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特開2024-137479免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法、上記治療効果を予測するためのデータを得るための方法、上記治療効果を予測する方法又は上記データを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137479
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法、上記治療効果を予測するためのデータを得るための方法、上記治療効果を予測する方法又は上記データを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240927BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240927BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240927BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 V ZNA
G01N33/543 501A
C07K16/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049014
(22)【出願日】2023-03-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】三善 英知
(72)【発明者】
【氏名】野々村 祝夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大悟
(72)【発明者】
【氏名】近藤 純平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和利
(72)【発明者】
【氏名】木戸脇 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】林 郁実
(72)【発明者】
【氏名】知久 浩之
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA44
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB07
2G045FB12
2G045FB13
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA75
(57)【要約】
【課題】
新規な免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法、上記治療効果を予測するためのデータを得るための方法、上記治療効果を予測する方法又は上記データを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キットを提供すること。
【解決手段】
被験者由来試料中のプロハプトグロビン量を測定することを含む、被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法、上記治療効果を予測するためのデータを得るための方法、上記治療効果を予測する方法又は上記データを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キット。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来試料中のプロハプトグロビン量を測定することを含む、
被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法。
【請求項2】
前記被験者が免疫チェックポイント阻害薬による治療中ではない被験者である、請求項1に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項3】
前記測定により得られたプロハプトグロビン量とあらかじめ設定された基準値とを比較することを更に含み、
前記プロハプトグロビン量が前記基準値以下である場合に、前記被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療が有効性を示す可能性が高いと予測するための指標として前記プロハプトグロビン量を用いる、請求項1に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項4】
前記免疫チェックポイント阻害薬が、PD-1阻害薬及びPD-L1阻害薬の少なくとも一方である、請求項1に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項5】
前記被験者由来試料が、血液、血漿、又は、血清である、請求項1に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項6】
前記被験者が、がん患者である、請求項1に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項7】
前記がんが、腎がんである、請求項6に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項8】
前記プロハプトグロビン量の測定を、プロハプトグロビンに特異的に結合する抗プロハプトグロビン抗体である抗体1を用いて行う、請求項1に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項9】
前記プロハプトグロビン量の測定を、前記抗体1と、前記抗体1とはエピトープが異なる、抗プロハプトグロビン抗体である抗体2を組合せて用いて行う、請求項8に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項10】
前記抗体1と前記抗体2のうち一方が担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、請求項9に記載の治療効果を予測する方法。
【請求項11】
被験者由来試料中のプロハプトグロビン量を測定することを含む、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測するためのデータを得るための方法。
【請求項12】
前記測定により得られたプロハプトグロビン量とあらかじめ設定された基準値とを比較することを更に含み、
前記プロハプトグロビン量が前記基準値以下である場合に、前記被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療が有効性を示す可能性が高いと予測するための指標として前記プロハプトグロビン量を用いる、請求項11に記載のデータを得るための方法。
【請求項13】
前記免疫チェックポイント阻害薬が、PD-1阻害薬及びPD-L1阻害薬の少なくとも一方である、請求項11に記載のデータを得るための方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の治療効果を予測する方法におけるプロハプトグロビン量の測定、又は、請求項11~13のいずれか1項に記載のデータを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キットであって、
プロハプトグロビンに特異的に結合する抗プロハプトグロビン抗体1を含む、
キット。
【請求項15】
前記抗体1とはエピトープが異なる、抗プロハプトグロビン抗体である抗体2を更に含む、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法、上記治療効果を予測するためのデータを得るための方法、上記治療効果を予測する方法又は上記データを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫チェックポイント阻害剤による治療法は、がんを治そうとする免疫力を利用してそれを高める治療法である。がん細胞を標的にするのではなく、免疫力を利用する方法であるため、がんの突然変異やがん抗原の特異性によらず適応可能であることが利点である。しかし治療効果の個人差が大きく、その奏効率は約10~30%であると言われている。
免疫チェックポイント阻害剤による自己免疫性副作用として、免疫のブレーキ機構を遮断するため、間質性肺炎、心筋炎、重症筋無力症、下垂体炎などの重篤なものも含め、様々な臓器に免疫関連有害事象を起こす可能性があることが知られている。
そこで、免疫チェックポイント阻害剤を適正に使用するため、治療効果を治療前や早期に予測するバイオマーカーの開発が求められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、免疫チェックポイント阻害剤の反応を予測するために糞便カルプロテクチン、血中ゾヌリン、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、PD-L1をベースラインと免疫チェックポイント阻害剤3サイクル毎に測定し評価を行うことが記載されている。
非特許文献2には、免疫チェックポイント阻害剤の予後のバイオマーカーとして既存の血中腫瘍マーカー(CEA、CA125、CYFRA21-1、SCC-A)の、進行性非小細胞肺がん患者のベースラインおよび6週間の治療後の血液中の量を測定し、治療により改善が見られた患者は、2つ以上のマーカーが低下したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gut Dysbiosis and Fecal Calprotectin Predict Response to Immune Checkpoint Inhibitors in Patients With Hepatocellular Carcinoma, Hepatol Commun. 2022 Jun; 6(6): 1492-1501.
【非特許文献2】Dynamics of Serum Tumor Markers Can Serve as a Prognostic Biomarker for Chinese Advanced Non-small Cell Lung Cancer Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitors, Front Immunol. 2020; 11: 1173.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在行われているがん免疫療法の治療効果を予測する方法としては、がん細胞や周辺細胞のPD-L1発現率を求める方法(PD-L1検査)や、MSI検査が知られている。PD-L1検査は、病理組織を用いた免疫組織化学染色法で発現率を求める方法で、MSI検査はがん組織から抽出したゲノムDNA中の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSIHigh)を検出する方法であり、両者とも病理組織を使用した検査である。そのため、血液等を試料として用いて簡便に測定できるバイオマーカー、及びそれを用いた免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測する方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、新規な免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法、上記治療効果を予測するためのデータを得るための方法、上記治療効果を予測する方法又は上記データを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の代表的な実施態様の例を以下に示す。
<1> 被験者由来試料中のプロハプトグロビン量を測定することを含む、
被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法。
<2> 上記被験者が免疫チェックポイント阻害薬による治療中ではない被験者である、<1>に記載の治療効果を予測する方法。
<3> 上記測定により得られたプロハプトグロビン量とあらかじめ設定された基準値とを比較することを更に含み、
上記プロハプトグロビン量が上記基準値以下である場合に、上記被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療が有効性を示す可能性が高いと予測するための指標として上記プロハプトグロビン量を用いる、<1>又は<2>に記載の治療効果を予測する方法。
<4> 上記免疫チェックポイント阻害薬が、PD-1阻害薬及びPD-L1阻害薬の少なくとも一方である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の治療効果を予測する方法。
<5> 上記被験者由来試料が、血液、血漿、又は、血清である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の治療効果を予測する方法。
<6> 上記被験者が、がん患者である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の治療効果を予測する方法。
<7> 上記がんが、腎がんである、<6>に記載の治療効果を予測する方法。
<8> 上記プロハプトグロビン量の測定を、プロハプトグロビンに特異的に結合する抗プロハプトグロビン抗体である抗体1を用いて行う、<1>~<7>のいずれか1つに記載の治療効果を予測する方法。
<9> 上記プロハプトグロビン量の測定を、上記抗体1と、上記抗体1とはエピトープが異なる、抗プロハプトグロビン抗体である抗体2を組合せて用いて行う、<8>に記載の治療効果を予測する方法。
<10> 上記抗体1と上記抗体2のうち一方が担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、<9>に記載の治療効果を予測する方法。
<11> 被験者由来試料中のプロハプトグロビン量を測定することを含む、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測するためのデータを得るための方法。
<12> 上記測定により得られたプロハプトグロビン量とあらかじめ設定された基準値とを比較することを更に含み、
上記プロハプトグロビン量が上記基準値以下である場合に、上記被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療が有効性を示す可能性が高いと予測するための指標として上記プロハプトグロビン量を用いる、<11>に記載のデータを得るための方法。
<13> 上記免疫チェックポイント阻害薬が、PD-1阻害薬及びPD-L1阻害薬の少なくとも一方である、<11>又は<12>に記載のデータを得るための方法。
<14> <1>~<10>のいずれか1つに記載の治療効果を予測する方法におけるプロハプトグロビン量の測定、又は、<11>~<13>のいずれか1つに記載のデータを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キットであって、
プロハプトグロビンに特異的に結合する抗プロハプトグロビン抗体1を含む、
キット。
<15> 上記抗体1とはエピトープが異なる、抗プロハプトグロビン抗体である抗体2を更に含む、<14>に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法、上記治療効果を予測するためのデータを得るための方法、上記治療効果を予測する方法又は上記データを得るための方法におけるプロハプトグロビン量の測定のための検査キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験例2において、抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体として10-7G2Aを用いた場合の抗原性の確認を行った結果である。
図2】実験例2において、抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体として市販の抗体を用いた場合の抗原性の確認を行った結果である。
図3】実施例1において、がんが進行した群(Progressive disease (PD))、及び進行しなかった群(non-PD)のそれぞれにおける、ニボルマブ投与前の血清中のproHp量およびHp量について、それぞれROC分析を行った結果である。
図4】実施例1におけるニボルマブ投与前の血清中のプロハプトグロビン量又はハプトグロビン量を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の主要な実施形態について説明する。しかしながら、本発明は、明示した実施形態に限られるものではない。
本明細書において「~」という記号を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、全固形分とは、組成物の全成分から溶剤を除いた成分の総質量をいう。また本明細書において、固形分濃度とは、組成物の総質量に対する、溶剤を除く他の成分の質量百分率である。
本明細書において、単位Mとは、mol/Lを示す。同様にmMはmmol/L、μMはμmol/Lである。
本明細書において、単位w/v%とは、質量/容量%(weight/volume%)を示す。
本明細書において、単位w/wとは、質量/質量%(weight/weight%)を示す。
本明細書において、特に述べない限り、温度は23℃、気圧は101,325Pa(1気圧)、相対湿度は50%RHである。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0011】
(免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法)
本発明の免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法(以下、単に「本発明の予測方法」ともいう)は、被験者由来試料中のプロハプトグロビン量を測定することを含む、被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測する方法である。
【0012】
本発明の予測方法は新規な方法である。
本発明者らは、本発明の免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測するための優れたバイオマーカーを見出すべく鋭意検討した結果、被験者試料中のプロハプトグロビン量を測定することにより免疫チェックポイント阻害薬による治療効果の予測が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
引用文献1には、免疫チェックポイント阻害剤の反応を予測するために血清中のゾヌリンを測定することが記載されているが、本発明とは異なり、免疫チェックポイント阻害薬による効果が認められる患者においてもゾヌリン量に有意差は無いと結論付けられている。これは、ゾヌリンの検出に用いられているELISAキットが、ゾヌリンのみを測定していないためであると推測される。上記ELISAキットがゾヌリンのみを測定していないことが報告されており(Widely Used Commercial ELISA Does Not Detect Precursor of Haptoglobin2, but Recognizes Properdin as a Potential Second Member of the Zonulin Family, Front Endocrinol (Lausanne). volume 9, 2018において報告されている。)そのため、プロハプトグロビン量(ゾヌリン量)のみを測定できていないと考えられる。
引用文献2には、プロハプトグロビン量を測定することについては記載されていない。
【0013】
<ハプトグロビン、プロハプトグロビン>
プロハプトグロビン(proHaptglobin)は、α鎖及とβ鎖の二つのサブユニットが結合したヘテロダイマーで、ハプトグロビンの前駆体である。プロハプトグロビンは、complement C1r subcomponent-like protein(C1RL)のセリンプロテアーゼ活性によりα鎖とβ鎖に切断され、両鎖がジスルフィド結合を介して連結したハプトグロビンとなる。本発明に係るプロハプトグロビンは、ヒト由来のヒトプロハプトグロビンを指す。
また、プロハプトグロビンはゾヌリン(zonulin)ともいわれるタンパクである。
【0014】
本発明に係るヒトプロハプトグロビンを、以下「proHp」と略記する。
ハプトグロビン(Haptoglobin)は、哺乳類の血中に存在する肝臓由来の糖タンパク質であり、溶血時に遊離したヘモグロビンと結合するため、溶血時には血中濃度が低下することが一般に知られている。本発明に係るハプトグロビンは、ヒト由来のヒトハプトグロビンを指す。本発明に係るヒトハプトグロビンを、以下「Hp」と略記する
【0015】
Hpのα鎖には、α1鎖とα2鎖の2種類があり、α1鎖は約10kDa、α2鎖は約18kDaの分子量を有する。β鎖は約39kDaの分子量を有する。Hpは、Hp1-1型((α1β)2)、Hp2-1型((α1β)m(α2β)n)、及びHp2-2型((α2β)n)の三つの型に分類される。m及びnは1以上の整数であり、同じであっても異なっていてもよい。三つの型のβ鎖は同じである。
【0016】
<免疫チェックポイント阻害薬>
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞の働きを抑制する「免疫チェックポイント分子」を標的としたがん治療薬である。
免疫チェックポイント分子としては、例えば、PD-1及びそのリガンド(PD-L1,PD-L2),CTLA-4及びそのリガンド(B7(CD80/86))、TIM-3又はそのリガンド(Galectin-9)、BTLA又はそのリガンド(HVEM)、LAG-3、TCR又はそのリガンド(MHC-II)が挙げられる。
免疫チェックポイント阻害薬としては、免疫チェックポイントを阻害する薬剤であればよいが、PD-1阻害薬及びPD-L1阻害薬の少なくとも一方であることが好ましい。
PD-1阻害薬とは、PD-1とそのリガンド(PD-L1、PD-L2)との結合を阻害する薬剤をいう。
PD-L1阻害薬とは、PD-L1とその受容体であるPD-1との結合を阻害する薬剤をいう。
また、その他の免疫チェックポイント阻害薬としては、CTLA-4とそのリガンドである抗原提示細胞上のB7.1(CD80)及びB7.2(CD86)分子との結合を阻害する薬剤等が挙げられる。
【0017】
免疫チェックポイント阻害薬としては抗体又は融合タンパク等が挙げられ、抗体であることが好ましい。
