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特開2024-24759板厚推定装置、板厚推定方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024759
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】板厚推定装置、板厚推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
G01N25/72 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127607
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】萩原 大生
(72)【発明者】
【氏名】島本 由麻
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇
(72)【発明者】
【氏名】川邉 翔平
(72)【発明者】
【氏名】金森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】大高 範寛
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雄充
(72)【発明者】
【氏名】原田 剛男
(72)【発明者】
【氏名】北 慎一郎
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB08
2G040CA02
2G040DA06
2G040DA15
2G040GA01
2G040HA08
2G040HA16
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】既設の構造物を構成する鋼板であっても、その板厚を簡易に推定することができる板厚推定装置などを提供する。
【解決手段】板厚推定装置400は、熱画像取得部411、気象情報取得部412、熱収支解析部413及び板厚推定部414を備える。熱画像取得部411は、鋼板の熱画像の時系列データを取得する。気象情報取得部412は、鋼板の設置箇所に関連する地点の気象情報の時系列データを取得する。熱収支解析部413は、熱画像の時系列データ、気象情報の時系列データ及び熱収支解析モデルに基づいて、板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する。板厚推定部414は、対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に板厚の推定値を出力する学習済みモデルを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の熱分布を測定する赤外線カメラから前記鋼板の熱分布を示す熱画像を取得し、ある測定日における熱画像の時系列データを取得する熱画像取得手段と、
前記鋼板の設置箇所に関連する地点の前記測定日における気象情報の時系列データを取得する気象情報取得手段と、
前記熱画像取得手段が取得した前記熱画像の時系列データ、前記気象情報取得手段が取得した前記気象情報の時系列データ、及び、予め定められた熱収支解析モデルに基づいて、前記鋼板における板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する熱収支解析手段と、
前記熱収支解析手段によって算出された前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出する板厚推定手段と、を備え、
前記対象領域の板厚の推定値は、当該板厚に応じて予め定められた複数の段階で表され、
前記板厚推定手段は、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に前記対象領域の板厚の推定値を出力するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済みモデルを有する、
板厚推定装置。
【請求項2】
前記熱収支解析手段は、
前記気象情報取得手段が取得した前記気象情報の時系列データ、及び、前記熱収支解析モデルに基づいて、前記対象領域の理論上の表面温度の時系列データを算出可能であり、
前記熱画像に基づく前記対象領域の表面温度の時系列データを用いるとともに、前記理論上の表面温度の時系列データを必要に応じて用いて、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する、
請求項1に記載の板厚推定装置。
【請求項3】
前記板厚推定手段は、少なくとも、前記測定日において気温が上昇していく時間帯の前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出する、
請求項1又は2に記載の板厚推定装置。
【請求項4】
前記熱収支解析手段は、前記熱画像を各々が前記対象領域に相当する複数のセル画像に分割し、前記熱画像の前記対象領域毎の時系列データ、前記気象情報の時系列データ、及び、前記熱収支解析モデルに基づいて、前記対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出し、
前記板厚推定手段は、前記対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域毎の板厚の推定値を算出する、
請求項1又は2に記載の板厚推定装置。
【請求項5】
前記板厚推定手段が算出した前記対象領域の板厚の推定値に基づき、前記対象領域の腐食状況を診断する診断手段をさらに備える、
請求項1又は2に記載の板厚推定装置。
【請求項6】
前記気象情報取得手段は、前記測定日よりも前の日における前記地点の気象情報である事前気象情報の時系列データを取得し、
前記気象情報取得手段が取得した前記事前気象情報の時系列データに基づいて、前記対象領域の板厚の推定に適した前記測定日における時間帯である測定時間帯を決定する測定時間帯決定手段をさらに備える、
請求項1又は2に記載の板厚推定装置。
【請求項7】
前記測定時間帯決定手段は、
前記気象情報取得手段が取得した前記事前気象情報の時系列データ、及び、前記熱収支解析モデルに基づいて、前記対象領域の理論上の表面温度の時系列データを算出し、
算出した前記理論上の表面温度の時系列データを用いて、前記測定時間帯を決定する、
請求項6に記載の板厚推定装置。
【請求項8】
鋼板の熱分布を測定する赤外線カメラから前記鋼板の熱分布を示す熱画像を取得し、ある測定日における熱画像の時系列データを取得する熱画像取得ステップと、
前記鋼板の設置箇所に関連する地点の前記測定日における気象情報の時系列データを取得する気象情報取得ステップと、
前記熱画像取得ステップで取得した前記熱画像の時系列データ、前記気象情報取得ステップで取得した前記気象情報の時系列データ、及び、予め定められた熱収支解析モデルに基づいて、前記鋼板における板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する熱収支解析ステップと、
前記熱収支解析ステップで算出された前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出する板厚推定ステップと、を備え、
前記対象領域の板厚の推定値は、当該板厚に応じて予め定められた複数の段階で表され、
