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特開2024-123849異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに熱電変換デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123849
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに熱電変換デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 15/20 20230101AFI20240905BHJP
   C04B 35/515 20060101ALI20240905BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20240905BHJP
   H01F 1/40 20060101ALI20240905BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20240905BHJP
   H10N 50/20 20230101ALI20240905BHJP
   H10N 15/00 20230101ALI20240905BHJP
【FI】
H10N15/20
C04B35/515
C04B35/645
H01F1/40 180
H01F1/08 160
H10N50/20
H10N15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031599
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】深堀 明博
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 友文
(72)【発明者】
【氏名】牛島 啓太
(72)【発明者】
【氏名】古田土 美和
(72)【発明者】
【氏名】中辻 知
(72)【発明者】
【氏名】酒井 明人
【テーマコード(参考)】
5E040
5F092
【Fターム(参考)】
5E040BD01
5E040CA16
5E040HB03
5E040HB07
5E040NN06
5E040NN18
5F092AA20
5F092AB10
5F092BD05
5F092BE03
(57)【要約】
【課題】従来とは異なる焼結条件及び焼結プログラムにより、従来よりも大きな異常ネルンスト効果を得ると共に、形状加工がし易く、より安価に製造することが可能な異常ネルンスト効果素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】異常ネルンスト効果素子1は、Co、Mn、Gaを含有した結晶粒を有する焼結体2を含み、結晶粒の平均粒径が8~30μmであることを特徴とする。焼結体2は、CoMnGaの結晶粒を含み、その結晶粒がホイスラー構造を持つ。焼結体2は、Co、Mn、Gaを含有する粉末又はその圧粉成形体を焼結して作製し、700~1075℃の焼結温度で放電プラズマ焼結法を用いて焼結する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co、Mn、Gaを含有した結晶粒を有する焼結体を含み、
前記結晶粒の平均粒径が8~30μmであることを特徴とする異常ネルンスト効果素子。
【請求項2】
前記焼結体は、CoMnGaの結晶粒を含むことを特徴とする請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子。
【請求項3】
前記結晶粒がホイスラー構造を持つことを特徴とする請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子。
【請求項4】
前記結晶粒の粒径の標準偏差が1~10μmであることを特徴とする請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子。
【請求項5】
Co、Mn、Gaを含有する粉末又はその圧粉成形体を焼結した焼結体を作製する工程を含み、
前記工程において、700~1075℃の焼結温度で放電プラズマ焼結法を用いて焼結することを特徴とする異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載の異常ネルンスト効果素子を用いて、熱電変換を行うことを特徴とする熱電変換デバイス。
【請求項7】
