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特開2024-177923異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに熱電変換デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177923
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに熱電変換デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 15/20 20230101AFI20241217BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20241217BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20241217BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20241217BHJP
   H10N 15/00 20230101ALI20241217BHJP
   C22C 19/07 20060101ALN20241217BHJP
   C22C 22/00 20060101ALN20241217BHJP
   C22C 28/00 20060101ALN20241217BHJP
   C22C 30/00 20060101ALN20241217BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
H10N15/20
B22F3/11 Z
B22F3/14 D
B22F3/02 L
H10N15/00
C22C19/07 C
C22C22/00
C22C28/00 B
C22C30/00
C22C38/00 303Z
C22C38/00 304
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096334
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】深堀 明博
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 友文
(72)【発明者】
【氏名】中辻 知
(72)【発明者】
【氏名】酒井 明人
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018AA24
4K018AA40
4K018BA20
4K018BC12
4K018BC13
4K018BD01
4K018BD04
4K018CA02
4K018CA08
4K018CA09
4K018CA16
4K018CA33
4K018DA31
4K018EA01
4K018FA06
4K018HA08
4K018HA10
4K018KA22
4K018KA42
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】合金からなる熱電材料の熱伝導率を抑制する。
【解決手段】異常ネルンスト効果素子1は、Co、Mn、およびGaを含有した焼結体2を含み、焼結体2の空隙率が20%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co、Mn、およびGaを含有した焼結体を含み、
前記焼結体の空隙率が20%以上である、異常ネルンスト効果素子。
【請求項2】
前記焼結体がホイスラー構造を持つ、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子。
【請求項3】
前記焼結体の電気抵抗率が200μΩ・cm以上である、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子。
【請求項4】
前記焼結体の異常ネルンスト係数の絶対値が1.0μV/K以上である、請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子。
【請求項5】
Co、Mn、およびGaを含有する粉末を含む成形体を作製する工程を含み、
前記工程後に、700℃~1100℃の焼結温度で前記粉末を1MPa以下の圧力下で焼結する、異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項6】
前記工程において、前記粉末とエタノールとを混合した混合体を、10MPa~200MPaで一軸加圧した後に、前記圧力下での焼結を行う、請求項5に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項7】
前記工程において、前記粉末を型に充填し、10MPa~200MPaで一軸加圧した後に、前記型に前記粉末が充填された状態で前記圧力下での焼結を行う、請求項5に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項8】
前記工程において、前記粉末とバインダーとを混合した混合体を、10MPa~200MPaで一軸加圧した後に、前記圧力下での焼結を行う、請求項5に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子を備え、
前記焼結体の熱伝導率が15W/K・m以下である、熱電変換デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の異常ネルンスト効果素子を用いて、熱電変換を行う、熱電変換デバイス。
【請求項11】
10℃~50℃において、前記焼結体の異常ネルンスト係数の絶対値が1.0μV/K~10μV/Kである、請求項10に記載の熱電変換デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに熱電変換デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異常ネルンスト効果(Anomalous Nernst effect)により起電力を生じる異常ネルンスト効果素子を用いた熱電変換デバイスが提案されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。異常ネルンスト効果とは、磁性体に熱流を流して温度差が生じたときに、磁化方向と温度勾配の双方に直交する方向に電圧が生じる現象である。
