IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧

特開2024-168184結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜
<>
  • 特開-結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜 図1
  • 特開-結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜 図2
  • 特開-結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜 図3
  • 特開-結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜 図4
  • 特開-結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜 図5
  • 特開-結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168184
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20241128BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20241128BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20241128BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C30B29/16
H01L21/365
C23C16/40
C30B25/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084641
(22)【出願日】2023-05-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、次世代省エネ型デバイス関連技術の開発・実証事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 純也
(72)【発明者】
【氏名】朴 冠錫
(72)【発明者】
【氏名】池永 和正
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 義直
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 捷悟
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB06
4G077BB10
4G077DB01
4G077EB01
4G077HA02
4G077HA12
4G077TA04
4G077TC02
4K030AA11
4K030AA14
4K030AA20
4K030BA08
4K030BA42
4K030BB02
4K030CA04
4K030JA05
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA12
5F045AA04
5F045AB40
5F045AC08
5F045AC11
5F045AC16
5F045AC19
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045AF02
5F045AF04
5F045AF09
5F045AF13
5F045CA10
5F045CA11
5F045CA12
5F045DA59
5F045DA60
5F045DA62
5F045DP04
5F045EF09
5F045EK06
5F045EK22
5F045EK24
5F045EM02
(57)【要約】
【課題】高純度のβ-Ga結晶膜を製造することが可能な結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜を提供する。
【解決手段】複数の原料ガスを合流位置で合流させ、アルゴン中にトリメチルガリウムと酸素とシリコンドーパントを含む混合ガスを得ると共に、合流位置の温度が850~1100℃となるようにして、得られた前記混合ガスを前記合流位置から加熱し、加熱された前記混合ガスを基板2の表面に導き、β-酸化ガリウム結晶膜を基板2の表面上に成長させる結晶膜の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の原料ガスを合流位置で合流させ、アルゴン中にトリメチルガリウムと酸素とシリコンドーパントを含む混合ガスを得ると共に、得られた前記混合ガスを前記合流位置から加熱し、
加熱された前記混合ガスを、その後基板表面に導き、β-酸化ガリウム結晶膜を前記基板表面上に成長させる結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記合流位置の温度が850~1100℃となるように加熱する、請求項1に記載の結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記複数の原料ガスが、アルゴン中にトリメチルガリウムとシリコンドーパントを含む第1原料ガスと、アルゴン中に酸素を含む第2原料ガスとからなる請求項1又は2に記載の結晶膜の製造方法。
