(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162278
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】スラグ流生成装置、前記スラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置、スラグ流生成方法、及び前記スラグ流生成方法を用いた化学物質の処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20241114BHJP
B01J 19/24 20060101ALI20241114BHJP
B01F 23/231 20220101ALI20241114BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20241114BHJP
【FI】
B01J19/00 B
B01J19/24 Z
B01F23/231
B01F23/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077630
(22)【出願日】2023-05-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】武藤 明徳
【テーマコード(参考)】
4G035
4G075
【Fターム(参考)】
4G035AB05
4G035AB36
4G035AC01
4G035AE02
4G035AE13
4G075AA13
4G075AA61
4G075BB03
4G075BB05
4G075BD13
4G075BD15
4G075CA51
4G075DA01
4G075DA12
4G075DA13
4G075EB21
4G075FB02
4G075FB04
4G075FB06
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】送液量が流路抵抗の影響を受けにくく、流速とスラグ長さをそれぞれ独立して安定的に制御する交互送液方式のスラグ流生成装置及びスラグ流生成方法を提供する。
【解決手段】常時圧送された複数の流体が流入する流入口と、前記複数の流体がそれぞれ流出する複数の流出口を有し、前記複数の流体が界面を構成する界面形成部、前記複数の流出口にそれぞれ接続され、常にどれか一つだけが交互に開通動作をする二方バルブ、前記二方バルブの開通動作により前記複数の流体が合流する流体合流部、及び前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、を備えるスラグ流生成装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常時圧送された複数の流体が流入する流入口と、前記複数の流体がそれぞれ流出する複数の流出口を有し、前記複数の流体が界面を構成する界面形成部、
前記複数の流出口にそれぞれ接続され、常にどれか一つだけが交互に開通動作をする二方バルブ、
前記二方バルブの開通動作により前記複数の流体が合流する流体合流部、及び
前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、
を備えるスラグ流生成装置。
【請求項2】
界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、及び前記スラグ生成流路からスラグ流が流入する界面形成部のセット1,2,・・・nとが、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように並列配置され、
前記界面形成部は二つの流出口を有し、
界面形成部0の一方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、前記n個の流体合流部1,2,・・・nの全てに接続され、
界面形成部0,1,・・・,n-1の他方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、それぞれの一段下流側に隣接する前記流体合流部1,2,・・・nに接続された、請求項1に記載のスラグ流生成装置。
【請求項3】
前記界面形成部1,2,・・・nは、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離機構を兼ね備える、請求項2に記載のスラグ流生成装置。
【請求項4】
界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、及び前記スラグ生成流路からスラグ流が流入する界面形成部のセット1,2,・・・nとが、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように並列配置され、
前記界面形成部は二つの流出口を有し、
界面形成部0の一方の流出口は、前記開通動作をする前記二方バルブを介して、前記流体合流部nに接続され、
界面形成部2,・・・nの一方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、それぞれの一段上流側に隣接する流体合流部1,・・・n-1に接続され、
界面形成部0,1,・・・,n-1の他方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、それぞれの一段下流側に隣接する流体合流部1,2,・・・nに接続された、請求項1に記載のスラグ流生成装置。
【請求項5】
前記界面形成部1は、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離機構を兼ねる、請求項4に記載のスラグ流生成装置。
【請求項6】
前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である請求項1~5のいずれか1項に記載のスラグ流生成装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のスラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置。
【請求項8】
複数の流体を前記複数の流体が界面を構成する界面形成部に常時圧送し、
前記界面形成部の界面で分離した前記複数の流体を交互に流体合流部に送液し、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路でスラグ流を生成する、
スラグ流生成方法。
【請求項9】
界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路、及び前記スラグ流生成流路に接続する界面形成部のセット1,2,・・・nとを、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように並列配置し、
界面形成部0の界面で二つの状態に分離した流体の一方を、全ての流体合流部1,2,・・・nに送液し、
界面形成部0,1,・・・n-1の界面で分離した流体の他方を、それぞれの一段下流側に隣接する流体合流1,2,・・・nに送液する、請求項8に記載のスラグ流生成方法。
【請求項10】
前記界面形成部1,2,・・・nで、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離を行う、請求項9に記載のスラグ流生成方法。
【請求項11】
界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路、及び前記スラグ流生成流路に接続する界面形成部のセット1,2,・・・nとを、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように交互に並列配置し、
