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特開2024-31126分光分析用複合材の作製方法及び固体試料の分光分析方法
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  • 特開-分光分析用複合材の作製方法及び固体試料の分光分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031126
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】分光分析用複合材の作製方法及び固体試料の分光分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3563 20140101AFI20240229BHJP
【FI】
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134474
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】田口 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 誠
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059CC12
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059HH05
(57)【要約】
【課題】環状オレフィン共重合体の粉体をマトリックス材として含み、固体試料の吸収スペクトルを測定するための分光分析用複合材の作製方法を提供する。
【解決手段】マトリックス材を含み、所定波長の光により固体試料を分光分析するための複合材の作製方法であって、マトリックス材として、平均粒径(50%d)が200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料とマトリックス材とを、マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合する、分光分析用複合材の作製方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス材を含み、所定波長の光により固体試料を分光分析するための複合材の作製方法であって、
前記マトリックス材として、平均粒径(50%d)が200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料と前記マトリックス材とを、前記マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合する、分光分析用複合材の作製方法。
【請求項2】
前記環状オレフィン共重合体の粉体の平均粒径(50%d)が20μm以下、かつ、平均粒径(95%d)が40μm以下である、請求項1に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【請求項3】
前記分光分析用複合材をタブレット状に成形する、請求項1又は2に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【請求項4】
前記環状オレフィン共重合体が、ノルボルネン単量体由来の構成単位と、炭素原子数2~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む、請求項1又は2に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【請求項5】
前記α-オレフィン由来の構成単位がエチレン由来の構成単位であり、前記ノルボルネン単量体由来の構成単位のモル分率が52.0モル%以上である、請求項4に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【請求項6】
前記環状オレフィン共重合体のガラス転移温度が150℃超である、請求項1又は2に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【請求項7】
マトリックス材として、平均粒径200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料と前記マトリックス材とを、前記マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合し、分光分析用複合材を作製するステップと、
前記分光分析用複合材を、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析して前記固体試料の吸収スペクトルを取得するステップと、
を含む、固体試料の分光分析方法。
【請求項8】
前記環状オレフィン共重合体の粉体の平均粒径(50%d)が20μm以下、かつ、平均粒径(95%d)が40μm以下である、請求項7に記載の固体試料の分光分析方法。
【請求項9】
前記分光分析用複合材を、タブレット状に成形して赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つによりにより分光分析する、請求項7又は8に記載の固体試料の分光分析方法。
【請求項10】
前記分光分析用複合材を、前記マトリックス材と前記固体試料とを含む混合物の状態で容器内に保持して赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析する、請求項7又は8に記載の固体試料の分光分析方法。
【請求項11】
前記環状オレフィン共重合体が、ノルボルネン単量体由来の構成単位と、炭素原子数2~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む、請求項7又は8に記載の固体試料の分光分析方法。
【請求項12】
前記α-オレフィン由来の構成単位がエチレン由来の構成単位であり、前記ノルボルネン単量体由来の構成単位のモル分率が52.0モル%以上である、請求項11に記載の固体試料の分光分析方法。
