な切断活性を示す図である。
図17】オボムコイドノックアウト用CRISPR/Cas9ベクターの胚盤葉上層由来多能性幹細胞内での相対的な切断活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る実施の形態について説明する。なお、本発明は下記の実施の形態および図面によって限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1について説明する。実施の形態1に係る鳥類は、人為的に導入された外来遺伝子をゲノムに含まない、かつオボムコイドの含有量が野生型よりも低減された卵を産む。
【0021】
鳥類は、特に限定されず、例えば、ニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、カモ、ガン、ウズラ、キジ、オウム、フィンチ、タカ、ダチョウ、エミューおよびヒクイドリなどである。好適には、鳥類は、ニワトリである。ニワトリの品種は特に限定されず、例えば、White Leghorn、Brown Leghorn、Barred Rock、Sussex、New Hampshire、Rhode Island、Ausstralorp、Minorca、Amrox、California Gray、Italian Partidge coloredおよびKorean Ogeなどが挙げられる。
【0022】
本実施の形態に係る鳥類のゲノムには、人為的に導入された外来遺伝子が含まれていない。ここでの「人為的に導入された外来遺伝子」とは、遺伝子組み換え技術などによって人為的に導入される、変異を有する遺伝子および該鳥類のゲノムに本来含まれない遺伝子である。人為的に外来遺伝子をゲノムに導入する方法としては、相同組換え法、レトロウイルスベクター法、レンチウイルスベクター法および人工ウイルスベクター法などが挙げられる。上記鳥類のゲノムには、これらの方法で導入された外来遺伝子は含まれない。
【0023】
オボムコイドは、分子量約28000の耐熱性糖タンパク質である。オボムコイドは、卵管の分泌細胞で産生される。オボムコイドは、通常、鳥類の卵の卵白に主に含まれる。オボムコイドは、例えば、鶏卵の卵白に含まれるタンパク質の約11重量%を占める。本実施の形態に係る鳥類が産む卵におけるオボムコイドの含有量は、同じ種類の鳥類の野生型の卵と比較して低減されている。ここで、野生型とは、人為的に遺伝子が改変されていない上記鳥類と同じ種類の鳥類をいう。
【0024】
卵内のオボムコイドの含有量は、標的のタンパク質を検出する既知の手法を用いて定量することができる。例えば、野生型の卵および本実施の形態に係る鳥類が産む卵より採取した卵白から調製した試料を対象として、ウエスタンブロット法において、オボムコイドに結合する抗体を用いて免疫染色することで、バンドの濃さに基づいてオボムコイドの含有量を比較できる。
【0025】
定量性を担保するために、オボムコイドの含有量は、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)で測定するのが好ましい。サンドイッチELISAで用いる捕捉抗体および検出抗体は、モノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。例えば、捕捉抗体および検出抗体として、それぞれウサギ抗オボムコイド抗体およびマウス抗オボムコイド抗体が挙げられる。
【0026】
ウサギ抗オボムコイド抗体としては、オボムコイドで免疫したウサギから抗血清を回収し、オボムコイドを用いたアフィニティークロマトグフィーにより精製したポリクローナル抗体を用いればよい。一方、マウス抗オボムコイド抗体としては、マウス脾臓細胞を用いた細胞融合法により、オボムコイドに対するモノクローナル抗体産生性ハイブリドーマを樹立し、腹水抗体から精製したマウス抗オボムコイド抗体を用いればよい。検出抗体は、特に限定されないが、ペルオキダーゼで標識すればよい。ペルオキシダーゼで標識した場合、オボムコイドは、TMB(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine)の発色で定量できる。オボムコイドの含有量は、試料中の濃度で評価してもよい。適切なサンドイッチELISAを構築することで、50pg/ml程度の検出限界でオボムコイドを定量できる。
【0027】
上述のようにオボムコイドの含有量を定量することで、本実施の形態に係る鳥類が産む卵におけるオボムコイドの含有量が、同じ種類の鳥類の野生型よりも低減されていることを確認できる。例えば、本実施の形態に係る鳥類が産む卵におけるオボムコイドの含有量は、同じ種類の鳥類の野生型の卵におけるオボムコイドの含有量の95重量%以下、80重量%以下、60重量%以下、40重量%以下、20重量%以下、10重量%以下または5重量%以下である。なお、本実施の形態に係る鳥類が産む卵は、オボムコイドを定量した場合、オボムコイドの濃度が検出限界以下であってもよい。特に、本実施の形態に係る鳥類がニワトリの場合、該ニワトリが産む鶏卵の卵白タンパク質中におけるオボムコイドは、0~8重量%、0~4重量%、0~3重量%、0~2重量%または0~1重量%であってもよい。なお、オボムコイドの含有量は、卵白単位量当たりのオボムコイドの重量で評価してもよい。
【0028】
特に好ましくは、本実施の形態に係る鳥類が産む卵には、オボムコイドが含まれない。なお、オボムコイドを含まないとは、野生型の卵の卵白中に含まれるオボムコイドを含まないことを意味する。したがって、オボムコイドを含まない卵は、全長ではないオボムコイドの断片を含む卵をも包含する。
【0029】
本実施の形態に係る鳥類のゲノムにおけるオボムコイド遺伝子座には、オボムコイドが発現しないノックアウト変異、または全長のオボムコイドが発現できない変異があるため、オボムコイドが正常に発現しない。当該変異は、オボムコイドが正常に発現しなければ任意であるが、具体的には、オボムコイド遺伝子座内のエクソンへの終止コドンの挿入が好ましい。
【0030】
オボムコイド遺伝子座には、5つのエクソンが含まれる。5’末端から数えて最初のエクソンから順にエクソン1~5とすると、終止コドンは、エクソン1~5の任意の位置に挿入されていればよい。より好ましくは、上記鳥類は、オボムコイド遺伝子座のエクソン1~3の少なくとも1つのエクソンに終止コドンを含む。オボムコイド遺伝子座内のエクソン1~5に終止コドンが挿入されていると、オボムコイドが完全に合成されず、全長のオボムコイドが発現しない。終止コドンが挿入された位置によっては、オボムコイドの一部である断片が発現するが、オボムコイドの断片の抗原エピトープが、完全長のオボムコイドと比較して少なくなっていれば、アレルゲン性を低減させることができる。
