(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130814
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 23/00 20060101AFI20240920BHJP
B32B 23/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B32B23/00
B32B23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040723
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】谷山 弘行
(72)【発明者】
【氏名】高木 幸治
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AH03B
4F100AJ04B
4F100AJ06B
4F100AK01A
4F100AK03A
4F100AK15A
4F100AK22A
4F100AK27A
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK45A
4F100AK51A
4F100AK52B
4F100AL06B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CA00A
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100DG17A
4F100EH46
4F100EJ25
4F100EJ37
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4F100EJ86
4F100GB56
4F100GB90
4F100JA11
4F100JA11B
4F100JB04
4F100JB04B
4F100JB05
4F100JK15
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】製膜性が良好であり、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる機能性材料の提供。
【解決手段】本発明の積層体は、基材層と、3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層と、を有し、前記機能層の表面の水接触角が、pH7の水で測定したとき70度以上であり、前記機能層の表面の水接触角が、pH2の水で測定したとき30度以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層と、
を有し、
前記機能層の表面の水接触角が、pH7の水で測定したとき70度以上であり、
前記機能層の表面の水接触角が、pH2の水で測定したとき30度以下である、積層体。
【請求項2】
前記シラン変性ナノセルロースが、ナノセルロースと2種以上のアルコキシシランとの反応物である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記2種以上のアルコキシシランが、
3級アミン構造を有するシラン化合物(A)と、
アルキル基を有し、かつ、3級アミン構造を有さないシラン化合物(B)と、
を含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記シラン化合物(A)が、(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシランおよび(N,N-ジエチルアミノプロピル)トリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記シラン化合物(B)が、炭素数6~12のアルキル基を有する、請求項3に記載の積層体。
【請求項6】
前記シラン化合物(A)と前記シラン化合物(B)のモル比MA/MBが、1.5以上である、請求項3に記載の積層体。
【請求項7】
ナノセルロースが、セルロースナノクリスタルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記機能層の厚みが、10~1,000nmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記基材層が、樹脂フィルム、繊維状基材またはガラス製基材である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年サーキュラーエコノミーや持続可能社会の観点から、植物由来材料を利用した高機能材料が注目されている。植物繊維を解繊してナノ化したセルロースナノマテリアルを機能性材料に適用することが検討されている。
セルロースナノマテリアルの表面には、水酸基が豊富に存在する。この水酸基そのものを活用することや化学修飾による機能性付与等により、親水性のみならず種々の表面機能性を付与することが提案されている(例えば、特許文献1~3、非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、アルコキシシランと炭素数1~4の低級アルコールとセルロースナノファイバーを含有する親水性コーティング組成物が開示されている。
特許文献2には、繊維層と繊維層上にコート層を有するシートが開示されている。該シートのコート層の表面には撥水性が付与されている。
特許文献3には、酸化スズゾルと親水性ゾルを含有する親水性コーティング剤が開示されている。該親水性ゾルの親水化剤の成分として、酸化チタン、セルロースナノファイバーが開示されている。
非特許文献1では、3級アミノ基含有アクリルモノマーによるセルロースナノファイバーの化学修飾が提案されている。CO2をトリガーとした濡れ性制御技術の油水分離膜への応用について検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-119073号公報
【特許文献2】特開2021-46658号公報
