(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113569
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】触媒の製造方法、カソード、イオン交換膜-電極接合体及び固体電解質形電解装置
(51)【国際特許分類】
B01J 37/04 20060101AFI20240815BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240815BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20240815BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240815BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20240815BHJP
C25B 11/075 20210101ALI20240815BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240815BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240815BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240815BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240815BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240815BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
B01J37/04 102
B01J37/08 ZAB
B01J27/24 M
C25B11/054
C25B11/065
C25B11/075
C25B11/032
C25B1/23
C25B11/052
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B13/08 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018650
(22)【出願日】2023-02-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/次世代FT反応と液体合成燃料一貫製造プロセスに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼古 寛之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 梨乃
(72)【発明者】
【氏名】ジア チンシン
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和秀
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08B
4G169BA21C
4G169BA27C
4G169BA36A
4G169BB11A
4G169BB11B
4G169BC16A
4G169BC18A
4G169BC31A
4G169BC35A
4G169BC37A
4G169BC59A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD06A
4G169BE13C
4G169BE14C
4G169BE15C
4G169BE19C
4G169BE20C
4G169CA08
4G169CA20
4G169CB02
4G169CB81
4G169CC21
4G169CD10
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EB18Y
4G169FA02
4G169FB05
4G169FB27
4G169FB30
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC08
4K011AA04
4K011AA16
4K011AA50
4K011BA08
4K011DA11
4K021AB25
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB19
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】メジアン径が小さく、電解活性が高い触媒を製造することができる触媒の製造方法、該触媒を含むカソード、イオン交換膜-電極接合体及び固体電解質形電解装置を提供する。
【解決手段】銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、インジウムイオン、水銀イオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含む化合物;担体;窒素源;並びに、前記窒素源と異なる窒素含有化合物であって、尿素及び尿素誘導体からなる群より選択される1つ以上の尿素系窒素含有化合物を混合する混合工程と、前記混合工程で得られる混合物を、焼成する焼成工程とを含む触媒の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、インジウムイオン、水銀イオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含む化合物;担体;窒素源;並びに、前記窒素源と異なる窒素含有化合物であって、尿素及び尿素誘導体からなる群より選択される1つ以上の尿素系窒素含有化合物を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られる混合物を、焼成する焼成工程と
を含む触媒の製造方法。
【請求項2】
前記担体の質量に対する前記尿素系窒素含有化合物の質量の比が、0.05以上2.0以下である請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記担体の質量に対する前記尿素系窒素含有化合物の質量の比が、0.15以上1.5以下である請求項2に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法で製造された触媒を含む触媒層と、ガス拡散層とを有するカソード。
