(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021823
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】微粒子濃縮方法及び微粒子分析方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20240208BHJP
【FI】
C02F1/469
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124935
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤郷 貴章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊正
(72)【発明者】
【氏名】元祐 昌廣
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA01
4D061DB18
4D061EA11
4D061EB14
4D061EB16
4D061EB17
4D061EB19
4D061EB37
4D061EB39
4D061GA05
4D061GA20
4D061GC11
4D061GC14
(57)【要約】
【課題】電気浸透流を利用して高濃縮倍率にて微粒子を濃縮することができる微粒子濃縮方法と、この微粒子濃縮方法を用いた微粒子分析方法を提供する。
【解決手段】ギャップ間隔をあけて配置された電極を有する微粒子濃縮装置に試料水を通水し、電極間に交流電圧を印加して濃縮する微粒子濃縮方法において、周波数50~100kHzの交流電圧を20~100Vppで印加することを特徴とする微粒子濃縮方法。この微粒子濃縮方法によって試料水を濃縮した後、濃縮水を分析することにより試料水中の微粒子濃度を分析する微粒子分析方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップ間隔をあけて配置された電極を有する微粒子濃縮装置の試料水流路に試料水を通水し、該電極間に交流電圧を印加して濃縮する微粒子濃縮方法において、
周波数50~100kHzの交流電圧を20~100Vppで印加することを特徴とする微粒子濃縮方法。
【請求項2】
前記ギャップは、前記試料水の流入口から濃縮水取出口に向う方向に延在しており、
該ギャップ間隔が5~50μmであり、該ギャップ長さが5~30mmである
請求項1の微粒子濃縮方法。
【請求項3】
請求項1又は2の微粒子濃縮方法によって試料水を濃縮した後、得られた濃縮水を分析することにより該試料水中の微粒子濃度を分析する微粒子分析方法。
【請求項4】
前記試料水が超純水である請求項3の微粒子分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の微粒子を濃縮する方法に係り、特に電気浸透流を用いた微粒子濃縮方法に関する。また、本発明は、この微粒子濃縮方法を用いた微粒子分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の微粒子分析技術としてはオンライン微粒子モニターやフィルター濾過-SEM
法が挙げられる。しかし、前者は超純水のように微粒子が少ない液体の場合、微粒子の検出が困難であるという課題があった。後者は液体中の少ない微粒子も検出可能であるが、微粒子の捕捉に時間を要するのが課題であった。また、オンライン微粒子モニターの感度改善およびフィルター濾過における濾過期間の改善が望まれていた。
【0003】
電気浸透流を用いた微粒子濃縮・抽出装置の先行技術として、特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1の粒子濃縮装置は、微細粒子含有液体の流路に沿って配置された少なくとも1対の電極、および前記電極へ交流電圧を印加する交流電源を有し、交流電気浸透流によって前記流路内を流れる微細粒子の濃度を前記電極近傍において増加させるよう構成されている。
【0005】
