(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121105
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法、および、異常検知プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/079 20130101AFI20240830BHJP
H04L 1/20 20060101ALI20240830BHJP
H04L 1/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H04B10/079
H04L1/20
H04L1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028009
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 紘平
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏
(72)【発明者】
【氏名】伊達 拓紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】島崎 大作
(72)【発明者】
【氏名】福地 裕
(72)【発明者】
【氏名】前田 英樹
【テーマコード(参考)】
5K014
5K102
【Fターム(参考)】
5K014EA01
5K014GA01
5K102AA46
5K102LA02
5K102LA11
5K102LA26
5K102LA52
(57)【要約】
【課題】光信号の計測データ値が時間変動する場合でも、劣化の検知精度を高めること。
【解決手段】受信装置20は、光信号を受信し、その光信号から計測データ値を計測する光受信端部21と、光受信端部21が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算し、所定期間における第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデル24を生成するモデル設定部22と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を受信し、その光信号から計測データ値を計測する光受信端部と、
前記光受信端部が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、前記第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算し、所定期間における前記第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデルを生成するモデル生成部と、を有することを特徴とする
異常検知装置。
【請求項2】
光信号を受信し、その光信号から複数種類の計測データ値を計測する光受信端部と、
前記光受信端部が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、前記第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算する工程において、複数種類の計測データ値のうちの所定種類の計測データ値から前記第1の差分変換値を計算し、
前記第1の差分変換値と、複数種類の計測データ値のうちの前記所定種類の計測データ値とは別の種類の計測データ値とを用いて、多変量外れ値検知を行うモデルを、所定期間における前記第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデルとして生成するモデル生成部と、を有することを特徴とする
異常検知装置。
【請求項3】
前記異常検知装置は、さらに、外れ値検知部を有しており、
前記外れ値検知部は、前記光受信端部が計測した計測データ値について、第2時刻の計測データ値と、前記第2時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第2の差分変換値を計算し、前記第2の差分変換値に対して前記モデルを用いることで、前記第2の差分変換値が外れ値か否かを判定することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
異常検知装置は、光受信端部と、モデル生成部と、を有しており、
前記光受信端部は、光信号を受信し、その光信号から計測データ値を計測し、
前記モデル生成部は、前記光受信端部が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、前記第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算し、所定期間における前記第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデルを生成することを特徴とする