前記板厚推定ステップでは、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に前記対象領域の板厚の推定値を出力するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済みモデルを用い、前記対象領域の板厚の推定値を算出する、
板厚推定方法。
【請求項9】
コンピュータを、
鋼板の熱分布を測定する赤外線カメラから前記鋼板の熱分布を示す熱画像を取得し、ある測定日における熱画像の時系列データを取得する熱画像取得手段、
前記鋼板の設置箇所に関連する地点の前記測定日における気象情報の時系列データを取得する気象情報取得手段、
前記熱画像取得手段が取得した前記熱画像の時系列データ、前記気象情報取得手段が取得した前記気象情報の時系列データ、及び、予め定められた熱収支解析モデルに基づいて、前記鋼板における板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する熱収支解析手段、
前記熱収支解析手段によって算出された前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出する板厚推定手段、として機能させ、
前記対象領域の板厚の推定値は、当該板厚に応じて予め定められた複数の段階で表され、
前記板厚推定手段は、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に前記対象領域の板厚の推定値を出力するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済みモデルを有する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の板厚を推定する板厚推定装置、板厚推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を構成する鋼板の板厚は、腐食等により変化するため、その推定は、構造物の安全性を評価する上で重要である。例えば、特許文献1には、赤外線を用いて、構造物を構成する配管の肉厚を推定する方法が記載されている。この方法は、表面放射率が既知である黒体塗料を予め塗布した配管に対して所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて温度変化分布パターンを測定する工程と、測定した温度変化分布パターン等に基づいて配管の肉厚分布を推定する工程とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-157806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法は、板厚推定の対象部分に予め黒体塗料を塗布しておく必要があるため非常に手間がかかる。特に、当該方法を水利施設等の既設の構造物を構成する鋼板の板厚推定に用いるのは現実的ではない。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、既設の構造物を構成する鋼板であっても、その板厚を簡易に推定することができる板厚推定装置、板厚推定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る板厚推定装置は、
鋼板の熱分布を測定する赤外線カメラから前記鋼板の熱分布を示す熱画像を取得し、ある測定日における熱画像の時系列データを取得する熱画像取得手段と、
前記鋼板の設置箇所に関連する地点の前記測定日における気象情報の時系列データを取得する気象情報取得手段と、
前記熱画像取得手段が取得した前記熱画像の時系列データ、前記気象情報取得手段が取得した前記気象情報の時系列データ、及び、予め定められた熱収支解析モデルに基づいて、前記鋼板における板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する熱収支解析手段と、
前記熱収支解析手段によって算出された前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出する板厚推定手段と、を備え、
前記対象領域の板厚の推定値は、当該板厚に応じて予め定められた複数の段階で表され、
前記板厚推定手段は、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に前記対象領域の板厚の推定値を出力するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済みモデルを有する。
【0007】
前記熱収支解析手段は、
前記気象情報取得手段が取得した前記気象情報の時系列データ、及び、前記熱収支解析モデルに基づいて、前記対象領域の理論上の表面温度の時系列データを算出可能であり、
前記熱画像に基づく前記対象領域の表面温度の時系列データを用いるとともに、前記理論上の表面温度の時系列データを必要に応じて用いて、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出してもよい。
【0008】
前記板厚推定手段は、少なくとも、前記測定日において気温が上昇していく時間帯の前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出してもよい。
【0009】
前記熱収支解析手段は、前記熱画像を各々が前記対象領域に相当する複数のセル画像に分割し、前記熱画像の前記対象領域毎の時系列データ、前記気象情報の時系列データ、及び、前記熱収支解析モデルに基づいて、前記対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出し、
前記板厚推定手段は、前記対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域毎の板厚の推定値を算出してもよい。
【0010】
前記板厚推定装置は、前記板厚推定手段が算出した前記対象領域の板厚の推定値に基づき、前記対象領域の腐食状況を診断する診断手段をさらに備えていてもよい。
【0011】
前記気象情報取得手段は、前記測定日よりも前の日における前記地点の気象情報である事前気象情報の時系列データを取得し、
前記板厚推定装置は、前記気象情報取得手段が取得した前記事前気象情報の時系列データに基づいて、前記対象領域の板厚の推定に適した前記測定日における時間帯である測定時間帯を決定する測定時間帯決定手段をさらに備えていてもよい。
【0012】
前記測定時間帯決定手段は、
前記気象情報取得手段が取得した前記事前気象情報の時系列データ、及び、前記熱収支解析モデルに基づいて、前記対象領域の理論上の表面温度の時系列データを算出し、
算出した前記理論上の表面温度の時系列データを用いて、前記測定時間帯を決定してもよい。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る板厚推定方法は、
鋼板の熱分布を測定する赤外線カメラから前記鋼板の熱分布を示す熱画像を取得し、ある測定日における熱画像の時系列データを取得する熱画像取得ステップと、
前記鋼板の設置箇所に関連する地点の前記測定日における気象情報の時系列データを取得する気象情報取得ステップと、
前記熱画像取得ステップで取得した前記熱画像の時系列データ、前記気象情報取得ステップで取得した前記気象情報の時系列データ、及び、予め定められた熱収支解析モデルに基づいて、前記鋼板における板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する熱収支解析ステップと、
