(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151464
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】分離膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/70 20060101AFI20241018BHJP
B01D 71/62 20060101ALI20241018BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241018BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241018BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241018BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20241018BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20241018BHJP
C08G 77/26 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
B01D71/70 500
B01D71/62
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
C08K3/08
C08L83/08
C08G77/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064810
(22)【出願日】2023-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンガリニ ウファファ
(72)【発明者】
【氏名】都留 稔了
(72)【発明者】
【氏名】金指 正言
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛規
(72)【発明者】
【氏名】高木 一憲
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
(72)【発明者】
【氏名】市六 信広
【テーマコード(参考)】
4D006
4J002
4J246
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA21
4D006MA31
4D006MB03
4D006MB04
4D006MC03X
4D006MC40X
4D006MC65X
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB63
4D006PB64
4J002CP091
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA106
4J002GD00
4J246AA03
4J246BA12X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA80X
4J246FA071
4J246FA421
4J246FB031
4J246FC133
4J246FE06
4J246GB07
4J246GB18
4J246GB32
4J246GD08
4J246GD09
4J246HA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い二酸化炭素透過性および気体選択性を実現できる分離膜を提供すること。
【解決手段】(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する分離層を備える分離膜である。前記(A)成分が、トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレートを含む前駆体を重合させてなるポリマーであることが好ましく、前記(B)成分における金属が、ニッケル、銅、銀、コバルトおよび亜鉛から選択される1種以上であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する分離層を備える分離膜。
【請求項2】
前記(A)成分が、下記一般式(1)で表される化合物を含む前駆体を重合させてなるポリマーである請求項1記載の分離膜。
【化1】
(式中、Xは、それぞれ独立に、下記式(2)で表される基または炭素数1~8の一価炭化水素基であり、Xのうち少なくとも1つは下記式(2)で表される基である。)
【化2】
(式中、R
1は、炭素数1~8のアルキレン基であり、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1~8の一価炭化水素基であり、R
3は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、nは、1~3の整数である。波線を付した線は、結合手を表す。)
【請求項3】
前記(A)成分が、トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレートを含む前駆体を重合させてなるポリマーである請求項2記載の分離膜。
【請求項4】
前記(B)成分における金属が、ニッケル、銅、銀、コバルトおよび亜鉛から選択される1種以上である請求項1~3のいずれか1項記載の分離膜。
【請求項5】
(I)(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含む金属ドープポリマーゾルを調製する金属ドープポリマーゾル調製工程と、
(II)前記金属ドープポリマーゾルを多孔質支持体上に直接または中間層を介して塗布する塗布工程と、