異常検知方法。
【請求項5】
異常検知装置は、光受信端部と、モデル生成部と、を有しており、
前記光受信端部は、光信号を受信し、その光信号から複数種類の計測データ値を計測し、
前記モデル生成部は、
前記光受信端部が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、前記第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算する工程において、複数種類の計測データ値のうちの所定種類の計測データ値から前記第1の差分変換値を計算し、
前記第1の差分変換値と、複数種類の計測データ値のうちの前記所定種類の計測データ値とは別の種類の計測データ値とを用いて、多変量外れ値検知を行うモデルを、所定期間における前記第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデルとして生成することを特徴とする
異常検知方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1または請求項2に記載の異常検知装置として機能させるための異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置、異常検知方法、および、異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送網の大容量化・広域化に伴い、光伝送網における故障の影響規模が増大している。市販の光通信装置は、FEC(Forward Error Correction)アルゴリズム等により光信号の劣化を補正しており、その補正限界までは通信エラーが光通信装置の内部で回復される。
しかし、光信号の劣化が補正により回復したとしても、光信号の劣化を発生させるような光リンクの異常を早期に検知することができれば、通信エラーなどのサービスへの影響が発生する前に、トランスポンダの交換などの対処ができる。非特許文献1には、この光リンクの状態を監視するために計測されたデータ値(計測データ値)として、Pre-FEC BER(Bit Error Rate)を用いる旨が記載されている。Pre-FECとはFEC処理を行う前の光信号である。
【0003】
また、光伝送の伝送品質を示す指標として、Pre-FEC BERの代わりに、Q値(Q-factor)を用いてもよい。非特許文献1には、IPレイヤに顕在化しないレベルのQ値の急激な劣化をQ-dropとし、そのQ-dropが発生した後の一定期間内に、故障確率が上昇することが記載されている。
さらに、非特許文献2,3には、光パスごとの伝送品質のばらつきの違いを考慮した劣化判定方式が記載されている。この劣化判定方式では、計算式「閾値ThSF=<Q>-kσ」に基づいてQ-dropか否かを判定するための閾値ThSFを決定する。ここで、<Q>はQ値の平均であり、σはQ値の標準偏差であり、kは正の定数である。kは例えばk=4が用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Juniper Networks、「Forward Error Correction (FEC) and Bit Error Rate (BER)」、[online]、[2023年1月24日検索]、2021年10月11日、インターネット〈URL:https://www.juniper.net/documentation/us/en/software/junos/interfaces-ethernet/topics/topic-map/fec-ber-otn-interfaces-1.html〉
【非特許文献2】C. Delezoide他、「Pre-Emptive Detection and Localization of Failures Towards Marginless Operations of Optical Networks」、2018 20th International Conference on Transparent Optical Networks (ICTON)、We.D2.3
【非特許文献3】Alba P. Vela他、 「BER Degradation Detection and Failure Identification in Elastic Optical Networks」、 JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL. 35, NO. 21, Nov. 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
受信した光信号から計測される計測データ値は、通信エラーの要因となる光受信部(トランスポンダ)の部品劣化などの影響だけでなく、季節変動や日変動などの時間変動の影響も受けてしまう。よって、過去の計測データ値をもとに劣化検知用の閾値を決定したとしても、時間変動に起因して、現在の計測データ値に適用したときの検知精度が低下してしまうこともある。
