(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146186
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】異常ネルンスト効果材、熱電変換モジュールおよび熱流センサ
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20241004BHJP
【FI】
H10N15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058935
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行日(公開日) 2022年8月21日(現地時間/日本時間) 刊行物名 The 15th Asia Pacific Physics Conference(APPC15)研究論文要旨PDF 発行者 Association of Asia Pacific Physical Societies(Web公開アドレス:https://www.appc15.org/uploads/sessions/N1.03.pdf ) <資 料> (APPC15)Web公開研究論文要旨PDF (2)開催日(公開日) 2022年8月26日(現地時間/日本時間)(会期:2022年8月21日~8月26日) 集会名、開催場所 The 15th Asia Pacific Physics Conference(APPC15) 主催 Association of Asia Pacific Physical Societies 主催 The Korean Physical Society オンライン開催 <資 料> (APPC15)開催概要 <資 料> (APPC15)発表プログラム <資 料> (APPC15)オンライン研究発表資料
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中辻 知
(72)【発明者】
【氏名】酒井 明人
(72)【発明者】
【氏名】深堀 明博
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 友文
(57)【要約】
【課題】安価で且つ高い異常ネルンスト係数の絶対値を有する異常ネルンスト効果材を提供する。
【解決手段】異常ネルンスト効果材は、Fe
3Al
xGa
1-xの組成式で表され、0.25<x<0.60を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe3AlxGa1-xの組成式で表され、0.25≦x≦0.60を満たし、300Kの温度条件で、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上である異常ネルンスト効果材。
【請求項2】
0.25<x≦0.45を満たす、請求項1に記載の異常ネルンスト効果材。
【請求項3】
多結晶体である、請求項1に記載の異常ネルンスト効果材。
【請求項4】
前記多結晶体が、D03構造である、請求項3に記載の異常ネルンスト効果材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の異常ネルンスト効果材を備え、
300Kの温度条件で、磁束密度2Tの磁場を印加したときの前記異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上である、熱電変換モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の熱電変換モジュールを備える、熱流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常ネルンスト効果材、熱電変換モジュールおよび熱流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
未利用の熱エネルギーを活用するために、熱電変換モジュールの開発が積極的に行われている。熱電変換モジュールとしては、温度勾配によって電圧を発生させることが可能なゼーベック効果(Seebeck Effect)を利用した熱電変換モジュールがよく知られている。
【0003】
ゼーベック効果では、温度勾配と同じ方向に電圧が生じることから、ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは複雑な3次元構造となる。そのため、ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは大面積化やフィルム化が困難である。また、ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、希少性の高い材料が用いられており、製造コストが高いという課題がある。
【0004】
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールに対し、近年、異常ネルンスト効果(Anomalous Nernst Effect)により起電力を生じる異常ネルンスト効果材を用いた熱電変換モジュールが提案されている。異常ネルンスト効果とは、磁性体に熱流を流して温度差が生じたときに、磁化方向と温度勾配の双方に直交する方向に電圧が生じる現象である。
【0005】
