(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177142
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】モノテルペノイド産生能を有する微生物及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20241212BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20241212BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/62
C12N1/21
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092665
(22)【出願日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2023095747
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(72)【発明者】
【氏名】古林 真衣子
(72)【発明者】
【氏名】三谷 恭雄
(72)【発明者】
【氏名】中島 信孝
(72)【発明者】
【氏名】湯村 秀一
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD73
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA06X
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AA41X
4B065AA50X
4B065AA53Y
4B065AA58X
4B065AA72X
4B065AA80Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA03
4B065CA24
4B065CA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】モノテルペノイドの製造に有用な微生物、及び前記微生物を利用したモノテルペノイドを効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】モノテルペノイド産生能を有する微生物であって、(a)リモネンシンターゼ(LS)、(b)リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)、並びに(c)ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)及びペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素の活性又は発現が増強するように改変されている、微生物。前記微生物に、糖類、アルコール及び有機酸からなる群より選ばれる1種以上を含む有機原料を作用させる工程を含む、モノテルペノイドの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノテルペノイド産生能を有する微生物であって、
(a) リモネンシンターゼ(LS)、
(b) リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)、並びに
(c) ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)及びペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素
の活性又は発現が増強するように改変された、微生物。
【請求項2】
ゲラニルピロリン酸シンターゼ(GPPS)及び/又はネリルピロリン酸シンターゼ(NPPS)の活性又は発現が増強するように改変された、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(AtoB)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(HMGS)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(HMGR)、メバロン酸キナーゼ(MVK)、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)、及びイソペンチル二リン酸イソメラーゼ(IDI)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素の活性又は発現が増強するように改変された、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)、2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)、2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)、及び1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素の活性又は発現が増強するように改変された、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
ホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)及び/又はクエン酸シンターゼ(GltA)の活性又は発現が低減するように改変された、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌、アクチノマイセス(Actinomyces)属細菌、糸状菌、及び酵母からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
請求項1に記載の微生物に有機原料を作用させる工程を含む、モノテルペノイドの製造方法。
【請求項8】
前記有機原料が、糖類、アルコール及び有機酸からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項7に記載のモノテルペノイドの製造方法。
【請求項9】
前記モノテルペノイドが、ペリリルアルデヒド、ペリル酸及びペリル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記モノテルペノイドがペリル酸メチルである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
(a) 請求項10に記載の方法によりペリル酸メチルを製造する工程、及び
(b) 工程(a)で得られたペリル酸メチルを芳香族化合物へ変換する工程
を含む、芳香族化合物の製造方法。
【請求項12】
前記芳香族化合物が、クミン酸メチル、クミン酸及びテレフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノテルペノイド産生能を有する微生物及び該微生物を利用したモノテルペノイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノテルペノイドは、2つのイソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)単位からなる構造を基本骨格とする化合物である。モノテルペノイドには、線形のもの(非環式)と環を含むもの(単環式、複環式)があり、酸化や転位反応等による修飾によって、種々の官能基を有するものも含まれる。モノテルペノイドには、様々な生理活性、生理機能を有するものが知られており、例えば、リモネン、ペリリルアルコール、ペリリルアルデヒド、ペリル酸などが挙げられる。これらは香料や食品添加物、抗菌作用、抗がん作用、抗酸化作用などを示す成分として注目されている。また、ペリル酸メチルは、温和な条件の化学合成反応でクミン酸やテレフタル酸などに誘導することが可能であり、芳香族化合物誘導体として注目されている。
一方、グルコースからペリリルアルコールを製造する方法が報告されている(非特許文献1:JorgeAlonso-Gutierrez et al., Metabolic Engineering 19 (2013) 33-41)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JorgeAlonso-Gutierrez et al., Metabolic Engineering 19 (2013) 33-41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クミン酸やテレフタル酸などの芳香族化合物は、複雑な構造をとるために化学合成が容易でなく、一方、天然資源からこれらの化合物を抽出することは、植物等に微量しか含まれていないために非効率であった。そのため、これらの芳香族化合物に誘導可能な様々なイソプレノイド又はモノテルペノイドを効率的に生産することを可能とする技術の確立が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、リモネンシンターゼ(LS)、リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)、ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)、ペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)などの酵素の活性又は発現が増強するように改変されている微生物を用いることにより、有機原料から効率的にモノテルペノイドを製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0006】
[1]
モノテルペノイド産生能を有する微生物であって、
(a) リモネンシンターゼ(LS)、
(b) リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)、並びに
(c) ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)及びペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素
の活性又は発現が増強するように改変された、微生物。
[2]
ゲラニルピロリン酸シンターゼ(GPPS)及び/又はネリルピロリン酸シンターゼ(NPPS)の活性又は発現が増強するように改変された、上記[1]に記載の微生物。
[3]
アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(AtoB)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(HMGS)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(HMGR)、メバロン酸キナーゼ(MVK)、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)、及びイソペンチル二リン酸イソメラーゼ(IDI)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素の活性又は発現が増強するように改変された、上記[1]又は[2]に記載の微生物。
[4]
1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)、2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)、2-C-メチル-D-エリスリトール2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)、及び1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素の活性又は発現が増強するように改変された、上記[1]~[3]のいずれかに記載の微生物。
[5]
ホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)及び/又はクエン酸シンターゼ(GltA)の活性又は発現が低減するように改変された、上記[1]~[4]のいずれかに記載の微生物。