【0006】
図10は、従来の劣化判定方式を示すグラフである。
グラフ201は、市販装置のQ値の閾値Th41を示すグラフである。市販の光伝送装置ではQ-limit(FECが補正可能なQ値の限界値)をQ値の閾値Th41として設定している。よって、閾値Th41を下回る異常値群P42は、上位レイヤでエラーが発生する信号となる。一方、閾値Th41を上回るが多数の値が密集する群(正常値の群)から外れた外れ値群P41は、FEC処理を行うことで上位レイヤでのエラーを回避できるものの、劣化検知用のサンプルとして検知できない。
【0007】
グラフ202は、光パスAの信号について、計算式「閾値Th42=<Q>-k」により、閾値Th42を下回る外れ値群P43を検知するグラフである。<Q>はQ値の平均値であり、kは定数である。
グラフ203は、光パスBの信号について、計算式「閾値Th43=<Q>-k」により、閾値Th43を下回る外れ値群P44を検知するグラフである。
グラフ201-203の各グラフは、季節変動や日変動などの時間変動の影響により、正常値のQ値全体が大きく変化する場合もある。
【0008】
図11は、Q値の時間変動を示すグラフである。
窓W21-W23とは、閾値の計算における平均<Q>の計算に用いるサンプルの抽出範囲を示す。窓W21-W23の横幅(期間)を窓サイズとする。
図11のグラフでは、窓W21のQ値群から第1の閾値を求め、窓W22のQ値群から第2の閾値を求め、窓W23のQ値群から第3の閾値を求めるとする。
Q値の時間変動により、窓W21のQ値群よりも、窓W22のQ値群のほうが全体的にQ値が高い傾向にあるので、第1の閾値よりも第2の閾値のほうが大きく設定される。
【0009】
ここで、第1の閾値が適用される区間を、窓W21の終点~窓W22の終点の区間とすると、窓W21から時間経過するほど、第1の閾値が時間変動に追随できず、外れ値の認識精度が低くなる。なお、外れ値の認識精度は、本来は正常値である点を、外れ値として認識してしまう「誤検知」、および、本来は外れ値である点を、正常値として認識してしまう「検知漏れ」により、それぞれ低下してしまう。
つまり、データの確率分布が時間変化するにも関わらず、過去のデータの確率分布に基づき閾値を設定するため、閾値として不適切な値が設定されることがある。
【0010】
図12は、非特許文献2,3の手法で発生してしまう課題を示すグラフである。
図12の各グラフは、計算式「閾値ThSF=<Q>+kσ、k=5」をもとに、閾値を設定した。閾値算出のためのデータ区間はスライド窓を用いた。
グラフ211は、閾値を設定する前のQ値の時系列グラフであり、外れ値群P51を検知したいサンプルとする。以下、グラフ212-214は、グラフ211に対して、複数種類の窓サイズにて、閾値を設定した時系列グラフとする。
グラフ212は、窓サイズが小の場合の閾値を設定した時系列グラフである。期間P52では、データ数の少なさに起因した標準偏差のばらつきによる誤検知が発生する。
グラフ213は、窓サイズが中の場合の閾値を設定した時系列グラフである。期間P53では、閾値が変化に追随できず、検知できない。期間P54では、閾値が機能しない期間が存在し、検知できない。
グラフ214は、窓サイズが大の場合の閾値を設定した時系列グラフである。
期間P55では、閾値が変化に追随できず、検知できない。期間P56では、閾値が機能しない期間が存在し、検知できない。
【0011】
以上、
図12で示したように、窓サイズを調整するだけでは、計測データ値の時間変動にも耐えうるような検知精度の高い閾値を設定することは困難である。よって、時間変動の影響を受ける計測データ値であっても、高精度に劣化要因を検知できるように適切な検知手段を用意する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、光信号の計測データ値が時間変動する場合でも、劣化の検知精度を高めることを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の異常検知装置は、以下の特徴を有する。
本発明は、光信号を受信し、その光信号から計測データ値を計測する光受信端部と、
前記光受信端部が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、前記第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算し、所定期間における前記第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデルを生成するモデル生成部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光信号の計測データ値が時間変動する場合でも、劣化の検知精度を高めることを主な課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に関する光伝送システムの構成図である。
