(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034865
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】機械学習システム
(51)【国際特許分類】
G06N 3/044 20230101AFI20240306BHJP
【FI】
G06N3/04 145
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022139389
(22)【出願日】2022-09-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業、研究題目「物理リザバー計算のための数理と応用」事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 光雅
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊和
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 浩平
(72)【発明者】
【氏名】井上 克馬
(72)【発明者】
【氏名】國吉 康夫
(57)【要約】
【課題】高い自律性を有する機械学習を実現するため、被学習器と学習器とが、つなぎ目のない非線形力学系内で一貫して表現される機械学習システムを提供する。
【解決手段】リザーバーコンピューティングである機械学習システムであって、エコーステートニューラルネットワークの構成を有するリザーバーと、リザーバーの内部状態を変換するリードアウトと、学習アルゴリズムと、を備え、学習アルゴリズムが、その高次元性と非線形性を非線形な入出力関係の近似に活用することによって、リザーバーとして活用され、学習アルゴリズムおよびリードアウトのアルゴリズム的な処理が、リザーバーで置換される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバーコンピューティングである機械学習システムであって、
結合重みを固定したリカレントニューラルネットワークを用いて、経時列入力の過去の情報が反映されて残る状態を作り出し、そこから入力の特徴の読み出しを行うエコーステートニューラルネットワークの構成を有するリザーバーと、
前記リザーバーの内部状態を変換するリードアウトと、
学習アルゴリズムと、
を備え、
前記学習アルゴリズムが、非線形な入出力関係の近似に活用することによって、前記リザーバーとして活用され、
前記学習アルゴリズムおよび前記リードアウトの処理が、前記リザーバーで置換される、機械学習システム。
【請求項2】
前記学習アルゴリズムが再帰最小二乗(RLS)アルゴリズムである、請求項1に記載の機械学習システム。
【請求項3】
前記リザーバーにおける時間発展写像が、前記学習アルゴリズム内の変数の線形閉ループによって構成される、請求項1に記載の機械学習システム。
【請求項4】
前記学習アルゴリズムの忘却項が1未満である、請求項3に記載の機械学習システム。
【請求項5】
前記学習アルゴリズムを非線形演算と線形演算に分解し、非線形演算をExtreme Learning Machine(ELM)を用いて近似する、請求項1に記載の機械学習システム。
【請求項6】
前記ELMの非線形関数としてtanhを用いる、請求項5に記載の機械学習システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械学習システムに関し、より詳細には、リザーバーコンピューティング(以下、RCという)の機械学習システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工知能の中心技術である機械学習に関する研究開発が精力的に進められており、その技術は著しい発展を遂げている。タスクを限定すれば、人間と同等またはそれ以上の計算モデルも実現されており、今後も機械学習技術は、進歩・発展し続けるとともに、その適用範囲が拡大していくと見込まれる。
【0003】
人工知能技術の開発における究極的な目標の1つとして、生物知能が有するような高度な自律性を実現する機械学習システムの構築が挙げられる。生物知能における学習機能は、恒常的であるため、外的な介入から一定の独立性を維持しながら動作することを可能にしている(自己同一性)。また、環境との相互作用の中で常に学習し続けることができ、その結果、想定されていない様々な未知の状況に対しても、その学習機能を駆使して適応的な振る舞いを生み出すことも可能にしている(適応性)。加えて、生物知能における学習機能は、自己充足性を有した構成を含む。換言すれば、生物知能における学習機能は、物理的実体(例えば、脳、感覚器、筋肉等)を含み、その構成は、物理的実体で独立して機能している。
【0004】
このように、生物知能における学習機能では、自己同一性、適応性が共存しており、かつ自己充足性を有した構成が含まれるため、高度な自律性が実現されており、結果として、実世界における生物のしなやかな振る舞いが達成される。一方、現在における多くの機械学習は、生物知能における学習機能と比べて自律性が乏しく、生物知能が有するようなしなやかな振る舞いが実現されないことが、しばしばあり得る。
