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特開2024-107829包装済みナチュラルチーズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107829
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】包装済みナチュラルチーズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/00 20060101AFI20240802BHJP
   A23L 3/005 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
A23C19/00
A23L3/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011950
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 有哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光太郎
【テーマコード(参考)】
4B001
4B021
【Fターム(参考)】
4B001BC08
4B001BC10
4B001BC99
4B001EC01
4B021LA01
4B021LP06
4B021LT09
4B021LW05
4B021MC01
(57)【要約】
【課題】ナチュラルチーズの加熱による品質(風味や外観など)変化の改善、及び品質保存性の向上。
【解決手段】包装済みナチュラルチーズを水温調節手段、又は水温調節手段及び水の加圧手段を備えた水中短波帯加熱装置により加熱処理する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水温調節手段、又は水温調節手段及び水の加圧手段を備えた水中短波帯加熱装置により加熱処理する包装済みナチュラルチーズの製造方法。
【請求項2】
前記水中短波帯加熱時の水温をナチュラルチーズ中心部の最高到達温度と同等以上にすることを特徴とする請求項1に記載のナチュラルチーズの製造方法。
【請求項3】
前記水中短波加熱を加圧条件下で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のナチュラルチーズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中短波帯加熱により処理する包装済みナチュラルチーズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルチーズは、ゴーダチーズやチェダーチーズなどのハード・セミハードタイプのほか、クリームチーズやモザレラなどのフレッシュ(非熟成)タイプ、ブルーチーズやカマンベールチーズなどのカビタイプが存在する。いずれのタイプも製造時から日数が経過するにともない、細菌の生成物質や酵素によるタンパク質や脂質の分解などにより、風味や組織が変化(熟成)する。
【0003】
一方、加熱により細菌や酵素を不活性化することで、過度の熟成による品質変化を抑制(鈍化)できる(例えば、プロセスチーズ)。しかし、細菌や酵素を不活性化するためには、かなり高温にさらす必要があり、このとき加熱ムラを低減するために撹拌すれば強い剪断力が加わるので、加熱や剪断力由来の風味や組織変化が起こるため、ナチュラルチーズ本来の形状、味わいや食感は損なわれてしまうという問題があった。
【0004】
特許文献1では、フレッシュ感およびミルク感を向上させた、ナチュラルチーズを製造するため、チーズカードをジュール加熱またはマイクロウエーブ加熱を用いて内部加熱により混練することなく均一に加熱する方法が提案されているが、この方法は、チーズカードを対象とするものであり、包装されたナチュラルチーズ自体の不活性化については記載されていない。
【0005】
包装済み食品の加温法としては、温湯浸漬法、及び電子レンジ(2450MHzなどのマイクロ波)や水中短波帯など電磁波による加熱法が知られている。温湯浸漬法は、中心部が加温されるまで時間を要するため、加熱による影響(加熱風味やオイルオフなど)が大きく、食品側面から溶融するため外観が損なわれるだけでなく、中心部を目標温度に到達させるための時間を短くするためには、温湯温度を目標温度以上に設定する必要があるため、加熱ムラが発生し易い。また、電子レンジは、マイクロ波が包装材の端の尖った部分に集中することによる加熱ムラ(エッジ効果)が生じることが知られているが、水中短波帯装置では、用いる周波数(27MHz。周波数としては3~300MHzの範囲)が、マイクロ波よりも周波数が低いため電力半減深度が深く、試料に厚みがあっても中心部まで均一に加温することが可能であるという特徴を有する。
