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特開2024-144174カーボンナノチューブ複合体およびその製造方法、並びにその利用
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  • 特開-カーボンナノチューブ複合体およびその製造方法、並びにその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144174
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合体およびその製造方法、並びにその利用
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/42 20060101AFI20241003BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20241003BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 35/45 20240101ALI20241003BHJP
   B01J 23/52 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01J23/42 M
B22F1/00 K
B22F1/16
B22F9/24 E
B01J37/34
B01J37/16
B01J37/00 A
B01J35/45
B01J23/52 M
H01M4/96 B
H01M4/90 M
H01M4/88 C
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028947
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023054133
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】植竹 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小久保 研
(72)【発明者】
【氏名】清水 太陽
【テーマコード(参考)】
4G169
4K017
4K018
5H018
5H050
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC33B
4G169BC75B
4G169CC31
4G169CC40
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA03X
4G169EA03Y
4G169EA06
4G169EA10
4G169EB14X
4G169EB14Y
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC04X
4G169EC04Y
4G169EC05X
4G169EC05Y
4G169EC25
4G169FB43
4G169FB58
4G169FB66
4G169FB68
4G169FC08
4K017AA03
4K017BA02
4K017EJ02
4K017FB07
4K018AB07
5H018AA01
5H018AA10
5H018BB03
5H018BB17
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE05
5H018HH00
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H050AA01
5H050DA10
5H050DA16
5H050EA02
5H050EA10
5H050EA30
5H050FA17
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA15
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】触媒活性が改善されたカーボンナノチューブ複合体を実現する。
【解決手段】本発明の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体は、長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層カーボンナノチューブと、該単層カーボンナノチューブ上に固定された金属ナノ粒子とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層カーボンナノチューブと、該単層カーボンナノチューブ上に固定された、金属ナノ粒子とを含む、バインダレスのカーボンナノチューブ複合体。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部分が酸化されており、酸化された表面における金属元素の価数の平均値が、0より大きく2未満である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項3】
カーボンナノチューブ複合体全体の重量を100重量%とした場合に、金属ナノ粒子の含有量が1~20重量%である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項4】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合体を含む、成形体。
【請求項5】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合体を含む、電極触媒。