界面形成部0の界面で二つの状態に分離した流体の一方を、流体合流部nに送液し、
界面形成部2,・・・nの界面で分離した流体の一方を、それぞれの一段上流側に隣接する流体合流部1,・・・n-1に送液し、
界面形成部0,1,・・・n-1の界面で分離した流体の他方を、それぞれの一段下流側に隣接する流体合流部1,2,・・・nに送液する、請求項8に記載のスラグ流生成方法。
【請求項12】
前記界面形成部1で、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離を行う、請求項11に記載のスラグ流生成方法。
【請求項13】
前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である請求項8~12のいずれか1項に記載のスラグ流生成方法。
【請求項14】
請求項8~12のいずれか1項に記載のスラグ流生成方法を用いて、化学物質を処理する化学物質の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグ流生成装置、前記スラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置、スラグ流生成方法、及び前記スラグ流生成方法を用いた化学物質の処理方法に関する。ここでの処理とは、化学物質に関する反応、分離(抽出、吸収、晶析等)、又は反応分離をさす。
【背景技術】
【0002】
従来の化学反応プロセスにおいて、スケールアップによる効率化が求められていた。さらに近年においては、環境負荷の軽減、省資源及び省エネルギーの要求も加わる。
今後の成長が期待される医薬品や機能性化学品ないしはファインケミカルのような高付加価値品の生産においては、少量生産に向くバッチ生産方式(以下、「バッチプロセス」という。)が主流である。しかし、エネルギーロスが大きく、共生成物を多く排出するため、近年、反応から分離精製までを連続操作で行うフロー生産方式(以下、「フロープロセス」という。)により各バッチ処理工程間のロスの低減を試みる動きがある。また、必要に応じて反応モジュールや分離精製モジュールを組み替えることで、多種多様な機能性化学品の製造に対応できるよう、フロープロセスに組み込まれる各単位操作をモジュール化する研究開発の動きがある(非特許文献1)。
【0003】
フロープロセスでは配管内ないしは配管の途中に接続された装置を流体が流通する過程で、温度調整、圧力調整、混合、反応、抽出、分離精製等の操作が行われる。各単位操作のモジュールの要件として、コンパクトかつ高速処理であることが求められる。特にフロープロセスにおいて、互いに一部が溶け合うか、全く溶け合わない多相流体の流動が関わるプロセスでは、流動状態が複雑であるため設計・開発等に注意が必要である(例として、液-液反応、気-液反応、液-液抽出、気-液抽出、気-液分離、液-液分離)。通例、多相流体が関わるプロセスにおいて、プロセスのコンパクト化、高速処理化を目指すとき、相間物質移動抵抗を低減することが重要になる。
【0004】
多相流体プロセスにおいて、目的とする単位操作に有利な流動状態を積極的に利用するために装置をコンパクト化することも挙げられる。通例少量生産を目的としたフロープロセスでは、バッチプロセスで扱われる空間に比べてスケールが小さく、また流量が低いため、レイノルズ数が低く、層流が支配的になる。このような層流域における混相流の代表的な流動状態を
図1(a)~(e)に示す。
図1(a)、(a´)は、分離状態にある異なる相の流体が交互に流れるスラグ流(セグメンテッド流、テイラー流とも呼ばれる。)を示す。スラグ流では、壁面からの摩擦抗力に由来して発生するスラグ内の内部循環流により、界面更新が促進されることで物質移動抵抗の低減効果が発揮され、高い物質移動速度が期待できる。
一方、
図1(b)~(e)に示す流動状態では、内部循環流による物質移動抵抗の低減効果がほぼ得られない。
また、スラグ流は、大きな流体塊を形成可能であるため、相分離に要する時間が、特に
図1(e)に示す分散流(気泡流、液滴(エマルジョン)流)と比べて短いという長所があり、抽出操作に応用されることが多い。なお分散流は層流域のみならず乱流域でも見られる。
【0005】
従来、スラグ流は、
図12(a)、(b)に示すように、異なる相の複数の流体を、それぞれの流体に対応する複数のポンプを用いて連続的に同時に流体合流部に圧送する方式により生成されてきた(例えば、非特許文献2:Figure2、2.1. Experimental Setup)。
この方式(以下、「同時送液方式」という。)は、複数の流体をそれぞれ圧送するポンプと流体合流部を接続するだけの簡易な構成の装置によって実現することができる。また、スラグ流は成り行き的に生成されるから、スラグ長さを制御することはできないが、液-液比は、各ポンプの流量比を変えることによって、動作中に変更することができる。
【0006】
スラグ長さを制御する方式としては、複数の流体を流体合流部に交互に送液する方式(以下、「交互送液方式」という。)が知られている(特許文献1、非特許文献3)。
特許文献1には、二つのポンプを交互に間欠動作させて流体合流部に二つの流体を交互に送液するスラグ流生成装置が記載されており(請求項9、段落[0019])、該流体合流部への送液時間を制御することで、スラグ長の制御が可能となる。
【0007】
一方、ポンプの動停止は、流量変動という不安定要因をもたらすことから、ポンプを連続動作させて連続的に流体圧送させつつ、流体合流部に設置された切替バルブを動作させることで流体合流部への交互圧送を実現する方式も試みられている(非特許文献3)。
非特許文献3には、二つのポンプを常時圧送状態に保ちつつ、二液の流体合流部に設けた三方電磁バルブを周期的に駆動させることで、流体合流部に交互送液しスラグ流を発生させる装置が記載されている。このような装置を用いれば、層流支配の状況において、交互に送流を行うことが可能である。また、弁の切替周波数によってスラグ長さを制御することができる。
【0008】
非特許文献4には、常時連続相(キャリアオイル)を流し、バルブの切替とシリンジポンプの動停止によって分散相1と分散相2の間欠的な導入を制御することで、スラグ流を発生させる装置(Fig.1)が記載されている。この装置を用いれば、バルブとポンプの制御により、流量や各スラグの長さを制御することができる。
【0009】
非特許文献5には、2台のピエゾマイクロポンプ(以下、「PMP」という。)を用い、電圧と周波数の電子的な制御により逆位相で動作させることで、スラグ流を発生させる装置が記載されている。この装置を用いれば、ポンプ動作中に電圧と周波数の制御により、流量とスラグ長さを制御することができる。また、原理的に流体が堰き止められる状態がないため、ポンプや流路内に加圧状態が発生しない。
【0010】
特許文献2には、常時圧送状態を保つ二つのポンプと流体合流部の間にそれぞれ設けた二方バルブの交互切替により、流体合流部に交互送液するとともに、流体合流部に送液しない流体を堰き止めることなくリサイクル側流路に排出するスラグ流生成装置が記載されている(
図16参照)。このような装置を用いれば、スラグ長さの制御が可能であるとともに、流体の堰き止め状態が発生しないので、加圧による装置内の破損を回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第7062287号公報
【特許文献2】特開2023-013422号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】NEDO、「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」2023/02/27, https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100152.html
