(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154954
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】エチレン吸着フィルム、巻回体及びエチレン吸着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241024BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B32B15/08 D
B32B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069207
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】植田 千晴
(72)【発明者】
【氏名】谷山 弘行
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅英
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AB01C
4F100AB02C
4F100AB09C
4F100AB10C
4F100AB12C
4F100AB14C
4F100AB15C
4F100AB16C
4F100AB17C
4F100AB18C
4F100AB19C
4F100AB24C
4F100AH00B
4F100AK01B
4F100AK21B
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AK80B
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DD07B
4F100DE01B
4F100DJ00C
4F100EA02
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ55
4F100EJ86
4F100GB15
4F100GB23
4F100JD14
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れたエチレン吸着能を発揮するエチレン吸着フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、基材層と、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層と、多孔性金属錯体層とを備える、エチレン吸着フィルムに関する。また、本発明は、基材層上に、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層を形成する工程と、アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで多孔性金属錯体層を形成する工程とを有する、エチレン吸着フィルムの製造方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層と、多孔性金属錯体層とを備える、エチレン吸着フィルム。
【請求項2】
前記多孔性金属錯体層が、
チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、カドミウム及びパラジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属と、有機配位子とが結合してなる多孔性金属錯体を含む、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項3】
前記有機配位子が、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基及びスルホン酸基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する、請求項2に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項4】
前記有機配位子が、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項5】
前記多孔性金属錯体層の厚みが0.1~10μmである、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項6】
前記アンカー層の算術平均高さSaが0.1~20μmである、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項7】
前記アンカー層の水接触角が50°以下である、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項8】
前記極性基含有ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)及びポリアリルアミン塩酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項9】
前記アンカー層が有機粒子及び無機粒子から選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項10】
前記有機粒子及び前記無機粒子の平均粒子径がそれぞれ0.1~20μmである、請求項9に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項11】
前記アンカー層が2層以上からなる、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項12】
青果物包装用である、請求項1に記載のエチレン吸着フィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のエチレン吸着フィルムを巻回してなる、巻回体。
【請求項14】
基材層上に、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層を形成する工程と、
前記アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、前記金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで多孔性金属錯体層を形成する工程とを有する、エチレン吸着フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記多孔性金属錯体層を形成する工程は、
前記アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し塗膜を形成する工程と、前記塗膜を、有機配位子を含有する溶液に浸漬して多孔性金属錯体層を形成する工程とを有する、請求項14に記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記金属水酸化物を構成する金属が、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、カドミウム及びパラジウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項14に記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記有機配位子が1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項15に記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
【請求項18】
前記極性基含有ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)及びポリアリルアミン塩酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項14に記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン吸着フィルム、巻回体及びエチレン吸着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンは、果物や野菜で作られるガスであり、成熟と植物組織の老化を促進させる植物ホルモンの一つとして知られている。果物等を収穫した後、保管や運送の間に、果物等の鮮度が落ちてしまうのは、このエチレンの発生が大きな原因であると考えられている。このため、果物や野菜の鮮度を保つために、エチレンを除去もしくは分解し、収穫された果物等に接触させないことが重要となる。
