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特開2024-151828熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法
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  • 特開-熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151828
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20241018BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20241018BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241018BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/013
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065560
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】今泉 圭司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】市六 信広
(72)【発明者】
【氏名】小濱 芳允
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP03Y
4J002CP04X
4J002CP13W
4J002CP14W
4J002DA016
4J002DA026
4J002DJ006
4J002DK006
4J002FA046
4J002FD010
4J002FD157
4J002FD206
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】厚さ方向の熱伝導性に優れ、熱伝導性充填材が高配向された熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)熱硬化性シリコーン樹脂と、(B)長径及び短径のアスペクト比が5以上、かつ、長径が30μm以上300μm以下であって、比重が2.0以上3.5未満の反磁性材料である熱伝導性無機充填材:30~150質量部とを含有する熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させて、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造する方法であって、前記熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印可する工程を経た後に、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を90~150℃で1~2時間加熱することにより硬化する熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記(A1)~(A3)成分を含む熱硬化性シリコーン樹脂:100質量部
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン、
(A2)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する前記(A2)成分中のヒドロシリル基のモル比が0.5~2となる量、
及び
(A3)白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm
と、
(B)長径及び短径のアスペクト比が5以上、かつ、長径が30μm以上300μm以下であって、比重が2.0以上3.5未満の反磁性材料である熱伝導性無機充填材:30~150質量部と
を含有する熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させて、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造する方法であって、
前記熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印可する工程を経た後に、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を90~150℃で1~2時間加熱することにより硬化することを特徴とする熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記(A1)成分を、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンとすることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
SiO(4-m-n)/2 (1)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素数2~6のアルケニル基である。mは、0.5~2.5の正数であり、nは、0.0001~0.2の正数である。ただし、m+nは、0.8~2.7の正数である。)
【請求項3】
前記(A2)成分を、下記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
p1q1SiO(4-p1-q1)/2 (2)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基である。p1は1.0~3.0の正数であり、q1は0.05~2.0の正数である。ただし、p1+q1は0.5~3.0の正数である。)
【請求項4】
前記(B)成分を、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、シリコンカーバイト、及び、ボロンナイトライドから選ばれる1種以上の反磁性材料とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータや自動車部品等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためヒートシンクなどの放熱体が用いられている。この放熱体への熱の伝達効率を高める目的で発熱体と放熱体の間に熱伝導性シートを配置することがある。
【0003】
こうした熱伝導性シートとして、特許文献1には、熱伝導材として炭素繊維を充填して配向させた熱伝導性シートが開示されている。また、特許文献2には、炭素粉末がシートの厚さ方向に配向した熱伝導性シートが開示されている。また、特許文献3には、熱伝導性フィラーが厚さ方向に配向し、柔軟性を備える熱伝導性シートが開示されている。また、特許文献4には、接触熱抵抗が低下するため、柔軟層と熱伝導層で多層化する熱伝導性シートが開示されている。また、圧力配向ではあるが、低硬度で高熱伝導性シートが開示されている。また、安価な高磁場発生装置として、特許文献5に開示されるような電気2重層コンデンサに電荷を蓄積して、放電電流を電磁石に供給して磁場を発生させる磁場発生装置がある。
