(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177727
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】異常ネルンスト効果素子の製造方法、及び熱電変換デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 15/20 20230101AFI20241217BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241217BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20241217BHJP
H10N 15/00 20230101ALI20241217BHJP
C22C 19/07 20060101ALN20241217BHJP
C22C 30/00 20060101ALN20241217BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241217BHJP
C22C 22/00 20060101ALN20241217BHJP
C22C 28/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
H10N15/20
B22F1/00 M
B22F3/14 D
H10N15/00
C22C19/07 C
C22C30/00
C22C38/00 304
C22C22/00
C22C28/00 B
C22C19/07 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096025
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】深堀 明博
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 友文
(72)【発明者】
【氏名】牛島 啓太
(72)【発明者】
【氏名】古田土 美和
(72)【発明者】
【氏名】中辻 知
(72)【発明者】
【氏名】酒井 明人
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018AA24
4K018AA40
4K018BA20
4K018CA02
4K018CA16
4K018DA22
4K018DA23
4K018DA26
4K018DA31
4K018EA01
4K018FA06
4K018HA08
4K018HA10
4K018KA42
4K018KA63
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】優れた異常ネルンスト効果を示す異常ネルンスト効果素子を簡便に製造でき、大容量化も容易な異常ネルンスト効果素子の製造方法、及び、これを用いた熱電変換デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】Co、Mn及びGaを含有する粉末をホットプレス法にて焼結して焼結体を作製する工程を含む、異常ネルンスト効果素子の製造方法。前記異常ネルンスト効果素子の製造方法により異常ネルンスト効果素子を製造する工程を含む、熱電変換デバイスの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co、Mn及びGaを含有する粉末をホットプレス法にて焼結して焼結体を作製する工程を含む、異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記工程において、焼結温度が700℃以上1100℃以下である、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記工程において、印加圧力が30MPa以上130MPa以下である、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記工程において、焼結時間が24時間以下である、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項5】
前記焼結体が、Co、Mn及びGaを含有する結晶粒を有する、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項6】
前記結晶粒がホイスラー構造を持つ、請求項5に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項7】
前記結晶粒の平均粒径が8μm以上30μm以下である、請求項5に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項8】
前記結晶粒の粒径の標準偏差が1μm以上12μm以下である、請求項5に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項9】
前記焼結体の異常ネルンスト係数の絶対値が、300Kにおいて5μV/K以上である、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法により異常ネルンスト効果素子を製造する工程を含む、熱電変換デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常ネルンスト効果素子の製造方法、及び熱電変換デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度勾配によって電圧を発生させる熱電変換デバイスとして、ゼーベック効果(Seebeck effect)を利用したものがよく知られている。
ゼーベック効果では、温度勾配と同じ方向に電圧が生じることから、熱電変換デバイスが複雑な3次元構造となり、大面積化やフィルム化が困難である。また、毒性や希少性の高い材料が用いられており、脆弱で振動に弱く、さらに製造コストが高いという課題がある。
【0003】
