IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

特開2024-117814電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト
<>
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図1
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図2
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図3
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図4
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図5
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図6
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図7
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図8
  • 特開-電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117814
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】電磁波吸収体、及び電磁波吸収体形成用ペースト
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240822BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20240822BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20240822BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20240822BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20240822BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20240822BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20240822BHJP
   C01B 32/956 20170101ALI20240822BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20240822BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240822BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01F1/34 120
H01F1/113
C01G49/00 A
C01G49/00 H
C01F7/02
C01B21/064 Z
C01B32/158
C01B32/956
C09D5/32
C09D7/61
C09D201/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024100510
(22)【出願日】2024-06-21
(62)【分割の表示】P 2022522198の分割
【原出願日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2020084720
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】生井 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】吉清 まりえ
(72)【発明者】
【氏名】原 正之
(72)【発明者】
【氏名】浅井 隆宏
(57)【要約】
【課題】高周波帯域における良好な電磁波吸収特性と、良好な放熱性とを両立し得る電磁波吸収体と、当該電磁波吸収体の製造に好適に使用される電磁波吸収体形成用ペーストとを提供すること。
【解決手段】電磁波吸収体において、電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とからなる複合層を設け、電磁波吸収材料に、ε-Fe結晶、及び、結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0超2未満である結晶から選択される1種以上であるイプシロン型酸化鉄を含有させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とからなる複合層を備え、
前記電磁波吸収材料が、イプシロン型酸化鉄を含み、
前記イプシロン型酸化鉄は、ε-Fe結晶、及び、結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0超2未満である結晶から選択される1種以上である、電磁波吸収体。
【請求項2】
前記電磁波吸収材料がカーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記電磁波吸収材料がバインダー樹脂を含む、請求項1又は2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記電磁波吸収材料において、前記イプシロン型酸化鉄、又は前記イプシロン型酸化鉄と前記カーボンナノチューブとが前記バインダー樹脂中に分散している、請求項3に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記熱伝導性材料が、粒状、及び/又は鱗片状の粉体であり、
前記熱伝導性材料が、前記電磁波吸収材料からなるマトリックス中に分散している、請求項3又は4に記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記熱伝導性材料が、アルミナ、炭化ケイ素、及び窒化ホウ素からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記熱伝導性材料が、粒状の熱伝導性材料と、鱗片状の熱伝導性材料とを組み合わせ含む、請求項5に記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記熱伝導性材料が、粒状のアルミナと、鱗片状の窒化ホウ素とを組み合わせて含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
前記複合層が、前記電磁波吸収材料100質量部に対して、30質量部以上300質量以下の前記熱伝導性材料を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【請求項10】
フィルム形状である、請求項1~9のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【請求項11】
電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とを含み、
前記電磁波吸収材料が、イプシロン型酸化鉄を含み、
前記イプシロン型酸化鉄は、ε-Fe結晶、及び、結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0超2未満である結晶から選択される1種以上である、電磁波吸収体形成用ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体と、電磁波吸収体形成用ペーストとに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、無線LAN、ETCシステム、高度道路交通システム、自動車走行支援道路システム、衛星放送等の種々の情報通信システムにおいて、高周波帯域の電磁波の使用が広がっている。しかし、高周波帯域の電磁波の利用の拡大には、電子部品同士の干渉による電子機器の故障や誤動作等を招く懸念がある。このような問題の対策として、不要な電磁波を電磁波吸収体により吸収する方法がとられている。
【0003】
このため、高周波帯域の電磁波を利用するレーダー等においても、本来受信されるべきでない不要な電磁波の影響を軽減するために、電磁波吸収体が利用されている。
このような要求に応えるため、高周波数帯域の電磁波を良好に吸収できる電磁波吸収体が種々提案されている。具体例としては、例えば、カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電磁波吸収シート(例えば、特許文献1)が知られている。
【0004】
高周波帯域の電磁波の用途の中でも、自動車の運転支援システムについて研究が進んでいる。かかる自動車の運転支援システムでは、車間距離等を検知するための車載レーダーにおいて、76GHz帯域の電磁波が利用されている。そして、自動車の運転支援システムに限らず、種々の用途において、例えば100GHz以上の高周波数帯域の電磁波の利用が広がると予測される。このため、76GHz帯域やそれよりも高周波数帯域の電磁波を良好に吸収できる電磁波吸収体が望まれている。
【0005】
このような要求に応えるため、高周波数帯域における広い範囲において良好に電磁波を吸収できる電磁波吸収体として、例えば、ε―Fe系の鉄酸化物からなる磁性結晶を含む電磁波吸収層を備える電磁波吸収体が提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-060060号公報
【特許文献2】特開2008-277726号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Namai,S.Sakurai,M.Nakajima,T.Suemoto,K.Matsumoto,M.Goto,S.Sasaki, and S.Ohkoshi, J.Am.Chem.Soc.,131,1170-1173(2009).
【非特許文献2】A.Namai,M.Yoshikiyo,K.Yamada,S.Sakurai,T.Goto,T.Yoshida,T Miyazaki,M.Nakajima,T.Suemoto,H.Tokoro, and S.Ohkoshi,Nature Communications,3,1035/1-6(2012).
【非特許文献3】S.Ohkoshi,S.Kuroki,S.Sakurai,K.Matsumoto,K.Sato, and S.Sasaki,Angew.Chem.Int.Ed.,46,8392-8395(2007).
