(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019461
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】プロピオン酸菌発酵物含有組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20240201BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240201BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240201BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240201BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240201BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20240201BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240201BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/74 Z
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P43/00 111
A61K35/20
C12N1/20 A ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207994
(22)【出願日】2023-12-08
(62)【分割の表示】P 2019133933の分割
【原出願日】2019-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】000173968
【氏名又は名称】一般財団法人糧食研究会
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(72)【発明者】
【氏名】木村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】小堤 大介
(72)【発明者】
【氏名】石田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】若林 潤
(57)【要約】
【課題】プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる抗肥満用組成物を提供する。
【解決手段】プロピオン酸菌の発酵物を対象に摂取させることにより抗肥満作用を奏する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、抗肥満用組成物。
【請求項2】
体重増加抑制用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脂肪蓄積抑制用である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
腸管ホルモン産生促進用である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
腸管ホルモンがPYYである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、腸内のプロピオン酸産生促進用組成物。
【請求項7】
プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、アッカーマンシア属(Akkermansia)の腸管内または糞便中での増加促進用組成物。
【請求項8】
プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、高血糖予防用、高インスリン血症予防用、中性脂肪低下促進用、またはコレステロール低下促進用組成物。
【請求項9】
プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、肥満症、高脂血症、または高コレステロール血症の予防および/または治療用組成物。
【請求項10】
プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、糖尿病の予防および/または治療用組成物。
【請求項11】
高血糖予防用である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
腸管ホルモン産生促進用である、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
腸管ホルモンがGLP-1である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)である、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET-3株である、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
発酵物が乳清発酵物である、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
食品組成物または医薬組成物である、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
プロピオン酸菌の発酵物の有効量を、対象に摂取させることを含んでなる、肥満症の予防および/または治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる抗肥満用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本を含めた先進国の人々の多くが、過度な食事や高カロリー食による過剰エネルギー摂取の結果、肥満や糖尿病となり大きな社会問題となっている。肥満になると、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高尿酸血症(痛風)、心臓や脳の血管の病気、脂肪肝、月経異常、ひざの痛み、腰痛、睡眠時無呼吸症候群等を引き起こすことがある。肥満は種々の疾病の要因となるため、予防および改善のための研究が広く行われている。
【0003】