(III)前記塗布工程で塗布された前記金属ドープポリマーゾルを焼成してアモルファス構造を有する分離層を形成する焼成工程と
を含む分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属ドープポリマーゾル調製工程が、前記(A)ポリマーのゾルと、前記(B)金属イオンの供給源となる金属塩とを混合することにより行われる請求項5記載の分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記(A)成分が、下記一般式(1)で表される化合物を含む前駆体を重合させてなるポリマーである請求項5記載の分離膜の製造方法。
【化3】
(式中、Xは、それぞれ独立に、下記式(2)で表される基または炭素数1~8の一価炭化水素基であり、Xのうち少なくとも1つは下記式(2)で表される基である。)
【化4】
(式中、R
1は、炭素数1~8のアルキレン基であり、R
2は、それぞれ独立に炭素数1~8の一価炭化水素基であり、R
3は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、nは、1~3の整数である。)
【請求項8】
前記(A)成分が、トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレートを含む前駆体を重合させてなるポリマーである請求項7記載の分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記(B)成分における金属が、ニッケル、銅、銀、コバルトおよび亜鉛から選択される1種以上である請求項5~8のいずれか1項記載の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質分離膜を用いた分離法は、濾過、蒸発、結晶化、溶媒抽出、蒸留等の分離法に比べ、安価で、高い分離能を有する。多孔質分離膜は、分子ふるいによって目的の物質を分離する。
【0003】
ケイ素系材料は、機械強度、耐熱性、化学的安定性に優れており、多孔質無機分離膜の材料として用いられる。しかし、ケイ素系材料を分離膜の材料として用いた場合、高温水蒸気下において細孔の緻密化が起こり、分離膜の透過性が低下する。この緻密化を低減させるため、ケイ素系材料に金属イオンをドープした分離層を備える分離膜が開発されている(特許文献1)。
【0004】
また、ケイ素系材料を用いた二酸化炭素(CO2)の回収および貯留技術に関して、ウレア基およびアルコキシシリル基を有する化合物を含む前駆体を重合させたポリマーを用いた分離層を備える分離膜や、アミノ基およびアルコキシシリル基を有する化合物を含む前駆体を重合させたポリマーを用いた分離層を備える分離膜が知られている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-151708号公報
【特許文献2】特開2021-186712号公報
【特許文献3】特開2022-21175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、金属イオンをドープすることにより、分離層中に細孔が形成される。しかし、形成される細孔のサイズは小さく、比較的大きな分子である二酸化炭素の透過性は低い。さらに、分離層中に均一な細孔を形成し、気体選択性を向上させることは困難である。
また、特許文献2、3のように、従来のアミノ基やウレア基を有する有機ケイ素化合物を用いた分離膜では、十分な二酸化炭素透過性およびCO2/N2選択性を実現することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高い二酸化炭素透過性および気体選択性を実現できる分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと金属イオンとを含む分離層を備える分離膜が、高い二酸化炭素透過性およびCO2/N2選択性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. (A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する分離層を備える分離膜、
2. 前記(A)成分が、下記一般式(1)で表される化合物を含む前駆体を重合させてなるポリマーである1記載の分離膜、
【化1】
(式中、Xは、それぞれ独立に、下記式(2)で表される基または炭素数1~8の一価炭化水素基であり、Xのうち少なくとも1つは下記式(2)で表される基である。)
【化2】
(式中、R
1は、炭素数1~8のアルキレン基であり、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1~8の一価炭化水素基であり、R
3は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、nは、1~3の整数である。波線を付した線は、結合手を表す。)
3. 前記(A)成分が、トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレートを含む前駆体を重合させてなるポリマーである2記載の分離膜、
4. 前記(B)成分における金属が、ニッケル、銅、銀、コバルトおよび亜鉛から選択される1種以上である1~3のいずれかに記載の分離膜、
5. (I)(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含む金属ドープポリマーゾルを調製する金属ドープポリマーゾル調製工程と、
(II)前記金属ドープポリマーゾルを多孔質支持体上に直接または中間層を介して塗布する塗布工程と、
(III)前記塗布工程で塗布された前記金属ドープポリマーゾルを焼成してアモルファス構造を有する分離層を形成する焼成工程と