近年、異常ネルンスト効果(Anomalous Nernst effect)により起電力を生じる異常ネルンスト効果素子を用いた熱電変換デバイスが提案されている。異常ネルンスト効果とは、磁性体に熱流を流して温度差が生じたときに、磁化方向と温度勾配の双方に直交する方向に電圧が生じる現象である。
異常ネルンスト効果では、ゼーベック効果とは異なり、温度勾配に直交する方向に電圧が生じることから、異常ネルンスト効果を用いた熱電変換デバイスは、熱源に沿うように展開することができ、大面積化及びフィルム化に有利である。更に、廉価で毒性が少なく、且つ耐久性の高い材料を選択することができる。
【0004】
異常ネルンスト効果を評価する指標は、異常ネルンスト係数と熱伝導率と電気抵抗率であり、さらにこれらから算出される無次元性能指数ZTとPower Factorである。
【0005】
異常ネルンスト係数は、温度差1K当たりの熱起電力を意味している。
異常ネルンスト係数は、下記式(1)で表される。
SANE=ρyyαyx-σyxρyySSE …(1)
SANE:異常ネルンスト係数
ρyy:縦抵抗
αyx:横熱電係数
σyx:ホール伝導度
SSE:ゼーベック係数
【0006】
横熱電係数αyxは、下記式(2)(モットの式)で表される。
αyx=-(π2/3)・{(kB
2T)/e}(∂σyx/∂ε) …(2)
但し、∂σyx/∂εはフェルミ準位での値である。
kB:ボルツマン定数
ε:エネルギー
e:電荷素量
T:絶対温度
【0007】
無次元性能指数ZTは、下記式(3)で表される。
ZT=(SANE
2・σxx/κyy)・T={SANE
2/(ρxx・κyy)}・T …(3)
σxx:電気伝導率
κyy:熱伝導率
ρxx:電気抵抗率
【0008】
異常ネルンスト効果は、Co2MnGa、Fe3Ga、Fe3Al、Mn3Ge、Mn3Sn、Mn2Ga、MnGe、Co、Fe、Nd2Mo2O7、Pt/Fe多層膜、L1-FePt合金など様々な材料で報告されている(例えば、下記非特許文献1~3を参照。)。
これらの材料の中で、現在、最も高い異常ネルンスト係数の絶対値を有するものはCo2MnGaであり、既報で最高データは6.75~8μV/Kである。なお、これらの値は単結晶のデータである。
【0009】
上述した異常ネルンスト効果は、ゼーベック効果に対して優位性があるものの、通常の磁性体を用いた異常ネルンスト効果による現状の発電量は、本格的な実用化のためにはまだ小さい。
そこで、特許文献1では、従来よりも大きな異常ネルンスト効果をもたらすものとして、フェルミエネルギーの近傍にワイル点を有するバンド構造のCo2MnGaからなる熱電変換素子(異常ネルンスト効果素子)を提案している。このCo2MnGaの結晶構造は、立方晶系の単結晶であり、フルホイスラー系の結晶構造を有している。
【0010】
一方、特許文献2では、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)法により、6.68μV/Kの異常ネルンスト係数を有するCo2MnGa焼結体を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2019/009308号
【特許文献2】特開2023-2425号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Nature、581(2000)、53
【非特許文献2】Nature physics、14(2018)、1119
【非特許文献3】PHYSICAL REVIEW B、101(2020)、180404(R)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1に記載の熱電変換素子は、優れた横熱電能を示す。しかし、Co2MnGaの単結晶を引き上げる際に、融点まで温度を上げるために電力も時間もかかり、なお且つ、結晶成長に必要な時間もかかるため、製造コストが嵩む。また、Co2MnGaの単結晶は、ニアネットでの育成が無理なために切断する必要があり、形状加工にもコストがかかる。
【0014】
一方、上記特許文献2で用いられているSPS法は、通電性のある型内に粉末を充填して、上下から圧力を加えると共に、通電を行う方法であり、加圧や温度以外に通電による電磁エネルギーや自己発熱による放電エネルギーを焼結の駆動力にする。これにより、高速昇温、高速焼結、短時間焼結などが可能になる。しかし、SPS法は比較的新しい方法であり、且つ、特殊な方法でもあるために、企業での装置導入はあまり進んでおらず、また、SPS法での大容量の焼結体作製は未だ発展途上である。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた異常ネルンスト効果を示す異常ネルンスト効果素子を簡便に製造でき、大容量化も容易な異常ネルンスト効果素子の製造方法、及び、これを用いた熱電変換デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
[1]Co、Mn及びGaを含有する粉末をホットプレス法にて焼結して焼結体を作製する工程を含む、異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[2]前記工程において、焼結温度が700℃以上1100℃以下である、[1]に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[3]前記工程において、印加圧力が30MPa以上130Pa以下である、[1]又は[2]に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[4]前記工程において、焼結時間が24時間以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[5]前記焼結体が、Co、Mn及びGaを含有する結晶粒を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[6]前記結晶粒がホイスラー構造を持つ、[5]に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[7]前記結晶粒の平均粒径が8μm以上30μm以下である、[5]又は[6]に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[8]前記結晶粒の粒径の標準偏差が1μm以上12μm以下である、[5]~[7]のいずれかに記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[9]前記焼結体の異常ネルンスト係数の絶対値が、300Kにおいて5μV/K以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法により異常ネルンスト効果素子を製造する工程を含む、熱電変換デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた異常ネルンスト効果を示す異常ネルンスト効果素子を簡便に製造でき、大容量化も容易な異常ネルンスト効果素子の製造方法、及び、これを用いた熱電変換デバイスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】Co
2MnGaの結晶構造を示す模式図である。
【
図4】第1の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式斜視図である。
【
図5】第2の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式斜視図である。
【
図6】第3の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式斜視図である。
【
図7】第4の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
本発明の一実施形態に係る異常ネルンスト効果素子の製造方法では、Co、Mn及びGaを含有する粉末(原料粉末)をホットプレス法にて焼結して焼結体を作製する。
【0021】
「焼結体」とは、原料粉末が物質固有の融点よりも低い温度で焼き固められた物を指す。焼結体は一般的に、原料粉末を型で成形し、大気圧下又は加圧下で焼結して製造される。焼結体は、多結晶体の括りに入る。単結晶育成方法で融点よりも高い温度まで物質を熱してメルトにした後に、急冷すると原子の配列の規則化が間に合わず、多結晶になった物も多結晶の括りに入るが焼結体とは言わない。
【0022】
原料粉末としては、Co、Mn及びGaを含有すれば特に限定されず、他の元素、例えばFe、Ni、Si、C、O、Nなどを含んでいてもよい。特に、Co2MnGaの粉末が好ましい。
ホットプレス法による焼結は、公知のホットプレス装置を用いて実施できる。
ホットプレス法では、型に原料粉末を充填し、一軸方向に圧力を印加しながら、型ごと原料粉末を加熱する。これにより、高密度の焼結体が得られる。
型としては、例えばカーボン型が挙げられる。
加熱には、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式などの各種のヒータを用いることができる。
焼結時の雰囲気としては、例えばArやN2などの不活性ガス雰囲気が一般的である。
高密度の焼結体を作製するためには、焼結温度は高い方が好ましく、焼結時の印加圧力は大きい方が好ましい。
【0023】
焼結温度は、700℃以上であることが好ましく、750℃以上であることがより好ましく、800℃以上であることが更に好ましく、850℃以上であることが特に好ましい。焼結温度を750℃以上とすることで、最終焼結まで焼結を進めることができ、焼結密度が向上し、高密度焼結体の作製が可能になる。
【0024】
一方、焼結温度は、1100℃以下であることが好ましく、1050℃以下であることがより好ましい。焼結温度を1100℃以下とすることで、元素の蒸発を抑制でき、組成ずれを防ぐことができる。また、融点以下となるため、メルトによる異常粒成長を抑制することができる。さらに、カーボン型内で焼結する場合は、焼結時に型から染み出すことを抑制することができる。さらに、焼結は、融点以下での反応なので、内部がメルトになるまで温度を上げる必要はなく、消費電力と焼結時間とを抑制することができる。
上記下限値及び上記上限値は適宜組み合わせることができる。
【0025】
印加圧力は、30MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることが更に好ましく、55MPa以上であることが最も好ましい。印加圧力を上記下限値以上とすることにより、焼結密度を上げて空隙発生を抑制することができ、結晶粒径を大きくすることができる。
【0026】
一方、印加圧力は、130MPa以下であることが好ましく、120MPa以下であることがより好ましく、110MPa以下であることが更に好ましく、105MPa以下であることが最も好ましい。印加圧力を上記上限値以下とすることにより、ホットプレス焼結時に型の破損を防ぐことができ、結晶粒径が大きくなり過ぎることを防ぐことができる。
上記上限値及び上記下限値は適宜組み合わせることができる。
【0027】
焼結時間は、24時間以下であることが好ましく、20時間以下であることがより好ましく、16時間以下であることが更に好ましく、14時間以下であることが特に好ましい。焼結時間を24時間以下とすることで、異常粒成長を抑制することができる。また、消費電力も抑制できる。
【0028】
一方、焼結時間は、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。焼結時間を上記時間以上とすることで、最終焼結まで焼結を完了することができる。
上記上限値及び上記下限値は適宜組み合わせることができる。
【0029】
焼結の後、得られた焼結体について、切断、切削、研磨、ミリング処理等の加工を施してもよい。
【0030】
本実施形態の製造方法により得られる焼結体は、Co、Mn及びGaを含有する磁性体であり、異常ネルンスト効果素子として用いることができる。
