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特開2024-162290極性基含有オレフィン共重合体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162290
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】極性基含有オレフィン共重合体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 232/04 20060101AFI20241114BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20241114BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20241114BHJP
   C08F 4/80 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08F232/04
C08F8/12
C08F8/44
C08F4/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077656
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】野崎 京子
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】柘植 一輝
(72)【発明者】
【氏名】丹那 晃央
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J015DA09
4J100AA03P
4J100AA04P
4J100AA07P
4J100AA09P
4J100AA16P
4J100AA17P
4J100AA19P
4J100AA21P
4J100AR11Q
4J100BA16H
4J100BA17H
4J100BA17Q
4J100BA20Q
4J100CA04
4J100CA31
4J100FA08
4J100HA08
4J100HA31
4J100HA61
4J100HB39
4J100HC27
4J100HE07
4J100HE14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規なアイオノマーである極性基含有オレフィン共重合体を提供する。
【解決手段】炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、下記一般式(I)で表される構造単位(B)とを含み、該構造単位(B)の少なくとも一部は、下記一般式(I)中のMが金属イオンであることを特徴とする極性基含有オレフィン共重合体。

(一般式(I)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4の炭化水素基であり、nは0~3の整数であり、Mは水素原子、又は金属イオンである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、
下記一般式(I)で表される構造単位(B)とを含み、
該構造単位(B)の少なくとも一部は、下記一般式(I)中のMが金属イオンであることを特徴とする極性基含有オレフィン共重合体。
【化1】
(一般式(I)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4の炭化水素基であり、nは0~3の整数であり、Mは水素原子、又は金属イオンである。)
【請求項2】
前記一般式(I)において、前記nが0であることを特徴とする、請求項1に記載の極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項3】
前記Mにおける金属イオンが、前記Mにおける金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項4】
前記構造単位(A)がプロピレンに由来する構造単位であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法であって、
周期表第4~10族の遷移金属触媒の存在下で、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種とを共重合する工程と、得られた共重合体のアルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換することによりカルボキシ基含有共重合体を得る工程と、前記カルボキシ基含有共重合体に金属イオンを反応させることにより、前記カルボキシ基の少なくとも一部を金属含有カルボン酸塩に変換する工程とを有することを特徴とする、極性基含有オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属触媒が、ニッケル又はパラジウム金属にキレート性ホスフィン化合物が配位した遷移金属触媒であることを特徴とする、請求項5に記載の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な極性基含有オレフィン共重合体及びその製造方法に関し、詳しくは、金属カルボン酸塩を有するノルボルネン構造単位を含む新規な極性基含有オレフィン共重合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン重合体及びプロピレン重合体などのオレフィン系重合体は、樹脂材料の中で物性や成形性などの諸性質に優れ、経済性や環境問題適合性なども高い。そのため、オレフィン系重合体は、非常に汎用されかつ重要な産業資材である。
しかし、オレフィン系重合体は極性基を持たないため、他の材料との接着性や印刷適性、或いはフィラーなどとの相溶性の物性が要求される用途への適用は困難であった。
そのため近年、ポリオレフィンに極性基が導入された極性基含有オレフィン共重合体のニーズが増加し、種々の共重合体例が報告されている。
【0003】
極性基含有オレフィン共重合体の1種として、オレフィン系重合体の高機能化のために、金属イオンによる凝集力を利用した金属イオン含有ポリオレフィン(アイオノマー)が知られている。アイオノマーとしては、ポリエチレンをベースポリマーとしたものが工業的に製造されている。近年では特に、触媒重合法によるエチレンと極性モノマーの共重合が開発されたことに端を発し、これを応用した直鎖状ポリエチレン系アイオノマーが開発されている(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
ポリエチレンをベースポリマーとしたアイオノマーの主な用途としては、多層フィルム材が挙げられる。しかしながらポリエチレン系アイオノマーは、隣接する層がエチレン系重合体でないと、層同士の親和性が足りず剥離しやすいという問題がある。例えば、プロピレン系等、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系の多層フィルムに用いるためには、プロピレン系アイオノマー等、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系アイオノマーが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-112623号公報
【特許文献2】特開2020-117712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系重合体の高機能化のために、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたアイオノマーが望まれている。しかしながら、プロピレンのようなエチレン以外のα-オレフィンは、アクリル酸エステルやアクリル酸と共重合することが困難である。そのため、プロピレンのようなエチレン以外のα-オレフィンは、エチレンと同様にアクリル酸エステルやアクリル酸との共重合体のエステル基やカルボキシ基をカルボン酸塩に変換することにより、アイオノマーを得ることが困難である。従って、ポリプロピレンをベースポリマーとしたアイオノマーなど、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたアイオノマーは、従来、製造が困難であった。
【0007】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系重合体の高機能化のために、新規なアイオノマーである金属カルボン酸塩を有するノルボルネン構造単位を含む新規な極性基含有オレフィン共重合体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の[1]~[6]に関する。
[1] 炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、
下記一般式(I)で表される構造単位(B)とを含み、
該構造単位(B)の少なくとも一部は、下記一般式(I)中のMが金属イオンであることを特徴とする極性基含有オレフィン共重合体。
【0009】
【化1】
(一般式(I)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4の炭化水素基であり、nは0~3の整数であり、Mは水素原子、又は金属イオンである。)
【0010】
[2] 前記一般式(I)において、前記nが0であることを特徴とする、前記[1]に記載の極性基含有オレフィン共重合体。
[3] 前記Mにおける金属イオンが、前記Mにおける金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の極性基含有オレフィン共重合体。