【非特許文献2】Madhvanand N. Kashid、Albert Renken、Lioubov Kiwi-Minske、Gas-liquid and liquid-liquid mass transfer in microstructuredreactors、Chemical Engineering Science 66 (2011)3876-3897
【非特許文献3】門脇信傑、マイクロ化学プロセス用三方電磁弁の開発と応用、岡山大学大学院博士論文、3章、2014年3月
【非特許文献4】Shusaku Asano, Yu Takahashi,Taisuke Maki, Yosuke Muranaka, Nikolay Cherkasov & Kazuhiro Mae、Contactless mass transfer for intra-droplet extraction、Scientific Reports、10 (2020)、pp. 7685-7693
【非特許文献5】阿部秀隆、武藤明徳、連動した2台のポンプによる液-液スラグ流の発生、化学工学会第86年会講演要旨K301(2021年3月8日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
スラグ流における物質移動の促進効果は、種々の流体物性に応じて流速とスラグ長さに最適点が存在する。したがって、流体物性によって異なる該最適点をカバーできる範囲で流速とスラグ長さを独立にかつ容易に制御できる技術が求められる。非特許文献2に記載された同時送液方式の装置では、成り行き的なスラグ流の発生であるため、各ポンプの流量と流体合流部の形状やサイズ、流体物性でスラグ長さが規定されてしまい、ほぼ自由度がない。
【0014】
交互送液方式を採用することにより、流速とスラグ長さを制御することが可能になる。
非特許文献3に記載される装置によれば、常時圧送状態のポンプを用いることによって、スラグ長さを制御することができる。しかしながら、ポンプが常時圧送であるため、バルブが閉状態のときに流体が堰き止められる状態が発生し、ポンプや流路に圧力負荷がかかって破損したり、流量が変動したりする懸念がある。
【0015】
非特許文献4に記載されるように、ポンプの動停止とバルブの開閉を同期して送液制御を行う装置では、バルブ閉止時にポンプも停止するので、流体の堰き止めによる加圧状態を発生させることがない。このような送液制御は、動停止を迅速に行えるシリンジポンプ以外では行うことできない。しかしながら、シリンジポンプでは、送液可能量がシリンジ容積に制限され、連続サイクル機構にすることが難しい。連続サイクル化には複数シリンジとそれらの制御機構が必要なためシステムが複雑になる。また原理的にシリンジ切替時の流動変動が発生する。
【0016】
非特許文献5に記載された二つのPMPを逆位相で動作させて交互送液を行う装置であれば、流体が堰き止められる状態がなくポンプや流路内に加圧状態が発生しない。しかしながら、二流体のスラグ長さの比を変更する際には、ダイヤフラムが1往復して送液される流体量を変更するために該箇所もしくはPMPそのものを交換する必要があり、簡単に制御することが困難である。
【0017】
以上の諸問題の解決手段として、発明者らは、リサイクル側流路を有することにより、汎用性のある常時圧送のポンプを使用しても、流体が堰き止められることなく、流速及びスラグ長さを調整できる装置として、特許文献2に記載の交互送液方式のスラグ流生成装置を考案した。
ところが、特許文献2に記載の装置について、さらに検討を進めたところ、流体合流部に所望の送液がされず、リサイクル側流路により多く排液される問題が発生する場合があることがわかった。具体的には0.1秒程度以下の高頻度でのバルブ開閉において、後述の比較例に係る
図16に示すように、流体合流部以降(以下、「本流路」という。)の流路抵抗がある程度大きいとき、流体合流部に所望の送液量が得られない現象がみられた。これは、リサイクル側流路よりも流体合流部側流路の流路抵抗が大きく、流路抵抗のバランスが崩れたために、抵抗がより低い側により多くの流体が流れたことが原因と推測される。言い方を換えると、リサイクル側流路への切替によって降圧されたポンプ吐出口―バルブ間の圧力について、想定した流体圧送となる圧力までの昇圧に必要な所要昇圧時間がバルブ開閉の1周期内の開通時間を超えたことが原因と推測される。なおリサイクル側流路と本流路の流体抵抗差が大きいほど、前記所要昇圧時間が長くなり、本問題が発生しやすいと推測される。
流体合流部に所望の送液量を得るためには、装置全体にわたって流体抵抗のバランスを調整すればよいが、装置ごとに逐一調整することは時間とコストがかかり、現実的な解決方法ではない。
【0018】
以上の課題に鑑み、本発明は、送液量が流路抵抗の影響を受けにくく、流速とスラグ長さをそれぞれ独立して安定的に制御できる交互送液方式のスラグ流生成装置及びスラグ流生成方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、前記装置又は方法を用いた、多相間における反応、抽出及び分離操作に適した化学物質の処理装置及び処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明では、以下の手段を採用するものである。
[1]常時圧送された複数の流体が流入する流入口と、前記複数の流体がそれぞれ流出する複数の流出口を有し、前記複数の流体が界面を構成する界面形成部、
前記複数の流出口にそれぞれ接続され、常にどれか一つだけが交互に開通動作をする二方バルブ、
前記二方バルブの開通動作により前記複数の流体が合流する流体合流部、及び
前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、
を備えるスラグ流生成装置。
[2]界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、及び前記スラグ生成流路からスラグ流が流入する界面形成部のセット1,2,・・・nとが、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように並列配置され、
前記界面形成部は二つの流出口を有し、
界面形成部0の一方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、前記n個の流体合流部1,2,・・・nの全てに接続され、
界面形成部0,1,・・・,n-1の他方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、それぞれの一段下流側に隣接する前記流体合流部1,2,・・・nに接続された、前記[1]のスラグ流生成装置。
[3]前記界面形成部1,2,・・・nは、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離機構を兼ね備える、前記[2]のスラグ流生成装置。
[4]界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、及び前記スラグ生成流路からスラグ流が流入する界面形成部のセット1,2,・・・nとが、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように並列配置され、
前記界面形成部は二つの流出口を有し、
界面形成部0の一方の流出口は、前記開通動作をする前記二方バルブを介して、前記流体合流部nに接続され、
界面形成部2,・・・nの一方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、それぞれの一段上流側に隣接する流体合流部1,・・・n-1に接続され、
