(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120616
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定化方法、及びセメント硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 40/02 20060101AFI20240829BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240829BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240829BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C04B40/02
C04B28/02 ZAB
B01D53/14 100
B01J20/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027518
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】蔵重 勲
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼中 真理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
【テーマコード(参考)】
4D020
4G066
4G112
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA30
4D020BB01
4D020CA01
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB04
4D020DB06
4D020DB20
4G066AA73B
4G066BA25
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA01
4G066FA33
4G066FA34
4G066FA37
4G112PE07
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】比較的低い温度でも二酸化炭素をセメント硬化体に十分に固定化できる二酸化炭素の固定化方法を提供すること。
【解決手段】セメント硬化体(A)の水分量を調整して、式(1)~(3)で算出される水分量Wが10~70%であるセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、二酸化炭素が固定されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法。
W=100-Δw2/Δw1×100 (1)
Δw1=(WA-WD)/WA×100 (2)
Δw2=(WA-WB)/WA×100 (3)
[式(1)~(3)中、WA及びWBはセメント硬化体(A),(B)の重量をそれぞれ示し、WDは、セメント硬化体(A)を大気圧下において105℃で恒量になるまで乾燥させたときの重量を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体(A)の水分量を調整して、下記式(1)~(3)で算出される水分量Wが10~70%であるセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、
圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、前記セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、前記二酸化炭素が固定されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法。
W=100-Δw2/Δw1×100 (1)
Δw1=(WA-WD)/WA×100 (2)
Δw2=(WA-WB)/WA×100 (3)
[但し、前記式(1)~(3)中、WA及びWBは前記セメント硬化体(A)及び前記セメント硬化体(B)の重量をそれぞれ示し、WDは、前記セメント硬化体(A)を大気圧下において105℃で恒量になるまで乾燥させたときの重量を示す。]
【請求項2】
前記前処理工程における前記セメント硬化体(A)の水分量の調整は、温度55℃以下且つ相対湿度95%RH以下の環境下で行う、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
セメント硬化体(A)を、温度5~55℃且つ相対湿度10~95%RHの環境下で保持してセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、
圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、前記セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、前記二酸化炭素が固定化されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記炭酸化工程は、温度55℃以下の前記条件下で行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
