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特開2024-160625生体物質付着抑制能を有する限外ろ過膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160625
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】生体物質付着抑制能を有する限外ろ過膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/14 20060101AFI20241107BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20241107BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20241107BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241107BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20241107BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20241107BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20241107BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20241107BHJP
   B01D 71/72 20060101ALI20241107BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20241107BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B01D61/14 500
B01D65/08
B01D69/06
B01D69/00
B01D71/82
B01D71/26
B01D71/38
B01D71/40
B01D71/72
C12M3/06
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075839
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏之
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐揮
(72)【発明者】
【氏名】笹月 仁詞
(72)【発明者】
【氏名】内山 進
【テーマコード(参考)】
4B029
4D006
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB13
4B029CC01
4B029DG08
4B029HA06
4D006GA06
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006HA61
4D006JA25Z
4D006KA31
4D006KB20
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA10
4D006MA31
4D006MC11
4D006MC12
4D006MC16
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC35
4D006MC36
4D006MC37X
4D006MC39
4D006MC49
4D006MC54
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
4D006MC71
4D006NA46
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB12
4D006PB24
4D006PB52
4D006PB55
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、膜透過の阻害や試料損失といった問題の無い、生体物質付着抑制能に優れた限外ろ過膜を提供することである。
【解決手段】表面の少なくとも一部に生体物質付着抑制能を有するコーティング膜を含む、限外ろ過膜を提供する。好ましい態様では、該コーティング膜は(メタ)アクリル酸及びそのエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、エチレン、ビニルアルコール並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される繰り返し単位を含む共重合体又はその硬化物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に生体物質付着抑制能を有するコーティング膜を含む、限外ろ過膜。
【請求項2】
限外ろ過膜が平膜である、請求項1に記載の限外ろ過膜。
【請求項3】
限外ろ過がノーマルフローろ過である、請求項1に記載の限外ろ過膜。
【請求項4】
生体物質が、タンパク質、糖、脂質、ウイルス、核酸、細胞、細胞外小胞(EV)又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の限外ろ過膜。
【請求項5】
生体物質の分離、精製及び/又は濃縮用である、請求項1に記載の限外ろ過膜。
【請求項6】
コーティング膜が、(メタ)アクリル酸及びそのエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、エチレン、ビニルアルコール並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体又はその硬化物を含む、請求項1に記載の限外ろ過膜。
【請求項7】
コーティング膜が、(メタ)アクリル酸及びそのエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、エチレン、ビニルアルコール並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体の硬化物を含み、硬化が、アジド基、ジアゾ基、ジアジド基及びカルボジイミド基からなる群より選択される1種又は2種以上の架橋基を介して進行する、請求項6に記載の限外ろ過膜。
【請求項8】
請求項1に記載の限外ろ過膜を備える、遠心式限外ろ過フィルターユニット。
【請求項9】
請求項8に記載の遠心式限外ろ過フィルターユニットを用いた、生体物質の分離、精製及び/又は濃縮方法。
【請求項10】
限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に、生体物質付着抑制能を有するコーティング膜形成用組成物を塗布する工程と、塗布物を乾燥する工程とを含む、生体物質付着抑制能を有する限外ろ過膜の製造方法。
【請求項11】
コーティング膜形成用組成物が、(メタ)アクリル酸及びそのエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、エチレン、ビニルアルコール並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
コーティング膜形成用組成物が、アジド基、ジアゾ基、ジアジド基及びカルボジイミド基からなる群より選択される1種又は2種以上の架橋基を含む架橋成分を含む、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質付着抑制能を有するコーティング膜を備える限外ろ過膜、該限外ろ過膜を備える、遠心式限外ろ過フィルターユニット、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的試料の脱塩、分離、濃縮及び/又は精製や、分析試料の前処理のため、多孔質ろ過膜を用いた精密ろ過、限外ろ過、逆浸透などの技術が知られている。特に、ウイルス濃縮、タンパク質濃縮、核酸精製などを目的に、例えば公称分画分子量(NMWL)が1kDa~1000kDaの多孔質ろ過膜を用いた限外ろ過、特に遠心機を利用した限外ろ過が広く用いられている。また遠心機を利用した限外ろ過に使用するために、限外ろ過膜を備えるフィルターユニットとろ液を捕集するためのチューブの二層構造からなる遠心式限外ろ過フィルターユニットなども市販されている。
【0003】
しかしながら、生物学的試料のろ過を目的とする多孔質ろ過膜では、生物学的試料に含まれるタンパク質、多糖類、微生物、微粒子などがろ過膜に吸着することで、膜の透過を阻害したり、目的とする試料成分(例えば、タンパク質やウイルス)の吸着による損失により回収率を低下させたりするといった問題があった。
【0004】
このような問題を回避するために、膜の素材として再生セルロースのような親水性素材が採用されている。あるいは、疎水性の膜素材を表面処理すること、例えば、多孔質膜の表面にホスホリルコリン基を有する単量体を構成成分として含む共重合体(例えば、MPC共重合体)を吸着させたり、取り込んだりすること(例えば、特許文献1、2参照)、多孔質膜に架橋成分により機能性ポリマーを導入することにより表面修飾すること(例えば、特許文献3参照)などが報告されている。しかしながら、限外ろ過の使用に適し、十分な生体物質付着抑制能を有する膜素材やその表面処理は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-239636号公報
