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特開2024-118138数モードマルチコア光ファイバ及び光伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118138
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】数モードマルチコア光ファイバ及び光伝送システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20240823BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20240823BHJP
   H04J 14/04 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
G02B6/02 461
G02B6/036
H04J14/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024399
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 悠途
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】森 崇嘉
(72)【発明者】
【氏名】岩屋 太郎
(72)【発明者】
【氏名】今田 諒太
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝憲
【テーマコード(参考)】
2H250
5K102
【Fターム(参考)】
2H250AC64
2H250AC83
2H250AC94
2H250AC95
2H250AD14
2H250AD33
2H250AE25
2H250AE64
2H250AE72
2H250AE73
2H250AH22
5K102AD00
5K102PA11
5K102PA16
5K102PH49
5K102PH50
(57)【要約】
【課題】マイクロベンド損失を抑制することができ、低損失性を維持できる数モードマルチコア光ファイバ及び光伝送システムを提供する。
【解決手段】数モードマルチコア光ファイバは、光波モードが伝搬する、少なくとも2つ以上のコア領域と、コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、全てのコア領域を包含するように配置されたディプレスト領域と、ディプレスト領域の屈折率以上、且つ、コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、ディプレスト領域を囲むように配置されたクラッド領域と、を備える。そして、波長1625nmにおいて、光波モードのうち最高次のモードにおける実効屈折率と、クラッド領域の伝搬モードにおける実効屈折率の間の差分が、0.0021以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光波モードが伝搬する、少なくとも2つ以上のコア領域と、
前記コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、全ての前記コア領域を包含するように配置されたディプレスト領域と、
前記ディプレスト領域の屈折率以上、且つ、前記コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、前記ディプレスト領域を囲むように配置されたクラッド領域と、
を備え、
波長1625nmにおいて、前記光波モードのうち最高次のモードにおける実効屈折率と、前記クラッド領域の伝搬モードにおける実効屈折率の間の差分が、0.0021以上である、数モードマルチコア光ファイバ。
【請求項2】
前記クラッド領域の直径が126μm以下であって、
前記ディプレスト領域に対する前記コア領域の比屈折率差をΔとし、
前記ディプレスト領域に対する前記クラッド領域の比屈折率差をΔとし、
前記差分をΔneff_clとして、
【数1】
を満たす、請求項1に記載の数モードマルチコア光ファイバ。
【請求項3】
前記コア領域の半径をa(単位μm)とし、
前記コア領域の中心から前記ディプレスト領域の外形面までの距離をw(単位μm)とし、
前記コア領域の中心から前記クラッド領域の外形面までの距離をτ(単位μm)として、
2.5≦w/a≦3.5、かつ、τ≧29.3μmにおいて、
【数2】
を満たす、請求項2に記載の数モードマルチコア光ファイバ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の数モードマルチコア光ファイバと、
信号光を生成する送信機と、
前記信号光を前記光波モードに変換するモード合波器と、
前記数モードマルチコア光ファイバの一端側に配置され、前記光波モードを含む入力光を前記コア領域に入力する光結合部と、
前記数モードマルチコア光ファイバの他端側に配置され、前記コア領域からの出力光を抽出する光抽出部と、
前記出力光から前記光波モードを分離して前記信号光を取り出すモード分離器と、
前記モード分離器からの前記信号光を受信する受信機と、
を備える光伝送システム。
【請求項5】
少なくとも4台の前記送信機と、
少なくとも2台の前記モード合波器と、
を備え、
各モード合波器は、少なくとも2つ以上の前記信号光を、それぞれ前記光波モードに変換する、請求項4に記載の光伝送システム。
【請求項6】
少なくとも4台の前記受信機と、
少なくとも2台の前記モード分離器と、
を備え、
各モード分離器は、少なくとも2つ以上の前記光波モードを、それぞれ前記信号光に変換する、請求項4に記載の光伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、数モードマルチコア光ファイバ及び光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
将来の大容量光ネットワーク実現に向けて空間分割多重技術の研究が盛んに行われている。空間分割多重技術は1本の光ファイバに複数の空間チャネル(コア、モード)を収める技術であり、従来の光ファイバと比較して光ファイバ1本当たりの伝送容量の飛躍的な向上が期待されている。
【0003】
非特許文献1には、複数のコアを有するマルチコア光ファイバの構造であって、製造性および既存設備との整合性の観点から、標準光ファイバと同等の直径125μmのクラッド(標準クラッド)に単一モードが伝搬可能な同種コアを配置する構造が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、更なる伝送容量拡大に向けて、直径125μmのクラッドに、3モードが伝搬可能な同種コアを配置した数モードマルチコア光ファイバが開示されている。
【0005】
非特許文献3には、汎用的な単一モードコアの光ファイバと比較して、数モードコアの光ファイバでは、マイクロベンド損失が増大する傾向にあることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Matsui et al., "Design of 125μm cladding multi-core fiber with full-band compatibility to conventional single-mode fiber," 2015 European Conference on Optical Communication (ECOC), Valencia, Spain, 2015, pp. 1-3, doi: 10.1109/ECOC.2015.7341966.