前記セメント硬化体(C)における二酸化炭素の固定化量が20重量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項6】
前記セメント硬化体(A)の材齢が1日以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項7】
二酸化炭素固定用のセメント硬化体であって、
空隙の少なくとも一部に水を含み、
圧力9MPa以下及び温度60℃以下で二酸化炭素と共存したときに、前記セメント硬化体に含まれる酸化物100重量部に対して20重量部以上の二酸化炭素を固定化するセメント硬化体。
【請求項8】
表面における空隙率が7~18面積%であり、二酸化炭素の固定化量が20重量%以上である、セメント硬化体。
【請求項9】
材齢が1日以上である、請求項7又は8に記載のセメント硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素の固定化方法、及びセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルを実現するため、二酸化炭素の排出を削減するための技術開発が進められている。そのような技術として、セメント硬化体等のカルシウムを多く含む材料中にCO2をCaCO3として固定化する方法が知られている。例えば、特許文献1では、セメント質硬化体に、工場の排ガス等、350℃以上の温度を有する二酸化炭素含有ガスを接触させて、二酸化炭素含有ガスに含まれている二酸化炭素をセメント質硬化体に固定化する技術が提案されている。特許文献2では、セメント質硬化体に、水分量が1.5%以上で且つ温度が75~175℃の二酸化炭素含有ガスを接触させて二酸化炭素を固定化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-131074号公報
【特許文献2】特開2020-15659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載の技術では、セメント硬化体に二酸化炭素を固定するためには、二酸化炭素含有ガスの温度を高くする必要がある。このため、低温の二酸化炭素含有ガスを用いる場合には、二酸化炭素含有ガスの加熱に多くのエネルギーが必要となる。
【0005】
そこで、本開示は、比較的低い温度でも二酸化炭素をセメント硬化体に十分に固定化することが可能な二酸化炭素の固定化方法を提供する。また、比較的低い温度でも二酸化炭素を十分に固定化することが可能なセメント硬化体、及び、二酸化炭素が十分に固定化され、カーボンニュートラルの実現に有用なセメント硬化体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、セメント硬化体(A)の水分量を調整して、下記式(1)~(3)で算出される水分割合Wが10~70%であるセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、
圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、前記セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、前記二酸化炭素が固定されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法。
W=100-Δw2/Δw1×100 (1)
Δw1=(WA-WD)/WA×100 (2)
Δw2=(WA-WB)/WA×100 (3)
但し、前記式(1)~(3)中、WA及びWBは前記セメント硬化体(A)及び前記セメント硬化体(B)の重量をそれぞれ示し、WDは、前記セメント硬化体(A)を大気圧下において105℃で恒量になるまで乾燥させたときの重量を示す。
【0007】
この二酸化炭素の固定化方法では、水分量Wが10~70%であるセメント硬化体(B)に二酸化炭素を接触させている。これによって、60℃以下という比較的低い温度で、二酸化炭素をセメント硬化体に十分に固定化することができる。
【0008】
本開示の一側面は、セメント硬化体(A)を、温度5~55℃且つ相対湿度10~95%RHの環境下保持してセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、前記セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、前記二酸化炭素が固定化されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法を提供する。
【0009】
この二酸化炭素の固定化方法では、所定の環境に保持する前処理工程を行うことによって、水分量が調整されたセメント硬化体(B)を得ることができる。このようなセメント硬化体(B)は、温度60℃以下という比較的低い温度で、二酸化炭素を十分に固定化することができる。
【0010】
本開示の一側面は、二酸化炭素固定用のセメント硬化体であって、空隙の少なくとも一部に水を含み圧力9MPa以下及び温度60℃以下で二酸化炭素と共存したときに、前記セメント硬化体に含まれる酸化物100重量部に対して20重量部以上の二酸化炭素を固定化するセメント硬化体を提供する。本明細書における「セメント硬化体に含まれる酸化物」の重量は、セメント硬化体の熱重量・質量分析を行ったときに、セメント硬化体の重量から、室温~1000℃において発生するH2O量とCO2量を除いた重量である。