これまでに、腸内細菌叢が宿主のエネルギー調節や栄養の吸収などに関与し、肥満や糖尿病などの病態に影響することが明らかとなってきている(非特許文献1参照)。腸内細菌の主要な代謝産物である短鎖脂肪酸(Short Chain fatty acid:SCFA)は、宿主のエネルギーとなるだけでなく、腸管上皮細胞などに発現しているレセプターを介して、宿主のエネルギー代謝の調節に寄与している。主に結腸に発現しているSCFAレセプターのGPR41およびGPR43は、SCFAが作用することにより、食欲抑制ホルモンであるPYY(peptide YY)や、インスリン感受性を向上させるGLP-1(glucagon-like peptide 1)の産生を亢進することが知られている。加えて、宿主のエネルギー消費を上昇させる働きおよび脂肪細胞の肥大化を抑制する働きも持っていることも知られている(非特許文献2参照)。作用するSCFAのなかでも、プロピオン酸はGPR41およびGPR43の両方に作用することも知られている(非特許文献3参照)。
【0004】
しかし、プロピオン酸を経口で摂取しても、そのほとんどは小腸で吸収される(非特許文献4参照)ことから、結腸の上皮細胞に発現しているSCFAレセプターに作用することは難しく、また飲食品等として手軽に摂取でき、安全に肥満等を改善できる方策は未だ希求されているといえる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】木村郁夫 実験医学 Vol.32 No.5(増刊) 2014
【非特許文献2】宮本潤基 他 The Lipid Vol.27 No.2 2016-4
【非特許文献3】Andrew J.Brown et al, The American society for biochemistry and molecular biology Vol.278 No.13 p11312-11319 2003
【非特許文献4】T.Polyviou et al, Aliment Pharmacol Ther 2016; 44:662-672
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、プロピオン酸菌の発酵物を含む組成物を対象に摂取させることにより、対象において抗肥満作用等を有することを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明は、プロピオン酸菌の発酵物を含む抗肥満用組成物を開示する。
【0008】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、抗肥満用組成物。
(2)体重増加抑制用である、(1)に記載の組成物。
(3)脂肪蓄積抑制用である、(1)または(2)に記載の組成物。
(4)腸管ホルモン産生促進用である、(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)腸管ホルモンがPYYである、(4)に記載の組成物。
(6)プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、腸内のプロピオン酸産生促進用組成物。
(7)プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、アッカーマンシア属(Akkermansia)の腸管内または糞便中での増加促進用組成物。
(8)プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、高血糖予防用、高インスリン血症予防用、中性脂肪低下促進用、またはコレステロール低下促進用組成物。
(9)プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、肥満症、高脂血症、または高コレステロール血症の予防および/または治療用組成物。
(10)プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、糖尿病の予防および/または治療用組成物。
(11)高血糖予防用である、(10)に記載の組成物。
(12)腸管ホルモン産生促進用である、(10)または(11)に記載の組成物。
(13)腸管ホルモンがGLP-1である、(12)に記載の組成物。
(14)プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)である、(1)~(13)のいずれかに記載の組成物。
(15)プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET-3株である、(1)~(13)のいずれかに記載の組成物。
(16)発酵物が乳清発酵物である、(1)~(15)のいずれかに記載の組成物。
(17)食品組成物または医薬組成物である、(1)~(16)のいずれかに記載の組成物。
(18)プロピオン酸菌の発酵物の有効量を、対象に摂取させることを含んでなる、肥満症の予防および/または治療方法。
【0009】
本発明の組成物を対象へ摂取させることにより、対象において抗肥満作用等を有する点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスにおける6週間の摂取期間中(7週齢~13週齢)の体重(g)の推移を表す。「**」はプロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスと、コントロール高脂肪食を摂取したマウスとの間に有意差(P<0.05)があることを示し、「*」はプロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスと、コントロール高脂肪食を摂取したマウスとの間に有意傾向(P<0.1)があることを示す。統計解析は、対応のあるt検定で行った。以下の
図2~12についても同様である。
【
図2】
図2は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における血中の血糖値(mg/dL)を表す。
【
図3】
図3は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における精巣周囲(epi)、腎周囲(peri)、および皮下(sub)の白色脂肪組織重量を表す。
【
図4】
図4は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における血中のTG(トリグリセリド)濃度(mg/dL)を表す。
【
図5】
図5は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における血中の総コレステロール濃度(pg/dL)を表す。