【0003】
同じく温度勾配によって電圧を発生させる熱電変換デバイスとして、ゼーベック効果(Seebeck effect)を利用したものがよく知られている。ゼーベック効果では、温度勾配と同じ方向に電圧が生じることから、熱電変換デバイスが複雑な3次元構造となり、大面積化やフィルム化が困難である。また、毒性や希少性の高い材料が用いられており、脆弱で振動に弱く、さらに製造コストが高いという課題がある。
【0004】
一方、異常ネルンスト効果では、温度勾配に直交する方向に電圧が生じることから、この異常ネルンスト効果を用いた熱電変換デバイスでは、熱源に沿うように展開することができ、大面積化及びフィルム化に有利である。更に、廉価で毒性が少なく、且つ耐久性の高い材料を選択することができる。
【0005】
異常ネルンスト効果を示す物質は、CoMnGa、FeGa、FeAl、MnGe、MnSn、MnGa、MnGe、Co、Fe、NdMo、Pt/Fe 多層膜、L1-FePt合金など様々な物質で報告されている。これらの中で、現在、最も高い異常ネルンスト係数の絶対値を有するものはCoMnGaであり、既報で最高データは6.75-8μV/Kである。なお、これらの値は単結晶のデータである。
【0006】
異常ネルンスト材料を評価する指標は、異常ネルンスト係数と熱伝導率と電気抵抗率であり、さらにこれらから算出される無次元性能指数ZTとPower Factorである。異常ネルンスト係数は温度差1K当たりの熱起電力を意味している。
【0007】
異常ネルンスト係数SANEは、下記式(1)で表される。
ANE=ρyyαyx-σyxρyySE …(1)
ρyy:縦抵抗
αyx:横熱電係数
σyx:ホール電導度
SE:ゼーベック係数
【0008】
なお、横熱電係数αyxは、下記式(2)で表される。
αyx=-(π/3)・{(k T)/e}(∂σyx/∂ε)(モットの式) …(2)
但し、∂σyx/∂εはフェルミ準位での値である。
:ボルツマン定数
ε:エネルギー
e:電荷素量
T:絶対温度
【0009】
無次元性能指数ZTは、下記式(3)で表される。
ZT=(SANE ・σxx/κyy)・T={SANE /(ρxx・κyy)}・T …(3)
σxx:電気伝導率
κyy:熱伝導率
ρxx:電気抵抗率
【0010】
合金熱電変換材料は、金属であるために熱伝導率が大きく材料内に温度差が付きにくく、形成される温度勾配が小さいこと、また熱電変換モジュールを介した熱流が大きくなりすぎるといった懸念点がある。設置する温度差環境、また熱流環境を最大限度利用できる熱伝導率を持つ熱電変換材料を用いた熱電変換モジュールを作製する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2019/009308号
【特許文献2】特開2023-2425号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Nature、581(2020)、53
【非特許文献2】Nature physics、14(2018)、1119
【非特許文献3】PHYSICAL REVIEW B、101(2020)、180404(R)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述した異常ネルンスト効果は、ゼーベック効果に対して優位性があるものの、通常の磁性体を用いた異常ネルンスト効果による現状の発電量は、本格的な実用化のためにはまだ小さい。
【0014】
そこで、上記特許文献1では、従来よりも大きな異常ネルンスト効果をもたらすものとして、フェルミエネルギーの近傍にワイル点を有するバンド構造のCoMnGaからなる熱電変換素子(異常ネルンスト効果素子)を提案している。また、このCoMnGaの結晶構造は、立方晶系の単結晶であり、フルホイスラー系の結晶構造を有している。
【0015】
一方、上記特許文献1に記載の熱電変換素子は、優れた横熱電能を示すものの、CoMnGaの単結晶を引き上げる際に、融点まで温度を上げるために電力も時間もかかる。なお且つ、結晶成長に必要な時間もかかるため、製造コストが嵩むことが知られている。また、CoMnGaの単結晶は、ニアネットでの育成が無理なために切断する必要があり、形状加工にもコストがかかる。
【0016】
焼結体は、融点以上まで温度を上げる必要がないために電力も時間も単結晶育成よりもかからず、なお且つ、必要な高温での保持時間も短い。特に、1MPa以下の圧力下での焼結は、特殊な装置を導入する必要がないだけでなく、既存の電気炉で作製が可能である。また、一般的で容易な焼結方法でもある。更に、焼結体は、ニアネット焼結が可能であり、形状加工のためのコスト削減も期待できる。
【0017】
一般的に、焼結体とは、原料粉末を型で成形した後に、大気圧又は加圧下で電気炉により焼成する方法や、ホットプレス法、HIP(Hot Isostatic Pressing)法、放電プラズマ焼結法(SPS:Spark Plasma Sintering)、マイクロ波焼結法などで焼結したものを指す。
【0018】
最近では、新しい焼結法としてフラッシュ焼結なども報告されている。このように様々な方法で焼結体が作製されているが、物質固有の融点よりも低い温度で焼き固められている物を焼結体と称する。
【0019】
焼結体は、多結晶体の括りに入る。単結晶育成方法で融点よりも高い温度まで物質を熱してメルトにした後に、急冷すると原子の配列の規則化が間に合わず、多結晶になった物も多結晶の括りに入るが焼結体とは言わない。
【0020】
上記特許文献2において、放電プラズマ焼結によりCoMnGa焼結体作製の報告がされている。焼結は90MPaを印加して約1Paの真空雰囲気で行い、温度プログラムは、650℃で昇温して10分間保持、その後に750℃まで昇温して更に10分間保持している。この製法で6.68μV/Kの異常ネルンスト係数の絶対値を有する材料を作製している。