この粒子濃縮装置においては、粒子濃縮部において、少なくとも一対の電極に交流電圧を印加して電極の間隙空間に交流電場による交流電気浸透流を生じさせる。この交流電気浸透流を用いることにより、液体中の粒子を集積させることができる。集積された粒子は、液体流によって粒子取出し部に向かって搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のオンライン微粒子モニターでは、超純水中の数少ない微粒子数を検出するのが困難であった。例えば、微粒子モニターの感度が1個/mLの場合、微粒子数が0.5個/mLの超純水中の微粒子数を計数するのは不可能であった。
【0008】
従来のフィルター濾過-SEM
法では、微粒子の捕捉に長期間を要していた。例えば、10nmの微粒子を1個/mLの精度で分析する際に必要な濾過量は1000Lで、濾過期間は2週間であった。
【0009】
特許文献1の微粒子濃縮・抽出装置では、濃縮倍率が低く、処理流量を実用的な量にすると十分な濃縮倍率が得られなかった。具体的には、処理流量10-4mL/minでは濃縮倍率が約5倍であるが、処理流量1mL/minでは濃縮倍率は約1.5倍であった。
なお、特許文献1には、電極間に印加する交流電圧の周波数は0.1~10kHzの範囲が好ましく、特に1~5kHzの範囲が好ましいと記載されており、交流電圧については5V以下が好ましく、特に1~5Vの範囲が好ましいと記載されている。この交流電圧
は、約9Vpp以下、好ましくは約2.8~9Vppに相当する。
【0010】
本発明は、電気浸透流を利用して高濃縮倍率にて微粒子を濃縮することができる微粒子濃縮方法と、この微粒子濃縮方法を用いた微粒子分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0012】
[1] ギャップ間隔をあけて配置された電極を有する微粒子濃縮装置の試料水流路に試料水を通水し、該電極間に交流電圧を印加して濃縮する微粒子濃縮方法において、周波数50~100kHzの交流電圧を20~100Vppで印加することを特徴とする微粒子濃縮方法。
【0013】
[2] 前記ギャップは、前記試料水の流入口から濃縮水取出口に向う方向に延在しており、該ギャップ間隔が5~50μmであり、該ギャップ長さが5~30mmである[1]の微粒子濃縮方法。
【0014】
[3] [1]又は[2]の微粒子濃縮方法によって試料水を濃縮した後、得られた濃縮水を分析することにより該試料水中の微粒子濃度を分析する微粒子分析方法。
【0015】
[4] 前記試料水が超純水である[3]の微粒子分析方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の微粒子濃縮方法によると、流路内にギャップを介して電極を設置した、電気浸透流による微粒子濃縮装置において、電極に高周波(50~100kHz)の交流電圧(20~100Vpp)を印加して、微粒子を電極間のギャップ部分に濃縮する。
【0017】
本発明の微粒子濃縮方法によると、微粒子を特許文献1よりも効率的に濃縮することができる。例えば、処理流量10-4mL/minで濃縮倍率を10倍程度とし、処理流量1mL/minで濃縮倍率を5倍程度とすることができる。
【0018】
本発明の微粒子分析方法によると、例えば、オンライン微粒子モニターの感度が1個/mLで微粒子数0.5個/mLの超純水中の微粒子を測定する場合、濃縮倍率5倍の濃縮装置を微粒子計の前段に設置することで、5倍の感度で超純水中の微粒子数を計数することができる。また、濃縮倍率5倍の濃縮装置をフィルター濾過装置の前段に設置することで、濾過期間を1/5に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態に係る微粒子濃縮方法に用いられる濃縮装置の構成図である。
【
図9】実施例1及び比較例1における濃縮装置の電極間の電界強度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
図1(a)は、実施の形態に係る微粒子濃縮方法に用いられる濃縮装置の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のB-B線断面図である。
図2~
図8は、
図1のII-II線~VIII-VIII線断面図である。
【0021】
