(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145788
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】アセトインを生成する組換え細菌及びそれを用いたアセトインの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20241004BHJP
C12P 7/04 20060101ALI20241004BHJP
C12P 7/26 20060101ALI20241004BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20241004BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/04
C12P7/26
C12N15/31
C12N15/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058286
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「再生可能エネルギーを原料とした有用物質産生菌の分子育種」「再生可能エネルギーを活用した有用物質高生産微生物デザイン」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】中島田 豊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 節
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】村上 克治
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC09
4B064AC31
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC06
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA19Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065BC03
4B065CA05
4B065CA09
4B065CA51
(57)【要約】
【課題】微生物発酵によって、糖からアセトインを高効率で得られるようにする。
【解決手段】アセトインを生成する組換え細菌は、糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有する細菌由来の組換え細菌であって、遺伝子工学的手法により導入された、アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子と、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有する細菌由来の組換え細菌であって、
遺伝子工学的手法により導入された、アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子と、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子とを含むことを特徴とするアセトインを生成する組換え細菌。
【請求項2】
前記細菌は、好熱性細菌である請求項1に記載の組換え細菌。
【請求項3】
前記好熱性細菌は、好熱性酢酸生成菌である請求項2に記載の組換え細菌。
【請求項4】
前記好熱性酢酸生成菌は、モーレラ(Moorella)属細菌であることを特徴とする請求項3に記載の組換え細菌。
【請求項5】
前記細菌は、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する内在性酵素を有し、
前記遺伝子工学的手法により導入された、前記アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する酵素発現遺伝子は、前記内在性酵素と同一の酵素を発現することを特徴とする請求項1に記載の組換え細菌。
【請求項6】
前記アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子は、Bacillus subtilis IPE5-4由来のアセト乳酸デカルボキシラーゼ発現遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の組換え細菌。
【請求項7】
受領番号NITE AP-03865として寄託された請求項1に記載の組換え細菌。
【請求項8】
糖の存在下で請求項1~7のいずれか1項に記載の組換え細菌を培養してアセトインを生成させるステップを備えていることを特徴とするアセトインの製造方法。
【請求項9】
生成されたアセトインを回収するステップをさらに備えていることを特徴とする請求項8に記載のアセトインの製造方法。
【請求項10】
前記細菌として好熱性細菌を用い、前記アセトインを生成させるステップにおいて、前記組換え細菌を55℃~65℃で培養することを特徴とする請求項8に記載のアセトインの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトインを生成する組換え細菌及びそれを用いたアセトインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで人類は石炭や石油等の化石燃料の消費によって産業を発達させてきた。しかし、これら化石燃料は限りある資源であるため枯渇が懸念されており、代替エネルギーや代替材料、代替製法の開発は急務である。
【0003】
例えば、アセトイン(IUPAC名:3-ヒドロキシ-2-ブタノン)は香料として用いられ、またゴム原料となるブタジエンの合成前駆物質、及び炭化水素ジェット燃料の製造に用いられるメチルエチルケトンの合成前駆物質として用いられている。アセトインは果物や野菜に含まれており、このような天然資源から抽出することが可能である。しかし、アセトイン供給の大部分は化石燃料からの化学合成に依存しており、上述のような将来的な化石燃料の枯渇により、アセトインを十分に供給できなくなることが懸念されている。このため、近年においては、微生物発酵法によってアセトインを生成する種々の技術の開発が進められており、アセトインの新たな代替製法として注目を集めている。なお、アセトインは米国エネルギー省が定めたバイオベースの基幹化合物三十のうちの一つに指定されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には遺伝子組換え微生物を利用して、メタノールからアセトインを生成する技術が提示されている。また、非特許文献2には天然由来好熱細菌Geobacillus XT15株を利用して、トウモロコシの湿式粉砕から得られる粉末状の副産物を含有する窒素源からアセトインを生成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Drejer EB, Chan D, Haupka C, Wendisch VF, Brautaset T, Irla M. Methanol-based acetoin production by genetically engineered Bacillus methanolicus. Green Chem. 2020;22:788-802.
