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特開2024-1778制御装置、制御方法、量子測定システムおよびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001778
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、量子測定システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/70 20220101AFI20231227BHJP
【FI】
G06N10/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100654
(22)【出願日】2022-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年7月6日にarXiv ウェブサイトにて公開 2021年10月14日に第4回量子ソフトウェア研究会にて公開 2022年3月18日にAPS March meeting 2022にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「炭素原子気体の精密分光と冷却の実現」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 傑
(72)【発明者】
【氏名】徳永 裕己
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰成
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 信行
(57)【要約】
【課題】量子エラー抑制の性能を向上させる。
【解決手段】抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出する量子状態算出部と、前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定する量子測定制御部と、前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出するエラー抑制計算部と、算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、量子測定の対象の物理量から、前記物理量の期待値を算出する量子エラー抑制部と、を備える制御装置である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出する量子状態算出部と、
前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定する量子測定制御部と、
前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出するエラー抑制計算部と、
算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、量子測定の対象の物理量から、前記物理量の期待値を算出する量子エラー抑制部と、を備える、
制御装置。
【請求項2】
前記量子測定制御部は、累乗部分空間法を用いて、前記部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を測定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記量子測定制御部は、誤り部分空間法を用いて、前記部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を測定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
制御装置と第一量子コンピュータと第二量子コンピュータとを備える量子測定システムであって、
前記制御装置は、
前記第一量子コンピュータを用いて、抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出する量子状態算出部と、
前記第一量子コンピュータを用いて、前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定する量子測定制御部と、
前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出するエラー抑制計算部と、
算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、前記第二量子コンピュータを用いて測定された物理量から、前記物理量の期待値を算出する量子エラー抑制部と、を備える、
量子測定システム。
【請求項5】
コンピュータが実行する制御方法であって、
抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出するステップと、
前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定するステップと、
前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出するステップと、
算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、量子測定の対象の物理量から、前記物理量の期待値を算出するステップと、を備える、
制御方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置における各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、量子測定システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータは、量子力学の重ね合わせの原理を活用して計算を行う技術で、素因数分解や量子化学計算などの問題を高速に解けることが期待されているため、その開発が世界で盛んに進められている。量子コンピュータが扱う量子ビットには、古典コンピュータのような0と1が入れ替わるエラーの他に、0と1の「重ね合わせ」の比率がずれる特有のエラーが発生する。そこで、量子コンピュータにおいて発生する誤り(量子エラー)を抑制する方法が研究されている。従来、量子エラーを抑制する方法として、抑制したい量子エラーの情報を必要とする手法と、量子エラーの情報を必要としない手法と、が知られている。
【0003】
従来、量子エラーの情報を必要としない量子エラー抑制機構として代表的なものとして、仮想蒸留法(非特許文献1、非特許文献2)および部分空間展開法(非特許文献3)が開示されている。仮想蒸留法は、量子エラーを受けた同一の量子状態の複数のコピーを用意し、コピー間に量子もつれ操作を行ったあとに測定を行った結果を古典コンピュータで処理する方法である。仮想蒸留法では、量子状態のコピー数が増えると量子エラー抑制の精度が向上する。
【0004】
部分空間展開法は、量子エラーの影響を受けた量子状態に対してパウリ演算子(およびパウリ演算子の積)を測定し、その測定結果を古典コンピュータで処理する。仮想蒸留法は量子状態のコピーに対して量子もつれ測定を行うことで、量子状態を量子エラーのない、交換対称性のある空間に量子状態を移し、量子エラーを抑えることができる。部分空間展開法は量子状態を古典コンピュータと量子コンピュータの両方を用いて表現することによって、量子コンピュータ単体で表現する場合より表現できる量子状態の範囲を大きくできるため、量子エラーを削減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McClean, Jarrod R., et al. "Hybrid quantum-classical hierarchy for mitigation of decoherence and determination of excited states." Physical Review A 95.4 (2017): 042308.
【非特許文献2】Koczor, Balint. "Exponential error suppression for near-term quantum devices." Physical Review X 11.3 (2021): 031057.
【非特許文献3】Huggins, William J., et al. "Virtual distillation for quantum error mitigation." Physical Review X 11.4 (2021): 041036.
【非特許文献4】Temme, Kristan, Sergey Bravyi, and Jay M. Gambetta. "Error mitigation for short-depth quantum circuits." Physical review letters 119.18 (2017): 180509.
