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特開2024-135259摩擦試験分析装置、摩擦試験分析方法及び摩擦試験分析用基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135259
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】摩擦試験分析装置、摩擦試験分析方法及び摩擦試験分析用基材
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20240927BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N21/552
G01N21/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045860
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田巻 匡基
(72)【発明者】
【氏名】森 誠之
(72)【発明者】
【氏名】七尾 英孝
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059DD11
2G059EE02
2G059HH01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】摩擦環境下において、液体中に含まれる化合物の吸着挙動を高感度で分析し得る、摩擦試験分析装置、摩擦試験分析方法及び摩擦試験分析用基材提供する。
【解決手段】分析用基材1、分析機器2及び摩擦試験機器3を備え、液体中に含まれる化合物を分析する分析装置であって、分析用基材が、ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有しており、平面には複数の凹部が配置され、かつ凹部に金属が埋設されるものであり、分析機器が、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により、分析用基材が有する金属の表面に吸着した化合物を分析する機器であり、摩擦試験機器は、テストピース3a及びテストピースを回転駆動させる駆動冶具3bを備え、駆動冶具は、テストピースを、分析用基材の凹部を有する平面に対して接するように押圧しながら回転駆動する、摩擦試験分析装置10である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用基材、分析機器及び摩擦試験機器を備え、液体中に含まれる化合物を分析する分析装置であって、
前記分析用基材が、ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有しており、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設されるものであり、
前記分析機器が、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により、前記分析用基材が有する前記金属の表面に吸着した前記化合物を分析する機器であり、
前記摩擦試験機器は、テストピース及び前記テストピースを回転駆動させる駆動冶具を備え、
前記駆動冶具は、前記テストピースを、前記分析用基材の前記凹部を有する前記平面に対して接するように押圧しながら回転駆動する、
摩擦試験分析装置。
【請求項2】
前記分析用基材が、板形である請求項1に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項3】
前記分析用基材が、半球形である請求項1に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項4】
前記ATR結晶が、シリコンである請求項1~3のいずれか1項に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項5】
前記金属が、金、銀、銅、白金、鉄及びニッケルから選ばれる少なくとも一種である請求項1~4のいずれか1項に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項6】
前記金属の厚さが、5nm以上100nm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項7】
前記凹部が、平面視の形状として三角形、四角形、楕円形及び円形から選択される一の形状を有し、かつパターン状に配置される請求項1~6のいずれか1項に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項8】
前記テストピースが、円板形、円柱形、球形及び楕円球形から選択される形状である請求項1~7のいずれか1項に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項9】
前記液体が、前記化合物を含む潤滑油組成物である請求項1~8のいずれか1項に記載の摩擦試験分析装置。
【請求項10】
液体中に含まれる化合物を分析する分析方法であって、
金属の表面に吸着した前記化合物を、摩擦試験をしながらATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により分析する、
摩擦試験分析方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の分析装置を用いて分析する、請求項10に記載の摩擦試験分析方法。
【請求項12】
ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有し、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設される摩擦試験分析用基材。
【請求項13】