【非特許文献2】Xiao, Z., Wang, X., Huang, Y. et al. Thermophilic fermentation of acetoin and 2,3-butanediol by a novel Geobacillus strain. Biotechnol Biofuels 5, 88 (2012). https://doi.org/10.1186/1754-6834-5-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の非特許文献1に開示された組換え微生物によってアセトインを生成するためには基質としてメタノールを用いる必要があるが、メタノールの供給についても化石燃料からの合成に依存している。このため、天然資源を基質として用いるアセトインの代替製法を開発することが望ましい。一方、従来の非特許文献2に開示された天然由来好熱細菌を用いる方法では、天然資源を基質としてアセトインを製造する技術が提示されている。しかし、非特許文献2に開示された微生物では、アセトイン以外にも多種の副生物が生成し、アセトインの生成効率が高いとは言えない。このため、未だ更にアセトインの生成効率が高い方法と共に、その方法を可能とするための微生物が求められている。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、微生物発酵によって、糖からアセトインを高効率で得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有する細菌に対して、遺伝子工学的手法により、アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子と、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子とを導入することで、アセトインを高効率で生成可能な組換え細菌を提供できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
具体的に、本発明に係るアセトインを生成する組換え細菌は、糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有する細菌由来の組換え細菌であって、遺伝子工学的手法により導入された、アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子と、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る組換え細菌は、糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有しており、さらに、当該代謝において生成されるアセト乳酸からアセトインを生成する外来の酵素を発現する。このため、当該組換え細菌を糖の存在下で培養することによってアセトインを生成でき、すなわち天然資源を基質としてアセトインを生成可能な組換え細菌を提供することができる。また、本発明に係る組換え細菌は、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する酵素発現遺伝子をさらに導入している。このような当該組換え細菌は、糖の存在下で培養することによってアセトインを高効率で生成することができる。
【0011】
本発明に係る組換え細菌において、前記細菌は、好熱性細菌であることが好ましい。
【0012】
好熱性細菌は、中温菌等と比較して代謝反応速度が大きく、アセトイン生成に有利である。また、好熱性細菌は、多くの汚染微生物の生育温度より高い温度が至適生育温度となり、当該汚染微生物のコンタミネーションによるアセトインの生成効率の低下や副生物生成の問題が生じにくい。
【0013】
本発明に係る組換え細菌において、前記好熱性細菌は、好熱性酢酸生成菌であることが好ましい。また、本発明に係る組換え好熱性細菌において、前記好熱性酢酸生成菌は、モーレラ(Moorella)属細菌であることが好ましい。
【0014】
このような好熱性細菌は、糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有するため、アセトインを生成する組換え細菌として好適に使用できる。
【0015】
本発明に係る組換え細菌において、前記細菌は、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する内在性酵素を有し、前記遺伝子工学的手法により導入された、前記アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する酵素発現遺伝子は、前記内在性酵素と同一の酵素を発現することが好ましい。
【0016】
このようにすると、組換え細菌が糖からアセトインを高効率で生成するため、アセトインの生成効率を向上させた組換え細菌を提供することができる。
【0017】
本発明に係る組換え細菌において、前記アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子は、Bacillus subtilis IPE5-4由来のアセト乳酸デカルボキシラーゼ発現遺伝子とすることができる。
【0018】
本発明に係る組換え細菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に受領日2023年3月27日、受領番号NITE AP-03865として寄託された細菌であることが好ましい。
【0019】
本発明に係るアセトインの製造方法は、糖の存在下で上記本発明に係る組換え細菌を培養してアセトインを生成させるステップを備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るアセトインの製造方法によると、上記本発明に係る組換え細菌を糖の存在下で培養するため、上述の通り、当該組換え細菌の代謝によって高効率でアセトインを得ることができる。
【0021】
本発明に係るアセトインの製造方法は、生成されたアセトインを回収するステップをさらに備えていてもよい。
【0022】
本発明に係るアセトインの製造方法は、前記細菌として好熱性細菌を用い、前記アセトインを生成させるステップにおいて、前記組換え細菌を55℃~65℃で培養することが好ましい。
【0023】