【請求項4】
反応炉内に配置した基板にアルゴン中にトリメチルガリウムと酸素とシリコンドーパントを含む混合ガスを供給して、気相成長法によりβ-酸化ガリウム結晶膜を成膜する気相成長装置であって、
複数の原料ガスを、それぞれ合流位置まで導く原料ガス流路と、前記合流位置で得られた前記混合ガスを前記合流位置から前記基板表面に導きその後排出する混合ガス流路とが前記反応炉内に形成されていると共に、
前記合流位置の温度が850~1100℃となるように加熱する加熱装置を備える気相成長装置。
【請求項5】
前記加熱装置が、前記反応炉の前記合流位置を囲む部分の周囲に配置される、請求項4に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記原料ガス流路が、アルゴン中にトリメチルガリウムとシリコンドーパントを含む第1原料ガス流路と、アルゴン中に酸素を含む第2原料ガス流路とからなる請求項4又は5に記載の気相成長装置。
【請求項7】
炭素、水素、窒素の合計含有量が2×1017cm-3以下であり、シリコンがドーピングされている、β-酸化ガリウム結晶膜。
【請求項8】
ドナー濃度Nとアクセプター濃度Nとの差[N-N]が1015cm-3以上1019cm-3以下である、請求項7に記載のβ-酸化ガリウム結晶膜。
【請求項9】
移動度が30cm/Vs以上である、請求項7又は8に記載のβ-酸化ガリウム結晶膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜に関する。
【背景技術】
【0002】
気相成長法は、薄膜の原料をガス状態にして基板上に供給し、化学反応により基板表面に原料を堆積させる薄膜形成法である。例えば、青色発光ダイオード、緑色発光ダイオードや紫色レーザダイオードの材料となる窒化ガリウム系半導体薄膜は、原料として有機金属を用いるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法により製造される。
【0003】
気相成長法を利用して半導体薄膜を成膜する気相成長装置としては、例えば、特許文献1に開示されるものがある。特許文献1の気相成長装置は、基板付近を加熱している一方、基板に到達する前の原料ガスが流路内で成膜されてしまうことを防ぐため、原料ガス流路を冷却装置で冷却している。また、原料ガス流路と基板付近とを断熱板で区切って、基板付近と共に原料ガス流路が加熱されてしまうことを防止している。
【0004】
近年、新たな半導体材料として、酸化ガリウムが注目されている。酸化ガリウムは、α、β、γ、δ、ε型と記される異なる結晶構造をもつ。この内、β型が熱的に最も安定とされている。
β-酸化ガリウム(β-Ga)は、バンドギャップが約5eV、ブレークダウン電界が約8MV/cmであるなど優れた物理的特性を有しており、高耐圧パワーデバイスへの応用が期待されている。
非特許文献1では、β-酸化ガリウムの結晶をMOCVDにより成膜したことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4542860号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.Alema,B.Hertog,A.Osinsky,P.Mukhopadhyay,M.Toporkov,and W.V.Schoenfeld,J.Cryst.Growth 475(2017)77-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高耐圧パワーデバイスを実現するには、高純度のβ-Ga結晶膜を成長させることが求められている。しかし、従来MOCVD法により、高純度のβ-Ga結晶膜を得ることは困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高純度のβ-Ga結晶膜を製造することが可能な結晶膜の製造方法、気相成長装置、及びβ-酸化ガリウム結晶膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]複数の原料ガスを合流位置で合流させ、アルゴン中にトリメチルガリウムと酸素とシリコンドーパントを含む混合ガスを得ると共に、得られた前記混合ガスを前記合流位置から加熱し、
加熱された前記混合ガスを、その後基板表面に導き、β-酸化ガリウム結晶膜を前記基板表面上に成長させる結晶膜の製造方法。
[2]前記合流位置の温度が850~1100℃となるように加熱する、[1]に記載の結晶膜の製造方法。
[3]前記複数の原料ガスが、アルゴン中にトリメチルガリウムとシリコンドーパントを含む第1原料ガスと、アルゴン中に酸素を含む第2原料ガスとからなる[1]又は[2]に記載の結晶膜の製造方法。
[4]反応炉内に配置した基板にアルゴン中にトリメチルガリウムと酸素とシリコンドーパントを含む混合ガスを供給して、気相成長法によりβ-酸化ガリウム結晶膜を成膜する気相成長装置であって、
複数の原料ガスを、それぞれ合流位置まで導く原料ガス流路と、前記合流位置で得られた前記混合ガスを前記合流位置から前記基板表面に導きその後排出する混合ガス流路とが前記反応炉内に形成されていると共に、