免疫チェックポイント阻害薬として、PD-1抗体、PD-L1抗体及びCTLA-4抗体が例示され、具体的にはニボルマブ(Nivolumab、オプジーボ(登録商標)、小野薬品工業)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab、キイトルーダ(登録商標)、MSD)、スパルタリズマブ(Spartalizumab、ノバルティスファーマ)、セミプリマブ(Cemiplimab、サノフィ)、アベルマブ(Avelumab、バベンチオ(登録商標)、メルクバイオファーマ)、アテゾリズマブ(Atezolizumab、テセントリク(商標登録)、中外製薬)、デュルバルマブ(Durvalumab、イミフィンジ(登録商標)、アストラゼネカ)、イビリマブ(Ipilimumab、ヤーボイ(登録商標)、ブリストル・マイヤーズ、スクイブ)及びトレメリムマブ(Tremelimumab、アストラゼネカ)等が例示される。
【0018】
<被験者由来試料>
被験者由来試料としては、被験者であるヒト由来の血清、血漿、血液(全血)、膵液、唾液、リンパ液、髄液等の体液、がん組織、上記組織の抽出液、上記組織の組織切片、上記組織の洗浄液等が挙げられる。中でも、血清、血漿、血液(全血)、膵液、唾液、リンパ液、又は、髄液が好ましく、血清、血漿、又は血液(全血)がより好ましく、血清又は血漿が更に好ましく、血清が特に好ましい。
proHpの測定に当たっては、後記するように被験者由来試料を還元処理したもの、又は必要に応じ常法により緩衝液等で希釈処理したものを被検者由来試料として用いてもよい。
これらの
【0019】
現在免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測し、治療の適応を判定するための補助診断薬として認められているのは、病理組織を使用した遺伝子検査、及び、免疫組織化学染色に用いられる医薬品である。
病理組織を使用した遺伝子検査としては、がん細胞におけるマイクロサテライトの繰り返し回数の変化の有無を調べるDNA検査(MSI検査)が挙げられる。
免疫組織化学染色としては、病理組織においてPD-L1タンパクを免疫染色してPD-L1の発現率を測定する方法が挙げられる。
これらの方法は病理組織を必要とするため、簡便な検査ではなく、手術前や手術をしない患者に適用できない点では改善の余地がある。
ここで、本発明においては血清、血漿、血液(全血)、膵液、唾液、リンパ液、又は、髄液等の体液を被験者由来試料として用いることができる。このような態様においては、手術の有無に関係なく、簡便にかつ迅速に治療効果を予測することが可能である。
【0020】
<被験者>
本発明に係る被験者は、Hpの表現型がHp1-1型以外である者が好ましい。具体的には、本発明に係る被験者は、Hpの表現型がHp2-1型又はHp2-2型であることが好ましい。
Hpの表現型は、例えば以下の方法で確認できる。
即ち、被験者由来試料をSDS-PAGE等の電気泳動に付した後、抗Hp抗体を用いたウエスタンブロットを行う。使用する抗Hp抗体は、市販の抗Hp抗体でよい。またポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
被験者のHpの表現型がHp1-1型である場合、α1(約10KDa)とβ(約39KDa)由来の2本のバンドのみが現れる。被験者のHpの表現型がHp2-1型である場合、α1(約10KDa)、α2(約18KDa)とβ(約39KDa)由来の3本のバンドが現れる。被験者のHpの表現型がHp2-2型である場合、α2(約18KDa)とβ(約39KDa)由来の2本のバンドが現れるので、バンドを確認することで、Hpの表現型を確認できる。
被験者は、免疫チェックポイント阻害薬による治療中ではない被験者であることが好ましい。
また、被験者は、免疫チェックポイント阻害薬による治療を行うことが検討されている者であることが好ましい。
被験者は、免疫チェックポイント阻害薬による治療対象となる疾患に罹患している者であることが好ましく、がん患者であることがより好ましい。
【0021】
被験者ががん患者である場合のがんとしては、腎がんなどが挙げられる。
その他、悪性黒色腫、肺がん、ホジキンリンパ腫、頭頚部がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫、結腸がん、直腸がん、食道がん、尿路上皮がん、原発不明がん等が挙げられる。
また、例えば免疫チェックポイント阻害薬がPD-1阻害薬である場合には、がんとしては悪性黒色腫、切除不能な進行又は再発の非小細胞肺がん、根治切除不能又は転移性の腎細胞がん、再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫、再発又は遠隔転移を有する頭頸部がん、治癒切除不能な進行又は再発の胃がん、切除不能な進行又は再発の悪性胸膜中皮腫、がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行又は再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸又は直腸がん、根治切除不能な進行又は再発の食道がん、食道がん、原発不明がん、尿路上皮がん等が挙げられる。
【0022】
<proHp量の測定>
proHp量の測定方法は、特に限定されないが、proHpに特異的に結合する抗proHp抗体である抗体1を用いて行うことが好ましい。
抗体1は、proHpに特異的に結合する抗体である。
抗体1としては、国際公開第2022/019298号に記載の抗体1が挙げられるが、これに限定されるものではない。
抗体1は、proHpのα鎖及びβ鎖のいずれに結合する抗体であってもよいが、α鎖に結合する抗体であることが好ましい。
具体的には、本発明に係る抗体1としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体が挙げられる。例えば抗体1には、「proHpのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の一次構造を特異的に認識する抗体」、又は「proHpのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域内の立体構造を特異的に認識する抗体」が含まれる。
すなわち、本発明に係る抗体1は、例えば、proHpのα鎖の配列番号1で表される6アミノ酸の領域に結合する。
【0023】
本発明に係る抗体1は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体が好ましい。
また、市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。さらに後記する本発明に係る抗体1を用いたproHpの測定においては、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いてもよい。
市販品としては、例えばHaptoglobin Mouse Monoclonal Antibody(Proteintech Group, Inc, Catalog Number :66229-1-Ig)等が挙げられる。
【0024】
Hpのα1鎖のアミノ酸配列は、配列番号2で表される。そして、配列番号1で表されるアミノ酸配列(QCKNYY)を、そのN末端から51番目~56番目に有する。
Hpのα2鎖のアミノ酸配列は、配列番号3で表される。そして配列番号1で表されるアミノ酸配列を、そのN末端から51番目~56番目、及び110番目~115番目の二ヶ所に有する。
すなわち、Hpのα鎖も配列番号1のアミノ酸配列を持つ。従って、本発明に係る抗体1として、Hpのα鎖の配列番号1の領域に結合する抗体も用いることができる。
【0025】
本発明に係る抗体1は、抗体1の抗原結合断片であってもよい。抗原結合断片とは、抗体の断片であって、抗原結合部位を有するものを意味する。具体的には、例えば抗体1のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等が挙げられる。
【0026】
抗体1を取得するための免疫原(抗原)及び抗体1の産生方法としては、国際公開第2022/019298号の段落0037~0051に記載の方法が挙げられる。
【0027】
〔還元処理〕
また、proHp量の測定において、被験者由来試料として、被検者由来試料を例えば国際公開第2022/019298号公報に記載の方法で還元処理したものを用いてもよい。
Hpはα鎖とβ鎖がジスルフィド結合を介して連結している。そこで、Hpを還元処理してHpのα鎖とβ鎖を連結しているジスルフィド結合を切断すると、Hpはα鎖とβ鎖に解離する。一方、proHpのα鎖とβ鎖は還元処理しても解離しない。
【0028】
proHp量の測定方法では、例えば還元剤により被験者由来試料を還元処理して試料中のHpをα鎖とβ鎖に解離させる。次いで還元処理した試料中のproHp量を測定する、という方法を用いることができる。
【0029】
上記方法に用いられる還元剤としては、Hpのα鎖とβ鎖を連結しているジスルフィド結合を還元し切断することのできる薬剤であれば特に限定されない。SH基化合物又はその塩、チオ尿素誘導体、ホスフィン誘導体等が挙げられる。
【0030】
より具体的には、ジチオストイトール(DTT)、グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、ジチオエリスリトール(DTE)、α-チオグリセロール、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、臭化2-アミノエチルイソチオウロニウム臭化水素酸塩、チオレドキシン、グルタキオンレダクターゼ、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、トリブチルフォスフィン、NaBH、NADPH、チオグリコール酸、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、一酸化窒素等が挙げられる。
これらの中でも、ジチオストイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール、又は3-メルカプト-1,2-プロパンジオールが好ましい。
【0031】
還元剤は、適当な緩衝液に溶解させた溶液として用いるのが好ましい。そのために用いられる緩衝液としては、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液などが挙げられる。
【0032】
還元剤の濃度は、被験者由来試料と混合した時の濃度として、0.001~100w/v%であることが好ましく、0.01~50w/v%であることがより好ましい。
また、上記濃度は20~500mM(Mはmol/L)であることが好ましく、30~400mMであることがより好ましい。
【0033】
被験者由来試料を還元剤で処理する還元反応の時間は、1分~72時間であることが好ましく、1分~12時間であることがより好ましく、1分~100分であることが更に好ましい。
【0034】
還元反応時の温度は、0℃~120℃であることが好ましく、25℃~100℃であることがより好ましい。
【0035】
被験者由来試料を還元処理する方法としては、被験者由来試料を、上記したごとき条件となるように、被験者由来試料を還元剤又は還元剤の溶液と混合すればよい。
【0036】
proHp量の具体的な測定方法としては、例えば下記方法A、方法B、又は方法Cが挙げられる。
【0037】
方法A:下記工程(A-1)~(A-4)を含む方法:
(A-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(A-2)上記工程(A-1)で得られた試料からproHpを分離する工程、
(A-3)上記工程(A-2)で得られたproHpと上記抗体1とを接触させて、proHpと抗体1との複合体を形成させる工程、