【非特許文献2】Y. Sagae et al., “A 125-μm Cladding Diameter Uncoupled 3-mode 4-core Fibre with the Highest Core Multiplicity Factor," 2022 European Conference on Optical Communication (ECOC), 2022, Tu3A.2
【非特許文献3】P. Sillard et al., “Micro-bend-Resistant Low-Differential-Mode-Group-Delay Few-Mode Fibers," Journal of lightwave technology, vol. 35, no. 4, pp. 734-740, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2に記載された技術によれば、共通ディプレスト構造を利用して標準クラッド径に3モードコアを4つ配置している。しかしながら、マイクロベンド損失を抑制可能な構造は明らかではなく、依然として、数モードコアの光ファイバにおいてマイクロベンド損失が増大する傾向にあるという問題がある。
【0008】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものである。その目的とするところは、マイクロベンド損失を抑制することができ、低損失性を維持できる数モードマルチコア光ファイバ及び光伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本開示の一態様に係る数モードマルチコア光ファイバは、光波モードが伝搬する、少なくとも2つ以上のコア領域と、コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、全てのコア領域を包含するように配置されたディプレスト領域と、ディプレスト領域の屈折率以上、且つ、コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、ディプレスト領域を囲むように配置されたクラッド領域と、を備える。そして、波長1625nmにおいて、光波モードのうち最高次のモードにおける実効屈折率と、クラッド領域の伝搬モードにおける実効屈折率の間の差分が、0.0021以上である。
【0010】
また、本開示の一態様に係る光伝送システムは、本開示の数モードマルチコア光ファイバと、信号光を生成する送信機と、信号光を光波モードに変換するモード合波器と、数モードマルチコア光ファイバの一端側に配置され、光波モードを含む入力光をコア領域に入力する光結合部と、数モードマルチコア光ファイバの他端側に配置され、コア領域からの出力光を抽出する光抽出部と、出力光から光波モードを分離して信号光を取り出すモード分離器と、モード分離器からの信号光を受信する受信機と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、マイクロベンド損失を抑制することができ、低損失性を維持できる数モードマルチコア光ファイバ及び光伝送システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバの構造を示す断面図である。
図2図2は、本開示の実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバにおける屈折率分布の一例を示す図である。
図3図3は、比屈折率差に関する構造条件を示す図である。
図4図4は、実効屈折率差と構造条件に現れる第1パラメータの態様を示す図である。
図5図5は、実効屈折率差と構造条件に現れる第2パラメータの態様を示す図である。
図6図6は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第1パターン)を示す図である。
図7図7は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第2パターン)を示す図である。
図8図8は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第3パターン)を示す図である。
図9図9は、カットオフ波長の形状依存性に現れる第3パラメータの態様を示す図である。
図10図10は、カットオフ波長の形状依存性に現れる第4パラメータの態様を示す図である。
図11図11は、漏洩損失の形状依存性に現れる第5パラメータの態様を示す図である。
図12図12は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第4パターン)を示す図である。