ただし、放電プラズマ焼結という特殊な装置の導入が必要となり、また製法の特徴として大容量での作製が難しいという難点がある。さらに、この方法で作製した試料の熱伝導率は26W/K・mと単結晶CoMnGaの熱伝導率より大きく、合金系の熱電材料の欠点である熱伝導率が高いという課題は解決していない。
【0021】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、一般的で容易な焼結方法で、特定の空隙であることにより熱伝導率を大幅に抑制し、形状加工がし易く、より安価に製造することが可能な異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに、そのような異常ネルンスト効果素子を用いた熱電変換デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 Co、Mn、およびGaを含有した焼結体を含み、前記焼結体の空隙率が20%以上である、異常ネルンスト効果素子。
〔2〕 前記焼結体がホイスラー構造を持つ、〔1〕に記載の異常ネルンスト効果素子。
〔3〕 前記焼結体の電気抵抗率が200μΩ・cm以上である、〔1〕または〔2〕に記載の異常ネルンスト効果素子。
〔4〕 前記焼結体の異常ネルンスト係数の絶対値が1.0μV/K以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の異常ネルンスト効果素子。
〔5〕 Co、Mn、およびGaを含有する粉末を含む成形体を作製する工程を含み、
前記工程後に、700℃~1100℃の焼結温度で前記粉末を1MPa以下の圧力下で焼結する、異常ネルンスト効果素子の製造方法。
〔6〕 前記工程において、前記粉末とエタノールとを混合した混合体を、10MPa~200MPaで一軸加圧した後に、前記圧力下での焼結を行う、〔5〕に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
〔7〕 前記工程において、前記粉末を型に充填し、10MPa~200MPaで一軸加圧した後に、前記型に前記粉末が充填された状態で前記圧力下での焼結を行う、〔5〕に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
〔8〕 前記工程において、前記粉末とバインダーとを混合した混合体を、10MPa~200MPaで一軸加圧した後に、前記圧力下での焼結を行う、〔5〕に記載の異常ネルンスト効果素子の製造方法。
〔9〕 〔1〕~〔4〕のいずれか1つの異常ネルンスト効果素子を備え、
前記焼結体の熱伝導率が15W/K・m以下である、熱電変換デバイス。
〔10〕 〔1〕~〔4〕のいずれか1つの異常ネルンスト効果素子を用いて、熱電変換を行う、熱電変換デバイス。
〔11〕 10℃~50℃において、前記焼結体の異常ネルンスト係数の絶対値が1.0μV/K~10μV/Kである、〔9〕または〔10〕に記載の熱電変換デバイス。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の上記各態様によれば、一般的で容易な焼結方法で、空隙を導入することにより熱伝導率を大幅に抑制した、形状加工がし易く、より安価に製造することが可能な異常ネルンスト効果素子及びその製造方法、並びに、そのような異常ネルンスト効果素子を用いた熱電変換デバイスを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る異常ネルンスト効果素子の構成を示す模式図である。
図2】CoMnGaの結晶構造を示す模式図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す模式図である。
図5】本発明の第4の実施形態に係る熱電変換デバイスの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0026】
〔第1の実施形態〕
(異常ネルンスト効果素子)
先ず、本発明の第1の実施形態として、例えば図1に示す異常ネルンスト効果素子1について説明する。
【0027】
なお、図1は、異常ネルンスト効果素子1の構成を示す模式図である。図2は、CoMnGaの結晶構造を示す模式図である。
【0028】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1は、図1に示すように、Co、Mn、およびGaを含有した焼結体である。Co、Mn、およびGaを含有していれば、特に限定されず、Fe、Ni、Si、C、O、Nなどを含んでいても良い。例えば、焼結体2は、焼結の進行具合によって空隙を多く含む場合があり、焼結の進行度合いは初期焼結あるいは中期焼結止まりである。また、このような焼結体でもCo、Mn、およびGaを含有したホイスラー構造を有する。
【0029】
焼結体2はCo、Mn、およびGaを含有するものであり、例えば、L2型立方晶のフルホイスラー構造を持ったCoMnGaの強磁性体である。L2構造の単位格子は、図2に示すように、4つの面心立方格子(fcc)からなり、格子座標において、Co原子は(1/4、1/4、1/4)及び(3/4、3/4、3/4)、Mn原子は(0、0、0)、Ga原子は(1/2、1/2、1/2)に位置する。CoMnGaの結晶構造は、X線回折等の様々な回折法によって判定することができる。
【0030】
なお、焼結体2に磁場を印加すると、異常ネルンスト効果により磁場の大きさに比例した正常ネルンスト効果が加わり、熱電能が上昇することがあるので、実際の使用時に焼結体2に磁場を印加することもある。
【0031】
本明細書において、初期焼結あるいは中期焼結止まりの空隙の多い焼結体2とは、空隙率が20%以上の焼結体をいう。空隙が多くなることで、フォノンの伝導が阻害され、熱伝導率を低減することができる。より好ましい焼結体2の空隙率は、30%以上である。空隙率は、50%以下であることが好ましい。空隙率が50%以下であれば、焼結体の強度を保つことができる。空隙率は、焼結体2の全体の体積に占める空隙の体積の占める割合を言う。焼結体2の空隙率は、後述するアルキメデス法で評価することができる。
【0032】
焼結体2の相対密度は、50%以上であってもよい。また、焼結体2の相対密度は80%以下であってもよい。
【0033】