異常ネルンスト効果では、温度勾配に直交する方向に電圧が生じることから、異常ネルンスト効果を利用した熱電変換モジュールでは、熱源に沿うように展開することができ、大面積化及びフィルム化がしやすいという利点がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、フェルミエネルギーEFの近傍にワイル点を有するバンド構造の強磁性体からなり、異常ネルンスト効果により起電力を生じる熱電機構を有する、熱電変換素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されているCo2MnGaなどの材料は、常温~100℃の温度範囲で高い発電性能を示すが、Coなどの高価な原料を用いているという問題がある。そのため、安価で常温~100℃の温度範囲で高い発電性能を示す材料が求められている。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みなされた発明であり、安価で且つ常温~100℃の温度範囲で高い発電性能を示す異常ネルンスト効果材、熱電変換モジュールおよび熱流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1>本発明の態様1の異常ネルンスト効果材は、Fe3AlxGa1-xの組成式で表され、0.25≦x≦0.60を満たし、300Kの温度条件で、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上である。
<2>本発明の態様2は、上記態様1の異常ネルンスト効果材において、0.25<x≦0.45を満たしてもよい。
<3>本発明の態様3は、上記態様1または上記態様2の異常ネルンスト効果材において、多結晶体であってもよい。
<4>本発明の態様4は、上記態様3の異常ネルンスト効果材において、前記多結晶体が、D03構造であってもよい。
<5>本発明の態様5の熱電変換モジュールは、上記態様1~4のいずれか1つに記載の異常ネルンスト効果材を備え、300Kの温度条件で、磁束密度2Tの磁場を印加したときの前記異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上である。
<6>本発明の態様6の熱流センサは、態様5の熱電変換モジュールを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記各態様によれば、安価で且つ高い異常ネルンスト係数の絶対値を有する異常ネルンスト効果材、熱電変換モジュールおよび熱流センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】Fe
3Al
xGa
1-xの結晶構造を示す模式図である。
【
図3】第2実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図4】第3実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す平面図である。
【
図5】第4実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図6】比較例1(Fe
3Ga
0.25Al
0.75)、実施例6(Fe
3Ga
0.50Al
0.50)、実施例1(Fe
3Ga
0.75Al
0.25)、Fe
3GaおよびFe
3AlのXRDスペクトルである。
【
図7】実施例1~7および比較例1の異常ネルンスト係数である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る熱電変換モジュール100を説明する。
図1は、第1実施形態に係る熱電変換モジュール100の構成を示す模式図である。
図1に示すように、熱電変換モジュール100は、異常ネルンスト効果材1と、第1電極11と、第2電極12と、磁場印加手段20と、を備える。以下、各部について説明する。
【0014】
(異常ネルンスト効果材)
本実施形態において異常ネルンスト効果材1は、Fe3AlおよびFe3Gaの混晶であるFe3AlxGa1-xの組成式で表される。なお、本明細書において、異常ネルンスト効果材とは、後述する異常ネルンスト係数SANEの絶対値が1.0μV/K以上の材料を言う。
【0015】
「Fe3AlxGa1-x」
異常ネルンスト効果材1はFe3AlおよびFe3Gaの混晶であるFe3AlxGa1-xの組成式で表され、かつ、0.25≦x≦0.60を満たす。より好ましくは、0.25<x≦0.45を満たすことが好ましい。異常ネルンスト効果材が0.25≦x≦0.60を満たすことで、安価なAlの含有量を高くしつつ、かつ、異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値をFe3Gaと同程度に高くすることができる。
【0016】
異常ネルンスト効果材1は、Fe3AlxGa1-xの多結晶体またはFe3AlxGa1-xの単結晶体であることが好ましい。異常ネルンスト効果材1は、Fe3AlxGa1-xの多結晶体であることがより好ましい。Fe3AlxGa1-xの多結晶体またはFe3AlxGa1-xの単結晶体であるかは、X線回折により判別することができる。異常ネルンスト効果材1は、300K、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト係数SANEの絶対値が5.0μV/K以上を満たすのであれば、異常ネルンスト効果材1は、他の成分を含有してもよい。
【0017】
「D0
3構造」
異常ネルンスト効果材1がFe
3Al
xGa
1-xの多結晶体である場合、Fe
3Al
xGa
1-xが
図2に示すようなD0
3構造を有することが好ましい。異常ネルンスト効果材1が多結晶体であり、かつ、D0
3構造を有することで、異常ネルンスト係数S
ANEの絶対値が5.0μV/K以上になりやすくなる。D0