図13図13は、コア領域の中心からクラッド領域の外形面までの距離に関する設計可能領域を示す図である。
図14図14は、漏洩損失の形状依存性に現れる第6パラメータの態様を示す図である。
図15図15は、漏洩損失の形状依存性に現れる第7パラメータの態様を示す図である。
図16図16は、実効屈折率差の形状依存性を示す図である。
図17図17は、本開示の実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバを用いた光伝送システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して、本開示の実施の形態を詳細に説明する。説明において、同一のものには同一符号を付して重複説明を省略する。
【0014】
[1.数モードマルチコア光ファイバの構成]
図1は、本開示の実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバの構造を示す断面図である。図1では、数モードマルチコア光ファイバFBの延在する方向(中心軸の方向)に直交する断面での断面図が示されている。数モードマルチコア光ファイバFBは、光波モードが伝搬するコア領域10と、ディプレスト領域20と、クラッド領域30と、を備える。
【0015】
数モードマルチコア光ファイバFBは、少なくとも2つ以上のコア領域10を備えるものであってもよい。図1では、4つのコア領域10が配置される例が示されている。なお、数モードマルチコア光ファイバFBが有するコア領域10の数、及び、配置は、図1に示す例に限定されない。例えば、数モードマルチコア光ファイバFBは、2つ以上の任意の個数のコア領域10を有するものであってもよい。また、数モードマルチコア光ファイバFBにおいて、複数のコア領域10は、円環状に配置されていてもよいし、六方最密配置で配置されていてもよい。
【0016】
数モードマルチコア光ファイバFB内を伝搬する光線は、コア領域10における全反射の繰り返しによって伝搬する。ここで、光線の傾きは任意の値が許されるものではなく、特別の角度を有する光線のみが伝搬可能となる。このような光線の形態を光波モードと呼ぶ。コア領域10を伝搬可能な光波モードは、例えば電磁界解析によって求めることができる。
【0017】
例えば、光波モードには、直線偏光モード(Linearly Polarized mode)が存在する。直線偏光モードは、「LPml」の形式で表現される。ここで、「m」は、コア領域10を伝搬する光線の横方向電界の強度分布の角度方向の変化の様子を示すモード次数であり、「l」は、コア領域10を伝搬する光線の横方向電界の強度分布の半径方向の変化の様子を示すモード次数である。
【0018】
本実施形態では、コア領域10は、少なくとも2つ以上の光波モードを有するものとする。例えば、コア領域10は、「LP01」および「LP11」を光波モードとして有する。コア領域10が有する光波モードは、ここに挙げた例に限定されない。
【0019】
ディプレスト領域20は、数モードマルチコア光ファイバFBに配置された全てのコア領域10を包含するように配置される。ディプレスト領域20は、コア領域10の屈折率未満の屈折率を有する。例えば、ディプレスト領域20の断面形状は円形である。
【0020】
クラッド領域30は、ディプレスト領域20を囲むように配置される。例えば、クラッド領域30の断面形状は円形であり、ディプレスト領域20の外形面の中心軸とクラッド領域30の外形面の中心軸は、共通であってもよい。つまり、クラッド領域30は、ディプレスト領域20の同軸上に配置されてもよい。
【0021】
また、クラッド領域30は、ディプレスト領域20の屈折率以上、且つ、コア領域10の屈折率未満の屈折率を有する。
【0022】
以下の説明のため、コア領域10の半径を「a」(単位μm)とする。コア領域10の中心からディプレスト領域20の外形面までの距離を「w」(単位μm)とする。コア領域10の中心からクラッド領域30の外形面までの距離を「τ」(単位μm)とする。また、ディプレスト領域20に対するコア領域10の比屈折率差をΔとする。ディプレスト領域20に対するクラッド領域30の比屈折率差をΔとする。
【0023】
図2は、本開示の実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバにおける屈折率分布の一例を示す図である。図2では、縦軸に、ディプレスト領域20に対する比屈折率差を示し、横軸に、径方向の位置を示す。例えば、図1において数モードマルチコア光ファイバFBの中心軸を通る断面における比屈折率差の分布は、図2のように示される。
【0024】
