(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155054
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】熱電変換モジュールおよび熱流センサ
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20241024BHJP
【FI】
H10N15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069438
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中辻 知
(72)【発明者】
【氏名】酒井 明人
(72)【発明者】
【氏名】深堀 明博
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 友文
(57)【要約】
【課題】安価で且つ常温から400K以下の温度範囲での使用に適した熱電変換モジュールおよび熱流センサを提供する。
【解決手段】熱電変換モジュール100は、Fe
3Siを含有する異常ネルンスト効果材1を備え、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上であり、異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差が、温度320K~400Kの範囲において、0.15μV/K以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe3Siを含有する異常ネルンスト効果材を備え、
磁束密度2Tの磁場を印加したときの前記異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上であり、
前記異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差が、温度320K~400Kの範囲において、0.15μV/K以下である、熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記異常ネルンスト効果材がFe3Siの多結晶体である、請求項1に記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
前記多結晶体が、D03構造である、請求項2に記載の熱電変換モジュール。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電変換モジュールを備える、熱流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールおよび熱流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
未利用の熱エネルギーを活用するために、熱電変換モジュールの開発が積極的に行われている。熱電変換モジュールとしては、温度勾配によって電圧を発生させることが可能なゼーベック効果(Seebeck Effect)を利用した熱電変換モジュールがよく知られている。
【0003】
ゼーベック効果では、温度勾配と同じ方向に電圧が生じることから、ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールはπ型構造を構成単位とする複雑な3次元構造となる。そのため、ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは大面積化やフィルム化が困難である。また、ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、希少性の高い材料が用いられており、製造コストが高いという課題がある。また、毒性の観点においても課題がある。
【0004】
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールに対し、近年、異常ネルンスト効果(Anomalous Nernst Effect)により起電力を生じる異常ネルンスト効果材を用いた熱電変換モジュールが提案されている。異常ネルンスト効果とは、磁性体に熱流を流して温度差が生じたときに、磁化方向と温度勾配の双方に直交する方向に電圧が生じる現象である。
【0005】
異常ネルンスト効果では、温度勾配に直交する方向に電圧が生じることから、異常ネルンスト効果を利用した熱電変換モジュールでは、熱源に沿うように展開することができ、大面積化及びフィルム化がしやすいという利点がある。
【0006】