【0004】
近年、電子機器はますます小型化、高性能化が進み、発熱量は増加の一途をたどっており、これまでの熱伝導樹脂組成物よりも更に熱伝導率を高めた熱伝導樹脂組成物が望まれている。また生産性向上のために、熱伝導性フィラーの配向を短時間で行えることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-146057号公報
【特許文献2】特開2014-001388号公報
【特許文献3】特開2019-186555号公報
【特許文献4】国際公開第WO2021/166370号
【特許文献5】特開2022-881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、厚さ方向の熱伝導性に優れ、熱伝導性充填材が高配向された熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、
(A)下記(A1)~(A3)成分を含む熱硬化性シリコーン樹脂:100質量部
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン、
(A2)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する前記(A2)成分中のヒドロシリル基のモル比が0.5~2となる量、
及び
(A3)白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm
と、
(B)長径及び短径のアスペクト比が5以上、かつ、長径が30μm以上300μm以下であって、比重が2.0以上3.5未満の反磁性材料である熱伝導性無機充填材:30~150質量部と
を含有する熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させて、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造する方法であって、
前記熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印可する工程を経た後に、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を90~150℃で1~2時間加熱することにより硬化することを特徴とする熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法を提供する。
【0008】
このような熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法であれば、厚さ方向の熱伝導性に優れる熱伝導性シリコーン樹脂シートを、生産性良く製造することができる。
【0009】
このとき、中でも、前記(A1)成分を、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンとすることが好ましい。
SiO(4-m-n)/2 (1)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素数2~6のアルケニル基である。mは、0.5~2.5の正数であり、nは、0.0001~0.2の正数である。ただし、m+nは、0.8~2.7の正数である。)
【0010】
また、前記(A2)成分を、下記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとすることが好ましい。
p1q1SiO(4-p1-q1)/2 (2)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基である。p1は1.0~3.0の正数であり、q1は0.05~2.0の正数である。ただし、p1+q1は0.5~3.0の正数である。)
【0011】
また、前記(B)成分を、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、シリコンカーバイト、及び、ボロンナイトライドから選ばれる1種以上の反磁性材料とすることが好ましい。
【0012】
これらのような各成分を用いることにより、本発明において製造する熱伝導性シリコーン樹脂シートを、厚さ方向の熱伝導性により優れるものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、厚さ方向の熱伝導性に優れる熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法を提供することができる。また、この熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法は、生産性が良い。この熱伝導性シリコーン樹脂シートは、使用中に熱が発生する電気・電子部品からの除熱に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明において、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して印加するパルス磁場のプロファイルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、
(A)下記(A1)~(A3)成分を含む熱硬化性シリコーン樹脂:100質量部
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン、
(A2)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する前記(A2)成分中のヒドロシリル基のモル比が0.5~2となる量、
及び
(A3)白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm
と、
(B)長径及び短径のアスペクト比が5以上、かつ、長径が30μm以上300μm以下であって、比重が2.0以上3.5未満の反磁性材料である熱伝導性無機充填材:30~150質量部と
を含有する熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させて、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造する方法であって、
前記熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印可する工程を経た後に、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を90~150℃で1~2時間加熱することにより硬化することが、厚さ方向の熱伝導性に優れる熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法となることを見出した。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)熱硬化性シリコーン樹脂]