この濃縮装置1は、平板状の基板2と、該基板2の上面に重なるように設けられた流路形成体3と、該基板2と流路形成体3との間に形成された流路4と、流路4内に配置された電極5,6と、流路形成体3に設けられた試料水の流入口7、濃縮水の取出口8及び希薄水の取出口9,10等を有する。
【0022】
この実施の形態では、基板2はガラス基板であり、流路形成体3は合成樹脂製であるが、基板2及び流路形成体3の構成材料はこれらに限定されない。
【0023】
この実施の形態では、基板2は、平面視形状が長方形である。基板2の上面は平滑面となっている。基板2の上面の短手幅方向中央部付近を、基板2の長手方向に延在するように流路形成体3が設けられている。流路形成体3は、基板2の一端2a側(一方の短辺近傍)から他端2b側(他方の短辺近傍)まで延在している。流路形成体3も平面視形状が長方形状であるが、これに限定されない。
【0024】
流路形成体3は、下面の周縁部が全周にわたって基板2の上面に水密的に付着している。流路形成体3の下面は、該周縁部を除いて上方側へ凹陥する凹部となっており、この凹部によって流路4が形成されている。すなわち、凹部の天面4aと基板2の上面との間が流路4となっている。
【0025】
流路形成体3の一端側に、天面4aを貫くようにして試料水の流入口7が設けられている。流路形成体3の他端側に、天面4aを貫くようにして濃縮水の取出口8と、稀薄水の取出口9,10が設けられている。
【0026】
試料水流入口7の中心点は、流路形成体3の一方の長側辺3aと他方の長側辺3bとの中間に位置している。
濃縮水取出口8の中心点は、流路形成体3の一方の長側辺3aと他方の長側辺3bとの中間に位置している。
【0027】
希薄水取出口9,10は、濃縮水取出口8よりも上流側(基板2の一端2a側)に設けられている。希薄水取出口9は長側辺3aの近傍に位置しており、稀薄水取出口10は長側辺3bの近傍に位置している。
【0028】
電極5,6は、試料水流入口7と濃縮水取出口8との間に配置されている。電極5,6は、箔状であり、基板2の上面に形成されている。電極5,6は、この実施の形態ではITO製であるが、電極構成材料はこれに限定されない。
【0029】
電極5,6は、端子部分5a,6aを除いて流路4内に配置されている。電極5,6の端子部分5a,6aは、基板2と流路形成体3との合わせ面を通って流路形成体3外にまで延在している。該端子部分5a,6aを介して電極5,6に交流電圧が印加される。
【0030】
端子部分5a,6aを除く電極5,6は、平面視形状が長方形である。電極5は、流路4の中間線(流路4の短手幅方向の中央を通り、流路4の長手方向に延在する線)よりも長側辺3a側に位置しており、電極6は、流路4の該中間線よりも長側辺3b側に位置している。電極5,6の該中間線に沿う辺部は、中間線と平行であり、これにより、電極5,6間に一定の幅のギャップG(
図4~6)が形成されている。
【0031】
このように構成された濃縮装置1を用いて試料水(微粒子含有水)の濃縮処理を行うには、試料水を流入口7から流路4内に供給し、濃縮水取出口8及び希薄水取出口9,10からそれぞれ水を流出させると共に、電極5,6に周波数50~100kHz、Vpp(ピークピーク電圧)20~100Vの交流電圧を印加する。
【0032】
これにより、電極5,6付近で電気浸透流が発生する。この電気浸透流は、
図4~6において、ギャップG部分では図の下向きであり、電極5,6に沿ってはギャップGから離れる方向であり、天面4aに沿ってはギャップGに向う方向である。
【0033】
そのため、流路4内では、
図4~6の左半側において、時計回り方向の循環流が形成され、右半側において反時計回り方向の循環流が形成される。流路4内の試料水中の微粒子は、この循環流に乗って流れ、対向する循環流の中間地点であり、よどみ点に相当するギャップG付近に集まるようになる。
【0034】
試料水が連続して流入口7から取出口8~10方向に流れるので、ギャップG付近に集まった微粒子は、そのまま
図1の右方向に流れ、濃縮水取出口8から、微粒子濃度の高い濃縮水として取り出される。
【0035】
一方、流路4内の長側辺3a,3b側では、微粒子濃度が低くなる。この微粒子濃度の低い希薄水も、