【0003】
エチレンを除去もしくは分解する方法として、種々の方法が検討されている。例えば、特許文献1には、青果物等生鮮品の劣化を抑制することにより青果物等生鮮品の鮮度を維持する鮮度維持材の組成物であって、シクロデキストリンを含有する組成物が開示されている。また、特許文献2には、エチレンを表面に付着可能なプラスチック製の機能性フィルムであって、エチレンを二酸化炭素と水に分解し、フィルムの一方の面から他方の面に排出可能は触媒機能を有する物質を含む機能性フィルムが開示されている。
【0004】
脱臭や、ガスの分離・精製には活性炭やシリカゲル、ゼオライト、多孔性金属錯体といった多孔質材料が用いられる場合があり、エチレンの除去にもこのような材料を使用することが検討されている。例えば、特許文献3には、金属イオンと、金属イオンに結合可能な有機配位子によって多孔構造を構成している多孔性金属錯体と、有機繊維を含む吸着シートが開示されている。また、特許文献4には、[Cu(C10H8N4)]nを基本構成単位とする化学構造を有する多孔質配位高分子錯体からなることを特徴とするエチレンガス吸着剤が開示されており、特許文献5には、多孔性金属錯体、または金属担持無機多孔体を含むエチレンガス吸着剤が開示されている。なお、特許文献3に開示された吸着シートは、湿式抄紙法により形成された繊維シートであり、特許文献4に開示されたエチレン吸着剤は多孔質配位高分子錯体からなる粉末である。また、特許文献5に開示されたエチレンガス吸着剤においては、エチレンガス吸着剤は熱可塑性樹脂中に混在、分散されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-170368号公報
【特許文献2】国際公開第2017/135433号
【特許文献3】国際公開第2013/115033号
【特許文献4】特開2004-322005号公報
【特許文献5】特開2022-001357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、多孔性金属錯体等にエチレンを吸着させることで、エチレンを除去する方法が検討されている。しかしながら、従来のエチレン吸着フィルムにおいては、そのエチレン吸着能が十分に高くなく、さらなる改良が求められていた。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、優れたエチレン吸着能を発揮するエチレン吸着フィルムを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0009】
[1] 基材層と、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層と、多孔性金属錯体層とを備える、エチレン吸着フィルム。
[2] 多孔性金属錯体層が、
チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、カドミウム及びパラジウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属と、有機配位子とが結合してなる多孔性金属錯体を含む、[1]に記載のエチレン吸着フィルム。
[3] 有機配位子が、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基及びスルホン酸基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する、[2]に記載のエチレン吸着フィルム。
[4] 有機配位子が、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、[2]又は[3]に記載のエチレン吸着フィルム。
[5] 多孔性金属錯体層の厚みが0.1~10μmである、[1]~[4]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルム。
[6] アンカー層の算術平均高さSaが0.1~20μmである、[1]~[5]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルム。
[7] アンカー層の水接触角が50°以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルム。
[8] 極性基含有ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)及びポリアリルアミン塩酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[7]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルム。
[9] アンカー層が有機粒子及び無機粒子から選択される少なくとも1種を有する、[1]~[8]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルム。
[10] 有機粒子及び無機粒子の平均粒子径がそれぞれ0.1~20μmである、[9]に記載のエチレン吸着フィルム。
[11] アンカー層が2層以上からなる、[1]~[10]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルム。
[12] 青果物包装用である、[1]~[11]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルム。
[13] [1]~[12]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルムを巻回してなる、巻回体。
[14] 基材層上に、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層を形成する工程と、
アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで多孔性金属錯体層を形成する工程とを有する、エチレン吸着フィルムの製造方法。
[15] 多孔性金属錯体層を形成する工程は、
アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し塗膜を形成する工程と、塗膜を、有機配位子を含有する溶液に浸漬して多孔性金属錯体層を形成する工程とを有する、[14]に記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
[16] 金属水酸化物を構成する金属が、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、カドミウム及びパラジウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、[14]又は[15]に記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
[17] 有機配位子が1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、[15]又は[16]に記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
[18] 極性基含有ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)及びポリアリルアミン塩酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、[14]~[17]のいずれかに記載のエチレン吸着フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れたエチレン吸着能を発揮するエチレン吸着フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態のエチレン吸着フィルムの構成を説明する断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のエチレン吸着フィルムの構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。なお、以下の説明において使用される「フィルム」と「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0013】