【請求項5】
請求項4に記載のカソードと、固体電解質と、アノードとを有するイオン交換膜-電極接合体。
【請求項6】
前記固体電解質が、陰イオン交換膜である請求項5に記載のイオン交換膜-電極接合体。
【請求項7】
請求項4に記載のカソードと、
前記カソードと一対の電極を構成するアノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、
前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加する電圧印加部と
を有する固体電解質形電解装置。
【請求項8】
前記固体電解質が、陰イオン交換膜である請求項7に記載の固体電解質形電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、触媒の製造方法、カソード、イオン交換膜-電極接合体及び固体電解質形電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は化石燃料などからエネルギーを取り出した際に排出される。大気中の二酸化炭素濃度の上昇は地球温暖化の原因の一つと言われる。二酸化炭素は極めて安定な物質であるため、従来は利用する道がほとんどなかった。しかしながら地球温暖化が深刻になりつつあるという時代の要請もあり、二酸化炭素を他の物質に変換し再び資源化するための、新たな技術が求められている。例えば、気相の二酸化炭素を直接還元することができる二酸化炭素還元型装置の開発が進められている。
【0003】
二酸化炭素還元装置の中でも、高分子電解質を利用する高分子電解質形電解装置は、気相の二酸化炭素を直接還元することができる点、薄膜状の高分子電解質を用いることでイオンの移動抵抗を十分低くできることから、着目されている。二酸化炭素還元用のカソード(陰極)は一般に、触媒微粒子、導電性担体、及びイオン交換樹脂の混合物を含有しており、これらの成分について種々研究がなされている。
【0004】
触媒として、金や銀といった金属の微粒子の他、金属が窒素に配位し担持された窒素含有炭素系材料からなる触媒が比較的高い活性を示すことが知られている。
このような窒素含有炭素系材料は、一般的に炭素担体、窒素源前駆体、金属源前駆体の混合物を高温焼成し、前駆体の熱分解を伴って合成される。
例えば、非特許文献1には、塩化ニッケル、ペンタエチレンヘキサミン、酸化グラフェンをエタノール中に分散し溶媒を蒸発後900℃で45秒焼成することで合成された窒素含有炭素系材料をCO2電解還元に用いると高選択的にCOを生成することが開示されている。
【0005】
炭素材料粒子の凝集抑制に関連する技術として、例えば、特許文献1では、合成プロセスにおいて酸化マグネシウム鋳型粒子を添加することで、炭素粒子の凝集体生成を抑制し、繊維状に結合した二次粒子の合成を報告している。また、特許文献2では、燃料電池電極の積層時にアゾ系発泡剤、炭酸アンモニア、重炭酸ソーダのいずれかひとつを添加して熱処理し、発泡作用によって電極内部に多孔形成することを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-166942号公報
【特許文献2】特開昭63-16560号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Panpan Su, Kazuyuki Iwase, Shuji Nakanishi, Kazuhito Hashimoto, and Kazuhide Kamiya,small 2016, 12, 44, 6083-6089
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に開示されている合成プロセスは比較的簡便で大量合成可能という長所がある一方、高温条件下で炭素担体の凝集、すなわち二次粒子の生成と成長によるメジアン径の増加が進行しやすいという課題があった。炭素担体が凝集した場合、触媒の塗布時におけるノズル閉塞に挙げられるようなプロセス上の問題を引き起こしやすい。また、利用可能な活性点の数の低下、反応物または生成物の供給が阻害されることなどにより、還元効率の低下も生じた。
【0009】
特許文献1及び2に開示される発明では、そのような炭素担体の凝集を抑制する手法が紹介されているものの、特許文献1及び2に開示される技術を窒素含有炭素系材料の合成に応用する場合、特許文献1の技術では酸化マグネシウムの粒子径よりも小さな粒径を持つ炭素粒子が得られない点、特許文献2の技術では用いられるアゾ系発泡剤及び重炭酸ソーダは分解生成物の残留物が触媒反応を妨害する点や、炭酸アンモニアではアンモニウムイオンが金属-窒素錯体の形成を阻害し窒素含有炭素触媒の生成に悪影響を与える点などが問題となっていた。
【0010】
本開示の技術は以上の事情に鑑みてなされたものであり、本開示技術の課題は、メジアン径が小さく、電解活性が高い触媒を製造することができる触媒の製造方法、該触媒を含むカソード、イオン交換膜-電極接合体及び固体電解質形電解装置に関する技術を提供することであり、該課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<1> 銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、インジウムイオン、水銀イオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含む化合物;担体;窒素源;並びに、前記窒素源と異なる窒素含有化合物であって、尿素及び尿素誘導体からなる群より選択される1つ以上の尿素系窒素含有化合物を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られる混合物を、焼成する焼成工程と
を含む触媒の製造方法。
【0012】
<2> 前記担体の質量に対する前記尿素系窒素含有化合物の質量の比が、0.05以上2.0以下である<1>に記載の触媒の製造方法。
<3> 前記担体の質量に対する前記尿素系窒素含有化合物の質量の比が、0.15以上1.5以下である<2>に記載の触媒の製造方法。
【0013】
<4> <1>~<3>のいずれか1つに記載の触媒の製造方法で製造された触媒を含む触媒層と、ガス拡散層とを有するカソード。