【
図6】
図6は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における血中のインスリン濃度(mg/dL)を表す。
【
図7】
図7は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における血中のGLP-1(pM)を表す。
【
図8】
図8は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における血中のPYY(ng/mL)を表す。
【
図9】
図9は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における盲腸内のプロピオン酸量(mM)を表す。
【
図10】
図10は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における血漿中のプロピオン酸量(mM)を表す。
【
図11】
図11は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における盲腸内のアッカーマンシア菌数(1×10
3 copies/ng DNA)を表す。
【
図12】
図12は、プロピオン酸菌発酵物が含まれる高脂肪食を摂取したマウスおよびコントロール高脂肪食を摂取したマウスの飼育6週間後(13週齢)における糞便中のアッカーマンシア菌数(1×10
3 copies/ng DNA)を表す。
【発明の具体的説明】
【0011】
[微生物の寄託]
プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET-3株は平成13年8月9日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、その後、国際寄託に移管され受託番号FERM BP-8115が付与されている。なお、Budapest Notification No. 282 (http://www.wipo.int/treaties/en/notifications/budapest/treaty_budapest_282.html)に記載されるとおり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD、NITE)が独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD、AIST)から特許微生物寄託業務を承継したため、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET-3株は、現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD、NITE)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号:FERM BP-8115のもとで寄託されている。
【0012】
本発明の組成物はプロピオン酸菌の発酵物を含んでなるものであり、プロピオン酸菌の発酵物を有効成分として含んでいてもよい。本発明に使用されるプロピオン酸菌の発酵物はプロピオン酸菌の培養により得られる発酵物であり、培養工程で用いる培地の栄養源としては、乳製品、酵母エキス、大豆エキスや、これらの酵素処理物などが挙げられる。本発明の組成物に含まれるプロピオン酸菌の発酵物には、1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(DHNA)が含まれていてもよい。培養培地としては乳製品のタンパク質分解酵素処理物を含有する培地が好ましい。炭素源を含有する培地が好ましく、本発明における炭素源とは、プロピオン酸菌が資化できる炭素源をいう。プロピオン酸菌が資化できる炭素源としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、乳酸、グリセロール、グルテン、セルロースなどが挙げられ、特に乳糖が好ましい。培養開始前の培地中の炭素源含有量は4~12質量%が好ましく、4~9質量%がより好ましく、4~8.5質量%が特に好ましい。このうち、炭素源として乳糖を含有させた培地としては、ホエイ粉、カゼイン、脱脂粉乳、あるいは、ホエイを透析処理して乳糖含量を減らしたホエイ蛋白質濃縮物、あるいは、乳糖含量を更に高純度に分離したホエイ蛋白質分離物が挙げられる。これらはそのまま、あるいは、プロテアーゼ処理して用いることも可能であり、酵母エキス、トリプチケースなどのペプトンと、ブドウ糖、乳糖、乳糖のラクターゼ処理物などプロピオン酸菌が資化する炭素源となり得る単糖類および/または2糖類などの適量の糖類と、乳酸、グリセロール、グルテン、セルロース、乳清ミネラルなどのミネラル分、必要に応じて牡蠣、生姜などミネラル分を多く含む動植物性食品またはその抽出物を添加することにより培地を調製することができる。
【0013】
培養培地の栄養源として用いられる乳製品としては、生乳、濃縮乳、全粉乳、脱脂乳、脱脂粉乳、ミルクプロテイン(MPC(milk protein concentrate))、カゼイン、ホエイ、濃縮ホエイ、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク分離物(WPI)およびホエイ粉などが挙げられるが、これらのうちホエイ、濃縮ホエイ、ホエイタンパク質濃縮物が好ましい。本発明ではホエイ、濃縮ホエイまたはホエイタンパク質濃縮物のタンパク質分解酵素処理物を培地の栄養源とするプロピオン酸菌の発酵物を、「プロピオン酸菌の乳清発酵物」という。
【0014】