焼結体2の空隙率、相対密度は、アルキメデス法によって求めることができる。アルキメデス法について、以下に説明する。秤量計にてサンプルの空気中の質量Aを秤量する。次に純水中にサンプルに沈ませ、その時の秤量計の読みをBとする。サンプルの質量はAで、アルキメデスの法則より(A-B)がサンプルの体積となる。従って、{A/(A-B)}×100(%)が焼結体2の密度となる。
【0034】
焼結体2の相対密度は、焼結体2を構成する材料の理論密度と、アルキメデス法で得られた焼結体2の密度との比から求めることができる。例えば、単結晶CoMnGaの場合、理論密度(8.39g/cm)に対する焼結体2の密度の比から求めることができる。
【0035】
焼結体2の空隙は、(100-相対密度)(%)で計算ができる。例えば、相対密度が80%の焼結体2の空隙率は20%となる。
【0036】
焼結体2の電気抵抗率ρは、200μΩ・cm以上であることが好ましい。空隙を導入した結果、焼結体2の電気抵抗率ρが200μΩ・cm以上であることで、焼結体2の熱伝導率を15W/K・m以下に抑えやすくなる。焼結体2の電気抵抗率ρは、1000μΩ・cm以下であってもよい。電気抵抗率ρについては、4端子法により測定することができる。
【0037】
焼結体2の熱伝導率κは15W/K・m以下であることが好ましい。より好ましい焼結体2の熱伝導率κは、5W/K・m以下である。焼結体2の熱伝導率κは、0.1W/K・m以上であってもよい。焼結体2の熱伝導率κはパルス状の熱を焼結体2の一端から印加し、焼結体2中に生成する温度差の緩和過程を解析することで測定することができる。
【0038】
10℃~50℃において、焼結体2の異常ネルンスト係数SANEの絶対値は、1.0μV/K以上であることが好ましい。焼結体2の異常ネルンスト係数SANEの絶対値は、10μV/K以下であってもよい。10℃~50℃において、焼結体2の異常ネルンスト係数SANEの絶対値が1.0μV/K~10μV/Kであることがより好ましい。
【0039】
異常ネルンスト係数SANEは、下記式(4)により表される。
ANE=(V/ΔT)×(L_temp/W) …(4)
【0040】
焼結体2の異常ネルンスト係数SANEは、以下の方法で測定することができる。焼結体2から評価用の平板状(例えば、長さL=8mm、幅W=1.5mm、厚みt=1mm)のサンプルを切り出す。そして、このサンプルの一端をヒータで加熱し、サンプルの長さ方向に沿って温度差を与えながら、他端にヒートシンクを接触させる。これにより、直方体状のサンプルに一様な温度勾配を与え、L_temp離れた2点の温度差ΔTを測定する。この温度差ΔTと直交する方向に磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定する。異常ネルンスト係数SANEは、磁場を2テスラ印加したときの電圧Vから、上記式(4)により求めることができる。
【0041】
異常ネルンスト係数の測定の際、焼結体2の表面を#800の耐水研磨紙で粗研磨した後に、1μmのアルミナ懸濁液で中研磨して、更に0.3μmのアルミナ懸濁液で鏡面研磨してもよい。
【0042】
なお、研磨時に使用した耐水研磨紙やアルミナ懸濁液のアルミナの粒径サイズは、これらに必ずしも限定されるものではない。また、十分に鏡面研磨が終わっているなら、上述した鏡面研磨は行わなくてもよい。一方、上述した鏡面研磨後に、更に平面ミリング(フラットミリング)を施してもよい。しかしながら、相対密度が低く、空隙率が大きいと、鏡面研磨により光沢を出すまでの研磨が不可能な場合があり、その場合は、中研磨で研磨を終了してもよい。
【0043】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1では、図1に示すように、一の方向(本実施系形態ではy方向)に延在する直方体状の焼結体2が有し、厚み方向(本実施形態ではz方向)に0.1μm以上の厚みを有して、+z方向に磁化されている。
【0044】
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1では、焼結体2に対して磁化Mの方向(+z方向)とは直交する他の方向(本実施形態では+x方向)に熱流Qが流れると、+x方向に温度差ΔTが生じる。
【0045】
これにより、焼結体2には、異常ネルンスト効果によって、熱流Qの方向(+x方向)及び磁化Mの方向(+z方向)の双方に直交する方向(本実施形態ではy方向)に起電力が発生する。これにより、本実施形態の異常ネルンスト効果素子1は、熱電変換素子として熱電変換を行うことが可能である。
【0046】
(異常ネルンスト効果素子の製造方法)
次に、本実施形態の異常ネルンスト効果素子1の製造方法について説明する。
本実施形態の異常ネルンスト効果素子1を製造する際は、Co、Mn、およびGaを含有する粉末又はその圧粉成形体を焼結した焼結体2を作製する。具体的には、本実施形態に係る異常ネルンスト効果素子の製造方法は、Co、Mn、およびGaを含有する粉末を含む成形体を作製する工程を含み、成形体を作製する工程後に、700℃~1100℃の焼結温度でCo、Mn、およびGaを含有する粉末を1MPa以下の圧力下で焼結する。
【0047】
(成形体を作製する工程)
Co、Mn、およびGaを含有する粉末を含む成形体を作製する。
【0048】
「粉末」
粉末は、Co、Mn、およびGaを含有していれば特に限定されない、例えば、CoMnGa、CoMnAl、CoMnIn、MnGa、MnGe、FeNiGa、CoTiSb、CoVSb、CoCrSb、CoMnSb、TiGaMnであり、好ましくは、CoMnGaのいずれか1種以上の粉末である。Co、MnおよびGaを含有する粉末としては、CoMnGa粉末が好ましい。
【0049】
本明細書において、Co、Mn、およびGaを含有する粉末を含む成形体としては、例えば、粉末のみからなる圧粉成形体、溶剤、バインダーなどの成型助剤と粉末との混合物からなる成形体などが挙げられる。以下、成形体の作製方法について説明する。
【0050】
