IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

特開2024-27000熱可塑性エラストマー組成物、フィルム、及び成形体
<>
  • 特開-熱可塑性エラストマー組成物、フィルム、及び成形体 図1
  • 特開-熱可塑性エラストマー組成物、フィルム、及び成形体 図2
  • 特開-熱可塑性エラストマー組成物、フィルム、及び成形体 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027000
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物、フィルム、及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240221BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20240221BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C08L67/00
C08G63/60
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129662
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】手塚 理恵
(72)【発明者】
【氏名】田中 一也
(72)【発明者】
【氏名】中山 祐正
(72)【発明者】
【氏名】塩野 毅
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J002CF18W
4J002CF18X
4J029AA05
4J029AB07
4J029AC03
4J029AD07
4J029AE01
4J029AE03
4J029BA07
4J029CA02
4J029EA02
4J029EA03
4J029EA05
4J029EG01
4J029EG02
4J029EH02
4J029EH03
4J029HA01
4J029HB01
4J029KB16
4J029KE05
4J029KE17
4J200AA04
4J200AA06
4J200BA02
4J200BA05
4J200BA13
4J200BA14
4J200BA16
4J200BA17
4J200BA19
4J200CA01
4J200EA09
4J200EA21
(57)【要約】
【課題】耐低温特性に優れる熱可塑性エラストマー組成物の提供。
【解決手段】脂肪族ポリエステルと、ソフトセグメント及びハードセグメントを有するブロック共重合体とを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、前記ブロック共重合体は、前記ソフトセグメントが脂肪族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位及び脂肪族ジオールに由来するジオール単位からなる脂肪族ポリエステルセグメントであり、前記ハードセグメントがヒドロキシ酸に由来するヒドロキシ酸単位からなるポリエステルセグメントであり、前記脂肪族ジオールが側鎖置換基を持ちヒドロキシ基がいずれも第一級である脂肪族ジオールである、熱可塑性エラストマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルと、ソフトセグメント及びハードセグメントを有するブロック共重合体とを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記ブロック共重合体は、
前記ソフトセグメントが脂肪族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位及び脂肪族ジオールに由来するジオール単位からなる脂肪族ポリエステルセグメントであり、
前記ハードセグメントがヒドロキシ酸に由来するヒドロキシ酸単位からなるポリエステルセグメントであり、
前記脂肪族ジオールが側鎖置換基を持ちヒドロキシ基がいずれも第一級である脂肪族ジオールである、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステルが、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、及び4-ヒドロキシ酪酸からなる群から選択される少なくとも1種に由来するヒドロキシ酸単位からなるポリエステルである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記ブロック共重合体の割合が前記脂肪族ポリエステル及び前記ブロック共重合体の合計100質量部に対して1~80質量部である、
請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記ハードセグメントの割合が前記ソフトセグメント及び前記ハードセグメントの合計に対して5~70質量%である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記脂肪族ジオールが、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、及び4-メチル-1,7-ヘプタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシ酸が、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、及び4-ヒドロキシ酪酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記脂肪族ジカルボン酸が、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記ブロック共重合体がトリブロック共重合体又はマルチブロック共重合体である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム又は成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性エラストマー組成物、フィルム、及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー(TPE:Thermoplastic Elastomer)は、常温ではゴム弾性を示し、加熱すると流動化して熱可塑性プラスチックと同様に成形できる性質を持った弾性材料である。TPEは、一般的な加硫ゴムと比較して、加工性及びリサイクル性に優れている。しかし、ほとんどのTPEは石油などの化石資源を原料として合成され、自然環境中で分解しにくい材料であることから、より環境負荷の低い材料の開発が望まれている。
TPEは、ガラス転移温度(T)が低く柔軟なソフトセグメント(S)と、ガラス転移温度(T)又は融点(T)が高く塑性変形を防止する剛直なハードセグメント(H)とから構成され、H-S-H型トリブロック共重合体、多ブロック共重合体、又はグラフト共重合体などの構造を持つ。
