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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157607
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定化方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20241031BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20241031BHJP
【FI】
B01D53/14 210
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072041
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 啓司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】高谷 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】小手川 鑑
【テーマコード(参考)】
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA02
4D020BA11
4D020BB05
4D020BC06
4D020CB40
4D020CC05
4G146JA02
4G146JC05
4G146JD02
(57)【要約】
【課題】高価な薬剤を用いることなく、カルシウム、および/またはマグネシウムを含む鉱物に二酸化炭素を固定化する固定化方法を提供する。
【解決手段】水と共存した状態において、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む被処理個体1に二酸化炭素を反応させることで生じた被膜2を被処理個体1の表面に固定する固定化工程Iと、被膜2が固定された被処理個体1に外力を加え、被膜2を剥離して二酸化炭素固定化能力を再生させる剥離工程IIと、からなる。被処理個体1の表面に炭酸塩の被膜2を形成した後でその被膜2を剥離すると、高価な薬剤を添加することなく、二酸化炭素を固定化できるので、その工業的価値は極めて大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と共存した状態において、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む被処理個体に二酸化炭素を反応させることで生じた被膜を被処理個体に固定する固定化工程と、
該被膜が固定された被処理個体に外力を加え、前記被膜を剥離して二酸化炭素固定化能力を再生させる剥離工程と、からなる
ことを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
前記固定化工程と前記剥離工程とを交互に繰り返す
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
前記固定化工程と前記剥離工程を同時に実行する
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記被処理個体が、採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物、該鉱物の製錬の過程で生成するスラグ、クリンカ、ダスト、焼却灰のうちの一種または複数種からなる
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
前記被処理個体が64μm以下に粉砕されて、前記固定化工程に供給される
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項6】
前記固定化工程における前記水の前記被処理個体に対する重量比が0.01~10である。
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項7】
前記固定化工程では、二酸化炭素の分圧を0.1atm~5atmに調整しながら前記被処理個体と前記二酸化炭素との反応を行う
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項8】
前記固定化工程において、前記被処理個体が採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物である場合に、さらに炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素カリウムを添加する
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項9】
前記固定化工程において、前記被処理個体が採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物である場合に、さらに硫化物、硫黄、硫酸塩、亜硫酸塩のうち一以上を添加する
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項10】
前記固定化工程において、二酸化炭素との反応を5℃~90℃の反応温度に維持しながら行う
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項11】