【0031】
また、当該変異は、オボムコイド遺伝子座内の開始コドンの変異であってもよい。オボムコイド遺伝子座内の開始コドンに変異があると、mRNAに基づくオボムコイドの合成が行われない。例えば、上記鳥類は、オボムコイド遺伝子座のエクソン1に開始コドンを含まない。
【0032】
好ましくは、上記鳥類は、オボムコイド遺伝子座におけるシグナル配列が改変されている。オボムコイド遺伝子座におけるシグナル配列は、エクソン1の一部の塩基配列とエクソン2の一部の塩基配列とを含み、25残基のアミノ酸をコードする。図1には、エクソン1、エクソン2およびエクソン3の塩基配列が示されている。図1において、エクソンの塩基は大文字で、イントロンの塩基は小文字で示される。図1に示す下線の塩基配列がシグナル配列である。全長のオボムコイドはもちろん、オボムコイドの断片が発現しないように、シグナル配列の改変では、開始コドンであるATGに変異を導入してもよいし、シグナル配列中で終止コドンが生じる変異を導入してもよい。好適には、終止コドンは、オボムコイド遺伝子座のエクソン1に含まれる。なお、エクソン1、エクソン2およびエクソン3の塩基配列は、それぞれ配列番号1、配列番号2および配列番号3に示される。
【0033】
上述のように、上記鳥類は、人為的に導入された外来遺伝子をゲノムに含まない。このため、オボムコイド遺伝子座が改変された上記鳥類の作出においては、外来遺伝子をゲノム上の特定の遺伝子と置換させる相同組換え法ではなく、下記で詳述するゲノム編集技術が利用されるのが好ましい。
【0034】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る鳥類は、オボムコイドが正常に発現しないため、オボムコイドの含有量が野生型よりも低減された卵を産む。オボムコイドは、卵アレルギーの検査において、卵黄と卵白に加えて、オボムコイドのみ独立して検査されるほどアレルゲン性が高い。このため、オボムコイドの含有量が野生型よりも少ない卵は、卵のアレルゲン性を十分に低減することができる。
【0035】
また、上記鳥類は、人為的に導入された外来遺伝子をゲノムに含まない。外来遺伝子を含まないことで予期せぬ表現型および毒性の出現を防ぐことができる。また、外来遺伝子を含まないことで上記鳥類における生殖遺伝の確実性を損なうことを極力回避できる。
【0036】
また、オボムコイドは物理化学的に高い安定性を有するため、加熱処理を施した鳥類の卵白を含む加工食品またはワクチンなどでも、オボムコイドのアレルゲン性が維持される。したがって、本実施の形態に係るオボムコイドの含有量が野生型よりも低減された卵は、加工食品およびワクチンなどの様々な製品の原料としても有用である。
【0037】
また、上記鳥類は、オボムコイド遺伝子座のエクソン1~3の少なくとも1つのエクソンに終止コドンを含んでもよいこととした。エクソン3に終止コドンが含まれていれば、分泌されるオボムコイドの断片の抗原エピトープが完全長のオボムコイドよりも少なくなるので、アレルゲン性を低減させることができる。特に、オボムコイド遺伝子座のエクソン1に終止コドンを含むことで、本実施の形態に係る鳥類は、全長のオボムコイドはもちろんのこと、オボムコイドの断片をも一切含まない卵を産むことができる。また、オボムコイド遺伝子座のエクソン1に開始コドンを含まない場合、mRNAに基づくオボムコイドの合成が行われないので、上記鳥類は、オボムコイドを含まない卵を産むことができる。
【0038】
また、上記鳥類は、オボムコイド遺伝子座におけるシグナル配列が改変されていてもよいこととした。シグナル配列に対応するシグナルペプチドは細胞の小胞体内で切断され分泌されないため、シグナル配列に終止コドンが含まれていれば、オボムコイド遺伝子座に由来するペプチドの卵白への分泌を防ぐことができる。この結果、オボムコイドに起因するアレルゲン性をさらに低減させることができる。
【0039】
なお、本実施の形態に係る鳥類は、好ましくはニワトリであることとした。ニワトリは、需要の大きい鶏卵を産むため、アレルゲン性が十分に低減された鶏卵を効率よく供給できる。食用の卵を供給する点では、ニワトリの他に、ウズラなどが好ましい。
【0040】
なお、オボムコイド遺伝子座における変異は、オボムコイド遺伝子座内のエクソンへのフレームシフトを起こす変異などであってもよい。
【0041】
別の実施の形態では、人為的に導入された外来遺伝子をゲノムに含まない、かつオボムコイドの含有量が野生型よりも低減された、鳥類の卵が提供される。特に、鶏卵は、菓子、飲料、加工食品などの原料として広く使用され、あるいはワクチンなどの医薬品の製造に利用される。当該実施の形態に係る鶏卵を用いれば、オボムコイドが様々な製品に混入したとしても、オボムコイドのアレルゲン性を軽減できる。さらに、オボムコイドを含まない鳥類の卵を用いれば、最もアレルゲン性が強いオボムコイドが様々な製品に混入するリスクを極力抑えることができる。
【0042】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、上記実施の形態1に係る鳥類に好適な鳥類の作出方法について説明する。
【0043】
オボムコイドの含有量が野生型よりも低減された卵を産む鳥類を作出するには、オボムコイド遺伝子座が改変された鳥類を作出する必要がある。遺伝子を改変した遺伝子改変動物を作出するには、一細胞期受精卵のゲノムを改変し、得られた個体から目的の変異が導入された個体を選抜しなければならい。そこで、遺伝子改変動物の作出では、体外で受精卵を操作し、受精卵から個体を発生させる必要がある。例えば、マウスおよびラットでは、1個体の雌から複数の未受精卵を得ることが可能である。したがって、体外受精後、一細胞期まで発生させゲノムを改変し、受精卵を雌の卵巣に戻すことで複数の個体を作製することが可能である。
【0044】
一方、鳥類では体外受精の手技が確立されていない。また、一細胞期受精卵は、産卵する鳥類1羽から1個しか得られない。さらに、卵管内に存在する一細胞期受精卵の特定が難しい。これらの理由から、鳥類の受精卵に対する遺伝子改変技術の適用は困難である。そのため、遺伝子が改変された鳥類を作出するために、受精卵の代わりに多能性または生殖細胞分化能を有する多能性幹細胞を利用する。