例えば、異常ネルンスト効果を利用した熱電変換モジュールとして、特許文献1には、組成式がFe3Xで表され、前記Xが典型元素若しくは遷移元素であるストイキオメトリックな組成の第1物質、前記第1物質からFeと前記Xとの組成比がずれたオフ・ストイキオメトリックな組成の第2物質、前記第1物質のFeサイトの一部若しくは前記第2物質のFeサイトの一部を前記X以外の典型金属元素若しくは遷移元素で置換した第3物質、組成式がFe3M11-xM2x(0<x<1)で表され、前記M1及び前記M2が互いに異なる典型元素である第4物質、又は前記第1物質のFeサイトの一部を前記X以外の遷移元素で置換し、前記Xのサイトの一部を前記X以外の典型金属元素で置換した第5物質からなり、前記第1物質、前記第2物質、前記第3物質、前記第4物質及び前記第5物質は、異常ネルンスト効果を示す、熱電変換素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、異常ネルンスト効果を利用した熱電変換モジュールとしては、安価な材料を用いた熱電変換モジュールが求められている。加えて、常温から400K以下の温度範囲での使用に適した熱電変換モジュールが求められている。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みなされた発明であり、安価で且つ400K以下の温度範囲での使用に適した熱電変換モジュールおよび熱流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1>本発明の態様1の熱電変換モジュールは、Fe3Siを含有する異常ネルンスト効果材を備え、磁束密度2Tの磁場を印加したときの前記異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上であり、
異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差が、温度320K~400Kの範囲において、0.15μV/K以下である。
<2>本発明の態様2は、態様1の熱電変換モジュールにおいて、前記異常ネルンスト効果材がFe3Siの多結晶体であってもよい。
<3>本発明の態様3は、態様2の熱電変換モジュールにおいて、前記多結晶体がFe3SiのD03構造であってもよい。
<4>本発明の態様4の熱流センサは、態様1~3の熱電変換モジュールを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記各態様によれば、安価で且つ常温から400K以下の温度範囲での使用に適した熱電変換モジュールおよび熱流センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す模式図である。
【
図3】第2実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す模式図である。
【
図4】第3実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す平面図である。
【
図5】第4実施形態に係る熱電変換モジュールの構成を示す模式図である。
【
図6】実施例の異常ネルンスト効果材のXRDスペクトルである。
【
図7】実施例の異常ネルンスト効果材の温度と異常ネルンスト係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る熱電変換モジュール100を説明する。
図1は、第1実施形態に係る熱電変換モジュール100の構成を示す模式図である。
図1に示すように、熱電変換モジュール100は、Fe
3Siを含有する異常ネルンスト効果材1と、第1電極11と、第2電極12と、磁場印加手段20と、を備える。以下、各部について説明する。
【0014】
(異常ネルンスト効果材)
本実施形態において異常ネルンスト効果材1は、Fe3Siを含有する。本明細書において、異常ネルンスト効果材とは、所定の温度範囲で異常ネルンスト係数SANEの絶対値が1.0μV/K以上の材料を言う。
異常ネルンスト効果材1は、Fe3Si以外の成分を含んでいてもよく、例えばFe3Ga,Fe3Alなどが挙げられる。
【0015】
「磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上」
本実施形態において、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上である。磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上であることで、本開示の熱電変換モジュール100は、常温(例えば20℃)から400Kの範囲の温度範囲で効率よく発電することができる。磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上であることが好ましい。異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値は特に限定されないが、例えば、50μV/K以下でもよい。400K以下の領域で熱電発電デバイス、もしくは熱流センサを用いる場合、ヒートシンクなど、低温部分も含めて室温以上で用いることが多く、発電デバイスもしくはセンサの温度としては室温と高温側の温度の間である320K以上となることが多くなる。
【0016】
「磁束密度2Tの磁場を印加したときの温度320K~400Kの範囲において、2~3Kの温度間隔で測定した異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差が0.15μV/K以下」
本実施形態において、温度320K~400Kの範囲において、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差が0.15μV/K以下である。温度320K~400Kの範囲において、2~3Kの温度間隔で測定して得られた異常ネルンスト係数の絶対値から異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差を求めることが好ましい。温度320K~400Kの範囲において、異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差が0.15μV/K以下であることで、本開示の熱電変換モジュール100は、温度変化の影響を低減し、安定して発電することができる。