焼結体は、典型的には、Co、Mn及びGaを含有する結晶粒を有している。
【0031】
図1及び
図2に、焼結体の一例を示す。
図1は、後述する実施例3(焼結温度1000℃)で製造した焼結体の表面の二次電子による走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2は、
図1のSEM像の結晶粒径解析画像である。結晶粒径解析画像においては、SEM像中の結晶粒を画像処理によって区別している。
この例の焼結体は、
図1及び
図2に示すように、多数の結晶粒で構成されている。
【0032】
結晶粒は、結晶構造由来の電子構造の点から、ホイスラー構造を持つことが好ましく、
図3に示すような、Co
2MnGaからなるL2
1型立方晶のフルホイスラー構造を持つことがより好ましい。
L2
1構造の単位格子は、
図3に示すように、4つの面心立方格子(fcc)からなり、格子座標において、Co原子は(1/4、1/4、1/4)及び(3/4、3/4、3/4)、Mn原子は(0、0、0)、Ga原子は(1/2、1/2、1/2)に位置する。結晶構造は、X線回折等の様々な回折法によって判定することができる。
【0033】
結晶粒の平均粒径は、8μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、12μm以上であることが更に好ましい。結晶粒の平均粒径を8μm以上とすることで、下記のような現象を抑制し、焼結体の全体における異常ネルンスト係数が減少し難くなる。
すなわち、焼結体は、結晶粒と粒間に存在している粒界で構成されている。粒界は、結晶粒の方位が変化する空間であり、元素配列が乱れるために粒界近傍の結晶粒の元素組成はCo2MnGa組成からずれが生じる。この組成のずれた部分は、異常ネルンスト係数の低い材料から構成されており、その部分だけ異常ネルンスト係数が局所的に減少することになる。したがって、最終的に焼結体の全体における異常ネルンスト係数が減少することになる。
粒界は、このような負の影響を持っているが、結晶粒の平均粒径を8μm以上とすることで、これらの負の影響を低減させることができ、粒界の増加を抑制し、異常ネルンスト係数の低い部分が増加せず、焼結体の全体における異常ネルンスト係数が減少し難くなる。
【0034】
一方、結晶粒の平均粒径は、30μm以下であることが好ましく、26μm以下であることがより好ましい。
結晶粒の平均粒径を30μm以下とすることで、異常粒成長を起こさせる必要性がないことから、焼結温度を融点以上まで上げる、若しくは焼結時間を長くする必要性が低下する。これにより、焼結体の組成が原料粉末からずれる可能性を抑制できる。また、製造のための時間の延びや、消費電力を抑制することができる。
上記上限値及び上記下限値は適宜組み合わせることができる。
【0035】
結晶粒の粒径の標準偏差は、1μm以上が好ましく、6μm以上がより好ましい。結晶粒の粒径の標準偏差を1μm以上とすることで、原料粉末の粒径の標準偏差を非常に小さく抑える必要性が低下し、粉砕や精密分級などの製造工程を省くことができ、工程を単純化できる。
【0036】
一方、結晶粒の粒径の標準偏差は、12μm以下であることが好ましく、11μm以下であることがより好ましい。結晶粒の粒径の標準偏差を12μm以下とすることで、異常粒成長などを抑制できる。また、焼結温度が高過ぎず、且つ、焼結時間が長過ぎず、消費電力を抑えて生産効率を高めることができる。さらに、適切な焼結温度及び焼結時間とすることで、焼結体の組成が原料粉末からずれる可能性を抑制できる。
上記上限値及び上記下限値は適宜組み合わせることができる。
【0037】
結晶粒の粒径の測定は、焼結体の表面を鏡面研磨した後に、SEMにより観察することで行う。
【0038】
具体的には、先ず、焼結体の表面を#800の耐水研磨紙で粗研磨した後に、1μmのアルミナ懸濁液で中研磨して、更に0.3μmのアルミナ懸濁液で鏡面研磨する。
なお、研磨時に使用した耐水研磨紙やアルミナ懸濁液のアルミナの粒径サイズは、これらに必ずしも限定されるものではない。また、十分に鏡面研磨が終わっているなら、上述した鏡面研磨は行わなくてもよい。一方、上述した鏡面研磨後に、更に平面ミリング(フラットミリング)を施してもよい。
次に、SEMの二次電子及び反射電子を用いて焼結体の表面の観察を行う。そして、サンプル毎に500倍の倍率で計6枚の画像を撮影し、各画像の解析により結晶粒の粒径を測定する。
【0039】
焼結体の結晶粒については、二次電子及び反射電子でSEM観察像を撮影した後に、そのSEM画像を使用して結晶粒の平均粒径及び粒径の標準偏差を算出する。具体的には、1枚のSEM画像をピクセル毎に個々の粒子に分割する。このとき、画像端周辺の粒子について除去する。画像処理により分割した各粒子の面積を求め、各粒子の面積と同等の面積を有する円を決定する。1つのサンプルについて、測定した6枚のSEM画像中の、画像端付近の円を除く全ての円の直径から結晶粒の平均粒径及び粒径の標準偏差を算出する。
【0040】
単結晶Co2MnGaの理論密度(8.39g/cm3)に対する焼結体の密度(g/cm3)の比(以下、相対密度とも称する。)は、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。相対密度が上記下限値以上であると、異常ネルンスト係数がより優れる傾向がある。
焼結体2の相対密度の上限は特に限定されないが、測定誤差の効果も含め、例えば110%である。
【0041】
焼結体の密度は、アルキメデス法によって求められる。
具体的には、秤量計にてサンプルの空気中の質量Aを秤量する。次に純水中にサンプルに沈ませ、その時の秤量計の読みをBとする。サンプルの質量はAで、アルキメデスの法則より(A-B)がサンプルの体積となる。従って、{A/(A-B)}×100(%)が焼結体の密度となる。
【0042】
なお、(100-相対密度)(%)で算出される値を焼結体の空隙率とみなすことができる。例えば相対密度が80%の焼結体は、空隙率が20%である。