本発明に係るアセトインの製造方法において好熱性細菌を用いた場合、上記温度範囲である55℃~65℃において特に優れた代謝速度を示し、アセトインを高効率で生成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るアセトインを生成する組換え細菌及びそれを用いたアセトインの製造方法によると、微生物発酵によって、糖からアセトインを高効率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1(a)はアセト乳酸からアセトインを生成する反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子(bsALDC発現遺伝子)及びアセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子(pfo発現遺伝子)を細菌に導入する方法を説明するための図であり、
図1(b)はY72 pduL2::pfo-bsALDC株のアセトイン生成能を評価したHPLCの結果を示す図である。
【
図2】
図2(a)はアセト乳酸からアセトインを生成する反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子(bsALDC発現遺伝子)を細菌に導入する方法を説明するための図であり、
図2(b)はY72 pduL2::bsALDC株のアセトイン生成能を評価したHPLCの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
本発明の一実施形態は、糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有する細菌由来の組換え細菌である。特に、本実施形態の組換え細菌は、遺伝子工学的手法により導入された、アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子と、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子とを含む。
【0028】
本実施形態の親細菌は、糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成する代謝経路を有するものであれば特に限定されず、例えば酢酸生成菌を用いることができる
。また、本実施形態の親細菌は、好熱性細菌であることが好ましく、例えば好熱性酢酸生成菌などを用いることができる。古細菌が含まれてもよい。好熱性酢酸生成菌とは、至適生育温度が45℃以上であり、糖などの有機物に加えて、一酸化炭素、又は二酸化炭素と水素といったガス基質を利用して酢酸を生成する細菌である。好熱性酢酸生成菌は、水素等の電子供与体をエネルギー源として利用できるが、水素以外にも一酸化炭素やメタノールを利用することができる(Arch Microbiol (2003) 179, p315-320を参照)。さらに、
本実施形態においては、モーレラ属細菌であることが好ましく、そのような細菌として例えばモーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)又はモーレラ・サーモオートトロフィカ(Moorella thermoautotrophica)を用いることができる。モーレラ属細菌以
外の例としては、サーモアナエロバクター・キヴイ(Thermoanaerobacter kivui)が挙げられ、古細菌の例としてはアルカエオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)が挙げられる。
【0029】
本実施形態に係る組換え細菌は、代謝によって糖から中間体としてのピルビン酸を経てアセト乳酸を生成し、また、アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素を発現でき、すなわち糖からアセトインを生成する代謝経路が導入されている。具体的に、下記式に係る代謝経路が導入されている。
【化1】
【0030】
本実施形態の組換え細菌において、糖から中間体としてのピルビン酸の生成は、例えば解糖系により行うことができる。また、本実施形態の組換え細菌において、ピルビン酸からアセト乳酸の生成は、例えばピルビン酸からアセト乳酸を生成する脱炭酸反応を触媒する内在性の酵素により行われる。
【0031】
本実施形態の組換え細菌において、アセト乳酸からアセトインの生成は、例えばアセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素を用いて行うことができる。当該酵素としてはアセト乳酸デカルボキシラーゼ(Acetolactate decarboxylase)(以下「ALDC」ともいう)を用いることができるが、当該細菌の至適生育温度で作用することができるものであれば特に限定されない。例えば、アセト乳酸からアセトインを生成する外来の酵素としては、Bacillus subtilis IPE5-4由来のアセト乳酸デカルボキシラーゼ(bsALDC、遺伝子番号Genbank accession number KY231247)を用いることができる。
【0032】
また、本実施形態に係る組換え細菌は、遺伝子工学的手法により導入された、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子を含む。これにより、当該組換え細菌による糖からアセトインへの生成効率を高めることができる。アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素としてはピルビン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ(Pyruvate Ferredoxin Oxidoreductase)(以下「pfo」ともいう)を用いることができるが、当該細菌の至適生育温度で作用することができるものであれば特に限定されない。例えば、組換え細菌としてモーレラ・サーモアセチカを用いる場合、モーレラ・サーモアセチカ由来のピルビン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼ(pfo、遺伝子番号Moth_0064)を用いることができる。すなわち、本実施形態の組換え細菌は、アセチル‐CoAからピルビン酸
を生成する反応を触媒する内在性酵素を有し、また、遺伝子工学的手法により導入された、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する酵素発現遺伝子は、内在性酵素と同一の酵素を発現することが好ましい。このようにすると、より多くのアセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素を発現できて、当該組換え細菌による糖からアセトインへの生成効率を更に高めることができる。
