IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特開-樹脂組成物の製造条件の判定方法 図1
  • 特開-樹脂組成物の製造条件の判定方法 図2
  • 特開-樹脂組成物の製造条件の判定方法 図3
  • 特開-樹脂組成物の製造条件の判定方法 図4
  • 特開-樹脂組成物の製造条件の判定方法 図5
  • 特開-樹脂組成物の製造条件の判定方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003699
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造条件の判定方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/72 20060101AFI20240105BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240105BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B29B7/72
C08L101/00
B29B7/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103023
(22)【出願日】2022-06-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】高田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】山地 俊則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徹
(72)【発明者】
【氏名】竹林 良浩
(72)【発明者】
【氏名】依田 智
(72)【発明者】
【氏名】阿多 誠介
【テーマコード(参考)】
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F201AA13
4F201AA24
4F201AA28
4F201AA29
4F201AA32
4F201AA34
4F201AA45
4F201AM23
4F201AP05
4F201AP20
4F201AQ01
4F201AR06
4F201AR20
4F201BA01
4F201BC01
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK26
4F201BK74
4J002BC02W
4J002CF00W
4J002CG00W
4J002CH07W
4J002CH09W
4J002CL00W
4J002CN02W
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】二次加工に伴う破壊や劣化等の影響を受け難く、樹脂組成物の耐衝撃性を好適なものとする制御パラメータを決定する。
【解決手段】樹脂組成物の製造条件の判定方法は、樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を製造条件項目として少なくとも含む製造条件データと、製造条件データが示す製造条件によって製造された樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む第1物性測定データと、製造条件データが示す製造条件によって製造された樹脂組成物をオンラインかつ非破壊で測定した第2物性測定データとを含むデータセットを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、第2物性測定データが所定の範囲内である項目を判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を製造条件項目として少なくとも含む製造条件データと、前記製造条件データが示す製造条件によって製造された樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む第1物性測定データと、前記製造条件データが示す製造条件によって製造された樹脂組成物をオンラインかつ非破壊で測定した第2物性測定データとを含むデータセットを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、前記製造条件データ、前記第1物性測定データ及び前記第2物性測定データに含まれる複数の項目のうち、前記特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、前記第2物性測定データが所定の範囲内である項目を判定する
樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリスチレン樹脂からなる群から選択されるいずれか一種以上の樹脂を含む
請求項1に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項3】
前記第2物性測定データは、ラマン散乱測定による散乱強度を少なくとも含む
請求項1に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項4】
前記ラマン散乱測定において、ベースライン強度(INTENSITY)の値を少なくとも説明変数として含む
請求項3に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項5】
前記第2物性測定データは、近赤外スペクトル測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む
請求項1又は請求項3に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項6】