異常ネルンスト係数が50℃以下において8μV/K以上であることを特徴とする請求項6に記載の熱電変換デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに熱電変換デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常ネルンスト効果(Anomalous Nernst effect)により起電力を生じる異常ネルンスト効果素子を用いた熱電変換デバイスが提案されている(例えば、下記特許文献1,2を参照。)。異常ネルンスト効果とは、磁性体に熱流を流して温度差が生じたときに、磁化方向と温度勾配の双方に直交する方向に電圧が生じる現象である。
【0003】
同じく温度勾配によって電圧を発生させる熱電変換デバイスとして、ゼーベック効果(Seebeck effect)を利用したものがよく知られている。ゼーベック効果では、温度勾配と同じ方向に電圧が生じることから、熱電変換デバイスが複雑な3次元構造となり、大面積化やフィルム化が困難である。また、毒性や希少性の高い材料が用いられており、脆弱で振動に弱く、さらに製造コストが高いという課題がある。
【0004】
一方、異常ネルンスト効果では、温度勾配に直交する方向に電圧が生じることから、この異常ネルンスト効果を用いた熱電変換デバイスでは、熱源に沿うように展開することができ、大面積化及びフィルム化に有利である。更に、廉価で毒性が少なく、且つ耐久性の高い材料を選択することができる。
【0005】
異常ネルンスト効果を示す物質は、CoMnGa、FeGa、FeAl、MnGe、MnSn、MnGa、MnGe、Co、Fe、Co/Ni films、NdMo、Pt/Fe multilayer、L1-FePtなど様々な物質で報告されている。これらの中で、現在、最も高い異常ネルンスト係数を有するものはCoMnGaであり、既報で最高データは6.75-8μV/Kである。なお、これらの値は単結晶のデータである。
【0006】
異常ネルンスト材料を評価する指標は、異常ネルンスト係数と無次元性能指数ZTとPower Factorの3つである。異常ネルンスト係数は、異常ネルンスト効果を評価する最も重要な指標であり、温度差1K当たりの熱起電力を意味している。
【0007】
無次元性能指数ZTは、熱を電気に変換する際の変換効率に対応する。Power Factorは、温度差1K当たりの発電量になり、発電応用の際に重要な指標になる。本願では、異常ネルンスト係数と無次元性能指数ZTで材料の評価を行っている。
【0008】
異常ネルンスト係数SANEは、下記式(1)で表される。
ANE=ρyyαyx-σyxρyySE …(1)
ρyy:縦抵抗
αyx:横熱電係数
σyx:ホール伝導度
SE:ゼーベック係数
【0009】
なお、横熱電係数αyxは、下記式(2)で表される。
αyx=-(π/3)・{(k T)/e}(∂σyx/∂ε)(モットの式) …(2)
但し、∂σyx/∂εはフェルミ準位での値である。
:ボルツマン定数
ε:エネルギー
e:電荷素量
T:絶対温度
【0010】
無次元性能指数ZTは、下記式(3)で表される。
ZT=(SANE ・σxx/κyy)・T={SANE /(ρxx・κyy)}・T …(3)
σxx:電気伝導率
κyy:熱伝導率
ρxx:電気抵抗率
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2019/009308号
【特許文献2】特開2023-2425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した異常ネルンスト効果は、ゼーベック効果に対して優位性があるものの、通常の磁性体を用いた異常ネルンスト効果による現状の発電量は、本格的な実用化のためにはまだ小さい。
【0013】
そこで、上記特許文献1では、従来よりも大きな異常ネルンスト効果をもたらすものとして、フェルミエネルギーの近傍にワイル点を有するバンド構造のCoMnGaからなる熱電変換素子(異常ネルンスト効果素子)を提案している。また、このCoMnGaの結晶構造は、立方晶系の単結晶であり、フルホイスラー系の結晶構造を有している。
【0014】
一方、上記特許文献1に記載の熱電変換素子は、優れた横熱電能を示すものの、CoMnGaの単結晶を引き上げる際に、融点まで温度を上げるために電力も時間もかかる。なお且つ、結晶成長に必要な時間もかかるため、製造コストが嵩むことが知られている。また、CoMnGaの単結晶は、ニアネットでの育成が無理なために切断する必要があり、形状加工にもコストがかかる。
【0015】
一般的に、焼結体とは、原料粉末を型で成形した後に、大気圧又は加圧下で電気炉により焼成する方法や、ホットプレス法、HIP(Hot Isostatic Pressing)法、放電プラズマ焼結法(SPS:Spark Plasma Sintering)、マイクロ波焼結法などで焼結したものを指す。
【0016】
最近では、新しい焼結法としてフラッシュ焼結なども報告されている。このように様々な方法で焼結体が作製されているが、物質固有の融点よりも低い温度で焼き固められている物を焼結体と称する。