成形体の第1の作製方法としては、原料粉末であるCo、Mn、およびGaを含有する粉末とエタノールと混合した混合体を型(例えば、非磁性の金属型)に充填して、10~200MPaで一軸加圧した後に、圧力を開放し、型から取り出し、成形体を作製する方法がある。一軸加圧は公知のプレス機で行うことができる。例えば、型に充填された混合体を一軸加圧した後、プレス機の圧力を開放することで成形体を作製することができる。加圧してからの保持時間は、例えば、0秒超1時間以下である。エタノールを混合することで、1MPa以下の圧力下で成形体を維持しやすくなる。第1の作製方法の場合、成形体を作製する工程において、粉末とエタノールとを混合した混合体を、10MPa~200MPaで一軸加圧した後、後述する1MPa以下の圧力下での焼結を行うことで焼結体2を得ることができる。
【0051】
成形体の第2の作製方法としては、型(例えば、カーボン型)に原料粉末であるCo、Mn、およびGaを含有する粉末を充填し、10~200MPaで一軸加圧した後に、加圧を開放することで成形体を作製する方法がある。加圧してからの保持時間は、例えば、0秒超1時間以下である。第2の作製方法の場合、成形体を作製する工程において、粉末を型に充填し、10MPa~200MPaで一軸加圧した後に、型に粉末が充填された状態で後述する1MPa以下の圧力下での焼結を行うことで焼結体2を得ることができる。
【0052】
成形体の第3の作製方法としては、原料粉末であるCo、Mn、およびGaを含有する粉末とバインダーとを混合した混合体(バインダー混合粉末)を型(例えば、非磁性の金属金型)に充填して、10~200MPaで一軸加圧した後に、加圧を開放することで成形体を作製する方法がある。加圧してからの保持時間は、例えば、0秒超1時間以下である。バインダーと粉末とを混合することにより、1MPa以下の圧力下で成形体を維持しやすくすることができる。第3の作製方法の場合、成形体を作製する工程において、粉末とバインダーとを混合した混合体を、10MPa~200MPaで一軸加圧した後、後述する1MPa以下の圧力下での焼結を行うことで焼結体2を得ることができる。
【0053】
成形体の第3の作製方法に用いるバインダーとしては、焼結に用いられるバインダーであれば、特に限定されない。例えば、バインダーの材質としては、アクリル樹脂、変性ポリビニルアルコールなどが挙げられる。バインダーとしては、オリコックス(登録商標)KC-1700P(共栄社化学株式会社)、オリコックス(登録商標)KC-500(共栄社化学株式会社)、Z-300(三菱ケミカル株式会社)などを使用することができる。
【0054】
バインダーは原料粉末の全質量に対して2~10重量%濃度混合させることが好ましい。原料粉末の全質量に対して2~10重量%濃度混合させることで、成型体の形状を1MPa以下の圧力下において保ち、また焼結体2中の空隙の度合いを変調することが出来る。
【0055】
(1MPa以下の圧力下での焼結)
次に、700℃~1100℃の焼結温度でCo、Mn、およびGaを含有する粉末を1MPa以下で焼結する。これにより、一般的で容易な方法で、所望の形、サイズからなるでCo、Mn、およびGaを含有した焼結体2を作製することが可能となる。具体的には、上記の工程で作製した成形体を700℃~1100℃の焼結温度で1MPa以下にて焼結をする。
焼結の圧力は1MPa以下であり、好ましくは500kPa以下、より好ましくは200kPa以下、さらに好ましくは110kPa以下、特に好ましくは105kPa以下である。下限は特に限定されないが、例えば0.1kPa以上である。
【0056】
1MPa以下での焼結は、焼結時の圧力が低いので、材料内部に空隙を導入することが出来る。空隙を導入することにより熱伝導率を下げる効果が期待でき、材料を通過する熱流を抑えることができ、材料内の温度差あるいは温度勾配を大きくできる。
【0057】
焼結において空隙を導入するということは、焼結のステージを初期焼結あるいは中期焼結止まりにすることであり、1MPa以下にて焼結することで可能である。初期あるいは中期焼結止まりのCo、Mn、およびGaを含有する焼結体は、結晶構造はCoMnGa単結晶と同じホイスラー構造を維持することができる。
【0058】
焼結時の雰囲気としては、例えばArやNなどの不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0059】
焼結時間は、試料の大きさに応じて適宜設定することができる。例えば、焼結時間は、1時間以上である。より好ましい焼結時間は3時間以上である。
【0060】
焼結温度については、700℃以上である。焼結温度は800℃以上であることが好ましい。より好ましい焼結温度は、850℃超である。
【0061】
焼結温度を850℃超とすることで、原料粉末どうしを焼結により結合させることができる。初期焼結あるいは中期焼結で焼結を終了させることで、焼結体2内に空隙を導入することができ、空隙によって熱伝導率の抑制が可能になる。
【0062】
焼結温度については、1100℃以下であることが好ましく、950℃以下であることがより好ましい。
【0063】
焼結温度を1100℃以下とすることで、元素の蒸発を抑制でき組成ずれを防げることとができる。また、融点以下となるためメルトによる異常粒成長を抑制することができる。さらに、また、カーボン型内で焼結する場合は、焼結時に型から染み出すことを抑制することができる。焼結は、融点以下での反応なので、内部がメルトになるまで温度を上げる必要はなく、消費電力と焼結時間とを抑制することができる。
【0064】
本実施形態では、例えばBタイプ熱電対(白金ロジウム)により電気炉内温度を測定できる。
【0065】
以上のように、本実施形態の異常ネルンスト効果素子及びその製造方法では、高い異常ネルンスト係数の絶対値を示す異常ネルンスト効果材料と同等の異常ネルンスト効果を得ると共に、より一般的で容易な焼結方法で、形状加工がし易く、より安価に製造することが可能である。
【0066】
〔第2の実施形態〕
(熱電変換デバイス)
次に、本発明の第2の実施形態として、例えば図3に示す熱電変換デバイス20について説明する。
なお、図3は、熱電変換デバイス20の構成を示す模式図である。
【0067】
本実施形態の熱電変換デバイス20は、図3に示すように、基板21と、基板21の上に配置された発電体22とを備えている。
【0068】
基板21は、発電体22が配置される第1面21aと、第1面21aと反対側の第2面21bとを有している。第2面21bには、熱源(図示せず。)からの熱が当てられる。