磁束密度2Tの磁場を印加したときの温度320K~400Kの範囲において、2~3Kの温度間隔で測定した異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差は、好ましくは0.10μV/K以下であり、より好ましくは0.06μV/K以下である。
【0017】
「異常ネルンスト係数SANE」
異常ネルンスト係数SANEは、下記式(1)で表される。式(1)中のρyyは縦抵抗を意味する。式(1)中のαyxは、横熱電係数を意味する。式(1)中のσyxはホール伝導度を意味する。式(1)中のSSEはゼーベック係数を意味する。
【0018】
横熱電係数αyxは下記(2)式で表される。ここで、下記式(2)中の∂σyx/∂εはフェルミ準位での値である。下記式(2)中のkBはボルツマン定数である。下記式(2)中のεはエネルギーを意味し、下記式(2)中のeは電荷素量を意味する。下記式(2)中のTは測定試料の絶対温度(K)を意味する。
【0019】
SANE=ρyyαyx-σyxρyySSE・・・(1)
αyx=-(π2/3)・{(kB
2T)/e}(∂σyx/∂ε)・・・(2)
【0020】
「異常ネルンスト係数の測定方法」
上述した異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数SANEは、具体的には、以下のように測定される。サンプルを平板状(長さL:8mm、幅W:1.5mm、厚さt:1mm)に切り出す。切り出したサンプルの一方の端をヒータで加熱し、もう一方の端にはヒートシンクを接触させることで、サンプルの辺Lに沿って温度差を与える。直方体状のサンプルに一様な温度勾配を与え、L_temp(mm)離れた2点の温度差ΔT(K)を測定する。この温度差と直交する方向に磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W(mm)離れた2点に発生する電圧(V)を測定する。異常ネルンスト係数SANEは、得られた電圧(V)などから以下の式(3)で計算される。
【0021】
SANE=(V/ΔT)×(L_temp/W)・・・・(3)
【0022】
「Fe3Si」
異常ネルンスト効果材1は、Fe3Siの多結晶体またはFe3Siの単結晶体であることが好ましい。更に、異常ネルンスト効果材1は、Fe3Siの多結晶体であることがより好ましい。Fe3Siの多結晶体またはFe3Siの単結晶体であるかは、X線回折により判別することができる。異常ネルンスト効果材1は、磁束密度2Tの磁場を印加したときの温度320K~400Kの範囲において、異常ネルンスト係数SANEの絶対値の最大値が2.0μV/K以上を満たすのであれば、他の成分を含有してもよい。温度320K~400Kは、サンプルの温度である。サンプルには、ヒータに近い部分およびヒートシンクに近い部分の2か所にセルノックス温度計を設置し、ヒータから階段関数的に熱を印加して温度勾配をサンプルに導入し、2か所の温度の平均値の、温度勾配が緩和するまでの時間的な平均値をサンプル温度とする。
【0023】
「D0
3構造」
異常ネルンスト効果材1がFe
3Siである場合、Fe
3Siが
図2に示すようなD0
3構造を有することが好ましい。異常ネルンスト効果材1がD0
3構造を有することで、本実施形態の熱電変換モジュール100は、常温から400Kの範囲においてより優れた発電特性を示す。D0
3構造の単位格子は、8個の体心立方(bcc)型のサブセルを有する。各サブセルでは、隅点をFe原子(Fe(II))が占め、各Fe(II)は、隣接する8個のサブセルによって共有される。8個のサブセルのうちの4個の体心点をそれぞれ4個のFe原子(Fe(I))が占めており、残りの4個のサブセルの体心点をそれぞれ4個のSi原子が占めている。例えば、D0
3構造のFe
3Siの格子定数aは、5.65Åである。Fe
3Siの格子定数はXRDで測定することができる。
【0024】
異常ネルンスト効果材1の厚さは、1.0mm以上であることが好ましい。厚さが1.0mm以上とすることで、常温から400K以下の温度範囲で、発生する電流量が大きくなる。
【0025】
(第1電極11)
熱電変換モジュール100において、第1電極11は、異常ネルンスト効果材1に電気的に接続されている。第1電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第1電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0026】
(第2電極12)
熱電変換モジュール100において、第2電極12は、異常ネルンスト効果材1に電気的に接続されている。第2電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第2電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0027】