[4] 前記構造単位(A)がプロピレンに由来する構造単位であることを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の極性基含有オレフィン共重合体。
【0011】
[5] 前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法であって、
周期表第4~10族の遷移金属触媒の存在下で、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種とを共重合する工程と、得られた共重合体のアルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換することによりカルボキシ基含有共重合体を得る工程と、前記カルボキシ基含有共重合体に金属イオンを反応させることにより、前記カルボキシ基の少なくとも一部を金属含有カルボン酸塩に変換する工程とを有することを特徴とする、極性基含有オレフィン共重合体の製造方法。
[6] 前記遷移金属触媒が、ニッケル又はパラジウム金属にキレート性ホスフィン化合物が配位した遷移金属触媒であることを特徴とする、前記[5]に記載の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系重合体の高機能化のために、新規なアイオノマーである金属カルボン酸塩を有するノルボルネン構造単位を含む新規な極性基含有オレフィン共重合体、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1の極性基含有オレフィン共重合体e1の13CNMRスペクトルを示す。
図2図2は、図113CNMRスペクトルの化学シフト42ppm-12ppmの拡大図を示す。
図3図3は、図113CNMRスペクトルの化学シフト79.9ppm-78.8ppmの拡大図を示す。
図4図4は、図113CNMRスペクトルの化学シフト18.5ppm-22.0ppmppmの拡大図を示す。
図5図5は、実施例1の極性基含有オレフィン共重合体h1のFTIRスペクトルを示す。
図6図6は、実施例1の極性基含有オレフィン共重合体(アイオノマー)1のFTIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の極性基含有オレフィン共重合体について、項目毎に詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの各々を示す。
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また本明細書において数値範囲を示す上限値と下限値は任意の組み合わせを採用できる。
【0015】
1.極性基含有オレフィン共重合体
本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、
下記一般式(I)で表される構造単位(B)とを含み、
該構造単位(B)の少なくとも一部は、下記一般式(I)中のMが金属イオンであることを特徴とする。
【0016】
【化2】
(一般式(I)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4の炭化水素基であり、nは0~3の整数であり、Mは水素原子、又は金属イオンである。)
【0017】
本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、金属カルボン酸塩を有するノルボルネン構造単位を含む新規な極性基含有オレフィン共重合体であって、新規なアイオノマーであり、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系重合体の高機能化に寄与する。
【0018】
前述のように、プロピレンのようなエチレン以外のα-オレフィンは、アクリル酸エステルやアクリル酸と共重合することが困難である。そのため、プロピレンのようなエチレン以外のα-オレフィンは、エチレンと同様にアクリル酸エステルやアクリル酸との共重合体からアイオノマーを得ることは困難である。従って、ポリプロピレンをベースポリマーとしたアイオノマーなど、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたアイオノマーは、従来、製造が困難であった。
これに対して本発明においては、アルコキシカルボニル基含有ノルボルネン化合物をコモノマーとして用い、プロピレンのようなエチレン以外のα-オレフィンと共重合することにより、ポリプロピレン等にアルコキシカルボニル基が導入された共重合体を得ることができ、当該共重合体に含まれるアルコキシカルボニル基を金属含有カルボン酸塩に変換することにより、ポリプロピレンをベースポリマーとしたアイオノマーなど、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたアイオノマーを製造することができる。
本発明の新規なアイオノマーは、ノルボルネン由来の構造単位に金属含有カルボン酸塩を有することから、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系重合体において、金属含有カルボン酸塩の含有量を多くしやすい。
本発明の新規なアイオノマーは、従来のポリエチレンをベースポリマーとしたアイオノマーと比べて、高いガラス転移温度(Tg)を有することが可能であり、またノルボルネン由来の構造単位を含むことにより、その含有量によってアイオノマーの熱物性を制御することができる。
また、本発明の新規なアイオノマーによれば、ポリプロピレン系等、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたポリオレフィン系の多層フィルムに好適に用いることができる。その他にも従来エチレン系アイオノマーに用いられていた用途のほか、より高いガラス転移温度を有することにより、その特長を活かしてさらに応用範囲を広げることができる。
【0019】
(1)構造単位(A)
構造単位(A)は、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位である。
構造単位(A)を誘導する本発明に用いられるモノマー(A)は、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種である。炭素数3~20のオレフィンは、鎖状オレフィンであっても環状オレフィンであってもよく、炭素数3~20のα-オレフィン及び炭素数4~20の環状オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
本発明に用いられる炭素数3~20のα-オレフィンは、構造式:CH=CHRで表される炭素数3~20のα-オレフィン(ここでRは炭素数1~18の炭化水素基であり、直鎖構造であっても分岐を有していてもよい)、より好ましくは、炭素数3~12のα-オレフィンである。
また、炭素数4~20の環状オレフィンは、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0020】
モノマー(A)の具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、及びノルボルネン等が挙げられる。モノマー(A)としては、重合体の製造効率の点から、中でも、プロピレン、1-ブテン、及びノルボルネンからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、更に、プロピレンであることが好ましい。
また、構造単位(A)は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0021】
二種の組み合わせとしては、プロピレン-1-ブテン、プロピレン-1-ヘキセン、プロピレン-1-オクテン、プロピレン-ノルボルネンなどに由来する構造単位が挙げられる。
三種の組み合わせとしては、プロピレン-1-ブテン-1-ヘキセン、プロピレン-1-ブテン-1-オクテンに由来する構造単位などが挙げられる。
【0022】
本発明においては、構造単位(A)に用いられるモノマー(A)としては、好ましくは、プロピレンを必須で含み、必要に応じて1種以上の炭素数4~20のα-オレフィンをさらに含んでもよい。
モノマー(A)中のプロピレンは、モノマー(A)全体100mol%に対して、65~100mol%であってよく、80~100mol%であってよく、90~100mol%であってよく、100mol%であってもよい。
【0023】
(2)構造単位(B)
構造単位(B)は、下記一般式(I)で表される構造単位であり、該構造単位(B)の少なくとも一部は、下記一般式(I)中のMが金属イオンである。
【0024】
【化3】
(一般式(I)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4の炭化水素基であり、nは0~3の整数であり、Mは水素原子、又は金属イオンである。)
【0025】
一般式(I)中、Rにおける炭素数1~4の炭化水素基としては、例えば、直鎖、分岐、環状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。前記炭素数1~4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基等を挙げることができる。
一般式(I)中、Rは、合成または調達の容易さの点から、水素原子、メチル基、又はエチル基であってよく、水素原子又はメチル基であってよく、水素原子であってよい。
【0026】
一般式(I)において、nはメチレン基の数を表し、nが0である場合はメチレン基を介さずノルボルネン骨格に直接COMが結合している構造を表し、nが3である場合はトリメチレン基(-CHCHCH-)を介してノルボルネン骨格にCOMが結合している構造を表す。