【請求項6】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合体を含む、電池用電極。
【請求項7】
請求項5に記載の電極触媒、または請求項6に記載の電池用電極を備えている、電池。
【請求項8】
長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層カーボンナノチューブと、金属ナノ粒子とを含む溶液に対して、還元処理を行う固定化工程を含む、バインダレスのカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ複合体に含まれる金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部分が酸化されており、酸化された表面における価数の平均値が、0より大きく2未満である、請求項8に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項10】
前記還元処理が放射線還元により実施される、請求項8に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法によりカーボンナノチューブ複合体を得る工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体を成形する工程とを含む、成形体の製造方法。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブ複合体を成形する工程において、加圧を行う、請求項11に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ複合体およびその製造方法、並びにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子とカーボンナノチューブ(CNT)との複合体(CNT複合体)は、電極触媒等に使用されている。CNT複合体としては種々のものが製造されており、例えば、特許文献1には表面に高分子層を備える炭素担体とナノ粒子とを含む、担体-ナノ粒子複合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-538134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来技術に記載されているCNT複合体は、CNTの表面にナノ粒子を固定化させるために、バインダを使用する必要があった。しかしながら、バインダとして絶縁性のものを使用した場合、CNT複合体の触媒活性が低下し、その結果電池性能の低下を引き起こすという課題があった。
【0005】
本発明の一態様は、上記課題を鑑みたものであり、触媒活性が改善されたCNT複合体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、特定のCNTを使用することにより、バインダを使用することなくCNTの表面に金属ナノ粒子を固定化でき、バインダレスのCNT複合体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、CNTの表面に金属ナノ粒子を固定化する際には、バインダを用いることが当業者の技術常識であり、本発明の一実施形態に係る特定のCNTを使用することによってバインダレスのCNT複合体が得られるなどということは予想できない。
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成を含む。
<1>長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層カーボンナノチューブと、該単層カーボンナノチューブ上に固定された、金属ナノ粒子とを含む、バインダレスのカーボンナノチューブ複合体。
<2>前記金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部分が酸化されており、酸化された表面における金属元素の価数の平均値が、0より大きく2未満である、<1>に記載のカーボンナノチューブ複合体。
<3>カーボンナノチューブ複合体全体の重量を100重量%とした場合に、金属ナノ粒子の含有量が1~20重量%である、<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ複合体。
<4><1>~<3>のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ複合体を含む、成形体。
<5><1>~<3>のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ複合体を含む、電極触媒。
<6><1>~<3>のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ複合体、<4>に記載の成形体または<5>に記載の電極触媒を含む、電池用電極。
<7><5>に記載の電極触媒、または<6>に記載の電池用電極を備えている、電池。<8>長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層カーボンナノチューブと、金属ナノ粒子とを含む溶液に対して、還元処理を行う固定化工程を含む、バインダレスのカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