【特許文献3】特開2020-105274号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS Appl.Mater.Interfaces 2019,11,9367-9373.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に開示の機能性材料では、外的刺激をトリガーとすることで材料の表面の濡れ性を変化させることができない。
非特許文献1では、3級アミノ基含有アクリルモノマーによってセルロースナノファイバーを化学修飾することで、CO2をトリガーとした濡れ性のスイッチングが期待できることが示唆されている。しかし、本発明者の検討によれば、3級アミンによる修飾スキームは煩雑であり、実際に基材に塗膜を形成したときの製膜性に課題がある。
【0007】
本発明は、製膜性が良好であり、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる機能性材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]基材層と、3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースを含有する機能層と、を有し、前記機能層の表面の水接触角が、pH7の水で測定したとき70度以上であり、前記機能層の表面の水接触角が、pH2の水で測定したとき30度以下である、積層体。
[2]前記シラン変性ナノセルロースが、ナノセルロースと2種以上のアルコキシシランとの反応物である、[1]に記載の積層体。
[3]前記2種以上のアルコキシシランが、3級アミン構造を有するシラン化合物(A)と、アルキル基を有し、かつ、3級アミン構造を有さないシラン化合物(B)と、を含む、[2]に記載の積層体。
[4]前記シラン化合物(A)が、(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシランおよび(N,N-ジエチルアミノプロピル)トリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[3]に記載の積層体。
[5]前記シラン化合物(B)が、炭素数6~12のアルキル基を有する、[3]または[4]に記載の積層体。
[6]前記シラン化合物(A)と前記シラン化合物(B)のモル比MA/MBが、1.5以上である、[3]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]ナノセルロースが、セルロースナノクリスタルである、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記機能層の厚みが、10~1,000nmである、[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
[9]前記基材層が、樹脂フィルム、繊維状基材またはガラス製基材である、[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製膜性が良好であり、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる機能性材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語の意味は、以下の通りである。
「ナノセルロース」とは、セルロースを機械的処理または化学的処理によってナノレベルまで解砕したものである。「ナノセルロース」を含有することは、電子顕微鏡での観察、IR分光等によって判定できる。
「シラン変性ナノセルロース」とは、ナノセルロースとシランとの反応物、例えば脱水縮合反応物を意味する。「シラン変性ナノセルロース」を含有することは、XPS元素分析等によって判定できる。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
本明細書に開示の数値範囲は、その下限値および上限値を任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0011】
<積層体>
本発明の積層体は、基材層と機能層とを有する。該機能層は、3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースを含有する。本発明の積層体においては、機能層の表面の水接触角は、pH7の水で測定したとき70度以上である。かつ、機能層の表面の水接触角は、pH2の水で測定したとき30度以下である。そのため、本発明の積層体によれば、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる。また、積層体の機能層の製膜性は良好である。
【0012】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は本明細書に開示の実施形態に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【0013】
<基材層>
基材層の材料は、特に限定されない。一例において、基材層は樹脂フィルム、繊維状基材またはガラス製基材であってもよい。
【0014】
樹脂フィルムの非限定的な例としては、例えば、熱可塑性樹脂からなるフィルムが挙げられる。熱可塑性樹脂の非限定的な例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸;ポリウレタン;ポリ酢酸ビニル;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル;ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
樹脂フィルムは、化学的発泡、物理的発泡、延伸多孔化等の多孔化処理が行われた多孔質フィルムであってもよい。樹脂フィルムは、一軸延伸処理または二軸延伸処理が行われた延伸フィルムであってもよい。
【0015】