【0005】
その要因の1つとして、現在における多くの機械学習では、学習の制御が設計者の手に委ねられており、自発的な学習が達成されていないことが挙げられる。例えば、多くの機械学習では、学習パラメータの調整は、学習モデルを構築する「学習フェーズ」のみで実行され、モデル性能を評価する「評価フェーズ」では実行されない。このため、現在における多くの機械学習は、自発的な学習が実現できておらず、常に学習する適応性および学習機能を恒常的に維持する自己同一性が、生物知能における学習機能に比べて乏しいと言える。
【0006】
また、別の要因として、多くの機械学習では、学習データを外部の設計者が予め用意する必要があることが挙げられる。このため、多くの機械学習は経時的に変化する環境に対して、系自身が何を学習すべきかを取捨選択すること(「勝手に」学習すること)ができず、臨機応変な振る舞いが達成されない。加えて、設計者が学習データを予め準備するため、学習の範囲およびタスクが限定的となり、汎用性にも乏しい。
【0007】
さらに別の要因として、多くの機械学習では、学習メカニズム自体が内包された構成となっておらず、生物知能における物理的実体のように、そのものだけで学習機能を成立させることができないことが挙げられる。例えば、機械学習では、学習モデルのパラメータを学習アルゴリズムが調整する被学習器(Optimizee)と、学習器(Optimizer)が分離した構成を有する。換言すれば、学習モデルの他に学習器の機構が別途設置され、被学習器単体では学習できない。これは、上述の通り、評価フェーズにおいて学習機能が不要となることに起因しており、学習アルゴリズムの使用/不使用の切り替えを行う上では都合がよい構成であるが、一方で、自己充足性を有していない構成であるとも言える。後述するが、これは、物理系を活用するリカレントニューラルネットワーク(以下、RNNという)において、より顕著な問題となる。
【0008】
このように、現在における機械学習は、生物知能の学習機能と比べると、自己同一性、適応性が低く、自己充足性を有さない構成となっていることから、その学習機能は自律性に乏しいと言える。そして、その結果、生物のようなしなやかな振る舞いが達成されない、或いは、しなやかな振る舞いを達成するためには、あるタスクに限定されるのが実情である。したがって、生物と同等またはそれ以上のしなやかな振る舞いを実現するという観点から、機械学習には、その学習機能が自律的な学習システムとなることが求められる。
【0009】
上記の内容から考えると、機械学習システムが高い自律性を実現するためには、内的な機構によって恒常的に学習が進行する自発性と、何を学習すべきかを判断・構成する学習対象の自己決定・構成機能と、学習メカニズムがそれ自身に内包されていること、が求められる。
【0010】
このような機械学習システムにおける被学習器と学習器の分離構成は、物理系RC(以下、PRCという)の文脈で、より顕著な問題となる。PRCは、物理系(電子系、光学系等)をリザーバーに活用するRCであり、一般に、物理系と、物理系の入力応答を取得するセンサと、センサからの情報を処理および統合するリードアウトと、を含む。このような構成を有するPRCは、物理系の特性を活用し、低電力、高速といったメリットを有するが、学習部が物理系とは別のコンピュータで処理されるため、結果的に、その性能はコンピュータの原理的制約に律速される。
【0011】
RCは、機械学習機構を物理系で実現する上で、好適な数理モデルである。しかしながら、その課題の1つに、RCでは学習メカニズムが内包されておらず、被学習器と学習器が分離された構成を有する点が挙げられる。より具体的には、RCでは、再帰最小二乗(Recursive Least Square:以下、RLSという)と呼ばれる学習アルゴリズムが採用されるが、この学習アルゴリズムを実装する機構は外的な機構として独立して構成されており、自己充足性を有する構成とはなっていない。
【0012】
図1は、従来技術によるRCに基づく機械学習システム10の構成を模式的に示す図である。ここでは例として、機械学習システム10は、RNNのモデルにエコーステートネットワーク(以下、ESNという)が適用されたRCを含み、学習アルゴリズムは、上述の通り、RLSアルゴリズムが設定された形態として描写されている。
図1に示される通り、機械学習システム10は、被学習器11と、学習器12と、を含み、被学習器11は、ESNの構成を有する、入力を高次空間へ写像するリードイン110と、変換された情報が回帰的な内部結合を介して循環するリザーバー111と、リザーバー111の内部状態を変換するリードアウト112と、をさらに含む。
【0013】
ESNは、一般にRCの代表的なモデルとして知られており、リザーバーとして結合重みを固定したRNNを用いて、経時列入力の過去の情報が反映されて残る状態(内部状態)を作り出し、そこから入力の特徴の読み出しを行うモデルである。
【0014】