一般式(I)において、nは0~3の整数であるが、0~2の整数であってよく、0~1の整数であってよく、合成または調達の容易さの点から、0であってもよい。
【0027】
一般式(I)中のMは水素原子、又は金属イオンであるが、構造単位(B)の少なくとも一部はMが金属イオンである。すなわち、本発明の極性基含有オレフィン共重合体には必ず金属イオンが含まれる。
【0028】
一般式(I)中、Mにおける金属イオンは、特に限定されず、従来公知のエチレン系アイオノマーに用いられる金属イオンを含むことができる。中でも、Mにおける金属イオンは、周期表第1族、第2族、第12族、及び第13族からなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンであってよく、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種であってよく、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
一般式(I)中、Mは、これらの金属イオンを1種、または2種以上混合して含むことができる。
Mが2価以上の金属イオンの場合、対アニオンが当該共重合体のカルボキシラートでもよく、またそれ以外のアニオンであってもよい。
【0029】
一般式(I)中のMは水素原子又は金属イオンであって、その一部に金属イオンを必須で含有するが、Mの全てが金属イオンでなくてもよい。
金属イオンの含有量としては、本発明の極性基含有オレフィン共重合体の用途に応じて適宜選択することができる。金属イオンの含有量、すなわち一般式(I)中のMが金属イオンである割合(中和度)としては、構造単位(B)全体100mol%に対して、下限値が5mol%以上であってよく、10mol%以上であってよく、20mol%以上であってよく、上限値は100mol%であってよいが、90mol%以下であってよく、80mol%以下であってよい。
なお、本発明の極性基含有オレフィン共重合体において一般式(I)中のMが金属イオンである割合(中和度)は、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて求めることができる。Mが水素原子であるときのC=O伸縮振動ピークが1695cm-1~1705cm-1に、Mが金属イオンであるときのC=O伸縮振動ピークが1550cm-1~1600cm-1に、それぞれ現れることから、それらの吸光強度の比率からMが金属イオンである割合(中和度)を求めることができる。
中和度は、具体的には後述の実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0030】
(3)その他の構造単位(C)
本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、前記構造単位(A)、及び構造単位(B)とは異なる、その他の構造単位(C)をさらに含んでいてもよい。その他の構造単位(C)としては、例えば、後述する周期表第4~10族の遷移金属触媒の存在下でモノマー(A)と共重合可能なモノマー(C)由来の構造単位であってよい。そのようなモノマー(C)由来の構造単位としては、例えば、下記一般式(I’)で表される構造単位、3-酢酸ブテニル、3-シアノプロペン、3-クロロプロペン、3-(メチルチオ)-1-プロペン、3-(メチルスルフィニル)-1-プロペン、3-(メチルスルホニル)-1-プロペン、2-プロペン-1-スルホン酸メチル、2-プロペニルホスホン酸ジメチル、5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、2-ノルボルネン-5-メタノール、9-エポキシ-1-デセン、炭酸ビニレン、ウンデセン酸エステル、及びウンデセノール等のモノマー(C)由来の構造単位を挙げることができる。なお、本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、エチレン由来の構造単位を含まなくてよい。
【0031】
【化4】
(一般式(I’)中、R、n、及びRは、後述の一般式(1)と同様である。)
【0032】
(4)極性基含有オレフィン共重合体
本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、前記一般式(I)で表される構造単位(B)とを含むものである。
本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、構造単位(A)及び構造単位(B)をそれぞれ少なくとも1種含有し、合計2種以上のモノマーに由来する構造単位を含むことが必要である。
【0033】
本発明において、極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位(A)の含有量は、所望の物性に応じて適宜選択されればよい。極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位(A)の含有量は、例えば、構造単位全体100mol%に対して、下限値が85.0mol%以上であってよく、90.0mol%以上であってよく、好ましくは93.0mol%以上であってよく、95.0mol%以上であってよく、96.0mol%以上であってもよい。一方、上限値は99.99mol%以下であってよく、99.9mol%以下であってよく、99.0mol%以下であってよく、98.0mol%以下であってもよい。
【0034】
極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位(B)の含有量は、平均分子量や所望の物性に応じて適宜選択されればよい。極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位(B)の含有量は、例えば、構造単位全体100mol%に対して、下限値が0.01mol%以上であってよく、0.1mol%以上であってよく、1.0mol%以上であってよく、2.0mol%以上であってもよい。一方、上限値は6.0mol%以下であってよく、好ましくは5.0mol%以下であってよく、4.0mol%以下であってもよい。
【0035】
本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、さらに、その他の構造単位(C)を少なくとも1種含むものであってもよい。
本発明の極性基含有オレフィン共重合体がその他の構造単位(C)を含む場合、極性基含有オレフィン共重合体中のその他の構造単位(C)の合計含有量は、構造単位全体100mol%に対して、上限値は10mol%以下であってよく、好ましくは6mol%以下であってよく、より好ましくは2mol%以下であってよい。本発明の極性基含有オレフィン共重合体はその他の構造単位(C)の合計含有量が0mol%であってよい。すなわち、極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位(A)と構造単位(B)の合計含有量が、構造単位全体100mol%に対して、90mol%以上であってよく、94mol%以上であってよく、98mol%以上であってよく、100mol%であってもよい。
【0036】
なお、各モノマー1分子に由来する構造を、極性基含有オレフィン共重合体中の1構造単位と定義する。
そして、極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位全体を100mol%とした時に各構造単位の比率をmol%で表したものが構造単位量である。
【0037】
本発明の極性基含有オレフィン共重合体では、構造単位(A)、構造単位(B)、及び必要に応じて含まれるその他の構造単位等のランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。これらの中では、構造単位(B)を多く含むことが可能なランダム共重合体であってよい。
【0038】
なお、構造単位量は、以下の方法で制御することが可能である。
1)触媒の選択
2)重合時に添加する各構造単位を誘導するモノマーの量
3)重合圧力
4)重合温度
共重合体中の構造単位(B)の構造単位量を増加させる具体的手段としては、重合時に添加するモノマー(B)の量の増加、モノマー(A)の量の減少、及び、重合温度の上昇等が有効である。例えば、これらの因子を調節し、目的とするコポリマー領域に制御することが求められる。
【0039】
本発明における極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位量はH-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルを用いて求められる。NMRスペクトルは後述の実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0040】
本発明における極性基含有オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常1,000~2,000,000、好ましくは2,000~1,500,000、更に好ましくは3,000~1,000,000、より好ましくは4,000~800,000、より更に好ましくは5,000~800,000の範囲である。Mwが1,000以上であると機械的強度や耐衝撃性などの物性が充分となりやすく、Mwが2,000,000以下であると成形加工が困難となることを抑制しやすい。
【0041】
本発明における極性基含有オレフィン共重合体の数平均分子量(Mn)は、通常1,000~1,000,000、好ましくは1,000~750,000、更に好ましくは1,500~500,000、より好ましくは2,000~400,000、より更に好ましくは2,500~400,000の範囲である。Mnが500以上であると機械的強度や耐衝撃性などの物性が充分となりやすく、Mnが1,000,000以下であると成形加工が困難となることを抑制しやすい。