第1電極11と第2電極12との配置は特に限定されない。ただし、第1電極11の温度と第2電極12の温度に差があると異常ネルンスト効果以外にゼーベック効果も重畳することになるので、熱流センサのためには、第1電極11と第2電極12との配置は、熱源からの距離が同じとなる配置であることが好ましい。
【0028】
(磁場印加手段20)
磁場印加手段20は、温度差が生じる方向および起電力が発生する方向(電極11と電極12とを結ぶ方向)に直交する方向に磁場を印加することが可能であれば、特に限定されない。磁場印加手段20としては、例えば、永久磁石、電磁石などである。
【0029】
(熱電変換モジュール100を用いた熱電変換)
本実施形態の熱電変換モジュール100は、
図1に示すように、一の方向(本実施系形態ではY方向)に延在する直方体状の異常ネルンスト効果材1を有し、厚み方向(本実施形態ではZ方向)に0.1μm以上の厚みを有して、+X方向に磁化されている。磁場の印加は、磁場印加手段20によって行われる。磁場の印加は、公知の方法を用いることができる。
【0030】
本実施形態の異常ネルンスト効果材1に対して磁化Mの方向(+X方向)とは直交する他の方向(本実施形態では+Z方向)に熱流Qが流れると、+Z方向に温度差ΔTが生じる。
【0031】
これにより、異常ネルンスト効果材1には、異常ネルンスト効果によって、熱流Qの方向(+Z方向)及び磁化Mの方向(+X方向)の双方に直交する方向(本実施形態ではY方向)に起電力が発生する。これにより、本実施形態の異常ネルンスト効果材1は、熱電変換を行うことが可能である。
【0032】
(異常ネルンスト効果材1の製造方法)
異常ネルンスト効果材1がFe3Siの多結晶体を例にして、異常ネルンスト効果材1の製造方法について説明する。Fe3Siの多結晶体は、例えば、以下の方法で製造することができる。適切な比のFeとSiとをモノアーク炉でアーク溶解し、冷却することでD03構造を有するFe3Siの多結晶体を製造することができる。上述の製造方法によって得られるFe3Siの多結晶体は、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が、320K~400Kの範囲において、2.0μV/K以上であり、かつ、磁束密度2Tの磁場を印加したときの異常ネルンスト効果材1の異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差が0.15μV/K以下である。よって、常温から400K以下の温度範囲での使用において、本開示の熱電変換モジュールは安定、かつ、優れた発電特性を示す。
【0033】
以上、第1実施形態に係る熱電変換モジュール100について説明した。熱電変換モジュール100は、異常ネルンスト効果材1がFeおよびSiを含有するので、安価であり、また、常温から400K以下の温度範囲での使用に適している。
【0034】
熱電変換モジュール100では、磁場印加手段20を備えていたが、熱電変換モジュール100は、磁場印加手段20を備えていなくてもよい。
【0035】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る熱電変換モジュール100Aについて説明する。
図3は、熱電変換モジュール100Aの模式図である。
【0036】
熱電変換モジュール100Aは、
図3に示すように、基板30と、基板30上に配置された発電体40と、を備える。
【0037】
(基板30)
基板30は、発電体40が配置される第一面30aと、第一面30aの反対の面である第二面30bと、を有している。例えば、第二面30bには(図示しない)熱源から熱を受ける。基板30の材質は、特に限定されない。基板30の材質としては、熱伝導率が高いものが好ましい。基板30の材質としては、AlN、Al2O3、MgO、BNなどが挙げられる。
【0038】
(第1電極11A)
熱電変換モジュール100Aにおいて、第1電極11Aは、発電体40の一端側に電気的に接続されている。第1電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第1電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0039】
(第2電極12A)
熱電変換モジュール100Aにおいて、第2電極12Aは、発電体40の他端側に電気的に接続されている。第2電極の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第2電極の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0040】
(発電体40)
発電体40は、1つ以上の第1異常ネルンスト効果材41と、1つ以上の第2異常ネルンスト効果材42と、を有している。第1異常ネルンスト効果材41および第2異常ネルンスト効果材42は、上記異常ネルンスト効果材1と同じものを用いることができる。
【0041】
1つ以上の第1異常ネルンスト効果材41および1つ以上の第2異常ネルンスト効果材42は、第一面30aの面内において、一の方向(ここでは、Y方向)に延在し、かつ、この一の方向と交差(第2実施形態では直交)する他の方向(ここでは、X方向)に交互に配置される。
【0042】