前記第2物性測定データは、近赤外拡散反射測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む
請求項5に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項7】
前記近赤外スペクトル測定において、測定方法は拡散反射法であり、ベースラインの位置に基づく散乱係数値が少なくとも説明変数として含まれる
請求項6に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項8】
前記製造条件データは、樹脂組成物の製造装置の制御対象である第1製造条件データと、前記製造装置の制御対象でない第2製造条件データとを前記製造条件項目として含む
請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【請求項9】
前記第2製造条件データには、前記製造装置の樹脂を混練する混練部の複数個所におけるそれぞれの前記混練部の内部温度が含まれる
請求項8に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物の製造条件の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融混練プロセスにより樹脂組成物を製造する技術があった。このような技術によれば、2種類以上の樹脂のペレットを混合し、混合されたペレットをスクリューで回転させることにより撹拌しながら加熱し、混練された樹脂を押し出すことによりポリマーブレンドを行う(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-149002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような溶融混練プロセスによれば、製造条件として制御するパラメータの種類が非常に多く、それぞれのパラメータ同士が複雑に相互作用する。したがって、樹脂組成物の耐衝撃性をより高いものにすべく、付与する好適な製造条件を見つけることが困難であった。また、従来の製造条件で製造された樹脂組成物は、二次加工に伴う破壊や劣化等の影響により、特性を正しく評価できなくなってしまう場合があり、好適な製造条件の決定が困難である。すなわち、従来技術によれば、樹脂組成物の二次加工に伴う破壊や劣化等の影響から、耐衝撃性などの特性を最適化することが困難であった。特にオンライン計測する場合においては、二次加工に多くの時間を費やすことも相まって、好適な製造条件の決定がより困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、二次加工に伴う破壊や劣化等の影響を受け難く、樹脂組成物の耐衝撃性を好適なものとする制御パラメータを決定可能な、樹脂組成物の製造条件の判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、後述する取得データをもとに得られたデータセットを用い、機械学習アルゴリズムによる解析を行うことで、好適な制御パラメータを決定可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0008】
(1)本発明の一態様は、樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を製造条件項目として少なくとも含む製造条件データと、前記製造条件データが示す製造条件によって製造された樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含む第1物性測定データと、前記製造条件データが示す製造条件によって製造された樹脂組成物をオンラインかつ非破壊で測定した第2物性測定データとを含むデータセットを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、前記製造条件データ、前記第1物性測定データ及び前記第2物性測定データに含まれる複数の項目のうち、前記特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、前記第2物性測定データが所定の範囲内である項目を判定する樹脂組成物の製造条件の判定方法である。
【0009】
(2)本発明の一態様は、上記(1)に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記樹脂組成物とは、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリスチレン樹脂からなる群から選択されるいずれか一種以上の樹脂を含む。
【0010】
(3)本発明の一態様は、上記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記第2物性測定データは、ラマン散乱測定による散乱強度を少なくとも含む。
【0011】
(4)本発明の一態様は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記ラマン散乱測定において、ベースライン強度(INTENSITY)の値を少なくとも説明変数として含む。
【0012】
(5)本発明の一態様は、上記(1)から(4)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記第2物性測定データは、近赤外スペクトル測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む。
【0013】
(6)本発明の一態様は、上記(1)から(5)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記第2物性測定データは、近赤外拡散反射測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む。