繊維状基材の非限定的な例としては、例えば、不織布、織布、編み物が挙げられる。繊維の非限定的な例としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維等の化学繊維;綿、麻、絹、羊毛、これらの混紡繊維等が挙げられる。
【0016】
基材層は単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。基材層が多層構造である場合の層構造は、2層構造でもよく、3層構造でもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。基材層が複数の層かからなる多層構造である場合は、複数の層は同一の樹脂で構成されていてもよいし、異なる樹脂で構成されていてもよい。
【0017】
基材層には、必要に応じて添加剤が配合されてもよい。例えば、耐候性を付与することを意図して紫外線吸収剤を基材層に配合することができる。他にも、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を意図して粒子を配合することができる。必要に応じて、従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料および顔料からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を基材層に配合することができる。
基材層の機能層が形成される表面には、コロナ処理、プラズマ処理または濡れ性を調整するためのコーティング処理等の表面処理を必要に応じて施してもよい。
【0018】
基材層の厚みは特に限定されないが、例えば、10~1,000nm、20~900nm、50~500nm等であり得る。
【0019】
<機能層>
機能層は、3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースを主材として含有する。ここで、「主材」とは、機能層を構成する材料のうち最も質量割合の高い材料の意味である。例えば主材が機能層を構成する材料に占める割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがいっそう好ましく、90質量%以上であることがよりいっそう好ましく、100質量%であってもよい。
【0020】
シラン変性ナノセルロースが3級アミン構造を有することは、FT-IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Ge-ATR」)で分析して確認できる。3級アミン構造による修飾前のナノセルロースと比較することで、赤外線吸収スペクトルの2,780cm-1付近の領域における3級アミン構造由来のピークにより確認できる。
【0021】
機能層は、3級アミン構造を有しないシラン変性ナノセルロースおよび未変性ナノセルロースからなる群から選択される少なくとも1種のナノセルロースをさらに含有してもよい。この場合、機能層を構成する材料に占める3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースの質量割合は、機能層を構成する材料に占める3級アミン構造を有しないシラン変性ナノセルロースおよび未変性ナノセルロースからなる群から選択される少なくとも1種ナノセルロースの質量割合よりも高いことが好ましい。
【0022】
機能層におけるシラン変性ナノセルロースとしては、ナノセルロースと2種以上のアルコキシシランとの反応物が好ましい。造膜性の点で好適な機能層は、ナノセルロースと、2種以上のアルコキシシランとを含む機能層形成用組成物から形成できる。
【0023】
(ナノセルロース)
ナノセルロースの非限定的な例としては、例えば、長い繊維状のセルロースナノファイバー(CNF)、高結晶性のセルロースナノクリスタル(CNC)が挙げられる。
ナノセルロースとしては、添加しても機能層形成用組成物の粘度が高くなりにくく、基材層への塗布時におけるハンドリング性が良好となる観点から、セルロースナノクリスタルが好ましい。
【0024】
ナノセルロースの平均繊維径は特に限定されないが、機能層の透明性を良好にする観点から0.1~100nmが好ましく、0.5~50nmがより好ましく、1~20nmがさらに好ましい。
また、ナノセルロースの平均繊維長は特に限定されないが、機能層の透明性を良好にする観点から1~1000nmが好ましく、5~500nmがより好ましく、10~200nmがさらに好ましい。
ナノセルロースの平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は特に限定されないが、1~500が好ましく、10~200がより好ましく、20~100がさらに好ましい。平均アスペクト比が前記数値範囲内であると、機能層形成用組成物が増粘しにくく、取扱性が良好になる。
ナノセルロースの平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比は、ナノセルロースの水分散液中、または機能層形成用塗布液中に分散した繊維を走査電子顕微鏡等で観察し、10個、好ましくは100個選択して測定した平均値より求めることができる。
【0025】
(アルコキシシラン)
好適例に係る機能層形成用組成物において、2種以上のアルコキシシランは3級アミン構造を有するシラン化合物(A)と、アルキル基を有し、かつ、3級アミン構造を有さないシラン化合物(B)とを含む。
【0026】
シラン化合物(A)は、3級アミン構造を有する。シラン化合物(A)は3級アミン構造およびアルコキシシラン基を有する化合物であれば、特に限定されない。シラン化合物(A)は、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシランのいずれであってもよいが、ジアルコキシシランおよびトリアルコキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、製膜性の観点からトリアルコキシシランがより好ましい。
シラン化合物(A)のアルコキシシラン基の非限定的な例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0027】
