IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 学校法人北里研究所の特許一覧 ▶ 株式会社日本海水の特許一覧

特開2024-128978二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法
<>
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図1
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図2
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図3
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図4
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図5
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図6
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図7
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図8
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図9
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図10
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図11
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図12
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図13
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図14
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図15
  • 特開-二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128978
(43)【公開日】2024-09-25
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240913BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20240913BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20240913BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240913BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B01D53/14 210
C01F11/18 B ZAB
B01D53/18 110
B01D53/62
B01D53/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037836
(22)【出願日】2023-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/カーボンリサイクル・次世代火力推進事業/カーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発/海水と生体アミンを用いたCO2鉱物化法の研究開発 委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願、及び、令和4年度、独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費 バイオミネラリゼーションを模した海水からの炭酸カルシウム合成による大気中の二酸化炭素固定技術の研究開発 委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000191135
【氏名又は名称】株式会社日本海水
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 道生
(72)【発明者】
【氏名】安元 剛
(72)【発明者】
【氏名】大野 良和
(72)【発明者】
【氏名】勝又 聡
(72)【発明者】
【氏名】植田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】森安 賢司
(72)【発明者】
【氏名】吉馴 太一
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G076
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC07
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA06
4D002DA02
4D002DA03
4D002DA05
4D002DA06
4D002DA12
4D002DA31
4D002DA32
4D002FA02
4D002GA01
4D002GB02
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA02
4D020BA08
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020CB01
4D020CC21
4D020DA03
4D020DB03
4G076AA16
4G076AB24
4G076BA30
4G076BB03
4G076BB08
4G076BC08
4G076BH01
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の固定化効率に優れる二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム、当該二酸化炭素の固定化方法を利用した炭酸カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、塩基(A)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する工程(S)、及び前記微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する工程(T1)と、前記微細気泡(X1)を供給する工程(T2)とを含む工程(T)を含む、二酸化炭素の固定化方法とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基(A)の存在下で、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する工程(S)、及び
前記微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する工程(T1)と、前記微細気泡(X1)を供給する工程(T2)とを含む工程(T)、
を含む、二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
前記塩基(A)は、有機塩基及び無機塩基からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
前記有機塩基が、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A1)である、請求項2に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記生体内で合成されるアミンが、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン、ノルスペルミジン、及びノルスペルミンからなる生体アミン群から選択される1種以上である、請求項3に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
前記人工的に合成されるアミンが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジグリコールアミン、メチルジエタノールアミン、ピペラジン、及びエチレンジアミンからなる群から選択される1種以上である、請求項3又は4に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項6】
前記無機塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムからなる群から選択される1種以上である、請求項2~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項7】
前記気体(G)中の二酸化炭素濃度が300質量ppm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項8】
前記カルシウムイオン含有水(B)が、海水、廃海水、濃縮海水、及びかん水からなる群から選択される1種以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項9】
前記工程(S)は、
前記塩基(A)と前記微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する第一工程(S1-1)、及び
前記微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、前記カルシウムイオン含有水(B)とを接触させる第二工程(S1-2)
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項10】
前記工程(T)は、前記第一工程(S1-1)において行われる、請求項9に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項11】
前記工程(S)は、
前記塩基(A)と前記微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する第一工程(S2-1)、
前記カルシウムイオン含有水(B)と前記微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)を調製する第二工程(S2-2)、及び
前記微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、前記微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)とを接触させる第三工程(S2-3)
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項12】
前記工程(T)は、前記第一工程(S2-1)及び前記第二工程(S2-2)の少なくともいずれかにおいて行われる、請求項11に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項13】
前記工程(S)は、
前記塩基(A)と前記カルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)を調製する第一工程(S3-1)、及び
前記混合液(AB)中で前記微細気泡(X1)を発生させる第二工程(S3-2)
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項14】
前記工程(T)は、前記第二工程(S3-2)において行われる、請求項13に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項15】
