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特開2024-161814シミュレーション装置、シミュレーション方法、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161814
(43)【公開日】2024-11-20
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16Z 99/00 20190101AFI20241113BHJP
【FI】
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076870
(22)【出願日】2023-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 元彬
(72)【発明者】
【氏名】仲村 英也
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049DD02
(57)【要約】
【課題】反応器内の温度分布を算出できるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】
複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するシミュレーション装置であって、
前記温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での前記反応器内の前記粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、前記解析時間の間の前記反応器内の前記粒子の移動経路を算出する経路算出部と、
前記粒子の前記移動経路での熱伝達率を用いて、前記粒子の温度変化を算出し、前記反応器内の前記温度分布を算出する温度分布算出部と、を有するシミュレーション装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するシミュレーション装置であって、
前記温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での前記反応器内の前記粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、前記解析時間の間の前記反応器内の前記粒子の移動経路を算出する経路算出部と、
前記粒子の前記移動経路での熱伝達率を用いて、前記粒子の温度変化を算出し、前記反応器内の前記温度分布を算出する温度分布算出部と、を有するシミュレーション装置。
【請求項2】
複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するシミュレーション方法であって、
前記温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での前記反応器内の前記粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、前記解析時間の間の前記反応器内の前記粒子の移動経路を算出する経路算出工程と、
前記粒子の前記移動経路での熱伝達率を用いて、前記粒子の温度変化を算出し、前記反応器内の前記温度分布を算出する温度分布算出工程と、を有するシミュレーション方法。
【請求項3】
複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での前記反応器内の前記粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、前記解析時間の間の前記反応器内の前記粒子の移動経路を算出する経路算出部と、
前記粒子の前記移動経路での熱伝達率を用いて、前記粒子の温度変化を算出し、前記反応器内の前記温度分布を算出する温度分布算出部と、して機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置、シミュレーション方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シミュレーション条件の入力を行う入力装置と、
シミュレーション結果を出力する出力装置と、
前記入力装置から入力されたシミュレーション条件に基づいて、大きさが異なる複数の
粒子を含む粉粒体の挙動を解析する処理装置とを有し、
前記処理装置は、
前記入力装置から入力されたシミュレーション対象の粉粒体の粒径分布を規定するパラメータの値、及び粒子を粗視化する基準となる粗視化係数の値に基づいて、粗視化された粉粒体の挙動をシミュレーションにより求め、
シミュレーションによって求められた粒子の挙動と、入力された粗視化係数の値とを関連付けて前記出力装置に出力するシミュレーション装置等に開示されているように、粉粒体についてのシミュレーション装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-57135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工場等におけるプロセスの改善や、製造工程を検討する際の試験工数の削減等を目的として、複数の粒子を含む粉体(粉粒体)の挙動の解析を離散要素法(DEM:Discrete Element Method)計算等により行うことが従来からなされてきた。