【0069】
発電体22は、複数の第1熱電変換素子23と複数の第2熱電変換素子24とを有している。第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24には、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。
【0070】
複数の第1熱電変換素子23及び複数の第2熱電変換素子24は、第1面21aの面内における一の方向(本実施形態ではx方向)に延在し、且つ、この一の方向とは交差(本実施形態では直交)する他の方向(本実施形態ではy方向)に交互に並んで配置されている。
【0071】
また、第1熱電変換素子23は、一の方向(x方向)の一端側(-x側)から他の方向の(y方向)の一方側(-y側)に向かって突出した第1接続部23aを有している。一方、第2熱電変換素子24は、一の方向(x方向)の他端側(+x側)から他の方向の(y方向)の一方側(-y側)に向かって突出した第2接続部24aを有している。
【0072】
第1熱電変換素子23は、第1接続部23aを介して第2熱電変換素子24の一の方向(x方向)の一端側(-x側)と電気的に接続されている。一方、第2熱電変換素子24は、第2接続部24aを介して第1熱電変換素子23の一の方向(x方向)の他端側(+x側)と電気的に接続されている。
【0073】
これにより、発電体22は、互いに隣り合う第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが電気的に直列に接続されることによって、全体として蛇行した形状を有している。
【0074】
また、発電体22は、第1熱電変換素子23の磁化M1の方向(本実施形態では-y方向)と、第2熱電変換素子24の磁化M2の方向(本実施形態では+y方向)とが互いに逆向きとなるように配置されている。さらに、第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とは、同符号のネルンスト係数を有している。
【0075】
以上のような構成を有する本実施形態の熱電変換デバイス20では、基板21の第2面21b側から発電体22に向けて熱流Qが流されると、発電体22に熱流方向の温度差が生じ、異常ネルンスト効果によって発電体22に電圧Vが生じる。
【0076】
すなわち、熱源から基板21の第2面21bに熱が当てられると、発電体22に向けて+z方向の熱流Qが流れる。このとき、第1熱電変換素子23では、磁化M1の方向(-y方向)及び熱流Qの方向(+z方向)の双方に直交する方向(-x方向)に起電力E1が生じる。一方、第2熱電変換素子24では、磁化M2の方向(+y方向)及び熱流Qの方向(+z方向)の双方に直交する方向(+x方向)に起電力E2が生じる。
【0077】
発電体22では、互いに隣り合う第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが電気的に直列に接続されていることから、第1熱電変換素子23で発生した起電力E1と第2熱電変換素子24で発生した起電力E2とが加算され、その出力電圧Vを増大させることが可能である。
【0078】
本実施形態の熱電変換デバイス20では、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24を用いることが可能である。
【0079】
ここで、第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24の長手方向の長さをL、厚さ(高さ)をHとすると、異常ネルンスト効果により発生する電圧VはL/Hに比例する。すなわち、第1熱電変換素子23及び第2熱電変換素子24が長くて薄いほど、得られる電圧Vが大きくなる。
【0080】
したがって、本実施形態の熱電変換デバイス20では、上述した互いに隣り合う第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが電気的に直列に接続された発電体22を採用することによって、異常ネルンスト効果の向上により電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0081】
なお、上記熱電変換デバイス20では、上述した構成以外にも、例えば、第1熱電変換素子23と第2熱電変換素子24とが互いに逆符号のネルンスト係数を有し、且つ、第1熱電変換素子23の磁化M1の方向と第2熱電変換素子24の磁化M2の方向とが同一となるように配置した構成を採用してもよい。
【0082】
〔第3の実施形態〕
(熱電変換デバイス)
次に、本発明の第3の実施形態として、例えば図に示す熱電変換デバイス30について説明する。
なお、図4は、熱電変換デバイス30の構成を示す模式図である。図4に示されるような螺旋状の熱電変換素子32を1MPa以下の圧力下での焼結で作製する場合、焼結時に円柱状のものを作製し、その後、切削することで、螺旋状の熱電変換素子32を作製することができる。あるいは、1MPa以下の圧力下での焼結はニアネットでの焼結が可能なので、円筒状に焼結して切り出すことで、螺旋状の熱電変換素子32を作製することができる。あるいは円筒型の一部のような、瓦状の熱電変換素子を複数作製し、作製した瓦状の熱電変換素子を互いに繋いでいくことで、螺旋状の熱電変換素子32を作製することができる。
【0083】
本実施形態の熱電変換デバイス30は、図4に示すように、略円筒状の中空部材31と、中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の熱電変換素子32とを備えている。熱電変換素子32には、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。また、熱電変換素子32は、中空部材31の軸線方向(x方向)と平行な方向に磁化されている。
【0084】
本実施形態の熱電変換デバイス30では、中空部材31の内側が外側よりも高温の場合、熱流Pは中空部材31の内側から外側に流れ、この中空部材31の内側から外側に向かって温度勾配(温度差)が生じ、異常ネルンスト効果によって熱電変換素子32に電圧Vが生じる。すなわち、熱電変換素子32では、熱電変換素子32の長手方向(磁化の方向及び熱流の方向の双方に直交する方向)に沿って起電力が発生する。