本発明の(A)成分である熱硬化性シリコーン樹脂は、下記(A1)~(A3)の各成分を含む。
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン、
(A2)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する(A2)成分中のヒドロシリル基のモル比が0.5~2となる量、
及び
(A3)白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm
以下、各成分について詳述する。
【0017】
[(A1)成分]
(A1)成分である、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有する。このケイ素原子に結合したアルケニル基は、1分子中に好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個程度有するものである。これら(A1)成分は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、(A1)成分は、単一のシロキサン単位からなる重合体であっても、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体であってもよい。さらに、(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の位置は特に制限されず、このアルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子及び分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子のどちらか一方にのみ結合していてもよいし、これら両者に結合していてもよい。
【0018】
(A1)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状構造、一部分岐を有する直鎖状構造、分岐鎖状構造、環状構造、分岐を有する環状構造が挙げられる。これらの中で、通常、実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、具体的には、分子鎖が主にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0019】
(A1)成分の25℃における粘度は、1~20,000mPa・sが好ましく、10~1,000mPa・sがより好ましい。また、(A1)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1分子中のケイ素原子数(又は重合度)が3~700個であることが好ましく、より好ましくは4~300個程度である。上記粘度が1mPa・s以上であると、得られるシリコーン樹脂組成物中の(B)成分である熱伝導性無機充填材の沈降を抑制でき、長期の保存性を良好に保つことができる。また、上記粘度が20,000mPa・s以下であると、得られるシリコーン樹脂組成物において(B)成分である反磁性材料である熱伝導性無機充填材が磁場配向しやすくなり、熱伝導性を高くしやすく、熱伝導性を良好にしやすくなる。なお、本発明における粘度とは、JIS K 7117-1:1999記載の回転粘度計によって測定した値である。
【0020】
(A1)成分としては、特に、下記平均組成式(1)
SiO(4-m-n)/2 (1)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素数2~6のアルケニル基である。mは、0.5~2.5の正数であり、nは、0.0001~0.2の正数である。ただし、m+nは、0.8~2.7の正数である。)
で表され、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0021】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基中の炭素原子に結合した水素原子の一部が塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、メチル基、フェニル基又はこれら両者の組み合わせが好ましい。Rがメチル基、フェニル基又はこれら両者の組み合わせである(A1)成分は、合成が容易であり、化学的安定性が良好である。また、(A1)成分として特に耐溶剤性が良好なオルガノポリシロキサンを用いる場合には、Rは、メチル基、フェニル基又はこれら両者の組み合わせと3,3,3-トリフルオロプロピル基との組み合わせであることがさらに好ましい。
【0023】
上記Rの具体例としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。これらの中でもビニル基が好ましい。Rがビニル基である(A1)成分は、合成が容易であり、化学的安定性が良好である。
【0024】
(A1)成分の具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これらのオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよく、また重合度の異なる1種又は2種以上を併用してもよい。
【0025】
[(A2)成分]
(A2)成分は、1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが特徴である。この(A2)成分は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。(A2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、シリコーン樹脂組成物における硬化剤であり、好ましくは1分子中に3個以上、より好ましくは4個以上(通常4~300個程度)、さらに好ましくは5個以上(通常5~200個程度)のヒドロシリル基を有するものである。(A2)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、環状、又は三次元網状構造の樹脂状物のいずれのものであってもよいが、下記平均組成式(2)で示されるものを用いることが好ましい。
【0026】
p1q1SiO(4-p1-q1)/2 (2)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基である。p1は1.0~3.0の正数であり、q1は0.05~2.0の正数である。ただし、p1+q1は0.5~3.0の正数である。)
【0027】
式(2)中のRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の、脂肪族不飽和結合を除く、通常、炭素数1~10、好ましくは1~8程度の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基等が例示される。メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、3,3,3-トリフロロプロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0028】