前記熱収支解析ステップで算出された前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出する板厚推定ステップと、を備え、
前記対象領域の板厚の推定値は、当該板厚に応じて予め定められた複数の段階で表され、
前記板厚推定ステップでは、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に前記対象領域の板厚の推定値を出力するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済みモデルを用い、前記対象領域の板厚の推定値を算出する。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
鋼板の熱分布を測定する赤外線カメラから前記鋼板の熱分布を示す熱画像を取得し、ある測定日における熱画像の時系列データを取得する熱画像取得手段、
前記鋼板の設置箇所に関連する地点の前記測定日における気象情報の時系列データを取得する気象情報取得手段、
前記熱画像取得手段が取得した前記熱画像の時系列データ、前記気象情報取得手段が取得した前記気象情報の時系列データ、及び、予め定められた熱収支解析モデルに基づいて、前記鋼板における板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する熱収支解析手段、
前記熱収支解析手段によって算出された前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、前記対象領域の板厚の推定値を算出する板厚推定手段、として機能させ、
前記対象領域の板厚の推定値は、当該板厚に応じて予め定められた複数の段階で表され、
前記板厚推定手段は、前記対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に前記対象領域の板厚の推定値を出力するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済みモデルを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、既設の構造物を構成する鋼板であっても、その板厚を簡易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る板厚推定システムの全体構成を示す図である。
図2】同上実施形態に係る板厚推定装置の構成を示すブロック図である。
図3】同上実施形態に係る板厚推定処理の一例を示すフローチャートである。
図4】同上実施形態に係る測定時間帯決定処理の一例を示すフローチャートである。
図5】熱画像の一部を示す図であって、熱画像を分割して得られる複数のセル画像を説明するための図である。
図6】同上実施形態に係る熱収支解析モデルの模式図である。
図7】同上実施形態に係る診断画像の一部を示す図である。
図8】(a)及び(b)は、一実施例に係る実験の状況を示す図である。
図9】同実験の評価フローを示す図である。
図10】同実験で取得した気象情報の時系列データを示し、(a)は気温、(b)は日射量、(c)は平均風速、(d)は水蒸気圧を示す図である。
図11】(a)及び(b)は、同実験で鋼矢板に配置した熱電対を示す図である。
図12】(a)~(f)は、各検討ケースにおける鋼矢板のフランジに設置した熱電対による表面温度と裏面温度の関係を示す図である。
図13】鋼矢板の表面温度の推移を示す図であり、気象情報に基づき算出した計算値と実測値とを比較した結果を示す図である。
図14】板厚に応じた鋼矢板の温度の計算値の相違を示す図であり、(a)は2021/5/4のデータを示し、(b)は2021/5/6のデータを示す図である。
図15】(a)~(d)は、各測定日での標準化前におけるウェブ南側の熱画像データと熱電対データの関係を示す図である。
図16】(a)~(d)は、各測定日での標準化前におけるウェブ北側の熱画像データと熱電対データの関係を示す図である。
図17】(a)~(d)は、各測定日での標準化後におけるウェブ南側の熱画像データと熱電対データの関係を示す図である。
図18】(a)~(d)は、各測定日での標準化後におけるウェブ北側の熱画像データと熱電対データの関係を示す図である。
図19】同実験に係る機械学習による解析フローを示す図である。
図20】ランダムフォレストの概念図である。
図21】説明変数の重要度と気温とを比較した図であり、(a)は2021/5/4のデータを示し、(b)は2021/5/5のデータを示す図である。
図22】説明変数の重要度と気温とを比較した図であり、(a)は2021/5/6のデータを示し、(b)は2021/5/7のデータを示す図である。
図23】説明変数の重要度と風速とを比較した図であり、(a)は2021/5/4のデータを示し、(b)は2021/5/5のデータを示す図である。
図24】説明変数の重要度と風速とを比較した図であり、(a)は2021/5/6のデータを示し、(b)は2021/5/7のデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1に、本実施形態に係る板厚推定システム100の全体構成を示す。板厚推定システム100は、農業用水路等の水利施設1に使用されている構造物を構成する鋼板2の板厚を推定する。鋼板2は、例えば鋼矢板である。なお、図1における符号3は水路を示す。
【0019】
板厚推定システム100は、赤外線カメラ200と、気象観測装置300と、板厚推定装置400と、を備える。赤外線カメラ200及び気象観測装置300の各々と板厚推定装置400とは、有線又は無線による通信ネットワークを介して通信可能に接続されている。
【0020】
赤外線カメラ200は、赤外線サーモグラフィカメラであり、鋼板2の熱分布を測定し、測定領域における鋼板2の熱分布を示す熱画像(サーモグラフィ)を生成する。この実施形態では、赤外線カメラ200は、ある測定日の特定の時間帯に渡って鋼板2の熱分布を測定し、その測定日における熱画像の時系列データを板厚推定装置400に送信する。
【0021】
気象観測装置300は、鋼板2の設置箇所に関連する地点の気温、日射量、平均風速及び水蒸気圧を含む気象情報を観測する。ここで、「鋼板2の設置箇所に関連する地点」とは、好ましくは、鋼板2が設置された地点であるが、鋼板2の気象環境と同様の気象を観測可能な地点である限りにおいてはその地点は任意に選択可能である。以下では、気象観測装置300は、鋼板2が設置された地点の気象情報を観測するものとして説明する。気象観測装置300は、観測した気象情報の時系列データを板厚推定装置400に送信する。この実施形態では、気象観測装置300は、少なくとも、前記測定日における気象情報の時系列データを板厚推定装置400に送信する。
【0022】
板厚推定装置400は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末等から構成され、操作者に操作される端末装置である。図2に示すように、板厚推定装置400は、制御部410と、記憶部420と、操作部430と、表示部440と、通信部450と、を備える。これら各部は、信号を伝達するためのバスによって接続されている。なお、板厚推定装置400は、互いに協働する複数のコンピュータから構成されてもよい。
【0023】
制御部410は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。制御部410において、CPUがROMに記憶されている制御プログラムを読み出し、RAMをワークメモリとして用いながら、板厚推定装置400全体の動作を制御する。