シラン化合物(A)の3級アミン構造は、N(R1AR2AR3A)で表すことができる。R1A、R2A、R3Aはそれぞれ独立に同一または異なったアルキル基またはアリール基である。
R1A
、R2A、R3Aの非限定的な例としては、例えば、炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基が挙げられる。アルキル基の非限定的な例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0028】
シラン化合物(A)の非限定的な例としては、例えば、(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、(N,N-ジエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、トリエトキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシラン、N,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロパン-1-アミンが挙げられる。
【0029】
シラン化合物(A)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
シラン化合物(B)は、3級アミン構造を有さず、かつ、アルコキシシラン基を有する化合物であれば特に限定されない。シラン化合物(B)は、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランのいずれであってもよいが、ジアルコキシシランおよびトリアルコキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0031】
シラン化合物(B)のアルコキシシラン基の非限定的な例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。ただし、シラン化合物(B)のアルコキシシラン基の炭素数は、シラン化合物(A)のアルコキシシラン基の炭素数と同じであることが好ましい。これらの炭素数が同じであれば、シラン化合物(A)およびシラン化合物(B)の間で加水分解の速度差が生じにくい。よって、製膜性がさらに良好となる。
【0032】
シラン化合物(B)におけるジアルコキシシランとしては、下記一般式(1)により表される化合物が好ましい。
【0033】
【0034】
式(1)において、R1およびR3はそれぞれ独立に炭素数1~12のアルキル基であり、R1とR3は互いに同じであっても異なっていてもよい。R2およびR4はそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R2とR4は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
シラン化合物(B)におけるジアルコキシシランの非限定的な例として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジメトキシメチル-n-オクチルシランが挙げられる。
【0036】
シラン化合物(B)におけるジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシランおよびジメトキシメチル-n-オクチルシランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
シラン化合物(B)におけるジアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
シラン化合物(B)におけるトリアルコキシシランとしては、下記一般式(2)により表される化合物が好ましい。
【0038】
【0039】
式(2)において、R5は炭素数1~12のアルキル基である。R6~R8はそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R6~R8は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0040】
シラン化合物(B)におけるトリアルコキシシランの非限定的な例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシランが挙げられる。
【0041】
シラン化合物(B)におけるトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシランおよびアリルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
シラン化合物(B)におけるトリアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
シラン化合物(B)におけるテトラアルコキシシランの非限定的な例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランが挙げられる。
シラン化合物(B)におけるテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランおよびテトラプロポキシシランからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
シラン化合物(B)におけるテトラアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
機能層形成用組成物は、シラン化合物(B)としてテトラアルコキシシランを含有することが好ましく、テトラエトキシシランおよびテトラメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することがより好ましい。
シラン化合物(B)としてテトラアルコキシシランを含有することで、機能層内の親水性基の割合が多くなるため、機能層の親水性をより良好にできる。
【0044】
