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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125197
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】金属錯体化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20240906BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240906BHJP
   H10K 50/11 20230101ALI20240906BHJP
   H10K 85/30 20230101ALI20240906BHJP
【FI】
C07F15/00 E CSP
C09K11/06 660
H10K50/11
H10K85/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024030132
(22)【出願日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023032430
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
(72)【発明者】
【氏名】八木 繁幸
(72)【発明者】
【氏名】志倉 瑠太
(72)【発明者】
【氏名】米田 啓馬
【テーマコード(参考)】
3K107
4H050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC07
3K107DD59
3K107DD64
4H050AA01
4H050AA02
4H050AB92
4H050BB15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】近赤外領域において、更なる長波長域に発光特性を有する新規金属錯体化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される金属錯体化合物。

[X、X、及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上とZは、下記式(I)及び式(II)を満たす置換基。
σp>σp(I)、σp<0(II)
(σpは、Zのハメットの置換基定数。σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数。)]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される金属錯体化合物。
【化1】
[式(1)において、X、X、及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上とZは、下記式(I)及び式(II)を満たす置換基である。X、X、Xのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、前記電子供与性基として機能してもよい。
σp>σp (I)
σp<0 (II)
(式(1)中、σpは、Zのハメットの置換基定数である。
σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数である。)
、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、シアノ基、置換基を有していても良いエステル基、置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルコキシル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
Mはイリジウム又は白金を表す。
Lは1価の2座配位子を表し、m及びnは、
Mがイリジウムの場合にはm+n=3であり、mは1~3の整数であり、nは0~2の整数であり、
Mが白金の場合にはm+n=2であり、mは1又は2であり、nは0又は1である。]
【請求項2】
前記式(1)におけるm及びnがそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、Mがイリジウムの場合にはm+n=3であり、Mが白金の場合にはm+n=2であることを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項3】
前記Lが下記式(2)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【化2】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【請求項4】
前記式(2)が、下記式(3)、下記式(4)又は下記式(5)で表されることを特徴とする、請求項3に記載の金属錯体化合物。
【化3】
[式(3)において、R11、R12、R13はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良いアルキル基、又は置換基を有していても良いアリール基を表す。]
【化4】
[式(4)において、R14は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
15は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
14、R15がそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【化5】
[式(5)において、R16は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いアルコキシル基、又は置換基を有していても良いアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
rは0~4の整数を表す。
16が複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項5】
前記式(1)において、Mがイリジウムであることを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項6】
、X、及びXのいずれか1以上の前記電子供与性基がそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、又はジアルキルアミノ基であることを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項7】
Zがメチル基又はトリフルオロメチル基であることを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項8】
下記式(6)で表されるキノキサリン系化合物と塩化イリジウムと溶媒の混合物から、該溶媒を留去することにより、下記式(7)で表されるμクロロ架橋二核錯体を合成する工程を含む、下記式(1A)で表される金属錯体化合物の製造方法。
【化6】
[式(6)、(7)、(1A)において、X,X及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上とZは、下記式(1)及び(II)を満たす置換基である。X、X、Xのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、前記電子供与性基として機能してもよい。
σp>σp (I)
σp<0 (II)
(式(I)中、σpは、Zのハメットの置換基定数である。
σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数である。)
、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、シアノ基、置換基を有していても良いエステル基、置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルコキシル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
式(1A)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の金属錯体化合物を用いた有機発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の金属錯体化合物に関するものである。本発明の金属錯体化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有するものであり、例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等の部材として好適に用いることができる。
本発明はまた、この金属錯体化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物の選別、認識等は目視によるものが主流であったが、近年は、科学技術の発展とともに、高齢化や少子化に伴う労働力の減少も相重なって、ロボットを利用した選別・認識へとシフトしつつある。目視による選別・認識では可視光のみが利用されるが、ロボットを利用する場合には目視では捉えられない近赤外発光も利用することが可能であるため、選別・識別精度の向上が期待できる。さらに近赤外光は細胞を透過するので、バイオイメージングやバイオセンサー、医療診断薬、光線力学的療法(PDT)などへの展開も期待できる。なかでもIr、Pt、Osなどの金属錯体は燐光発光を示すことから、特に注目を集めている。
【0003】
例えば、特許文献1にはキノキサリン骨格を配位子に有するイリジウム錯体が、近赤外に発光を示し、OLED用途として利用できることが報告されている。また、非特許文献1にはキノキサリン骨格の配位子(以下、「キノキサリン配位子」と称す場合がある。)を有するカチオン性イリジウム錯体が、電気化学セルとして利用できることが示されている。
【0004】
なお、従来、キノキサリン骨格ではなく、キノリン骨格やピリジン骨格に置換したフェニル基のm位に電子供与性基を導入することで、発光極大波長の長波長化を図る提案はなされている(非特許文献2,3)。
しかしながら、キノリン骨格に置換したフェニル基のm位に電子供与性基を導入した場合の発光極大波長は618nmで、導入前の発光極大波長の604nmに対して、その長波長化の効果は低い。また、ピリジン骨格に置換したフェニル基のm位に電子供与性基を導入した場合の発光極大波長は531nmで、導入前の発光極大波長の520nmに対して、その長波長化の効果は低い。しかも、いずれの場合も、発光極大波長は700nmを大きく下回るものであり、近赤外発光の利用分野への適用には不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-17658号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chem.Eur.J.2019,25,5489-5497(CationiCIrIII EmitterswitHNear-Infrared Emission Beyond 800 nm and Their Use in Light-Emitting Electrochemical Cells)
【非特許文献2】Yuyang Zhou,et.al.,Dalton Trans.,2015,44,1858-1865
【非特許文献3】K.-H.Kim,et.al.,Adv.Optical Mater.,2015,3,1191-1196
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、従来、キノキサリン配位子を有するイリジウム錯体化合物の開発は行われているが、発光色素としての実用化のためには、発光波長の更なる長波長化が望まれる。
【0008】
本発明は、近赤外領域において、更なる長波長域に発光特性を有する新規金属錯体化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、キノキサリン配位子の特定の位置に電子供与性基を導入することにより、上記課題を解決することを見出した。
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 下記式(1)で表される金属錯体化合物。
【0011】
【化1】
【0012】
[式(1)において、X、X、及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上とZは、下記式(I)及び式(II)を満たす置換基である。X、X、Xのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、前記電子供与性基として機能してもよい。
σp>σp (I)
σp<0 (II)
(式(1)中、σpは、Zのハメットの置換基定数である。
σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数である。)
、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、シアノ基、置換基を有していても良いエステル基、置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルコキシル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
Mはイリジウム又は白金を表す。
Lは1価の2座配位子を表し、m及びnは、
Mがイリジウムの場合にはm+n=3であり、mは1~3の整数であり、nは0~2の整数であり、
Mが白金の場合にはm+n=2であり、mは1又は2であり、nは0又は1である。]
【0013】