前記凹部が、平面視の形状として三角形、四角形、楕円形及び円形から選択される一の形状を有し、かつ前記平面上に等間隔で配置されてパターン状に存在する請求項12に記載の摩擦試験分析用基材。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載の分析装置に用いられる請求項12又は13に記載の摩擦試験分析用基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦試験分析装置、摩擦試験分析方法及び摩擦試験分析用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から材料の摩擦に関する分析が広く行われており、中でも金属間の摩擦に関する分析は、潤滑油組成物の開発に寄与するものとなる。潤滑油組成物には様々な添加剤が添加されており、添加剤の金属表面に対する吸着及び脱着の挙動により、潤滑油組成物の潤滑性能が左右するといえる。そのため、潤滑油組成物への要求性能に対して、どのような添加剤を用いるのかの検討にあたり、添加剤の金属表面に対する吸着及び脱着の挙動を把握することは極めて重要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、ATR-SEIRAS法(Attenuated Total Reflection-Surface Enhanced Infrated Absorption Spectroscopy:減衰全反射-表面増強赤外分光法)を採用することで、液体中に含まれる吸着性化合物の金属表面に対する吸着及び脱離挙動を詳細に観察できる分析方法が記載されている。また、特許文献2には、高分子膜や半導体等の表面分析、水溶液等の著しく赤外光を吸収する試料の分析において採用される全反射測定法(ATR法)において、コンパクトに構成でき、かつ試料の密着状態を確実に可視観察でいるように構成された全反射吸収スペクトル測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-177657号公報
【特許文献2】特開2017-181049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、産業の発達に伴い、材料の摩擦に関する要求性能は日々厳しくなっていることから、液体中に含まれる化合物の挙動、例えば上記潤滑油組成物に用いられる様々な添加剤の挙動について、より使用実態に即しており、かつより高感度な分析が求められるようになっている。
潤滑油組成物の場合であれば、金属と金属とが接する摩擦面の潤滑に用いられるものであることから、潤滑油組成物中の化合物、すなわち添加剤の当該摩擦面における挙動を把握することが必要となる。しかし、上記特許文献1に記載される分析方法では、摩擦試験を伴うものではないため、摩擦面における挙動を観察できるものではない。また、上記特許文献2に記載される測定装置も、摩擦試験を行えるものではないため、摩擦面における挙動を観察できるものではない。よって、これらの分析方法、測定装置では、使用実態に即した環境下における、潤滑油組成物の挙動、さらには潤滑油組成物に用いる添加剤の挙動を把握することができない。そのため、実際に使用したところ、これらの分析方法、測定装置により分析した結果と異なる挙動が生じることで、機器の損傷等の問題が生じるという懸念がある。
また、特許文献2に記載される測定装置は、表面増強赤外分光法による測定ができないため、より高感度な分析に対応できないという問題が生じるようになっている。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、摩擦環境下において、液体中に含まれる化合物の吸着挙動を高感度で分析し得る、摩擦試験分析装置、摩擦試験分析方法及び摩擦試験分析用基材提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の構成を有する摩擦試験分析装置、摩擦試験分析方法及び摩擦試験分析用基材を提供するものである。
【0008】
1.分析用基材、分析機器及び摩擦試験機器を備え、液体中に含まれる化合物を分析する分析装置であって、
前記分析用基材が、ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有しており、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設されるものであり、
前記分析機器が、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により、前記分析用基材が有する前記金属の表面に吸着した前記化合物を分析する機器であり、
前記摩擦試験機器は、テストピース及び前記テストピースを回転駆動させる駆動冶具を備え、
前記駆動冶具は、前記テストピースを、前記分析用基材の前記凹部を有する前記平面に対して接するように押圧しながら回転駆動する、
摩擦試験分析装置。
2.液体中に含まれる化合物を分析する分析方法であって、
金属の表面に吸着した前記化合物を、摩擦試験をしながらATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により分析する、
摩擦試験分析方法。
3.ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有し、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設される摩擦試験分析用基材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、摩擦環境下において、液体中に含まれる化合物の吸着挙動を高感度で分析し得る、摩擦試験分析装置、摩擦試験分析方法及び摩擦試験分析用基材提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の摩擦試験分析装置の模式図である。
図2】分析用基材の構成及び凹部の形状を説明するための分析用基材の模式図である。
図3】分析用基材の凹部の配置を説明するための模式図である。
図4】実施例で用いた分析用基材の表面のSEM画像である。
図5】実施例1で測定した吸収スペクトルである。
図6】比較例2で測定した吸収スペクトルである。