3構造の単位格子は、8個の体心立方(bcc)型のサブセルを有する。各サブセルでは、隅点をFe原子(Fe(II))が占め、各Fe(II)は、隣接する8個のサブセルによって共有される。8個のサブセルのうちの4個の体心点をそれぞれ4個のFe原子(Fe(I))が占めており、残りの4個のサブセルの体心点をそれぞれ4個のX原子(X原子はGaまたはAl)が占めている。例えば、D0
3構造のFe
3Al
xGa
1-xの格子定数aは、0.25≦x≦0.60の場合、5.826Å~5.842Åである。Fe
3Al
xGa
1-xの格子定数はXRDデータから導出することができる。
【0018】
異常ネルンスト効果材1の厚さは、200nm以上であることが好ましい。厚さを200nm以上とすることで、常温(例えば20℃)から100℃の範囲の温度範囲で適切な温度差を形成しやすくなる。
【0019】
「300Kの温度条件で、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上」
本実施形態において、300Kの温度条件で、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上である。2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上であることで、本開示の熱電変換モジュール100は、常温(例えば20℃)から100℃の範囲の温度範囲で効率よく発電することができる。
【0020】
「異常ネルンスト係数SANE」
異常ネルンスト係数SANEは、下記式(1)で表される。式(1)中のρyyは縦抵抗を意味する。式(1)中のαyxは、横熱電係数を意味する。式(1)中のσyxはホール伝導度を意味する。式(1)中のSSEはゼーベック係数を意味する。
【0021】
横熱電係数αyxは下記(2)式で表される。ここで、下記式(2)中の∂σyx/∂εはフェルミ準位での値である。下記式(2)中のkBはボルツマン定数である。下記式(2)中のεはエネルギーを意味し、下記式(2)中のeは電荷素量を意味する。下記式(2)中のTは測定試料の絶対温度(K)を意味する。
【0022】
SANE=ρyyαyx-σyxρyySSE・・・(1)
αyx=-(π2/3)・{(kB
2T)/e}(∂σyx/∂ε)・・・(2)
【0023】
「異常ネルンスト係数の測定方法」
上述した300Kの温度条件で、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数SANEは、具体的には、以下のように測定される。サンプルを平板状(長さL:7mm、幅W:2mm、厚さt:1mm)に切り出す。切り出したサンプルの長手方向の一方の端をヒータ(温度300K)で加熱し、長手方向のもう一方の端にはヒートシンクを接触させることで、サンプルの辺Lに沿って温度差を与える。直方体状のサンプルに一様な温度勾配を与え、L_temp(mm)離れた2点の温度差ΔT(K)を測定する。この温度差と直交する方向に磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W(mm)離れた2点に発生する電圧(V)を測定する。異常ネルンスト係数SANEは、得られた電圧(V)などから以下の式(3)で計算される。
【0024】
SANE=(V/ΔT)×(L_temp/W)・・・・(3)
【0025】
(第1電極11)
熱電変換モジュール100において、第1電極11は、異常ネルンスト効果材1に電気的に接続されている。第1電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第1電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0026】
(第2電極12)
熱電変換モジュール100において、第2電極12は、異常ネルンスト効果材1に電気的に接続されている。第2電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第2電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0027】
第1電極11と第2電極12との配置は特に限定されない。ただし、第1電極11の温度と第2電極12の温度に差があると異常ネルンスト効果以外にゼーベック効果も重畳することになるので、熱流センサのためには、第1電極11と第2電極12との配置は、熱源からの距離が同じとなる配置であることが好ましい。
【0028】
(磁場印加手段20)
磁場印加手段20は、温度差が生じる方向および起電力が発生する方向(電極11と電極12とを結ぶ方向)に直交する方向に磁場を印加することが可能であれば、特に限定されない。磁場印加手段20としては、例えば、永久磁石、電磁石などである。
【0029】
(熱電変換モジュール100を用いた熱電変換)
本実施形態の熱電変換モジュール100は、
図1に示すように、一の方向(本実施形態ではY方向)に延在する直方体状の異常ネルンスト効果材1を有し、厚み方向(本実施形態ではX方向)に0.1μm以上の厚みを有して、+X方向に磁化されている。磁場の印加は、磁場印加手段20によって行われる。磁場の印加は、公知の方法を用いることができる。
【0030】
本実施形態の異常ネルンスト効果材1に対して磁化Mの方向(+X方向)とは直交する他の方向(本実施形態では+Z方向)に熱流Qが流れると、+Z方向に温度差ΔTが生じる。
【0031】
これにより、異常ネルンスト効果材1には、異常ネルンスト効果によって、熱流Qの方向(+Z方向)及び磁化Mの方向(+X方向)の双方に直交する方向(本実施形態ではY方向)に起電力が発生する。これにより、本実施形態の異常ネルンスト効果材1は、熱電変換を行うことが可能である。