<9>前記カーボンナノチューブ複合体に含まれる金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部分が酸化されており、酸化された表面における金属元素の価数の平均値が、0より大きく2未満である、<8>に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
<10>前記還元処理が放射線還元により実施される、<8>または<9>に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
<11><8>~<10>のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法によりカーボンナノチューブ複合体を得る工程と、前記カーボンナノチューブ複合体を成形する工程とを含む、成形体の製造方法。
<12>前記カーボンナノチューブ複合体を成形する工程において、加圧を行う、<11>に記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、触媒活性が改善されたCNT複合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係るCNT複合体のTEM観察像を示す図である。
図2】本発明の実施例に係るCNT複合体のPXRD測定結果を示す図である。
図3】本発明の実施例に係るCNT複合体のEXAFS解析結果を示す図である。
図4】本発明の実施例に係るCNT複合体のXANES解析結果、およびEXAFS解析結果を示す図である。
図5】本発明の実施例に係るCNT複合体の電気化学測定結果を示す図である。
図6】本発明の実施例に係るCNT複合体のXANES解析結果を示す図である。
図7】本発明の実施例に係るCNT複合体のEXAFS解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔1.CNT複合体〕
本発明の一実施形態に係るバインダレスCNT複合体は、長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層CNTと、該単層CNT上に固定された金属ナノ粒子とを含む。
【0011】
従来、CNTの表面に金属ナノ粒子を固定化する方法として、絶縁性のバインダを使用する方法が使用されていた。しかしながら、バインダはCNTの表面にも付着するため、活性表面積を低下させ、内部抵抗を増大させる。そのため、従来のCNT複合体は触媒活性が低く、特に高出力の充放電を行う電池に適用した場合、電池特性が低下する。
【0012】
前記CNT複合体は、上述した構成を有することにより、バインダレスのCNT複合体とすることができる。そのため、高い触媒活性と、低い内部抵抗により、高機能な電極触媒、または高性能な電池(キャパシタ)として使用することが可能となる。本明細書において、「バインダレスのCNT複合体」を単に「CNT複合体」とも記載する。
【0013】
本明細書中「バインダレス」とは、前記CNT複合体の構成成分としてバインダが含まれないことを意味する。ただし、前記CNT複合体は、CNT複合体の原料に由来する、または製造工程において不可避的に混入し得る、または検出限界以下の少量のバインダを含んでいてもよい。前記バインダは、特に限定されず、通常電池に使用される任意のバインダが含まれる。
【0014】
<CNT>
本発明の一実施形態に係るCNT複合体は、CNTを含む。前記CNTは、長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層CNTである。CNTが上述した構成を有することにより、バインダを使用することなく金属ナノ粒子をCNT表面に固定化することが可能となる。
【0015】
CNTの長さは10μm以上であり、好ましくは150μm以上である。CNTの長さの上限は特に限定されないが、例えば10cm以下であってもよい。CNTの長さが10μm以上であれば、CNT同士が絡み合いやすくなるため、バインダレスの複合体を製造しやすい。CNTの長さは例えば電子顕微鏡観察や赤外吸収分光法などにより求めることができる。
【0016】
CNTの直径は例えば1~5nmである。CNTの直径は例えば電子顕微鏡観察やラマン分光法により求めることができる。また、CNTは、ラマン分光法によって測定されるGバンド/Dバンドの強度比が5以下であり得る。
【0017】
CNTの炭素純度は90%以上であり、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。CNTの炭素純度の上限は、例えば100%以下であってもよい。CNTの純度が99%以上であることにより、不純物と、電池の電解液との反応が生じにくくなり、他の材料への影響が低減される。CNTの炭素純度は、熱重量分析による400℃での重量減少または800℃での重量減少から求めてもよい。例えばCNTは、熱重量分析による400℃での重量減少または800℃での重量減少が10重量%以下であってもよく、5重量%以下であってもよく、1重量%以下であってもよい。例えばCNTは、熱重量分析による400℃での重量減少が2重量%以下であり得、800℃での重量減少が1重量%以下であり得る。
【0018】
CNTのBET比表面積は、600m/g以上であり、好ましくは800m/g以上、より好ましくは1000m/g以上である。CNTのBET比表面積の上限は例えば1300m/g以下であってもよい。BET比表面積が600m/g以上であれば、電池に使用した場合に多くの電荷を蓄えることができる。BET比表面積は、液体窒素の77Kにおける吸脱着等温線を測定し、この吸脱着等温曲線からBrunauer、Emmett、Tellerの方法から計測することによって測定できる。BET比表面積は、例えば市販のBET比表面積測定装置によって測定することができる。