前記合流位置の温度が850~1100℃となるように加熱する加熱装置を備える気相成長装置。
[5]前記加熱装置が、前記反応炉の前記合流位置を囲む部分の周囲に配置される、[4
]に記載の気相成長装置。
[6]前記原料ガス流路が、アルゴン中にトリメチルガリウムとシリコンドーパントを含む第1原料ガス流路と、アルゴン中に酸素を含む第2原料ガス流路とからなる[4]又は[5]に記載の気相成長装置。
[7]炭素、水素、窒素の合計含有量が2×1017cm-3以下であり、シリコンがドーピングされている、β-酸化ガリウム結晶膜。
[8]ドナー濃度Nとアクセプター濃度Nとの差[N-N]が1015cm-3以上1019cm-3以下である、[7]に記載のβ-酸化ガリウム結晶膜。
[9]移動度が30cm/Vs以上である、[7]又は[8]に記載のβ-酸化ガリウム結晶膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明の結晶膜の製造方法、気相成長装置によれば、高純度のβ-Ga結晶膜を製造することができる。また、本発明のβ-酸化ガリウム結晶膜は、高純度であって、高耐圧パワーデバイスの実現が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の気相成長装置を正面から見た概略構成図である。
図2】第1実施形態の気相成長装置を上面から見た概略構成図である。
図3】第2実施形態の気相成長装置を正面から見た概略構成図である。
図4】実験例1の結果を示す図である。
図5】実験例4の結果を示す図である。
図6】実験例5結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
[気相成長装置]
図1図2は、本発明の第1実施形態に係る気相成長装置である。図1の気相成長装置は、気相成長法によりβ-酸化ガリウム結晶膜を成膜する装置であり、内部に基板2が配置される反応管1と、反応管1を加熱するゾーンヒーター10とを備えている。本実施形態では、ゾーンヒーター10が本発明の加熱装置に該当する。また、反応管1が本発明の反応炉に該当する。
【0012】
反応管1内には、上流フローチャネル20と中間フローチャネル26と下流フローチャネル29とが形成されている。上流フローチャネル20が、複数の原料ガスを合流位置まで導く本発明の原料ガス流路に該当する。また、中間フローチャネル26と下流フローチャネル29とが、混合ガスを合流位置から基板表面に導きその後排出する流路で、本発明の混合ガス流路に該当する。
【0013】
上流フローチャネル20には、上から順に、トップチャネル21、ミドルチャネル22、ボトムチャネル23の3つの流路が形成されている。ミドルチャネル22が基板2に第1原料ガスを供給する原料ガス流路となり、トップチャネル21とボトムチャネル23とが基板2に第2原料ガスを供給する原料ガス流路となっている。
【0014】
本実施形態の上流フローチャネル20は、図1図2に示すように鉛直方向の断面は、上流から下流に行くに従い縮径し、水平方向の断面は、上流から下流に行くに従い拡径している。そして、下流端では、水平方向に広がる扁平な形状とされ、第1原料ガスは、鉛直方向の中央から流出し、第2原料ガスは、その上側と下側とから流出するようになっている。
【0015】
中間フローチャネル26は、上流フローチャネル20の下流側に接続し、この接続箇所、すなわち、中間フローチャネル26の上流端が、本願発明の複数の原料ガスが合流する合流位置に該当する。
合流位置において、ミドルチャネル22から流出した第1原料ガスとトップチャネル21及びボトムチャネル23とから流出した第2原料ガスが合流し、得られた混合ガスが、中間フローチャネル26内を流れるようになっている。図示黒丸で示したA地点が合流位置の中央である。
【0016】
中間フローチャネル26の上側管壁には、上面開口部27が形成されており、この上面開口部27に吊下げ型基板ホルダー3が嵌合している。吊下げ型基板ホルダー3は、中間フローチャネル26内に面する下側に、基板2を支える複数の爪を備えている。そして、この吊下げ型基板ホルダー3に基板2を配置することにより、基板2の下面側表面が、中間フローチャネル26内の混合ガスに晒されるようになっている。
基板2の下面側表面が混合ガスに晒されるいわゆるフェースダウン型とすることにより、予期せぬパーティクルの付着等を回避しやすい。
【0017】
下流フローチャネル29は、中間フローチャネル26の下流側に接続され、中間フローチャネル26を通過した混合ガスは、下流フローチャネル29の下流側から、反応管1の外に排出されるようになっている。
【0018】
上流フローチャネル20の上流側には、原料ガス供給管が接続されるようになっている。
具体的には、第1原料ガス供給管31がミドルチャネル22に接続し、ミドルチャネル22に第1原料ガスを供給するようになっている。また、第2原料ガス供給管32aがトップチャネル21に接続し、トップチャネル21に第2原料ガスを供給するようになっている。また、第2原料ガス供給管32bがボトムチャネル23に接続し、ボトムチャネル23に第2原料ガスを供給するようになっている。
【0019】