【0032】
(異常ネルンスト効果材1の製造方法)
異常ネルンスト効果材1がFe3AlxGa1-xの多結晶体を例にして、異常ネルンスト効果材1の製造方法について説明する。Fe3AlxGa1-xの多結晶体は、例えば、以下の方法で製造することができる。適切な比のFeとGaとAlとをモノアーク炉に入れる(工程1)。ロータリーポンプ及びターボ分子ポンプで,到達圧力0.2 Paまで真空引きを行い、その後Arパージを3回行った後、炉内に、アルゴンガスを0.08 MPaまで充填し、アーク放電を開始する(工程2)。工程2後、4アンペアの条件でアーク放電を行い金属を溶融して、溶融状態で10~15秒保持する(工程3)。工程3後、約1分待った後、得られた金属材料の上下面を反転させる(工程4)。工程2から工程4のプロセスを6-7回繰り返す。このような手順でD03構造を有するFe3AlxGa1-xの多結晶体を製造することができる。上述の製造方法によって得られるFe3AlxGa1-xの多結晶体は、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値が、5.0μV/K以上である。よって、常温から100℃以下の温度範囲での使用において、本開示の熱電変換モジュールは優れた発電特性を示す。
【0033】
以上、第1実施形態に係る熱電変換モジュール100について説明した。熱電変換モジュール100は、異常ネルンスト効果材1がFeおよびAlを含有するので、安価であり、また、常温から100℃以下の温度範囲での使用に適している。
【0034】
熱電変換モジュール100では、磁場印加手段20を備えていたが、熱電変換モジュール100は、磁場印加手段20を備えていなくてもよい。
【0035】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る熱電変換モジュール100Aについて説明する。
図3は、熱電変換モジュール100Aの模式図である。
【0036】
熱電変換モジュール100Aは、
図3に示すように、基板30と、基板30上に配置された発電体40と、を備える。
【0037】
(基板30)
基板30は、発電体40が配置される第一面30aと、第一面30aの反対の面である第二面30bと、を有している。例えば、第二面30bには(図示しない)熱源から熱を受ける。基板30の材質は、特に限定されない。基板30の材質としては、熱伝導率が高いものが好ましい。基板30の材質としては、AlN,Al2O3、MgO、BNなどが挙げられる。
【0038】
(第1電極11A)
熱電変換モジュール100Aにおいて、第1電極11Aは、発電体40の一端側に電気的に接続されている。第1電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第1電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0039】
(第2電極12A)
熱電変換モジュール100Aにおいて、第2電極12Aは、発電体40の他端側に電気的に接続されている。第2電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第2電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0040】
(発電体40)
発電体40は、1以上の第1異常ネルンスト効果材41と、1以上の第2異常ネルンスト効果材42と、を有している。第1異常ネルンスト効果材41および第2異常ネルンスト効果材42は、上記異常ネルンスト効果材1と同じものを用いることができる。
【0041】
1以上の第1異常ネルンスト効果材41および1以上の第2異常ネルンスト効果材42は、第一面30aの面内において、一の方向(ここでは、Y方向)に延在し、かつ、この一の方向と交差(第2実施形態では直交)する他の方向(ここでは、X方向)に交互に配置される。
【0042】
第1異常ネルンスト効果材41は、一の方向(Y方向の)の一端側(+Y側の端)から他の方向(X方向)の一方側(-X側)に向かって突出した第1接続部41aを有している。一方、第2異常ネルンスト効果材42は、一の方向(Y方向)の他端側(-Y側の端)から他の方向(X方向)の一方側(-X側)に向かって突出した第2接続部42aを有している。
【0043】
第1異常ネルンスト効果材41は、第1接続部41aを介して、第2異常ネルンスト効果材42の一の方向(Y方向)の一端側(+Y側の端)と電気的に接続している。一方、第2異常ネルンスト効果材42は、第2接続部42aを介して、第1異常ネルンスト効果材41の他端側(-Y側の端)と電気的に接続している。
【0044】
これにより、発電体40は、互いに隣り合う第1異常ネルンスト効果材41と第2異常ネルンスト効果材42とが電気的に直列に接続される。これによって、発電体40は、蛇行した形状を有している。
【0045】
発電体40や、第1異常ネルンスト効果材41の磁化M1の方向(第2実施形態では、-X方向)と第2異常ネルンスト効果材42の磁化M2の方向(第2実施形態では、+X方向)とが逆向きとなるように配置されている。さらに、第1異常ネルンスト効果材41と第2異常ネルンスト効果材42とは、いずれも負の異常ネルンスト係数を有している。
【0046】
熱電変換モジュール100Aでは、基板30の第二面30b側から発電体40に向けて熱流Qが流されると、発電体40に熱流方向の温度差が生じ、異常ネルンスト効果によって発電体40に電圧Vが生じる。
【0047】