【0043】
焼結体の異常ネルンスト係数SANEの絶対値は、熱電変換効率の観点から、300Kにおいて5μV/K以上であることが好ましく、5.5μV/K以上であることがより好ましい。
【0044】
焼結体の異常ネルンスト係数SANEは、以下のようにして測定される。
焼結体から平板状(例えば、長さL=8mm、幅W=1.5mm、厚みt=1mm)のサンプルを切り出す。このサンプルの長さ方向の一端を、ヒータで加熱し、他端にヒートシンクを接触させることで、サンプルの長さ方向に沿って温度差を与える。これにより、直方体状のサンプルに一様な温度勾配を与え、L_temp離れた2点の温度差ΔT(K)を測定する。この温度差方向と直交する方向に2テスラの磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定し、下記式(4)により異常ネルンスト係数SANEの値を算出する。
SANE=(V/ΔT)×(L_temp/W) …(4)
【0045】
焼結体の電気抵抗率ρxxは、無次元性能指数ZTの向上及び熱電デバイスの内部抵抗抑制の観点から、300Kにおいて200μΩ・cm以下であることが好ましく、150μΩ・cm以下であることがより好ましい。
【0046】
焼結体の電気抵抗率ρxxは、異常ネルンスト係数SANEの測定に用いたのと同じサンプルについて、4端子法により測定される。
【0047】
焼結体の熱伝導率κは、無次元性能指数ZT向上の観点から、300Kにおいて50W/Km以下であることが好ましく、35W/Km以下であることがより好ましい。
【0048】
焼結体の熱伝導率κは、異常ネルンスト係数SANE及び電気抵抗率ρxxの測定に用いたのと同じサンプルについて、パルス状の熱をサンプルの一端から印加し、サンプル中に生成する温度差の緩和過程を解析することで求められる。
なお、熱伝導率κの測定の際に流す熱流の方向は、電気抵抗率ρxxの測定の際に流す電流の方向と同一とする。
【0049】
焼結体の無次元性能指数ZTは、熱電変換効率の観点から300Kにおいて0.01%以上であることが好ましく、0.03%以上であることがより好ましい。
【0050】
焼結体の無次元性能指数ZTは、上記異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx、及び熱伝導率κの値を用いて、上記式(3)により算出される。
【0051】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子の製造方法では、高い異常ネルンスト係数を示す単結晶と同等の異常ネルンスト効果を示す異常ネルンスト効果素子を、単結晶育成よりも一般的で容易な方法である焼結によって製造することができる。
焼結体は、製造に際して融点以上まで温度を上げる必要がないため、単結晶育成よりも電力も時間もかからず、且つ、必要な高温での保持時間も短い。また、焼結体は、ニアネット焼結が可能であり、形状加工のためのコスト削減も期待できる。
更に、焼結方法としては様々な方法が知られているが、ホットプレス法は、加圧下で焼結する方法としてすでに確立され、且つ、信頼度が高い方法であり、ホットプレス法による焼結装置は広く企業に流通している。そのために実用化のハードルはSPSと比較して低い。また、ホットプレス法では、放電プラズマ焼結法で製造し得る焼結体よりも大容量(例えば500×500×500mm3以上)の焼結体の作製が可能である。
【0052】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子の製造方法により製造される異常ネルンスト効果素子を用いて、熱電変換デバイスを構築することができる。熱電変換デバイスにおいて異常ネルンスト効果素子は、熱電変換素子として機能する。
以下、熱電変換デバイスについて、実施形態を示して説明する。
【0053】
〔第1の実施形態〕
図4は、第1の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式斜視図である。
本実施形態に係る熱電変換デバイス10は、
図4に示すように、異常ネルンスト効果素子1を備えている。
異常ネルンスト効果素子1は、前記した異常ネルンスト効果素子の製造方法により製造されたものであり、焼結体からなる。
【0054】
本実施形態の熱電変換デバイス10では、
図4に示すように、一の方向(本実施系形態ではY方向)に延在する直方体状の異常ネルンスト効果素子1が、厚み方向(本実施形態ではZ方向)に0.1μm以上の厚みを有して、+Z方向に磁化されている。
【0055】
本実施形態の熱電変換デバイス10では、異常ネルンスト効果素子1に対して磁化Mの方向(+Z方向)と直交する他の方向(本実施形態では+X方向)に熱流Qが流れると、+X方向に温度差ΔTが生じる。
【0056】
これにより、異常ネルンスト効果素子1には、異常ネルンスト効果によって、熱流Qの方向(+X方向)及び磁化Mの方向(+Z方向)の双方に直交する方向(本実施形態ではY方向)に起電力が発生する。これにより、異常ネルンスト効果素子1は、熱電変換素子として熱電変換を行うことが可能である。
【0057】
なお、異常ネルンスト効果素子1に磁場を印加すると、異常ネルンスト効果により磁場の大きさに比例した正常ネルンスト効果が加わり、熱電能が上昇することがあるので、実際の使用時に異常ネルンスト効果素子1に磁場を印加することもある。
磁場の印加手段は、温度差が生じる方向及び起電力が発生する方向に直交する方向に磁場を印加することが可能であれば、特に限定されない。磁場の印加手段としては、例えば、永久磁石、電磁石などが挙げられる。
【0058】
〔第2の実施形態〕
図5は、第2の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式斜視図である。
本実施形態に係る熱電変換デバイス20は、
図5に示すように、基板21と、基板21の上に配置された発電体22とを備えている。
【0059】
基板21は、発電体22が配置される第1面21aと、第1面21aと反対側の第2面21bと、を有している。第2面21bには、熱源(図示せず。)からの熱が当てられる。