【請求項13】
前記環状オレフィン共重合体のガラス転移温度が150℃超である、請求項7又は8に記載の固体試料の分光分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光分析用複合材の作製方法及び固体試料の分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ光は、可視光よりも波長が長く光子エネルギーが低いことから、水素結合やファンデルワールス力を介した分子同士の振動、結晶格子の振動、分子の回転、及びこれらの振動・回転の緩和等の情報が得られる。すなわち、これまでは測定が困難であった分子情報をも得られる分光分析手法であることから近年脚光を浴びている。
【0003】
分光分析においては、分析対象となる固体試料に測定光を照射し、固体試料を透過した測定光のスペクトル(吸収スペクトル)を検出する。そして、例えば、検出したスペクトルの波形を、既知の物質のスペクトル波形と比較することにより、固体試料の物質を特定することができる。このような分光分析において、固体試料の含有率が高い場合、吸収ピークが強くなりすぎて判読可能なスペクトル波形が得られないため、測定光に対して高い透過性を有する材料による希釈等が行われる。例えば、測定光に対して透過性が高い材料をマトリックス材として用い、そのマトリックス材と固体試料とを混合してタブレット化して分光分析に供することが挙げられる。
【0004】
テラヘルツ光に対して高い透過性を有する材料としては、ポリエチレン、ポリスチレン等が挙げられる(特許文献1、2参照)。ところが、それらは8THz付近、10THz付近の光に対する透過率が低く、その周波数帯域における分析には適さない。
【0005】
そこで、その成形品が、テラヘルツ以上の周波数帯域の光に対して高い透過性を有する環状オレフィン共重合体(以下、「COC」とも呼ぶ。)を使用することが考えられる。COCの成形品は特に0~12THz付近の広範囲にわたり吸収ピークを有しないという特徴があり、その範囲での分析においてマトリックス材への適用が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-288047号公報
【特許文献2】特開2017-9296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マトリックス材と固体試料とを混合する場合、錠剤法等の方法が適用できることから、マトリックス材は粉体であることが好ましい。しかし、本発明者らの検討によると、単にCOCの粉体をマトリックス材として使用するのみでは、テラヘルツ光領域において透過率が低く、分析には適していない場合があることが明らかになった。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、環状オレフィン共重合体の粉体をマトリックス材として含み、固体試料の吸収スペクトルを測定するための分光分析用複合材の作製方法、及び当該分光分析用複合材を用いた固体試料の分光分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、COCの粉体が、テラヘルツ光領域において透過率が低下するのは、粉体形状に起因する散乱が原因であることを見出した。そして、所定の平均粒径以下のCOCの粉体を使用することで、特にテラヘルツ光に対する散乱が抑えられ、透過率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)マトリックス材を含み、所定波長の光により固体試料を分光分析するための複合材の作製方法であって、
前記マトリックス材として、平均粒径(50%d)が200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料と前記マトリックス材とを、前記マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合する、分光分析用複合材の作製方法。
【0011】
(2)前記環状オレフィン共重合体の粉体の平均粒径(50%d)が20μm以下、かつ、平均粒径(95%d)が40μm以下である、前記(1)に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【0012】
(3)前記分光分析用複合材をタブレット状に成形する、前記(1)又は(2)に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【0013】
(4)前記環状オレフィン共重合体が、ノルボルネン単量体由来の構成単位と、炭素原子数2~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む、前記(1)~(3)のいずれかに記載の分光分析用複合材の作製方法。
【0014】
(5)前記α-オレフィン由来の構成単位がエチレン由来の構成単位であり、前記ノルボルネン単量体由来の構成単位のモル分率が52.0モル%以上である、前記(4)に記載の分光分析用複合材の作製方法。
【0015】
(6)前記環状オレフィン共重合体のガラス転移温度が150℃超である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の分光分析用複合材の作製方法。
【0016】
(7)マトリックス材として、平均粒径200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料と前記マトリックス材とを、前記マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合し、分光分析用複合材を作製するステップと、
前記分光分析用複合材を、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析して前記固体試料の吸収スペクトルを取得するステップと、
を含む、固体試料の分光分析方法。
【0017】