[6]
大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus) 属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌、アクチノマイセス(Actinomyces)属細菌、糸状菌、及び酵母からなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の微生物。
[7]
上記[1]~[6]のいずれかに記載の微生物に有機原料を作用させる工程を含む、モノテルペノイドの製造方法。
[8]
前記有機原料が、糖類、アルコール及び有機酸からなる群より選ばれる1種以上を含む、上記[7]に記載のモノテルペノイドの製造方法。
[9]
前記モノテルペノイドが、ペリリルアルデヒド、ペリル酸及びペリル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記[7]又は[8]に記載の製造方法。
[10]
前記モノテルペノイドがペリル酸メチルである、上記[9]に記載の製造方法。
[11]
(a) 上記[10]に記載の方法によりペリル酸メチルを製造する工程、及び
(b) 工程(a)で得られたペリル酸メチルを芳香族化合物へ変換する工程
を含む、芳香族化合物の製造方法。
[12]
前記芳香族化合物が、クミン酸メチル、クミン酸及びテレフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記[11]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、モノテルペノイドの製造に有用な微生物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の微生物における反応系の一例を示す図である。
【
図2】本発明の微生物におけるペリル酸メチルの生産量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0010】
1.概要
モノテルペノイドには、リモネン、ペリリルアルコール、ペリリルアルデヒド、ペリル酸などがあり、これらは、香料や食品添加物、抗菌作用、抗がん作用、抗酸化作用などを示す成分として注目されている。また、ペリル酸メチルは、温和な条件の化学合成反応でクミン酸やテレフタル酸などに誘導することが可能であり、芳香族化合物誘導体として注目されている。
しかし、クミン酸やテレフタル酸などの芳香族化合物は、複雑な構造をとるために化学合成が容易でなく、一方、天然資源からこれらの化合物を抽出することは、植物等に当該化合物が微量しか含まれていないために非効率であった。そのため、これらの芳香族化合物に誘導可能な様々なイソプレノイド又はモノテルペノイドを効率的に生産することを可能とする技術の確立が求められる。
グルコースからペリリルアルコールを製造する方法は報告されているが(Jorge Alonso-Gutierrez et al., Metabolic Engineering 19 (2013) 33-41)、この報告では、ペリリルアルデヒド、ペリル酸、ペリル酸メチルを生産することについては何ら触れられていない。
このような状況に鑑み、本発明者らは、リモネンシンターゼ(LS)、リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)、ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)、ペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)などの酵素の活性又は発現が増強するように改変されている微生物を用いることにより、有機原料から効率的にモノテルペノイドを製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
本発明により、グルコースからペリル酸メチルへの途切れのない(seamless)生成経路を有する微生物を提供することが可能であり、また、この経路に関与する各酵素の活性又は発現が増強されることで、有機原料からのペリル酸メチルなどのモノテルペノイドの効率的な生産が可能となる。
本発明の微生物及び該微生物を用いたモノテルペノイドの製造方法は、単一の系において有機原料から効率的にモノテルペノイドを製造することができる点で極めて有用である。
【0011】
2.モノテルペノイド産生能を有する微生物
(1)モノテルペノイド
モノテルペノイドは、2つのイソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)単位からなる構造を基本骨格とする化合物である。モノテルペノイドには、線形のもの(非環式)と環を含むもの(単環式、複環式)があり、酸化や転位反応等による修飾によって、種々の官能基を有するものも含まれる。
本発明において、モノテルペノイドとしては、例えば、リモネン骨格を有するモノテルペノイドが挙げられ、リモネン骨格を有するモノテルペノイドとしては、例えば、リモネン、ペリリルアルコール、ペリリルアルデヒド、ペリル酸、ペリル酸メチル、γ-テルピネンなどが挙げられ、これらに限定されない。
【0012】
(2)モノテルペノイドの産生
本発明において、モノテルペノイドの「産生」とは、生物(例えば微生物)がモノテルペノイドを生みだすことを意味し、本明細書において「産生」は、「生産」又は「生成」と交換可能に使用することができる。
モノテルペノイドが産生されたかどうかは、当業者であれば、公知の方法、例えば、被験試料(例えば微生物の培養液)から液液抽出により有機層を分離し、当該有機層をガスクロマトグラフィー質量分析器等を用いて分析する方法により評価することができる。例えば、ガスクロマトグラフィー分析の結果、標品に含まれる目的のモノテルペノイド(例えばペリル酸メチル)が示すピークの位置と同じ位置に、被験試料に含まれる目的のモノテルペノイドのピークが生じれば、当該被験試料には目的のモノテルペノイドが産生されたことがわかる。ただし、本発明において、モノテルペノイドの産生量を測定又は産生を検出する方法は、当業者であれば公知の方法を適宜採用することができ、上記方法に限定されない。
【0013】
(3)微生物
本発明において、モノテルペノイド産生能を有する微生物とは、モノテルペノイドを効率的に産生するように改変された微生物を意味する。
本発明において、そのような微生物としては、限定されるものではなく、例えば、次の微生物が挙げられる。
(a) リモネンシンターゼ(LS)、
(b) リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)、並びに
(c) ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)及びペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素
の活性又は発現が増強するように改変された微生物。
【0014】
本発明において、リモネンシンターゼ(LS)は、ゲラニルピロリン酸(GPP)を環化してリモネンを合成する反応を触媒する酵素である。
本発明において、リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)は、リモネンの7位の炭素原子を水酸化してペリリルアルコールを生成する反応を触媒する酵素である。リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)としては、リモネンの7位の炭素原子を水酸化してペリリルアルコールを生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されずに使用でき、p-シメンモノオキシゲナーゼ(CymAab)を使用することもできる。CymAabは、p-シメンの7位の炭素原子を水酸化して4-イソプロピルベンジルアルコールを生成する反応を触媒する酵素である一方、リモネンも基質として認識し、L7H活性を有することがある。したがって、CymAabもリモネンからペリリルアルコールを生成する反応に用いることができる。この酵素は、ヒドロキシラーゼサブユニット(CymAa)とレダクターゼサブユニット(CymAb)で構成される。したがって、本明細書において、L7Hを「CymAab」、そのサブユニットをそれぞれ「CymAa」、「CymAb」と表記することがある。
本発明において、ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)は、ペリリルアルコールを酸化(脱水素)してペリリルアルデヒドを生成する反応を触媒する酵素である。ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)としては、ペリリルアルコールを酸化(脱水素)してペリリルアルデヒドを生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されずに使用でき、4-イソプロピルベンジルアルコールデヒドロゲナーゼ(CymB)を使用することもできる。CymBは、4-イソプロピルベンジルアルコールを酸化(脱水素)して4-イソプロピルベンズアルデヒドを生成する反応を触媒する一方、ペリリルアルコールも基質として認識し、POHDH活性を有することがある。したがって、CymBも、ペリリルアルコールからペリリルアルデヒドを生成する反応に用いることができる。このように、CymBはPOHDH活性を有し得るため、本明細書において、POHDHを「CymB」と表記することがある。
本発明において、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)は、ペリリルアルデヒドを酸化してペリル酸を生成する反応を触媒する酵素である。ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)としては、ペリリルアルデヒドを酸化してペリル酸を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されずに使用でき、4-イソプロピルベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(CymC)を使用することもできる。CymCは、4-イソプロピルベンズアルデヒドを酸化してクミン酸を生成する反応を触媒する一方、ペリリルアルデヒドも基質として認識し、PAldDH活性を有することがある。したがって、CymCも、ペリリルアルデヒドからペリル酸を生成する反応に用いることができる。このように、CymCはPAldDH活性を有し得るため、本明細書において、PAldDHを「CymC」と表記することがある。
本発明において、ペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)は、ペリル酸のヒドロキシル基(-OH)にメチル基を転移して(メチル化して)ペリル酸メチルを生成する反応を触媒する酵素である。
【0015】
本発明においては、上記(a)~(c)の酵素に加えて、ゲラニルピロリン酸シンターゼ(GPPS)及び/又はネリルピロリン酸シンターゼ(NPPS)の活性又は発現が増強するように改変された微生物を使用することができる。
【0016】
さらに、本発明においては、上記(a)~(c)の酵素に加えて、
(i) GPPS及び/もしくはNPPS、並びに/又は
(ii) アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(AtoB)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(HMGS)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(HMGR)、メバロン酸キナーゼ(MVK)、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)、及びイソペンチル二リン酸イソメラーゼ(IDI)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素
の活性又は発現が増強するように改変された微生物を使用することができる。