【0033】
本実施形態に係る組換え細菌は、アセチル‐CoAから酢酸を生成するまでの代謝経路に関わる酵素の一部が欠損されているものであってもよい。そのために、種々の遺伝子工学的手法を用いることができる。その手法は、細菌のゲノム上の当該酵素の発現遺伝子を除去する又は変異させる等により、当該酵素を安定的に発現させないことができるものであれば特に限定されない。当該遺伝子工学的手法としては、例えば相同組換えを利用した遺伝子ノックアウト法等を用いることができる。
【0034】
欠損させるアセチル‐CoAから酢酸を生成するまでの代謝経路に関わる酵素は、当該代謝経路に関わる酵素であれば特に限定されない。好熱性酢酸生成菌の場合、炭素源から種々の酵素の作用によりアセチル‐CoAを生成した後に、所定の酵素の作用によりアセチル‐CoAからCoAを脱離させ、リン酸を付加させてアセチルリン酸を生成し、その後、他の酵素によってリン酸を脱離させて酢酸を生成する。このため、これらの過程に関わる酵素の一部の発現を欠損させることが好ましい。欠損させる酵素としては、例えばアセチル‐CoAからアセチルリン酸を生成するホスホアセチルトランスフェラーゼとすることができる。また、モーレラ属の場合、例えば2つのホスホアセチルトランスフェラーゼのうちの1つの酵素を欠損させることができ、具体的には、ホスホアセチルトランスフェラーゼPduL1及びPduL2のうちの1つの酵素を欠損させることができる。また、PduL2を欠損させることが好ましい。
【0035】
本実施形態において、アセト乳酸からアセトインを生成する脱炭酸反応を触媒する外来の酵素発現遺伝子及びアセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子は、種々の遺伝子工学的手法を用いることによって細菌内に導入される。当該手法は、それらの酵素を安定的に発現できるように細菌内に導入させることができるものであれば特に限定されない。本実施形態において、当該遺伝子工学的手法としては、例えば相同組換えを利用した染色体への遺伝子ノックイン法等を用いることができる。特に、上記アセチル‐CoAから酢酸を生成するまでの代謝経路に関わる酵素の一部を欠損させるのと同時に上記2種の酵素発現遺伝子を導入することが好ましい。すなわち、細菌のゲノム上における欠損させるためのアセチル‐CoAから酢酸を生成するための酵素の遺伝子座と上記2種の酵素発現遺伝子とを相同組換えすることにより、アセチル‐CoAから酢酸を生成するまでの代謝経路に関わる酵素の一部を欠損させるのと同時に上記2種の酵素発現遺伝子を導入することが好ましい。これにより、1度の工程で上記内在酵素の発現遺伝子の欠損と上記2種の酵素発現遺伝子の導入とを同時にできる。
【0036】
本実施形態に係る組換え細菌としては、例えば受領番号NITE AP-03865の細菌を用いることができる。当該細菌は、モーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)を親株として、内在のホスホアセチルトランスフェラーゼのうちの1つであるPduL2の発現遺伝子が欠損され、且つBacillus subtilis IPE5-4由来のアセト乳酸デカルボキシラーゼの発現遺伝子及びモーレラ・サーモアセチカ由来のピルビン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼの発現遺伝子が導入されたものである。
【0037】
本発明に係る他の実施形態は、上記組換え細菌を用いたアセトインの製造方法である。本実施形態の方法は、上記組換え細菌を培養してアセトインを生成させるステップを備えている。組換え細菌の培養は、アセトインを生成できるように糖の存在下で行われる。糖の種類は、特に限定されるものではなく、例えば五炭糖、六炭糖、及びこれらの糖を組み合わせたものを用いることができる。また、組換え細菌の培養は、上記の糖に加えて水素、メタノールなどの少なくとも1つの電子供与体の存在下で行うものであってもよい。
【0038】
また、組換え細菌の培養は、可能な限り高い効率でアセトインを生成させるために、組換え細菌として好熱性細菌を用い、当該細菌の至適生育温度で行われることが好ましく、モーレラ属細菌を用いる場合、55℃~65℃で培養することが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る方法において、上記細菌の培養によってアセトインを生成させた後に、当該アセトインを回収するステップをさらに備えていることが好ましい。アセトインを回収する方法は、他の成分からアセトインを分離して、純度の高いアセトインを得ることができる方法であれば特に限定されない。そのような方法として、例えば細菌の培養液の蒸留によってアセトインを分離精製する方法を用いることができる。本実施形態において、上記組換え細菌は、例えば親株として酢酸生成菌を用いた場合、アセトインと酢酸とを生成するが、アセトインの沸点は148℃であり、酢酸は118℃であり、蒸留によりそれらの分離は容易にできて好ましい。
【実施例0040】
以下に、本発明に係るアセトインを生成する組換え好熱性細菌及びそれを用いたアセトインの製造方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0041】
[使用菌株、プラスミド及びプライマー]
本実施例で使用した菌株、プラスミド及びPCRプライマーをそれぞれ下記表1~表3に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
[基本培地及び基本溶液の調製]
(モーレラ細菌用基本培地の調製)
本実施例では、C. ljungdahliiの培養に用いられるATCC 1754 PETC培地を改変したものを基本培地として用いた。改変として、塩酸システイン・一水和物の最終濃度を1.2g/Lに減らし、Na2S・9H2Oを除いた。培地の作製において、還元剤(システイン及びTi(III)クエン酸)及び基質(フルクトース等)は別に調製し
た。嫌気的に培地を調製する方法として、Hungateの方法(Hungate, R. E., 1969, Methods Microbiol., 3B: 117-132)を改変したMillerらの方法(Miller, T. L.