【0024】
記憶部420は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリである。記憶部420は、OS(Operating System)及びアプリケーションプログラムを含む、制御部410が各種処理を行うために使用するプログラム及びデータを必要に応じて記憶する。また、記憶部420は、制御部410が各種処理を行うことにより生成又は取得したデータを記憶する。
【0025】
操作部430は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパッド、タッチパネル等の入力装置を備え、操作者による操作を受け付ける。操作者は、操作部430を操作することによって、板厚推定装置400に対する指令を入力することができる。
【0026】
表示部440は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等からなる表示装置である。表示部440は、制御部410による処理の結果として得られた各種の情報を表示可能である。例えば、表示部440は、赤外線カメラ200から制御部410が取得した熱画像、気象観測装置300から制御部410が取得した気象情報などを表示する。
【0027】
通信部450は、赤外線カメラ200及び気象観測装置300を含む外部の装置と、有線又は無線による通信を行うためのインタフェースである。通信部450は、制御部410の制御の下で、赤外線カメラ200及び気象観測装置300の各々と通信し、熱画像の時系列データ、気象情報の時系列データを取得する。また、通信部450は、有線又は無線による通信を介してインターネット等の広域ネットワークに接続することができる。
【0028】
図2に示すように、制御部410は、機能として、熱画像取得部411と、気象情報取得部412と、熱収支解析部413と、板厚推定部414と、診断部415と、出力部416と、測定時間帯決定部417と、を備える。制御部410は、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、これら各部として機能する。以下、これら機能部について、制御部410が実行する板厚推定処理、測定時間帯決定処理とともに説明する。制御部410は、例えば、操作部430を用いて入力された指令に応じ、図3に示す板厚推定処理、図4に示す測定時間帯決定処理を開始する。
【0029】
(板厚推定処理)
板厚推定処理を開始すると、熱画像取得部411は、鋼板2の熱分布を測定する赤外線カメラ200から鋼板2の熱分布を示す熱画像を取得し、ある測定日における熱画像の時系列データ(つまり、鋼板2の熱分布の時系列データ)を取得する(ステップS101)。この熱画像の時系列データは、前記測定日において所定の時間毎(例えば1時間毎)に赤外線カメラ200で鋼板2を測定して得られる複数の熱画像のデータである。また、気象情報取得部412は、鋼板2が設置された地点の前記測定日における気温、日射量、平均風速及び水蒸気圧を含む気象情報の時系列データを取得する(ステップS102)。この気象情報の時系列データは、前記測定日において所定の時間毎(例えば10分毎)に気象観測装置300が観測して得られるデータである。
【0030】
続いて、制御部410は、熱収支解析部413としての機能で、熱画像取得部411が取得した複数の熱画像のそれぞれを複数のセル画像に分割する(ステップS103)。図5に、ある時刻における熱画像の一部を示す。同図に破線で示すように、熱収支解析部413は、熱画像を行列状に分割することで、複数のセル画像4を得る。複数のセル画像4の各々が板厚推定の対象領域(以下、単に「対象領域」とも言う。)に相当する。なお、ステップS103以降の処理は、前記測定日以降(具体的には、熱画像の時系列データ及び気象情報の時系列データの取得が完了した時点以降)に実行される。例えば、ステップS103以降の処理は、前記測定日の翌日に実行されてもよい。
【0031】
続いて、熱収支解析部413は、熱画像のセル画像4毎の時系列データ(つまり、熱画像の対象領域毎の時系列データ)、気象情報の時系列データ、及び、予め定められた熱収支解析モデルに基づいて、熱収支解析を実行する(ステップS104)。そして、熱収支解析部413は、対象領域毎に、後述の学習済みモデルで用いる説明変数として、正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する(ステップS105)。以下、熱収支解析モデルと、正味放射量及び顕熱輸送量の算出方法について説明する。
【0032】
ここで、熱収支解析モデルの模式図を図6に示す。板厚については、健全状態の鋼矢板の板厚を5mmとした上で、腐食による板厚の減少を考慮し、空間ステップを0.0005m(0.5mm)で離散化した。また、時間ステップを0.008sで離散化した。熱収支解析部413は、鋼矢板表層(図6に示す、Δx=0.0005m、セル番号:0)における熱収支について計算する。熱収支解析においては地表面の熱収支を参照し(近藤純正,2000:地表面に近い大気の科学―理解と応用.東京大学出版会)、モデル化を行った。鋼矢板表層におけるフラックスの出入りでは、正味放射量(輻射伝熱)、顕熱輸送量(対流熱伝達)および鋼矢板内部の伝導熱(伝導電熱)を仮定した。正味放射量は表層への流入を正とした。顕熱輸送量と鋼矢板内部の伝導熱は表層からの流入を正とした、なお、このモデルでは、潜熱輸送量を考慮しないものとする。この場合、鋼矢板表面における熱収支式は、下記(数1)式で表される。(数1)式中の記号は以下の通りである。
:正味放射量(W/m
H:顕熱輸送量(W/m
G:鋼矢板内部の伝導熱(W/m
【0033】
【数1】
【0034】
(正味放射量R
正味放射量Rは、下記(数2)式で表される。(数2)式中の記号は以下の通りである。
:日射量(W/m
ref:アルベド
εsfc:放射率
σ:ステファン・ボルツマン定数
:表面温度(℃)
:大気放射量(W/m
このうち、日射量は、気象情報取得部412が取得した気象情報から得られる。表面温度の算出例については後述する。アルベド及び放射率については、後に示す(表1)に記載の値を用いた。
【0035】
【数2】
【0036】
(数2)式中の大気放射量Lは、下記(数3)式で計算することができる。(数3)式中の記号は以下の通りである。
df :下向き長波放射
σ:ステファン・ボルツマン定数
:気温(℃)
気温は、気象情報取得部412が取得した気象情報から得られる。なお、xは、続く(数4)式で表される。
【0037】
【数3】
【0038】
【数4】
【0039】
(数4)式中、wTOP は有効水蒸気量の全量であり、例えば、0.1cm<wTOP <6cmである。TDEWは露点温度(℃)であり、下記(数5)で計算することができる。(数5)式中、eは水蒸気圧(hPa)であり、気象情報取得部412が取得した気象情報から得られる。
【0040】
【数5】
【0041】
(顕熱輸送量H)
顕熱輸送量Hは、下記(数6)式で表される。(数6)式中、表面温度T、気温Tは既に説明した通りである。熱伝達率h(平均)は、続く(数7)式で表される。
【0042】
【数6】
【0043】
【数7】
【0044】
(数7)式中、Nuはヌセルト数であり、続く(数8)式で表される。Lは鋼矢板の代表長さ(m)であり、ここでは、鋼矢板のウェブ部分における短手長さの半分の値(例えば0.07m)とした。kは空気の熱伝導率であり、後に示す(表2)に記載の値を用いた。
【0045】
【数8】
【0046】