【特許文献2】特開2016-77923号公報
【特許文献3】国際公開第2017/170210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、膜透過の阻害や試料損失といった問題の無い、生体物質付着抑制能に優れた限外ろ過膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発者らは鋭意検討した結果、限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に、生体物質付着抑制能を有するコーティング膜を付与することにより、膜透過の阻害や試料損失といった問題の無い、生体物質付着抑制能に優れた限外ろ過膜を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1] 表面の少なくとも一部に生体物質付着抑制能を有するコーティング膜を含む、限外ろ過膜。
[2] 限外ろ過膜が平膜である、[1]に記載の限外ろ過膜。
[3] 限外ろ過がノーマルフローろ過である、[1]に記載の限外ろ過膜。
[4] 生体物質が、タンパク質、糖、脂質、ウイルス、核酸、細胞、細胞外小胞(EV)又はそれらの組み合わせである、[1]に記載の限外ろ過膜。
[5] 生体物質の分離、精製及び/又は濃縮用である、[1]に記載の限外ろ過膜。
[6] コーティング膜が、(メタ)アクリル酸及びそのエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、エチレン、ビニルアルコール並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体又はその硬化物を含む、[1]に記載の限外ろ過膜。
[7] コーティング膜が、(メタ)アクリル酸及びそのエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、エチレン、ビニルアルコール並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体の硬化物を含み、硬化が、アジド基、ジアゾ基、ジアジド基及びカルボジイミド基からなる群より選択される1種又は2種以上の架橋基を介して進行する、[6]に記載の限外ろ過膜。
[8] [1]に記載の限外ろ過膜を備える、遠心式限外ろ過フィルターユニット。
[9] [8]に記載の遠心式限外ろ過フィルターユニットを用いた、生体物質の分離、精製及び/又は濃縮方法。
[10] 限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に、生体物質付着抑制能を有するコーティング膜形成用組成物を塗布する工程と、塗布物を乾燥する工程とを含む、生体物質付着抑制能を有する限外ろ過膜の製造方法。
[11] コーティング膜形成用組成物が、(メタ)アクリル酸及びそのエステル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、エチレン、ビニルアルコール並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される繰り返し単位を含む重合体を含む、[10]に記載の製造方法。
[12] コーティング膜形成用組成物が、アジド基、ジアゾ基、ジアジド基及びカルボジイミド基からなる群より選択される1種又は2種以上の架橋基を含む架橋成分を含む、[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の限外ろ過膜は、生体物質付着抑制能に優れることから、膜透過の阻害や試料損失といった問題を低減できる。また本発明の限外ろ過膜は、市販の限外ろ過膜に簡便な操作でコーティング膜を付与することにより入手できる。さらに得られた限外ろ過膜は、コーティング膜の膜素材への固着性に優れることから、遠心機を利用した限外ろ過で用いても、遠心力によるコーティング膜の剥がれなどが観られない。したがって、本発明の限外ろ過膜は遠心機を利用した限外ろ過への使用に適している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪用語の説明≫
本発明において用いられる用語は、他に特に断りのない限り、以下の定義を有する。
【0011】
本発明において、「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0012】
本発明において、「アルキル基」は、直鎖若しくは分岐の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基又は1-エチルプロピル基が挙げられる。「炭素原子数1乃至6の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例に加え、ヘキシル基又はそれらの異性体が挙げられる。同様に「炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例に加え、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基又はオクタデシル基、あるいはそれらの異性体が挙げられる。
【0013】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味するか、あるいは1以上の上記ハロゲン原子で置換された上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例は、上記のとおりである。一方「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、例としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロブチル基、又はペルフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0014】
本発明において、「エステル結合」は、-C(=O)-O-若しくは-O-C(=O)-を意味し、「アミド結合」は、-NHC(=O)-若しくは-C(=O)NH-を意味し、エーテル結合は、-O-を意味し、「アセタール結合」は、下記:
【化1】

を意味する。
【0015】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基、あるいは1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を意味する。ここで、「アルキレン基」は、上記アルキル基に対応する2価の有機基を意味する。「炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチル-テトラメチレン基、2-メチル-テトラメチレン基、1,1-ジメチル-トリメチレン基、1,2-ジメチル-トリメチレン基、2,2-ジメチル-トリメチレン基、1-エチル-トリメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基等が挙げられ、これらの中で、エチレン基、プロピレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基が好ましく、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基がより好ましく、特にエチレン基又はプロピレン基が好ましい。「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、上記アルキレン基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、特に、エチレン基又はプロピレン基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置き換えられているものが好ましい。
【0016】
本発明において、「炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基」は、炭素原子数3乃至10の、単環式若しくは多環式の、飽和若しくは部分不飽和の、脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。この中でも、炭素原子数3乃至10の、単環式若しくは二環式の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基又はシクロヘキシル基等の炭素原子数3乃至10のシクロアルキル基、あるいはビシクロ[3.2.1]オクチル基、ボルニル基、イソボルニル基等の炭素原子数4乃至10のビシクロアルキル基が挙げられる。
【0017】
本発明において、「炭素原子数6乃至10のアリール基」は、炭素原子数6乃至10の、単環式若しくは多環式の、芳香族炭化水素の1価の基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基又はアントリル基等が挙げられる。「炭素原子数6乃至10のアリール基」は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0018】