【0042】
本発明における極性基含有オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.5~5.0の範囲であってよく、好ましくは2.0~4.0、更に好ましくは2.2~3.5の範囲である。Mw/Mnが1.5以上であると各種加工性が充分になりやすく、5.0以下であると機械物性が良好になりやすい。
【0043】
本発明における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる。
本発明におけるGPCの測定は、後述の実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0044】
本発明における極性基含有オレフィン共重合体のガラス転移温度(Tg)は、-20℃~30℃の範囲であってよく、-10℃~20℃の範囲であってよい。本発明における極性基含有オレフィン共重合体のガラス転移温度(Tg)は、オレフィン共重合体のモノマーの種類と、ノルボルネン化合物の選択及びその含有量により、適宜調整することができる。
本発明におけるガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121-2012に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)にて測定された中間点ガラス転移温度とする。
本発明におけるガラス転移温度(Tg)の測定は、後述の実施例に記載した方法によって測定することができる。
【0045】
2.極性基含有オレフィン共重合体の製造方法
本発明の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法は、前記本発明の極性基含有オレフィン共重合体を製造する方法であって、周期表第4~10族の遷移金属触媒の存在下で、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種とを共重合する工程と、得られた共重合体のアルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換することによりカルボキシ基含有共重合体を得る工程と、前記カルボキシ基含有共重合体に金属イオンを反応させることにより、前記カルボキシ基の少なくとも一部を金属含有カルボン酸塩に変換する工程とを有することを特徴とする。
【0046】
(1)共重合工程
本発明の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法においては、まず、周期表第4~10族の遷移金属触媒の存在下で、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種とを共重合する工程を有する。
【0047】
(1-1)触媒
前記本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、周期表第4~10族の遷移金属触媒を含む触媒の存在下で重合してよい。この場合、前記構造単位(A)と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体を製造しやすい。当該アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)は、前記構造単位(B)の前駆体の構造単位となり得る。
【0048】
前記周期表第4~10族の遷移金属触媒を含む触媒としては、前記構造単位(A)を誘導する炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種とアルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種とを重合させることが可能なものであれば特に限定されない。遷移金属触媒は、例えば、周期表第5~10族の遷移金属化合物であってよく、さらに、キレート性配位子を有する周期表第5~10族の遷移金属化合物が挙げられる。
【0049】
好ましい遷移金属の具体例として、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオビウム、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、白金、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、及びパラジウムなどが挙げられる。これらの中で好ましくは、第8~10族の遷移金属であり、さらに好ましくは第10族遷移金属である。当該第10族遷移金属としては、ニッケル、パラジウム、及び白金が挙げられる。特に好ましくはニッケル(Ni)、及びパラジウム(Pd)である。これらの遷移金属は、単一であっても複数を併用してもよい。
【0050】
キレート性配位子は、P、N、O、C、及びSからなる群より選択される少なくとも2個の原子を有しており、二座配位(bidentate)又は多座配位(multidentate)であるリガンドを含み、電子的に中性又は陰イオン性である。Brookhartらによる総説に、その構造が例示されている(Chem.Rev.,2000,100,1169)。
好ましくは、二座アニオン性P、O配位子として、例えば、リンスルホナート、リンカルボキシラート、リンフェノキシド、リンアルコキシド、リンエノラートが挙げられる。また、二座アニオン性N、O配位子として、例えば、サリチルアルドイミナートやピリジンカルボキシラートが挙げられる。そして、二座アニオン性C、O配位子として、例えば、カルベンフェノキシド、カルベンアルコキシド、カルベンカルボキシラートが挙げられる。その他に、ジイミン配位子、ジフェノキシド配位子、ジアミド配位子が挙げられる。
【0051】
重合体の製造効率、重合体の分子量、並びに前記モノマー(A)及びアルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種との共重合性の点から、前記遷移金属を含む触媒としては、第8族~第10族遷移金属からなる群より選ばれる後周期遷移金属を含む触媒であることが好ましい。中でも、第10族遷移金属を含む触媒であることが好ましい。更に、第10族遷移金属を含む触媒であり、当該10族遷移金属への配位点として一つ以上のリン原子または酸素原子を含むキレート配位子を有することが好ましい。
【0052】
重合体の製造効率、重合体の分子量、並びに前記モノマー(A)及びアルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種との共重合性の点から、前記遷移金属を含む触媒としては、中でも、下記一般式(101)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。また、ニッケル又はパラジウム金属にキレート性ホスフィン化合物又はキレート性カルベン化合物が配位した遷移金属触媒であってよい。
【0053】
【化5】
(一般式(101)中、Mは第10族遷移金属を示す。QはA[-S(=O)-O-]M、A[-C(=O)-O-]M、A[-O-]M、A[-P(=O)(R)-O-]M、又はA[-S-]Mの「[ ]」の中に示される2価の基を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を示す(ただし、両側のA、Mは基の結合方向を示すために記載している)。Aは、Qとリン原子を連結する炭素数1~30の2価の炭化水素基で置換基を有していてもよい。Lは金属から脱離可能な0価の配位子を示す。R11は水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を示す。R12とR13はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を示す。R11とLは環を形成してもよく、R12とR13は環を形成してもよく、R12又はR13はAと結合して環を形成してもよい。)
【0054】
一般式(101)中、Mは第10族遷移金属を示し、中でも、Ni、又はPdであることが好ましく、これらの中でも本発明の共重合の製造効率の点から、Pdが好ましい。
Qは、-S(=O)-O-、-C(=O)-O-、-O-、-P(=O)(R)-O-、又は-S-で示される2価の基を表し、Mに1電子配位する部位である。前記各基の左側がAに結合し、右側がMに結合している。これらの中でも触媒活性の面から、Qは、-S(=O)-O-が特に好ましい。
Rは置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を示し、後述のR11における置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基と同様であってよい。
【0055】
Aは、Qとリン原子を連結する炭素数1~30の2価の炭化水素基であり、当該炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
炭素数1~30の2価の炭化水素基としては、好ましくは、炭素数1~12の2価の炭化水素基であり、より好ましくはアルキレン基、及びアリーレン基等、特に好ましくはアリーレン基が挙げられる。
【0056】
Aにおける炭化水素基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、-ORα、-COα、-COM’、-CON(Rβ、-CORα、-SRα、-SOα、-SORα、-OSOα、-PO(ORα2-y(Rβ、-CN、-NHRα、-N(Rα、-Si(ORβ3-x(Rβ、-OSi(ORβ3-x(Rβ、-NO、-SOM’、-POM’、-P(O)(ORαM’、またはエポキシ含有基等が挙げられる(ここで、Rβは、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表し、Rαは、炭素数1~20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す)。