炭酸カルシウムが析出した後の液相から前記塩基(A)を回収し、前記工程(S)において用いる前記塩基(A)の少なくとも一部として供給する塩基回収・供給工程(V)をさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項16】
塩基(A)の存在下で、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成部、並びに
前記微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する第一装置、及び前記微細気泡(X1)を供給する第二装置を含む、微細気泡破壊・供給部
を備える、二酸化炭素の固定化システム。
【請求項17】
前記炭酸カルシウム生成部は、
前記塩基(A)と前記微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する調製部、及び
前記微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、前記カルシウムイオン含有水(B)とを接触させる生成部を備え、
前記微細気泡破壊・供給部は、前記調製部に備えられている、請求項16に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項18】
前記炭酸カルシウム生成部は、
前記塩基(A)と前記微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する第一調製部、
前記カルシウムイオン含有水(B)と前記微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)を調製する第二調製部、及び
微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、前記微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)とを接触させる生成部を備え、
前記微細気泡破壊・供給部は、前記第一調製部及び前記第二調製部に備えられている、請求項16に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項19】
前記炭酸カルシウム生成部は、
前記塩基(A)と前記カルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)を調製する調製部、及び
前記混合液(AB)中に前記微細気泡(X1)を発生させる生成部を備え、
前記微細気泡破壊・供給部は、前記生成部に備えられている、請求項16に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項20】
請求項1~15のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法を用いた、炭酸カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム並びに炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因物質と言われている温室効果ガスの中でも、特に影響が大きいのが二酸化炭素(炭酸ガス)であり、大気中の二酸化炭素濃度の増大を防止することが地球温暖化抑制手段の1つとなりうる。そのため、化石資源の利用を制限して大気中への二酸化炭素の放出量を削減する技術についての研究が行われている。また、既に放出した大気中の二酸化炭素を吸収・固定する技術や、化石資源を燃焼した二酸化炭素を大気中に放出させることなく、あるいは大気中への放出を抑えつつ吸収・固定する技術について、日本を含む多くの国で盛んに研究されている。
【0003】
近年、二酸化炭素を吸収・固定する方法の1つとして、二酸化炭素を化学反応により炭酸塩として固定するというアイディアが提案されている。
例えば特許文献1では、二酸化炭素を含む気体を、水とアルカリ土類金属含有物質(例えば鉄鋼スラグ)を弱塩基と強酸の塩とから得られる水溶液に接触させて、アルカリ土類金属の炭酸塩を生成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-097072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、二酸化炭素の固定化効率が十分ではないという問題があった。
【0006】
本開示は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、二酸化炭素の固定化効率に優れる二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム、当該二酸化炭素の固定化方法を利用した炭酸カルシウムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、下記[1]~[3]が提供される。
[1]
塩基(A)の存在下で、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する工程(S)、及び
前記微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する工程(T1)と、前記微細気泡(X1)を供給する工程(T2)とを含む工程(T)、
を含む、二酸化炭素の固定化方法。
[2]
塩基(A)の存在下で、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する炭酸カルシウム生成部、並びに
前記微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する第一装置、及び前記微細気泡(X1)を供給する第二装置を含む、微細気泡破壊・供給部
を備える、二酸化炭素の固定化システム。
[3]
上記[1]の二酸化炭素の固定化方法を用いた、炭酸カルシウムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、二酸化炭素の固定化効率に優れる二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム、当該二酸化炭素の固定化方法を利用した炭酸カルシウムの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を示す図である。
図2】工程(T)を実施するための装置構成の一例を示す概略図である。
図3】工程(T)を実施するための装置構成の他の例を示す概略図である。
図4】第1態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を示す図である。
図5】第2態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を示す図である。
図6】第3態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を示す図である。
図7】第4態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を示す図である。
図8】実験Aの結果を示す図である。
図9】実験Bにおける「微細気泡発生処理」と「超音波脱気処理」とを繰り返す処理の概略図である。
図10】実験Bの結果を示す図である。
図11】実験Cにおいて用いた装置の構成を示す概略図である。
図12】実験Cの結果を示す図である。
図13】実施例D1におけるにおける混合液(AB)の温度及びpHの経時変化を示す図である。
図14】実施例D2におけるにおける混合液(AB)の温度及びpHの経時変化を示す図である。
図15】実施例D1において回収した濾別残渣の電子顕微鏡写真である。
図16】実施例D2において回収した濾別残渣の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本開示の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0011】
[本実施形態の二酸化炭素の固定化方法及び固定化システム]
本実施形態の二酸化炭素の固定化方法は、工程(S)及び工程(T)を含む。
工程(S)では、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、塩基(A)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する。
工程(T)は、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する工程(T1)と、工程(T1)の後に微細気泡(X1)を供給する工程(T2)とを含む。
【0012】
本開示者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行い、大気から形成したファインバブルを液相中に発生させることで、液相中の炭酸イオン濃度を高濃度化し、これに塩基とカルシウムイオン含有液とを接触させることで、効率よく炭酸カルシウムを生成させることができ、二酸化炭素を効率よく固定化できるのではないかと考えた。
ところが、予想に反し、大気から形成したファインバブルを液相中に発生させても、液相中の炭酸イオン濃度を高濃度化することが容易ではないことがわかった。
本開示者らは、その理由につき鋭意検討を行った結果、ファインバブルは寿命が長いため、液相中に長期に亘り留まり続ける結果、新たなファインバブルの形成が阻害され、液相中の炭酸イオン濃度を高濃度化できないことを突き止めるに至った。
そこで、本開示者らは、大気から形成したファインバブルを液相中に発生させて、ファインバブル中の二酸化炭素を液相中に溶解させた後、ファインバブルを脱気等の処理によって破壊することで、液相中に新たなファインバブルを形成させやすくすることができ、液相中の炭酸イオン濃度を高濃度化できることを見出すに至った。
本発明者らは、上記の点に基づいてさらに鋭意検討を重ね、本開示に至った。
【0013】
ここで、本実施形態の二酸化炭素の固定化方法を実施するための二酸化炭素の固定化システムの一例を図1に示す。
図1に示す二酸化炭素の固定化システム1は、炭酸カルシウム生成部10と、第一装置21及び第二装置22を含む微細気泡破壊・供給装置20を備える。
炭酸カルシウム生成部10(二酸化炭素固定化部10と呼ぶこともできる)では、塩基(A)の存在下で、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する(二酸化炭素を固定化する)。
ここで、「塩基(A)の存在下で、微細気泡(X1)とカルシウムイオン含有水(B)とを接触させ」とは、微細気泡(X1)とカルシウムイオン含有水(B)とを接触させる環境下において塩基(A)が存在していればよいという意味である。
したがって、塩基(A)は、そのまま微細気泡(X1)及びカルシウムイオン含有水(B)と接触させてもよく、水溶液の態様で微細気泡(X1)及びカルシウムイオン含有水(B)と接触させてもよいが、水溶液の態様で微細気泡(X1)及びカルシウムイオン含有水(B)と接触させるのが好ましい。
また、微細気泡(X1)中の二酸化炭素の溶解性向上の観点から、塩基(A)の水溶液に微細気泡を発生させ、これをカルシウムイオン含有水(B)と接触させることがより好ましい。
【0014】
第一装置21は、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する装置である。具体的には、例えば、炭酸カルシウム生成部10において生じる、微細気泡(X2)を含む液相が第一装置21に送液され、第一装置21で微細気泡(X2)が破壊され、微細気泡(X2)の量が減少した液相が炭酸カルシウム生成部10に戻される。
第二装置22は、微細気泡(X1)を供給する装置である。具体的には、例えば、炭酸カルシウム生成部10において生じる液相が第二装置22に送液され、第二装置22で当該液相中に微細気泡(X1)を発生させた後、微細気泡(X1)を含む液相が炭酸カルシウム生成部10に戻される。なお、第二装置22は、微細気泡(X1)を供給できる装置であれば、上記のような構成のものには限定されず、例えば、対象となる液相に微細気泡(X1)を直接発生させる装置であってもよい。