【0017】
さらに、本発明においては、上記(a)~(c)の酵素に加えて、以下の(i)~(iii):
(i) GPPS及び/もしくはNPPS、
(ii) AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD及びIDIからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素、並びに
(iii) 1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)、2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)、2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)、及び1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素
からなる群から選択される少なくとも1種以上の酵素の活性又は発現が増強するように改変された微生物を使用することができる。
【0018】
さらに、本発明においては、上記(a)~(c)の酵素に加えて、以下の(i)~(iii):
(i) GPPS及び/もしくはNPPS、
(ii) AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD及びIDIからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素、並びに
(iii) Dxs、Dxr、IspD、IspE、IspF、IspG及びIspHからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素
からなる群から選択される少なくとも1種以上の酵素の活性又は発現が増強するように改変され、かつ/又は
(iv) ホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)及び/もしくはクエン酸シンターゼ(GltA)の活性又は発現が低減するように改変された、微生物を使用することができる。
【0019】
さらに、本発明には、上記(ii)のAtoB及びHMGRの活性又は発現の増強に代えて、AtoB及びHMGRの両方の活性を有する酵素(MvaE)の活性又は発現が増強するように改変された微生物を使用することもできる。また、MvaEを有する微生物由来の3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼはMvaSと呼ばれることもあり、本明細書においても、HMGSを「MvaS」と表記することがある。
【0020】
本明細書において、ある酵素の「活性又は発現が増強するように改変された」とは、当該酵素の活性又は発現が、非改変細胞(改変されていない細胞)における当該酵素の活性又は発現と比較して、例えば、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上又は100%以上増強するように改変されていることを意味する。当該酵素の活性又は発現が増強されているかどうかは、改変された細胞における当該酵素の発現量を測定し、当該発現量が非改変細胞と比較して増加しているかどうかを調べることで評価することができる。
【0021】
本明細書において、ある酵素の「活性又は発現が低減するように改変された」とは、当該酵素の活性又は発現が、非改変細胞(改変されていない細胞)における当該酵素の活性又は発現と比較して、例えば、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上又は100%低減するように改変されていることを意味する(「100%低減」は「消失」と言い換えることもできる)。
当該酵素の活性又は発現が低減されているかどうかは、改変された細胞における当該酵素の発現量を測定し、当該発現量が非改変細胞と比較して減少又は当該酵素の発現が消失しているかどうかを調べることで評価することができる。
また、ある酵素の遺伝子が破壊された細胞は、当該酵素の「活性又は発現が低減(消失)するように改変された」細胞であると評価することができる。
【0022】
上記(a)~(c)の酵素の活性又は発現が増強するように改変された微生物としては、例えば、
(a) リモネンシンターゼ(LS)をコードするDNA
(b) リモネン-7-ヒドロキシラーゼ(L7H)をコードするDNA、並びに
(c) ペリリルアルコールデヒドロゲナーゼ(POHDH)、ペリリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(PAldDH)及びペリル酸-O-メチルトランスフェラーゼ(PAOMT)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素をコードするDNA
を含む微生物が挙げられる。
【0023】
GPPS、NPPS、AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、Dxs、Dxr、IspD、IspE、IspF、IspG、IspHのそれぞれの活性又は発現が増強するように改変された微生物としては、例えば、GPPS、NPPS、AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、Dxs、Dxr、IspD、IspE、IspF、IspG、IspHのそれぞれをコードするDNAを含む微生物が挙げられる。
Pgi及び/又はGltAの活性又は発現が低減するように改変された微生物としては、例えば、微生物の染色体上のこれら酵素をコードする核酸を破壊する手法、これら酵素をコードする核酸のプロモーターをより微弱なプロモーターに置換する手法、これら酵素をコードする核酸のプロモーターやリボソーム結合配列(SD配列)等の発現調節配列を発現量が低下するように改変する手法、アンチセンスRNAを発現させて標的mRNAへのリボソーム結合を阻害することにより翻訳を抑制する手法、CRISPR Interferenceにより転写を抑制する手法、これら酵素をコードする核酸(DNA、RNAなど)に変異を導入することによって酵素1分子当たりの活性を低下させる手法などによって改変された微生物が挙げられる。
本発明において、「改変された微生物」及び各酵素をコードするDNAを含む微生物は、「形質転換体」と称することもできる。
【0024】
LS、L7H(CymAab)、POHDH(CymB)、PAldDH(CymC)、PAOMT、GPPS、NPPS、AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、Dxs、Dxr、IspD、IspE、IspF、IspG、IspHのそれぞれをコードするDNAは、それぞれ、その塩基配列の情報を公知のデータベース、例えばNCBI(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nucleotide/)などから取得し、公知の遺伝子工学的手法を用いて調製することができる。また、すでに上記DNAの一部を含む公知の構築物(例えば、pJBEI6409)を入手できる場合は、そのような構築物を利用することもできる。
本発明に使用することができる各酵素をコードするDNAの塩基配列について、その由来及びGenBank アクセッション番号及び/又はGene IDの例を以下に示す。ただし、本発明に使用することができる各酵素をコードするDNAの由来並びにGenBank Accession番号及び/又はGene IDは下記のものに限定されない。また、当業者は、公知のデータベースから取得した塩基配列又はアミノ酸配列の情報に基づいて、目的の塩基配列を適宜最適化(コドン最適化など)することができる。
Mentha spicata由来LS:Genbank アクセッション番号L13459
Salvia dorisiana由来L7H:Genbank アクセッション番号MH051318
Salvia dorisiana由来POHDH:Genbank アクセッション番号MH051324
Salvia dorisiana由来PAOMT:Genbank アクセッション番号MH051325
Pseudomonas putida由来CymAab、CymB及びCymC:Genbank アクセッション番号U24215
Abies grandis由来GPPS:Genbank アクセッション番号AF513112
Solanum lycopersicum由来NPPS:Genbank アクセッション番号NM_001247704
Escherichia coli由来AtoB:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (2326109..2327293)、Gene ID: 946727
Staphylococcus aureus由来HMGS及びHMGR:Genbank アクセッション番号AF290086
Saccharomyces cerevisiae由来MVK:Genbank アクセッション番号NC_001145.3 (684467..685798)、Gene ID: 855248
Saccharomyces cerevisiae由来PMK:Genbank アクセッション番号NC_001145.3 (712316..713671)、Gene ID: 855260
Saccharomyces cerevisiae由来MVD:Genbank アクセッション番号NC_001146.8 (701895..703085)、Gene ID: 855779
Escherichia coli由来IDI:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (3033065..3033613)、Gene ID: 949020
Rhizobium radiobacter由来Dxs:Genbank アクセッション番号KJ619966
Escherichia coli由来Dxr:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (193521..194717)、Gene ID: 945019
Escherichia coli由来IspD:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (2871780..2872490, complement)、Gene ID: 948269
Escherichia coli由来IspE:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (1262026..1262877, complement)、Gene ID: 945774
Escherichia coli由来IspF:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (2871301..2871780, complement)、Gene ID: 945057
Escherichia coli由来IspG:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (2640686..2641804, complement) 、Gene ID: 946991
Escherichia coli由来IspH:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (26277..27227)、Gene ID: 944777
Escherichia coli由来Pgi:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (4233758..4235407)、Gene ID: 948535
Escherichia coli由来GltA:Genbank アクセッション番号NC_000913.3 (753185..754468, complement) 、Gene ID: 945323
Mentha spicata由来LSをコードするDNAの塩基配列及びMentha spicata由来LSのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号20及び21で示し、