界面形成部0,1,・・・,n-1の他方の流出口は、前記開通動作をする二方バルブを介して、それぞれの一段下流側に隣接する流体合流部1,2,・・・nに接続された、前記[1]のスラグ流生成装置。
[5]前記界面形成部1は、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離機構を兼ねる、前記[4]のスラグ流生成装置。
[6]前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である前記[1]~[5]のいずれか1のスラグ流生成装置。
[7]前記[1]~[6]のいずれか1のスラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置。
[8]複数の流体を前記複数の流体が界面を構成する界面形成部に常時圧送し、
前記界面形成部の界面で分離した前記複数の流体を交互に流体合流部に送液し、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路でスラグ流を生成する、
スラグ流生成方法。
[9]界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路、及び前記スラグ流生成流路に接続する界面形成部のセット1,2,・・・nとを、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように並列配置し、
界面形成部0の界面で二つの状態に分離した流体の一方を、全ての流体合流部1,2,・・・nに送液し、
界面形成部0,1,・・・n-1の界面で分離した流体の他方を、それぞれの一段下流側に隣接する流体合流1,2,・・・nに送液する、前記[8]のスラグ流生成方法。
[10]前記界面形成部1,2,・・・nで、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離を行う、前記[9]のスラグ流生成方法。
[11]界面形成部0と、n(n≧2)個の流体合流部、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路、及び前記スラグ流生成流路に接続する界面形成部のセット1,2,・・・nとを、界面形成部0が最も上流側、界面形成部nが最も下流側になるように交互に並列配置し、
界面形成部0の界面で二つの状態に分離した流体の一方を、流体合流部nに送液し、
界面形成部2,・・・nの界面で分離した流体の一方を、それぞれの一段上流側に隣接する流体合流部1,・・・n-1に送液し、
界面形成部0,1,・・・n-1の界面で分離した流体の他方を、それぞれの一段下流側に隣接する流体合流部1,2,・・・nに送液する、前記[8]のスラグ流生成方法。
[12]前記界面形成部1で、前記複数の流体の反応生成物又は抽出された化学物質を含む流体の分離を行う、前記[11]のスラグ流生成方法。
[13]前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である前記[8]~[12]のいずれか1のスラグ流生成方法。
[14]前記[8]~[13]のいずれか1のスラグ流生成方法を用いて、化学物質を処理する化学物質の処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流体合流部の前段に界面形成部を備えることにより、流路抵抗に起因する送液量の低下を改善しつつ、流速とスラグ長さをそれぞれ独立して安定的に制御することができる。
また、本発明を多段プロセスに適用することにより、段数にかかわらず、2台のポンプで動作させることができ、また、界面形成部を液-液分離デバイスとして利用することができる。
加えて、特許文献2に記載された先行発明では、ポンプ一台で全ての流体の想定流量を足し合わせた流量を圧送する必要があったのに対して、本発明では各ポンプが圧送を担当する流体のみについての想定流量を圧送すればよく、ポンプの負荷を低減することができる。
さらには、特許文献2に記載された先行発明では、スラグ流生成装置の前段に他のプロセス装置を連結する際、前段からの流入流体を受け入れる流体保持部と流体合流部へ圧送するためのポンプが必須であったのに対して、本発明では前段からの流入流体が流れる配管を界面形成部に接続すればよいので、前記流体保持部とポンプを削減することができる。
図17は前段プロセスが反応プロセスである場合の連結の一例であり、本発明を応用した典型的な例を前記先行発明と比較した図である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】混相流の代表的な流動状態図 (a)二相スラグ流、(a´)三相スラグ流、(b)並行流、(c)環状流、(d)液滴流、(e)分散流
【
図2】本発明に係るスラグ流生成装置の基本構成を示す概略図
【
図3】本発明に係るスラグ流生成装置の一実施形態を示す概略図
【
図4】本発明に係るスラグ流生成装置のその他の実施形態(実施例1~3の構成)を示す概略図
【
図6】本発明に係るスラグ流生成装置のその他の実施形態を示す概略図
【
図7】本発明に係る基本構成を循環構成に適用した概略図
【
図8】本発明に係る基本構成を並流多段(n段)構成に適用した概略図
【
図9】本発明に係る基本構成を向流多段(n段)構成に適用した概略図
【
図10】本発明に係るスラグ流生成装置のその他の実施形態を示す概略図
【
図11】本発明に係るスラグ流生成装置を用いた抽出・逆抽出プロセスを示す概略図
【
図12】従来の同時送液方式のスラグ流生成装置を示す概略図
【
図13】従来の多段プロセスに必要なポンプ台数を示す図
【
図14】従来の抽出・逆抽出プロセスに必要なポンプ台数を示す図
【
図16】先行技術(特許文献2)のスラグ流生成装置(比較例1、2)の構成を示す概略図
【
図17】前段プロセスに連結された本発明と先行技術(特許文献2)のスラグ流生成装置を示す概略図
【
図18】実施例、比較例、参考例におけるスラグ流生成装置の送液精度を示す図
【
図19】実施例3-1~3-5に係るスラグ流の写真画像と数値データ
【
図20】実施例4に係る多段構成のスラグ流生成装置を示す概略図
【
図21】実施例4において発生したスラグ流の写真画像
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、常時圧送された複数の流体が流入する流入口と、前記複数の流体がそれぞれ流出する複数の流出口を有し、前記複数の流体が界面を構成する界面形成部、前記複数の流出口にそれぞれ接続され、常にどれか一つだけが交互に開通動作をする二方バルブ、前記二方バルブの開通動作により前記複数の流体が合流する流体合流部、及び前記流体合流部からスラグ流が流出するスラグ流生成流路、を備えるスラグ流生成装置を基本的な構成とする。
すなわち、常時圧送される複数の流体を一旦界面形成部に貯留し、界面形成部内の界面により分離された領域からそれぞれの流体を流体合流部に向けて交互送液する点に特徴を有する。
上記の基本的な構成は、フロープロセス、バッチプロセスのいずれにも対応し得る。また、本発明は、上記の基本的な構成を多段に構成したスラグ流生成装置を含む。
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<基本構成>
本発明の基本構成を、二相スラグ流の生成をフロープロセスにて行う装置を示す
図2に基づいて、以下に説明する。
[圧送手段(ポンプ)]
流体を圧送する手段(以下、「ポンプ」という。)には、例えば、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプが含まれる。また、気体や液体を問わず流体の圧送を目的とした、
図3に示す陽圧状態の流体ストックタンクとそれに繋がった流量制御器(主にガスの圧送を想定したもの)も、同様にポンプと定義する。