なお、第二装置22は、炭酸カルシウム生成部10において用いられる微細気泡(X1)を発生させるための装置として兼用してもよい。
また、図示省略しているが、第一装置21にて微細気泡(X2)が破壊され、微細気泡(X2)の量が減少した液相を、第二装置22に供給し、当該液相中に微細気泡(X1)を発生させた後、微細気泡(X1)を含む液相が炭酸カルシウム生成部10に戻されるようにしてもよい。
【0015】
以下、「工程(S)」及び「工程(T)」について、詳細に説明する。
【0016】
<工程(S)>
工程(S)では、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(X1)と、塩基(A)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させて、炭酸カルシウムを生成する。
工程(S)により、気体(G)に含まれる二酸化炭素を原料として炭酸カルシウムが生成される。これにより、二酸化炭素が固定化される。
【0017】
以下、「二酸化炭素を含む気体(G)」、「微細気泡(X1)」、「塩基(A)」、及び「カルシウムイオン含有水(B)」について、詳細に説明する。
【0018】
(二酸化炭素を含む気体(G))
二酸化炭素を含む気体(G)としては、例えば、空気、燃焼排ガス等が挙げられる。
本実施形態では、二酸化炭素を含む気体(G)を原料の一部として炭酸カルシウムを生成させるようにしている。そのため、二酸化炭素は炭酸カルシウムとして固定化されることになる。
燃焼排ガスとしては、例えば、製鉄所等の各種工場から排出される燃焼排ガス、LNG火力発電所から排出される燃焼排ガス、石炭火力発電所から排出される燃焼排ガス、製油所の水素製造装置から排出されるオフガスが挙げられる。
二酸化炭素を含む気体(G)の二酸化炭素濃度は、二酸化炭素の固定化効率の向上の観点から、好ましくは300質量ppm以上である。なお、二酸化炭素を含む気体(G)は、実質的に二酸化炭素のみからなるものであっても勿論よい。
【0019】
(微細気泡(X1))
微細気泡(X1)は、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される平均気泡径が100μm以下の微細気泡(いわゆる「ファインバブル」)である。
すなわち、微細気泡(X1)は、平均気泡径が1μm~100μmである「マイクロバブル」と、平均気泡径が1μm未満である「ウルトラファインバブル」との双方を含む概念である。
微細気泡(X1)の発生方法は特に限定されず、平均気泡径が100μm以下の微細気泡を液相中に発生させることのできる各種方法を適宜採用することができる。
このような方法としては、例えば、スタティックミキサー式、キャビテーション式、気液せん断方式、加圧溶解方式、超音波方式、微細孔方式、微細孔振動板方式、ハイブリッド方式等が挙げられる。
なお、微細気泡(X1)の平均気泡径は、位相差顕微鏡により観察される複数の微細気泡の気泡径の平均値である。
【0020】
(塩基(A))
塩基(A)としては、有機塩基及び無機塩基からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
有機塩基としては、特に制限されないが、例えば、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A1)等が好ましく挙げられる。
無機塩基としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が好ましく挙げられる。
これらの中でも、二酸化炭素の吸収性の向上の観点から、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A1)を用いることが好ましい。
【0021】
本開示者らは、海洋生物の炭酸カルシウム形成解明研究の一環として、炭酸カルシウムの顆粒を形成する海洋細菌の研究を行っていた。この海洋細菌は、カルシウムを含む人工培地で培養すると、菌体外にダンベル状や球状の形をした炭酸カルシウム(カルサイト)を形成する。本開示者らは、このメカニズムを研究する過程で、海洋細菌が産生するアミンが大きな働きをしていることを究明した。
つまり、海洋細菌の培養中にみられるダンベルや球状の炭酸カルシウム顆粒は、海洋細菌の増殖に伴い培地中に増えたアミンが、培地中の炭酸イオン濃度を高めることで、炭酸カルシウムの結晶化を促すことがわかった。
炭酸カルシウムの顆粒形成が見られた海洋細菌の培養液のアミンを食品衛生検査指針における「食品中の不揮発性腐敗アミンの分析」に準じて、ダンシルクロライドで蛍光誘導化し、HPLCにより分析した結果、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、カタベリン、スペルミン、スペルミジン、ノルスペルミジン、及びノルスペルミン等のアミン類が検出された。
以上のことから、海洋細菌が産生するアミンが空気中の二酸化炭素と結合し、その後加水分解されることで、培地中の炭酸イオン濃度が上昇し、炭酸カルシウムが析出するということがわかった。なお、炭酸カルシウムの析出は、海洋細菌が存在しない水溶液中にアミンと塩化カルシウムとを混合して静置した場合にも確認された。このことから、炭酸カルシウムの析出は、海洋細菌の不存在下でも起こることがわかった。つまり、海洋細菌が産生するアミンは、海洋細菌の不存在下においても、二酸化炭素と塩を形成することで、炭酸イオンを効率よく生成し得ることがわかった。
【0022】
しかしながら、本開示者らがさらに鋭意検討した結果、ポリアミン等のアミン類を海水と混合した場合、炭酸カルシウムを十分に効率よく生成することができないことがわかった。この理由は、海水にアミン類を添加すると、海水のpHが一時的に上昇し、海水中にカルシウムイオンの3倍量存在するマグネシウムイオンが水酸化マグネシウムとなり、これが炭酸カルシウムの生成を阻害するためと推察された。
【0023】
そこで、本実施形態では、工程(S)において、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A1)を塩基(A)として用いることが好ましい。
これにより、微細気泡(X1)に含まれる二酸化炭素がアミン水溶液に溶け出しやすくなって、アミン水溶液に炭酸イオンが効率よく生成される。したがって、アミン水溶液のpHの上昇も抑えられる。そのため、アミン水溶液をカルシウムイオン含有水(B)と接触させた際に、カルシウムイオン含有水(B)のpH(アミン水溶液とカルシウムイオン含有水(B)との混合液のpH)の上昇も抑えられる。したがって、カルシウムイオン含有水(B)にマグネシウムイオンが含まれていたとしても、水酸化マグネシウムの生成に起因する炭酸カルシウムの生成阻害も抑制される。よって、炭酸カルシウムが効率よく生成され、二酸化炭素が効率よく固定化される。
【0024】
アミン化合物(A)としては、生体内(例えば、海洋細菌の生体内)で合成されるアミン(モノアミン及びポリアミン)を特に制限なく用いることができる。当該アミンの中でも、アミン水溶液中の炭酸イオンを増大させやすくする観点から、1,3-プロパンジアミン、プトレシン(ブタン-1,4-ジアミン)、カタベリン(ペンタン-1,4-ジアミン)、スペルミン(1,11-ジアミノ-4,9-ジアザウンデカン)、スペルミジン(1,8-ジアミノ-4-アザオクタン)、ノルスペルミジン(3,3’-イミノビス(プロパン-1-アミン))、及びノルスペルミン(3,3’-[(プロパン-1,3-ジイル)ビスイミノ]ビス(プロパン-1-アミン))からなる群から選択される1種以上のポリアミンを用いることが好ましい。
【0025】
また、本開示者らの実験によると、アミン化合物(A1)として、人工的に合成されるアミンを用いた場合にも、生体内で合成されるアミンと同様の効果が奏され得ることが確認されている。したがって、人工的に合成されるアミンを用いることもできる。人工的に合成されるアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、ジグリコールアミン(DGA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、並びにピペラジン及びエチレンジアミンなどのジアミン等が挙げられる。
【0026】
また、アミン化合物(A1)としては、上記アミンから誘導される基を含むポリマー(生体内で合成されるアミンから誘導される基を含むポリマー、人工的に合成されるアミンから誘導される基を含むポリマー)を用いてもよい。
上記アミンから誘導される基を含むポリマーとしては、上記アミンから誘導される基を少なくとも末端に含むポリマーが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば、上記アミンから誘導される基とエチレン性不飽和二重結合とを有する化合物由来の構成単位を有するポリマー、ポリアルキレンイミン等が挙げられ、好ましくはポリアルキレンイミンである。
ポリアルキレンイミンのアルキレン基の炭素数は、好ましくは2~4、より好ましくは2~3、更に好ましくは2である。
なお、「上記アミンから誘導される基」とは、上記アミン(生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン)の水素原子の少なくとも1つを除いた1価以上の基を意味する。例えば、エチレンジアミンから誘導される基としては、1価基である-NHCHCHNH等が挙げられる。
また、上記アミンから誘導される基を含むポリマーの、沸点上昇法により測定される数平均分子量は、好ましくは500~50,000、より好ましくは500~40,000、更に好ましくは500~35,000である。
【0027】
アミン化合物(A1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
なお、アミン化合物(A1)としては、生体内で合成されるアミンを用いることが好ましい。生体内で合成されるアミンを用いることで、アミンを合成したり輸送したりすること等により排出される二酸化炭素を削減することができる。したがって、二酸化炭素排出量をより効果的に削減し得る。
【0029】
ここで、アミン化合物(A1)を含むアミン水溶液を用いた場合の、二酸化炭素との反応について説明する。
生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A1)を含むアミン水溶液に、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させることで、二酸化炭素をアミン水溶液に溶解させると、当該二酸化炭素がアミン水溶液中のアミン化合物(A1)と反応して、アミン水溶液中で炭酸イオンを生じ、アミン化合物(A1)はカチオンになるものと推測される。
アミン化合物(A1)がプトレシンである場合について推測される反応式を以下に示す。
【化1】
【0030】
アミン水溶液中のアミン化合物(A1)の含有量は、アミン水溶液中に二酸化炭素を効率よく吸収させやすくする観点から、アミン水溶液の全量基準で、好ましくは1質量%~50質量%、より好ましくは10質量%~40質量%、更に好ましくは25質量%~35質量%である。
【0031】
二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させる前のアミン水溶液のpHは、吸収する二酸化炭素の量を考慮するとともに、炭酸カルシウム生成時における反応性を考慮して決定される。具体的には、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させた後の、二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液のpHが、好ましくは6以上に、より好ましくは7以上に、さらに好ましくは8以上になるように、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させる前のアミン水溶液のpHが調整される。