一方、ポリ乳酸(PLA:polylactic acid)が環境にやさしい高分子材料として注目されている。PLAの原料である乳酸は糖類の乳酸発酵により再生可能資源から得られる。また、PLAはコンポスト中で高い生分解性を示す。一般的に生産されているPLAは、L-乳酸から合成されるポリ(L-乳酸)(PLLA:poly(L-lactic acid)であり、170℃程度の融点(T)及び60℃程度のガラス転移温度(T)を有する半結晶性高分子であり、室温では比較的硬質なプラスチックである。
TPEのハードセグメントとして、PLAを用いることにより、少なくとも部分生分解性を有するTPEとなる。ソフトセグメントも生分解性であれば、完全生分解性TPEを構築できる。いくつかのPLA-b-(ソフトセグメント)-b-PLA型のトリブロック共重合体が合成されている。
【0003】
非特許文献1には、バイオマス由来のメントン(M:menthone)から合成されるポリメンチド(PM:polymenthide)をソフトセグメント、ポリ乳酸(PLA)をハードセグメントとするトリブロック共重合体PLA-b-PM-b-PLAが高い破断伸度(~960%)を示したことが開示されている。
【0004】
非特許文献2には、ポリ(6-メチル-ε-カプロラクトン)(PMCL:poly(6-methyl-ε-caplolactone)をソフトセグメント、ポリ乳酸(PLA)をハードセグメントとするトリブロック共重合体PLA-b-PMCL-b-PLAがさらに高い破断伸度(~1880%)を示したことが開示されている。
【0005】
しかし、PMの単量体であるメントン(M)やPMCLの単量体である6-メチル-ε-カプロラクトン(MCL)は入手しやすいとはいえないことから、工業生産されており比較的入手しやすい原料から合成可能なソフトセグメントを用いることが検討されている。
【0006】
ε-カプロラクトン(CL)の重合により得られるポリ(ε-カプロラクトン)(PCL:poly(ε-caplolactone))は、生分解性高分子の一つである。PCLは、-60℃程度の低いTを有するが、Tが60℃程度の半結晶性高分子である。TPEのソフトセグメントとしては非晶性であることが好ましい。
【0007】
非特許文献3には、ε-カプロラクトン(CL)をDL-ラクチド(DLLA:DL-lactide)と共重合することにより非晶性ランダム共重合体(P(CL-r-DLLA))を合成し、これを高分子開始剤としてL-乳酸(LLA:L-lactic acid)をブロック共重合することにより、PLLA-b-P(CL-r-DLLA)-b-PLLAを合成したこと(下式)が記載されている。また、得られたトリブロック共重合体PLLA-b-P(CL-r-DLLA)-b-PLLAは、LAブロック由来の高いTm及びP(CL-r-DLLA)ブロック由来の低いTg(-30℃前後)を有していたこと、並びに長いソフトセグメント及び短いハードセグメントを持つサンプル(75-600-75)は報告されているPLA含有TPEの中で最も高い破断伸度(2800%)を有していたこと、が開示されている。
【0008】
【化1】
【0009】
非特許文献4~6には、入手しやすい2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP:2-methyl-1,3-propanediol)とコハク酸(SA:succinic acid)(非特許文献4)、グルタル酸(GA:glutaric acid)(非特許文献5)、又はアジピン酸(AA:adipic acid)(非特許文献6)との重縮合により生成する非晶性脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとして用いたPLLAとのトリブロック共重合体を合成したこと(下式)が開示されている。また、合成した非晶性脂肪族ポリエステルは、低いT(PMPS,-44~-24℃;PMPG,-51~-46℃;PMPA,-53~-46℃)を有していたこと、PMPAは海水中で高い生分解性を示すこと、が開示されている。
【0010】
【化2】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Wanamaker, C. L.,外4名、“Renewable-Resource Thermoplastic Elastomers Based on Polylactide and Polymenthide”、Biomacromolecules、2007年、第8巻、第11号、p.3634-3640
【非特許文献2】Martello, M. T.,Hillmyer, M. A.、“Polylactide-Poly(6-methyl-ε-caprolactone)-Polylactide Thermoplastic Elastomers”、Macromolecules、2011年、第44巻、第21号、p.8537-8545
【非特許文献3】Nakayama, Y.,外6名、“Synthesis of Biodegradable Thermoplastic Elastomers from epsilon-Caprolactone and Lactide”、J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem.、2015年、第53巻、第3号、p.489-495
【非特許文献4】Zahir, L.,外7名、“Synthesis and properties of biodegradable thermoplastic elastomers using 2-Methyl-1,3-propanediol, succinic acid and lactide”、Polym. Degrad. Stab.、2020年、第181巻、p.109353
【非特許文献5】Zahir, L.,外7名、“Synthesis, Properties, and Biodegradability of Thermoplastic Elastomers Made from 2-Methyl-1,3-propanediol, Glutaric Acid and Lactide”、Life、2021年、第11巻、p.43
【非特許文献6】Zahir, L.,外7名、“Synthesis of thermoplastic elastomers with high biodegradability in seawater”、Polym. Degrad. Stab.、2021年、第184巻、p.109467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
脂肪族ポリエステル用高分子量可塑剤としての熱可塑性エラストマー(TPE)のソフトセグメントとしては、耐低温特性の観点からは、ガラス転移温度(Tg)が低いほど有利となる。
【0013】
本発明は、耐低温特性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1] 脂肪族ポリエステルと、ソフトセグメント及びハードセグメントを有するブロック共重合体とを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記ブロック共重合体は、