Salvia dorisiana由来L7HをコードするDNAの塩基配列及びSalvia dorisiana由来L7Hのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号22及び23で示し、
Salvia dorisiana由来POHDHをコードするDNAの塩基配列及びSalvia dorisiana由来POHDHのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号24及び25で示し、
Salvia dorisiana由来PAOMTをコードするDNAの塩基配列及びSalvia dorisiana由来PAOMTのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号26及び27で示し、
Pseudomonas putida由来CymAab、CymAa、CymAb、CymB及びCymCをコードするDNAの塩基配列は、それぞれ、配列番号28、29、31、33及び35で示し、Pseudomonas putida由来CymAa、CymAb、CymB及びCymCのアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号30、32、34及び36で示す。
ただし、本発明における上記各酵素をコードするDNAの塩基配列及び各酵素のアミノ酸配列は、これらに限定されない。また、上記のとおり、当業者であれば、これらの塩基配列又はアミノ酸配列の情報に基づいて、目的の塩基配列を適宜最適化(コドン最適化など)することができる。
【0025】
また、本発明においては、各酵素をコードするDNAを微生物に遺伝子導入するために、当該DNAを含むベクターを用いることができる。そのようなベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。ベクターの種類は、当業者であれば、宿主微生物の種類及び目的に応じて適宜選択することができる。本発明のベクターには、上記酵素をコードするDNAのほか、プロモーター、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカー遺伝子、レポーター遺伝子などを含むことができ、また、これらを改変することもできる。
本発明のベクターとしては、本発明で使用される酵素を宿主微生物で発現することができる限り限定されるものではなく、例えば、二以上の酵素遺伝子を発現することができるベクターを用いることができる。そのようなベクターとしては、プラスミドベクターの場合、例えば、pBBRA-1.1eベクター、pUCSp-2ベクター、pUCAp-2ベクターなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明において、ベクターは、1又は複数の酵素をコードするDNAを含むことができる。例えば、一つのベクターが、CymAab(CymAa 及びCymAb)、CymB及びCymCをコードするDNA、CymAab(CymAa 及びCymAb)をコードするDNA、AtoB、HMGS及びHMGRをコードするDNA、MVK、PMK、MVD及びIDIをコードするDNA、GPPS及びLSをコードするDNA、AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS及びLSをコードするDNAなどを含むことができるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明においては、例えば、LSをコードするDNAを微生物に導入することにより、微生物におけるLSの活性又は発現を増強することができる。これにより、グルコースなどの有機原料からリモネンの生成を向上させることができる。さらに、LSに加えてGPPSをコードするDNAを微生物に導入することにより、微生物におけるGPPSの活性又は発現を増強することができ、これにより、グルコースなどの有機原料からリモネンの生成をさらに向上させることができる。具体的には、微生物においては、例えば、グルコースからアセチルCoAが供給され、供給されたアセチルCoAから、メチルエリスリトールリン酸経路(2-C-methyl-D-erythritol 4-phosphate pathway:MEP経路)及び/又はメバロン酸経路(MVA経路)を介してイソペンテニル二リン酸(isopentenyl diphosphate:IPP)とジメチルアリル二リン酸(dimethylallyl diphosphate:DMAPP)が生成される。生成したIPPとDMAPPとから、GPPSの作用によりゲラニル二リン酸(GPP)が生成され、GPPから、LSの作用によりリモネンが生成される。すなわち、本発明においては、LSをコードするDNA又はLS及びGPPSをコードするDNAを含む微生物において、グルコースなどの有機原料からのリモネンの生成を向上させることができる。なお、本発明において、GPPSの活性又は発現の増強は選択的なものであり、必須のものではない。
【0028】
さらに、本発明においては、L7H(CymAab)をコードするDNAを微生物に導入することにより、微生物におけるL7H(CymAab)の活性又は発現を増強することができ、これにより、リモネンからのペリリルアルコールの生成を向上させることができる。すなわち、本発明においては、L7H(CymAab)をコードするDNAを含む微生物において、リモネンからのペリリルアルコールの生成を向上させることができる。
【0029】
さらに、本発明においては、POHDH(CymB)をコードするDNAを微生物に導入することにより、微生物におけるPOHDH(CymB)の活性又は発現を増強することができ、これにより、ペリリルアルコールからのペリリルアルデヒドの生成を向上させることができる。すなわち、本発明においては、POHDH(CymB)をコードするDNAを含む微生物において、ペリリルアルコールからのペリリルアルデヒドの生成を向上させることができる。
【0030】
さらに、本発明においては、PAldDH(CymC)をコードするDNAを微生物に導入することにより、微生物におけるPAldDH(CymC)の活性又は発現を増強することができ、これにより、ペリリルアルデヒドからのペリル酸の生成を向上させることができる。すなわち、本発明においては、PAldDH(CymC)をコードするDNAを含む微生物において、ペリリルアルデヒドからのペリル酸の生成を向上させることができる。
【0031】
さらに、本発明においては、PAOMTをコードするDNAを微生物に導入することにより、微生物におけるPAOMTの活性又は発現を増強することができ、これにより、ペリル酸からのペリル酸メチルの生成を向上させることができる。すなわち、本発明においては、PAOMTをコードするDNAを含む微生物において、ペリル酸からのペリル酸メチルの生成を向上させることができる。
【0032】
LSをコードするDNA、L7H(CymAab)をコードするDNA、POHDH(CymB)をコードするDNA、PAldDH(CymC)をコードするDNA、PAOMTをコードするDNAは、一種類の微生物に組み合わせて導入することができる。これにより、単一の系において、グルコースなどの有機原料からのペリル酸メチルの生成を向上させることができる。すなわち、本発明により、グルコースからペリル酸メチルへの途切れのない(seamless)生成経路を微生物に導入することができ、また、この経路に関与する各酵素の活性又は発現を増強することで、有機原料からのペリル酸メチルなどのモノテルペノイドの効率的な生産が可能となる。
【0033】
このように、本発明においては、例えば、上記各酵素をコードするDNAを微生物に導入することにより、当該各酵素の活性又は発現が増強するように改変された微生物を作製することができる。DNAを微生物に導入する方法は公知であり、当業者であれば微生物やDNAの種類に応じて公知の遺伝子導入方法を用いることができる。このような手法としては、例えば、酵素をコードする核酸をベクターに導入し、該ベクター系で微生物を形質転換する手法、酵素をコードする核酸を含む発現カセットを微生物の染色体に導入する手法、酵素をコードする核酸のプロモーターをより強力なプロモーターに置換する手法、酵素をコードする核酸のプロモーターやリボソーム結合配列(SD配列)等の発現調節配列を発現量が増加するように改変する手法、酵素をコードする核酸に変異を導入することによって酵素1分子当たりの活性を増加させる手法、などが挙げられる。
また、本発明において、Pgi及び/又はGltAの活性又は発現が低減するように改変された微生物は、公知の手法を用いて作製することができる。このような手法としては、例えば、微生物の染色体上におけるこれらの酵素をコードする核酸を破壊する手法、これらの酵素をコードする核酸のプロモーターをより微弱なプロモーターに置換する手法、これらの酵素をコードする核酸のプロモーターやリボソーム結合配列(SD配列)等の発現調節配列を、発現量が低下するように改変する手法、アンチセンスRNAを発現させて標的mRNAへのリボソーム結合を阻害することにより翻訳を抑制する手法、CRISPR Interferenceにより転写を抑制する手法、これらの酵素をコードする核酸(DNA、RNAなど)に変異を導入することによって酵素1分子当たりの活性を低下させる手法、などが挙げられる。
【0034】
本発明においては、酵素タンパク質にタグを融合することができる。すなわち、本発明においては、タグと酵素との融合タンパク質をコードするDNAを用いることができる。本発明に用いることができるタグとしては、限定されるものではなく、例えば、酵素の可溶性発現を改善するための可溶化を促進するタグ、精製のためのタグ(例えばHisタグ)などが挙げられる。酵素の可溶化を促進するタグとしては、限定されるものではなく、例えば、Sumo、Fh8、GSTなどが挙げられる。酵素の可溶化を促進するタグを酵素(例えばPAOMT)と融合することにより、酵素の可溶性発現が促進され、結果としてペリル酸メチルなどのモノテルペノイドの生産量を向上させることができる。
【0035】
本発明に使用される微生物としては、本発明で用いられる上記酵素を発現することができるものであれば限定されるものではなく、例えば、大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌、アクチノマイセス(Actinomyces)属細菌、糸状菌、酵母などが挙げられる。当業者であれば、これらの微生物で本発明の酵素を発現することができるように、発現ベクターを適宜選択することができ、また、これらの微生物の種類に応じて上記酵素をコードするDNAのコドンを最適化することもできる。
【0036】
また、本発明に使用される微生物の培養条件(温度、時間、培地の組成など)及び本発明に用いられる酵素の反応条件(温度、反応時間、pHなど)は、当業者であれば、微生物の種類に応じて適宜設定することができる。
【0037】
3.モノテルペノイドの製造方法
(1)モノテルペノイド
上記「2(1)」で述べたとおりである。
(2)モノテルペノイドの製造方法
本発明において、モノテルペノイドの製造方法は、上記「2.(3)微生物」に記載の微生物に有機原料を作用させる工程を含む。本発明において、「微生物に有機原料を作用させる」とは、有機原料の存在下で微生物を培養することを意味する。
本発明において、「有機原料」とは、微生物が資化して増殖し得る炭素源又は窒素源を意味し、炭素源としては、例えば、糖類、アルコール及び有機酸などが挙げられ、窒素源としては、例えば、有機窒素化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、「糖類」としては、例えばグルコース、フルクトース、スクロース、キシロース、アラビノース、セルロースなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、「アルコール」としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロール、マンニトール、イノシトールなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、「有機酸」としては、例えばギ酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、乳酸、シュウ酸、コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、「有機窒素化合物」としては、例えば尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