【0011】
このセメント硬化体は、空隙の少なくとも一部に水を含んでおり、温度60℃以下という比較的低い温度で、二酸化炭素を十分に固定することができる。
【0012】
本開示の一側面は、表面における空隙率が7~18面積%であり、二酸化炭素の固定化量が20重量%以上である、セメント硬化体を提供する。このセメント硬化体は、二酸化炭素を十分に固定しており、カーボンニュートラルの実現に有用である。また、炭酸カルシウム等の成分が緻密な組織を構成しているため、耐久性に優れる。
【発明の効果】
【0013】
本開示は、比較的低い温度でも二酸化炭素をセメント硬化体に十分に固定化することが可能な二酸化炭素の固定化方法を提供することができる。また、比較的低い温度でも二酸化炭素を十分に固定化することが可能なセメント硬化体、及び、二酸化炭素が十分に固定化され、カーボンニュートラルの実現に有用なセメント硬化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(A),(B),(C),(D),(E),(F)は、実施例1,2,3,4,5,比較例7のセメント硬化体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【
図2】(A),(B),(C),(D),(E),(F)は、実施例6,7,8,9,10,比較例9のセメント硬化体の表面を拡大して示すSEM写真である。
【
図3】(A),(B),(C),(D),(E),(F)は、比較例1,2,3,4,5,6のセメント硬化体(C)の表面を拡大して示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。「a~b」で例示する数値範囲は、下限をa、上限をbとし、a,bを含む数値範囲である。各数値範囲の上限又は下限をいずれかの実施例の数値で置き換えたものも、本開示に含まれる。複数の材料が例示されている場合、そのうちの一種を単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
<二酸化炭素の固定化方法の第1実施形態>
本実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法は、セメント硬化体(A)の水分量を調整して、下記式(1)~(3)で算出される水分量Wが10~70%であるセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、二酸化炭素が固定されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法を提供する。
W=100-Δw2/Δw1×100 (1)
Δw1=(WA-WD)/WA×100 (2)
Δw2=(WA-WB)/WA×100 (3)
但し、式(1)~(3)中、WA及びWBは、セメント硬化体(A)及びセメント硬化体(B)の重量をそれぞれ示し、WDは、セメント硬化体(A)を大気圧下において105℃で恒量になるまで乾燥させたときの重量を示す。すなわち、WDは、乾燥によって空隙に含まれる水分がなくなったセメント硬化体(D)の重量である。WA>WB>WDの大小関係は、WA>WB>WDであってよい。
【0017】
Δw1は、上記式(2)に示されるとおり、セメント硬化体(A)を、大気圧下において105℃で恒量になるまで乾燥させたときの重量変化率に相当する。Δw2は、上記式(3)に示されるとおり、セメント硬化体(A)の重量からセメント硬化体(B)の重量を差し引いて算出される重量変化率に相当する。Δw1は、3~90%、5~70%、8~50%、又は10~30%であってよい。Δw2は、1~80%、2~65%、3~45%、又は5~25%であってよい。
【0018】
上記固定化方法で用いられるセメント硬化体(A)は、セメントと水を含む組成物の硬化によって得られた硬化体である。セメント硬化体は、セメントペーストの硬化体、モルタルの硬化体、及びコンクリートの硬化体のいずれであってもよい。セメントは、ポルトランドセメント、混合セメント、及びエコセメント等、各種のセメントが挙げられる。
【0019】
セメント硬化体(A)の材齢は特に限定されず、例えば、材齢1日以上のものであってよく、1年以上のものであってよい。セメント硬化体(A)は空隙を含み、少なくとも一部の空隙に水が充填されている。セメント硬化体(A)は、例えば、コンクリート又はモルタルからなる建材の廃材、セメントペースト硬化体の廃材、レディーミクストコンクリートで発生するスラッジ等の廃棄物であってよい。このような廃棄物を用いることによって資源の有効活用を図ることができる。セメント硬化体(A)の形状及びサイズは特に限定されない。
【0020】
セメント硬化体(A)は水分を含有していてよい。セメント硬化体(A)における水分量Wは、例えば、15%以上であってよく、20%以上であってもよい。これによって水分量Wが高いセメント硬化体(B)を円滑に得ることができる。セメント硬化体(A)における水分量Wは、例えば、90%以下であってよく、80%以下であってもよい。前処理工程では、セメント硬化体(A)の水分量を、例えば、恒温恒湿槽を用いて調整する。
【0021】