(数8)式中、Reはレイノルズ数であり、続く(数9)式で表される。Prはプラントル数であり、後に示す(表2)に記載の値を用いた。
【0047】
【数9】
【0048】
(数9)式中、Uは風速(m/s)であり、気象情報取得部412が取得した気象情報から得られる。Lは既に説明した通り、鋼矢板の代表長さ(m)である。vは空気の動粘度であり、後に示す(表2)に記載の値を用いた。
【0049】
(鋼矢板内部の伝導熱G)
鋼矢板内部の伝導熱Gは、下記(数10)式で表される。(数10)式中、cは比熱、ρは密度であり、後に示す(表1)に記載の値を用いた。dt(s)は前述のように離散化した時間ステップに対応する。dxは前述のように離散化した空間ステップに対応する(つまり、図6に示すΔxに対応)。Dは熱伝導がほぼ0となる位置である。Tは鋼矢板内部の温度(K)である。
【0050】
【数10】
【0051】
以上の式で用いた鋼材の物性値を(表1)に、空気の物性値を(表2)に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
熱収支解析部413は、上記式によって規定される熱収支解析モデル、熱画像のセル画像4毎の時系列データ(つまり、熱画像の対象領域毎の時系列データ)、及び気象情報の時系列データを用い、対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出する。
【0055】
正味放射量及び顕熱輸送量の各々を算出する際に用いる表面温度Tは、熱画像を構成するセル画像4に基づき求めることができる。例えば、熱収支解析部413は、1つのセル画像4の中心部が示す温度を当該セル画像4に対応する対象領域の表面温度Tsとして求めてもよい。また、熱収支解析部413は、1つのセル画像4が示す熱分布の平均を、当該セル画像4に対応する対象領域の表面温度Tとして求めてもよい。
【0056】
また、伝導熱Gを示す(数10)式において、鋼矢板内部の温度Tを一定と見做せば、鋼矢板内部の温度Tを表面温度Tと置き換えることができる。(数1)の熱収支式のR、H、Gの各々の算出過程には表面温度Tが含まれるため、熱収支解析部413は、(数1)に基づき、表面温度Tを未知数とした方程式を解くことによって、理論上の表面温度(つまり、表面温度の推定値)を算出してもよい。つまり、熱収支解析部413は、赤外線カメラ200からの熱画像のデータを用いずに、気象情報と熱収支解析モデルから理論上の表面温度を算出してもよい。
【0057】
熱収支解析部413は、熱画像から特定した表面温度を用いるとともに、熱画像に依らずに算出した理論上の表面温度を必要に応じて用いて、正味放射量及び顕熱輸送量の各々を算出する。例えば、熱収支解析部413は、熱画像から特定した表面温度に基づき算出した正味放射量と、理論上の表面温度に基づき算出した正味放射量との重要度を加味した加重平均を計算し、計算した加重平均の値を、説明変数として用いる正味放射量に決定してもよい。顕熱輸送量についても同様である。また、熱収支解析部413は、あるセル画像4で表面温度の特定が困難であった場合、当該セル画像4に相当する対象領域については、理論上の表面温度に基づいて正味放射量及び顕熱輸送量を算出してもよい。
【0058】
図3に戻り、ステップS105の処理に続き、制御部410の板厚推定部414は、ステップS105で算出した正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データと、学習済みモデルとに基づき、各対象領域の板厚を推定する(ステップS106)。具体的に、板厚推定部414は、対象領域毎に、後述のクラスラベル(出力値)を算出する。
【0059】
板厚推定部414は、機械学習が施された学習済みモデルを有し、当該学習モデルに基づき板厚を推定する。この学習モデルは、対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に、その対象領域の板厚の推定値を出力するように、教師データを用いた機械学習が施されている。対象領域の板厚の推定値は、板厚に応じて予め定められた複数の段階で表される。一例として、学習モデルは、ランダムフォレストを用いて構築された板厚推定のアルゴリズムである。教師データとしては次に述べる手法で用意することができる。
【0060】
まず、腐食が全く生じていない正常な鋼矢板を含む、腐食条件の異なる複数ケースの鋼矢板を用意する。そして、複数ケースの鋼矢板の各々において、対象領域毎の板厚を予め測定し、対象領域毎に板厚を段階的に評価したクラスラベルを付す。また、ある日の特定の時間帯(例えば、4時~19時)における熱画像の時系列データ及び気象情報の時系列データに基づき、熱収支解析部413によって対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを予め算出する。この算出を、複数の日に渡って行う。そして、複数ケースの鋼矢板のそれぞれにおいて対象領域毎に付されたクラスラベルと、複数の日に渡る対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データとが対応して構築されたデータセットを、所定の比率で訓練用データと評価用データに分割する。このようにして得られた訓練用データと評価用データにより、ランダムフォレストを用いてモデルに機械学習を施し、学習済みモデル(板厚推定のアルゴリズム)を構築する。なお、学習済みモデルの評価については、後の(実施例)の項で説明する。
【0061】
ステップS106に続いて、制御部410は、診断部415の機能で腐食状況診断を行う(ステップS107)。例えば、診断部415は、対象領域毎に算出した推定値(クラスラベルの値)に基づき、熱画像において板厚の減少が認められる対象領域(セル画像4)を着色するなどして、図7に示すように、腐食、孔食の発生可能性が高い箇所を可視化した診断画像を生成する。例えば、診断部415は、板厚の減少度に応じて段階的に変化する色を、腐食あるいは腐食の蓋然性が高い対象領域(セル画像4)に付せばよい。そして、制御部410は、出力部416の機能で表示部440に診断画像を表示させる。なお、診断部415による腐食診断は、図7に示す診断画像によるものに限られない。診断部415は、対象領域の位置と、当該対象領域の腐食の度合いと示すテキストデータを生成してもよい。この場合、出力部416は、当該テキストデータを表示部440に表示させる。板厚推定処理の説明は以上である。
【0062】
(測定時間帯決定処理)
測定時間帯決定処理について図4を参照して説明する。測定時間帯決定処理は、前記測定日よりも前の日(好ましくは前日)に実行される。測定時間帯決定処理を開始すると、気象情報取得部412は、前記測定日よりも前の日における鋼板2が設置された地点の気温、日射量、平均風速及び水蒸気圧を含む事前気象情報の時系列データを取得する(ステップS201)。
【0063】
続いて、熱収支解析部413は、気象情報取得部412が取得した事前気象情報の時系列データ、及び、前述の熱収支解析モデルに基づいて、熱収支解析を実行する(ステップS202)。測定時間帯決定処理においては赤外線カメラ200から熱画像データを取得せず、熱収支解析部413は、前述と同様の手法で、鋼板2における板厚推定の対象領域の理論上の表面温度の時系列データを算出する。ここでの対象領域は、仮想の領域であり、水利施設1に使用されている鋼板2の板厚、形状、大きさ等を予め調査した結果に基づいて、熱収支解析を行う際の諸条件が予め定められていればよい。
【0064】