前記ソフトセグメントが脂肪族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位及び脂肪族ジオールに由来するジオール単位からなる脂肪族ポリエステルセグメントであり、
前記ハードセグメントがヒドロキシ酸に由来するヒドロキシ酸単位からなるポリエステルセグメントであり、
前記脂肪族ジオールが側鎖置換基を持ちヒドロキシ基がいずれも第一級である脂肪族ジオールである、
熱可塑性エラストマー組成物。
[2] 前記脂肪族ポリエステルが、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、及び4-ヒドロキシ酪酸からなる群から選択される少なくとも1種に由来するヒドロキシ酸単位からなるポリエステルである、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3] 前記ブロック共重合体の割合が前記脂肪族ポリエステル及び前記ブロック共重合体の合計100質量部に対して1~80質量部である、
[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4] 前記ハードセグメントの割合が前記ソフトセグメント及び前記ハードセグメントの合計に対して5~70質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5] 前記脂肪族ジオールが、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、及び4-メチル-1,7-ヘプタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[6] 前記ヒドロキシ酸が、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、及び4-ヒドロキシ酪酸からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[7] 前記脂肪族ジカルボン酸が、ピメリン酸(ヘプタン二酸)、スベリン酸(オクタン二酸)、アゼライン酸(ノナン二酸)、及びセバシン酸(デカン二酸)からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[8] 前記ブロック共重合体がトリブロック共重合体又はマルチブロック共重合体である、[1」~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム又は成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐低温特性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、PMPA並びに合成例1~4及び6のポリエステル(PMPi、PMSu、PMPAz-1、PMPAz-2、PMSe)の海水中での生分解性を示すグラフである。
図2図2は、合成例12及び13のブロック共重合体(TPE-Az-1、TPE-Az-2)、参考例1のポリL-乳酸(PLLA)、合成例3及び4のポリエステル(PMPAz-1、PMPAz-2)の海水中での生分解性を示すグラフである。
図3図3は、合成例14のブロック共重合体(TPE-Az-3)の応力-歪み曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0018】
本発明において、数値範囲を「~」を用いて示す場合、その数値範囲には「~」の両側の数値が含まれる。
本発明において、「X以上」及び「X以下」にはXが含まれ、「X超」及び「X未満」にはXが含まれない。ただし、Xは実数とする。
本発明において、「耐低温特性」とは、どの程度の低温までソフトセグメントがゴム状態を維持できるかを意味する。換言すると、ガラス転移温度が低いほど、耐低温特性に優れるといえる。
【0019】
本発明において、高分子化合物の数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC,Gel Permeation Chromatography)によって測定したポリスチレン換算分子量である。
GPC測定の条件は、以下のとおりである。
使用装置:東ソー HLC-8320GPC
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
移動相流量:1.0ml/min
カラム:東ソー TSKgelカラム G2000HHR,G3000HHR,G4000HHRおよびG5000HHR
カラム温度:40℃
試料濃度:3.5mg/mL
試料注入量:10μL
標準物質:ポリスチレン
分子量分布(Mw/Mn)は、GPC測定により得られたMn及びMwから算出する。
【0020】
本発明において、高分子化合物のガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、及び融解熱量(ΔHm)は、示差熱量走査測定(DSC,Differential Scanning Calorimetry)によって測定する。
測定条件は以下のとおりである。
使用装置:島津製作所 DSC-60 Plus
昇温速度:10℃/分で200℃に加熱し,10℃/分で-100℃まで冷却した後,加熱速度10℃/分での2回目のDSCスキャンを記録
【0021】
本発明において、高分子を成形したフィルムの引張弾性率、引張強度及び引張伸度は、引張試験(JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995))により測定したものである。
【0022】
本発明において、貯蔵弾性率(E’)は、JIS K 7244-4:1999に従って測定した22℃における値である。
【0023】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、脂肪族ポリエステルと、ソフトセグメント及びハードセグメントを有するブロック共重合体とを含む熱可塑性エラストマー組成物である。
【0024】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物において、前記ブロック共重合体の割合は、前記脂肪族ポリエステル及び前記ブロック共重合体の合計100質量部に対して、1~80質量部が好ましく、5~70質量部がより好ましく、10~60質量部がさらに好ましい。
前記ブロック共重合体の割合が、前記脂肪族ポリエステル及び前記ブロック共重合体の合計100質量部に対して、1~80質量部であると、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の耐低温特性が優れたものとなる。
【0025】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物のJIS K 7244-4:1999に従って測定した貯蔵弾性率(E’)は、0.05~3.0GPaが好ましく、0.10~2.7GPaが好ましく、0.15~2.4GPaがより好ましい。