ここでの炭素数1~20の炭化水素基は、後述のR11における置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基のうち、炭素数1~20の炭化水素基と同様のものを挙げることができる。
【0057】
Aにおける炭素数1~30の2価の炭化水素基としては、例えば、下記式(a-1)~(a-7)が挙げられる。下記式において、R101は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基、又は置換基である。R101における、炭素数1~30の炭化水素基は、後述のR11における置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基と同様のものを挙げることができる。当該炭素数1~30の炭化水素基は、中でも炭素数1~20の炭化水素基が好ましく、炭素数1~10の炭化水素基が更に好ましい。
Aにおける炭素数1~30の2価の炭化水素基としては、中でも、触媒活性の面から、下記式(a-7)であってよい。
【0058】
【化6】
【0059】
Lは金属から脱離可能な0価の配位子を示す。
Lは、電子供与性基を有し、遷移金属Mに配位して金属錯体を安定化させることのできる化合物であることが好ましい。Lは、遷移金属に配位可能な原子として、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む炭素数1~20の炭化水素化合物、或いは、遷移金属に配位可能な炭素-炭素不飽和結合を有し、ヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素化合物も使用することができる。好ましくは、Lの炭素数は1~16であり、更に好ましくは1~10である。
【0060】
好ましいLとしては、ピリジン類、ピペリジン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル誘導体、アリールニトリル誘導体、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、アミン類、環状不飽和炭化水素類などを挙げることができる。
【0061】
硫黄原子を有するLとして、ジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
窒素原子を有するLとして、アルキル基の炭素数1~10のトリアルキルアミン、アルキル基の炭素数1~10のジアルキルアミン、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)、アニリン、2,6-ジメチルアニリン、2,6-ジi-プロピルアニリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、アセトニトリル、ベンゾニトリル、キノリン、2-メチルキノリンなどが挙げられる。
酸素原子を有するLとして、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタンが挙げられる。
錯体の安定性及び触媒活性の観点から、Lとしては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)がより好ましい。
【0062】
11は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を示す。
11におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0063】
11における置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基における炭化水素基としては、例えば、直鎖、分岐、環状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
炭素数1~30の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、t-ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1-ジメチル-2-フェニルエチル基、i-プロピル基、1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1-フェニル-2-プロピル基、i-ブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、エキソ-ノルボルニル基、エンド-ノルボニル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基(2-i-プロピル-5-メチルシクロヘキシル基)、ネオメンチル基、ネオペンチル基、5-デシル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、及びp-エチルフェニル基などが挙げられる。
11における置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基における置換基としては、前記Aにおける炭化水素基の置換基と同様であって良い。
【0064】
11としては、好ましくは炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のハロゲン置換炭化水素基、或いは、アルコキシ基又はアリールオキシ基で置換された炭素数1~20の炭化水素基である。
【0065】
本発明における重合反応は、MとR11の結合に本発明におけるプロピレン等の上記オレフィンまたはその共重合モノマーが挿入されることによって、開始されると考えられる。したがって、R11の炭素数が過度に多いと、この開始反応が阻害される傾向にある。このため、好ましいR11としては、置換基に含まれる炭素数を除く炭素数が1~16、さらに好ましくは当該炭素数が1~10である。
11としては、具体的には、より好ましくは、炭素数1~3のアルキル基、ベンジル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、1-(メトキシメチル)エチル基、1-(エトキシメチル)エチル基、1-(フェノキシメチル)エチル基、または1-(2,6-ジメチルフェノキシ基メチル)エチル基であり、より更に好ましくはメチル基又はベンジル基である。
なお、R11とLは環を形成してもよい。そのような例として、シクロオクタ-1-エニル基を挙げることができ、これも本発明における好ましい態様である。
【0066】
12とR13はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基を示す。
12とR13における置換基を有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基は、前記R11と同様のものを挙げることができる。
【0067】
12及びR13は、遷移金属Mの近傍にあって、立体的及び/又は電子的に遷移金属Mに相互作用を及ぼす。こうした効果を及ぼすためには、R12及びR13は嵩高い方が好ましい。R12及びR13の好ましい炭素数は3~30、より更に好ましくは6~20である。
【0068】
12及びR13はそれぞれ、置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~20のシクロアルキル基であることが好ましい。
12及びR13における前記炭素数3~10のアルキル基としては、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基が好ましい。
【0069】
12及びR13における置換基を有していてもよい炭素数6~20のシクロアルキル基としては、置換基を有していてもよく、炭素数3~10の直鎖又は分岐アルキル基が置換されていてもよいシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、アダマンチル基等が挙げられる。
また、例えば特開2018-141138号公報の段落0104~0113に記載されているシクロアルキル基(特開2018-141138号公報の段落0104~0113におけるXは、本発明の一般式(101)においてP(リン原子)の結合位置を示す)であってもよい。
【0070】
12及びR13は、中でも、重合体分子量制御および極性モノマー共重合性制御の点から、炭素数3~10の直鎖又は分岐アルキル基が置換されているシクロヘキシル基、またはアダマンチル基であることがより好ましく、中でも、2-i-プロピル-5-メチルシクロヘキシル基(メンチル基)またはアダマンチル基であることが好ましい。
【0071】
12及びR13は、Aと結合して環構造を形成してもよい。具体的には例えば特開2018-141138号公報の段落0120~0121に記載されている構造(なお、ここでの例は、置換基R12とAが結合して環構造を形成している場合を示しており、PとQは本発明の一般式(101)と同義であり、R17は本発明の一般式(101)のR13と同義であり、R104は本発明の一般式(101)のR101と同義である。)が挙げられる。
【0072】
本発明の一般式(101)で表される化合物の中でも、下記一般式(102)で表される化合物であることが、共重合体の製造効率の点から好ましい。
【0073】
【化7】
(一般式(102)中、M、L、R11、R12及びR13は、それぞれ前記一般式(101)と同義であり、R111、R112、R113及びR114はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30の炭化水素基、又は置換基である。)
