IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧

<>
  • 特開-硬化体の製造方法 図1
  • 特開-硬化体の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117435
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/00 20060101AFI20240822BHJP
   C04B 18/167 20230101ALI20240822BHJP
   B28B 3/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C04B28/00 ZAB
C04B18/167
B28B3/02 A
B28B3/02 R
B28B3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023543
(22)【出願日】2023-02-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/C4S研究開発プロジェクト事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 美育
(72)【発明者】
【氏名】林 建佑
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴文
(72)【発明者】
【氏名】丸山 一平
(72)【発明者】
【氏名】兼松 学
【テーマコード(参考)】
4G054
4G112
【Fターム(参考)】
4G054AA01
4G054AA20
4G054BA02
4G054DA02
4G112PA30
4G112PD01
4G112PE03
(57)【要約】
【課題】高い成形圧力を要せずとも、十分な強度を有する硬化体を製造可能な硬化体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 CaO、SiO2及びAl23を含む組成物であって、炭酸化度が60質量%以下である組成物を加圧成形して成形体を作製する第1の工程と、
前記成形体と、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液とを接触させる第2の工程
を含む、硬化体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO、SiO2及びAl23を含む組成物であって、炭酸化度が60質量%以下である組成物を加圧成形して成形体を作製する第1の工程と、
前記成形体と、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液とを接触させる第2の工程
を含む、硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液中の可溶性マグネシウム塩の含有量が1~30質量%である、請求項1記載の硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記可溶性マグネシウム塩が硫酸マグネシウム、重炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び塩化マグネシウムから選択される1以上を含む、請求項1記載の硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、成形圧力が1~20MPaである、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設分野で利用されている無機材料硬化体は、CaO、SiO2及びAl23を含む硬化体であることが多い。このような硬化体として、例えば、コンクリートやモルタルを挙げることができる。コンクリートやモルタルの製造にはセメントが必要不可欠であるが、セメントの生産時には石灰石の主成分である炭酸カルシウムの分解等によって多くの二酸化炭素が排出される。そこで、廃コンクリートの再利用が検討され、路盤材料や骨材として活用されてきた。しかし、道路建設の減少により廃コンクリートを路盤材料として消費することには限界があり、また骨材として再利用する場合、十分に表面の付着ペーストを取り除かなければ強度減少や乾燥収縮の増加等を生ずるため、付着ペーストの少ない良質の骨材を製造するにはコストやエネルギーの増大が避けられない。このような事情から、廃コンクリートの再利用は、未だ研究、検討段階にあり、完全実用化には至っていない。
【0003】