(エチレン吸着フィルム)
本実施形態は、基材層と、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層と、多孔性金属錯体層とを備える、エチレン吸着フィルム(以下、本エチレン吸着フィルムともいう)に関する。
図1に示されるように、本エチレン吸着フィルム10は、基材層2、アンカー層4及び多孔性金属錯体層6をこの順で備える。基材層2、アンカー層4及び多孔性金属錯体層6のそれぞれの間には、必要に応じて他の層が設けられていてもよいが、本実施形態においては、基材層2とアンカー層4は直接積層されていることが好ましく、また、アンカー層4と多孔性金属錯体層6も直接積層されていることが好ましい。
【0014】
本実施形態のエチレン吸着フィルムは、上記構成を有するため、優れたエチレン吸着能を発揮することができる。ここで、エチレン吸着能は、以下の方法でエチレン吸着量を算出することで評価することができる。具体的には、まず、エチレン吸着フィルムを所定の大きさ(例えば、5cmx9cm)に裁断し、ガラス瓶に入れ密閉する。次いで、ガラス瓶内のエチレンガス濃度が100ppmとなるよう標準エチレンガスを注入し、すぐにガラス瓶から1mLの気体を採取しガスクロマトグラフィーにて、エチレン濃度を測定する。1時間後、再びガラス瓶から1mLの気体を採取し、エチレン濃度を測定し、その差分からエチレン吸着フィルムのエチレン吸着量を算出する。またエチレン吸着フィルムを入れずに同様の測定することで1時間のうちにガラス瓶から漏れ出たエチレン量を求め、エチレン吸着フィルムのエチレン吸着量から差し引く。すなわち、エチレン吸着量は以下の式で算出することができる。
エチレン吸着量(ppm/g/h)=初期エチレン濃度(ppm)-エチレン吸着フィルムを収容したガラス瓶中の1時間後のエチレン濃度(ppm)-ガラス瓶から漏れ出たエチレン量(ppm)
【0015】
上記方法で算出されるエチレン吸着量(ppm/g/h)は、0.8ppm/g/h以上であることが好ましく、0.9ppm/g/h以上であることがより好ましく、1.0ppm/g/h以上であることがさらに好ましく、1.5ppm/g/h以上であることが一層好ましく、2.0ppm/g/h以上であることがより一層好ましく、2.5ppm/g/h以上であることがさらに一層好ましく、3.0ppm/g/h以上であることが特に好ましい。なお、上記方法で算出されるエチレン吸着量(ppm/g/h)の上限値は特に限定されるものではなく、例えば、100ppm/g/hであってもよい。
【0016】
多孔性金属錯体は活性炭やゼオライトと比較して高い比表面積を有するため、優れたエチレン吸着能を発揮する。従来、多孔性金属錯体からなる粉末をエチレン吸着剤として用いることの検討がなされているが、粉末のエチレン吸着剤をシート化する際には、エチレン吸着剤と樹脂を混練した上でシート化する方法が一般的であり、このような場合、エチレン吸着サイトが樹脂により塞がれてしまうため、エチレン吸着能に優れたシートを得ることが困難であった。そこで、本発明者らは、エチレン吸着能に優れた多孔性金属錯体層を有するエチレン吸着フィルムを作製することを目的として研究を進めた。そして本発明者らは、本実施形態の構成とすることで、多孔性金属錯体のエチレン吸着サイトを阻害することなく製膜でき、エチレン吸着能に優れたシートが得られることを見出した。さらに、本実施形態では、アンカー層を設けることで、多孔性金属錯体層を厚膜化することが可能となり、比表面積の増大と多孔性金属錯体層の厚膜化により、より優れたエチレン吸着能を発揮するエチレン吸着フィルムを得ることができる。
【0017】
本実施形態では多孔性金属錯体の立体構造中に形成される空隙(吸着サイト)のサイズが被吸着物質であるエチレンに対し、好適な大きさとなっている。
【0018】
また、本実施形態のエチレン吸着フィルムは、上記構成を有するため、層間密着性にも優れている。具体的には、本実施形態のエチレン吸着フィルムにおいては、基材層と多孔性金属錯体層の間に所定のアンカー層が設けられているため、層間密着性が高められている。層間密着性は、エチレン吸着フィルムの多孔性金属錯体層側の面に粘着テープ(ニチバン社製「セロテープ(登録商標)」)を貼り、剥離した後の粘着テープの粘着性の有無によって評価できる。
【0019】
さらに、本実施形態のエチレン吸着フィルムは、繰返し利用が可能である。例えば、エチレンを吸着した多孔性金属錯体層を100℃程度に加熱することにより、吸着したエチレンを脱離することができる。そして、エチレンを脱離した多孔性金属錯体層は再びエチレンを吸着することができるため、繰返し利用に供される。
【0020】
本エチレン吸着フィルムの全光線透過率は、特に限定されるものではないが、例えば、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。本エチレン吸着フィルムの全光線透過率の上限値は特に限定されるものではなく、100%であってもよい。エチレン吸着フィルムの全光線透過率が上記範囲内であれば、エチレン吸着フィルムの意匠性を高めることができ、さらに内容物の視認性等を高めることができる。本エチレン吸着フィルムの全光線透過率は、JIS K 7136:2000に準拠して測定される値である。
【0021】
本エチレン吸着フィルムのヘーズは、特に限定されるものではないが、例えば、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。本エチレン吸着フィルムのヘーズの下限値は特に限定されるものではなく、0%であってもよい。エチレン吸着フィルムのヘーズが上記範囲内であれば、エチレン吸着フィルムの意匠性を高めることができ、さらに内容物の視認性等を高めることができる。本エチレン吸着フィルムのヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠して測定される値である。
【0022】
本エチレン吸着フィルムの全体の厚みは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、本エチレン吸着フィルムの全体の厚みは、3000μm以下であることが好ましく、2000μm以下であることがより好ましく、1500μm以下であることがさらに好ましい。本エチレン吸着フィルムの全体の厚みを上記範囲内とすることにより、エチレン吸着能をより効果的に高めることができる。
【0023】
本実施形態は、エチレン吸着フィルムを巻回してなる巻回体に関するものであってもよい。本エチレン吸着フィルムは適度な強度と柔軟性を有するため、ロール状体として、保管したり、流通させたりすることができる。
【0024】
(多孔性金属錯体層)
本エチレン吸着フィルムは、多孔性金属錯体層を有する。多孔性金属錯体層は、多孔性金属錯体(Porous Coordination PolymerまたはMetal Organic Framework:MOF)を含む層である。多孔性金属錯体層における多孔性金属錯体の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが一層好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。なお、多孔性金属錯体層における多孔性金属錯体の含有量は100質量%であってもよく、多孔性金属錯体層は、多孔性金属錯体からなる層であってもよい。本実施形態では、多孔性金属錯体を膜化することに成功したため、上記のように、多孔性金属錯体の含有量が高い多孔性金属錯体層を形成することができる。
【0025】