続いて、制御部410は、測定時間帯決定部417としての機能で、ステップS202の熱収支解析結果に基づき、対象領域の板厚の推定に適した前記測定日における時間帯である測定時間帯を決定する(ステップS203)。例えば、測定時間帯決定部417は、ステップS202で算出した、理論上の表面温度の時系列データを参照して表面温度が上昇する時間帯を測定時間帯に決定する。なお、鋼板2の板厚推定に適した時間帯の実例については後の(実施例)の項で述べる。
【0065】
なお、測定時間帯決定部417は、ステップS201で取得した事前気象情報の時系列データに基づき、測定時間帯を決定してもよい。例えば、測定時間帯決定部417は、事前気象情報の時系列データに基づき、(i)気温の上昇過程にあると想定される時間帯、(ii)気温の上昇過程にあると想定され、且つ、風速が予め定めた閾値以下となる時間帯などを測定時間帯として決定してもよい。こうした場合、測定時間帯決定処理のステップS202の処理を省略してもよい。
【0066】
また、ステップS202で、熱収支解析部413は、算出した理論上の表面温度の時系列データに基づき、鋼板2における板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出してもよい。そして、ステップS203で測定時間帯決定部417は、当該対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、測定時間帯を決定してもよい。例えば、測定時間帯決定部417は、既に構築した学習済みモデルに基づき、板厚推定において、説明変数としての正味放射量又は顕熱輸送量の重要度が高い時間帯を測定時間帯として決定してもよい。こうした場合、例えば、対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データが入力された際に、その対象領域の板厚の推定における重要度を出力するように、教師データを用いた機械学習が施された学習済みモデルをさらに構築してもよい。この重要度は、その高さに応じて予め定められた複数の段階(ラベル)で表される。測定時間帯決定部417は、このように構築した学習済みモデルに基づき、説明変数の重要度を算出し、算出した重要度が予め定めた閾値よりも高くなる時間帯を測定時間帯として決定することができる。
【0067】
板厚推定部414は、前述の板厚推定処理において、上記のように測定時間帯決定部417によって決定された測定時間帯における対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、当該対象領域の板厚の推定値を算出することができる。なお、測定時間帯決定部417が決定した測定時間帯は、あくまで測定日の参考として用いられればよく、板厚推定処理で用いる熱画像の時系列データ、気象情報の時系列データなどのデータは、この測定時間帯に拘束されるものではない。測定時間帯決定部417が決定した測定時間帯を板厚推定処理に反映するか否かは、操作者の判断に委ねられる。測定時間帯決定処理の説明は以上である。
【0068】
ここで、水利施設1の一例である鋼矢板水路の性能低下の特徴は、水位変動領域において腐食が進行することにある。特に農業用鋼矢板水路では、粗放的な施設管理から設置後10年程度で腐食が顕在化する施設が多数確認され,腐食進行に伴う孔食や座屈破壊の危険性が指摘されている。以上に説明した板厚推定手法を用いれば、非破壊かつ非接触検査により鋼矢板水路に使用された鋼板2の板厚を推定し、推定した板厚に基づき腐食状況を評価することができる。以下では、板厚推定装置400を利用した板厚推定方法の実験的検討結果を一実施例として説明する。本願発明者らは、一実施例として、以下に説明する条件により実験を行った。
【0069】
(実施例)
1.鋼矢板サンプルモデル実験概要
板厚の異なる鋼矢板サンプルとして、Case A(新設)、Case B(腐食(孔あり))、Case C(腐食(孔なし))の3ケースを実験環境下に設置し、気象条件と板厚に応じた温度の相違を評価するためのモデル実証実験を実施した。下記(表3)に本試験における検討ケースを示す。
【0070】
【表3】
【0071】
本実験での計測項目は気象データ、鋼矢板の温度データ(熱電対使用・接触)および熱画像(非接触)とした。試験日は2021年5月4日~2021年5月7日、実験場所は新潟大学農学部棟屋上とした。図8(a)、(b)に実験状況を示す。データの計測間隔について、気象データと熱電対データは10分間隔、熱画像は1時間間隔とした。気象データとして、気温、日射量、平均風速、最大瞬間風速、降水量、大気圧および水蒸気圧を取得した。これら気象データのうち、板厚推定装置400で使用する解析モデルに用いたデータ(前述の気象情報に相当)は、気温、日射量、平均風速および水蒸気圧である。熱電対は、1つの鋼矢板サンプルにつき6箇所に設置した。ウェブについては熱画像の解析面となるため、表面への熱電対の設置は行わなかった。気象観測装置としてATMOS-41複合型気象計測ユニット(METER社製)、熱電対としてK熱電対(東洋熱化学社製)、赤外線サーモグラフィカメラとしてInfRec R300SR(日本アビオニクス社製)を使用した。
【0072】
2.評価フロー
図9に本実験の評価フローを示す。
【0073】
3.気象情報の取得
図10(a)~(d)に解析モデルに用いた気象情報の時系列データを示す。図10(a)は気温、図10(b)は日射量、図10(c)は平均風速、図10(d)は水蒸気圧を示す。なお、これら気象情報については10分間隔で取得した。
【0074】
4.熱電対による鋼矢板の温度データの取得
熱電対は、1つの鋼矢板サンプルにつき6箇所(1ch:フランジ南側表面、2ch:フランジ南側裏面、3ch:ウェブ南側裏面、4ch:ウェブ北側裏面、5ch:フランジ北側表面、6ch:フランジ北側裏面)に設置した。熱電対の配置を図11(a)、(b)に示す。なお、各chの温度データについては10分間隔で取得した。このうち、各検討ケースにおけるウェブの温度データについては後の解析で用いた。フランジでは鋼矢板サンプルの表面と裏面に熱電対を設置したことから、表裏で温度差が生じるのかを実測値により検証した。図12(a)~(f)に、フランジに設置した熱電対による表面温度と裏面温度の関係を示す。図12(a)~(f)に示すように、鋼材の比較的大きい熱伝導率により、表裏の温度差は小さく、サンプル内部における温度勾配は非常に小さい(温度が一様)ことが示された。
【0075】
5.熱画像による非接触での温度計測
赤外線サーモグラフィカメラにより、1日のうち4~19時の時間帯につき、1時間間隔(計16時点)で熱画像を取得した。熱画像は、図5にその一部を示すような画像である。
【0076】
6.熱収支解析
熱収支解析では、気象情報に基づいて鋼矢板での熱収支を計算することで、表面温度を再現することを試みた。解析結果においては、板厚に応じた表面温度の相違の再現と、その相違が生じる時間帯の特定に着目した。熱収支解析モデルは、図6、(数1)~(数20)を参照して、前記実施形態で説明した通りである。本実験では、板厚の検討ケースとして腐食による板厚の減少を考慮し、5mm(健全)、4mm、3mm、2mm及び1mmとした。熱収支解析に用いた物性値は、前記の(表1)及び(表2)に示す値を用いた。ここでは、熱画像を用いずに、気象情報の時系列データと、当該物性値とに基づき、鋼矢板の理論上の表面温度を算出した。解析条件は以下の通りである。
<解析条件>
・空間ステップ:0.0005m(0.5mm)
・時間ステップ:0.008s
・初期条件:0時00分の熱伝対実測値(鋼矢板の内部を含め一定とした。)
・境界条件:表面については熱収支により算出する温度とし、裏面を断熱境界とした。