以下、説明のため、図1図2に示される数モードマルチコア光ファイバFBの構成において、コア領域10を伝搬する光波モードのうち最高次のモードにおける実効屈折率と、クラッド領域30の伝搬モードにおける実効屈折率の差分をΔneff_clとする。
【0025】
ここで、非特許文献3によれば、「Δneff_cl」とマイクロベンド損失の間に、強い相関があることが報告されている。そこに着目し、本願の発明者は、「Δneff_cl≧0.0021」という条件が満たされる場合に、マイクロベンド損失を抑制可能であるとの知見を得た。マイクロベンド損失を抑制できる理由を以下で、説明する。
【0026】
[2.実効屈折率の差分の観点からの構造条件]
「Δneff_cl≧0.0021」という条件を満たすために「Δ」及び「Δ」に課せられる構造条件を検討するため、種々の数モードマルチコア光ファイバFBに関して、構造計算を実施した。
【0027】
図3は、比屈折率差に関する構造条件を示す図である。図3では、「τ=33.5μm」の場合に、波長1625nmにおいて、「Δneff_cl=0.0021,0.0024,0.0027,0.0030」となる、「Δ」及び「Δ/Δ」の関係を示している。なお、波長1550nmにおいて光波モードの「LP01」のモードフィールド径(MFD)は、標準単一モード光ファイバと同等の10.0μmとしている。また、クラッド領域30の直径が126μm以下であるとしている。
【0028】
その結果、「Δ」及び「Δ/Δ」の間には次の数式1が成立することが分かった。
【数1】
【0029】
なお、「Δneff_cl」及び数式1に現れる第1パラメータ「K」の間には次の数式2が成立する。図4は、実効屈折率差と構造条件に現れる第1パラメータの態様を示す図である。
【数2】
【0030】
「Δneff_cl」及び数式1に現れる第2パラメータ「K」の間には次の数式3が成立する。図5は、実効屈折率差と構造条件に現れる第2パラメータの態様を示す図である。
【数3】
【0031】
上述した数式1~3に基づくと、「Δneff_cl≧0.0021」とする場合の、「Δ」及び「Δ/Δ」の間の関係は、次の数式4によって表される。
【数4】
【0032】
[3.カットオフ波長及び漏洩損失の観点からの構造条件]
次に、カットオフ波長及び漏洩損失の観点から、「Δ」及び「Δ」に課せられる構造条件を検討するため、種々の数モードマルチコア光ファイバFBに関して、構造計算を実施した。
【0033】
図6は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第1パターン)を示す図である。図6では、「τ=33.5μm」かつ「w/a=2.5」の場合に、光波モードの「LP21」のカットオフ波長「λ」が1530nm以下であって、波長1625nmにおける漏洩損失「α」が0.01dB/km以下となる、「Δ」及び「Δ/Δ」の関係を示している。なお、波長1550nmにおいて光波モードの「LP01」のモードフィールド径(MFD)は、標準単一モード光ファイバと同等の10.0μmとしている。
【0034】
図6において、実線は「λ」に関する条件によって定まる境界線であり、破線は「α」に関する条件によって定まる境界線である。そして、図6の斜線で示された領域が、利用可能な条件を示す。図6の実線、及び、破線は、次の数式5によって表される。
【数5】
【0035】
図7は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第2パターン)を示す図である。図6に示す場合とは異なり、図7は、「w/a=3.0」の場合における、「Δ」及び「Δ/Δ」の関係を示している。
【0036】
図7において、実線は「λ」に関する条件によって定まる境界線であり、破線は「α」に関する条件によって定まる境界線である。そして、図7の斜線で示された領域が、利用可能な条件を示す。図7の実線、及び、破線は、次の数式6によって表される。
【数6】
【0037】
図8は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第3パターン)を示す図である。図6に示す場合とは異なり、図8は、「w/a=3.5」の場合における、「Δ」及び「Δ/Δ」の関係を示している。
【0038】
図8において、実線は「λ」に関する条件によって定まる境界線であり、破線は「α」に関する条件によって定まる境界線である。そして、図8の斜線で示された領域が、利用可能な条件を示す。図7の実線、及び、破線は、次の数式7によって表される。
【数7】
【0039】
よって、図6~8の結果より、「w/a」が「2.5」から「3.5」の範囲における、「λ」と「w/a」の関係は、次の数式8によって表されることが分かった。
【数8】
【0040】