また、本発明のモノテルペノイドの製造方法は、例えば、以下の工程を含むものであってもよい。
(a) (i) LSをコードするDNA、(ii) L7HをコードするDNA、並びに(iii) POHDH、PAldDH及びPAOMTからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素をコードするDNAから選択される少なくとも1つのDNAを含む微生物を作製し、培養する工程、並びに
(b) 工程(a)で得られた微生物の培養液に、有機原料を添加し、さらに培養する工程。
【0039】
上記工程(a)における微生物は、GPPS及び/又はNPPSをコードするDNAをさらに含んでいてもよい。
上記工程(a)における微生物は、AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD及びIDIからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素をコードするDNAをさらに含んでいてもよい。
上記工程(a)における微生物は、Dxs、Dxr、IspD、IspE、IspF、IspG及びIspHからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の酵素をコードするDNAをさらに含んでいてもよい。
上記工程(a)における微生物は、Pgi及び/又はGltAの活性又は発現を低減する染色体上の配列改変、例えば、染色体上のPgi及び/又はGltAの遺伝子やそのプロモーター配列に欠失や変異などをさらに含んでいてもよい。また、上記工程(a)における微生物は、Pgi及び/又はGltA発現を抑制するRNAやタンパク質、例えば、リボソーム結合配列に相補的なアンチセンスRNA、ヌクレアーゼ活性が欠失したCas9(dCas9)、Pgi及び/又はGltAの遺伝子を標的としたガイドRNAなどをさらに含んでいてもよい。
【0040】
また、本発明の製造方法は、生成したモノテルペノイドを回収する工程をさらに含むことができる。
さらに、本発明の製造方法は、生成したモノテルペノイドを精製する工程をさらに含むことができる。
生成したモノテルペノイドの回収及び精製は、当業者であれば、そのモノテルペノイドの物性に適した公知の方法、例えば、蒸留、膜脱水、イオン交換樹脂等による脱塩、結晶化(晶析)、カラムクロマトグラフィーなどの処理により、行うことができる。
【0041】
本発明において、モノテルペノイドの製造方法は、微生物として大腸菌を用いる場合、例えば以下のようにして行うことができるが、これに限定されない。
まず、宿主である大腸菌に各酵素をコードするDNAを遺伝子導入することにより、形質転換体を作製する。当該形質転換体を公知の培養培地(例えばLB培地)で約37℃で終夜培養する。
次に、製造するモノテルペノイドがペリル酸の場合は、増殖した形質転換体を、有機原料(例えばグルコース)を含む最少培地(例えばM9培地)に懸濁して約37℃で適切なOD600値になるまで培養し、その後IPTGなどを用いて酵素遺伝子の発現誘導を行う。これにより、各酵素の活性又は発現が増強された形質転換体と有機原料とを接触させ、その後約37℃で適切な時間(例えば24時間)培養する。前記最小培地は、公知の抗生物質を含んでいてもよい。
一方、製造するモノテルペノイドがペリル酸メチルの場合は、増殖した形質転換体を、有機原料(例えばグルコース)を含むTerrific Broth(TB培地)に懸濁して約37℃で適切なOD600値になるまで培養し、その後IPTGなどを用いて酵素遺伝子の発現誘導を行う。これにより、各酵素の活性又は発現が増強された形質転換体と有機原料とを接触させ、その後約20℃で適切な時間(例えば48時間)培養する。前記TB培地は、公知の抗生物質を含んでいてもよい。
次に、得られた培養液と有機溶媒(例えば酢酸エチル)とを混合し、液液抽出を行い、抽出物が含まれる有機層を公知の方法、例えばガスクロマトグラフィーを用いて分析する。ガスクロマトグラフィー分析の結果、目的のモノテルペノイドが示すピークの有無を確認し、ピークがあれば、目的のモノテルペノイドを製造することができたことが示される。モノテルペノイドの生産量は、市販のモノテルペノイドを用いて検量線を作成することにより算出することができる。
【0042】
4.芳香族化合物の製造方法
本発明においては、本発明のモノテルペノイドの製造方法によって生成したモノテルペノイド(例えばペリル酸メチル)を用いて、芳香族化合物を製造することができる。すなわち、本発明は、(a) 本発明のモノテルペノイドの製造方法によりモノテルペノイドを製造する工程、及び(b) 工程(a) で得られたモノテルペノイドを芳香族化合物へ変換する工程を含む、芳香族化合物の製造方法を提供する。
本発明において、芳香族化合物とは、モノテルペノイド(例えばペリル酸メチル)を中間体と経由して生成した芳香族化合物を意味する。
モノテルペノイドを中間体と経由して生成した芳香族化合物の製造は、当業者であれば公知の手法に基づいて行うことができる。また、その製造条件についても、当業者であれば適宜設定することができる(Esmer Jongedijk, et al., ChemistryOpen 2018, 7, 201-203)。
モノテルペノイドを中間体として経由して生成させることができる芳香族化合物としては、限定されるものではなく、例えば、クミン酸メチル、クミン酸、テレフタル酸、クミン酸メチルエステルなどが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明のモノテルペノイドの製造方法によって生成したペリル酸メチルは、その後、公知の化学合成反応によってクミン酸、さらにテレフタル酸へ変換することができる(Esmer Jongedijk, et al.,ChemistryOpen. 2018 Feb; 7(2): 201-203.)。
【0043】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0044】
[比較例1]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、AtoB遺伝子、HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_pp遺伝子、及びCymAb_pp遺伝子の発現増強を行った。
【0045】
(A)pJBEI6409の入手
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来AtoB遺伝子、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来IDI遺伝子、アビエス・グランディス(Abies grandis)由来GPPS遺伝子、及びメンタ・スピカタ(Mentha spicata)由来LS遺伝子を含むプラスミドpJBEI6409(Metab Eng. 2013 Sep;19:33-41)をAddgene(plasmid #47048)より入手した。pJBEI6409の全長の塩基配列を配列番号18で示す。
【0046】
(B)CymAab_pp増強プラスミドの構築
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)F1由来CymAa遺伝子、及びCymAb遺伝子の塩基配列を含むDNAフラグメントを合成した(合成DNAの塩基配列:配列番号1)。なお、当該CymAa遺伝子及びCymAb遺伝子の塩基配列としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。合成したDNAをType IIS クローニング法によりpBBRA-1.1eベクター(配列番号2)のBsaIサイトに挿入した。構築したプラスミドはpBBRA-CymAab_ppと名付けた。
【0047】
(C)AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_pp増強株の作製
大腸菌DH5αを比較例1(A)にて入手したプラスミドpJBEI6409、及び比較例1(B)にて構築したプラスミドpBBRA-CymAab_ppで形質転換し、得られた株をDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_ppと名付けた。
【0048】
[比較例2]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、AtoB遺伝子、HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_px遺伝子、及びCymAb_px遺伝子の発現増強を行った。
【0049】
(A)CymAab_px増強プラスミドの構築
パラバークホルデリア・ゼノボランス(Paraburkholderia xenovorans)由来CymAa遺伝子、及びCymAb遺伝子の塩基配列を含むDNAフラグメントを合成した(合成DNAの塩基配列:配列番号3)。なお、当該CymAa遺伝子及びCymAb遺伝子の塩基配列としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。合成したDNAをType IIS クローニング法によりpBBRA-1.1eベクター(配列番号2)のBsaIサイトに挿入した。構築したプラスミドはpBBRA-CymAab_pxと名付けた。
【0050】
(B)AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_px増強株の作製
大腸菌DH5αを比較例1(A)にて入手したプラスミドpJBEI6409、及び比較例2(A)にて構築したプラスミドpBBRA-CymAab_pxで形質転換し、得られた株をDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_pxと名付けた。
【0051】
[比較例3]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、AtoB遺伝子、HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_F1g遺伝子、及びCymAb_F1g遺伝子の発現増強を行った。
【0052】
(A)CymAab_F1g増強プラスミドの構築
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)F1ゲノム(Genbank Accession No.CP000712)を鋳型としてp_CymAab_Fプライマー(配列番号4)及びp_CymAab_Rプライマー(配列番号5)を用いて、CymAa遺伝子、及びCymAb遺伝子の領域をPCRにて増幅した。このPCRフラグメント(増幅産物)をType IIS クローニング法によりpBBRA-1.1eベクター(配列番号2)のBsaIサイトに挿入した。構築したプラスミドはpBBRA-CymAab_F1gと名付けた。
【0053】
(B)AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_F1g増強株の作製
大腸菌DH5αを比較例1(A)にて入手したプラスミドpJBEI6409、及び比較例3(A)にて構築したプラスミドpBBRA-CymAab_F1gで形質転換し、得られた株をDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_F1gと名付けた。
【0054】
[実施例1]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、AtoB遺伝子、HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_F1g遺伝子、CymAb_F1g遺伝子、CymB_F1g遺伝子及びCymC_F1g遺伝子の発現増強を行った。