このような構成を有する機械学習システム10では、被学習器11において、任意の時間tにおける入力u(t)がリザーバー111の各層に入力され、リザーバー111内において再帰的に処理される。そして、リザーバー111の各層において生成された内部状態x(t)がリードアウト112に入力され、内部状態x(t)とパラメータw(t)に基づいて出力y(t)が生成される。一方、学習器12では、上述の通り、RLSアルゴリズムに基づいて、学習モデルが構築される。学習器12におけるこのような学習過程は、上述したリザーバー111におけるESNとは別に独立して実装される。
【0015】
特徴として、リードイン110、リザーバー111はランダムに生成され学習を行わない。従って、前述のPRCの枠組みではこのランダム変換回路を物理システムに置き換えが可能である。例えば、光回路で構成することで光の並列性を利用した高速・低電力な演算が可能となる(例えば、非特許文献1参照)。このような構成によって、
図1における被学習器11で示される順伝搬時の演算は極めて高速に実施できるものの、
図1における学習器12で示される学習は依然として物理系とは別のコンピュータで処理されるため、結果的に、その性能はコンピュータの原理的制約に律速される。
【0016】
仮に、PRCにおいて被学習器と学習器の分離構成をつなぎ目のない非線形力学系内で一貫して表現するような手法に置き換えることができれば、その物理アーキテクチャはコンピュータの原理的制約が解消され、飛躍的な性能向上が図られ得る。
【0017】
上記の内容に基づき、発明者らは、RCを自律的に学習可能な形式へと拡張させることで、高い自律性を有する機械学習方法および機械学習システムを構築した。これによって、PRCの物理系に学習機構をも埋め込むことが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】M. Nakajima et al., “Scalable reservoir computing on coherent linear photonic processor”, Commun. Phys., 4, 20, 2021
【非特許文献2】Eduardo Izquierdo-Torres and Inman Harvey. “Hebbian learning using fixed weight evolved dynamicalneural’networks”. In 2007 IEEE Symposium on Artificial Life, pp. 394-401. IEEE, 2007.
【非特許文献3】Christian Klos, Yaroslav Felipe Kalle Kossio, Sven Goedeke, Aditya Gilra, and RaoulMartin Memmesheimer. “Dynamical learning of dynamics”. Physical Review Letters, Vol. 125, No. 8, p. 088103, 2020.
【非特許文献4】Guillaume Bellec, Franz Scherr, Elias Hajek, Darjan Salaj, Robert Legenstein, and Wolfgang Maass. “Biologically inspired alternatives to backpropagation through time for learning in recurrent neural nets”. arXiv preprint arXiv:1901.09049, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来技術によるRCの機械学習システム10では、被学習器11と学習器12の各々が独立した構成を有する。しかしながら、高い自律性を有する学習機能では、その適応性を担保するため、常に学習が継続されなければならない。そして、このような学習過程を実現するためには、被学習器11と学習器12が、つなぎ目のない非線形力学系内で一貫して表現するような手法であることが求められる。特にこの課題は、PRCの利点を活用した学習機の構成に向けて重要となる。
【0020】
現在までにおいて、学習過程をRNNのダイナミクスで表現することでつなぎ目のない一貫した機械学習システムを実現するための技術は、既にいくつか提案されている。例えば、Izquierdo-TorresとHarveyは、Hebb則の動作を行う重みが固定化された連続時間のRNNを進化的アルゴリズムによって構成した(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、このような技術では、進化ロボティクスの文脈で採用されてきたような進化的アルゴリズムによる実装は困難である。また、Klosらは、タスクの学習中に使われる変数をRNNからの自律的に生成するように閉ループ系を事前に学習することで、内部結合の調整を伴わずにタスクに適応できるRNNを構築した(例えば、非特許文献3参照)。一方、Bellecらは、BPTTによってその内部結合を事前学習させることで、相互作用パラメータの調整なしに新しいタスクに適応できるスパイキングニューラルネットワークを構築した(例えば、非特許文献4参照)。しかしながら、このようなRNNの事前学習によって内部結合を調整する手法は、タスクの範囲が先行的に設計者によって決定される必要がある。その結果、汎化が部分的であり、RLSアルゴリズムそのものをその汎用性を担保したままニューラルネットワーク上に設計することには向いていない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記のような課題に対して鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い自律性を有する機械学習を実現するため、被学習器と学習器とが、つなぎ目のない非線形力学系内で一貫して表現される機械学習システムを提供することにある。