【0014】
<5> <4>に記載のカソードと、固体電解質と、アノードとを有するイオン交換膜-電極接合体。
<6> 前記固体電解質が、陰イオン交換膜である<5>に記載のイオン交換膜-電極接合体。
【0015】
<7> <4>に記載のカソードと、
前記カソードと一対の電極を構成するアノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、
前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加する電圧印加部と
を有する固体電解質形電解装置。
<8> 前記固体電解質が、陰イオン交換膜である<7>に記載の固体電解質形電解装置。
【発明の効果】
【0016】
本開示の技術によれば、メジアン径が小さく、電解活性が高い触媒を製造することができる触媒の製造方法、該触媒を含むカソード、イオン交換膜-電極接合体及び固体電解質形電解装置に関する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態で好適に用いられるイオン交換膜-電極接合体の模式図である。
【
図2】本実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に記載された数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本開示の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0019】
<触媒の製造方法>
本開示の実施形態に係る触媒の製造方法は、銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、インジウムイオン、水銀イオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含む化合物;担体;窒素源;並びに、前記窒素源と異なる窒素含有化合物であって、尿素及び尿素誘導体からなる群より選択される1つ以上の尿素系窒素含有化合物を混合する混合工程と、混合工程で得られる混合物を、焼成する焼成工程とを含む。
本開示の実施形態に係る触媒の製造方法は、上記の混合工程及び焼成工程の他に、更に、洗浄工程、粉砕工程、被覆工程等を有していてもよい。
【0020】
本開示の実施形態に係る触媒の製造方法で製造される触媒は、上記金属イオンが窒素源によって担体上に担持された形態である。本開示の触媒において、二酸化炭素の還元反応の触媒作用を示す成分は、当該金属イオンであるが、本開示の技術においては、窒素源由来の窒素原子に配位された金属イオンと担体とを有する構成を「触媒」と称する。また、触媒作用を示す成分である金属イオンを、「触媒源」と称する。金属イオンは、例えば、窒素源と共に錯体を形成して触媒作用を示す。
【0021】
本開示の触媒の製造方法で得られる触媒は、上記構成とすることで、凝集体が生成し難く、メジアン径を小さくすることができ、電解活性の高い触媒を製造することができる。これは次の理由によるものと推察される。
本開示の触媒の製造方法における混合工程では、触媒源となる金属イオンを含む化合物と、窒素源と、担体とを混合し、触媒前駆体を得る際に、更に、窒素源と異なる窒素含有化合物であって、尿素及び尿素誘導体からなる群より選択される1つ以上の尿素系窒素含有化合物を混合する。当該尿素系窒素含有化合物は、焼成工程での加熱分解により発泡し、触媒粒子の凝集が軽減されて二次粒子径が低下し、二酸化炭素還元反応の効率が向上すると考えられる。
【0022】
また、尿素系窒素含有化合物は金属イオンに作用し難いことから、金属イオンと窒素源による錯体形成を阻害し難く、金属イオンによる触媒作用を損ね難いと考えられる。更に、触媒前駆体の焼成は一般に800℃以上の高温にて行われるところ、尿素系窒素含有化合物は、100℃以上の加熱によって二酸化炭素やアンモニアを放出して発泡しながらメラミンなどの縮合体を形成し、さらに600℃以上ではそのメラミンなどの縮合体も分解しながら蒸発する。そのため、触媒中の残留物を少なくすることができ、金属イオンによる触媒作用の低下を抑制することできると考えられる。
以上の結果、本開示の触媒の製造方法で得られる触媒は、凝集体が生成し難く、メジアン径を小さくすることができ、電解活性の高い触媒を製造することができると考えられる。
以下、本実施形態に係る触媒の製造方法における混合工程及び焼成工程について詳述し、その後、カソード、イオン交換膜-電極接合体及び電解装置を順次説明する。
まず、混合工程について説明する。
【0023】
〔混合工程〕
本実施形態に係る混合工程では、金属イオンを含む化合物と、担体と、窒素源と、尿素系窒素含有化合物とを混合する。
混合工程では、混合を効率よく行うために、更に溶媒を配合してもよい。
混合工程で用いる金属イオンを含む化合物、担体、窒素源、及び尿素系窒素含有化合物の詳細は後述する。なお、金属イオンを含む化合物を「金属化合物」と称することがある。
【0024】
[金属イオンを含む化合物(金属化合物)]
本実施形態に係る混合工程で配合される金属化合物は、銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、インジウムイオン、水銀イオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含む。
以上の中でも、二酸化炭素還元反応の反応効率の観点から、金属イオンは、銅イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、モリブデンイオン、及びアルミニウムイオンが好ましく、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオン及びマンガンイオンがより好ましく、ニッケルイオン、コバルトイオン、鉄イオン及び銅イオンが更に好ましく、ニッケルイオン、コバルトイオン及び鉄イオンがより更に好ましい。
本実施形態に係る金属化合物は、金属イオンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0025】
金属化合物は、上記金属イオンを含む塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられ、水和物であってもよい。