(8)前記環状オレフィン共重合体の粉体の平均粒径(50%d)が20μm以下、かつ、平均粒径(95%d)が40μm以下である、前記(7)に記載の固体試料の分光分析方法。
【0018】
(9)前記分光分析用複合材を、タブレット状に成形して赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つによりにより分光分析する、前記(7)又は(8)に記載の固体試料の分光分析方法。
【0019】
(10)前記分光分析用複合材を、前記マトリックス材と前記固体試料とを含む混合物の状態で容器内に保持して赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析する、前記(7)~(9)のいずれかに記載の固体試料の分光分析方法。
【0020】
(11)前記環状オレフィン共重合体が、ノルボルネン単量体由来の構成単位と、炭素原子数2~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含む、前記(7)~(10)のいずれかに記載の固体試料の分光分析方法。
【0021】
(12)前記α-オレフィン由来の構成単位がエチレン由来の構成単位であり、前記ノルボルネン単量体由来の構成単位のモル分率が52.0モル%以上である、前記(11)に記載の固体試料の分光分析方法。
【0022】
(13)前記環状オレフィン共重合体のガラス転移温度が150℃超である、前記(7)~(12)のいずれかに記載の固体試料の分光分析方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、環状オレフィン共重合体の粉体をマトリックス材として含み、固体試料の吸収スペクトルを測定するための分光分析用複合材の作製方法、及び当該分光分析用複合材を用いた固体試料の分光分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】平均粒径(50%d)が10μm、平均粒径(95%d)が16μmのCOCの粉体についての、テラヘルツ光・赤外光領域における吸収スペクトルを示すグラフである。
図2】平均粒径(50%d)及び平均粒径(95%d)がそれぞれ異なる4種のCOCの粉体についてのテラヘルツ光領域における吸収スペクトルを示すグラフである。
図3図2に示した4種のCOCの粉体についての、テラヘルツ光領域における光の周波数に対する透過率を示すグラフである。
図4】平均粒径(50%d)が24μm、平均粒径(95%d)が38μmのPPSの粉体についての、テラヘルツ光領域における光の周波数に対する透過率を示すグラフである。
図5】平均粒径(50%d)が0.2μmの酸化マグネシウム(MgO)の粉体についての、テラヘルツ光領域における光の周波数に対する透過率を示すグラフである。
図6】実施例1において作製した分光分析用複合材についての、テラヘルツ光領域における光の周波数に対する透過率を示すグラフである。
図7】実施例2において作製した分光分析用複合材についての、テラヘルツ光領域における光の周波数に対する透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<分光分析用複合材の作製方法>
本実施形態の分光分析用複合材の作製方法は、マトリックス材を含み、所定波長の光により固体試料を分光分析するための複合材の作製方法である。そして、マトリックス材として、平均粒径(50%d)が200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料とマトリックス材とを、マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合する。
【0026】
本実施形態に係る分光分析用複合材は、粉体のマトリックス材中に固体試料が分散した状態で存在し、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析することで固体試料の吸収スペクトルを取得するために用いられる。近・中赤外領域でマトリックス材として一般的に広く用いられるKBrは、KBrに由来する吸収により10THz以下では透過率が低いため、テラヘルツの周波数帯域における分析には不適である。しかし、本実施形態のマトリックス材として使用されるCOCの粉体は、10数THzまでの光に対して強い吸収が見られないため、広い周波数帯域においてマトリックス材としての機能を発揮し得る。その一方で、平均粒径(50%d)が200μmを超えるCOCの粉体ではテラヘルツ光領域の周波数に対する透過率が顕著に低くなるため、単にCOCの粉体を用いたのでは固体試料の分析が困難となる。しかし、本実施形態に係る分光分析用複合材は、平均粒径(50%d)が200μm以下のCOCの粉体をマトリックス材として用いており、当該COCの粉体は散乱が抑えられ、透過率が比較的高く固体試料の測定が容易になる。また、テラヘルツ光に限らず、赤外光からミリ波の領域の光を使用しての分光分析が可能である。
以下において先ず、本実施形態の分光分析用複合材の作製方法について使用される各要素について説明する。
【0027】
[マトリックス材]
本実施形態において、マトリックス材としては、平均粒径(50%d)が200μm以下のCOCの粉体を使用する。マトリックス材は、分析対象となる固体試料を希釈し、吸収ピークが強くなり過ぎることなく、判読可能で正確なスペクトル波形を得るために用いられる。なお、平均粒径(50%d)とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%のメジアン径を意味する。
【0028】
マトリックス材を構成するCOCは、少なくとも、ノルボルネン単量体とα-オレフィンとを共重合した共重合体である。すなわち、当該COCは、ノルボルネン単量体の構成単位と、α-オレフィン由来の構成単位とを含む。
【0029】
ノルボルネン単量体としては、例えば、ノルボルネン及び置換ノルボルネンが挙げられ、ノルボルネンが好ましい。ノルボルネン単量体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