(A2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、具体的には、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、H(CHSiO1/2単位とSiO単位との共重合体、H(CHSiO1/2単位と(CHSiO1/2単位とSiO単位との共重合体や、これらのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0029】
(A2)成分の25℃における粘度は特に限定されないが、0.5~1,000,000mPa・sが好ましく、1~100,000mPa・sがより好ましい。また、(A2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中のケイ素原子数(又は重合度)が3~500個が好ましく、より好ましくは4~300個程度である。
【0030】
(A2)成分の配合量は、(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する(A2)成分中のヒドロシリル基のモル比が0.5~2となる量である。上記モル比は、0.7~1.8となる量がより好ましく、0.8~1.7となる量がさらに好ましい。
【0031】
[(A3)成分]
本発明の熱硬化性シリコーン樹脂は、上記反応を促進するための付加反応触媒である(A3)白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒を含有する。(A3)成分としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、塩化白金酸又は塩化白金酸塩等の白金錯体を、アルケニル基等のビニル基を有するオルガノポリシロキサンで希釈したヒドロシリル化触媒が好ましい。これは、白金錯体と、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンとを混合することで得られる。白金錯体中にトルエン等の溶媒が含まれる場合は、混合後に溶媒を取り除くとよい。
【0032】
(A3)成分である白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒は、(A)成分に対する白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppmである。この含有量は、好ましくは、0.5~1,000ppmである。白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒の添加量がこのような範囲であれば、十分な硬化性を確保するとともに、コストを抑えることができる。
【0033】
[(B)成分]
(B)成分は、反磁性材料から選ばれる長径、短径のアスペクト比が5以上、好ましくは30~300で、長径が30μm以上300μm以下、好ましくは50μm以上250μm以下であって、なおかつ、比重が2.0以上3.5未満、好ましくは2.0以上3.0以下の熱伝導性無機充填材である。この(B)成分は、シリコーン組成物の熱伝導率を向上させるための成分である。このような熱伝導性無機充填材を使用することで、磁場印加により熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物中の(B)成分が配向しやすくなり、製造される熱伝導性シリコーン樹脂シートの厚さ方向の熱伝導率を向上させることができる。
【0034】
中でも、(B)成分を、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、シリコンカーバイト、及び、ボロンナイトライドから選ばれる1種以上の反磁性材料とすることが好ましい。
【0035】
(B)成分の配合量としては、前記(A)熱硬化性シリコーン樹脂100質量部に対して30~150質量部であり、好ましくは、35~145質量部である。この(B)成分の配合量が、30質量部未満であると、熱伝導性が悪くなり、150質量部より多いと熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の粘度が著しく高くなり、磁場配向が困難になるおそれがある。
【0036】
本発明においては、上記(B)成分以外の熱伝導性無機充填材を配合してもよい。例としては、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素粉末、アルミニウム、銀、ニッケル、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、金属ケイ素等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお、上記(B)成分以外の熱伝導性無機充填材を配合する場合、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物中の上記充填材の含有量は、(A1)成分100質量部に対して100質量部以下が好ましい。
【0037】
[その他成分]
本発明の熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物には、熱硬化前の粘度を低下させるため、さらにその他成分として加水分解性オルガノポリシロキサンからなる粘度調整剤を含有することができる。1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。粘度調整剤は、前記熱伝導性充填材である(B)成分を(A)成分のシリコーン樹脂に高充填しても、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の流動性を保ち、この組成物に良好な取り扱い性を付与する。粘度調整剤としては、下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサン、特に、3官能(下記式(4)においてg=0)の加水分解性オルガノポリシロキサンを含有することが好ましい。
【化1】
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基である。Xは独立に前記R又は下記式(4)で表される基であり、そのうち1つ以上は下記式(4)で示される基である。
【化2】
(式中、Qは酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基であり、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシアルキル基、又は炭素数1~4のアシル基から選ばれる基であり、gは0~2の整数である。)aは1≦a≦100、bは0≦b≦100である。)
【0038】
粘度調整剤としては、下記一般式(5)
【化3】
(式中、R、R、gは前記と同じであり、cは5~100の整数である。)
で表されるオルガノポリシロキサン、特に25℃における粘度が0.005~100mPa・sのオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0039】