を含む分離膜の製造方法、
6. 前記金属ドープポリマーゾル調製工程が、前記(A)ポリマーのゾルと、前記(B)金属イオンの供給源となる金属塩とを混合することにより行われる5記載の分離膜の製造方法、
7. 前記(A)成分が、下記一般式(1)で表される化合物を含む前駆体を重合させてなるポリマーである5記載の分離膜の製造方法、
【化3】
(式中、Xは、それぞれ独立に、下記式(2)で表される基または炭素数1~8の一価炭化水素基であり、Xのうち少なくとも1つは下記式(2)で表される基である。)
【化4】
(式中、R
1は、炭素数1~8のアルキレン基であり、R
2は、それぞれ独立に炭素数1~8の一価炭化水素基であり、R
3は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、nは、1~3の整数である。)
8. 前記(A)成分が、トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレートを含む前駆体を重合させてなるポリマーである7記載の分離膜の製造方法、
9. 前記(B)成分における金属が、ニッケル、銅、銀、コバルトおよび亜鉛から選択される1種以上である5~8のいずれかに記載の分離膜の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分離膜は、二酸化炭素透過性および気体選択性に優れることから、混合気体および混合有機溶媒からの二酸化炭素の分離、回収および貯留プロセスにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る分離膜の一例を示す概略断面図である。
【
図2】ニッケルドープTTPIおよびTTPIの特性を示す図であり、(a)は紫外可視分光法の測定結果、(b)はフーリエ変換赤外分光分析(波数500~2000cm
-1)の測定結果、(c)および(d)はX線光電子分光法の測定結果である。
【
図3】ニッケルドープTTPI粉末およびTTPI粉末の特性を示す図であり、(a)は250℃で焼成した粉末のX線回折法の測定結果、(b)は透過電子顕微鏡の撮影画像である。
【
図4】ニッケルドープTTPI粉末およびTTPI粉末のN
2吸脱着等温線である。
【
図5】0、0.25、および0.50のNi/Nモル比でのNi-TTPIネットワーク形成のメカニズムを示す概略図である。
【
図6】ニッケルドープTTPI粉末およびTTPI粉末のCO
2吸脱着等温線を示すグラフである。
【
図7】分離膜の透過性を示す図であり、気体分子サイズと気体透過率との関係を示すグラフである。
【
図8】分離膜の透過性を示す図であり、(a)は比較例1で得られた分離膜のCO
2、N
2の透過率およびCO
2/N
2透過率比の温度依存性を示すグラフであり、(b)は実施例1で得られた分離膜のCO
2、N
2の透過率およびCO
2/N
2透過率比の温度依存性を示すグラフであり、(c)は実施例2で得られた分離膜のCO
2、N
2の透過率およびCO
2/N
2透過率比の温度依存性を示すグラフであり、(d)は実施例3で得られた分離膜のCO
2、N
2の透過率およびCO
2/N
2透過率比の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
(1)分離膜
本発明の分離膜は、(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する分離層を備える。なお、本発明において、アモルファス構造とは、後述するとおり、ポリマー中のシロキサン結合によって網目状に結合したネットワーク構造と、イソシアヌル酸骨格中の窒素原子と金属イオンとが配位結合したネットワーク構造が形成された結果、分離層中にネットワークの隙間からなる多数の細孔が形成されている状態をいう。
【0013】
本発明の分離膜の構造は、上記分離層を有する限り特に限定されないが、例えば、
図1に示すものが挙げられる。
図1は、本発明の一実施形態に係る分離膜10の概略断面図であり、分離膜10は、支持体11と、この支持体11上に形成された中間層12と、この中間層12上に形成された分離層13とを備えて構成されている。
【0014】
(支持体)
分離膜10は、分離膜10の機械的強度および形状安定性を高めるために、支持体11を備えることが好ましい。支持体11は、分離層13の支持機能および通液性を兼ね備えていることが好ましい。このような支持体の具体例としては、多孔性支持体が挙げられる。
支持体の材料は特に限定されないが、例えば、α-アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)等のセラミックスなどが挙げられる。
支持体の形状も特に限定されないが、例えば、管状、円筒状、板状等が挙げられる。
【0015】
多孔性支持体の平均細孔径は特に限定されないが、1μm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。また、多孔性支持体の平均細孔径は、0.1nm以上が好ましく、2nm超がより好ましく、3nm超がさらに好ましく、5nm超が特に好ましい。このような平均細孔径を有する多孔性支持体であれば、分離層の支持機能および通液性を良好に兼ね備え、かつ分離層のCO2透過性および気体選択性に影響を及ぼさない。なお、本発明において、平均細孔径は、ナノパームポロメーターにより測定した値である。
【0016】
支持体の厚さは特に限定されないが、0.5~5mmが好ましく、1~3mmがより好ましい。
【0017】
(中間層)
分離膜10は、分離層13と支持体11との間に中間層12を備えていることが好ましい。中間層の原料は特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、これらの混合物等の金属酸化物の微粒子が挙げられる。金属酸化物微粒子の平均粒子径は特に限定されず、所望の平均細孔径を形成することができるように従来公知の範囲から選択することができる。