また、炭酸カルシウムを析出させやすくする観点から、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させた後の、二酸化炭素由来の炭酸イオンを含むアミン水溶液のpHが、好ましくは7~12、より好ましくは7~9になるように、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させる前のアミン水溶液のpHが調整されてもよい。また、微細気泡(X1)を発生させたアミン水溶液とカルシウムイオン含有水(B)とを接触させる場合、接触させた際のこれらの混合液のpHが、好ましくは8~9になるように、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させる前のアミン水溶液のpHが調整されてもよい。
【0032】
微細気泡(X1)を発生させる際のアミン水溶液の温度は、二酸化炭素を効率よく吸収して、アミン水溶液中の炭酸イオン濃度を増大させやすくする観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃~50℃である。なお、アミンと二酸化炭素の結合が失われることを抑制するため、微細気泡(X1)を発生させる際のアミン水溶液の温度は、50℃以下に維持することが好ましい。
【0033】
(カルシウムイオン含有水(B))
カルシウムイオン含有水(B)は、炭酸カルシウムのカルシウム源として用いられる。
ここで、カルシウムイオン含有水(B)は、マグネシウムイオンを含んでいてもよい。特に、塩基(A)として、生体内で合成されるアミン、人工的に合成されるアミン、及びこれらアミンから誘導される基を含むポリマーからなる群から選択される1種以上のアミン化合物(A1)を用いる場合、アミン化合物(A1)を含むアミン水溶液に、二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させることで、アミン水溶液のpHの上昇が抑えられる。そのため、アミン水溶液をカルシウムイオン含有水(B)と接触させた際に、アミン水溶液(A)とカルシウムイオン含有水(B)との混合液のpHの上昇も抑えられる。したがって、カルシウムイオン含有水(B)にマグネシウムイオンが含まれていたとしても、水酸化マグネシウムの生成に起因する炭酸カルシウムの生成阻害も抑制される。これにより、炭酸カルシウムが極めて効率よく生成され、二酸化炭素が効率よく固定化される。
【0034】
したがって、カルシウムイオン含有水(B)として、海水を用いることができる。海水は入手容易である反面、カルシウムイオンとともに、マグネシウムイオンがカルシウムイオンよりも多く含まれている。そのため、既述のように炭酸カルシウムの生成阻害が生じる問題がある。しかし、塩基(A)として、アミン化合物(A1)を用いる場合、カルシウムイオン含有水(B)として海水を用いた場合であっても、水酸化マグネシウムの生成に起因する炭酸カルシウムの生成阻害が抑制されるため、入手容易である海水をカルシウムイオン含有水(B)として用いても、炭酸カルシウムが極めて効率よく生成される。しかも、海水を用いる場合、カルシウム源物質を合成したり、カルシウム源物質を輸送したりすることにより排出される二酸化炭素を削減することができる。したがって、二酸化炭素排出量をより効果的に削減し得る。
【0035】
また、カルシウムイオン含有水(B)としては、海水以外にも、例えば、海水を淡水化した際に得られる廃海水、海水から水酸化マグネシウムや塩やにがりを製造した際に生じる濃縮海水;塩湖かん水;地下かん水;及び汽水等のかん水を用いることができる。
なお、かん水とは、塩化ナトリウムなどの塩分を含んだ水であり、通常、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、及びバリウムイオンからなる群から選択される1種以上のアルカリ土類金属イオン(特に、カルシウムイオン)を含んでいる。したがって、カルシウムイオン含有水(B)として、かん水を利用することで、炭酸カルシウムを生成するためのカルシウムイオンを簡易に供給することが可能である。
【0036】
ここで、上記廃海水や上記濃縮海水には、カルシウムイオンが高濃度に含まれているため、炭酸カルシウムの生成源となるカルシウムイオンを効率よく供給することができる。したがって、炭酸カルシウムの生成効率をより向上させることができ、炭酸カルシウムの収量の向上を図ることが可能となる。これにより、二酸化炭素の効率的な固定化を行うことができる。また、ウユニ塩湖に代表される塩湖かん水、米国ソルトンレイクに代表される温水かん水なども、同様に、カルシウムイオン濃度が高いため、好ましい。近年、再生可能エネルギーとして地熱発電の開発が盛んに行われている。これらの地下温水かん水も同様に、好ましい。
したがって、カルシウムイオン含有水(B)としては、カルシウムイオン濃度が好ましくは400質量ppm以上のもの、より好ましくは600質量ppm以上のもの、更に好ましくは800質量ppm以上のもの、より更に好ましくは1,000質量ppm以上のもの、更になお好ましくは1,500質量ppm以上のもの、一層好ましくは1,800質量%ppm以上のものを用いることができる。
なお、カルシウムイオン含有水(B)として例示したものは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
なお、濃縮海水は、海水を原料として、イオン交換膜法、蒸発法、及び逆浸透法等の公知の方法により製造することができる。
【0038】
また、カルシウムイオン含有水(B)として、マグネシウムイオン濃度が500質量ppm以下(好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下)であるカルシウムイオン含有水を用いてもよい。
例えば、海水からの工業的な水酸化マグネシウム製造工程では、副生成物としてマグネシウムイオン濃度が500質量ppm以下であるカルシウムイオン含有水が生じる。本実施形態では、このような副生成物の有効利用を図ることもできる。
また、海水からの工業的な水酸化マグネシウム製造工程では、海水に石灰乳を添加することで、生成した水酸化マグネシウムスラリーを抜き出した後に、副生成物としてマグネシウムイオン濃度が500質量ppm以下であるカルシウムイオン含有水が生じる。このような副生成物には、海水に石灰乳を添加することによって、副生成物であるカルシウムイオン含有水のカルシウムイオン濃度が、海水よりも高まる(例えば、好ましくは400質量ppm以上、より好ましくは600質量ppm以上、更に好ましくは800質量ppm以上、より更に好ましくは1,000質量ppm以上、更になお好ましくは1,500質量ppm以上、一層好ましくは1,800質量%ppm以上)。そのため、副生成物であるカルシウムイオン含有水からカルシウムイオンを全量回収するためには、アミン水溶液(A1)のアミン化合物濃度を高める必要がある。アミン水溶液のアミン化合物(A1)の濃度を高めると、アミン水溶液のpHが上昇するため、炭酸カルシウムの生成反応が進行し難くなる。しかし、アミン水溶液に二酸化炭素を含む気体(G)から形成される微細気泡(X1)を発生させることで、カルシウムイオン濃度が海水よりも高いカルシウムイオン含有水をカルシウムイオン含有水(B)として用いても、pH上昇を抑えて、炭酸カルシウムを効率よく生成することができ、二酸化炭素を効率よく固定することができる。
【0039】
<工程(S)の具体的態様>
工程(S)の具体的態様としては、下記第1態様~第4態様が挙げられる。
これらの中でも、二酸化炭素の効率的な吸収等の観点から、下記第1態様~第3態様が好ましく、塩基水溶液に微細気泡(X1)を発生させる下記第1態様~下記第2態様がより好ましい。
【0040】
(工程(S)の第1態様:第一工程(S1-1)及び第二工程(S1-2))
第1態様において、工程(S)は、第一工程(S1-1)及び第二工程(S1-2)を含む。
第一工程(S1-1)では、塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する。
第二工程(S1-2)では、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、カルシウムイオン含有水(B)とを接触させる。
これにより、炭酸カルシウムが生成され、二酸化炭素を含む気体(G)中の二酸化炭素が固定化される。
【0041】
塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)は、例えば、塩基(A)を含む塩基水溶液(A-1)中に微細気泡(X1)を発生させることで調製することができる。
【0042】
塩基(A)を含む塩基水溶液(A-1)中に微細気泡(X1)を発生させることで、塩基(A)の作用によって微細気泡(X1)中の二酸化炭素が溶け込みやすくなり、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)の炭酸イオン濃度を向上させやすくできる。したがって、第二工程(S1-2)において、炭酸カルシウムを効率的に生成しやすくできる。
ここで、塩基(A)としてアミン化合物(A1)を用いることで、微細気泡(X1)中の二酸化炭素をさらに溶け込みやすくして、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)の炭酸イオン濃度をさらに向上させやすくできる。したがって、第二工程(S1-2)において、炭酸カルシウムをさらに効率的に生成しやすくできる。
【0043】
(工程(S)の第2態様:第一工程(S2-1)、第二工程(S2-2)、及び第三工程(S2-3))
第2態様において、工程(S)は、第一工程(S2-1)、第二工程(S2-2)、及び第三工程(S2-3)を含む。
第一工程(S2-1)では、塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する。
第二工程(S2-2)では、カルシウムイオン含有水(B)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)を調製する。
第三工程(S2-3)では、前記微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、前記微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)とを接触させる。
これにより、炭酸カルシウムが生成され、二酸化炭素を含む気体(G)中の二酸化炭素が固定化される。
【0044】
塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)の調製方法は、第1態様と同様であり、説明は省略する。
カルシウムイオン含有水(B)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)は、例えば、カルシウムイオン含有水(B)中に微細気泡(X1)を発生させることで調製することができる。
【0045】
塩基(A)を含む塩基水溶液(A-1)中に微細気泡(X1)を発生させることで、塩基(A)の作用によって微細気泡(X1)中の二酸化炭素が溶け込みやすくなり、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)の炭酸イオン濃度を向上させやすくすることができる。
加えて、カルシウムイオン含有水(B)中に微細気泡(X1)を発生させることで、塩基水溶液(A)よりも二酸化炭素が溶け込みにくいとはいえ、カルシウムイオン含有水(B)にも微細気泡(X1)中の二酸化炭素が溶け込む。また、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)と微細気泡含有塩基水溶液(A-2)とを接触させたときに、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)の微細気泡(X1)(さらには二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2))からの二酸化炭素の溶け込みが促進される。したがって、第三工程(S2-3)において、炭酸カルシウムをより効率的に生成しやすくできる。