【0005】
離散要素法計算は、個々の粒子について運動方程式を解くことで、粉体全体の運動を記述するシミュレーション技術である。
【0006】
ところで、工場等の反応器内では、数多くの粒子を含む粉体を連続的に供給し、加熱等が行われているが、反応器のサイズによっては、反応器内における粉体の平均滞留時間は長時間に渡る場合もある。これに対して、離散要素法で計算できるのは数分程度であり、工場等で使用する反応器内の温度分布を離散要素法により評価することは困難であった。
【0007】
上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、反応器内の温度分布を算出できるシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するシミュレーション装置であって、
前記温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での前記反応器内の前記粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、前記解析時間の間の前記反応器内の前記粒子の移動経路を算出する経路算出部と、
前記粒子の前記移動経路での熱伝達率を用いて、前記粒子の温度変化を算出し、前記反応器内の前記温度分布を算出する温度分布算出部と、を有するシミュレーション装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、反応器内の温度分布を算出できるシミュレーション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一態様に係るシミュレーション装置の経路算出部により、反応器内の粒子の経路を算出する方法の説明図である。
図2図2は、15秒間の離散要素法の計算結果を基に外挿モデルを用いた場合と、600秒間の離散要素法の計算を行った場合と、の反応器内の滞留時間分布である。
図3図3は、600秒間の離散要素法の計算を行った場合と、外挿モデルを用いて計算を行った場合との、反応器内の平均温度の違いの説明図である。
図4図4は、本開示の一態様に係るシミュレーション装置のハードウェア構成図である。
図5図5は、本開示の一態様に係るシミュレーション装置の機能を示すブロック図である。
図6図6は、本開示の一態様に係るシミュレーション方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るシミュレーション装置、シミュレーション方法、プログラムの具体例を、以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[シミュレーション装置]
本発明の発明者らは、反応器内の温度分布を予測できるシミュレーション装置について、検討を行った。そして、短時間の計算結果を外挿することで粒子の移動経路を求め、かつ熱伝達率を用いて粒子の温度変化を算出することで、計算時間、計算量を抑制しつつ、精度よく反応器内の温度分布を算出できることを見出し、本発明を完成させた。
(1)温度分布の算出方法について
(1-1)反応器内の粒子の移動経路の算出方法
本発明の発明者は、反応器内の粒子の移動経路について、計算量を抑制しつつ、精度よく算出できる方法について検討を行った。その結果、定常状態における短い時間での反応器内の粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、すなわち外挿モデルを用いることで、計算量を抑制しつつ、精度よく反応器内の粒子の移動経路を求められることを見出した。
【0012】
外挿モデルを用いた、反応器内の粒子の移動経路の求め方について説明する。
【0013】
ここでは、離散要素法を用いて、定常状態にある、時間T0から時間T1までの反応器内における粒子の位置情報の解析を行いながら、反応容器内の定常状態の温度分布を解析する場合を例に説明する。なお、時間T0と時間T1との間の時間ΔTは、直接的に長時間のシミュレーションを行い反応器内の定常状態の温度分布や粒子位置情報の解析を行う全体の解析時間よりも短いものとする。
【0014】
図1に示すように、時間T0において反応器10内の位置A0、位置B0、位置C0、位置D0、位置E0、位置F0にあった粒子が、時間T1において、位置A1、位置B1、位置C1、位置D1、位置E1、位置F1まで移動したとする。なお、反応器10内には、図中に示した粒子以外の粒子も存在しているが、説明に必要な粒子のみを図示している。
【0015】
時間T0と、時間T1とはともに定常状態にあるため、時間T0の粒子の状態と、時間T1の粒子の状態とは周期的に現れるとみなして、粒子の移動経路、すなわち粒子の軌跡を接続できる。
【0016】
具体的には、まず時間T0において位置A0にあった粒子は、時間ΔT進んだ時間T1において位置A1に移動する。時間T0において、位置A1の近傍に位置する粒子である、位置B0にあった粒子は、時間T1において位置B1に移動している。このため位置A0から位置A1に移動した粒子は、さらにΔTの時間が経過すると、位置B1にまで移動すると判断できる。その後、同じ手順で粒子の位置を接続することで、時間T0において位置A0にあった粒子の移動経路を求めることができる。時間T0において位置A0にあった粒子は、具体的には、位置A0から、位置A1、位置B1、C1、位置D1、位置E1、位置F1との間を接続する移動経路をとることができる。