【非特許文献4】A.Namai,K.Ogata,M.Yoshikiyo,and S.Ohkoshi,Bull.Chem.Soc.Jpn.,93,20-25(2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されるような電磁波吸収体について、使用環境によっては電磁波吸収体に熱が蓄積される場合がある。電磁波吸収体に熱が蓄積されると、電磁波吸収体を構成する材料が変形したり劣化したりする場合がある。また、電磁波吸収体が熱を蓄積することで、装置全体に悪影響を及ぼす場合がある。このため、電磁波吸収体の、高周波数帯域における良好な電磁波吸収特性を過度に損なうことなく、電磁波吸収体に放熱性を付与することが強く望まれている。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、高周波帯域における良好な電磁波吸収特性と、良好な放熱性とを両立し得る電磁波吸収体と、当該電磁波吸収体の製造に好適に使用される電磁波吸収体形成用ペーストとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、電磁波吸収体において、電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とからなる複合層を設け、電磁波吸収材料に、ε-Fe結晶、及び、結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0超2未満である結晶から選択される1種以上であるイプシロン型酸化鉄を含有させることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の態様は、
電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とからなる複合層を備え、
電磁波吸収材料が、イプシロン型酸化鉄を含み、
イプシロン型酸化鉄は、ε-Fe結晶、及び、結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0超2未満である結晶から選択される1種以上である、電磁波吸収体である。
【0012】
本発明の第2の態様は、
電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とを含み、
電磁波吸収材料が、イプシロン型酸化鉄を含み、
イプシロン型酸化鉄は、ε-Fe結晶、及び、結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0超2未満である結晶から選択される1種以上である、電磁波吸収体形成用ペーストである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高周波帯域における良好な電磁波吸収特性と、良好な放熱性とを両立し得る電磁波吸収体と、当該電磁波吸収体の製造に好適に使用される電磁波吸収体形成用ペーストとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
図2】実施例3のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰率を示す図である。
図3】実施例4のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
図4】実施例5のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
図5】実施例6のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
図6】実施例7のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
図7】実施例8のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
図8】実施例9のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
図9】実施例10のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
≪電磁波吸収体≫
電磁波吸収体は、電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とからなる複合層を備える。電磁波吸収体は、かかる複合層のみからなってもよく、複合層を支持する基材層を備えていてもよい。
【0017】
電磁波吸収体について、ミリ波帯域以上の高周波数の電磁波をより確実に吸収し得る観点から、30ギガヘルツ(GHz)以上、好ましくは30GHz以上300GHz以下、より好ましくは40GHz以上200GHz以下の周波数帯域の電磁波を吸収するのが好ましい。また、電磁波吸収体の反射減衰量において、絶対値が15dB以上のピークが存在することが好ましい。なお、反射減衰量は、複合層が露出した面に対して測定した値である。
【0018】
電磁波吸収体の形態は特に限定されないが、シート形状、又はフィルム形状であるのが好ましく、フィルム形状であるのが好ましい。
電磁波吸収体の形状がフィルム形状である場合、フィルムの形状は、曲面を有していてもよく、平面のみから構成されていてもよく、平板状が好ましい。
電磁波吸収体としてのフィルムの厚さは、本発明の効果を損なうことなく、該フィルムを薄くしたり小型化したりする観点から、1000μm以下が好ましく、900μm以下がより好ましく、450μm以下がさらに好ましく、300μm以下が特に好ましい。
電磁波吸収体としてのフィルムの厚さは、均一であってもよく、不均一であってもよい。
【0019】
<複合層>
前述の通り複合層は、電磁波吸収材料とともに熱伝導性材料を含む。複合層の形態は特に限定されない。複合層は、電磁波吸収材料からなる少なくとも1層と、熱伝導性材料を含む少なくとも1層とを含む積層型の複合層であってもよく、電磁波吸収材料と熱伝導性材料とを含む単層型の複合層であってもよい。
電磁波吸収体に蓄積する熱を、むらなく効率よく放熱しやすいことから、複合層は、電磁波吸収材料と熱伝導性材料とを含む単層型の複合層が好ましい。
【0020】
複合層の厚さは、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。複合層の厚さは、電磁波吸収体の薄膜化と、電磁波吸収性能とのバランスの点から、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
複合層の厚さの下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、1μm以上、10μm以上等が挙げられる。
複合層の厚さは、均一であってもよく、不均一であってもよい。
【0021】
以下、複合層の必須又は任意の構成について説明する。
【0022】
〔電磁波吸収材料〕
電磁波吸収材料は、イプシロン型酸化鉄を含む。電磁波吸収材料イプシロン型酸化鉄を含む複合層を備える電磁波吸収体は、ミリ波帯域以上の高周波数の電磁波を良好に吸収し、且つ後述する熱伝導性材料と併用されても、電磁波吸収特性が阻害されにくい。
【0023】
電磁波吸収材料は、イプシロン型酸化鉄とともに、電磁波を吸収する性能を有する磁性体を含んでいてもよい。イプシロン型酸化鉄とともに使用され得る磁性体の好ましい例としては、バリウムフェライト磁性体、及びストロンチウムフェライト磁性体が挙げられる。
電磁波吸収体の電磁波吸収特性が良好である点で、イプシロン型酸化鉄の質量と、イプシロン型酸化鉄以外の磁性体の質量の合計に対するイプシロン型酸化鉄の質量の比率は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらにより好ましい、100質量%が特に好ましい。
【0024】
電磁波吸収材料は、電磁波吸収材料中にイプシロン型酸化鉄を均一に分散させる目的と、複合層を容易に成形可能にする目的とで、典型的には、バインダー樹脂を含むのが好ましい。
【0025】