【非特許文献5】Nakanishi, K. M., Mitarai, K., & Fujii, K. (2019). Subspace-search variational quantum eigensolver for excited states. Physical Review Research, 1(3), 033062.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
仮想蒸留法は、ビット反転、位相反転などの確率的な量子エラーを抑制することができるが、量子ゲートの回転角がずれるなどといったコヒーレントエラーの影響を防ぐことはできない。また、実現できる量子コンピュータの量子ビット数は限られており、使用できる量子状態のコピー数に制限があるため、量子エラー抑制の性能に制限がある。また、部分空間展開法はコヒーレントエラーの抑制には有効であるが、確率的な量子エラーを抑制することには不向きである。
【0007】
開示の技術は、量子エラー抑制の性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術は、抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出する量子状態算出部と、前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定する量子測定制御部と、前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出するエラー抑制計算部と、算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、量子測定の対象の物理量から、前記物理量の期待値を算出する量子エラー抑制部と、を備える制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、量子エラー抑制の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】量子測定システムのシステム構成の一例を示す図である。
図2】第一量子コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】第二量子コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図4】コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図5】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図6】量子測定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0012】
(本実施の形態の概要)
本実施の形態に係る量子測定システムは、量子エラーを抑制した量子測定を行うシステムである。量子エラーの抑制方法は、仮想蒸留法および部分空間展開法を特殊な場合として含む一般化部分空間展開法である。
【0013】
部分空間展開法ではパウリ演算子およびパウリ演算子の積を量子エラーのある量子状態に対して測定し、結果を古典コンピュータで処理することで表現できる量子状態の範囲を広げる。それに対して、本実施の形態では、パウリ演算子の測定のほかに、複数の量子状態の量子もつれの測定等を行って得られた結果に対しても、部分空間展開法と同様の古典処理を行う。
【0014】
なお、部分空間展開法と仮想蒸留法の単純な組み合わせも一般化部分空間展開法に完全に含まれる。部分空間展開法はコヒーレントエラーを効率的に抑制でき、仮想蒸留法は確率的エラー効率的に抑制できるため、一般化部分空間展開法は、コヒーレントエラーおよび確率的エラーの両方を効率的に抑制することができる。
【0015】
また、仮想蒸留法が「同一の」量子状態のコピーを用いるのに対して、一般化部分空間展開法では、「同一でない」量子状態を用いたり、量子もつれ操作以外の操作を用いたりしてもよい。これによって、仮想蒸留法で問題となっていた、使用できる量子状態のコピー数により量子エラー抑制の精度が制限される問題を大幅に緩和できる。したがって、部分空間展開法と仮想蒸留法を単純に組み合わせる場合よりも質の高いエラー抑制を可能にする。
【0016】
また、一般化部分空間展開法の特に有用なケースとして、「累乗部分空間法」、「誤り部分空間法」がある。「累乗部分空間法」では、量子エラーを受けた量子状態の級数展開として理想の量子状態が表現できるため、コピー数により精度が制限される仮想蒸留法より高精度な計算が実現できる。また、「誤り部分空間法」では量子エラーを増加させた量子状態を用いることにより、量子エラー抑制法の外挿法(非特許文献4)の利点を取り込んだエラー抑制が実現でき、コピー数により精度が制限される仮想蒸留法より高精度な計算が実現できる。
【0017】
以下、本実施の形態の具体例として、実施例1および実施例2について説明する。
【0018】
(実施例1)
本実施例では、一般化部分空間展開法として「累乗部分空間法」を適用して量子エラーを抑制する例について説明する。
【0019】
具体的には、量子系のハミルトニアンHが与えられた際に、その固有状態の量子エラーを抑制する手順について説明する。累乗部分空間法は、エラーのない理想の量子状態をエラーのある量子状態の級数展開として表現する方法である。
【0020】