上記置換ノルボルネンは特に限定されず、この置換ノルボルネンが有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、1価又は2価の炭化水素基が挙げられる。置換ノルボルネンの具体例としては、下記一般式(I)で示されるものが挙げられる。
【0031】
【化1】
(一般式(I)式中、R~R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R~Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
ただし、n=0の場合、R~R及びR~R12の少なくとも1個は、水素原子ではない。)
【0032】
一般式(I)で示される置換ノルボルネンについて説明する。一般式(I)におけるR~R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0033】
~Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;炭素原子数1~20のアルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0034】
また、R~R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;炭素原子数1~20のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0035】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0036】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0037】
一般式(I)で示される置換ノルボルネンの具体例としては、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環の環状オレフィン;トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,7-ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,8-ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3-エン;5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンといった3環の環状オレフィン;
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンといった4環の環状オレフィン;
8-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]-4-ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]-14-エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0038】
中でも、アルキル置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキル基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン)、アルキリデン置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキリデン基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン)が好ましく、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名:5-エチリデン-2-ノルボルネン、又は、単にエチリデンノルボルネン)が特に好ましい。
【0039】
一方、α-オレフィンとしては、炭素原子数2~20のα-オレフィンが好ましい。炭素原子数2~20のα-オレフィンは特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセン等が挙げられる。中でも、エチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンが好ましい。
【0040】
本実施形態においては、COCとしては、ノルボルネン由来の構成単位と、炭素原子数2~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含むものであることが好ましい。また、COCはα-オレフィン由来の構成単位がエチレン由来の構成単位であり、ノルボルネン単量体由来の構成単位のモル分率が52.0モル%以上であることが好ましい。いずれの場合も、COCのガラス転移温度が高くなるため好ましいのであるが、その理由について以下に説明する。
【0041】
本実施形態において、COCのガラス転移温度は150℃超であることが好ましい。COCのガラス転移温度が150℃超であることで、平均粒径(50%d)が小さい(例えば、10μm程度)粉体の作製が容易になる。つまり、COCのガラス転移温度が150℃以下であると、COCの粒子同士が溶融結着しやすく、小サイズの粒径の粒子が得られない傾向にある。COCのガラス転移温度は160℃以上がより好ましく、170℃以上が更に好ましい。
【0042】