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の22℃における前記貯蔵弾性率(E’)が0.05~3.0GPaであると、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体の機械的特性が優れたものとなる。
【0026】
<脂肪族ポリエステル>
前記脂肪族ポリエステルの、JIS K 7244-4:1999に従って測定した22℃における貯蔵弾性率(E’)は、3.1GPa以上が好ましく、3.2GPa以上がより好ましく、3.3GPa以上がさらに好ましい。貯蔵弾性率の上限は特に限定されないが、10GPa以下が好ましく、8GPa以下がより好ましく、5GPa以下がさらに好ましい。
前記脂肪族ポリエステルの前記貯蔵弾性率(E’)が3.10GPa以上であると、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体の機械的特性が優れたものとなる。
【0027】
前記脂肪族ポリエステルは、特に限定されないが、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、及び4-ヒドロキシ酪酸からなる群から選択される少なくとも1種に由来するヒドロキシ酸単位からなるポリエステルであることが好ましく、ポリ乳酸であることがより好ましく、ポリL-乳酸であることがさらに好ましい。
【0028】
<ブロック共重合体>
前記ブロック共重合体(熱可塑性エラストマー)は、ソフトセグメント及びハードセグメントを有するブロック共重合体である。
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物において、前記ブロック共重合体は前記脂肪族ポリエステルの高分子量可塑剤として作用する。
【0029】
前記ハードセグメントの割合は、前記ソフトセグメント及び前記ハードセグメントの合計に対して、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることがさらに好ましい。
前記ハードセグメントの割合が前記ソフトセグメント及び前記ハードセグメントの合計に対して5~70質量%であると、本実施形態のブロック共重合体をフィルムとした時の引張特性、具体的には、引張弾性率、引張強度及び引張伸度のうち1つ以上がより優れたものとなる。
【0030】
本実施形態の共重合体は、3つのセグメントからなるトリブロック共重合体又は4つ以上のセグメントからなるマルチブロック共重合体であることが好ましく、トリブロック共重合体であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、8,000以上が好ましく、16,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。
本実施形態のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)が8,000以上であると、本実施形態のブロック共重合体をフィルムとした時の引張特性、具体的には、引張弾性率、引張強度及び引張伸度のうち1つ以上がより優れたものとなる。
本実施形態のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)の上限は特に限定されないが、耐低温特性の観点から、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。
本実施形態のブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は通常1.0超であり、1.0に近いほど分子量のばらつきが小さくなる。ここで、Mwは質量平均分子量を意味する。
【0032】
本実施形態のブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、耐低温特性の観点から、低いことが好ましく、具体的には、-50℃以下であることが好ましく、-55℃以下であることがより好ましく、-60℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移温度の下限は特に限定されず、低ければ低いほど好ましい。
本実施形態のブロック共重合体の融点は、特に限定されないが、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。融点の上限は特に限定されず、高ければ高いほど好ましい。
本実施形態のブロック共重合体の融解熱量(ΔHm)は、特に限定されないが、40J/g以下であることが好ましく、30J/g以下であることがより好ましく、20J/g以下であることがさらに好ましい。融解熱量の下限は特に限定されないが、0.1J/g以上であることが好ましく、0.5J/g以上であることがより好ましく、1.0J/g以上であることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態のブロック共重合体の引張弾性率は、特に限定されないが、フィルムの機械的強度がより優れたものとなることから、引張試験(JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995))による測定値で、0.01~3,000MPaが好ましく、0.1~2,000MPaがより好ましく、1~1,000MPaがさらに好ましい。
本実施形態のブロック共重合体の引張強度は、特に限定されないが、フィルムの機械的強度がより優れたものとなることから、引張試験(JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995))による測定値で、1MPa以上が好ましく、5MPa以上がより好ましく、10MPa以上がさらに好ましい。引張強度の上限は特に限定されず、高ければ高いほど好ましい。
本実施形態のブロック共重合体の引張伸度は、特に限定されないが、フィルムの機械的強度がより優れたものとなることから、引張試験(JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995))による測定値で、10%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、1,000%以上がさらに好ましい。引張伸度の上限は特に限定されず、高ければ高いほど好ましい。
【0034】
前記ソフトセグメントは、脂肪族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位及び脂肪族ジオールに由来するジオール単位からなる脂肪族ポリエステルセグメントである。
【0035】
前記脂肪族ジカルボン酸は、炭素数7以上10以下の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
前記脂肪族ジカルボン酸が炭素数7以上10以下の脂肪族ジカルボン酸であると、脂肪族ジオールとの脱水縮合により得られる脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)をより低くすることができ、さらには、本実施形態のブロック共重合体が、より低いガラス転移温度(Tg)を有し、より優れた耐低温特性を有することとなる。