シラン化合物(B)は、炭素数が6~12のアルキル基を有するシラン化合物(B1)および炭素数が1~5のアルキル基を有するシラン化合物(B2)を含む。これらのうち、疎水性を付与しやすい観点では、シラン化合物(B1)は好ましい。シラン化合物(B2)は、機能層の表面の親水性および疎水性のバランスを調整するために適宜、必要に応じて使用できる。
【0045】
シラン化合物(B1)のアルキル基の炭素数が前記数値範囲内の下限値以上であると、機能層の表面に疎水性を付与しやすい。該炭素数が前記数値範囲内の上限値以下であると、シラン化合物(B)の立体障害による被覆の影響をシラン化合物(A)に基づく3級アミン構造が受けにくい。よって、機能層の表面の濡れ性を変化させることができる積層体が得られやすい。
シラン化合物(B2)のアルキル基の炭素数が前記数値範囲内であると、機能層の表面に親水性を付与しやすい。
【0046】
シラン化合物(B1)としては、ジメトキシメチル-n-オクチルシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシランおよびアリルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0047】
シラン化合物(B2)としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシランおよびイソブチルトリエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0048】
シラン化合物(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(溶剤)
機能層形成用組成物は、溶剤をさらに含んでもよい。
溶剤として、ナノセルロースとアルコキシシランとの反応性および機能層形成用組成物の基材層への塗布性の観点から、水、アルコール、またはこれらの混合液(以下、これらをまとめて「水/アルコール系」とも称する)が好ましい。
【0050】
溶剤として水/アルコール系を用いる場合、水の割合は溶剤100質量%のうち15~75質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
水の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、機能層形成用組成物におけるナノセルロースの分散性がより良好になり、凝集しにくくなる。水の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、機能層形成用組成物におけるアルコキシシランの縮合反応をより制御しやすくなる。
【0051】
機能層形成用組成物は、pH調整のために塩基性物質をさらに含んでもよい。塩基性物質の非限定的な例として、アンモニアが挙げられる。
機能層形成用組成物のpHは、取扱性の観点から、7~12が好ましい。
【0052】
(機能層形成用組成物の組成)
機能層形成用組成物中のナノセルロースの含有量は、機能層形成用組成物の総量の10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。機能層形成用組成物中のナノセルロースの含有量が前記数値範囲内であると、機能層形成用組成物の塗布量を制御しやすく、粘度もより高くなりにくい。そのため、基材層への塗布時におけるハンドリング性がより良好となる。
【0053】
機能層形成用組成物中のアルコキシシランの含有量(シラン化合物(A)およびシラン化合物(B)を含有する場合は、その合計量)は、機能層形成用組成物の総量の10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。アルコキシシランの含有量が前記数値範囲内であると、機能層形成用組成物のポットライフおよび塗布方法の選択性がより良好となる。
【0054】
機能層形成用組成物がシラン化合物(A)およびシラン化合物(B)を含有する場合、3級アミン構造含有シラン化合物(A)の合計含有量は、シラン化合物(B)の合計含有量より多いことが好ましい。外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる積層体が得られやすいためである。
【0055】
機能層形成用組成物において、シラン化合物(A)とシラン化合物(B)のモル比MA/MBは特に限定されるものではないが、その下限は1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。該モル比MA/MBの上限は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5.0以下であることがさらに好ましい。MAは2種以上のアルコキシシランに含まれるシラン化合物(A)のモル数であり、MBは2種以上のアルコキシシランに含まれるシラン化合物(B)のモル数である。
【0056】
該モル比MA/MBが前記下限値以上であると、ナノセルロースに3級アミン構造を十分に導入できるため、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる積層体が得られやすい。
モル比MA/MBが前記上限値以下であると、2種以上のアルコキシシランとナノセルロースとの縮合および相分離を十分に進行させることができる。そのため、機能層の製膜性がより良好となる。
【0057】
機能層形成用組成物中のナノセルロースとアルコキシシランの含有質量比(アルコキシシラン/ナノセルロース)は、特に限定されないが、0.1~5.0であることが好ましく、0.2~2.5であることがより好ましい。該含有質量比が前記数値範囲内であると、ナノセルロースに3級アミン構造を十分に導入できる。そのため、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる積層体が得られやすい。加えて、アルコキシシラン同士の縮合反応によるゲル化がより起こりにくく、かつ、ナノセルロースとアルコキシシランの脱水縮合反応がより良好に進行するため、製膜性がより良好になる。
【0058】