【0017】
焼結体は、多結晶体の括りに入る。単結晶育成方法で融点よりも高い温度まで物質を熱してメルトにした後に、急冷すると原子の配列の規則化が間に合わず、多結晶になったものも多結晶の括りに入るが焼結体とは言わない。
【0018】
一方、焼結体は、融点以上まで温度を上げる必要がないために電力も時間も単結晶育成よりもかからず、なお且つ、必要な高温での保持時間も短い。特に、放電プラズマ焼結の焼結時間は、通常0分から3時間程度であり、圧倒的に短い。また、焼結体は、ニアネット焼結が可能であり、形状加工のためのコスト削減が期待できる。
【0019】
また、上記特許文献2には、CoMnGaを主成分とする粉体の焼結体が記載されている。具体的には、90MPaの圧力を付与した状態で、約1Paの真空雰囲気で焼結した焼結体が記載されている。また、温度プログラムは、650℃で昇温して10分保持した後に、750℃まで昇温して更に10分保持する方法を採用している。これにより、6.68μV/Kの異常ネルンスト係数を有する焼結体を作製している。しかしながら、異常ネルンスト係数としては不十分であり、更なる向上が求められている。
【0020】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、従来とは異なる焼結条件及び焼結プログラムにより、従来よりも大きな異常ネルンスト効果を得ると共に、形状加工がし易く、より安価に製造することが可能な異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに、そのような異常ネルンスト効果素子を用いた熱電変換デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 Co、Mn、Gaを含有した結晶粒を有する焼結体を含み、
前記結晶粒の平均粒径が8~30μmであることを特徴とする異常ネルンスト効果素子。
〔2〕 前記焼結体は、CoMnGaの結晶粒を含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の異常ネルンスト効果素子。
〔3〕 前記結晶粒がホイスラー構造を持つことを特徴とする前記〔1〕に記載の異常ネルンスト効果素子。
〔4〕 前記結晶粒の粒径の標準偏差が1~10μmであることを特徴とする前記〔1〕に記載の異常ネルンスト効果素子。
〔5〕 Co、Mn、Gaを含有する粉末又はその圧粉成形体を焼結した焼結体を作製する工程を含み、
前記工程において、700~1075℃の焼結温度で放電プラズマ焼結法を用いて焼結することを特徴とする異常ネルンスト効果素子の製造方法。
〔6〕 前記〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載の異常ネルンスト効果素子を用いて、熱電変換を行うことを特徴とする熱電変換デバイス。
〔7〕 異常ネルンスト係数が50℃以下において8μV/K以上であることを特徴とする前記〔6〕に記載の熱電変換デバイス。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、従来とは異なる焼結条件及び焼結プログラムにより、従来よりも大きな異常ネルンスト効果を得ると共に、形状加工がし易く、より安価に製造することが可能な異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに、そのような異常ネルンスト効果素子を用いた熱電変換デバイスを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る異常ネルンスト効果素子の構成を示す模式図である。
図2】焼結体の断面構造を示すSEM写真である。
図3】焼結体の断面構造を示す模式図である。
図4】CoMnGaの結晶構造を示す模式図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式図である。
図7】円近似での平均結晶粒径と異常ネルンスト係数との関係を示す特性図である。
図8】円近似での結晶粒径標準偏差と異常ネルンスト係数との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
〔第1の実施形態〕
(異常ネルンスト効果素子)
先ず、本発明の第1の実施形態として、例えば図1図4に示す異常ネルンスト効果素子1について説明する。
【0026】
なお、図1は、異常ネルンスト効果素子1の構成を示す模式図である。図2は、焼結体2の断面構造を示すSEM写真である。図3は、焼結体2の断面構造を示す模式図である。図4は、CoMnGaの結晶構造を示す模式図である。