上記式(3)及び(5)中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、その例としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基が挙げられる。Rとして、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0040】
上記Rは炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、Rの具体例としては、上記Rについて例示したものが挙げられる。
【0041】
上記Rは独立に炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシアルキル基、又は炭素数1~4のアシル基から選ばれる基である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基等が挙げられる。アシル基としては、アセチル基等が挙げられる。Rはアルキル基であることが好ましく、特にはメチル基、エチル基であることが好ましい。
【0042】
aは1≦a≦100、bは0≦b≦100であり、好ましくはa+bが10~50である。cは5~100の整数であり、好ましくは10~50である。gは0~2の整数であり、好ましくは0である。なお、分子中にOR基は1~6個、特に3又は6個有することが好ましい。
【0043】
粘度調整剤の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【化4】
【0044】
前記粘度調整剤の配合量は、(A1)成分100質量部に対して、50~300質量部であることが好ましい。この粘度調整剤の配合量は、中でも、60~250質量部が好ましい。この粘度調整剤の配合量が50質量部以上であると熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の粘度がより適切となり、吐出性を良好にすることができる。一方、この粘度調整剤の配合量が300質量部以下であると粘度がより適切となり、粘度調整剤がブリードするおそれや、(B)成分以外の熱伝導性無機充填材を配合した場合、沈降するおそれを抑制することができる。
【0045】
本発明の熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物には、上記以外の任意の成分を配合することができる。
【0046】
上記した熱伝導性無機充填材以外にも、その他の充填材を用いてもよい。このその他の充填材は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。このその他の充填材としては、例えば、ウォラストナイト、タルク、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン等のクレー;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、バライト、マラカイト等の炭酸銅;ザラカイト等の炭酸ニッケル;ウィザライト等の炭酸バリウム;ストロンチアナイト等の炭酸ストロンチウム;フォーステライト、シリマナイト、ムライト、パイロフィライト、カオリナイト、バーミキュライト等のケイ酸塩;ケイ藻土等の非補強性の充填材;これらの充填材の表面を有機ケイ素化合物で処理したもの等が挙げられる。このようなその他の充填材を配合する場合、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物中の上記充填材の含有量は、(A1)成分100質量部に対して5質量部以下が好ましい。
【0047】
本発明の熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン樹脂シートの接着性を向上させるために、接着性付与剤を配合してもよい。接着性付与剤は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。接着性付与剤として、具体的には、メチルビニルジメトキシシラン、エチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、エチルビニルジエトキシシラン等のアルキルアルケニルジアルコキシシラン;メチルビニルジオキシムシラン、エチルビニルジオキシムシラン等のアルキルアルケニルジオキシムシラン;メチルビニルジアセトキシシラン、エチルビニルジアセトキシシラン等のアルキルアルケニルジアセトキシシラン;メチルビニルジヒドロキシシラン、エチルビニルジヒドロキシシラン等のアルケニルアルキルジヒドロキシシラン;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等のオルガノトリアルコキシシラン;トリアリルイソシアヌレート、ジアリル(3-トリメトキシシリル)イソシアヌレート、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(3-トリプロポキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート化合物;テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、チタンエチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート等のチタン化合物;エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等のアルミニウム化合物;ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等のジルコニウム化合物が挙げられる。
【0048】
接着性付与剤を配合する場合、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物中の接着性付与剤の含有量は特に限定されないが、(A1)成分100質量部に対して0.01~10質量部が好ましい。
【0049】
[製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法では、上記(A)成分((A1)~(A3)成分を含む熱硬化性シリコーン樹脂)と、上記(B)成分とを含有する熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させて、その硬化物である熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造する方法である。本発明では、このとき、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印可する工程を行い、その後に、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を90~150℃で1~2時間加熱することにより硬化することを特徴とする。