【0018】
中間層12は、支持体11の表面にこれらの微粒子を含むコロイドゾルを適宜塗布し、焼成することにより形成することができる。このような中間層を設けることにより、支持体の表面を均質化するとともに、支持体と分離層との間の熱膨張係数の差を緩和し、分離膜の形状安定性を高めることができる。
【0019】
中間層12の平均細孔径は特に限定されないが、支持体11の平均細孔径よりも小さく、分離層13の平均細孔径よりも大きいことが好ましく、例えば、0.5~5nmが好ましく、0.5~3nmがより好ましく、1~2nmがさらに好ましい。
中間層の厚さは特に限定されないが、1~1000nmが好ましい。
【0020】
本実施形態では中間層は一層であるが、二層以上であってもよい。中間層を二層以上形成する場合、それぞれ同じ原料を用いてもよいし、異なる原料を用いてもよい。なお、中間層を設けなくてもよい。
【0021】
(分離層)
分離層13は、支持体11上に直接または中間層12を介して形成され、目的の物質を透過させる細孔によって目的の物質を分離する。分離層は、(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと、(B)金属イオンとを含み、アモルファス構造を有する。分離層に含まれる金属イオンとポリマー中のイソシアヌル酸骨格に由来する窒素原子とは、それぞれ金属イオンが電子受容体として、窒素原子が電子供与体として配位結合を形成する。シロキサン結合を有するポリマー中の電子供与体となる窒素原子に、窒素原子よりも電気陰性度の小さい炭素原子が結合することにより、窒素原子と炭素原子の間に電荷の偏りが生じ、配位結合の形成が促進される。
【0022】
分離層13は、シロキサン結合によって網目状に結合したネットワーク構造(以下、「シロキサンネットワーク」ともいう。)およびイソシアヌル酸骨格中の窒素原子と金属イオンとが配位結合したネットワーク構造(以下、「配位結合ネットワーク」ともいう。)を形成していることが好ましい。このようなシロキサンネットワークと配位結合ネットワークが形成された分離層を用いることで、CO2を選択的に透過可能な細孔が多数形成されているため、CO2透過性とCO2/N2選択性に優れた分離膜を得ることができる。
【0023】
[(A)成分]
(A)成分は、イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマー(以下、「ポリマー(A)」ともいう。)である。
(A)成分としては、上記構造を有するものであれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)を含む前駆体を重合させて得られるポリマーが好ましい。
【0024】
【化5】
(式中、Xは、それぞれ独立に、下記式(2)で表される基または炭素数1~8の一価炭化水素基であり、Xのうち少なくとも1つは下記式(2)で表される基である。)
【化6】
(式中、R
1は、炭素数1~8のアルキレン基であり、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1~8の一価炭化水素基であり、R
3は、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、nは、1~3の整数である。波線を付した線は、結合手を表す。)
【0025】
式(1)において、Xの炭素数1~8の一価炭化水素基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル基等の直鎖または分岐のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル、アリル、3-ブテニル、5-ヘキセニル、7-オクテニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基等が挙げられ、これらの中でも、xは、炭素数1~3の基が好ましく、ビニル基またはアリル基がより好ましく、アリル基がさらに好ましい。
ただし、Xのうち少なくとも1つは上記式(2)で表される基であり、Xが全て上記式(2)で表される基であることが好ましい。
【0026】
式(2)中、R1の炭素数1~8のアルキレン基の具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン基等が挙げられ、中でも、R1は、炭素数2または3のアルキレン基が好ましく、炭素数3のアルキレン基がより好ましく、トリメチレン基がさらに好ましい。
【0027】
R2の炭素数1~8の一価炭化水素基としては、Xで例示した基と同様のものが挙げられるが、中でも、R2は、炭素数1~6の基が好ましく、メチル基、ビニル基、フェニル基がより好ましい。
【0028】
R3の炭素数1~4のアルキル基の具体例としては、直鎖、分岐のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、i-ブチル、tert-ブチル基等の直鎖または分岐のアルキル基が挙げられ、中でも、R3は、メチル基またはエチル基が好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0029】
nは、1~3の整数であり、3が好ましい。
【0030】
化合物(1)の具体例としては、例えば、トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレート(TTPI)、アリルビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレート、ジアリル[(3-トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレート等が挙げられ、中でも、トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレートが好ましい。