【0027】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1は、図1に示すように、Co、Mn、Gaを含有した焼結体2を有している。焼結体2は、図2及び図3に示すように、CoMnGaからなるホイスラー構造を持った多数の結晶粒3により構成されている。
【0028】
具体的に、この結晶粒3は、L2型立方晶のフルホイスラー構造を持ったCoMnGaの強磁性体からなる。L2構造の単位格子は、図4に示すように、4つの面心立方格子(fcc)からなり、格子座標において、Co原子は(1/4、1/4、1/4)及び(3/4、3/4、3/4)、Mn原子は(0、0、0)、Ga原子は(1/2、1/2、1/2)に位置する。CoMnGaの結晶構造は、X線回折等の様々な回折法によって判定することができる。
【0029】
なお、焼結体2に磁場を印加すると、異常ネルンスト効果により磁場の大きさに比例した正常ネルンスト効果が加わり、熱電能が上昇することがあるので、実際の使用時に焼結体2に磁場を印加することもある。
【0030】
結晶粒3の平均粒径は、8μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、17μm以上であることが更に好ましい。結晶粒3の平均粒径を8μm以上とすることで、下記のような現象を抑制し、焼結体2の全体における異常ネルンスト係数が減少し難くなる。
【0031】
すなわち、焼結体2は、結晶粒3と粒間に存在している粒界で構成されている。粒界は、結晶粒3の方位が変化する空間であり、元素配列が乱れるために粒界近傍の結晶粒3の元素組成はCoMnGa組成からずれが生じる。この組成のずれた部分は、異常ネルンスト係数の低い材料から構成されており、その部分だけ異常ネルンスト係数が局所的に減少することになる。したがって、最終的に焼結体3の全体における異常ネルンスト係数が減少することになる。
【0032】
粒界は、このような負の影響を持っているが、結晶粒3の平均粒径を8μm以上とすることで、これらの負の影響を低減させることができ、粒界の増加を抑制し、異常ネルンスト係数の低い部分が増加せず、焼結体2の全体における異常ネルンスト係数が減少し難くなる。
【0033】
一方、結晶粒3の平均粒径は、30μm以下であることが好ましく、26μm以下であることがより好ましい。
【0034】
結晶粒3の平均粒径を30μm以下とすることで、異常粒成長を起こさせる必要性がないことから、焼結温度を融点以上まで上げる、若しくは焼結時間を長くする必要性が低下する。これにより、焼結体2の組成が原料粉末からずれる可能性を抑制できる。また、製造のための時間の延びや、消費電力を抑制することができる。
【0035】
結晶粒3の粒径の標準偏差は、1μm以上が好ましく、6μm以上がより好ましい。結晶粒3の粒径の標準偏差を1μm以上とすることで、原料粉末の粒径の標準偏差を非常に小さく抑える必要性が低下し、粉砕や精密分級などの製造工程を省くことができ、工程を単純化できる。
【0036】
一方、結晶粒3の粒径の標準偏差は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。結晶粒3の粒径の標準偏差を10μm以下とすることで、異常粒成長などを抑制できる。また、焼結温度が高過ぎず、且つ、焼結時間が長過ぎず、消費電力を抑えて生産効率を高めることができる。さらに、適切な焼結温度及び焼結時間とすることで、焼結体2の組成が原料粉末からずれる可能性を抑制できる。
【0037】
結晶粒3の粒径の測定については、焼結体2の表面を鏡面研磨した後に、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察することで行う。
【0038】
具体的には、先ず、焼結体2の表面を#800の耐水研磨紙で粗研磨した後に、1μmのアルミナ懸濁液で中研磨して、更に0.3μmのアルミナ懸濁液で鏡面研磨する。
【0039】
なお、研磨時に使用した耐水研磨紙やアルミナ懸濁液のアルミナの粒径サイズは、これらに必ずしも限定されるものではない。また、十分に鏡面研磨が終わっているなら、上述した鏡面研磨は行わなくてもよい。一方、上述した鏡面研磨後に、更に平面ミリング(フラットミリング)を施してもよい。
【0040】
次に、SEMの二次電子及び反射電子を用いて焼結体2の表面の観察を行う。そして、サンプル毎に500倍の倍率で計4枚の画像を撮影し、各画像の解析により結晶粒3の粒径を測定する。
【0041】
焼結体2の結晶粒3については、二次電子及び反射電子でSEM観察像を撮影した後に、そのSEM画像を使用して結晶粒3の平均粒径及び粒径の標準偏差を算出する。具体的には、1枚のSEM画像をピクセル毎に個々の粒子に分割する。このとき、画像端周辺の粒子について除去する。画像処理により分割した各粒子の面積を求め、各粒子の面積と同等の面積を有する円を決定する。1つのサンプルについて、測定した4枚のSEM画像中の、画像端付近の円を除く全ての円の直径から結晶粒3の平均粒径及び粒径の標準偏差を算出する。