【0085】
本実施形態の熱電変換デバイス30では、温度勾配と磁化方向と電圧方向とが互いに直交しているため、薄いシート状の熱電変換素子32を用いることが可能である。
【0086】
したがって、本実施形態の熱電変換デバイス20では、上述した中空部材31の外周面に螺旋状に巻き付けられた長尺シート状の熱電変換素子32を採用することによって、異常ネルンスト効果の向上により電圧Vの更なる増大が期待できる。
【0087】
〔第4の実施形態〕
次に、第4実施形態に係る熱電変換デバイス100Bについて説明する。図5は、熱電変換デバイス100Bの平面図である。熱電変換デバイス100Bは、基板30と、基板30上に配置された発電体40Bと、を備える。
【0088】
(発電体40B)
発電体40Bは、複数の熱電変換素子45と、配線50と、を有する。
【0089】
「熱電変換素子45」
熱電変換素子45は、上記異常ネルンスト効果素子1と基本的に同じものを用いることができる。熱電変換素子45は、延在方向(Y方向)と垂直な方向(X方向)に、磁化M1Aの方向が同一となるように(-X方向)となるように、基板30上に並列に配置される。
【0090】
「配線50」
熱電変換デバイス100Bにおいて、配線50は、一方の端が熱電変換素子45の一端側(-Y側)に電気的に接続され、他方の端が、隣接する別の熱電変換素子45の他端側(+Y側)に電気的に接続される。これによって、熱電変換素子45が電気的に直列に接続される。また、配線50の材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、配線50の材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属が挙げられる。
【0091】
(第1電極11A)
熱電変換デバイス100Bにおいて、第1電極11Aは、発電体40Bの一端側に電気的に接続されている。第1電極11Aの材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第1電極11Aの材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0092】
(第2電極12A)
熱電変換デバイス100Bにおいて、第2電極12Aは、発電体40Bの他端側に電気的に接続されている。第2電極12Aの材質は、導電性を有していればよく、特に限定されない。例えば、第2電極12Aの材質としては、Au、Ag、Cu、Alなどの金属などが挙げられる。
【0093】
熱流Qは、基板30側から発電体40B側に流される(+Z方向に流される)。熱電変換デバイス100Bは、隣接する熱電変換素子45が配線50を介して接続しているため、熱電変換デバイス20よりも容易に作製することができる。
【0094】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記異常ネルンスト効果素子1は、上述した熱電変換デバイス20、30、100Bだけでなく、様々なデバイスに適用することが可能である。例えば、異常ネルンスト効果素子1を熱流センサに設けることで、建築物の断熱性能の良否を判定することができる。
【0095】
また、自動二輪車等の排気装置に熱電変換デバイス20、30、100Bを設けることで、排気ガスの熱(廃熱)を利用して発電することができ、熱電変換デバイス20,30を補助電源として有効利用することが可能である。
【0096】
また、上記実施形態では、異常ネルンスト効果によって生じる電圧に着目したが、温度勾配によって生じたゼーベック効果による電圧と、異常ネルンスト効果によって生じる電圧との相乗効果により、出力電圧を高めることが可能である。
【0097】
また、本実施形態の異常ネルンスト効果素子は、上述した熱電変換素子としての機能だけでなく、熱電変換素子とは逆の機能、すなわちペルチェ素子のように、電力の供給によって温度変調(特に冷却)する機能を持たせることも可能である。
【0098】
また、上記実施形態では、上述したCo、Mn、およびGaを含有する焼結体2が従来よりも大きな異常ネルンスト効果をもたらすことを説明したが、Co、Mn、およびGaを含有する焼結体(例えば、CoMnGa)以外にも、異常ネルンスト効果を高める可能性がある物質としては、例えば、Fe3Ga、Fe3Al、CoMnAl、CoMnIn、MnGa、MnGe、FeNiGa、CoTiSb、CoVSb、CoCrSb、CoMnSb、TiGaMnなどの焼結体2を挙げることができる。
【実施例0099】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0100】
本実施例では、焼結温度を変更しながら、CoMnGaの原料粉末を一軸成型後に0.1Mpaで焼結することによって、CoMnGaの焼結体を作製した。
【0101】
表1の圧粉方法に「エタノール混合」と記載のある焼結体(エタノール混合焼結体)は、原料粉末とエタノールを混合し湿り気を持たせた後に、非磁性の金属金型に充填して、10~200MPaに一軸に加圧して10秒から5分間保持してから金属型から外して成形体(圧粉体)を取り出し0.1MPaで焼結することで作製した(実験No.4の焼結体)。
【0102】
表1の圧粉方法に「カーボン型充填」と記載の焼結体(カーボン型充填焼結体)は、以下の方法で作製した。カーボン型に粉末を充填して、10~200MPaに一軸加圧して10秒から5分間保持してから成形体(圧粉体)を作製した。カーボン型充填焼結はエタノール混合焼結とは違い、充填した粉末をカーボン型から取り出さずにカーボン型ごと0.1MPaで焼結を行うことで焼結体を作製した(実験No.5の焼結体)。
【0103】
表1の圧粉方法にバインダー混合(オリコックスKC-1700P)と記載の焼結体(バインダー混合焼結体A)は、以下の方法で作製した。原料粉末と原料粉末の全質量に対して2~10重量%濃度のバインダー(オリコックスKC-1700P、共栄社化学株式会社)を混合して混合体を作製した。作製した混合体を非磁性金型に充填して10~200MPaの一軸加圧を行い、10秒から5分間保持して、成形体(圧粉体)にした。金型から取り出した成形体を0.1MPaで焼結し、焼結体を作製した(実験No.6の焼結体)。