【0045】
そこで、本実施の形態に係る鳥類の作出方法は、鳥類の多能性幹細胞のオボムコイド遺伝子座を、プログラマブルエンドヌクレアーゼ(programmable endonuclease)で切断し、改変する改変ステップと、オボムコイド遺伝子座を改変した上記多能性幹細胞を、鳥類の胚に移植する移植ステップと、を含む。
【0046】
まず、上記改変ステップについて詳細に説明する。鳥類の多能性幹細胞としては、例えば、多能性および生殖細胞分化能を有する胚性幹細胞(ES細胞)が挙げられる。鳥類のES細胞は、例えば、受精卵の胚盤葉上層から単離した胚盤葉細胞から樹立できる胚盤葉上層由来多能性幹細胞(epiblast-derived stem cell、以下単に「epiSC」ともいう)である。ニワトリの場合、Eyal-Giladi and Kochavの発生ステージ(I~XIV)のステージXの胚盤葉は、胚盤葉上層からなる。ニワトリのepiSCは、胚盤葉上層から単離した胚盤葉細胞を、例えば、イラジエーションまたはマイトマイシンC処理によって細胞増殖を停止させた支持細胞上で公知の方法で培養することで得られる。支持細胞としては、ニワトリ胚線維芽細胞、マウス胚線維芽細胞およびマウス胚線維芽細胞由来細胞株などが挙げられる。
【0047】
なお、多能性および生殖細胞分化能を有する点では、始原生殖細胞を利用してもよい。始原生殖細胞は、例えば、鳥類の胎児性腺から公知の方法で単離できる。なお、以下では、改変ステップにおいて、epiSCを用いる場合について説明する。
【0048】
オボムコイド遺伝子座の改変では、プログラマブルエンドヌクレアーゼで、例えばepiSCのゲノム上のオボムコイド遺伝子座を特定の部位で切断する。プログラマブルエンドヌクレアーゼは、ゲノムの標的部位を特異的に改変(削除、置換、挿入)できる、いわゆるゲノム編集技術で使用される。プログラマブルエンドヌクレアーゼは、標的のDNAの塩基配列に応じて設計され、任意の塩基配列でDNAを切断することができる。プログラマブルエンドヌクレアーゼは、特に限定されないが、例えば、TALEN、zinc finger nuclease(ZFN)およびCRISPR-Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat and Crisper associated protein)システム(「CRIPPR/Cas9」ともいう)におけるCas9ヌクレアーゼなどである。
【0049】
TALENおよびZFNは、DNA結合ドメインとDNA切断ドメインからなるポリペプチドである。TALENおよびZFNは、DNA結合ドメインの結合部位において一対のDNA切断ドメインが近接して二量体を形成することによって、二本鎖DNAを切断する。DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールを繰り返して含み、それぞれのDNA結合モジュールが、DNAの特定の塩基対を認識するため、DNA結合モジュールを適切に設計することによって、オボムコイド遺伝子座の標的とする塩基配列を特異的に切断できる。
【0050】
CRISPR-Casシステムでは、ゲノム上のPAM配列に隣接する標的の塩基配列に相補的な塩基配列を有するガイドRNAと、Cas9ヌクレアーゼとを使用する。ガイドRNAは、標的とする塩基配列に相補的なCRISPR RNA(crRNA)と、補助的なtracrRNAとを含む。オボムコイド遺伝子座の標的とする塩基配列に結合したガイドRNAを認識したCas9ヌクレアーゼがPAM配列より5’末端側の標的の塩基配列からなる領域において二本鎖DNAを切断する。
【0051】
プログラマブルエンドヌクレアーゼによる二本鎖DNAの切断は、多くの遺伝情報の損失またはガン化の原因になるため、細胞内で極めて迅速に修復される。修復の主な経路の1つである、切断された末端同士を繋ぎ合わせる非相同末端結合修復の際、ゲノムの塩基配列に変異(欠失または挿入)が高確率で加えられる。したがって、TALENを用いる場合、オボムコイド遺伝子座において改変したい部位の5’末端側および3’末端側にそれぞれ存在し、DNA結合モジュールによって認識される領域の塩基配列(エフェクター配列)に応じて、TALENを設計すればよい。オボムコイド遺伝子座において改変したい部位に好適なエフェクター配列は、例えば「TALEN Targeter」(https://tale-nt.cac.cornell.edu/)などで特定することができる。また、CRISPR-Casシステムを用いる場合は、例えば、「CRISPR direct」(http://crispr.dbcls.jp/)で、オボムコイド遺伝子における標的の塩基配列を特定すればよい。
【0052】
改変ステップでは、例えば、プログラマブルエンドヌクレアーゼを発現するベクターを、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法およびリポフェクション法などの公知の方法でepiSCに導入すればよい。例えば、プログラマブルエンドヌクレアーゼとしてTALENを発現するベクターをepiSCに導入する場合、ゲノムDNAの二本鎖各々の標的とする塩基配列に応じて設計されたTALENを発現するベクターを用いる。プログラマブルエンドヌクレアーゼとしてCRISPR-Casシステムを用いる場合は、ガイドRNAと、Cas9ヌクレアーゼとを発現するベクターを同様にepiSCに導入すればよい。
【0053】
オボムコイド遺伝子座の改変では、オボムコイドが発現しないようにオボムコイド遺伝子座に任意の部位、好ましくは、エクソン1~3の少なくとも1つのエクソンまたはシグナル配列に変異が導入されればよい。好ましくは、当該変異によって、エクソン1~3の少なくとも1つのエクソンが終止コドンを含む、あるいはエクソン1が開始コドンを含まないようになればよい。このために、エクソン1~3の少なくとも1つのエクソンまたはシグナル配列が切断されるように、プログラマブルエンドヌクレアーゼを設計すればよい。プログラマブルエンドヌクレアーゼは、切断部位近傍の塩基配列に応じて、公知の方法で設計される。
【0054】
具体的には、TALENは、TALEN left(第1のヌクレアーゼ)およびTALEN right(第2のヌクレアーゼ)である。エクソン1を切断する場合、例えば、TALEN leftおよびTALEN rightは、それぞれ配列番号4および配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる。また、エクソン3を切断する場合、例えば、TALEN left(第3のヌクレアーゼ)およびTALEN right(第4のヌクレアーゼ)は、それぞれ配列番号6および配列番号7に示されるアミノ酸配列からなる。