具体的には、例えば、塩化ニッケル(II)六水和物、塩化コバルト(II)六水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、酢酸マンガン(II)四水和物、ヨウ化銅(I)、硫酸鉄(II)七水和物等が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係る混合工程では、金属化合物を1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態に係る混合工程での金属化合物の配合量は、金属化合物の金属種により異なるが、担体100質量部に対して、0.1~200質量部であることが好ましく、0.5~100質量部であることがより好ましい。
【0027】
[担体]
本実施形態に係る担体は、特に制限されないが、導電性を付与する観点から、炭素を含むことが好ましい。
炭素は、通常、導電性を有することから、炭素を含む担体は導電性担体である。
炭素を含む担体は、二酸化炭素を還元するための装置に備えられる電極におけるガス拡散層として用いることができる導電性材料であれば、制限はなく、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック等)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン等の炭素が挙げられ、中でも、活性点密度向上の観点から、カーボンブラックが好ましい。
【0028】
カーボンブラックは、活性点密度を向上し、電流密度を向上する観点から、一次粒子径が、一次粒子径が5~200nmであることが好ましく、10~100nmであることがより好ましく、10~50nmであることが更に好ましい。カーボンブラックの一次粒子径は、透過電子顕微鏡により測定することができる。一次粒子径は、顕微鏡によって現出した粒子の最も長い方向における長さを測定し長径として、得られた長径の平均値を算出することで測定することが可能である。
同様の観点から、カーボンブラックの二次粒子径(凝集体の粒子径)は小さいことが好ましく、官能基量の多いカーボンブラックであることが好ましい。
カーボンブラックは市販品でもよく、例えば、Vulcan(登録商標) XC-72(キャボット製)、BLACKPEARL2000(キャボット社製)等が挙げられる。
担体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本実施形態に係る混合工程での担体の配合量は、活性点の数及び密度を十分量確保する観点から、担体、金属化合物、窒素源、及び窒素含有化合物の合計配合量(触媒前駆体全量)中、20~95質量%となる量であることが好ましく、30~90質量%となる量であることがより好ましい。
また、担体を溶液中に分散させる観点から、本実施形態に係る混合工程での担体の配合量は、溶媒100質量部に対して、0.1~100質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。
【0030】
[窒素源]
窒素源は特に制限されず、例えば、ペンタエチレンヘキサミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンペンタミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン、ジエチルアミン等が挙げられ、電解活性向上の観点から、ペンタエチレンヘキサミン、テトラエチレンペンタミン、及びトリエチレンペンタミンが好ましく、ペンタエチレンヘキサミン及びテトラエチレンペンタミンがより好ましい。
窒素源は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本実施形態に係る混合工程での窒素源の配合量は、担体上に窒素配位子を十分量形成させる観点から、担体100質量部に対して、0.01質量部~20質量部であることが好ましく、0.1質量部~10質量部であることがより好ましい。
【0032】
[尿素系窒素含有化合物]
尿素系窒素含有化合物は、窒素源と異なる窒素含有化合物であって、尿素及び尿素誘導体からなる群より選択される1つ以上である。
本実施形態に係る混合工程において上記尿素系窒素含有化合物を用いることで、焼成工程における加熱で発泡し、触媒粒子の凝集を抑制することができ、メジアン径の小さな触媒を製造することができる。
【0033】
尿素系窒素含有化合物は、具体的には、尿素、ビウレット、トリウレット等が挙げられる。
尿素系窒素含有化合物は、発泡性や、触媒中の残留物の生成を抑制する観点から、環構造を含まない構造、すなわち、非環式尿素系窒素含有化合物であることが好ましい。
尿素系窒素含有化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
尿素系窒素含有化合物は、以上の中でも、発泡性や、触媒中の残留物の生成を抑制する観点から、尿素及びビウレットが好ましく、尿素がより好ましい。
【0034】
本実施形態に係る混合工程での尿素系窒素含有化合物は、発泡性や、触媒中の残留物の生成を抑制する観点から、担体の質量(c)に対する尿素系窒素含有化合物の質量(n)の比(n/c)が、0.05以上2.0以下となる範囲で配合されることが好ましい。比(n/c)は、0.15以上1.5以下であることがより好ましく、0.3以上1.2以下であることが更に好ましく、0.4以上1.1以下であることがより更に好ましい。比(n/c)がかかる範囲内である場合、活性点減少や電気抵抗増大の影響を受けることなく、発泡作用を十分に得ることができる。
【0035】
[溶媒]
溶媒は、尿素系窒素含有化合物を溶解し、金属化合物、担体及び窒素源と反応しない溶媒であることが好ましく、具体的には、アルコール、水、ヘキサン、トルエン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
溶媒は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、エタノールを含むアルコールを用いることが好ましい。
【0036】
本実施形態に係る混合工程では、金属イオンを含む化合物、担体、窒素源、及び尿素系窒素含有化合物を混合して、混合物として、触媒前駆体を製造する。
混合工程で溶媒を用いた場合は、脱気のために、触媒前駆体の溶媒分散液に超音波照射を行ってもよい。
【0037】
〔焼成工程〕