ここで、塩基(A)としてアミン化合物(A1)を用いることで、微細気泡(X1)中の二酸化炭素をさらに溶け込みやすくして、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)の炭酸イオン濃度をさらに向上させやすくできるとともに、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)と微細気泡含有塩基水溶液(A-2)とを接触させたときに、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)の微細気泡(X1)からの二酸化炭素の溶け込みがさらに促進される。したがって、第三工程(S2-3)において、炭酸カルシウムをさらに効率的に生成しやすくできる。
【0046】
(工程(S)の第3態様:第一工程(S3-1)及び第二工程(S3-2))
第3態様において、工程(S)は、第一工程(S3-1)及び第二工程(S3-2)を含む。
第一工程(S3-1)では、塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)を調製する。
第二工程(S3-2)では、混合液(AB)中で微細気泡(X1)を発生させる。
これにより、炭酸カルシウムが生成され、二酸化炭素を含む気体(G)中の二酸化炭素が固定化される。
【0047】
塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)は、例えば、塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)とを混合すること、又は、塩基水溶液(A-1)とカルシウムイオン含有水(B)とを混合することにより調製することができる。
【0048】
混合液(AB)中で微細気泡(X1)を発生させることでも、塩基(A)の作用によって微細気泡(X1)中の二酸化炭素が溶け込みやすくなり、混合液(AB)の炭酸イオン濃度を向上させやすくすることができる。したがって、第二工程(S3-2)において、炭酸カルシウムをより効率的に生成しやすくできる。
ここで、塩基(A)としてアミン化合物(A1)を用いることで、微細気泡(X1)中の二酸化炭素をさらに溶け込みやすくして、混合液(AB)の炭酸イオン濃度をさらに向上させやすくすることができ、炭酸カルシウムをさらに効率的に生成しやすくできる。
【0049】
(工程(S)の第4態様:第一工程(S4-1)及び第二工程(S4-2))
第4態様において、工程(S)は、第一工程(S4-1)及び第二工程(S4-2)を含む。
第一工程(S4-1)では、カルシウムイオン含有水溶液(B)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)を調製する。
第二工程(S4-2)では、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)と、塩基(A)とを接触させる。
これにより、炭酸カルシウムが生成され、二酸化炭素を含む気体(G)中の二酸化炭素が固定化される。
【0050】
微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)の調製方法は、第2態様と同様であり、説明は省略する。
【0051】
カルシウムイオン含有水(B)中に微細気泡(X1)を発生させることで、塩基水溶液(A)よりも二酸化炭素が溶け込みにくいとはいえ、カルシウムイオン含有水(B)に微細気泡(X1)中の二酸化炭素が溶け込む。また、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)と塩基(A)とを接触させたときに、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)の微細気泡(X1)(さらには二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2))からの二酸化炭素の溶け込みが促進される。したがって、第二工程(S4-2)において、炭酸カルシウムを効率的に生成しやすくできる。
ここで、塩基(A)としてアミン化合物(A1)を用いることで、微細気泡(X1)中の二酸化炭素をさらに溶け込みやすくすることができる。したがって、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)とアミン化合物(A1)とを接触させたときに、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)の微細気泡(X1)からの二酸化炭素の溶け込みがさらに促進される。したがって、第二工程(S4-2)において、炭酸カルシウムを効率的に生成しやすくできる。
【0052】
<工程(T)>
工程(T)は、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊する工程(T1)と、工程(T1)の後に微細気泡(X1)を供給する工程(T2)とを含む。
工程(T)により、工程(S)において微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を破壊することで、液相中に長期に亘り留まり続ける、二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)を減少させ、液相中に新たな微細気泡(X1)を発生させやすくすることができる。これにより、液相中の炭酸イオン濃度を高濃度化することができ、工程(S)において、炭酸カルシウムを効率よく生成することができ、二酸化炭素を効率よく固定化することができる。
【0053】
以下、工程(T1)及び工程(T2)について、詳細に説明する。
【0054】
(工程(T1))
工程(T1)では、微細気泡(X2)を破壊する。
二酸化炭素を含む気体(G)から形成した微細気泡(X1)は、比表面積が大きいため、液相との接触面積が大きく、微細気泡(X1)中の気体が液相中に溶け込みやすい。そのため、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少して、微細気泡(X2)になりやすい。
ここで、平均気泡径が100μm以下である微細気泡は、一般に寿命が長い。そのため、微細気泡(X2)も寿命が長い。そして、微細気泡(X2)の存在は、液相中に新たな微細気泡を発生させることを阻害する要因となる。
そこで、工程(T1)では、微細気泡(X2)を破壊することで、液相中に新たな微細気泡(X1)を発生させやすくする。
【0055】
微細気泡(X2)を破壊する方法は、特に制限されず、例えば脱気処理等が挙げられる。
また、脱気を行う際、液相に超音波を印加することで、微細気泡(X2)の破壊をより促進することができ、好ましい。
また、他の方法としては、液相用の脱気モジュールを用いた方法が挙げられる。脱気モジュールとは、送液ポンプ等により送液された液体を中空糸膜(ガス透過膜)で形成された流路に通過させる一方、中空糸膜(ガス透過膜)で形成された流路の外側を減圧することで、液体が流路を通過する過程で液体中の気泡を負圧側に移動させ、液体中の気泡を減少させる装置である。
液相用の脱気ジュールを用いる場合、液相の一部を脱気モジュールに送液しつつ、脱気モジュールによる脱気後の液相を戻して連続的に循環処理することができるため、好ましい。
液相用の脱気モジュールとしては、例えば水用脱気・給気モジュールとして市販されているDIC社製のSEPAREL(登録商標)シリーズ、電装産業株式会社製のEFシリーズ及びPFシリーズ、三菱ケミカル株式会社製のSTERAPORE(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0056】
(工程(T2))
工程(T2)では、工程(T1)の後に微細気泡(X1)を供給する。
工程(T1)により微細気泡(X2)が破壊され、微細気泡(X2)の含有量(数)が減少した液相中には、新たな微細気泡(X1)を発生させやすい。
そこで、工程(T2)では、微細気泡(X2)の含有量が減少した液相中には、新たな微細気泡(X1)を供給する(発生させる)ようにしている。
これにより、二酸化炭素を含む気体(G)に由来する液相中の炭酸イオン濃度を向上させて、炭酸カルシウムをより効率的に生成させることができる。
【0057】
ここで、工程(T1)及び工程(T2)の一連の処理は、この順で複数回繰り返し実施することが好ましい。これにより、二酸化炭素を含む気体(G)に由来する液相中の炭酸イオン濃度をさらに向上させて、炭酸カルシウムをさらに効率的に生成させることができる。
【0058】
ここで、液相用の脱気モジュールを用いる場合、図2に示すように、バッファータンク13を介した循環構成を採用することが好ましい。
タンク11には、微細気泡(X1)を発生させる対象となる液相(例えば、塩基水溶液(A-1))が貯留されており、第二装置22により微細気泡(X1)がタンク11内の液相に供給される。タンク11内に供給された微細気泡(X1)中の二酸化炭素は、タンク11内の液相中に溶け出し、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少して微細気泡(X2)となる。微細気泡(X2)を含む液相は、送液ポンプ25により第一装置21(脱気モジュール21)に送液され、第一装置21を通過する際に脱気が行われる。なお、第一装置21の中空糸膜(ガス透過膜)で形成された流路の外側は、真空ポンプ26で減圧され、負圧となっている。
脱気されて微細気泡(X2)の含有量(数)が減少した液相は、バッファータンク13に排出される。バッファータンク13内の液相は、第二装置22において微細気泡(X1)を発生させる際の液相として用いられる。この場合、タンク11内の液相よりも微細気泡(X2)の量が減少しているバッファータンク13内の液相に微細気泡(X1)を発生させることができるため、微細気泡(X1)をより効率的に発生させることができる。
これら一連の処理により、タンク11内の液相中において微細気泡(X1)を発生させやすくして、液相中における二酸化炭素を含む気体(G)の二酸化炭素由来の炭酸イオン濃度を高めることができ、炭酸カルシウム生成源としての炭酸イオンをより供給しやすくすることができる。
また、工程(T1)及び工程(T2)の一連の処理を行いやすいという利点もある。
【0059】
また、図3に示すように、タンク11を複数準備し(タンク11、11’、11’’)、各タンク内にて工程(T1)及び工程(T2)の一連の処理を繰り返し実施して、各タンク内の液相中における二酸化炭素を含む気体(G)の二酸化炭素由来の炭酸イオン濃度を高め、各タンク内の微細気泡(X1)を含む液相を大型タンク12に合流させて処理するようにしてもよい。なお、この場合における各タンクの循環経路においても、図2に示すようなバッファータンクを備えるようにしても勿論よい。
【0060】
<工程(T)の具体的態様>
工程(T)の具体的態様としては、下記第1態様~第4態様が挙げられる。
これらの中でも、下記第1態様~第3態様が好ましく、工程の簡便性及び二酸化炭素の効率的な吸収等の観点から、下記第1態様~下記第2態様が好ましい。
【0061】
(工程(T)の第1態様:工程(S)の第1態様における工程(T))
工程(S)の第1態様において、工程(T)は、第一工程(S1-1)において行われる。
具体的には、塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)に対し、工程(T)が行われる。
詳細には、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)には、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)が含まれる。これを工程(T1)で破壊した後、工程(T2)により新たな微細気泡(X1)を供給する(発生させる)。