以下、電磁波吸収材料を構成する主たる材料である、イプシロン型酸化鉄、及びバインダー樹脂について説明する。
【0026】
(イプシロン型酸化鉄)
イプシロン型酸化鉄としては、ε-Fe結晶、及び、結晶構造と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0以上2以下(好ましくは0以上2未満)である結晶よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このようなイプシロン型酸化鉄の結晶は磁性結晶であるため、本願の明細書では、その結晶について「磁性結晶」と呼ぶことがある。
【0027】
ε-Fe結晶については、任意のものを用いることができる。結晶構造と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0以上2以下(好ましくは0以上2未満)である結晶については、後述する。
なお、本願明細書においてε-Fe結晶のFeサイトの一部が置換元素Mで置換されたε-MFe2-xを「M置換ε-Fe」とも呼ぶ。
【0028】
ε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶を磁性相に持つ粒子の粒子径は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。例えば、後述するような方法で製造される、イプシロン型酸化鉄の磁性結晶を磁性相に持つ粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲にある。
また、後述するような方法で製造される、イプシロン型酸化鉄の磁性結晶を磁性層に持つ粒子の変動係数(粒子径の標準偏差/平均粒子径)は80%未満の範囲にあり、比較的微細で粒子径の整った粒子群である。
【0029】
好適な複合層において、このようなイプシロン型酸化鉄の磁性粒子(すなわち、ε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶を磁性相に持つ粒子)の粉体を、複合層中の電磁波吸収材料である磁性体として用いる。ここでいう「磁性相」は当該粉体の磁性を担う部分である。
「ε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶を磁性相に持つ」とは、磁性相がε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶からなることを意味し、その磁性相に製造上不可避的な不純物磁性結晶が混在する場合を含む。
【0030】
イプシロン型酸化鉄の磁性結晶は、ε-Fe結晶と空間群や酸化状態を異にする鉄酸化物の不純物結晶(具体的には、α-Fe、γ-Fe、FeO、及びFe、並びにこれらの結晶においてFeの一部が他の元素で置換された結晶)を含んでいてもよい。
イプシロン型酸化鉄の磁性結晶が不純物結晶を含む場合、ε-Fe及び/又はM置換ε-Feの磁性結晶が主相であるのが好ましい。すなわち、電磁波吸収材料を構成するイプシロン鉄酸化物の磁性結晶の中で、ε-Fe及び/又はM置換ε-Feの磁性結晶の割合が、化合物としてのモル比で50モル%以上であるものが好ましい。
【0031】
結晶の存在比は、X線回折パターンに基づくリートベルト法による解析で求めることができる。磁性相の周囲にはゾル-ゲル過程で形成されたシリカ(SiO)等の非磁性化合物が付着していることがある。
【0032】
(M置換ε-Fe
結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであるとの条件を満たす限り、M置換ε-Feにおける元素Mの種類は特に限定されない。M置換ε-Feは、Fe以外の元素Mを複数種含んでいてもよい。
【0033】
元素Mの好適な例としては、In、Ga、Al、Sc、Cr、Sm、Yb、Ce、Ru、Rh、Ti、Co、Ni、Mn、Zn、Zr、及びYが挙げられる。これらの中では、In、Ga、Al、Ti、Co及びRhが好ましい。MがAlである場合、ε-MFe2-xで表される組成において、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であるのが好ましい。MがGaである場合、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であるのが好ましい。MがInである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲内であるのが好ましい。MがRhである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲であることが好ましい。MがTi及びCoである場合は、xは例えば0以上1未満の範囲であることが好ましい。
【0034】
電磁波吸収量が最大となる周波数は、M置換ε-Feにおける元素Mの種類及び置換量の少なくとも一方を調整することにより調整することができる。
【0035】
このようなM置換ε-Fe磁性結晶は、例えば後述の、逆ミセル法とゾル-ゲル法を組み合わせた工程及び焼成工程によって合成することができる。また、特開2008-174405号公報に開示されるような、直接合成法とゾル-ゲル法とを組み合わせた工程、及び焼成工程によってM置換ε-Fe磁性結晶を合成することができる。
【0036】
具体的には、
Jian Jin,Shin-ichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48-51、
Shin-ichi Ohkoshi,Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,97,10K312(2005)、
Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shin-ichi Ohkoshi,JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN,Vol.74,No.7,July,2005、p.1946-1949、
Asuka Namai,Shunsuke Sakurai,Makoto Nakajima,Tohru Suemoto,Kazuyuki Matsumoto,Masahiro Goto,Shinya Sasaki,and Shin-ichi Ohkoshi,Journal of the American Chemical Society, Vol.131,p.1170-1173,2009.等に記載されるような、逆ミセル法とゾル-ゲル法を組み合わせた工程及び焼成工程により、M置換ε-Fe磁性結晶を得ることができる。
【0037】
逆ミセル法では、界面活性剤を含んだ2種類のミセル溶液、すなわちミセル溶液I(原料ミセル)とミセル溶液II(中和剤ミセル)を混合することによって、ミセル内で水酸化鉄の沈殿反応を進行させる。次に、ゾル-ゲル法によって、ミセル内で生成した水酸化鉄微粒子の表面にシリカコートを施す。シリカコート層を備える水酸化鉄微粒子は、液から分離されたあと、所定の温度(700~1300℃の範囲内)で大気雰囲気下での熱処理に供される。この熱処理によりε-Fe結晶の微粒子が得られる。
【0038】
より具体的には、例えば以下のようにしてM置換ε-Fe磁性結晶が製造される。
【0039】
まず、n-オクタンを油相とするミセル溶液Iの水相に、鉄源としての硝酸鉄(III)と、鉄の一部を置換させるM元素源としてのM硝酸塩(Alの場合、硝酸アルミニウム(III)9水和物、Gaの場合、硝酸ガリウム(III)水和物、Inの場合、硝酸インジウム(III)3水和物、Ti及びCoである場合、硫酸チタン(IV)の水和物と硝酸コバルト(II)6水和物)と、界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)とを溶解させる。
【0040】