【0031】
なお、化合物(1)は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
(A)成分のポリマーは、化合物(1)を含む前駆体を加水分解縮合させて得ることができる。なお、前駆体は、化合物(1)以外の共加水分解縮合が可能な化合物を本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよく、このような化合物としては、例えば、加水分解性基を有するシラン化合物等が挙げられる。
【0033】
加水分解性基を有するシラン化合物としては、加水分解性基であるクロロ基またはアルコキシ基をケイ素原子上に1~4個含有するシラン化合物であれば特に限定されるものではない。
その具体例としては、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、プロピルメチルジクロロシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシラン、ヘキシルメチルジクロロシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジクロロシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルフェニルクロロシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン、ジメチルフェニルエトキシシラン、およびこれらの部分加水分解物等が挙げられるが、操作性、副生物の留去のしやすさ、および原料の入手の容易さから、メトキシシラン、エトキシシランが好適である。
なお、上記シラン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
前駆体中に占める化合物(1)の割合は、前駆体の全体のモル数に対して90モル%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0035】
[(B)成分]
(B)成分は、金属イオンであり、金属としては、ニッケル、銅、銀、コバルト、亜鉛等(金属イオンとしては、Ni2+、Cu2+、Ag+、Co2+、Zn2+等)が挙げられ、これらの1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよいが、中でも、ニッケルが好ましい。
【0036】
分離層におけるポリマー(A)中のイソシアヌル酸骨格に由来する窒素原子に対する(B)金属イオンのモル比率(金属イオン/窒素原子)は、分離膜のCO2/N2選択性の観点から、0.01以上0.75以下が好ましく、0.10以上0.60以下がより好ましく、0.125以上0.50以下がさらに好ましい。加えて、分離膜のCO2透過性を両立する観点から、0.125以上0.25以下が最も好ましい。
【0037】
分離層の平均細孔径は特に限定されないが、中間層の平均細孔径よりも小さいことが好ましく、例えば、1nm未満が好ましく、0.5nm未満がより好ましい。下限値は特に限定されないが、0.1nm以上が好ましい。
【0038】
分離層の厚さは、100nm以上1000nm以下が好ましい。分離層が1000nm以下であれば、CO2分離のために長時間または高圧力を必要とせず、分離効率に優れる。また、分離層が100nm以上であれば、CO2以外の気体の透過を抑制することができるためCO2選択性がより向上する。
【0039】
(2)分離膜の製造方法
以下、本発明に係る分離膜の製造方法について説明する。本発明に係る分離膜の製造方法としては、上記分離層を有する分離膜が得られる限り特に制限されないが、例えば、下記工程を含む方法が挙げられる。
(I)(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含む金属ドープポリマーゾルを調製する金属ドープポリマーゾル調製工程
(II)前記金属ドープポリマーゾルを多孔質支持体上に直接または中間層を介して塗布する塗布工程
(III)前記塗布工程で塗布された前記金属ドープポリマーゾルを焼成してアモルファス構造を有する分離層を形成する焼成工程
【0040】
工程(I):金属ドープポリマーゾル調製工程
本工程は、(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーと(B)金属イオンとを含む金属ドープポリマーゾルを調製する工程である。
金属ドープポリマーゾルは、(A)イソシアヌル酸骨格およびシロキサン結合を有するポリマーのゾルと、(B)金属イオンの供給源となる金属塩とを混合することにより得ることができる。
【0041】
ポリマー(A)のゾルは、好ましくは、化合物(1)を含む前駆体を加水分解縮合させて得ることができる。この場合、予め加水分解縮合を行ってポリマー(A)を合成した後、得られたポリマー(A)を溶媒に分散させてポリマー(A)のゾルを調製しても、加水分解縮合反応終了後のポリマー(A)を含むゾルをそのまま用いてもよいが、本発明では、加水分解縮合反応終了後のポリマー(A)を含むゾルをそのまま用いることが好ましい。
【0042】
加水分解縮合を実施するに際し、加水分解触媒を使用してもよい。加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、その水溶液がpH2~7の酸性を示すもの(酸性触媒)が好ましく、特に酸性のハロゲン化水素、スルホン酸、カルボン酸、酸性または弱酸性の無機塩、イオン交換樹脂等の固体酸などが好ましい。