近年、廃コンクリートを用いた新たな試みとして、コンクリートを破砕し、圧縮成形を行うことで、骨材の選別や分別等を行わずに、十分な強度を有する硬化体として再生する技術が検討されている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】酒井 雄也 他、土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造)、Vol.72、No.1、p.32-40(2016)
【非特許文献2】酒井 雄也 他、土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造)、Vol.76、No.4、p.306-314(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献では、粉砕したコンクリートの成形物から十分な強度を有する硬化体を製造するために50MPa以上の高い成形圧力で成形体を圧縮成形している。即ち、硬化体の強度は成形圧力に依存するため、硬化体に十分な強度を発現させるうえで高い成形圧力を成形体に付与することが不可欠である。そのため、成形体を圧縮成形する際に多くのエネルギーが必要となり、コストの増大が避けられない。
本発明の目的は、高い成形圧力を要せずとも、十分な強度を有する硬化体を製造可能な硬化体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、CaO、SiO2及びAl23を含む組成物中の酸化カルシウムに対する二酸化炭素の割合(以下、「炭酸化度」と称する)に着目し、それを指標に組成物を選択したうえで、それを用いて成形体を作製する際の成形圧力と硬化体の強度との関係、硬化方法について詳細に検討を行った。その結果、CaO、SiO2及びAl23を含む組成物であって、炭酸化度が特定値以下である組成物を用いて作製した成形体と、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液とを接触させることで、高い成形圧力を要せずとも、十分な強度を有する硬化体が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕CaO、SiO2及びAl23を含む組成物であって、炭酸化度が60質量%以下である組成物を加圧成形して成形体を作製する第1の工程と、
前記成形体と、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液とを接触させる第2の工程
を含む、硬化体の製造方法。
〔2〕前記水溶液中の可溶性マグネシウム塩の含有量が1~30質量%である、前記〔1〕記載の硬化体の製造方法。
〔3〕前記可溶性マグネシウム塩が硫酸マグネシウム、重炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び塩化マグネシウムから選択される1以上を含む、前記〔1〕又は〔2〕記載の硬化体の製造方法。
〔4〕前記第1の工程において、成形圧力が1~20MPaである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い成形圧力を要することなく、十分な強度を有する硬化体を簡便な操作で製造することができる。したがって、本発明は、廃コンクリートや廃モルタルの再利用法として有用であり、またセメント製造時やその他の産業から大気中に排出され炭酸ガスを可能な限り回収し、それを用いることで、資源循環と炭素循環を両立したカーボンニュートラルの実現に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】CaO、SiO2及びAl23を含む組成物の水酸化度の分析方法に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の硬化体の製造方法について詳細に説明する。
本発明の硬化体の製造方法は、第1の工程と、第2の工程とを含むことを特徴とするものであり、その一例を図1に示す。
【0011】
<第1の工程>
本工程は、図1に示されるように、CaO、SiO2及びAl23を含む組成物であって、炭酸化度が60質量%以下である組成物(以下、「特定組成物」とも称する)を加圧成形して成形体を作製する工程である。
(特定組成物)
本工程においては、先ず特定組成物を準備する。
特定組成物は、CaO、SiO2及びAl23の3種を含有すれば、これら以外の無機化合物が含まれていてもよい。これら3種以外の無機化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカゲル、アルミナゲル、酸化マグネシウム、酸化鉄を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0012】
特定組成物としては上記3種を含有すれば特に限定されず、例えば、廃コンクリート、廃モルタル、焼却灰、スラグを使用することができる。