ミセル溶液Iの水相には、適量のアルカリ土類金属(Ba、Sr、Ca等)の硝酸塩を溶解させておくことができる。この硝酸塩は形状制御剤として機能する。アルカリ土類金属が液中に存在すると、最終的にロッド形状のM置換ε-Fe磁性結晶の粒子が得られる。形状制御剤がない場合は、球状に近いM置換ε-Fe磁性結晶の粒子が得られる。
【0041】
形状制御剤として添加したアルカリ土類金属は、生成するM置換ε-Fe磁性結晶の表層部に残存することがある。M置換ε-Fe磁性結晶におけるアルカリ土類金属の質量は、M置換ε-Fe磁性結晶における置換元素Mの質量と、Feの質量との合計に対して、20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。
【0042】
n-オクタンを油相とするミセル溶液IIの水相にはアンモニア水溶液を用いる。
【0043】
ミセル溶液I及びIIを混合した後、ゾル-ゲル法を適用する。すなわち、シラン(例えばテトラエチルオルトシラン)をミセル溶液の混合液に滴下しながら撹拌を続け、ミセル内で水酸化鉄、又は元素Mを含有する水酸化鉄の生成反応を進行させる。これにより、ミセル内で生成した微細な水酸化鉄の沈殿の粒子表面が、シランの加水分解によって生成するシリカでコーティングされる。
【0044】
次いで、シリカコーティングされたM元素含有水酸化鉄粒子を液から分離・洗浄・乾燥して得た粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700℃以上1300℃以下、好ましくは900℃以上1200℃以下、さらに好ましくは950℃以上1150℃以下の温度範囲で熱処理(焼成)する。
この熱処理によりシリカコーティング内で酸化反応が進行して、微細なM元素含有水酸化鉄の微細な粒子が、微細なM置換ε-Feの粒子に変化する。
【0045】
この酸化反応の際に、シリカコートの存在がα-Feやγ-Feの結晶ではなく、ε-Feと空間群が同じであるM置換ε-Fe結晶の生成に寄与するとともに、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。また、適量のアルカリ土類金属が共存していると、粒子形状がロッド状に成長しやすい。
【0046】
また、前述の通り、特開2008-174405号公報に開示されるような、直接合成法とゾル-ゲル法とを組み合わせた工程、及び焼成工程によってM置換ε-Fe磁性結晶をより経済的に有利に合成することができる。
【0047】
簡潔に説明すれば、初めに3価の鉄塩と置換元素M(Ga、Al等)の塩が溶解している水溶媒に、撹拌状態でアンモニア水等の中和剤を添加することで、鉄の水酸化物(一部が別元素で置換されていることもある)からなる前駆体が形成される。
【0048】
その後にゾル-ゲル法を適用し、前駆体粒子表面にシリカの被覆層を形成させる。このシリカ被覆粒子を液から分離した後に、所定の温度で熱処理(焼成)を行うと、M置換ε-Fe磁性結晶の微粒子が得られる。
【0049】
上記のようなM置換ε-Feの合成において、ε-Fe結晶と空間群や酸化状態を異にする鉄酸化物結晶(不純物結晶)が生成する場合がある。Feの組成を有しながら結晶構造が異なる多形(polymorphism)には最も普遍的なものとしてα-Fe及びγ-Feがある。その他の鉄酸化物としてはFeO、Fe等が挙げられる。
このような不純物結晶の含有は、M置換ε-Fe結晶の特性をできるだけ高く引き出す上で好ましいとは言えないが、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。
【0050】
また、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hは、置換元素Mによる置換量に応じて変化する。つまり、M置換ε-Fe磁性結晶における置換元素Mによる置換量を調整することで、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hを調整することができる。
具体的には、例えばAl、Ga等を置換元素Mとして用いた場合には、置換量が増えるほど、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hが低下する。一方、Rh等を置換元素Mとして用いた場合には、置換量が増えるほど、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hは増大する。
置換元素Mによる置換量に応じてM置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hを調整しやすい点からは、置換元素Mとして、Ga、Al、In、Ti、Co及びRhが好ましい。
【0051】
そして、この保磁力Hの低下に伴い、イプシロン型酸化鉄の電磁波吸収量が最大となるピークの周波数も低周波数側あるいは高周波数側にシフトする。つまり、M元素の置換量により電磁波吸収量のピークの周波数をコントロールすることができる。
【0052】
一般的に用いられている電磁波吸収体の場合、電磁波の入射角度や周波数が設計した値から外れてしまうと吸収量がほとんどゼロになる。これに対し、イプシロン型酸化鉄を用いた場合、少し値が外れても、広い周波数範囲及び電磁波入射角度で電磁波吸収を呈する。このため、幅広い周波数帯域の電磁波を吸収可能な複合層を提供することができる。
【0053】
イプシロン型酸化鉄の粒子径について、例えば上記工程において熱処理(焼成)温度を調整することによりコントロール可能である。
前述の逆ミセル法とゾル-ゲル法を組み合わせた手法や、特開2008-174405号公報に開示される直接合成法とゾル-ゲル法を組み合わせた手法によれば、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径として、5nm以上200nm以下の範囲の粒子径を有するイプシロン型酸化鉄の粒子を合成することが可能である。イプシロン型酸化鉄の平均粒子径は、10nm以上がより好ましく、20nm以上がより好ましい。
なお、数平均粒子径である平均粒子径を求める際、イプシロン型酸化鉄の粒子がロッド状である場合、TEM画像上で観察される粒子の長軸方向の径を当該粒子の径として平均粒子径を算出する。平均粒子径を求める際の、計測対象の粒子数は平均値を算出に当たり十分に多い数であれば特に限定されないが、300個以上であるのが好ましい。
【0054】
また、ゾル-ゲル法で水酸化鉄微粒子の表面にコーティングされたシリカコートが、熱処理(焼成)後のM置換ε-Fe磁性結晶の表面に存在することがある。結晶の表面にシリカのような非磁性化合物が存在する場合、磁性結晶の取り扱い性や、耐久性、耐候性等が向上する点で好ましい。
非磁性化合物の好適な例としては、シリカのほか、アルミナやジルコニア等の耐熱性化合物が挙げられる。
【0055】
ただし、非磁性化合物の付着量があまり多いと、粒子同士が激しく凝集する場合があり好ましくない。
非磁性化合物がシリカである場合、M置換ε-Fe磁性結晶におけるSiの質量は、M置換ε-Fe磁性結晶における置換元素Mの質量と、Feの質量との合計に対して、100質量%以下であるのが好ましい。
M置換ε-Fe磁性結晶に付着したシリカの一部又は大部分は、アルカリ溶液に浸す方法によって除去できる。シリカ付着量はこのような方法で任意の量に調整可能である。
【0056】
複合層の比透磁率は特に限定されないが、1.0以上1.5以下が好ましい。複合層の比透磁率を調整する方法は特に限定されない。複合層の比透磁率の調整方法としては、イプシロン型酸化鉄における置換元素Mによる置換量を調整する方法、複合層におけるイプシロン型酸化鉄と、イプシロン型酸化鉄以外の他の磁性体の含有量を調整する方法等が挙げられる。
【0057】
複合層におけるイプシロン型酸化鉄の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。磁性体の含有量は、複合層の固形分質量に対して、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましく、60質量%以上91質量%以下が最も好ましい。
【0058】
(バインダー樹脂)