前記ポンプの駆動方式は、スラグ長さを画定する送液量を精密に制御できるように高い圧送力が得られる機械式であることが好ましく、モーターの回転に連動して偏心するカムシャフトによるものであることが好ましい。代表的には、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプが挙げられる。特に、脈流発生を防止するためにヘッド(逆止的に作動する吸引側の弁と吐出側の弁に挟まれた空間を画定する筐体)を複数有するマルチプランジャーポンプが好ましい。
【0024】
本実施形態においては、ポンプAによる流量は、流体Aを流量想定値VAで界面形成部に常時圧送するように設定され、ポンプBによる流量は、流体Bを流量想定値VBで界面形成部に常時圧送するように設定される。
なお本明細書では「流量想定値」、「流量測定値」、「流量設定値」の用語を区別して定義する。
「流量」とは、「単位時間に流れる流体の体積または質量」である。
「流量想定値」は実施者が所望する(送液したい)流量の値である。
「流量測定値」は実施者により測定された流量の値である。例えば後述する段落[0049]に記載の手順で測定される。
「流量設定値」は送液の際にポンプに設定する数値である。ポンプの機械的精度や再現性のほか、流体物性、ポンプの吸入口や吐出口の圧力が送液に影響する。このため実施者が送液する際は、「流量測定値」が「流量想定値」の許容誤差内に収まる範囲でポンプの「流量設定値」を指定することになる。
【0025】
「流量想定値」に近い流量を得るための「流量設定値」の決定の仕方について、キャリブレーション機能のないポンプの場合について説明する。予め複数の流量設定値に対して流量の測定を行い、パラメータフィッティング等で流量設定値と流量測定値の関係を表す近似関数を導出し、近似式y≒f(x)を得る。例えば、y≒f(x)が線形式y=ax+bであれば、(流量設定値)≒(傾き)×(流量測定値)+(切片)である。
近似式y≒f(x)の「流量測定値」を、所望する「流量想定値」に置き換えた式、すなわち(流量設定値)≒f(流量想定値)の式から「流量設定値」を算出し、決定する。
なお、本発明の検討において用いたポンプでは、
図18で示す参考例の流量測定値から分かるように、「流量設定値」と「流量測定値」が良く一致する。これは、上記ポンプが実際に送液する流量がほぼ流量設定値通りであることを示す。したがって、本明細書で記載した試験においては「流量設定値」≒「流量測定値」又は「流量想定値」であるとみなして「流量設定値」を指定した。
【0026】
[流体]
完全相溶する流体同士ではスラグ流を生成しないため、二つの流体A、Bとしては、完全には相溶しない流体を組み合わせる。水相と油相の液-液であってよく、液相と気相の気-液でもよい。液相は液化ガス、例えば液化二酸化炭素であってもよいし、超臨界流体、亜臨界流体、イオン液体であってもよい。
【0027】
二つの流体A、Bの一方が常温常圧で気体である場合、当該流体がポンプのヘッドを通過する際に液化するために、当該流体が通過するヘッドに当該流体の液体状態を保つ温度調節機能及び圧力調節機能を有することが好ましい。
スラグ流を生成し得る好ましい気体としては、31℃以下で、かつ抽出場では液相を保つように平衡温度以下に保たれている二酸化炭素があげられる。
【0028】
水相と二酸化炭素の組み合わせの一例として、ポンプ吐出時は液化二酸化炭素である場合が想定される。その場合、プロセスは二酸化炭素の臨界圧(7.4MPa)以上であることが好ましく、スラグ流領域の下流に背圧弁を設けて、ポンプから背圧弁までの圧力を制御することができる。二酸化炭素は高圧条件下でのみ、有機溶剤の代替が可能となるため、水相中の疎水性有価物は高圧二酸化炭素によって抽出されることが期待される。
【0029】
[界面形成部]
ポンプA、Bにより常時圧送された二つの流体A、Bは、界面形成部に流入し、その内部で分離して界面を形成し、それぞれの分離領域から流出した流体が、流体合流部へ交互に流入する。界面形成部は、二つの流体の密度比によって自然に分離するセトラであっても、何らかの分離手段により二つの流体A、Bを分離する部材であってもよい。後述する実施例1~3を説明する
図4に示すように、二つの流体A、BはT字継手(ユニオンティ)等を介して一つの流入口から一緒に入ってもよいし、
図2、
図3に示すようにそれぞれの流入口から別々に入ってもよい。ただし、流出口は、界面により分離された領域のそれぞれに設けられる。
【0030】
本実施形態において、界面形成部は、理想的には流体A、Bが上下二層に分かれた界面を形成していることが好ましいが、上層と下層とで主たる流体A、Bが異なる状態を保持できるものであればよく、
図5に示す態様が含まれる。
すなわち、界面形成部内の流体A、Bは、エマルジョンや液滴が混ざっていたり、或いは流体塊によって部分的に塞がれ、スラグ状になったりしていてもよい。
また、交互送液に伴う界面形成部内の流体A、Bの体積変動に対応できる範囲であれば、流体A、Bが固体壁(非透過性・透過性を問わず)を介していてもよい。非透過性固体壁は、主にダイヤフラムを想定したもので、例えばZaiput社 液-液/液-ガスセパレーターにおいて総合圧力調節機構として搭載されるものである。透過性固体壁は主に多孔体を想定したもので、例えば特開2023-004718号公報で説明される発明において、「液面調整メッシュ板」として搭載されるものであってよい。
界面形成部では、常時圧送される二つの流体A、Bを一旦貯留してから、流体合流部に交互送液するため、流体の堰き止めが発生せず、ポンプや流路に加圧状態が発生しない。したがって、流体合流部への送液量が流体抵抗の影響を受けにくい。界面形成部は、流体を一旦貯留して流体抵抗を緩和する部位に相当するから、以下、「バッファ部」ともいう。
【0031】
[二方バルブ]
前記バッファ部の二つの流出口にそれぞれ接続された二つの二方バルブは、前記バッファ部から流体合流部へ二つの流体を交互送液する手段である。
N.O.タイプ(Normally Open)の二方バルブと、N.C.タイプ(Normally Closed)の二方バルブとが、前記二つの流出口にそれぞれ接続され、常にどちらか一方のバルブだけが交互に開通動作をするように制御されている。
なお、本発明は流体合流へ流体を交互送液することを目的とするため、二方バルブの機能として全開/全閉の二位置の状態しかとらないON-OFF弁を想定しているが、世の中には弁開度を連続的に変化させる連続制御弁なるものも存在する。想定したスラグ流の発生を実現できるのであればON-OFF弁に変えて連続制御弁を使用しても差し支えない。連続制御弁はON-OFF弁の機能を含む。
【0032】
[流体合流部]
前記二方バルブの開通動作により、二つの流体A、Bは、バルブの開閉周期に応じて交互に流体合流部に送液される。二つの流体A、Bは、一旦前記バッファ部に貯留された後、送液されるため、流体抵抗の影響を受けにくく、ポンプの精度に応じた精密な送液を行うことができる。
なお、前記N.O.タイプとN.C.タイプの「二方バルブ」及び「流体合流部」は、
図6に記載されるように、それらの機能を備えた三方バルブで代替されていても良い。
【0033】
[スラグ流生成流路]
流体合流部に交互送液された二つの流体A、Bは、スラグ流生成流路でスラグ流として流出する。
スラグ流生成流路では、スラグ流における物質移動の促進効果を利用して、反応、分離、又は反応分離が行われる。具体的には、液-液反応、気-液反応、固体触媒反応を含む反応、抽出、吸収、晶析等による分離、又は反応分離である。物質移動の促進効果には、種々の流体物性に応じて流速とスラグ長さに最適点が存在する。本実施形態のスラグ流生成流路においては、送液量(流速)が流体抵抗の影響を受けにくいため、流体物性に応じた該最適点での操作を意図した流速とスラグ長さの精密な制御が可能となる。