・気象情報:気温、日射量、平均風速及び水蒸気圧を10分毎に与えた。
・計算時間:約90分(4日分のデータの計算に要した時間)
・レイノルズ数を求める際の代表長さ:鋼矢板におけるウェブの短手方向の長さの半分である0.07m(7cm)とした。
【0077】
7.熱収支解析と赤外線計測の結果および考察
7.1.計算値と実測値のフィッティングの検証
板厚5mmを仮定した熱収支解析による表面温度の計算値(つまり、理論上の表面温度)と、板厚5mmで一定の新設の鋼矢板サンプルCase Aにおけるウェブの熱電対データ(実測温度)とを比較した。前述のように、フランジの両面に設置した熱電対を用いた実証実験により、表裏による温度差は小さいことが確認されたため、ウェブの裏面に設置した熱電対によるデータを用いた。図13に、計算値と実測値を比較した結果を示す。同図を参照すると、2021/5/5と2021/5/7の曇りや雨の日においては、日中の一部で計算値と実測値の相違が生じていることが分かる。しかしながら、2021/5/4と2021/5/6の晴れの日においては、計算値により実測値が概ね再現されていることが確認された。このように、熱収支解析によって鋼矢板の温度の再現が可能であることが示されたため、続いて、解析で設定する板厚に応じた温度の相違について検討した。
【0078】
図14(a)、(b)に、計算値と実測値のフィッティングが良好であった2021/5/4と2021/5/6の日における板厚に応じた温度の相違を示す。この検討では、いずれも計算値を用いた。図14(a)、(b)では第1縦軸の温度に加え、第2縦軸として相対温度を記した。ここでの相対温度は、板厚5mmにおける温度を基準(分母)とし、それぞれの板厚の温度を分子とした場合の割合を表している。午前に着目すると、2021/5/4の5~8時(図14(a))と2021/5/6の5~10時(図14(b))の時間帯において、板厚が薄いほど相対温度が高い傾向が確認された。午後に着目すると、2021/5/4の17~20時(図14(a))と2021/5/6の16~20時(図14(b))の時間帯において、板厚が薄いほど相対温度が低い傾向が確認された。10時~16時の時間帯においてはいずれの日も、板厚が薄いほど特定の時間間隔での相対温度の変化量(増加量・減少量)が大きい傾向が確認された。これにより、板厚に応じた温度の相違が顕在化する時間が熱収支解析により特定可能であることが示された。なお、熱電対データにおいても同様の傾向が確認されるか検討したが、図14(a)、(b)の熱収支解析による結果に近い傾向が確認された。つまり、接触型の温度実測値においても板厚に応じた温度の相違が生じることが確認された。
【0079】
7.2.熱画像データの標準化
2021/5/4~5/7における4~19時の1時間間隔で取得した熱画像による温度データの時間変化について検討を行った。熱画像において解析範囲はウェブ(南側と北側)とした。解析範囲は、前述のようにセル画像として分割した。セル画像の大きさは11×13pixel(縦×横)とし、南側と北側のそれぞれのウェブにおいて3×17(縦×横)の51個のセル画像に分割した。つまり、ウェブ南側のセル画像は51個、ウェブ北側のセル画像は51個で、ウェブ南側とウェブ北側のセル画像の合計は102個である。なお、各セル画像の中央部に板厚の測定点が位置するようにした。サンプルの放射率のばらつきによる温度の相違を小さくするため、各セルにおいて平均値0℃、標準偏差1℃となるように温度を標準化した。図15(a)~(d)に、各測定日での標準化前におけるウェブ南側の熱画像データと熱電対データの関係を示す。図16(a)~(d)に、各測定日での標準化前におけるウェブ北側の熱画像データと熱電対データの関係を示す。図17(a)~(d)に、各測定日での標準化後におけるウェブ南側の熱画像データと熱電対データの関係を示す。図18(a)~(d)に、各測定日での標準化後におけるウェブ北側の熱画像データと熱電対データの関係を示す。標準化したことにより、熱電対データと熱画像データがy=xの比例関係に近づく結果となった。なお、無相関の検定結果については図15図18のいずれの場合も有意水準1%による有意差が認められた。
【0080】
8.機械学習による板厚の評価
8.1.解析フロー
熱収支解析により明らかとなった板厚に応じた温度の相違について、機械学習を援用することで板厚の詳細な評価を試みた。図19に機械学習による解析フローを示す。
【0081】
8.2.解析条件
前述のように、1つの検討ケースにつきウェブ南側とウェブ北側のセル画像の合計が102個得られる。これをCase A, Case B, Case Cで合算すれば、合計306個のセル画像が得られる。これら306個のセル画像の各々に相当する箇所の板厚を実測することで得られる、板厚の306データ(Case A, Case B, Case Cの各102データ)を訓練用データと評価用データに5:5で分割した。説明変数として、各日での4時~19時までの1時間ごとの正味放射量(16データ)と各日での4時~19時までの1時間ごとの顕熱輸送量(16データ)の32データを用いた。正味放射量と顕熱輸送量は、前述の通り、算出過程で表面温度を用いるが、この表面温度として各セル画像における熱画像データを用いた。板厚については3段階に分類し、次の(表4)に示すように、クラスラベルを付与した。
【0082】
【表4】
【0083】
8.3.アルゴリズムの構築
教師あり学習のひとつであるランダムフォレストを用いて板厚推定のアルゴリズムを構築した。ランダムフォレストは、訓練用データにおいて重複を認めたデータセットを用いることが可能である。その他の利点として、決定木より過学習が発生せず高精度な識別が可能なこと、処理速度が速いことが挙げられる。あるノードtにおける不純度を表すジニ係数は、次の(数11)式により表される。
【0084】
【数11】
【0085】
ここで、p(c|t)はノードtでi番目のクラスのデータが選ばれる確率を表す。ジニ係数による不純度の減少量ΔL(t)が最大となるように木を分岐させる。これを次の(数12)式に示す。
【0086】
【数12】
【0087】
ここで、pおよびpはそれぞれ分割した後に左側と右側の枝に分類される確率、tおよびtはそれぞれ左側と右側の枝の先でのノードである。図20にランダムフォレストの概念図を示す。
【0088】
8.4.モデル精度の比較
ランダムフォレストによる機械学習が施された学習済みモデルの精度を次の4指標により比較した。
1)正解率:全予測に対する正答率
2)再現率:実際に正であるもののうち、正であると予測されたものの割合
3)適合率:正と予測したデータのうち、実際に正であるものの割合
4)F値:適合率と再現率の調和平均
なお、再現率、適合率、F値については、クラスごとにそれぞれ算出し、平均値として評価した。精度の比較について、次の(表5)に示す。検討結果より、日付によらず、全ての指標において0.8以上の高精度で板厚を分類できることが明らかになった。2021/5/4とその他で精度が異なるのは、2021/5/4においては風速3m/s以上が頻発したことが影響していると考えられる。正味放射量と顕熱輸送量を用いることで、板厚の推定及び評価が可能なことが明らかとなった。
【0089】
【表5】
【0090】
8.5.説明変数の重要度