第1異常ネルンスト効果材41は、一の方向(Y方向の)の一端側(+Y側の端)から他の方向(X方向)の一方側(-X側)に向かって突出した第1接続部41aを有している。一方、第2異常ネルンスト効果材42は、一の方向(Y方向)の他端側(-Y側の端)から他の方向(X方向)の一方側(-X側)に向かって突出した第2接続部42aを有している。
【0043】
第1異常ネルンスト効果材41は、第1接続部41aを介して、第2異常ネルンスト効果材42の一の方向(Y方向)の一端側(+Y側の端)と電気的に接続している。一方、第2異常ネルンスト効果材42は、第2接続部42aを介して、第1異常ネルンスト効果材41の他端側(-Y側の端)と電気的に接続している。
【0044】
これにより、発電体40は、互いに隣り合う第1異常ネルンスト効果材41と第2異常ネルンスト効果材42とが電気的に直列に接続される。これによって、発電体40は、蛇行した形状を有している。
【0045】
発電体40や、第1異常ネルンスト効果材41の磁化M1の方向(第2実施形態では、-X方向)と第2異常ネルンスト効果材42の磁化M2の方向(第2実施形態では、+X方向)とが逆向きとなるように配置されている。さらに、第1異常ネルンスト効果材41と第2異常ネルンスト効果材42とは、いずれも負の符号の異常ネルンスト係数を有している。
【0046】
熱電変換モジュール100Aでは、基板30の第二面30b側から発電体40に向けて熱流Qが流されると、発電体40に熱流方向の温度差が生じ、異常ネルンスト効果によって発電体40に電圧Vが生じる。
【0047】
熱源から基板30の第二面30bが熱を受けると、発電体40に向けて、+Z方向に熱流Qが流れる。このとき、第1異常ネルンスト効果材41では、磁化M1の方向(-X方向)および熱流Qの方向(+Z方向)の双方に直交する方向(+Y方向)に起電力E1が生じる。一方、第2異常ネルンスト効果材42では、磁化M2の方向(+X方向)および熱流Qの方向(+Z方向)の双方に直交する方向(―Y方向)に起電力E2が生じる。
【0048】
発電体40では、互いに隣り合う第1異常ネルンスト効果材41および第2異常ネルンスト効果材42が電気的に直列に接続している。そのため、第1異常ネルンスト効果材41で発生した起電力E1と第2異常ネルンスト効果材42で発生した起電力E2とが加算され、出力電圧Vを増大させることができる。
【0049】
本実施形態の熱電変換モジュール100Aは、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の第1異常ネルンスト効果材41及び第2異常ネルンスト効果材42を用いることが可能である。
【0050】
ここで、第1異常ネルンスト効果材41及び第2異常ネルンスト効果材42の長手方向(延在方向)の長さをL1、厚さ(高さ)をH1とすると、第1異常ネルンスト効果材41および第2異常ネルンスト効果材42における温度差が一定の場合、異常ネルンスト効果により発生する電圧VはL1/H1に比例する。すなわち、第1異常ネルンスト効果材41及び第2異常ネルンスト効果材42が長くて薄いほど、得られる電圧Vが大きくなる。
【0051】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態に係る熱電変換モジュール100Bについて説明する。
図4は、熱電変換モジュール100Bの平面図である。熱電変換モジュール100Bは、基板30と、基板30上に配置された発電体40Bと、を備える。
【0052】
(発電体40B)
発電体40Bは、複数の異常ネルンスト効果材45と、配線50と、を有する。
【0053】
「異常ネルンスト効果材45」
異常ネルンスト効果材45は、異常ネルンスト効果材1と同じ材質のものを用いることができる。異常ネルンスト効果材45は、延在方向(Y方向)と垂直な方向(X方向)に、磁化M1Aの方向が同一となるように(-X方向)となるように、基板30上に並列に配置される。
【0054】
「配線50」
熱電変換モジュール100Bにおいて、配線50は、一方の端が異常ネルンスト効果材45の一端側(-Y側)に電気的に接続され、他方の端が、隣接する別の異常ネルンスト効果材45の他端側(+Y側)に電気的に接続される。これによって、異常ネルンスト効果材45が電気的に直列に接続される。また、配線50の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、配線50の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属が挙げられる。
【0055】
熱流Qは、基板30側から発電体40B側に流される(+Z方向に流される)。熱電変換モジュール100Bは、隣接する異常ネルンスト効果材45が配線50を介して接続しているため、熱電変換モジュール100Aよりも容易に作製することができる。
【0056】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態に係る熱電変換モジュール100Cについて説明する。
図5は、熱電変換モジュール100Cの構成を示す模式図である。
【0057】
熱電変換モジュール100Cは、
図5に示すように略円筒状の中空部材31と、中空部材31の外周面に螺旋状に巻きつけられた長尺シート状の異常ネルンスト効果材32とを備えている。異常ネルンスト効果材32には、上記異常ネルンスト効果材1と同じものを用いることができる。また、異常ネルンスト効果材32は、中空部材31の軸線方向(X方向)と平行な方向に磁化されている。