本発明において、「炭素原子数7乃至14のアラルキル基」は、基-R-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1乃至5のアルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6乃至10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、ベンジル基、フェネチル基、又はα-メチルベンジル基等が挙げられる。「炭素原子数7乃至14のアラルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0019】
本発明において、「炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基」は、基-R-O-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1乃至5のアルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6乃至10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、又はフェノキシプロピル基等が挙げられる。「炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0020】
本発明において、「ハロゲン化物イオン」とは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを意味する。
本発明において、「無機酸イオン」とは、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン又はホウ酸イオンを意味する。
上記Anとして好ましいのは、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンであり、特に好ましいのはハロゲン化物イオンである。
【0021】
本発明において、(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方を意味する。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸を意味する。
【0022】
本発明において、「アニオン性モノマー」とは、陰イオン性基を有するモノマーを意味し、水中で解離して陰イオン性になり得る基を有するものも含む。同様に、本発明において、「カチオン性モノマー」とは、陽イオン性基を有するモノマーを意味し、水中で解離して陽イオン性になり得る基を有するものも含む。
【0023】
≪本発明の説明≫
本発明は、表面の少なくとも一部に生体物質付着抑制能を有するコーティング膜を含む、限外ろ過膜に関する。限外ろ過は、通常、ウイルス濃縮、タンパク質濃縮、核酸精製などを目的に、例えば公称分画分子量(NMWL)が1~1000kDaの多孔質ろ過膜を用いて実施されるろ過操作を指し、限外ろ過膜は、限外ろ過に供される膜を意味する。
【0024】
限外ろ過膜の形態としては、中空糸膜、スパイラル膜、チューブラー膜又は平膜が知られているが、本発明の限外ろ過膜の好ましい実施形態としては、平膜が挙げられる。
【0025】
また限外ろ過膜の別の形態としては、膜をケーシング(容器)に収納するタイプ(ケーシング型)と膜をケーシングに収納しないタイプ(非ケーシング型)に大別されるが、本発明の限外ろ過膜の好ましい実施形態としては、ケーシング型が挙げられる。ケーシング型の例としては、遠心機を利用した限外ろ過に使用するための、限外ろ過膜を備えるフィルターユニットとろ液を捕集するためのチューブの二層構造からなる遠心式限外ろ過フィルターユニットが挙げられる。
【0026】
また限外ろ過膜を用いる限外ろ過の使用形態は、試料の液流が膜表面に対して垂直方向に送られるノーマルフローろ過(垂直方向ろ過)と、試料の液流が膜表面に沿って水平方向に送られるクロスフローろ過(水平方向ろ過)に大別されるが、本発明の限外ろ過膜を用いる限外ろ過の好ましい使用形態としては、ノーマルフローろ過(垂直方向ろ過)が挙げられる。
【0027】
本発明のコーティング膜付与前の限外ろ過膜(未コーティングの限外ろ過膜)の材質としては、限外ろ過膜として使用できる公知の材質であれば特に限定はないが、天然樹脂若しくはその誘導体、又は合成樹脂いずれでもよい。天然樹脂若しくはその誘導体としては、セルロース、再生セルロース、酢酸セルロース(CA)、ニトロセルロース(NC)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、テフロン(登録商標)又はその親水化材料が好ましく用いられる。
【0028】
限外ろ過膜の材質は1種類であっても2種類以上の組み合わせであってもよい。これらの材質の中において、再生セルロース、酢酸セルロース(CA)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テフロン(登録商標)又はその親水化材料単独、又はこれらから選ばれる組み合わせであることが好ましく、再生セルロース、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はその親水化材料であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の限外ろ過膜が備えるコーティング膜は、生体物質付着抑制能を有する。
【0030】
前記コーティング膜は、限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に形成されればよいが、ろ過対象の生体物質を含む試料と接触し得る面の全面にわたってコーティング膜が形成されていることが好ましく、限外ろ過膜表面全面にわたってコーティング膜が形成されていることがより好ましい。
【0031】
本発明において、生体物質としては、タンパク質、糖、脂質、ウイルス、核酸、細胞、細胞外小胞(EV)又はそれらの組み合わせ、あるいはそれらを含む生体組織及び体液が挙げられる。
上記タンパク質としてはフィブリノゲン、牛血清アルブミン(BSA)、ヒトアルブミン、各種グロブリン、β-リポタンパク質、各種抗体(IgG、IgA、IgM)、ペルオキシダーゼ、各種補体、各種レクチン、フィブロネクチン、リゾチーム、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、血清γ-グロブリン、ペプシン、卵白アルブミン、インシュリン、ヒストン、リボヌクレアーゼ、コラーゲン、シトクロームc、
上記糖としてはグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ヘパリン、ヒアルロン酸、
上記核酸としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、
上記細胞としては線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、及び各種細胞株(例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero)等が挙げられる。
【0032】
また脂質は、中性脂肪などの単純脂質、リン脂質やリポたんぱく質などの複合脂質、脂肪酸やコレステロールなどを含むステロイドなどの誘導脂質に大別されるが、いずれであってもよく、例えば、コレステロール;ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK等の脂溶性ビタミン;脂肪酸;アシルカルニチン、アシルCoA等の中間代謝物;糖脂質;グリセリド;それらの誘導体等が挙げられる。
【0033】
ウイルスは、エンベロープ型と非エンベロープ型に大別されるが、いずれであってもよい。エンベロープ型ウイルスとしては、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科、フラビウイルス科、トガウイルス科、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、ブニヤウイルス科、フィロウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ヘパドナウイルス科、レトロウイルス科から選択され、具体例としては、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERSコロナウイルス、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、狂犬病ウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、成人T細胞白血病ウイルス、センダイウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス等が挙げられる。非エンベロープ型ウイルスとしては、レオウイルス科、カリシウイルス科、ピコルナウイルス科、アストロウイルス科、へペウイルス科、パルボウイルス科、ポリオーマウイルス科、パピローマウイルス科、アデノウイルス科から選択され、具体例としてはレオウイルス、ロタウイルス、コロラドダニ熱ウイルス、ノーウォークウイルス、サッポロウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エンテロウイルス、ライノウイルス、A型肝炎ウイルス、アストロウイルス、E型肝炎ウイルス、B19ウイルス、JCウイルス、ヒロパビローマウイルス、ネコカリシウイルス、ヒトアデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス等が挙げられる。
