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特開2024-158070空間能動騒音制御装置、空間能動騒音制御方法、制御フィルタ計算装置、制御フィルタ計算方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024158070
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】空間能動騒音制御装置、空間能動騒音制御方法、制御フィルタ計算装置、制御フィルタ計算方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G10K11/178 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072926
(22)【出願日】2023-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、創発的研究支援事業「音の空間的制御とその応用展開」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘章
(72)【発明者】
【氏名】鎌土 記良
(72)【発明者】
【氏名】小塚 詩穂里
(72)【発明者】
【氏名】有川 和志
(72)【発明者】
【氏名】小山 翔一
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】従来の誤差マイク信号を用いた空間ANC技術はシステム規模が大きくなる。また、ユーザの利便性向上のため誤差マイクの数を減らすと、制御対象領域内の騒音制御精度が低下する。
【解決手段】上記課題を解決する空間能動騒音制御装置は、参照信号取得部と、二次音信号生成部と、制御フィルタ計算部を有する。参照信号取得部は、騒音を制御対象領域外で測定する。二次音信号生成部は、参照信号取得部で取得した参照信号から、制御フィルタを用いて、二次音信号を生成する。制御フィルタ計算部は、参照信号に対応する騒音が制御対象領域に伝播した音を推定するための第1のフィルタと、二次音が制御対象領域に伝播した音を推定するための第2のフィルタを用いて制御フィルタを算出する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象領域内の騒音を、二次音により抑制する空間能動騒音制御装置であって、
騒音を制御対象領域外で測定する参照信号取得部と、
前記参照信号取得部で取得した参照信号から、制御フィルタを用いて、二次音信号を生成する二次音信号生成部と、
前記参照信号に対応する騒音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第1のフィルタと、前記二次音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第2のフィルタを用いて前記制御フィルタを算出する制御フィルタ計算部と、
を有する空間能動騒音制御装置。
【請求項2】
制御対象領域内の騒音を、二次音により抑制する空間能動騒音制御装置であって、
騒音を制御対象領域外で測定する参照信号取得部と、
前記参照信号取得部で取得した参照信号から、制御フィルタを用いて、二次音信号を生成する二次音信号生成部と、
制御対象領域内部の音圧を取得する誤差信号測定部と、
制御フィルタ更新部と、を有し、
前記制御フィルタ更新部は、前記参照信号と前記誤差信号の測定ごとに、前記参照信号と前記二次音信号と前記誤差信号とを用いて、前記制御フィルタを逐次更新する
ことを特徴とする空間能動騒音制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の空間能動騒音制御装置であって、
前記参照信号に対応する前記騒音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第1のフィルタと、前記二次音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第2のフィルタを用いて前記制御フィルタの初期値を算出する初期フィルタ計算部と、
を有する空間能動騒音制御装置。
【請求項4】
制御対象領域内の騒音を抑制する二次音を算出するための制御フィルタを計算する装置であって、
騒音を制御対象領域外で測定する参照信号取得部と、
前記参照信号に対応する前記騒音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第1のフィルタと、前記二次音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第2のフィルタから、前記制御フィルタを計算する制御フィルタ計算部
を有する制御フィルタ計算装置。
【請求項5】
制御対象領域内の騒音を、二次音により抑制する空間能動騒音制御方法であって、
参照信号取得部が、騒音を制御対象領域外で測定するステップと、
二次音信号生成部が、前記参照信号取得部で取得した参照信号から、制御フィルタを用いて、二次音信号を生成するステップと、
制御フィルタ計算部が、前記参照信号に対応する騒音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第1のフィルタと、前記二次音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第2のフィルタを用いて前記制御フィルタを算出するステップと、
を含む空間能動騒音制御方法。
【請求項6】
制御対象領域内の騒音を、二次音により抑制する空間能動騒音制御方法であって、
参照信号取得部が、騒音を制御対象領域外で測定するステップと、
二次音信号生成部が、前記参照信号取得部で取得した参照信号から、制御フィルタを用いて、二次音信号を生成するステップと、
誤差信号測定部が、制御対象領域内部の音圧を取得するステップと、
制御フィルタ更新部が、前記参照信号と前記誤差信号の測定ごとに、前記参照信号と前記二次音信号と前記誤差信号とを用いて、前記制御フィルタを逐次更新するステップと
を含む空間能動騒音制御方法。
【請求項7】
制御対象領域内の騒音を抑制する二次音を算出するための制御フィルタを計算する方法であって、
参照信号取得部が、騒音を制御対象領域外で測定するステップと、
制御フィルタ計算部が、前記参照信号に対応する前記騒音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第1のフィルタと、前記二次音が前記制御対象領域に伝播した音を推定するための第2のフィルタから、前記制御フィルタを計算するステップと
を含む制御フィルタ計算方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載の空間能動騒音制御装置、または請求項4に記載の制御フィルタ計算装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示技術は、外部から到来する騒音を3次元空間の領域内で二次音源(スピーカ)を用いて低減する技術(能動騒音制御技術)に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音等の音波に、逆相で同振幅の音波(二次音)を生成して重ね合わせれば、騒音を消去ないし低減できる。このような技術を、能動騒音制御(Active Noise Control)と呼ぶ。以下、能動騒音制御を「ANC」と記す。また、オフィスや車内のような空間にANCを適用することを空間ANCと記す。
【0003】
空間ANCの一つの方法は、騒音を測定し、測定騒音に基づいて生成した二次音を、騒音を低減したい領域(制御対象領域)に供給し、同時に制御対象領域内の音を測定して騒音低減効果を測定し、二次音生成部にフィードバックして騒音の変動に動的に追随する方法である。図1図2を用いてこの従来技術について詳しく説明する。
なお、従来技術(非特許文献1)と開示技術で用いるカーネル補間法(後述)は周波数領域で定式化されている。このため、マイクで測定した時間領域の音信号は周波数領域の音信号に変換した後、周波数成分ごとに二次音信号に変換処理する。そして、変換後の二次音信号全体(全ての周波数成分)を用いて時間領域の音信号に逆変換してスピーカから出力する。煩雑さを避けるため、以降では、「マイクで測定した信号」は「マイクで測定した時間領域の音信号を周波数領域に変換した信号」を意味するものとし、周波数領域での信号処理は1つの周波数成分について説明する。また、「二次音をスピーカから出力する」は「周波数領域の二次音信号を時間領域に逆変換した音信号をスピーカから出力する」ことを意味するものとする。
【0004】
101は外部から到来する騒音、102は騒音101を測定する参照マイク、103は制御対象領域、104は騒音を制御対象領域内で打ち消すための音を生成する二次音源(スピーカ)、105は制御対象領域内の音場を測定する誤差マイクである。参照マイク102の数はR、スピーカ104の数はL、誤差マイク105の数はMとする。
【0005】
参照マイク102が時刻nに測定した信号をx(R次元ベクトル)、xを適応フィルタW(L×R行列)で変換した二次音(スピーカ駆動信号)をy(L次元ベクトル)とする。
【数1】