【0042】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1では、図1に示すように、一の方向(本実施系形態ではy方向)に延在する直方体状の焼結体2が有し、厚み方向(本実施形態ではz方向)に0.1μm以上の厚みを有して、+z方向に磁化されている。
【0043】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1では、焼結体2に対して磁化Mの方向(+z方向)とは直交する他の方向(本実施形態では+x方向)に熱流Qが流れると、+x方向に温度差ΔTが生じる。
【0044】
これにより、焼結体2には、異常ネルンスト効果によって、熱流Qの方向(+x方向)及び磁化Mの方向(+z方向)の双方に直交する方向(本実施形態ではy方向)に起電力が発生する。これにより、本実施形態の異常ネルンスト効果素子1は、熱電変換素子として熱電変換を行うことが可能である。
【0045】
(異常ネルンスト効果素子の製造方法)
次に、本実施形態の異常ネルンスト効果素子1の製造方法について説明する。
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1を製造する際は、Co、Mn、Gaを含有する粉末又はその圧粉成形体を焼結した焼結体2を作製する。
【0046】
また、焼結体2は、放電プラズマ焼結法(SPS:Spark Plasma Sintering)を用いて焼結することが好ましい。これにより、任意の型を用い、短時間の焼結により所望の形、サイズからなるCoMnGaの焼結体2を作製することが可能である。
【0047】
SPSとは、通電性のあるカーボン型内に粉末を充填して、上下から圧力を加えると共に、通電を行う方法であり、加圧や温度以外に通電による電磁エネルギーや自己発熱による放電エネルギーを焼結の駆動力にする。これにより、高速昇温や、高速焼結、短時間焼結などが可能になる。また、型については、カーボン型に限定されるのでなく、通電性があるものなら金属型であってもよい。
【0048】
SPS焼結時には、型に充填された粉末を一軸加圧する。このときの印加圧力は、30MPa以上、130MPa以下とすることが好ましい。また、印加圧力は、70MPa以上であることがより好ましく、90MPa以上であることが更に好ましく、95MPa以上であることが最も好ましい。また、印加圧力は、120MPa以下であることがより好ましく、110MPa以下であることが更に好ましく、105MPa以下であることが最も好ましい。
【0049】
印加圧力を上記下限値以上とすることにより、焼結密度を上げて空隙発生を抑制することができ、結晶粒径を大きくすることができる。また、印加圧力を上記上限値以下とすることにより、SPS焼結時に型の破損を防ぐことができ、結晶粒径が大きくなり過ぎることを防ぐことができる。
【0050】
SPS焼結時の雰囲気としては、例えばArやNなどの不活性ガスを一般的に用いている。
【0051】
一般的に、SPS焼結を行う場合の温度は、カーボン型の側面を放射温度計で測定する。若しくは、カーボン型の側面部に内部まで貫通しない小さな穴を空けて、そこに熱電対(Kタイプ)を差し込み、温度を測定する。
【0052】
このため、実際の粉末の温度は、測定している側面温度よりも高く、計測値の100~200℃程度は高いと考えられている。本実施形態では、温度測定を熱電対(1000℃以下)と放射温度計(1000℃以上)とを用いて行った。
【0053】
焼結温度については、750℃以上であることが好ましく、770℃以上であることがより好ましく、800℃以上であることが更に好ましく、850℃以上であることが最も好ましい。
【0054】
焼結温度を750℃以上とすることで、初期焼結又は中期焼結止まりになることがなく、終期焼結まで焼結を完了させることができ、焼結密度が向上し、最適な平均結晶粒径に近づけることができる。また、焼結体2の内部に空隙が発生することを抑制し、異常ネルンスト係数を高くすることができる。
【0055】
一方、焼結温度については、1075℃以下であることが好ましく、1000℃以下であることがより好ましく、950℃以下であることが更に好ましい。
【0056】
焼結温度を1075℃以下とすることで、カーボン型内で焼結している粉末が融点以下となるため、メルトによる異常粒成長を抑制し、特定の結晶粒径の焼結体を得ることができる。また、焼結時に型から染み出すことを抑制することができる。さらに、焼結は、融点以下での反応なので、内部がメルトになるまで温度を上げる必要はなく、消費電力と焼結時間とを抑制することができる。
【0057】