et al., 1974, Appl. Microbiol., 27: 985-987)を用いた。各成分の組成は以下の通りである。1.0gのNH4Cl、0.1gのKCl、0.2gのMgSO4・7H2O、0.8gの NaCl、0.1gのKH2PO4、0.02gのCaCl2・2H2O、
1.0gの酵母エキス(酵母エキス無添加の場合は0.01gのウラシル)、2.0gのNaHCO3、10mlの微量元素溶液、10mlのビタミン溶液、1000mlのイオン交換水、(必要に応じて20gのアガー)、(必要に応じて2.0gのフルクトース)。調製手順は以下の通りである。まず、上記各成分を混合し、5N HClでpH6.9
に調整後、イオン交換水で900mLにメスアップし、培地を湯浴でボイル(20分間)した。その後、CO2を注入しながら氷中で冷却(20分間)し、予めCO2を注入しておいた125mLバイアル瓶に18mLずつ分注し、さらに、CO2を3分間注入した後、ブチルゴム栓及びアルミシールで密閉した。その後、当該バイアル瓶をオートクレーブ(121℃、15分)した。
【0046】
(微量元素溶液の調製)
イオン交換水に以下の成分を溶解後、1Lにフィルアップした。2.0gのニトリロトリ酢酸(ニトリロトリ酢酸を溶解させた後、KOHでpH6.0に調整)、1.0gのMnSO4・H2O、0.8gのFe(SO4)2(NH4)2・6H2O、0.2gのCoCl2・6H2O、0.2mgのZnSO4・7H2O、20.0mgのCuCl2・2H2O、20.0mgのNiCl2・6H2O、20.0mgのNa2MoO4・2H2O、20.0mgのNa2SeO4、20.0mgのNa2WO4。溶液は遮光し4℃で保存した。
【0047】
(ビタミン溶液の調製)
イオン交換水に以下の成分を溶解後、1Lにフィルアップした。2.0mgのビオチン、2.0mgの葉酸、10.0mgのピリドキシン塩酸塩、5.0mgのチアミン・HCl、5.0mgのリボフラビン、5.0mgのニコチン酸、5.0mgのカルシウム D-(+)-パントテン酸、0.1mgのビタミンB12、5.0mgのp-アミノ安息香酸、5.0mgのチオクト酸。溶液は遮光し4℃で保存した。
【0048】
(フルクトース溶液(200g/L)の調製)
フルクトースをイオン交換水と混合して200g/Lの濃度で調製し、バイアル瓶に分注した後、20分間ボイルした。その後、N2ガスを注入しながら氷冷し20分間冷却後、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉した。その後、オートクレーブ(121℃、15分)を行った後、室温保存した。
【0049】
(還元剤システイン(60g/L)の調製)
L-システイン・HCl・H2Oをイオン交換水と混合して60g/Lの濃度で調製し
、バイアル瓶に分注した後、20分間ボイルした。その後、N2ガスを注入しながら氷冷し20分間冷却後、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉した。その後、オートクレーブ(121℃、15分)を行った後、遮光し室温保存した。培地使用前に1/50量を添加した。
【0050】
(還元剤Ti(III)クエン酸溶液の調製)
イオン交換水にクエン酸ナトリウム二水和物(11.76g)を加えて、200mLにメスアップした。20分間ボイルして脱気後、N2を注入しつつ氷中で20分間冷却した。その後、20%塩化チタン(III)水溶液(ナカライテスク)(10.6mL)を混合し、湯煎で沈殿を溶解させた飽和炭酸ナトリウム水溶液でpH6.0に調整後、予めN2を注入しておいた125mLバイアル瓶に80mLずつ分注した。さらにN2を3分間注入した後、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉した。オートクレーブ(121℃、15分)後に遮光し室温保存した。これを培地に対して1、2滴添加した。
【0051】
(ウラシル溶液(10mg/mL)の調製)
ウラシル(300mg)をジメチルスルホキシド(DMSO)(30mL)に溶解した。バイアル瓶に移し、ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉、遮光し室温保存した。なお、ウラシル溶液は、ウラシル要求性変異株(ΔpyrF株)培養時のみ培地に対して1/1000量を添加した。
【0052】
(モーレラ属細菌用エレクトロポレーション・バッファー(272mMスクロース溶液)の調製)