ここで、「w/a」及び数式8に現れる第3パラメータ「K」の間には次の数式9が成立する。図9は、カットオフ波長の形状依存性に現れる第3パラメータの態様を示す図である。
【数9】
【0041】
また、「w/a」及び数式8に現れる第4パラメータ「K」の間には次の数式10が成立する。図10は、カットオフ波長の形状依存性に現れる第4パラメータの態様を示す図である。
【数10】
【0042】
したがって、光波モードの「LP21」のカットオフ波長「λ」が1530nm以下となる構造条件は、「Δ」、「Δ/Δ」、及び、「w/a」を用いて、次の数式11によって表される。
【数11】
【0043】
さらに、図6~8の結果より、「w/a」が「2.5」から「3.5」の範囲における、「α」と「w/a」の関係は、次の数式12によって表されることが分かった。
【数12】
【0044】
ここで、「w/a」及び数式12に現れる第5パラメータ「K」の間には次の数式13が成立する。図11は、漏洩損失の形状依存性に現れる第5パラメータの態様を示す図である。
【数13】
【0045】
したがって、「τ=33.5μm」において、「λ」が1530nm以下、かつ、「α」が0.01dB/km以下となる、「Δ」、「Δ/Δ」、及び、「w/a」に関する構造条件は、次の数式14によって表される。
【数14】
【0046】
[4.クラッド領域の外形面までの距離の観点からの構造条件]
次に、クラッド領域の外形面までの距離の観点から、「Δ」及び「Δ」に課せられる構造条件を検討するため、種々の数モードマルチコア光ファイバFBに関して、構造計算を実施した。
【0047】
図12は、カットオフ波長及び漏洩損失に関する構造条件(第4パターン)を示す図である。図12では、「τ=30.7μm」かつ「w/a=3.5」の場合に、光波モードの「LP21」のカットオフ波長「λ」が1530nm以下であって、波長1625nmにおける漏洩損失「α」が0.01dB/km以下となる、「Δ」及び「Δ/Δ」の関係を示している。なお、波長1550nmにおいて光波モードの「LP01」のモードフィールド径(MFD)は、標準単一モード光ファイバと同等の10.0μmとしている。
【0048】
図12において、実線は「λ」に関する条件によって定まる境界線であり、破線は「α」に関する条件によって定まる境界線である。そして、図12の斜線で示された領域が、利用可能な条件を示す。図12の実線、及び、破線は、次の数式15によって表される。
【数15】
【0049】
よって、図8及び図12の結果より、コア領域10の中心からクラッド領域30の外形面までの距離に応じて、設計可能領域を定めることができる。図13は、コア領域の中心からクラッド領域の外形面までの距離に関する設計可能領域を示す図である。
【0050】
図13では、「Δ=0.78%」であって、光波モードの「LP21」のカットオフ波長「λ」が1530nmとなる場合の、「Δ/Δ」と「τ」の関係が実線で示されている。また、漏洩損失「α」が0.01dB/kmとなる場合の、「Δ/Δ」と「τ」の関係が破線で示されている。そして、図13の斜線で示された領域が、利用可能な条件を示す。
【0051】
図13の実線により、カットオフ波長「λ」に関する「Δ/Δ」は、有意な「τ」依存性を示していないことが分かる。一方、漏洩損失「α」に関する「Δ/Δ」は、「τ」が減少するのに伴って減少する。そして、「τ<29.3μm」の範囲で設計可能領域が消滅する。
【0052】
「τ」が増加するのに伴って、「Δ/Δ」に関する設計可能領域は拡大する。しかしながら、「τ」が増加するとコア領域10間の距離が小さくなってしまい、コア間クロストークが増大する。一般に、コア間クロストークは受信機において-17dB以下に抑制できるように設計されることが望ましいとされている(次の文献を参照:P. J. Winzer et al., “Penalties from In-Band Crosstalk for Advanced Optical Modulation Formants,”ECOC2011 Tu5B7 (2011))。
【0053】
したがって、「τ≧29.3μm」である領域で、コア間クロストークが光伝送システムの要求レベルに基づいて定まる閾値以下となるように、「τ」が選択されることが望ましい。
【0054】
上述した漏洩損失「α」が0.01dB/kmとなる場合の、「Δ/Δ」と「τ」の関係は、次の数式16によって表される。
【数16】
【0055】
ここで、「τ」及び数式16に現れる第6パラメータ「K」の間には次の数式17が成立する。図14は、漏洩損失の形状依存性に現れる第6パラメータの態様を示す図である。
【数17】
【0056】
また、「τ」及び数式16に現れる第7パラメータ「K」の間には次の数式18が成立する。図15は、漏洩損失の形状依存性に現れる第7パラメータの態様を示す図である。