【0006】
電磁波による食品の加熱方法については、特許文献2に、容器1の底面に板状の電極3を固定し、この電極3の上に食品4を1つ置き、この食品4の上に導板8を重ね、これを繰り返して複数(図示例では4個)の食品4を間に導板8を挟み込んだ状態で上下に重ね合わせ、重ね合わせた食品の上端面に電極3を載せ、重しなどを載せて電極3(導板7)と食品を密着させた状態で、高周波電源から食品に交流を印加することにより、パウチ食品などを短時間で中心部まで均一に加熱殺菌できる水中短波帯加熱方法が開示されている。しかし、チーズの処理・条件は記載されていない。
【0007】
また、特許文献3にも、筒状電極間に形成される食品収納空間内の温水などの溶液を循環させるため、溶液の深さ方向における処理温度が均一になるよう、3MHz~300MHzの短波域の交流を用い、通常の厚さのプラスチックフィルム(容器)を透過して食品を均一に加熱でき、適度な加熱による殺菌と交流電界による殺菌効果により、食品の品質を維持したまま、短時間で効果的な殺菌ならびに酵素の失活が行われる方法が開示されている。しかし、この文献にもチーズの処理・条件は記載されていない。
【0008】
さらに、特許文献4にも、27MHz~300MHzの短波域から超短波域の交流を用いて短時間で食品の中心部まで均一に加熱できる食品の加熱処理方法が開示され、通常の厚さのプラスチックフィルム(容器)を透過して食品を均一に加熱でき、適度な加熱による殺菌と交流電界による殺菌効果により、食品の品質を維持したまま、短時間で効果的な殺菌ならびに酵素の失活が行われる。しかし、この文献にもチーズの処理・条件は記載されていない。
【0009】
さらに、特許文献5にも、密封包装された包装食品PFにマイクロ波を照射して100℃以上にして加熱殺菌を行うマイクロ波加熱装置が開示され、このマイクロ波加熱装置は、2450MHzのマイクロ波をマルチモードで包装食品PFに照射するマイクロ波照射部と、915MHzのマイクロ波を導波管53内にてシングルモードで包装食品PFに照射するマイクロ波照射部50と、を備えている。しかし、この文献にもチーズの処理・条件は記載されていないし、そもそも、100℃以上の加熱殺菌は、チーズの処理には適用できない。
【0010】
さらに、特許文献6にも、密封包装された食品を溶液とともに密封し、マイクロ波を照射して加熱殺菌を行うマイクロ波加熱方法が開示されている。しかし、この方法ではナチュラルチーズの均一加熱で必要となる溶液の循環及び高精度の温度制御をすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-163924号公報
【特許文献2】特開2020-171271号公報
【特許文献3】特開2016-111928号公報
【特許文献4】特開2015-023826号公報
【特許文献5】特開2019-179649号公報
【特許文献6】特開2001-130517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、熟成を抑制するために加熱すると、ナチュラルチーズ本来の風味や組織が損なわれ、ナチュラルチーズ本来の品質を保とうとすると、十分な加熱ができないという、相反する事象を解決し、加熱による品質変化を抑制しつつ、熟成による品質変化を鈍化可能な、新規なナチュラルチーズの殺菌方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ナチュラルチーズの熟成を抑制し、必要な殺菌を行うため包装済みチーズを加熱処理できれば、製造コストの削減や賞味期限の延長が望めるが、ナチュラルチーズの溶融温度は低く、殺菌温度まで加熱すると加熱表面が溶融したり食感が変化してしまうという技術常識があり、厚い外皮を有するカマンベールチーズのような一部のチーズを除き、従来、加熱による包装済みナチュラルチーズの殺菌は行われていなかった。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特許文献2に記載されるような循環水を利用した温度調節手段、場合によっては水の加圧手段を備えた水中短波帯加熱装置を用いることにより、如何なるナチュラルチーズでも、溶融や焦げ付きにより商品価値を落とすことなく、ナチュラルチーズ本来の形状や品質を保ったまま、加熱処理が適切に行えることを見出し本発明に至った。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するため、包装済みナチュラルチーズを水温調節手段、又は水温調節手段及び水の加圧手段を備えた水中短波帯加熱装置により処理するものである。本発明において、水中短波帯処理を採用した理由は、温湯浸漬法などの従来法よりも速い昇温速度、かつ中心部まで均一に加温可能かつ表面温度を制御可能だからである。