図7】実施例1で測定した吸収スペクトルの面積と比較例2で測定した吸収スペクトルの面積の差をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。また、好ましいとされている規定は任意に採用することができる。即ち、好ましいとされている一の規定を、好ましいとされている他の一又は複数の規定と組み合わせて採用することができる。好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
【0012】
[摩擦試験分析装置]
本実施形態の摩擦試験分析装置は、
分析用基材、分析機器及び摩擦試験機器を備え、液体中に含まれる化合物を分析する分析装置であって、
前記分析用基材が、ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有しており、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設されるものであり、
前記分析機器が、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により、前記分析用基材が有する前記金属の表面に吸着した前記化合物を分析する機器であり、
前記摩擦試験機器は、テストピース及び前記テストピースを回転駆動させる駆動冶具を備え、
前記駆動冶具は、前記テストピースを、前記分析用基材の前記凹部を有する前記平面に対して接するように押圧しながら回転駆動する、
というものである。
【0013】
本実施形態の摩擦試験分析装置は、摩擦試験機器として、テストピース及び前記テストピースを回転駆動させる駆動冶具を備えるものを採用することで、摩擦環境下という、使用実態に即した環境下に、潤滑油組成物中に含まれる化合物、すなわち添加剤を供することができる。そのため、使用環境下における化合物の挙動を正確に把握することができる。
【0014】
本実施形態の摩擦試験分析装置は、分析機器としてATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により分析する機器を採用する。ここで、ATR法(全反射吸収法)は、測定対象となる化合物と、分析用基材のATR結晶と、が接する際の接触面において赤外光が全反射する際に、測定対象の表面近傍に光が吸収されて反射する現象を利用したものであり、全反射する光から測定対象の吸収スペクトルを測定する方法である。また、SEIRAS(表面増強赤外吸収分光)は、金、銀、銅、白金、鉄、ニッケル等の金属からなる金属薄膜上に吸着した測定対象の分子の赤外吸収強度を通常の100倍程度まで増強させる手法である。
本実施形態の摩擦試験分析装置において採用するATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)は、ATR法(全反射吸収法)に、SEIRAS(表面増強赤外吸収分光)の手法を適用することで、従来の全反射吸収法(ATR法)だけでは把握し得なかった、液体中に含まれる化合物の、金属表面における吸着挙動を詳細に観察することができ、高感度で分析することが可能となる。
【0015】
本実施形態の摩擦試験分析装置において、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)を採用し、金属表面における吸着挙動を詳細に観察し、高感度に分析できることは、より具体的には以下の現象によるものである。
本実施形態の摩擦試験分析装置では、測定対象となる化合物を、テストピースと、当該テストピースを回転駆動させて摩擦するように押圧する分析用基材が有する平面の凹部に埋設される金属表面と、の間の摩擦面に存在させることができる。これにより、当該摩擦面の近傍に存在する金属表面上に吸着した測定対象の赤外吸収強度を増強し、分析用基材を形成するATR結晶を経由して全反射する赤外光の吸収スペクトルを測定することができる。ここで、赤外吸収強度が増強されているため、高感度に分析することが可能となる。
【0016】
本実施形態の摩擦試験分析装置について、模式図を用いながら詳細を説明する。図1は、本実施形態の摩擦試験分析装置の模式図である。図1に示される摩擦試験分析装置10は、分析用基材1、分析機器2及び摩擦試験機器3を備えている。
分析用基材1が、ATR結晶1a及び金属1bにより構成され、その一部に複数の凹部が配置された平面を有しており、当該凹部に金属1bが埋設されており、分析機器2は、摩擦試験機器3のテストピース3aと接する分析用基材1の摩擦面に赤外光を集光させて、当該摩擦面からの全反射光の吸収スペクトルを測定し得ることが示されている。また、摩擦試験機器3は、テストピース3aと駆動冶具3bとを備えていることが示されており、図1では省略しているが、テストピース3aを分析用基材1の金属1bが埋設される平面に対して接するように押圧する押圧冶具も備えるものである。
【0017】
〔分析用基材〕
分析用基材について、図2を用いながら説明する。
図2は、分析用基材の構成及び凹部の形状を説明するための模式図である。本実施形態の装置で用いられる分析用基板は、典型的には図2に示されるような構成、すなわちATR結晶1a及び金属1bにより構成され、ATR結晶1aが一部に平面を有しており、当該平面には複数の凹部が配置され、かつ当該凹部に金属1bが埋設されるような構成を有している。
【0018】
(ATR結晶)
分析用基材を構成するATR結晶としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ダイヤモンド、サファイア、溶融石英、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化マグネシウム、セレン化亜鉛等の結晶が挙げられ、中でもシリコン(Si)が好ましい。ATR結晶が有する平面に、複数の凹部を形成しやすく、また当該凹部に金属を埋設しやすいため、分析用基材を作製しやすいからである。また、安価である。
【0019】
(金属)
分析用基材を構成する金属としては、金、銀、銅、白金、鉄、ニッケル等が好ましく挙げられ、中でも金が好ましい。これらの金属を用いることで、赤外光の集光がより容易となり、またこれらの金属は、その表面に化合物が吸着しやすいことから、より安定して高感度な分析を行うことができる。
【0020】
(凹部の形状について)
分析用基材の平面には、複数の凹部が配置されていることを要する。複数の凹部がないと、分析用基材の金属部分とテストピースとを接触させることが困難となり金属の表面に吸着した化合物を分析しにくくなり、また赤外光の集光が困難となるため、安定した分析が困難となる。