【0034】
また本発明における生体物質は、生体に投与され、作用し得る物質であってもよい。そのような物質の例としては、ペプチド(環状ペプチド)、低分子化合物等の低分子医薬品や、酵素、血液凝固線溶系因子、血清タンパク質、ホルモン、ワクチン、インターフェロン類、エリスロポエチン類、サイトカイン類、毒素類、抗体、抗体薬物複合体、融合タンパク質等のバイオ医薬品が挙げられる。
【0035】
生体物質の付着抑制能を有するとは、例えば、
生体物質がタンパク質の場合、国際公開第2016/093293号の実施例に記載した方法で行うQCM-D測定にて、コーティング膜無しと比較した場合の相対単位面積当たりの質量(%)((実施例の単位面積当たりの質量(ng/cm)/(比較例の単位面積当たりの質量(ng/cm)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味し;
生体物質が細胞の場合、国際公開第2016/093293号の実施例に記載した方法で行う蛍光顕微鏡によるコーティング膜無しと比較した場合の相対吸光度(WST O.D.450nm)(%)((実施例の吸光度(WST O.D.450nm))/(比較例の吸光度(WST O.D.450nm)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味する。
【0036】
本発明の限外ろ過膜は、好ましくは生体物質の分離、精製及び/又は濃縮用である。
【0037】
本発明に係る生体物質付着抑制能を有するコーティング膜は、エチレン性不飽和モノマー、又は多糖類若しくはその誘導体が重合した重合体又はその硬化物を含んでいてもよい。エチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル;ビニルピロリドン;エチレン;ビニルアルコール;並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。多糖類又はその誘導体の例としては、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)等のセルロース系高分子、デンプン、デキストラン、カードランを挙げることができる。
【0038】
親水性の官能性誘導体とは、親水性の官能基又は構造を有するエチレン性不飽和モノマーを指す。親水性の官能性基又は構造の例としては、水酸基;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;及びスルフィニル基等が挙げられる。
【0039】
ベタイン構造は、第4級アンモニウム型の陽イオン構造と、酸性の陰イオン構造との両性中心を持つ化合物の一価又は二価の基を意味し、例えば、ホスホリルコリン基:
【化2】

を挙げることができる。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等を挙げることができる。
【0040】
アミド構造は、下記式:
【化3】

[ここで、R16、R17及びR18は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等、具体的には、メチル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマーは、例えば、特開2010-169604号公報等に開示されている。
【0041】
アルキレングリコール残基は、アルキレングリコール(HO-Alk-OH;ここでAlkは、炭素原子数1乃至10のアルキレン基である)の片側端末又は両端末の水酸基が他の化合物と縮合反応した後に残るアルキレンオキシ基(-Alk-O-)を意味し、アルキレンオキシ単位が繰り返されるポリ(アルキレンオキシ)基も包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマーは、例えば、特開2008-533489号公報等に開示されている。
【0042】
アミノ基は、式:-NH、-NHR19又は-NR2021[ここで、R19、R20及びR21は、互いに独立して、有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]で表される基を意味する。本発明におけるアミノ基には、4級化又は塩化されたアミノ基を包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド等を挙げることができる。
【0043】
スルフィニル基は、下記式:
【化4】

[ここで、R22は、有機基(例えば、炭素原子数1乃至10の有機基、好ましくは、1個以上のヒドロキシ基を有する炭素原子数1乃至10のアルキル基等)である]
で表される基を意味する。スルフィニル基の導入方法として、特開2014-48278号公報等に開示された方法を挙げることができる。
【0044】
また本発明に係る生体物質付着抑制能を有するコーティング膜が含む重合体として、国際公開第2014/196650号に記載されている共重合体が使用できる。該共重合体は、エチレン性不飽和モノマーの重合体であって、下記式(a)で表される有機基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される有機基を含む繰り返し単位とを含む。
【化5】

[式中、
a11、Ua12、Ub11、Ub12及びUb13は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]
国際公開第2014/196650号及び国際公開第2016/093293号の全開示は、参照として本願に援用される。
【0045】
また本発明に係る生体物質付着抑制能を有するコーティング膜を含む重合体として、特開2003-292477号公報、国際公開第2013/153873号等に記載されているポリ(ビニルアルコール/酢酸ビニル)共重合体のアセタール化物が使用できる。該ポリ(ビニルアルコール/酢酸ビニル)共重合体のアセタール化物は、ビニルアルコールで形成される繰り返し単位が少なくとも二つ連続した構造を有する共重合体に、少なくとも1個のアジド基を有する感光性化合物をアセタール結合でペンダントさせてなる感光性樹脂である。アセタール化に供される、少なくとも1個のアジド基を有する感光性化合物の例としては、2-(3-(4-アジドフェニル)プロプ-2-エノイルアミノ)-N-(4,4-ジメトキシブチル)-3-(3-ピリジル)プロプ-2-エンアミド]、3-[4-アジドフェニル]-N-(3-ホルミル)プロピル-2-[モルホリノメチルフェニルカルボニルアミノ]プロペンアミド等が挙げられる。
特開2003-292477号公報及び国際公開第2013/153873号の全開示は、参照として本願に援用される。
【0046】
本発明に係る生体物質付着抑制能を有するコーティング膜は、エチレン性不飽和モノマー、又は多糖類若しくはその誘導体が重合した重合体の硬化物を含んでいてもよい。硬化は、例えば、アジド基、ジアゾ基、ジアジド基及びカルボジイミド基からなる群より選択される1種又は2種以上の架橋基を介して進行するのが好ましい。そのような架橋基は、重合体に導入されたものであっても、又は重合体に配合された架橋成分が有するものであってもよい。また架橋基の種類に応じて、光照射や加熱により硬化が進行し、硬化物が形成される。
【0047】
本発明の生体物質付着抑制能を有する限外ろ過膜の製造方法は、(未コーティングの)限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に、生体物質付着抑制能を有するコーティング膜形成用組成物を塗布する工程と、塗布物を乾燥する工程とを含む。
【0048】
以下に、本発明に係るコーティング膜形成用組成物と、それを用いた本発明の生体物質付着抑制能を有する限外ろ過膜の製造方法の一実施態様を、(1)式(A)で表されるアニオン性モノマー、式(B)で表されるカチオン性モノマー、式(C)で表される疎水性モノマー、及び式(D)で表される二官能性モノマーを含むモノマー混合物であって、前記モノマー混合物に含まれる総モノマーに対する、式(A)で表されるアニオン性モノマー及び式(B)で表されるカチオン性モノマーの合計の割合が40モル%以上であるモノマー混合物の重合体、並びに(2)式(E)で表される構造を含むポリカルボジイミドを含むコーティング膜形成用組成物を例に説明する。
【0049】
前記モノマー混合物は、式(A):
【化6】

(式中、
、Ua1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;
mは、1乃至10の整数を表す)