[2] 前記式(1)におけるm及びnがそれぞれ独立に、1~2の整数を表し、Mがイリジウムの場合にはm+n=3であり、Mが白金の場合にはm+n=2であることを特徴とする、[1]に記載の金属錯体化合物。
【0014】
[3] 前記Lが下記式(2)で表されることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の金属錯体化合物。
【0015】
【化2】
【0016】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0017】
[4] 前記式(2)が、下記式(3)、下記式(4)又は下記式(5)で表されることを特徴とする、[3]に記載の金属錯体化合物。
【0018】
【化3】
【0019】
[式(3)において、R11、R12、R13はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良いアルキル基、又は置換基を有していても良いアリール基を表す。]
【0020】
【化4】
【0021】
[式(4)において、R14は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
15は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
14、R15がそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0022】
【化5】
【0023】
[式(5)において、R16は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いアルコキシル基、又は置換基を有していても良いアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
rは0~4の整数を表す。
16が複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0024】
[5] 前記式(1)において、Mがイリジウムであることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の金属錯体化合物。
【0025】
[6] X、X、及びXのいずれか1以上の前記電子供与性基がそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、又はジアルキルアミノ基であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の金属錯体化合物。
【0026】
[7] Zがメチル基又はトリフルオロメチル基であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の金属錯体化合物。
【0027】
[8] 下記式(6)で表されるキノキサリン系化合物と塩化イリジウムと溶媒の混合物から、該溶媒を留去することにより、下記式(7)で表されるμクロロ架橋二核錯体を合成する工程を含む、下記式(1A)で表される金属錯体化合物の製造方法。
【0028】
【化6】
【0029】
[式(6)、(7)、(1A)において、X,X及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上とZは、下記式(1)及び(II)を満たす置換基である。X、X、Xのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、前記電子供与性基として機能してもよい。
σp>σp (I)
σp<0 (II)
(式(I)中、σpは、Zのハメットの置換基定数である。
σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数である。)
、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、シアノ基、置換基を有していても良いエステル基、置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルコキシル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
式(1A)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0030】
[9] [1]~[7]のいずれかに記載の金属錯体化合物を用いた有機発光ダイオード。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、キノキサリン配位子を有する金属錯体化合物の特定の位置に電子供与性基を導入したことにより、近赤外領域の中でも更に長波長領域に発光特性を有する新規金属錯体化合物が提供される。
また、本発明の金属錯体化合物の製造方法によれば、本発明の金属錯体化合物の中間体としてのμクロロ架橋二核錯体を高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1のイリジウム錯体1の発光スペクトルを示すチャートである。
図2】実施例2のイリジウム錯体2の発光スペクトルを示すチャートである。
図3】実施例4のイリジウム錯体4の発光スペクトルを示すチャートである。
図4】比較例1のイリジウム錯体9の発光スペクトルを示すチャートである。
図5】本発明の有機発光ダイオードを構成する有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「アリール基」とは「芳香族炭化水素基」と「芳香族複素環基」の総称である。
【0034】
[金属錯体化合物]
本発明の金属錯体化合物は、下記式(1)で表される新規金属錯体化合物である。
【0035】
【化7】
【0036】
[式(1)において、X、X、及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上とZは、下記式(I)及び式(II)を満たす置換基である。X、X、Xのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、前記電子供与性基として機能してもよい。
σp>σp (I)
σp<0 (II)
(式(1)中、σpは、Zのハメットの置換基定数である。
σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数である。)
、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、シアノ基、置換基を有していても良いエステル基、置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルコキシル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
Mはイリジウム又は白金を表す。
Lは1価の2座配位子を表し、m及びnは、
Mがイリジウムの場合にはm+n=3であり、mは1~3の整数であり、nは0~2の整数であり、
Mが白金の場合にはm+n=2であり、mは1又は2であり、nは0又は1である。]
【0037】
上記式(1)におけるm及びnは、それぞれ独立に、好ましくは1~2の整数であり、Mがイリジウムの場合、n+m=3であり、Mが白金の場合、m+n=2であることが好ましい。
【0038】
[メカニズム]
本発明の金属錯体化合物が、キノキサリン配位子のキノキサリン骨格に置換したフェニル基のm位とp位の少なくとも一ヶ所に電子供与性基を導入したことにより、近赤外領域の中でも更に長波長領域に発光極大波長を有するものとすることができるメカニズムについては、以下のように考えられる。
即ち、前記式(1)におけるX、X、Xの位置に電子供与性基を導入することで、キノキサリン配位子のHOMOを上げることで、バンドギャップがせまくなり、発光波長を長波長化することができる。また、CH結合に比べて結合が強固となり、CH伸縮による無輻射失活が抑制されることにより、高い発光量子収率が期待できる。
【0039】
前述の通り、従来、キノキサリン骨格ではなく、キノリン骨格やピリジン骨格に置換したフェニル基のm位に電子供与性基を導入することで、発光極大波長の長波長化を図る提案はなされているが、いずれもその長波長化の効果は低い上に、長波長化を図っても、その発光極大波長は530~620nm程度で、十分ではない。
これに対して、本発明によれば、キノキサリン骨格の2位にフェニル基を有し、かつ、3位に置換基Zを有し、この置換基Zよりも更に電子供与性の高い電子供与性基を、フェニル基のm位及び/又はp位に導入することで、プッシュプル効果が最大となり、発光極大波長を顕著に長波長化することができ、その長波長化効果は、後掲の実施例にも示されるように100nm以上になるものもあり、極めて大きなものである。
【0040】
[Z]
式(1)におけるZは、ハメットの置換基定数のσpが、X、X、Xのいずれかの電子供与性基のハメットの置換基定数σpよりも大きいものであればよく、電子供与性基であっても電子求引性基であってもよいが、共鳴効果の寄与が少なく、発光極大波長の長波長化に有効であることから、Zはハメットの置換基定数σpが0より大きい電子求引性基であることが好ましい。この観点から、Zのハメットの置換基定数σpは0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。また、その上限は特に限定されないが、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
ハメットの置換基定数は、Chem.Rev.1991,91,165-195に詳細に記載されている。
【0041】
Zとしては、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基、ハロアルキル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、イミノ基等が挙げられる。
このうち、アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~24のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、へキシル基、オクチル基等が挙げられる。
ハロアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12のハロアルキル基、具体的には、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
アルキルカルボニル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12のアルキルカルボニル基、具体的には、アセチル基、エチルカルボニル基等が挙げられる。
アルキルオキシカルボニル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12のアルキルオキシカルボニル基、具体的には、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、へキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
これらのうち、Zとしては、合成上の観点から、メチル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、フェニル基が好ましく、特にトリフルオロメチル基が好ましい。
【0042】
[X、X、X
式(1)において、X、X、及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上と前記Zは、下記式(I)及び式(II)を満たすものである。X、X、Xのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、前記電子供与性基として機能してもよい。
σp>σp (I)
σp<0 (II)
(式(1)中、σpは、Zのハメットの置換基定数である。
σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数である。)
【0043】
、X、Xのうち、上記式(I)を満たす電子供与性基となるものは、1以上であればよく、X、X、Xのうちのいずれか1つのみが電子供与性基であって、残り2つが水素原子であってもよく、X、X、Xのうちのいずれか2つが電子供与性基であって、残り1つが水素原子であってもよく、X、X、Xのすべてが電子供与性基であってもよい。
【0044】
合成上の観点から、X、X、Xのうちの電子供与性基の数は1つ又は2つであることが好ましい。X、X、Xのうちの1つが電子供与性基で残り2つが水素原子である場合、発光極大波長の長波長化の観点から、X又はXが電子供与性基であることが好ましく、Xが電子供与性基であることがより好ましい。
また、X、X、Xのうちの2つが電子供与性基で残りの1つが水素原子である場合、発光極大波長の長波長化の観点から、XとXが電子供与性基でXが水素原子であるか、XとXが電子供与性基でXが水素原子であることが好ましく、XとXが電子供与性基でXが水素原子であることがより好ましい。
【0045】
、X、Xの電子供与性基としては、上記式(I),(II)を満たすものであればよいが、ハメットの置換基定数の長波長化の観点から、そのハメットの置換基定数σpについては0未満で、-0.01以下、特に-0.1以下であることが好ましい。一方、その下限には特に制限はないが、通常-2.0以上である。
【0046】
このようなハメットの置換基定数σpを満たす電子供与性基としては、アルキル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基が挙げられる。
上記アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12のアルキル基、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