前記炭素数7以上10以下の脂肪族ジカルボン酸としては、ピメリン酸(PiA;炭素数=7)、スベリン酸(SuA;炭素数=8)、アゼライン酸(AzA;炭素数=9)、及びセバシン酸(SeA;炭素数=10)が例示され、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、アゼライン酸(AzA)がより好ましい。
前記脂肪族ジカルボン酸は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0036】
前記脂肪族ジオールは、側鎖置換基を持ちヒドロキシ基がいずれも第一級である脂肪族ジオールである。前記側鎖置換基としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
前記側鎖置換基を持ちヒドロキシ基がいずれも第一級である脂肪族ジオールとしては、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,7-ヘプタンジオール、3-メチル-1,7-ヘプタンジオール、及び4-メチル-1,7-ヘプタンジオールが例示され、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、2-メチル-1,3-プロパンジオールがより好ましい。
前記脂肪族ジオールは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
【0037】
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、下限として、4,000以上が好ましく、8,000以上がより好ましく、16,000以上がさらに好ましい。前記脂肪族ポリエステルの数平均分子量(Mn)が4,000以上であると、本実施形態のブロック共重合体をフィルムとした時の引張特性、具体的には、引張弾性率、引張強度及び引張伸度のうち1つ以上がより優れたものとなる。
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルの分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は通常1.0超であり、1.0に近いほど分子量のばらつきが小さくなる。ここで、Mwは質量平均分子量を意味する。
【0038】
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、本実施形態のブロック共重合体の耐低温特性の観点から、低いことが好ましく、具体的には、-50℃以下であることが好ましく、-55℃以下であることがより好ましく、-60℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移温度の下限は特に限定されず、低ければ低いほど好ましい。
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルの融点(Tm)及び融解熱量(ΔHm)は、特に限定されないが、存在しない場合もある。
【0039】
前記ハードセグメントは、ヒドロキシ酸に由来するヒドロキシ酸単位からなるポリエステルセグメントである。
【0040】
前記ヒドロキシ酸としては、生分解性の観点から、1分子中にヒドロキシ基及びカルボキシ基をそれぞれ1個有するヒドロキシ酸が好ましい。このようなヒドロキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、及び4-ヒドロキシ酪酸が例示され、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、乳酸がより好ましく、L-乳酸がさらに好ましい。
本実施形態のブロック共重合体を、再生可能資源から得られる原料を用いて合成すれば、化石資源の節約と温暖化ガス排出抑制につながることから、前記ヒドロキシ酸としては、L-乳酸が特に好ましい。
前記ヒドロキシ酸は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、使用することができる。
また、前記ハードセグメントは、本発明の効果を損なわない限り、前記ヒドロキシ酸と共重合可能な化合物に由来する単位を含んでいてもよい。
【0041】
本実施形態のブロック共重合体の製造方法は、特に限定されないが、ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルを合成した後、その脂肪族ポリエステルを高分子開始剤として、ヒドロキシ酸を重合してハードセグメントを構成する方法が好ましい。
【0042】
以下の反応式は、2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)と、ピメリン酸(PiA)、スベリン酸(SuA)、アゼライン酸(AzA)又はセバシン酸(SeA)とを脱水縮合してソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルを合成し、得られた脂肪族ポリエステルにL-ラクチド(LLA)を開環重合してブロック共重合体を合成する反応を示すものである。
【0043】
過剰量のMPと、PiA、SuA、AzA又はSeAとを、反応器に仕込み、非酸化雰囲気中にて、180℃、1atm(1013hPa)で脱水重縮合を行い、さらに180℃、1mmHgの減圧下で過剰のMPを脱離させながら重縮合することにより、ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルを合成できる。得られた脂肪族ポリエステルを高分子開始剤として、LLAを重合することにより、ブロック共重合体が得られる。
【0044】
【化3】
【0045】
ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルを合成する際の触媒及びハードセグメントを構成する単量体を重合する際の触媒としては、例えば、オクチル酸スズ(Sn(Oct))が挙げられる。
【0046】
<他の成分>
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、無機粒子、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、核剤、滑剤、顔料、染料等の添加剤等を含有することができる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
例えば、フィルムに柔軟性をさらに付与する観点からは、可塑剤を含むことが好ましい。
【0047】
前記可塑剤としては、一般的に熱可塑性樹脂に用いられる可塑剤であれば、特に限定されず、例えばフタル酸エステル系化合物、脂肪族一塩基酸エステル系化合物、脂肪族二塩基酸エステル系化合物、トリメリット酸エステル系化合物、ポリエステル系化合物、ジエステル化合物、リン酸エステル系化合物、パラフィン系化合物等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、熱可塑性エラストマー組成物のガラス転移温度を低下させる点から、ジエステル化合物であることが好ましい。
【0048】