前記固定化工程における前記被処理個体中に含まれる鉄の含有量が25重量%以下である
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項12】
前記固定化工程において、前記被処理個体が採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物であり、
該固定化工程の前段に前記被処理個体を600℃以上となるように加熱する予熱工程を備える
ことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素の固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の固定化方法に関する。さらに詳しくは、大気や排ガス中の二酸化炭素を固定し、地中や海中への隔離を可能とするための二酸化炭素の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が大きな問題となっており、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量削減が世界的に求められている。二酸化炭素の排出量削減には、排出量自体を低減させる技術と、回収した二酸化炭素を固定して地中や海中へ隔離する固定化技術とが必要となる。
後者の固定化技術については、二酸化炭素を鉱物に固定化するミネラルカーボネーションという手法が注目されている。
【0003】
ミネラルカーボネーションは、鉱物中のカルシウムやマグネシウムなどの金属元素と二酸化炭素を人工的に反応させ炭酸塩化する手法である。炭酸カルシウム(CaCO)や炭酸マグネシウム(MgCO)などの炭酸塩は常温・常圧下で安定であり、固定化後に二酸化炭素を排出する可能性が地中貯留などと比べて低い。また、地中貯留などと比べて地質的な制約が少なく、低濃度の二酸化炭素にも適用可能なため、二酸化炭素濃度10~20%、発生量が数万トン~数十万トン程度の炉やボイラー等に対しては、ミネラルカーボネーションは最も有効な手法の一つと言える。
【0004】
ミネラルカーボネーションに用いる鉱物としては、天然岩石中のケイ酸塩鉱物(CaSiO,MgSi(OH))、製鋼スラグ中の生石灰(CaO)、飛灰中の生石灰(CaO)などを利用する技術が知られている。
【0005】
特許文献1においては、反応槽内において、水の中に製鋼スラグを浸漬させ、二酸化炭素含有ガスを水の中に吹き込み、製鋼スラグから炭酸化スラグを製造する方法が記載されている。
特許文献2においては、[1]飛灰をパルプ濃度5~100g/Lの液中でCOガスを吹き込みながら洗浄することにより、Ca分をCa(HCOとして溶解させる工程(洗浄工程)、[2]洗浄工程で得られたスラリーを固液分離することにより、Ca(HCOを洗浄后液中に回収するとともに、固形分を洗浄残渣として回収する工程、を有する、二酸化炭素の固定を兼ねた飛灰の処理方法が記載されている。
特許文献3においては、水溶液形成工程で、炭酸イオンと化合して炭酸塩鉱物を形成可能な金属元素を含む原料と、キレート剤とを含むアルカリ性の水溶液を形成し、分離工程で、水溶液中で金属元素とキレート剤とを反応させて、原料から金属元素を金属イオンとして分離し、鉱物形成工程で、水溶液に炭酸イオンを生成可能な化合物を加えることにより、その化合物から生じた炭酸イオンと金属イオンとを反応させて炭酸塩鉱物を形成する二酸化炭素固定方法、二酸化炭素の回収方法が記載されている。
【0006】
ところで、遊離石灰を数%含有する製鋼スラグや飛灰中のカルシウムは二酸化炭素と反応し、容易に炭酸化することが知られている。一方で、天然鉱石中のケイ酸塩鉱物はスラグ中の遊離石灰(CaO)などと比べて反応速度が遅いため、特許文献1および2に記載の従来技術をそのままミネラルカーボネーションに適用することは現実的でない。さらに、特許文献3はキレート剤を用いることで反応速度を向上させているが、こうしたキレート剤は一般的に高価であり、経済性の面で現実的でない。
【0007】
しかも、上記各従来技術では、ケイ酸塩鉱物は粒子表面で二酸化炭素と反応して炭酸塩の膜や金属の酸化被膜(例えばFeOOH)が形成されやすいため、粒子内部のカルシウム、マグネシウムが未反応のまま反応が停止することがあり、これに起因して反応速度が低下してしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-147370号公報
【特許文献2】特開2005-246225号公報
【特許文献3】特開2022-102786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、高価な薬剤を用いることなく、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む鉱物に二酸化炭素を固定化する固定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の二酸化炭素の固定化方法は、水と共存した状態において、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む被処理個体に二酸化炭素を反応させることで生じた被膜を被処理個体に固定する固定化工程と、該被膜が固定された被処理個体に外力を加え、前記被膜を剥離して二酸化炭素固定化能力を再生させる剥離工程と、からなることを特徴とする。