多孔性金属錯体においては、金属と有機配位子が配位ネットワークを形成することにより、活性炭やゼオライトと比較して高い比表面積を有する三次元構造が形成される。そして、多孔性金属錯体の金属と有機配位子の自己組織化によって結晶性の骨格構造が形成され、配位的に不飽和な金属カチオン(吸着サイト)が高密度に存在するため、エチレンと選択的に相互作用し、エチレンを吸着することができる。
【0026】
多孔性金属錯体に含まれる金属(金属イオン)は、周期表の1~13族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属(金属イオン)であることが好ましい。多孔性金属錯体に含まれる金属としては、例えば、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、カドミウム及びパラジウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、銅及びマグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。多孔性金属錯体に含まれる金属は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0027】
多孔性金属錯体を構成する有機配位子は、分子内に金属と配位結合可能な部位を2つ以上有する有機化合物であることが好ましい。有機配位子は、金属と配位ネットワークを形成することによりエチレンを収容し得る細孔を複数有する多孔構造を構成する有機化合物であることが好ましい。
【0028】
有機配位子は、アニオン性配位子であることが好ましい。ここで、アニオン性配位子とは金属に対して配位する部位がアニオン性となる配位子を意味する。有機配位子としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、オレイン酸などの脂肪族モノカルボン酸;安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,7-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2,6-ジヒドロキシ-1-ナフトエ酸、4,4’-ジヒドロキシ-3-ビフェニルカルボン酸などの芳香族モノカルボン酸;ニコチン酸、イソニコチン酸などの複素芳香族モノカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、フマレートなどの脂肪族ジカルボン酸;1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;2,5-チオフェンジカルボン酸、2,2’-ジチオフェンジカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸、3,5-ピリジンジカルボン酸などの複素芳香族ジカルボン酸;1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,3,4-ベンゼントリカルボン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸などの芳香族トリカルボン酸;1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、[1,1’:4’,1’’]ターフェニル-3,3’’,5,5’’-テトラカルボン酸、5,5’-(9,10-アントラセンジイル)ジイソフタレートなどの芳香族テトラカルボン酸;イミダゾレート、2-メチルイミダゾレート、ベンゾイミダゾレートなどの複素環化合物などを挙げることができる。
【0029】
中でも、有機配位子は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基及びスルホン酸基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましく、カルボキシ基を有することが特に好ましい。すなわち、有機配位子は、脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、複素芳香族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、複素芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸及び芳香族テトラカルボン酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、芳香族モノカルボン酸、複素芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、複素芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸及び芳香族テトラカルボン酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。なお、多孔性金属錯体に含まれる有機配位子は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0030】
有機配位子は、環構造を有することが好ましく、ベンゼン環を有することが好ましい。環構造を有する有機配位子は、分子の対称性が高くなりやすい傾向にあるため、多孔性金属錯体の骨格を構成しやすい。また、有機配位子が環構造を有すると、当該環に官能基を修飾しやすいため、多孔性金属錯体層に種々の機能性を付与しやすくなる。
【0031】
上述した有機配位子はさらに置換基を有していてもよい。置換基としては、特に限定されないが、例えばアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有する炭素数1~5のアルキル基)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基,n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n-プロパノイルオキシ基、n-ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基など)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アセチル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
【0032】
本実施形態では、多孔性金属錯体は、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンと、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸及び2,5-ジヒドロキシテレフタル酸よりなる群から選択される少なくとも1種の有機配位子を含むことが好ましい。このような多孔性金属錯体としては、例えば、HKUST-1(Cu/1,3,5-ベンゼントリカルボン酸)、MOF-74(Mg/2,5-ジヒドロキシテレフタル酸)等を挙げることができる。
【0033】
多孔性金属錯体層の厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、0.7μm以上であることが一層好ましく、1μm以上であることが特に好ましい。また、多孔性金属錯体層の厚みは、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。
【0034】
多孔性金属錯体層の密度を大きくした方がエチレン吸着能が高まるが、従来技術においては、基材層上に高密度の多孔性金属錯体層を形成することが困難であった。また、多孔性金属錯体層の密度を大きくしようとした場合、基材層との層間密着性や、多孔性金属錯体層自体の強度が劣る傾向にあり、エチレン吸着能の向上と層間密着性の向上はトレードオフの関係にあった。しかしながら、本実施形態においては、基材層上に所定のアンカー層を形成することで、多孔性金属錯体層の密度を大きくすることに成功した。さらに、本実施形態においては、多孔性金属錯体層の密度を大きくした場合であっても、優れた層間密着性が発揮される。
【0035】