セメント硬化体(A)の水分量を調整して得られるセメント硬化体(B)は、水分量Wが10~70%である。水分量Wがこのような範囲であることによって、圧力9MPa以下及び温度60℃以下という比較的マイルドな条件で、二酸化炭素を十分に固定することができる。セメント硬化体(B)の水分量Wは、二酸化炭素の固定化量を一層大きくする観点から、15%以上であってよく、20%以上であってもよい。水分量Wは、同様の観点から、65%以下であってもよい。
【0022】
水分量Wは、上記式(2)で算出される重量減少率Δw1と、下記式(3)で算出される重量変化率Δw2と、を用いて上記式(1)で算出される。このため、セメント硬化体(A)を105℃で48時間加熱する乾燥工程を行って重量減少率Δw1を求め、その後に、所定の環境下に保持する前処理工程を行って、重量変化率Δw2を求めてもよい。また、水分量が同じであるセメント硬化体(A)を複数準備し、一つのセメント硬化体(A)を用いて重量減少率Δw1を、別のセメント硬化体(A)を用いて重量変化率Δw2をそれぞれ求めて、これらを用いて上記式(1)で水分量Wを導出してもよい。この場合、当該別のセメント硬化体(A)を前処理して得られるセメント硬化体(B)を用いて炭酸化工程を行う。
【0023】
セメント硬化体(B)における水分量Wは、例えば、10~70%であってよく、25~65%であってもよい。この水分量Wは、前処理工程における温度、相対湿度又は保持時間を変えることによって調整することができる。
【0024】
前処理工程におけるセメント硬化体(A)の水分量の調整は、ガス雰囲気中、温度55℃以下、且つ相対湿度95%RH以下の環境下で行ってよい。これによって、水分量が高く且つ変質が十分に抑制されたセメント硬化体(B)を得ることができる。このようなセメント硬化体(B)は、二酸化炭素を十分に固定化することができる。セメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の温度は、セメント硬化体の変質を一層十分に抑制する観点から、50℃以下であってよく、45℃以下であってもよい。セメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の温度は、水分量の調整を速やかに行う観点から、5℃以上であってよく、10℃以上であってよく、15℃以上であってもよい。
【0025】
セメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の相対湿度は、セメント硬化体の変質を一層十分に抑制する観点から、95%RH以下であってよく、80%RH以下であってよく、65%RH以下であってよく、62%RH以下であってもよい。セメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の相対湿度は、水分量の調整を速やかに行う観点から、10%RH以上、15%RH以上、20%RH以上、又は25%RH以上であってもよい。
【0026】
前処理工程では、セメント硬化体(A)を上述の環境下に、所定期間(例えば、1分間以上、1時間以上、1日間以上、3日間以上、又は5日間以上)保持する。これによって、水分量が高い精度で調整されたセメント硬化体(B)を得ることができる。セメント硬化体(A)を上述の環境下に保持する所定期間は、30日間以下、20日間以下、又は10日間以下であってもよい。
【0027】
前処理工程における雰囲気は、特に制限はなく、例えば、空気、並びに、窒素ガス及びアルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。前処理工程における雰囲気が二酸化炭素を含んでいてもよい。この場合、前処理工程でも二酸化炭素が固定化され得る。前処理工程における環境の圧力は、セメント硬化体(A)の水分量が調整できる範囲であれば特に限定されず、前処理は、大気圧下、減圧下、及び加圧下のいずれで行ってもよい。
【0028】
前処理工程は気相中で行うものに限定されず、セメント硬化体(A)の水分量の調整は、セメント硬化体(A)を水中に浸漬する方法により行ってもよい。これによって、短時間で水分量が高く且つ変質が十分に抑制されたセメント硬化体(B)を得ることができる。
【0029】
炭酸化工程では、圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、二酸化炭素が固定されたセメント硬化体(C)を得る。二酸化炭素はガス、液体、超臨界及び亜臨界のいずれであってもよい。また、二酸化炭素は他の成分との混合物であってよい。例えば、二酸化炭素と他の成分を含む排ガスとセメント硬化体(B)とを接触させてセメント硬化体(C)を得てもよい。二酸化炭素を含むガスとセメント硬化体(B)とを接触させる場合、効率よく二酸化炭素を固定化する観点から、当該ガスにおける二酸化炭素の濃度は、標準状態(1atm,273.15K)において1体積%以上、3体積%以上、5体積%以上、10体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、50体積%以上、70体積%以上、又は90体積%以上であってよい。
【0030】
炭酸化工程では、セメント硬化体(B)に含まれる成分と二酸化炭素とが、例えば以下の反応式(4),(5)で反応する。これらの反応によって二酸化炭素が炭酸化してセメント硬化体に固定化される。反応式(5)中のxは任意の正の数値であり、z及びtは、z+t=1を満たす任意の正の数値である。なお、二酸化炭素を固定化する反応は以下の2つの反応に限定されない。