機能層の表面の水接触角は、pH7の水で測定したとき70度以上であり、pH2の水で測定したとき30度以下である。pH7の水で測定したときの水接触角は疎水性付与の観点から75度以上が好ましく、90度以上がより好ましく、120度以上がさらに好ましい。pH2の水で測定したときの水接触角は親水性付与の観点から25度以下が好ましく、20度以下がより好ましく、10度以下がさらに好ましい。
機能層の表面の水接触角は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0059】
機能層の表面を二酸化炭素で処理した後の水接触角は、50度以下が好ましく、40度以下がより好ましく、30度以下がさらに好ましく、25度以下がよりさらに好ましい。
機能層の表面を二酸化炭素で処理した後の水接触角は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0060】
機能層の厚みは特に限定されないが、塗膜の強度をより良好にし、クラックを防ぐ観点から10~1,000nmが好ましく、50~500nmがより好ましく、100~300nmがさらに好ましい。
【0061】
<他の層>
積層体は、基材層および機能層以外の他の層をさらに有してもよい。他の層の位置としては、例えば、機能層と基材層との間、基材層の機能層とは反対側等があり得る。
他の層の非限定的な例としては、例えば、プライマー層、応力緩和層、基材と機能層との密着性を良好にする層が挙げられる。
【0062】
<積層体の製造方法>
以下、積層体の製造方法の代表例について説明する。
典型的な積層体の製造方法は、ナノセルロースとアルコキシシランとを含む機能層形成用組成物からなる塗布液を調製する塗布液調製工程と、該塗布液を基材層に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、該塗膜を加熱処理することでシラン変性ナノセルロースを含有する機能層を得る、加熱処理工程と、を含む。
積層体の製造において、上記の各以外の他の処理乃至工程を任意に追加することは可能である。
【0063】
「工程」とは、一連の製造ラインで行うものであっても、一連の製造ラインで行うものでなくてもよい。また、一つの工程における処理が断続的に行われていてもよく、その際、時間をおいたり、装置を変えたり、場所を変えたりして断続的に行うものであってもよい。また、他の工程と一連の製造ラインで行うものであってもよい。すなわち、同一装置で複数の工程を行うものであってもよい。
【0064】
塗布液調製工程では、ナノセルロースとアルコキシシランを溶剤中で混合することで、機能層形成用組成物からなる塗布液を調製する。
機能層形成用組成物の詳細および好ましい態様は、前述の通りである。
【0065】
塗布液中におけるナノセルロースの分散性を上げる観点から、ナノセルロースを溶剤に分散させてからアルコキシシランを添加する方法が好ましい。pH調整を行う場合は、本工程において塩基性物質を添加することが好ましい。
【0066】
ナノセルロースとアルコキシシランを混合した後、反応性を高めるために加熱を行ってもよい。ナノセルロースとアルコキシシランを混合しただけでも反応するが、加熱によりナノセルロースとアルコキシシランの反応を促進することができる。
【0067】
ナノセルロースとアルコキシシランの反応の際の加熱温度および加熱時間は、ナノセルロースとアルコキシシランの反応が進行する条件であればよく、特に限定されない。加熱温度は30~80℃であることが好ましく、40~70℃であることがより好ましい。加熱時間は30秒~2時間であることが好ましく、30分~1.5時間であることがより好ましく、30分~1時間であることがさらに好ましい。
ナノセルロースとアルコキシシランの反応の後、未反応のシラン反応をより進めるために、室温で1~7日養生してもよい。
【0068】
2種以上のシラン化合物(B)を用いる場合、先に2種以上のシラン化合物(B)とナノセルロースとを反応させた後に、3級アミン構造を有するシラン化合物(A)を混合することが好ましい。2種以上のシラン化合物(B)よりも後に、3級アミン構造を有するシラン化合物(A)をナノセルロースと反応させることで、2種以上のシラン化合物(B)の立体障害による被覆の影響をシラン化合物(A)に基づく3級アミン構造が受けにくい。よって、機能層の表面の濡れ性を変化させることができる積層体が得られやすい。
【0069】
塗膜形成工程では、塗布液を基材層に塗布して塗膜を形成する。
塗布液を基材層に塗布する方法は公知の方法であってよく、例えば、コンマコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップ法、スライドコート法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法が挙げられる。
【0070】
塗膜の厚みは特に限定されないが、10~1,000nmが好ましく、50~500nmがより好ましく、100~300nmがさらに好ましい。塗膜の厚みが前記数値範囲内の下限値以上であると、塗布時の制御が容易になる。塗膜の厚みが前記数値範囲内の上限値以下であると、乾燥およびアルコキシシラン縮合時の収縮によるクラックが起こりにくくなる。
【0071】
加熱処理工程では、加熱処理によって塗膜を乾燥させ、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層を形成する。
【0072】
乾燥方法は、特に限定されず、加熱乾燥でもよく、自然乾燥でもよい。
乾燥温度および乾燥時間は、塗膜から溶剤が除去され、かつ、アルコキシシランの脱水縮合が良好に進行する条件であればよく、特に限定されない。乾燥温度は60~150℃であることが好ましく、80~120℃であることがより好ましい。乾燥時間は30秒~5時間であることが好ましく、30分~3時間であることがより好ましく、30分~2時間であることがさらに好ましい。
【0073】
<作用効果>
以上説明した積層体においては、機能層の表面の水接触角がpH7の水で測定したとき70度以上であり、pH2の水で測定したとき30度以下であるため、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる。