図1は、量子測定システムのシステム構成の一例を示す図である。量子測定システム1は、制御装置10と、第一量子コンピュータ20と、第二量子コンピュータ30と、を備える。制御装置10と第一量子コンピュータ20とは、通信線40を介して通信可能に接続されている。また、制御装置10と第二量子コンピュータ30とは、通信線50を介して通信可能に接続されている。
【0021】
制御装置10は、古典コンピュータから構成される装置である。古典コンピュータは、電子回路によって電子計算を行うコンピュータである。以下では、古典コンピュータを単にコンピュータともいう。
【0022】
制御装置10は、量子測定の指示信号を、通信線40を介して第一量子コンピュータ20に送信し、量子測定の結果を示すデータを受信する。そして、制御装置10は、受信したデータに基づく一般化固有方程式を解くことによって、量子エラーが抑制されたハミルトニアンの固有エネルギーを算出する。
【0023】
次に、制御装置10は、測定対象の物理量の量子測定の指示信号を、通信線50を介して第二量子コンピュータ30に送信し、量子測定の結果を示すデータを受信する。そして、制御装置10は、受信したデータに量子エラーが抑制されたハミルトニアンの固有エネルギーを適用して、量子エラーが抑制された物理量を算出する。
【0024】
第一量子コンピュータ20および第二量子コンピュータ30は、量子コンピュータから構成される装置である。量子コンピュータは、重ね合わせや量子もつれと言った量子力学的な現象を用いた測定を行う装置である。
【0025】
第一量子コンピュータ20は、制御装置10から量子測定の指示信号を受信して、量子測定を行う。例えば、第一量子コンピュータ20は、複数の量子状態を算出し、「累乗部分空間法」を適用して、各量子状態に対応する量子測定に加えて、複数の量子状態の量子もつれに対する量子測定を行う。そして、第一量子コンピュータ20は、量子系のハミルトニアン、重なり行列等を含む測定結果を示すデータを制御装置10に送信する。
【0026】
第二量子コンピュータ30は、制御装置10から量子測定の指示信号を受信して、測定対象の物理量の量子測定を行う。第二量子コンピュータ30は、測定結果を示すデータを制御装置10に送信する。
【0027】
なお、量子測定システム1は、測定対象の物理量がエネルギーである場合には、第二量子コンピュータ30を備えていなくてもよい。その場合、制御装置10によって算出された、量子エラーが抑制されたハミルトニアンの固有エネルギーが、測定対象の物理量に相当する。また、測定対象の物理量がエネルギーでない場合であっても、第一量子コンピュータ20と第二量子コンピュータ30とが同一のハードウェアによって実現される構成であってもよい。例えば、単一の量子コンピュータが、第一量子コンピュータ20として機能するための設定と、第二量子コンピュータ30として機能させる設定とを使い分けることによって、第一量子コンピュータ20または第二量子コンピュータ30として機能してもよい。
【0028】
図2は、第一量子コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。第一量子コンピュータ20は、第一量子回路21と、第二量子回路22と、量子測定回路23と、を備える。
【0029】
第一量子回路21と第二量子回路22とは、各量子状態に対応する量子回路である。図2は、量子状態および対応する量子回路がそれぞれ2つである例を示しているが、3つ以上でもよい。
【0030】
量子測定回路23は、複数の量子状態の量子もつれ等を含む測定を、「累乗部分空間法」を適用して行うための量子回路である。
【0031】
図3は、第二量子コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。第二量子コンピュータ30は、量子測定回路31を備える。量子測定回路31は、測定対象の物理量を測定するための量子回路である。
【0032】
また、制御装置10は、例えば、図4に示すコンピュータ500のハードウェア構成により実現される。図4に示すコンピュータ500は、入力装置501と、表示装置502と、外部I/F503と、通信I/F504と、プロセッサ505と、メモリ装置506とを有する。これらの各ハードウェアは、それぞれがバス507により通信可能に接続される。
【0033】
入力装置501は、例えば、キーボードやマウス、タッチパネル等である。表示装置502は、例えば、ディスプレイ等である。なお、コンピュータ500は、入力装置501及び表示装置502のうちの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0034】
外部I/F503は、記録媒体503a等の外部装置とのインタフェースである。なお、記録媒体503aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等が挙げられる。
【0035】
通信I/F504は、他の装置や機器、システム等との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。プロセッサ505は、例えば、CPU等の各種演算装置である。メモリ装置506は、例えば、HDDやSSD、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の各種記憶装置である。
【0036】
制御装置10は、図4に示すコンピュータ500のハードウェア構成を有することにより、後述する各種処理を実現することができる。なお、図4に示すコンピュータ500のハードウェア構成は一例であって、コンピュータ500は、他のハードウェア構成を有していてもよい。例えば、コンピュータ500は、複数のプロセッサ505を有していてもよいし、複数のメモリ装置506を有していてもよい。