本実施形態に係る焼成工程では、混合工程で得られる混合物(触媒前駆体)を、焼成する。
焼成工程における焼成の熱で、混合物中の尿素系窒素含有化合物が発泡し、触媒の凝集が抑制される。
混合工程で溶媒を用いた場合は、焼成工程は2段階に分けて行うことができる。すなわち、触媒前駆体の溶媒分散液における溶媒を加熱により蒸発させ、触媒前駆体を乾燥し、更に触媒前駆体を焼成炉に入れて焼成する。
【0038】
混合物の焼成に当たっては、混合物を石英管内に入れ、石英管内をアルゴンガス等の不活性ガスで置換して石英管を密閉して、焼成することが好ましい。
焼成温度は、500~1400℃であることが好ましく、550~1200℃であることがより好ましく、600~1000℃であることが更に好ましい。また、焼成時間は、5秒~30分であることが好ましく、10秒~20分であることがより好ましく、20秒~10分であることが更に好ましい。
【0039】
〔洗浄工程〕
洗浄工程は、焼成工程で得られた触媒を、水、無機酸等により洗浄する工程である。
水は、イオン交換水、純水等が用いられる。無機酸は、硫酸を用いることが好ましい。無機酸は1~3mol/L(以下、mol/LをMと記載することがある)であることが好ましく、また、60~90℃に加熱した無機酸を用いてもよい。
洗浄工程では、触媒を水で洗浄し、次いで無機酸で洗浄し、最後に再び水で洗浄することが好ましい。
【0040】
〔粉砕工程〕
粉砕工程は、焼成工程で得られた触媒を粉砕する工程である。
本開示の触媒の製造方法では、尿素系窒素含有化合物を用いて触媒前駆体を製造することで、触媒の凝集を抑制し、メジアン径を小さくすることができるが、粉砕工程を経ることで、触媒の活性点密度を向上することができる。
粉砕工程は、洗浄工程の後に行ってもよいが、洗浄工程の前に行うことが好ましい。
焼成物の粉砕は、例えば、ジルコニア製又はアルミナ製のボールを用いて行うことができる。ボールの直径は0.05~5mmであることが好ましく、また、粉砕条件は、400~1100rpm、2分~20時間とすることが好ましい。
【0041】
〔被覆工程〕
被覆工程は、焼成工程を経て製造された触媒をアイオノマーで被覆する工程である。
触媒をアイオノマーで被覆することによって、被覆された触媒と後述する固体電解質とのイオン電導チャネルが形成されやすくなり、反応によって生成したイオン移動が容易となり、電解効率を向上させることが可能となる。
アイオノマーの詳細は後述する。
【0042】
本開示の触媒の製造方法で製造された触媒のメジアン径(体積基準)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置により確認することができる。
また、本開示の触媒の製造方法で製造された触媒に含まれる金属イオンは、単原子状態で存在し、金属イオンが窒素原子に配位されたことにより、担体に担持された形態であることが好ましい。
なお、本開示において、活性点密度とは、触媒中の窒素源の窒素原子に配位された金属イオンの含有量(質量%)を意味する。
【0043】
窒素原子に配位された金属イオンの含有量は、以下のようにして求めることができる。
X線吸収微細構造解析(XAFS)により、触媒中の窒素原子に結合した(配位された)金属イオン及び金属微粒子の含有量の割合を測定することができる。
また、窒素原子に配位された金属イオンと金属微粒子を含む触媒中の全金属含有量を、蛍光X線分析(XRF)により測定することができる。
XAFSの測定結果と、XRFの測定結果から、窒素原子に配位された金属イオンの含有量を算出することができる。
例えば、触媒源としてNiイオンを用いる場合、XRFにより測定されるNi金属とNiイオンを含む全Ni含有量に、XAFSで求められる全Ni中のNiイオンの割合を乗じることで、窒素原子に配位されたNiイオンの含有量を算出することができる。
なお、金属微粒子は、活性点とはならず、金属が凝集して存在する。
【0044】
<カソード>
本実施形態に係るカソード(陰極)は、本開示の触媒の製造方法で製造された触媒を含む触媒層と、ガス拡散層とを有する。
本実施形態に係るは、本開示の触媒の製造方法で製造された触媒を含む触媒層を備えることで、電解活性が高く、CO2の還元反応速度が高い。
【0045】
〔触媒層〕
触媒層は、本実施形態に係る触媒の製造方法で製造された触媒を少なくとも含み、更に、アイオノマーを含んでいてもよい。
アイオノマーは、触媒層中において結着樹脂として機能し、本実施形態に係る触媒を分散し、固定化し得るマトリックス樹脂(連続相)であると共に、電解によって生じたイオンを伝達させ、CO2電解効率を向上させる機能も有する。また、アイオノマーは、電気分解によって生じたイオンの伝達効率を向上する観点から、導電性であることが好ましく、高分子電解質であることがより好ましい。高分子電解質はイオン交換樹脂であることが更に好ましい。イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂であってもよいし、陰イオン交換樹脂であってもよいが、陰イオン交換樹脂であることが好ましい。
特に陰イオン交換樹脂を用いた場合には、陰イオン交換樹脂自体が二酸化炭素吸着能を有することとなり、イオン交換樹脂のイオン伝達のし易さと併せて二酸化炭素の電解効率を大きく向上させることが可能となる。
【0046】
陽イオン交換樹脂としては、例えば、スルホン基を有するフッ素樹脂、スルホン基を有するスチレン-ジビニルベンゼン共重合が挙げられる。また、市販品も用いることができ、例えば、Nafion(Chemours社製)、Aquivion(Solvay Specialty Polymers社製)、DIAION(三菱ケミカル社製)、Fumasep(FUMATECH社製)等が挙げられる。
陰イオン交換樹脂としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、及び3級アミノ基からなる群より選択される1つ以上のイオン交換基を有する樹脂が挙げられる。市販品も用いることができ、例えば、Sustainion(Dioxide Materials社製)、Fumasep(FUMATECH社製)、PENTION(Xergy社製)、DURION(Xergy社製)、NEOSEPTA(アストム社製)、TOYOPEARL(東ソー社製)等が挙げられる。
【0047】