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O (4)
(CaO)x(SiO2)(H2O)+xCO2 → xCaCO3+SiO2(H2O)t+(z-t)H2O (5)
【0031】
セメント硬化体(B)は所定の水分量Wを有するため、二酸化炭素を固定化する反応のうち、上記反応式(4)の反応が促進される。このため、圧力9MPa以下及び温度60℃以下という比較的マイルドな条件でも、二酸化炭素を十分に固定化することができる。したがって、設備の制約を少なくするともに、エネルギー消費を十分に低減することができる。
【0032】
炭酸化工程における圧力は、設備負荷を一層軽減するともにエネルギー消費を一層低減する観点から、8MPa以下、7MPa以下、6MPa以下、5MPa以下、4MPa以下、又は3MPa以下であってもよい。当該圧力は、二酸化炭素を十分に固定化する観点から、0.2MPa以上、0.5MPa以上、1MPa以上、又は1.5MPa以上であってもよい。
【0033】
炭酸化工程における温度は、設備負荷を軽減するともにエネルギー消費を低減する観点から、55℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下、又は35℃以下であってもよい。当該温度は、二酸化炭素を十分に固定化する観点から、5℃以上、10℃以上、又は15℃以上であってもよい。
【0034】
上述の圧力及び温度条件下における保持時間は、二酸化炭素を十分に固定化する観点から、10分間以上、1時間以上、10時間以上、15時間以上、又は20時間以上であってよい。上述の圧力及び温度条件下における保持時間は、効率化の観点から、100時間以下であってよく、50時間以下であってもよい。
【0035】
炭酸化工程において、セメント硬化体(B)は、セメント硬化体(B)に含まれる酸化物100重量部に対して、20重量部以上、好ましくは25重量部以上、より好ましくは30重量部以上、さらに好ましくは35重量部以上、特に好ましくは40重量部以上の二酸化炭素を固定化することができる。このようにセメント硬化体(B)は、二酸化炭素を十分に固定化することができる。このため、カーボンニュートラルの実現に大きく寄与することができる。セメント硬化体(B)に含まれる酸化物100重量部に対する二酸化炭素の固定化量は、60重量部以下であってよい。セメント硬化体(B)に含まれる酸化物100重量部に対する二酸化炭素の固定化量は、固定化後のセメント硬化体(C)の熱重量・質量分析を行うことによって求めることができる。この分析では、室温~1000℃で発生した二酸化炭素の量を定量する。セメント硬化体(B)に含まれる酸化物の重量は、上記分析で室温~1000℃において発生したH2O量とCO2量を分析に用いた試験体の重量から除いた値である。分析で求めた二酸化炭素の量を、セメント硬化体(B)に含まれる酸化物100重量部を基準とする数値に換算すれば、上述の二酸化炭素の固定化量を求めることができる。
【0036】
炭酸化工程で二酸化炭素を固定化して得られるセメント硬化体(C)における二酸化炭素の固定化量は、20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは35重量%以上、特に好ましくは40重量%以上である。このようなセメント硬化体(C)は、二酸化炭素を十分に固定している。したがって、カーボンニュートラルの実現に有用である。セメント硬化体(C)における二酸化炭素の固定化量は、50重量%以下であってよい。
【0037】
セメント硬化体(C)における二酸化炭素の固定化量は、上述の熱重量・質量分析で定量された二酸化炭素の重量を、セメント硬化体(C)に含まれる酸化物の重量で除した値を100倍することによって求めることができる。セメント硬化体(C)に含まれる酸化物の重量は、上記分析で室温~1000℃において発生したH2O量とCO2量を分析に用いた試験体の重量から除いた値である。
【0038】
<二酸化炭素の固定化方法の第2実施形態>
本実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法は、セメント硬化体(A)を、温度5~55℃且つ相対湿度10~70%RHの環境下で保持してセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、二酸化炭素が固定化されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する。この実施形態では、前処理工程を特定の環境下で行う。これによって、二酸化炭素を十分に固定化できるセメント硬化体(B)を得ることができる。セメント硬化体(A)としては、上記第1実施形態で説明したものを用いることができる。得られるセメント硬化体(B)も、上記第1実施形態で説明したものと同様であってよい。
【0039】
前処理工程においてセメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の温度は、セメント硬化体の変質を十分に抑制する観点から、50℃以下であってよく、45℃以下であってもよい。セメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の温度は、水分量の調整を速やかに行う観点から、10℃以上であってよく、15℃以上であってもよい。
【0040】