本実施形態においては、多孔性金属錯体層は、針状結晶構造体(金属水酸化物ナノ構造体)を有していてもよい。すなわち、本実施形態のエチレン吸着フィルムは、基材層と、アンカー層と、針状結晶構造体(金属水酸化物ナノ構造体)を含む多孔性金属錯体層とを備えるものであってもよい。本実施形態において、針状結晶構造体(金属水酸化物ナノ構造体)は、後述するような方法で多孔性金属錯体層を形成する工程において形成される前駆体である。針状結晶構造体(金属水酸化物ナノ構造体)の少なくとも一部は多孔性金属錯体に変換されるが、本実施形態では、多孔性金属錯体層に、製造工程で形成される針状結晶構造体(金属水酸化物ナノ構造体)の一部が残留していてもよい。多孔性金属錯体層が、針状結晶構造体(金属水酸化物ナノ構造体)を含有する場合、針状結晶構造体(金属水酸化物ナノ構造体)の半径(断面半径)は、例えば10~1000nmであることが好ましく、長さは1~500μmであることが好ましい。
【0036】
(アンカー層)
本エチレン吸着フィルムは、アンカー層を有し、アンカー層は、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含む。アンカー層における極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが一層好ましい。
【0037】
極性基含有ポリマーが有する極性基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、イミノ基、(メタ)アクリレート基、スルホン酸基等が挙げられる。中でも、極性基含有ポリマーは、親水性ポリマーであることが好ましい。極性基含有ポリマーは、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ(4-スチレンスルホン酸)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム及びポリアリルアミン塩酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリビニルアルコールであることがさらに好ましい。中でも、ポリビニルアルコールは、架橋剤と反応することで水系溶媒に不溶化するものであることが好ましい。架橋剤と反応することで水系溶媒に不溶化するポリビニルアルコールとしては、例えば、シラノール基、エポキシ基、アセトアセチル基、アミノ基、アンモニウム基、スルホン基、カルボキシ基等で修飾されたポリビニルアルコールを用いることができる。
【0038】
有機オニウム化合物は、少なくとも1つの炭化水素基を有するオニウム化合物であり、例えば、有機アンモニウム化合物、有機ホスホニウム化合物等が挙げられる。有機アンモニウム化合物としては、炭化水素基を有するハロゲン化4級アンモニウムやその塩が挙げられ、有機ホスホニウム化合物としては、炭化水素基を有するハロゲン化4級ホスホニウムやその塩が挙げられる。有機オニウム化合物として具体的には、ポリジアリルジメチルアンモニウムやポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0039】
アンカー層の表面の水接触角は、50°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましく、40°以下であることがさらに好ましく、35°以下であることが一層好ましく、30°以下であることが特に好ましい。なお、アンカー層の表面の水接触角の下限値は特に限定されるものではなく、0°以上であればよい。アンカー層の水接触角を上記範囲内とすることにより、多孔性金属錯体層との層間密着性をより効果的に高めることができる。また、アンカー層の表面の水接触角が上記範囲内であるということは、アンカー層が親水性であることを意味している。すなわち、アンカー層は親水性ポリマーを含むことが好ましく、極性基含有ポリマーは親水性ポリマーであることが好ましい。
【0040】
アンカー層の算術平均高さSaは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、2μm以上であることが一層好ましく、3μm以上であることがより一層このましく、4μm以上であることが特に好ましい。また、アンカー層の算術平均高さSaは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが一層好ましく、8μm以下であることが特に好ましい。
【0041】
本実施形態ではアンカー層は、有機粒子及び無機粒子から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。アンカー層が有機粒子及び無機粒子から選択される少なくとも1種を有することにより、上述した算術平均高さSaを所定の範囲にコントロールすることが容易となる。
【0042】
本実施形態においては、上述した算術平均高さSaとなるようにアンカー層に微細な凹凸構造を形成することが好ましい。微細な凹凸構造は、例えば、アンカー層に、有機粒子及び無機粒子から選択される少なくとも1種を含有させることで形成される。アンカー層にこのような微細凹凸構造が形成することで、多孔性金属錯体層とアンカー層、そして、アンカー層と基材層の間の層間密着性をより効果的に高めることができる。アンカー層と多孔性金属錯体層の層間密着性が高めることにより、多孔性金属錯体層の厚膜化が容易となる。また、アンカー層にこのような微細凹凸構造が形成することで、多孔性金属錯体層の比表面積を増大させることができる。多孔性金属錯体層の厚膜化及び/又は多孔性金属錯体層の比表面積を増大により、多孔性金属錯体層のエチレン吸着能をより効果的に高めることができる。
【0043】
有機粒子及び無機粒子の平均粒子径(一次平均粒子径)は、それぞれ0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、1.5μm以上であることが一層好ましく、2μm以上であることが特に好ましい。また、有機粒子及び無機粒子の平均粒子径は、それぞれ20μm以下であることが好ましく、15μm以したであることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。有機粒子及び無機粒子の平均粒子径(一次平均粒子径)は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用し、10個以上の粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。粒子の断面形状が円形でない場合(例えば楕円形などである場合)は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径とする。
【0044】
アンカー層が含み得る有機粒子としては、樹脂、天然物由来の成分、糖類、化学合成により製造された成分等からなる微粒子が挙げられる。有機粒子としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリシロキサン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、キチン、キトサン、デキストリン、オリゴ糖、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリン、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトール、乳酸菌、カゼインなどの微粒子を挙げることができる。
【0045】
アンカー層が含み得る無機粒子としては、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、ガラス、岩石成分、無機化合物、化学合成により製造された成分等からなる微粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、ゼオライト、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、アルミナ水和物、アルミノシリケート、ベーマイト、擬ベーマイト、酸化鉄などが挙げられる。中でも、無機粒子は、金属、合金、金属酸化物及び金属窒化物よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、金属酸化物であることがより好ましく、シリカ粒子であることが特に好ましい。
【0046】