【0055】
なお、TALEN leftは、標的とする塩基配列を特異的に切断するヌクレアーゼ活性を有するのであれば、配列番号4または配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるものでもよい。TALEN rightも、標的とする塩基配列を特異的に切断するヌクレアーゼ活性を有するのであれば、配列番号5または配列番号7に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるものでもよい。
【0056】
一方、CRISPR-Casシステムでは、例えば、エクソン1を切断する場合、Cas9ヌクレアーゼは、オボムコイド遺伝子座の配列番号8~11のいずれかに示される塩基配列からなる領域において二本鎖DNAを切断すればよい。また、エクソン2を切断する場合、Cas9ヌクレアーゼは、オボムコイド遺伝子座の配列番号12または配列番号13に示される塩基配列からなる領域において二本鎖DNAを切断すればよい。
【0057】
ガイドRNAをepiSC内に導入するために、好適には、ガイドRNAを発現させるオリゴDNAが用いられる。オリゴDNAの塩基配列は、標的とする塩基配列に基づいて決定される。Cas9ヌクレアーゼが配列番号8に示す塩基配列からなる領域を切断する場合、epiSC内でガイドRNAを発現させるオリゴDNAのセンスの塩基配列は、配列番号14に示される塩基配列を含み、該オリゴDNAのアンチセンスの塩基配列は、配列番号15に示される塩基配列を含む。この他、Cas9ヌクレアーゼが切断する領域の塩基配列を配列番号9、配列番号10および配列番号11のいずれかに示す塩基配列とした場合、オリゴDNAのセンスおよびアンチセンスの塩基配列に含まれる塩基配列の組み合わせとしては、それぞれ配列番号16および配列番号17、配列番号18および配列番号19、ならびに配列番号20および配列番号21が挙げられる。また、Cas9ヌクレアーゼが切断する領域の塩基配列を配列番号12および配列番号13のどちらかに示す塩基配列とした場合、上記オリゴDNAのセンスおよびアンチセンスの塩基配列に含まれる塩基配列の組み合わせとしては、それぞれ配列番号22および配列番号23、ならびに配列番号24および配列番号25が挙げられる。
【0058】
上記改変ステップにおいてオボムコイド遺伝子座が改変されたか否かは、epiSCのゲノム上のオボムコイド遺伝子座の塩基配列を解析することで判定できる。例えば、プログラマブルエンドヌクレアーゼを導入した後、安定的に増殖するepiSCからゲノムDNAを回収し、オボムコイド遺伝子座の塩基配列を解析すればよい。
【0059】
なお、オボムコイドが発現しないように改変されたゲノムを有するキメラ個体を効率よく得るために、オボムコイド遺伝子が発現しないノックアウト変異がオボムコイド遺伝子座に導入されたepiSCを選抜してもよい。また、プログラマブルエンドヌクレアーゼを発現するベクターを導入した細胞を濃縮するために、ピューロマイシンなどの薬剤耐性遺伝子を一過性に発現させる発現系を、epiSCに導入してもよい。
【0060】
続いて、移植ステップについて詳細に説明する。移植ステップでは、オボムコイド遺伝子座を改変したepiSCを、鳥類の胚に移植する。移植操作は、特に限定されないが、細管を用いて、鳥類の胚にepiSCを注入すればよい。
【0061】
具体的には、移植ステップでは、例えば、オボムコイドが発現しないようにオボムコイド遺伝子座が改変されたepiSCを、ガンマ線を照射した放卵直後の受精卵胚の胚盤葉へ移植すればよい。このとき、epiSCの系統と羽装色の異なる系統のレシピエントを用いることで、キメラ個体を羽装色に基づいて容易に判別できる。例えば、キメラニワトリを作出する場合、好ましくは、雛において黒羽装の横斑プリマスロック種由来のepiSCが、雛において白羽装の白色レグホン種の胚に移植される。
【0062】
移植ステップに続いて、epiSCを移植された胚を含む卵を、孵化させることでキメラ個体を作出することができる。孵化の期間は、ニワトリの場合、約20日間である。キメラ個体においては、改変されたオボムコイド遺伝子座を含むゲノムを有する精子および卵子が形成される。したがって、キメラ個体を交配することで、改変されたオボムコイド遺伝子座をホモ接合で有するゲノムを受け継いだ遺伝子改変鳥類が高い確率で作出される。当該遺伝子改変鳥類のボムコイド遺伝子座は改変されているため、遺伝子改変鳥類が産む卵におけるオボムコイドの含有量が野生型よりも低減されている、あるいは遺伝子改変鳥類が産む卵にはオボムコイドが含まれない。
【0063】
なお、遺伝子改変鳥類は、上述のように羽装色により識別することができる。また、遺伝子改変鳥類は、そのゲノムDNAの塩基配列をサザンブロットなどで解析することでも判別できる。
【0064】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る鳥類の作出方法では、鳥類の多能性幹細胞のオボムコイド遺伝子座をプログラマブルエンドヌクレアーゼで切断し、改変するため、オボムコイドが正常に発現しない鳥類を得ることができる。当該鳥類のゲノムは、生殖遺伝するため、当該鳥類が産む卵におけるオボムコイドの含有量が野生型よりも低減されている、あるいは当該鳥類が産む卵にはオボムコイドが含まれない。これにより、卵のアレルゲン性を十分に低減することができる。
【0065】
また、本実施の形態における改変ステップでは、epiSCのオボムコイド遺伝子座を改変してもよいこととした。epiSCは、ひとつの胚から約6万個得られる胚盤葉細胞から容易に樹立でき、かつ多能性を維持したまま安定に培養可能できるので、オボムコイド遺伝子座をより確実に改変することができる。
【実施例0066】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0067】
実施例1:TALEN発現ベクターの作製
(オボムコイドの標的配列の選定)
TALENでオボムコイド遺伝子に変異を導入するために、オボムコイドのエクソン1、エクソン2およびエクソン3の塩基配列を対象に、TALEN Targeterでエフェクター配列を検索した。その結果、図2の下線を付した領域に示されるように、エクソン1およびエクソン3の塩基配列においてそれぞれ1組のエフェクター配列を見出した。なお、エクソン2には、エフェクター配列が見出されなかった。