【0019】
CNTが主として未開口である場合、比表面積は好ましくは600m/g以上であり、より好ましくは800m/g以上、さらに好ましくは1000m/g以上である。CNTが主として未開口である場合、比表面積は1300m/g以下であってもよい。また、CNTが主として開口している場合、比表面積は好ましくは1600m/g以上、2500m/g以上である。
【0020】
CNTは従来公知の方法によって得ることができるが、好ましくは、CNT成長用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して化学的気相成長法によりカーボンナノチューブを合成する際に、系内に微量の酸化剤を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させる製造方法(スーパーグロース法)により製造される。当該スーパーグロース法は、国際公開第2006/011655号、およびKenji Hata et. al. "Water-Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity-Free Single-Walled Carbon Nanotubes" SCIENCE VOL306,p.1362-1364,19 November 2004に開示されている。スーパーグロース法によって製造されたカーボンナノチューブであれば、上述したCNTのパラメータを満たしやすく、バインダを使用することなく金属ナノ粒子をCNT表面に固定化できるため、より好ましい。
【0021】
CNTの含有量は、CNT複合体全体の重量を100重量%とした場合に、好ましくは80~99%、より好ましくは80~95重量%、さらに好ましくは80~90重量%である。
【0022】
<金属ナノ粒子>
本発明の一実施形態に係るCNT複合体は、金属ナノ粒子を含む。CNT複合体の炭素表面に金属ナノ粒子が固定されることにより、CNT複合体の導電性が向上する。
【0023】
金属ナノ粒子は、例えば白金、金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、モリブデン、オスミウム、イリジウム、レニウム、バナジウム、タングステン、コバルト、鉄、ニッケル、ビスマス、スズ、クロム、チタン、銅、またはこれらの合金等を含んでもよい。これらの中でも、触媒活性の観点から、好ましくは白金、金、銀、パラジウムであり、より好ましくは白金である。金属ナノ粒子の表面は、少なくとも一部分が酸化されていてもよい。好ましくは、金属ナノ粒子の表面は全部ではなく部分的に酸化されている。金属ナノ粒子表面の酸化された部分における、金属元素の価数の平均値は、好ましくは0より大きく2未満であり、より好ましくは0より大きく1未満である。なお、金属ナノ粒子表面が部分的に酸化されていること、および金属元素の価数の平均値は、実施例に記載のXANES解析によって確認することができる。
【0024】
金属ナノ粒子の含有量は、CNT複合体の重量全体を100重量%とした場合に、好ましくは1~20重量%、より好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは、10~20重量%である。金属ナノ粒子の含有量が1重量%以上であれば、触媒活性を十分に得られる。また、金属ナノ粒子の含有量が20重量%以下であれば、CNT複合体におけるCNT含有量が十分となる。金属ナノ粒子の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)測定から算出することができる。
【0025】
金属ナノ粒子の平均粒径は、好ましくは1~10nmであり、より好ましくは1~5nmである。金属ナノ粒子の平均粒径が上記範囲であれば、金属ナノ粒子がCNTの表面状に分散しやすくなる。金属ナノ粒子の平均粒径とは、一次粒子径の平均粒径を意味し、透過型電子顕微鏡(TEM)、粉末X線回折(XRD)、X線吸収スペクトル(XAS)などにより測定される。
【0026】
金属ナノ粒子の形状は、例えば球状であってもよい。本明細書において、球状とは、完全な球形のみを意味するものではなく、略球形の形状のものを含むことができる。例えば、前記金属ナノ粒子は、球状の外表面が平坦でなくてもよいし、1つの金属ナノ粒子において曲率半径が一定でなくてもよい。金属ナノ粒子の形状は直方体、棒状、四面体等の任意の形状であってもよい。金属ナノ粒子が球状でない場合、金属ナノ粒子のサイズは、好ましくは直径が1~10nmである。
【0027】
<その他>
CNT複合体は、所望の形状に成形することができる。例えば、後述する電極等に使用する場合は、CNT複合体を集積させてフィルム状としてもよい。CNT複合体をフィルム状とする場合、厚みは例えば0.1μm~1000μmであってもよい。また、その場合密度は0.05~1.0g/cmであってもよい。
【0028】
〔2.CNT複合体を含む成形体、電極触媒、電池用電極および電池〕
<成形体>
本発明の一実施形態に係る成形体は、上述のCNT複合体を含む。上述の通りCNT複合体はバインダレスであるが、成形体としては、成形性および強度の観点からバインダを含んでもよい。あくまで、CNTと金属ナノ粒子の複合化においては、バインダレスである。バインダとしては、絶縁性バインダを用いてもよいし、導電性バインダを用いてもよい。ただし、本発明の一実施形態に係る成形体を、電極触媒や電池用電極に用いる場合には、抵抗がより低い、導電性バインダの方が好ましい。ここで、導電性バインダとしては特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基またはカルボキシル基等の親水性官能基が導入されたものが挙げられ、より具体的にスルホン酸基が導入されたフッ素樹脂としてはNafion(登録商標)等が挙げられる。また絶縁性バインダとしては特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0029】