上述した粒子は単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、有機粒子と無機粒子を組み合わせて用いてもよく、同種の粒子であって、粒子径が異なる粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
アンカー層の厚みは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。また、アンカー層の厚みは、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることがさらに好ましい。なお、後述するようにアンカー層が2層以上からなる多層である場合、各アンカー層の厚みが上記範囲内にあることが好ましい。アンカー層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察し、任意の5点以上の厚みを測定し、その平均値として求めることができる。
【0048】
本実施形態では、アンカー層は単層構造であってもよいが、アンカー層は2層以上からなる多層構造であってもよい。例えば、
図2に示されるように、本実施形態のエチレン吸着フィルムは、アンカー層を2層含んでいてもよい。
図2のエチレン吸着フィルム、基材層2、第1のアンカー層4’、第2のアンカー層4及び多孔性金属錯体層6をこの順で有している。この場合、第1のアンカー層4’は、基材層2と第2のアンカー層4の密着性を高めるために設けられることが好ましく、第1のアンカー層4’は、接着層として機能する層であることが好ましい。
【0049】
図2に示されるように、エチレン吸着フィルムにおいてアンカー層が2層設けられる場合、第1のアンカー層は、接着層として機能することが好ましく、第2のアンカー層は、上述したような極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層であることが好ましい。この場合、第1のアンカー層は、接着性樹脂を有することが好ましい。接着性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンやエチレンプロピレン共重合体などのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アイオノマー、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルなどのアクリル樹脂、ポリビニルアセタール、フェノール樹脂、変成エポキシ樹脂及びこれらの共重合体や混合物などが挙げられる。中でも、接着性樹脂は、ポリエチレンイミン、ポリビニルアセタール及び変性エポキシ樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
接着性樹脂は、熱可塑性エラストマーであってもよい。例えば熱可塑性エラストマーとして、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、アミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマーなどを使用することができる。
【0051】
アンカー層は、さらにシランカップリング剤を有していてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するもの、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するもの、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基を有するもの、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基を有するものなどが挙げられる。
【0052】
さらに、アンカー層には各種添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等を挙げることができる。
【0053】
(基材層)
本エチレン吸着フィルムは、基材層を有する。基材層の種類は特に限定されるものではなく、例えば、合成高分子重合体から形成される層や織布、不織布、金属箔、紙類、セロファン、ガラス等が挙げられる。基材層の種類はエチレン吸着フィルムの用途に応じて適宜選択される。例えば、エチレン吸着フィルムを果物や野菜の包装材として用いる場合には、基材層はある程度の柔軟性を有することが好ましく、樹脂層を採用することが好ましい。また、エチレン吸着フィルムに遮光性が求められる用途においては、基材層として金属箔を採用することなどが考えられる。
【0054】
基材層が樹脂層の場合、樹脂層を構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、)ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸)、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、珪素樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、セルロース系樹脂、ポリカーボネート等を挙げることができる。また、環境保全の観点から、基材層を生分解性樹脂やバイオマス樹脂から構成することも好ましい。
【0055】
基材層が樹脂層の場合、樹脂層は透明樹脂層、半透明樹脂層又は不透明樹脂層のいずれであってもよい。また、樹脂層は、発泡性樹脂層であってもよい。さらに、樹脂層には印刷が施されていてもよい。
【0056】
基材層には表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理などを挙げることができる。基材層に表面処理を施すことで基材層とアンカー層の層間密着性をより効果的に高めることができる。
【0057】
基材層の厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、基材層n厚みは、1000μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、800μm以下であることがさらに好ましい。基材層の厚みを上記範囲内とすることにより、エチレン吸着フィルムの強度を高め、また製膜性を高めることができる。なお、基材層は単層構造であってもよく、複数の層を有する多層構造であってもよい。多層構造の場合、各層の厚みが上記範囲内であることが好ましい。
【0058】
基材層には各種添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、着色剤、pH調整剤、隠蔽剤、油剤、難燃剤、近赤外線吸収剤、色調補正剤等を挙げることができる。また、基材層には、エチレン吸着剤として、ゼオライトや活性炭が含まれていてもよい。
【0059】
(任意層)
本エチレン吸着フィルムは、多孔性金属錯体層、アンカー層及び基材層に加えて、他の任意層を備えていてもよい。このような任意層としては、例えば、水蒸気、酸素、光などが侵入することを防止するためのバリア層を挙げることができる。バリア層は、金属箔や金属蒸着膜、無機酸化物蒸着膜、炭素含有無機酸化物蒸着膜、これらの蒸着膜を設けたフィルムなどにより形成してもよい。
【0060】
また、本エチレン吸着フィルムは、任意層として印刷層を備えていてもよい。印刷層は、基材層の最表層や、基材層とアンカー層の間などに設けることができる。印刷層には、文字や絵柄等のパターンを表示することができる。印刷層は、例えば、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系及び塩化ビニル系等のインキバインダー樹脂と、各種顔料、可塑剤、乾燥剤、安定剤等の添加剤を含む。印刷層の形成方法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法及びシルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式や、ロールコート、ナイフエッジコート、及びグラビアコート等の周知の塗布方式を用いることができる。
【0061】
(エチレン吸着フィルムの製造方法)