上記アルコキシル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12のアルコキシル基、具体的にはメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
上記アリールオキシ基としては、具体的にはフェノキシ基、ナフチルオキシ基等の芳香族炭化水素環のアリールオキシ基等が挙げられる。
上記ジアリールアミノ基としては、ジフェニルアミノ基等の芳香族炭化水素基が置換したジアリールアミノ基や、置換基同士が縮環したカルバゾリル基等が挙げられる。
上記ジアルキルアミノ基としては、炭素数2~24のジアルキルアミノ基、具体的にはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。
【0047】
なお、X、X、Xの電子供与性基は、これらのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、電子供与性基として機能するものであってもよい。
このような電子供与性の環としては、上記フェニル基のベンゼン環に縮合する1,4-ジオキサン環、1,4-ピペラジン環などが挙げられる。
【0048】
これらのうち、発光極大波長の長波長化、導入のしやすさの観点から、X、X、Xの電子供与性基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が好ましい。
【0049】
[R、R、R、R
式(1)において、R、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、シアノ基、置換基を有していても良いエステル基、置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルコキシル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
【0050】
、R、R、Rのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子である。
、R、R、Rのアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖又は分岐鎖の炭素数1~6のアルキル基である。
のエステル基としては、-C(=O)OR’(ただし、R’は炭素数1~12のアルキル基である。)が挙げられる。
アリール基のうち、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基、ナフチル基である。芳香族複素環基としては、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、ジベンゾチオフェニル基、ピリジル基等が挙げられ、好ましくはチオフェニル基、ピリジル基である。
アルコキシル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~24のアルコキシル基が挙げられ、好ましくは炭素数1~12のアルコキシル基である。
【0051】
、R、R、Rのアルキル基、エステル基、アリール基、アルコキシル基が置換基を有する場合、該置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。
【0052】
、R、R、Rのうち、隣接する置換基同士が結合して形成する環としては、キノキサリン骨格のうちのベンゼン環に縮合するベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環や、チオフェン環、ピリジン環等の芳香族複素環が挙げられる。
【0053】
、R、R、Rとしては、合成上の観点から、水素原子が好ましい。
一方で、錯形成の妨げの観点から、R、R、R、RのうちのRは水素原子又はフッ素原子であることが好ましい。
【0054】
[M]
式(1)において、Mはイリジウム又は白金であり、溶解性の観点から、好ましくはイリジウムである。
【0055】
[L]
Lは1価の2座配位子を表し、本発明の特性を損なわない限り特に制限は無い。同一分子内にLが複数ある場合、複数のLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
Lとしては、下記式(2)で表されるものが好ましい。
【0057】
【化8】
[式(2)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0058】
式(2)において、C原子、N原子及びO原子は環又は基の一部であり、X及びYをそれぞれ含む環又は基が、結合しているものである。C原子、N原子及びO原子を含む環又は基は特に限定されないが、安定性の観点からM、X及びYを含む環が5員環又は6員環となることが好ましい。このようなものとして、具体的には、下記の構造が挙げられる。
【0059】
【化9】
【0060】
式(1)におけるMとLとの結合様式には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Lの窒素原子及び炭素原子で結合する様式、Lの2つの窒素原子で結合する様式、Lの2つの炭素原子で結合する様式、Lの炭素原子及び酸素原子で結合する様式、Lの2つの酸素原子で結合する様式、Lの窒素原子及び酸素原子で結合する様式などが挙げられる。
【0061】
Lの好ましい構造を以下の式(2A)~(2F)に例示するが、この限りではない。これらはその構造を保ち得る限りにおいて、骨格の炭素原子が窒素原子など他の原子に置き換わっていてもよいし、さらに置換基を有していてもよい。
【0062】
Lが置換基を有する場合、その置換基としては、-F、-CN、-CF等の炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状ハロアルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシル基、炭素数1以上30以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数5以上40以下のアリールオキシ基、炭素数5以上40以下のアリールチオ基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数5以上60以下のアラルキル基、炭素数5以上60以下の芳香族炭化水素基また炭素数2以上60以下の芳香族複素環基等が挙げられる。
ここで、アリールオキシ基、アリールチオ基のアリール基には、芳香族炭化水素基と芳香族複素環基が含まれる。
また、Lが有する置換基のうち、隣接する置換基同士が結合して環を形成してもよい。
Lが有していてもよい置換基としては、-F、-CN、-CF、アルキル基、アラルキル基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が特に好ましく、-F、-CN、-CF、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が最も好ましい。
【0063】
【化10】
【0064】
上記Lの例示式の中でも、式(2A)、式(2B)又は式(2F)、特に式(2A)又は式(2F)が、式(1)で表される本発明の金属錯体化合物の安定性が向上することから好ましい。
即ち、Lは下記式(3)、下記式(4)又は下記式(5)で表される配位子であることが好ましく、下記式(3)又は下記式(4)で表される配位子であることがより好ましい。
【0065】
【化11】
【0066】
[式(3)において、R11、R12、R13はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表す。]
【0067】
【化12】
【0068】
[式(4)において、R14は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
15は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
pは0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表す。
14、R15がそれぞれ複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0069】
【化13】
【0070】
[式(5)において、R16は重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いアルコキシル基、又は置換基を有していても良いアリール基を表し、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
rは0~4の整数を表す。
16が複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。]
【0071】
上記式(3)におけるR11、R12、R13のアルキル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分岐アルキル基である。また、置換基を有するアルキル基としては、ハロアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~8のパーフルオロアルキル基である。また、アリール基は、好ましくはフェニル基、チエニル基、ピリジル基である。
12は水素原子であることが好ましく、R11、R13は、それぞれ独立に、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基であることが好ましい。
【0072】
上記式(4)におけるR14、R15のより具体的な例は、Lが有していてもよい置換基として例示したものが挙げられ、好ましいものも同じである。
式(4)における置換基数であるp,qは、溶解性の観点から1~4であることが好ましく、昇華性向上の観点から0であることが好ましい。
【0073】
上記式(5)におけるR16のアルキル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分岐アルキル基である。また、置換基を有するアルキル基としては、ハロアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~8のパーフルオロアルキル基である。アルコキシル基は、好ましくは炭素数1~10の直鎖又は分岐アルコキシル基である。また、アリール基は、好ましくはフェニル基、チエニル基、ピリジル基である。
これらのうち、R16は水素原子か又はアルキル基であることが好ましい。
【0074】
式(5)における置換基数であるrは、溶解性の観点から1~4であることが好ましく、昇華性向上の観点から0であることが好ましい。
【0075】
[m及びn]
式(1)におけるm及びnは、Mがイリジウムの場合にはm+n=3であり、mは1~3の整数であり、nは0~2の整数である。
Mが白金の場合にはm+n=2であり、mは1又は2であり、nは0又は1である。
より好ましくは式(1)におけるm及びnは、それぞれ独立に、1~2の整数を表し、Mがイリジウムの場合、n+m=3であり、Mが白金の場合、m+n=2である。
【0076】
[式(1)で表される金属錯体化合物の製造方法]
式(1)で表される本発明の金属錯体化合物の製造方法は特に限定されないが、本発明の金属錯体化合物のうち、例えば、前記式(1)におけるMがイリジウムであり、Lが前記式(2)で表される配位子であるイリジウム錯体(即ち、下記式(1A)で表される金属錯体化合物)は、本発明の金属錯体化合物の製造方法に従って、キノキサリン配位子である下記式(6)で表されるキノキサリン系化合物と塩化イリジウムと溶媒の混合物から、該溶媒を留去することにより、下記式(7)で表されるμクロロ架橋二核錯体を合成する工程を経て製造することができる。
【0077】
【化14】
【0078】
[式(6)、(7)、(1A)において、X,X及びXは水素原子又は電子供与性基であり、X、X、及びXのいずれか1以上とZは、下記式(1)及び(II)を満たす置換基である。X、X、Xのうち隣接する置換基同士が結合して、式(1)のX、X、Xを有するフェニル基のベンゼン環に縮合する環を形成することで、前記電子供与性基として機能してもよい。
σp>σp (I)
σp<0 (II)
(式(I)中、σpは、Zのハメットの置換基定数である。
σpは、X、X、及びXのいずれか1以上の電子供与性基のハメットの置換基定数である。)
、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良いアルキル基、シアノ基、置換基を有していても良いエステル基、置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルコキシル基を表し、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
式(1A)において、X及びYはそれぞれ独立に、C原子、N原子またはO原子を表す。]
【0079】
式(6)、(7)、(1A)におけるX、X、X、Z、R、R、R、Rは、前記式(1)におけるX、X、X、Z、R、R、R、Rと同義である。
式(1A)におけるX及びYは、前記式(2)におけるX及びYと同義である。
【0080】
上記塩化イリジウムとしては、IrClを用いることができる。塩化イリジウムは、反応当量以上、例えば反応当量の1~1.5倍用いればよい。尚、IrClとしては、反応性の観点から水和物であることが好ましい。
【0081】