【0017】
すなわち、外挿モデルは、本来実施すべき粒子位置情報算出の長時間解析のうち、定常状態における一部の時間での反応器内の粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、本来実施する長時間計算の反応器内の粒子の移動経路を算出するものである。
【0018】
ここでは、1つの粒子の場合を例に説明したが、他の粒子についても同じ手順により反応器内の移動経路を算出できる。
【0019】
なお、反応器における粒子の挙動が定常状態にあるとは、例えば反応器に供給される粒子の数と、反応器から排出される粒子の数とが等しくなった状態を意味する。ただし、粒子の挙動が定常状態にあることは、必ずしも温度分布が定常状態にあることを意味しない。
【0020】
本発明の発明者は、反応器としてキルンを用いた場合の上記ΔTが15秒となる離散要素法の計算を行い、上記外挿モデルを用いて、反応器内の滞留時間分布を算出した。また、外挿モデルを使うことなく経時粒子位置情報を得るため600秒間の離散要素法の直接的な長時間計算を行い、反応器内の滞留時間分布を算出した。以上の2つの計算結果を比較したところ、図2に示すようにほぼ同じ形状になり、外挿モデルを用いた反応器内の粒子の挙動が精度よく算出できることを確認できた。図2中、「600秒計算」と表記している結果が、外挿モデルを用いずに、600秒間の離散要素法の計算を行った結果になる。また、「外挿モデル」が外挿モデルを用いて、ΔTが15秒となる離散要素法の計算を行った場合の結果になる。
(1-2)温度分布の算出方法
以上のように外挿モデルを用いることで、反応器内の粒子の移動経路を求めることができる。
【0021】
ただし、反応器内の粒子の移動経路を求めるために行った外挿モデルを適用する短時間の計算(以下、「短時間計算」とも記載する)の時間ΔTは、定常状態の温度分布の解析を行う解析時間と比較して短くなっている。このため、反応器内の粒子の移動経路を求めるために行った短時間計算の計算結果では温度がほとんど変化しておらず、十分に加熱された後の反応器内の温度分布を知ることはできない。
(温度情報を組み込んだ外挿モデル)
そこで、算出した反応器内の粒子の移動経路に、反応器内の温度情報を組み込み、反応器内の平均温度分布を算出した。算出結果を図3に、「外挿モデル1」として示す。ここでの平均温度は、反応器の入り口からの距離が等しい点での温度の平均値である。
【0022】
図3には、600秒間の離散要素法による計算を行った場合の計算結果も「長時間計算」として示しており、係る計算結果を、以下長時間計算とも記載する。
【0023】
図3に示した結果によると、外挿モデル1は、長時間計算と比較して、大幅に温度が低くなっていることを確認できる。これは、組み込んだ、粒子の移動経路に沿った温度情報は、時間ΔTが短時間である短時間計算での計算結果であり、反応器内の粒子の温度が高くなる前の温度情報である。このため、粒子の移動経路に沿って係る温度情報を組み込んでも温度がほとんど高くならないためと考えらえる。
(熱流束を組み込んだ外挿モデル)
次いで、熱流束、すなわちヒートフラックスを経路接続し、粒子の温度上昇を算出することを試みた。具体的には、算出した粒子の移動経路に沿って、移動経路上の各点で与えられる熱流束を積算(積分)し、温度変化を算出する外挿モデルとした。なお、熱流束は、短時間計算の際に、壁面の温度と粒子の温度との温度差と熱伝達率を用いて算出した結果を用いている。算出結果を図3に、「外挿モデル2」として示す。
【0024】
図3に示した結果によると、外挿モデル2は、600秒間の離散要素法による計算を行った場合の計算結果である「長時間計算」よりも温度が高くなっていることを確認できた。
【0025】
係る原因について検討を行った。まず、熱流束Qは、熱伝達率をh、粒子温度をTp、接触物温度をTcとすると、以下の式(1)により算出される。
【0026】
Q=h(Tp-Tc)・・・(1)
そして、例えば図3において、接触物である反応器の炉壁の温度を400Kとした場合、短時間計算の計算結果における、粒子と炉壁との温度差はΔT2で表される。これに対して、長時間計算で求められた実際の粒子の温度と炉壁との温度差はΔT1となる。このため、短時間計算の計算結果を用いて、上記式(1)により熱流束を求めると、実際の熱流束、例えば長時間計算の場合の熱流束と比較して大きくなる。従って、粒子の搬送経路に沿って、係る熱流束量を積算し、温度分布を求めると、上述のように、長時間計算の場合よりも温度が高くなったものと解される。
(熱伝達率を組み込んだ外挿モデル)
そこで、本発明の発明者はさらに検討を行い、粒子の移動経路での熱伝達率を用いて、各粒子の温度変化を算出するモデルを検討した。具体的には粒子の移動経路に沿って、移動経路上の各点で与えられる熱伝達率と、粒子と反応器の炉壁の温度差とから熱流束を算出、積算し、温度変化を算出する外挿モデルとした。なお、検討を行う際、熱伝達率は、短時間計算の際に、上記式(1)を用いて算出した値を用いている。算出結果を図3に、「外挿モデル3」として示す。
【0027】
図3に示した結果によると、外挿モデル3は、600秒間の離散要素法による計算を行った場合の計算結果である「長時間計算」とほぼ同じ結果になることを確認できた。このため、外挿モデル3を用いることで、すなわち熱伝達率を組み込むことで、反応器内の温度分布を正確に抑制できることを確認できた。