本発明の組成物において用いることができるプロピオン酸菌は、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、アシディプピオニバクテリウム(Acidipropionibacterium)属、プロピオニシモナス(Propionicimonas)属、プロピオニフェラックス(Propioniferax)属、プロピオニミクロビウム(Propionimicrobium)属、プロピオニビブリオ(Propionivibrio)属などがあり、特に制限されないが、プロピオニバクテリウム属に属する菌が好ましい。プロピオニバクテリウム属の菌としては、例えば、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・トエニー(Propionibacterium thoenii)、プロピオニバクテリウム・ジェンセニー(Propionibacterium jensenii)、プロピオニバクテリウム・アビダム(Propionibacterium avidum)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、プロピオニバクテリウム・リンホフィラム(Propionibacterium lymphophilum)、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(Propionibacterium granulosam)などのプロピオン酸菌が挙げられる。このなかでもプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒがより好ましく、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ IFO12424、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC6207、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET-3株(FERM BP-8115)がより好ましく、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET-3株(FERM BP-8115)が特に好ましい。
【0015】
プロピオン酸菌の発酵物の製造は例えば以下のようにして実施することができる。
・前培養したプロピオン酸菌含有培養液を培養液(1~3L)に接種後、本培養を行う。・30~40℃の培養中、培養液を窒素ガス0.1~25L/分でスパージングし、攪拌速度5~50Hzで50~160時間嫌気的培養を行う。このとき、プロピオン酸菌接種後1~2日培養した後、任意の培地組成成分である糖質を0.5~20mL/時で連続的に添加してもよい。
・更に、上記嫌気的培養に引き続き好気的培養を行うことが好ましい。このとき、窒素ガスを酸素ガスに代えて同様に通気し、110~130時間好気的培養を行ってもよいが、必須ではない。
・このようにしてプロピオン酸菌を培養してプロピオン酸菌の培養液を得、更に場合によっては当該培養液中にアスコルビン酸などの抗酸化剤を添加し、プロピオン酸菌発酵物として使用することができる。
【0016】
本発明の組成物に含まれるプロピオン酸菌の発酵物は、プロピオン酸菌を培養し得られたものであり、プロピオン酸菌および培養物の両方を含む。得られたプロピオン酸菌の発酵物はそのまま使用してもよいが、適宜濃縮や希釈、乾燥などを行ってもよい。また、プロピオン酸菌の発酵物に含まれるプロピオン酸菌は生菌であっても、死菌であってもいずれでもよい。
【0017】
プロピオン酸菌の発酵物はまた、国際公開第2003/016544号、国際公開第2005/099725号、国際公開第2009/107380号、国際公開第2012/132913号などに記載の公知の製造方法に従って製造することもできる。あるいは、プロピオン酸菌の発酵物を含有する市販品(例えば、B.G.S.POWDER(ビー・ジー・エス・パウダー)、株式会社明治製)を用いてもよい。
【0018】
本発明の組成物は、プロピオン酸菌の発酵物単独、または、他の成分と混合して使用することもできる。本発明の組成物におけるプロピオン酸菌の発酵物の含有量(固形分換算基準)は、本発明の効果が発揮される限り特に限定されないが、1~100質量%とすることができ、好ましくは5~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%とであり、さらに好ましくは10~50質量%であり、特に好ましくは10~40質量%である。
【0019】
本発明の組成物の好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物は、プロピオン酸菌の乳清発酵物である。プロピオン酸菌の乳清発酵物の意味は上記の通りである。
【0020】
本発明の組成物の一つの態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、抗肥満用組成物が提供される。ここで、「抗肥満」とは体重の増加が抑制されること、または体重が減少することなどを意味する。本発明の抗肥満用組成物は抗肥満剤であってもよく、この抗肥満剤はプロピオン酸菌発酵物からなるものであってもよい。
【0021】
本発明の組成物の好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、体重増加抑制用である抗肥満用組成物が提供される。この本発明の組成物は体重増加抑制に用いられる抗肥満剤であってもよく、この体重増加抑制に用いられる抗肥満剤はプロピオン酸菌発酵物からなるものであってもよい。
【0022】
本発明の組成物の別の好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、脂肪蓄積抑制用である抗肥満用組成物が提供される。この本発明の組成物は脂肪蓄積抑制に用いられる抗肥満剤であってもよく、この脂肪蓄積抑制に用いられる抗肥満剤はプロピオン酸菌発酵物からなるものであってもよい。
【0023】
本発明の組成物の別の好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、腸管ホルモン産生促進用である抗肥満用組成物が提供される。この本発明の組成物は腸管ホルモン産生促進に用いられる抗肥満用剤であってもよく、この腸管ホルモン産生促進に用いられる抗肥満用剤はプロピオン酸菌発酵物からなるものであってもよい。ここで、腸管ホルモンは、特に限定されるものではないが、例えば、コレシストキニン(CCK)、ガストリックインヒビトリーペプチド(GIP)、PYY、およびGLP-1が挙げられ、これらの中でも、PYYであることが好ましい。
【0024】
本発明の組成物の別の態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、腸内のプロピオン酸産生促進用組成物が提供される。この本発明の組成物は腸内プロピオン酸産生促進剤であってもよく、この腸内プロピオン酸産生促進剤はプロピオン酸菌の発酵物からなるものであってもよい。
【0025】