ここで、COCの吸収スペクトルについて具体的に示す。図1は、FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)により測定した平均粒径(50%d)が10μm、平均粒径(95%d)が16μmのCOCの粉体についての吸収スペクトルを示し、図2は、THz-TDS(テラヘルツ時間領域分光光度計)により測定した平均粒径(50%d)が10μm、平均粒径(95%d)が16μmのCOCの粉体(図2において点線で示す。)、平均粒径(50%d)が32μm、平均粒径(95%d)が56μmのCOCの粉体(図2において一点鎖線で示す。)、平均粒径(50%d)が83μm、平均粒径(95%d)が176μmのCOCの粉体(図2において破線で示す。)、及び平均粒径(50%d)が202μm、平均粒径(95%d)が478μmのCOCの粉体(図2において実線で示す。)についての吸収スペクトルを示す。図1に示すように、平均粒径(50%d)が10μmのCOCの粉体では、0~12THz付近の広範囲にわたり吸収ピークは見られない。一方、図2に示すように、0~12THz付近における吸光度は、COCの粉体の平均粒径(50%d)が200μmを超えると、顕著に増加することが分かる。更に、図3は、平均粒径(50%d)が10μm、平均粒径(95%d)が16μmのCOCの粉体(図2において点線で示す。)、平均粒径(50%d)が32μm、平均粒径(95%d)が56μmのCOCの粉体(図2において一点鎖線で示す。)、平均粒径(50%d)が83μm、平均粒径(95%d)が176μmのCOCの粉体(図2において破線で示す。)、及び平均粒径(50%d)が202μm、平均粒径(95%d)が478μmのCOCの粉体(図2において実線で示す。)についての、光の周波数に対する透過率を示している。近・中赤外領域でマトリックス材として一般的に広く用いられるKBrは、KBr自体が有する吸収により10THz以下では透過率が低いため、テラヘルツの周波数帯域における分析には不適である。しかし、本実施形態においてマトリックス材として使用されるCOCの粉体は、上述したように0~12THz付近の光に対して強い吸収が見られず、その結果、図3に示すように0~12THz付近で高い透過率を有することが分かる。また、平均粒径(50%d)が10μmのCOCの粉体が最も高い透過率を有し、平均粒径(50%d)が大きくなるにつれて透過率が低くなることが分かる。すなわち、平均粒径(50%d)が小さいほど透過率が高くなる。更に、COCの粉体の平均粒径(50%d)が200μmを超えると、透過率が顕著に低下することが分かる。
【0043】
以上より、本実施形態において、COCの粉体は、平均粒径(50%d)が200μm以下のものを用いるが、平均粒径(50%d)が200μmを超えると散乱の影響が顕著に大きくなって透過率が低くなり、マトリックス材としての機能が劣ってしまう。透過率を高くすること及び散乱をより抑える観点から、COCの粉体の平均粒径(50%d)は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。また、別言すると、COCの粉体の平均粒径(50%d)は、測定光の波長未満であることが好ましい。例えば、20μmのテラヘルツ光を測定光とする場合、COCの粉体の平均粒径(50%d)は20μm未満であることが好ましい。
一方、COCの粉体の平均粒径(95%d)は40μm以下であることが好ましい。平均粒径(95%d)が40μm超の大きな粒子は光透過性を阻害するため、そのような大きな粒子が少ない方が好ましいためである。COCの粉体の平均粒径(95%d)は30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。なお、平均粒径(95%d)とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値95%のメジアン径を意味する。
本実施形態において、正確な分光分析をするため、COCの粉体の平均粒径(50%d)が20μm以下、かつ、平均粒径(95%d)が40μm以下であることが好ましい。
【0044】
図4は、平均粒径(50%d)が24μm、平均粒径(95%d)が38μmのPPSの粉体についての、テラヘルツ光領域における光の周波数に対する透過率を示している。図4より、PPSの粉体は、本実施形態で使用するマトリックス材と比較して顕著に透過率が低く、マトリックス材としての機能が劣っていることが分かる。すなわち、平均粒径(50%d)及び平均粒径(95%d)が好ましい範囲であるだけでは、本実施形態の効果が発現しない。
【0045】
図5は、平均粒径(50%d)が0.2μmの酸化マグネシウム(MgO)の粉体についての、テラヘルツ光領域における光の周波数に対する透過率を示している。MgO粉末は、3THz以下や可視域で透明であり、それらの領域でマトリックス材として用いられることがある。しかし、0~12THz付近では、本実施形態で使用するマトリックス材と比較して顕著に透過率が低く、テラヘルツの周波数帯域における分析ではマトリックス材としての利用は難しいことが分かる。
【0046】
本実施形態において使用する所定の平均粒径を有するCOCの粉体は、例えば、特開2007-217651号公報、特開2010-59360号公報に記載の製造方法により製造することができる。
【0047】
[固体試料]
本実施形態に係る分光分析用複合材において、分析対象の固体試料はマトリックス材中に分散されており、分光分析用複合材に対して分光分析することで固体試料の吸収スペクトルを取得することができる。固体試料としては、分光分析で使用する光の周波数帯域において吸収スペクトルを有するものであればよい。例えば、無機材料、有機材料、高分子材料、半導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、固体試料は、マトリックス材と混合することから、粉体状、板状、繊維状、破砕体状等の形態が好ましい。ただし、粗大な固体試料であっても、固体試料とマトリックス材とを混合する前又は混合する際に、粉砕することによって粉体状としてもよい。
【0048】
固体試料の平均粒径(50%d)としては、マトリックス材中において良好に分散し、分光分析を容易にする観点から1~30μmとすることが好ましく、1~10μmとすることがより好ましい。
【0049】