<電極触媒>
本発明の一実施形態に係る電極触媒は、上述のCNT複合体を含む。電極触媒はCNT複合体の固体であってもよいし、またはCNT複合体を溶媒に溶解させたスラリー、ペースト等であってもよい。一実施形態において、前記電極触媒は、CNT複合体からなってもよく、成形体からなってもよい。電極触媒は正極、負極のいずれの電極にも使用できる。
【0030】
前記CNT複合体は絶縁性のバインダを含有しないため、CNT表面がバインダにより被覆されず、CNTの活性表面積が低下しない。これにより、前記CNT複合体を含む電極触媒は、高い触媒活性を発揮することが可能となる。当該電極触媒は、例えば有機電解合成にも利用できる。
【0031】
<電池用電極>
本発明の一実施形態に係る電極は、上述のCNT複合体、成形体または電極触媒を含む。上述した前記CNT複合体はバインダレスであるため、得られる電池用電極は、高出力の充放電に適している。電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。
【0032】
前記電極は、基板(集電体)を含んでいてもよい。基板(集電体)としては、グラッシーカーボン、グラフェンコーティング基板、透明導電性(ITO)基板、アルミ基板、銅基板等が挙げられる。
【0033】
電極の製造方法は特に限定されず、例えばCNT複合体を基板に塗布する方法が挙げられる。より具体的には、電極触媒と溶媒とを含むスラリーを基板に塗布し、次いで乾燥させることにより、電極を得てもよい。前記溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、エタノール等が挙げられる。また、別の例としては、電極は上述した電極触媒からなる。すなわち、電極はCNT複合体からなってもよく、成形体からなってもよい。この場合、例えば電極触媒を、バインダを使用せずに固化させてもよく、バインダを使用して固化させてもよい。
【0034】
<電池>
本発明の一実施形態に係る電池は、上述の電極および/または電極触媒を備える。すなわち、当該電池は、上述のCNT複合体を含む電極を正極および負極のいずれか一方として備えてもよいし、正極または負極用の電極触媒として備えてもよい。当該電池は上述のCNT複合体を含む正極と、上述のCNT複合体を含まない負極とを備えていてもよく、また当該電池は上述のCNT複合体を含む負極と、上述のCNT複合体を含まない正極とを備えていてもよい。好ましくは、当該電池は正極および負極の両方が上述のCNT複合体を含む電極である。
【0035】
前記電池は、電解液を備えていてもよい。電解液は、水系電解液であってもよく、非水系電解液であってもよい。水系電解液としては、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化鉄水溶液、塩化アルミニウム水溶液、塩化亜鉛水溶液、塩化ニッケル水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、硫酸カルシウム水溶液、硫酸鉄水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硫酸ニッケル水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化亜鉛水溶液、硫酸水溶液等が挙げられる。水系電解液は、中性、酸性、アルカリ性のいずれであってもよい。非水系電解液としては、電解質と有機溶媒を含む電解液であれば特に限定されない。前記電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩およびLiAlCl等のリチウム塩、等の金属塩が挙げられる。前記有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類および含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0036】
前記電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしてはガラスフィルター、セルロースセパレータ、ポリオレフィン系多孔質フィルム等が挙げられる。
【0037】
〔3.CNT複合体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るCNT複合体の製造方法は、長さが10μm以上、炭素純度が90%以上、BET比表面積が600m/g以上である単層CNTと、金属ナノ粒子とを含む溶液に対して、還元処理を行う固定化工程を含む。CNT、および金属ナノ粒子については、上記〔1.CNT複合体〕に記載した事項を適宜援用できる。
【0038】
上記固定化工程によれば、バインダを使用することなくCNTの表面にナノ粒子を固化することができる。そのため、絶縁性のバインダによるCNT複合体の触媒活性の低下、および内部抵抗の上昇が発生しない。
【0039】
本発明の一実施形態に係るCNT複合体はバインダレスのCNT複合体である。そのため、上記固定化工程において使用される、CNTと金属ナノ粒子とを含む溶液は、バインダを含まないことが好ましい。
【0040】