【0074】
機能層が3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースを含有するため、二酸化炭素やpH等の外的刺激をトリガーとした濡れ性のスイッチングが可能となる。スイッチングに際しては、二酸化炭素をリソースとして利用できるため、種々の二酸化炭素関連プロセスに適用され得る。
本発明の積層体によれば、再生可能な天然資源であるセルロースを有効に利用できる。また、ナノセルロースのシリル化変性および汎用的なコーティングプロセスによって機能層を形成できる。
【0075】
<用途>
積層体は、機能層に3級アミン構造を有するため、外的刺激をトリガーとすることで表面の濡れ性を変化させることができる。
機能層の表面の水接触角は、pH7の水で測定したとき70度以上である。そのため、外的刺激によって機能層の表面を相対的に塩基性条件に近づけるほど、機能層の表面の濡れ性をより疎水性にすることができる。この場合、低タンパク吸着性、油水分離性等を積層体に付与できる。
【0076】
一方、機能層の表面の水接触角は、pH2の水で測定したとき30度以下である。そのため、外的刺激によって機能層の表面を相対的に酸性条件に近づけるほど、機能層の表面の濡れ性をより親水性にすることができる。この場合、イオン吸着性等を積層体に付与できる。かかる積層体はセルフクリーニングが必要とされるガラス表面、樹脂シートに好適である。
【0077】
また、積層体は、二酸化炭素をトリガーとして濡れ性を変化させることができる。そのため、油水分離膜、センシング、パターニング、超臨界二酸化炭素を用いた分離・精製プロセスとの併用などに好適である。
【0078】
積層体の用途の非限定的な例としては、例えば、各種パネル用ガラス、太陽光発電パネル全面板、採光建材が挙げられる。
【実施例0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0080】
<略称>
(ナノセルロース)
・CNC:セルロースナノクリスタル(Cellufoce社製品「NCV-100」)
【0081】
(シラン化合物(A))
・DMAPS:(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン
【0082】
(シラン化合物(B))
・MTMS:メチルトリメトキシシラン
・PTMS:プロピルトリメトキシシラン
・HTMS:n-ヘキシルトリメトキシシラン
・DDTMS:ドデシルトリメトキシシラン
・HDTMS:ヘキサデシルトリメトキシシラン
・HTES:ヘキシルトリエトキシシラン
・TEOS:テトラエトキシシラン
【0083】
<実施例1>
CNC:1.00gをイオン交換水:70.00g中に分散させた後、30%出力、3分の条件でヤマト科学社製品「LUH300」を用いて超音波処理を行うことで、水分散液を得た。この水分散液にエタノール:130g、DMAPS:0.97g、DDTMS:0.34gを加えた。DMAPS/DDTMSのモル比は、4.0である。
その後、pH調整剤として25質量%のアンモニア水溶液:0.17gを添加し、pHを10.5に調整した。室温(25℃)で1時間、300rpmの条件にてマグネットスターラーを用いて撹拌した。次いで、室温(25℃)にて1日養生することで、ナノセルロースのシラン変性処理を実施し、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用樹脂組成物(A-1)を得た。
次いで、機能層形成用組成物(A-1)をガラス基材上に2mL滴下し、スピンコーター(アクティブ社製「ACT-400A II」)を用いて400rpm、1分の条件で塗布した。得られた塗膜を100℃2時間で熱処理することで乾燥し、厚みが127nmの機能層を有するセルロース含有積層体1を得た。
【0084】
<実施例2>
実施例1においてDMAPSの使用量を1.05gに変更し、DDTMSの代わりに、HTMS:0.26gを水分散液に添加したこと以外は、実施例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施することで、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用組成物(A-2)を得た。DMAPS/HTMSのモル比は、4.0である。
次いで、機能層形成用組成物(A-2)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でセルロース含有積層体2を得た。
【0085】
<実施例3>
実施例2においてDMAPSの使用量を0.69gに変更し、HTMSの使用量を0.46gに変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施することで、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用組成物(A-3)を得た。DMAPS/HTMSのモル比は、1.5である。
次いで、機能層形成用組成物(A-3)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でセルロース含有積層体3を得た。
【0086】
<比較例1>
実施例1においてDMAPSの使用量を1.12gに変更し、DDTMSの代わりにMTMS:0.18gを水分散液に添加したこと以外は、実施例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施することで、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用組成物(A-4)を得た。DMAPS/MTMSのモル比は、4.0である。
次いで、機能層形成用組成物(A-4)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でセルロース含有積層体4を得た。
【0087】
<比較例2>