【0055】
(A)CymBCAab_F1g増強プラスミドの構築
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)F1ゲノム(Genbank Accession No.CP000712)を鋳型としてp_CymB_Fプライマー(配列番号6)及びp_CymAab_Rプライマー(配列番号5)を用いて、CymB遺伝子、CymC遺伝子、CymAa遺伝子、及びCymAb遺伝子の領域をPCRにて増幅した。このPCRフラグメントをType IIS クローニング法によりpBBRA-1.1eベクター(配列番号2)のBsaIサイトに挿入した。構築したプラスミドはpBBRA-CymBCAab_F1gと名付けた。pBBRA-CymBCAab_F1gの全長の塩基配列を配列番号19で示す。
【0056】
(B)AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株の作製
大腸菌DH5αを比較例1(A)にて入手したプラスミドpJBEI6409、及び実施例1(A)にて構築したプラスミドpBBRA-CymBCAab_F1gで形質転換し、得られた株をDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymBCAab_F1gと名付けた。
【0057】
[比較例4]
比較例1(C)にて作製したAtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_pp増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0058】
比較例1(C)にて作製したDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_ppを、50μg/mL カルベニシリン及び34μg/mL クロラムフェニコールを含むLB培地(16g/L Bacto-tryptone、10g/L Yeast extract、5g/L NaCl)にて37℃、200rpmで一晩振とう培養した。50mLチューブ(フィルタキャップ付き)に1%グルコース、50μg/mL カルベニシリン、及び34μg/mL クロラムフェニコールを含むM9培地(6g/L Na2HPO4、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、1g/L NH4Cl,2mM MgSO4・7H2O,0.1mM CaCl2・2H2O,10mg/L チアミン塩酸塩、8.3mg/L FeSO4・7H2O)を10mL添加し、当該M9培地に上記LB培地での培養液をOD600=0.2となるように植菌、37℃、200rpmで振とう培養した。OD600=0.6~1.0となったときに終濃度0.1mMとなるようにIPTG溶液を添加、さらに24時間振とう培養を行った。
【0059】
得られた培養液1mLに酢酸エチル1mLをボルテックスミキサーによって混合し、液液抽出を行った。酢酸エチル層を1μL用いてガスクロマトグラフィー質量分析器(島津製作所社製GCMS-TQ8040 NX,オートサンプラAOC-20i Plus)で分析した。キャリアガスはヘリウム、カラムはAgilent HP-5MS(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.5μm)を用い、カラムオーブン温度は50℃に設定した。分析条件は、50℃から200℃まで10℃/分で昇温、200℃で1分保持、気化室温度は200℃、スプリットレス注入モードに設定した。
ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリリルアルデヒド(11.1分)、ペリリルアルコール(11.4分)、ペリル酸(13.4分)のピークが同定できた。ここで、標準液として、購入したペリリルアルデヒド、ペリリルアルコール、ペリル酸を用いた。検量線を作成してこれらの生産量を算出した結果、ペリリルアルデヒドは0.36mg/L、ペリリルアルコールは0.87mg/L、ペリル酸は98.3mg/Lであった。
【0060】
[比較例5]
比較例2(B)にて作製したAtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_px増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0061】
本比較例におけるペリル酸生産評価は、比較例2(B)にて作製したDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_pxを用いた以外は比較例4と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリリルアルデヒドは0.61mg/L、ペリリルアルコールは3.48mg/L、ペリル酸は112.0mg/Lであった。
【0062】
比較例4及び5の結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
[比較例6]
比較例3(B)にて作製したAtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_F1g増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0065】
本比較例におけるペリル酸生産評価は、比較例3(B)にて作製したDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_F1gを用いた以外は比較例4と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリリルアルデヒドは検出限界以下、ペリリルアルコールは0.03mg/L、ペリル酸は46.3mg/Lであった。
【0066】
[実施例2]
実施例1(B)にて作製したAtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0067】
本実施例におけるペリル酸生産評価は、実施例1(B)にて作製したDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymBCAab_F1gを用いた以外は比較例4と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリリルアルデヒド及びペリリルアルコールは検出限界以下、ペリル酸は82.0mg/Lであった。
【0068】
比較例6及び実施例2の結果を表2にまとめた。
表2に示すとおり、実施例2のペリル酸生産量は、比較例6と比較して1.8倍に増加した。この実施例2のペリル酸生産量は、実施例2で用いたCymB遺伝子、CymC遺伝子、CymAa遺伝子及びCymAb遺伝子がいずれもコドン最適化されていないことを考慮すると、予想外に高い値であった。
以上の結果より、CymB、CymC増強によってペリル酸生産の効率を向上させることができることが示された。
【0069】
【0070】
[実施例3]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、N末端にHisタグを付与したPAOMT遺伝子の発現増強を行った。
(A)His-PAOMT増強プラスミドの構築
Hisタグ、及びサルビア・ドリシアナ(Salvia dorisiana)由来PAOMT遺伝子の塩基配列を含むDNAフラグメントを合成した(合成DNAの塩基配列:配列番号7)。なお、当該PAOMT遺伝子の塩基配列としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。このDNAフラグメントを制限酵素XhoI及びHindIIIで処理し、pUCSp-2 ベクター(配列番号8)の同制限酵素サイトに挿入した。構築したプラスミドはpUCSp-His-SdPAOMTと名付けた。
【0071】
(B)His-PAOMT増強株の作製
大腸菌DH5αを実施例3(A)にて構築したプラスミドpUCSp-His-SdPAOMTで形質転換し、得られた株をDH5α/pUCSp-His-SdPAOMTとした。
【0072】
[実施例4]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、N末端にFh8可溶性タグを付与したPAOMT遺伝子の発現増強を行った。
(A)Fh8-PAOMT増強プラスミドの構築
Fh8タグ、及びサルビア・ドリシアナ(Salvia dorisiana)由来PAOMT遺伝子の塩基配列を含むDNAフラグメントを合成した(合成DNAの塩基配列:配列番号9)。なお、当該PAOMT遺伝子の塩基配列としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。このDNAフラグメントを制限酵素XhoI及びHindIIIで処理し、pUCSp-2 ベクター(配列番号8)の同制限酵素サイトに挿入した。構築したプラスミドはpUCSp-Fh8-SdPAOMTと名付けた。
【0073】
(B)Fh8-PAOMT増強株の作製
大腸菌DH5αを実施例4(A)にて構築したプラスミドpUCSp-FH8-SdPAOMTで形質転換し、得られた株をDH5α/pUCSp-FH8-SdPAOMTとした。
【0074】
[実施例5]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、N末端にSUMO可溶性タグを付与したPAOMT遺伝子の発現増強を行った。
(A)SUMO-PAOMT増強プラスミドの構築
SUMOタグ、及びサルビア・ドリシアナ(Salvia dorisiana)由来PAOMT遺伝子の塩基配列を含むDNAフラグメントを合成した(合成DNAの塩基配列:配列番号10)。なお、当該PAOMT遺伝子の塩基配列としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。このDNAフラグメントを制限酵素XhoI及びHindIIIで処理し、pUCSp-2 ベクター(配列番号8)の同制限酵素サイトに挿入した。構築したプラスミドはpUCSp-SUMO-SdPAOMTと名付けた。
【0075】
(B)SUMO-PAOMT増強株の作製
大腸菌DH5αを実施例5(A)にて構築したプラスミドpUCSp-SUMO-SdPAOMTで形質転換し、得られた株をDH5α/pUCSp-SUMO-SdPAOMTとした。
【0076】
[実施例6]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、N末端にGST可溶性タグを付与したPAOMT遺伝子の発現増強を行った。
(A)GST-PAOMT増強プラスミドの構築
GSTタグ、及びサルビア・ドリシアナ(Salvia dorisiana)由来PAOMT遺伝子の塩基配列を含むDNAフラグメントを合成した(合成DNAの塩基配列:配列番号11)。なお、当該PAOMT遺伝子の塩基配列としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。このDNAフラグメントを制限酵素XhoI及びHindIIIで処理し、pUCSp-2 ベクター(配列番号8)の同制限酵素サイトに挿入した。構築したプラスミドはpUCSp-GST-SdPAOMTと名付けた。
【0077】
(B)GST-PAOMT増強株の作製
大腸菌DH5αを実施例6(A)にて構築したプラスミドpUCSp-GST-SdPAOMTで形質転換し、得られた株をDH5α/pUCSp-GST-SdPAOMTと名付けた。
【0078】
[実施例7]
実施例3(B)にて作製したHis-PAOMT増強株について、以下の通り、ペリル酸のメチル化活性評価を行った。
【0079】
本実施例におけるペリル酸のメチル化活性評価は、実施例3(B)にて作製したDH5α/pUCSp-His-SdPAOMTを10μg/mL ストレプトマイシンを含むLB培地(16g/L Bacto-tryptone、10g/L Yeast extract、5g/L NaCl)にて37℃、200rpmで一晩振とう培養した。50mLチューブ(フィルタキャップ付き)に1%グルコース、10μg/mL ストレプトマイシンを含むTerrific Broth(TB)培地を10mL添加し、上記LB培地での培養液をOD600=0.3となるように植菌、37℃、200rpmで振とう培養した。OD600=0.8~1.0となったときに終濃度0.1mMとなるようにIPTG溶液を添加し、20℃、200rpmで振とう培養した。16時間後、ペリル酸を終濃度30mg/Lとなるように添加、さらに24時間振とう培養した。