本実施形態は、基材層上に、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層を形成する工程と、アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで多孔性金属錯体層を形成する工程とを有する、エチレン吸着フィルムの製造方法に関する。このように、本実施形態では、多孔性金属錯体層は、金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで形成される層であることが好ましい。
【0062】
基材層上に、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含むアンカー層を形成する工程は、基材層上にアンカー層形成用組成物を塗工する工程を含むことが好ましい。アンカー層形成用組成物は極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を有し、塗工適性を高めるために溶媒を含むことが好ましい。アンカー層形成用組成物を塗工する方法としては、公知の塗工方法を採用することができ、例えば、浸漬コーティング法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等などを用いることができる。
【0063】
基材層上にアンカー層形成用組成物を塗工する工程の後には、乾燥工程が設けられることが好ましい。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射などの方法を用いることができる。乾燥工程において加熱乾燥方法を採用する場合、加熱温度は特に限定されるものではないが、例えば60~140℃で乾燥することが好ましい。
【0064】
なお、基材層上にアンカー層形成用組成物を塗工する工程の前には、基材層を表面処理する工程を設けてもよい。表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理などを挙げることができる。基材層に表面処理を施すことで基材層とアンカー層の層間密着性をより効果的に高めることができる。
【0065】
基材層上にアンカー層が形成された後には、アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで多孔性金属錯体層を形成する工程が設けられることが好ましい。この工程では、まず、アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、アンカー層上に金属水酸化物からなる塗膜を形成する。金属水酸化物を構成する金属は、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、バナジウム、カドミウム及びパラジウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0066】
金属水酸化物を分散させた溶液は、溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。
【0067】
多孔性金属錯体層を形成する工程は、アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し塗膜を形成する工程と、塗膜を、有機配位子を含有する溶液に浸漬して多孔性金属錯体層を形成する工程とを有することが好ましい。金属水酸化物を含む塗膜は、金属水酸化物ナノ構造体(金属水酸化物ナノベルト)を含む膜であり、このような塗膜を、有機配位子を含有する溶液に浸漬することで、金属水酸化物ナノ構造体(金属水酸化物ナノベルト)が多孔性金属錯体層に変換される。
【0068】
有機配位子としては、上述した有機配位子を挙げることができる。有機配位子を含有する溶液は、溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、上述した溶媒を用いることができる。なお、有機配位子を含有する溶液は水やアルコール、もしくはこれらのこんごう溶媒であってもよい。このような溶媒は有毒性が低いため、環境への負荷も抑制することができる。
【0069】
有機配位子を含有する溶液における有機配位子の濃度は、多孔性金属錯体を形成しやすくする観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。一方、有機配位子の溶解性や、膜全体で均一に多孔性金属錯体が形成されるようにする観点から、有機配位子を含有する溶液における有機配位子の濃度は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0070】
なお、有機配位子として1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(H3BTC)を含む溶液に水酸化銅ナノ構造体を含む塗膜を浸漬させた場合、以下の反応が進行し、多孔性金属錯体(Cu3(BTC)2)が形成される。
3Cu(OH)2+2H3BTC→Cu3(BTC)2+6H2O
多孔性金属錯体(Cu3(BTC)2)が形成される際には、水酸化銅ナノ構造体からCuイオンが溶出し、配位子と配位結合することで多孔性金属錯体が形成される。本実施形態では、アンカー層上に多孔性金属錯体層を形成しており、アンカー層の表面自由エネルギーが高いことで形成した多孔性金属錯体がアンカー層に良好に吸着するものと考えられる。
【0071】
金属水酸化物を含む塗膜を、有機配位子を含有する溶液に浸漬する時間は、例えば、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましい。また、浸漬する時間は、100時間以下であることが好ましい。浸漬温度は特に限定されるものではなく、例えば、10~50℃であることが好ましい。本実施形態では、室温条件等の一般的温度において浸漬処理を行うことができる。
【0072】
本実施形態のエチレン吸着フィルムの製造方法では、金属水酸化物を含む塗膜を有機配位子を含有する溶液に浸漬する工程は複数回設けられてもよい。すなわち、本実施形態のエチレン吸着フィルムの製造方法は、基材層上に、極性基含有ポリマー又は有機オニウム化合物を含有するアンカー層を形成する工程と、アンカー層上に金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで多孔性金属錯体層を形成する工程と、形成された多孔性金属錯体層上に、さらに金属水酸化物を分散させた溶液を塗工し、金属水酸化物を多孔性金属錯体に変換することで多孔性金属錯体層を形成する工程を含んでいてもよい。金属水酸化物を含む塗膜を有機配位子を含有する溶液に浸漬する工程を複数回設けることで、多孔性金属錯体層の厚膜化が可能となる。
【0073】
なお、本実施形態のエチレン吸着フィルムの製造方法では、金属水酸化物を含む塗膜を有機配位子を含有する溶液に浸漬する工程に代えて、金属水酸化物を含む塗膜に有機配位子を含有する溶液を塗布する工程を設けてもよい。
【0074】
(用途)
本実施形態のエチレン吸着フィルムは、優れたエチレン吸着能を発揮するため、例えば、青果物包装用として用いることができる。本実施形態のエチレン吸着フィルムを青果物包装用として用いることにより、果物や野菜で作られるエチレンの作用により果物や野菜の成熟・老化が進行することを抑制することができる。このため、本実施形態のエチレン吸着フィルムは、鮮度保持フィルムと呼ぶこともできる。
【0075】
本実施形態のエチレン吸着フィルムが青果物包装用である場合、その形状は特に限定されず、例えば、シート状であってもよく、袋状であってもよく、箱状であってもよい。
【0076】
また、本実施形態のエチレン吸着フィルムは包装材ではなく、フィルム状のエチレン吸着剤であってもよい。例えば、フィルム状のエチレン吸着剤を青果物と共に包装品の内部に封入することで、エチレンを吸着除去することができる。
【0077】
なお、本実施形態は、本エチレン吸着フィルムを用いたエチレン吸着方法やエチレン除去方法に関するものであってもよい。また、本実施形態は、エチレンを除去するための本エチレン吸着フィルムの使用に関するものであってもよい。
【実施例0078】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0079】
<MOF層の厚み>