ゾーンヒーター10は反応管1の外壁に沿って環状に設けられている。ゾーンヒーター10は、上流加熱用ヒーター11と中間加熱用ヒーター12と下流加熱用ヒーター13とからなり、上流加熱用ヒーター11、中間加熱用ヒーター12、下流加熱用ヒーター13は各々個別に温度を設定できるようになっている。
【0020】
上流加熱用ヒーター11は、第1原料ガスと第2原料ガスが合流するA地点近傍(中間フローチャネル26の上流側部分)を加熱するように、反応管1の外壁の内、A地点を囲む部分の周囲に配置されている。
中間加熱用ヒーター12は、中間フローチャネル26の上面開口部27が設けられた箇所、すなわち、基板2が配置される箇所を加熱するように、反応管1の外壁の内、上面開口部27が設けられた箇所を囲む部分の周囲に配置されている。
下流加熱用ヒーター13は、中間フローチャネル26の上面開口部27が設けられた箇所より下流側と下流フローチャネル29を加熱するように、反応管1の外壁の内、上面開口部27が設けられた箇所より下流側を囲む部分の周囲に配置されている。
【0021】
また、上流フローチャネル20の下流側(A地点近傍)は、断熱ボックス5で覆われている。断熱ボックス5は、例えば、石英製で内部が空洞の環状ボックス内に、アルミナ製の断熱材を封入することにより構成できる。
断熱ボックス5を備えることにより、上流フローチャネル20内で原料ガスが熱分解し、ガリウム等が上流フローチャネル20内に付着することを防止できる。
【0022】
なお、断熱ボックス5に代えて、断熱マット等を上流フローチャネル20下流側に巻いても差し支えない。
断熱ボックス5を使用すると、全体の形状を保ったまま原料ガスの流れ方向に断熱ボックス5を移動させることができるので、A地点近傍の温度の調整が容易となる。
【0023】
[結晶膜の製造方法]
第1実施形態の気相成長装置を用いて、結晶膜を製造するには、吊下げ型基板ホルダー3により基板2を吊り下げ、所定の加熱条件の下、混合ガスを基板2の下面側表面に接触させればよい。
【0024】
基板2としては、板状であって、結晶膜を支持することができるものであれば、特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。本実施形態においては、基板が、結晶基板であるのが好ましい。
【0025】
結晶基板は、結晶物を主成分として含む基板であれば特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。単結晶基板であってもよいし、多結晶基板であってもよい。結晶基板としては、例えば、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板、またはβ-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板、六方晶構造を有する基板などが挙げられる。なお、前記「主成分」とは、基板中の組成比で、前記結晶物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。
【0026】
コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、サファイア基板、α型酸化ガリウム基板などが挙げられる。β-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、β-Ga基板、またはβ-GaとAlとを含む混晶体基板などが挙げられる。また、六方晶構造を有する基板としては、例えば、SiC基板、ZnO基板、GaN基板などが挙げられる。その他の結晶基板の例示としては、例えば、Si基板などが挙げられる。
【0027】
本実施形態においては、結晶基板が、サファイア基板であるのが好ましい。サファイア基板としては、例えば、c面サファイア基板、m面サファイア基板、a面サファイア基板などが挙げられる。本実施形態においては、結晶基板が、c面サファイア基板であるのが好ましい。また、本実施形態においては、結晶基板がm面サファイア基板であるのも好ましく、サファイア基板はオフ角を有していてもよい。オフ角は、特に限定されないが、好ましくはa軸もしくはm軸、またはそれらをいずれも含む方向に0°~15°である。なお、結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmである。
【0028】
混合ガスは、アルゴンガス中に気化させたトリメチルガリウムと酸素ガスとシリコンドーパントガスを含む。
トリメチルガリウムはガリウム原子のソースであり、酸素(酸素分子)は酸素原子のソースであり、アルゴンはキャリアである。シリコンドーパントとしては、モノシラン、テトラメチルシラン、テトラエチルシランが挙げられる。
【0029】
混合ガス中に含まれるトリメチルガリウムと酸素とは、合流位置まで、別個に供給されることが好ましい。これにより、合流前にトリメチルガリウムと酸素とが反応してしまうことを回避できる。
トリメチルガリウムとシリコンドーパントとは、予め混合した状態で、合流位置に供給することが好ましい。これにより、トリメチルガリウムに対するシリコンドーパントの供給比を安定して制御できる。
【0030】