【0080】
得られた培養液500μLに酢酸エチル500μLをボルテックスミキサーによって混合し、液液抽出を行った。酢酸エチル層を1μL用いて、比較例4と同様にガスクロマトグラフィー質量分析器(島津製作所社製GCMS-TQ8040 NX、オートサンプラAOC-20i Plus)で分析した。
ガスクロマトグラフィー分析の結果、有機合成したペリル酸メチルを標準液として用いて、ペリル酸メチル(13.3分)のピークが同定できた。検量線を作成して生成量を算出した結果、ペリル酸メチルは0.059mg/Lであった。
【0081】
[実施例8]
実施例4(B)にて作製したFh8-PAOMT増強株について、以下の通り、ペリル酸のメチル化活性評価を行った。
【0082】
本実施例におけるペリル酸のメチル化活性評価は、実施例4(B)にて作製したDH5α/pUCSp-Fh8-SdPAOMTを用いた以外は実施例7と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸メチルの生成量は0.070mg/Lであった。
【0083】
[実施例9]
実施例5(B)にて作製したSUMO-PAOMT増強株について、以下の通り、ペリル酸のメチル化活性評価を行った。
【0084】
本実施例におけるペリル酸のメチル化活性評価は、実施例5(B)にて作製したDH5α/pUCSp-SUMO-SdPAOMTを用いた以外は実施例7と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸メチルの生成量は0.068mg/Lであった。
【0085】
[実施例10]
実施例6(B)にて作製したGST-PAOMT増強株について、以下の通り、ペリル酸のメチル化活性評価を行った。
【0086】
本実施例におけるペリル酸のメチル化活性評価は、実施例6(B)にて作製したDH5α/pUCSp-GST-SdPAOMTを用いた以外は実施例7と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸メチルの生成量は0.089mg/Lであった。
【0087】
実施例7~10の結果を
図2にまとめた。実施例7~10において、いずれもペリル酸メチルが検出され、どの発現コンストラクトにおいてもPAOMT活性が確認された。
また、実施例8~10のペリル酸メチルの生産量は、実施例7と比較してそれぞれ19%、15%、51%増加した。
以上の結果より、可溶性タグを付与することによって、PAOMT活性を向上させることができることが示された。
【0088】
[実施例11]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、3つのプラスミドを用いて、AtoB遺伝子、HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_pp遺伝子、CymAb_pp遺伝子、及びPAOMT遺伝子の発現増強を行った。
【0089】
比較例1(C)にて作製したDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_ppを実施例5(A)にて構築したプラスミドpUCSp-SUMO-SdPAOMTで形質転換し、得られた株をDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_pp/pUCSp-SUMO-SdPAOMTとした。
【0090】
[実施例12]
実施例11にて作製したAtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_pp、PAOMT増強株について、以下の通り、ペリル酸メチル生産評価を行った。
【0091】
実施例11にて作製したDH5α/pJBEI6409/pBBRA-CymAab_pp/pUCSp-SUMO-SdPAOMTを50μg/mL カルベニシリン、34μg/mL クロラムフェニコール、及び50μg/mL スペクチノマイシンを含むLB培地(16g/L Bacto-tryptone、10g/L Yeast extract、5g/L NaCl)にて37℃、200rpmで一晩振とう培養した。500mL三角フラスコに1%グルコース、50μg/mL カルベニシリン、34μg/mL クロラムフェニコール、及び50μg/mL スペクチノマイシンを含むTerrific Broth(TB)培地を100mL添加し、上記LB培地での培養液をOD600=0.3となるように植菌、37℃、200rpmで振とう培養した。OD600=0.8~1.0となったときに終濃度0.1mMとなるようにIPTG溶液を添加し、20℃、200rpmで48時間振とう培養した。
【0092】
得られた培養液100mLから、分液漏斗を用いて酢酸エチルによる液液抽出を行った。酢酸エチル50mLによる抽出を3回繰り返し、回収した酢酸エチル層150mLをロータリーエバポレーターで濃縮し、最終的に2mLの酢酸エチル溶液を得た。この濃縮溶液を1μL用いて、実施例7と同様にガスクロマトグラフィー質量分析器(島津製作所社製GCMS-TQ8040 NX、オートサンプラAOC-20i Plus)で分析した。検量線を作成して生産量を算出した結果、ペリル酸メチルは1.27mg/Lであった。
【0093】
[実施例13]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、2つのプラスミドを用いて、AtoB遺伝子、HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_pp遺伝子、CymAb_pp遺伝子、及びPAOMT遺伝子の発現増強を行った。
(A)CymAab_pp、SUMO-PAOMT増強プラスミドの構築
アラビノース誘導プロモーター(配列番号12)、SUMOタグを付与したサルビア・ドリシアナ(Salvia dorisiana)由来PAOMT遺伝子(配列番号13)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)F1由来CymAa遺伝子、CymAb遺伝子(配列番号14)、及びターミネーター(配列番号15)の塩基配列を含むDNAフラグメントをそれぞれ合成した。なお、当該PAOMT遺伝子、CymAa遺伝子、及びCymAb遺伝子としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。これら合成したDNAをType IIS クローニング法によりpUCAp-2ベクター(配列番号16)のBsmBIサイトに挿入した。構築したプラスミドはpUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-CymAab_ppと名付けた。
【0094】
(B)AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_pp、SUMO-PAOMT増強株の作製
大腸菌DH5αを比較例1(A)にて入手したプラスミドpJBEI6409、及び実施例13(A)にて構築したプラスミドpUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-CymAab_ppで形質転換し、得られた株をDH5α/pJBEI6409/ pUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-CymAab_ppと名付けた。
【0095】
[実施例14]
大腸菌DH5αについて、以下の通り、2つのプラスミドを用いて、AtoB遺伝子、HMGS遺伝子、HMGR遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子、MVD遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_px遺伝子、CymAb_px遺伝子、及びPAOMT遺伝子の発現増強を行った。
(A)CymAab_px、SUMO-PAOMT増強プラスミドの構築
アラビノース誘導プロモーター(配列番号12)、SUMOタグを付与したサルビア・ドリシアナ(Salvia dorisiana)由来PAOMT遺伝子(配列番号13)、パラバークホルデリア・ゼノボランス(Paraburkholderia xenovorans)由来CymAa遺伝子、CymAb遺伝子(配列番号17)、及びターミネーター(配列番号15)の塩基配列を含むDNAフラグメントをそれぞれ合成した。なお、当該PAOMT遺伝子、CymAa遺伝子、及びCymAb遺伝子としては、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。これら合成したDNAをType IIS クローニング法によりpUCAp-2ベクター(配列番号16)のBsmBIサイトに挿入した。構築したプラスミドはpUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-Cymab_pxと名付けた。
【0096】
(B)AtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_px、SUMO-PAOMT増強株の作製
大腸菌DH5αを比較例1(A)にて入手したプラスミドpJBEI6409、及び実施例14(A)にて構築したプラスミドpUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-CymAab_pxで形質転換し、得られた株をDH5α/pJBEI6409/ pUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-CymAab_pxとした。
【0097】
[実施例15]
実施例13(B)にて作製したAtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_pp、PAOMT増強株について、以下の通り、ペリル酸メチル生産評価を行った。
【0098】
実施例13(B)にて作製したDH5α/pJBEI6409/pUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-CymAab_ppを50μg/mL カルベニシリン、及び34μg/mL クロラムフェニコールを含むLB培地(16g/L Bacto-tryptone、10g/L Yeast extract、5g/L NaCl)にて37℃、200rpmで一晩振とう培養した。500mL三角フラスコに1%グルコース、50μg/mL カルベニシリン、及び34μg/mL クロラムフェニコールを含むTerrific Broth(TB)培地を100mL添加し、上記LB培地での培養液をOD600=0.3となるように植菌、37℃、200rpmで振とう培養した。OD600=0.8~1.0となったときに終濃度0.1mMとなるようにIPTG溶液を、終濃度0.2%となるようにL-アラビノースを添加し、20℃、200rpmで48時間振とう培養した。
【0099】
得られた培養液100mLから、分液漏斗を用いて酢酸エチルによる液液抽出を行った。酢酸エチル50mLによる抽出を3回繰り返し、回収した酢酸エチル層150mLをロータリーエバポレーターで濃縮し、最終的に2mLの酢酸エチル溶液を得た。この濃縮溶液を1μL用いて、実施例7と同様にガスクロマトグラフィー質量分析器(島津製作所社製GCMS-TQ8040 NX、オートサンプラAOC-20i Plus)で分析した。検量線を作成して生産量を算出した結果、ペリル酸は84.6mg/L、ペリル酸メチルは2.32mg/Lであった。
【0100】
[実施例16]
実施例14(B)にて作製したAtoB、HMGS、HMGR、MVK、PMK、MVD、IDI、GPPS、LS、CymAab_px、PAOMT増強株について、以下の通り、ペリル酸メチル生産評価を行った。
【0101】