【0068】
(TALEN発現ベクターの作製とTALENの切断活性の検討)
まず、エクソン1およびエクソン3における各エフェクター配列に結合できるモジュールの構築を、6-モジュールアセンブリ法で行い、エクソン1とエクソン3でそれぞれGolden Gate TALEN発現ベクター2種(leftとright)を作製した。Golden Gate TALEN発現ベクター(以下、単に「G-TALEN発現ベクター」ともいう)は、Golden Gate TALEN and TAL Effector Kit 2.0およびYamamoto Lab TALEN Accessory Pack(共にAddgene社より入手可能)を用いて、キットに添付のプロトコールに従って作製した。
【0069】
次に、TALENの切断活性を検討するために、HEK293細胞を用いたSingle-Strand annealing(SSA)アッセイを行った。SSAアッセイでは、以下のように、TALENの標的となる塩基配列を有するレポーターベクターとG-TALEN発現ベクターとをHEK293細胞に共導入し、レポーター活性から切断活性を測定した。
【0070】
レポーターベクターは、Yamamoto Lab TALEN Accessory Packに含まれるpGL4-SSAにアニーリングした合成オリゴを挿入することによって作製した。まず、pGL4-SSAをBsaI処理し、脱リン酸化せずに電気泳動した後、切り出しを行った。エクソン1に関して、挿入した合成オリゴに含まれるセンスオリゴおよびアンチセンスオリゴの塩基配列は、それぞれ配列番号26および配列番号27に示す。エクソン3に関して、挿入した合成オリゴに含まれるセンスオリゴおよびアンチセンスオリゴの塩基配列は、それぞれ配列番号28および配列番号29に示す。
【0071】
ここで、合成オリゴのアニーリングの溶液の詳細を以下に示す。
10×バッファー 1μl(400mM Tris-HCL(pH8)、200mM MgCl、500mM NaCl)
センスオリゴ(50μM) 1μM
アンチセンスオリゴ(50μM) 1μM
滅菌蒸留水 7μM
上記アニーリングの溶液を、95℃で5分間維持した後、90分間かけて25℃まで冷却することで、合成オリゴをアニールした。
【0072】
次に、アニールさせた合成オリゴをBsaI処理したpGL4-SSAに挿入した。サブクローニングしたものをスモールカルチャーし、KpnIで処理すると、3800bpおよび1800bpの2本のバンドが出現し、合成オリゴが挿入されたことを確認した。
【0073】
次に、レポーターベクターの配列解析を以下の手順で行った。レポーターベクターをNarI処理の後、電気泳動し、ゲルを切り出し、マイクロチューブにゲル断片を回収した。これをディープフリーザーに10分程度置き、完全に凍らせた後、指で温めて融かし、遠心機でスピンダウンした。しみ出された液体を6~8μlほど取り、シーケンスのテンプレートとして使用した。
【0074】
配列解析のプライマーには、Luc2-up-F(配列番号30)またはLuc2-down-R(配列番号31)を用いた。正しい塩基配列が挿入されたことを確認した後、トランスフェクショングレードのMiniprep kitを用いてレポーターベクターを精製し、濃度を定量し、150ng/μlに調製した。
【0075】
以下の4種類のプラスミドを混合したDNA溶液をHEK293細胞にトランスフェクションした。
G-TALEN発現ベクター(Left) 200ng
G-TALEN発現ベクター(Right) 200ng
レポーターベクター 100ng
pRL-CMV(リファレンスベクター) 20ng
【0076】
HEK293細胞は、直径10cmの培養用シャーレで70~80%コンフルエントに培養した。DNA希釈用の無血清Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(以下「DMEM」とする)およびLipofectamine LTX希釈用の無血清DMEMを、それぞれ必要量ずつマイクロチューブに分注した。DNA希釈用の無血清DMEM25μlを96ウェルプレートの各ウェルに加え、上記DNA溶液を各ウェルに4~8μlずつ加えて混合した。LTX希釈用の無血清DMEMに、1ウェル(25μl)当たり0.7μlとなるようにLTXを加えて懸濁し、素早く25μlずつ各ウェルへ加えて混合した。これを必要本数分繰り返した。培養用シャーレの細胞からメディウムを除き、15%ウシ胎仔血清(fetal bovine serum、以下「FBS」とする)/DMEMを加えて培養用シャーレ上で直接ピペッティングし、細胞を懸濁した。血球計算盤で細胞数を計測し、6×10細胞/mlに合わせた。
【0077】
最初のウェルへLTXを加えてから30分経過後、準備した細胞を100μlずつ各ウェルへ加え、37℃のCOインキュベーターでインキュベートした。トランスフェクションの24時間後に、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega社製)を用いて、取扱説明書に従って、ルシフェラーゼの活性測定を行った。
【0078】
(結果)
図3は、SSAアッセイによるG-TALEN発現ベクターの切断活性を示す。陽性対照TALENは、HPRT1を標的に作製された十分に切断活性を有するTALEN発現ベクターである。相対活性は、HEK293細胞でHPRT1の切断活性を測定し、この測定値を1としたときの相対値である。陰性対照は、標的配列を含まないHEK293細胞にG-TALEN発現ベクターを導入した場合の相対活性値を示す。図3に示すように、エクソン1を標的としたG-TALEN発現ベクターには切断活性は認められず、エクソン3を標的としたG-TALEN発現ベクターでのみ切断活性が認められた。
【0079】
実施例2:G-TALEN発現ベクターのニワトリepiSCへの変異導入とCel-Iアッセイによる変異導入の確認
切断活性が認められたエクソン3を標的としたG-TALEN発現ベクターを、ニワトリepiSCに対する変異導入に使用した。
【0080】
(ニワトリepiSCの培養)