【数18】
【0057】
以上の結果から、「2.5≦w/a≦3.5」及び「τ≧29.3μm」の範囲で、「λ」が1530nm以下、かつ、「α」が0.01dB/km以下となる、「Δ」、「Δ/Δ」、及び、「w/a」に関する構造条件は、次の数式19によって表される。
【数19】
【0058】
[5.補足]
なお、実効屈折率の差分「Δneff_cl」に関して、コア領域10の中心からクラッド領域30の外形面までの距離「τ」への依存性についても調べた。図16は、実効屈折率差の形状依存性を示す図である。
【0059】
図16では、「Δ=0.78%」及び「Δ/Δ=0.29」における、「Δneff_cl」と「τ」の関係を示している。少なくとも「τ≧29.3μm」の範囲で、「Δneff_cl」は、有意な「τ」依存性を示していない。そのため、上述した、「Δneff_cl」、「Δ」、「Δ/Δ」の関係は、「τ」に依存せずに成立することが分かる。
【0060】
[6.光伝送システムの構成]
図17は、本開示の実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバを用いた光伝送システムの構成を示す図である。光伝送システム100は、本開示の実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバFB、送信機ST、モード合波器MT、光結合部FI、光抽出部FO、モード分離器MR、受信機SRを備える。
【0061】
送信機STは、信号光を生成する。送信機STは複数台であってもよい。特に、送信機STは4台以上であってもよい。
【0062】
モード合波器MTは、信号光を光波モードに変換する。モード合波器MTは複数台であってもよい。各モード合波器MTは、少なくとも2つ以上の信号光を、それぞれ光波モードに変換するものであってもよい。
【0063】
光結合部FIは、数モードマルチコア光ファイバFBの一端側に配置され、光波モードを含む入力光をコア領域10に入力する。光結合部FIは、モード合波器MTと接続され、各モード合波器MTの出力を数モードマルチコア光ファイバFBの各コア領域10に導入するものであってもよい。その他、光結合部FIは、MUX(Multiplexer)であってもよい。MUXとは、複数の入力信号を一つの出力信号に変換する回路である。MUXは、複数の入力信号のうち、一つだけを選択して出力信号とする選択する信号は、選択信号と呼ばれる制御信号によって決定される。
【0064】
光抽出部FOは、数モードマルチコア光ファイバFBの他端側に配置され、コア領域10からの出力光を抽出する。光抽出部FOは、モード分離器MRと接続され、数モードマルチコア光ファイバFBの各コア領域10の出力を各モード合波器MTに導入するものであってもよい。その他、光抽出部FOは、DEMUX(Demultiplexer)であってもよい。DEMUXは、MUXの逆の機能を持ち、一つの入力信号を複数の出力信号に分配する回路である。DEMUXは、入力信号を、選択信号に応じて複数の出力に分配する。
【0065】
モード分離器MRは、出力光から光波モードを分離して信号光を取り出す。モード分離器MRは複数台であってもよい。各モード分離器MRは、少なくとも2つ以上の光波モードを、それぞれ信号光に変換するものであってもよい。
【0066】
受信機SRは、モード分離器MRからの信号光を受信する。受信機SRは複数台であってもよい。特に、受信機SRは4台以上であってもよい。
【0067】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバは、光波モードが伝搬する、少なくとも2つ以上のコア領域と、コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、全てのコア領域を包含するように配置されたディプレスト領域と、ディプレスト領域の屈折率以上、且つ、コア領域の屈折率未満の屈折率を有し、ディプレスト領域を囲むように配置されたクラッド領域と、を備える。そして、波長1625nmにおいて、光波モードのうち最高次のモードにおける実効屈折率と、クラッド領域の伝搬モードにおける実効屈折率の間の差分が、0.0021以上である。
【0068】
これにより、マイクロベンド損失を抑制することができ、低損失性を維持できる数モードマルチコア光ファイバを提供できる。特に、数モードマルチコア光ファイバが配線されてから長期間経過した場合に、マイクロベンドが生じても、マイクロベンドからの通信光の漏洩が抑制される。その結果、配線されてから長期間経過してもマイクロベンド損失が大きくならずに、低損失性を維持できる数モードマルチコア光ファイバを提供できる。
【0069】