【0022】
このような目的を達成するため、本発明では、リザーバーコンピューティングである機械学習システムであって、結合重みを固定したリカレントニューラルネットワークを用いて、経時列入力の過去の情報が反映されて残る状態を作り出し、そこから入力の特徴の読み出しを行うエコーステートニューラルネットワークの構成を有するリザーバーと、リザーバーの内部状態を変換するリードアウトと、学習アルゴリズムと、を備え、学習アルゴリズムが、非線形な入出力関係の近似に活用することによって、リザーバーとして活用され、学習アルゴリズムおよびリードアウトの処理が、リザーバーで置換される、機械学習システムを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明による機械学習システムを適用すれば、その自律性の高い学習機能により、自発的な学習が実装され、汎用性の高い機械学習が実現される。また、特にPRCにおいては、外的なリードアウトの機構が不要となるため、その構成に律速されない計算が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】従来技術によるRCの機械学習システム10の構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明による機械学習システムの構築における、RLSアルゴリズムをリザーバーとみなした構成を模式的に示した図である。
【
図3】本発明による機械学習システムの構築における、RLSアルゴリズム上の形式的処理をRNNで置換した構成を模式的に示した図である。
【
図4】本発明による機械学習システムの最終的な構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照しながら本発明の種々の実施形態について詳細に説明する。同一又は類似の参照符号は同一又は類似の要素を示し重複する説明を省略する場合がある。材料及び数値は例示を目的としており、本発明の技術的範囲の限定を意図していない。以下の説明は、一例であって本発明の一実施形態の要旨を逸脱しない限り、一部の構成を省略若しくは変形し、又は追加の構成とともに実施することができる。
【0026】
また、以下の説明において、本発明による機械学習システムは、被学習器がRC、学習器に設定される学習アルゴリズムがRLSアルゴリズムである文脈として述べられるが、これは例示を目的としており、限定するものではないことに留意されたい。
【0027】
本発明による機械学習システムは、上述の通り、RCを拡張した機械学習システムであって、被学習器と学習器とが、つなぎ目のない非線形力学系内で一貫して表現される機械学習システムである。
【0028】
以下に、本発明による機械学習システムの原理を詳細に述べる。
【0029】
(原理)
図1に示される機械学習システム10において、被学習器11を構成するRCは、(式1)および(式2)で表現されるような力学系となる。
【0030】
【0031】
ここで、FESNは、被学習器11におけるESNの時間発展写像である。
【0032】
一方、学習器12では、上述の通り、RLSアルゴリズムに基づいた学習が実装される。RLSアルゴリズムは、データの追加に対して逐一パラメータw(t)を更新するOnline学習であり、規定の目的関数を最小化するw(t)が、補助変数P(t)を導入した漸化式を用いて更新されるように構成されている。このような計算方法において、RLSアルゴリズムは、現在の状態x(t)のみを因数として更新されるP(t)と、教師軌道d(t)も因数として計算される差分値Δw(t)の二つに分類される。したがって、機械学習システム10において、学習器12で実装される計算は、(式3)及び(式4)のように定式化できる。
【0033】
【0034】
このように、RCの学習全体はu(t)、d(t)を引数にとり時間発展するシステムと解釈できる。特に、FESN、FRLSがエコーステートプロパティ(Echo state property:以下、ESPという)を有する場合、RCの学習全体はそれ自身がリザーバーとして活用できる力学系であるとみなせる。本発明による機械学習システムでは、このような被学習器と学習器の機能性を一つの力学系でつなぎ目なく表現するようにRCを拡張している。
【0035】
そのような被学習器と学習器の機能性をつなぎ目なく表現した力学系は、その状態を仮にX(t)とおけば、(式5)及び(式6)のように記述できる。
【0036】
【0037】