実施例1においてDMAPSの使用量を1.09gに変更し、DDTMSの代わりにPTMS:0.22gを水分散液に添加したこと以外は、実施例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施することで、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用組成物(A-5)を得た。DMAPS/PTMSのモル比は、4.0である。
次いで、機能層形成用組成物(A-5)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でセルロース含有積層体5を得た。
【0088】
<比較例3>
実施例1においてDMAPSの使用量を0.92gに変更し、DDTMSの代わりにHDTMS:0.18gを水分散液に添加したこと以外は、実施例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施することで、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用組成物(A-6)を得た。DMAPS/HDTMSのモル比は、4.0である。
次いで、機能層形成用組成物(A-6)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でセルロース含有積層体6を得た。
【0089】
<比較例4>
実施例1においてDMAPSの使用量を0.46gに変更し、HTMSを0.69g水分散液に添加したこと以外は、実施例1と同じ方法でナノセルロースのシラン変性処理を実施することで、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用組成物(A-7)を得た。DMAPS/HTMSのモル比は、0.7である。
次いで、機能層形成用組成物(A-7)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でセルロース含有積層体7を得た。
【0090】
<実施例4>
CNC:1.00gをイオン交換水70.00g中に分散させ、30%出力、3分の条件でヤマト科学社製品「LUH300」を用いて超音波処理を行うことで、水分散液を得た。水分散液にエタノール:130g、TEOS:0.26g、HTES:0.24gを加えた。HTES/TEOSのモル比は、0.8である。
その後、pH調整剤として25質量%のアンモニア水溶液:0.17gを添加し、pHを10.5に調整した。室温(25℃)で1時間、300rpmの条件にてマグネットスターラーを用いて撹拌した。次いで、室温(25℃)にて1日養生した後、当該溶液にDMAPS:0.46gを添加し、2時間、300rpmにて再度マグネットスターラーを用いて撹拌し、シラン変性ナノセルロースを含有する機能層形成用樹脂組成物(A-8)を得た。
次いで、機能層形成用組成物(A-8)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でセルロース含有積層体8を得た。
【0091】
<測定方法、評価方法>
(機能層製膜性)
各例のセルロース含有積層体の表面の膜の均一性を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。
A:均一な膜を形成した。
B:部分的に膜の欠陥があった。
C:全面に膜の欠陥があった。
【0092】
(機能層の厚み)
各例のセルロース含有積層体を厚さ方向に切断したときの切断面を走査型白色干渉顕微鏡(菱化システム社製品「VertScan(登録商標)」)を用いて観察し、機能層の厚みを計測した。
【0093】
(pH変化による水接触角のスイッチング)
各例のセルロース含有積層体について、接触角計(協和化学株式会社製品「Drop Master500」)を用いて、機能層表面の水接触角を測定した。測定条件は、23℃、50%RHとした。水滴体積は10μLとした。pHが7の水滴による測定においては、水滴滴下1秒後に水接触角の測定を開始した後、測定開始後1秒後の測定値を採用した。pHが2の水滴による測定においては、水滴滴下1秒後に水接触角の測定を開始した後、測定開始後60秒後の測定値を採用した。
【0094】
(二酸化炭素処理による水接触角スイッチング)
450mLガラス瓶にイオン交換水50mLを加え、二酸化炭素ガス5Lを用いてバブリング処理を実施した。二酸化炭素ガスを溶解させた水に、積層体を室温で1時間浸漬させた後、積層体表面の水分を二酸化炭素ガスにより除去、乾燥させた。その後、接触角計(協和化学株式会社製品「Drop Master500」)を用いて、機能層表面の水接触角を測定した。測定条件は、23℃、50%RHとした。水滴体積は10μLとし、pHが7の水滴で、水滴滴下1秒後に測定を開始したときの測定開始後1秒後の測定値を採用した。
【0095】
<結果>
機能層製膜性、機能層の厚み、水接触角の結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
実施例1~3では、pHによって濡れ性が制御可能な積層体を作製できた。また、実施例2では、二酸化炭素によっても濡れ性が制御可能であることが確認できた。実施例1、3も3級アミン構造を有するシラン変性ナノセルロースを含有しており、かつ、3級アミノ基が被覆されにくい構造であることから、実施例2と同様に、二酸化炭素によって濡れ性が制御可能であると考えられる。
比較例1、2では、シラン化合物(B)のアルキル基の炭素数が小さいため、3級アミノ基が表面を被覆した結果、pH7での水接触角が高くならなかったと考えられる。
比較例3では、シラン化合物(B)のアルキル基の炭素数が大きいため、3級アミノ基が被覆された結果、pH2での水接触角が低くならなかったと考えられる。
比較例4では、3級アミン構造含有シラン化合物(A)よりもシラン化合物(B)の量が多いため、pHに対する応答性が低かったと考えられる。また、比較例4は、二酸化炭素によっても水接触角の変化が小さく、応答性が低かった。
実施例4では、複数種のシランを用いて、かつ逐次シランを縮合させることでも、pHによって濡れ性が制御可能な積層体を作製できた。また、実施例4は、二酸化炭素によっても濡れ性が制御可能であることが確認できた。