まず、産卵直後の新鮮な受精卵から次の手順で胚盤葉細胞を分離した。エッグセパレーターで卵白を完全に除去したのち、プラスチック製シャーレ中に胚盤葉が卵黄の上部に位置するように受精卵を静置した。滅菌乾燥させたろ紙のリング(ろ紙に直径5mmの穴を開け、その外輪に沿ってハサミで円形にカットしたもの)を、中央に胚盤葉が位置するように受精卵に張りつけた。ろ紙のリングの外縁に沿ってハサミ(小直剪刀両鋭)を入れ、卵黄膜ごと円形に胚盤葉をカットした。続いて、ろ紙をピンセットでゆっくり斜めに持ち上げて、ろ紙のリングに付着する卵黄を可能な限り除去した。このとき、ろ紙のリングには、胚盤葉上層が張り付いた状態となる。
【0081】
そして、ろ紙のリングを、卵黄側を上にして、滅菌PBS(phosphate buffered saline)入りのシャーレに浸し、ろ紙のリングをゆっくり揺すって、付着した卵黄を除去した。別に準備した滅菌PBS入りシャーレにろ紙のリングを移し、少しだけ激しく揺することで、胚盤葉細胞をろ紙のリングから円盤状に分離させた。分離した胚盤葉細胞は、マイクロピペットで1.5mlのチューブに回収した。
【0082】
次に、分離した胚盤葉細胞を、事前に準備しておいた支持細胞上で培養した。支持細胞として、マウス胚線維芽細胞由来細胞株(STO細胞)を用いた。以下、支持細胞の準備について説明する。
【0083】
STO細胞を直径10cmの培養用シャーレに播種した。培養液は、10%FBS(fetal bovine serum)-DMEM(Dulbecco’s modified Eagle medium)である。培養は、5%CO、37℃の条件下で行った。STO細胞は、約3日間の培養でコンフルエントに達し冷PBSで3回洗浄した後、0.025%トリプシン、0.02%EDTA 2Na-PBSで細胞を剥離し、これを直径15cmの培養用シャーレに播種した。細胞がコンフルエントに達してから、培養液にマイトマイシンCを終濃度で10μg/mlとなるように加え、細胞を2時間培養した。冷PBSで5回洗浄し、0.025%トリプシン、0.02%EDTA 2Na-PBSで細胞を剥離し、遠心洗浄を少なくとも3回行った。血球計算盤を用いて細胞数を算出した。
【0084】
支持細胞の培養には、直径6cmの培養用シャーレのゼラチンコートを用いた。ゼラチンコート液は、使用前に、ゼラチンを0.1%になるように蒸留水に添加後、オートクレイブにより溶解、滅菌した。培養用シャーレは、支持細胞を培養する少なくとも2時間前に、底面がゼラチンコート液に浸る状態とし37℃でコートした。ゼラチンコート液を除去後、上記のマイトマイシンC処理済みの支持細胞を、直径6cmの培養用シャーレ1個あたり2~3×10細胞となるように、10%FBS-DMEMに調整して播種した。支持細胞は、播種後翌日から5日以内に使用した。
【0085】
(ニワトリepiSCへの変異導入)
ひとつの胚から分離した胚盤葉細胞を、支持細胞を播種した1個の培養用シャーレで培養した。胚盤葉細胞の培養に使用する培地の組成を表1に示す。なお、当該培地は、表1のKnockOut-DMEMを基礎とし、組み換えニワトリ白血病抑制因子(recombinant chicken LIF)は、加温した最低限必要な量の培地に使用直前に添加した。
【0086】
ここでrecombinant chicken LIFの調製方法について説明する。ニワトリ胚細胞株CHCC-OU2を、10%FBS(Hyclone;Thermo Fisher Scientific社製)、100μg/mlのペニシリンおよび70μg/mlのストレプトマイシンを含む低グルコースDMEM(Invitrogen社製)で、5%CO下、37℃で培養した。配列番号32に示すフォワードプライマーおよび配列番号33に示すリバースプライマーを用いたPCRによって、LIFのコーディング領域を増幅した。PCR産物をNhe IおよびSal Iで処理し、ヒスチジンタグを含むpSecTag2Aプラスミド(Invitrogen社製)にサブクローニングした。
【0087】
次に、制限酵素を用いてpSecTag2Aプラスミドからmyc-エピトープを除去した。Polyfect Transfection Reagent(Qiagen社製)を用いて、組み換えプラスミドをCHCC-OU2に導入し、0.25μg/mlのゼオシン(Invitrogen社製)を含む培地で細胞を選抜した。生物学的に活性のあるLIFを分泌する安定した細胞株を選択し、ProBond resin(Invitrogen社製)を用いて、培養上清からrecombinant chicken LIFを精製した。
【0088】
【表1】
【0089】
胚盤葉細胞を支持細胞上で2~3日間培養することで得られたepiSCに、FuGENE HD(Promega社製)を用いて、6.5μgのG-TALEN発現ベクターを導入した。G-TALEN発現ベクターの導入24時間後に2μg/mLの濃度でピューロマイシンを培地に添加し、48時間培養した。48時間後、培地からピューロマイシンを除くために培地交換を行い、epiSCが安定的に増殖するまで約10日間培養した。
【0090】
安定増殖したepiSCから、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN社製)を用いてゲノムDNAを回収し、ゲノミックPCRを行った。ゲノミックPCRの条件は、94℃で2分間の後、98℃で10秒、68℃で30秒および72℃で2分を1サイクルとして35サイクルである。ゲノミックPCRに用いたフォワードプライマーおよびリバースプライマーの塩基配列は、それぞれ配列番号34および配列番号35に示される。
【0091】
(Cel-Iアッセイ)
続いて、PCR産物を再ハイブリダイゼーションし、surveyor nucleaseにより処理し、ヘテロデュープレックス部分で切断するCel-Iアッセイを行った。Cel-Iアッセイには、SURVEYOR(商標) Mutation Detection Kit(Transgenomic社製)を用いた。PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-up System(Promega社製)を用いて精製した。DNAの溶出は15μlで行い、溶出後、DNA濃度を定量した。
【0092】
次に、以下の組成でCel-Iアッセイ用のDNA溶液を調製した。
PCR産物 400ng
10×hybridization buffer(100mM Tris-HCl (pH8.5)、750mM KCl、15mM MgCl) 0.8μl
滅菌蒸留水で8μlに調製
上記DNA溶液を、95℃で5分間維持し、60~90分間かけて25℃に冷却した。