廃コンクリート及び廃モルタルとしては、例えば、土木工事や構造物の解体等によって発生する解体コンクリートや解体モルタル、建築物等の建設時等に発生した余剰コンクリートや余剰モルタルを挙げることができる。特定組成物が廃コンクリートの場合は、粗骨材を分離して再生骨材として使用しても良い。
焼却灰としては、例えば、火力発電所等での微粉炭の燃焼によって生じる石炭灰を電気集塵機等で回収したもの、又はそれらを分級若しくは粉砕したものであって、「JIS A 6201:2015(コンクリート用フライアッシュ)」で規定されているフライアッシュI~IV種が挙げられる。また、火力発電所等での微粉炭やバイオマスの燃焼によって生じるクリンカアッシュ、バイオマス灰等も挙げられる、さらに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰等も挙げられる。
スラグとしては、例えば、鉄鋼製造プロセス等をはじめとする種々のプロセスの溶解工程や精錬工程で生じたスラグを挙げることができる。具体的には、例えば、高炉スラグ、製鋼スラグ(例えば、転炉脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱珪スラグ、脱硫スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグなど)、溶融還元スラグ(例えば、鉄鉱石、Cr鉱石、Ni鉱石、Mn鉱石などの溶融還元により生じるスラグ)、その他の製錬炉や精錬炉から発生するスラグ、ごみ焼却灰溶融スラグ、廃棄物ガス化溶融スラグ等が挙げられる。
【0013】
特定組成物の大きさは、加圧成形できれば特に限定されないが、通常、最大粒径が40mm未満であり、35mm未満が好ましく、30mm未満が更に好ましい。中でも、所望の形状により成形しやすい点から、特定組成物の形態は、粒状、粉状又はこれらの混合物が好ましく、粉状が更に好ましい。特定組成物が粉状である場合、その最大粒径は、5mm未満が好ましく、3mm未満がより好ましく、1mm未満が更に好ましい。ここで、本明細書において「最大粒径」とは、試料がすべて通過する篩の最小の目開きで表した粒径をいう。
【0014】
特定組成物を所望の粒度に調整するために、破砕、粉砕及び篩分けから選択される1以上を行うことができる。
破砕は、破砕機を使用することが可能であり、例えば、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ロータリークラッシャーが挙げられる。なお、破砕機には、廃コンクリートの粒度を調整するために、所望する篩目のスクリーンを装着するか、あるいはスクリーンを装着しない場合には、固定歯、回転歯、内壁等を所望するクリアランスに調整すればよい。
粉砕は、粉砕機を使用することが可能であり、例えば、ディスクミル、ワンダーブレンダー、ロッドミル、ボールミル、ローラーミルを挙げることができる。
篩分けは、篩選別機を使用することが可能であり、例えば、振動式、面内運動式、回転式及び固定式のいずれも使用することができる。篩目の種類としては、例えば、金属製又は非金属製の織網、打ち抜き網、溶接網、ウェッジワイヤースクリーン、櫛歯が挙げられ、適宜選択することができる。
【0015】
特定組成物は、炭酸化度が60質量%以下であることを要する。上記したとおり、従来、粉末状の廃コンクリートを加圧成形して硬化体になることは知られているが、これはC-S-H表面の水素結合による結合の回復が主要因であり、炭酸化反応が生じた廃コンクリート等は結合しないと考えられていた。しかし、本発明者らは、意外なことに、炭酸化反応が生じた廃コンクリートであっても、これを成形体としたうえで、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液とを接触させることで、十分な強度を有する硬化体を製造することを見出したものである。
【0016】
本明細書において「炭酸化度」とは、特定組成物中の酸化カルシウムに対する二酸化炭素の割合をいう。特定組成物中の酸化カルシウム量は、蛍光X線分析装置で求めることができる。炭酸化度は、下記の条件で熱重量分析(TG測定)を行い、600~800℃の重量減少量(脱炭酸量)から炭酸カルシウム量を分析し、下記式(i)により算出することができる。なお、熱重量分析装置として、市販の装置を使用することが可能であり、例えば、Thermo plus EV02 TG8121(リガク社製)を挙げることができる。
【0017】
TG-DTA測定条件
・試料量 :約20mg
・昇温速度:10℃/min
・N2ガスフロー雰囲気:300mL/min
【0018】
炭酸化度(質量%)=(X×56/44)/Z×100 (i)
【0019】
〔式(i)中、
Xは、組成物中のCO2量(質量%)を示し、
Zは、組成物中のCaO量(質量%)を示す。〕