図1の右方向に向かって流れ、稀薄水取出口9,10から取り出される。
【0036】
このような交流電気浸透濃縮において、電極5,6間に印加する交流電圧の周波数が50kHz未満では、ギャップ部分での濃縮効率が十分ではなく、高い濃縮倍率を得ることができない。一方、交流電圧の周波数が200kHzを超えると、濃縮効率が低くなってしまう。このため、本発明では周波数50~200kHz、好ましくは50~100kHzの交流電圧を印加する。電極5,6間に印加する交流電圧が20Vpp未満では、濃縮効率が十分ではなく、高い濃縮倍率を得ることはできない。一方、交流電圧が100Vppを超えると、高い濃縮倍率を得ることができるものの、電極の破損を起こす場合もある。このため、本発明では、20~100Vpp、好ましくは50~100Vppの交流電圧を印加する。
【0037】
濃縮水取出口8から取り出された濃縮水は、例えば微粒子濃度分析計により微粒子濃度が計測される。また、濃縮水をさらに同種の又は他の濃縮装置(例えば遠心濃縮装置)で濃縮してもよい。
【0038】
本発明では、複数台の上記濃縮装置を並列に設置し、試料水を各濃縮装置に分配供給し、各装置からの濃縮水を合流させて取り出すようにしてもよい。
【0039】
本発明を特に限定するものではないが、濃縮装置の製作の容易さと交流電気浸透効果の兼ね合いから、ギャップGの間隔、すなわち、電極5,6間の離隔幅は5~100μm、特に5~50μm程度が好適である。ギャップGの長さ、すなわち電極5,6の長手方向の長さは1mm以上、特に5~30mm程度が好適である。
【0040】
電極5,6の厚さは50~300nm、特に100~150nm程度が好適である。
【0041】
流路4の長手方向の長さは1mm以上、特に5~30mm程度が好適である。流路4の短手幅方向の長さ(
図4~6の左右方向の幅)は、0.5~5mm、特に1~2mm程度が好適である。流路4の高さ、すなわち基板2の上面と流路天面4aとの間隔は、20~100μm、特に20~50μm程度が好ましい。
【0042】
試料水としては、超純水、純水、その他の低導電性液体などが例示される。試料水中の微粒子の粒径(顕微鏡、動的光散乱法によって測定した粒径)は2000nm以下、特に500nm以下であることが好ましい。
【0043】
流路4内における試料水の送水線速度(
図1の左から右方向への平均流速)は、50mm/sec以下、特に2mm/sec以下が好適である。
【実施例0044】
直径100nmの蛍光ポリスチレン(PsNP)微粒子を超純水中に分散させた試験溶液(微粒子濃度0.02wt%)を、
図1の濃縮装置を用いて濃縮処理した。装置の主な条件は次の通りである。
【0045】
基板2:厚さ0.7mmのガラス基板
流路形成体3:ポリジメチルシロキサン(PDMS)製
流路4:幅2mm、高さ50μm、長さ30mm
電極5,6:厚さ150nmの酸化インジウムスズ(ITO)膜
ギャップ幅:40μm
ギャップ長さ:20mm
流入口7の直径:1mm
取出口8の直径:1mm
取出口9,10の直径:0.3mm
【0046】
[実施例1]
上記試験溶液を0.01mL/minにて通水し、交流周波数70kHz、電圧(Vpp)20Vにて電圧を印加した。
【0047】
蛍光強度から濃縮倍率を推定したところ、濃縮倍率は約6倍であった。
【0048】
[比較例1]
交流周波数を0.8kHzとしたこと以外は実施例1と同一条件とした。その結果、濃縮倍率は約2倍であった。微粒子はギャップから約60μm~120μm壁側(長側辺3a,3b側)に離れたところに蓄積した。
【0049】
なお、
図9は、実施例1及び比較例1における
図1のV-V線断面(
図5)での電界の強度分布図であり、縦軸は比強度を表わす。横軸のelectrodeはそれぞれ電極を模式的に示しており、両者間が40μmのギャップGである。
図9(a)の実線が実施例1を表し、
図9(b)の実線が比較例1を表す。
【0050】
図9の通り、実施例1の条件では、比較例1に比べて、ギャップ付近の電界強度が著しく高い。
なお、
図9(a),(b)の破線は、実施例1及び比較例1において、電圧(Vpp)を10Vとしたこと以外はそれぞれ同様に行った場合を表す。10Vppでは十分な電界強度が得られないことが分かる。