(A-4)上記工程(A-3)で得られた複合体の量を測定することにより、proHp量を測定する工程。
【0038】
方法B:下記工程(B-1)~(B-4)を含む方法:
(B-1)被験者由来試料を還元処理する工程
(B-2)上記工程(B-1)で得られた試料と上記抗体1とを接触させて、上記試料中のproHpと抗体1との複合体を形成させる工程、
(B-3)上記工程(B-2)で得られた複合体を分離する工程、
(B-4)上記工程(B-3)で分離した複合体の量を測定することにより、proHp量を測定する工程。
【0039】
方法C:下記工程(C-1)~(C-2)を含む方法:
(C-1)被験者由来試料と、上記抗体1と、上記抗体1とはエピトープが異なる、抗proHp抗体である抗体2とを接触させて、上記試料中のproHpと抗体1と抗体2との複合体を形成させる工程、
(C-2)上記工程(C-1)で得られた複合体の量を測定することにより、proHp量を測定する工程。
【0040】
〔方法A〕
上記方法Aの具体的な方法としては、例えばウエスタンブロッティング法による方法がある。
【0041】
例えば、被験者由来試料を上記した方法により還元処理して、試料中のHpをα鎖とβ鎖に解離させる。
次いで、還元処理した試料を、定法に従ってSDS-PAGE,等電点電気泳動,二次元電気泳動等の電気泳動に付して、proHpを試料中の他のタンパク質と分離した後、ゲル中のproHpをウエスタンブロッティングの常法に従い、PVDF膜(Polyvinylidene Difluoride)やニトロセルロース膜等のブロット膜に移動(ブロッティング)および固定化する。転写方法としては、電気転写等の方法が挙げられる。
転写後のブロット膜に本発明に係る抗体1(一次抗体)を含有する溶液を含浸させて、ブロット膜上のproHpと抗体1とを反応させ、proHpと抗体1との複合体を形成させる。次いで測定可能な標識物質で標識された標識抗体(標識二次抗体)を含有する溶液を含浸させて反応させることにより、ブロット膜上にproHpと抗体1と標識二次抗体との複合体を形成させる。次いで、標識抗体の標識物質に応じて適当な発色基質を反応させて、泳動画分を検出する。泳動画分の泳動位置から、分子量 57kDaの画分をproHpの分離画分と決定し、その画分の標識物質に由来する量又はタンパク量を測定し、被験者由来試料中のproHp量とする。
【0042】
〔方法B〕
上記方法Bの具体的な方法としては、例えばウエスタンブロッティング法又はELISA法による方法がある。
方法Bをウエスタンブロッティング法により実施する方法を例にとり、以下に説明する。
【0043】
例えば被験者由来試料を上記した方法により還元処理して、試料中のHpをα鎖とβ鎖に解離させる。還元処理した試料を本発明に係る抗体1(一次抗体)と反応させて、試料中のproHpと抗体1との複合体を形成させる。
次いで、得られた試料について、定法に従ってSDS-PAGE、等電点電気泳動、二次元電気泳動等の電気泳動に付して、上記複合体を試料中の他のタンパク質と分離する。次いでゲル中の上記複合体を、ウエスタンブロッティングの常法に従い、PVDF膜(Polyvinylidene Difluoride)やニトロセルロース膜等のブロット膜に移動(ブロッティング)および固定化する。
転写後のブロット膜を、測定可能な標識物質で標識された標識抗体(標識二次抗体)を含有する溶液を含浸させて反応させることにより、ブロット膜上にproHpと抗体1と標識二次抗体との複合体を形成させる。次いで、標識抗体の標識物質に応じた適当な発色基質を反応させて、泳動画分を検出する。泳動画分の泳動位置から、分子量 57kDaの画分をproHpの分離画分と決定し、その画分の標識物質に由来する量又はタンパク量を測定し、被験者由来試料中のproHp量とする。
【0044】
上記方法A及び方法Bで行われる還元処理の方法は、上記「還元処理」の項で説明した通りであり、それに用いられる試薬の具体例及び好ましい例、及び処理条件等の具体例及び好ましい例も同じである。
【0045】
上記方法A及び方法Bに用いられる本発明に係る抗体1(一次抗体)については、上述の通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
また、標識二次抗体として用いられる抗体は、抗体1(一次抗体)を作製させた動物種由来の抗体を認識する抗体である。標識二次抗体の標識物質としては、後記する方法Cにおいて説明する、本発明に係る抗体1又は本発明に係る抗体2を標識する標識物質と同じものが挙げられ、好ましい例、具体例等も同じである。
また上記標識物質の標識方法及び上記標識の測定方法等の具体例及び好ましい例も同様である。標識物質を検出するために、ウエスタンブロッティング用の市販の発光試薬(ImmunoStar Zeta、富士フイルム和光純薬(株)製)等を用いてもよい。
【0046】
方法A又は方法BでproHpを測定する方法として方法Aを例にとり、説明すると、以下の通りである。
被験者由来試料を、20w/v% 2-メルカプトエタノールを含有する緩衝液及び精製水と混合することにより還元処理する。次いで、得られた試料を、定法に従ってSDS-PAGEに付す。得られた泳動ゲルを、ウエスタンブロッティングの常法に従い、PVDF膜(Polyvinylidene Difluoride)やニトロセルロース膜等のブロット膜にブロッティングおよび固定化する。
転写後のブロット膜に本発明に係る抗体1(例えば10-7G2A)を含有する緩衝液を含浸させる。次いでペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を含有する溶液を含浸させる。次いで、反応後のブロット膜をPBS-T等の緩衝液で洗浄後、ImmunoStar Zeta(富士フイルム和光純薬(株)製)等のペルオキシダーゼ発光基質を含有する溶液に浸漬させて、発色させる。発色後のブロット膜を精製水等で洗浄して、反応を停止させる。各画分の発光シグナル値を検出することにより、proHpに相当する分子量 57kDaの画分をproHp画分と決定する。その画分の標識物質に由来する量を測定する。別に、濃度既知のproHpを含有する試料を用いて同様の測定を行う。被験者由来試料を用いた測定で得られた標識物質に由来する量の、濃度既知のproHpを含有する試料を用いて同様の測定を行って得られた標識物質に由来する量に対する比率を、被験者由来試料中のproHpの量とする。
【0047】
〔方法C〕
免疫学的測定方法によりproHpを測定する方法として、proHp量の測定を、上記抗体1と、上記抗体1とはエピトープが異なる、抗proHp抗体である抗体2を組合せて用いて行う態様が挙げられる。
このような方法としては、方法Cが挙げられる。
上記方法Cの具体的な方法としては、例えば本発明に係る抗体1と、上記抗体1とはエピトープが異なる抗proHp抗体である抗体2(抗体2)を用いた免疫学的測定方法が挙げられる。
抗体2はproHpに結合する抗体であればよい。
【0048】
被験者由来試料を、本発明に係る抗体1及び抗体2と接触させて、抗体1とproHpと抗体2との複合体を形成させる。得られた上記複合体の量を測定する。以上の方法により、proHpを特異的に測定することができる。
【0049】
本発明に係る抗体2は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体がより好ましい。市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。また、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。
【0050】
また、抗体2は、抗体2の抗原結合断片であってもよく、具体的には、例えば抗体2のFab、Fab’、F(ab’)、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)もしくは(VH-VL))、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH)、IgG-delta-CH、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であって、proHpのβ鎖を特異的に認識するものが挙げられる。
【0051】
抗体2の由来は特に限定されないが、例えばウサギ、ラット、マウス、羊、山羊、馬等に由来する、上記した性質を有するものが挙げられる。市販品、あるいは例えば「免疫学実験入門、第2刷、松橋直ら、(株)学会出版センター、1981」等に記載の方法で取得されたものであって、上記した性質を有するものを使用すればよい。
【0052】
抗体2は、常法によるポリクローナル抗体の作製方法又はモノクローナル抗体の作製方法に従い、proHpあるいはHpのβ鎖又はその断片を動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製し、スクリーニングすることによって得ることができる。
【0053】
抗原として用いられるHpについては、常法により、例えば抗Hp抗体カラムを用いる方法により、がん細胞株の培養液又は培養上清から抽出することにより得ることができる。市販のものを用いても構わない。
【0054】
また、抗原として用いられるproHp(全長)は、既報(Mi-Kyung Oh, et al., FEBS letters vol. 589, pp.1009-1017, 2015)に従ってC1RLによって切断される部分にアミノ酸変異を入れたHpの発現ベクターを作製し、例えばHEK293細胞等の適当な宿主細胞に過剰発現させ、その培養上清を回収後、Hp結合担体を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーで回収及び精製することによって得られる。
【0055】
抗原として用いられるproHp又はHpのβ鎖又はその断片は、そのアミノ酸配列に従って、例えば通常の化学合成法により製造することができる。
市販のβ鎖サブユニットのリコンビナント品を用いてもよい。例えばRecombinant Human Haptoglobulin beta protein (ab63120)(Abcam plc.製)が挙げられる。
【0056】
抗体2の具体例としては、例えば国際公開第2017/204295号の実験例3で得られたβ鎖に反応性を有するがS-S結合が切断されたヒトHpには反応しない抗ヒトHpモノクロナール抗体である3-1抗体や3-7抗体等が挙げられる。
抗体2は、市販のものを用いてもよい。例えばHaptoglobin (5C5) Monoclonal Antibody(Bioss Inc.製、ウサギ抗ヒトHp抗体、IgG、カタログNo.bsm-52899R)等が挙げられる。
【0057】
方法Cにおいて、本発明に係る抗体1とproHpと本発明に係る抗体2の複合体を測定する方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法等が挙げられる。
【0058】
これらの測定原理としては、例えばサンドイッチ法、競合法、二抗体法等が挙げられ、サンドイッチ法が好ましい。また、担体等を用い、B/F分離を行うヘテロジニアスな方法で測定することも、B/F分離を行わないホモジニアスな方法で測定することも可能である。
【0059】
-サンドイッチ法-
方法Cにおいて、サンドイッチ法による測定方法としては、被験者由来試料と上記抗体1と上記抗体2とを接触させて、proHpと上記抗体1と上記抗体2との複合体を形成させ、上記複合体の量を測定する方法が挙げられる。
【0060】