【0093】
当該DNA溶液に、0.4μlのEnhancer Sと0.4μlのNuclease Sとを加えて、よくピペッティングし、42℃で30分間インキュベートした。反応後すぐに、アガロースゲルないしポリアクリルアミドゲルで全量を電気泳動した。
【0094】
(結果)
Cel-Iアッセイでは、変異導入を示す明瞭なバンドは得られなかった。一方、PCR産物の塩基配列を解析したところ、図4に示すように、標的領域に1塩基付加と1塩基置換の2種の変異が認められた(下線参照)。しかし、これらの変異は、いずれも終止コドンを生じる変異ではなかった。
【0095】
実施例3:Platinum Gate TALEN発現ベクターの作製と切断活性の評価
上記エクソン1の塩基配列を標的とする高活性型のTALENであるPlatinum Gate TALEN(以下、単に「P-TALEN」ともいう)発現ベクターを作製した。上記エクソン1におけるエフェクター配列に結合できるモジュールの構築を、6-モジュールアセンブリ法で行い、エクソン1に対してP-TALEN発現ベクター(leftとright)を作製した。P-TALEN発現ベクターは、Platinum Gate TALEN KitおよびYamamoto Lab TALEN Accessory Pack(共にAddgene社より入手可能)を用いて、キットに添付のプロトコールに従って作製した。P-TALEN発現ベクターの切断活性を上述と同様にSSAアッセイで評価した。
【0096】
(結果)
図5は、SSAアッセイによるP-TALEN発現ベクターの切断活性を示す。P-TALEN発現ベクターにおいて、実施例1で作製したエクソン3を標的としたG-TALEN発現ベクターを上回る切断活性が認められた。
【0097】
実施例4:P-TALENのoneベクター化とニワトリepiSCへの変異導入
P-TALEN発現ベクターの導入効率を向上させるため、P-TALEN発現ベクター(Left)とP-TALEN発現ベクター(Right)の2種のベクターをoneベクター化するとともに、ベクターを導入した細胞を一過性に濃縮するために、ピューロマイシン耐性遺伝子の発現カセットをoneベクターに導入した。図6は、構築したoneベクターの構成を示す。構築したoneベクターの切断活性を、上記と同様にSSAアッセイで評価した。なお、SSAアッセイでは、ニワトリ細胞内での切断活性を評価するために、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)を用いた。
【0098】
培養したepiSCに、FuGENE HD(Promega社製)を用いて、6.5μgのoneベクターを導入した。なお、oneベクターのみの導入とは独立に、変異導入効率を上昇させるために、oneベクターとともにニワトリexonuclease I発現ベクター(EXO I)をepiSCに導入した。oneベクターの導入24時間後に2μg/mLの濃度でピューロマイシンを培地に添加し、48時間培養した。48時間後、培地からピューロマイシンを除くために培地交換を行い、epiSCが安定的に増殖するまで約10日間培養した。
【0099】
上記と同様にepiSCからゲノムDNAを回収し、ゲノミックPCRを行った。ゲノミックPCRに用いたフォワードプライマーおよびリバースプライマーの塩基配列は、それぞれ配列番号36および配列番号37に示される。さらに、PCR産物を用いてCel-Iアッセイを行った。
【0100】
(結果)
図7は、SSAアッセイによるoneベクターの切断活性を示す。相対活性は、標的配列を含まないCEFにoneベクターを導入した場合の測定値を1としたときの相対値である。図7に示すように、oneベクターが十分な切断活性を有することが示された。なお、「CMV-ptTALEN L+R」は、LeftおよびRightのTALENの発現をCMVプロモーターで制御しているベクターを示し、「CAG-ptTALEN L+R」は、LeftおよびRightのTALENの発現をCAGプロモーターで制御しているベクターを示す。ゲノミックPCRでは、図8(A)に示したように薬剤選抜した系で変異により生じるヘテロデュープレックスを示すシフトバンドが観察された。Cel-Iアッセイでは、図8(B)に示すように、薬剤選抜を行ったepiSCのゲノムから変異導入を示す消化断片のバンドが観察された。ニワトリEXO Iの導入の効果は、認められなかった。
【0101】
実施例5:epiSCへのノックアウト変異の導入およびクローニング
上記epiSCのゲノムDNAの変異導入領域をPCRにより増幅し、ベクターへクローニング後、変異導入領域の塩基配列を解析した。43クローンを解析した結果、欠失が10クローン、挿入が1クローンおよび置換が2クローンであった。変異導入効率は、30%と高値であった。このうちノックアウト変異を解析したところ、3クローン(欠失が2クローンおよび挿入が1クローン)で、終止コドンの挿入によるノックアウト変異が検出された。図9に、変異が導入された代表的な塩基配列として、欠失があった#3(A)および#36(C)と、挿入があった#4および#18(B)とを例示する。図9では、野生型(D)の二重下線はシグナル配列を示し、#3、#18および#36の下線は変異導入により変異したアミノ酸配列を示す。ノックアウト変異の効率は、7%であった。
【0102】
epiSCにoneベクターを導入後、3300細胞を96ウェルプレートに播種し、クローニングを行った。計9枚のプレートの49ウェルからepiSCのコロニーが増殖し、最終的に27ウェルで増殖させることに成功した。27ウェルの細胞は、凍結保存を作製するとともに、それぞれ一部からゲノムを抽出し、上述と同様にCel-Iアッセイを行い、さらに塩基配列を解析した。
【0103】
(結果)
27ウェルのうち、4ウェルにおいてCel-Iアッセイの陽性が確認された。図10に例示する#5のクローンのように各細胞を安定に増殖させた後、塩基配列を解析した。図11に示すように、クローン化されたオボムコイドノックアウトepiSC株#4の変異導入領域の塩基配列では、5’末端から数えて35番目の塩基の次に「T」が挿入されていた。この塩基配列をアミノ酸配列に変換したところ、N末端から数えて26残基目および31残基目に対応する位置に終止コドンが入ることがわかった。
【0104】
一方、オボムコイドノックアウトepiSC株#5の変異導入領域の塩基配列では、図9(C)で示した塩基配列と同じ位置で5塩基が欠失していた。この塩基配列をアミノ酸配列に変換したところ、N末端から数えて24残基目および29残基目に対応する位置に終止コドンが入ることがわかった。