この一連の処理によって、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)中における、二酸化炭素を含む気体(G)の二酸化炭素に由来する炭酸イオン濃度が向上する。
そして、この一連の処理を複数回繰り返すことで、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)中の炭酸イオン濃度をさらに向上させることができる。
これにより、工程(S1-2)において、炭酸カルシウムを極めて効率よく生成させて、二酸化炭素を極めて効率よく固定化することができる。
【0062】
(工程(T)の第2態様:工程(S)の第2態様における工程(T))
工程(S)の第2態様において、工程(T)は、第一工程(S2-1)及び工程(S2-2)の少なくともいずれかにおいて行われる。好ましくは、工程(T)は、第一工程(S2-1)、又は、第一工程(S2-1)及び工程(S2-2)の双方において行われる。
【0063】
第一工程(S2-1)では、塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)に対し、工程(T)が行われる。
この処理は、第1態様と同様であり、説明は省略する。
【0064】
第二工程(S2-2)では、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)に対し、工程(T)が行われる。微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)には、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)が含まれる。これを工程(T1)で破壊した後、工程(T2)により新たな微細気泡(X1)を供給する(発生させる)。
この一連の処理によって、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)中における、二酸化炭素を含む気体(G)の二酸化炭素に由来する炭酸イオン濃度が向上する。
そして、この一連の処理を複数回繰り返すことで、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)中の炭酸イオン濃度をさらに向上させることができる。
【0065】
したがって、工程(S2-3)において、炭酸カルシウムを極めて効率よく生成させて、二酸化炭素を極めて効率よく固定化することができる。
【0066】
(工程(T)の第3態様:工程(S)の第3態様における工程(T))
工程(S)の第3態様において、工程(T)は、第一工程(S3-2)において行われる。
具体的には、塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)に対し、工程(T)が行われる。
詳細には、塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)に微細気泡(X1)を発生させたものに対し、工程(T)が行われる。
微細気泡(X1)を発生させた混合液(AB)は、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)が含まれる。これを工程(T1)で破壊した後、工程(T2)により新たな微細気泡(X1)を供給する(発生させる)。
この一連の処理によって、混合液(AB)中における、二酸化炭素を含む気体(G)の二酸化炭素に由来する炭酸イオン濃度が向上する。
そして、この一連の処理を複数回繰り返すことで、混合液(AB)中の炭酸イオン濃度をさらに向上させることができる。
これにより、工程(S3-2)において、炭酸カルシウムを極めて効率よく生成させて、二酸化炭素を極めて効率よく固定化することができる。
【0067】
(工程(T)の第4態様:工程(S)の第4態様における工程(T))
工程(S)の第4態様において、工程(T)は、第一工程(S4-1)において行われる。
具体的には、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)に対し、工程(T)が行われる。微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)には、微細気泡(X1)中の二酸化炭素量が減少した微細気泡(X2)が含まれる。これを工程(T1)で破壊した後、工程(T2)により新たな微細気泡(X1)を供給する(発生させる)。
この一連の処理によって、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)中における、二酸化炭素を含む気体(G)の二酸化炭素に由来する炭酸イオン濃度が向上する。
そして、この一連の処理を複数回繰り返すことで、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)中の炭酸イオン濃度をさらに向上させることができる。
【0068】
したがって、工程(S4-2)において、炭酸カルシウムを効率よく生成させて、二酸化炭素を極めて効率よく固定化することができる。
【0069】
<回収工程(U)>
回収工程(U)では、工程(S)において生成した炭酸カルシウムを回収する。
炭酸カルシウムは、析出して沈殿するので、濾過及び遠心分離等から選択される1種以上の固液分離処理により、分離して回収することができる。
【0070】
[第1態様から第4態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステム]
以下、第1態様から第4態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムについて、説明する。
【0071】
<第1態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステム>
第1態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を図4に示す。
図4に示すシステム1aは、上述した工程(S)の第1態様及び工程(T)の第1態様を実施するためのシステムである。
図4に示すシステム1aにおいて、炭酸カルシウム生成部10は、塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する調製部40、及び前記微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、前記カルシウムイオン含有水(B)とを接触させる生成部(P)を備える。第一装置21及び第二装置22により構成される微細気泡破壊・供給部20は、調製部40に備えられている。
調整部40は、貯留タンクであり、以下、「貯留タンク40」ともいう。また、生成部(P)は、反応タンクであり、以下、「反応タンク(P)」ともいう。
なお、図4中、40aは微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を反応タンク(P)に供給するための送液ラインである。また、50aは、カルシウムイオン含有水(B)を反応タンク(P)に供給するための送液ラインである。50は、カルシウムイオン含有水(B)用の貯留タンクである。(Q)は、回収部である。
【0072】
図4に示すシステム1aでは、第二装置22によって貯留タンク40に貯留されている塩基水溶液(A-1)に微細気泡(X1)を発生させて、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)が調製される。そして、第一装置21と第二装置22とを用いて、工程(T)が実施され、炭酸イオンを高濃度に含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)が反応タンク(P)に供給され、反応タンク(P)でカルシウムイオン含有水(B)と接触して、炭酸カルシウムが生成される。
なお、反応タンク(P)には、図示省略する撹拌装置等が備えられていてもよい。撹拌装置としては、撹拌翼、曝気処理装置等が挙げられる。また、反応タンク(P)に微細気泡(X1)の発生手段を設け、微細気泡(X1)による撹拌を行ってもよい。
【0073】
炭酸カルシウムは、回収部(Q)において回収される。回収部(Q)は、例えばサブタンクであり、生成された炭酸カルシウムを含む液相をサブタンク等に移送し、サブタンク内で固液分離処理が行われて、炭酸カルシウムが回収される。
ここで、反応タンク(P)としてシックナー沈降分離装置を用いた場合には、反応タンク(P)は、回収部(Q)の機能を兼ね備えることができる。
なお、反応タンク(P)及び回収部(Q)は、各々複数備えられていてもよい。
【0074】
<第2態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステム>
第2態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を図5に示す。
図5に示すシステム1bは、上述した工程(S)の第2態様及び工程(T)の第2態様を実施するためのシステムである。
図5に示すシステム1bにおいて、炭酸カルシウム生成部10は、塩基(A)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)を調製する第一調製部40、カルシウムイオン含有水(B)と微細気泡(X1)とを含む微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)を調製する第二調製部50、及び微細気泡含有塩基水溶液(A-2)と、前記微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)とを接触させる生成部(P)を備える。第一装置21及び第二装置22により構成される微細気泡破壊・供給部20は、第一調製部40及び第二調製部50に備えられている。
第一調製部40は、貯留タンクであり、以下、「貯留タンク40」ともいう。第二調製部50は、貯留タンクであり、以下、「貯留タンク50」ともいう。また、生成部(P)は、反応タンクである(以下、「反応タンク(P)」ともいう)。
他の符号の意味は、図4と同様である。
【0075】
図5に示すシステム1bでは、第二装置22によって貯留タンク40に貯留されている塩基水溶液(A-1)に微細気泡(X1)を発生させて、微細気泡含有塩基水溶液(A-2)が調製される。さらに、第二装置22によって貯留タンク50に貯留されているカルシウムイオン含有水(B)に微細気泡(X1)を発生させて、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)が調製される。
そして、第一装置21と第二装置22とを用いて、工程(T)が実施された後、炭酸イオンを高濃度に含む微細気泡含有塩基水溶液(A-2)が貯留タンク40から反応タンク(P)に供給されるとともに、炭酸イオンを含むカルシウムイオン含有水(B)が貯留タンク50から反応タンク(P)に供給され、炭酸カルシウムが生成される。
【0076】
なお、反応タンク(P)には、第1態様のシステム1aと同様、図示省略する撹拌装置等が備えられていてもよい。また、回収部(Q)の構成は、第1態様のシステム1aと同様である。
【0077】
<第3態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステム>
第3態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を図6に示す。
図6に示すシステム1cは、上述した工程(S)の第3態様及び工程(T)の第3態様を実施するためのシステムである。