スクロースをミリQ水に溶解し、272mM溶液を調製した。20分間ボイルして脱気後、N2を注入しつつ氷中で20分間冷却した。ブチルゴム栓及びアルミキャップで密閉し、オートクレーブ(121℃、15分)後に室温保存した。
【0053】
(LB培地の作製)
10gのトリプトン(ナカライテスク)、5gの酵母エキス(ナカライテスク)、10gのNaClを1000mLのイオン交換水に溶かしてオートクレーブした。プレート作製時には寒天末を1.5%添加した。
【0054】
(2×YT培地の作製)
16gのトリプトン(ナカライテスク)、10gの酵母エキス(ナカライテスク)、5gのNaClを1000mLのイオン交換水に溶かしてオートクレーブした。プレート作製時には寒天末を1%添加した。
【0055】
(SOB培地の作製)
950mLのイオン交換水に対して、20gのトリプトン(ナカライテスク)、5gの酵母エキス(ナカライテスク)、0.5gのNaCl、及び10mLの250mMKClを溶解後、pHを7.0に調整し、イオン交換水で1000mLにメスアップした。オートクレーブ後、使用直前にオートクレーブ滅菌した2MMgCl2(5mL)を添加した。
【0056】
[使用機器]
本実施形態において使用した機器は以下の通りである。
インキュベーター
BR-43FH(タイテック):振とう培養(55℃、180rpm)
TVA660DA(アドバンテック):静置培養(55℃)
IS-61(ヤマト科学):静置培養(37℃)
LTE-1010(EYELA):静置培養(55℃)
SLI-220(EYELA):静置培養(37℃)
遠心分離機
MX300(トミー精工)
Centrifuge 5410(エッペンドルフ)
MDX310(トミー精工)
Centrifuge 5430R(エッペンドルフ)
吸光光度計
Ultrospec 3300 pro(アマシャムバイオサイエンス):菌体濃度測定、DNA、RNA濃度測定
UV-1600(島津製作所):酵素活性測定
GeneQuant1300(GEヘルスケア):菌体濃度測定
ND-1000(NanoDrop):DNA濃度測定
pHメーター
F-21(堀場製作所):電極はCM057-BNC(CEMCO)を使用
HM-30G(TOA):電極はGST-5727C(TOA)を使用
PCR装置
PC808(アステック)
GeneAmp PCR System 2400(パーキンエルマー)
T100(バイオラッド)
ブロックインキュベーター BI?525A(アステック)
超音波破砕機 Digital Sonifier(ブランソン)
qRT-PCR Light Cycler 1.5(ロシュ・ダイアグノスティックス
)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置(詳細は後に説明する。)
【0057】
HPLCのシステムは、以下の通りである。
PU-2080 Plus(HPLCポンプ)、RI-2031 Plus(RIディテクター)、CO-2065 Plus(カラムオーブン)、AS-2057 Plus(オートサンプラー)を用いた(いずれもJASCO)。移動相は0.1%(v/v)H3PO4を用い、0.7mL/分の流速で流した。分離カラムには、RSpakKC-811(Shodex)を用いた。また、ガードカラムとして、RSpak KC-G(Sho
dex)を分離カラムの前に設置した。カラムオーブンの温度は、60℃に設定した。測定時にはサンプルの上清に、内部標準として20mMのクロトン酸を含む0.2%(v/v)H3PO4を1:1で混合し、酢酸セルロース親水性フィルター0.20μm(Dismic(登録商標)−13CP)で濾過してから測定を行った。オートサンプラーのインジェクションボリュームは10μLとした。
【0058】
[組換え細菌(モーレラ・サーモアセチカ)の作製]
(大腸菌の培養)
大腸菌をLB培地、2×YT培地及びSOB培地を使用し、37℃で培養した。カナマイシン耐性株のスクリーニングはカナマイシン(50μg/mL)を含むプレートを使用した。
【0059】
(プラスミドpHM23の構築)