【0021】
分析用基材の平面における凹部の形状としては、金属を埋設できれば特に制限はなく、例えば平面視の形状として三角形(正三角形、二等辺三角形、直角三角形等)、四角形(正方形、長方形、台形等)、五角形、六角形等の多角形、楕円形、円形等が挙げられ、凹部の形成のしやすさを考慮すると、三角形、四角形、楕円形及び円形が好ましく、正三角形、正方形、円形がより好ましく、正方形、円形が更に好ましい。
凹部の断面視の形状としては、正方形、長方形、台形等の四角形、二等辺三角形、正三角形等の三角形、またこれらの形状に準ずる形状、例えばU字型等が挙げられる。中でも、正方形、長方形が好ましい、すなわち凹部の形状としては、後述する角柱、円柱が好ましい。
【0022】
例えば、凹部の形状が四角柱である凹部(凹部の平面視及び断面視の形状が四角形である。)を形成しようとしても、作製精度等の要因により直線部を加工しようとしても曲線となり、結果として凹部の平面視の形状が四角形の角がとれて円形又は楕円形に近い形状となる、また断面視の形状が四角形の角がとれてU字型に近い形状となる場合があり、結果として四角柱の角がとれた四角錘台に近い形状となる場合がある。本明細書においては、意図的に凹部の断面視の形状をU字型とするような場合を除き、作製精度等により結果としてU字型となるような場合は、四角形として扱う、すなわち凹部の形状は四角柱であるとして扱うこととする。
【0023】
本実施形態の装置においては、凹部の形状は全て同じであってもよいし、複数種を組み合わせてもよい。金属の表面に吸着した化合物をより安定して高感度な分析を行うこと、凹部の形成のしやすさ等を考慮すると、凹部の形状は全て同じであることが好ましい。
【0024】
凹部の形状として、平面視の形状が多角形の場合は角柱体、角錐台、錐体等の形状をとり得るが、金属の表面に吸着した化合物をより安定して高感度な分析を行うことを特に考慮すると、凹部の底面が平面を有していることが好ましく、角柱(三角柱、四角柱、六角柱等)、角錐台(三角錘台、四角錘台、六角錘台等)が好ましく、角柱(三角柱、四角柱、六角柱等)がより好ましい。なお、角柱の場合は、上記凹部の断面視の形状は正方形、長方形等の四角形となり、角錐台の場合は台形、錐体の場合は二等辺三角形等の三角形となる。
【0025】
また、楕円形、円形の場合は円柱(楕円柱、円柱)、円錘台(楕円錐台、円錐台)、また錐体(楕円錘、円錐)等の形状をとり得るが、多角形の場合と同様に、円柱(楕円柱、円柱)、円錐台(楕円錐台、円錐台)が好ましく、円柱(楕円柱、円柱)がより好ましい。
なお、作製精度等を要因とする場合の凹部の形状の取扱いについては、上記の凹部の平面視及び断面視の形状についての説明で説明したとおりである。
【0026】
分析用基材の平面における複数の凹部は、不規則に配置されてもよいし、パターン状に配置されていてもよいが、より安定して高感度な分析を容易に行うこと、凹部の形成のしやすさ等を考慮すると、パターン状に配置されていることが好ましい。
また、これと同様の観点から、複数の凹部は等間隔で配置されてパターン状に存在することが好ましい。
【0027】
分析用基材の平面における複数の凹部の配置について、図3を用いて説明する。図3には、分析用基材の平面における複数の凹部の配置の一例が示されている。
図(3-1a)~(3-1c)は、凹部の形状が平面視の形状として四角形の場合の配置である。例えば、図(3-1a)、(3-1c)及び(3-2a)のように、各凹部の中心点をむすぶと正方形又は長方形の格子を形成するパターン、また、図(3-1b)及び(3-2b)のように、各凹部の中心点をむすぶと正三角形の格子を形成するパターン等が代表的に好ましく挙げられる。また、図3には示されていないが、各凹部の中心点をむすぶと二等辺三角形、六角形の格子を形成するパターン(六角形の格子は、例えば図3-1b)において、上から二列目の左から2番目及び4番目の凹部がなくなった場合が該当する。)等も好ましく挙げられる。また、図(3-1c)のように、縦方向の凹部と凹部との間の距離w’と、横方向の凹部と凹部との間の距離w’’とが異なっていてもよいし、図(3-1a)及び(3-1b)のように同じであってもよい。
【0028】
凹部の幅(w)としては、装置の規模、分析用基材及びテストピースの大きさ等に応じてかわり得るため一概にはいえないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、より好ましくは0.20μm以上であり、上限としては、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.3μm以下、更に好ましくは1.1μm以下である。上記範囲内であると、凹部を形成しやすく、またより安定して高感度な分析を行うことができる。
【0029】
凹部の深さ(d)としては、装置の規模、分析用基材及びテストピースの大きさ等に応じてかわり得るため一概にはいえないが、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、より好ましくは0.04μm以上であり、上限としては、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下、更に好ましくは0.08μm以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、0.01μm以上0.2μm以下、0.02μm以上0.1μm以下、0.04μm以上0.08μm以下等の組合せが典型的に挙げられる。上記範囲内であると、凹部を形成しやすく、またより安定して高感度な分析を行うことができる。
【0030】
凹部のアスペクト比(幅(w)/深さ(d))としては、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上であり、上限として好ましくは8.0以下、より好ましくは7.0以下、更に好ましくは5.5以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、1.0以上8.0以下、1.1以上7.0以下、1.2以上5.5以下等の組合せが典型的に挙げられる。上記範囲内であると、凹部を形成しやすく、またより安定して高感度な分析を行うことができる。