図6に示すシステム1cにおいて、炭酸カルシウム生成部10は、塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)を調製する調製部、及び混合液(AB)中に微細気泡(X1)を発生させる生成部を備える。図6に示すシステム1cでは、調製部及び生成部の機能を、反応タンク(P)で兼ね備えるようにしている。但し、このような態様には限定されず、塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)とを含む混合液(AB)を調製する調製部を別途設けて、これを反応タンク(P)に供給する態様としても勿論よい。
第一装置21及び第二装置22により構成される微細気泡破壊・供給部20は、生成部に備えられる。図6に示すシステム1cでは、微細気泡破壊・供給部20を、調製部及び生成部の機能を兼ね備える反応タンク(P)に備えるようにしているが、生成部の機能が切り分けられた反応タンク(P)に微細気泡破壊・供給部20を備えるようにしても勿論よい。
他の符号の意味は、図4と同様である。
【0078】
第3の態様では、貯留タンク40に貯留されている塩基水溶液(A-1)と、貯留タンク50に貯留されているカルシウムイオン含有水(B)とが反応タンク(P)に供給され、混合液(AB)が調製される。
そして、第二装置22によって混合液(AB)に微細気泡(X1)を発生させて、微細気泡含有混合液(AB-1)が調製される。これにより炭酸カルシウムが生成される。
そして、第一装置21と第二装置22とを用いて、微細気泡含有混合液(AB-1)に工程(T)が実施され、炭酸カルシウムの生成が促進される。
【0079】
なお、反応タンク(P)には、第1態様のシステム1aと同様、図示省略する撹拌装置等が備えられていてもよい。また、回収部(Q)の構成は、第1態様のシステム1aと同様である。
【0080】
<第4態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステム>
第4態様にかかる二酸化炭素の固定化方法を実施するためのシステムの一例を図7に示す。
図7に示すシステム1dは、上述した工程(S)の第4態様及び工程(T)の第4態様を実施するためのシステムであり、符号の意味は図4と同様である。
【0081】
図7に示すシステム1dでは、第二装置22によって貯留タンク50に貯留されているカルシウムイオン含有水(B)に微細気泡(X1)を発生させて、微細気泡含有カルシウムイオン含有水(B-1)が調製される。
そして、第一装置21と第二装置22とを用いて、工程(T)が実施された後、炭酸イオンを含むカルシウムイオン含有水(B)が反応タンク(P)に供給されるとともに、塩基水溶液(A-1)が反応タンク(P)に供給され、炭酸カルシウムが生成される。
【0082】
なお、反応タンク(P)には、第1態様のシステム1aと同様、図示省略する撹拌装置等が備えられていてもよい。また、回収部(Q)の構成は、第1態様のシステム1aと同様である。
【0083】
<塩基回収・供給工程(V)>
塩基回収工程(V)では、炭酸カルシウムが析出した後の液相から塩基(A)を回収し、工程(S)において用いる塩基(A)の少なくとも一部として供給する。
塩基回収・供給工程(V)により、塩基(A)を製造方法及び固定化システムの系内で繰り返し利用することが可能となり、塩基(A)にかかるコスト等を抑えることができる。
また、塩基(A)を循環利用することで、塩基(A)の合成原料調達時及び合成時等に生じる二酸化炭素排出量を削減する効果も奏される。特に、塩基(A)としてアミン化合物(A1)を用いる場合には、かかる観点を踏まえ、アミン化合物(A1)を回収し、工程(S)において用いるアミン化合物(A1)の少なくとも一部として供給することが好ましい。
【0084】
塩基(A)を回収する方法は特に制限されず、公知の手法を適宜採用することができる。
ここで、既述のように、塩基(A)はアミン化合物(A1)であることが好ましい。
そこで、以下に、塩基回収・供給工程(V)において行われる、アミン化合物(A1)の回収方法及び回収したアミン化合物(A1)の供給方法について、詳細に説明する。
【0085】
(アミン化合物(A1)の回収方法)
炭酸カルシウムが析出した後の液相からのアミン化合物(A1)の回収は、例えば、以下に説明する、吸着剤を利用した方法により行うことができる。ここで説明する方法は、イオン交換クロマトグラフィーの原理と方法と同等である。アミン化合物(A1)の回収は、既知の方法を利用すれば良く、吸着剤を利用した方法に限定されるものではい。具体的には電気透析法、透析膜法、限界濾過法を用いることができる。
【0086】
-吸着剤-
吸着剤は、炭酸カルシウムが析出した後の液相を接触させることで、アミン化合物(A1)を回収することができる固体状の吸着剤が用いられる。
固体状の吸着剤としては、例えば、-SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を示す)で表される置換基を有するものが用いられる。
Mとして選択し得るアルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、又はフランシウム(Fr)である。
水溶性及び操作性の観点から、Mは、Na又は水素原子であることが好ましい。
なお、固体状の吸着剤は、1種を単独で用いてもよいし、Mが異なる2種以上の固体状の吸着剤を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
固体状の吸着剤は、担体に上記置換基が結合することで、アミン化合物(A)の回収機能を発揮する。担体としては、上記置換基が結合可能であれば特に限定されないが、例えば、シリカゲル、アルミナ、ガラス、カオリン、マイカ、タルク、クレイ、水和アルミナ、ウォラストナイト、鉄粉、チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭化珪素、窒化珪素、炭酸カルシウム、炭素、硫酸バリウム、ボロン、フェライト、セルロース、及び活性炭等が挙げられる。
担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
固体状の吸着剤の形状は特に限定されず、例えば、粉末状、粒状、シート状であってもよい。また、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗等であってもよい。
【0089】
-液相と固体状の吸着剤との接触-
炭酸カルシウムが析出した後の液相と固体状の吸着剤とを接触させることで、アミン化合物(A1)が固体状の吸着剤に回収される。この際、液相のpHは1~7であることが好ましい。また、液相の温度は特に限定されないが、好ましくは20℃~40℃である。
【0090】
炭酸カルシウムが析出した後の液相と固体状の吸着剤とを接触方法は、特に制限されないが、取り扱いの容易性等の観点から、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗を用い、これに液相を流通させることが好ましい。
【0091】
-アミン化合物(A1)の溶出-
固体状の吸着剤に回収されたアミン化合物(A1)は、固体状の吸着剤に溶出液を接触させることで、溶出液中に溶出させて回収することができる。
溶出液としては、塩基性化合物を含有する水溶液(有機溶媒を添加もしくは一部を置換したものを含む)が挙げられる。
塩基性化合物は、回収対象であるアミン化合物(A1)との間で化学的反応を実質的に生じないものであって、水に溶解ないし混和可能なものを適宜用いることができる。好ましい塩基性化合物としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、トリエチルアミン、ピリジン、ヒスチジン、ジアザビシクロウンデセン、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0092】
塩基性化合物の濃度は、アミン化合物(A1)の溶出効率向上の観点から、塩基性化合物と有機溶媒との合計100質量%を基準として、0.5質量%~10質量%が好ましい。
【0093】
有機溶媒は、回収対象であるアミン化合物(A1)と塩基性化合物とを溶解する一般的な有機溶媒を用いることができるが、操作性等の観点から、低粘性、低沸点の有機溶媒が好ましく、更には水と均一に混合するものが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、及び2-プロパノール等の炭素数1~3の低級アルコール;アセトン;アセトニトリル等が挙げられる。
なお、有機溶媒は、塩基性化合物を含有する水溶液の調整のために少量添加または混合してもよいが、塩基性化合物を含有する水溶液は、有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0094】
アミン化合物(A1)を溶出液に溶出させる際の溶出液の温度は特に限定されないが、一般には、20~40℃である。
【0095】
固体状の吸着剤に回収されたアミン化合物(A1)を溶出させる方法は、特に制限されないが、取り扱いの容易性等の観点から、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗を用いる場合には、これに炭酸カルシウムが析出した後の液相を流通させてアミンを回収した後、アミン化合物(A1)が回収された固体状の吸着剤に溶出液を流通させて、当該溶出液中にアミン化合物(A1)を溶出させて回収する方法が挙げられる。
したがって、アミン化合物回収・供給部(R)を構成するアミン化合物回収手段としては、例えば、回収部(Q)で分離した液相を流通させて、アミン化合物(A1)を回収するための、固体状の吸着剤の粉末や粒子を充填したカートリッジ、カラム、又は漏斗と、当該カートリッジ、カラム、又は漏斗に溶出液を流通させる供給ライン(不図示)とを備える構成が挙げられる。
【0096】
(アミン化合物(A1)の供給方法)
溶出液中に回収されたアミン化合物(A1)は、アミン化合物(A1)の水溶液を調製するために用いられるアミン化合物(A1)の少なくとも一部として供給される。これにより、本実施形態において、アミン化合物(A1)が系内で循環利用される。
なお、溶出液中に回収されたアミン化合物(A1)は、溶出液ごとアミン化合物(A1)の水溶液を調製するために用いられるアミン化合物(A1)として供給してもよいし、溶出液の少なくとも一部を分離してアミン化合物(A1)を濃縮した後、アミン化合物(A1)の水溶液を調製するために用いられるアミン化合物(A1)として供給してもよい。
【0097】
なお、上述したアミン化合物回収・供給工程(V)では、固体状の吸着剤を用いてアミン化合物(A1)を回収する例を説明したが、アミン化合物(A1)の回収は、この方法には限定されず、例えば、イオン交換膜電解装置、逆浸透膜装置、電気透析装置、拡散透析装置、イオン交換樹脂を備える装置等を用いて行うようにしてもよい。
したがって、第一実施形態の製造システムは、アミン化合物回収・供給工程(V)を実施するためのアミン化合物回収・供給部(R)として、イオン交換膜電解装置、逆浸透膜装置、電気透析装置、拡散透析装置、又はイオン交換樹脂を備える装置を備えていてもよい。
また、アミン化合物(A1)として、生体アミンから誘導される基を含むポリマーを用いる場合、アミン化合物を、限界濾過膜(UF膜)で回収するようにしてもよい。
【0098】
[炭酸カルシウムの製造方法]
既述のように、本実施形態の二酸化炭素の固定化方法によれば、炭酸カルシウムを生成させて回収することができる。したがって、本開示によれば、本実施形態の二酸化炭素の固定化方法を用いた、炭酸カルシウムの製造方法も提供される。
炭酸カルシウムは、各種用途として有用である。
例えば、炭酸カルシウムは、製紙、ゴム、プラスチック、食品、及び化粧品等の広範囲な工業分野で、充填剤、顔料、及び増量剤などとして利用することができる。
【実施例0099】
[塩基水溶液の調製]
塩基(A)としてプトレシン(1,4-ブタンジアミン)を用い、これを純水(Milli-Q(登録商標)水)で希釈して、下記4種のプトレシン水溶液を調製した。
・プトレシン水溶液1(プトレシン濃度:30質量%)
・プトレシン水溶液2(プトレシン濃度:10質量%)