モーレラ・サーモアセチカ細菌の内在性ホスホアセチルトランスフェラーゼの発現遺伝子(PduL2)の破壊、及びG3PDプロモーターにつないだBacillus subtilis IPE5-4由来のアセト乳酸デキルボキシラーゼの発現遺伝子(bsALDCの発現遺伝子)を導入するプラスミドpHM23は、以下の手順で構築した。まず、bsALDC遺伝子は配列をモーレラ・サーモアセチカ細菌での発現に最適となるようコドン最適化を行い、人工遺伝子合成(Genewiz)により用意した。bsALDC遺伝子の配列(遺伝子番号Genbank accession number KY231247)は、配列番号21に示している。続いて、人工合成したbsALDC遺伝子を鋳型として、プライマーセットJK109、JK110を用いて、KOD -plus-(TOYOBO)酵素を用いてPCR法により増幅した。プロトコルは添付のマニュアルに従った。同様に、pK18-ΔpduL2::ldh(Iwasaki et al.,2017, Appl. Environ. Microbiol. 83(8) e00247-17)を鋳型として、プライマーセットJK52、JK71を用いて、pduL2の上流と下流それぞれ約1kbp、G3PDプロモーター及びpyrFマーカーがpK18mobベクターにつながれた配列を同様にPCR法により増幅した。これら2つのPCR増幅DNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いてつなげ、大腸菌DH5a株(TOYOBO)を形質転換することでクローニングした。得られたDNAコンストラクトは、サンガーシーケンスによりPCRエラーなどがないことを確認した。得られたプラスミドpHM23の配列は、配列番号22に示している。
【0060】
(プラスミドpPD-pfo-bsALDCの構築)
モーレラ・サーモアセチカ細菌の内在性ホスホアセチルトランスフェラーゼの発現遺伝子(PduL2)の破壊、及びG3PDプロモーターにつないだモーレラ・サーモアセチカ由来のピルビン酸フェレドキシンオキシドレダクターゼの発現遺伝子(pfo発現遺伝子)及び外来のアセト乳酸デキルボキシラーゼの発現遺伝子(bsALDC発現遺伝子)を導入するプラスミドpPD-pfo-bsALDCは、以下の手順で構築した。まず、pk18-kan2を鋳型として、プライマーセットJK52、JK74を用いてPCR法により増幅したDNA断片と、コドン最適化して人工合成したcat遺伝子(Genewiz)を鋳型として、プライマーセットJK75、JK76を用いてPCR法により増幅した断片とをそれぞれ得た。これら2つのPCR増幅断片をIn-Fusion HD
Cloning Kit(タカラバイオ)を用いてつなげ、大腸菌DH5a株(TOYOBO)を形質転換することで構築した。なお、PCR酵素はKOD -plus-(TOYOBO)を用いた。次に、モーレラ・サーモアセチカ由来のpfo発現遺伝子は、モーレラ・サーモアセチカY72株のゲノムDNAを鋳型として、プライマーセットTF1、TF2及びKOD ONE(TOYOBO)酵素を用いてPCR法により増幅した。プロトコルは添付のマニュアルに従った。モーレラ・サーモアセチカ由来のpfo発現遺伝子の配列(遺伝子番号Moth_0064)は、配列番号23に示している。同様に、上記pHM10を鋳型として、プライマーセットTF3、TF4を用いるインバースPCRにより、pk18-kan2と相同する配列を増幅した。これら2つのPCR増幅DNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて連結し、大腸菌DH5a株(TOYOBO)を形質転換することでプラスミドpPY-pfoを得た。続いて、上記のように作製したプラスミドpHM23を鋳型として、プライマーセットTF9、TF11を用いてPCR法により増幅した断片と、プラスミドpPY-pfoを鋳型としてプライマーセットTF3、TF12を用いてPCR法により増幅した断片とをそれぞれ得た。これら2つのPCR増幅DNA断片をIn-Fusion HD
Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて連結し、大腸菌DH5a株(TOYOBO)を形質転換することでプラスミドpPY-pfo-bsALDCを得た。次に、pPY-pfo-bsALDCを鋳型として、プライマーセットTF25、TF30を用いてPCR法により増幅した断片と、上記のように作製したpHM23を鋳型としてプライマーセットTF8、TF26を用いてPCR法により増幅した断片とをそれぞれ得た。これら2つのPCR増幅DNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて連結し、大腸菌DH5a株(TOYOBO)を形質転換することでプラスミドpPD-pfo-bsALDCを得た。得られたDNAコンストラクトは、サンガーシーケンスによりPCRエラーなどがないことを確認した。得られたプラスミドpPD-pfo-bsALDCの配列は、配列番号24に示している。