【0037】
図5は、制御装置の機能構成の一例を示す図である。制御装置10は、量子状態算出部11と、量子測定制御部12と、エラー抑制計算部13と、量子エラー抑制部14と、を備える。
【0038】
量子状態算出部11は、第一量子コンピュータ20を制御して、量子状態を算出する。例えば、量子状態算出部11は、第一量子コンピュータ20において動作する変分量子固有値ソルバー(VQE:Variational Quantum Eigensolver)など(例えば、非特許文献5)を用いて、ハミルトニアンの基底状態を近似する量子状態を算出する。ここで、量子状態算出部11は、仮想蒸留法と同様に、既存の量子状態と「同一の」量子状態(既存の量子状態のコピー)を算出してもよいし、既存の量子状態と「同一でない」量子状態を算出してもよい。算出された量子状態は、例えば第一量子回路21、第二量子回路22等によって実現されてもよい。
【0039】
量子測定制御部12は、算出された量子状態を用いて、第一量子コンピュータ20による量子測定を制御する。例えば、量子測定制御部12は、複数の量子状態の量子もつれに対する測定を制御してもよいし、量子もつれ以外の測定を制御してもよい。当該量子測定は、量子測定回路23によって実現される。本実施例では、量子測定制御部12は、累乗部分空間法による量子測定を制御する。
【0040】
エラー抑制計算部13は、量子測定の結果を用いて、エラーを抑制する計算を実行する。例えば、エラー抑制計算部13は、一般化固有方程式を解くことによって、量子エラーが抑制されたハミルトニアンの固有エネルギーを算出する。
【0041】
量子エラー抑制部14は、第二量子コンピュータ30を制御して測定対象の物理量の量子測定を行い、測定結果にエラー抑制の計算結果を適用することによって、量子エラーを抑制する。
【0042】
次に、量子測定システム1の動作について説明する。ここで、以下の説明における各記号の意味について説明する。Hは、量子系のハミルトニアンを表す行列である。ρは、エラー抑制を適用する量子エラーの影響を受けた量子状態である。σは、エラー抑制を適応したい量子状態に関連した一般の演算子である。σ は、σの随伴行列である。Aは、エラー抑制を適用したい量子状態に関連した一般の半正定値演算子である。A=I(恒等演算子)としてもよい。また、
【0043】
【数1】
は、σとAによって定義された部分空間上でのハミルトニアンを表す行列である。
【0044】
【数2】
は、当該ハミルトニアンを表す行列の(i,j)成分である。
【0045】
【数3】
は、σとAによって定義された部分空間の重なり行列である。
【0046】
【数4】
は、当該重なり行列の(i,j)成分である。
【0047】
図6は、量子測定処理の流れの一例を示すフローチャートである。量子状態算出部11は、量子状態を算出する(ステップS101)。具体的には、量子状態算出部11は、第一量子コンピュータ20において動作する変分量子固有値ソルバーを用いて、ハミルトニアンの基底状態を近似する量子状態を算出する。量子状態算出部11は、励起状態を求める場合は、部分空間探索VQE(SSVQE:Subspace-Search Variational Quantum Eigensolver)などを用いて、励起状態の近似値を算出する。ここで得られた量子状態を以下ρとする。
【0048】
次に、量子測定制御部12は、量子測定を制御する(ステップS102)。具体的には、量子測定制御部12は、第一量子コンピュータ20を制御して、
【0049】
【数5】
および
【0050】
【数6】
を算出する。
【0051】
ここで、A=I(恒等演算子)またはA=ρとする。また、累乗部分空間法では、σ=ρとする。なお、従来の技術では、σにはパウリ演算子のみが使用され、取り除くことができる量子エラーがコヒーレントエラーに限定されていた。本実施例では、コヒーレントエラー以外の量子エラーを抑制することができる。また、σをρとパウリ演算子の積としてもよい。これによって、コヒーレントエラーを効率的に抑制できるようになる。
【0052】
エラー抑制計算部13は、エラー抑制を計算する(ステップS103)。具体的には、エラー抑制計算部13は、一般化固有方程式
【0053】
【数7】
を解く。ここで、Eは一般化固有方程式の固有値である。最もエネルギーが低いEをEとする。Eは、量子エラーが抑制されたハミルトニアンの固有エネルギーに対応する。
【0054】
続いて、量子エラー抑制部14は、エラーが抑制された物理量を算出する(ステップS104)。ここで、Eに対応する
【0055】
【数8】
【0056】
【数9】
とする。
【0057】
例えば、量子測定回路31で測定可能な物理量Oが与えられた場合、量子エラーが抑制された物理量Oの期待値は、
【0058】
【数10】
となる。ただし、
【0059】
【数11】
は、
【0060】
【数12】
で規格化されているものとし、
【0061】
【数13】
が第二量子コンピュータ30で測定できることを前提としている。
【0062】
本実施例によれば、累乗部分空間法を適用してエラー抑制を計算することによって、量子エラーを受けた量子状態の級数展開として理想の量子状態を表現できるため、量子状態のコピー数で精度が制限される仮想蒸留法等よりも高い計算精度を実現できる。したがって、従来の技術よりも量子エラー抑制の性能を向上させることができる。
【0063】
(実施例2)