基板21の材質は、特に限定されない。基板21の材質としては、熱伝導率が高いものが好ましい。基板21の材質としては、AlN、Al2O3、MgO、BNなどが挙げられる。
【0060】
発電体22は、複数の第1異常ネルンスト効果素子23と、複数の第2異常ネルンスト効果素子24と、を有している。第1異常ネルンスト効果素子23及び第2異常ネルンスト効果素子24には、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。
【0061】
複数の第1異常ネルンスト効果素子23及び複数の第2異常ネルンスト効果素子24は、第1面21aの面内において、一の方向(本実施形態ではX方向)に延在し、且つ、この一の方向と交差(本実施形態では直交)する他の方向(本実施形態ではY方向)に交互に並んで配置されている。
【0062】
第1異常ネルンスト効果素子23は、一の方向(X方向)の一端側(-X側)から他の方向(Y方向)の一方側(-Y側)に向かって突出した第1接続部23aを有している。一方、第2異常ネルンスト効果素子24は、一の方向(X方向)の他端側(+X側)から他の方向(Y方向)の一方側(-Y側)に向かって突出した第2接続部24aを有している。
【0063】
第1異常ネルンスト効果素子23は、第1接続部23aを介して第2異常ネルンスト効果素子24の一の方向(X方向)の一端側(-X側)と電気的に接続されている。一方、第2異常ネルンスト効果素子24は、第2接続部24aを介して第1異常ネルンスト効果素子23の一の方向(X方向)の他端側(+X側)と電気的に接続されている。
【0064】
これにより、発電体22は、互いに隣り合う第1異常ネルンスト効果素子23と第2異常ネルンスト効果素子24とが電気的に直列に接続されている。これによって、発電体22は、全体として蛇行した形状を有している。
【0065】
発電体22において第1異常ネルンスト効果素子23及び第2異常ネルンスト効果素子24は、第1異常ネルンスト効果素子23の磁化M1の方向(本実施形態では-Y方向)と、第2異常ネルンスト効果素子24の磁化M2の方向(本実施形態では+Y方向)とが互いに逆向きとなるように配置されている。さらに、第1異常ネルンスト効果素子23と第2異常ネルンスト効果素子24とは、同符号の異常ネルンスト係数を有している。
【0066】
以上のような構成を有する本実施形態の熱電変換デバイス20では、基板21の第2面21b側の熱源から発電体22に向けて熱流Qが流されると、発電体22に熱流方向の温度差が生じ、異常ネルンスト効果によって発電体22に電圧Vが生じる。
【0067】
すなわち、熱源から基板21の第2面21bに熱が当てられると、発電体22に向けて+Z方向の熱流Qが流れる。このとき、第1異常ネルンスト効果素子23では、磁化M1の方向(-Y方向)及び熱流Qの方向(+Z方向)の双方に直交する方向(-X方向)に起電力E1が生じる。一方、第2異常ネルンスト効果素子24では、磁化M2の方向(+Y方向)及び熱流Qの方向(+Z方向)の双方に直交する方向(+X方向)に起電力E2が生じる。
【0068】
発電体22では、互いに隣り合う第1異常ネルンスト効果素子23と第2異常ネルンスト効果素子24とが電気的に直列に接続されていることから、第1異常ネルンスト効果素子23で発生した起電力E1と第2異常ネルンスト効果素子24で発生した起電力E2とが加算され、その出力電圧Vを増大させることが可能である。
【0069】
本実施形態の熱電変換デバイス20では、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の第1異常ネルンスト効果素子23及び第2異常ネルンスト効果素子24を用いることが可能である。
【0070】
ここで、第1異常ネルンスト効果素子23及び第2異常ネルンスト効果素子24の長手方向の長さをL、厚さ(高さ)をHとすると、異常ネルンスト効果により発生する電圧VはL/Hに比例する。すなわち、第1異常ネルンスト効果素子23及び第2異常ネルンスト効果素子24が長くて薄いほど、得られる電圧Vが大きくなる。
【0071】
したがって、本実施形態の熱電変換デバイス20では、上述した互いに隣り合う第1異常ネルンスト効果素子23と第2異常ネルンスト効果素子24とが電気的に直列に接続された発電体22を採用することによって、異常ネルンスト効果の向上により電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0072】
なお、上記熱電変換デバイス20では、上述した構成以外にも、例えば、第1異常ネルンスト効果素子23と第2異常ネルンスト効果素子24とが互いに逆符号の異常ネルンスト係数を有し、且つ、第1異常ネルンスト効果素子23の磁化M1の方向と第2異常ネルンスト効果素子24の磁化M2の方向とが同一となるように配置した構成を採用してもよい。
【0073】
〔第3の実施形態〕
図6は、第3の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式斜視図である。
本実施形態の熱電変換デバイス30は、
図6に示すように、略円筒状の中空部材31と、中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の異常ネルンスト効果素子32とを備えている。異常ネルンスト効果素子32には、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。また、異常ネルンスト効果素子32は、中空部材31の軸線方向(x方向)と平行な方向に磁化されている。
図6に示されるような螺旋状の焼結体をホットプレスで作製する場合、例えば、焼結時に円柱状のものを作製し、その後、切削する。あるいは、ホットプレスはニアネットでの焼結が可能なので、円筒状に焼結して切り出す。あるいは、円筒型の一部のような、瓦のようなものを多数作製し、それらを繋いでいく。こういった工程で螺旋状の焼結体を作製することができる。
【0074】