上記固定化工程において実施される還元処理の方法は、特に限定されない。すなわち、還元処理は放射線還元、化学還元等のいずれの方法によって実施されてもよい。(i)高い透過性により大スケールでの実施が可能、(ii)還元が同時多発的に起こることにより、CNT表面における金属ナノ粒子の合一が抑制され、均一な金属ナノ粒子が生成される、(iii)バルクの材料、または固定化しにくい材料にも適用できる等の観点から、前記還元処理は、放射線還元により実施されることが好ましい。
【0041】
前記放射線還元は例えば、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、電子線、中性子線、陽子線、重水素線等から選択される1種類以上を照射することによって実施されてもよい。これらの中でも、好ましくはガンマ線、電子線であり、より好ましくはガンマ線である。放射線の照射量は例えば10~100kGyであり、好ましくは20~40kGyである。また、照射する放射線の周波数は、1017~1022Hzが好ましい。放射線還元は、例えば室温(10~30℃)で実施してもよい。
【0042】
前記化学還元は、公知の還元剤を添加することによって実施されてもよい。還元剤としては例えば、チオ尿素、ジエチルチオ尿素、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミノボラン、次亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化アルミニウムリチウム、アルコール、クエン酸、アスコルビン酸等が挙げられる。還元剤の添加量は、金属ナノ粒子1モルに対して、例えば1~100モルであってもよい。
【0043】
前記還元工程の前に、溶液を脱気することが好ましい。溶液を脱気することにより、溶存酸素による酸化を抑制することができる。脱気は例えばアルゴン雰囲気下にて、10~30分程度実施されてもよい。
【0044】
本発明の一実施形態に係るCNT複合体の製造方法は、CNTと金属ナノ粒子を溶媒中に分散させて混合する工程、還元処理を行った溶液をろ過および乾燥する工程をさらに含んでいてもよい。
【0045】
CNTと金属ナノ粒子とを分散させる溶媒としては、例えば水、トルエン、2-プロパノール、o-ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されない。放射線還元が実施可能となる観点から、好ましくは水である。これらに限定されない。また、CNTと金属ナノ粒子とを溶媒中で混合する工程は、例えば室温(10~30℃)で実施してもよく、1~24時間程度攪拌を実施してもよい。さらに、必要に応じて攪拌の前後に30秒~240分超音波を加えてもよい。
【0046】
溶液のろ過は、例えばメンブレン等を使用して行うことができる。また、溶液の乾燥は、60~100℃で5~15時間、真空中で加熱乾燥することにより実施することができる。
【0047】
本発明の一実施形態に係るCNT複合体の製造方法により製造されたCNT複合体は、上述した電極触媒、および電池用電極の製造に使用することができる。したがって、本発明の一実施形態は、上記CNT複合体からなる電極触媒の製造方法、または上記CNT複合体からなる電池用電極の製造方法に関する。
【0048】
〔4.成形体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る成形体の製造方法は、上述のカーボンナノチューブ複合体の製造方法によりカーボンナノチューブ複合体を得る工程と、前記カーボンナノチューブ複合体を成形する工程とを含む。上述の通り、カーボンナノチューブ複合体を得る工程はバインダレスで行われるが、カーボンナノチューブ複合体を成形する工程ではバインダを用いてもよく、バインダを用いなくてもよい。
【0049】
また、前記カーボンナノチューブ複合体を成形する工程において、加圧を行ってもよい。加圧における圧力は、5~20MPaであってもよく、10~15MPaであってもよい。加圧の前に乾燥を行ってもよく、加圧の後に乾燥を行ってもよい。乾燥は、例えば60~100℃で5~15時間、真空中で加熱乾燥することにより実施することができる。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0051】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0052】
〔実施例1〕
以下の方法により、白金ナノ粒子がCNT表面に固定化されたCNT複合体を製造した。
1. 0.1重量%CNT分散液(商品名:ZEONANO(登録商標)SG101、日本ゼオン株式会社製)を6.6mLと、KPtCl(Sigma-Aldrich社製)を1.0μmolとを2-プロパノール(1%v/v)70μLに溶解させて、溶液を得た。使用したCNTの長さは10μm以上であり、炭素純度は99%以上、BET比表面積は600m/g以上であった。
2. アルゴン雰囲気下にて、20分間溶液の脱気を行った。
3. 溶液に対して、室温にてガンマ線を20kGy照射した。
4. 0.20μm孔のメンブレンを使用して、ろ過を行った。
5. 80℃で12時間、真空乾燥させることにより、1.75重量%のPtナノ粒子がCNT表面に固定化されたフィルム状のCNT複合体を得た。
【0053】
〔実施例2〕
ガンマ線の代わりに、電子線を20kGy照射したこと以外は実施例1と同様にして、CNT複合体を得た。
【0054】
〔実施例3〕
ガンマ線照射の代わりに、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を10μmol添加したこと以外は実施例1と同様にしてCNT複合体を得た。