本実施形態では、第1原料ガスをアルゴン中にトリメチルガリウムとシリコンドーパントを含むガスとし、ミドルチャネル22を経由して、合流位置に供給することができる。また、第2原料ガスをアルゴン中に酸素を含むガスとし、トップチャネル21及びボトムチャネル23を経由して、合流位置に供給することができる。
【0031】
トリメチルガリウムに対するシリコンドーパントの供給比は、結晶膜中にドーピングしたいシリコンの量に応じて調整すれば良いが、トリメチルガリウムに対するシリコンのモル比で10-9~10-4とすることが好ましい。
本実施形態によれば、不純物として意図せず混合ガスにシリコンが含まれてしまうことを抑制できるので、トリメチルガリウムに対するシリコンドーパントの供給比により、ドーピングされるシリコンの量を調整しやすい。
【0032】
成長温度、すなわち、基板2の表面に接触する際の混合ガスの温度は、575~1100℃であることが好ましい。成長温度が好ましい下限値以上であることにより、結晶膜に取り込まれる不純物濃度を低減することができる。
成長温度は、基板2の上流側表面と下流側表面の範囲全体において、ほぼ一定であることが好ましい。
【0033】
A地点の温度は、850~1100℃であることが好ましく、870~1080℃であることがより好ましく、890~1060℃であることがさらに好ましく、900~1050℃であることが特に好ましい。A地点の温度が好ましい下限値以上であることにより、結晶膜に取り込まれる不純物濃度を低減することができる。A地点の温度が好ましい上限値以下であることにより、基板2の表面に接触する前に適切な成長温度を超えてしまうことを回避できる。
【0034】
A地点を含め、基板2の表面に接触する前の混合ガスの温度は、成長温度以下であることが好ましく、成長温度未満であることが好ましい。これにより、基板2の表面に到達する前の混合ガスが熱分解し、ガリウムや酸化ガリウム等が上流フローチャネル20内や中間フローチャネル26の上流側に付着することを防止できる。
A地点から基板2の表面の最上流側に接触するまでの混合ガスの温度は、徐々に上昇することが好ましい。
【0035】
A地点等の中間フローチャネル26内の温度は、流路内に熱電対4を挿入することにより確認できる。
A地点の温度を測定する際は、熱電対4の先端をA地点の位置となるまで挿入する。B地点(図中白丸で示した位置)の温度を測定する際は、熱電対4の先端をB地点の位置となるまで挿入する。図1、2には、熱電対4の先端をB地点のやや下流側まで退避させた状態を示している。
【0036】
ただし、実際の成膜時に熱電対4を挿入しておくと、熱電対4に酸化ガリウム膜が付着してしまう等の不具合が生じる。そのため、熱電対4による測定は、トリメチルガリウムとシリコンドーパントと酸素のいずれも含まない窒素を流す。そして、成膜時には、熱電対4を反応管1内から引き出しておく。
【0037】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態に係る気相成長装置である。図3の気相成長装置は、基板2の上面側表面が混合ガスに晒されるいわゆるフェースアップ型である点を除き第1実施形態と同様である。図3において、第1実施形態と同様の構成要素については、図1と同様の符号を伏し、その詳細な説明を省略する。
【0038】
本実施形態の気相成長装置は、いわゆるフェースアップ型であるため、中間フローチャネル26の下側管壁に、下面開口部28が形成されており、この下面開口部28に上乗せ型基板ホルダー6が嵌合している。
上乗せ型基板ホルダー6は、上面に基板2を載せる凹部が形成されており、この上乗せ型基板ホルダー6に基板2を配置することにより、基板2の上面側表面が、中間フローチャネル26内の混合ガスに晒されるようになっている。
本実施形態の気相成長装置を用いた結晶膜の製造方法は、上乗せ型基板ホルダー6に基板2を載せる他は、第1実施形態の気相成長装置を用いた結晶膜の製造方法と同様である。
【0039】
<他の実施形態>
上記各実施形態では、上流フローチャネル20に、第1原料ガスを供給するミドルチャネル22と、第2原料ガスを供給するトップチャネル21及びボトムチャネル23とが形成された構成としたが、さらに、第3原料ガスを供給する第4のチャネルが形成された構成としてもよい。その場合、シリコンドーパントは第1原料ガスに含めず、アルゴン中にシリコンドーパントを含むガスを第3原料ガスとすることができる。
【0040】
また、中間フローチャネル26に吊下げ型基板ホルダー3と上乗せ型基板ホルダー6の両方を取り付け、フェースダウン型とフェースアップ型の2つの方式による成膜を同時に行う装置としてもよい。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0041】
<作用機序>
上記各実施形態によれば、不純物の少ないβ-酸化ガリウム結晶膜を効率的に得られる。その理由は、以下のように考えられる。
まず、上記実施形態では、ガリウムソースとしてトリメチルガリウムを使用している。
【0042】
ガリウムソースとしてトリエチルガリウムを使用すると、分解温度が低いトリエチルガリウムは、フローチャネル等、原料ガスに触れる部材の材質(石英等)に含まれる二酸化ケイ素と反応しやすい。その結果、熱分解したシリコンが、結晶膜に大量に取り込まれてしまう問題がある。また、トリエチルガリウムは蒸気圧が低いため、反応炉に高濃度のガリウムを供給しにくいという問題もある。