【0034】
[装置の材質]
本実施形態に係るスラグ流生成装置は、その構成要素に市販のポンプやバルブ、配管、継手、流路用チューブ等を用いても組み立てることができる。
前記構成要素の材質は、特に規定されない。すなわち、汎用樹脂(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレンテレフタラート(PET))、汎用エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック(ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、芳香族ポリアミド(PPA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ホリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンクロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE))、金属(アルミ、銅、銀、チタン、鉄、ステンレス鋼、真鍮、インコネル、ハステロイ等)、セラミックス(アルミナ、シリカ、石英、パイレックス(登録商標)、ホウケイ酸ガラス等)、及びそれらの複合材料が、例として挙げられる。
【0035】
<循環構成>
本実施形態は、前記の基本構成をバッチプロセスに適用した装置を含む。
図7に示すように、バッチプロセスでは、基本構成のスラグ流生成流路の下流側に別のバッファ部を設け、当該バッファ部の界面上部にて分離した流体AをポンプAの上流側に戻し、当該バッファ部の界面下部にて分離した流体BをポンプBの上流側に戻して、二つの流体A、Bそれぞれを循環させる構成とする。必要回数の循環を繰り返した後、スラグ流生成流路下流側のバッファ部(液―液分離部)で、化学処理を施された流体を液-液分離して回収することができる。
【0036】
<多段構成>
本実施形態は、前記の基本構成を多段に構成した装置を含む。
多段構成には、並流多段、向流多段が含まれる。
多段構成の装置によれば、多段階で流体の化学処理(抽出、化学反応等)を行うことができ、流体に含有される処理物(抽出物、化学反応物等)が段階を追うごとに濃縮されるため、化学処理の収率を上げることができる。
【0037】
[並流多段]
本実施形態に係る並流多段(n段)構成を有するスラグ流生成装置の一例を、以下の
図8に示す。
図8に示すように、各ポンプからそれぞれ流量V
A、V
Bで圧送された流体A、Bが流入するバッファ部0の下流側には、流体合流部、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路、及び前記スラグ生成流路に接続するバッファ部のセットがn段並列配置されている。白表示のバルブと黒表示のバルブは、一方がN.O.タイプ、他方がN.C.タイプであって、交互に開状態となるように制御されている。
バッファ部0に流入した流体Aは、バッファ部0内の界面上部に移動し、そこから開状態のバルブ(白)を介してすべての合流部1,2,・・・nに流入し、そこからスラグ流生成流路1,2,・・・nに流出し、化学処理を受けた後、バッファ部1,2,・・・nに流入し、開状態のバルブ(白)を介してそれぞれのバッファ部1,2,・・・nの界面上部から分離回収される。
一方、バッファ部0に流入した流体Bは、バッファ部内の界面下部に移動し、そこから開状態のバルブ(黒)を介して流体合流部1に流入し、スラグ流生成流路1で化学処理を受けた後、バッファ部1に流入する。続いて流体Bは、バッファ部1の界面下部から開状態のバルブ(黒)を介して隣の流体合流部2に流入し、スラグ流生成流路2で化学処理を受け、バッファ部2に流入する。以下、流体Bは、並列配置された流体合流部、スラグ流生成流路,バッファ部を上流側から順次流通し、合わせてn回の化学処理を受けた後、バッファ部nの界面下部から分離回収される。この場合、バッファ部1、2、・・・nは、化学処理を受けた流体Aの分離機構を兼ね備えているといえる。
【0038】
[向流多段]
本実施形態に係る向流多段(n段)構成を有するスラグ流生成装置の一例を以下の
図9に示す。
図9に示すように、向流多段構成は、各ポンプからそれぞれ流量V
A、V
Bで圧送された流体A、Bがバッファ部0に流入し、バッファ部0の下流側に、流体合流部、前記流体合流部に接続するスラグ流生成流路、及び前記スラグ生成流路に接続するバッファ部のセットがn段並列配置されている点で、並流多段の場合と同じである。しかし、向流多段構成では、流体Aの流路の一部が、下流側から上流側に向かう点で、並流多段の場合と異なっている。
バッファ部0に流入した流体Aは、バッファ部の界面上部から開状態のバルブ(白)を介して最も下流側の流体合流部nに流入し、スラグ流生成流路nで化学処理を受け、バッファ部nに流入した後、バッファ部nの界面上部からバルブ(白)を介して一段前の合流部n-1に戻される。戻された流体Aは、合流部n-1に接続するスラグ流生成流路n-1で化学処理を受け、バッファ部n-1に流入し、界面の上部からバルブ(白)を介して一段前の合流部n-2に戻される。以下、同様にして、流体Aは、並列配置された流体合流部、スラグ流生成流路,バッファ部のセットを一段ずつ逆方向に戻されてn回の化学処理を受けた後、バッファ部1の界面上部から分離回収される。したがって、バッファ部1は、化学処理を受けた流体Aの分離機構を兼ね備えているといえる。
一方、バッファ部0に流入した流体Bは、並流多段の場合と同様の流路をたどり、n回の化学処理を受けた後、バッファ部nの界面下部から分離回収される。
【0039】
[調整弁]
多段構成の段数が多くなると、バルブが開通状態であっても、想定した量の送液が実際にはされないことがある。対策として流路の圧力バランスを調整するために、背圧弁を設置してもよい。また、圧力バランスによっては、逆流が生じることがある。対策として流路に逆止弁を設置するか、圧力バランスを調整するための背圧弁を設置してもよい。
例えば、並流多段では、
図8に示すようにバッファ部0、1、・・・nの上部からバルブ(白)を介して接続される各流路、及びバッファ部nの下部からバルブ(黒)を介して接続される流路に背圧弁を設置してもよい。
向流多段では、
図9に示すようにバッファ部1の上部からバルブ(白)を介して接続される流路、及びバッファ部nの下部からバルブ(黒)を介して接続される流路に背圧弁を設置し、バッファ部2、・・・nの上部からバルブ(白)を介して前段の流体合流部1、・・・n-1に接続される流路、及びバッファ部1、・・・n-1の下部からバルブ(黒)を介して後段の流体合流部2、・・・nに接続される流路に逆止弁を設置してもよい。
なお、バルブ(英: valve)ないし調整弁は、液体や気体の配管など、流体が通る系統において設けられる流れの方向・圧力・流量の制御を行う機器の総称とされる。前述した背圧弁、逆止弁はバルブの一形態であるが、構造を同じくして用途によって呼称を変えて流用されることもある。前述の背圧弁、及び逆止弁は意図した調整ができれば他のバルブを用いても良い。
【0040】
[ポンプの所要台数]
二つの流体を用いる既存の多段構成の化学処理装置では、通常、2台以上の台数のポンプを必要とする。特に向流多段プロセスにおいては段数×2台のポンプを必要とする。
図13に典型的な既存の多段構成を示す。しかし、本実施形態では、流路の圧力バランスを調整することにより、原理的に2台のポンプで化学処理を行うことができる。実際、後述する実施例4(向流多段)において、2台のポンプを用いてスラグ流による化学処理が実施可能であることを確認することができた(
図20参照)。
【0041】
<三相以上のスラグ流を発生させる構成>
ここまで二相スラグの生成を例に説明を記載してきたが、上記の基本構成の要素を応用することで、例えば