【0105】
epiSC株#4の塩基配列でコードされるアミノ酸配列を野生型のオボムコイドのアミノ酸配列と比較したところ、図12(A)に示すように、フレームシフトによりシグナルペプチドのN末端から数えて13残基目からアミノ酸の変異が起こり、シグナルペプチド内の25残基目まで翻訳されることがわかった。シグナルペプチドは、細胞の小胞体内で切断され分泌されないため、この変異はオボムコイドのノックアウト変異であることが確認された。
【0106】
epiSC株#5の塩基配列でコードされるアミノ酸配列を野生型のオボムコイドのアミノ酸配列と比較したところ、図12(B)に示すように、フレームシフトによりシグナルペプチドのN末端から数えて11残基目からアミノ酸の変異が起こり、シグナルペプチド内の23残基目まで翻訳されることがわかった。epiSC株#5についてもオボムコイドのノックアウト変異であることが確認された。なお、オボムコイドノックアウトepiSC株#5は、塩基配列の解析の結果、他の塩基配列が確認されなかったことから完全にクローン化されていることが確認されたが、念のため、さらにもう一度クローニングを行い、オボムコイドノックアウトepiSC株#5-3も準備した。
【0107】
実施例6:キメラニワトリの作出
オボムコイドノックアウトepiSC株#4、#5および#5-3を、5Gyでガンマ線照射した放卵直後の受精卵胚の胚盤葉へ移植し、生殖細胞キメラニワトリ(G0)を孵化させた。
【0108】
(結果)
18羽のキメラニワトリを作出できた。オボムコイドノックアウトepiSC株は横斑プリマスロック種(雛で黒羽装)であり、移植用のレシピエント胚は、白色レグホン種(雛で白羽装)であるため、キメラ体であれば、オボムコイドノックアウトepiSCが表皮に分化し、黒の羽装が認められる。図13(A)および(B)は、それぞれepiSC株#5由来のキメラニワトリおよび#4由来のキメラニワトリの外観を示す。これらのキメラニワトリには、黒の羽装が認められた。表2に示すように、キメラニワトリの内訳は、雄が6羽、雌が7羽、未定が5羽であった。18羽のうち11羽が黒羽装キメラであった。表2の「羽装」は黒羽装の割合を示している。
【0109】
【表2】
【0110】
得られたキメラニワトリの雄と雌とを交配することで、オボムコイド遺伝子がノックアウトされたホモ接合のニワトリ(G1)を作出できる。当該ニワトリのオボムコイド遺伝子はノックアウトされているので、当該ニワトリが産む卵は、オボムコイドを含まない。
【0111】
実施例7:CRISPR/Cas9ベクターの構築
CRISPR/Cas9ベクターを構築するために、以下のように、pX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9ベクター(Addgene社製)に、TALENの場合と同様にピューロマイシン耐性遺伝子を挿入した(図14参照)。
【0112】
まず、「CRISPR direct」(http://crispr.dbcls.jp/)を用いて、オボムコイド遺伝子のノックアウトを誘導できる標的配列を検索した。検索の結果、エクソン1で4箇所およびエクソン2で2箇所の標的配列を決定した(配列番号8~13)。当該標的配列に基づいて、図15に示す塩基配列を有するオリゴDNAをそれぞれ合成した。図15では、「センス」がオボムコイド遺伝子のプラス鎖を標的とし、「アンチセンス」がマイナス鎖を標的とする。図15の下線を付した塩基配列は、ベクターに組み込むための付加配列を示す。
【0113】
合成したオリゴDNAをベクターに導入し、6種のオボムコイドノックアウト用CRISPR/Cas9ベクターを作製した(CRISPR/Cas9-Pur)。また、標的配列に基づいて、上記と同様にSSAアッセイ用のレポーターベクターも作製し、標的配列の切断活性を評価した。なお、エクソン1に関して、SSAアッセイ用のレポーターベクターに挿入した合成オリゴに含まれるセンスオリゴおよびアンチセンスオリゴの塩基配列を、それぞれ配列番号38および配列番号39に示す。また、エクソン3に関して、上記挿入した合成オリゴに含まれるセンスオリゴおよびアンチセンスオリゴの塩基配列を、それぞれ配列番号40および配列番号41に示す。
【0114】
(CRISPR/Cas9の切断活性の検討)
オボムコイドノックアウト用CRISPR/Cas9ベクターの標的配列の切断活性を測定するために、HEK293細胞にCRISPR/Cas9ベクターを導入後、SSAアッセイを行った。また、ニワトリ細胞内での切断活性を試験するために、epiSCを用いて同様のSSAアッセイを行った。
【0115】
(結果)
エクソン1を標的に作製した2種のベクター(エクソン1 #1とエクソン1 #2)は、図16に示すように、SSAアッセイで高い活性を示すCMV-ptTALEN L+Rベクターの約2倍高い切断活性を有することがわかった。#1のベクターは、図17に示すように、epiSC中でもTALENと同等の切断活性を有することがわかった。
【0116】
本実施例により、CRISPR/Cas9を用いても、ニワトリepiSCのオボムコイド遺伝子座を改変できることが示された。ひいては、CRISPR/Cas9を用いて、オボムコイド遺伝子がノックアウトされたニワトリを作出することができる。
【0117】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内およびそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0118】
本出願は、2015年8月27日に出願された日本国特許出願2015-168372号に基づく。本明細書中に、日本国特許出願2015-168372号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、鳥類の卵の製造、特には鶏卵の生産に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
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図12
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図17
【配列表】
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