電磁波吸収材料は、典型的にはバインダー樹脂を含む。バインダー樹脂を用いることにより、バインダー樹脂中にイプシロン型酸化鉄やその他の磁性体が良好に分散する。また、電磁波吸収材料がバインダー樹脂を含むことにより、所望する形状の複合層の形成が容易である。
【0059】
バインダー樹脂は、例えば、エラストマーやゴムのような弾性材料であってもよい。また、バインダー樹脂は、熱可塑性樹脂であっても硬化性樹脂であってもよい。バインダー樹脂が硬化性樹脂である場合、硬化性樹脂は、光硬化性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。
【0060】
バインダー樹脂が熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、セルロース樹脂(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース)、(メタ)アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、及びポリスチレン等が挙げられる。
【0061】
バインダー樹脂が熱硬化性樹脂である場合の好適な例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、種々のビニルモノマーや、種々の(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和結合を有する単量体を光硬化させた樹脂を用いることができる。
【0062】
バインダー樹脂が弾性材料である場合の好適な例としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、及びポリウレタン系エラストマー等が挙げられる。
【0063】
また、バインダー樹脂としては、芳香族エステル-ウレタン共重合体を用いるのが好ましい。バインダー樹脂として芳香族エステル-ウレタン共重合体を用いることによって、イプシロン型酸化鉄や他の磁性体をバインダー樹脂中に良好に分散させつつ、薄くても優れた電磁波吸収特性を示す、フィルム状の電磁波吸収体を形成できる。
【0064】
また、バインダー樹脂として芳香族エステル-ウレタン共重合体を用いる場合、複合層に折り曲げ時や切断時のクラック耐性や、低反り性を付与することができる。
複合層のクラック耐性や低反り性が良好である点からは、バインダー樹脂のガラス転移温度は、100℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。このため、芳香族エステル-ウレタン共重合体のガラス転移温度も、100℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。
【0065】
芳香族エステル-ウレタン共重合体は、エステル結合(-CO-O-)と、ウレタン結合(-NH-CO-O-)とを含み、且つ主鎖骨格中に芳香族基を含む共重合体である。
主鎖骨格中の芳香族基は、芳香族炭化水素基であっても、複素環式芳香族基であってもよく、芳香族炭化水素基が好ましい。芳香族エステル-ウレタン共重合体は、分子鎖中にエステル結合と、ウレタン結合とがランダムに導入されたランダム共重合体であってもよく、1以上のエステルブロックと、1以上のウレタンブロックとからなるブロック共重合体であってもよい。
【0066】
芳香族エステル-ウレタン共重合体の製造方法は特に限定されない。芳香族エステル-ウレタン共重合体は、典型的には、ジオール成分(a1)、ジカルボン酸(a2)、ヒドロキシカルボン酸成分(a3)、及びジイソシアネート成分(a4)からなる群より選択される1種以上の単量体を、一段階、又は多段階で重合させることにより製造することができる。
【0067】
ジカルボン酸成分(a2)及びヒドロキシカルボン酸成分(a3)は、メチルエステルやエチルエステル等のエステル誘導体、カルボン酸クロリド等のカルボン酸ハライド等のエステル又はウレタン形成性の誘導体として使用されてもよい。
【0068】
芳香族エステル-ウレタン共重合体の製造に用いられる上記のモノマーは、非分岐構造の2価の炭化水素基に、水酸基、カルボキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される2つの官能基が結合した化合物であるのが好ましい。
非分岐構造の2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、又はこれらの基の組み合わせが挙げられる。アルキレン基、アルケニレン基、及びアルキニレン基は、直鎖構造であるのが好ましい。
【0069】
非分岐構造の2価の炭化水素基がアルキレン基、アルケニレン基、又はアルキニレン基である場合、これらの基の炭素原子数は、1以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。
【0070】
非分岐構造の2価の炭化水素基がアリーレン基である場合、当該アリーレン基としては、フェニレン基、及びナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましく、p-フェニレン基がさらに好ましい。
【0071】
以上説明した非分岐構造の2価の炭化水素基の中では、アルキレン基、及びアリーレン基、並びにアルキレン基とアリーレン基との組み合わせが好ましい。
【0072】
ジオール成分(a1)の好適な具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、及び1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。
ジカルボン酸(a2)の好適な具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、シュウ酸、及びマロン酸等が挙げられる。
ヒドロキシカルボン酸成分(a3)の好適な具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸、グリコール酸、乳酸、及びγ-ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。
ジイソシアネート成分(a4)の好適な具体例としては、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシネナート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、及び1,5-ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0073】
芳香族エステル-ウレタン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000以上500000以下が好ましく、10000以上200000以下がより好ましい。本出願の明細書において、重量平均分子量(Mw)とは、GPCにより測定したポリスチレン換算による重量平均分子量である。
【0074】
芳香族エステル-ウレタン共重合体の市販品としては、バイロンシリーズ(商品名)(東洋紡(株)製)等が挙げられる。より具体的には、バイロンUR-1400、バイロンUR-1410、バイロンUR-1700、バイロンUR-2300、バイロンUR-3200、バイロンUR-3210、バイロンUR-3500、バイロンUR-6100、バイロンUR-8300、及びバイロンUR-8700等を好ましく用いることができる。
【0075】
電磁波吸収材料におけるバインダー樹脂の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。電磁波吸収材料は、複合層の固形分質量に対して、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下のバインダー樹脂を含む。
【0076】
(誘電体)
電磁波吸収材料は、複合層の比誘電率を調製する目的で、誘電体を含んでいてもよい。複合層中の誘電体の含有量を調整することにより、複合層の比誘電率を調整できる。