第2発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程と前記剥離工程とを交互に繰り返すことを特徴とする。
第3発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程と前記剥離工程を同時に実行することを特徴とする。
第4発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記被処理個体が、採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物、該鉱物の製錬の過程で生成するスラグ、クリンカ、ダスト、焼却灰のうちの一種または複数種からなることを特徴とする。
第5発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記被処理個体が64μm以下に粉砕されて、前記固定化工程に供給されることを特徴とする。
第6発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程における前記水の前記被処理個体に対する重量比が0.01~10であることを特徴とする。
第7発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程では、二酸化炭素の分圧を0.1atm~5atmに調整しながら前記被処理個体と前記二酸化炭素との反応を行うことを特徴とする。
第8発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程において、前記被処理個体が採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物である場合に、さらに炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素カリウムを添加することを特徴とする。
第9発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程において、前記被処理個体が採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物である場合に、さらに硫化物、硫黄、硫酸塩、亜硫酸塩のうち一以上を添加することを特徴とする。
第10発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程において、二酸化炭素との反応を5℃~90℃の反応温度に維持しながら行うことを特徴とする。
第11発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程における前記被処理個体中に含まれる鉄の含有量が25重量%以下であることを特徴とする。
第12発明の二酸化炭素の固定化方法は、第1発明において、前記固定化工程において、前記被処理個体が採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物であり、該固定化工程の前段に前記被処理個体を600℃以上となるように加熱する予熱工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、固定化工程において、水と共存した状態のカルシウムおよび/またはマグネシウムを含む被処理個体に二酸化炭素を反応させると被処理個体の表面に被膜を形成でき、その被膜を剥離工程で剥離すると被処理個体と被膜に分離することができる。このため高価な薬剤を用いることなく、二酸化炭素を被膜に固定化できるので、その工業的価値は極めて大きい。
第2発明によれば、固定化工程と剥離工程を分けて交互に繰り返すことで、被膜の形成を充分に行ったうえで、被膜の剥離に移るので、固定化方法全体としての生産性が高い。
第3発明によれば、固定化工程と剥離工程を同時に進めるので、短時間の操業でも固定化処理を行える。
第4発明によれば、採鉱によって取得される鉱物である被処理個体に含まれるカルシウムおよび/またはマグネシウムが水中に溶解して二酸化炭素に反応すると炭酸塩等からなる被膜を生成するので、二酸化炭素を被膜に固定化できる。そして、被膜が炭酸塩である場合は常温・常圧下で安定であるので、二酸化炭素を排出するリスクが低くなる。
第5発明によれば、被処理個体を64μm以下に粉砕しておくので被処理個体の比表面積が大きくなり、より多くの二酸化炭素を固定化できる。
第6発明によれば、被処理個体と共存する水分量が、水の被処理個体に対する重量として0.01~10の範囲としているので、溶解反応を充分に行わせることができる。
第7発明によれば、二酸化炭素の分圧を0.1atm~5atmの範囲としているので、反応を充分早くでき、かつ二酸化炭素の導入設備も簡素なもので済む。
第8発明によれば、炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素カリウムを添加するので、珪酸塩の炭酸化を促進できる。
第9発明によれば、硫化物、硫黄、硫酸塩、亜硫酸塩のうち一以上を添加するので、硫酸イオンおよび/または亜硫酸イオンによって、カルシウムおよび/またはマグネシウムの水中への溶出を促進することができる。
第10発明によれば、反応温度を5℃~90℃の範囲とするので、反応が良好に進み、かつ加熱量を過大にしなくて済む。
第11発明によれば、被処理個体に含まれる鉄分が25重量%以下であるので、カルシウムおよび/またはマグネシウムの炭酸化が阻害されにくくなり、二酸化炭素の固定化が効率良く進む。