上記サンドイッチ法による測定方法に用いられる、抗体1及び/又は抗体2は、標識物質等で標識されているものが好ましい。例えば本発明に係る抗体1が標識物質で標識された抗体1(標識抗体1)を用いる場合、標識抗体1の標識物質量に基づいて複合体1を測定すればよく、例えば抗体2が標識物質で標識された抗体2(標識抗体2)を用いる場合、標識抗体2の標識物質量に基づいて複合体1又は複合体2を測定すればよい。
【0061】
抗体1又は抗体2を標識するために用いられる標識物質としては、例えば通常の免疫測定法等において用いられるペルオキシダーゼ(POD),マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類;例えば放射免疫測定法(Radioimmunoassay、RIA)で用いられる99mTc,131I,125I,14C,3H、32P,35S等の放射性同位元素;例えば蛍光免疫測定法(Fluoroimmunoassay、FIA)で用いられるフルオレセイン,ダンシル,フルオレスカミン,クマリン,ナフチルアミン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ローダミンXイソチオシアネート、スルフォローダミン101、ルシファーイエロー、アクリジン、アクリジンイソチオシアネート、リボフラビンあるいはこれらの誘導体等の蛍光性物質;例えばルシフェリン,イソルミノール,ルミノール,ビス(2,4,6-トリフロロフェニル)オキザレート等の発光性物質;例えばフェノール,ナフトール,アントラセンあるいはこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質;例えば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル,3-アミノ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル,2,6-ジ-t-ブチル-α-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤としての性質を有する物質等の標識物質;例えばHiLyte Fluor 647、HiLyte Fluor 488、HiLyte Fluor 555、HiLyte Fluor 680、HiLyte Fluor 750等のHiLyte系色素〔いずれもハイライトバイオサイエンス社(HiLyte Bioscience, Inc.)商品名〕;例えばAlexa Fluor Dye 350、Alexa Fluor Dye 430、Alexa Fluor Dye 488、Alexa Fluor Dye 532、Alexa Fluor Dye 546、Alexa Fluor Dye 555、Alexa Fluor Dye 568、Alexa Fluor Dye 594、Alexa Fluor Dye 633、Alexa Fluor Dye 647、Alexa Fluor Dye 660、Alexa Fluor Dye 680、Alexa Fluor Dye 700、Alexa Fluor Dye 750等のAlexa系色素〔いずれもモレキュラープローブス社(Molecular Probes)商品名〕;例えばCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7等のCyDye系色素〔いずれもアマシャムバイオサイエンス社(Amersham Biosciences)商品名〕;例えばクーマシーブリリアントブルーR250,メチルオレンジ等の色素等、通常この分野で用いられている標識物質が全て挙げられる。中でも、ペルオキシダーゼ,マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類が好ましく、ペルオキシダーゼがより好ましい。
【0062】
また、上記した如き標識物質を抗体1又は抗体2に結合させる(標識する)には、例えば公知のEIA、RIA、FIA等の免疫測定法等において一般に行われている公知の標識方法を適宜利用して行えばよい。
【0063】
また、上記した如き標識物質をタンパク質に結合させる(標識する)キットも各種市販されているので、それらを用い、キットに添付の取扱説明書に従って、抗体1又は抗体2の標識を行ってもよい。
【0064】
また、高速液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法を実施する場合、抗原抗体複合物と遊離の標識抗体とをより明確に分離するために、例えばDNA、RNA等の核酸等の分離向上物質を結合させてもよい(特許第3070418号、特許第3531372号等)。
【0065】
測定に用いられる標識抗体1又は標識抗体2を含有する溶液中には、通常この分野で安定化剤として使用されているもの、例えば糖類、タンパク質、界面活性剤等が、通常この分野で使用される濃度範囲内で含有されていてもよい。
【0066】
抗体1及び/又は抗体2を標識する場合、遊離の標識物質で標識された抗体(標識抗体)と複合体とを分離する必要がある。そのため、例えば複合体1を形成する場合、抗体1と抗体2のいずれかの抗体を標識物質で標識し、標識しない残りの抗体1又は抗体2を担体に固定化することが好ましい。この場合、抗体1を担体(不溶性担体)に固定し、抗体2を標識物質で標識することが好ましい。遊離の標識抗体と複合体の分離は、公知のB/F分離法により分離することができる。
すなわち、上記抗体1と上記抗体2のうち一方が担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている態様も、本発明の好ましい態様の一つである。
【0067】
抗体1又は抗体2を固定化する担体としては、通常の免疫学的測定法等で用いられるものであればいずれも使用可能である。具体的には例えばポリスチレン,ポリプロピレン,ポリアクリル酸,ポリメタクリル酸,ポリアクリルアミド,ポリグリシジルメタクリレート,ポリ塩化ビニール,ポリエチレン,ポリクロロカーボネート,シリコーン樹脂,シリコーンラバー等の合成高分子化合物、例えば多孔性ガラス,スリガラス,セラミックス,アルミナ,シリカゲル,活性炭,金属酸化物等の無機物質等が挙げられる。また、これら担体は、マイクロタイタープレート、ビーズ、チューブ、多数のチューブが一体成形された専用のトレイ、ディスク状片、微粒子(ラテックス粒子)、等多種多様の形態で使用し得る。なかでもマイクロプレートやビーズは、洗浄の容易さおよび多数の検体(試料)を同時処理する際の操作性等の点から好ましい。
【0068】
本発明に係る抗体1又は抗体2を担体に固定化させる方法は、通常この分野で利用される方法に準じてなされればよく、特に限定されない。通常この分野で利用される公知の固定化方法は全て挙げられ、例えば、化学的結合法(共有結合により固定化する方法)、物理的に吸着させる方法等が挙げられる。
【0069】
その好ましい例としては、例えば、抗体1又は抗体2を通常0.1μg/mL~20mg/mL、好ましくは1μg/mL~5mg/mLの範囲で含む溶液と担体とを接触させ、適当な温度で所定時間反応させて抗体1又は抗体2が結合した担体(固相)を得る方法が挙げられる。
【0070】
抗体1又は抗体2の溶液を調製するための溶媒としては、抗体1又は抗体2が担体上に吸着あるいは結合するのを妨げる性質を有するものでなければよく、例えば精製水、例えばpH 5.0~10.0、好ましくはpH 6.5~10.0の中性付近に緩衝作用を有する緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液等)が好ましい。また、これらの緩衝液中の緩衝剤濃度としては、通常10~500 mM、好ましくは10~300 mMの範囲から適宜選択される。また、この溶液中には、抗体1又は抗体2が担体上に吸着あるいは結合するのを妨げない量であれば、例えば糖類、NaCl等の塩類、界面活性剤、防腐剤、タンパク質等が含まれていてもよい。
【0071】
通常この分野で行われているブロッキング処理、すなわち、上述のごとくして得られた抗体1又は抗体2が結合した担体を、さらにproHpやHpとは無関係のタンパク質、例えばヒト血清アルブミン、牛血清アルブミン、スキムミルク等の乳タンパク質、卵白アルブミン、市販のブロッキング剤(例えばブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製))等を含有する溶液中に浸漬する処理を行うことは、測定時の非特異的反応を防ぐ点から望ましい。
【0072】
また、この分野で用いられているアビジン-ビオチン反応のような非常に強固な結合反応を利用して抗体1又は抗体2を担体に固定化することも可能である。
【0073】
更に、上述の如く、抗体1又は抗体2を固定化した担体は、公知の免疫比濁法や免疫比ろう法にも用いることができる。
【0074】
標識抗体1又は標識抗体2を用いた反応の結果生成する複合体中の標識量を測定する方法としては、標識物質の種類により異なるが、標識物質が有している何らかの方法により検出し得る性質に応じて、それぞれ所定の方法に従い実施すればよい。例えば、標識物質が酵素の場合には、酵素免疫測定法により測定を行えばよい。標識物質が放射性物質の場合には、例えばRIAで行われている常法に従い、上記放射性物質の出す放射線の種類および強さに応じて液浸型GMカウンター、液体シンチレーションカウンター、井戸型シンチレーションカウンター、HPLC用カウンター等の測定機器を適宜選択して使用し、測定を行えばよい。標識物質が蛍光性物質の場合には、例えば蛍光光度計等の測定機器を用いるFIAで行われている常法により測定を行えばよい。標識物質が発光性物質の場合には、フォトカウンター等の測定機器を用いる常法により測定を行えばよい。標識物質が紫外部に吸収を有する物質の場合には、分光光度計等の測定機器を用いる常法により測定を行えばよい。標識物質がスピンの性質を有する場合には、電子スピン共鳴装置を用いる常法により測定を行えばよい。
【0075】
更に、標識物質が酵素である場合は、これを発色試薬と反応させて発色反応に導き、その結果生成する色素量を分光光度計等により測定する方法等の公知の方法が挙げられる。発色反応を停止させるために、例えば反応液に1~6Nの硫酸等の酵素活性阻害剤や、キットに添付の反応停止剤を添加する等、通常この分野で行われている反応停止方法を利用してもよい。
【0076】
上記発色試薬としては、例えばテトラメチルベンジジン(TMB)、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMBZ)、o-フェニレンジアミン、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、N-エチル-N-スルホプロピル-m-アニシジン(ADPS)、p-ニトロフェニルリン酸等、通常この分野で用いられる発色試薬が挙げられる。また、これらの使用濃度は、通常この分野で用いられる濃度範囲から適宜設定すればよい。
また、発色反応を停止させるには、例えば反応液に1~6Nの塩酸等の酵素活性阻害剤を添加する等、通常この分野で行われている反応停止方法を利用すればよい。
【0077】
また、標識されていない抗体のみを用いてproHpを測定する方法としては、例えば得られた複合体に由来する性質を利用して測定する方法、具体的には、複合体自体が有するプロテアーゼ活性等の酵素活性や蛍光偏向度を吸光度として測定する方法、或いは、表面プラズモン共鳴などのホモジニアスイムノアッセイ系等の方法が挙げられる。
【0078】
本発明に係るproHp量の測定方法に用いられる抗体1及び抗体2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。
【0079】