で表されるアニオン性モノマーを含む。2種以上の式(A)で表されるアニオン性モノマーを含んでもよい。
【0050】
式(A)で表されるアニオン性モノマーの一実施態様において、Tとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。Ua1及びUa2としては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。Qとしては、単結合又はエステル結合が好ましく、エステル結合がより好ましい。Rとしては、塩素原子で置換されていてもよいメチレン基、エチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基又はプロピレン基がより好ましい。mは、2乃至8が好ましく、3乃至6がより好ましい。
【0051】
上記式(A)のモノマーの具体例としては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシメチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、この中でもアシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタアクリレート及びアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートが好ましく用いられる。
【0052】
アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート及びアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートの構造式は、それぞれ下記式(A-1)~式(A-3)で表される。
【0053】
【化7】
【0054】
前記モノマー混合物は、式(B):
【化8】

(式中、
、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
で表されるカチオン性モノマーを含む。2種以上の式(B)で表されるカチオン性モノマーを含んでもよい。
【0055】
式(B)で表されるカチオン性モノマーの一実施態様において、Tとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。Ub1、Ub2及びUb3としては、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基又はt-ブチル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。Qとしては、単結合又はエステル結合が好ましく、エステル結合がより好ましい。Rとしては、塩素原子で置換されていてもよいメチレン基、エチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基又はプロピレン基がより好ましい。Anとしては、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオンがより好ましい。
【0056】
上記式(B)のモノマーの具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクロイルコリンクロリド等が挙げられるが、この中でもジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクロイルコリンクロリド又は2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0057】
ジメチルアミノエチルアクリレート(=アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル)、メタクロイルコリンクロリド及び2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(t-ブチルアミノ)エチルの構造式は、それぞれ下記式(B-1)~式(B-5)で表される。
【0058】
【化9】
【0059】
前記モノマー混合物は、式(C):
【化10】

[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
は、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至14のアラルキル基又は炭素原子数7乃至14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表す]
で表される疎水性モノマーを含む。2種以上の式(C)で表される疎水性モノマーを含んでもよい。
【0060】
式(C)で表される疎水性モノマーの一実施態様において、Tとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。Qとしては、単結合又はエステル結合が好ましく、エステル結合がより好ましい。Rとしては、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基又は炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基が好ましく、炭素原子数1乃至6の直鎖若しくは分岐アルキル基又は炭素原子数3乃至10のシクロアルキル基がより好ましい。
【0061】
上記式(C)のモノマーの具体例としては、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の直鎖若しくは分岐アルキルエステル類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の環状アルキルエステル類;ベンジル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアラルキルエステル類;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系モノマー;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマーが挙げられる。この中でもブチル(メタ)アクリレート又はシクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0062】
ブチルメタクリレート(=メタクリル酸ブチル)及びシクロヘキシルメタクリレート(=メタクリル酸シクロヘキシル)の構造式は、それぞれ下記式(C-1)及び式(C-2)で表される。
【0063】
【化11】
【0064】
前記モノマー混合物は、式(D):
【化12】

(式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至6の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;
nは、1乃至10の整数を表す)
で表される二官能性モノマーを含む。2種以上の式(D)で表される二官能性モノマーを含んでもよい。
【0065】
式(D)で表される二官能性モノマーの一実施態様において、Tとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。Rとしては、塩素原子で置換されていてもよいメチレン基、エチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基又はプロピレン基がより好ましい。nは、1乃至8が好ましい。
【0066】
上記式(D)の二官能性モノマーの具体例としては、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(トリメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0067】
例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレートの構造式は、それぞれ下記式(D-1)~式(D-3)で表される。
【0068】
【化13】
【0069】
前記モノマー混合物において、総モノマーに対する、前記式(A)で表されるアニオン性モノマー及び前記式(B)で表されるカチオン性モノマーの合計の割合は、40モル%以上であり、40モル%以上70モル%以下であるのが好ましく、40モル%以上60モル%以下であるのがより好ましく、40モル%以上55モル%以下であるのが特に好ましい。また前記式(A)で表されるアニオン性モノマーと前記式(B)で表されるカチオン性モノマーの比(モル比)に特に限定はないが、1:2乃至2:1の範囲が好ましく、1:1.5乃至1.5:1の範囲がより好ましく、1:1.2乃至1.2:1の範囲が特に好ましい。
【0070】
前記モノマー混合物において、総モノマーに対する、前記式(D)で表される二官能性モノマーの割合は、30モル%未満であるのが好ましく、5モル%以上30モル%未満であるのが好ましく、10モル%以上30モル%未満であるのがより好ましく、15モル%以上30モル%未満であるのが特に好ましい。特に、本発明の限外ろ過膜に付与されるコーティング膜において、架橋剤による後架橋が期待できる場合、モノマー混合物における二官能性モノマーの割合を低減することもできる。
【0071】