前記ジエステル化合物としては、炭素数2~6のジカルボン酸と、芳香族アルコール及び/又はジエチレングリコールモノアルキルエーテルが反応した化合物であることが好ましく、アジピン酸と、ベンジルアルコール及びジエチレングリコールモノメチルエーテルとが反応した化合物であることが特に好ましい。前記ジエステル化合物を用いることで、熱可塑性エラストマー組成物のガラス転移温度を低下させ、フィルムにさらに柔軟性を与えることができる傾向がある。
【0049】
前記ジエステル化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、一般に分子量が小さいほど可塑効果が大きい反面、安定性が低く、フィルム表面へのブリードアウトによるブロッキングおよび汚れ発生の可能性が大きくなる傾向がある。そのため、ジエステル化合物の数平均分子量は、通常200~1500であり、好ましくは300~1000である。
【0050】
また、前記ジエステル化合物の融点は、通常200℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは270℃以上である。上限は通常350℃である。前記融点は、JIS K7121(2012)に準じて測定された、結晶融解ピークのピークトップが示す温度である。
【0051】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物における可塑剤の含有量は、通常4~40質量%であり、好ましくは6~30質量%であり、特に好ましくは8~25質量%である。可塑剤の含有量を上記範囲にすることにより可塑化効果と溶出性のバランスが取れたフィルムとなる傾向がある。
【0052】
[フィルム及び成形体]
本実施形態のフィルム及び成形体は、上述した熱可塑性エラストマー組成物から公知の方法で製造できる。
フィルムの製造方法としては、例えば、脂肪族ポリエステルとブロック共重合体、及び必要に応じて添加剤を単軸、あるいは二軸押出機にて溶融混錬したのちTダイよりフィルム状に押出し、キャスティングロールで冷却、固化することにより、無延伸フィルムを得る押出成形法が挙げられる。
成形体の製造方法としては、例えば、上記フィルムの場合と同様に溶融混錬し、所定の形の金型に樹脂を充填させたのち金型を冷却、固化することで成形体を得る、射出成形法が挙げられる。
【0053】
本実施形態のフィルムの厚さは、特に限定されないが、加工性及び実用性の観点から10~500μmが好ましい。
また、本実施形態の成形体の厚さは、特に限定されないが、500~3000μmが好ましい。
【実施例0054】
以下では実験例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実験例に限定されるものではない。
【0055】
[測定方法]
<数平均分子量(Mn),分子量分布(Mw/Mn)>
高分子化合物の数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC,Gel Permeation Chlomatography)法でポリスチレン換算分子量として測定した。
GPCの条件は以下のとおりである。
使用装置:東ソー HLC-8320GPC
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
移動相流量:1.0ml/min
カラム:東ソー TSKgelカラム G2000HHR,G3000HHR,G4000HHRおよびG5000HHR
カラム温度:40℃
試料濃度:3.5mg/mL
試料注入量:10μL
標準物質:ポリスチレン
分子量分布(Mw/Mn)は、GPC測定により得られたMn及びMwから算出した。
【0056】
<L-乳酸割合(fLLA)>
L-乳酸割合(fLLA)は、高分子化合物のH NMRスペクトルにおいて、ラクチドユニットに由来するプロトンのシグナルとMPAzユニットに由来するプロトンのシグナルの強度比から算出した。H NMRスペクトルは、CDClを溶媒として室温でVarian system 500分光計(500MHz)で測定した。
【0057】
<ガラス転移温度(Tg),融点(Tm),融解熱量(ΔHm)>
1)脂肪族ポリエステル及びブロック共重合体
脂肪族ポリエステル及びブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、及び融解熱量(ΔHm)は、示差走査熱量測定法(DSC,Differential Scanning Calorimetry)により測定した。
具体的には、示差走査熱量計(DSC,Differential Scanning Calorimeter)(型番DSC-60 Plus,島津製作所社製)を用いて、10℃/分の速度にて200℃に加熱し,10℃/分で-100℃まで冷却した後,加熱速度10℃/分での2回目のDSCスキャンを記録し、2回目の加熱スキャンから読み取った。
2)熱可塑性エラストマー組成物
熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムのガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、及び融解熱量(ΔHm)は、JIS K7121(2012)に基づき、示差熱重量同時測定装置「NEXTA STA200RV」(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて窒素雰囲気下の条件で10℃/分の速度にて-70~210℃まで昇温し、-70℃まで降温したのち、210℃まで再昇温して得られたサーモグラムより読み取った。
【0058】
<生分解性試験>
生分解性試験は、生物化学的酸素要求量(BOD)測定により評価した。
具体的には、生物化学的酸素要求量(BOD)試験機(TAITEC、BOD200F)を用いて酸素消費量を測定することにより評価した。海水は大阪南港周辺の海岸線からバケツで採水し、1~2日以内に使用した。通常、250mlのBOD試験瓶にポリエステル試料を30mgずつ加え、海水の上澄み液を200ml加えた。BOD密閉系から蒸発した二酸化炭素(CO)は、水酸化カルシウムで除去した。生分解性試験は、27℃で28日間攪拌しながら実施した。観測されたO消費量は、対照のO消費量との差し引きにより補正した。理論O消費量は、完全にCOに無機化された場合の消費量をポリマーの構造式から計算した。各生分解性試験は2回繰り返し、平均した。ポリマーの生分解度(%)は、以下の式に従って算出した。
生分解率(%)=(実測されたO消費量/理論O消費量)×100
【0059】
<引張弾性率、引張強度及び引張伸度>
引張試験(JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995))により、高分子化合物からなるフィルムの引張弾性率、引張強度及び引張伸度を測定した。
具体的には、ポリ乳酸又はブロック共重合体0.30gをクロロホルム4ml中に攪拌して溶解した。溶液をフッ素樹脂製シャーレ(直径5cm)に移し,常圧下室温で3日間静置して乾燥後,さらに減圧下室温で一日乾燥することにより膜厚約0.1mmのフィルムを得た。フィルムから切り出したダンベル型試験片(ゲージ幅4mm、ゲージ長10mm)を用いて、万能試験機RTC-1210A(オリエンテック社製)により、クロスヘッドスピード50mm/minで測定した。各サンプルについて引張試験を3回繰り返し、平均した。