【0014】
(7)本発明の一態様は、上記(1)から(6)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記近赤外スペクトル測定において、測定方法は拡散反射法であり、ベースラインの位置に基づく散乱係数値が少なくとも説明変数として含まれる。
【0015】
(8)本発明の一態様は、上記(1)から(7)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記製造条件データは、樹脂組成物の製造装置の制御対象である第1製造条件データと、前記製造装置の制御対象でない第2製造条件データとを前記製造条件項目として含む。
【0016】
(9)本発明の一態様は、上記(1)から(8)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造条件の判定方法において、前記第2製造条件データには、前記製造装置の樹脂を混練する混練部の複数個所におけるそれぞれの前記混練部の内部温度が含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二次加工に伴う破壊や劣化等の影響を受け難く、樹脂組成物の耐衝撃性を好適なものとする制御パラメータを決定可能な、樹脂組成物の製造条件の判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る二軸押出機の機能構成について説明するための図である。
図2】本実施形態に係る機械学習アルゴリズムについて説明するための図である。
図3】本実施形態に係るデータセットについて説明するための図である。
図4】本実施形態に係る機械学習アルゴリズムにより算出された重要度の一例について説明するための図である。
図5】本実施形態に係る分光センサによる測定結果とシャルピー衝撃値との関係を示す図である。
図6】本実施形態に係る樹脂組成物の製造条件の判定方法の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る樹脂組成物の製造条件の判定方法について、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、樹脂組成物の一例として、樹脂組成物がポリアリーレンスルフィド樹脂組成物である場合の一例について説明するが、本実施形態に係る樹脂組成物はこの一例に限定されず、様々な樹脂組成物を広く含む。様々な樹脂組成物の一例としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂等の樹脂を含むものであってもよい。実施形態における樹脂組成物の詳細については、後述する。
【0020】
[二軸押出機の概略]
図1は、本実施形態に係る二軸押出機10の機能構成について説明するための図である。同図を参照しながら、本実施形態に係る二軸押出機10の機能構成について説明する。
二軸押出機10は、駆動装置11と、フィーダー12と、シリンダー13と、スクリュー14と、赤外線温度センサIRとを備える。
【0021】
フィーダー12は、実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料を投入するための投入口である。
本実施形態において、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とは、ポリアリーレンスルフィドを含む樹脂組成物を広く包含する。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料は、ポリアリーレンスルフィドを含むことができる。ポリアリーレンスルフィドとしては、ポリフェニレンスルフィドを例示できる。なお、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料とは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する配合成分、及び配合成分の前駆体を含む。
【0022】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料には、ポリアリーレンスルフィドと混合される、任意の成分を更に用いることができる。ポリアリーレンスルフィドとエラストマーとを混合する場合、エラストマーについてもフィーダー12から投入される。フィーダー12の個数は1個であっても、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料を個別に投入するために2個以上あっても構わない。
【0023】
シリンダー13は、筒状の形状を有する。シリンダー13は、一端がフィーダー12に接続され、他端がダイス19に接続される。以後の説明において、シリンダー13のフィーダー12側を上流側と記載し、ダイス19側を下流側と記載する場合がある。シリンダー13は内部にスクリュー14を収容する。フィーダー12に導かれた原料は、不図示の加熱器により加熱され、原料の少なくとも一部(例えばポリアリーレンスルフィド)はシリンダー13の内部で溶融するとともに、投入された原料全体がスクリュー14により混練される。以後の説明において、シリンダー13を混練部とも記載する。混練部では、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の原料が混練される。以下、溶融混練時のシリンダー内の内容物を、混錬物と称する。
【0024】
本実施形態において、不図示の加熱部は、x軸方向に沿って異なる位置に複数設置されていてもよい。x軸方向において異なる位置に設置された複数の加熱部は、それぞれ異なる温度によりシリンダー13を加熱する。二軸押出機10は、複数の加熱部を備え、それぞれ異なる温度によりシリンダー13を加熱することにより、シリンダー13の上流側と下流側において異なる温度で混練物を加熱する。加熱部としては、シリンダー13を覆うバレルを例示できる。