M個の誤差マイク105が時刻nに測定した信号e(M次元ベクトル)は、制御対象領域内の同時刻の騒音dと、二次音が伝播した音との重ね合わせとなる。
【数2】

ここで、GはM×Lの行列で、二次音が空間を伝播した影響を与える。
【0006】
コスト関数Jを定め、時刻nの適応フィルタWを、正規化最小二乗平均(NLMS)により次のように更新して騒音の変動に追随する。
【数3】

ここで、μは更新のステップサイズであり、「*」は複素共役を表す。
【0007】
コスト関数の第1の候補は、測定した誤差マイク信号の二乗和である(図2左)。
【数4】

ここで、「H」は共役転置を表す。このコスト関数を用いる手法は「多チャンネルANC」とも呼ばれる。
しかし、式(4)のコスト関数では誤差マイクの位置における音圧しか考慮しておらず、誤差マイクと誤差マイクの間の領域で騒音が減殺されていることの保証はない。
【0008】
そこで、非特許文献1は、制御対象領域内の音場を推定し、制御対象領域内の全音圧パワーをコスト関数とする方法を提案した(図2右)。
具体的には、離散配置された誤差マイクで測定した信号を用いて、カーネルリッジ回帰により、連続的な音場(制御対象領域内の任意の位置r、時刻nにおける音場)u^e(r,n)を補間/推定する。
【数5】