酸性触媒の具体例としては、フッ化水素、塩酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸、安息香酸、乳酸、燐酸、表面にスルホン酸またはカルボン酸基を有するカチオン交換樹脂等が挙げられる。
【0043】
加水分解触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応を速やかに進行させるとともに、反応後の触媒の除去の容易性を考慮すると、前駆体中のケイ素原子1モルに対して0.0002~0.5モルが好ましい。
【0044】
加水分解縮合反応に要する水の量は、特に限定されるものではないが、触媒の失活を防いで反応を十分に進行させることを考慮すると、前駆体中のケイ素原子1モルに対し、水0.1~200モルの割合が好ましい。
加水分解縮合時の反応温度は、特に限定されるものではないが、反応率を向上させるとともに、有機官能基の分解を防止することを考慮すると、-10~150℃が好ましい。反応時間は特に限定されないが、0.5~24時間が好ましい。
【0045】
なお、加水分解縮合の際には、有機溶剤を使用してもよい。使用できる有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0046】
続いて、得られたポリマー(A)のゾルに金属塩を加え、撹拌することにより、金属ドープポリマーゾルを調製する。
金属塩としては、(B)成分の金属イオンの供給源となるものが用いられ、その具体例としては、例えば、Ni(NO3)2・6H2O、AgNO3、Cu(NO3)2・3H2O、Co(NO3)2・6H2O、Zn(NO3)2・6H2O等が挙げられ、中でも、Ni(NO3)2・6H2Oが好ましい。
金属塩の添加量は、ポリマー(A)中のイソシアヌル酸骨格に由来する窒素原子に対する(B)金属イオンのモル比率(金属イオン/窒素原子)が上述した範囲となるように添加する。
【0047】
金属ドープポリマーゾル中の金属ドープポリマーの濃度は、均一な分離層を効率的に作製する観点から、0.1~0.5質量%が好ましい。
【0048】
工程(II):塗布工程
本工程は、前記工程(I)で得られた金属ドープポリマーゾルを、多孔質支持体上に直接または中間層を介して塗布する工程である。
塗布方法および塗布量は特に限定されず、ディップ法、刷毛塗り等の公知の方法から適宜選択でき、所望の厚さに塗布することが好ましい。
【0049】
なお、本発明の分離膜において中間層を設ける場合、中間層形成工程は、金属ドープポリマーゾル調製工程の後に行ってもよく、金属ドープポリマーゾル調製工程前に行ってもよい。また、金属ドープポリマーゾル調製工程と中間層形成工程とを並行して行うこととしてもよい。
【0050】
中間層形成工程としては、例えば、支持体11の表面をα-アルミナ粒子を混合したSiO2-ZrO2ゾルをコーティングし、焼成することにより第1の中間層を形成した後、さらに第1の中間層上にSiO2-ZrO2ゾルを塗布し、焼成することにより第2の中間層を形成し、支持体11上に中間層12を形成する方法が挙げられる。
中間層形成工程における焼成条件は、大気下で400~500℃の焼成温度および10~30分の焼成時間とすることが好ましい。
【0051】
工程(III):焼成工程
本工程は、前記塗布工程で塗布された前記金属ドープポリマーゾルを焼成して分離層を形成する工程である。
焼成条件は、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、200~400℃の焼成温度および30~60分間の焼成時間が好ましい。このような範囲であれば、分離膜のCO2透過性とCO2/N2選択性をより向上させることができる。
【実施例0052】
以下、合成例、比較合成例、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0053】
[合成例1~3、比較合成例1]
工程(I):
エタノールに溶解させたTTPI(KBM-9659:信越化学工業(株)製)に、水および硝酸を加え、TTPIを加水分解、縮合反応させた。このときのモル比は、TTPI/H2O/HNO3=1/300/1であった。そして、25℃で12時間撹拌することにより、TTPIの加水分解縮合物のゾル(TTPIゾル)を調製した。また、TTPIゾルの濃度は、エタノールを用いて5質量%に調製した。
【0054】
続いて、上記で得られたTTPIゾルに、金属塩であるNi(NO3)2・6H2O(シグマ・アルドリッチ社製)を加え、撹拌することによりニッケルドープTTPIゾル(Ni-TTPI)を調製した。また、Ni-TTPIの濃度は、イオン交換水を用いて0.1質量%とした。
このとき、TPPI中の窒素原子に対するニッケルのモル比(Ni/N)をそれぞれ0.125(Ni-TPPI 0.125:合成例1)、0.25(Ni-TPPI 0.25:合成例2)、0.50(Ni-TPPI 0.50:合成例3)としたニッケルドープTTPIゾルを調製した。また、金属塩を添加しないTPPIゾルとして、上記工程(I)で得られたTPPIゾルをイオン交換水を用いて0.1質量%に希釈したもの(TTPI:比較合成例1)を調製した。
【0055】
(ニッケルドープTTPIゾルの特性)
図2(a)に、上記合成例1~3で得られたニッケルドープTTPIゾル、比較合成例1で得られたTTPIゾルおよびNi(NO
3)
2・6H
2Oの紫外可視分光法(UV-Vis)による測定結果を示す。なお、UV-Vis測定は、紫外可視近赤外分光光度計UV-3600plus((株)島津製作所製)を用いた。
ニッケルドープTTPIゾルおよびTTPIゾルは、アミノ基が持つ電子の配位子内遷移(n→σ*)を示す200~212nmにピークが検出された。ニッケルドープTTPIゾルでは、400nm、600nmの2つのピークが検出された。また、ニッケル比率が高くなるにつれて、アミノ基の自由電子の状態の変化により、400nm、600nmの2つのピークが高波長側にシフトした。