複合層の比誘電率としては特に制限はないが、6.5以上65以下であることが好ましく、10以上50以下であることがより好ましく、15以上30以下であることがさらに好ましい。
【0077】
誘電体の好適な例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、及び二酸化チタンが挙げられる。電磁波吸収材料は、複数の種類の誘電体の粉末を組み合わせて含んでいてもよい。
【0078】
複合層の比誘電率の調整に用いられる誘電体の粉末の粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。誘電体の粉末の平均粒子径は、1nm以上100nm以下が好ましく、5nm以上50nm以下がより好ましい。ここで、誘電体の粉末の平均粒子径は、電子顕微鏡により観察される、誘電体の粉末の一次粒子の数平均径である。
【0079】
誘電体の粉末を用いて複合層の比誘電率を調整する場合、複合層各々の比誘電率が所定の範囲内である限り、誘電体の粉末の使用量は特に限定されない。誘電体の粉末の使用量は、複合層の固形分質量に対して、0質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0080】
(カーボンナノチューブ)
電磁波吸収材料にカーボンナノチューブを含有させることにより複合層の比誘電率を調整することができる。カーボンナノチューブは、上記の誘電体の粉末と併用してもよい。
【0081】
電磁波吸収材料へのカーボンナノチューブの配合量は、複合層の比誘電率が上記の所定の範囲内である量であれば特に限定されない。ただし、カーボンナノチューブは導電性材料でもあるため、カーボンナノチューブの使用量が過多であると、複合層によりもたらされる電磁波吸収特性が損なわれる場合がある。
カーボンナノチューブの使用量は、複合層の固形分質量に対して、0質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0082】
〔熱伝導性材料〕
熱伝導性材料は、当業者に高い熱伝導性を有する材料として認識されている材量であれば特に限定されない。
例えば、熱伝導性材料の熱伝導率は、15W/m・K以上が好ましく、20W/m・K以上がより好ましく、50W/m・K以上がさらに好ましく、200W/m・K以上が特に好ましい。
【0083】
例えば、15W/m・K以上の熱伝導率を示す物質としては、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及び窒化ホウ素が挙げられる。これらの熱伝導性材料は2種以上組み合わせて使用されてもよい。これらの中では、入手が容易で、放熱性、及び電磁波吸収特性に優れる電磁波吸収体を得やすいことからアルミナ、及び炭化ケイ素が好ましい。
【0084】
熱伝導性材料の形状は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。熱伝導性材料は、粒状、又は鱗片状の粉体であるのが好ましい。このような形状の熱伝導性材料はアスペクト比が小さく、複合層中で配向しにくい。このため、粒状、又は鱗片状の粉体である熱伝導性材料を用いると、熱伝導性材料の配向に起因する複合層の折れ、割れ、裂け等を抑制しやすい。
熱伝導性材料のアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)は、6未満が好ましく、5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。熱伝導性材料の平均長軸長さ、及び平均短軸長さは、例えばマイクロスコープ観察や、SEM観察等により数平均長として求めることができる。
また、粒状の熱伝導性材料と、鱗片状の熱伝導性材料とを組み合わせて用いることにより、電磁波吸収体の熱拡散率を高めやすい。
特に、粒状のアルミナと、鱗片状の窒化ホウ素とをも組み合わせて用いると、熱拡散率のみならず熱伝導率も顕著に高まる傾向がある。
粒状の熱伝導性材料と、鱗片状の熱伝導性材料とを組み合わせて用いる場合、粒状の熱伝導性材料の質量と、鱗片状の熱伝導性材料の質量との合計に対する鱗片状の熱伝導性材料の質量の比率は、熱伝導性の改良効果と、電磁波吸収体形成用ペーストの成膜性との両立の点で、7質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましく、15質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。
【0085】
上記の粒状、又は鱗片状の粉体である熱伝導性材料は、電磁波吸収体の放熱性が良好である観点から、前述の電磁波吸収材料からなるマトリックス中に分散しているのが好ましい。
【0086】
熱伝導性材料の使用量は特に限定されず、電磁波吸収体の所望する放熱性能の水準に合わせて適宜調整される。典型的には、複合層が、電磁波吸収材料100質量部に対して、好ましくは30質量部以上300質量部以下、より好ましくは40質量部以上200質量部以下の熱伝導性材料を含むように、熱伝導性材料が使用されるのが好ましい。
【0087】
〔その他の成分〕
複合層は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記の成分以外の種々の添加剤を含んでいてもよい。複合層が含み得る添加剤としては、分散剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、及び界面活性剤等が挙げられる。これらの添加剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、それらが従来使用される量を勘案して使用される。
【0088】
以上説明した、電磁波吸収材料と、熱伝導性材料と、必要に応じてその他の成分とを、例えば後述する電磁波吸収体形成用ペーストを用いる方法により、複合化しつつ製膜することによって、高周波帯域における良好な電磁波吸収特性と、良好な放熱性とを両立し得る電磁波吸収体として用いることができる複合層が得られる。
【0089】
<基材層>
前述の複合層は、基材層上に積層されてもよい。基材層としては、本発明の効果を損なわない限り任意の基材を含む層であってよいが、例えば、樹脂を含む層等が挙げられる。
上記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエーテルスルフォン、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れ、寸法安定性とコストとのバランスがよいことからPETが好ましい。
【0090】
基材層の形状は、曲面を有していてもよく、平面のみから構成されていてもよく、平板状が好ましい。
基材層の厚さとしては、本発明の効果を損なうことなく、該フィルムを薄くしたり小型化したりする観点から、800μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましく、150μm以下が特に好ましい。
基材層の厚さの下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、1μm以上、10μm以上、50μm以上等が挙げられる。
【0091】
<金属層>
電磁波吸収体が基材層を備える場合、電磁波吸収体において、基材層の複合層が設けられている面と反対側の面には金属層が設けられてもよい。金属層を設ける場合、金属層により反射される電磁波を減衰させることができる。金属層を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、SUS、銅、真鍮、銀、金、及び白金等が好ましい。
金属層の厚さは特に限定されず、電磁波吸収体を薄くする観点から、600μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。
金属層の厚さの下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、0.1μm以上、1μm以上、5μm以上、10μm以上等が挙げられる。