陰イオン交換樹脂は、導電性を向上する観点から、塩基点密度が、乾燥状態で、2.0~5.0mmol/cm3であることが好ましく、2.5mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることがより好ましく、2.9mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることが更に好ましい。
陰イオン交換樹脂の塩基点密度は、陰イオン交換樹脂について1H NMR測定を行った際のシグナルの積分値から得ることができる。
また、陰イオン交換樹脂について、乾燥状態とは、陰イオン交換樹脂が自由水を含有していない状態であることを意味し、例えば、真空中において加熱することにより陰イオン交換樹脂を乾燥状態にすることができる。
【0048】
本実施形態に係るカソード(陰極)を、後述するイオン交換膜-電極接合体及び固体電解質形電解装置で用いる場合は、導電性向上の観点から、アイオノマーは、固体電解質(イオン交換膜)と同じ樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
触媒層中の本実施形態に係る触媒の含有量は、電解活性とCO2の還元反応速度をより向上する観点から、50~99質量%であることが好ましく、75~97質量%であることがより好ましく、90~95質量%であることが更に好ましい。
【0050】
〔ガス拡散層〕
ガス拡散層は、例えば、カーボン紙若しくは不織布、又は金属メッシュを含む。例えば、グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、チタン、SUS鋼等が挙られる。
【0051】
<イオン交換膜-電極接合体>
本実施形態に係るイオン交換膜-電極接合体は、既述の本実施形態に係るカソードと、固体電解質と、アノードとを有する。
本実施形態に係るイオン交換膜-電極接合体は、本開示の触媒の製造方法で製造された触媒を含むカソードを備えているため、電解活性が高く、CO
2の還元反応速度が高い。
図1は、本実施形態で好適に用いられるイオン交換膜-電極接合体の模式図である。
図1には、ガス拡散層10と、触媒層20と、固体電解質30と、アノード40とを有するイオン交換膜-電極接合体50が示されている。触媒層20は、複数の本実施形態に係る触媒24と、アイオノマー22を含む。ガス拡散層10と触媒層20との組み合わせにより、本実施形態に係るカソード(陰極)が構成される。
図1に示されるように、ガス拡散層10を通じて二酸化炭素(CO
2)が触媒層20に供給され、還元反応により一酸化炭素(CO)が生成する。
以下、
図1において符号を省略して説明する。
【0052】
〔固体電解質〕
本実施形態に係るイオン交換膜-電極接合体は、固体電解質を有する。
固体電解質は、高分子膜を用いることができる。高分子は、種々のアイオノマーを用いることができ、陽イオン交換樹脂であってもよいし、陰イオン交換樹脂であってもよいが、陰イオン交換樹脂であることが好ましい。すなわち、固体電解質は、陰イオン交換膜であることが好ましい。また、上述した触媒層に用いられるアイオノマーと同一の陰イオン交換樹脂を用いることがより好ましい。
固体電解質は、陽イオン交換膜、又は陰イオン交換膜として市販されている製品を用いてもよい。
また、固体電解質に陰イオン交換膜を用いた場合には、塩基点密度が、乾燥状態で、0.5~5.0mmol/cm3であることが好ましく、2.5mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることがより好ましく、2.9mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3未満であることが更に好ましい。
【0053】
陽イオン交換膜としては、例えば、フッ素樹脂母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、Nafion117、Nafion115、Nafion212、Nafion350(Chemours社製)、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、ネオセプタCSE(アストム社製)等を用いることができる。
陰イオン交換膜としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、及び3級アミノ基からなる群より選択される1つ以上のイオン交換基を有する陰イオン交換膜が挙げられる。具体的には、例えば、ネオセプタ(登録商標)ASE、AHA、ACS、AFX(アストム社製)、セレミオン(登録商標) AMVN、DSVN、AAV、ASVN、AHO(旭硝子社製)等が挙げられる。
【0054】
二酸化炭素の還元反応は、本実施形態に係るカソード(陰極)での還元反応は、固体電解質の種類に応じて異なる。固体電解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(1)と反応式(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(3)と反応式(4)の還元反応が起きる。
【0055】
CO2+2H++2e-→CO+H2O (1)
2H++2e-→H2 (2)
H2O+CO2+2e-→CO+2OH- (3)
2H2O+2e-→H2+2OH- (4)
【0056】
〔アノード〕
アノードでの酸化反応は、固体電解質の種類に応じて異なる。固体電解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(5)の酸化反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記反応式(6)の酸化反応が起きる。
【0057】
2H2O→O2+4H++4e- (5)
4OH-→O2+2H2O+4e- (6)
【0058】
アノードは、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。
ガス拡散層は、例えば、金属メッシュを含む。アノードの電極材料には、例えば、Ir、IrO2、Ru、RuO2、Co、CoOx、Cu、CuOx、Fe、FeOx、FeOOH、FeMn、Ni、NiOx、NiOOH、NiCo、NiCe、NiC、NiFe、NiCeCoCe、NiLa、NiMoFe、NiSn、NiZn、SUS、Au、Ptを挙げることができる。
【0059】
<固体電解質形電解装置>