・プトレシン水溶液3(プトレシン濃度:1質量%)
・プトレシン水溶液4(プトレシン濃度:0.1質量%)
【0100】
[実験A:微細気泡とエアレーションの比較検討]
プトレシン水溶液1~4に対して下記処理を行い、プトレシン水溶液1~4のpHの経時変化を測定した。
pHは、株式会社堀場製作所製のF-72を用いて測定した。
【0101】
<比較例A1-1>
プトレシン水溶液1を500mLビーカーに300mL収容し、循環型のウルトラファインバブル発生装置(リビングエナジー社製、LE5S、ハイブリッド方式、平均粒径200~300nm、粒子数10億個/mL)にて大気とプトレシン水溶液1(500mLビーカー内のプトレシン水溶液1を吸い上げて利用)とを混合した液を流速0.27L/分でプトレシン水溶液1に150分間通液し、その間のpHの経時変化を10分毎に測定した。
【0102】
<比較例A1-2~A1-4>
プトレシン水溶液1を以下のように変更し、比較例A1-1と同様の方法で、比較例A1-2~A1-4を実施した。
・比較例A1-2:プトレシン水溶液2
・比較例A1-3:プトレシン水溶液3
・比較例A1-4:プトレシン水溶液4
【0103】
<比較例A2-1>
プトレシン水溶液1を500mLビーカーに300mL収容し、水槽用エアーポンプ(エルエンスタジオ社製、HQ-902)を用い、円筒形エアストーンシリンダー(Pawfly 2.5CM)を介して、大気を流速5L/分でプトレシン水溶液1に150分間通気し、その間のpHの経時変化を10分毎に測定した。
【0104】
<比較例A2-2~A2-4>
プトレシン水溶液1を以下のように変更し、比較例A2-1と同様の方法で、比較例A2-2~A2-4を実施した。
・比較例A2-2:プトレシン水溶液2
・比較例A2-3:プトレシン水溶液3
・比較例A2-4:プトレシン水溶液4
【0105】
実験Aの結果を図8に示す。
【0106】
図8に示す結果から、ウルトラファインバブル発生装置で微細気泡を発生させた場合、エアレーションを行う場合よりもpHの低下がみられず、二酸化炭素がプトレシン水溶液中に十分に溶解しないことが明らかとなった。
【0107】
[実験B:超音波による脱気処理の検討]
プトレシン水溶液1~2に対して下記処理を行い、プトレシン水溶液1~2のpHの変化を測定した。
pHは、実験Aと同様、株式会社堀場製作所製のF-72を用いて測定した。
【0108】
<実施例B1-1>
通気時間を180分間に変更したこと以外は、上記比較例A2-1と同様の条件として、通気済みのプトレシン水溶液1を10Lのバケツに入れ2L準備した。
この通気済みのプトレシン水溶液1を1Lのメディウム瓶に1L収容した状態で、超音波をかけながらの脱気処理を1分間行った(以下、「超音波脱気処理」ともいう)。
超音波測定装置としてアズワン社製、AS482を用いた。超音波印加条件は65W、35kHzとした。
脱気は、ダイアフラムポンプ(日立製、VD3)にて行った。
超音波脱気処理後のプトレシン水溶液1に対し、循環型のウルトラファインバブル発生装置(リビングエナジー社製、FU11、ハイブリッド方式、平均粒径200~300nm、粒子数10億個/mL)にて大気とプトレシン水溶液1(1Lのメディウム瓶内のプトレシン水溶液1を吸い上げて利用)とを混合した液を流速11L/分で1分間通液した(以下、この処理を「微細気泡発生処理」ともいう)。
超音波脱気処理(1分間)と微細気泡発生処理(1分間)を1セットとして計50セット繰り返し、10セット毎にpHを測定した。
【0109】
<実施例B1-2>
通気時間を180分間に変更したこと以外は、上記比較例A2-2と同様の条件として、通気済みのプトレシン水溶液2を2L準備し、他は実施例B1-1と同様の条件として、実施例B1-2を実施した。
【0110】
<比較例B2-1>
通気時間を180分間に変更したこと以外は、上記比較例A2-1と同様の条件として、通気済みのプトレシン水溶液1を1Lのメディウム瓶に1L準備した。
この通気済みのプトレシン水溶液1を1Lのメディウム瓶に収容した状態で、超音波脱気処理を行った。
超音波脱気処理後のプトレシン水溶液1に対し、水槽用エアーポンプ(エルエンスタジオ社製、HQ-902)を用い、円筒形エアストーンシリンダー(Pawfly 2.5CM)を介して、大気を流速5L/分でプトレシン水溶液1に1分間通気した(以下、この処理を「エアレーション処理」ともいう)。
超音波脱気処理(1分間)とエアレーション処理(1分間)を1セットとして計50セット繰り返し、10セット毎にpHを測定した。
【0111】
<比較例B2-2>
通気時間を180分間に変更したこと以外は、上記比較例A2-2と同様の条件として、通気済みのプトレシン水溶液2を1L準備し、他は比較例B2-1と同様の条件として、比較例B2-2を実施した。
【0112】
実験Bにおける超音波脱気処理と微細気泡発生処理の1セットの処理の概念を図9に示す。
【0113】
また、実験Bの結果を図10に示す。
【0114】
図10に示す結果から、超音波脱気処理と微細気泡発生処理を繰り返すことで、pHの低下が顕著となり、プトレシン水溶液中に二酸化炭素が溶解しやすくなることが明らかとなった。
【0115】
[実験C:真空ユニットによる連続脱気処理の検討]
プトレシン水溶液1に対して下記処理を行い、プトレシン水溶液1のpHの変化を測定した。
pHは、実験Aと同様、株式会社堀場製作所製のF-72を用いて測定した。
【0116】
<実施例C>
上記比較例A2-1と同様の条件で、通気済みのプトレシン水溶液300mLを準備した。
この通気済みのプトレシン水溶液1を500mLのビーカーに収容し、循環型のウルトラファインバブル発生装置(リビングエナジー社製、LE5S、ハイブリッド方式、平均粒径200~300nm、粒子数10億個/mL)にて大気とプトレシン水溶液1(500mLビーカー内のプトレシン水溶液1を吸い上げて利用)とを混合した液を流速0.27L/分で通液しながら、送液ポンプ(アズワン社製、TP-10SA)で流速0.09L/分で水用脱気・給気モジュール(DIC社製、Separel MIJ-60-MA00A)に送液を行った。
水用脱気・給気モジュール内部(中空糸内)は、ダイアフラムポンプ(日立製、VD3)で真空に保った。
そして、ウルトラファインバブル発生装置による通液と水用脱気・給気モジュールへの送液を180分間続け、0、10、20、30、60、120、及び180分後に、pHを測定した。
【0117】
実験Cにおいて用いた装置系を図11に示す
【0118】
また、実験Cの結果を図12に示す。
なお、図12中、●で示すプロットは実施例B1-1の超音波脱気処理と微細気泡発生処理の50セット目の結果である。
【0119】
図12に示す結果から、微細気泡の脱気を連続的に行うことによって、pHの低下がさらに顕著となり、プトレシン水溶液中への二酸化炭素の溶解をさらに促進しやすくできることが明らかとなった。
【0120】
[実験D:炭酸カルシウム生成による二酸化炭素の固定化の検討]
塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)の混合液(AB)に、大気から形成した微細気泡を発生させることにより、炭酸カルシウムを生成させて、二酸化炭素を固定することができるか検討した。
【0121】
<実施例D1>
脱Mg海水(カルシウムイオン濃度:1700質量ppm)6Lにプトレシンを添加して、塩基(A)とカルシウムイオン含有水(B)の混合液(AB)を調製した。混合液(AB)のプトレシン濃度は50mMとした。
そして、調製した混合液(AB)を容器に入れて、循環型のウルトラファインバブル発生装置(リビングエナジー社製、FU11、ハイブリッド方式、平均粒径200~300nm、粒子数10億個/mL)にて大気と混合液(AB)(容器中の混合液(AB)を吸い上げて利用)とを混合した液を流速9.0L/分で6時間通液し、炭酸カルシウムを生成した。
6時間の通液中、コンパクトカルシウムイオンメーター(株式会社堀場アドバンスドテクノ製、LAQUAtwin)を用いて、混合液(AB)中のカルシウムイオン濃度を1時間毎に測定した。
また、6時間の通液中には、混合液(AB)のpHも測定した。pHは、株式会社堀場製作所製のF-72を用いて測定した。
なお、ウルトラファインバブル発生装置を作動時の熱で混合液(AB)の温度が55℃以上になると装置がオーバーヒートし機能停止になるため、混合液(AB)を入れる容器を氷冷しながら、混合液(AB)の温度が45℃を超えないように実験を行った。反応後の混合液(AB)は、0.2μmのフィルターでろ過・乾燥して濾別残渣を回収し、回収した濾別残渣を乾燥した後に重量を測定した。濾別残渣中の炭酸カルシウム含有量はICP発光分光分析法(アジレント・テクノロジー株式会社 Agilent 5100を用い、濾別残渣を硝酸にて溶解後、超純水にて定容し、カルシウム質量濃度を分析し、カルシウム原子量、および、炭酸カルシウム分子量を用いて換算することで炭酸カルシウム含有量とした)にて行った。また反応前の脱Mg海水のカルシウムイオン濃度(1700質量ppm)から、カルシウム回収率を算出した。
また、回収した濾別残渣を電子顕微鏡で観察した。
【0122】
<実施例D2>
脱Mg海水を天然海水(カルシウムイオン濃度:400質量ppm)に変更し、実施例D1と同様の方法で濾別残渣を生成し、同様の測定を実施するとともに、カルシウム純度、回収率を算出した。また、回収した濾別残渣を電子顕微鏡で観察した。
【0123】
実施例D1における混合液(AB)の温度及びpHの経時変化を図13に示し、実施例D2における混合液(AB)の温度及びpHの経時変化を図14に示す。
また、実施例D1において回収した濾別残渣の電子顕微鏡写真を図15に示し、実施例D2において回収した濾別残渣の電子顕微鏡写真を図16に示す。
【0124】
実施例D1において、混合液(AB)のpHは、プトレシン添加直後は11.12まで上昇し、その後、微細気泡の生成に伴う大気中二酸化炭素の混合液(AB)への溶解により、混合液(AB)のpHは徐々に低下した。6時間後の混合液(AB)のpHは10.3であった。
混合液(AB)の温度は、開始時には20℃であったが、44℃まで上昇した。
濾別残渣の回収量は13.2gであり、炭酸カルシウムの含有量は40質量%、カルシウム回収率は50%であった。
この結果から、脱Mg海水を用いて、カルシウムイオンを効率よく回収できることがわかった。このことから、脱Mg海水に含まれるカルシウムイオンから効率よく炭酸カルシウムを生成することができ、二酸化炭素の固定化の効率もよいことがわかった。
【0125】
実施例D2において、混合液(AB)のpHは、プトレシン添加直後は10.1まで上昇し、その後、微細気泡の生成に伴う大気中二酸化炭素の混合液(AB)への溶解により、混合液(AB)のpHは徐々に低下した。6時間後の混合液(AB)のpHは9.3であった。
混合液(AB)の温度は、開始時には21℃であったが、45℃まで上昇した。
濾別残渣の回収量は3.3gであり、炭酸カルシウムの含有量は48質量%、カルシウム回収率は55%であった。
この結果から、天然海水を用いて、カルシウムイオンを効率よく回収できることがわかった。このことから、天然海水に含まれるカルシウムイオンから効率よく炭酸カルシウムを生成することができ、二酸化炭素の固定化の効率もよいことがわかった。
【符号の説明】
【0126】
1、1a、1b、1c、1d 二酸化炭素の固定化システム
10 炭酸カルシウム生成部
11、11’、11’ タンク
12 大型タンク
20 微細気泡破壊・供給部
21 (微細気泡(X2)を破壊するための)第一装置
22 (微細気泡(X1)を供給する(発生させる)ための)第二装置
25 送液ポンプ
26 真空ポンプ
40 (塩基水溶液用の)貯留タンク
40a (塩基水溶液の)送液ライン
50 (カルシウムイオン含有水用の)貯留タンク
50a (カルシウムイオン含有水用の)送液ライン
(G) 二酸化炭素を含む気体
(P) 反応タンク
(Q) 回収部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16