ここで、K(グラム行列)はM×M行列、κ(r)はM次元ベクトルであり、Kとκ(r)の成分は式(6)の通りである。
【数6】

ただし、κ(・,・)はカーネル関数、riはi番目の誤差マイク位置である。
そして、式(7)の通り、制御対象領域内の全音圧パワーJをコスト関数とする。
【数7】

なお、積分領域Ωは、制御対象領域である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. Koyama et al., "Spatial Active Noise Control Based on Kernel Interpolation of Sound Field", IEEE/ACM Transactions on Audio, Speech, and Language Processing, Vol. 29, pp. 3052-3063, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の空間ANC技術では、誤差マイク信号を用いて制御対象領域全体の音圧パワーを推定している。良好な音圧パワー推定のためには、制御対象領域全体に誤差マイクを配置するのが望ましいが、その場合、システム規模が大きくなってしまう。また、制御対象領域は、例えばオフィスや自動車の車内など、ユーザが利用するための空間なので、誤差マイクがユーザの邪魔になる場合がある。
したがって、上記の利用例を考えると、誤差マイク数を可能な限り少なくしたいが、誤差マイク数を少なくすると推定精度が低下し、制御対象領域内の騒音制御精度も低下してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する空間能動騒音制御装置は、参照信号取得部と、二次音信号生成部と、制御フィルタ計算部とを有する。
参照信号取得部は、騒音を制御対象領域外で測定する。
二次音信号生成部は、参照信号取得部で取得した参照信号から、制御フィルタを用いて、二次音信号を生成する。
制御フィルタ計算部は、参照信号に対応する騒音が制御対象領域に伝播した音を推定するための第1のフィルタと、二次音が制御対象領域に伝播した音を推定するための第2のフィルタを用いて制御フィルタを算出する。
【発明の効果】
【0012】
開示技術によれば、参照マイクは制御対象領域外に配置できるため、ユーザによる空間利用を妨げることがない。また、制御対象領域にある物体(人の頭部など)からの散乱の影響を受けにくい。さらに、誤差マイク数を減らせることでANCシステム規模を小さくできる
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来の空間ANC技術について説明する図。
図2】従来の空間ANC技術に関し、コスト関数の例を2つ説明する図。
図3】実施例1に係る空間ANC技術の、マイクや音源の配置と、推定音場について説明する図。
図4】実施例1に係る空間ANC装置の機能ブロック図。
図5】実施例1に係る空間ANC装置の作用を説明するフローチャート図。
図6】実施例2に係る空間ANC技術の、マイクや音源の配置と、推定音場について説明する図。
図7】実施例2に係る空間ANC装置の機能ブロック図。
図8】実施例2に係る空間ANC装置の作用を説明するフローチャート図。
図9】実施例の効果を確認する実験における、マイクや音源の配置と、制御対象領域について説明する図。
図10】周波数が400MHzの騒音を用いた実験の結果を説明する図。
図11】騒音の周波数を変化させた実験の結果を説明する図。
図12】コンピュータの機能構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、開示技術の実施形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例0015】
上述の通り、従来技術の空間ANCは、制御対象領域内に配置した多数の誤差マイクを用いて制御対象領域内の音場を補間/推定していた。
実施例1では、制御対象領域内に誤差マイクを配置するのをやめ、制御対象領域の周囲に配置した参照マイクから補間/推定した制御対象領域内の騒音と、二次音源(スピーカ)が制御対象領域内に形成する音場を推定したものとを加算して、制御対象領域内の任意の位置の推定音場とする。この様子を図3に示す。
【0016】
図4は、実施例1に係る空間ANC装置の構成例を示す機能ブロック図である。
空間ANC装置4は、参照マイク102、スピーカ104、固定フィルタ計算部401、参照信号取得部402、二次音信号生成部403、二次音出力部404、周波数領域変換部405、時間領域変換部406を有し、参照マイク102で参照信号を取得し、参照信号から生成した二次音をスピーカ104から出力する。
なお、本開示技術においては、制御対象領域に供給する二次音を生成するためのフィルタを、「制御フィルタ」ともいう。
【0017】
図5は、空間ANC装置4の作用の一例を説明するフローチャートである。図3,4,5を用いて、実施例1に係る空間ANC装置について詳しく説明する。
【0018】
[固定フィルタの決定]
<騒音音場のカーネル補間>
固定フィルタ計算部401は、まず、R個の参照マイク102を用いて、時刻nの騒音を測定し、周波数領域変換部405で周波数領域に変換した信号x(R次元ベクトル)を生成する(ステップS501)。参照マイクは、制御対象領域を囲むように配置するのが望ましく、少なくとも制御対象領域と騒音源との間に配置する。
【0019】
xを用いてカーネルリッジ回帰計算を行い、制御対象領域内の位置rの音場u(r,n)(式(8))を推定するためのカーネル補間フィルタz(r)(式(9))を算出する(ステップS502)。
【数8】

【数9】

ここで、KはR×Rのグラム行列、κ(r)はR次元ベクトルであり、それぞれの要素はカーネル関数κ(・,・)である。
実施例1では、騒音はη方向から到来することを仮定し、カーネル関数には、方向性重みづけを施した式(10)を用いる。
【数10】