ここで、Fall、Gallはそれぞれ、学習過程の時間発展と出力の生成機構を表す写像を表す。本発明による機械学習システムでは、ESNの非線形性tanhのみを用い、その内部結合パラメータを設計することでFallを実現するRNNが構築されている。このようなシステムでは、入力u(t)と教師軌道d(t)が与えられると、そのダイナミクスの上で「勝手に」学習が進行する。そこでは、通常トップダウン的に設定されるモジュールや明示的な役割分担などの学習過程に付随する構造を、一貫した力学系として表現することで一様なダイナミクスの中に自律的に立ち現れるダイナミックな構造として解析することが可能となる。
【0038】
(本発明による機械学習システムのアーキテクチャ)
本発明による機械学習システムは、以下の3つの構成により実現される。
(1)学習器の学習アルゴリズム(RLSアルゴリズム)を、リザーバーとして構築
(2)学習器の学習アルゴリズム(RLSアルゴリズム)上の形式的処理をRNNで置換
(3)(1)と(2)の統合
以下に、各事項に対する詳細な説明を述べる。
【0039】
(リザーバーとしてのRLSアルゴリズムの構築)
図2は、本発明による機械学習システムの構築における、RLSアルゴリズムをリザーバーとみなした構成を模式的に示した図である。本発明による機械学習システムでは、まず、RLSアルゴリズムが特定のパラメータの条件下でESPが成り立つことを示し、そして、その条件下でRLSアルゴリズムそのものをリザーバーとしてみなして活用する。すなわち、RLSアルゴリズムの高次元性と非線形性に着目し、それをある非線形な入出力関係の近似に活用している。特に、本発明による機械学習システムでは、その対象として、被学習器におけるF
ESNに着目し、それをRLSアルゴリズム内の変数の線形閉ループによって構成している。なお、この閉ループはサンプルされた軌道を使用した教師あり学習によって達成される。このようにして構成された閉ループ系では、被学習器のESNが線形閉ループに置換され、RLSアルゴリズムだけが残された構成となり、一貫したシステムとなる。本明細書では、このようなRLSアルゴリズムをリザーバーとみなした形態をAll-In-One系と呼ぶこととする。
【0040】
次いで、このようなAll-In-One系において、RLSアルゴリズムに基づいて学習されるリザーバーの系について説明する。このような場合における系全体は、(式7)から(式11)で表される。
【0041】
【0042】
ここで、μは、RLSアルゴリズムの目的関数における忘却項であり、0以上1以下を満たすように設定される。
【0043】
本発明における機械学習システムでは、上述の通り、被学習器と学習器の分離構成を解消したAll-In-One系を構築する。この時、RLSアルゴリズムそのものをリザーバーとして活用し、被学習器のESNの近似に活用する。上述の通り、ESNの時間発展写像FESNは、x(t)とu(t)を引数とする非線形写像である。したがって、FESNの近似のためには(式8)の軌道が活用できる。すなわち、本発明による機械学習システムでは、(式5)をリザーバーとして活用し、FESNを構成する。
【0044】
ある力学系がリザーバーとして活用されるためには、その系がESPを有することが前提条件となる。ここで、ESPはある入力での系の漸近状態収束の条件であり、大まかにいえば、入力の過去系列の関数として各変数が記述できることが要求される。
【0045】
一方、P(t)は、(式12)に示される形で、陽な形式で表現される。
【0046】
【0047】
あるシステムをリザーバーとして活用する時、ある種の定常的な状態が仮定される。したがって、十分にtが大きく時間発展した状態での使用が想定される。ここでμ<1.0ならば、P(t)は(式13)の値に収束する。
【0048】
【0049】
(式8)を考慮すれば、これはP(t)がx(t)とu(t)の過去時系列の関数であることを意味する。加えて、μ<1.0であるため、時間発展に従い過去の入力の影響が小さくなる。これはFRLSがESPを有することを示唆する。これにより、本発明による機械学習システムでは、μ<1.0の条件のRLSアルゴリズムを採用する。
【0050】
次に、RLSアルゴリズムに現れる独立な変数に関して論じる。RLSアルゴリズムは、式10)の形で、一行で記述されるP(t)の変数であるが、アルゴリズムとしては変数の積と和の繰り返しで構成される。具体的には以下の(式14)から(式24)の順に計算される。
【0051】
【0052】
ここでi、jは添え字でありiは1以上、jはN+1以下である。
【0053】
今注目すべきは、RLSアルゴリズムのリザーバーとしての性能で、換言すればアルゴリズム上で出現する(式8)の非線形変換である。上記の式の中で、非線形性という意味で独立なのは aij、bij、γ、ΔPijである。したがって、これらの変数は、RLSアルゴリズムの計算の結果、必ず生成される非線形な変換でリザーバーとして活用される。特に本発明による機械学習システムでは、(式25)の2ケースを用意し、リザーバーとしてのRLSアルゴリズムの状態θRLS(t)を定義する。
【0054】
【0055】
ここで、でθRLS(t)の次元数は、Pのみの場合は(n2 + n)/2、全変数の場合は(5n2 + 5n + 1)/2である。