前記モノマー混合物において、総モノマーに対する、前記式(C)で表される疎水性モノマーの割合は、総モノマーに対して上記式(A)、(B)及び(D)のモノマーの割合を差し引いた残部全てでも良いし、上記式(A)、(B)及び(D)と下記の任意のモノマー成分との合計割合を差し引いた残部であってもよいが、例えば1モル%以上55モル%以下であり、3モル%以上50モル%以下であるのが好ましく、5モル%以上乃至50モル%であるのがより好ましい。
【0072】
前記コーティング膜形成用組成物に含まれる重合体の重量分子量は数千から数百万程度であればよく、5,000乃至5,000,000であるのが好ましく、10,000乃至2,000,000であるのがさらに好ましい。また、重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよいが、ランダム共重合体が好ましい。
【0073】
前記コーティング膜形成用組成物に含まれる重合体は、上記式(A)乃至(D)で表されるモノマー(及び場合により任意のモノマー成分)を含む、モノマー混合物を重合することにより得られる。重合は、それ自体公知の方法(例えば特開2014-162865号公報、国際公開第2020/040247号に記載の方法)で実施できる。例えば、一般的なアクリルポリマー又はメタクリルポリマー等の合成方法であるラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの方法により合成することができる。その形態は溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合など種々の方法が可能である。
【0074】
重合は、例えば、上記式(A)乃至(D)で表されるモノマーを溶媒中で反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0075】
反応条件は各種原料(モノマー、溶媒、開始剤等)を加えた反応容器をオイルバス等で50℃乃至200℃に加熱し、1時間乃至48時間、より好ましくは80℃乃至150℃、5時間乃至30時間攪拌を行うことで、重合反応が進み本発明に係る共重合体が得られる。反応雰囲気は窒素雰囲気が好ましい。
【0076】
重合反応における溶媒としては、水、リン酸緩衝液又はエタノール等のアルコール又はこれらを組み合わせた混合溶媒でもよいが、水又はエタノールを含むことが望ましい。さらには水又はエタノールを10質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを50質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを80質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを90質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。好ましくは水とエタノールの合計が100質量%である。
【0077】
反応手順としては、全原料を室温の反応溶媒に全て入れてから、上記の温度に加熱して重合させてもよいし、あらかじめ加温した溶媒中に、原料の混合物全部又は一部を少々ずつ滴下してもよい。例えば、式(A)で表されるアニオン性モノマーは会合し易いモノマーのため、反応系中に滴下されたとき、速やかに分散できるように反応溶媒に少量ずつ滴下してもよい。この場合、反応溶媒はモノマー及びポリマーの溶解性を上げるために加温(例えば40℃乃至100℃)してもよい。
【0078】
重合反応を効率的に進めるためには、重合開始剤、特に、ラジカル重合開始剤を使用することが望ましい。ラジカル重合開始剤の例としては、ジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物(VA-057、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)(VAm-110、富士フイルム和光純薬(株)製)などのアゾ重合開始剤が挙げられる。
【0079】
重合開始剤の添加量としては、重合に用いられるモノマーの合計重量に対し、0.05質量%~10質量%である。
【0080】
反応終了後に、得られた重合体を、公知の方法、例えば反応溶液に貧溶媒を添加することにより単離・精製してもよいが、反応溶液をそのまま共重合体含有溶液として、本発明のコーティング膜形成用組成物の調製に用いてもよい。
【0081】
前記ポリカルボジイミドは、下記式(E):
【化14】

で表される構造を含む。
【0082】
本発明の一実施態様において、重合体とポリカルボジイミドとの反応は、以下の式に沿って進むと考えられる。この反応式に示すように、カルボジイミドがリン酸基同士の脱水縮合を促進し、重合体間にピロホスファート(pyrophosphate)構造が形成されることにより、重合体の架橋反応(硬化)が進むと考えられる。
【0083】
【化15】
【0084】
前記ポリカルボジイミドは、第一級イソシアネート基を少なくとも1つ有する脂肪族ジイソシアネート化合物由来のポリカルボジイミド化合物であってよく、
前記ポリカルボジイミド化合物は、すべての末端に、イソシアネート基と反応する官能基を有する有機化合物で封止された構造を有していてもよい。
【0085】
例えば、前記第一級イソシアネート基を少なくとも1つ有する脂肪族ジイソシアネート化合物が、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の鎖式の脂肪族イソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアナート等の環式の脂肪族ジイソシアネート化合物、及びキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0086】
前記ポリカルボジイミドは、例えば、前記第一級イソシアネート基を少なくとも1つ有する脂肪族ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応により得られる、分子内に少なくとも2個の前記式(E)で表されるカルボジイミド基を有する、イソシアネート末端ポリカルボジイミドであってよく、あるいはその末端を、イソシアネート基と反応する官能基を有する有機化合物で封止した構造を有するポリカルボジイミドであってよい。
【0087】
前記有機化合物が有する前記官能基が、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、及びカルボキシ基から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0088】
前記有機化合物の例としては、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ドデシルアルコール等のヒドロキシ基を有する有機化合物;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アダマンタンアミン、アリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシメチレンステアリルアミン、アニリン、ジフェニルアミン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、2,2-ジフルオロアミン、フルオロベンジルアミン、トリフルオロエチルアミン、[[4-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル]メチル]アミンやそれらの誘導体等のアミノ基を有する有機化合物;ブチルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、イソシアン酸1-アダマンチル、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、アクリル酸2-イソシアナトエチル、イソシアン酸ベンジル、2-フェニルエチルイソシアナートやそれらの誘導体等のイソシアネート基を有する有機化合物;1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、エチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルラウリルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(ペルフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパンやそれらの誘導体等のエポキシ基を有する有機化合物;酢酸、エタン酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シクロヘキサンカルボン酸、アダマンタン酢酸、フェニル酢酸、安息香酸、ウンデセン酸やそれらの誘導体等のカルボキシ基を有する有機化合物等が挙げられる。
【0089】
前記有機化合物が、前記官能基以外に、さらに親水性基を有してよい。
【0090】
前記ポリカルボジイミドが、親水性基を含むことが好ましい。
【0091】
前記親水性基が、下記式(F):
【化16】

(式中、
は、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、