【0074】
一般式(102)中、R111、R112、R113及びR114における炭素数1~30の炭化水素基及び置換基は、前記R11及びAで説明したものと同様のものであってよい。
111、R112、R113及びR114は全て水素原子であってもよい。
111は、嵩高い方が、高分子量の重合体を与える傾向にある。そのため、R111は、t-ブチル基、トリメチルシリル基、フェニル基、9-アントラセニル基、4-t-ブチルフェニル基、2,4-ジ-t-ブチルフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等の置換基が適宜選択されてもよい。
【0075】
本発明に用いられる遷移金属錯体は、従来公知の方法で調製することができる。前記一般式(101)で表される化合物は、例えば特開2018-141138号公報等を参照して、製造することができる。
また、本発明に用いられる遷移金属を含む触媒は、前記の遷移金属錯体を主要な触媒成分とするものであり、必要により、活性化剤、担体などを併用することができる。上記活性化剤としては、メタロセン触媒で使用される助触媒であるアルキルアルモキサンやホウ素含有化合物が例示される。
【0076】
また、担体としては、本発明の主旨をそこなわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。担体としては、一般に、無機酸化物やポリマー担体が好適に使用できる。
担体としては具体的には、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO、及び、これらの混合物などが挙げられ、SiO-Al、SiO-V、SiO-TiO、SiO-MgO、SiO-Crなどの混合酸化物も使用することができる。また、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、ポリイミド担体などが使用可能である。これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0077】
(1-2)モノマー
本発明の製造方法においては、前記構造単位(A)を誘導する下記モノマー(A)と、前記構造単位(B)の前駆体の構造単位(Bp)を誘導する下記モノマー(Bp)とを少なくとも共重合する。さらに必要に応じてその他のモノマーを含んで共重合してもよい。
モノマー(A):炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種
モノマー(Bp):アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種
【0078】
炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種のモノマー(A)は、前記構造単位(A)で説明したモノマー(A)と同様のものを用いることができる。
【0079】
アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種のモノマー(Bp)は、下記一般式(1)で表されるモノマーであってよい。
【0080】
【化8】
(一般式(1)中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4の炭化水素基であり、nは0~3の整数であり、Rは、炭素数1~7の炭化水素基である。)
【0081】
一般式(1)中、R及びnはそれぞれ、前記一般式(I)において説明したR及びnと同様であってよい。
一般式(1)中、Rは炭素数1~7の炭化水素基である。
における炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
における炭化水素基としては、酸によりアルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する脱保護を受けやすい点から、好ましくは、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1,1-ジメチルブチル基等が挙げられ、t-ブチル基がより好ましい。また、Rにおける炭化水素基としては、接触水素化反応により脱保護を受けやすい点から、ベンジル基が好ましい。また、Rにおける炭化水素基としては、π-アリル中間体経由で脱保護を受けやすい点から、2-プロペニル基と2-ブテニル基が好ましい。
【0082】
本発明で用いられるモノマー(Bp)としては、例えば以下の構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記構造式の例においては、exo/endo/cis/transなどの違いは扱わず、いずれであってもよい。
【0083】
【化9】
【0084】
前記モノマー(Bp)は、当該技術分野において公知の手法で合成することができ、或いは市販のものを用いることができる。特に代表的で一般的な合成方法としては、ジシクロペンタジエンとオレフィンのディールスアルダー反応を挙げることができる。この際、オレフィンとして一般式:R-CH=CH-(CH-CO(式中、R、n、及びRは、前記一般式(1)と同様である。)を用いることで、上に例示したあらゆるモノマー(Bp)を合成することができる。
【0085】
その他の構造単位(C)を誘導するモノマー(C)としては、前記周期表第4~10族の遷移金属触媒の存在下でモノマー(A)と共重合可能なモノマーを用いることができ、前記構造単位(C)で説明したモノマー(C)と同様のものを用いることができる。
【0086】
(1-3)重合方法:
本発明の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法における重合方法は限定されない。
媒体中に全ての生成重合体が溶解する溶液重合、媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、又は液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合などが用いられる。
重合形式としては、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。
具体的な製造プロセス及び条件については、例えば、特開2010-260913号公報、特開2010-202647号公報を参照することができる。
【0087】
未反応モノマーや媒体は、生成重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成重合体と未反応モノマー及び媒体との分離には、従来の公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
【0088】
重合温度、重合圧力及び重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。
即ち、重合温度は、通常-20℃~290℃、好ましくは0℃~250℃、より好ましくは0℃~200℃、さらに好ましくは10℃~150℃、特に好ましくは20℃~100℃である。重合圧力は、0.1MPa~100MPa、好ましくは、0.3MPa~90MPa、より好ましくは0.5MPa~80MPa、さらに好ましくは1.0MPa~70MPa、特に好ましくは1.3MPa~60MPaである。重合時間は、0.1分~50時間、好ましくは、0.5分~40時間、更に好ましくは1分~30時間の範囲から選ぶことができる。
本発明において、重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。
【0089】
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じて様々な供給法をとることができる。例えばバッチ重合の場合、予め所定量のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を重合反応器に連続的に、又は間歇的に供給し、重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0090】
共重合体の組成の制御に関しては、例えば以下の方法が挙げられる。
1)モノマーの供給比率を変える
2)触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用する
3)モノマー反応性比の重合温度依存性を利用する
【0091】
共重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができ、例えば以下の方法が挙げられる。
1)重合温度の制御
2)モノマー濃度の制御
3)遷移金属錯体中の配位子構造の制御
4)水素など公知の連鎖移動剤の使用
【0092】
以上のようにして、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体を得ることができる。当該アルコキシカルボニル基を有する共重合体は、後述するアルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する工程に供する前駆体共重合体として機能する。当該共重合体は、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、下記一般式(I’)で表される構造単位(Bp)とを含む共重合体であってよい。
【0093】
【化10】
(一般式(I’)中、R、n、及びRは、前記一般式(1)と同様である。)
【0094】
(2)アルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する工程(脱保護工程)