【0020】
炭酸化度は、硬化体の強度をより一層増強する観点から、55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましく、そして10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。
【0021】
また、特定組成物は、硬化体の強度増強の観点から、水酸化度が、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、そして40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において、「水酸化度」とは、特定組成物中の酸化カルシウムに対する水酸化カルシウムの割合をいう。特定組成物中の酸化カルシウム量は、蛍光X線分析装置で求めることができる。水酸化度は、上記した条件で熱重量示差熱分析(TG-DTA測定)を行い、図2(a)に示されるように、400~500℃の範囲においてDTA曲線に吸熱ピークが認められた場合のみ、400~500℃の重量減少量(脱水量)から水酸化カルシウム量を分析し、下記式(ii)により算出することができる。他方、図2(b)に示されるように、同範囲にDTA曲線の吸熱ピークが認められない場合には、水酸化度は0質量%とする。
【0022】
水酸化度(質量%)=(Y×56/74)/Z×100 (ii)
【0023】
〔式(ii)中、
Yは、組成物中のCa(OH)2量(質量%)を示し、
Zは、前記式(i)と同義である。〕
【0024】
本工程においては、2以上の特定組成物を混合して所望の炭酸化度及び/又は水酸化度に調整することができる。また、特定組成物の炭酸化度を調整するために、強制的に炭酸化しても構わない。強制的に炭酸化させる場合、例えば、中性化促進装置を使用することができる。中性化促進装置は、市販の装置を使用することが可能であり、例えば、中性化促進試験装置(マルイ社製)を挙げることができる。炭酸化に使用する二酸化炭素は、市販のボンベに充填された二酸化炭素でも構わないが、大気中の二酸化炭素由来であるか、種々の産業排気ガス中の二酸化炭素由来であることが好ましい。特に、カルシネーションによってセメント製造時に大気中に排出され分散した状態にある二酸化炭素等を含めて種々の産業排気ガス中の二酸化炭素由来とすることにより、大気中の二酸化炭素の固定化に寄与することができる。さらに、特定組成物の水酸化度を調整するために、特定組成物と水酸化カルシウムとを混合しても構わない。
【0025】
次に、本工程においては、図1に示されるように、特定組成物を加圧成形する。
加圧成形は、例えば、特定組成物を型枠等に入れて行えばよい。型枠の形状は、硬化体の用途に合わせて適宜選択することができる。
また、成形の際に、液体を添加してもよい。液体を含むことで、成形しやすくなる。
液体の量は適宜選択可能であるが、特定組成物に対して、通常5質量%以上であり、8質量%以上が好ましく、そして20質量%以下が好ましく、15質量%以下が更に好ましい。液体は、硬化体の強度発現を損なわなければ特に種類は問わない。強度発現を促進する観点から、二酸化炭素回収装置から得た使用済みのアルカノールアミンやセメントの粉砕助剤に用いられるアミン溶液、炭酸水素カルシウム溶液等のアルカリ土類化合物の溶液を使用することが好ましい。
また、成形の際に、骨材、繊維等を混合しても構わない。
骨材としては、例えば、川や海等から採取した砂利や砂、岩石等を粉砕したもの、再生骨材を挙げることができる。
繊維としては、例えば、コンクリート用の鋼製の繊維、炭素繊維、ガラス繊維、玄武岩繊維(バサルトファイバー、玄武岩を溶融してガラス化して繊維を作るもの)、プラスチック製の繊維等のコンクリート用材料として市販されているものを挙げることができる。
なお、骨材及び繊維の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜選択することができる。
【0026】
成形圧力は、1MPa以上が好ましく、2MPa以上がより好ましく、3MPa以上が更に好ましく、そして20MPa以下が好ましく、15MPa以下がより好ましく、12MPa以下が更に好ましい。このような低い成形圧力であっても、硬化体に十分な強度を付与することができる。
【0027】
<第2の工程>
本工程は、図1に示されるように、第1の工程で得られた成形体と、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液とを接触させる工程である。これにより、成形体中の炭酸カルシウムが溶解して析出するとともに、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液が結合助材の役割をし、成形体を硬化させることができる。ここで、本明細書において「可溶性」とは、水に対して可溶性であることを意味し、水存在下では溶液を形成する。