熱源から基板30の第二面30bが熱を受けると、発電体40に向けて、+Z方向に熱流Qが流れる。このとき、第1異常ネルンスト効果材41では、磁化M1の方向(-X方向)および熱流Qの方向(+Z方向)の双方に直交する方向(+Y方向)に起電力E1が生じる。一方、第2異常ネルンスト効果材42では、磁化M2の方向(+X方向)および熱流Qの方向(+Z方向)の双方に直交する方向(-Y方向)に起電力E2が生じる。
【0048】
発電体40では、互いに隣り合う第1異常ネルンスト効果材41および第2異常ネルンスト効果材42が電気的に直列に接続している。そのため、第1異常ネルンスト効果材41で発生した起電力E1と第2異常ネルンスト効果材42で発生した起電力E2とが加算され、出力電圧Vを増大させることができる。
【0049】
本実施形態の熱電変換モジュール100Aは、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の第1異常ネルンスト効果材41及び第2異常ネルンスト効果材42を用いることが可能である。
【0050】
ここで、第1異常ネルンスト効果材41及び第2異常ネルンスト効果材42の長手方向(延在方向)の長さをL1、厚さ(高さ)をH1とすると、第1異常ネルンスト効果材41および第2異常ネルンスト効果材42における温度差が一定の場合、異常ネルンスト効果により発生する電圧VはL1/H1に比例する。すなわち、第1異常ネルンスト効果材41及び第2異常ネルンスト効果材42が長くて薄いほど、得られる電圧Vが大きくなる。
【0051】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態に係る熱電変換モジュール100Bについて説明する。
図4は、熱電変換モジュール100Bの平面図である。熱電変換モジュール100Bは、基板30と、基板30上に配置された発電体40Bと、を備える。
【0052】
(発電体40B)
発電体40Bは、複数の異常ネルンスト効果材45と、配線50と、を有する。
【0053】
「異常ネルンスト効果材45」
異常ネルンスト効果材45は、異常ネルンスト効果材1と同じ材質のものを用いることができる。異常ネルンスト効果材45は、延在方向(Y方向)と垂直な方向(X方向)に、磁化M1Aの方向が同一となるように(-X方向)となるように、基板30上に並列に配置される。
【0054】
「配線50」
熱電変換モジュール100Bにおいて、配線50は、一方の端が異常ネルンスト効果材45の一端側(-Y側)に電気的に接続され、他方の端が、隣接する別の異常ネルンスト効果材45の他端側(+Y側)に電気的に接続される。これによって、異常ネルンスト効果材45が電気的に直列に接続される。また、配線50の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、配線50の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属が挙げられる。
【0055】
熱流Qは、基板30側から発電体40B側に流される(+Z方向に流される)。熱電変換モジュール100Bは、隣接する異常ネルンスト効果材45が配線50を介して接続しているため、熱電変換モジュール100Aよりも容易に作製することができる。
【0056】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態に係る熱電変換モジュール100Cについて説明する。
図5は、熱電変換モジュール100Cの構成を示す模式図である。
【0057】
熱電変換モジュール100Cは、
図5に示すように略円筒状の中空部材31と、中空部材31の外周面に螺旋状に巻きつけられた長尺シート状の異常ネルンスト効果材32とを備えている。異常ネルンスト効果材32には、上記異常ネルンスト効果材1と同じものを用いることができる。また、異常ネルンスト効果材32は、中空部材31の軸線方向(X方向)と平行な方向に磁化されている。
【0058】
熱電変換モジュール100Cでは、中空部材31の内側が外側よりも高温の場合、熱流Pは中空部材31の内側から外側に流れ、この中空部材31の内側から外側に向かって温度勾配(温度差)が生じる。本実施形態では、異常ネルンスト効果材32の長手方向(磁化の方向および熱流の方向の双方に直交する方向)に沿って起電力が発生する。
【0059】
本実施形態の熱電変換モジュール100Cでは、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の異常ネルンスト効果材32を用いることが可能である。
【0060】
したがって、式(4)に記載されるように異常ネルンスト効果によって発生する起電力は異常ネルンスト効果材の長さが長いほど大きくなる。本実施形態の熱電変換モジュール100Cでは、上述した中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の異常ネルンスト効果材32を採用することによって、異常ネルンスト効果材の長さを長くすることが出来電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0061】
なお、本発明は、上記各実施形態の構成のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cは、様々なデバイスに適用することが可能である。例えば、熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cを熱流センサに設けることで、建築物の断熱性能の良否を判定することができる。
【0062】