【0092】
以上説明した、所定の成分を含む複合層を、必要に応じて基材層、又は基材層と金属層と組み合わせることにより、高周波帯域における良好な電磁波吸収特性と、良好な放熱性とを両立し得る電磁波吸収体が得られる。
【0093】
以上説明した電磁波吸収体は、携帯電話、無線LAN、ETCシステム、高度道路交通システム、自動車走行支援道路システム、衛星放送等の種々の情報通信システムにおける各種素子(車載素子、高周波アンテナ素子等を含む。)に用いられる電磁波吸収用のフィルムとして好ましく使用し得る。
【0094】
≪電磁波吸収体形成用ペースト≫
電磁波吸収体を形成する方法としては、特に厚さの制限なく高効率で複合層を形成できる点と、基材層上に直接複合層を形成できる点とから、電磁波吸収体形成用ペーストを用いて形成する方法が好ましい。
電磁波吸収体形成用ペーストは、前述の電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とを含む。電磁波吸収体形成用ペーストは、さらに上記バインダー樹脂を含有することが好ましい。電磁波吸収体形成用ペーストは、電磁波吸収材料について前述した、比誘電率、比透磁率等の調整のために添加される物質、及びその他の成分等を含有していてもよい。なお、バインダー樹脂が硬化性樹脂を含む場合、電磁波吸収体形成用ペーストは、硬化性樹脂の前駆体である化合物を含む。この場合、電磁波吸収体形成用ペーストは、硬化剤、硬化促進剤、及び重合開始剤等を必要に応じて含有する。
【0095】
また、電磁波吸収体形成用ペーストが光重合性又は熱重合性の化合物を含む場合、塗布膜に対して、必要に応じて露光又は加熱を行い、複合層を形成してもよい。
【0096】
電磁波吸収体形成用ペーストは、分散媒をさらに含むことが好ましい。分散媒としては、水、有機溶剤、及び有機溶剤の水溶液を用いることができる。分散媒としては、有機成分を溶解させやすい点や、蒸発潜熱が低く乾燥による除去が容易であること等から、有機溶剤が好ましい。
【0097】
分散媒として使用される有機溶剤の好適な例としては、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ピリジン等の含窒素極性溶剤;ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;n-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系アルコール類;酢酸-n-ブチル、酢酸アミル等の飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類;乳酸エチル、乳酸-n-ブチル等の乳酸エステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等のケトン類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、2-メトキシブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、4-メトキシブチルアセテート、2-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-エチル-3-メトキシブチルアセテート、2-エトキシブチルアセテート、4-エトキシブチルアセテート、4-プロポキシブチルアセテート、2-メトキシペンチルアセテート等のエーテル系エステル類等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0098】
電磁波吸収体形成用ペーストの固形分濃度は、電磁波吸収体形成用ペーストを塗布する方法、複合層の厚さ等に応じて適宜調整される。典型的には電磁波吸収体形成用ペーストの固形分濃度は、3質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。なお、ペーストの固形分濃度は、分散媒に溶解していない成分の質量と、分散媒に溶解している成分の質量との合計を固形分の質量として算出される値である。
【0099】
(分散剤)
上記イプシロン型酸化鉄や、複合層の比誘電率及び比透磁率を調整するために用いられる物質を複合層中で良好に分散させる目的で、電磁波吸収体形成用ペーストは分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、上記イプシロン型酸化鉄やバインダー樹脂とともに均一に混合されてもよい。分散剤はバインダー樹脂中に配合されてもよい。また、分散剤により予め処理された、上記イプシロン型酸化鉄、又は比誘電率及び比透磁率を調整するために添加される物質を、複合層を構成する材料に配合してもよい。
【0100】
分散剤の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。従来から種々の無機微粒子や有機微粒子の分散用途で使用されている種々の分散剤の中から、分散剤を選択できる。
【0101】
分散剤の好適な例としては、シランカップリング剤(例えば、フェニルトリメトキシシラン)、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、及びアルミネートカップリング剤等が挙げられる。
【0102】
分散剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。分散剤の含有量は、電磁波吸収体形成用ペーストの固形分質量に対して、0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0103】
≪電磁波吸収体の製造方法≫
前述の電磁波吸収体を製造する方法は、所定の構造の電磁波吸収体を製造できる限り特に限定されない。
好ましい方法としては、基材層上に、電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とを含む前述のペーストを塗布して塗布膜を形成した後、塗布膜を乾燥させて複合層を形成する、複合層形成工程を含む方法が挙げられる。
【0104】
基材層上に電磁波吸収体形成用ペーストを塗布する方法は、所望する厚さの電磁波吸収体を形成できる限り特に限定されない。塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びアプリケーター法等が挙げられる。
上記の方法により形成される塗布膜を乾燥させて分散媒を除去することで基材層上に複合膜を形成し、これにより電磁波吸収体が得られる。塗布膜の膜厚は、乾燥後に得られる複合膜の厚さが所望の厚さになるように適宜調整される。
乾燥方法は、特に限定されず、例えば、(1)ホットプレートにて80℃以上180℃以下、好ましくは90℃以上160℃以下の温度にて1分間以上30分間以下乾燥させる方法、(2)室温にて数時間~数日間放置する方法、(3)温風ヒータや赤外線ヒータ中に数十分間~数時間入れて溶剤を除去する方法等が挙げられる。
【0105】
電磁波吸収体の製造方法は、複合層形成工程で得られた、複合層、又は基材層と複合層とを備える積層体を切断して、予め定められたサイズの電磁波吸収体を取得する、切断工程を含んでいてもよい。
前述の通り、電磁波吸収体は、電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とからなる複合層を備えるため、高周波帯域における良好な電磁波吸収特性と、良好な放熱性とを両立し得る。
【実施例0106】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0107】
〔実施例1〕
(電磁波吸収体形成用ペーストの調製)
分散媒であるTMU25.1質量部に対して、電磁波吸収材料としての下記イプシロン型酸化鉄39質量部、下記カーボンナノチューブ(CNT)2.4質量部、及びバインダー樹脂8.6質量部と、熱伝導材料としての粒状のアルミナ粉末21.4質量部とを加えた。バインダー樹脂は、下記バインダー樹脂溶液として加えた。自転・公転ミキサーにより撹拌して、各成分を均一に溶解又は分散させて電磁波吸収体形成用ペーストを得た。