第12発明によれば、被処理個体を600℃以上に予熱することで、鉱物の結晶構造を一部非晶質化することができ、被処理個体中のカルシウムおよび/またはマグネシウムを水中により多く溶出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法の工程図である。
図2図1に示す工程で用いる実施設備の説明図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法の工程図である。
図4図3で示す工程で用いる実施設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の基本原理)
本発明に係る二酸化炭素の固定化方法は、図1に示すように、水と共存した状態において、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む被処理個体1に二酸化炭素を反応させることで生じた被膜2を被処理個体1の表面に固定する固定化工程Iと、被膜2が固定された被処理個体1に外力を加え、被膜2を剥離して、二酸化炭素固定化能力を再生させる剥離工程IIと、からなる。
本発明の固定化方法には、固定化工程Iと剥離工程IIを交互に繰り返す方法と、固定化工程Iと剥離工程IIを同時に実行するものとが含まれる。
【0014】
本発明に係る二酸化炭素の固定化方法によると、固定化工程Iにおいて、水と共存した状態のカルシウムおよび/またはマグネシウムを含む被処理個体1に、二酸化炭素を含む被膜2を被処理個体1の表面に形成でき、その被膜2を剥離工程IIで剥離して被処理個体1と二酸化炭素を含む被膜2に分離する。被膜2が分離すると、被処理個体1の表面が露出するので、二酸化炭素固定化能力が再生する。
【0015】
本発明の固定化方法によると高価な薬剤を用いることなく、二酸化炭素を被膜に固定できる。
形成される被膜の代表的なものとしては炭酸塩がある。この炭酸塩は、常温・常圧下で安定であり、固定化後に二酸化炭素を排出するリスクが従来の地中貯留などと比べて低いという利点があるので、その工業的価値は極めて大きい。
【0016】
本発明における被処理個体1とは、採鉱によって取得されるカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物、その鉱物の製錬の過程で生成するスラグ、クリンカ、ダスト、焼却灰のうちの一種または複数種をいう。これらは二酸化炭素の固定に適した固定体である。
【0017】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態の固定化方法を、図1の工程図および図2の設備説明図を参照しながら説明する。
第1実施形態の固定化方法は、固定化工程Iと剥離工程IIとを交互に繰り返す方法である。
【0018】
(固定化工程I)
図1に示す固定化工程Iにおいて、被処理個体1は、水に共存させることで含まれているカルシウムおよび/またはマグネシウムを水中に溶解させることができる。
そして、水中に溶解させたカルシウムおよび/またはマグネシウムに対し、水中で二酸化炭素(具体的には、炭酸イオン)を反応させると、炭酸塩(すなわち、カルシウム炭酸塩および/またはマグネシウム炭酸塩)や酸化鉄(FeOOH)などを生成する。
【0019】
炭酸塩を生成する代表的な反応式には、下記式1、式2、式3などがある。
CaO + CO → CaCO・・・(式1)
MgO + CO → MgCO・・・(式2)
MgSi(OH) + 3CO → 3MgCO + 2SiO +2HO・・・(式3)
これらの反応により、二酸化炭素(CO)はこれら炭酸塩(CaCO、MgCO、3MgCO)中に固定化される。生成された炭酸塩や酸化鉄などは被処理個体1の表面に被膜2として形成される。
【0020】
固定化工程Iの実行には、図2に示すような設備を用いることができる。10は反応槽であって、槽本体11と蓋12とからなり、密閉可能となっている。
反応槽10の内部には、供給装置13(たとえば、シュートなど)により被処理個体1を供給でき、導水管14により水を供給でき、導入管15により二酸化炭素ガスを導入できるようになっている。
反応槽10の槽本体11内に水4が貯えられ、水中に被処理個体1が存在し、二酸化炭素も水中に溶解している状態になると、炭酸塩などの生成反応を実行することができる。
【0021】
ただし、固定化工程Iに用いる設備は、図2のものに限られず、被処理個体1が水中で二酸化炭素と反応させることが可能であれば、どのような設備を用いてもよい。
また、図示していないが、図2の反応槽10には槽本体11内で被処理個体1と水とを撹拌する撹拌装置を設けてもよく、その場合は炭酸塩の生成が効率よく行われる。
【0022】
固定化工程Iにおいて、供給する被処理個体1は粉砕して微細化することが好ましい。これにより、比表面積が拡大して、より多くの二酸化炭素を固定化することが可能となる。粉砕には一般的なボールミルや振動ミルを用いることができる。微細化後の粒子サイズは64μm以下にすることが好ましく、32μm以下にするとより好ましい。微細化の下限は1μmであり、1μm以上とするのが好ましい。1μm未満となると、粉砕に非常に大きなエネルギーが必要になるうえ、粉砕設備を大型化する必要が生じる。
【0023】
図2に示す反応槽10には、全ての被処理個体1を水4に接触させるように必要に応じて撹拌装置を設け、被処理個体1と水を撹拌するとよい。