【0055】
〔試験1.透過型電子顕微鏡(TEM)測定〕
TEM測定には、エタノールに分散させた実施例1、2、3のCNT複合体の粉末をCuグリッド(支持膜なし、200メッシュ)に滴下し、減圧条件下で一晩乾燥させたサンプルを用いた。TEMはEM Japan製の商品名:U1003を使用した。使用した加速電圧は200kVとした。
【0056】
各CNT複合体のTEMによる観察結果を図1に示す。図1より、実施例1~3のいずれの複合体表面にもPtナノ粒子が観察された。実施例1、2のナノ粒子の直径はおよそ1.7nmであった。一方で、実施例3のPtナノ粒子は、実施例1、2に比べて粒が大きいことがわかった。したがって、電子線およびガンマ線照射で作製したCNT複合体は比較的Ptナノ粒子の分散性が高かったのに対し、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)還元で調製したCNT複合体においては、Ptナノ粒子同士が合一しやすいことが示された。
【0057】
〔試験2.粉末X線回折(PXRD)測定〕
CNT複合体の表面に生成したPtナノ粒子の結晶構造を調べるために、PXRD測定を反射法により行った。PXRD測定は、リガク製、商品名SmartLabによって実施した。測定には、実施例1のCNT複合体を遠心分離することで分離した粉末を用いた。CNT複合体の粉末をSi無反射試料板に圧着することによってサンプルを調製し、5°から70°の範囲で測定を行った。
【0058】
測定結果を図2に示す。図2より、Pt 111面、およびPt 200面の領域に反射ピークが観測された。したがって、CNT複合体の表面にPtナノ粒子が生成していることがわかった。また下記式(1)のシェラー式から結晶子サイズを求めたところ1.7nmとなり、試験1において透過型電子顕微鏡(TEM)で観測したものと同程度であることがわかった。
【0059】
【数1】
【0060】
式(1)中、Dは結晶子サイズ、Kはシェラー定数、λはX線波長、βは半値幅、θはBragg角である。
【0061】
〔試験3.X線吸収微細構造(XAFS)測定〕
生成したPtナノ粒子の局所構造および電子状態を調べるため、Pt L吸収端XAFS測定を行った。XAFS測定は、高エネルギー加速器研究機構製の、商品名:フォトンファクトリー BL-9Aにより実施した。測定は透過法で行った。放射光はSi(111)面の二分光結晶を用いて単色化したものを用い、Pt箔の吸収端の中点のエネルギーが11564eVになるようにエネルギー校正した。実施例1または実施例2のCNT複合体粉末を適量と、窒化ホウ素とをめのう乳鉢を用いて30分以上混合したものを、直径10mmのペレットに成型することにより、サンプルを調製した。
【0062】
得られたスペクトルの、広域X線吸収微細構造(EXAFS)の解析結果を図3に示す。図3中、experimentはサンプルの実測値、fittingは計測値を示す。測定結果を解析したところ、Ptの第一近接に存在しているPtの平均配位数は5.5となった。この解析結果は、Ptナノ粒子が直径2nm以下のサイズであるという事実に対応しており、TEMにより観測したナノ粒子が、サンプル全体においても同様の状態であることを支持するデータである。
【0063】
得られたスペクトルの、X線吸収端近傍構造(XANES)の解析結果を図4に示す。図4のXANES解析結果は、Ptナノ粒子表面のPtの酸化状態を示すグラフである。また、図4には、EXAFS解析によるPtナノ粒子に含まれるPtの結合状態を示すグラフも示す。図4のXANES解析結果のグラフより、ピーク強度は、Pt箔(foil)、実施例2のCNT複合体、実施例1のCNT複合体、PtOの順に大きくなることがわかった。このことはCNT表面に固定化されたPtナノ粒子の表面のPtはある程度酸化されており、Ptの価数の平均が0より大きく2未満であることを示唆している。実際に、図4に示されるCNT複合体のEXAFS解析結果において、Pt-O結合に対応する1.8Å付近のピークが観測されたことからも、サンプルの調製時に、Ptナノ粒子がある程度の表面酸化を受けていることがわかる。
【0064】
〔試験4.電気化学測定〕
PtClの添加量を、CNT複合体においてPtが3重量%となる量にしたこと以外は実施例1と同様にして、3重量%PtCNT複合体を得た。電気化学測定は、正極側に製造した3重量%PtCNT複合体、負極側にPt、参照電極にAg/AgClを用いて行った。電解液として0.5mol/Lの硫酸水溶液を用い、空気雰囲気下、10mVs-1の掃引速度で実験を行った。また、比較対象として、正極に40重量%Pt/C触媒(商品名0.3 mg/cm 40% Platinum on Vulcan - Carbon Paper Electrode、Fuelcellstoreより購入)を使用して電気化学測定を行った。
【0065】
電気化学測定の結果を図5に示す。図5より、酸化側では1.2V(vs.Ag/AgCl)付近でピークの立ち上がりが観測されたため、水の酸化反応(2HO→O+4H+4e)が進行することがわかった。比較対象であるPt/Cを使用して同様の実験を行ったところ、活性を示さなかった。そのため、この反応性の違いはCNT複合体に特有のものであると考えられる。また、図5より、還元側では0.4V(vs.Ag/AgCl)付近にピークの立ち上がりが観測され、酸素還元活性を示すことがわかった。以上より、本発明の一実施形態に係るCNT複合体は比較対象である40重量%Pt/Cよりも高電位側にシグナルが観測されているため、高い触媒活性を示すことがわかった。
【0066】
〔実施例4〕