【0043】
上記実施形態では、ガリウムソースとして分解温度が高く、自己熱分解しにくいトリメチルガリウムを使用することとしたため、石英等との反応が抑制され、意図せずに結晶膜に取り込まれるシリコンの量を低減できた。
また、トリメチルガリウムは蒸気圧が高いため、反応炉に高濃度のガリウムを供給することができ、高速で結晶膜を成長させることが可能である。
【0044】
また、一般に有機金属を金属ソースとして使用すると、炭化水素基由来の炭素と水素が、結晶膜に取り込まれてしまう傾向にある。
上記各実施形態では、混合ガスを、合流位置から充分に加熱することとした。これにより、トリメチルガリウムが分解することにより発生する炭化水素を基板に到達する前に酸素と充分に燃焼反応させることができる。そのため、炭化水素基由来の炭素と水素が、結晶膜に取り込まれてしまうことを抑制できた。
【0045】
また、上記実施形態では、キャリアとしてアルゴンを使用した、仮に、キャリアとして窒素ガスを使用すると、膜中に窒素が取り込まれ、アクセプターを形成してしまう。アルゴンは、膜中でドナーやアクセプターを形成することがない。
【0046】
このように、上記実施形態では、β-酸化ガリウム結晶膜に意図せず混入する不純物量を低減できる。そのため、トリメチルガリウムに対するシリコンドーパントの供給比を調整することにより、結晶膜中の電子濃度を安定して制御することが可能である。
【0047】
なお、従来、基板に到達する前の原料ガスが流路内で成膜されてしまうことを防ぐため、原料ガス流路を冷却装置で冷却していた。これに対して、上記実施形態では、冷却をしないだけでなく、意図的に合流位置から混合ガスを加熱しているが、流路内での成膜は、実用上充分に抑制されている。これは、トリメチルガリウムに由来するガリウムよりも、炭化水素基部分の方が、先に酸素と反応しやすいためであると考えられる。
以下、上記実施形態で得られる結晶膜について詳述する。
【0048】
<結晶膜>
本実施形態の結晶膜は、β型の酸化ガリウム結晶膜である。本実施形態の結晶膜は、炭素、水素、窒素の合計含有量が2×1017cm-3以下である。炭素、水素、窒素の合計含有量は1017cm-3以下であることが好ましく、1016cm-3以下であることがより好ましい。
【0049】
炭素の含有量は、1017cm-3以下であることが好ましく、1016cm-3以下であることがより好ましく、1015cm-3以下であることがさらに好ましい。水素の含有量は、1017cm-3以下であることが好ましく、1016cm-3以下であることがより好ましく、1015cm-3以下であることがさらに好ましい。窒素の含有量は、1017cm-3以下であることが好ましく、1016cm-3以下であることがより好ましく、1015cm-3以下であることがさらに好ましい。
【0050】
また、ドーパントとしてではなく、すなわち、意図的に用いるシリコンドーパントに由来することなく含まれるシリコンの含有量は、1016cm-3以下であることが好ましく、1015cm-3以下であることがより好ましい。
なお、炭素、水素、窒素、シリコン各々の含有量は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した、膜表面から1~3μmの範囲における濃度の平均値である。
【0051】
本実施形態の結晶膜は、シリコンがドーピングされ、n型とされている。ドナー濃度Nとアクセプター濃度Nとの差[N-N]は、1015cm-3以上1019cm-3以下である。
なお、差[N-N]は、水銀プローブを用いた静電容量-電圧(C-V)測定により算出した膜表面から2~3μmの範囲における値の平均値である。
差[N-N]は、1015cm-3以上1019cm-3以下であることが好ましい。
【0052】
本実施形態の結晶膜は、移動度が30cm/Vs以上であることが好ましく、50cm/Vs以上であることがより好ましく、100cm/Vs以上であることがさらに好ましい。移動度が高いと半導体装置動作時の電力損失を抑制できる。
本実施形態の結晶膜の厚さは、0.5~100μmであることが好ましい。
【0053】
本実施形態の結晶膜は、特に、半導体装置に好適に用いることができ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。本実施形態の結晶膜を用いて形成される半導体装置としては、MISやHEMT等のトランジスタやTFT、半導体-金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子が挙げられる。本実施形態の結晶膜は基板上に形成したそのままの状態で半導体装置等に用いてもよいし、基板から剥離する等の公知の手段を用いた後に、半導体装置等に適用してもよい。
半導体装置は、さらに公知の手段を用いて、パワーモジュール、インバータまたはコンバータとして好適に用いられ、さらには、例えば電源装置を用いた半導体システム等に好適に用いられる。
【実施例0054】
<基板>
以下の実験例には、以下の基板を使用した。
基板A:(010)面、厚み0.50mm、SnドープGa基板(株式会社ノベルクリスタルテクノロジー製)。
基板B:(0001)面、厚み0.43mm、m軸方向オフ角0.15°、サファイア基板(Orbray株式会社製)。