説明変数の重要度は判別における各説明変数の寄与率を示す指標である。本実験では、ジニ係数の減少量をサンプルサイズで重み付けして重要度を算出した。説明変数の重要度について気象情報の気温と比較したものを図21(a)、(b)と図22(a)、(b)に、風速と比較したものを図23(a)、(b)と図23(a)、(b)に示す。その中で、重要度が上位の説明変数について、次の(表6)に示す。顕熱輸送量は4~12時の午前中の時間帯での重要度が高く、正味放射量は10~13時の時間帯で重要度が高い結果となった。機械学習による板厚の推定結果から、測定日における気温上昇過程(気温が上昇する時間帯)での説明変数を用いることで板厚を良好に推定できることが示された。
【0091】
【表6】
【0092】
本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変形(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に変形の一例を説明する。
【0093】
以上では、ランダムフォレストを用いて学習済みモデルを構築した例を示したが、学習済みモデルは、ニューラルネットワーク等の他の周知の機械学習を用いて構築されもよい。
【0094】
以上では、板厚推定装置400が気象観測装置300から気象情報を取得する例を示したが、これに限られない。板厚推定装置400は、広域ネットワークを介して既設の気象観測装置と通信を行い、当該気象観測装置から鋼板2の設置箇所と同様の気象環境と見做せる地点における気象情報を取得してもよい。
【0095】
板厚推定システム100を構成する一部、例えば、赤外線カメラ200は、UAV(unmanned aerial vehicle)(通称、ドローン)に搭載され、遠隔操作により鋼板2を測定可能であってもよい。また、赤外線カメラ200等の構成は、遠隔操作可能な陸上走行ロボットなどの他の移動体に搭載されていてもよい。
【0096】
以上では、鋼板2が水利施設に使用される鋼矢板である例を説明したが、板厚推定対象の鋼板2の種類は任意であり、これに限られない。板厚推定システム100及び板厚推定装置400によって板厚が推定される対象の鋼板2は、土留め用の鋼矢板、土木用の鉄板、鉄塔用の鋼板などであってもよい。
【0097】
以上では、気象情報取得部412が取得する気象情報が、気温、日射量、平均風速及び水蒸気圧のすべてを含む例を説明したが、これに限られない。例えば、熱収支解析部413が熱収支解析モデルに基づいて、板厚推定の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量を算出するにあたって、気象情報を構成する各種情報のうち、他の情報よりも有意度が劣る情報を近似的に扱った上で、正味放射量及び顕熱輸送量を算出してもよい。つまり、気象情報は、気温、日射量、平均風速及び水蒸気圧の少なくともいずれかを含んでいればよい。
【0098】
以上に説明した板厚推定処理及び測定時間帯決定処理を実行するプログラムは、制御部410のROMに予め記憶されているものとしたが、着脱自在の記録媒体により配布・提供されてもよい。また、当該プログラムは、板厚推定装置400と接続された他の機器からダウンロードされるものであってもよい。また、板厚推定装置400は、他の機器と電気通信ネットワークなどを介して各種データの交換を行うことにより当該プログラムに従う各処理を実行してもよい。
【0099】
以上に説明した板厚推定装置400は、熱画像取得手段(熱画像取得部411)、気象情報取得手段(気象情報取得部412)、熱収支解析手段(熱収支解析部413)及び板厚推定手段(板厚推定部414)を備える。また、板厚推定装置400を用いた板厚推定方法は、これら各手段が実行する各ステップを備える。また、板厚推定装置400に用いられるプログラムは、コンピュータ(制御部410)をこれらの手段として機能させる。
板厚推定装置400、当該板厚推定方法及び当該プログラムによれば、熱画像と気象情報とを解析するだけでよいため、既設の構造物を構成する鋼板2であっても、非破壊・非接触の検査によって、その板厚を簡易に推定することができる。
【0100】
また、熱収支解析手段は、気象情報取得手段が取得した気象情報の時系列データ、及び、熱収支解析モデルに基づいて、対象領域の理論上の表面温度(表面温度の推定値)の時系列データを算出可能である。熱収支解析手段は、熱画像に基づく対象領域の表面温度の時系列データを用いるとともに、理論上の表面温度の時系列データを必要に応じて用いて、対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出してもよい。
この構成によれば、熱画像に基づく表面温度だけでなく、必要に応じて理論上の表面温度を解析に用いることができる。
【0101】
また、板厚推定手段は、少なくとも、測定日において気温が上昇していく時間帯の対象領域の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、対象領域の板厚の推定値を算出してもよい。
この構成によれば、測定日において測定及び観測すべきデータ(熱画像の時系列データ及び気象情報の時系列データ)の収集量を低減でき、効率的に鋼板2の板厚を推定することができる。
【0102】
また、熱収支解析手段は、熱画像を各々が対象領域に相当する複数のセル画像4に分割し、熱画像の対象領域毎の時系列データ、気象情報の時系列データ、及び、熱収支解析モデルに基づいて、対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データを算出してもよい。この場合、板厚推定手段は、対象領域毎の正味放射量及び顕熱輸送量の時系列データに基づき、対象領域毎の板厚の推定値を算出する。
この構成によれば、セル画像4のサイズの設定により、解析対象の解像度を任意に調整可能である。
【0103】
また、板厚推定装置400は、板厚推定手段が算出した対象領域の板厚の推定値に基づき、対象領域の腐食状況を診断する診断手段をさらに備えていてもよい。
この構成によれば、非破壊・非接触の検査により、鋼板2の腐食状況まで診断でき有用である。
【0104】
また、気象情報取得手段は、測定日よりも前の日における地点の気温、日射量、平均風速及び水蒸気圧を含む事前気象情報の時系列データを取得してもよい。そして、板厚推定装置400は、気象情報取得手段が取得した事前気象情報の時系列データに基づいて、対象領域の板厚の推定に適した測定日における時間帯である測定時間帯を決定する測定時間帯決定手段(測定時間帯決定部417)をさらに備えていてもよい。
この構成によれば、測定日において測定及び観測すべきデータ(熱画像の時系列データ及び気象情報の時系列データ)の収集量を低減し得るため、効率的である。
【0105】
また、測定時間帯決定手段は、気象情報取得手段が取得した事前気象情報の時系列データ、及び、熱収支解析モデルに基づいて、対象領域の理論上の表面温度の時系列データを算出し、算出した理論上の表面温度の時系列データを用いて、測定時間帯を決定してもよい。
この構成によれば、測定日における鋼板2の表面温度の推移を予測できるため、効率的な鋼板2の板厚推定が可能である。
【0106】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0107】
100…板厚推定システム
200…赤外線カメラ、300…気象観測装置
400…板厚推定装置
410…制御部
411…熱画像取得部
412…気象情報取得部
413…熱収支解析部
414…板厚推定部
415…診断部
416…出力部
417…測定時間帯決定部
420…記憶部、430…操作部、440…表示部、450…通信部
1…水利施設、2…鋼板、3…水路、4…セル画像
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