【0025】
赤外線温度センサIRは、シリンダー13の温度を測定する。具体的には、赤外線温度センサIRは、シリンダー13の内部に存在する成形材料の、溶融混練時の混練物温度を測定する。二軸押出機10は、複数の赤外線温度センサIRを備えていてもよい。本実施形態においては、二軸押出機10は、赤外線温度センサIRとして、シリンダー13の上流側から順に、第1赤外線温度センサIR1と、第2赤外線温度センサIR2と、第3赤外線温度センサIR3と、第4赤外線温度センサIR4とを備える。
【0026】
スクリュー14は、駆動装置11により回転駆動される。スクリュー14は、回転駆動されることにより、シリンダー内部の混練物を、上流側から下流側に導く。フィーダー12に投入された原料は、シリンダー13を介し、溶融混練されて得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として、ダイス19から押し出される。
駆動装置11は、不図示のモータ及びギアボックス等を備える。駆動装置11は、予め規定されたスクリュウ回転数(rpm)となるように、モータの回転数やトルク等を制御し、スクリュー14を回転させる。
【0027】
[機械学習アルゴリズム]
図2は、本実施形態に係る機械学習アルゴリズム20について説明するための図である。同図を参照しながら、機械学習アルゴリズム20について説明する。
機械学習アルゴリズム20は、記憶装置30に記憶されたデータセットDSを教師データとして、教師有り学習により学習される。また、機械学習アルゴリズム20は、記憶装置30に記憶された情報に基づき推論を行い、推論を行った結果を記憶装置30に出力する。記憶装置30には、製造条件データCDと、物性測定データMDと、高重要度項目HCとが記憶される。
【0028】
製造条件データCDは、樹脂組成物の製造条件に関するデータを含む。製造条件データCDには、樹脂組成物の配合成分、混合条件及び溶融混練時の混練物温度が、製造条件項目として少なくとも含まれる。製造条件データCDは、第1製造条件データCD1と、第2製造条件データCD2とを含む。
第1製造条件データCD1は、樹脂組成物の製造条件に関するデータのうち、制御可能な変数を含む。第1製造条件データCD1の一例としては、エラストマー変性量、エラストマー配合量及びスクリュウ回転数等を例示できる。
第2製造条件データCD2は、樹脂組成物の製造条件に関するデータのうち、制御不可能な(換言すれば、成り行きによって変動する)変数を含む。第2製造条件データCD2の一例としては、スクリュウを回転駆動させるために要する電流値、混練物圧力、シリンダー内部温度等を例示できる。
【0029】
物性測定データMDは、製造条件データCDに含まれる製造条件において製造された樹脂組成物の物性を測定した結果に関するデータを含む。物性測定データMDは、第1物性測定データMD1と、第2物性測定データMD2とを含む。
第1物性測定データMD1は、物性測定データMDのうち、製造条件データCDが示す製造条件によって製造された樹脂組成物の耐衝撃性(例えば、シャルピー衝撃値)を特性値項目として少なくとも含む。
第2物性測定データMD2は、物性測定データMDのうち、製造条件データCDが示す製造条件によって製造された樹脂組成物をオンラインかつ非破壊で測定された測定データを少なくとも含む。オンラインかつ非破壊で測定された測定データの一例としては、分光センサによる測定や、試料に振動を与えたときの減衰の程度等が含まれる。分光センサの一例としては、ラマンセンサ、近赤外線(NIR:near-infrared)分光センサ等が含まれる。
【0030】
一例として、機械学習アルゴリズム20は、シャルピー衝撃値(シャルピー衝撃強度)を目的変数、シャルピー衝撃値以外の項目を説明変数として、シャルピー衝撃値に対する各項目の重要度を算出する。以後の説明において、特性を向上させるための対象として設定された目的変数を、特性向上対象項目とも記載する。
高重要度項目HCは、樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、特性値の変化についての重要度が高い項目である。以下の説明においては、特性向上対象項目の一例として、樹脂組成物の耐衝撃性である場合について説明する。しかしながら本実施形態はこの一例に限定されず、耐衝撃性以外の特性値を目的変数としてもよい。例えば、第2物性測定データMD2に含まれるラマンセンサ、近赤外線分光センサ等により測定される測定結果を目的変数としてもよい。
【0031】
機械学習アルゴリズム20には、記憶装置30から、データセットDSが入力される。機械学習アルゴリズム20は、入力されたデータセットDSに基づき、高重要度項目HCを算出する。算出された高重要度項目HCは、記憶装置30に記憶される。以下、機械学習アルゴリズム20を用いた学習と推論について、それぞれの段階ごとに詳細に説明する。
【0032】
まず、機械学習アルゴリズム20の学習段階について説明する。機械学習アルゴリズム20は、教師有り学習により学習される。学習に用いられるデータセットDSは、予め所定の製造条件において製造された樹脂組成物の物性を測定することにより作成される。学習に用いられるデータセットDSは、製造条件データCDと、当該製造条件データCDにより特定される製造条件において製造された樹脂組成物の物性を測定した測定結果を含む物性測定データMDとを含む。
【0033】