【
図2】本実施形態に関する光伝送システムの動作を示すフローチャートである。
【
図3】本実施形態に関する時系列グラフおよびその密度分布を示すグラフである。
【
図4】本実施形態に関する計測データ値およびその差分変換値を示す時系列グラフである。
【
図5】本実施形態に関する多変量データに対して多変量外れ値検知を行った結果を示すグラフである。
【
図6】本実施形態に関する計測データ値の月ごとの確率分布を示すグラフである。
【
図7】本実施形態に関する
図6の各グラフが用いたデータに対して、Q値からQdiffに変換した場合の確率分布を示すグラフである。
【
図8】本実施形態に関するモデルに適用される様々な確率分布を示すグラフである。
【
図9】本実施形態に関する光伝送システムの各装置のハードウェア構成図である。
【
図12】非特許文献2,3の手法で発生してしまう課題を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、光伝送システム100の構成図である。
光伝送システム100は、送信装置10と、受信装置(異常検知装置)20と、管理端末30とがネットワークで接続されて構成される。
送信装置10は、光伝送路を介して、受信装置20に光信号を送信する。受信装置20は、送信装置10から受信した光信号をトランスポンダである光受信端部21を介して、電気信号に変換する。光受信端部21はルーターやスイッチに搭載される光プラガブルモジュールであっても良い。
図1では、光信号の流れを太線矢印で示した。光受信端部21は、受信装置20において受信した光信号の劣化を補償(補正)し、この補正の限界を超えるまでは通信エラーを外部に発生させないことができる。
【0018】
光受信端部21は、光受信部21aと、デジタル信号処理部21bと、誤り補正部21cとを有する。これらの光受信端部21の各処理部では、以下の光信号の計測データ値が計測される。
・光受信部21aは、受信した光信号をデジタル信号処理部21bに転送する。光受信部21aでの計測データ値は、例えば、受信光パワー、レーザーバイアス電流である。
・デジタル信号処理部21bは、転送された光信号を電気信号へとO/E(Optical/Electrical)変換する。デジタル信号処理部21bでの計測データ値は、例えば、波長分散、偏波モード分散である。
・誤り補正部21cは、デジタル信号処理部21bが出力する電気信号にFEC処理を行うことで、電気信号に含まれる誤りを補正する。誤り補正部21cでの計測データ値は、例えば、Pre-FEC BER、Q値(Q-factor)などの伝送品質指標である。ここでいうQ値とは、Pre-FEC BERとQ値の関係式に基づき、Pre-FEC BERから変換した値のことである。関係式は、例えば「Q-factor = 20 * log10 (sqrt(2) * erfcinv(2 * BER))」である。sqrt(2)は2の平方根を示し、erfcinvは逆相補誤差関数である。
【0019】
ここで、本実施形態の主要な特徴として、受信装置20は、光受信端部21が計測した光信号の計測データ値そのものを直接モデリングする代わりに、計測データ値の差分変換値をモデリングする。差分変換値とは、以下に例示するように、ある時点tでの計測データ値y[t]と、その時点tの直前に計測された時点t-1での計測データ値y[t-1]との差分をもとに計算される値である。
・計測データ値の差分=y[t]-y[t-1]
・計測データ値の重みづけ差分=y[t]-A×y[t-1] (ここで、Aは定数)
・計測データ値の変化率=(y[t]-y[t-1])÷y[t-1]
・計測データ値の対数差分=log(y[t]÷y[t-1])
【0020】
さらに、受信装置20は、光受信端部21が計測した計測データ値を処理するための構成要素(追加の構成要素)として、モデル設定部(モデル作成部)22と、外れ値検知部23と、記憶部に記憶されるデータ構造(モデル24)とを有する。これらの追加の構成要素のうちの少なくとも1つは、
図1のように受信装置20の内部で光受信端部21の外部に備える構成に限定されない。例えば、追加の構成要素を 受信装置20の内部で光受信端部21の内部に備える構成としてもよいし、受信装置20の外部(例えば、管理端末30の内部)に備える構成としてもよい。
【0021】
モデル設定部22は、光受信端部21から取得される光信号の計測データ値から計算した差分変換値をモデリングすることで、正常値と外れ値とを区別可能にするためのモデル24を設定(生成)する。モデル24は、差分変換値の正常値についてモデリングを行った結果である。なお、モデル24は、
図10のグラフ201と同様に、受信装置20ごと(複数の光パスで共通)に作成してもよいし、
図10のグラフ202,203と同様に、光パスごとに作成することで、光パスごとの計測データ値のばらつきに対処してもよい。