本実施形態において、マトリックス材と固体試料とを混合するに当たり、粉体の状態を保持したまま混合する。「粉体の状態を保持したまま」とは、溶融結着して固形状になったり、粗大粒子が形成されたりしない状態であり、巨視的に見て粉体の状態が保持されていればよい。そのように混合する方法としては特に限定はないが、例えば、乳鉢を用いる方法、マトリックス材と固体試料とをポリ袋等に入れて振り混ぜる方法、ミキサー等の混合器を用いる方法等が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係る分光分析用複合材は、以上のようにしてマトリックス材と固体試料とを単に混合したのみでは粉体状である。本実施形態においては、分光分析用複合材は、タブレット状に成形してもよい。タブレット状への成形は、KBr錠剤法におけるタブレット成形に準じて行うことができる。すなわち、マトリックス材と固体試料とを粉砕、希釈混合し、加圧成型することでタブレット状に成形することができる。このとき、酸素によるマトリックス材の変質を抑えるため、タブレット成形は真空下で行うことが好ましい。
【0051】
本実施形態の分光分析用複合材をタブレット状の成形する場合、その形状としては、円柱状、三角柱状、四角柱状等、表面と裏面とが平行又は略平行な板状形状が挙げられるが、その形状に限定されることはない。例えば、円柱状の場合において、そのサイズとしては、直径と0.3~2cm、厚さ0.1~5mmの円柱形とすることができる。特に、厚さは、分光用の光が透過する距離に相当するため、厚いほど測定精度が向上する。そのため、タブレット状としたときの厚さは100μm超が好ましく、500μm以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましく、2mm以上が特に好ましい。もっとも、固体試料のサイズや厚さは、測定しようとする固体試料の光吸収量、導入する量に依存するため、2mmを超えるものであってもよい。
【0052】
本実施形態において、分光分析用複合材中の固体試料の濃度は、検知の対象となる吸収線の吸光度がピークにおいて1.5以下となるように調整することが好ましい。その濃度調整の目安としては、作製したタブレットの透過率が、検知の対象となる吸収線や吸収ピークにおいて1~10%程度になるように調整することが好ましい。そのような観点から、分光分析用複合材中の固体試料は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。固体試料が少ないと、相対的に分光分析用複合材の厚みが増し、より厚い距離を測定することができ、測定精度の向上を図ることができる。
【0053】
本実施形態においては、マトリックス材としてCOCを用いるが、COC以外のもので測定光に対する透過率が高い材料であればCOCと併用してもよい。
【0054】
本実施形態に係る分光分析用複合材は、その効果を害さない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、すなわち、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を含有してもよい。ただし、酸化防止剤については、マトリックス材と固体試料とを混合する前に添加することが好ましく、酸化防止剤を含有させた環状オレフィン共重合体(組成物)をマトリックス材として使用することがより好ましい。COCは酸素が存在する環境下で圧力を加えると白濁したゲル状物が発生しやすいためである。
【0055】
以上のような本実施形態の分光分析用複合材の作製方法により得られる分光分析用複合材は、以下のような固体試料の分光分析方法に適用することができる。
【0056】
<固体試料の分光分析方法>
本実施形態の固体試料の分光分析方法は、マトリックス材として、平均粒径200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料と前記マトリックス材とを、マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合し、分光分析用複合材を作製するステップ(以下、「ステップA」と呼ぶ。)を含む。また、分光分析用複合材を、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析して固体試料の吸収スペクトルを取得するステップ(以下、「ステップB」と呼ぶ。)を含む。
【0057】
本実施形態の固体試料の分光分析方法においては、上述の本実施形態の分光分析用複合材の作製方法により分光分析用複合材を作製し(ステップA)、当該分光分析用複合材を分光分析に供し、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析して固体試料の吸収スペクトルを取得する(ステップB)。ステップAは、上述の本実施形態の分光分析用複合材の作製方法に相当する。すなわち、ステップAにより、COCからなるマトリックス材中に固体試料が分散した分光分析用複合材が得られる。そして、当該分光分析用複合材をステップBにおいて分光分析することで、固体試料の吸収スペクトルを、判読可能で正確なスペクトル波形で取得することができる。
以下、各ステップについて説明する。
【0058】
[ステップA]
ステップAは、マトリックス材として、平均粒径200μm以下の環状オレフィン共重合体の粉体を用い、分析対象の固体試料と前記マトリックス材とを、マトリックス材の粉体の状態を保持したまま混合し、分光分析用複合材を作製するステップである。ステップAは、上述の本実施形態の分光分析用複合材の作製方法と同様であるので、ここでは説明を省略する。ステップAの好ましい態様、各パラメータの好ましい数値範囲等は、本実施形態の分光分析用複合材の作製方法と同じである。すなわち、(1)COCの粉体の平均粒径(50%d)が20μm以下、かつ、平均粒径(95%d)が40μm以下であること、(2)分光分析用複合材をタブレット状に成形すること、COCが、ノルボルネン単量体由来の構成単位と、炭素原子数2~20のα-オレフィン由来の構成単位とを含むこと、(3)α-オレフィン由来の構成単位がエチレン由来の構成単位であり、ノルボルネン単量体由来の構成単位のモル分率が52.0モル%以上であること、及び(4)COCのガラス転移温度が150℃超であること、についての説明は、上述の本実施形態の分光分析用複合材の作製方法においてした説明がそのまま当てはまる。