本実施例では、一般化部分空間展開法として「誤り部分空間法」を適用して量子エラーを抑制する例について説明する。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0064】
本実施例に係る量子測定回路23は、複数の量子状態の量子もつれに対する測定等を「誤り部分空間法」を適用して行うための量子回路である。
【0065】
本実施例に係る量子測定処理では、図6のステップS102において、量子測定制御部12は、第一量子コンピュータ20を制御して、「誤り部分空間法」を適用した測定を行う。「誤り部分空間法」は、エラーを増幅した量子状態を用いて、表現できる量子状態の範囲を拡大することができる手法であり、従来技術の外挿法と呼ばれる量子エラー抑制の効果を取り入れることができ、計算精度を向上することができる手法である。
【0066】
具体的には、量子測定制御部12は、第一量子コンピュータ20を制御して、実施例1と同様に、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列と、部分空間の重なり行列と、を算出する。ここで、A=I(恒等演算子)とし、σ=ρ(λε)とする。ここで、λ>1,εは量子状態の量子エラーの大きさを表すパラメータである。また、σをρ(λε)とパウリ演算子の積としてもよい。これによって、コヒーレントエラーを効率的に抑制できるようになる。
【0067】
本実施例によれば、誤り部分空間法を適用してエラー抑制を計算することによって、計算エラーを増加させた量子状態を用いることにより、量子エラー抑制法の外挿法の利点を取り込んだエラー抑制を実現し、量子状態のコピー数で精度が制限される仮想蒸留法等よりも高い計算精度を実現できる。したがって、従来の技術よりも量子エラー抑制の性能を向上させることができる。
【0068】
(付記)
以上の実施形態に関し、更に以下の付記項を開示する。
(付記項1)
メモリと、
前記メモリに接続された少なくとも1つのプロセッサと、を含む制御装置であって、
前記プロセッサは、
抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出し、
前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定し、
前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出し、
算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、量子測定の対象の物理量から、前記物理量の期待値を算出する、
制御装置。
(付記項2)
前記プロセッサは、累乗部分空間法を用いて、前記部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を測定する、
付記項1に記載の制御装置。
(付記項3)
前記プロセッサは、誤り部分空間法を用いて、前記部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を測定する、
付記項1に記載の制御装置。
(付記項4)
制御装置と第一量子コンピュータと第二量子コンピュータとを備える量子測定システムであって、
前記制御装置は、
メモリと、
前記メモリに接続された少なくとも1つのプロセッサと、を含み、
前記プロセッサは、
抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出し、
前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定し、
前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出し、
算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、量子測定の対象の物理量から、前記物理量の期待値を算出する、
量子測定システム。
(付記項5)
コンピュータが実行する制御方法であって、
抑制の対象となる量子エラーの影響を受けた量子状態を含む複数の量子状態を算出し、
前記複数の量子状態に関連した半正定値演算子によって定義された、部分空間上でのハミルトニアンを表す行列および前記部分空間の重なり行列を、前記半正定値演算子を恒等演算子または前記量子エラーの影響を受けた量子状態として測定し、
前記ハミルトニアンを表す一般化固有方程式の固有値として、前記量子エラーが抑制された前記ハミルトニアンの固有エネルギーを算出し、
算出された前記ハミルトニアンの固有エネルギーに基づいて、量子測定の対象の物理量から、前記物理量の期待値を算出する、
制御方法。
(付記項6)
コンピュータを、付記項1から3のいずれか1項に記載の制御装置における各部として機能させるためのプログラムを記憶した非一時的記憶媒体。
【0069】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 量子測定システム
10 制御装置
11 量子状態算出部
12 量子測定制御部
13 エラー抑制計算部
14 量子エラー抑制部
20 第一量子コンピュータ
21 第一量子回路
22 第二量子回路
23 量子測定回路
30 第二量子コンピュータ
31 量子測定回路
40,50 通信線
500 コンピュータ
501 入力装置
502 表示装置
503 外部I/F
503a 記録媒体
504 通信I/F
505 プロセッサ
506 メモリ装置
507 バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6