【0031】
また、隣接する凹部間の距離(w)としては、装置の規模、分析用基材及びテストピースの大きさ等に応じてかわり得るため一概にはいえないが、0.005μm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.10μm以上、更に好ましくは0.15μm以上であり、上限としては、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.90μm以下、更に好ましくは0.80μm以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、0.01μm以上1.0μm以下、0.10μm以上0.90μm以下、0.15μm以上0.80μm以下等の組合せが典型的に挙げられる。上記範囲内であると、凹部を形成しやすく、またより安定して高感度な分析を行うことができる。
【0032】
凹部の形状及び寸法、また隣接する凹部間の距離は、同じでも異なっていてもよいが、より安定して高感度な分析を行う観点から、同じであることが好ましい。これと同様の観点から、凹部の寸法、また隣接する凹部間の距離が異なる場合は、凹部の寸法、隣接する凹部間の距離は、全て上記数値範囲内にあることが好ましい。
また、隣接する凹部間の距離は、凹部の形状によってかわり得る。本明細書では、最も近接する箇所の距離を、隣接する凹部間の距離とする。
【0033】
以上より、本実施形態の装置に用いられる分析用基材の平面における複数の凹部は、特にパターン状に設けられ、かつ凹部の形状は四角形であることが好ましく、中でも四角形の形状を有する凹部が格子状に配置されていることが好ましい。
【0034】
(金属の形状について)
金属の形状は、金属が上記ATR結晶の平面に配置される複数の凹部に埋設されることから、平面視における形状は凹部の形状と同じである。
凹部に埋設される金属の厚さとしては、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、更に好ましくは10nm以上であり、上限として好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは30nm以下、より更に好ましくは15nm以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、5nm以上100nm以下、8nm以上50nm以下、10nm以上30nm以下、10nm以上15nm以下等の組合せが典型的に挙げられる。金属の厚さが上記範囲内であると、赤外光の集光がより容易となり、金属の表面に吸着した化合物をより安定して高感度な分析を行うことができる。また、金属を凹部に埋設するように形成することがより容易となる。
【0035】
(分析用基材の形状について)
分析用基材の形状、すなわち分析用基材の構成に用いられるATR結晶の形状としては、複数の凹部を形成し得る平面を一部にさえ有していれば特に制限はなく、例えば板形、半球形、半円筒、三角柱、四角柱、また三角錘台、四角錘台、円錐台等の各種錘台等が挙げられる。中でも、板形、半球形が好ましい。摩擦面への赤外光の集光及び全反射光の吸収スペクトルの測定がしやすいことから、高感度な分析が行いやすく、また取扱いが容易である。
【0036】
分析用基材の大きさとしては、装置の規模、テストピースの大きさ等に応じてかわり得るため一概にはいえないが、例えば板形である場合は、縦及び横の長さとしては、好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上、更に好ましくは15mm以上であり、上限として好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下、更に好ましくは30mm以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、5mm以上50mm以下、10mm以上40mm以下、15mm以上30mm以下等の組合せが典型的に挙げられる。凹部を形成しやすく、またより安定して高感度な分析を行うことができ、取扱いも容易である。
また、これと同様の観点から、厚さとしては、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、更に好ましくは2mm以上であり、上限として好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下、更に好ましくは10mm以下、より更に好ましくは5mm以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、0.5mm以上20mm以下、1mm以上15mm以下、2mm以上10mm以下、2mm以上5mm以下等の組合せが典型的に挙げられる。
【0037】
分析用基材が半球形の場合、直径としては、上記板形の縦及び横の長さとして説明した数値範囲内であることが好ましい。
また、分析用基材が半円筒の場合、その四角形の底面の縦及び横の長さについては、横の長さ(半円の直径と同じである。)は上記板形の厚さとして説明した数値範囲内であることが好ましく、縦の長さは、上記板形の縦及び横の長さとして説明した数値範囲内であることが好ましい。
【0038】
(分析用基材の製造)
分析用基材の作製は、例えば、ATR結晶の平面に、複数の凹部を形成する凹部形成工程、及び複数の凹部に金属を埋設する金属埋設工程を経て製造することができる。その一例について、より具体的に説明する。
【0039】
凹部形成工程は、例えば以下の方法により行うことができる。
複数の凹部の形成は、平面を有するATR結晶を用意し、当該表面に電離放射線硬化性樹脂等を含むレジスト組成物を塗布して紫外線、X線、電子線等の電離放射線を用いて、所望のパターン(ネガ型)に露光して所望のパターン(ネガ型)を有するレジスト膜を形成し、レジスト可溶現像液で現像し、所望のレジストパターン(ネガ型)を形成する。次いで、プラズマガスを使用するドライエッチング等の方法により所望の深さとなるまでエッチングを行い、ATR結晶の平面に複数の凹部を形成し、硫酸、過酸化水素水等を用いてレジスト膜を除去することで、ATR結晶の平面に、複数の凹部を形成することができる。