本工程では、前記工程で得られた、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体の、アルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換(脱保護)することにより、カルボキシ基含有共重合体を得る。
【0095】
前記構造単位(A)と、アルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体のアルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する方法としては、酸分解、加水分解、水素化等が挙げられる。簡便さの点から、アルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する方法は、酸分解であってよい。
アルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する反応条件は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。
アルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する際に、酸分解においては、酸触媒を用いる。加水分解においては、反応を促進させる添加剤として、従来公知の酸触媒または塩基触媒を使用してもよい。酸触媒としては特に制限されないが、例えばモンモリロナイトなどの固体酸、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸などを適宜用いることが出来る。塩基触媒としては特に制限されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩などを適宜用いることが出来る。
酸触媒としては、反応促進効果、アルコキシカルボニル基をプロトン化して脱保護させる頻度の点、中和度の調整しやすさの点から、トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸、硫酸、塩酸などの強酸が好ましく、トリフルオロ酢酸、パラトルエンスルホン酸がより好ましい。
また、水素化としては、効率の点から還元性条件で金属触媒を用いて行うことが好ましく、金属触媒としてはパラジウム炭素触媒が効率面と入手容易性の面から好ましい。
【0096】
当該脱保護工程を経て得られるカルボキシ基含有共重合体は、炭素数3~20のオレフィンの少なくとも1種に由来する構造単位(A)と、カルボキシ基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(B’)とを含む共重合体である。
【0097】
(3)カルボキシ基を金属含有カルボン酸塩に変換する工程(中和工程)
本工程では、前記工程で得られたカルボキシ基含有共重合体に、金属イオンを反応させることにより、前記カルボキシ基の少なくとも一部を金属含有カルボン酸塩に変換する。
前記工程で得られたカルボキシ基含有共重合体のカルボキシ基の全てを金属含有カルボン酸塩に変換してもよいし、その一部を金属含有カルボン酸塩に変換してもよい。
金属含有カルボン酸塩に変換する割合(中和度)は、製造される極性基含有オレフィン共重合体の用途に応じて適宜選択することができ、前記極性基含有オレフィン共重合体において説明した一般式(I)中のMが金属イオンである割合(中和度)と同様であってよい。
【0098】
前記工程で得られたカルボキシ基含有共重合体に、金属イオンを反応させる中和反応の条件は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。例えば、カルボキシ基含有共重合体を溶媒に溶解して溶液を得て、当該溶液に金属イオンを含む化合物を添加して、混合し、必要に応じて適宜加熱することにより、カルボキシ基と金属イオンと反応させることができる。
【0099】
金属イオンとしては、前記極性基含有オレフィン共重合体において説明した一般式(I)中のMにおいて説明した金属イオンと同様であってよい。
中和反応に用いられる金属イオンを含む化合物としては、前記金属イオンを含めば特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛などの金属の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸亜鉛などの金属の炭酸塩、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化亜鉛などの金属の酸化物等が挙げられる。これらの化合物は、金属イオンのカウンターイオンがアイオノマー中に残存しにくいことから、使用しやすい。
中和反応に用いられる金属イオンを含む化合物の反応時の添加量は、金属含有カルボン酸塩に変換する割合(中和度)に合わせて適宜調整される。
【0100】
中和反応に使用される溶媒としては、前記カルボキシ基含有共重合体が溶解し、且つ金属イオンが存在し得る溶媒を選択する必要があり、混合溶媒であってもよい。例えば、前記カルボキシ基含有共重合体の良溶媒と、前記良溶媒に相溶しつつ金属イオンが溶解し得る極性溶媒との混合溶媒であってよい。前記カルボキシ基含有共重合体の良溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、デカリン等の沸点(1気圧)が110℃以上の高沸点炭化水素溶媒等が挙げられる。また、前記良溶媒に相溶しつつ金属イオンが溶解し得る極性溶媒としては、例えば、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン等が挙げられる。混合溶媒における比率は適宜選択されればよいが、例えば、前記カルボキシ基含有共重合体の良溶媒100mLに対して、金属イオンが溶解し得る極性溶媒が3mL~30mLであってよい。なお、前記カルボキシ基含有共重合体の良溶媒としては、前記カルボキシ基含有共重合体を5質量%以上溶解可能な溶媒であってよい。
中和反応の際の温度としては、80℃~140℃であってよく、90℃~130℃であってよい。
中和反応の反応時間は、適宜選択されればよく、特に限定されないが、30分~30時間の範囲内であってよく、12時間~24時間であってよい。
【0101】
なお、本発明の極性基含有オレフィン共重合体の製造方法においては、前記(2)カルボキシ基含有共重合体を得る工程(脱保護工程)を行った後に、(3)カルボキシ基を金属含有カルボン酸塩に変換する工程(中和工程)を行ってもよいし、前記(2)カルボキシ基含有共重合体を得る工程(脱保護工程)を行いながら、(3)カルボキシ基を金属含有カルボン酸塩に変換する工程(中和工程)を行ってもよい。すなわち、前記構造単位(A)とアルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体のアルコキシカルボニル基をカルボキシ基に変換しながら、金属イオンを反応させることで前記カルボキシ基の少なくとも一部を金属含有カルボン酸塩に変換する工程をおこなってもよい。
【実施例0102】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限りこれらの実施例によって制約を受けるものではない。なお、極性基含有オレフィン共重合体等の物性等は、以下の方法で測定した。
【0103】
[極性基含有オレフィン共重合体の構造]
極性基含有オレフィン共重合体の構造は、BRUKER(株)製Ascend500またはBRUKER(株)製AVANCE400を用いたH-NMR及び13C-NMR解析により決定した。
NMR測定の溶媒は、1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2を用いた。H-NMR測定の重合体濃度は5質量%、13C-NMRの重合体濃度は15質量%とした。NMR測定は、120℃で行った。または、NMR測定の一部は、約150mgの極性基含有オレフィン共重合体を1,2-ジクロロベンゼン:ブロモベンゼン-d5=1:2の混合溶媒2.4mLに加熱溶解して均一な溶液として120℃で行った。
H-NMR測定は、以下の条件で実施し、定量分析を行った。
パルス:50マイクロ秒の30°パルス
スペクトル幅:10kHz
緩和時間:5秒
取り込み時間:3.2秒
FIDの積算回数:128回
13C-NMR測定は、緩和試薬としてクロム(III)アセチルアセトナートを用い、逆ゲート付きデカップリング法を用いて以下の条件で実施し、定量分析を行った。
パルス:15.8マイクロ秒の90°パルス
スペクトル幅:25kHz
緩和時間:50秒
取り込み時間:1.5秒
FIDの積算回数:1,024回
【0104】
[極性基含有オレフィン共重合体中の構造単位(Bp)、構造単位(B)の含有量]
構造単位(Bp)の含有量は、13C-NMRを用いて以下の通りに行った。
例として、実施例1の極性基含有オレフィン共重合体e1の13C-NMRスペクトル図を図1に示す。また、図2は、図1中の化学シフト42ppm-12ppmの拡大図、図3は、図1中の化学シフト79.9ppm-78.8ppmの拡大図、図4は、図1中の化学シフト18.5ppm-22.0ppmの拡大図である。
図1中の化学シフト173ppm-175ppm(Iの位置)の固有の孤立ピークは、構造単位(Bp)由来のアルコキシカルボニル基の1Cに相当し、そのピーク面積をIBとした。化学シフト10ppm-50ppmの構造単位(A)由来の3Cのピーク面積をIAとした。全モノマー単位中の構造単位(Bp)の比率は、IB/(IA/3+IB)として求めた。
構造単位(B)の含有量は、構造単位(Bp)の含有量がその後の脱保護と中和の工程で変化しないものとして同じにした。
【0105】
[数平均分子量及び重量平均分子量]
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレンを分子量の標準物質とするサイズ排除クロマトグラフィーにより以下の条件から算出した。