本実施形態に係る固体電解質形電解装置は、既述の本実施形態に係るカソードと、カソードと一対の電極を構成するアノードと、カソードとアノードとの間に接触状態にて介在する固体電解質と、カソードとアノードとの間に電圧を印加する電圧印加部とを有する。
本実施形態に係る固体電解質形電解装置は、本開示の触媒の製造方法で製造された触媒を含むカソード(陰極)を備えているため、電解活性が高く、CO2の還元反応速度が高い。
【0060】
図2は、本実施形態で好適に用いられる固体電解質形電解装置の模式図である。
図2には、本実施形態に係るカソード(陰極)200と、カソード200と一対の電極を構成するアノード(陽極)400と、カソード200とアノード400との間に接触状態にて介在する固体電解質300と、カソード200とアノード400との間に電圧を印加する電圧印加部700とを有する固体電解質形電解装置800が示されている。
図2に示す固体電解質形電解装置800は、更に、カソード集電板100と、アノード集電板500と、電解液600を有する。
既述の本実施形態に係るカソードが、カソード200として用いられる。また、固体電解質300は、
図1における固体電解質30と同じであり、固体電解質300は陰イオン交換膜であることが好ましい。アノード400は、
図1におけるアノード40と同じである。
カソード200と、固体電解質300と、アノード400の詳細は既述のとおりである。
以下、カソード200、固体電解質300及びアノード400以外の各要素について、符号を省略して説明する。
【0061】
〔カソード集電板〕
カソード集電板(陰極集電板)としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から銅が好ましい。カソード集電板の形状は、材質が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡メタル等が挙げられる。
【0062】
カソード集電板には、カソードに二酸化炭素を含む原料ガスを供給するためのガス供給孔及び一酸化炭素を含む生成ガスを回収するためのガス回収孔が設けられていてもよい。ガス供給孔及びガス回収孔を有することにより、カソードに均一且つ効率よく原料ガスを送り込み生成ガス(未反応原料ガスを含む)を排出することができる。ガス供給孔及びガス回収孔は、各々独立に1つのみ又は2つ以上備えられていてもよい。また、ガス供給孔及びガス回収孔の形状、場所、大きさ等は限定されず、適宜設定される。加えて、カソード集電板が通気性のあるものである場合には、ガス供給孔及びガス回収孔は必ずしも必要無い。
なお、カソードが電子を伝達する役割を備えている場合には、カソード集電板は必ずしも必要でない。
【0063】
〔アノード集電板〕
アノード集電板(陽極集電板)は、アノードからの電子を受け取るべく、電気伝導性を有すると共に、アノードを支持する剛性を備えていることが好ましい。かかる観点から、アノード集電板は、例えば、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料を好適に用いることができる。
【0064】
アノード集電板には、アノードに原料ガス(H2O等)を送り込むためのガス流路が設けられていてもよい。アノード集電板がガス流路を有することにより、アノードに均一且つ効率よく原料ガスを送り込むことができる。なお、ガス流路の数、形状、場所、大きさ等は限定されず、適宜設定される。
【0065】
〔電圧印加部〕
電圧印加部は、カソード集電板とアノード集電板に電圧を印加することを通じ、カソードとアノードとの間に電圧を印加する役割を担う。ここで、両集電板は導電体であるため、カソードに電子を供給する一方、アノードからの電子を受け取ることになる。また、電圧印加部には、適切な電圧を印加するために、図示しない制御部が電気的に接続されていてもよい。
【0066】
〔電解液〕
電解液は、pH5以上の水溶液が好ましい。
例えば、炭酸塩水溶液、炭酸水素塩水溶液(例えば、KHCO3水溶液)、硫酸塩水溶液、ホウ酸塩水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【0067】
(反応ガス供給部)
本実施形態に係る固体電解質形電解装置には、図示しない反応ガス供給部が、固体電解質形電解装置の外側に備えられていてもよい。すなわち、カソードが備える触媒層に反応ガスであるCO2が供給されればよく、図示しない配管などを介して反応ガス供給部からガス供給孔に反応ガスが供給されてもよいし、カソード集電板の、カソードとの接触面とは反対側の面に反応ガスが吹付けられるように設けられていてもよい。また、この反応ガスは、工場から排出される工場排出ガスを用いることが、環境面から好適である。
【0068】
〔CO生成方法〕
次に、本実施形態に係る固体電解質形電解装置を用いたCO生成方法について説明する。
まず、図示しない反応ガス供給部によって、原料としての反応ガスであるCO2が気相状態にて固体電解質形電解装置へ供給される。このとき、CO2は、例えば、カソード集電板に設けられたガス供給孔を介してカソードに供給される。
次に、カソードに供給されたCO2は、カソードが有する触媒層に接触することにより、固体電解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、既述の反応式(1)及び反応式(2)の還元反応が起き、固体電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、既述の反応式(3)及び反応式(4)の還元反応が起きることで、COとH2を少なくとも含んだ合成ガスが生成される。
次に、生成されたCOとH2を含んだ合成ガスは、例えば、カソード集電板に設けられたガス回収孔を介して図示しないガス回収装置に送られ、所定のガス毎に回収されることとなる。
【実施例0069】
次に実施例により本開示の技術を具体的に説明するが、本開示の技術はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0070】
<触媒の製造>
〔実施例3〕
(混合工程)
ビーカー内において、15mLのエタノール(溶媒)に、ペンタエチレンヘキサミン(窒素源)1.1mmolと、塩化ニッケル(II)六水和物(金属イオンを含む化合物)0.7mmolとを混合し、ニッケル-ペンタエチレンヘキサミン錯体を形成させた。その後、担体として、一次粒子径が30nmのカーボンブラック〔VULCAN(XC-72)(キャボット社製)〕0.4gと、尿素系窒素含有化合物として尿素0.2gとを混合し、得られたエタノール分散液に超音波を10分間照射した。