【0040】
次いで、金属埋設工程は、例えば以下の方法により行うことができる。
金属は、上記説明した金属を用い、無電解めっき法等の化学めっき法(湿式法);スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等の方法(環式法);これらの中でも好ましくは無電解めっき法、真空蒸着法により、上記の複数の凹部を形成したATR結晶の平面に、金属薄膜を形成する。なお、ATR結晶の平面の凹部以外の領域(凸部)にも金属薄膜が形成することとなるが、当該領域に形成した金属薄膜はそのままとしてもよいし、除去してもよい。いずれにしても、分析結果に影響はない。
【0041】
〔分析機器〕
本実施形態の装置で採用される分析機器は、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により、上記の分析用基材が有する金属の表面に吸着した化合物を分析する機器である。
【0042】
図1に示されるように、分析機器は、摩擦試験機器のテストピースと接する分析用基材の摩擦面に赤外光を集光させて、当該摩擦面からの全反射光の吸収スペクトルを測定し得る機能を有するものである。これにより、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により、分析用基材が有する金属の表面に吸着した化合物を分析することが可能となる。
【0043】
〔摩擦試験機器〕
本実施形態の装置は、摩擦試験機器を備える。
摩擦試験機器は、テストピース及びテストピースを回転駆動させる駆動冶具を備える機器であり、駆動冶具は、テストピースを、分析用基材の凹部を有する平面に対して接するように押圧しながら回転駆動することができる冶具である。
【0044】
(テストピース)
テストピースは、分析用基材の凹部を有する平面に対して接するように押圧しながら回転駆動させることで、当該平面の凹部に埋設される金属表面との間で摩擦を生じさせるものである。テストピースと金属表面との摩擦面に、分析対象が含まれる液体を供給し、当該液体中に含まれる化合物を存在させることで、摩擦環境下において金属表面上に当該化合物が吸着することになる。これを、赤外吸収強度を増強させて赤外光の吸収スペクトルを測定することで、高感度な分析が可能となる。
【0045】
テストピースとしては、分析用基材の平面と摩擦を生じさせるものであれば特に制限なく使用することが可能であり、その形状としては、円板形、円柱形、球形、楕円球形等が好ましく挙げられる。これらの中でも、円柱形、球形、楕円球形が好ましく、特に球形が好ましい。摩擦面における摩擦の状態が安定しやすく、金属の表面に吸着した化合物をより安定して高感度な分析を行うことができるからである。
【0046】
テストピースの大きさとしては、装置の規模、分析用基材の大きさ等に応じてかわり得るため一概にはいえないが、直径として、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上であり、上限として好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下、更に好ましくは30mm以下である。摩擦面における摩擦の状態が安定しやすく、金属の表面に吸着した化合物をより安定して高感度な分析を行うことができるからである。
【0047】
テストピースの材質としては、分析用基材の平面と摩擦を生じさせるものであれば特に制限なく使用することが可能であり、一般に耐摩耗性に優れる材質であればよく、例えばSUJ2等の高炭素クロム鋼;SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等のステンレス鋼;その他ハステロイ、インコロイ、インコネル、二相合金等の材質が挙げられる。
【0048】
(駆動冶具)
駆動冶具としては、テストピースを回転駆動させ、かつ押圧を同時に行い得る冶具であってもよいし、回転駆動させる機構と、これとは別に押圧させる機構とを備えるものであってもよい。
【0049】
回転駆動の回転速度としては、テストピースを回転させて、分析用基材の平面の凹部に埋設される金属表面との間で摩擦を生じさせられれば特に制限はなく、また分析しようとする化合物の実際の使用態様に応じてかわり得るため一概にはいえないが、好ましくは0.01m/s以上、より好ましくは0.03mm/s以上、更に好ましくは0.05mm/s以上、より更に好ましくは0.08mm/s以上であり、上限として好ましくは1.0mm/s以下、より好ましくは0.75mm/s以下、更に好ましくは0.50mm/s以下、より更に好ましくは0.15mm/s以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、0.01m/s以上1.0mm/s以下、0.03mm/s以上0.75mm/s以下、0.05mm/s以上0.50mm/s以下、0.08mm/s以上0.15mm/s以下等の組合せが典型的に挙げられる。回転速度が上記範囲内であると、摩擦面における摩擦の状態が安定しやすく、金属の表面に吸着した化合物をより安定して高感度な分析を行うことができる。
【0050】
駆動冶具の押圧の荷重としては、分析用基材の平面の凹部に埋設される金属表面との間で摩擦を生じさせられれば特に制限はなく、また分析しようとする化合物の実際の使用態様に応じてかわり得るため一概にはいえないが、好ましくは0.1N以上、より好ましくは0.3N以上、更に好ましくは0.5N以上、より更に好ましくは0.8N以上であり、上限として好ましくは5N以下、より好ましくは3N以下、更に好ましくは1.5N以下である。既述のように、これらの数値範囲の上限及び下限は任意に組合せることができ、例えば、0.1N以上5N以下、0.3N以上3N以下、0.5N以上1.5N以下、0.8N以上1.5N以下等の組合せが典型的に挙げられる。押圧の荷重が上記範囲内であると、摩擦面における摩擦の状態が安定しやすく、金属の表面に吸着した化合物をより安定して高感度な分析を行うことができる。
【0051】
(その他)
本実施形態の摩擦試験分析装置は、図1に示されるように、貯留槽4を有しているとよい。貯留槽に測定対象となる化合物を含む液体を貯留することで、分析を開始することができ、容易に分析することができる。