上記溶媒としては、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール等のアルコキシアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキルジオールの1種又は2種以上の有機溶媒と、水との混合溶媒を用いることができる。この混合溶媒における有機溶媒と水との混合割合は、有機溶媒:水=2~4:1(体積比)であることが、有機反応剤と無機反応剤の双方の溶解性を促進するため、好ましい。
【0082】
また、溶媒は、塩化イリジウム0.5mmolに対して4mL~16mL、特に5mL~10mLの割合で用いることが好ましい。溶媒の使用量が上記下限以上であれば反応剤の少なくとも一部が溶媒に適切に溶解するため反応が進行し易く、上記上限以下であれば反応が適切な時間内に進行し易い。
【0083】
通常、架橋二核錯体を製造する場合、反応は、配位子となる化合物と金属塩と溶媒とを含む混合物を加熱還流し、蒸発した溶媒蒸気を冷却して反応系に戻すようにして行われるが、本発明者らの検討により、本発明に係るμクロロ架橋二核錯体の製造に当っては、加熱還流して溶媒を反応系に戻す方法では、目的物を高収率で得ることができず、加熱により溶媒を蒸発させ、反応系を濃縮しながら反応を行うことで、目的物を高収率で得ることができることが判明した。
この溶媒の濃縮の程度には特に制限はないが、反応に用いた溶媒の80%以上、特に85~95%が留去されるような濃縮の程度であることが好ましい。
【0084】
上記μクロロ架橋二核錯体の製造における反応温度には特に制限はなく、用いた溶媒の沸点によっても異なるが、反応の進行に対応した反応系の濃縮速度の観点から、130~160℃、特に130~150℃が好ましい。
なお、反応は、イリジウム(III)がイリジウム(IV)へ酸化することを防ぐために窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0085】
反応により得られたμクロロ架橋二核錯体は、アセチルアセトン等の配位子Lの化合物と常法に従って反応させることで、式(1A)で表される金属錯体化合物を製造することができる。
【0086】
なお、キノキサリン配位子である上記式(6)で表されるキノキサリン化合物は、後掲の実施例の項における合成例のように、式(6)におけるキノキサリン環の2位に塩素原子、臭素原子等の脱離基を有する化合物に、X、X、Xのいずれか1以上に前述の電子供与性基を有するフェニルボロン酸を反応させることにより製造することができる。
【0087】
[金属錯体化合物の物性]
式(1)で表される本発明の金属錯体化合物の発光極大波長は、好ましくは700nm以上、より好ましくは710nm以上である。特に、発光極大波長が715nm以上であることで、近赤外光を利用した選別・識別手段に有効に利用することが可能となる。
【0088】
[金属錯体化合物の具体例]
以下に、式(1)で表される本発明の金属錯体化合物の具体例を示すが、本発明の化合物はこれに限定されるものではない。
【0089】
【化15】
【0090】
【化16】
【0091】
【化17】
【0092】
【化18】
【0093】
[用途]
式(1)で表される本発明の金属錯体化合物は、近赤外域以上に吸収・発光特性を有し、近赤外光を利用した選別・認識手段に有用である。例えば近赤外発光マーカー、インジケーター、バイオイメージング、センサー、波長変換フィルム、発光トランジスター、有機発光ダイオード(OLED)、電気化学発光セル、フォトダイナミックセラピー、光美容、ナイトビジョンディスプレイ、セキュリティー、偽造防止用途等に好適に用いることができる。
【0094】
[有機発光ダイオード]
以下に、本発明の金属錯体化合物の用途の一例として、有機発光ダイオードとして使用した場合を示す。
本発明の金属錯体化合物を用いた有機発光ダイオードは、後掲の実施例に示されるように、本発明の金属錯体化合物を用いることで、発光極大波長の長波長化を図ることができ、可視域(680nm以下)に発光が少なく、近赤外OLEDとして優れた性能を示すものである。
【0095】
本発明の有機発光ダイオードを構成する有機電界発光素子(以下、「本発明の有機電界発光素子」と称す場合がある。)は、基板と、該基板上に設けられた陽極、有機層、及び陰極とを備えた有機電界発光素子であって、該有機層として、本発明の金属錯体化合物を用いて形成された有機層を含むものである。
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成及びその形成方法等について、図5を参照して説明する。
図5は本発明の有機電界発光素子10の構造例を示す断面の模式図であり、図5において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0096】
<基板>
基板は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板、金属箔、又は、合成樹脂、すなわちプラスチックのフィルム若しくはシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂のフィルムが好ましい。基板1は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板1の少なくとも一方の表面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げることが好ましい。
【0097】
<陽極>
陽極2は、発光層側の層に正孔を注入する機能を担う。陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック或いはポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0098】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより形成することもできる。導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布したりして陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0099】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて、決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。
透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意の厚みとすればよく、この場合、陽極2は基板1と同一の厚みでもよい。
陽極2を形成後、次いでその表面に次の層の成膜を行う場合は、成膜前に、紫外線+オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくのが好ましい。
【0100】
<正孔注入層3>
正孔注入層3は、陽極2から発光層へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
本発明に係る正孔注入層は、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法で形成されることが特に好ましい。
本明細書において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等、湿式で成膜される方法を採用し、これらの方法で成膜された膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。
正孔注入層3の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。
【0101】
<正孔輸送層4>
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本発明の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化する点からは設けることが好ましい。正孔輸送層4を設ける場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。正孔注入層3がある場合、正孔輸送層4は正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0102】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点からは、湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層4は、通常、正孔輸送層4となる正孔輸送性化合物を含有する。正孔輸送層4に含まれる正孔輸送性化合物としては、特に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等も好ましく使用できる。
【0103】
<発光層5>
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極9から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。発光層5は、陽極2と陰極9の間に形成される層である。発光層5は、陽極2の上に正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と陰極9の間に形成され、陽極2の上に正孔輸送層4がある場合は、正孔輸送層4と陰極9との間に形成される。発光層5は、発光材料と共に電荷輸送性材料を含むことが好ましい。
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点からは厚い方が好ましく、一方、低駆動電圧としやすい点からは薄い方が好ましい。発光層5の膜厚は3nm以上が好ましく、5nm以上が更に好ましく、また、通常200nm以下が好ましく、100nm以下が更に好ましい。
【0104】
(発光材料)
本発明の有機電界発光素子において、発光層5の発光材料としては、本発明の金属錯体化合物の1種又は2種以上を用いることができる。
【0105】
有機電界発光素子において、発光層5に用いる発光材料としての本発明の金属錯体化合物は、低分子化合物であることが、半値幅が狭く、鮮やかな発光が得られることから、好ましい。
低分子化合物としては分子量5000以下、特に3000以下、例えば100~2000程度であることが好ましい。
【0106】
(電荷輸送性材料)
電荷輸送性材料は、正電荷(正孔)又は負電荷(電子)輸送性を有する材料であり、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。
電荷輸送性材料は、従来、有機電界発光素子の発光層5に用いられている化合物等を用いることができ、特に、発光層5のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。電荷輸送性材料としては、具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等の正孔注入層3の正孔輸送性化合物として例示した化合物等が挙げられる。その他、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等の電子輸送性化合物等が挙げられる。
【0107】
電荷輸送性材料としては、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物等の正孔輸送層4の正孔輸送性化合物として例示した化合物等も好ましく用いることができる。その他、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-ターシャルブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等も挙げられる。
上記の電荷輸送性材料は、発光材料に対して1~100倍の割合で用いることが好ましい。
【0108】
(湿式成膜法による発光層5の形成)
本発明の有機電界発光素子においては、湿式成膜法により発光層5を形成することが好ましい。
湿式成膜法により発光層を形成する場合、通常、発光層5の発光材料となる本発明の金属錯体化合物を可溶な溶剤(発光層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(発光層形成用組成物)を調製し、この発光層形成用組成物を発光層5の下層に該当する層、通常は、正孔輸送層4又は正孔注入層3上に湿式成膜法により成膜し、乾燥させることにより形成させる。
【0109】
発光層用溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル系溶剤;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、3-イソプロピルビフェニル、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン系溶剤;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール系溶剤;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール系溶剤;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン系溶剤;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン系溶剤等が挙げられる。これらのうち、アルカン系溶剤及び芳香族炭化水素系溶剤が特に好ましい。
【0110】
より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、用いる溶剤の沸点は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。