装置:東ソー(株)製高温GPC装置HLC-8321GPC/HT
カラム:東ソー(株)製、TSKgel GMHHR-H(S)HTカラム(7.8mmI.D.×30cmを2本直列)
溶媒:1,2-ジクロロベンゼン
温度:145℃
または
装置:Waters(株)製高温GPC装置、ALC/GPC 150C
カラム:昭和電工(株)製、AT-806MSカラム(8.0mmI.D.×25cmを3本直列)
溶媒:1,2-ジクロロベンゼン
温度:140℃
【0106】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
JIS K7121-2012に準拠して、DSC(デュポン社製のTA2000型)を使用し、10℃/分で20℃~200℃までの昇降温を1回行った後、10℃/分で2回目の20℃~200℃までの昇降温時のガラス転移温度を記録した。ガラス転移温度(Tg)は、各ベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0107】
[IRスペクトル解析によるカルボン酸構造からアイオノマー構造への変化、中和度]
共重合体をKBrディスクに塗布し、透過光モードでのフーリエ変換赤外分光分析により分析して、共重合体の赤外吸収スペクトルを得た。出力の縦軸は透過率(%T)とした。
製品名:FT/IR-6100 日本分光株式会社製
測定手法:透過法
検出器:TGS
積算回数:Auto (16~64回)
分解能:4.0cm-1
測定波長:5000cm-1~500cm-1
中和度は、IRスペクトルにおいて、Mが水素原子であるときのC=O伸縮振動ピーク(1695cm-1~1705cm-1の範囲にあるピーク)と、Mが金属イオンであるときのC=O伸縮振動ピーク(ナトリウムイオン:1550cm-1~1600cm-1の範囲にあるピーク)の吸光強度から、以下のように求めた。
中和度=Mが金属イオンであるときのC=O伸縮振動ピークの吸光強度/(Mが金属イオンであるときのC=O伸縮振動ピークの吸光強度+Mが水素原子であるときのC=O伸縮振動ピークの吸光強度)×100(%)
より具体的にはIRスペクトルにおいて、バックグラウンド測定とサンプル測定の差スペクトルを用い、1695cm-1~1705cm-1の範囲にあるピークトップ位置での吸光強度%Tの値をW、1550cm-1~1600cm-1の範囲にあるピークトップ位置での吸光強度%Tの値をV、としたときのV/(W+V)×100(%)を中和度と定義した。
【0108】
[遷移金属錯体の合成]
(合成例1)
下記化学式(A)において、Rがいずれもメンチル(2-i-プロピル-5-メチルシクロヘキシル)で、Lutが2,6-ジメチルピリジンで示される遷移金属錯体(A)を、特開2017-031300号公報に記載の通りに合成した。なお、本明細書においてMeはメチルを示す。
【0109】
【化11】
【0110】
(実施例1)
(1)構造単位(A)とアルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体の製造
50mLオートクレーブに、窒素雰囲気中で、触媒としての遷移金属錯体(A)(14mg、0.020mmol)、溶媒としてのトルエン(6.7mL)、モノマー(Bp)としての5-ターシャリーブトキシカルボニル-2-ノルボルネン(2mL、9.8mmol)を順次加えた。当該オートクレーブをプロピレン(モノマー(A))(6g)で加圧しつつ、反応温度50℃で18時間撹拌した。当該オートクレーブを室温に戻し、メタノール(200mL)を加えた。析出した固体を、濾過により回収し、メタノール(200mL)で3回洗浄し、120℃で8時間減圧乾燥した。得られた極性基含有オレフィン共重合体e1は940mgであった。当該極性基含有オレフィン共重合体e1の各種分析結果を表1に示した。
【0111】
(2)カルボキシ基含有共重合体の製造
50mLオートクレーブに、窒素雰囲気中で、前記(1)で得られた極性基含有オレフィン共重合体e1(228mg)、溶媒としてのトルエン(18mL)、酸触媒としてトリフルオロ酢酸(2.9mL)を順次加えた。当該オートクレーブを100℃で18時間撹拌した。当該オートクレーブを室温に戻し、そこにメタノール(54mL)を加えることで極性基含有オレフィン共重合体h1のみを得た。得られた極性基含有オレフィン共重合体h1を120℃で10時間減圧乾燥した。得られた極性基含有オレフィン共重合体h1は117mgであった。
当該極性基含有オレフィン共重合体h1の各種分析結果を表2に示した。ターシャリーブトキシカルボニル基をカルボキシ基に変換する反応の進行は13C-NMRスペクトルでターシャリーブチル基由来のシグナルの完全な消失とカルボニル炭素由来のシグナルの低磁場シフトにより確認した。また、FTIR測定により、カルボン酸由来のピーク1703cm-1が観測され、その波数からカルボン酸が二量体を形成したものと同定した。
【0112】
(3)金属含有カルボン酸塩を含む共重合体(アイオノマー)の製造
50mLオートクレーブに、窒素雰囲気中で、前記(2)で得られた極性基含有オレフィン共重合体h1(21mg)、溶媒としてトルエン20mL、およびブタノール2mL、中和剤として水酸化ナトリウム水溶液(0.5規定、3mL)を順次加えた。当該オートクレーブを100℃で22時間撹拌した。当該オートクレーブを室温に戻し、揮発性成分を減圧除去した。得られた極性基含有オレフィン共重合体(アイオノマー)1を純水で洗浄し、100℃で10時間減圧乾燥した。得られた極性基含有オレフィン共重合体(アイオノマー)1は18mgであった。
当該極性基含有オレフィン共重合体(アイオノマー)1の各種分析結果を表2に示した。図5に、極性基含有オレフィン共重合体h1のFTIRスペクトルと、図6に、当該極性基含有オレフィン共重合体(アイオノマー)1のFTIRスペクトルとを示す。
極性基含有オレフィン共重合体(アイオノマー)1のFTIRから、Mが水素原子であるときのC=O伸縮振動ピーク1703cm-1が観測されず、Mが金属イオンであるときのC=O伸縮振動ピークが1563cm-1のみが観測されたことから、それらの吸光強度の比率からMが金属イオンである割合(中和度)を100%と求めた。
【0113】
(参考例2)
(1)構造単位(A)とアルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体の製造
モノマー(Bp)を5-ターシャリーブトキシカルボニル-2-ノルボルネン(4mL、19.6mmol)とした以外は全て実施例1(1)と同様に実施した。得られた極性基含有オレフィン共重合体e2は700mgであった。
当該極性基含有オレフィン共重合体e2の各種分析結果を表1に示した。
【0114】
(2)カルボキシ基含有共重合体の製造
前記(2)で得られた極性基含有オレフィン共重合体e2を使用したこと以外は全て実施例1(2)と同様に実施した。得られた極性基含有オレフィン共重合体h2は53mgであった。
当該極性基含有オレフィン共重合体h2の各種分析結果を表2に示した。
【0115】
(参考例3)
(1)構造単位(A)とアルコキシカルボニル基を有するノルボルネンの少なくとも1種に由来する構造単位(Bp)とを含む共重合体の製造
モノマー(B)を5-ターシャリーブトキシカルボニル-2-ノルボルネン(6mL、29.5mmol)とした以外は全て実施例1(1)と同様に実施した。得られた極性基含有オレフィン共重合体e3は300mgであった。
当該極性基含有オレフィン共重合体e3の各種分析結果を表1に示した。
【0116】
(2)カルボキシ基含有共重合体の製造
前記(2)で得られた極性基含有オレフィン共重合体e3を使用したこと以外は全て実施例1(2)と同様に実施した。得られた極性基含有オレフィン共重合体h3は39mgであった。
当該極性基含有オレフィン共重合体h3の各種分析結果を表2に示した。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
実施例1に示されたように、本発明によれば、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系重合体の高機能化のために、新規なアイオノマーである金属カルボン酸塩を有するノルボルネン構造単位を含む新規な極性基含有オレフィン共重合体、及びその製造方法を提供することができる。
参考例2及び参考例3に示した共重合体h2及び共重合体h3を用いることにより、実施例1のアイオノマー1と同様にして、アイオノマーを製造することができる。
また、共重合体h1と、共重合体h2及び共重合体h3とのガラス転移温度(Tg)の温度の比較から、ノルボルネン由来の構造単位量によって、ガラス転移温度を調整可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の極性基含有オレフィン共重合体は、金属カルボン酸塩を有するノルボルネン構造単位を含む新規な極性基含有オレフィン共重合体であって、新規なアイオノマーであり、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたオレフィン系重合体の高機能化に寄与する。
本発明の新規なアイオノマーは、従来のポリエチレンをベースポリマーとしたアイオノマーと比べて、高いガラス転移温度(Tg)を有することが可能であり、またノルボルネン由来の構造単位を含むことにより、その含有量によってアイオノマーの熱物性を制御することができる。
また、本発明の新規なアイオノマーによれば、ポリプロピレン系等、エチレン以外のα-オレフィンをベースにしたポリオレフィン系の多層フィルムに好適に用いることができる。その他にも従来エチレン系アイオノマーに用いられていた用途のほか、より高いガラス転移温度を有することにより、その特長を活かしてさらに応用範囲を広げることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6