【0052】
[摩擦試験分析方法]
本実施形態の摩擦試験分析方法は、
液体中に含まれる化合物を分析する分析方法であって、
金属の表面に吸着した前記化合物を、摩擦試験をしながらATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により分析する、
摩擦試験分析方法である。
【0053】
本実施形態の摩擦試験分析方法は、例えば上記の本実施形態の摩擦試験分析装置を用いて行うことができる。よって、本実施形態の摩擦試験分析方法は、摩擦環境下において、液体中に含まれる化合物の吸着挙動を高感度で分析することが可能である。
【0054】
[摩擦試験分析用基材]
本実施形態の摩擦試験分析用基材は、
ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有し、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設される、
摩擦試験分析用基材である。
【0055】
本実施形態の摩擦試験分析用基材は、例えば上記の本実施形態の摩擦試験分析装置における分析用基材として用いることができる。すなわち、本実施形態の摩擦試験分析用基材の詳細は、摩擦試験分析装置において用いられ得る分析用基材として説明した内容と同じである。
【0056】
[提供される本発明の一態様について]
本実施形態では、以下1~14が提供される。
1.分析用基材、分析機器及び摩擦試験機器を備え、液体中に含まれる化合物を分析する分析装置であって、
前記分析用基材が、ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有しており、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設されるものであり、
前記分析機器が、ATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により、前記分析用基材が有する前記金属の表面に吸着した前記化合物を分析する機器であり、
前記摩擦試験機器は、テストピース及び前記テストピースを回転駆動させる駆動冶具を備え、
前記駆動冶具は、前記テストピースを、前記分析用基材の前記凹部を有する前記平面に対して接するように押圧しながら回転駆動する、
摩擦試験分析装置。
2.前記分析用基材が、板形である上記1に記載の摩擦試験分析装置。
3.前記分析用基材が、半球形である上記1に記載の摩擦試験分析装置。
4.前記ATR結晶が、シリコンである上記1~3のいずれか1に記載の摩擦試験分析装置。
5.前記金属が、金、銀、銅、白金、鉄及びニッケルから選ばれる少なくとも一種である上記1~4のいずれか1に記載の摩擦試験分析装置。
6.前記金属の厚さが、5nm以上100nm以下である上記1~5のいずれか1に記載の摩擦試験分析装置。
7.前記凹部が、平面視の形状として三角形、四角形、楕円形及び円形から選択される一の形状を有し、かつパターン状に配置される上記1~6のいずれか1に記載の摩擦試験分析装置。
8.前記テストピースが、円板形、円柱形、球形及び楕円球形から選択される形状である上記1~7のいずれか1に記載の摩擦試験分析装置。
9.前記液体が、前記化合物を含む潤滑油組成物である上記1~8のいずれか1に記載の摩擦試験分析装置。
10.液体中に含まれる化合物を分析する分析方法であって、
金属の表面に吸着した前記化合物を、摩擦試験をしながらATR-SEIRAS法(全反射吸収-表面増強赤外分光法)により分析する、
摩擦試験分析方法。
11.上記1~9のいずれか1に記載の分析装置を用いて分析する、上記10に記載の摩擦試験分析方法。
12.ATR結晶及び金属により構成され、一部に平面を有し、前記平面には複数の凹部が配置され、かつ前記凹部に前記金属が埋設される摩擦試験分析用基材。
13.前記凹部が、平面視の形状として三角形、四角形、楕円形及び円形から選択される一の形状を有し、かつ前記平面上に等間隔で配置されてパターン状に存在する上記12に記載の摩擦試験分析用基材。
14.上記1~9のいずれか1に記載の分析装置に用いられる上記12又は13に記載の摩擦試験分析用基材。
【実施例0057】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0058】
〔摩擦試験分析装置〕
図1に示される構成を有する装置を用いた。また、装置を構成する分析用基材、摩擦試験機器の概要は以下の通りである。
【0059】
(分析用基材)
ATR結晶として半球形のシリコン(Si)を用い、ATR結晶の平面に複数の凹部(平面視で縦:0.81μm及び横:0.81μmの四角形、深さ:0.04μm)を有し、凹部に埋設される金属が、第1表に記載される厚さ(8、19、12、15及び30nm)のAuである、分析用基材を用意した。分析用基材は、上記分析用基材の製造の方法に従い作製、より具体的には、ATR結晶の表面にレジスト膜を形成し、下記パターンを形成するレジストパターンを形成し、次いでエッチングし、レジスト膜を除去することで、下記パターンを形成し、さらに真空蒸着法により、上記厚さを有するAuの薄膜を凹部に埋設するように形成した。
また、複数の凹部は、全て同じ形であり、パターン状(格子状、隣接する凹部間の距離(w):0.19μm)に配置されたものである。本実施例で用いた分析用基材の表面のSEM画像を図4に示す。
【0060】
(摩擦試験機器)
摩擦試験機器におけるテストピースは、材質:SUJ2の球形(直径:12.7mm)のものを用いた。
【0061】
(化合物を含む液体)
測定対象とする化合物を含む液体として、動粘度5mm/s(23±3℃)の炭化水素系潤滑油基油を用い、測定対象とする化合物の含有量が5質量%となるように調製したものを用いた。また、測定対象とする化合物として、4-シアノ-4’-ペンチルビフェニルを用いた。
【0062】
(測定対象の分析評価)
測定対象の化合物の分析の可否についての評価を、下記の評価基準に基づき評価した。
(評価基準)
A:高感度での分析が可能となった。
C:分析ができなかった。
【0063】
(赤外吸収強度の増強効果の評価)