【0050】
熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造する方法のより具体的な例として、例えば、下記工程(I)~(IV)を含むものが挙げられる。
【0051】
[工程(I)]
上記(A1)及び(B)成分を混合し、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリーミキサー(何れも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機を用いて混合する。(A1)及び(B)成分を混合する温度・時間は特に限定されないが、20℃から150℃で30分から3時間が好ましく、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の物性安定の観点から100℃から150℃で1時間から2時間で混練りすることが好ましい。
【0052】
[工程(II)]
工程(I)で得られた混合物に(A3)白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒と(A2)成分を配合し、室温~40℃で10分~1時間混合して熱硬化性シリコーン熱伝導組成物を製造する。
【0053】
[工程(III)]
熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の熱伝導性無機充填材を磁場配向する工程として、磁場強度(磁束密度)30T以上、好ましくは30T~40Tのパルス磁場を、磁場の継続時間0.5秒以上60秒以下、好ましくは0.5~10秒、磁場印加時の温度60℃~90℃、好ましくは65~85℃で印可する。図1に、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して印加するパルス磁場のプロファイルの一例を示した。これは、後述の実施例1において印加したパルス磁場のプロファイルである。図1の横軸は経過時間であり、0秒の起点は任意である。縦軸は磁束密度の測定値である。本発明の説明において、磁場強度(磁束密度)が30T以上であるとは、パルス磁場のピーク強度が30T以上であることを指す。また、本発明の説明において、磁場の継続時間とは、上記のようにパルス磁場のピーク強度が30T以上である場合に、磁場強度が5T以上である時間の経過時間である。図1では、磁場強度(すなわち、ピーク磁場強度)は39.1Tである。また、磁場強度が5T以上である時間は、1.0秒である。
【0054】
[工程(IV)]
磁場配向した熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を90℃~150℃、1時間~2時間で熱硬化する。
【0055】
[パルス磁場発生装置]
本発明で使用できる、パルス磁場発生装置は、例えば、以下で構成される。
1) フライホイール付き直流発電機
2) 電磁石
3) 制御器
4) 恒温器
【0056】
以下では、上記パルス磁場発生装置の各構成要素を、後述の実施例で使用した態様に即して記載するが、本発明は、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印可することができれば、どのようなパルス磁場発生装置を用いてもよい。
【0057】
[フライホイール付き直流発電機]
フライホイール付き直流発電機は、直流モーターと慣性モーメントの大きい円盤(フライホイール)を結合したものである。直流モーターでフライホイールを回転させることでエネルギーを貯蔵でき、直流モーターをダイナモとして使うことで回転エネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができる。本発明の実施例で用いた、このフライホイール付き直流発電機は、最大2.7kV、19kA、51.3MWの出力を持つ。このフライホイール付き直流発電機の出力は制御器により調整され、直列接続された電磁石に大電流が通電され、後述する電磁石で電流に比例する磁場が発生される。
【0058】
[電磁石]
本発明の実施例では、電磁石として、4mm×6mmの銅線で製作されたソレノイドを用いた。このソレノイドの電気抵抗は77Kで42mΩ、常温で330mΩであり、インダクタンスは100mHであった。一定の磁場を発生できる空間は電磁石の内径サイズの直径27mm×長さ40mmである。
【0059】
[制御器]
本発明の実施例では、制御器により、放電電圧2,400Vで液体窒素により77Kに冷却された電磁石へ10kAの電流を供給した。
【0060】
[恒温機]
本発明の実施例では、液体窒素で冷却した電磁石とサンプル空間を熱的に遮断するために、恒温機として、ステンレスで作られた2重管を挿入した。この2重管の内側サイズは直径20mmであり、2重管の内菅と外管の間は真空に保たれており、この空間には直径0.1mmのマンガニンワイヤーで作られたヒーターが取り付けられている。これにより、2重管を液体窒素の中に入れても、サンプル空間は77Kから373Kまでの温度を半永久的に保つことができた。この一定温度条件で39Tまでのパルス磁場を印可し、シリコーン組成物を硬化した。
【0061】
[熱伝導性シリコーン樹脂シート]
本発明の製造方法によって得られる熱伝導性シリコーン樹脂シートの熱伝導率は20W/m・K以上が好ましく、30W/m・K以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、50W/m・K以下とすることができる。このように優れた熱伝導率を有するため、放熱用として好適である。なお、本発明において、熱伝導率はNETZSCH社製のキセノンフラッシュアナライザーの方法で測定されたものである。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例で使用した成分を下記に説明する。
【0064】
[調製例:付加反応触媒((A3)成分)の調製]
まず、(A3)成分を以下のように調製した。塩化白金酸HPtCl・6HO(白金原子換算で37.6質量%)8.0gを還流コンデンサ、温度計、撹拌装置を取り付けた100mLの反応フラスコに入れ、次いでエタノールを40.0g及びジビニルテトラメチルジシロキサンを16.0g加えた。70℃で50時間加熱反応させた後、反応混合物を室温(25℃)にて撹拌しながら炭酸水素ナトリウム16gを徐々に加えて2時間中和した。反応混合物を吸引濾過し、濾液を減圧留去し、エタノール及び過剰のジビニルテトラメチルジシロキサンを実質的に取り除いた後、トルエンで希釈し、全量を600gとした(白金原子換算で0.5質量%含有)。
【0065】
上述した白金-ビニルシロキサン錯体トルエン溶液に290gの粘度600mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを加えて撹拌し、トルエンを60℃/27hPaで減圧留去し、実質的にトルエンを取り除いたものをヒドロシリル化触媒とした(白金原子換算で1.0質量%含有)。
【0066】
[(A1)成分]