本発明の組成物の別の態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、アッカーマンシア属(Akkermansia)(好ましくは、アッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila))の腸管内(好ましくは、盲腸内)または糞便中での増加促進用組成物が提供される。この本発明の増加促進用組成物は、アッカーマンシア属の腸管内または糞便中での増加促進剤であってもよく、この促進剤はプロピオン酸菌の発酵物からなるものであってもよい。
【0026】
本発明の組成物の別の態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、高血糖予防用、高インスリン血症予防用、血糖値上昇抑制用、インスリン上昇抑制用、中性脂肪低下促進用、またはコレステロール低下促進用組成物が提供される。ここで、中性脂肪とは、グリセリンと脂肪酸とが結合した単純脂質をいい、好ましくはトリグリセリドが挙げられる。この本発明組成物は、高血糖予防剤、高インスリン血症予防剤、血糖値上昇抑制剤、インスリン上昇抑制剤、中性脂肪低下促進剤、またはコレステロール低下促進剤であってもよく、これらの剤はプロピオン酸菌の発酵物からなるものであってもよい。また、高血糖予防用組成物および高インスリン血症予防用組成物は、それぞれ高血糖治療用組成物および高インスリン血症治療用組成物としても用いることができる。
【0027】
本発明の組成物の別の態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、肥満症、高脂血症、または高コレステロール血症の予防および/または治療用組成物が提供される。この本発明の組成物は、肥満症、高脂血症、または高コレステロール血症の予防剤および/または治療剤であってもよく、これらの剤はプロピオン酸菌の発酵物からなるものであってもよい。
【0028】
本発明の組成物の別の態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、糖尿病の予防および/または治療用組成物が提供される。この本発明の組成物は、糖尿病の予防剤および/または治療剤であってもよく、この剤はプロピオン酸菌の発酵物からなるものであってもよい。本発明の組成物の好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、高血糖予防用の糖尿病の予防および/または治療用組成物である。本発明の組成物のより好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、腸管ホルモン産生促進用の糖尿病の予防および/または治療用組成物である。本発明の組成物のさらに好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる、GLP-1産生促進用の糖尿病の予防および/または治療用組成物である。
【0029】
プロピオン酸菌の発酵物は優れた抗肥満効果を有するため、日常摂取する食品や、サプリメントとして摂取する食品に含有させて提供することもできる。すなわち、本発明の組成物の好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる食品組成物が提供される。本発明の食品組成物は、抗肥満用、腸内のプロピオン酸産生促進用、アッカーマンシア属(Akkermansia)の腸管内もしくは糞便中での増加促進用、高血糖予防用、高インスリン血症予防用、血糖値上昇抑制用、インスリン上昇抑制用、中性脂肪低下促進用、コレステロール低下促進用、または肥満症、糖尿病、高脂血症、もしくは高コレステロール血症の予防および/もしくは治療用であってもよい。この食品組成物はプロピオン酸菌の発酵物を含有させる以外は、当該食品の通常の製造手順に従って製造することができる。ここで、プロピオン酸菌の発酵物を含有させる食品は、プロピオン酸菌の発酵物を含有できる食品であればどのような形態のものであってもよく、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、ペースト、半固体成形物、固体成形物など、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されず、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、バー、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、ムース、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、発酵乳、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、乳性飲料、チーズ類、アイスクリーム類、クリーム類、調製粉乳、液体ミルク、固形ミルクなどの乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品、流動食などが挙げられる。
【0030】
本発明のプロピオン酸菌の発酵物を食品組成物として提供する場合には、プロピオン酸菌の発酵物をそのまま食品に含有させることで調製することができ、該食品組成物はプロピオン酸菌の発酵物を有効量含有した食品である。ここで、プロピオン酸菌の発酵物を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に所定の範囲でプロピオン酸菌の発酵物が摂取されるような含有量をいう。なお、本発明プロピオン酸菌の発酵物そのものあるいはそれを含む組成物を、摂取者において食品(例えば、飲料やヨーグルト)に添加し食品組成物とするような態様も本発明の範囲に含まれるものとする。
【0031】
本発明の組成物の別の好ましい態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物を含んでなる医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、抗肥満用、腸内のプロピオン酸産生促進用、アッカーマンシア属(Akkermansia)の腸管内もしくは糞便中での増加促進用、高血糖予防用、高インスリン血症予防用、血糖値上昇抑制用、インスリン上昇抑制用、中性脂肪低下促進用、コレステロール低下促進用、または肥満症、糖尿病、高脂血症、もしくは高コレステロール血症の予防および/もしくは治療用であってもよい。ここで、医薬組成物とは、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従って、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。医薬組成物が経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態をとることができる。また、医薬組成物が非経口製剤の場合には、注射剤や座剤の形態をとることができる。なお、患者への摂取(投与)の簡易性の点からは、医薬組成物では、経口製剤であることが好ましい。ここで、製剤化のために許容されうる添加剤には、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0032】