本実施形態の熱電変換デバイス30では、中空部材31の内側が外側よりも高温の場合、熱流Pは中空部材31の内側から外側に流れ、この中空部材31の内側から外側に向かって温度勾配(温度差)が生じ、異常ネルンスト効果によって異常ネルンスト効果素子32に電圧Vが生じる。すなわち、異常ネルンスト効果素子32では、異常ネルンスト効果素子32の長手方向(磁化の方向及び熱流の方向の双方に直交する方向)に沿って起電力が発生する。
【0075】
本実施形態の熱電変換デバイス30では、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の異常ネルンスト効果素子32を用いることが可能である。
【0076】
したがって、本実施形態の熱電変換デバイス20では、上述した中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の異常ネルンスト効果素子32を採用することによって、異常ネルンスト効果の向上により電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0077】
〔第4の実施形態〕
図7は、第4の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式平面図である。
本実施形態の熱電変換デバイス40は、
図7に示すように、基板41と、基板41の上に配置された発電体42とを備えている。
【0078】
基板41は、発電体42が配置される第1面41aと、第1面41aと反対側の第2面41bと、を有している。第2面41bには、熱源(図示せず。)からの熱が当てられる。
【0079】
発電体42は、複数の異常ネルンスト効果素子45と、配線46とを有している。
異常ネルンスト効果素子45には、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。異常ネルンスト効果素子45は、延在方向(Y方向)と垂直な方向(X方向)に、磁化M1Aの方向が同一となるように(-X方向)となるように、基板41上に並列に配置されている。
【0080】
配線46は、一方の端が異常ネルンスト効果素子45の一端側(-Y側)に電気的に接続され、他方の端が、隣接する別の異常ネルンスト効果素子45の他端側(+Y側)に電気的に接続されている。これによって、異常ネルンスト効果素子45が電気的に直列に接続されている。
配線46の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、配線46の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属が挙げられる。
【0081】
発電体42の一端側には第1電極43が電気的に接続され、他端側には第2電極44が電気的に接続されている。
【0082】
第1電極43の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第1電極43の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
第2電極44の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第2電極44の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0083】
第1電極43と第2電極44との配置は特に限定されない。ただし、第1電極43の温度と第2電極44の温度に差があると、異常ネルンスト効果以外にゼーベック効果も重畳することになるので、熱流センサのためには、第1電極43と第2電極44との配置は、熱源からの距離が同じとなる配置であることが好ましい。
【0084】
以上のような構成を有する本実施形態の熱電変換デバイス40では、基板41の第2面41b側の熱源から発電体42に向けて熱流Qが流されると、発電体42に熱流方向(+Z方向)の温度差が生じ、異常ネルンスト効果によって発電体42に電圧Vが生じる。
熱電変換デバイス40は、隣接する異常ネルンスト効果素子45が配線46を介して接続しているため、熱電変換デバイス20よりも容易に作製することができる。
【0085】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記異常ネルンスト効果素子1は、上述した熱電変換デバイス10,20,30,40だけでなく、様々なデバイスに適用することが可能である。
例えば、異常ネルンスト効果素子1を熱流センサに設けることで、建築物の断熱性能の良否を判定することができる。
【0086】
また、自動二輪車等の排気装置に熱電変換デバイス10,20,30を設けることで、排気ガスの熱(廃熱)を利用して発電することができ、熱電変換デバイス10,20,30,40を補助電源として有効利用することが可能である。
【0087】
また、上記実施形態では、異常ネルンスト効果によって生じる電圧に着目したが、温度勾配によって生じたゼーベック効果による電圧と、ゼーベック効果が作り出した電圧に基づいて生じるホール効果と、異常ネルンスト効果によって生じる電圧との相乗効果により、出力電圧を高めることが可能である。
【0088】
また、本実施形態の異常ネルンスト効果素子は、上述した熱電変換素子としての機能だけでなく、熱電変換素子とは逆の機能、すなわちペルチェ素子のように、電力の供給によって温度変調(特に冷却)する機能を持たせることも可能である。
【0089】
また、上記実施形態では、上述したCo2MnGaからなる焼結体が従来よりも大きな異常ネルンスト効果をもたらすことを説明したが、Co2MnGa以外にも、異常ネルンスト効果を高める可能性がある候補物質としては、例えば、Fe3Ga、Fe3Al、Co2MnAl、Co2MnIn、Mn3Ga、Mn3Ge、Fe2NiGa、CoTiSb、CoVSb、CoCrSb、CoMnSb、TiGa2Mnなどの焼結体を挙げることができる。
【実施例0090】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0091】