各実施例において、化合物を含む液体を、オレイン酸のポリ-α-オレフィン溶液(オレイン酸含有量:0.1質量%、ポリ-α-オレフィン:40℃動粘度48mm/s)に代えて分析を行った際の、オレイン酸に起因するC=Oに起因する波長の吸収面積をArとした。他方、比較例1において、化合物を含む液体を、オレイン酸のポリ-α-オレフィン溶液(オレイン酸含有量:1.0質量%、ポリ-α-オレフィン:40℃動粘度48mm/s)に代えて分析を行った際の、オレイン酸に起因するC=Oに起因する波長の吸収面積をArとした。この場合の、下記数式により算出される数値を増強効果指数とし、当該数値について、下記の評価基準に基づき評価した。
増強効果指数=Ar/Ar/10×100
(評価基準)
A:増強効果指数が5以上となった。
B:増強効果指数が2以上5未満となった。
C:増強効果指数が2未満となった。
【0064】
(実施例1)
図1に示される構成を有する装置(分析用基材におけるAuの厚さ:8nm)において、貯留槽に上記の化合物を含む液体を供給した。次いで、摩擦試験機器を作動(回転速度:0.1m/s、押圧荷重:1N)させた。摩擦試験機器のテストピースと、分析用基材との摩擦面に赤外光を集光させて、全反射した赤外光の吸収スペクトルを測定した。測定した吸収スペクトルを、図5に示す。図5は、ボールの接触中心を0μm位置として、せん断方向の+200μm、-200μmまでに25μm毎に測定した吸収スペクトルを示すものである。
また、分析の評価、増強効果の評価を上記方法により行った。その結果を第1表に示す。
【0065】
(実施例2~5)
実施例1において、分析用基材を、Auの厚さが第1表に示される厚さのものに代えた以外は、実施例1と同様にして吸収スペクトルを測定した。
また、分析の評価、増強効果の評価を上記方法により行った。その結果を第1表に示す。
【0066】
(比較例1)
実施例2において、摩擦試験機器を用いなかった以外は、実施例2と同様にして分析を行った。測定対象となる化合物の分析はできたが、摩擦環境下の結果といえるものではなかった。
【0067】
(比較例2)
実施例1において、分析用基材を、Auが凹部に埋設されていないもの(ATR結晶に複数の凹部を形成し、Auを設けなかったもの)を用いた以外は、実施例1と同様にして吸収スペクトルを測定した。測定した吸収スペクトルを、図6に示す。図6は、ボールの接触中心を0μm位置として、せん断方向の+200μm、-200μmまでに25μm毎に測定した吸収スペクトルを示すものである。
また、分析の評価、増強効果の評価を上記方法により行った。その結果を第1表に示す。
【0068】
(比較例3)
実施例1において、使用する分析用基材として、凹部を有さず、全面に厚さ50nmのAuを蒸着させた分析用基材を用いた以外は、実施例1と同様にして吸収スペクトルを測定した。分析の評価、増強効果の評価を上記方法により行った。その結果を第1表に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例及び比較例の結果から、本実施形態の摩擦試験分析装置を用いた場合、分析評価及び増強効果の評価のいずれも優れており、摩擦環境下において、液体中に含まれる化合物の吸着挙動を高感度で分析し得ることが確認された。
他方、比較例1は、摩擦試験機器を有していない装置を用いていることから、当然のことながら、摩擦環境下における測定はできないものとなった。比較例2は、分析用基板に金属が埋設されていないため、増強効果の評価が悪く、高感度で分析できないことが分かった。また、比較例3は、凹部を有しない分析用基板を用いた例であるが、金属は凹部に埋設されていないと、増強効果は得られないことが分かった。
【0071】
図5及び図6の吸収スペクトルについて、図中に記載されるピーク1~6について、これらのピークを発現する測定対象の化合物(4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル)中の構造は以下の通りである。
ピーク1.(3050~2750cm-1):全てのC-H結合
ピーク2.(2250~2200cm-1):C-N結合
ピーク3.(1630~1480cm-1):フェニル基中のC-C結合
ピーク4.(1480~1350cm-1):アルキル基(ペンチル基)中のC-H結合
ピーク5.(1200~1170cm-1):フェニル基中のC-H結合(in-plane測定)
ピーク6.(880~750cm-1):フェニル基中のC-H結合(Out-of-plane測定)
【0072】
図5及び図6の吸収スペクトルについて、吸収の変化をわかりやすくするため、各置換基の吸収面積を算出し、以下の方法により算出される差を図7にプロットした。差の算出については、(実施例,図5)-k(係数)×(比較例,図6)とし、このときの係数kは「ピーク4.(1480~1350cm-1):アルキル基(ペンチル基)中のC-H結合」の吸収面積がゼロとなるように、他のピークの差を決定した。なお、図7中の(a)~(f)は、各々上記のピーク1~6の差を示すものであり、図7中のピーク4に該当する(d)はゼロとなっている。
図7について、(a)~(e)の吸収差は小さいが、図7の(f)のフェニル基のOut-of-plane測定におけるC-H結合の吸収差は、ボールとプリズムの接触部周辺(100~200μm)で特異的に増加したことが分かる。ここで、フェニル基のOut-of-plane測定におけるC-H結合の吸収が増強されていることは、芳香環が分析用基材の表面に対して平行に配向していることを意味するものと考えられる。表面増強赤外分光法では、分析用基材の表面に対して垂直方向となる振動の吸収を増強し、水平方向となる振動の吸収をゼロにすることが知られているからである(例えば、Review of Polarography,Vol.62,No2/3,(2016)等参照)。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本実施形態の摩擦試験分析装置は、摩擦環境下において、液体中に含まれる化合物の吸着挙動を高感度で分析し得る装置である。本実施形態の摩擦試験分析装置は、潤滑油組成物に用いられる各種添加剤の摩擦環境下における吸着挙動を把握できるため、潤滑油組成物の設計に好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7