【0055】
<原料>
以下の実験例には、以下の原料を使用した。
TMGa:トリメチルガリウム(大陽日酸株式会社製)。
:酸素(大陽日酸株式会社製)。
Ar:アルゴン(大陽日酸株式会社製)。
TMSi:テトラメチルシラン(大陽日酸株式会社製)。
【0056】
<測定方法>
不純物としての炭素、水素、窒素各々の含有量は、CAMECA製二次イオン質量分析装置IMS-6f型を用いて、膜表面から1~3μmの範囲における濃度を、0.031μmごとに64点測定した。64点の測定結果の平均を含有量とした。炭素、水素、窒素の測定時と同様の装置を用いて、シリコンの含有量は、膜表面から1~3μmの範囲における濃度を、0.038μmごとに53点測定した。53点の測定結果の平均を含有量とした。
【0057】
差[N-N]は、水銀プローブを有するMATERIALS DEVELOPMENT CORPORATION社製(C-V)測定装置Model 802B型を用いて、膜表面から2~3μmの範囲における濃度を、0.2μmごとに6点測定した。6点の測定結果の平均を差[N-N]とした。
電子濃度と移動度は、株式会社東陽テクニカ製ResiTest8300を用いて、ACホール測定(交流電磁場法)により求めた。
【0058】
Ar、O、及びTMGaガス流量は、それぞれFujikin社製FCST1030MZDTC-4J1-F5L-AR-R6-D28、FCST1005MZDTC-4J1-F1L-O2-R5-D28、FCST1005MZDTC-4J1-F1L-AR-R4-D28により測定した。合流後の圧力は、隔膜式真空計により測定した。混合ガスの流速は、合流後の温度と圧力及び混合ガス流量より計算した。
【0059】
<実験例1>
断熱ボックス5に代えて、断熱ボックスと同程度の体積のアルミナ断熱材を、上流フローチャネル20に巻いた他は、図1と同じ装置について温度分布を確認した。A地点からB地点までの距離は200mmとした。また、中間フローチャネル26の高さ及び幅はそれぞれ10mm、80mmとした。
【0060】
熱電対4を用いて温度分布を確認するため、装置内にはNのみを導入した、第1原料ガス供給管31と第2原料ガス供給管32aと第2原料ガス供給管32bの各々から供給するNの流量は各々3.0L/分、総流量9.0L/分とし、合流後の圧力は、1.4kPaとした。
その結果、温度が1000℃の時における混合ガスの流速は、63.2m/秒、混合ガスがA地点から基板ホルダー中央に達するまでの時間は0.0019秒となった。
【0061】
ゾーンヒーター10の設定温度は、上流加熱用ヒーター11を600℃、中間加熱用ヒーター12と下流加熱用ヒーター13については、960℃とした。
その結果、図4に示す温度分布が得られた。図4に示すように、A地点の温度は903℃、基板付近の温度は、ほぼ1000℃の一定温度とすることができた。
【0062】
<実験例2>
実験例1と同じ装置を用い、基板A上に厚さ5μmのβ-Ga結晶膜を成長させた。熱電対4は用いなかった。
第1原料ガス供給管31から供給するガスはAr中にTMGaを含むガスとし、第2原料ガス供給管32aと第2原料ガス供給管32bから供給するガスはAr中にOを含むガスとした。ドーパントとなるTMSiは用いなかった。
【0063】
TMGaの供給量は、182μmol/分、Oの供給量は178571μmol/分(2.0L/分)に設定した。この時のトリメチルガリウムに対する酸素の供給比は、トリメチルガリウムに対する酸素分子のモル比として981であった。成長時間は60分とした。
ゾーンヒーター10の設定温度は、実験例1と同様とした。混合ガスの総流量(合流後の総流量)、合流後の圧力、温度が1000℃の時における混合ガスの流速、及び混合ガスがA地点から基板ホルダー中央に達するまでの時間は、それぞれ8.4L/分、2.4kPa、34.4m/秒、0.0035秒とした。
【0064】
得られた結晶膜中の不純物濃度を測定したところ、炭素濃度は3×1016cm-3、水素濃度は7×1016cm-3、窒素濃度は9×1015cm-3、シリコン濃度は1×1015cm-3で、いずれもSIMS測定のバックグラウンドレベルと同等の非常に低い値を示した。
炭素、水素、窒素の合計含有量は2×1017cm-3以下であった。
また、(C-V)測定で求めた差[N-N]は、2×1015cm-3であった。
このことから、合流位置の温度を903℃とした条件で、不純物を極めて低い濃度に抑えられることが確認できた。
【0065】
<実験例3>
実験例1と同じ装置を用い、表1に示す基板上に厚さ5μmのβ-Ga結晶膜を成長させた。熱電対4は用いなかった。
第1原料ガス供給管31から供給するガスはAr中にTMGaを含むガスとし、第2原料ガス供給管32aと第2原料ガス供給管32bから供給するガスはAr中にOを含むガスとした。ドーパントとなるTMSiは用いなかった。
【0066】
TMGaの供給量は、182μmol/分、Oの供給量は178571μmol/分(2.0L/分)に設定した。この時のトリメチルガリウムに対する酸素の供給比は、トリメチルガリウムに対する酸素分子のモル比として981であった。成長時間は60分とした。
【0067】