(実施例1~4)
ホットプレス法にて、Co2MnGaの焼結体を作製した。焼結体の作製においては、Co2MnGaの原料粉末を、ホットプレス装置の電気炉内のカーボン型に充填し、一軸方向に圧力を印加しながらカーボン型を加熱して原料粉末を焼結した。焼結時の電気炉内の酸素と水蒸気を極力減らすために、焼結前に電気炉を脱気した後に、Arガスを大気圧まで復圧した。この作業を3回繰り替えした。焼結は、Ar雰囲気で、Arガスを流しながら行った。焼結温度と焼結時に印加する圧力は表1に示す値とした。焼結プログラムは、600℃から目的の焼結温度まで15℃/minで昇温し、目的の焼結温度に達した後に3時間保持し、その後自然冷却、とした。
焼結温度は、900℃以下の場合はCタイプの熱電対を使用し、900℃から1100℃の間の場合はCタイプと放射温度計(CHINO IR-CZH7T6)の両方を併用し、1100℃以上の場合は放射温度計のみを使用して温度を測定している。電気炉内の均熱域空間は±10℃の範囲の温度領域で温度が一定であり、その空間に熱電対を設置して温度を測定するか、あるいは、グラファイトブロックを置いて放射温度計にて温度を測定しており、その温度を炉内温度としている。従って、均熱域空間の温度とカーボン型内の中心温度にはタイムラグが生じており、型の中心温度が均熱域空間の温度に追随するのにΦ50mmの型で15分程度を要する。タイムラグは、サンプル充填量や使用している方のサイズによっても変化する。
得られた焼結体について、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
【0092】
<相対密度>
焼結体の密度をアルキメデス法によって測定し、単結晶Co2MnGaの理論密度(8.39g/cm3)に対する比を算出して相対密度とした。
【0093】
<平均結晶粒径、結晶粒径標準偏差>
先ず、焼結体の表面を#800の耐水研磨紙で粗研磨した後に、1μmのアルミナ懸濁液で中研磨して、更に0.3μmのアルミナ懸濁液で鏡面研磨した。次に、SEMの二次電子及び反射電子を用いて焼結体の表面の観察を行った。そして、サンプル毎に500倍の倍率で横228.7μm×縦157μmのサイズの計6枚の画像を撮影し、各画像の解析により結晶粒の粒径を測定し、結晶粒の粒径の平均値(平均結晶粒径)及び標準偏差(結晶粒径標準偏差)を算出した。
平均結晶粒径及び結晶粒径標準偏差の算出にあたっては、1枚のSEM画像をピクセル毎に個々の粒子に分割した。画像端周辺の粒子については除去した。画像処理により分割した各粒子の面積を求め、各粒子の面積と同等の面積を有する円を決定した。1つのサンプルについて、測定した6枚のSEM画像中の、画像端付近の円を除く全ての円の直径から結晶粒の平均粒径及び粒径の標準偏差を算出した。
【0094】
<異常ネルンスト係数SANE>
焼結体から評価用の平板状(長さL=8mm、幅W=1.5mm、厚みt=1mm)のサンプルを切り出した。Quantum Design社製のPhysical Property Measurement SystemのThermal Transport Optionを用い、300Kの温度において、サンプルの長さ方向の一端からパルス状に熱を注入し、他端にヒートシンクを接触させることで、サンプルの長さ方向に沿って温度差を与えた。サンプル上のL_temp(4~8mm)離れた2点の温度差ΔTを測定した。また、この温度差方向と直交する方向且つサンプルの面直方向に2テスラの磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定し、上記式(4)により異常ネルンスト係数SANEの値を算出した。
【0095】
<電気抵抗率ρxx>
異常ネルンスト係数SANEの測定に用いたのと同じサンプルについて、300Kの温度において、4端子法により電気抵抗率ρxxを測定した。
【0096】
<熱伝導率κ>
異常ネルンスト係数SANE及び電気抵抗率ρxxの測定に用いたのと同じサンプルについて、300Kの温度においてQuantum Design社製のPhysical Property Measurement System のThermal Transport Optionを用い、パルス状の熱をサンプルの一端から印加し、サンプル中に生成する温度差の緩和過程を解析することで熱伝導率κを得た。
なお、熱伝導率κの測定の際に流した熱流の方向は、電気抵抗率ρxxの測定の際に流した電流の方向と同一とした。
【0097】
<無次元性能指数ZT>
上記異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx、及び熱伝導率κの値を用いて、上記式(3)により無次元性能指数ZTの値を算出した。
【0098】
(比較例1~2)
非特許文献2、非特許文献3それぞれに記載のCo2MnGaの単結晶を比較例1、比較例2とした。
なお、単結晶とは、nm、μm、mm、cmのようなスケールのたった一つの結晶を意味する。
各単結晶について、上記と同様に、異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx、熱伝導率κ、無次元性能指数ZTの測定を行った。結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
上記結果に示すように、実施例1~4の焼結体は、Co2MnGaの単結晶と同程度の異常ネルンスト効果及び無次元性能指数ZTを示した。
本発明によれば、すでに確立されて信頼度の高く広く流通している焼結方法であるホットプレス法により、高い異常ネルンスト係数を有する異常ネルンスト効果素子を製造できる。ホットプレス法によれば、大容量の焼結体の作製が可能であり、形状加工がし易く、焼結体をより安価に製造することができる。
1…異常ネルンスト効果素子(焼結体)、10…熱電変換デバイス、20…熱電変換デバイス、21…基板、22…発電体、23…第1異常ネルンスト効果素子、24…第2異常ネルンスト効果素子、30…熱電変換デバイス、31…中空部材、32…異常ネルンスト効果素子