【0104】
表1の圧粉方法にバインダー混合(Z-300)と記載の焼結体(バインダー混合焼結体B)は、以下の方法で作製した。原料粉末と原料粉末の全質量に対して2~10重量%濃度のバインダー(Z-300、三菱ケミカル株式会社)を混合した。作製した混合体を非磁性金型に充填して10~200MPaの一軸加圧を行い、10秒から5分間保持して、成形体(圧粉体)にした。金型から取り出した成形体を0.1MPaで焼結し、焼結体を作製した(実験No.7の焼結体)。
【0105】
1MPa以下の圧力下での焼結は、電気炉内の酸素と水蒸気を極力減らすために、焼結前に電気炉を20~40Paまで脱気した後に、Nガスを0.1MPaまで復圧した。この作業を3回繰り替えした。焼結条件は、N雰囲気で、Nガスを5-10L/min流しながら行った。焼結プログラムは1000℃まで10℃/minで昇温して、1000℃を3時間保持し、その後自然冷却した。
【0106】
焼結体を、切断・研磨して所望の形に加工して、異常ネルンスト測定を行った。
【0107】
異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx及び熱伝導度κについては、以下のようにして求めた。焼結体2から評価用の平板状(例えば、長さL=8mm、幅W=1.5mm、厚みt=1mm)のサンプルを切り出した後、Quantum Design社製のPhysical Property Measurement System のThermal Transport Optionを用い、300Kの温度においてこのサンプルの一端をヒータに接触させてパルス状の熱を注入し、他端にヒートシンクを接触させることで、サンプルの長さ方向に沿って温度差を与えた。サンプル上のL_temp離れた2点の温度差ΔTを測定した。また、この温度差と直交する方向且つサンプルの面直方向に磁場を印加し、温度差及び磁場の両方に直交する方向に、距離W離れた2点に発生する電圧Vを測定した。そして、異常ネルンスト係数SANEは、磁場を2テスラ印加したときの電圧Vから、上記式(4)により求めた。得られた結果を表1に示す。
【0108】
電気抵抗率ρxxについては、4端子法により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0109】
熱伝導度κについては、Quantum Design社製のPhysical Property Measurement System のThermal Transport Optionを用い、パルス状の熱をサンプルの一端から印加し、サンプル中に生成する温度差の緩和過程を解析することで得た。得られた結果を表1に示す。
【0110】
そして、これら異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx、及び熱伝導度κの値を用いて、上記式(3)により無次元性能指数ZTの値を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0111】
なお、異常ネルンスト係数SANE、電気抵抗率ρxx、及び熱伝導度κの測定は、切り出した同一のサンプルに対して行った。また、電気抵抗率ρxxの測定の際に流した電流の方向は、熱伝導度κの測定の際に流した熱流の方向と同一である。また、測定は300Kにおいて行った。
【0112】
相対密度および空隙率は、アルキメデス法で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0113】
また、比較例としてCoMnGaの単結晶(非特許文献2(実験No.1)および3(実験No.2))および放電プラズマ焼結法(SPS)(実験No.3)による高圧焼結体の結果を表1に記載した。ここで、単結晶とはμm以上の大きな一つの結晶であり、一方、焼結体とは、nm,μmやmmのようなスケールの結晶が多数集まった集合体を意味する。なお、表1中の焼結方法、焼結温度、および焼結時間の欄の空欄は、焼結を行っていないことを示す。表1中の相対密度および空隙率の空欄は、単結晶体であることを示す。表1中の圧粉方法の空欄は、圧粉していないことを示す。表1の焼結方法の欄の「大気圧焼結」は、0.1MPaの圧力下で焼結したことを意味する。
【0114】
今回1MPa以下の圧力下で焼結した試料の空隙率は、エタノール混合焼結体(実験No.4)は29.6%で、カーボン型充填焼結体(実験No.5)は24.7%、バインダー混合焼結体A(実験No.6)は42.7%であり、バインダー混合焼結体B(実験No.7)は、37.6%であった。
【0115】
今回1MPa以下の圧力下で焼結した試料の相対密度は、エタノール混合焼結体(実験No.4)は70.4%で、カーボン型充填焼結体(実験No.5)は75.3%、バインダー混合焼結体A(実験No.6)は57.3%であり、バインダー混合焼結体B(実験No.7)は、62.4%であった。
【0116】
表1に示すように、本発明の条件を満足するCoMnGaの焼結体は、空隙を約25~43%程度含むことより熱伝導率を大幅に抑制できた。単結晶が21~22W/K・mであり、SPS焼結体が26W/K・mであるのに対して、エタノール混合焼結体(実験No.4)とカーボン型充填焼結体(実験No.5)は約半分近く、バインダー混合(実験No.6および実験No.7)に至っては80%以上も熱伝導率を抑制できた。なお、エタノール混合焼結体(実験No.4)、カーボン型充填焼結体(実験No.5)、バインダー混合焼結体A(実験No.6)、およびバインダー混合焼結体B(実験No.7)は、10℃~50℃において、2テスラの磁場において、異常ネルンスト係数の絶対値が1.0μV/K~10μV/Kであった。
【0117】
熱伝導率が小さいということは、サンプル内に大きな温度差あるいは温度勾配を付けることが出来ることを意味しており、熱流を抑えたい場合、また温度差や温度勾配を大きく取りたい場合の熱電変換材として好適である。
【0118】
【表1】
【符号の説明】
【0119】
1…異常ネルンスト効果素子 2…焼結体 20…熱電変換デバイス 21…基板 22…発電体 23…第1熱電変換素子 24…第2熱電変換素子 30…熱電変換デバイス 31…中空部材 32…熱電変換素子
図1
図2
図3
図4
図5