なお、図2中の被処理個体1は球形で示され、被膜2も均一な厚みに示されているが、実際には被処理個体1は不定形であり、被膜2の厚さも不均一であり、部分的に被処理個体1を覆っているものも存在する。
【0024】
固定化工程Iでの槽本体11内における被処理個体1に対する水4の重量比は、0.01~10とするのが好ましい。すなわち、水の割合が小さく被処理個体1の表面を濡らす程度のものから、水の割合が多いスラリー状も許容される。
固定化工程Iにおいて、被処理個体1と共存する水分量の下限は重量比で0.01以上である。この水分量であると被処理個体1の溶解反応を行わせることができる。添加する水の量が1重量%より少ないと反応が不十分となる不都合が生じる懸念があるうえ、発塵が生じやすくなるためハンドリングが困難になる。
被処理個体1と共存する水分量の上限は、水の被処理個体1に対する重量比で10以下、より好ましくは5以下になるように調整する。添加する水の量が過剰になると、処理設備を大型化する必要があるうえ、水資源を保全する上でも好ましくない。
【0025】
固定化工程Iで導入する二酸化炭素は、大気や排ガス中に含まれるものであり、これらの二酸化炭素を用いることで、地球上のCO排出削減に貢献できる。
二酸化炭素(ガス)の導入方法はとくに限られない。たとえば、密閉した容器に被処理個体1を水と共に装入し、ここに二酸化炭素を導入できれば、どのような方法でもよい。図2の反応槽10では導入管15を用いているが、これは一例である。
【0026】
二酸化炭素の反応槽10への導入は、二酸化炭素の分圧が0.1atm~5atmとなるように導入圧力を調整することが好ましい。この圧力範囲であると、導入設備が簡素なもので済む。二酸化炭素の分圧が0.1atmより低いと、反応が緩慢となりやすく、5atmより高いと導入設備が高価なものになりやすい。
【0027】
固定化工程Iにおいて、被処理個体1がカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物である場合には、さらに炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸水素カリウムをさらに添加することもできる。これにより、珪酸塩の炭酸化を促進させることができる。すなわち、炭酸水素カリウムは以下の式4に示す反応により、マグネシウム珪酸塩を炭酸化することができる。
MgSi(OH) + 6KHCO → 3MgCO + 2SiO +5HO+3KCO・・・(式4)
【0028】
マグネシウム珪酸塩を炭酸化すると、炭酸カリウムが生成するが、生成した炭酸カリウムは以下の式5に示す反応により、炭酸水素カリウムとして再生されるため、所定量の炭酸水素カリウムを添加した後は、新たな炭酸水素カリウムの添加は不要となる。
CO+CO+HO → 2KHCO (COで再生)・・・(式5)
【0029】
固定化工程Iにおいて、被処理個体1がカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物である場合には、硫化物、硫黄、硫酸塩、亜硫酸塩のうち一以上を更に添加することもできる。これにより、生成する硫酸イオンおよび/または亜硫酸イオンによってカルシウムおよび/またはマグネシウムの水中への溶出を促進することができる。なお、硫化物、硫黄、硫酸塩、亜硫酸塩に替えて、硫黄酸化物(SOX)を含有する気体を導入するようにしてもよい。
【0030】
固定化工程Iにおいて、カルシウムおよび/またはマグネシウムと二酸化炭素との反応は高温であるほど良好に進行する。たとえば、反応は5℃~90℃の温度領域において行わせることができる。とくに、反応は温度が20℃以上の温度領域で行うことが好ましく、50℃以上の温度領域で行うことがより好ましい。この場合、反応が良好に進み、かつ加熱量を過大にしなくて済む。ただし、90℃以上ではより多くの加熱が必要となるため不経済になりやすい。
【0031】
被処理個体1中に含有する鉄分は、25重量%以下であることが好ましく、10重量%以下がより好ましい。すなわち、被処理個体1中に含有する鉄分は低い方が、二酸化炭素の固定化が効率良く進み、有利である。その理由は、被処理個体1中の鉄分は、水との共存下では水中に溶出して被処理個体1の粒子表面に水酸化物として沈着し、水酸化鉄からなる被膜が形成され、カルシウムおよび/またはマグネシウムの炭酸化が阻害されやすいからである。
【0032】
(剥離工程II)
図1に示すように、剥離工程IIでは、固定化工程Iで得られた炭酸塩等からなる被膜2に外力Fを付加し、その被膜2を剥離する。
図2に示すように、加える外力Fは被膜2を割ったり引き剥がしたりして剥離できればよい。したがって、被処理個体1の粒子の破壊を伴うような大きな外力Fを付加して行う必要はなく、比較的小さな外力の付加によって行うことができる。
【0033】
外力の付加には、たとえば、ホモジナイザー(微粒化機)、アジテーター(撹拌機)、あるいはウェットスクラバー(湿式集塵機)などの装置で行うことが可能であり、乳棒と乳鉢を用いて軽く混ぜる程度でも可能である。このため、上記に例示した各種装置に限られず、より小さな外力Fを付加する超音波振動装置を採用してもよい。さらに、熱応力を利用して外力を付加し、剥離処理してもよい。
【0034】
剥離工程IIで分離した被処理個体1と被膜2は、分離はされていても反応槽10内で混在した状態となる。そのため、固定化工程Iと剥離工程IIを何回か(たとえば、3回)を繰り返した後、被処理個体1と被膜2を共に回収すればよい。