また、本実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバは、クラッド領域の直径が126μm以下であって、ディプレスト領域に対する前記コア領域の比屈折率差をΔとし、ディプレスト領域に対する前記クラッド領域の比屈折率差をΔとし、差分をΔneff_clとして、
【数20】
を満たすものであってもよい。
【0070】
これにより、光波モードのうち最高次のモードにおける実効屈折率と、クラッド領域の伝搬モードにおける実効屈折率の間の差分が、0.0021以上となる。その結果、数モードマルチコア光ファイバのマイクロベンド損失を抑制することができ、低損失性を維持できる。特に、コア領域を伝搬する光波モードと、クラッド領域の伝搬モードの結合が抑制され、コア領域を伝搬する光線がクラッド領域を介して漏洩することが抑制される。
【0071】
さらに、本実施形態に係る数モードマルチコア光ファイバは、コア領域の半径をa(単位μm)とし、前記コア領域の中心から前記ディプレスト領域の外形面までの距離をw(単位μm)とし、前記コア領域の中心から前記クラッド領域の外形面までの距離をτ(単位μm)として、2.5≦w/a≦3.5、かつ、τ≧29.3μmにおいて、
【数21】
を満たすものであってもよい。
【0072】
これにより、光波モードの「LP21」のカットオフ波長「λ」が1530nm以下であって、波長1625nmにおける漏洩損失「α」が0.01dB/km以下となる。その結果、数モードマルチコア光ファイバのマイクロベンド損失を抑制することができ、低損失性を維持できる。特に、コア領域を伝搬する光波モードと、クラッド領域の伝搬モードの結合が抑制され、コア領域を伝搬する光線がクラッド領域を介して漏洩することが抑制される。
【0073】
本実施形態に係る光伝送システムは、本開示の数モードマルチコア光ファイバと、信号光を生成する送信機と、信号光を光波モードに変換するモード合波器と、数モードマルチコア光ファイバの一端側に配置され、光波モードを含む入力光をコア領域に入力する光結合部と、数モードマルチコア光ファイバの他端側に配置され、コア領域からの出力光を抽出する光抽出部と、出力光から光波モードを分離して信号光を取り出すモード分離器と、モード分離器からの信号光を受信する受信機と、を備える。
【0074】
これにより、マイクロベンド損失を抑制することができ、低損失性を維持できる数モードマルチコア光ファイバを用いて、長期間にわたって安定して光伝送のサービスを提供することができる。さらには、数モードマルチコア光ファイバの交換の回数を減らすことができ、光伝送システムの保守、メンテナンスに係るコストを削減できる。
【0075】
また、本実施形態に係る光伝送システムは、少なくとも4台の前記送信機と、少なくとも2台の前記モード合波器と、を備え、各モード合波器は、少なくとも2つ以上の前記信号光を、それぞれ前記光波モードに変換するものであってもよい。
【0076】
これにより、複数の送信機から送信された信号を、1本の光ファイバが有する複数の空間チャネル(コア、モード)で伝送することができる。その結果、光ファイバ1本当たりの伝送容量を増加させることができる。
【0077】
さらに、本実施形態に係る光伝送システムは、少なくとも4台の前記受信機と、少なくとも2台の前記モード分離器と、を備え、各モード分離器は、少なくとも2つ以上の前記光波モードを、それぞれ前記信号光に変換するものであってもよい。
【0078】
これにより、1本の光ファイバが有する複数の空間チャネル(コア、モード)で伝送された信号を、複数の受信機で確実に受信することができる。その結果、光ファイバ1本当たりの伝送容量を増加させることができる。
【0079】
以上、実施形態に沿って本開示の内容を説明したが、本開示はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。この開示の一部をなす論述および図面は本開示を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0080】
本開示はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本開示の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0081】
10 コア領域
20 ディプレスト領域
30 クラッド領域
100 光伝送システム
FB 数モードマルチコア光ファイバ
FI 光結合部
FO 光抽出部
MR モード分離器
MT モード合波器
SR 受信機
ST 送信機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17