ここで、Dは制御対象領域Ωの次元、r12=r-r、kは波数、Jは0次の第1種ベッセル関数、jは0次の第一種球ベッセル関数である。スカラー量β≧0は重みづけの度合いを調整するパラメータである。
【0020】
<スピーカが生成する音場>
空間ANCが動作する時(後述する)、L個の二次音源(スピーカ104)は、制御対象領域内の騒音を打ち消すための音(xを制御フィルタWで変換して生成したy)を発する。
【数11】

固定フィルタ計算部401は、制御対象領域内の位置rにおけるスピーカ音u(r,n)をyから推定するためのフィルタζ(r)を決定する(ステップS503)。
【数12】

ζ(r)は、例えば、グリーン関数を用いて構成すればよい。
【0021】
<固定フィルタの計算>
制御対象領域内の位置r、時刻nの音場u(r,n)は、u(r,n)とu(r,n)の和として式(13)で与えられる。
【数13】

制御対象領域の内部Ωの全音圧パワーJintは、式(14)となる。
【数14】

ただし、
【数15】
【0022】
式(11)に注意すると、Jintをコスト関数としたとき、コスト関数のWに関する勾配は式(16)で与えられる。
【数16】

ここで、AyyとAyxは、フィルタz(r)とζ(r)とΩから事前に(空間ANCの実施に先立って)計算することができるので、参照マイク信号xによらず、コスト関数の勾配をゼロにするフィルタWfixedを求めることができる(ステップS504)。
【数17】
【0023】
以上が実施例1に係る固定フィルタ決定の説明である。続いて、空間ANCの実施について説明する。
【0024】
[空間ANCの実施]
空間ANC装置4は、参照マイク102で時刻nの参照信号xを取得する(ステップS511)。
空間ANC装置4は、Wfixedを用いて二次音信号yを計算する(ステップS512)。
【数18】

空間ANC装置4は、時間領域変換部406で二次音信号を時間領域の信号に変換し、スピーカ104を用いて、二次音を出力する(ステップS513)。
【0025】
以上が、実施例1に係る空間ANC実施の説明である。
【実施例0026】
実施例1では、固定フィルタにより空間ANCを実施した。しかし、固定フィルタによるANCの精度は、音場の推定誤差があると悪化してしまう。例えば、参照マイクの数が十分でない場合や、参照マイクが制御対象領域から離れた場所に配置されている場合などでは、音場の推定に誤差が生じることがある。また、部屋の残響や制御対象領域内に音を反射する物体があると、二次音の推定誤差が大きくなる。
そこで、実施例2では、実施例1の固定フィルタと同様に算出したフィルタを初期値とし、誤差マイク信号を用いて適応的にフィルタを更新して、制御領域全体の音圧パワーの推定精度の劣化を防ぐ。
【0027】
図6に、実施例2にかかる参照マイク102、制御対象領域103、スピーカ104、誤差マイク105の配置例を示す。図3とは、制御対象領域103内に誤差マイク105を配置した点が異なる。
【0028】
図7は、実施例2に係る空間ANC装置の構成例を示す機能ブロック図である。
空間ANC装置4とは、誤差マイク105、初期フィルタ計算部701、誤差マイク信号取得部705、適応フィルタ更新部706を備えた点が異なる。
なお、本開示技術においては、制御対象領域に供給する二次音を生成するためのフィルタを、「制御フィルタ」ともいう。
【0029】
図8は、空間ANC装置7の作用の一例を説明するフローチャートである。図6,7,8を用いて、実施例2に係る空間ANC装置について詳しく説明する。
【0030】
[初期フィルタの決定]
初期フィルタ計算部701は、初期フィルタWを計算する。計算方法は実施例1のWfixedの計算方法と同様であり、得られた変換行列を、実施例2ではWとする(ステップS804)。
【0031】
[空間ANCの実施]
空間ANC装置7は、まず、信号測定の時刻管理カウンタnを初期化する(ステップS814)。
【0032】
<二次音の生成>
時刻nの信号処理について、参照信号取得部402、二次信号生成部403、二次音出力部404の動作(ステップS511からS513)は、実施例1と同様である。ただし実施例2では、参照信号を二次音信号に変換する変換フィルタとして、Wfixedに替えてW(後述する)を用いる。
【0033】
<適応フィルタWの更新>
誤差マイク信号取得部705は、誤差マイク105を用いて、時刻nの誤差マイク信号eを取得する(ステップS815)。
【0034】
適応フィルタ更新部706は、参照信号取得部402からxを、二次音信号生成部403からyを、誤差マイク信号取得部705からeを取得し、Wを更新する(ステップS816)。W更新の詳細は以下の通り。
【0035】
実施例2では、コスト関数を式(19)とする。
【数19】