本発明の組成物を1回分の摂取量のプロピオン酸菌の発酵物を含む組成物として提供する場合には、1回分の有効摂取量を摂取できるように該組成物を単位包装形態で提供することが望ましい。包装形態で提供する場合、1回分の有効摂取量が摂取できるように摂取量に関する記載が包装になされているか、または該記載がなされた文書を一緒に提供することが望ましい。また、本発明の組成物は継続摂取することでより抗肥満効果を発揮することができる。例えば、1日分の有効摂取量を複数包装で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分の有効摂取量の複数包装をセットで提供することもできる。
【0033】
本発明の組成物を提供するための包装形態は一定量を規定する形態であれば特に限定されず、例えば、包装紙、包装シート、袋、ソフトバック、紙容器、缶、ボトル、カプセル、プラスチックケースなどの収容可能な容器などが挙げられる。
【0034】
本発明の組成物は、摂取者自身が体感に応じて摂取量を決め摂取することができる。従って、本発明の組成物は、好ましくは、摂取者の好みに応じて摂取量を調整できる形態、すなわち、複数回摂取に適した形態で提供することができ、このような形態としては、例えば、タブレット、粉末、ガム、グミ、キャンディが挙げられる。また複数回摂取に適した包装形態としては、プラスチックケース、缶、ボトル、包装紙などが挙げられる。
【0035】
本発明の組成物はその効果をよりよく発揮させるために、3日以上継続的に摂取させることが好ましく、1週間以上継続的に摂取させることがより好ましく、投与および摂取期間はより好ましくは1~10週間、特に好ましくは1~6週間、さらに好ましくは2~6週間である。ここで、「継続的に」とは毎日決められた量の摂取を続けることを意味する。本発明の組成物を包装形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、1週間)の有効摂取量をセットで提供してもよい。
【0036】
本発明の別の態様によれば、プロピオン酸菌の発酵物の有効量を対象に摂取させることを含んでなる、肥満症の治療および/または予防方法が提供される。ここで、対象とは、ヒト以外の動物(馬、牛などの家畜、犬、猫などの愛玩動物、動物園などで飼育されている鑑賞動物など)であってもよいが、ヒトであることが好ましい。また、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を摂取させる対象は、体重の増加を抑制する必要がある対象、または体重を減少させる必要がある対象であることが好ましい。また、本発明の好ましい別の態様によれば、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を、対象に摂取させることを含んでなる肥満症の予防および/または治療方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。
【0037】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を対象に摂取させることを含んでなる、体重増加抑制方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を対象に摂取させることを含んでなる、体重増加抑制方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。
【0038】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を対象に摂取させることを含んでなる、脂肪蓄積抑制方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を対象に摂取させることを含んでなる、脂肪蓄積抑制方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を対象に摂取させることを含んでなる、腸管ホルモン産生促進方法が提供される。また、本発明の別の好ましい態様によれば、本発明のプロピオン酸菌の発酵物の有効量を対象に摂取させることを含んでなる、腸管ホルモン産生促進方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。ここで、前記腸管ホルモンとしては、PYYおよび/またはGLP-1であることが好ましい。
【0040】
本発明の別の態様によれば、抗肥満のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0041】
本発明の別の態様によれば、体重増加抑制のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0042】
本発明の別の態様によれば、脂肪蓄積抑制のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0043】
本発明の別の態様によれば、腸管ホルモン産生促進のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0044】
本発明の別の態様によれば、腸内のプロピオン酸産生促進のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0045】
本発明の別の態様によれば、アッカーマンシア属(Akkermansia)の腸管内(好ましくは、盲腸内)または糞便中での増加促進のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0046】
本発明の別の態様によれば、抗肥満用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0047】
本発明の別の態様によれば、体重増加抑制用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0048】