溶剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物中の合計含有量は、低粘性なために成膜作業が行いやすい点から多い方が好ましく、厚膜で成膜しやすい点からは低い方が好ましい。溶剤の含有量は、発光層形成用組成物において好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは50質量%以上であり、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99質量%以下である。
【0111】
湿式成膜後の溶剤除去方法としては、加熱又は減圧を用いることができる。加熱方法において使用する加熱手段としては、膜全体に均等に熱を与えることから、クリーンオーブン、ホットプレートが好ましい。
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、乾燥時間を短くする点からは温度が高いほうが好ましく、材料へのダメージが少ない点からは低い方が好ましい。加温温度の上限は通常250℃以下であり、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。加温温度の下限は通常30℃以上であり、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。上記上限以下とすることにより、通常用いられる電荷輸送性材料又は燐光発光材料の耐熱性より低い温度となり、分解や結晶化を抑制できる。加熱温度が上記下限以上とすることにより、溶剤の除去における長時間化を避けることができる。加熱工程における加熱時間は、発光層形成用組成物中の溶剤の沸点や蒸気圧、材料の耐熱性、および加熱条件によって適切に決定される。
【0112】
<正孔阻止層6>
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ、すなわちHOMOとLUMOの差が大きいこと、及び励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0113】
このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10-79297号公報)などが挙げられる。国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0114】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、前述の発光層5の形成方法と同様にして形成することができる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0115】
<電子輸送層7>
電子輸送層7は素子の電流効率をさらに向上させることを目的として、発光層5又は正孔素子層6と電子注入層8との間に設けられる。
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物により形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極9又は電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0116】
このような条件を満たす電子輸送性化合物としては、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5-331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0117】
電子輸送層7の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
電子輸送層7は、発光層5と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により発光層5又は正孔阻止層6上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が多く用いられる。
【0118】
<電子注入層8>
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく、電子輸送層7又は発光層5へ
注入する役割を果たす。
電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料には、仕事関数の低い金属
を用いることが好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウ
ムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。
【0119】
電子注入層8の膜厚は、0.1~5nmが好ましい。
陰極9と電子輸送層7との界面に電子注入層8として、LiF、MgF 、Li O、CsCO等の、膜厚が0.1~5nm程度である極薄絶縁膜を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10-74586号公報;IEEETrans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年;SID04Digest,2004年,154頁)。
【0120】
さらに、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10-270171号公報、特開2002-100478号公報、特開2002-100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
電子注入層8は、発光層5と同様にして湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5或いはその上の正孔阻止層6又は電子輸送層7上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層5の場合と同様である。
【0121】
<陰極9>
陰極9は、電子注入層8又は発光層5などの発光層5側の層に電子を注入する役割を果たす。陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金などが用いられる。陰極9の材料としては、例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極などが挙げられる。
【0122】
素子の安定性の点では、陰極9の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極9を保護することが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
陰極の膜厚は通常、陽極2と同様である。
【0123】
<その他の構成層>
以上、図5に示す層構成の素子を中心に説明したが、本実施形態に係る有機電界発光素子における陽極2及び陰極9と発光層5との間には、その性能を損なわない限り、上記説明にある層の他にも、任意の層を有していてもよく、また発光層5以外の任意の層を省略してもよい。
【0124】
例えば、正孔阻止層8と同様の目的で、正孔輸送層4と発光層5の間に電子阻止層を設けることも効果的である。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔輸送層4に到達することを阻止することで、発光層5内で正孔との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔輸送層4から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割がある。
【0125】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ、すなわちHOMOとLUMOの差が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
発光層5を湿式成膜法で形成する場合、電子阻止層も湿式成膜法で形成することが、素子製造が容易となるため、好ましい。
【0126】
このため、電子阻止層も湿式成膜適合性を有することが好ましく、このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8-TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号)等が挙げられる。
図5とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に積層することも可能である。また、少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に、本実施形態に係る有機電界発光素子を設けることも可能である。
【0127】
図5に示す層構成を複数段重ねた構造、すなわち発光ユニットを複数積層させた構造とすることも可能である。その際には段間、すなわち発光ユニット間の界面層の代わりに、例えばV等を電荷発生層として用いると段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。界面層とは、例えば陽極がITO、陰極がAlである場合はその2層を意味する。
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【実施例0128】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0129】
[キノキサリン配位子の合成]
<合成例1:キノキサリン配位子1の合成>
【化19】
【0130】
雰囲気下、2-クロロ-3-トリフルオロメチルキノキサリン(5.00mmol)と3,5-ジメチルフェニルボロン酸(6.00mmol)、リン酸(III)カリウム(12.5mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィンパラジウム)(0.250mmol)をジメトキシエタンとエタノールと水(12mL/1.8mL/5.0mL)混合溶媒中、80℃で20時間還流させた。室温まで冷却し、飽和食塩水を50mL加えた後、水層をジクロロメタン50mLで3回抽出した。あわせた有機層を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとヘキサンの混合溶媒)で精製して、キノキサリン配位子1を白色固体(1387.7mg,4.59mmol)として収率92%で得た。
【0131】
キノキサリン配位子1の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.27(dd,J=8.2Hz,1.8Hz,1H),8.22(dd,J=8.9Hz,1.4Hz,1H),7.96-7.87(m,2H),7.22(s,2H),7.17(s,1H),2.41(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)153.15,142.58,139.39,138.00,137.28,132.69,131.25,131.12,129.82,129.41,126.62,122.84,120.09,21.45;
Anal.calcdforC17H13F3N2:C,67.54;H,4.33;N,9.27.
Found:C,67.55;H,4.49;N,9.24.
【0132】
<合成例2:キノキサリン配位子2の合成>
【化20】
【0133】
3,5-ジメチルフェニルボロン酸の代りに3,4-ジメチルフェニルボロン酸を用いたこと以外は合成例1と同様に行って、キノキサリン配位子2を白色固体(1430.0mg,4.73mmol)として収率95%で得た。
【0134】
キノキサリン配位子2の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)8.26(dd,J=8.9Hz,1.4Hz,1H),8.21(d,J=8.2Hz,1.4Hz,1H),7.95-7.86(m,2H),7.42(s,1H),7.37(d,J=7.8Hz,1H),7.28(d,J=7.8Hz,1H),2.36(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)152.98,142.68,141.46,139.29,138.39,136.84,134.98,132.64,131.05,130.04,129.79,129.61,129.41,126.33,122.89,120.15,19.99,19.84;
Anal.calcdforC17H13F3N2:C,67.54;H,4.33;N,9.27.
Found:C,67.55;H,4.42;N,9.27.
【0135】
<合成例3:キノキサリン配位子3の合成>
【化21】
【0136】
3,5-ジメチルフェニルボロン酸の代りに4-メチルフェニルボロン酸を用いたこと以外は合成例1と同様に行って、キノキサリン配位子3を白色固体(1283.2mg,4.45mmol)として収率89%で得た。
【0137】
キノキサリン配位子3の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3):8.27(dd,J=8.5Hz,1.8Hz,1H),8.21(dd,J=9.2Hz,1.8Hz,1H),7.95-7.86(m,2H),7.54(d,J=8.2Hz,2H),7.34(d,J=8.2Hz,1H),2.46(s,3H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)152.83,142.69,139.70,139.32,134.59,132.69,131.13,129.80,129.41,129.16,128.85,122.88,120.14,21.53;
Anal.calcdforC16H11F3N2:C,66.66;H,3.85;N,9.72.