【0056】
図2(b)に、フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)(波数500~2000cm
-1)による測定結果を示す。上記合成例1~3で得られたニッケルドープTTPIゾルおよび比較合成例1で得られたTTPIゾルをそれぞれKBrプレートにコーティングし、N
2雰囲気下250℃で焼成後、フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-4100(日本分光(株)製)を用いて測定を行った。
イソシアヌル酸骨格は、波数1550~1650cm
-1にピークを示し、ニッケルドープ量の増加に伴い、波数1610~1620cm
-1においてピークが幅広くなり、強度が大きくなった。これは、TTPIの加水分解、縮合反応により、アミノ基と金属イオンとの配位結合が促進されたことに起因すると考えられる。
【0057】
図2(c)および(d)に、X線光電子分光法(XPS)測定を行った結果を示す。上記合成例1~3で得られたニッケルドープTTPIゾルおよび比較合成例1で得られたTTPIゾルをそれぞれシリコンウェハーにコーティングし、250℃で焼成後、X線光電子分光装置((株)島津製作所製ESCA 3400-HSE)を用いて測定を行った。
図2(c)に示すように、ニッケルドープによりN(1s)結合エネルギーのピークはシフトし、結合エネルギーの増加は、配位結合する電子供与体である窒素に起因するものと考えられる。
また、
図2(d)に示すNi(2p)結合エネルギーにおいて、ニッケルと配位結合する窒素原子を含むニッケルドープTPPI(Ni-TPPI 0.25)で見られる874eV、857eVの2つのピークは、Ni-OHの存在に起因するものと考えられる。
【0058】
UV-Vis、FT-IR、XPSによる測定結果から、いずれのニッケル比率のニッケルドープTTPIゾルにおいてもイソシアヌル酸骨格とニッケルイオンとの間に配位結合が形成されていることがわかる。
【0059】
(ニッケルドープTTPI粉末の特性)
上記合成例1~3で得られたニッケルドープTTPIゾルおよび比較合成例1で得られたTTPIゾルを180℃で乾燥させ、砕いて粉末化し、N2雰囲気下250℃で30分間焼成した。そして、生成された粉末についてX線回折法(XRD)および透過電子顕微鏡(TEM)撮影画像による特性評価を行った。
なお、XRD分析は、XRD D2 PHASER(Bruker社製)を用いて行い、透過型電子顕微鏡はTEM JEOL2010(日本電子(株)製)を用いた。
【0060】
図3(a)に、焼成したニッケルドープTTPI粉末およびTTPI粉末のXRDによる測定結果を示す。2θ角において8°と20°にシロキサンネットワーク(Si-O-Si)に由来する特徴的なブロードピークを示し、ニッケルドープTTPI粉末では、15°にNi(OH)
2のピークが観察された。
Ni/Nモル比が高くなるにつれ、8°の第1ピークが低くシフトし、20°の第2ピークがよりブロードになることから、よりアモルファスな構造を形成したことがわかる。
【0061】
図3(b)に、焼成したニッケルドープTTPI粉末、TTPI粉末のTEM画像を示す。上段は低解像度のTEM画像、下段は高解像度のTEM画像である。ニッケル比率が0.25以上の場合、ニッケルが不均一に分布し、アミノ基と配位結合を形成していない非配位性のニッケルを示す暗い点が多く確認された。
【0062】
図4に、焼成したニッケルドープTTPI粉末およびTTPI粉末のN
2吸着等温線(-196℃)を示す。なお、測定はBELMAX(BELJAPAN社製)を用いて行った。また、N
2吸脱着量等温線から、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積および全細孔容積を算出した結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1に示されるように、ニッケルドープTTPI粉末は、TTPI粉末に比べ、大きなBET比表面積と全細孔容積を有する。これらの金属ドープTTPI粉末において、電子供与体であるTTPI分子内のアミノ基と電子受容体である金属イオンとの間の配位結合により、細孔が形成される。
【0065】
また、BET比表面積および全細孔容積は、Ni-TTPI0.25粉末の場合に最大となった一方、さらにNi/N比が0.5に増加すると、表面積と細孔容積の両方が減少した。これは、TTPIと配位結合を形成していない過剰なニッケルが凝集することによりナノ粒子を形成し、細孔構造をブロックしていると考えられる。
図5に、0、0.25、および0.50のNi/Nモル比でのNi-TTPIネットワーク形成のメカニズムを概略的に示す。
【0066】
図6に、焼成したニッケルドープTTPI粉末およびTTPI粉末のCO
2吸脱着等温線を示す。Ni-TTPI0.25のサンプルは、TPPIまたは低濃度のニッケルドープ粉末よりも高いCO
2吸着性を示した。一方、同様の条件下では、Ni-TTPI0.50は、配位していないニッケル粒子によって細孔が塞がれるため、CO
2吸着能力が低い結果となった。
【0067】
[実施例1]
(中間層形成工程)
多孔質支持体としてα-アルミナ管((株)ニッカトー製、長さ100mm、内径8mm、外径10mm)を用いた。
個数平均粒子径0.2μmのα-アルミナ微粒子および個数平均粒子径2μmのα-アルミナ微粒子とSiO2-ZrO2ゾル(個数平均粒子径:約10nm、2.0質量%)とを混合し、イオン交換水で10質量%になるように希釈した分散液を多孔質支持体の外表面にコーティングし、自然乾燥させたのち、余分な粒子を拭き取り、550℃、大気下で15分間焼成した。上記分散液の塗布および焼成を3回繰り返すことにより、第1中間層を形成した。