走査型電子顕微鏡(SEM)で多孔性金属錯体層の断面を観察し、任意の5点以上の厚みを測定し、その平均値を求めた。
【0080】
<水接触角>
接触角計(協和化学(株)製、Drop Master500)を用いて、アンカー層表面の水接触角を測定した。測定は、23℃、相対湿度50%環境下にて行った。水滴体積を10μLとし、水滴滴下1秒後に測定を開始し、測定開始後1秒後の測定値を水接触角とした。
【0081】
<表面粗さSa>
アンカー層表面の算術平均高さSa(ISO 25178)は、原子間力顕微鏡(日立ハイテック社製「SPI4000」)を用いて測定した。なお、比較例1及び2はアンカー層を設けていないため、基材層表面の算術平均高さSaを測定した。
【0082】
<全光線透過率・ヘーズ>
JIS K 7136:2000に準拠し、村上色彩研究所製ヘーズメーター「HM-150」を使用して、エチレン吸着フィルムの全光線透過率及びヘーズを測定した。
【0083】
<剥離試験>
エチレン吸着フィルムの多孔性金属錯体層(MOF層)面に粘着テープ(ニチバン社製「セロテープ(登録商標)」)を貼り、剥離後の粘着テープの粘着性を確認し、下記の基準で評価した。
A:剥離後も粘着性が維持されている、すなわち、粘着テープにMOF層が付着していない。
B:剥離後に粘着性が低下している、すなわち、粘着テープにMOF層が付着している。
【0084】
<エチレン吸着量>
エチレン吸着フィルムを5cmx9cmの長方形に裁断し、容積500mLのガラス瓶に入れ密閉した。次いで、ガラス瓶内のエチレンガス濃度が100ppmとなるよう標準エチレンガスを注入し、すぐにガラス瓶から1mLの気体を採取しガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC-2014)にて、エチレン濃度を測定した。1時間後、再びガラス瓶から1mLの気体を採取し、エチレン濃度を測定し、その差分からエチレン吸着フィルムのエチレン吸着量を算出した。またエチレン吸着フィルムを入れずに同様の測定することで1時間のうちにガラス瓶から漏れ出たエチレン量を求め、エチレン吸着フィルムのエチレン吸着量から差し引いた。
【0085】
(実施例1)
<極性基含有ポリマー溶液(B-1)の作製>
アセトアセチル基修飾PVA(三菱ケミカル(株)製、Z-100) 0.15g、シリカ粒子(水澤化学工業(株)製、ミズパールK500L、平均粒子径4.6μm) 0.23g、架橋剤(三菱ケミカル(株)製、Safelink SPM-01) 0.01gを濃度4質量%となるよう水に溶解した。
【0086】
<水酸化銅分散溶液(水酸化銅ナノベルト溶液)の作製>
0.202gのCuSO4・5H2O(富士フイルム和光純薬(株)製)を20mLのH2Oに溶解した。その溶液に6mLの28%アンモニア水溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)を加えて、5分間撹拌し、1.2mLの12M NaOH水溶液を添加した。室温で1時間撹拌後、40°Cで30分間、溶液を静置し、固体生成物を得た。イオン交換水およびエタノール(富士フイルム和光純薬(株)製)にて固体生成物を洗浄後、10mLのエタノールに分散させることで水酸化銅ナノベルト溶液を得た。
【0087】
<H3BTC溶液の作製>
0.1gの1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(H3BTC)(富士フイルム和光純薬(株)製)を体積比5:2で調製したエタノールと水の混合溶液(100mL)に溶解させた。
【0088】
<エチレン吸着フィルムの作製>
基材層として、ポリカーボネートシート(三菱ガス化学社製、FE-2000)を用いた。このポリカーボネートシートの表面を、出力条件:100W・min/m2でコロナ処理し、コロナ処理を施した面に、ポリエチレンイミンをエタノールで2.5質量%になるよう希釈してなる塗工液をバーコートし、加熱乾燥させた(第1のアンカー層)。次いで、第1のアンカー層の上に極性基含有ポリマー溶液(B-1)をバーコートし、加熱乾燥させた(第2のアンカー層)。
次いで、第2のアンカー層上に水酸化銅分散溶液(水酸化銅ナノベルト溶液)をバーコートし、室温で乾燥させることで水酸化銅ナノベルト層を形成した。得られた積層体をH3BTC溶液に2時間浸漬させることで水酸化銅ナノベルト層を多孔性金属錯体層(MOF層)に変換した。このようにして、エチレン吸着フィルムを得た。
【0089】
(実施例2)
多孔性金属錯体層(MOF層)の形成工程を3回繰り返したこと以外は、実施例1と同様にしてエチレン吸着フィルムを得た。
【0090】
(実施例3)
<極性基含有ポリマー溶液(B-2)の作製>
アセトアセチル基修飾PVA(三菱ケミカル(株)製、Z-100) 0.15g、シリカ粒子(富士シリシア化学(株)製、サイリシア730、平均粒子径4.0μm) 0.23g、架橋剤(三菱ケミカル(株)製、Safelink SPM-01) 0.01gを濃度4質量%となるよう水に溶解した。
【0091】
<エチレン吸着フィルムの作製>
実施例1の極性基含有ポリマー溶液(B-1)に代えて極性基含有ポリマー溶液(B-2)をバーコートした以外は、実施例1と同様にしてエチレン吸着フィルムを得た。
【0092】
(実施例4)
多孔性金属錯体層(MOF層)の形成工程を3回繰り返したこと以外は、実施例3と同様にしてエチレン吸着フィルムを得た。
【0093】
(実施例5)
<極性基含有ポリマー溶液(B-3)の作製>
<極性基含有ポリマー溶液(B-2)の作製>
アセトアセチル基修飾PVA(三菱ケミカル(株)製、Z-100) 0.15g、架橋剤(三菱ケミカル(株)製、Safelink SPM-01) 0.01gを濃度4質量%となるよう水に溶解した。
【0094】
<エチレン吸着フィルムの作製>
実施例1の極性基含有ポリマー溶液(B-1)に代えて極性基含有ポリマー溶液(B-3)をバーコートした以外は、実施例1と同様にしてエチレン吸着フィルムを得た。
【0095】
(比較例1)
基材層として、ポリカーボネートシート(三菱ガス化学社製FE-2000)を用いた。このポリカーボネートシートの表面を、出力条件:100W・min/m2でコロナ処理し、コロナ処理を施した面に、水酸化銅分散溶液(水酸化銅ナノベルト溶液)をバーコートし、室温で乾燥させることで水酸化銅ナノベルト層を形成した。得られた積層体をH3BTC溶液に2時間浸漬させることで水酸化銅ナノベルト層を多孔性金属錯体層(MOF層)に変換した。
【0096】
(比較例2)
<HKUST-1粉末の合成>
水酸化銅ナノベルトのエタノール分散液25mLに水10mL、1gのH3BTCを加えて室温で14時間撹拌した。次いで、固体生成物を遠心分離機で回収した。その際にエタノールを用いて固体生成物を洗浄した。
【0097】
<多孔性金属錯体-樹脂混合液の作製>
PMMA(三菱ケミカル(株)製、BR-80)0.45gをPGM 9gに溶解させ、HKUST-1粉末0.45gを混合して、多孔性金属錯体-樹脂混合液を作製した。
【0098】
<エチレン吸着フィルムの作製>
基材層として、ポリカーボネートシート(三菱ガス化学社製FE-2000)を用いた。このポリカーボネートシートの表面を、出力条件:100W・min/m2でコロナ処理し、コロナ処理を施した面に、多孔性金属錯体-樹脂混合液をバーコートし、加熱乾燥させた(多孔性金属錯体-樹脂混合層(A-2))。
【0099】
(比較例3)
<エチレン吸着フィルムの作製>
基材層として、ポリカーボネートシート(三菱ガス化学社製FE-2000)を用いた。このポリカーボネートシートの表面を、出力条件:100W・min/m2でコロナ処理し、コロナ処理を施した面に、ポリエチレンイミンをエタノールで2.5質量%になるよう希釈してなる塗工液をバーコートし、加熱乾燥させた(第1のアンカー層)。次いで、第1のアンカー層の上に極性基含有ポリマー溶液(B-2)をバーコートし、加熱乾燥させた(第2のアンカー層)。比較例2で得た多孔性金属錯体-樹脂混合液を第2のアンカー層上にバーコートし、加熱乾燥させた(多孔性金属錯体-樹脂混合層(A-2))。
【0100】
【0101】
比較例に比べて実施例では、優れたエチレン吸着能が発揮されていた。また、実施例では、優れた層間密着性が発揮されていた。