は、水素原子又はメチル基を表すが、Rが複数存在する場合、該Rは互いに同一でも異なっていてもよく、oは、1~30の整数を表す)
で表されることが好ましい。
【0092】
イソシアネート基と反応する官能基と共に、親水性基、特に上記式(F)で表される親水性基を有する有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(MPEG)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(MTEG)等が挙げられ、これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような有機化合物によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドの末端を封止することにより、上記式(F)で表される親水性基が導入されたポリカルボジイミドを得ることができる。
【0093】
前記ポリカルボジイミドとしては、国際公開第2018/194102号に記載のポリカルボジイミド化合物を使用することが出来る。その他本発明のポリカルボジイミド化合物の詳細については、国際公開第2018/194102号に記載の内容に準ずる。
【0094】
前記ポリカルボジイミドは、市販品を使用してよい。市販品の商品名としては、例えば「カルボジライトV-02」、「カルボジライトV-02-L2」、「カルボジライトSV-02」、「カルボジライトV-04」、「カルボジライトV-10」、「カルボジライトE-02」、「カルボジライトE-05」(いずれも日清紡ケミカル(株)製、商品名)を挙げることができる。
【0095】
本発明の一実施態様において、コーティング膜形成用組成物は、上述の重合体及びポリカルボジイミドを混合することにより得られる。重合体に対するポリカルボジイミド比は、例えば、重合体100重量部に対して、1乃至30重量部の範囲であり、1乃至20重量部の範囲が好ましく、3乃至20重量部の範囲がより好ましく、5乃至20重量部の範囲が特に好ましい。なお、本発明に係る重合体が二官能性モノマーを含む場合、コーティング膜形成用組成物における重合体に対するポリカルボジイミド比は低減することもできる。
【0096】
前記コーティング膜形成用組成物は、上述の重合体及びポリカルボジイミドに加えて溶媒を含む。溶媒は、共重合体の反応溶液由来のものであってもよく、別に添加してもよい。
【0097】
前記コーティング膜形成用組成物に含まれる溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコールが挙げられる。アルコールとしては、炭素数2乃至6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(=t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよいが、共重合体の溶解の観点から、水、PBS、エタノール及びプロパノールから選ばれるのが好ましい。
【0098】
前記コーティング膜形成用組成物中の固形分の濃度としては、均一にコーティング膜を形成させるために、0.01乃至50質量%が望ましい。
【0099】
さらに前記コーティング膜形成用組成物は、上述の重合体及びポリカルボジイミドと溶媒の他に、必要に応じて得られるコーティング膜の性能を損ねない範囲で他の物質を添加することもできる。他の物質としては、防腐剤、界面活性剤、基材との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0100】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の共重合体のイオンバランスを調節するために、本発明のコーティング膜を得る際には、さらにコーティング膜形成用組成物中のpHを予め調整する工程を含んでいてもよい。pH調整は、例えば上記共重合体と溶媒を含む組成物にpH調整剤を添加し、該組成物のpHを3.0~13.5、好ましくは3.5~8.5、さらに好ましくは3.5~5.5とするか、あるいは好ましくは8.5~13.5、さらに好ましくは10.0~13.5とすることにより実施してもよい。使用しうるpH調整剤の種類及びその量は、上記共重合体の濃度や、そのアニオンとカチオンの存在比等に応じて適宜選択される。
【0101】
pH調整剤の例としては、アンモニア、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、ピリジン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の有機アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;塩化カリウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸、リン酸、塩酸、炭酸等の無機酸又はそのアルカリ金属塩;コリン等の4級アンモニウムカチオン、あるいはこれらの混合物(例えば、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液)を挙げることができる。これらの中でも、アンモニア、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、コリン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが好ましく、特にアンモニア、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム及びコリンが好ましい。
【0102】
本発明のコーティング膜形成用組成物の別の実施態様は、式(A)で表されるアニオン性モノマー、式(B)で表されるカチオン性モノマー、及び式(C)で表される疎水性モノマーを含むモノマー混合物であって、前記モノマー混合物に含まれる総モノマーに対する、式(A)で表されるアニオン性モノマー及び式(B)で表されるカチオン性モノマーの合計の割合が40モル%以上であるモノマー混合物の重合体、並びに式(E)で表される構造を含むポリカルボジイミドを含むものである。
上述の実施態様における式(A)乃至(C)で表されるモノマー及びその重合体、式(E)で表される構造を含むポリカルボジイミド、並びにコーティング膜形成用組成物に関する説明及び好ましい態様等の記載は、式(D)で表される二官能性モノマーに関するものを除き、別の実施態様に適用される。
【0103】
本発明のコーティング膜形成用組成物のさらに別の実施態様は、上述の重合体のうち、式(A)で表されるアニオン性モノマー、式(B)で表されるカチオン性モノマー、式(C)で表される疎水性モノマー、及び式(D)で表される二官能性モノマーを含むモノマー混合物であって、前記モノマー混合物に含まれる総モノマーに対する、式(A)で表されるアニオン性モノマー及び式(B)で表されるカチオン性モノマーの合計の割合が40モル%以上であるモノマー混合物の重合体を含み、ポリカルボジイミドを含まないものである。
上述の実施態様における式(A)乃至(D)で表されるモノマー及びその重合体、並びにコーティング膜形成用組成物に関する説明及び好ましい態様等の記載は、ポリカルボジイミドに関するものを除き、さらに別の実施態様に適用される。
【0104】
本発明の限外ろ過膜に付与されるコーティング膜の一実施態様は、上述のコーティング膜形成用組成物の塗布膜の硬化物である。硬化物は、本発明に係るコーティング膜形成用組成物を限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させることで形成できる。塗布方法としては特に制限は無く、通常のスピンコート、ディップコート、スプレーコート、溶媒キャスト法等の塗布法が用いられる。
【0105】
具体的な塗布方法としては、例えば(未コーティングの)限外ろ過膜を上記コーティング膜形成用組成物に浸漬する、コーティング膜形成用組成物を限外ろ過膜を備える容器に添加し、所定の時間静置する、又はコーティング膜形成用組成物を限外ろ過膜の表面に塗布する等の方法が用いられるが、一態様として限外ろ過膜を備えるフィルターユニットとろ液を捕集するためのチューブの二層構造からなる遠心式限外ろ過フィルターユニットの場合は、コーティング膜形成用組成物をフィルターユニットに添加し、所定の時間静置する方法によって行われる。添加は、例えば、フィルターユニットの全容積の0.5~1倍量のコーティング膜形成用組成物を、シリンジ等を用いて添加することによって行うことができる。静置は、限外ろ過膜の材質やコーティング膜形成用組成物の成分に応じて、時間や温度を適宜選択して実施されるが、例えば、1分から24時間、好ましくは5分から3時間、10~80℃で実施される。これにより、限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に、好ましくは全体にわたって、塗布膜を形成できる。
【0106】