方法Cに用いられる、試薬及びその測定時の濃度、測定を実施するに際しての測定条件等(反応温度、反応時間、反応時のpH,測定波長、測定装置等)は、すべて公知の上記した如き免疫学的測定法の測定操作法に準じて選択すればよい。使用する自動分析装置、分光光度計等も通常この分野で使用されているものは、いずれも例外なく使用し得る。
【0080】
方法Cに用いられる抗体1及び抗体2の溶液に用いられる溶媒としては、緩衝液が好ましい。上記緩衝液としては、通常この分野で使用されるものであれば特に限定されないが、通常pH 5. 0~10.0、好ましくはpH 6.5~10.0の中性付近に緩衝作用を有するものが挙げられる。具体的には、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液等の、通常抗原抗体反応を利用した測定法に用いられている緩衝液は全て挙げられる。これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10~1000 mM、好ましくは10~300 mMの範囲から適宜選択される。また、そのpHとしては抗原抗体反応を抑制しない範囲であれば特に限定されないが、通常5~10.0の範囲が好ましい。
【0081】
本発明に係る抗体1及び抗体2を用いたサンドイッチ法によりproHp量を測定する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
被験者由来試料を本発明に係る抗体1(抗体1)と反応させ、抗体1とproHpの複合体を形成させる。次いで、本発明に係る抗体2(抗体2)を標識物質で標識した標識抗体2を反応させて、抗体1とproHpと標識抗体2の複合体(抗体1-proHp-標識抗体2)を形成させる。得られた抗体1-proHp-標識抗体2の複合体の量を測定することにより、被検試料中のproHp量を得ることができる。
【0082】
被験者由来試料を抗体2と反応させ、次いで抗体1を標識物質で標識した標識抗体1を反応させて、得られた標識抗体1-proHp-抗体2の複合体の量を測定することにより、被検試料中のproHp量を得ることもできる。
抗体1と標識抗体2を用いる上記方法が好ましい。
【0083】
方法Cの具体例として、標識物としてペルオキシダーゼ(POD)を用い、担体に固定化した本発明に係る抗体1と、PODで標識した抗体2を用いて試料中のproHp濃度を測定する場合を例にとり、以下に記載する。
【0084】
まず、被験者由来試料を、本発明に係る抗体1(例えば10-7G2A)を固定化した担体(本発明に係る抗体1を0.1ng~0.1mg含有)と接触させ、4~40℃で3分~20時間反応させて担体上に、本発明に係る抗体1とproHpの複合体、及び本発明に係る抗体1とproHpの複合体を生成させる。その後、PODで標識した抗体2を含有する溶液10~100μL(抗体2を0.01ng~0.1mg含有)と4~40℃で3分~20時間反応させて、抗体1-proHp―標識抗体2の複合体を担体上に生成させる。続いて、TMBZ溶液等の発色液を添加した後、一定時間反応させ、1N HCl等の反応停止液を加えて反応を停止させ、波長450nmの吸光度を測定する。
一方、濃度既知のproHpについて上記と同じ試薬を用い同様の操作を行って測定値と濃度の検量線を作成する。上記測定で得られた測定値を、上記検量線にあてはめることにより、proHpの量を求める。
又は、濃度既知のproHpについて上記と同じ試料を用い同様の操作を行って、同様に吸光度を測定する。被験者由来試料を用いて得られた吸光度の、濃度既知のproHpを用いて得られた吸光度に対する比率を求め、この値を被験者由来試料中のproHp濃度の相対値(relative unit)としてもよい。
【0085】
免疫学的測定方法によるproHpの測定に用いられる被検者由来試料は、還元処理したものであってもよい。還元処理の方法は、上記「還元処理」の項で説明した通りであり、それに用いられる試薬の具体例及び好ましい例、及び処理条件等の具体例及び好ましい例も同じである。
還元処理した被検者由来試料を用いて免疫学的測定方法によりproHpを測定する方法としては、下記方法Dが挙げられる。
方法D:下記工程(D-1)~(D-3)を含む方法:
(D-1)被検者由来試料を還元処理する工程、
(D-2)上記工程(D-1)で得られた試料と、上記抗体1aと、上記抗体1aとはエピトープが異なる、抗プロハプトグロビン抗体である抗体2とを接触させて、上記試料中のproHpと抗体1aと抗体2との複合体を形成させる工程、
(D-3)上記工程(D-2)で得られた複合体の量を測定することにより、proHp量を測定する工程。
【0086】
方法Dに用いられる抗体1aとしては、上記した方法Cで用いられる本発明に係る抗体1の他、proHpのα鎖に結合する抗体も挙げられる。proHpのα鎖に特異的に結合する本発明に係る抗体1が好ましい。
方法Dに用いられる抗体2としては、上記した方法Cで用いられる本発明に係る抗体2と同じものが挙げられるが、proHpのβ鎖に結合する抗体が好ましい。proHpのβ鎖のみを特異的に認識する抗体がより好ましい。
【0087】
方法Dにおいて、抗体1aとproHpと抗体2の複合体を測定する方法としては、酵素免疫測定法(EIA)、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法等が挙げられる。
【0088】
酵素免疫測定法で方法Dを実施する方法としては、例えば抗体1の代わりに上記した抗体1aとしてproHpのα鎖に結合する抗体を用い、抗体2としてproHpのβ鎖に結合する抗体を用いる以外は、上記の方法Cにおけるサンドイッチ法と同様の方法を実施する方法が挙げられる。
【0089】
例えば、還元処理した試料を抗体1aと反応させると、抗体1aはproHpのα鎖に結合する。次いで、proHpのβ鎖を認識する抗体(本発明に係る抗体2)を標識物質で標識した標識抗体2を反応させると標識抗体2はproHpのβ鎖に結合する。そこで、得られた抗体1a-proHp-標識抗体2の複合体の量を測定することにより、被検試料中のproHp量を得ることができる。
サンドイッチ法によりproHp量を測定する別の方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち。還元処理した試料を、proHpのβ鎖を認識する抗体(抗体2)と反応させると、抗体2はproHpのβ鎖に結合する。次いで抗体1a(抗体1a)を標識物質で標識した標識抗体1aと反応させると、標識抗体1aはproHpのα鎖に結合する。そこで、得られた標識抗体1a-proHp標識抗体2の複合体の量を測定することにより、被験者由来試料中のproHp量を得ることができる。
【0090】
-キャピラリー電気泳動法-
キャピラリー電気泳動法を利用した、方法DによるproHp量の測定法について、以下に説明する。
キャピラリー電気泳動法又はキャピラリーチップ電気泳動法でproHpを測定するには、上記した方法で還元処理した被験者由来試料を用い、例えばJ.Chromatogr. 593 253-258 (1992)、Anal.Chem. 64 1926-1932 (1992)、国際公開第2007/027495号等に記載の方法に準じて行えばよい。
【0091】
具体的には、例えば以下の方法が挙げられる。
即ち、被験者由来試料を上記した方法により還元処理して、試料中のHpをα鎖とβ鎖に解離させる。
次いで、還元処理した試料と、標識物質で標識した抗体1a(proHpのα鎖に結合する抗体を用いる。)と、proHpのβ鎖を認識する抗体(抗体2)とを混合し、25~40℃保温下に5秒~30分、好ましくは10秒~15分反応させる。上記反応により、proHpと標識抗体1との複合体、還元処理で生じたHpのα鎖と抗体1aとの複合体2、及び還元処理で生じたHpのβ鎖と抗体2との複合体3が生じる。その後、生じた複合体1と、複合体2及び複合体3を、例えばキャピラリーチップ電気泳動により分離し、例えば蛍光検出器等により標識物質に由来する量を測定する。得られた複合体1由来の測定値を、濃度既知のproHp溶液を使用して予め作成しておいたproHp濃度と上記測定値との関係を表す検量線に当てはめることにより、試料中のproHp濃度を求めることができる。
【0092】
免疫学的測定方法によりproHpを測定する更に別の方法として、下記方法Eが挙げられる。
方法E:下記工程(E-1)~(E-4)を含む方法:
(E-1)被験者由来試料を還元処理する工程、
(E-2)上記工程(E-1)で得られた試料と、上記抗体1aと、上記抗体1aとは認識するエピトープが異なる、proHpのα鎖を認識する抗体である抗体1-2と、proHpのβ鎖を認識する抗体である抗体2とを接触させて、proHpと抗体1aと抗体1-2と抗体2との複合体を形成させる工程、
(E-3)上記工程(E-2)で得られたproHpと抗体1aと抗体1-2と抗体2との複合体を分離する工程、
(E-4)上記工程(E-3)で分離した複合体の量を測定することにより、proHp量を測定する工程。
【0093】
方法Eは、方法Dにおいて抗体1aとは認識するエピトープが異なる、proHpのα鎖を認識する抗体(抗体1-2)を更に組み合わせて用いて、proHpを測定する方法である。
【0094】
方法Eの具体的な方法としては、例えばキャピラリー電気泳動又はキャピラリーチップ電気泳動が挙げられる。
即ち、被験者由来試料を上記した方法により還元処理して、試料中のHpをα鎖とβ鎖に解離させる。
次いで、還元処理した試料と、標識物質で標識した抗体1a(proHpのα鎖に結合する抗体を用いる。)と、proHpのβ鎖を認識する抗体(抗体2)と、proHpのα鎖を認識する抗体(抗体1-2)を混合し、25~40℃保温下に5秒~30分、好ましくは10秒~15分反応させる。上記反応により、proHpと標識抗体1aと抗体2と抗体1-2との複合体、還元処理で生じたHpのα鎖(α1、α2)と標識抗体1aと抗体1-2の複合体2、及び還元処理で生じたHpのβ鎖と標識抗体2の複合体3、が生じる。その後、得られた反応溶液を、例えばキャピラリーチップ電気泳動により複合体1と、複合体2及び複合体3とを分離し、例えば蛍光検出器等により標識物質に由来する量を測定する。得られた複合体1由来の測定値を、濃度既知のproHp溶液を使用して予め作成しておいたproHp濃度と上記測定値との関係を表す検量線に当てはめることにより、被験者由来試料中のproHp濃度を求めることができる。
【0095】
方法Eで行われる還元処理の方法は、上記「還元処理」の項で説明した通りであり、それに用いられる試薬の具体例及び好ましい例、及び処理条件等の具体例及び好ましい例も同じである。
【0096】
方法Eに用いられる抗体1aとしては、上記した方法Dで用いられる抗体1aと同じものが挙げられる。その好ましい具体例も同じである。
方法Eに用いられる抗体1-2としては、proHpのα鎖を認識する抗体であって、抗体1aとは認識するエピトープが異なる抗体であればよい。抗体1-2は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体がより好ましい。市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。また、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。上記抗体を、以下「本発明に係る抗体1-2」又は単に「抗体1-2」と記載する。
【0097】
抗体1-2は、抗体1-2の抗原結合断片であってもよく、具体的には、例えば抗体1-2のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であって、proHpのα鎖を認識するものが挙げられる。