本発明の別の態様によれば、脂肪蓄積抑制用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0049】
本発明の別の態様によれば、腸管ホルモン産生促進用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0050】
本発明の別の態様によれば、腸内のプロピオン酸産生促進用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0051】
本発明の別の態様によれば、アッカーマンシア属(Akkermansia)の腸管内(好ましくは、盲腸内)または糞便中での増加促進用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。
【0052】
本発明の肥満症の肥満症の治療および/または予防方法等に用いられるプロピオン酸菌の発酵物などは、上記の本発明の組成物に含まれるプロピオン酸菌の発酵物と同じであってもよい。
【実施例0053】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0054】
例1:プロピオン酸菌の発酵物の抗肥満効果の確認
(1)プロピオン酸菌の乳清発酵物の調製方法
プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET-3株(FERM BP-8115)を35℃、嫌気条件下で48時間賦活および前培養した後、さらに35℃、嫌気条件下で96時間、ホエー含有培地にて培養した。培養物に賦形剤(酸化でんぷん(スタビローズS10))を添加して凍結乾燥することで培養物の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末を以下でプロピオン酸菌発酵物(以下、「発酵物」とも記載する)として用いた。このプロピオン酸菌の発酵物には、特徴的な成分としてDHNAが少なくとも含まれる。
【0055】
(2)試験方法
C57BL/6J系統の7週齢雄マウスを2群(n=6)に分け、コントロール(Control)(プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET-3株の培養培地原料含有)高脂肪食(D12492(リサーチダイエット社製))およびプロピオン酸菌発酵物高脂肪食をそれぞれ6週間与え、その間の体重変化を記録した。ここで、プロピオン酸菌発酵物高脂肪食には、高脂肪食中にプロピオン酸菌発酵物が30%含まれる。負荷後(マウスは13週齢)にイソフルラン麻酔下で解剖を行い、各種組織重量および代謝パラメーターなどを測定した。
【0056】
(3)試験結果
プロピオン酸菌発酵物高脂肪食を摂取したマウスでは、コントロール高脂肪食を摂取したマウスに比べ、高脂肪食による体重増加が有意に抑制されることが分かった(
図1参照)。
【0057】
血糖値は、プロピオン酸菌発酵物高脂肪食群ではコントロール高脂肪食群に比べ有意に低かった(
図2参照)。
【0058】
精巣周囲(epi)、腎周囲(peri)、および皮下(sub)の白色脂肪組織重量の増加は、プロピオン酸菌発酵物高脂肪食群ではコントロール高脂肪食群に比べ有意に抑制された(
図3参照)。
【0059】
血液生化学検査については、TG(トリグリセリド)、総コレステロール、インスリン、GLP-1、およびPYYの各検査項目について行った(
図4~9参照)。
【0060】
TG(トリグリセリド)およびインスリンにおいては、プロピオン酸菌発酵物高脂肪食群ではコントロール高脂肪食群に比べ有意に低かった(
図4および6参照)。総コレステロールについては低い傾向が見られた(
図5参照)。
【0061】
腸管ホルモンであるGLP-1およびPYYにおいては、プロピオン酸菌発酵物高脂肪食群ではコントロール高脂肪食群に比べ高い傾向がみられた(
図7および8参照)。
【0062】
盲腸内と血漿中のプロピオン酸の定量を行った結果、プロピオン酸菌発酵物高脂肪食群において、コントロール高脂肪食群に比べて盲腸、血漿中ともに有意に高かった(
図9および10参照)。
【0063】
さらに、定量PCR(Quantitative polymerase chain reaction、qPCR法)を用いて盲腸内容物と糞便中の腸内細菌叢を解析した結果、プロピオン酸菌発酵物高脂肪食群において、コントロール高脂肪食群と比べて抗肥満に関わるとされているアッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の菌数が盲腸内および糞便中において有意に多かった(
図11および12参照)。
【0064】
血糖値、組織重量、血液生化学検査、およびqPCR法の測定・解析条件については、具体的には以下の通りである。
【0065】
血糖値は、携帯型の血糖値測定器(ワンタッチウルトラ、ライフスキャン社製)を用いて血漿中の血糖値を測定した。
【0066】
組織重量は、解剖時に採取して重量を秤量した。
【0067】
血漿中のTG(トリグリセリド)と総コレステロールは、LabAssay(商標)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて測定した。
【0068】
インスリンは、ELISA法(レビス(登録商標)インスリン-マウスRTU、富士フイルムワコーシバヤギ株式会社製)で測定した。
【0069】
血漿GLP-1量は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)阻害剤(メルクミリポア社製)によって活性GLP-1の分解を防止したのち、酵素結合免疫吸着検定法(レビス GLP-1(Active)、富士フイルムワコーシバヤギ株式会社製)によって測定した。
【0070】
血漿中のPYYは、マウス/ラットPYY ELISAキットワコー(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて測定した。
【0071】
盲腸内容物と糞便中のアッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)菌数は、盲腸内容物または糞便から抽出したDNAを鋳型として、qPCR法にて、95℃30秒の後、95℃5秒と58℃30秒と72℃1分を40サイクル実施した後、95℃15秒、60℃1分、95℃15秒の条件で実施した。
用いたプライマーの配列は下記のとおりである。
フォワードプライマー:CAGCACGTGAAGGTGGGGAC(配列番号1)
リバースプライマー:CCTTGCGGTTGGCTTCAGAT(配列番号2)