図10に示すように三相以上のスラグ流を発生させることも原理上可能である。必ずしも流体1~nをある決まった順序でローテーションして流体合流部に送液する必要はなく、ケースバイケースで順不同で流体合流部に送液するように制御しても良い。
【0042】
<抽出と逆抽出を組み合わせた複合プロセス>
本実施形態においては、例えば、
図11に示すように、上記の基本構成を、抽出と逆抽出を組み合わせた複合プロセスへの適用も含まれる。(例としてペニシリンの工業的抽出プロセスが挙げられる。(「高純度化技術体系 第2巻、p319」を参照。)
既往技術では、抽出工程と逆抽出工程においてそれぞれ段数×2段のポンプが必要となる。例えば、
図14の各2段の向流多段プロセスでは、計8台のポンプが必要である。
ところが、本発明を適用した場合、抽出工程と逆抽出工程において各2台の計4台のポンプで済む。抽出工程のみ場合と同様、段数を増やしても本発明を用いれば原理的にはポンプの台数は計4台で変わらない。さらに、プロセス内に背圧弁等の圧力調整用バルブを組み込んで圧力バランスを調整することで、抽出工程と逆抽出工程をつなぐ抽剤送液用のポンプの省略ができる(すなわち、より少ない計3台のポンプで済む)。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、実施例は、本発明の好適な例を示すものであり、実施例によって本発明が何ら限定されるものではない。実施例における機器の設定値範囲は、本発明の性能限界とは無関係である。
【0044】
<実施例1>
図4に概略を示す構成において、主要な要素機器として、ダブルプランジャーポンプ(日本精密科学NP-KX-220P)2機、二方バルブ2機(SMC株式会社、N.C.タイプ LVM10R3 1機、N.O.タイプ LVM10R4 1機)、バルブ制御用タイマー(オムロン株式会社、H5CX)1機を用いた。
【0045】
一方のポンプに流体A(有機相)であるトルエンを貯留するタンクを、吸引配管を介して接続し、他方のポンプの吸引側に流体B(水相)であるバニリン45mM、NaCl90mMの濃度で蒸留水に溶解させた水溶液を貯留する流体保持部を他の吸引配管を介して接続した。
【0046】
各ポンプの吐出口は、配管を介してユニオンティ(内径約2mm)に接続した。該ユニオンティを、配管を介してバッファ部であるユニオンティ(内径約10mm)内に接続した。すなわち前記両流体は該ユニオンティ(内径約2mm)内で合流し、バッファ部に流入する。該バッファ部のそれぞれの吐出側には吐出配管の途中に二方バルブを設置し、それら2機の二方バルブの配線をバルブ制御用タイマーに繋げた。2機の二方バルブの一方はN.C.タイプであり、もう一方はN.O.タイプである。
【0047】
二方バルブの下流側の吐出配管を内径2mmのユニオンティで構成された流体Aと流体Bの流体合流部に接続し、2機の二方バルブが交互に流体合流部と開通するようにした。前記合流部の下流に内径2mm、長さ1mのコイル状のチューブからなるスラグ流生成流路を接続した。
さらに前記スラグ流生成流路の下流に主な流体抵抗部として、内径を0.5mmに縮径した長さ25mmのチューブ、及びKv値0.025m2のバルブを接続した。
【0048】
流体A及び流体Bの流量をそれぞれ流量想定値4mL/minと意図して、2機のポンプの流量設定値を4mL/minとした。二方バルブの流路が流体合流部と繋がる時間を開時間と定義し、流体A(有機相)の開時間をtor、流体B(水相)の開時間taqと定義する。(tor、taq=(0.10sec、0.10sec)で、二方バルブを動作させた。なお、tor+taqを1周期としたとき、1秒当たりの周期の数(振動数)は、5Hzである。スラグ長さの想定値はそれぞれ約4.2mmである。
【0049】
上記の操作条件のもとで、大気圧、室温下(凡そ101kPa、20℃)で運転し、流体A、流体Bをそれぞれ貯留する流体保持部の質量減少を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ、GF―3002A)によって測定し、流体A、流体Bそれぞれの質量流量[g/min]を算出した。測定した密度は流体Aが0.867g/mL、流体Bが1.00g/mLであった。質量流量を密度で除算することで体積流量[mL/min]を算出した。
流体合流部を通る流体A、流体Bの流量測定値はそれぞれ3.960mL/min、3.930mL/minであった。
【0050】
<実施例2>
実施例1において、スラグ流生成流路の下流に接続して流体抵抗部を構成する「内径0.5mm長さ25mmのチューブ」を、「内径1.0mm長さ25mmのチューブ」に変更し、流体抵抗部の抵抗を低減した以外は、実施例1と同様の運転を行った。
流体合流部を通る流体A、流体Bの流量測定値はそれぞれ3.998ml/min、3.996ml/minであった。
【0051】
<参考例>
図15に概略を示す構成において、主要な要素機器として、実施例1,2と同じダブルプランジャーポンプ(日本精密科学NP-KX-220P)2機を用い、実施例1と同様の流体A、流体Bを用い、それぞれの流量について流量想定値4mL/minを意図してポンプA、ポンプBの流量設定値を4mL/minに設定し、運転した。
実施例1と同様にして、流体A、流体Bの体積流量を算出したところ、流体A、流体Bの流量測定値はそれぞれ3.960ml/min、3.946ml/minであった。
【0052】
<比較例1>
図16に概略を示す構成において、主要な要素機器として、ダブルプランジャーポンプ(日本精密科学NP-KX-220P)2機、二方バルブ4機(SMC株式会社、N.C.タイプ LVM10R3 2機、N.O.タイプ LVM10R4 2機)、バルブ制御用タイマー(オムロン株式会社、H5CX)1機を用いた。なお、これは先行技術である特許文献2(特開2023-013422号公報)に基づく構成である。
【0053】
流体保持部には、実施例1と同様の流体A、流体Bを保持した。
各ポンプの吐出側を吐出配管と分岐路を介して内径2mmのユニオンティで構成された流体Aと流体Bの流体合流部及び送液元の流体保持部に接続した。それぞれの分岐路と流体合流部の間、及びそれぞれの分岐路と流体保持部の間に二方バルブを1機ずつ設置した。それら4機の二方バルブの配線をバルブ制御用タイマーに繋げた。4機の二方バルブのうち2機はN.C.タイプであり、2機はN.O.タイプである。なお、前記4機の二方バルブについて、二方バルブの下流側の吐出配管を内径2mmのユニオンティで構成された流体Aと流体Bの流体合流部に接続し、4機の二方バルブの交互開閉によって、片方の液だけが流体合流部を流入し、その間もう片方の液が送液元の流体保持部に戻されるように開通するよう設置した。
【0054】
前記流体合流部の下流に内径2mm、長さ1mのコイル状のチューブからなるスラグ流生成流路を接続した。
スラグ流生成流路の下流には、流体抵抗部として実施例1と同じ流路及びチューブを接続した。
上記の装置を用いて、実施例1と同様の条件で運転を行った。ただし、2機のポンプの流量設定値については、流体A及び流体Bを合わせた流量想定値8mL/minを意図して8mL/minに設定した。これは本比較例においては、流体合流部への送液とリサイクル流路への送液を1台のポンプで担う必要があるためである。すなわち、バルブ開閉に由来してそれぞれの流体は流体合流部に間欠的に流れるので、流体合流部へのそれぞれの流体の正味の(すなわち1周期以上での時間平均の)流量想定値を、実施例1、2と同様の4mL/minとなるようにするためである。
【0055】
実施例1と同様にして、比較例1における流体合流部を通る流体A、流体Bの流量測定値を算出したところ、それぞれ2.768mL/min、3.580mL/minであった。
【0056】