[0114]
本発明に係る抗体1-2は、陰イオン性物質等の荷電キャリヤー分子で標識されていることが好ましい。具体的には、例えば核酸鎖で標識されていることが好ましい。この場合、抗体1-2は荷電キャリヤー分子と上記した検出に係る標識物質の両方で標識されていてもよい。
【0098】
本発明に係る抗体1-2の例としては、市販品としては、Haptoglobin Mouse anti-Human Monoclonal (26E11) Antibody(LifeSpan BioSciences.Inc製、マウス抗ヒトHp抗体、IgG、カタログNo.LS-C62011)等が挙げられる。
【0099】
キャピラリー電気泳動法及びキャピラリーチップ電気泳動法に用いられる本発明に係る抗体1、抗体2、抗体1-2の各抗体を標識する標識物質等の具体例等は、上記した「方法C」の「サンドイッチ法」に関する説明に記載された通りである。
また、キャピラリー電気泳動及びキャピラリーチップ電気泳動の具体的な実施方法及びそれに用いられる本発明に係る抗体1-2以外の試薬等の詳細は、上記した[方法C]において説明した通りである。
【0100】
上記した方法の中でも、還元処理しない試料を用いる方法Cが好ましい。
【0101】
本発明に係るproHpの測定方法は、用手法に限らず、自動分析装置を用いた測定系で行ってもよい。用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類等の組み合わせ等については、特に制約はなく、適用する自動分析装置の環境、機種に合わせて、或いは、他の要因を考慮にいれて最も良いと思われる試薬類等の組み合わせを適宜選択して用いればよい。
【0102】
〔治療効果の予測〕
本発明の予測方法は、被験者由来試料中のproHp量を上述の測定方法により測定することにより、被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測するという方法である。
【0103】
すなわち、本発明に係る抗体1を用い、上述の方法により被験者由来試料中のproHpの量を測定し、その結果を基に、治療効果を予測するための、proHpに関するデータ(例えばproHpの存在の有無、濃度、量の増加の程度等の情報)を得る。得られたデータを用いて、例えば下記の方法で、被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療効果の予測を行う。
【0104】
例えば、上記測定により得られたproHp量とあらかじめ設定された基準値(カットオフ値)とを比較することを更に含み、上記proHp量が上記基準値以下である場合に、上記被験者における免疫チェックポイント阻害薬による治療が有効性を示す可能性が高いと予測するための指標として上記proHp量を用いる。
【0105】
上記基準値は、がん患者のうち、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が認められた患者群及び認められなかった患者群のそれぞれの患者由来試料を用いて上記測定方法により試料中のproHp量を測定し、その値の境界値等を基に設定されればよい。治療効果が認められた患者群のproHp量の算術平均値を基準値と設定してもよい。
上記において、がん患者に対して「治療効果が認められた」及び「治療効果が認められなかった」の判定は、この分野で通常行われている対象のがんに関する治療効果判定基準に従って判定すればよい。例えば、以下の通りである。
Non-PD
・Stable disease:安定:変化が見られない
・Partial response:部分奏功:状態が改善した
・Complete response:完全奏効:がんの兆候がすべてなくなった
PD
・Progressive disease:進行:状態が悪化した
【0106】
本発明の治療効果の予測方法により、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が得られる蓋然性が高いと判定された被験者(患者)には、免疫チェックポイント阻害薬による治療をおこなうことを選択できる。
一方、本発明の治療効果の予測方法により、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が得られる蓋然性が低いと判定された被験者(患者)には、免疫チェックポイント阻害薬とは異なる他の治療を行うという治療方針を選択することができる。これにより、免疫チェックポイント阻害薬による治療において、治療効果が得られないのに副作用が現れる、といったことを避けることができる。
【0107】
本発明の治療効果の予測方法によれば、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測することができる。
【0108】
(データを得る方法)
本発明のデータを得る方法は、被験者由来試料中のproHp量を測定することを含む、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を予測するためのデータを得るための方法である。
上記データは、proHp量であることが好ましい。
proHp量の測定方法、及び、治療効果の予測方法の好ましい態様は、本発明の治療効果を予測する方法におけるこれらの好ましい態様と同様である。
【0109】
(キット)
本発明のキットは、本発明の治療効果を予測する方法におけるproHp量の測定、又は、本発明のデータを得るための方法におけるproHp量の測定のためのキットであって、proHpに特異的に結合する抗proHp抗体1、又はproHpに結合する抗体1aを含むものである。
【0110】
本発明のキットは、抗体2、抗体1-2及び還元剤のうち少なくとも1つを更に含んでもよい。これらの好ましい態様は上述の通りである。
特に、本発明のキットは、抗体1を含む場合には抗体1とはエピトープが異なる、抗proHp抗体である抗体2を更に含むことが好ましい。又は抗体1aを含む場合には抗体1aとはエピトープが異なる、抗proHp抗体である抗体2を更に含むことが好ましい。
【0111】
上記本発明のキットに含まれる本発明に係る抗体1(抗体1aの場合を含む)又は抗体2は、担体に結合したものであってもよい。担体及び上記抗体の担体への結合方法、及びこれらの好ましい例等も上述の本発明の治療効果の予測方法における説明の通りである。
【0112】
また、本発明に係る抗体1(抗体1aの場合を含む)又は抗体2は、標識物質で標識されていてもよい。標識物質及び上記抗体の標識方法、及びこれらの好ましい例等も上述の本発明の治療効果の予測方法における説明の通りである。
【0113】
更に、本発明に係る抗体1-2は、荷電キャリヤー分子で標識されているものである。その例についても上述の本発明の治療効果の予測方法における説明の通りである。
【0114】
上記本発明のキットにおける試薬中の抗体1(抗体1aの場合を含む)、抗体2、及び抗体1-2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。
【0115】
また、これらキットに含まれる試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤、共存物質の影響回避剤、標識物質検出用試薬等その他この分野で用いられているものであって、共存する試薬との安定性を阻害したり、proHpと抗体との反応又は結合を阻害したりしないものを有していてもよい。またこれら試薬類等の濃度範囲、pH等も、各々の試薬類が有する効果を発揮するために通常用いられる濃度範囲及びpH等を適宜選択して用いればよい。
【0116】
上記標識物質検出用試薬とは、本発明に係る抗体1又は抗体2が標識物質で標識されている場合、その標識を検出するものであり、標識物質の種類により適宜選択される。その具体例としては、例えばテトラメチルベンジジン、オルトフェニレンジアミン等の吸光度測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、ヒドロキシフェニル酢酸等の蛍光基質、CDP-Star TM、ルミノール等の発光物質、4-ニトロフェニルフォスフェート等の吸光度測定用試薬、4-メチルウンベリフェリルフォスフェート等の蛍光基質等が挙げられる。
【0117】
本発明のキットのそれぞれの構成要素の好ましい態様、具体例及び濃度等については、上述の本発明の治療効果の予測方法における説明の通りである。
【0118】
更に本発明のキットは、本発明に係る抗体1や抗体2の他に、上記抗体を用いたproHp量の免疫測定等の測定に必要な試薬を必要量備えていてもよい。
【0119】
また、本発明に係るキットは、更に電気泳動を実施するための試薬等を構成要素として含んでいてもよい。その各試薬については上述の通りであり、その具体例及び好ましい例等も同じである。
【0120】
本発明のキットを構成する抗体、及び上記試薬類は、それぞれ溶液状態、凍結状態、乾燥状態、又は凍結乾燥状態であってもよい。
【0121】
本発明のキットは、上記proHpを測定する際に用いられる検量線作成用のproHpの標準品が組み合わされていてもよい。上記標準品は、市販の標準品を用いても、公知の方法に従って製造されたものを用いてもよい。
【0122】
更にまた、本発明のキットには、本発明の治療効果の予測方法を行うための説明書等が含まれていてもよい。上記「説明書」とは、本発明の治療効果の予測方法の特徴、原理、操作手順、判定手順等が文章及び/又は図表により実質的に記載されている本発明のキットに含まれる試薬類の取扱説明書、添付文書、パンフレット(リーフレット)等を意味する。具体的には、例えば、(i)本発明に係る測定工程の原理、操作手順等が記載されたもの、(ii)本発明に係る測定工程及び判定工程の原理、操作手順等が記載されたもの等が挙げられる。
【0123】
本発明のキットを用いれば、本発明の治療効果の予測方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【実施例0124】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。「部」、「%」は特に述べない限り、質量基準である。
【0125】
実験例1 精製proHpの調製
(1)proHpのプラスミド構築
ヒトHp遺伝子型2 (Hp2)を含むpcDNA3.1-Hyg (+) vector (Invitrogen, Carlsbad, USA)を、公知の方法(Narisada M, Kawamoto S, Kuwamoto K, Moriwaki K, Nakagawa T, Matsumoto H, et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2008;377:792-6.)に従い、以下の方法で調製した。 ヒトHp発現ベクターを構築するために、ヒトHp遺伝子型2 (Hp2)の塩基配列の161番アミノ酸のアルギニンをグルタミンに置換したアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計し、合成した。なお、161番アミノ酸のアルギニンは、C1RLにより切断される部分である。
得られたDNA配列を鋳型として用い、以下の条件で、PCRを行った。
【0126】
Fプライマー:ccaagaatccggcaaacccagtgcagcagatcctgggtggac(配列番号4)
Rプライマー:GGCATCCAGGTGTCCACCCAGGATCTGCTGCACTGGGTTTGCC(配列番号5)
【0127】
PCR反応条件