【0059】
[ステップB]
ステップBは、ステップAで得られた分光分析用複合材を、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析して固体試料の吸収スペクトルを取得するステップである。
【0060】
赤外分光法による分光分析は、赤外分光光度計又はフーリエ変換赤外分光光度計を用い、遠赤外光により分光分析を行うことができる。また、ミリ波分光法による分光分析は、フーリエ変換ミリ波分光光度計を用い、テラヘルツ光により分光分析を行うことができる。更に、テラヘルツ分光法による分光分析は、テラヘルツ時間領域分光装置(THz-TDS装置)を用い、テラヘルツ光により分光分析を行うことができる。
【0061】
赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のいずれの分光法においても、ステップAで得られた分光分析用複合材を、各分光法が適用される装置の測定部にセットして分光分析して、分光分析用複合材中の固体試料の吸収スペクトルを取得することができる。
【0062】
本実施形態においては、以上の赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちのいずれか1つにより分光分析を行ってもよいし、それのうち2以上を併用してもよい。例えば、分光分析用複合材に対して、先ず赤外分光法により分光分析し、その後、テラヘルツ分光法により分光分析する等してもよい。
【0063】
本実施形態においては、分光分析用複合材をタブレット状に成形して、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析することが好ましい。分光分析用複合材をタブレット状に成形することは、上述の本実施形態の分光分析用複合材の作製方法で説明した通りであるからここではその説明を省略する。
【0064】
一方、分光分析用複合材をタブレット状に成形するのではなく、マトリックス材と固体試料とを含む混合物の状態で容器内に保持して赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つにより分光分析することもできる。より具体的には、ステップAで作製した分光分析用複合材を、マトリックス材と固体試料とを含む混合物の状態でセル等の容器に投入して容器内に保持して分光分析に供することができる。このとき、セルは、測定光に対して高い透過率を有する材料からなるものを使用することが好ましい。
【0065】
以上説明した本実施形態の固体試料の分光分析方法により、固体試料の吸収スペクトルを取得することができる。換言すると、本実施形態の分光分析用複合材を用いることで、赤外分光法、ミリ波分光法及びテラヘルツ分光法のうちの少なくとも1つによる、固体試料の分光分析がしやすくなる。
【実施例0066】
以下に、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
(固体試料の作製)
先ず、0.005mol/Lのシュウ酸ナトリウム(Na)水溶液300gと、1mol/Lの塩化カルシウム(CaCl)水溶液500gとを混合した。すると、沈殿反応が起こり、シュウ酸カルシウム二水和物(CaC・2HO)が生成した。次いで、生成したシュウ酸カルシウム二水和物を濾過により回収し、乾燥した。以上のようにして、シュウ酸カルシウム二水和物の粉末数mgを得た。この作業を複数回繰り返し、必要な量のシュウ酸カルシウム二水和物の粉末を得た。
【0068】
(分光分析用複合材の作製)
上記のようにして得たシュウ酸カルシウム二水和物の粉末と、マトリックス材としての以下に示すCOCの粉末-1とを、シュウ酸カルシウム二水和物の質量比が1%となるように乳鉢に投入して混合した。次いで、得られた混合物60mgを錠剤成型器に投入して加圧して、直径10mm、厚さ0.5mmの円柱形のタブレット状に成形して分光分析用複合材を作製した。なお、使用したCOCの粉末の平均粒径(50%d)を(株)堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-960を用いて、粒度分布、レーザー回折・散乱法により測定したところ10μmであった。同様に、平均粒径(95%d)は16μmであった。
COCの粉末-1:TOPAS(登録商標)6017S-04(TOPASAdvancedPolymers社製(ガラス転移温度178℃)を凍結粉砕したCOCの粉体、平均粒径(50%d):10μm、平均粒径(95%d):16μm
【0069】
(FT-IR測定)
上記のようにして作製したタブレット状の分光分析用複合材に対して、日本分光(株)製、FT/IR-660 Plusを用いてFT-IR測定を行い、吸収スペクトルを取得した。測定結果を図6に示す。図6は、赤外光領域における光の周波数に対する透過率を示すグラフであり、CaOで示しているのがシュウ酸カルシウム二水和物のピーク(8.5THz付近)である。図6より、シュウ酸カルシウム二水和物のピークがはっきりと識別できることが分かる。
【0070】
[実施例2]
マトリックス材をCOCの粉末-1から以下に示すCOCの粉末-2に変えたこと以外、実施例1と同様にして分光分析用複合材を作製した。そして、実施例1と同様にFT-IR測定を行った。測定結果を図7に示す。図6図7との比較より、平均粒径(50%d)が20μm以下、かつ、平均粒径(95%d)が40μm以下であるCOCの粉末-1を用いた実施例1の方が、シュウ酸カルシウム二水和物のピーク強度がより高く、検出がより容易であることが分かる。
COCの粉末-2:TOPAS(登録商標)6017S-04(TOPASAdvancedPolymers社製(ガラス転移温度178℃)を凍結粉砕したCOCの粉体、平均粒径(50%d):32μm、平均粒径(95%d):56μm
【0071】
以上の実施例より、本実施形態の分光分析用複合材を使用することで、固体試料の分光分析が可能であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7