混合ガスの総流量、圧力、温度が1000℃の時における混合ガスの流速、及び混合ガスがA地点から基板ホルダー中央に達するまでの到達時間は、各例について表1のように変更した。
ゾーンヒーター10の設定温度は、実験例1と同様とした。
【0068】
得られた結晶膜中の炭素濃度を測定したところ、表1の結果が得られた。
このことから、合流位置の温度を903℃とした条件において、混合ガスの流速を小さくし、A地点から基板中央に達するまでの到達時間を長くすると、不純物の濃度をより低く抑えられることが確認できた。
【0069】
【表1】
【0070】
<実験例4>
実験例1と同じ装置を用い、表1に示す基板上に厚さ5μmのβ-Ga結晶膜を成長させた。熱電対4は用いなかった。
第1原料ガス供給管31から供給するガスはAr中にTMGaとTMSiを含むガスとし、第2原料ガス供給管32aと第2原料ガス供給管32bから供給するガスはAr中にOを含むガスとした。
【0071】
TMGaの供給量は、182μmol/分に固定し、TMSiの供給量を変化させることにより、第1原料ガスにおけるTMSi/TMGa供給比(トリメチルガリウムに対するテトラメチルシランの供給モル比)を、9.97×10-5から4.98×10-7まで変化させた。
【0072】
の供給量は178571μmol/分(2.0L/分)に設定した。この時のトリメチルガリウムに対する酸素の供給比は、トリメチルガリウムに対する酸素分子のモル比として981であった。成長時間は60分とした。
混合ガスの総流量、圧力、温度が1000℃の時における混合ガスの流速、及び混合ガスがA地点から基板ホルダー中央に達するまでの時間、並びにゾーンヒーター10の設定温度は、実験例1と同様とした。
【0073】
得られた結晶膜の電子濃度を測定した結果を図5に示す。図5に示すように、TMSi/TMGa供給比に応じて、電子濃度が線形的に変化した。
このことから、合流位置の温度を903℃とした条件において、TMSi/TMGa供給比を変化させることにより、不純物の影響を抑えて、電子濃度を安定的に制御できることが確認できた。
【0074】
<実験例5>
図1と同じ装置(断熱ボックス5の位置も図1と同じ)について温度分布を確認した。A地点からB地点までの距離は200mmとした。また、中間フローチャネル26の高さ及び幅はそれぞれ10mm、80mmとした。
【0075】
熱電対4を用いて温度分布を確認するため、装置内にはNのみを導入した、第1原料ガス供給管31と第2原料ガス供給管32aと第2原料ガス供給管32bの各々から供給するNの流量は各々3.0L/分、総流量9.0L/分とし、合流後の圧力は、1.4kPaとした。
その結果、温度が1000℃の時における混合ガスの流速は、63.2m/秒、混合ガスがA地点から基板ホルダー中央に達するまでの時間は0.0019秒となった。
【0076】
ゾーンヒーター10の設定温度は、上流加熱用ヒーター11を実験例5-1では600℃、実験例5-2では、960℃に設定した。中間加熱用ヒーター12と下流加熱用ヒーター13については、実験例5-1、実験例5-2いずれにおいても960℃とした。
その結果、図6に示す温度分布が得られた。図6に示すように、A地点の温度は実験例5-1では923℃、実験例5-2では939℃となった。基板付近の温度は、実験例5-1、実験例5-2いずれにおいてもほぼ1000℃の一定温度とすることができた。
【0077】
<実験例6>
実験例1と同じ装置を用い、基板A上に厚さ5μmのβ-Ga結晶膜を成長させた。熱電対4は用いなかった。
第1原料ガス供給管31から供給するガスはAr中にTMGaを含むガスとし、第2原料ガス供給管32aと第2原料ガス供給管32bから供給するガスはAr中にOを含むガスとした。ドーパントとなるTMSiは用いなかった。
【0078】
TMGaの供給量は、182μmol/分、Oの供給量は178571μmol/分(2.0L/分)に設定した。この時のトリメチルガリウムに対する酸素の供給比は、トリメチルガリウムに対する酸素分子のモル比として981であった。成長時間は60分とした。
ゾーンヒーター10の設定温度は、実験例6-1は実験例5-1と同様とし、実験例6-2は実験例5-2と同様とした。混合ガスの総流量(合流後の総流量)、合流後の圧力、温度が1000℃の時における混合ガスの流速、及び混合ガスがA地点から基板ホルダー中央に達するまでの時間は、それぞれ8.4L/分、1.4kPa、59.0m/秒、0.0020秒とした。
【0079】
得られた結晶膜中の炭素濃度を測定したところ、実験例6-1の炭素濃度は6×1017cm-3、実験例6-2の炭素濃度は1×1017cm-3であった。
このことから、A地点の温度を923℃から939℃へ上げると炭素濃度をより低く抑えられることが確認できた。
【符号の説明】
【0080】
1 反応管
2 基板
3 吊下げ型基板ホルダー
4 熱電対
5 断熱ボックス
6 上乗せ型基板ホルダー
10 ゾーンヒーター
11 上流加熱用ヒーター
12 中間加熱用ヒーター
13 下流加熱用ヒーター
20 上流フローチャネル
21 トップチャネル
22 ミドルチャネル
23 ボトムチャネル
26 中間フローチャネル
27 上面開口部
28 下面開口部
29 下流フローチャネル
31 第1原料ガス供給管
32a 第2原料ガス供給管
32b 第2原料ガス供給管
図1
図2
図3
図4
図5
図6