Found:C,66.81;H,3.86;N,9.73.
【0138】
<合成例4:キノキサリン配位子4の合成>
【化22】
【0139】
3,5-ジメチルフェニルボロン酸の代りに3-メチルフェニルボロン酸を用いたこと以外は合成例1と同様に行って、キノキサリン配位子4を白色固体(1347.8mg,4.68mmol)として収率94%で得た。
【0140】
キノキサリン配位子4の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.27(dd,J=8.2Hz,1.8Hz,1H),8.22(dd,J=8.5Hz,1.4Hz,1H),7.95-7.87(m,2H),7.43-7.40(m,3H),7.35-7.33(m,1H),2.45(s,3H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)152.95,142.60,139.41,138.23,137.33,132.75,131.23,130.39,129.82,129.52,129.42,128.28,125.97,122.84,120.09,21.60;
Anal.calcdforC16H11F3N2:C,66.66;H,3.85;N,9.72.
Found:C,66.69;H,3.86;N,9.69.
【0141】
<合成例5:キノキサリン配位子5の合成>
【化23】
【0142】
3,5-ジメチルフェニルボロン酸の代りに3,5-ジメトキシフェニルボロン酸を用いたこと以外は合成例1と同様に行って、キノキサリン配位子5を黄白色固体(1300.0mg,3.89mmol)として収率78%で得た。
【0143】
キノキサリン配位子5の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.28(dd,J=8.7Hz,1.8Hz,1H),8.23(dd,J=8.0Hz,1.8Hz,1H),7.97-7.89(m,2H),6.76(d,J=2.3Hz,2H),6.63(t,J=2.3Hz,1H),3.85(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)160.65,152.48,142.48,139.54,139.04,132.82,131.36,129.83,129.43,122.79,120.04,107.16,101.83,55.60;
Anal.calcdforC17H13F3N2O2:C,61.08;H,3.92;N,8.38.
Found:C,61.04;H,3.90;N,8.34.
【0144】
<合成例6:キノキサリン配位子6の合成>
【化24】
【0145】
3,5-ジメチルフェニルボロン酸の代りに3,4-ジメトキシフェニルボロン酸を用いたこと以外は合成例1と同様に行って、キノキサリン配位子6を黄白色固体(1470.3mg,4.40mmol)として収率88%で得た。
【0146】
キノキサリン配位子6の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.26(dd,J=8.0Hz,1.4Hz,1H),8.22(dd,J=8.7Hz,0.92Hz,1H),7.96-7.87(m,2H),7.24-7.21(m,2H),7.02(d,J=8.7Hz,1H),3.97(d,8.7Hz,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)152.35,150.31,148.83,142.61,139.24,132.74,131.09,129.86,129.79,129.31,122.92,122.03,120.18,112.11,110.88,56.08,56.03;
Anal.calcdforC17H13F3N2O2:C,61.08;H,3.92;N,8.38.
Found:C,61.05;H,3.99;N,8.36.
【0147】
<合成例7:キノキサリン配位子7の合成>
【化25】
【0148】
3,5-ジメチルフェニルボロン酸の代りに4-メトキシフェニルボロン酸を用いたこと以外は合成例1と同様に行って、キノキサリン配位子7を黄白色固体(1344.1mg,4.42mmol)として収率88%で得た。
【0149】
キノキサリン配位子7の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.26(d,J=8.2Hz,1H),8.21(d,J=8.2Hz,1H),7.95-7.86(m,2H),7.62(d,J=7.8Hz,2H),7.06(dd,J=8.0Hz,1.4Hz,1H),3.91(s,3H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)160.80,152.42,142.71,139.21,132.68,131.01,130.50,129.82,129.78,129.34,122.92,120.18,113.96,55.49;
Anal.calcdforC16H11F3N2O:C,63.16;H,3.64;N,9.21.
Found:C,63.16;H,3.64;N,9.19.
【0150】
<合成例8:キノキサリン配位子8の合成>
【化26】
【0151】
3,5-ジメチルフェニルボロン酸の代りに3-メトキシフェニルボロン酸を用いたこと以外は合成例1と同様に行って、キノキサリン配位子8を黄白色固体(1365.0mg,4.49mmol)として収率90%で得た。
【0152】
キノキサリン配位子8の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.28(dd,J=8.5Hz,1.8Hz,1H),8.23(dd,J=8.2Hz,1.8Hz,1H),7.97-7.89(m,2H),7.45(t,J=8.2Hz,1H),7.21(d,J=7.8Hz,1H),7.17(s,1H),7.10-7.07(m,1H),3.88(s,3H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):159.45,152.52,142.55,139.49,138.58,132.81,131.33,129.83,129.58,129.44,122.81,121.37,120.06,115.51,114.36,55.46;
Anal.calcdforC16H11F3N2O:C,63.16;H,3.64;N,9.21.
Found:C,63.25;H,3.66;N,9.23.
【0153】
<合成例9:キノキサリン配位子10の合成>
(2-(3-メトキシ-5-メチルフェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランの合成)
【化27】
【0154】
ビスピナコラートジボロン(東京化成工業株式会社製)(5.50mmol)と3-ブロモ-5-メトキシトルエン(東京化成工業株式会社製)(3.60mmol)、酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)(18.0mmol)、PdCl(dppf)・CHCl(東京化成工業株式会社製)(0.18mmol)を1,4-ジオキサン(20mL)溶媒中、N雰囲気下で3時間還流させた。室温まで冷却し、飽和食塩水を50mL加えた後、水層をジクロロメタン50mLで3回抽出した。あわせた有機層を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で精製したところ、橙色液体(354.7mg,1.43mmol)として2-(3-メトキシ-5-メチルフェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランを収率40%で得た。
【0155】
(キノキサリン配位子10の合成)
【化28】
【0156】
2-クロロ-3-トリフルオロメチルキノキサリン(株式会社三友化学研究所製)(1.70mmol)と上記の方法で合成された2-(3-メトキシ-5-メチルフェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(2.00mmol)、リン酸(III)カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)(4.25mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィンパラジウム)(0.085mmol)をジメトキシエタンとエタノールと水(4.0mL/0.6mL/1.7mL)混合溶媒中、N雰囲気下で20時間還流させた。室温まで冷却し、飽和食塩水を50mL加えた後、水層をジクロロメタン50mLで3回抽出した。あわせた有機層を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとヘキサンの混合溶媒)で精製した。キノキサリン配位子10を黄白色固体(472.9mg,1.49mmol)として収率87%で得た。
【0157】
キノキサリン配位子10の分析結果は以下のとおりである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)d:8.26(dd,J=7.6Hz,1.4Hz,1H),8.22(dd,J=8.0Hz,1.4Hz,1H),7.95-7.88(m,2H),7.01(s,1H),6.94(s,1H),6.88(s,1H),3.84(s,3H),2.42(s,3H);
19F-NMR(376MHz,CDCl3)δ:-63.028;
ESI-TOF-MS(m/z)calcdforC17H14F3N2O+([M+H]+):319.10;
Found:319.10;
Anal.calcdforC17H13F3N2O:C,64.15;H,4.12;N,8.80.
Found:C,64.24;H,4.26;N,8.75.