なお、焼結体2の焼結方法としては、上述した放電プラズマ焼結法に必ずしも限定されるものではなく、例えば、大気圧焼結、ホットプレス焼結、HIP焼結、マイクロ波焼結等の従来より公知の焼結方法、若しくは、フラッシュ焼結といった新規の焼結方法を用いることが可能である。さらに、焼結は、上述した方法に必ずしも限定されるものでなく、融点よりも低い温度で熱処理して焼き固める方法であればよい。
【0058】
異常ネルンスト係数SANEは、下記式(4)により表される。
ANE=(V/ΔT)×(L_temp/W) …(4)
【0059】
具体的に、異常ネルンスト係数SANEは、以下のようにして算出される。すなわち、焼結体2から評価用の平板状(例えば、長さL=8mm、幅W=1.5mm、厚みt=1mm)のサンプルを切り出す。そして、このサンプルの一端をヒータで加熱し、サンプルの長さ方向に沿って温度差を与えながら、他端にヒートシンクを接触させる。これにより、直方体状のサンプルに一様な温度勾配を与え、L_temp離れた2点の温度差ΔTを測定する。この温度差ΔTと直交する方向に磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定する。
【0060】
以上のように、本実施形態の異常ネルンスト効果素子及びその製造方法では、従来よりも大きな異常ネルンスト効果を得ると共に、形状加工がし易く、より安価に製造することが可能である。
【0061】
〔第2の実施形態〕
(熱電変換デバイス)
次に、本発明の第2の実施形態として、例えば図5に示す熱電変換デバイス20について説明する。
なお、図5は、熱電変換デバイス20の構成を示す模式図である。
【0062】
本実施形態の熱電変換デバイス20は、図5に示すように、基板21と、基板21の上に配置された発電体22とを備えている。
【0063】
基板21は、発電体22が配置される第1面21aと、第1面21aと反対側の第2面21bとを有している。第2面21bには、熱源(図示せず。)からの熱が当てられる。
【0064】
発電体22は、複数の第1熱電変換素子23と複数の第2熱電変換素子24とを有している。第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24には、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。
【0065】
複数の第1熱電変換素子23及び複数の第2熱電変換素子24は、第1面21aの面内における一の方向(本実施形態ではx方向)に延在し、且つ、この一の方向とは交差(本実施形態では直交)する他の方向(本実施形態ではy方向)に交互に並んで配置されている。
【0066】
また、第1熱電変換素子23は、一の方向(x方向)の一端側(-x側)から他の方向の(y方向)の一方側(-y側)に向かって突出した第1接続部23aを有している。一方、第2熱電変換素子24は、一の方向(x方向)の他端側(+x側)から他の方向の(y方向)の一方側(-y側)に向かって突出した第2接続部24aを有している。
【0067】
第1熱電変換素子23は、第1接続部23aを介して第2熱電変換素子24の一の方向(x方向)の一端側(-x側)と電気的に接続されている。一方、第2熱電変換素子24は、第2接続部24aを介して第1熱電変換素子23の一の方向(x方向)の他端側(+x側)と電気的に接続されている。
【0068】
これにより、発電体22は、互いに隣り合う第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが電気的に直列に接続されることによって、全体として蛇行した形状を有している。
【0069】
また、発電体22は、第1熱電変換素子23の磁化M1の方向(本実施形態では-y方向)と、第2熱電変換素子24の磁化M2の方向(本実施形態では+y方向)とが互いに逆向きとなるように配置されている。さらに、第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とは、同符号のネルンスト係数を有している。
【0070】
以上のような構成を有する本実施形態の熱電変換デバイス20では、基板21の第2面21b側から発電体22に向けて熱流Qが流されると、発電体22に熱流方向の温度差が生じ、異常ネルンスト効果によって発電体22に電圧Vが生じる。
【0071】
すなわち、熱源から基板21の第2面21bに熱が当てられると、発電体22に向けて+z方向の熱流Qが流れる。このとき、第1熱電変換素子23では、磁化M1の方向(-y方向)及び熱流Qの方向(+z方向)の双方に直交する方向(-x方向)に起電力E1が生じる。一方、第2熱電変換素子24では、磁化M2の方向(+y方向)及び熱流Qの方向(+z方向)の双方に直交する方向(+x方向)に起電力E2が生じる。
【0072】