【0022】
以下、モデル24の例を列挙する。
・計測データ値の差分変換値から求めた統計値をもとにして設定される閾値。例えば、計算式「閾値ThSF=kσ」とし、σはQ値の差分変換値の標準偏差、kは定数(例えばk=4)とする。
・ベイズ推定などの分布推定により推定された確率分布およびその確率分布が使用するパラメータ。例えば、正規分布が使用するパラメータは、期待値および分散である。なお、計測データ値=Q値の分布推定処理において、Q値に加えて、Q値へ影響を与えるパラメータ(受信光パワー、波長分散、偏波依存損失、偏波モード分散、ファイバ種別、伝送距離、等)を用いてもよい。
・機械学習モデル。例えば、教材データとして入力するデータ値ごとに、正常値か外れ値かという判定フラグがあらかじめ手動で付与されている。この教材データをDL(Deep Leaning)などの機械学習により学習させた判別器をモデル24とする。
【0023】
外れ値検知部23は、モデル24から乖離する計測データ値を、外れ値として判定する。例えば、モデル24が正常値と外れ値とを区別する閾値である場合、外れ値検知部23は、閾値を下回る計測データ値を、外れ値とする。外れ値検知部23は、外れ値が発生したり、外れ値の統計値に異常傾向(例えば、正常値に対して外れ値が5%以上)が発生したりする場合、その旨と、その旨が発生した光受信端部21の識別情報とを管理端末30に通知する。
管理端末30は、外れ値検知部23から通知された光受信端部21の識別情報をもとに、適切な対処(例えば、トランスポンダの交換作業)をするように保守者などに対して通知する。
【0024】
図2は、光伝送システム100の動作を示すフローチャートである。
まず、モデル24の学習段階について説明する。
受信装置20の光受信端部21は、送信装置10から光信号を受信し、その光信号から計測データ値を取得する(S11)。モデル設定部22は、S11の計測データ値についての差分変換値を計算し(S12)、その差分変換値からモデル24を計算する(S13)。計算されたモデル24は、計測データ値の差分変換値を入力すると、その差分変換値が正常値か外れ値かを判別する判別器として機能する。
【0025】
そのため、受信装置20は、光信号を受信し、その光信号からS11の計測データ値を計測する光受信端部21を有する。
また、受信装置20は、光受信端部21が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算し(S12)、所定期間における第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデル24(S13)を生成するモデル設定部22を有する。
【0026】
次に、モデル24の活用段階について説明する。
受信装置20の光受信端部21は、送信装置10から光信号を受信する。外れ値検知部23は、その光信号から計測した計測データ値の差分変換値をモデル24に入力することで、モデル24と乖離する外れ値を検知する(S14)。外れ値検知部23は、検知した外れ値をもとに、故障予兆の旨を管理端末30に通知する(S15)。
【0027】
そのため、受信装置20は、光受信端部21が計測した計測データ値について、第2時刻の計測データ値と、第2時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第2の差分変換値を計算し、第2の差分変換値に対してモデル24を用いることで、第2の差分変換値が外れ値か否かを判定(S14)する外れ値検知部23を有する。
【0028】
図3は、時系列グラフおよびその密度分布を示すグラフである。
グラフ101,102は、計測データ値(Q値)を直接モデリングした従来の時系列グラフの一例である。
グラフ101は、S11で取得したQ値の時系列グラフの一例である。外れ値群P11を検知するための閾値Th11は、窓w11における密度分布(計測データ値の集合)から設定される。
グラフ102は、グラフ101のうちの窓w11における密度分布を示すグラフの一例である。閾値Th11は、99.7%信頼区間(およそ3σの範囲)~99.993%信頼区間(およそ4σの範囲)の範囲で設定される。
なお、グラフ101では、時間変動の傾向(期間T1の低下傾向など)が発生している。よって、Q値の窓w11における密度分布(グラフ102)から直接求めた閾値Th11では、窓w11から時間経過したQ値に適用すると、検知誤差が低下してしまったり、誤検知が発生したりする。
【0029】
グラフ103,104は、計測データ値(Q値)の差分変換値(Qdiff)をモデリングした本実施形態のモデル24を示すグラフである。
グラフ103は、Q値についてS12で計算した差分変換値(Qdiff)の時系列グラフの一例である。外れ値群P12を検知するための閾値Th12は、窓w12における密度分布(差分変換値の集合)から設定される。