【0015】
本発明において、包装とはポリエチレンやポリプロピレン、ナイロン樹脂を使用したフィルム、ないし、それらのフィルムを少なくとも1種以上複合してラミネートしたフィルムを指す。ただし、アルミやアルミを蒸着したフィルムは除く。
【0016】
本発明には、以下の構成が含まれる。
〔1〕水温調節手段、又は水温調節手段及び水の加圧手段を備えた水中短波帯加熱装置により加熱処理する包装済みナチュラルチーズの製造方法。
〔2〕前記水中短波帯加熱時の水温をナチュラルチーズ中心部の最高到達温度と同等以上にすることを特徴とする〔1〕のナチュラルチーズの製造方法。
〔3〕前記水中短波加熱を加圧条件下で行うことを特徴とする〔1〕又は〔2〕のナチュラルチーズの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加熱による品質変化を抑制しつつ、熟成による品質変化を鈍化させて、ナチュラルチーズを殺菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】水中短波帯試験系の概略
図2】温湯、水中RF処理した際の処理時間とGGの品温推移
図3】GGの未処理、水中RF処理(加圧)、温湯処理した各サンプルの外観
図4】GGの未処理、水中RF処理(加圧)、温湯処理した各サンプルの香気成分の量を、未処理サンプルの各香気成分の量に対する面積比で表したグラフ
図5】GGの未処理、水中RF処理(加圧)、温湯処理した各サンプルの保存日数と熟度の推移
図6】温湯、水中RF処理した際の処理時間とカマンの品温推移
図7】カマンの未処理サンプルと水中RF処理サンプル、温湯処理サンプルの外観
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書においては、発明の態様に分けて説明をしているが、それぞれの態様に記載の事項、語句の定義、及び実施形態は、他の態様においても適用可能である。
【実施例0020】
<水中短波帯処理試験>
図1に試験系の概略を示す。水中短波帯装置として、常圧型、あるいは加圧型水中短波帯装置を用いた。短波帯(RF)電源1の周波数は27MHz、容量は5kWの電源を使用した。循環水7の温度調節は、熱媒5として恒温水か蒸気、冷媒として水道水(約10~30℃)を用いて、熱交換器3の間接プレートで熱交換した。平行に配置された電極板9の間(約40mm)にサンプル10を設置し、熱冷媒5により温調した循環水7で電極板容器8内部を満たし,RF電源1から周波数27MHzで電力を印加することで所定の温度までサンプル10を昇温した。加圧型では、耐圧容器2を用いて圧縮空気により0.20MPaまで加圧した。
【0021】
<温湯浸漬処理>
温湯浸漬処理は、水温が80℃未満の場合は常圧下で恒温水槽内にサンプルを浸漬した。水温が80℃以上の場合は、耐圧容器を用いて圧縮空気により加圧し、容器内の水にサンプルを浸漬した。
【0022】
<評価>
・微生物試験(一般生菌数、乳酸菌数)
ナチュラルチーズサンプルは、サンプル5gと滅菌生理食塩水45gをエースホモジナイザーで10,000rpmで5分間均質化して測定に供した。試料の希釈には、滅菌生理食塩水を用いた。
一般生菌数は、標準寒天培地を用いて、好気、あるいは嫌気環境下で35℃、48時間培養後のコロニー数(cfu/ml)をカウントした。
乳酸菌数は、BCP 加プレートカウント寒天培地を用いて、嫌気環境下で35℃、72時間培養後の黄色コロニー数(cfu/ml)をカウントした。
・外観
目視にてチーズの溶融(型崩れ)や焦げ、オイルオフの有無を確認した。いずれの現象も認められない場合、外観に問題はないとした。
・香気成分
香気成分は、以下の方法で測定した。