【0158】
[イリジウム錯体の合成]
<実施例1:イリジウム錯体1の合成>
【化29】
【0159】
雰囲気下、IrCl・xHO(0.500mmol)とキノキサリン配位子1(1.10mmol)を2-メトキシエタノールと水の3:1混合溶媒中、135℃で18時間、溶媒を徐々に濃縮しながら反応をさせた。濃縮により混合溶媒の90%が蒸発除去された。得られた濃縮溶媒中のμクロロ架橋二核錯体をそのまま次のステップに使用した。N雰囲気下、μクロロ架橋二核錯体(推定0.250mmol)とアセチルアセトン(0.625mmol)、およびの炭酸ナトリウム(1.50mmol)を2-エトキシエタノール(20mL)溶媒中、80℃で3時間還流させた。室温まで冷却し、飽和食塩水を50mL加えた後、水層をジクロロメタン50mLで3回抽出した。あわせた有機層を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)で精製し、イリジウム錯体1を赤黒色固体(115.0mg,0.129mmol)として収率26%で得た。
【0160】
イリジウム錯体1の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.09(dd,J=8.2Hz,0.92Hz,2H),7.93(s,2H),7.69-7.63(m,4H),7.53(td,J=8.0Hz,1.4Hz,2H),6.66(s,2H),4.29(s,1H),2.41(s,6H),1.32(s,6H),1.17(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):185.30,161.93,149.71,145.88,145.64,143.13,136.78,132.96,132.06,131.28,129.62,129.41,125.41,122.49,99.19,27.66,23.64,21.37;
Anal.calcdforC39H31F6IrN4O2:C,52.40;H,3.50;N,6.27.
Found:C,52.25;H,3.49;N,6.32.
【0161】
<実施例2:イリジウム錯体2の合成>
【化30】
【0162】
キノキサリン配位子1の代りにキノキサリン配位子2を用いたこと以外は実施例1と同様に行って、イリジウム錯体2を赤黒色固体(173.7mg,0.194mmol)として収率39%で得た。
【0163】
イリジウム錯体2の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)(ppm)δ:8.15(dd,J=8.2Hz,0.92Hz,2H),8.11(d,J=8.7Hz,2H),8.02(s,2H),7.68(td,J=7.6Hz,1.4Hz,2H),7.54(td,J=8.0Hz,1.4Hz,2H),6.23(s,2H),4.49(s,1H),2.24(s,6H),1.89(s,6H),1.43(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):186.02,162.88,151.74,143.47,141.36,139.60,139.15,138.10,137.87,133.15,130.54,130.46,129.63,126.20,122.64,119.89,99.78,28.05,20.16,19.97;
Anal.calcdforC39H31F6IrN4O2:C,52.40;H,3.50;N,6.27.
Found:C,52.40;H,3.46;N,6.41.
【0164】
<実施例3:イリジウム錯体3の合成>
【化31】
【0165】
キノキサリン配位子1の代りにキノキサリン配位子3を用いたこと以外は実施例1と同様に行って、イリジウム錯体3を赤黒色固体(204.8mg,0.237mmol)として収率47%で得た。
【0166】
イリジウム錯体3の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)(ppm)δ:8.16(dd,J=8.2Hz,1.4Hz,2H),8.13-8.10(m,4H),7.68(td,J=7.6Hz,1.4Hz,2H),7.55(td,J=8.0Hz,1.4Hz,2H),6.90(dd,J=8.2Hz,1.4Hz,2H),6.29(s,2H),4.49(s,1H),1.98(s,6H),1.43(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):186.07,162.78,154.94,143.36,140.88,140.13,139.58,137.96,137.80,133.20,129.81,129.68,126.18,123.78,122.61,119.87,99.79,28.01,21.52;
Anal.calcdforC37H27F6IrN4O2:C,51.33;H,3.14;N,6.47.
Found:C,51.62;H,3.16;N,6.54.
【0167】
<実施例4:イリジウム錯体4の合成>
【化32】
【0168】
キノキサリン配位子1の代りにキノキサリン配位子4を用いたこと以外は実施例1と同様に行って、イリジウム錯体4を赤黒色固体(195.9mg,0.226mmol)として収率45%で得た。
【0169】
イリジウム錯体4の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ(ppm):8.18-8.13(m,4H),8.05(s,2H),7.71(td,J=7.8Hz,0.92Hz,2H),7.57(td,J=8.0Hz,1.4Hz,2H),6.54(d,J=7.8Hz,2H),6.34(d,J=7.8Hz,2H),4.52(s,1H),2.32(s,6H),1.46(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):186.16,162.95,150.58,143.66,143.43,138.13,136.87,133.33,131.33,131.13,130.34,130.27,130.07,129.69,126.24,122.57,99.87,28.05,21.57;
Anal.calcdforC37H27F6IrN4O2:C,51.33;H,3.14;N,6.47.
Found:C,51.60;H,3.14;N,6.52.
【0170】
<実施例5:イリジウム錯体5の合成>
【化33】
【0171】
キノキサリン配位子1の代りにキノキサリン配位子5を用いたこと以外は実施例1と同様に行って、イリジウム錯体5を緑色固体(140.9mg,0.147mmol)として収率29%で得た。
【0172】
イリジウム錯体5の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ(ppm):8.10(dd,J=8.2Hz,0.92Hz,2H),7.88(dd,J=8.7Hz,0.92Hz,2H),7.66(td,J=7.6Hz,1.4Hz,2H),7.53-7.49(m,4H),5.96(d,J=2.3Hz,2H),4.46(s,1H),3.87(s,6H),2.52(s,6H),1.42(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):185.57,165.07,161.94,156.98,145.47,143.99,137.06,134.03,132.46,129.60,129.03,126.37,122.69,105.06,105.00,101.32,99.63,55.29,54.89,27.85;
Anal.calcdforC39H31F6IrN4O6:C,48.90;H,3.26;N,5.85.
Found:C,48.95;H,3.29;N,5.83.
【0173】
<実施例6:イリジウム錯体6の合成>
【化34】
【0174】
キノキサリン配位子1の代りにキノキサリン配位子6を用いたこと以外は実施例1と同様に行って、イリジウム錯体6を緑黒色固体(230.7mg,0.241mmol)として収率48%で得た。
【0175】
イリジウム錯体6の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ(ppm):8.12(d,J=8.2Hz,2H),8.07(d,J=9.2Hz,2H),7.79(s,2H),7.65(t,J=8.2Hz,2H),7.55(td,J=8.0Hz,1.4Hz,2H),5.90(s,2H),4.57(s,1H),3.92(s,6H),3.26(s,6H),1.50(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):186.24,162.60,150.60,150.49,145.59,143.31,137.28,134.70,133.16,129.81,129.09,125.72,118.20,112.10,112.03,99.98,55.76,55.58,28.03;
Anal.calcdforC39H31F6IrN4O6:C,48.90;H,3.26;N,5.85.
Found:C,49.14;H,3.37;N,5.84.
【0176】
<実施例7:イリジウム錯体7の合成>
【化35】
【0177】
キノキサリン配位子1の代りにキノキサリン配位子7を用いたこと以外は実施例1と同様に行って、イリジウム錯体7を赤黒色固体(115.4mg,0.129mmol)として収率26%で得た。
【0178】
イリジウム錯体7の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ(ppm):8.17-8.11(m,6H),7.65(td,J=7.8Hz,1.4Hz,2H),7.57(td,J=7.8Hz,1.4Hz,2H),6.68(dd,J=9.2Hz,2.8Hz,2H),5.93(d,J=2.8Hz,2H),4.53(s,1H),3.43(s,6H),1.46(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):186.11,162.25,159.83,156.95,143.28,137.65,136.28,133.20,131.81,131.74,129.73,129.37,125.95,121.47,119.84,109.14,99.93,54.95,28.03;
Anal.calcdforC37H27F6IrN4O4:C,49.50;H,3.03;N,6.24.
Found:C,49.51;H,3.12;N,6.27.
【0179】
<実施例8:イリジウム錯体8の合成>
【化36】
【0180】
キノキサリン配位子1の代りにキノキサリン配位子8を用いたこと以外は実施例1と同様に行って、イリジウム錯体8を緑黒色固体(151.9mg,0.169mmol)として収率34%で得た。
【0181】
イリジウム錯体8の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ(ppm):8.18(dd,J=8.2Hz,0.92Hz,2H),8.12(d,J=9.2Hz,2H),7.83(d,J=2.3Hz,2H),7.72(td,J=7.8Hz,0.92Hz,2H),7.58(td,J=8.0Hz,1.4Hz,2H),6.44(dd,J=8.2Hz,2.3Hz,2H),6.33(d,J=8.2Hz,2H),4.53(s,1H),3.81(s,6H),1.47(s,6H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):186.21,163.01,155.83,144.99,143.57,143.48,138.14,137.36,133.46,130.22,129.75,126.19,119.84,118.29,113.60,113.53,99.89,55.25,28.04;
Anal.calcdforC37H27F6IrN4O4:C,49.50;H,3.03;N,6.24.