マグネシウム塩は、可溶性であれば特に限定されないが、硫酸マグネシウム、重炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム及び塩化マグネシウムから選択される1以上を含むことが好ましい。なお、可溶性マグネシウム塩は、水和物の形態であってもよい。
可溶性マグネシウム塩を溶解する水としては、例えば、純水、JIS A 5308付属書Cに規定される上水道水、該上水道水以外の水(例えば、雨水、河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水)を挙げることができる。
なお、水溶液の調製方法は特に限定されず、例えば、可溶性マグネシウム塩と水とを同時に添加しても、一方を他方に添加してもよい。
【0028】
水溶液中の可溶性マグネシウム塩の含有量は、硬化体の強度増強の観点から、1質量%以上が好ましく、質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、そして30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。なお、可溶性マグネシウム塩が水和物の形態である場合、水和水を除いたマグネシウム塩の質量に基づいて算出するものとする。
【0029】
成形体と、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液との接触方法は、例えば、次の方法を挙げることができるが、これらに特に限定されない。
(1)型枠に充填した成形体に、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液を注入する方法
(2)型枠から外した成形体に、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液を散布する方法
(3)型枠から外した成形体を、可溶性マグネシウム塩を含む水溶液に浸漬する方法
(4)(2)又は(3)の方法の後、乾燥を行い、散布もしくは浸漬と乾燥を繰り返す方法
【0030】
接触温度は、硬化体の強度増強の観点から、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、15℃以上が更に好ましく、また経済的観点から、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、70℃以下が更に好ましい。
接触時間は接触温度により適宜選択可能であるが、例えば、常温(20℃±15℃)の場合、硬化体の強度増強の観点から、1日以上が好ましく、3日以上がより好ましく、5日以上が更に好ましく、また生産効率の観点から、50日以下が好ましく、40日以下がより好ましく、30日以下が更に好ましい。
なお、本工程後、硬化体を乾燥することを必ずしも要しない。
【0031】
このようにして、硬化体を製造することができるが、得られた硬化体は、下記の特性を具備することができる。
硬化体の圧縮強度は、好ましくは4MPa以上であり、より好ましくは6MPa以上、更に好ましくは10MPa以上である。
【0032】
本明細書において、硬化体の圧縮強度は、例えば、従来公知の万能試験機(引張・圧縮試験機)により、硬化体(試験体)を圧縮し、荷重を測定して、最大値を記録し、その荷重を断面積で除して応力(圧縮強度(MPa))として算出することができる。
【0033】
本発明の硬化体は、コンクリートの代替品として用いることができる。例えば、建設材料用、より具体的には、建築用柱、梁、スラブ等の部材、ブロック等の固化体、建造物の基礎、杭を挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
製造例1
モルタルの準備
建設廃材を模したモルタルを次の手順で製造した。先ず、普通ポルトランドセメント、山砂、水を用いてモルタルを練り混ぜた。練り混ぜ方法はJIS R 5201に準拠した。材料配合は水セメント比を50%とし、砂セメント比を2とした。
モルタルを型枠に打ち込み、材齢1日後に脱型した。脱型後のモルタルを水中で材齢28日(28d)まで養生した。養生後のモルタルを105℃で7日間乾燥した後、ジョークラッシャーを用いて5mm以下まで粗砕した。粗砕したモルタルの一部を、中性化装置中に45℃、80%RH、CO2 80%の条件で7日間静置し、炭酸化処理を実施した。炭酸化処理後のモルタル及び炭酸化処理前のモルタルを、それぞれ0.6mm篩を用いて篩分けし、篩下の粉末を実験に用いた。
そして、炭酸化処理を実施していないものを「モルタル粉末A」、炭酸化処理を実施したものを「モルタル粉末B」とした。
【0036】