20mlバイアル瓶に5mm角程度に裁断したNCを2g秤量し、内部標準として5ppmの5-methyl-2-hexanoneを50μl滴下した後スクリューキャップを締め、ボルテックスで十分懸濁し、測定試料とした。このバイアル瓶を40℃で10分間平衡化し、20分間SPMEファイバー(50/30DVB/Carboxen/PDMS、SUPELCO製)にヘッドスペース香気を吸着させた後、250℃に設定した注入口で2分間成分を熱脱着し、スプリットレスでGC-MSに供した。キャリアガスにはヘリウムを用い、圧力を82.5kPaのコンスタントプレッシャーで測定した。GCカラムは40℃で3分間保持した後、10℃/minで240℃まで昇温し、10分間保持した。カラムにはDB-WAX(30m x 0.25mm i.d. x 0.25μm LTM、J&W製)を用いた。
比較にあたって、まず各サンプルの内部標準の面積に対する各香気成分の面積比(各香気成分の面積/内部標準の面積)を算出した(I)。ついで、各香気成分の未処理サンプルのIの値を1とした際の、各処理後サンプルのIの値の比を算出して比較した。
・保存試験
保存条件10℃雰囲気下、遮光条件で最大6ヶ月間保存した。
・熟度
熟度は以下の式によって計算した値を用いた。
熟度指標(%)=(可溶性窒素量/全窒素量)×100
全窒素量、可溶性窒素量については、以下の方法で定量した。
試料チーズ10gを秤量し、0.5Mクエン酸ナトリウム溶液40ml、温湯30mlを加え、均質化した。得られた溶液を200mlに定容したものを試料チーズ溶液とした。全窒素量については上記試料溶液をそのまま10mlを採取、可溶性窒素量については、上記試料溶液100mlを採取後、1.41N塩酸10ml、水15mlを加えpH4.4とし、カゼインを沈殿させた上澄みをろ過し、ろ液10mlを試料溶液とし、それぞれケルダール法を用いて窒素量を定量した。
・官能評価
官能評価は、専門パネラー2名で評価を行った。
【0023】
[試験例1]
ナチュラルチーズ(以下「NC」と表記する。)として、熟月1ヵ月以内のグリーンゴーダチーズ(以下「GG」と表記する。雪印メグミルク社製)(水分37.5%、脂肪26.5%、タンパク質30.1%、塩分1.3%)の凍結品、熟月6ヵ月以上のゴーダチーズ(以下「RG」と表記する。雪印メグミルク社製) (水分38.9%、脂肪27.5%、タンパク質27.8%、塩分1.7%)の冷蔵品を用いた。凍結したGGは試験前日に解凍し、高さ約30mm、長さ約70mm、奥行き約70mmの直方体(約150g)に切り出しプラスチック製フィルムに入れ、真空包装して試験に供した。
表1に水中RF処理時の処理時間と最高品温、外観を示す。NCの種類によらず処理時間が長くなるにつれて最高品温は増加し、外観もNCの溶融がみられた。
【0024】
【表1】
【0025】
[試験例2]
表2に、試験例1と同様な条件で真空包装したサンプルを用い、水中RF処理時の循環水温を変更した外観を示す。NCの溶融の有無は、循環水温よりも最高品温の影響が大きいことがわかった。循環水温が低くても殺菌効果はあるため、循環水温は目標とする品温と同等か、それよりも低く設定することが望ましい。
【0026】
【表2】
【0027】
表3に#9、#10、#11、#12の菌数測定結果を示す。その結果、循環水温が低い#9、#11は、菌数は減少するものの、30cfu/ml以下となる殺菌効果は得られなかった。よって、菌数が30cfu/ml以下となる殺菌効果を得るためには、循環水温度を目標とする殺菌効果が得られる品温と同等に調整することが望ましいことがわかった。
【0028】
【表3】
【0029】
[試験例3]
表4に、試験例1と同様な条件で真空包装したGGサンプルを用い、短波帯電力が異なるサンプルの運転条件とRF処理後のNC外観を示す。#13は短波帯電力2000W、#14は短波帯電力1500Wで処理し、その他の条件は同等とした。
#13では電極板のもっとも上に配置したサンプルに焦げが発生し、サンプル間の品温差は20℃以上であった。#14では焦げは発生せず、サンプル間の品温差は10℃程度であった。以上から、短波帯電力と処理時間が適切でない場合、サンプル間に温度差が生じやすい可能性があることがわかった。また、水中RF処理時の圧力について、常圧下で処理した場合、処理時間が長い(水温や品温が高い)ほどチーズの焦げや袋の膨張が認められた。一方、加圧(0.20MP)下で処理した場合、加熱によりチーズが変形したサンプルはあったが、袋の膨張は認められなかった。よって、品温80℃以上まで加熱する場合は、加圧下で処理することが望ましいことがわかった。
【0030】
【表4】
【0031】
[試験例4]