【0060】
<貯蔵弾性率>
熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムの貯蔵弾性率は、粘弾性スペクトロメーター(アイティー計測社製、「DVA-200」)により、変形モード引張、振動周波数10Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、チャック間2cmの条件下、測定温度-100~200℃の範囲で動的粘弾性を測定して算出した。
【0061】
[ポリエステルの合成]
<材料>
・脂肪族ジカルボン酸
ピメリン酸(PiA;炭素数=7,東京化成社製)
スベリン酸(SuA;炭素数=8,ヒドラス化学社製)
アゼライン酸(AzA;炭素数=9,富士フイルム和光純薬社製)
セバシン酸(SeA;炭素数=10,東京化成社製)
アジピン酸(AA;炭素数=6,東京化成社製)
【0062】
・脂肪族ジオール
2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP;東京化成社製)
1,2-プロパンジオール(1,2-PDO;富士フイルム和光純薬社製)
1,2-ブタンジオール(1,2-BDO;東京化成社製)
【0063】
・エステル化触媒
オクチル酸第一スズ(Sn(Oct);スタノクト,新菱社製)
【0064】
・溶媒
トルエン(関東化学社製)
【0065】
<合成例1>
原料としてピメリン酸(PiA)及び2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)を用いて、エステル合成(下式)を行った。
具体的には、反応器にPiAを1モル当量とMPを1.1モル当量仕込み、窒素気流下、1気圧で、生成する水を留去しながら180℃で加熱撹拌してエステル化反応を行った。1時間後、オクチル酸第一スズ(Sn(Oct))を0.0005モル当量加えて、10mmHg以下に減圧して、200℃で1時間反応を続けた。
その結果、数平均分子量(Mn)が10.8×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.7、ガラス転移温度(Tg)が-57.6℃の脂肪族ポリエステル(PMPPi)を得た(収率:80%)。
【0066】
<合成例2>
原料としてスベリン酸(SuA)及び2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)を用いて、合成例1と同様にエステル合成(下式)を行った。
その結果、数平均分子量(Mn)が10.9×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.9、ガラス転移温度(Tg)が-66.6℃の脂肪族ポリエステル(PMPSu)を得た(収率:73%)。
【0067】
<合成例3>
原料としてアゼライン酸(AzA)及び2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)を用いて、エステル合成(下式)を行った。
具体的には、反応器にAzAを1モル当量とMPを1.1モル当量仕込み、窒素気流下、1気圧で、生成する水を留去しながら180℃で加熱撹拌してエステル化反応を行った。3時間後、オクチル酸第一スズ(Sn(Oct))を0.0005モル当量加えて、10mmHg以下に減圧して、200℃で250分間反応を続けた。
その結果、数平均分子量(Mn)が15.0×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.9、ガラス転移温度(Tg)が-65.4℃の脂肪族ポリエステル(PMPAz-1)を得た(収率:99%)。
【0068】
<合成例4>
原料としてアゼライン酸(AzA)及び2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)を用いて、エステル合成(下式)を行った。
具体的には、反応器にAzAを1モル当量とMPを1.1モル当量仕込み、窒素気流下、1気圧で、生成する水を留去しながら180℃で加熱撹拌してエステル化反応を行った。3時間後、オクチル酸第一スズ(Sn(Oct))を0.0005モル当量加えて、10mmHg以下に減圧して、200℃で100分間反応を続けた。
その結果、数平均分子量(Mn)が10.0×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.9、ガラス転移温度(Tg)が-68.6℃の脂肪族ポリエステル(PMPAz-2)を得た(収率:99%)。
【0069】
<合成例5>
原料としてアゼライン酸(AzA)及び2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)を用いて、エステル合成(下式)を行った。
具体的には、反応器にAzAを1モル当量とMPを1.1モル当量仕込み、窒素気流下、1気圧で、生成する水を留去しながら180℃で加熱撹拌してエステル化反応を行った。3時間後、オクチル酸第一スズ(Sn(Oct))を0.0005モル当量加えて、10mmHg以下に減圧して、200℃で24時間反応を続けた。
その結果、数平均分子量(Mn)が36.0×10、分子量分布(Mw/Mn)が3.8、ガラス転移温度(Tg)が-61.8℃の脂肪族ポリエステル(PMPAz-3)を得た(収率:82%)。
【0070】
<合成例6>
原料としてセバシン酸(SeA)及び2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)を用いて、合成例1と同様にエステル合成(下式)を行った。
その結果、数平均分子量(Mn)が7.3×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.6、ガラス転移温度(Tg)が-61.2℃、融点(Tm)が16.8℃、融解熱量(ΔHm)が43.9J/gの脂肪族ポリエステル(PMPSe)を得た(収率:99%)。
【0071】
<合成例7>
原料としてアゼライン酸(AzA)及び1,2-プロパンジオール(1,2-PDO)を用いて、合成例1と同様に反応を行った。
その結果、数平均分子量(Mn)が3.4×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.6、ガラス転移温度(Tg)が-58.2℃の脂肪族ポリエステル(PPPAz-0)を得た。
【0072】
<合成例8>
原料としてアゼライン酸(AzA)及び1,2-ブタンジオール(1,2-BDO)を用いて、合成例1と同様に反応を行った。
その結果、数平均分子量(Mn)が4.3×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.7、ガラス転移温度(Tg)が-58.4℃の脂肪族ポリエステル(PBPAz-0)を得た。
【0073】
<合成例9>
原料としてセバシン酸(SeA)及び1,2-プロパンジオール(1,2-PDO)を用いて、合成例1と同様に反応を行った。