(1)モルタル粉末の粒度分布の分析
モルタル粉末A及びモルタル粉末Bについて、それぞれ篩目0.6mm、0.3mm及び0.15mmの篩を用いて粒度分布を分析した。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
(2)モルタル粉末の化学組成の分析
化学組成は、JIS R 5202に準拠して強熱減量を測定した。
また、蛍光X線分析装置(ZSX primus II、リガク社製)を用いて蛍光X線分析(検量線法)し、SiO2、Al23、Fe23、CaO、MgO及びSO3の含有率を求めた。
【0039】
(3)モルタル粉末の炭酸カルシウム量、炭酸化度及び水酸化度の分析
下記の条件で熱重量示差熱分析(TG-DTA測定)を行った。そして、600~800℃の重量減少量(脱炭酸量)から炭酸カルシウム量を分析し、下記式(i)により炭酸化度を算出した。また、図2(a)に示されるように、400~500℃の範囲においてDTA曲線に吸熱ピーク(450℃付近に下向きのピーク)が認められた場合のみ、400~500℃の重量減少量(脱水量)から水酸化カルシウム量を分析し、下記式(ii)により水酸化度を算出した。他方、図2(b)に示されるように、同範囲にDTA曲線の吸熱ピークが認められない場合には、水酸化度は0.0質量%とした。その結果を表2に示す。
【0040】
TG-DTA測定条件
・試料量 :約20mg
・昇温速度:10℃/min
・N2ガスフロー雰囲気:300mL/min
・使用機器:Thermo plus EV02 TG8121(リガク社製)
【0041】
炭酸化度(質量%)=(X×56/44)/Z×100 (i)
【0042】
〔式(i)中、
Xは、組成物中のCO2量(質量%)を示し、
Zは、組成物中のCaO量(質量%)を示す。〕
【0043】
水酸化度(質量%)=(Y×56/74)/Z×100 (ii)
【0044】
〔式(ii)中、
Yは、組成物中のCa(OH)2量(質量%)を示し、
Zは、前記式(i)と同義である。〕
【0045】
【表2】
【0046】
(4)モルタル粉末のXRD/リートベルト解析
モルタル粉末試料をメノウ乳鉢で微粉砕した後、内部標準としてα-Al23を内割りで10質量%添加したものを測定試料とした。粉末X線回折(XRD)装置(D8-Advance A-25型、Bruker AXS社製)を用いて、XRD測定を実施し、リートベルト解析を行った。XRDパターンより表3に示す鉱物が同定され、それら鉱物の理論プロファイルを、粉末XRDの結果から得られた実測プロファイルにフィッティングすることにより各鉱物相の含有率を求めた。鉱物量は下記式(iii)より、非晶質量は下記式(iv)より、それぞれ算出した。これらの結果を表3に示す。
【0047】
粉末XRD測定条件
・使用X線 :CuKα
・管球条件 :管電圧40kV-管電流40mA
・走査範囲 :5~65°
・ステップ幅:0.023°/step
・測定時間 :0.13秒/step
・リートベルト解析ソフト:TOPAS Version5.0(Bruker AXS社製)
【0048】
Mx=Mx'×R/A×100/(100-R) (iii)
〔式(iii)中、
Mxは、試料中の各鉱物量(質量%)を示し、
Mx'は、リートベルト解析で得られた各鉱物の定量値(質量%)を示し、
Rは、α-Al23混合率(質量%)を示し、
Aは、リートベルト解析で得られたα-Al23の定量値(質量%)を示す。〕
【0049】
G=100×(A-R)/[A×(100-R)/100] (iv)
〔式(iv)中、
Gは、試料中の非晶質量(質量%)を示し、
A及びRは、前記式(iii)と同義である。〕
【0050】
【表3】
【0051】
実施例1~4及び比較例1
(第1の工程)
製造例1で得られたモルタル粉末A及びモルタル粉末Bを表4に示す割合で混合した後、外割で10質量%の水を混合し、ペレット成形機を用いて、成形圧力4MPaにてφ10×20mmの成形体を作製した。
(第2の工程)
イオン交換水に硫酸マグネシウムを濃度が6質量%となるように溶解し、硫酸マグネシウム水溶液を調製した。次いで、この硫酸マグネシウム水溶液に、第1の工程で作製した成形体を7日間浸漬した。浸漬前の成形体、7日浸漬後の硬化体について、下記の方法により圧縮強度試験を実施した。その結果を表4に示す。
【0052】
(圧縮強度の測定)
変位制御式万能試験機(インストロンジャパン社製)を用いて、荷重を測定した。そして、最大荷重を硬化体の断面積で除して圧縮強度を求めた。
【0053】
【表4】
【0054】
表4の結果から、炭酸化度が特定値以下である特定組成物を加圧成形して成形体を作製し、この成形体と可溶性マグネシウム塩を含む水溶液とを接触させることで、高い成形圧力を要することなく、十分な強度を有する硬化体を製造できることがわかる。
図1
図2