なお、カーボンブラックの一次粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定によって求めた。
【0071】
(焼成工程)
エタノール分散液を加熱乾燥することによってエタノールを蒸発させ、得られた混合物を、焼成炉を用いて不活性ガス中で、900℃で10秒以上加熱し、焼成した。
【0072】
(洗浄工程)
焼成工程で得られた生成物を硫酸水溶液で洗浄し、吸引濾過器により固形物を回収し、固形物を60℃で一晩真空乾燥し、Ni錯体が担持された触媒粉末(中間体)を得た。
【0073】
(粉砕工程)
得られた触媒粉末を、直径0.5mmのジルコニアボール10g及び水10mLとともにポットに入れ、遊星ボールミル装置によって800rpmで20分間処理し、触媒スラリーを回収した。スラリーを再度硫酸水溶液で洗浄し、吸引濾過器により固形物を回収し、固形物を60℃で一晩真空乾燥し、実施例3の触媒とした。
【0074】
〔実施例1、2、及び4~7〕
実施例3の触媒の製造において、混合工程で用いた尿素系窒素含有化合物の種類と量を、表1の「発泡剤」欄に示す種類及び量に変更した他は同様にして、実施例1、2、及び4~7の触媒を製造した。
なお、表1中、「発泡剤」欄の「量(n/c)」は、実施例1、2、及び4~7の触媒の製造に用いた担体の質量(c)に対する尿素系窒素含有化合物の質量(n)の比(n/c)を意味する。
【0075】
〔比較例1〕
実施例3の触媒の製造において、混合工程で尿素系窒素含有化合物を用いなかった他は同様にして、比較例1の触媒を製造した。
【0076】
〔比較例2~4〕
実施例3の触媒の製造において、混合工程で用いた尿素系窒素含有化合物に替えて、表1の「発泡剤」欄に示す種類及び量の発泡剤を用いた他は同様にして、比較例2~4の触媒を製造した。
なお、表1中、「発泡剤」欄の「量(n/c)」は、比較例2~4の触媒の製造に用いた担体の質量(c)に対する発泡剤の質量(n)の比(n/c)を意味する。
【0077】
<触媒のメジアン径>
得られた実施例及び比較例の触媒の一部を、エタノール中に分散させ、分散液に超音波(240W-38kHz)を30分間照射した。その後、動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所社製、商品名「LB-550」)を用い、メジアン径(体積基準)を求めた。測定は、JIS Z 8828:2019に準拠した動的光散乱法により行い、分散粒子による散乱光強度変化から粒子径及びその分布を計算し、メジアン径(体積基準)を求めた。結果を表1に示す。
許容範囲は0.30μm以下である。
【0078】
<固体電解質形電解装置の製造>
〔実施例3〕
実施例3の触媒をエタノールに分散し、分散液に対して、アイオノマーとして、Chemours社製の「Nafion(登録商標)」(陽イオン交換樹脂)を混合した。混合後、分散液に超音波照射を10分行い、スプレーコーターを用いて、カーボンペーパー上に乾燥時担持量が2~3mg/cm2となるよう分散液を塗布し、カソード(陰極)とした。カソードは、分散液の塗布膜を触媒層、カーボンペーパーをガス拡散層として有する。
【0079】
得られたカソードに、膜厚約30μmの陰イオン交換膜(塩基点密度2.8mmol/cm3)と、チタンメッシュ(太陽金網社製、開口率56%)に酸化イリジウムを担持することによって作製したアノード(陽極)とを貼り合わせ、イオン交換膜-電極接合体とした。
アノード(陽極)は電解液(0.5mol/LのKHCO3水溶液)槽に接する構造とした。
【0080】
〔実施例1、2、4~7及び比較例1~4〕
実施例1の固体電解質形電解装置の製造において、触媒を、実施例3の触媒から、実施例1、2、4~7及び比較例1~4の各触媒に変更した他は同様にして、実施例1、2、4~7及び比較例1~4の固体電解質形電解装置を製造した。
【0081】
<固体電解質形電解装置の評価>
〔実施例1~7及び比較例1~4〕
(電流密度)
実施例1~7及び比較例1~4の各固体電解質形電解装置を用いて、流量100sccmの純CO2をカソード(陰極)に供給し、カソード(陰極)の印加電位は銀/塩化銀参照電極に対して-1.8Vとして、CO2を電気分解し、COを生成する際の電流密度[mA/cm2]を測定した。
結果を表1に示す。
許容範囲は355mA/cm2以上である。
【0082】
【0083】
表1からわかるように、実施例はいずれも触媒のメジアン径が0.30μm以下と小さく、かつ、CO生成電流密度が355mA/cm2以上と高くなった。それに対し、比較例ではCO生成電流密度が高くなってもメジアン径が大きくなってしまったり(比較例1)、メジアン径を小さくすることができてもCO生成電流密度が低くなってしまったり(比較例2及び3)、あるいは、メジアン径及びCO生成電流密度のどちらとも許容範囲から外れる結果(比較例4)となった。比較例1のように触媒のメジアン径が大きくなってしまうと、固体電解質(イオン交換膜)が変形し、耐久性を低下する恐れがある。
【0084】
発泡剤を加えなかった場合(比較例1)では、メジアン径が5.3μmと比較的大きく、塗布効率が低下した。これに対し、尿素(実施例1~6)や尿素誘導体の1つであるビウレット(実施例7)を加えた場合には、メジアン径が1μm未満と大きく減少した。焼成時にこれら化合物が発泡し凝集を抑制したためと考えられる。
【0085】
また、様々な混合比率で比較したところ(実施例1~6)、担体の質量(c)に対する尿素系窒素含有化合物の質量(n)の比が0.75又は1の場合に最もCO生成電流密度が高くなることが分かった。
【0086】
また、発泡剤に塩基性炭酸マグネシウム(比較例2)やアゾジカルボンアミド(比較例3)を用いた場合には、CO生成電流密度が低下した。これら化合物は焼成後に残留物が比較的大量に存在し、電極反応を妨害するようになったと考えられる。
クエン酸を用いた場合(比較例4)には、前記Ni単原子触媒合成プロセスにおいてニッケルーペンタエチレンヘキサミン錯体が消失し、ニッケルークエン酸錯体が形成したことが溶液の色変化から確認された。その結果、単原子触媒の存在割合が大きく減少し、CO生成電流密度も大きく低下した。