【0108】
イプシロン型酸化鉄としてε-Ga0.45Fe1.55を用いた。イプシロン型酸化鉄の平均粒子径は、20nm以上30nm以下であった。
CNTとしては、長径150nmの多層カーボンナノチューブ(商品名VGCF-H;昭和電工社製)を用いた。
分散剤としては、フェニルトリメトキシシランを用いた。
バインダー樹脂溶液として、芳香族エステル-ウレタン共重合体(東洋紡(株)製、バイロンUR-3210、ガラス転移温度-3℃、重量平均分子量40000、樹脂5質量部及びメチルエチルケトン15質量部からなる)を用いた。
【0109】
(電磁波吸収体フィルムの製造)
PETフィルム(厚さ125μm)に上記電磁波吸収体形成用ペーストを用いてアプリケーターにより塗布した。その後、塗布膜を90℃10分及び130℃10分の条件で乾燥させて、厚さ35μmの複合層を形成し、フィルム状の電磁波吸収体を得た。乾燥直後に得られたフィルム状の電磁波吸収体を5cm角の正方形形状に切断して、以下の評価用の試験片を作製した。
【0110】
<反射減衰量>
5cm角の正方形のフィルム状の電磁波吸収体の試料をアルミニウム板上に貼り付けた。アルミニウム板上の測定用試料に対して、40~120GHzの電磁波を入射させ、その反射減衰量をテラヘルツ時間領域分光装置(アドバンテスト社製)を用いて測定した。
周波数fにおける反射減衰量RL(f)は、RL(f)=-10Log(R(f)/100)で求められる。ここで、R(f)は反射率(%)である。
周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、実施例1のフィルム状の電磁波吸収体の反射減衰量(Reflectance(dB))を図1に示す。
【0111】
<熱伝導率、及び熱拡散率>
得られたフィルム状の電磁波吸収体について、下記の方法により熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
熱拡散率については、周期加熱法により測定を行った。具体的には、アルバック理工社製の周期加熱法熱拡散率測定装置(FTC-1型)を用いて、熱拡散率の測定を行った。
熱伝導率λは、上記方法により測定された熱拡散率αに基づき、以下の式から算出した。なお、下記式に適用する比熱Cρは、測定温度25℃にて、日立ハイテクサイエンス社製(X-DSC 7000型)を用いてDSC法により測定した。
λ=α×Cρ×ρ×100
λ:熱伝導率(W/(m・K))
α:熱拡散率(cm/s)
ρ:比熱(J/(g・K))
ρ:密度(g/cm
【0112】
〔実施例2〕
TMUの添加量を35質量部へ変更することと、粒状のアルミナ粉末の使用量を50質量部に変更することの他は、実施例1と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0113】
〔実施例3〕
分散媒であるTMU35質量部に対して、電磁波吸収材料としてのイプシロン型酸化鉄29.5質量部、カーボンナノチューブ(CNT)2.5質量部、及びバインダー樹脂13質量部と、熱伝導材料としての粒状のアルミナ粉末55質量部とを加えた。バインダー樹脂は、下記バインダー樹脂溶液として加えた。自転・公転ミキサーにより撹拌して、各成分を均一に溶解又は分散させて電磁波吸収体形成用ペーストを得た。得られた電磁波吸収体形成用ペーストを用いて、実施例1と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図2に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0114】
〔実施例4〕
粒状のアルミナ粉末55質量部を、粒状のアルミナ粉末50質量部、及び鱗片状の窒化ホウ素粉末5質量部に変えることの他は、実施例3と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図3に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0115】
〔実施例5〕
粒状のアルミナ粉末55質量部を、粒状のアルミナ粉末45質量部、及び鱗片状の窒化ホウ素粉末10質量部に変えることの他は、実施例3と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図4に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0116】
〔実施例6〕
粒状のアルミナ粉末55質量部を、粒状のアルミナ粉末40質量部、及び鱗片状の窒化ホウ素粉末15質量部に変えることの他は、実施例3と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図5に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0117】
〔実施例7〕
粒状のアルミナ粉末55質量部を、粒状のアルミナ粉末35質量部、及び鱗片状の窒化ホウ素粉末20質量部に変えることの他は、実施例3と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図6に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0118】
〔実施例8〕
粒状のアルミナ粉末を、粒状の炭化ケイ素粉末に変更することの他は、実施例2と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図7に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0119】
〔実施例9〕
粒状のアルミナ粉末50質量部を、粒状の炭化ケイ素粉末40質量部と、鱗片状の窒化ホウ素粉末10質量部とに変更することの他は、実施例2と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図8に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0120】
〔実施例10〕
粒状のアルミナ粉末を、鱗片状の窒化ホウ素粉末に変更することの他は、実施例2と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして、周波数(Frequency)40~120GHzの範囲における、反射減衰量(Reflectance(dB))を測定した。測定結果を図9に示す。また、得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0121】
〔比較例1〕
粉末状のアルミナを用いないことの他は、実施例1と同様にしてフィルム状の電磁波吸収体を得た。得られたフィルム状の電磁波吸収体について、実施例1と同様にして熱伝導率、及び熱拡散率を測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1、及び図1図9によれば、電磁波吸収材料と、熱伝導性材料とからなる複合層を備え、電磁波吸収材料が、所定のイプシロン型酸化鉄を含む、上記実施例1~10の電磁波吸収体は、高周波帯域における良好な電磁波吸収特性と、良好な放熱性とを両立できることが分かる。
他方、比較例1より、電磁波吸材料が熱伝導性材料を含まない場合、電磁波吸収体の熱拡散率及び熱伝導率が低いことが分かる。
また、実施例8と実施例9との比較、並びに実施例2及び実施例3と、実施例4~7との比較によれば、粒状の熱伝導性材料と、鱗片状の熱伝導性材料とを組み合わせて使用することにより、粒状の熱伝導性材料のみを用いるよりも熱拡散率が高まることが分かる。
特に、実施例2及び実施例3と、実施例4~7との比較によれば、粒状のアルミナ粉末と、鱗片状の窒化ホウ素粉末とを組み合わせて使用することにより、粒状のアルミナ粉末のみを用いる場合よりも、熱拡散率と熱伝導率とを顕著に高められることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9