前処理工程においてセメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の相対湿度は、セメント硬化体の変質を一層十分に抑制する観点から、95%RHであってよく、62%RH以下であってもよい。セメント硬化体(A)の水分量を調整する際の環境の相対湿度は、水分量の調整を速やかに行う観点から、15%RH以上、20%RH、又は25%RH以上であってもよい。
【0041】
前処理工程において、上記温度及び上記相対湿度の環境下に保持する期間は、1分間以上、1時間以上、3日間以上、又は5日間以上であってよい。これによって、セメント硬化体(A)の水分量Wを高い精度で調整することができる。セメント硬化体(A)を上述の環境下に保持する期間は30日間以下、20日間以下、又は10日間以下であってもよい。
【0042】
炭酸化工程は、上記実施形態と同様であってよい。得られるセメント硬化体(C)も、上記実施形態で説明したものと同様であってよい。本実施形態の二酸化炭素の固定化方法も、圧力9MPa以下及び温度60℃以下という比較的マイルドな条件で、二酸化炭素を十分に固定することができる。したがって、設備の制約を少なくするともに、エネルギー消費を十分に低減することができる。圧力及び温度をさらに低くして、設備負荷及びエネルギー消費をさらに低減することもできる。
【0043】
<セメント硬化体の第1実施形態>
本実施形態に係る二酸化炭素固定用のセメント硬化体は、空隙の少なくとも一部に水を含み、圧力9MPa以下及び温度60℃以下で二酸化炭素と共存したときに、当該セメント硬化体に含まれる酸化物100重量部に対して20重量部以上の二酸化炭素を固定化することができる。このようなセメント硬化体は、上述の二酸化炭素の固定化方法の第1実施形態及び第2実施形態で得られるセメント硬化体(B)であってよい。したがって、固定化方法の上記各実施形態におけるセメント硬化体(B)及びその製造方法の内容は、本実施形態にも適用される。このセメント硬化体は、水分量が所定の範囲にあるため、温度60℃以下、圧力9MPa以下という比較的マイルドな条件で、二酸化炭素を十分に固定することができる。
【0044】
セメント硬化体の水分量Wは、例えば、10~70%であってよく、25~65%であってもよい。この水分量Wは、上記式(1)~(3)を用いて算出することができる。
【0045】
セメント硬化体は、圧力9MPa以下及び温度60℃以下で二酸化炭素と共存したときに、当該セメント硬化体に含まれる酸化物100重量部に対して20重量部以上の二酸化炭素を固定化することができる。セメント硬化体は、セメント硬化体に含まれる酸化物100重量部に対して、好ましくは25重量部以上、より好ましくは30重量部以上、さらに好ましくは35重量部以上、特に好ましくは40重量部以上の二酸化炭素を固定化することができる。このようにセメント硬化体は、二酸化炭素を十分に固定化することができる。このため、カーボンニュートラルの実現に大きく寄与することができる。セメント硬化体に含まれる酸化物100重量部に対する二酸化炭素の固定化量は、70重量部以下であってよい。二酸化炭素の固定化量は、上述のセメント硬化体(B)に含まれる酸化物100重量部に対する二酸化炭素の重量部を求める方法と同様にして求めることができる。
【0046】
セメント硬化体が二酸化炭素と共存するときの条件等は、上述の二酸化炭素の固定化方法の各実施形態で挙げた内容と同様であってよい。セメント硬化体の材齢は1日以上であってよい。セメント硬化体の形状及びサイズは特に限定されない。
【0047】
<セメント硬化体の第2実施形態>
本実施形態に係るセメント硬化体は、表面における空隙率が7~18面積%であり、二酸化炭素の固定化量が20重量%以上である。このセメント硬化体は、二酸化炭素が十分に固定化されており、カーボンニュートラルの実現に有用である。表面における空隙率が上述の範囲にあるセメント硬化体は、炭酸カルシウム等の成分が緻密な組織を構成しているため、耐久性に優れる。このようなセメント硬化体は、上述の二酸化炭素の固定化方法の第1実施形態及び第2実施形態で得られるセメント硬化体(C)であってよい。したがって、固定化方法の上記各実施形態におけるセメント硬化体(C)及びその製造方法の内容は、本実施形態にも適用される。
【0048】
セメント硬化体の表面における空隙率は、走査型電子顕微鏡を用いて表面を500倍に拡大して示す画像を、画像処理ソフトを用いて二値化処理して求めることができる。セメント硬化体の二酸化炭素の固定化量は、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。このようなセメント硬化体は、二酸化炭素を十分に固定している。したがって、カーボンニュートラルの実現に有用である。セメント硬化体における二酸化炭素の固定化量は、50重量%以下であってよい。二酸化炭素の固定化量は、上述のセメント硬化体(C)における二酸化炭素の固定化量を求める方法と同様にして求めることができる。
【0049】
セメント硬化体(セメント硬化体(C))における二酸化炭素の固定化量は、固定化されている二酸化炭素の重量を、セメント硬化体(セメント硬化体(C))に含まれる酸化物の重量で除し、得られた数値を100倍することによって求めることができる。セメント硬化体の材齢は1日以上であってよい。セメント硬化体の形状及びサイズは特に限定されない。