試験例1と同様な条件で真空包装したGGサンプルを用い、加圧型RF装置を用いて0.20MPa加圧し、短波帯電力は1500W、処理時間は中心部温度が80℃以上となる360秒、循環水温は目標とする品温と同等の80℃以上の条件で処理した。温湯処理は、加圧下(0.10MPa)で85℃の温湯にサンプルを2400秒浸漬した。
【0032】
図2に、以下の条件でGGサンプルの水中RF処理と温湯処理時の処理時間と中心部と側面の品温の推移を示す。

温湯 :加圧(0.10MPa)、水温:85℃
水中RF :加圧(0.20MPa)、循環水温80℃、短波帯電力1500W

水中RF処理したサンプルのほうが温湯処理したサンプルよりも昇温速度は速く、側面と中心部の温度差も小さかった。以上から、水中RF処理は温湯処理よりも昇温速度が速く、かつ温度ムラなく加熱できることが明らかとなった。
【0033】
表5に、GGの未処理サンプル、水中RF処理サンプル、温湯処理サンプルの菌数測定結果を示す。未処理サンプルの一般生菌数が 4.5E+07cfu/ml であったのに対して、RF処理したサンプルでは側面、中心部ともに30cfu/ml以下であり、乳酸菌数も同様の傾向であった。また、温湯処理したサンプルも30cfu/ml以下であった。
以上から、NCに対する水中RF処理での加熱による殺菌効果があることを確認した。
【0034】
【表5】
【0035】
図3に、GGの未処理サンプルと水中RF処理後サンプル、温湯処理後サンプルの外観を示す。水中RF処理したサンプルは未処理サンプルに近い外観を有していた。一方、温湯で処理したサンプルはチーズの溶融が認められ、特に側面部で型崩れが顕著であった。以上から、水中RF処理により、NCを溶融することなく殺菌可能であることが明らかとなった。
【0036】
図4に未処理サンプルと水中RF処理サンプル、温湯処理サンプルの香気成分測定結果を示す。乳の加熱により増加するケトン類(2-Heptanone、2-Nonanone、2-Undecanone)やメイラード反応経路で生じる生成物質(2-furanmethanol、Furfural)の量は、温湯処理サンプルよりも水中RF処理サンプルのほうが少なかった。以上から、NCの水中RF処理は、温湯処理よりも加熱による香気成分への影響が小さいことが明らかとなった。
【0037】
図5に未処理サンプルと水中RF処理サンプル、温湯処理サンプルの保存日数と熟度の推移を示す。水中RF処理により熟度の増加速度が鈍化し、GGの未処理サンプルは保存135日間の熟度増加が約20%であったのに対して、水中RF処理サンプルのそれは約9%であった。以上から、水中RFでの加熱殺菌により、NCの熟成を抑制できることが明らかとなった。
【0038】
表6に未処理サンプルと水中RF処理サンプル、温湯処理サンプルの保存日数と官能評価結果を示す。水中RF処理により、加熱による官能(食感や風味)への影響を抑えつつ、保存日数経過にともなう熟成による官能の変化速度を鈍化できた。
【0039】
【表6】
【0040】
[試験例5]
NCとして、製造2ヵ月以内の未殺菌カマンベールチーズ(以下「カマン」と表記する。雪印メグミルク社製) (水分52.5%、脂肪26.5%、タンパク質18.5%、塩分1.4%)を用いた。カマンは、深絞り成形したプラスチック製フィルムに入れ、真空包装して試験に供した。水中RF処理の条件は、0.20MPa加圧し短波帯電力1500W、循環水温度を90℃とした。温湯処理は、加圧下(0.20MPa)で95℃の温湯にサンプルを2000秒浸漬した。
図6に、水中RF処理時と温湯処理時の処理時間と、カマン側面と中心部の温度の推移を示す。温湯処理では中心部の品温が90℃に達するまで約2000秒かかったが、水中RF処理では約1000秒であった。また、水中RF処理では側面と中心部の温度がほぼ同様に推移しており、温湯処理と比較してカマン加熱時のサンプルの温度ムラを低減できた。
【0041】
図7に、未処理サンプルと水中RF処理後サンプル、温湯処理後サンプルの外観を示す。温湯処理と同様に、水中RF処理により外観の損傷なく加熱可能であった。
【0042】
表7に、水中RF処理後と温湯処理後サンプルの一般生菌数を示す。水中RF処理サンプルの菌数は0cfu/mlであり、温湯処理と同様に殺菌可能であった。以上から、カマンのようなカビタイプのチーズであっても、問題なく水中RF処理できることを確認した。
【0043】
【表7】
【符号の説明】
【0044】
1 短波帯高周波電源
2 圧力容器
3 熱交換器
4 熱媒ポンプ
5 熱媒
6 循環水ポンプ
7 循環水
8 電極板容器
9 電極板
10 サンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7