【0028】
これは、粒子の移動経路に沿った例えば反応器の炉壁と粒子との間の温度差を補正しながら、熱流束を適切に評価できているためと考えられる。
(2)シミュレーション装置
本実施形態のシミュレーション装置は、複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するシミュレーション装置であり、経路算出部と、温度分布算出部と、を有することができる。
【0029】
本シミュレーション装置により温度分布を算出する反応器の種類は特に限定されず、粉体を連続的に供給、排出する反応器であれば良い。ただし、温度分布を算出することが求められる反応器としては、粉体に対して熱を加える反応器であることが一般的である。このため、反応器としては、加熱装置が設置された連続式の反応器が挙げられ、特に連続式の焼成炉、例えば各種キルン等が挙げられる。
【0030】
図4に示したハードウェア構成図に示すように、本実施形態のシミュレーション装置40は、例えば、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)41と、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)42やROM(Read Only Memory)43と、補助記憶装置44と、入出力インタフェース45と、出力装置である表示装置46等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス47で相互に接続されている。なお、補助記憶装置44や表示装置46は、外部に設けられていてもよい。
【0031】
CPU41は、シミュレーション装置40の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU41は、ROM43または補助記憶装置44に格納された、例えば後述するシミュレーション方法や、プログラム(シュミレーションプログラム)を実行して、反応器内の粒子の移動経路や、粒子の温度変化の解析を行うことができる。
【0032】
RAM42は、CPU41のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0033】
ROM43は、プログラム(シュミレーションプログラム)等を記憶することができる。
【0034】
補助記憶装置44は、SSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、シミュレーション装置の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納できる。
【0035】
入出力インタフェース45は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースと、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとの双方を含む。
【0036】
表示装置46は、モニタディスプレイ等である。表示装置46では、解析画面が表示され、入出力インタフェース45を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0037】
図4に示したシミュレーション装置40の各機能は、例えばRAM42やROM43等の主記憶装置または補助記憶装置44からプログラム(シミュレーションプログラム)等を読み込ませ、CPU41により実行することにより、RAM42等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェース45および表示装置46を動作させることで実現できる。
【0038】
図5に、本実施形態のシミュレーション装置40の機能ブロック図を示す。
【0039】
図5に示すように、シミュレーション装置40は、受付部51、処理装置52、出力部53を有することができる。これらの各部は、シミュレーション装置40が有するCPU、記憶装置、各種インタフェース等を備えたパーソナルコンピュータ等の情報処理装置において、CPUが予め記憶されている例えば後述するシミュレーション方法や、プログラムを実行することでソフトウェアおよびハードウェアが協働して実現される。
【0040】
各部の構成について以下に説明する。
(A)受付部
受付部51は、処理装置52で実行される処理に関係するユーザーからのコマンドやデータの入力を受け付ける。受付部51としてはユーザーが操作を行い、コマンド等を入力するキーボードやマウス、ネットワークを介して入力を行う通信装置、CD-ROM、DVD-ROM等の各種記憶媒体から入力を行う読み取り装置などが挙げられる。
(B)処理装置
処理装置52は、経路算出部521、温度分布算出部522有することができる。なお、処理装置は、必要に応じてさらに任意の部材を有することができ、例えば初期設定部や、パラメータ取得部等を有することもできる。
(B-1)経路算出部
既述のように、本実施形態のシミュレーション装置40では、反応器内の粒子の移動経路を定常状態における一部の時間での反応器内の粒子の位置情報の解析結果から算出できる。これにより、計算量を抑制しながら、反応器内での粒子の移動経路を適切に評価できる。
【0041】