また、自動二輪車等の排気装置に熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cを設けることで、排気ガスの熱(廃熱)を利用して発電することができ、熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cを補助電源として有効利用することが可能である。
【0063】
また、本実施形態の熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cは、上述した熱電変換素子としての機能だけでなく、ペルチェ素子のように、電力の供給によって温度変調(特に冷却)する機能を持たせることも可能である。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0065】
(実施例1)
Fe3Al0.25Ga0.75の組成比となるように、調整した原料をモノアーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し実施例1の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0066】
(実施例2)
Fe3Al0.30Ga0.70の組成比となるように、調整した原料をモノアーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し実施例2の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0067】
(実施例3)
Fe3Al0.35Ga0.65の組成比となるように、調整した原料をモノアーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し実施例3の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0068】
(実施例4)
Fe3Al0.40Ga0.60の組成比となるように、調整した原料をモノアーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し実施例4の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0069】
(実施例5)
Fe3Al0.45Ga0.55の組成比となるように、調整した原料をモノアーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し実施例5の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0070】
(実施例6)
Fe3Al0.50Ga0.50の組成比となるように、調整した原料をモノーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し実施例6の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0071】
(実施例7)
Fe3Al0.60Ga0.40の組成比となるように、調整した原料をモノアーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し実施例7の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0072】
(比較例1)
Fe3Al0.75Ga0.25の組成比となるように、調整した原料をモノアーク炉で溶解させ溶融状態で10-15秒保持した後に、約1分間で冷却し、得られた金属材料の上下面を反転させる。この手順を6-7回繰り返し比較例1の異常ネルンスト効果材を作製した。
【0073】
(XRD)
実施例1~7および比較例1の異常ネルンスト効果材のXRD測定は、リガクSmart-Lab装置を用いて行った。XRD測定は粉末に粉砕後にホルダーに充填して測定した。同様に、多結晶Fe3GaおよびFe3Alについても測定を行った。
【0074】
(異常ネルンスト係数)
異常ネルンスト係数は以下のように求めた。異常ネルンスト効果材から評価用の平板状(L=7mm、W=2mm、t=1mm程度)のサンプルを切り出した。サンプルの一方の端をヒータ(300K)で加熱し、もう一方の端にはヒートシンクを接触させることで、サンプルの辺Lに沿って温度差を与えた。サンプル上のL_temp(1~4mm)離れた2点に熱電対を設置し温度差ΔTを測定した。この温度差と直交する方向で、かつ平板状サンプルの面直方向に磁束密度2Tの磁場を印加した。温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定した。異常ネルンスト係数は、磁場2T印加時の電圧から上記式(3)に基づいて計算した。
【0075】
XRD測定の結果、
図6に示す。
図6の横軸は2θ(°)、縦軸は強度である。
図6のXRDスペクトルから、実施例1~7および比較例1の異常ネルンスト効果材は、多結晶体であり、またその結晶構造がD0
3であることが確認された。
【0076】
上記で得られた異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の測定結果を表1および
図7に示す。表1および
図7に示すように、実施例1~7の異常ネルンスト効果材は、300Kにおいて、異常ネルンスト係数の絶対値が5μV/K以上であった。そのため、実施例1~7の異常ネルンスト効果材を用いた熱電変換モジュールは、常温~100℃までの範囲において、優れた発電性能を示すことが分かった。一方、0.25≦x≦0.60を満たさなかった比較例1は、結晶構造がD0
3であっても、異常ネルンスト係数の絶対値が5.0μV/K未満であった。
【0077】