発電体22では、互いに隣り合う第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが電気的に直列に接続されていることから、第1熱電変換素子23で発生した起電力E1と第2熱電変換素子24で発生した起電力E2とが加算され、その出力電圧Vを増大させることが可能である。
【0073】
本実施形態の熱電変換デバイス20では、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24を用いることが可能である。
【0074】
ここで、第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24の長手方向の長さをL、厚さ(高さ)をHとすると、異常ネルンスト効果により発生する電圧VはL/Hに比例する。すなわち、第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24が長くて薄いほど、得られる電圧Vが大きくなる。
【0075】
したがって、本実施形態の熱電変換デバイス20では、上述した互いに隣り合う第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが電気的に直列に接続された発電体22を採用することによって、異常ネルンスト効果の向上により電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0076】
なお、上記熱電変換デバイス20では、上述した構成以外にも、例えば、第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが互いに逆符号のネルンスト係数を有し、且つ、第1熱電変換素子23の磁化M1の方向と第2熱電変換素子24の磁化M2の方向とが同一となるように配置した構成を採用してもよい。
【0077】
〔第3の実施形態〕
(熱電変換デバイス)
次に、本発明の第3の実施形態として、例えば図6に示す熱電変換デバイス30について説明する。
なお、図6は、熱電変換デバイス30の構成を示す模式図である。
【0078】
本実施形態の熱電変換デバイス30は、図6に示すように、略円筒状の中空部材31と、中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の熱電変換素子32とを備えている。熱電変換素子32には、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。また、熱電変換素子32は、中空部材31の軸線方向(x方向)と平行な方向に磁化されている。
【0079】
本実施形態の熱電変換デバイス30では、中空部材31の内側が外側よりも高温の場合、熱流Pは中空部材31の内側から外側に向かって流れるため、この中空部材31の内側から外側に向かって温度勾配(温度差)が生じ、異常ネルンスト効果によって熱電変換素子32に電圧Vが生じる。すなわち、熱電変換素子32では、熱電変換素子32の長手方向(磁化の方向及び熱流の方向の双方に直交する方向)に沿って起電力が発生する。
【0080】
本実施形態の熱電変換デバイス30では、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の熱電変換素子32を用いることが可能である。
【0081】
したがって、本実施形態の熱電変換デバイス20では、上述した中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の熱電変換素子32を採用することによって、異常ネルンスト効果の向上により電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0082】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記異常ネルンスト効果素子1は、上述した熱電変換デバイス20,30だけでなく、様々なデバイスに適用することが可能である。例えば、異常ネルンスト効果素子1を熱流センサに設けることで、建築物の断熱性能の良否を判定することができる。
【0083】
また、自動二輪車等の排気装置に熱電変換デバイス20,30を設けることで、排気ガスの熱(廃熱)を利用して発電することができ、熱電変換デバイス20,30を補助電源として有効利用することが可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、異常ネルンスト効果によって生じる電圧に着目したが、温度勾配によって生じたゼーベック効果による電圧と、ゼーベック効果が作り出した電圧に基づいて生じるホール効果と、異常ネルンスト効果によって生じる電圧との相乗効果により、出力電圧を高めることが可能である。
【0085】