【0068】
次に、上記第1中間層上にSiO2-ZrO2ゾル(個数平均粒子径:約10nm、0.5質量%)をコーティングし、大気下において550℃で10分間焼成した。ナノパームポロメーターにより測定される平均細孔径が1nm以上2nm以下になるまで、SiO2-ZrO2ゾルの塗布および焼成を繰り返すことにより第2中間層を形成し、支持体の外表面上に第1および第2中間層を順次形成した。
【0069】
工程(II):
続いて、塗布工程として、上記合成例1で得られた0.1質量%ニッケルドープTTPIゾル(Ni-TPPI 0.125)を、第2中間層上に塗布した。
【0070】
工程(III):
続いて、焼成工程として、上記工程(II)で得られた支持体上に形成された第2中間層上にニッケルドープTTPIゾルを塗布したものをN2雰囲気下、250℃で30分間焼成して分離層を形成し、分離膜を製造した。
【0071】
[実施例2]
工程(II)において、上記合成例1で得られた0.1質量%ニッケルドープTTPIゾルを上記合成例2で得られた0.1質量%ニッケルドープTTPIゾル(Ni-TPPI 0.25)に変更した以外は実施例1と同様の手順で分離膜を製造した。
【0072】
[実施例3]
工程(II)において、上記合成例1で得られた0.1質量%ニッケルドープTTPIゾルを上記合成例3で得られた0.1質量%ニッケルドープTTPIゾル(Ni-TPPI 0.50)に変更した以外は実施例1と同様の手順で分離膜を製造した。
【0073】
[比較例1]
工程(II)において、上記合成例1で得られた0.1質量%ニッケルドープTTPIゾルを上記比較合成例1で得られた0.1質量%TTPIゾル(TPPI)に変更した以外は実施例1と同様の手順で分離膜を製造した。
【0074】
実施例1~3および比較例1で得られた分離膜の透過性評価を、ヘリウム、水素、二酸化炭素、窒素、メタン、四フッ化炭素、六フッ化硫黄について行った。透過させるガスを、分離膜の分離層側(
図1における分離層13側)から200~400kPaの圧力により供給し、200℃で透過性評価を行った。なお、透過流量はフィルムフローメーター((株)堀場製作所製)を用いて測定した。
【0075】
図7に、気体分子サイズと気体透過率との関係を示す。透過させる気体の分子サイズが大きくなるにつれて透過率は減少した。よって、実施例1~3で得られた分離膜による気体分離は、分子ふるいによるものであると考えられる。
Ni-TTPI0.25を用いた分離膜(実施例2)は、TPPIを用いた分離膜(比較例1)またはNi-TTPIを用いた分離膜(実施例1)よりも多孔質であるため、よりガス透過性が向上した。一方、Ni-TTPI0.50を用いた場合(実施例3)は、ガス透過率が低く、ニッケル粒子による細孔の閉塞により膜構造が密になったことが示され、これは、上記のNi-TTPI粒子のCO
2吸着の結果と一致した。
【0076】
実施例1~3および比較例1で得られた分離膜について、
図8にCO
2、N
2のガス透過性およびCO
2/N
2透過率比の温度依存性を示す。(a)~(d)は、それぞれ比較例1、実施例1~3で得られた分離膜を用いた結果である。
いずれの分離膜においても測定温度Tが高い、すなわち測定温度Tの逆数(1/T)が低い程、N
2の透過率が上昇した。これは、(1)分離膜のシロキサンネットワークが熱によって振動することにより、分離膜の細孔サイズが大きくなること、および(2)N
2分子が持つ運動エネルギーが増大することによりN
2分子の拡散が促進されるためと推測される。このように、測定温度Tが高い程、透過率が上昇するガス透過機構は、「活性化拡散」と称される。
【0077】
一方、CO2について、Ni-TTPI分離層におけるNi/NHモル比が高いほど、低温でのCO2透過率が高く、これは、「表面拡散」と称されるガス透過機構が支配的になっていることによると推測される。
表面拡散では、CO2分子がCO2分離膜の表面に吸着することにより、分離膜の上流側から下流側に向かってCO2濃度の勾配が生じ、この濃度勾配に沿って二次元的に分子が移動する。測定温度Tが低い程、CO2分子の持つエネルギーが低くなり、CO2分子が分離膜の表面に吸着されやすくなるので、その濃度勾配にしたがって起こる拡散移動は促進される。したがって、表面拡散では、測定温度Tが高い程、透過率が低下する。
【0078】
実施例1~3で得られた分離膜のCO2/N2の透過選択性は、高温から低温になるにつれて大きく向上した。これは、N2のガス透過機構が活性化拡散であり、低温になるほど透過率が低下していくのに対し、Ni-TTPI分離層におけるCO2のガス透過機構では、イソシアヌル酸骨格のアミンに対するニッケル配位の増加により、アミン-CO2の可逆的な物理吸着が起こりやすくなる結果、低温になるほど透過率が上昇する表面拡散の寄与が大きくなるためであると推測される。
【0079】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に包含される。
式(1)において、Xの炭素数1~8の一価炭化水素基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル基等の直鎖または分岐のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル、アリル、3-ブテニル、5-ヘキセニル、7-オクテニル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基等が挙げられ、これらの中でも、Xは、炭素数1~3の基が好ましく、ビニル基またはアリル基がより好ましく、アリル基がさらに好ましい。
ただし、Xのうち少なくとも1つは上記式(2)で表される基であり、Xが全て上記式(2)で表される基であることが好ましい。