【0056】
最終的に、
図1に示されるような系は、線形な閉ループw
AIOを(式26)を満たすように学習させることにより達成される。
【0057】
【0058】
なお、このリードアウトwAIOの学習はRidge回帰を用いて達成される。被学習器のESNをこの線形な閉ループで置き換えることにより、最終的にESNが消失したAll-In-One系が構築される。そこでは、RLSアルゴリズムの非線形性を活用してESNが表現される。
【0059】
(RLSアルゴリズム上の形式的処理をRNNで置換)
図3は、本発明による機械学習システムの構築における、RLSアルゴリズム上の形式的処理をRNNで置換した構成を模式的に示した図である。本発明による機械学習システムでは、RLSアルゴリズムとリードアウトのアルゴリズム的処理の全体をESNに置き換える。特に、元のESNの非線形性のみを活用してこれを構成する。まず、RLSアルゴリズムを非線形演算と線形演算に分解する。そして各非線形演算をExtreme Learning Machine(以下、ELMという)と呼ばれる一層のニューラルネットワークを用いて近似し、その非線形演算を学習されたELMに置き換える。この時、ELMの非線形関数として、本発明による機械学習システムではtanhを使用する。このELMの学習は誤差逆伝搬法を用いず、同様に線形回帰で達成される。本明細書では、このような操作をNeuralizingと呼ぶ。結果的に、本発明による機械学習システムでは、3層のニューラルネットワークでRLSアルゴリズムを置換することができる。これを再帰的に結合することで、RLSアルゴリズムとリードのアルゴリズム的な処理と等価なRNNが獲得される。
【0060】
RLSアルゴリズム上の形式的処理をRNNで置換するという操作は、具体的には、(式10)及び(式11)と等価な処理を行うRNNを構築することに相当する。RLSアルゴリズムでは、(式14)における二変数の積、(式15)、(式19)における三変数の積、(式18)における逆数の計算、の累計3種類の非線形演算が要求される。以降それぞれ、XY、XYZ、(1+X)-1と表記する。本発明による機械学習システムでは、これらをESNの非線形性であるtanhを用いて表現する。具体的には、活性化関数としてtanhを持つELMを使用し、3種類の非線形演算に対応して(式27)から(式29)の3種類のELMを構築する。
【0061】
【0062】
なお、本発明による機械学習システムでは、XY、XYZ、(1+X)-1に対してそれぞれ20、40、50次元の隠れ層をもつELMを構築した。
【0063】
このように、(式27)から(式29)で表されるELMを用いて、(式14)、(式15)、(式18)、(式19)、(式21)及び(式23)のアルゴリズムを置換することで、(式10)及び(式11)は、
図3に示されるような3層のニューラルネットワークで表現される。そして、得られたニューラルネットワークを再帰的に結合することで、tanhの非線形性のみが出現する巨大なRNNが構築される。
【0064】
この処理により、内部結合の変更を伴わずにRLSアルゴリズムとリードアウトが等価なRNNが構築できる。なお、このNeuralizingされたRLSの次元数、すなわち独立な非線形成分の数は、ELMの隠れ層のため、RLSアルゴリズムの次元数よりはるかに大きい。
【0065】
また、RLSアルゴリズムとは異なり、これらの要素はそれ単体では明示的な意味を与えられておらず、他の要素と足し合わせることで初めてRLSアルゴリズム内の変数と対応付けられる。
【0066】
(All-In-One系とNeuralizingされたRLSの統合)
図4は、本発明による機械学習システムの最終的な構成を模式的に示した図である。上述のAll-In-One系の構成とNeuralizingされたRLSの構成を統合することにより、
図4に示されるような本発明による機械学習システムとなる。この統合は、具体的には、(式26)におけるθ
RLS(t)を、NeuralizingされたRLSにおけるELMの隠れ層のノードを全て統合したθ
ELM(t)とし、同様に線形閉ループw
AIOを学習させることに相当する。換言すれば、本発明による機械学習システムは、(式26)を(式30)に置き換えた構成を有する。
【0067】
【0068】
これにより、被学習器と学習器の分離構成が解消され、且つRLSアルゴリズムを用いたRC全体が、tanhの非線形性のみでそのダイナミクスの上に実現されたRNNが実現される。
【0069】
また、本発明による機械学習システムは、入力が与えられなくても常に内部状態が変化し続ける。また、この教師軌道はシステムの内部状態を反映した内的なものであり、その意味で学習対象を自ら構築している自発的な学習機能を有する機械学習システムである。
【0070】
したがって、本発明による機械学習システムは、従来技術による機械学習システム(例えば、機械学習システム10)に比べ、高い自律性を有したシステムであると言える。
【符号の説明】
【0071】
10 機械学習システム
11 被学習器
110 リードイン
111 リザーバー
112 リードアウト
12 学習器