その結果、数平均分子量(Mn)が7.6×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.8、ガラス転移温度(Tg)が-48.3℃、融点(Tm)が-26.7℃及び-12.7℃、融解熱量(ΔHm)が14.4J/g及び25.7J/gの脂肪族ポリエステル(PPPSe-2)を得た。
【0074】
<合成例10>
原料としてセバシン酸(SeA)及び1,2-ブタンジオール(1,2-BDO)を用いて、合成例1と同様に反応を行った。
その結果、数平均分子量(Mn)が5.1×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.7、ガラス転移温度(Tg)が-56.6℃の脂肪族ポリエステル(PBPSe-0)を得た。
【0075】
<合成例11>
原料としてアジピン酸(AA)及び2-メチル-1,3-プロパンジオール(MP)を用いて、合成例1と同様に反応を行った。
その結果、数平均分子量(Mn)が14×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.7、ガラス転移温度(Tg)が-53~56.6℃の脂肪族ポリエステル(PMPA)を得た。
【0076】
【化4】
【0077】
【表1】
【0078】
<生分解性試験>
合成したポリエステル[PMPPi(合成例1)、PMPSu(合成例2)、PMPAz-1(合成例3)、PMPAz-2(合成例4)、PMPSe(合成例6)、及びPMPA(合成例11)]について、海水中27℃での生分解性試験を行った。
試験結果を図1に示す。
生分解性試験に供した脂肪族ポリエステル[PMPPi(合成例1)、PMPSu(合成例2)、PMPAz-1(合成例3)、PMPAz-2(合成例4)、PMPSe(合成例6)、及びPMPA(合成例11)]は、いずれも28日間で30%以上が生分解され、海水中での優れた生分解性を有していた。
【0079】
[参考例]
<参考例1>
L-ラクチド(東京化成社製)を開環重合してポリL-乳酸を合成した。
上述した測定方法による数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を表2に示す。
【0080】
<参考例2>
ポリ乳酸(PLA,海正生物材料社製;モノマー構成 L-乳酸99.1質量%,D-乳酸0.9質量%)
上述した測定方法による数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、引張弾性率、引張強度、及び引張伸度を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
[トリブロック共重合体の合成]
<合成例12>
PMPAz-1(合成例3)を高分子開始剤としてL-ラクチド(LLA)を重合した(下式)。
その結果、数平均分子量(Mn)が21×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.7、L-乳酸割合(fLLA)が36質量%、ガラス転移温度(Tg)が-62.2℃、融点(Tm)が155.2℃、融解熱量(ΔHm)が19.6J/gのブロック共重合体[TPE-Az-1(PLLA-b-PMPAz-1-b-PLLA)]を得た(収率94%)。得られたブロック共重合体のハードセグメントは36質量%、ソフトセグメントは64質量%であった。
得られたブロック共重合体(熱可塑性エラストマー)は、低いTgを有し、耐低温特性が優れている。
【0083】
<合成例13>
PMPAz-2(合成例4)を高分子開始剤としてL-ラクチド(LLA)を重合した(下式)。
その結果、数平均分子量(Mn)が18×10、分子量分布(Mw/Mn)が1.5、L-乳酸割合(fLLA)が47質量%、ガラス転移温度(Tg)が-61.6℃、融点(Tm)が152.3℃、融解熱量(ΔHm)が28.1J/gのブロック共重合体[TPE-Az-2(PLLA-b-PMPAz-2-b-PLLA)]を得た(収率95%)。得られたブロック共重合体のハードセグメントは47質量%、ソフトセグメントは53質量%であった。
得られたブロック共重合体(熱可塑性エラストマー)は、低いTgを有し、耐低温特性が優れている。
【0084】
<合成例14>
PMPAz-3(合成例5)を高分子開始剤としてL-ラクチド(LLA)重合した(下式)。
その結果、数平均分子量(Mn)が47×10、分子量分布(Mw/Mn)が3.0、L-乳酸割合(fLLA)が32質量%、ガラス転移温度(Tg)が-60.4℃、融点(Tm)が155.5℃、融解熱量(ΔHm)が13.7J/gのブロック共重合体[TPE-Az-3(PLLA-b-PMPAz-3-b-PLLA)]を得た(収率97%)。得られたブロック共重合体のハードセグメントは32質量%、ソフトセグメントは68質量%であった。
得られたブロック共重合体(熱可塑性エラストマー)は、低いTgを有し、耐低温特性が優れている。
【0085】
<生分解性試験>
合成したブロック共重合体[TPE-Az-1(合成例12)及びTPE-Az-2(合成例13)]、ポリL-乳酸[PLLA(参考例1)]、及び脂肪族ポリエステル[PMPAz-1(合成例3)及びPMPAz-2(合成例4)]について、海水中27℃での生分解性試験を行った。
試験結果を図2に示す。
生分解性試験に供したブロック共重合体[TPE-Az-1(合成例12)及びTPE-Az-2(合成例13)]、及び脂肪族ポリエステル[PMPAz-1(合成例3)及びPMPAz-2(合成例4)]は、ポリL-乳酸[PLLA(参考例1)]に比べ、より優れた海水中での生分解性を有していた。
【0086】
<引張試験>
溶液キャスト法によりTPE-Az-3のフィルムを調製し、上述した方法によって引張試験を行った。
図3に典型的な応力-歪み曲線を示す。
TPE-Az-3は2.8±0.2MPaの初期弾性率、12.0±0.5MPaの強度、及び2520±50%という破断伸度を示した。
【0087】
【化5】
【0088】
【表3】
【0089】
[実験例]
<原料>
(A)脂肪族ポリエステル
参考例1のポリL-乳酸(PLLA)
(B)ブロック共重合体
合成例14のTPE-Az-3(PLLA-b-PMPAz-3-b-PLLA)
【0090】
<実験例1、2>
東洋精機製作所社製のラボプラストミル「4C150」に、脂肪族ポリエステル及びブロック共重合体を、表4に示す割合で投入して、210℃、60rpmで5分溶融混練して、熱可塑性エラストマー組成物を調製した。
【0091】
<実験例3>
脂肪族ポリエステルのみを用いた。
【0092】
<実験例4>
ブロック共重合体のみを用いた。
【0093】
<物性測定>
得られた樹脂組成物を井元製作所社製加熱プレス「IMC-18DA型」を用いて200℃でプレス成形し、厚み約350μmのフィルムサンプルを作製した。得られたフィルムサンプルの22℃における貯蔵弾性率(E’)を測定した。
また、フィルムサンプルから試料を10mg程度削り出して、ガラス転移温度(Tg1、Tg2)、融点(Tm1、Tm2)、融解熱量(ΔHm1、ΔHm2)を測定した。測定結果を表4に示す。
【0094】
【表4】
図1
図2
図3