<比較例2>
比較例1の流体抵抗部を形成する「内径0.5mm長さ25mmのチューブ」を「内径1.0mm長さ25mmのチューブ」に変更した点以外は、比較例1と同様にした装置を用い、比較例1と同様の条件で運転を行った。
流体合流部を通る流体A、流体Bの流量測定値の算出結果は、それぞれ2.826mL/min、3.637mL/minであった。
【0057】
実施例1、2、比較例1、2及び参考例から得られた流体合流部におけるポンプの送液量(流量測定値)の結果を
図18にまとめた。
【0058】
参考例における流量が当該ポンプの送液量の基準となる。当該ポンプの流量精度は±0.5%(メーカー回答値)であり、参考例の流量を基準としたとき、実施例1,2における送液量は、ポンプの送液精度から考えられる誤差の範囲内(最大2%)に収まり、送液精度が確保されていることがわかる。
【0059】
流体抵抗の条件が同じである実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2とを比較すると、比較例1,比較例2では、ポンプの送液精度から判断して有意に流体合流部への流量が低下していた。これに対して、実施例1、実施例2では、参考例と遜色のない流体合流部への流量が得られた。
【0060】
<実施例3-1~3-5>
実施例1と同様の装置を用い、流体A、流体Bを足し合わせた流量想定値が4mL/minのもとで、有機相スラグ長さL
A及び水相スラグ長さL
Bがそれぞれ(L
A、L
B)=(2.12mm、2.12mm)、(6.36mm、6.36mm)、(10.6mm、10.6mm)、(2.12mm、10.6mm)、(10.6mm、2.12mm)に制御されることを想定する条件下で送液を行い、実施例3―1~3-5とした。ただし、水相はイオン交換水とし、流体合流部の下流に接続したスラグ流生成流路は内径2mm、長さ1mのストレート状のチューブとした。
なお、実施例3-1~3-5における流路の開時間は、それぞれ(tor、taq)=(0.10sec、0.10sec)、(0.30sec、0.30sec)、(0.50sec、0.50sec)、(0.10sec、0.50sec)、(0.50sec、0.10sec)である。
結果を
図19に示す。
【0061】
実測したスラグ長さの平均値は、想定値の-4.2%~+13.9%の範囲に収まった。平均値の標準偏差は、±1.05%~±17.6%の範囲に収まった。
図19の写真画像と数値データから、本発明によりスラグ流の長さを制御できることが確認できた。
【0062】
<実施例4>
図20に概略を示す多段構成の装置において、主要な要素機器として、ダブルプランジャーポンプ(日本精密科学NP-KX-220P)2機、二方バルブ6機(SMC株式会社、N.C.タイプ LVM10R3 3機、N.O.タイプ LVM10R4 3機)、バルブ制御用タイマー(オムロン株式会社、H5CX)1機を用いた。流体A(有機相)、流体B(水相)として、実施例1と同じものを用いた。
【0063】
各ポンプの吐出口を、配管を介してそれぞれ別のユニオンティ(内径約2mm)に接続し、各前記ユニオンティを、バッファ部0を構成するチューブ(内径2mm)の両端にそれぞれ接続した。
一方の前記ユニオンティの排出側を流体合流部1に、もう一方の前記ユニオンティの排出側を流体合流部2に接続した。流体合流部1とバッファ部1、及び流体合流部2とバッファ部2の間はそれぞれ内径2mm長さ1mのチューブで接続した。
【0064】
バッファ部0の一方の排出口を流体合流部1に、バッファ部1の一方の排出口を流体合流部2に配管を介して接続した。なおここでの排出口とは、主として排出させたい一方の流体の排出口であり、
図20においては流体Bの排出口にあたる。バッファ部0のもう一方の排出口を流体合流部2に、バッファ部2のもう一方の排出口を流体合流部1に配管を介して接続した。なお、ここでのもう一方の排出口とは、
図20においては流体Aの排出口にあたる。なお、流体合流部1、流体合流部2は、内径約2mmのユニオンティで構成され、バッファ部1,バッファ部2は内径約10mmのユニオンティで構成される。
バッファ部0と流体合流部2の間、バッファ部1に接続される外部への排出配管の途中、バッファ部2と流体合流部1の間に、それぞれN.O.タイプの二方バルブ(白)を設置した。
バッファ部0と流体合流部1の間、バッファ部1と流体合流部2の間、バッファ部2に接続される外部への排出配管の途中に、それぞれN.C.タイプの二方バルブ(黒)を設置した。
それら6機の二方バルブの配線をバルブ制御用タイマーに繋げた。
なお、二方バルブは、N.O.タイプとN.C.タイプを逆転して設置することが可能である。
【0065】
圧力バランスを調整するために、バッファ部1と流体合流部2の間と、バッファ部2と流体合流部1の間に、流れが流体合流部に向かうようにそれぞれ逆止弁を設置した。また、バッファ部1に接続される外部への排出配管の途中に設置された二方バルブの下流側、及びバッファ部2に接続される外部への排出配管の途中に設置された二方バルブの下流側にそれぞれ背圧弁を設置した。
流体A、流体Bの流量、二方バルブの動作は、実施例1と同じ条件で上記装置を運転した。
【0066】
屈折率計(ハンナインスツルメンツ社、HI 96800)により流体B(原液)中のバニリン濃度と、回収した水相側に残存するバニリン濃度をそれぞれ測定し、以下の式を用いてバニリンの抽出率を算出した。
(1-(VaqCaq)/(Vaq,0Caq,0))×100[%]
Caq,0:原液中のバニリン濃度[wt%]
Caq:回収した水相側に残存するバニリン濃度[wt%]
Vaq,0:原液の流量[g/min]
Vaq:回収した水相側の流量[g/min]
【0067】
流体B(原液)のバニリン濃度は、0.680wt%、水相側に残存するバニリン濃度は0.0667wt%であった。原液の流量は3.95g/minであり、バニリン濃度が小さいことからVaq≒Vaq,0とみなして上記式に基づき算出すると、抽出率は90.1%だった。なお、本実施例の条件に相当する(水相の体積流量)/(有機相の体積流量)≒1、(分配係数)=4.1のときの理論上の平衡抽出率は95.4%である。
【0068】
実施例4による多段構成の効果を検証するために、実施例1と同様の単段構成であるが、スラグ流の滞留時間を実施例4と同じにするために、流体合流部の下流に接続するチューブの長さを1mから2mに変更したスラグ流生成装置を用い、実施例4と同様の流体、濃度、流量設定値の条件で運転を行った。抽出率を算出したところ、76.1%であった。なお、この条件に相当する(水相の体積流量)/(有機相の体積流量)≒1、分配係数4.1のときの理論上の平衡抽出率は80.3%である。
【0069】
以上の結果から、実施例4による多段構成の装置では、単段装置による抽出率76.1%を上回り、さらにその平衡抽出率80.3%を上回ったことから、多段装置による抽出の効果が確認された。また
図21に示すように、流体合流部1、流体合流部2からスラグ流が発生する様子が見られたことから、スラグ流生成機能を有することも確認された。
本発明に係るスラグ流生成装置は、界面形成部を備えることにより、流路抵抗に起因する送液量の低下を改善しつつ、流速とスラグ長さを独立して安定的に制御することができる。
また、本発明を多段プロセスに適用することにより、段数にかかわらず、2台のポンプで動作させることができ、また、界面形成部を液-液分離デバイスとして利用することができ、しかも化学反応の効率を高めることができる。
したがって、本発明により多種多様な機能性化学品を含む化学物質に関する反応から分離精製までのプロセスを連続的に行うことが可能となる。また、フロープロセスへの適用に限らず、バッチプロセスで実施される反応または抽出分離等に適用することでも、高速、低コストの化学処理を行うことが期待される。