グラフ104は、グラフ103のうちの窓w12における密度分布を示すグラフの一例である。閾値Th12は、99.7%信頼区間(t分布)から設定される。
このように、グラフ103では、グラフ101で発生していた時間変動の傾向(期間T1の低下傾向など)が差分変換により吸収(解消)されている。よって、Q値の窓w12における密度分布(グラフ104)から求めた閾値Th12は、窓w12から時間経過したQ値に適用しても検知誤差の低下や誤検知を抑制できる。
【0030】
図4は、計測データ値およびその差分変換値を示す時系列グラフである。
グラフ111は、Q値を直接モデリングした従来の時系列グラフの一例である。グラフ111に含まれる閾値(波線で図示)の計算式は、閾値=<Q>-kσである(<Q>はQ値の平均、σはQ値の標準偏差、k=5)。閾値算出のデータ期間は、窓サイズは例えば14日間とし、窓をずらしながら平均と標準偏差とを算出した。データの時間間隔は15分とする。
グラフ111では窓サイズが短期間なので、その窓サイズから計算する閾値も、Q値の変動に伴って大きく変動している。よって、外れ値P22の検知だけでなく、区間P21に誤検知が発生している。
【0031】
グラフ112は、Qdiffをモデリングしたモデル24を示す時系列グラフの一例である。グラフ112に含まれる閾値(波線で図示)の計算式は、閾値=kσである(σはQ値の差分データの標準偏差、k=9、平均はゼロのため省略)。グラフ112のその他の環境はグラフ111と同じである(データの時間間隔は15分など)。
グラフ112では検知すべき外れ値P23(グラフ111では外れ値P22の時刻)を正しく検知できる閾値が設定できる。
【0032】
以上説明した
図3~
図4の各時系列グラフでは、計測データ値=Q値(単位はdB)とし、その差分変換値=Qdiffとした。一方、以下に例示するように、代わりに他の指標を用いてもよい。以下に例示するもの以外にも、光受信端部21で計測できるパラメータである偏波依存損失やレーザーバイアス電流などを用いても良い。
・計測データ値=偏波モード分散を示すPMD(単位はps)とし、その差分変換値=PMDdiffとする。
・計測データ値=波長分散を示すCD(単位はps/nm)とし、その差分変換値=CDdiffとする。
【0033】
図5は、多変量データに対して多変量外れ値検知を行った結果を示すグラフである。
図4では、Q値など1つの変数(計測データ値)を用いた単変量外れ値検知のモデル24を説明した。一方、
図5では、多変量外れ値検知のモデル24を説明する。
グラフ121は、QdiffとPMDという2つの変数を多変量データとして、多変量外れ値検知を行った結果のグラフである。グラフ121で示すように、PMDの値が大きくなると、Qdiffのばらつきが小さくなる傾向が見られる場合がある。このグラフ121のモデル24により、外れ値P36を検知できる。
【0034】
グラフ122は、QdiffとCDという2つの変数を多変量データとして、多変量外れ値検知を行った結果のグラフである。グラフ122で示すように、CDの値が大きくなると、Qdiffのばらつきが大さくなる傾向が見られる場合がある。このグラフ122のモデル24により、外れ値P37を検知できる。
グラフ121、122に示すように、Q値の差分データに加え、PMDやCDなどのQ値へ影響を与える他の計測データ値も含む多変量データに対して多変量外れ値検知を行うことで、検知精度向上などの効果が期待できる。また、PMDやCDなどのQ値へ影響を与えるパラメータが外れ値へ与える寄与率から、Q-dropの要因分析ができる。
【0035】
そのため、光受信端部21は、光信号から複数種類の計測データ値を計測する。
そして、モデル設定部22は、複数種類の計測データ値のうちの所定種類の計測データ値から第1の差分変換値を計算し、第1の差分変換値と、複数種類の計測データ値のうちの所定種類の計測データ値とは別の種類の計測データ値とを用いて、多変量外れ値検知を行うモデル24を生成する。
【0036】
以下、
図6および
図7を用いて、計測データ値での時間変動が、差分変換値では解消している旨を補足説明する。
図6は、計測データ値の月ごとの確率分布を示すグラフである。
グラフ131は、
図3に示すデータのn月分のQ値の確率分布を示すグラフである。グラフ132は、
図3に示すデータのn+1月分のQ値の確率分布を示すグラフである。グラフ133は、
図3に示すデータのn+2月分のQ値の確率分布を示すグラフである。
【0037】
このように、グラフ131-133は、互いに確率分布のグラフ形状が大きく異なる。そのため、例えば、グラフ131(n月分)の確率分布から計算した閾値をn+1月分以降に適用すると、外れ値の検知精度が低下してしまう。さらに、グラフ132など実線のグラフ曲線のピーク値を中心に左右対称になっていないグラフに対して、ピーク値である平均値を中心に左右対称になっている正規分布などを仮定してモデルを作成してしまうと、外れ値の検知精度が低下してしまう。
【0038】