また、本実施形態の異常ネルンスト効果素子は、上述した熱電変換素子としての機能だけでなく、熱電変換素子とは逆の機能、すなわちペルチェ素子のように、電力の供給によって温度変調(特に冷却)する機能を持たせることも可能である。
【0086】
また、上記実施形態では、上述したCoMnGaからなる焼結体が従来よりも大きな異常ネルンスト効果をもたらすことを説明したが、CoMnGa以外にも、異常ネルンスト効果を高める可能性がある候補物質としては、例えば、CoMnAl、CoMnIn、MnGa、MnGe、FeNiGa、CoTiSb、CoVSb、CoCrSb、CoMnSb、TiGaM nなどの焼結体を挙げることができる。
【実施例0087】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0088】
本実施例では、焼結温度を変更しながら、CoMnGaの原料粉末を放電プラズマ焼結法(SPS)を用いてペレット状に焼結することによって、CoMnGaの焼結体を作製した。
【0089】
SPS焼結は、印加圧力を100MPaとし、焼結時間を0~5分間とし、SPS焼結時の雰囲気をArとして行った。
【0090】
異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx及び熱伝導度κについては、以下のようにして求めた。
【0091】
すなわち、異常ネルンスト係数については、焼結体2から評価用の平板状(例えば、長さL=8mm、幅W=1.5mm、厚みt=1mm)のサンプルを切り出した後、このサンプルの一端をヒータで加熱し、サンプルの長さ方向に沿って温度差を与えながら、他端にヒートシンクを接触させ、サンプル上のL_temp離れた2点の温度差ΔTを測定した。また、この温度差と直交する方向且つサンプルの面直方向に磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定した。そして、異常ネルンスト係数SANEは、磁場を2テスラ印加したときの電圧Vから、上記式(4)により求めた。
【0092】
電気抵抗率ρxxについては、4端子法により測定した。
【0093】
熱伝導度κについては、Quantum Design社製のPhysical Property Measurement System のThermal Transport Optionを用い、パルス状の熱をサンプルの一端から印加し、サンプ中に生成する温度差の緩和過程を解析することで得た。
【0094】
そして、これら異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx、及び熱伝導度κの値を用いて、上記式(3)により無次元性能指数ZTの値を算出した。
【0095】
なお、異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx、及び熱伝導度κの測定は、切り出した同一のサンプルに対して行った。また、電気抵抗率ρxxの測定の際に流した電流の方向は、熱伝導度κの測定の際に流した熱流の方向と同一である。また、測定は300Kにおいて行った。
【0096】
その結果をまとめたものを下記表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
また、参考として、CoMnGaの単結晶について、同様の測定を行った結果を下記表1に示す。単結晶とは、μmやmm、cmのようなスケールのたった一つの結晶を意味する。一方、焼結体は、上記図3に示すような多結晶体であり、多くがnmからμmサイズの小さな結晶粒と粒界とで構成された内部微細構造を持つ。
【0099】
表1に示すように、本発明の条件を満足するCoMnGaの焼結体は、異常ネルンスト係数が50℃以下において6μV/K以上を示し、最大で8.25μV/Kを示していることがわかる。
【0100】
異常ネルンスト係数SANE以外に、無次元性能指数ZTは、全てのサンプルで単結晶と同等かそれ以上の値を示している。
【0101】
次に、上述した各焼結体のサンプルについて、円近似での平均結晶粒径と異常ネルンスト係数との関係をまとめたものを図7に示し、円近似での結晶粒径標準偏差と異常ネルンスト係数との関係をまとめたものを図8に示す。
【0102】
図7に示すように、結晶粒径標準偏差と異常ネルンスト係数との間には弱い負の相関があり円近似の径のばらつきが少ない方が異常ネルンスト係数が大きい傾向にあることを示している。
【符号の説明】
【0103】
1…異常ネルンスト効果素子 2…焼結体 3…結晶粒 20…熱電変換デバイス 21…基板 22…発熱体 23…第1熱電変換素子 24…第2熱電変換素子 30…熱電変換デバイス 31…中空部材 32…熱電変換素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8