ここで、γ∈(0,1)は忘却計数、Jintは実施例1の式(14)、右辺第二項は誤差マイク信号の二乗和である。γにより徐々にコスト関数中のJintのウェイトを減らすことで、制御フィルタが、実施例1の固定フィルタから、多チャンネルANCのフィルタに遷移することが期待される。
【0036】
さて、式(19)を、式(20)により逐次最小化してWを更新する(ステップS817)。
【数20】

ここでGは、二次音が制御対象領域まで空間を伝播した影響を表現する行列である。
ステップサイズμは式(21)の通り。
【数21】
【0037】
空間ANC装置7は時刻管理カウンタnを1増やし(ステップ817)、次の参照信号と誤差マイク信号を取得する(ステップS511、815)。
【0038】
以上が、実施例2に係る空間ANC装置の説明である。
【0039】
[実施例の効果測定]
以下、計算機シミュレーション実験により確認した、実施例の効果について説明する。
<実験のセットアップ>
図9に、実験で用いた各種音源とマイクの配置を示す。
制御対象領域103は半径0.5mの円領域とし、中心に半径0.15mの剛体円106を配置した。
二次音源(スピーカ)104は、半径1mの位置に12個配置した。
参照マイク102は、半径2mの位置に6個配置した。
誤差マイク105は、座標(±0.3m,0.0m)に2つ配置した。
騒音源101-1は、座標(-3.5m, 0.2m)に配置した。
【0040】
<比較手法>
以下の3つの手法について比較した。
NLMS:多チャンネルANCに基づくNLMS(従来法)。
Fixed-KIR:参照マイク信号からカーネル補間した固定フィルタ(実施例1)。
NLMS w/ Fixed-KIR:Fixed-KIRから遷移するNLMS(実施例2)。
【0041】
<評価指標>
評価指標には、式(20)の「音圧抑制量」Pred(n)を用いた。Pred(n)は制御対象領域における音圧抑制性能を表す。
【数22】
【0042】
図10(d)は周波数400Hzのノイズについて、Predを測定した結果である。横軸は制御フィルタの更新回数を示す。
一番上がNLMSの、真ん中がFixed-KIRの、一番下がNLMS w/ Fixed-KIRの結果を示す。Fixed-KIRとNLMS w/ Fixed-KIRは、NLMSよりも音圧抑制量が大きい。
また、グラフ(d)左端の破線楕円内の部分を見ると、NLMS w/ Fixed-KIRは、最初のフィルタではFixed-KIRと同等の音圧抑制量だが、フィルタの適応が進むにつれ、Fixed-KIRよりも高い音圧抑制量を達成していることが分かる。
【0043】
図10(a)(b)(c)は、制御フィルタを10,000回更新した後の、各手法による音圧分布の二次元図である。真ん中の円は剛体円106を表し、破線の円は制御対象領域103を表す。
NLMSの性能を示す図10(a)では、音圧抑制は誤差マイクの周囲に限られている。これに対し、実施例1,2の性能を示す図10(b)(c)では、制御対象領域全体に渡って音圧が抑制されていることが分かる。
【0044】
図11は、騒音周波数を100Hzから500Hzまで、10Hz刻みで変化させた場合の音圧抑制量(10,000回フィルタ更新後)を、手法ごとにプロットした結果である。
Fixed-KIRの性能はNLMSと同程度であったが、NLMS w/ Fixed-KIRは、全ての周波数に渡って最も高い音圧抑制性能を示した。
【0045】
以上が、実験により確認した、実施例の効果の説明である。
【0046】
[プログラム、記録媒体]
上述の各種の処理は、図12に示すコンピュータ2000の記録部2020に、上記方法の各ステップを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部2010、入力部2030、出力部2040、表示部2050などに動作させることで実施できる。
【0047】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0048】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0049】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0050】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
102 参照マイク
103 制御対象領域
104 スピーカ
105 誤差マイク
4 空間ANC装置
401 固定フィルタ計算部
402 参照信号取得部
403 二次音信号計算部
404 二次音出力部
405 周波数領域変換部
406 時間領域変換部
701 初期フィルタ計算部
705 誤差マイク信号取得部
706 適応フィルタ更新部
2000 コンピュータ
2010 制御部
2020 記録部
2030 入力部
2040 出力部
2050 表示部
図1
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