Found:C,49.70;H,3.07;N,6.25.
【0182】
<実施例9:イリジウム錯体10の合成>
【化37】
【0183】
IrCl・nHO(東京化成工業株式会社製)(0.500mmol)とキノキサリン配位子10(1.10mmol)を2-メトキシエタノール6.0mLと水2.0mLの混合溶媒中、N雰囲気下、135℃で20時間攪拌させた。その際、ディーン・スターク管(液だめ7.2mL)を取り付け徐々に溶媒をトラップさせて濃縮させた。得られたμクロロ架橋二核錯体をそのまま次のステップに使用した。μクロロ架橋二核錯体(推定0.250mmol)とアセチルアセトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)(0.625mmol)、およびの炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)(1.50mmol)を2-エトキシエタノール(20mL)溶媒中、N雰囲気下、80℃で3時間攪拌した。室温まで冷却し、飽和食塩水を50mL加えた後、水層をジクロロメタン50mLで3回抽出した。あわせた有機層を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)で精製した。イリジウム錯体10を緑黒色固体(60.4mg,0.065mmol)として収率13%で得た。
【0184】
このイリジウム錯体10の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)d(ppm):8.10(dd,J=8.5Hz,1.4Hz,2H),7.91(d,J=8.2Hz,2H),7.74(s,2H),7.64(td,J=7.6Hz,1.4Hz,2H),7.49(td,J=8.0Hz,1.8Hz,2H),6.07(s,2H),4.43(s,1H),2.49(s,6H),2.38(s,6H),1.40(s,6H);
19F-NMR(376MHz,CDCl3)d:-63.059;
ESI-TOF-MS(m/z)calcdforC34H24F6IrN4O2([M-acac]):827.14;
Found:827.14;
Anal.calcdforC39H31F6IrN4O4:C,50.59;H,3.37;N,6.05.
Found:C,50.59;H,3.52;N,6.04.
【0185】
[比較のイリジウム錯体の合成]
<キノキサリン配位子9の合成>
【0186】
【化38】
【0187】
2-クロロ-3-トリフルオロメチルキノキサリン(1.50mmol)とフェニルボロン酸(1.80mmol)、リン酸(III)カリウム(14.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィンパラジウム)(0.075mmol)をトルエンとエタノールと水(30mL/4.5mL/3.5mL)混合溶媒中、N雰囲気下、100℃で22時間加熱攪拌した。その後室温まで冷却し、飽和食塩水を50mL加えた後、水層をジクロロメタン50mLで3回抽出した。あわせた有機層を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルムとヘキサンの混合溶媒)で精製し、比較のキノキサリン配位子9を白色固体(371.2mg,1.35mmol)として収率90%で得た。
【0188】
<比較例1:イリジウム錯体9の合成>
【化39】
【0189】
IrCl・xHO(0.625mmol)とキノキサリン配位子9(1.30mmol)を2-メトキシエタノール9.0mLと水3.0mLの混合溶媒中、N雰囲気下、125℃で24時間加熱攪拌した。得られたμクロロ架橋二核錯体をそのまま次のステップに使用した。μクロロ架橋二核錯体(推定0.30mmol)とアセチルアセトン(0.750mmol)、およびの炭酸ナトリウム(0.3mmol)を2-エトキシエタノール(16mL)溶媒中、N雰囲気下、80℃で19時間攪拌させた。その後室温まで冷却し、飽和食塩水を50mL加えた後、水層をジクロロメタン50mLで3回抽出した。あわせた有機層を飽和食塩水100mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)で精製し、キノキサリン配位子9を暗褐色固体(115.0mg,0.129mmol)として収率29%で得た。
【0190】
このイリジウム錯体9は、前掲の特許文献1に記載のイリジウム錯体に該当する。
【0191】
キノキサリン配位子9の分析結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ:8.37(d,J=10Hz,2H),8.19(d,J=8.4Hz,2H),8.15(d,J=8.8Hz,2H),7.73(t,J=7.2Hz,2H),7.59(t,J=8.2Hz,2H),7.09(t,J=7.2Hz,2H),6.70(t,J=7.2Hz,2H),6.43(d,J=8.0Hz,2H),4.53(s,1H),1.46(s,6H);
ESI-TOF-MS(m/z)calcdforC35H23F6IrN4O2Na+([M+Na]+):861.13;Found:861.13;
Anal.calcdforC39H31F6IrN4O2:C,50.18;H,2.77;N,6.69.
Found:C,49.91;H,2.85;N,7.00.
【0192】
[イリジウム錯体の評価]
<溶液中の発光極大波長>
実施例1~9及び比較例1で得られたイリジウム錯体1~10について、以下の方法で、発光極大波長を測定した。
各々のイリジウム錯体をトルエンに10μMの濃度で溶解させた後、窒素バブリングにより脱気処理を実施して試料溶液を調製した。当該試料溶液を、室温にて堀場製作所社製「Fluorolog-3分光光度計」を用いて、近赤外発光スペクトル(1cm角の4面透明石英セル)を測定し、発光極大波長を求めた。
結果を表1に示す。
【0193】
【表1】
【0194】
表1より、本発明の金属錯体化合物に該当する実施例1~9のイリジウム錯体は、比較例1のイリジウム錯体に比べて、発光極大波長が顕著に長波長化していることが分かる。
【0195】
<薄膜における発光極大波長>
各イリジウム錯体について、ポリメチルメタクリレート99.5モル%(メチルメタクリレートモノマー単位で換算)と、イリジウム錯体0.5モル%とを含むトルエン溶液を調製し、このトルエン溶液を石英ガラス基板上に800μL滴下し、スピンコート(1500rpmで2sec,3000rpmで60sec)を行って作製したスピンコート薄膜を120℃で1時間焼成することにより作製した薄膜試料について、上記と同様に発光極大波長を測定したところ、いずれも同等の発光極大波長を示すことが確認された。
【0196】
<有機発光ダイオードにおける発光極大波長>
(有機発光ダイオードの作成)
予めパターニングされたITO(厚さ150nm,≦10Ω/sq,GEOMATEC社製)ガラス基板を洗剤と溶剤を用いて超音波洗浄し、UV-O処理を施した。ITO層上にイソプロパノール-水混合溶媒(体積比1:1)とPEDOT:PSS分散液(HeraeusCleviosP VPCH8000)を体積比1:1で混合したものをスピンコートし、120℃で1時間焼成させた。またPEDOT:PSS層の上にPVCz(Mw=25,000-50,000,Aldrich社製)と各イリジウム錯体1、2、4、9のトルエン溶液をPEDOT:PSS層上にスピンコートし、120℃で1時間焼成させた。その後、PVCz+イリジウム錯体層上にTPBi(Luminescence Technology社製)のメタノール溶液をスピンコートし、80℃で10分間焼成させた。次に、フッ化リチウム(Aldrich社製)層およびアルミニウム(ニラコ社製)層を真空蒸着により製膜した。最後に、デバイスをガラスキャップで覆い、紫外線硬化型エポキシ樹脂で封止した。
【0197】
(有機発光ダイオードの性能評価)
浜松ホトニクスの有機EL素子評価装置C-9920-11を用いて、室温で行った。
結果を表2に示す。
また、イリジウム錯体1、2、4、9の発光スペクトルをそれぞれ図1~4に示す。
【0198】
【表2】
【0199】
表2及び図1~4より、本発明の金属錯体化合物に該当するイリジウム錯体1、2、4は、比較例のイリジウム錯体9に対して、有機発光ダイオードにおいても、発光極大波長が長波長化しており、可視域(680nm以下)に発光が少なく、近赤外OLEDとして優れた性能を示すことが分かる。
【符号の説明】
【0200】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子
図1
図2
図3
図4
図5