経路算出部521では、「(1)温度分布の算出方法について」の「(1-1)反応器内の粒子の移動経路の算出方法」の中で説明したように、反応器内の粒子の移動経路を算出できる。具体的には、経路算出部521は、温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での反応器内の粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、解析時間の間の反応器内の粒子の移動経路を算出できる。
【0042】
具体的な移動経路の求め方は既に説明したため、説明を省略する。
(B-2)温度分布算出部
温度分布算出部522では、経路算出部521が算出した反応器内の粒子の移動経路での熱伝達率を用いて、粒子の温度変化を算出し、反応器内の温度分布を算出できる。
【0043】
具体的には、「(1)温度分布の算出方法について」の「(1-2)温度分布の算出方法」のうち、「熱伝達率を組み込んだ外挿モデル」として説明した外挿モデルを用いて、粒子の温度変化、反応器内の温度分布を算出できる。すなわち、粒子の移動経路における熱伝達率と、粒子と周囲の接触物との温度差、例えば粒子と、反応器の壁面温度との温度差と、を用いて、粒子に与えられる熱流束を算出し、積算することで、粒子の温度変化を求められる。そして、算出した粒子の温度変化から、反応器内の温度分布を求めることができる。
【0044】
上記熱伝達率の求め方は特に限定されず、例えば粒子の移動経路に隣接して配置される粒子や炉壁との接触面積に基づいて算出することもできる。ただし、計算量を抑制する観点から、経路算出部521における短時間計算の際に求めた熱流束から算出することが好ましい。
(B-3)初期設定部
図示しない初期設定部は、反応器内における粉体を構成する粒子の位置の初期化や、反応器への粉体供給条件等の設定等を行うこともできる。なお、例えば経路算出部521で粒子の挙動を解析する際に用いるプログラム等に予め初期条件が設定されている場合等には、初期設定部は設けなくてもよい。
(B-4)パラメータ取得部
図示しないパラメータ取得部では、例えば解析の対象となる粉体に関連するパラメータを取得できる。取得するパラメータは、粉体に関連するパラメータ以外に、解析に要する各種パラメータを含むこともできる。取得するパラメータは解析(シミュレーション)の内容に応じて選択できるため、その具体的な種類は特に限定されない。取得するパラメータとしては、離散要素法計算に必要となる各種パラメータが挙げられ、具体的には例えば粒子径、粒子数、ヤング率、計算のTime step、ポワソン比、壁面との摩擦係数、粒子間の摩擦係数、転がり摩擦係数、密度、熱伝導率、比熱等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0045】
取得するパラメータは、データベース等に収録されているデータであってもよく、予め実験を行い求めた実験値であってもよい。また、取得するパラメータは、実験結果からシミュレーション等によりフィッティングして算出した計算値であってもよい。なお、例えば経路算出部521や、温度分布算出部522で粒子の移動経路、温度分布を解析する際に用いるプログラム等に予め必要なパラメータが組み込まれている場合等には、パラメータ取得部は設けなくてもよい。
(C)出力部
出力部53は、ディスプレイ等を有することができる。温度分布算出部522で得られたシミュレーション結果を出力部53に出力できる。出力するシミュレーション結果の内容は特に限定されないが、例えば出力部53に反応器内の温度分布を時系列で画像として出力し、表示することができる。
【0046】
以上に説明した本実施形態のシミュレーション装置によれば、計算量を抑制しつつ、反応器内の粒子の移動経路や、反応器内の温度分布を精度よく算出できる。このため、例えば反応器のサイズが工場等で用いられる大きなサイズになった場合でも、反応器内の温度分布を容易かつ適切に評価できる。
[シミュレーション方法]
次に、本実施形態のシミュレーション方法について説明する。本実施形態のシミュレーション方法は、例えば既述のシミュレーション装置を用いて実施できる。このため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0047】
本実施形態のシミュレーション方法は、複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するシミュレーション方法に関する。本実施形態のシミュレーション方法は、図6に示したフロー図60の様に、以下の経路算出工程(S1)と、温度分布算出工程(S2)と、を有する
ことができる。
【0048】
各工程について以下に説明する。
(1)経路算出工程(S1)
経路算出工程では、温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での反応器内の粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、解析時間の間の反応器内の粒子の移動経路を算出できる。
【0049】
具体的には、シミュレーション装置の、「(1)温度分布の算出方法について」の「(1-1)反応器内の粒子の移動経路の算出方法」の中で説明したようにして、反応器内の前記粒子の移動経路を算出できる。
(2)温度分布算出工程
温度分布算出工程では、粒子の移動経路での熱伝達率を用いて、粒子の温度変化を算出し、反応器内の温度分布を算出できる。
【0050】