図7は、
図6の各グラフが用いたデータに対して、Q値からQdiffに変換した場合の確率分布を示すグラフである。
グラフ141は、グラフ131の横軸をQ値からQdiffに変換した場合の確率分布を示すグラフである。グラフ142は、グラフ132の横軸をQ値からQdiffに変換した場合の確率分布を示すグラフである。グラフ143は、グラフ133の横軸をQ値からQdiffに変換した場合の確率分布を示すグラフである。
【0039】
このように、グラフ141-143は、互いに確率分布のグラフ形状が類似しており、計測データ値での時間変動が、差分変換値では解消している。そのため、例えば、グラフ141(n月分)の確率分布から計算した閾値をn+1月分以降に適用しても、外れ値の検知精度の低下は抑制される。
さらに、グラフ141-143は、実線のグラフ曲線のピーク値を中心に左右対称になっているグラフなので、正規分布などを仮定してモデル24を作成しても、外れ値の検知精度の低下は抑制される。
【0040】
なお、
図7では、正規分布のモデル24を例示したが、他の確率分布を仮定してモデリングを行ってもよい。
図8は、モデル24に適用される様々な確率分布を示すグラフである。
グラフ線L11は、標準正規(norm)分布を示す。また、対数正規(lognorm)分布も、norm分布とほぼ同じグラフ線となる。グラフ線L12は、コーシー(cauchy)分布を示す。グラフ線L13は、t分布を示す。
【0041】
図9は、光伝送システム100の各装置のハードウェア構成図である。
光伝送システム100の各装置(送信装置10と、受信装置20と、管理端末30)は、それぞれCPU901と、RAM902と、ROM903と、HDD904と、通信I/F905と、入出力I/F906と、メディアI/F907とを有するコンピュータ900として構成される。
通信I/F905は、外部の通信装置915と接続される。入出力I/F906は、入出力装置916と接続される。メディアI/F907は、記録媒体917からデータを読み書きする。さらに、CPU901は、RAM902に読み込んだプログラム(アプリケーション、その略のアプリとも呼ばれる)を実行することにより、各部を制御する。そして、このプログラムは、通信回線を介して配布したり、CD-ROM等の記録媒体917に記録して配布したりすることも可能である。
【0042】
[効果]
本発明の受信装置20は、光信号を受信し、その光信号から計測データ値を計測する光受信端部21と、
光受信端部21が計測した計測データ値について、第1時刻の計測データ値と、第1時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第1の差分変換値を計算し、所定期間における第1の差分変換値の集合から差分変換値が外れ値か否かを判定するためのモデル24を生成するモデル設定部22と、を有することを特徴とする。
【0043】
これにより、受信装置20は、時間変動(時間経過に伴うデータ分布の変化)のある計測データ値から、差分変換値に変換することで時間変動の影響を抑制したモデル24を生成する。よって、受信装置20は、光信号の計測データ値が時間変動する場合でも、劣化の検知精度を高めることができる。
【0044】
本発明の受信装置20は、光受信端部21が、光信号から複数種類の計測データ値を計測し、
モデル設定部22が、複数種類の計測データ値のうちの所定種類の計測データ値から第1の差分変換値を計算し、第1の差分変換値と、複数種類の計測データ値のうちの所定種類の計測データ値とは別の種類の計測データ値とを用いて、多変量外れ値検知を行うモデル24を生成することを特徴とする。
【0045】
これにより、受信装置20は、差分変換値に加え、差分変換値を計算した計測データ値へ影響を与える他の計測データ値も含む多変量データに対して多変量外れ値検知を行うことで、検知精度向上が期待できる。
【0046】
本発明の受信装置20は、さらに、外れ値検知部23を有しており、
外れ値検知部23が、光受信端部21が計測した計測データ値について、第2時刻の計測データ値と、第2時刻の直前に計測された計測データ値との差分をもとに第2の差分変換値を計算し、第2の差分変換値に対してモデル24を用いることで、第2の差分変換値が外れ値か否かを判定することを特徴とする。
【0047】
これにより、受信装置20は、時間変動のある計測データ値から、差分変換値に変換することで時間変動の影響を抑制したモデル24を使用して劣化を検知する。よって、受信装置20は、光信号の計測データ値が時間変動する場合でも、劣化の検知精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0048】
10 送信装置
20 受信装置(異常検知装置)
30 管理端末
21 光受信端部
21a 光受信部
21b デジタル信号処理部
21c 誤り補正部
22 モデル設定部(モデル作成部)
23 外れ値検知部
24 モデル
100 光伝送システム