【0050】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、各実施形態で説明したそれぞれの内容は、他の実施形態にも適用され得る。
【0051】
本開示は以下の内容を含む。
[1]セメント硬化体(A)の水分量を調整して、下記式(1)~(3)で算出される水分量Wが10~70%であるセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、
圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、前記セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、前記二酸化炭素が固定されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法。
W=100-Δw2/Δw1×100 (1)
Δw1=(WA-WD)/WA×100 (2)
Δw2=(WA-WB)/WA×100 (3)
[但し、前記式(1)~(3)中、WA及びWBは前記セメント硬化体(A)及び前記セメント硬化体(B)の重量をそれぞれ示し、WDは、前記セメント硬化体(A)を大気圧下において105℃で恒量になるまで乾燥させたときの重量を示す。]
[2]前記前処理工程における前記セメント硬化体(A)の水分量の調整は、温度55℃以下、且つ相対湿度95%RH以下の環境下で行う、[1]に記載の二酸化炭素の固定化方法。
[3]セメント硬化体(A)を、温度5~55℃且つ相対湿度10~95%RHの環境下で保持してセメント硬化体(B)を得る前処理工程と、
圧力9MPa以下及び温度60℃以下の条件下、前記セメント硬化体(B)と二酸化炭素とを接触させて、前記二酸化炭素が固定化されたセメント硬化体(C)を得る炭酸化工程と、を有する、二酸化炭素の固定化方法。
[4]前記炭酸化工程は、温度55℃以下の前記条件下で行う、[1]~[3]のいずれか一つに記載の二酸化炭素の固定化方法。
[5]前記セメント硬化体(C)における二酸化炭素の固定化量が20重量%以上である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
[6]前記セメント硬化体(A)の材齢が1日以上である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の二酸化炭素の固定化方法。
[7]二酸化炭素固定用のセメント硬化体であって、
空隙の一部少なくとも一部に水を含み、
圧力9MPa以下及び温度60℃以下で二酸化炭素と共存したときに、前記セメント硬化体に含まれる酸化物100重量部に対して20重量部以上の二酸化炭素を固定化するセメント硬化体。
[8]表面における空隙率が7~18面積%であり、二酸化炭素の固定化量が20重量%以上である、セメント硬化体。
[9]材齢が1日以上である、[7]又は[8]に記載のセメント硬化体。
【実施例0052】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(比較例1~6)
普通ポルトランドセメントのペースト硬化体(材齢1年以上)を準備した。これを、アイソメットカッターを用いて所定のサイズに切り出して、直方体形状(縦×横×高さ=1.7cm×1.7cm×0.3cm)のセメント硬化体(A)を複数作製した。セメント硬化体(A)を、105℃に温度調節された乾燥機中(雰囲気:空気)、大気圧下で48時間加熱して乾燥させて、セメント硬化体(D)を得た。乾燥前のセメント硬化体(A)の重量WA[g]、乾燥後のセメント硬化体(D)の重量WD[g]をそれぞれ測定した。セメント硬化体(D)の重量は恒量になっていたことから、水分量を0とみなした。下記式(2)を用いて、各セメント硬化体(A)の乾燥に伴う重量減少率Δw1[%]を算出した。その結果、Δw1の平均値は17.3%であった。
Δw1=(WA-WD)/WA×100 (2)
【0054】
乾燥後のセメント硬化体(D)を反応容器に入れ、ドライアイスを用いて圧力容器中に二酸化炭素ガスを充填し、圧力容器内を表1に示す条件に調整して24時間保持する炭酸化工程を行った。ウォーターバスを用いて圧力容器の温度を調整した。その後、圧力容器から試料(セメント硬化体(C))を取り出し、当該試料に固定されたCO2の量(CO2固定化量)を熱重量・質量分析装置(株式会社リガク製、型式:Thermo Mass Photo)を用いて測定した。測定結果は表1に示すとおりであった。なお、表1に示すCO2固定化量は、セメント硬化体(D)に含まれる酸化物の重量を基準(100重量%)とする値である。
【0055】
硬化体の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM、倍率:500倍)を用いて観察した。得られたSEM写真の画像処理を行って、空隙の面積割合(空隙率)を求めた。画像処理では、画像処理ソフト(Image J)を用いて二値化処理を行った。その後、空隙の面積の合計を全体の面積で割って空隙率を求めた。結果は表1に示すとおりであった。
【0056】
【0057】
図3(A),(B),(C),(D),(E),(F)は、比較例1,2,3,4,5,6のセメント硬化体(C)の表面を拡大して示すSEM写真である。表1に示すとおり、乾燥させたセメント硬化体(D)の場合、炭酸化工程における温度及び圧力を十分に高くすればCO
2固定化量を大きくすることができた。しかしながら、炭酸化工程における圧力を下げると、CO