【0061】
(モーレラ・サーモアセチカへのアセトイン合成遺伝子群導入)
Kita et al.,2013, Biosci. Biotechnol. Biochem., 77 (2), 301-306にて確立された
方法に従いモーレラ・サーモアセチカY72株の形質転換を行った。構築したプラスミドpPD-pfo-bsALDCは、大腸菌TOP10株(SIGMA)よりDNAを調製した。形質転換は、以下の通り行った。ウラシル要求性宿主Y72 pyrF::Kmを用い、pyrF遺伝子をマーカーとして用いた。菌体は、合成培地に糖源として終濃度11mMフルクトースを添加し、55℃で培養、吸光度OD600の値が0.3~0.6程度となった培養から用意した。添加したDNA量は5μg~10μgとした。形質転換により得られたクローンは、プライマーセットTF31、TF32を用いてPCR法によってpduL2領域のDNAを増幅し、遺伝子導入により相当の大きさにサイズが変化したことにより確認した。
【0062】
以上のようにして、モーレラ・サーモアセチカを親株とし、内在性PduL2が欠損し、且つbsALDC発現遺伝子及びpfo発現遺伝子が導入された組換え株(Y72 pduL2::pfo‐bsALDC)を得た。なお、この株は受領番号NITE AP-03865として寄託されている(
図1(a)も参照)。
【0063】
また、後述する参考例用として、プラスミドpPD-pfo-bsALDCの代わりにプラスミドpHM23を用いた点以外は、同様にしてモーレラ・サーモアセチカへのアセトイン合成遺伝子導入を行った。これにより、モーレラ・サーモアセチカを親株とし、内在性PduL2が欠損し、且つbsALDC発現遺伝子が導入された組換え株(Y72 pduL2::bsALDC)を得た。なお、この株は受領番号NITE AP-03864として寄託されている(
図2(a)も参照)。
【0064】
[組換え株のアセトイン生成能の評価]
上記のようにして得られた組換え株(Y72 pduL2::pfo‐bsALDC)のアセトイン生成能を以下の通りに評価した。
【0065】
Y72 pduL2::pfo‐bsALDC株をフルクトースの存在下で培養したときの菌体濁度(OD600)及び代謝物の濃度(mM)の経時測定を行った。培地は上述の基本培地を使用し、フルクトース濃度を15.6mMとし、培養温度を55℃とした。菌体濁度(OD600)の測定は吸光光度計を用いて行い、また、代謝物の濃度(mM)の測定は上記HPLCを用いてフルクトース(Fructose)、アセトイン(Acetoin)及び酢酸(Acetate)について行った。その結果、
図1(b)に示すように、Y72 pduL2::pfo‐bsALDC株の菌体濁度(OD600)は5日後まで増加を続けた。また、
図1(b)に示すように、培養開始から7日後にY72 pduL2::pfo‐bsALDC株は15.6mMのフルクトース(Fructose)を完全に消費し、10.7mMのアセトイン(Acetoin)を生産した。一方、副生物の酢酸(Acetate)は5.0mM生産された。以上の結果から、Y72 pduL2::pfo‐bsALDC株は、フルクトースからアセトインを高い効率で生成できることが示された。
【0066】
次に、Y72 pduL2::bsALDC株を用いた点以外は、上記と同様にして参考例に係る菌体濁度(OD600)及び代謝物の濃度(mM)の経時測定を行った。その結果、
図2(b)に示すように、Y72 pduL2::bsALDC株の菌体濁度(OD600)は5日後まで増加した。しかし、
図2(b)に示すように、培養開始から5日後において、Y72 pduL2::pfo‐bsALDC株は13.6mMのフルクトース(Fructose)を完全に消費したが、4.5mMのアセトイン(Acetoin)生産にとどまった。また、酢酸(Acetate)は18.7mM生産された。以上の結果から、Y72 pduL2::bsALDC株は、糖からアセトインを生成することができるが、高い効率での生成は難しいことが示された。
【0067】
以上から、本発明に係る組換え細菌によると、糖からアセトインを高い効率で生成できることが示された。特に、本実施例の組換え細菌では、アセチル‐CoAからピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素発現遺伝子を導入することによって、糖からアセトインを高い効率で生成可能な組換え細菌を提供できることが示された。