【0035】
以上のようにして得られた被膜2が炭酸塩である場合は、常温・常圧下で安定であるので、固定化後に地中や海中等に隔離すれば、二酸化炭素を排出するリスクが従来の地中貯留などと比べて低いという利点を享受できる。
また、二酸化炭素が分離した被処理個体1は、図2に示すように新たな表面が露出することになる。このため、二酸化炭素の固定化が飽和状態となった場合でも、その固定化の能力を容易に再生させることができ、図1に示すように、再び被処理個体1を固定化工程Iに供給することができる。
【0036】
上記の第1実施形態では、固定化工程Iと剥離工程IIを分けて交互に繰り返すことで、被膜2の形成を充分に行ったうえで、被膜2の剥離に移るので、固定化方法全体としての生産性が高くなる。
【0037】
(第2実施形態)
第2実施形態の固定化方法を図3の工程図および図4の設備説明図を参照しながら説明する。
第2実施形態の固定化方法は、前記固定化工程Iと前記剥離工程IIを同時に実行する方法である。
【0038】
第2実施形態の固定化方法は、図3に示すように、固定化工程Iと剥離工程IIを、同時に実行するものである。この第2実施形態の実行には、図4に示すように、反応槽10に撹拌装置20を設けて、炭酸塩等からなる被膜2を形成しつつ外力Fを加えて被膜2を剥離すればよい。
【0039】
用いる撹拌装置20の構造や機能には、とくに制限はなく、撹拌翼21をモータ等22で回転させるものを例示できる。撹拌することにより、水中で被処理個体1同士が衝突したり、被処理個体1が撹拌翼21と衝突することで外力Fが加わり、被膜2が被処理個体1から剥離することになる。このように炭酸塩等からなる被膜2の生成と剥離を同時進行させると、被処理個体1の表面に新たな面を露出させながら被膜2を生成し、この被膜2に二酸化炭素を固定することができるため、効率的に二酸化炭素の固定を行うことができる。また、被処理個体1の二酸化炭素固定化能力を再生させることができる。
【0040】
上記の第2実施形態では、固定化工程Iと剥離工程IIを同時に進めるので、短時間の操業でも固定化処理を行える。
また、再生した被処理個体1は、図3に示すように、再び被処理個体1を固定化工程Iに供給することができる。
【0041】
(その他の実施形態)
本発明の二酸化炭素の固定化方法では、固定化工程Iの前段に予熱工程を設けてもよい。被処理個体1がカルシウム珪酸塩および/またはマグネシウム珪酸塩を含む鉱物である場合には、かかる予熱工程を設けることによって、これら鉱物の結晶構造を一部非晶質化することができる。このため、被処理個体1中のカルシウムおよび/またはマグネシウムを水中により多く溶出させることができる。具体的には、600℃以上に加熱することが好ましく、これにより、溶出を良好に行うことができる。すると、固定化工程Iにおける反応を活性化させて効率的な二酸化炭素の固定が可能となる。
【実施例0042】
[実施例1]
図1に示す固定化方法を以下の要領で実験した。
(固定化工程I)
被処理個体1として、リザダイトを主成分とするFe 23%、Si 13%、Mg 14%の廃鉱石を用いた。廃鉱石は乳棒・乳鉢を用いて全量を64μm以下に粉砕した。粉砕した廃鉱石3gに純水15mLを加えてスラリーを作製した。作製したスラリーはサンプル容器(フッ素樹脂(商品名「テフロン(登録商標)」)を用いたジャータイプのサンプル容器)に充填し、密閉した容器内部の圧力が5atmとなるように二酸化炭素を供給しながら撹拌し1週間保持した。サンプル容器は加温せず室温のまま試験を行った。サンプル容器から取り出したスラリーは固液分離して固体側を乾燥させ、全炭素測定により二酸化炭素の吸収量(重量)を算出した。算出の結果、二酸化炭素の吸収量は廃鉱石に対して0.85重量%となっていた。
【0043】
(剥離工程II)
続いて、乾燥後試料を乳鉢で軽く撹拌して剥離処理を行った。その後に1.5gを分取し、水7.5mLを加えて再度スラリーを作製した。作製したスラリーを初回と同様にサンプル容器に充填し、密閉した容器内部の圧力が5atmとなるように二酸化炭素を供給しながら撹拌し1週間保持した。
【0044】
この実験結果によると、二酸化炭素の吸収量(重量)は鉱物に対して1.68重量%となり、試験を開始して2週間経過後においても二酸化炭素吸収量が増加したことが確認できた。
【0045】
[比較例1]
剥離処理IIを行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして行った。実験結果によると、試験を開始して4週間経過後の鉱物に対する二酸化炭素吸収量は0.8重量%となっており、二酸化炭素吸収量の増加は認められなかった。
【0046】
(まとめ)
以上のように、本発明の二酸化炭素の固定化方法を実行することで、高価な薬剤を添加することなく、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含む鉱物表面に形成される被膜に二酸化炭素の吸収できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、二酸化炭素を炭酸塩等からなる被膜に固定し、それを地中や海中等に隔離することで大気中の二酸化炭素を削減することに利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 被処理個体
2 被膜
4 水
10 反応槽
11 槽本体
20 撹拌装置
21 撹拌翼
図1
図2
図3
図4