粘度600mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基含量:0.015mol/100g、式(1)のm=2.000、n=0.011に相当)
【0067】
[(A2)成分]
下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化5】
(ヒドロシリル基含量:0.00128mol/g、式(2)のp1=1.969、q1=0.098に相当)
各シロキサン単位の結合順序は、上記に制限されるものではない。
【0068】
[(A3)成分]
上記調製例で調製した白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒
【0069】
[(B)成分:反磁性の熱伝導性無機充填材]
B-1:XN-100-15M(平均直径1μm、平均長150μm):日本グラファイトファイバー株式会社製
B-2:XN-100-25M(平均直径1μm、平均長250μm):日本グラファイトファイバー株式会社製
【0070】
[その他成分]
下記式で表される粘度調整剤
【化6】
【0071】
下記方法で、表1に示す組成の熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造した。
【0072】
[実施例1~5、比較例1、2]
熱伝導性シリコーン組成物の製造
(A1)成分及び(B)成分を室温(25℃)で配合して、プラネタリーミキサーを用いて10~30分混合した。得られた混合物を150℃に加熱し、減圧下で120分撹拌混合した。その後、加熱を停止して室温送風条件下で50℃以下まで冷却した。冷却後に所定の(A2)成分、(A3)成分である白金金属系ヒドロシリル化反応触媒成分を添加して、室温(25℃)にて撹拌混合した。このようにして、熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を得た。
【0073】
[熱伝導性シリコーン樹脂シートの作製]
上記組成物をシート状に成形し、表1の条件で磁場を印加した後、熱硬化させ、熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造した。なお、実施例1において印加した磁場の磁束密度プロファイルを図1に示した。また、熱硬化の温度、加熱時間は実施例1~5、比較例1、2のいずれも120℃、1.5時間である。
【0074】
製造した熱伝導性シリコーン樹脂シートの特性は次に示す方法にて測定した。結果を表1に記載した。
【0075】
[熱伝導率測定]
NETZSCH社製のキセノンフラッシュアナライザー:LFA447を用いて、25℃において測定した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1の結果は、本発明の製造方法によって得られる熱伝導性シリコーン樹脂シートは、熱伝導率に優れる。また、この優れた熱伝導率は、熱伝導性無機充填材が高配向であることによる。また、本発明の製造方法によって得られる熱伝導性シリコーン樹脂シートは、熱伝導率に優れるだけでなく、非常に短時間の磁場印加で配向することから、生産性に優れていることを実証するものである。すなわち、(A1)~(A3)成分及び(B)成分を含み、硬化前の磁場印加条件として0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印加した実施例1~5は、0.017分(約1.0秒)という短時間の磁場印加時間であっても、比較例1、2に対して熱伝導率に優れている。
【0078】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:(A)下記(A1)~(A3)成分を含む熱硬化性シリコーン樹脂:100質量部
(A1)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン、
(A2)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A1)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する前記(A2)成分中のヒドロシリル基のモル比が0.5~2となる量、
及び
(A3)白金族金属系ヒドロシリル化反応触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm
と、
(B)長径及び短径のアスペクト比が5以上、かつ、長径が30μm以上300μm以下であって、比重が2.0以上3.5未満の反磁性材料である熱伝導性無機充填材:30~150質量部と
を含有する熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を硬化させて、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン樹脂シートを製造する方法であって、
前記熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物に対して、0.5秒以上60秒以下で、30T以上のパルス磁場を印可する工程を経た後に、該熱伝導性熱硬化性シリコーン樹脂組成物を90~150℃で1~2時間加熱することにより硬化することを特徴とする熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
[2]: 前記(A1)成分を、下記平均組成式(1)で表されるオルガノポリシロキサンとする上記[1]の熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
SiO(4-m-n)/2 (1)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、Rは独立に炭素数2~6のアルケニル基である。mは、0.5~2.5の正数であり、nは、0.0001~0.2の正数である。ただし、m+nは、0.8~2.7の正数である。)
[3]: 前記(A2)成分を、下記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとする上記[1]又は上記[2]の熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
p1q1SiO(4-p1-q1)/2 (2)
(式中、Rは独立に炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基である。p1は1.0~3.0の正数であり、q1は0.05~2.0の正数である。ただし、p1+q1は0.5~3.0の正数である。)
[4]: 前記(B)成分を、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、シリコンカーバイト、及び、ボロンナイトライドから選ばれる1種以上の反磁性材料とする上記[1]~[3]のいずれかの熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の熱伝導性シリコーン樹脂シートの製造方法は、生産性に優れるだけでなく、熱伝導性に優れた熱伝導性シリコーン樹脂シートを与える。
図1