2固定化量が大幅に減少することが確認された。
【0058】
(実施例1~5,比較例7)
比較例1~6と同じペースト硬化体(材齢1年以上)を比較例1~5と同じ手順で切り出して、縦×横×高さ=1.7cm×1.7cm×0.3cのサイズを有する直方体形状のセメント硬化体(A)を複数作製した。これらを、恒温恒湿槽に入れて、空気中、温度40℃、相対湿度30%RHの前処理条件で7日間保持した(前処理工程)。前処理前の各セメント硬化体(A)の重量WA[g]と、上記前処理後の各セメント硬化体(B)の重量WB[g]を測定し、前処理によって生じる重量変化率Δw2を下記式(3)を用いてそれぞれ算出した。
Δw2=(WA-WB)/WA×100 (3)
【0059】
下記式(1)によって、セメント硬化体(B)の水分量Wを算出したところ、水分量Wの平均値は22.7%であった。なお、式(1)のΔw1[%]として、比較例1~6で求めた重量減少率Δw1[%]の平均値を用いた。
W=100-Δw2/Δw1×100 (1)
【0060】
上述の前処理を施して得られたセメント硬化体(B)を、比較例1~6と同じ反応容器に入れ、ドライアイスを用いて反応容器中に二酸化炭素ガスを充填し、反応容器内を表2示す条件に調整して24時間保持する炭酸化工程を行った。その後、反応容器から試料(セメント硬化体(C))を取り出し、各試料に固定されたCO2の量(CO2固定化量)を熱重量・質量分析装置(株式会社リガク製、型式:Thermo Mass Photo)を用いて測定した。測定結果は表2に示すとおりであった。なお、表2に示すCO2固定化量は、セメント硬化体(B)に含まれる酸化物の重量を基準(100重量%)とする値である。
【0061】
セメント硬化体(C)の表面を、比較例1~6と同じ手順で観察し、画像処理を行って空隙の面積割合(空隙率)を求めた。空隙率の結果は表2に示すとおりであった。
【0062】
(比較例8)
炭酸化工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ手順でセメント硬化体を得た。つまり、実施例1のセメント硬化体(B)を比較例8のセメント硬化体(C)とした。実施例1と同様にしてこのセメント硬化体(C)のCO2固定化量を測定した。測定結果は表2に示すとおりであった。
【0063】
【0064】
図1(A),(B),(C),(D),(E)は、実施例1,2,3,4,5のセメント硬化体(C)の表面を拡大して示すSEM写真である。
図1(F)は、比較例7のセメント硬化体(C)の表面を拡大して示すSEM写真である。表2の結果によれば、実施例1~5のセメント硬化体(C)は、炭酸化工程における温度及び圧力の条件が最もシビアな比較例7と同等又はそれ以上のCO
2を固定化していた。このように、セメント硬化体(C)は空隙に水分を含むことによって、マイルドな条件でも効率よくCO
2を固定できることが確認された。なお、炭酸化工程を行っていない比較例7でも、CO
2が少量固定されていた。これは、前処理工程でCO
2を取り込んだこと等に由来するものと考えられる。
【0065】
(実施例6~10,比較例9)
前処理工程における恒温恒湿槽の温度を20℃、相対湿度を60%RHとしたこと以外は、実施例1~5,比較例7とそれぞれ同じ手順で、実施例6~10,比較例9のセメント硬化体(C)を作製した。炭酸化工程における反応容器内の温度及び圧力は表3に示すとおりとした。上記式(1)によって求めたセメント硬化体(B)の水分量Wの平均値は62.7重量%であった。ここでも、式(1)のΔw1[%]として、比較例1~6で求めた重量減少率Δw1[%]の平均値を用いた。実施例1~5,比較例7と同じ手順で、各セメント硬化体(C)のCO2固定化量及び空隙率を求めた。結果は、表3に示すとおりであった。
【0066】
(比較例10)
炭酸化工程を行わなかったこと以外は、実施例6と同じ手順でセメント硬化体を得た。つまり、実施例6のセメント硬化体(B)を比較例10のセメント硬化体(C)とした。実施例6と同様にしてこのセメント硬化体(C)のCO2固定化量を測定した。測定結果は表3に示すとおりであった。
【0067】
【0068】
図2(A),(B),(C),(D),(E)は、実施例6,7,8,9,10のセメント硬化体(C)の表面を拡大して示すSEM写真である。
図2(F)は、比較例9のセメント硬化体(C)の表面を拡大して示すSEM写真である。表3の結果によれば、実施例6~10のセメント硬化体(C)は、炭酸化工程における温度及び圧力の条件が最もシビアな比較例9と同等又はそれ以上のCO
2を固定していた。このように、セメント硬化体(C)は水分を含むことによって、マイルドな条件で効率よくCO
2を固定できることが確認された。なお、炭酸化工程を行っていない比較例10でも、CO
2が少量固定されていた。これは、前処理工程でCO
2を取り込んだこと等に由来するものと考えられる。
【0069】
表2,3に示すとおり、実施例1~10のセメント硬化体(C)は、圧力9MPa以下及び温度60℃以下のマイルドな条件下でCO2を十分に固定することができた。
本開示は、マイルドな条件で二酸化炭素をセメント硬化体に十分に固定化することが可能な二酸化炭素の固定化方法を提供することができる。また、マイルドな条件で二酸化炭素を十分に固定化することが可能なセメント硬化体、及び、二酸化炭素が十分に固定化され、カーボンニュートラルの実現に有用なセメント硬化体を提供することができる。