本実施例におけるペリル酸メチル生産評価は、実施例14(B)にて作製したDH5α/pJBEI6409/pUCAp-Para-SUMOSdPAOMT-CymAab_pxを用いた以外は実施例13と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸は27.0mg/L、ペリル酸メチルは2.06mg/Lであった。
【0102】
実施例12、15、及び16の結果を表3にまとめた。実施例12、15、16において、いずれもペリル酸メチルが検出され、グルコースを原料としてペリル酸メチルを生産できることが示された。
すなわち、本発明により、モノテルペノイド産生能を有する微生物を製造できることが示された。また、本発明の改変された微生物を用いることにより、グルコースなどの有機原料から効率的にペリル酸メチルなどのモノテルペノイドを製造できることが示された。
【0103】
【0104】
[実施例17]
大腸菌HMS174(DE3)について、以下の通り、Dxs遺伝子、Dxr遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_F1g遺伝子、CymAb_F1g遺伝子、CymB_F1g遺伝子及びCymC_F1g遺伝子の発現増強を行った。
【0105】
(A)Dxs、Dxr、IDI、GPPS、LS増強プラスミドの構築
アビエス・グランディス(Abies grandis)由来GPPS遺伝子、およびメンタ・スピカタ(Mentha spicata)由来LS遺伝子を、5’末端側に制限酵素ScaI、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を付与して合成した(配列番号37)。なお、GPPS遺伝子、およびLS遺伝子は、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。合成したDNAは、pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS(特開2022-150327 実施例1(D))の同制限酵素サイトへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-GPPS-LSと名付けた。このプラスミドにはリゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)由来Dxs遺伝子、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来Dxr遺伝子、IDI遺伝子、アビエス・グランディス(Abies grandis)由来GPPS遺伝子、およびメンタ・スピカタ(Mentha spicata)由来LS遺伝子が含まれる。
【0106】
(B)Dxs、Dxr、IDI、GPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株の作製
大腸菌HMS174(DE3)(Novagen)を実施例17(A)にて入手したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-GPPS-LS、及び実施例1(A)にて構築したプラスミドpBBRA-CymBCAab_F1gで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-GPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gと名付けた。
【0107】
[実施例18]
大腸菌HMS174(DE3)について、以下の通り、Dxs遺伝子、Dxr遺伝子、IDI遺伝子、NPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_F1g遺伝子、CymAb_F1g遺伝子、CymB_F1g遺伝子及びCymC_F1g遺伝子の発現増強を行った。
【0108】
(A)Dxs、Dxr、IDI、NPPS、LS増強プラスミドの構築
ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum)由来NPPS遺伝子、およびメンタ・スピカタ(Mentha spicata)由来LS遺伝子を、5’末端側に制限酵素ScaI、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を付与して合成した(配列番号38)。なお、NPPS遺伝子、およびLS遺伝子は、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。合成したDNAは、pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS(特開2022-150327 実施例1(D))の同制限酵素サイトへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-NPPS-LSと名付けた。このプラスミドにはリゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)由来Dxs遺伝子、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来Dxr遺伝子、IDI遺伝子、ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum)由来NPPS遺伝子、およびメンタ・スピカタ(Mentha spicata)由来LS遺伝子が含まれる。
【0109】
(B)Dxs、Dxr、IDI、NPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株の作製
大腸菌HMS174(DE3)(Novagen)を実施例18(A)にて入手したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-NPPS-LS、及び実施例1(A)にて構築したプラスミドpBBRA-CymBCAab_F1gで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-NPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gと名付けた。
【0110】
[実施例19]
大腸菌HMS174(DE3)について、以下の通り、Pgi遺伝子の破壊、並びにDxs遺伝子、Dxr遺伝子、IDI遺伝子、GPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_F1g遺伝子、CymAb_F1g遺伝子、CymB_F1g遺伝子及びCymC_F1g遺伝子の発現増強を行った。
【0111】
大腸菌Pgi破壊株HMS174(DE3)/Δpgi(特開2022-150327 実施例1(C))を実施例17(A)にて入手したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-GPPS-LS、及び実施例1(A)にて構築したプラスミドpBBRA-CymBCAab_F1gで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-GPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gと名付けた。
【0112】
[実施例20]
大腸菌HMS174(DE3)について、以下の通り、Pgi遺伝子の破壊、並びにDxs遺伝子、Dxr遺伝子、IDI遺伝子、NPPS遺伝子、LS遺伝子、CymAa_F1g遺伝子、CymAb_F1g遺伝子、CymB_F1g遺伝子及びCymC_F1g遺伝子の発現増強を行った。
【0113】
大腸菌Pgi破壊株HMS174(DE3)/Δpgi(特開2022-150327 実施例1(C))を実施例18(A)にて入手したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-NPPS-LS、及び実施例1(A)にて構築したプラスミドpBBRA-CymBCAab_F1gで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-NPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gと名付けた。
【0114】
[実施例21]
実施例17(B)にて作製したDxs、Dxr、IDI、GPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0115】
本実施例におけるペリル酸生産評価は、実施例17(B)にて作製したHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-GPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gを用いた以外は比較例4と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸は0.03mg/Lであった。
【0116】
[実施例22]
実施例18(B)にて作製したDxs、Dxr、IDI、NPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0117】
本実施例におけるペリル酸生産評価は、実施例18(B)にて作製したHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-NPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gを用いた以外は比較例4と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸は4.89mg/Lであった。
【0118】
[実施例23]
実施例19にて作製したPgi破壊、Dxs、Dxr、IDI、GPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0119】
本実施例におけるペリル酸生産評価は、実施例19にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-GPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gを用いた以外は比較例4と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸は0.07mg/Lであった。
【0120】
[実施例24]
実施例20にて作製したPgi破壊、Dxs、Dxr、IDI、NPPS、LS、CymBCAab_F1g増強株について、以下の通り、ペリル酸生産評価を行った。
【0121】
本実施例におけるペリル酸生産評価は、実施例20にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-NPPS-LS/pBBRA-CymBCAab_F1gを用いた以外は比較例4と同様に行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、ペリル酸は7.52mg/Lであった。
【0122】
実施例21~24の結果を表4に示す。実施例21~24において、いずれもペリル酸が検出され、MVA経路ではなくMEP経路を利用することによってもグルコースを原料としてペリル酸を生産できることが示された。
表4に示すとおり、実施例22のペリル酸生産量は、実施例21と比較して163倍に増加、実施例24のペリル酸生産量は、実施例23と比較して107倍に増加した。以上の結果より、GPPSに換えてNPPSを増強することによってペリル酸生産の効率を向上させることができることが示された。
また、表4に示すとおり、実施例23のペリル酸生産量は、実施例21と比較して2.3倍に増加、実施例24のペリル酸生産量は、実施例22と比較して1.5倍に増加した。以上の結果より、Pgi遺伝子を破壊することによってペリル酸生産の効率を向上させることができることが示された。
すなわち、本発明により、モノテルペノイド産生能を有する微生物を製造できることが示された。また、本発明の改変された微生物を用いることにより、グルコースなどの有機原料から効率的にペリル酸などのモノテルペノイドを製造できることが示された。
【0123】