98℃、10秒で初期熱変性の後、98℃で10秒→50℃で2分→68℃で8分を1サイクル行った後、以下の条件で30サイクルPCRを行った。
熱変性:98℃、10秒
アニーリング:50℃、15秒
伸長反応:68℃、8分
【0128】
得られたDNAフラグメントを、T4 DNA ligase (Promega, Madison, WI)を用いてpcDNA3.1-Hyg (+) vectorライゲーションした。
得られたベクターが上記アミノ酸が置換されたHp2のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むことを、シーケンシング分析で確認した。
【0129】
(2)HEK 293細胞からのproHpの精製
HEK293T (ヒト胎児腎由来)はAmerican Type Culture Collection (ATCC, Manassas, VA)から入手した。HEK 293Tは、10% fetal bovine serum (非動化処理、HyClone, Logan, UT), 100 U/mL penicillin,及び100 μg/mL strep tomycin(Nacalai Tesque Inc)を添加した高グルコース DMEM培地(ナカライテスク(株)製)で、湿分含有大気中、37 ℃、5 % CO2、95%空気の条件下に培養した。
培養後、HEK293T細胞を、上記「(1)proHpのプラスミド構築」で得られたアミノ酸変異Hp2遺伝子を含む発現ベクターpcDNA3.1-Hyg (+)で遺伝子導入した。24時間培養後、培地にハイグロマイシンB(富士フィルム和光純薬(株)製)を添加し、形質導入した細胞を2~3週間培養し、proHp過剰安定発現形質導入体を得た。
proHp過剰発現proHp産物を含有するHEK293T細胞の培養上清からproHp産物を回収し、10-7G2A (本発明者等の特許出願:国際公開第2020/241617号) を結合した担体を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーで精製した。精製したproHpの濃度はNano Drop 1000 spectrophotometer (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて測定した。
【0130】
実験例2 抗ヒトHpモノクローナル抗体の抗原性の確認
国際公開第2022/019298号に係るproHpの測定方法に用いられる抗体1であり、国際公開第2022/019298号の実施例1で得られた抗ヒトHpモノクローナル抗体(10-7G2A抗体)、及び市販のHaptoglobin Mouse Monoclonal Antibody(Proteintech Group, Inc, Catalog Number :66229-1-Ig)の抗原性を、以下の方法で確認した。
実験例1で得られたproHp産物を含有するHEK293T細胞の培養上清と試料用緩衝液(3-メルカプト-1,2-プロパンジオール含有)(×4)(富士フイルム和光純薬(株))を3:1で混合し試料とした。
次いで、試料用緩衝液で調製した試料4μL、分子量マーカーとしてワイドビューTMプレステインたん白質サイズマーカーIII(富士フイルム和光純薬(株))4μLを12.5%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。
得られた泳動ゲルを、Bio-Rad社のブロッティングシステムを用いて、セミドライでPVDF膜にプロトコールに従いブロッティングした。転写後のPVDF膜は、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社製)4%を含むりん酸緩衝液によりブロッキングした。その後、ペルオキシダーゼ標識した10-7G2A抗体、Haptoglobin Mouse Monoclonal Antibody(Proteintech Group, Inc, Catalog Number :66229-1-Ig)をブロックエース4%含有りん酸緩衝液で2000倍(10-7G2A抗体)、500倍(市販)に希釈した液に上記膜を浸漬し室温で1時間反応させた。反応後の上記膜を0.05%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート (Tween20)を含むりん酸緩衝液で3回洗浄した。洗浄後、上記膜をβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (還元型)(オリエンタル酵母工業(株))20mg、Nitro-TB(同仁化学研究所) 3mg、フェノール2mg、0.0025%過酸化水素を含むりん酸緩衝液10mLに10~30min浸漬して発色させた。発色後、精製水で上記膜を洗浄して反応を停止させた。
proHp産物を含有するHEK293T細胞の培養上清を試料とした結果を図1(10-7G2A)及び図2(市販抗体)に示す。両抗体ともproHpである57KDa近辺にバンドが見られた。
以上のことから、国際公開第2022/019298号に係る10-7G2A抗体、及び市販のHaptoglobin Mouse Monoclonal Antibody(Proteintech Group, Inc, Catalog Number :66229-1-Ig)を、以下抗proHp抗体として用いた。
【0131】
実施例1 proHpの測定
(1)抗体固定化プレートの調製
実験例2で抗原性を確認した10-7G2A抗体5μg/mL(50mM炭酸ナトリウム緩衝液,pH9.6)を、常法によりNUNC-IMMUNO MODULEプレート(コスモ・バイオ(株))に固定化した後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)1%を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)によりブロッキングし、10-7G2A抗体が固定化されたプレートを得た。
【0132】
(2)POD標識3-1抗体液の調製
国際公開第2017/204295号の実施例3で得られたβ鎖に反応性を有するがS-S結合が切断されたヒトHpには反応しない抗ヒトHpモノクロナール抗体である3-1抗体を用い、以下の方法でPOD標識した。
3-1抗体は常法によりFab'断片とした後、常法(石川栄治著、「酵素標識法」、学会出版センター,1991年、p.62の方法)によりペルオキシダーゼ(POD)標識した。次いで、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)10%を含むTBSで希釈し、POD標識3-1抗体液(1.06 μmol/L)を得た。使用時はブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)10%を含むTBSで5000倍希釈して使用した。使用時の、POD標識3-1抗体液の濃度は、2.12×10-1 pmol/Lである。
【0133】
(3)発色液等の調製
下記の各試液を調製した。
発色液:5 mmol/L 3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液(シグマアルドリッチ社製)
反応停止液:1N HCl
洗浄液:0.05 %ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート (Tween20)を含むトリス緩衝生理食塩水
【0134】
(4)試料
ニボルマブを投与する前の、31例の進行性腎細胞がん患者の血清を採取し、試料とした。
(5)proHpの測定
iMark TM Microplate Reader(バイオラッド社)を使用し、以下の方法で試料中のproHp量を測定した。
【0135】
上記(1)で得られた抗体固定化プレートのウェルに試料50 μLを加え、室温で60分反応させた。反応後、ウェルに300μ/ウェルの洗浄液を加えて、ウェルを3回洗浄した。次いで、(2)で得られたPOD標識3-1抗体液を50 μL/ウェル加え室温で60分反応させた。反応後、ウェルに300μ/ウェルの洗浄液を加えて、ウェルを3回洗浄した。次に、ウェルに、発色液 50 μL/ウェルを加え、室温で20分反応させた。反応停止液を50μL/ウェル添加し、反応を停止させた。波長450nmでの吸光度を測定した。
【0136】
比較例1 市販の抗体キットを用いたHpの測定
AssayMax Human Haptoglobin ELISA kit (Assaypro, St. Charles, IL)を用いて、試料中のHp量を測定した。
【0137】
上記実施例1と比較例1の測定法を用いて、31例の進行性腎細胞がん患者に対して免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブを投与する前の血清中のproHp量およびHp量を測定した後に、ニボルマブを投与し、がんの進行を確認した。
投与3ヶ月後、31例のHpの表現型を確認し、Hpをほぼ合成できない表現型であるHp1-1型と考えられる3例を除外し、がんが進行した群(Progressive disease (PD))7例、進行しなかった群(non-PD)21例に分け、以下の分析を行った。
【0138】
まず、ニボルマブ投与前の血清中のproHp量およびHp量について、それぞれROC分析を行った。
分析結果を図3に示す。
図3において、図3(a)はニボルマブを投与する前の血清中のproHp量から作成したROC曲線を、図3(b)はニボルマブを投与する前の血清中のHp量から作成したROC曲線を、それぞれ示す。
図3から明らかな通りに記載のように、Progressive disease (PD) 7例、Non-PD 21例において、ニボルマブ投与前の血清中proHp量についてのAUC値は0.816(図3(a))、ニボルマブ投与前の血清中Hp量についてのAUC値は0.683であった(図3(b))。すなわち、ニボルマブ投与前の血清中proHp量を測定することにより、有意にPDを検出できるといえる。このことから、ニボルマブ投与前の血清中のproHpの測定がニボルマブの治療効果予測に有用であることがわかった。
【0139】
また、図4に、ニボルマブ投与前の血清中proHp量(図4(a))又はHp量(図4(b))を示した。図4(a)及び(b)において、各ドットは各患者のproHp量又はHp量を示す。また、図4(a)及び図4(b)に記入した横実線はROC曲線より設定したカットオフ値を示している。
図4中、PはWilcoxon検定によるP値を表す。
図4から明らかな通り、Non-PDとPD間において、ニボルマブ投与前の血清中proHp量では有意差が認められたが、Hp量では有意差は認められなかった。
【0140】
ニボルマブ投与前の血清中proHp量(表中の「proHp」)、及び、ニボルマブ投与前の血清中Hp量(表中の「t-Hp」)について、算術平均値(表中の「平均」)、標準偏差(表中の「標準偏差」)、Non-PDとPDとの間でのWilcoxon検定によるP値(表中の「P値」)、ROC曲線によるAUC値と、ROC曲線より設定したカットオフ値を、表1にそれぞれまとめた。
【表1】
以上の分析結果より、治療前に血清中のproHpがカットオフ値以上であれば、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が低いと推測できることが分かった。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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