具体的には、シミュレーション装置の、「(1)温度分布の算出方法について」の「(1-2)温度分布の算出方法」のうち、「熱伝達率を組み込んだ外挿モデル」として説明した外挿モデルを用いて、粒子の温度変化を算出できる。
(3)初期設定工程
本実施形態のシミュレーション方法は、例えばさらに初期設定工程を有することもできる。初期設定工程では、シミュレーションの初期設定を行うことができ、例えば反応器内における粉体を構成する粒子の位置の初期化や、反応器への粉体供給条件等の設定等を行うこともできる。なお、例えば経路算出工程で粒子の移動経路を算出する際に用いるプログラム等に予め初期条件が設定されている場合等には、初期設定工程は実施しなくてもよい。
(4)パラメータ取得工程
本実施形態のシミュレーション方法は、例えばさらにパラメータ取得工程を有することもできる。パラメータ取得工程では、例えば解析の対象となる粉体に関連するパラメータを取得できる。取得するパラメータは、粉体に関連するパラメータ以外に、解析に要する各種パラメータを含むこともできる。取得するパラメータは解析(シミュレーション)の内容に応じて選択できるため、その具体的な種類は特に限定されない。取得するパラメータとしては、離散要素法計算に必要となる各種パラメータが挙げられ、具体的には例えば粒子径、粒子数、ヤング率、計算のTime step、ポワソン比、壁面との摩擦係数、粒子間の摩擦係数、転がり摩擦係数、密度、熱伝導率、比熱等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0051】
取得するパラメータは、データベース等に収録されているデータであってもよく、予め実験を行い求めた実験値であってもよい。また、取得するパラメータは、実験結果からシミュレーション等によりフィッティングして算出した計算値であってもよい。なお、例えば経路算出工程や、温度分布算出工程において、粒子の移動経路や、温度変化を解析する際に用いるプログラム等に予め必要なパラメータが組み込まれている場合等には、パラメータ取得工程は実施しなくてもよい。
(5)出力工程
本実施形態のシミュレーション方法は、例えばさらに出力工程を有することができる。出力工程では、例えば温度分布算出工程で得られたシミュレーション結果を、出力部へ出力できる。出力するシミュレーション結果の内容は特に限定されないが、例えば出力部に粒子の温度変化や、反応器内の温度分布を時系列で画像として出力し、表示することができる。
【0052】
以上に説明した本実施形態のシミュレーション方法によれば、計算量を抑制しつつ、反応器内の粒子の移動経路や、反応器内の温度分布を精度よく算出できる。このため、例えば反応器のサイズが工場等で用いられる大きなサイズになった場合でも、反応器内の温度分布を容易かつ適切に評価できる。
[プログラム]
次に、本実施形態のプログラムについて説明する。
【0053】
本実施形態のプログラムは、複数の粒子を含む粉体が連続的に供給、排出されている反応器内における温度分布を解析するためのプログラムに関し、コンピュータを以下の経路算出部、温度分布算出部として機能させることができる。
【0054】
経路算出部は、温度分布の解析を行う解析時間のうち、定常状態における一部の時間での反応器内の粒子の位置情報の解析結果を外挿することで、解析時間の間の反応器内の粒子の移動経路を算出できる。
【0055】
温度分布算出部は、経路算出部が算出した反応器内の粒子の移動経路での熱伝達率を用いて、粒子の温度変化を算出し、反応器内の温度分布を算出できる。
【0056】
本実施形態のプログラムは、例えば既述のシミュレーション装置のRAMやROM等の主記憶装置または補助記憶装置の各種記憶媒体に記憶させておくことができる。そして、係るプログラムを読み込ませ、CPUにより実行することにより、RAM等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェースおよび表示装置を動作させて実行できる。このため、シミュレーション装置で既に説明した事項については説明を省略する。
【0057】
上述した本実施形態のプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることで提供してもよい。また、本実施形態のプログラムをインターネットなどのネットワークを介して提供、配布するように構成してもよい。
【0058】
本実施形態のプログラムは、CD-ROM等の光ディスクや、半導体メモリ等の記録媒体に格納した状態で流通等させてもよい。
【0059】
以上に説明した本実施形態のプログラムによれば、計算量を抑制しつつ、反応器内の粒子の移動経路や、反応器内の温度分布を精度よく算出できる。このため、例えば反応器のサイズが工場等で用いられる大きなサイズになった場合でも、反応器内の温度分布を容易かつ適切に評価できる。
【符号の説明】
【0060】
10 反応器
A0、B0、C0、D0、E0、F0 位置
A1、B1、C1、D1、E1、F1 位置
ΔT1、ΔT2 温度差
40 シミュレーション装置
41 CPU
42 RAM
43 ROM
44 補助記憶装置
45 入出力インタフェース
46 表示装置
47 バス
51 受付部
52 処理装置
521 経路算出部
522 温度分布算出部
53 出力部
60 フロー図
S1 経路算出工程
S2 温度分布算出工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6