次いで、塗布膜は乾燥工程に付され、硬化物が形成される。乾燥工程は、大気下又は真空下にて、温度-200℃以上200℃未満の範囲内で行なう。硬化物は、例えば室温(10℃~35℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速に硬化物コーティング膜を形成させるために、例えば40℃~100℃にて乾燥させてもよい。またフリーズドライ法による極低温~低温(-200℃~-30℃前後)での乾燥工程を用いてもよい。フリーズドライは真空凍結乾燥と呼ばれ、通常乾燥させたいものを冷媒で冷却し、真空状態にて溶媒を昇華により除く方法である。フリーズドライで用いられる一般的な冷媒は、ドライアイスとメタノールの混合媒体(-78℃)、液体窒素(-196℃)等が挙げられる。この乾燥工程により、重合体のアニオン性基同士が、例えば上記反応式で示したように、ポリカルボジイミド化合物を介して架橋反応を起こし、硬化物となることでコーティング膜が形成できる。
【0107】
本発明に係るコーティング膜は、上記工程により硬化物を形成後、さらに洗浄して得たものであってよい。
上記洗浄は、公知の方法で行ってよいが、流水洗浄又は超音波洗浄等が望ましい。洗浄溶媒としては、水、電解質を含む水溶液、アルコールが挙げられる。ここで、電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。アルコールは、炭素数2乃至6のアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。洗浄溶媒としては、水又は電解質を含む水溶液とアルコールとの混合物である、含水アルコール溶媒が好ましく、水とエタノールの混合物である、含水エタノール溶媒がより好ましい。洗浄溶媒は通常室温(例えば10~35℃)で用いられるが、例えば40℃~95℃の範囲に加温されたものでもよい。固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄してもコーティング膜は溶出せずに限外ろ過膜の表面に強固に固着したままであり、洗浄前後において膜厚変化が少ない、すなわちコーティング膜の溶媒への溶出が少ないという効果を奏する。
【0108】
本発明のコーティング膜の膜厚は、1~1000nmの範囲であり、好ましくは5~500nm、10~300nm、10~200nm、10~100nm、10~50nmの範囲である。
【0109】
本発明のコーティング膜の別の実施態様は、上記の実施態様で述べた、ポリカルボジイミドを含まないコーティング膜形成用組成物の塗布膜である。塗布膜は、本発明に係るコーティング膜形成用組成物を(未コーティングの)限外ろ過膜の表面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させることで形成できる。
上記の実施態様におけるコーティング膜の製造方法、特にコーティング膜形成用組成物の塗布方法や乾燥・洗浄工程に関する説明及び好ましい態様等の記載は、硬化に関するものを除き、別の実施態様に適用される。
【実施例0110】
以下、合成例、調製例、実施例、試験例等に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0111】
<合成例1>
アシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5;滴定により算出したリン酸基1個当たりの分子量:618)(製品名:PPM-5P、東邦化学工業(株)製)5.34g、メタクロイルコリンクロリド約80%水溶液(東京化成工業(株)製)2.24g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)製)1.90g、エチレングリコールジメタクリラート(東京化成工業(株)製)1.51g、エタノール(関東化学(株)製)47.7g、ジメチル-1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名:VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.106gを加えて均一に撹拌し混合液を調製した。一方で、エタノール(関東化学(株)製)47.7gを冷却管付きの4つ口フラスコに加えてフラスコ内を窒素置換し、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を1.5時間かけて滴下し、滴下後24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌した。反応終了後に冷却することで固形分約10.3質量%の共重合体含有溶液を得た。
【0112】
<調製例1>
上記合成例1で得られた共重合体含有溶液5.00gに、エタノール2.93g、純水11.76g、1Nアンモニア水5.08gを加えて十分に撹拌した。そこにカルボジライト V-02(日清紡ケミカル(株)製、固形分約40質量%)を純水で10倍希釈した溶液を0.62g加えて十分に撹拌することで、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは10.0であった。
【0113】
<実施例1>
調製例1で得られたコーティング膜形成用組成物を、限外濾過膜が搭載された遠心式フィルターユニット(アミコンウルトラ(Amicon Ultra)-0.5、ウルトラセル(Ultracel)-30メンブレン、30kDa、Merck社)に500μL添加した。室温で5分間静置後にコーティング膜形成用組成物を排液し、加えてフィルターユニットを2.0mLチューブに逆向きにセットして22℃、1000G、2分の条件で遠心することでコーティング膜形成用組成物を完全に排液し、室温で一晩乾燥させた。その後、70%エタノール水溶液でフィルターユニットを十分に洗浄し再度室温で一晩乾燥させることにより生体物質の吸着が抑えられる限外濾過膜を備えた遠心式フィルターユニットを得た。
【0114】
<実施例2>
調製例1で得られたコーティング膜形成用組成物を、限外濾過膜が搭載された遠心式フィルターユニット(アミコンウルトラ(Amicon Ultra)-0.5、ウルトラセル(Ultracel)-100メンブレン、100kDa、Merck社)に500μL添加した。室温で5分間静置後にコーティング膜形成用組成物を排液し、加えてフィルターユニットを2.0mLチューブに逆向きにセットして22℃、1000G、2分の条件で遠心することでコーティング膜形成用組成物を完全に排液し、室温で一晩乾燥させた。その後、70%エタノール水溶液でフィルターユニットを十分に洗浄し再度室温で一晩乾燥させることにより生体物質の吸着が抑えられる限外濾過膜を備えた遠心式フィルターユニットを得た。
【0115】
<試験例1>
Albumin from Bovine Serum(BSA),FITC conjugate(BSA-FITC、Thermo Fisher SCIENTIFIC社)をD-PBS(-)で1μg/mLに調整した。実施例1で得られた遠心式フィルターユニットに調製したBSA-FITC溶液を500μL添加した。22℃、14000G、10分の条件で遠心することでBSA-FITC溶液を濾過濃縮し、D-PBS(-)を加えて液量を500μLに戻した。また、対照としてコーティング処理を行っていない限外濾過膜が搭載された遠心式フィルターユニットにおいても同様の試験を行った。遠心前のBSA-FITC溶液の蛍光強度(Ex.494nm、Em.521nm)を100%として遠心後のBSA-FITC溶液の蛍光強度を測定することでBSA-FITCの回収率を算出した。表1はコーティング有無の遠心式フィルターユニットにおけるBSA-FITCの回収率を表しており、コーティングによりBSA-FITCの回収率が向上していることが確認された。
【0116】
【表1】
【0117】
<試験例2>
Lyophilized exosomes from HEK293 cell line,Human(sEV、コスモ・バイオ社)30μgをD-PBS(-)で1mLに溶解させ、さらにD-PBS(-)で10倍希釈した。実施例2で得られた遠心式フィルターユニットに得られた希釈sEV溶液を500μL添加した。8℃、12000rpm、10分の条件で遠心することでsEV溶液を濾過濃縮し、続いてD-PBS(-)を加えて液量を500μLに戻して8℃、12000rpm、10分の条件で遠心する操作を3回繰り返した後、D-PBS(-)を加えて液量を500μLに戻した。sEV溶液中の粒子数はD-PBS(-)で10倍希釈した後、ナノ粒子トラッキング解析装置Zetaview(DKSH社)を使用し、PS100nm_488C(Sensitivity 80.0、Frame Rate 30.00、Shutter 150)の条件で測定した。また、対照としてコーティング処理を行っていない限外濾過膜が搭載された遠心式フィルターユニットにおいても同様の試験を行った。表2はコーティング有無の遠心式フィルターユニットにおけるsEVの粒子数を表しており、コーティングによりsEVの収量が向上することが確認された。
【0118】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の限外ろ過膜は、生体物質付着抑制能に優れることから、膜透過の阻害や試料損失といった問題を低減できる。また本発明の限外ろ過膜は、コーティングの膜素材への固着性に優れることから、遠心機を利用した限外ろ過で用いても、遠心力によるコーティング剥がれなどが観られないことから、遠心機を利用した限外ろ過への使用に適している。