以下の方法により、金ナノ粒子がCNT表面に固定化されたCNT複合体を製造した。0.1重量%CNT水分散液(商品名:ZEONANO(登録商標)SG101、日本ゼオン株式会社製)13.2mLに、HAuCl(商品名:塩化金酸、田中貴金属社製)を1.0μmol加え、0℃に冷却し、分散液を得た。その分散液に対して攪拌しながらNaBH水溶液(NaBHとしては10μmol)を添加し、0℃で1時間攪拌した。得られた分散液を、親水性PTFEメンブレンフィルター(ポアサイズ0.2μm)を用いて濾過し、水、エタノールで洗浄した後、30分程度風乾させた。得られたCNT複合体に対して、0.5重量%のNafion(登録商標)を含む2-プロパノール溶液を168μL、マイクロピペットで均一に滴下し、15分程度乾燥させた。その後、80℃で12時間、真空乾燥させることにより、3重量%のAuナノ粒子がCNT表面に固定化されたフィルム状のCNT複合体を含む成形体を得た。Auナノ粒子の含有量は、ICP測定から算出した値である。
【0067】
〔実施例5〕
真空乾燥の後にステンレス製の板で挟み、油圧プレスにより10MPa、10~30秒程度加圧したこと以外は実施例4と同様にして、成形体を得た。
【0068】
〔実施例6〕
Nafion(登録商標)を含む2-プロパノール溶液を滴下せず、かつ、真空乾燥の前にステンレス製の板で挟み、油圧プレスにより10MPa、10~30秒程度加圧したこと以外は実施例4と同様にして、成形体を得た。
【0069】
〔実施例7〕
Nafion(登録商標)を含む2-プロパノール溶液を滴下せず、かつ、真空乾燥の後にステンレス製の板で挟み、油圧プレスにより10MPa、10~30秒程度加圧したこと以外は実施例4と同様にして、成形体を得た。
【0070】
〔比較例1〕
HAuClを加えず、且つ、Nafion(登録商標)を含む2-プロパノール溶液を滴下しなかったこと以外は実施例4と同様にして、成形体を得た。
【0071】
〔試験5.X線吸収微細構造(XAFS)測定〕
生成したAuナノ粒子の局所構造および電子状態を調べるため、Au L3吸収端XAFS測定を行った。XAFS測定は、大型放射施設SPring-8 BL14B2で実施した。測定は蛍光法で行った。放射光はSi(111)面の二分光結晶を用いて単色化したものを用い、Au箔の吸収端の中点のエネルギーが11919eVになるようにエネルギー校正した。
【0072】
図6は、XAFS実験から得られたX線吸収端近傍構造(XANES)のスペクトルを示す。XANESは、物質の電子状態や構造に関する情報を示すグラフである。加圧成形とバインダの有無の違いによる4サンプル(実施例4~7)のCNT複合体について測定した。その結果、すべての成形体サンプルにおいて、リファレンスのAu箔と同様のスペクトルを示したことから、NaBHによって金イオンが0価の金ナノ粒子に還元されたことがわかった。
【0073】
また、広域X線吸収微細構造(EXAFS)の解析結果を図7に示す。XANESの解析結果と同様に、すべてのサンプルで、Au-Au結合の存在を示すピークが2.7~3.2Åに観測された。
【0074】
〔試験6.1-インダノールの酸化反応〕
1-インダノールの酸化反応の検討を行った。電解反応は隔膜で隔てられた反応容器(divided cell)を用い、隔膜としてはセレミオン(登録商標)膜を用いた。アノードには作製したCNT複合電極、カソードに白金電極を用いた。参照電極としてはAg/AgClを用い、0.4Vの定電位電解を行なった。溶媒としては水/アセトニトリル=4:1の混合溶媒を用い、電解質として過塩素酸リチウム(0.2mol/L)、塩基として水酸化カリウム(0.05mol/L)を用いた。反応容器に、電解質を加えた溶媒を満たし、隔膜で隔てられた一方にアノードおよび参照電極、もう一方にカソードを浸漬した。アノード側に1-インダノールと塩基を所定の濃度になるように加えた。反応は室温空気下で6h反応後の、電極触媒上の金全量に対する触媒回転数(TON)で触媒活性を評価した。
【0075】
実験の結果を表1に示す。なお、実施例4の成形体を用いたが電圧を印可しなかった参考例の結果も示す。表1中、yはyes(あり)、nはno(なし)を示す。加圧について、yは真空乾燥前に加圧を行ったことを示し、yは真空乾燥後に加圧を行ったことを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
Nafion(登録商標)をバインダとして用いて作製した成形体を電極触媒として用いて反応を行ったところ、空気酸化反応が進行し、1-インダノールの酸化反応生成物である1-インダノンがTON=450で得られた(実施例4)。酸化反応は金ナノ粒子で修飾していない電極を用いた場合(比較例1)や、電圧を印加していない条件(参考例)では進行しなかった。このことから本反応の進行には、金ナノ粒子の存在と電圧の印加の両方が必要であることがわかった。
【0078】
また加圧工程の追加による反応性の変化について検討した。実施例5では真空乾燥後に加圧を行った成形体を電極触媒として用いた。その結果、TONが614まで向上した。実施例6、7ではNafion(登録商標)をバインダとして用いずに作製した成形体を電極触媒として用いて反応を検討した。その結果、実施例6に示すように真空乾燥前に加圧を行った成形体を電極触媒として用いた場合に、特に高い活性を示し、TONが1272まで向上した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の一態様は、電極、電極触媒、電池材料として好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7