【0058】
熱電変換モジュール100Cでは、中空部材31の内側が外側よりも高温の場合、熱流Pは中空部材31の内側から外側に流れ、この中空部材31の内側から外側に向かって温度勾配(温度差)が生じる。これによって、異常ネルンスト効果材32に電圧Vが生じる。本実施形態では、異常ネルンスト効果材32の長手方向(磁化の方向および熱流の方向の双方に直交する方向)に沿って起電力が発生する。
【0059】
本実施形態の熱電変換モジュール100Cでは、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の異常ネルンスト効果材32を用いることが可能である。
【0060】
式(4)に記載されるように異常ネルンスト効果によって発生する起電力は異常ネルンスト効果材の長さが長いほど大きくなる。したがって、本実施形態の熱電変換モジュール100Cでは、上述した中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の異常ネルンスト効果材32を採用することによって、異常ネルンスト効果材の長さを長くすることが出来電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0061】
なお、本発明は、上記各実施形態の構成のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記の熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cは、様々なデバイスに適用することが可能である。例えば、熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cを熱流センサに設けることで、建築物の断熱性能の良否を判定することができる。
【0062】
また、自動二輪車等の排気装置に熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cを設けることで、排気ガスの熱(廃熱)を利用して発電することができ、熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cを補助電源として有効利用することが可能である。
【0063】
また、本実施形態の熱電変換モジュール100,100A,100B,100Cは、上述した熱電変換素子としての機能だけでなく、ペルチェ素子のように、電力の供給によって温度変調(特に冷却)する機能を持たせることも可能である。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0065】
(実施例の異常ネルンスト効果材の作製)
適切な比のFeとSiとをモノアーク炉に入れた(工程1)。次に、ロータリーポンプ及びターボ分子ポンプで,到達圧力0.2 Paまで真空引きを行った。その後、Arパージを3回行い、炉内に、アルゴンガスを0.08 MPaまで充填した。アルゴンガスの充填後、アーク放電を開始した(工程2)。アーク放電開始後、4アンペアの条件でアーク放電を行い金属を溶融して、溶融状態で10~15秒保持した(工程3)。室温になるまで約1分待った後、得られた金属材料の上下面を反転させた(工程4)。
工程2から工程4のプロセスを6-7回繰り返すことで、異常ネルンスト効果材を作製した。
【0066】
(XRD)
XRDは、リガクSmart Lab X線回折装置を用い、粉末に粉砕した後にサンプルホルダーに充填して測定した。
【0067】
(異常ネルンスト係数)
異常ネルンスト係数は以下のように求めた。異常ネルンスト効果材から評価用の平板状(L=8mm、W=1.5mm、t=1mm程度)のサンプルを切り出した。サンプルの一方の端をヒータで加熱し、もう一方の端にはヒートシンクを接触させることで、サンプルの辺Lに沿って温度差を与えた。サンプル上のL_temp離れた2点に熱電対を設置し温度差ΔTを測定した。この温度差と直交する方向で、かつ平板状サンプルの面直方向に磁束密度2Tの磁場を印加した。温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定した。異常ネルンスト係数は、磁束密度2Tの磁場を印加時の電圧から上記式(3)に基づいて計算した。
【0068】
図6にXRD回折ピークを示す。XRD測定の結果、上記で得られた異常ネルンスト効果材は、Fe
3Siの多結晶体であり、またその結晶構造がD0
3であることが確認された。またFe
3Siの格子定数は5.65Åであった。
【0069】
上記で得られた異常ネルンスト効果材の異常ネルンスト係数の測定結果を
図7に示す。
図7の横軸は温度(K)であり、縦軸は異常ネルンスト係数(μV/K)である。
図7に示すように、実施例の異常ネルンスト効果材は、320K~400Kにおいて、異常ネルンスト係数の絶対値の最大値が2.0μV/K以上であり(本実施例では、320K~400Kにおいて、異常ネルンスト係数の絶対値が2.0μV/K以上)、温度320K~400Kの範囲において、2~3Kの温度間隔で異常ネルンスト係数を測定したところ、異常ネルンスト係数の絶対値の標準偏差は0.05μV/Kであった。そのため、実施例の異常ネルンスト効果材を用いた熱電変換モジュールは、常温~400Kまでの範囲において、安定して優れた発電性能を示すことが確認された。