次に、機械学習アルゴリズム20の推論段階について説明する。本実施形態における樹脂組成物の製造条件の判定方法では、データセットDSを用いて機械学習アルゴリズムを実行することにより、特性が向上するための重要度が高い項目である高重要度項目HCを判定する。本実施形態における樹脂組成物の製造条件の判定方法は、樹脂組成物の特性向上対象項目の特性値を目的変数とした場合において、製造条件データCDおよび物性測定データMDに含まれる複数の項目のうち、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ第2物性測定データMD2が所定の範囲内である項目を判定する。第2物性測定データMD2にラマンセンサ、近赤外線分光センサ等により測定される測定結果が含まれる場合、本実施形態における樹脂組成物の製造条件の判定方法は、ラマンセンサにより測定される測定結果又は近赤外線分光センサにより測定される測定結果いずれか一方が所定の範囲内である項目を判定してもよい。また、本実施形態における樹脂組成物の製造条件の判定方法は、ラマンセンサにより測定される測定結果及び近赤外線分光センサにより測定される測定結果の両方が所定の範囲内である項目を判定してもよい。
【0034】
本実施形態における樹脂組成物の製造条件の判定方法に用いられる機械学習アルゴリズム20について、より詳細に説明する。まず、機械学習アルゴリズム20は、取得したデータセットDSに含まれる各項目それぞれに対し、重要度(%)を算出する。具体的には、機械学習アルゴリズム20は、ランダムフォレストの手法を用いて重要度を算出する。
機械学習アルゴリズム20は、取得したデータセットDSのうち、製造条件データCDに含まれる制御変数、実測変数及び物性測定データMDに含まれる物性変数の全てを分析対象とし、重要度(%)を算出する。
ここで、重要度を算出する際に用いるハイパーパラメータは、決定係数(Score)が最も高くなる様、適宜設定値を変更して構わない。また、グリッドサーチやベイズ最適化の手法を用いて、最適化された値を用いても構わない。
【0035】
[データセットの一例]
図3は、本実施形態に係るデータセットDSについて説明するための図である。同図を参照しながら、本実施形態に係るデータセットDSの一例について説明する。データセットDSは、製造条件データCDと、物性測定データMDとを含む。
【0036】
製造条件データCDには、樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度等が含まれる。製造条件データCDは、具体的には、樹脂組成物の製造装置の制御対象である(すなわち、制御変数である)第1製造条件データCD1と、樹脂組成物の製造装置の制御対象でない(すなわち、成り行き変数である)第2製造条件データCD2とを製造条件項目として含む。
【0037】
第1製造条件データCD1の一例としては、エラストマー変性量、エラストマー配合量、スクリュウ回転数等を例示できる。エラストマーの変性量とは、例えば、熱可塑性エラストマー(B)が有していてもよい官能基の量に対応する。エラストマー配合量とは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量に対する、エラストマーの含有割合(質量%)とすることができる。スクリュウ回転数とは、上述した二軸押出機10のスクリュウ回転数(rpm)であり、駆動装置11がモータの回転数やトルク等を制御することにより決定される。
【0038】
第2製造条件データCD2の一例としては、電流、混練物圧力、シリンダー内部温度等を例示できる。電流とは、シリンダー13から混練物を押し出す際に、スクリュー14を回転駆動させるために要する電流を示す。変形例としては、電流に代えて、押し出しトルクを実測変数としてもよい。混練物圧力とは、シリンダー13の下流側に位置するダイス部に備えられる不図示の圧力センサにより測定される値である。
【0039】
シリンダー内部温度とは、上述した赤外線温度センサIRにより測定される値である。シリンダー内部温度は、シリンダーの位置に応じて複数であってもよい。例えば、シリンダー内部温度として、第1赤外線温度センサIR1から第4赤外線温度センサIR4により測定された複数の温度情報を有していてもよい。すなわち、第2製造条件データCD2には、樹脂組成物を混練する混練部(シリンダー13)の複数個所におけるそれぞれの温度が含まれていてもよい。なお、混練部の複数個所におけるそれぞれの温度には、混練部の内部温度が含まれ、具体的には混練物温度、あるいは樹脂温度を含む。
【0040】
なお、本実施形態において、実測変数である第2製造条件データCD2のうち、重要であると判定された項目を、制御変数である第1製造条件データCD1としてもよいし、制御変数である第1製造条件データCD1のうち、重要でないと判定された項目を、実測変数である第2製造条件データCD2としてもよい。
【0041】
物性測定データMDには、製造条件データCDが示す製造条件によって製造された樹脂組成物の特性値項目が含まれる。物性測定データMDは、具体的には、オフラインかつ破壊試験により得られるデータである第1物性測定データMD1と、オンラインかつ非破壊試験により得られるデータである第2物性測定データMD2とを含む。
【0042】
第1物性測定データMD1の一例としては、溶融粘度、エラストマー平均分散径、シャルピー衝撃値等を例示できる。
第1物性測定データMD1には、その他、ガス発生量、高温耐熱性、高温弾性率等、特性向上のためのターゲットとなり得る値を含んでいてもよい。
【0043】
溶融粘度とは、得られた樹脂組成物に荷重をかけ測定される。溶融粘度は、例えば、シリンダー温度を300℃とし、オリフィス長を10mm、オリフィス径1mmのフローテスターに、樹脂組成物のペレットを投入し、6分間予熱後に50kgの荷重を掛けることにより測定してもよい。
【0044】
エラストマー平均分散径とは、得られた樹脂組成物から測定される値である。具体的には、エラストマー平均分散径とは、得られた樹脂組成物を成形材料として、射出成形機により多目的試験片を成形し、成形した多目的試験片を長さ方向の中心位置で切断して切断面を研磨し、キシレン中に浸し、50℃の温度条件で超音波処理を実施し、断面にあるエラストマー分散物をキシレン抽出にて取り除き、その後130℃で2時間乾燥し、断面をSEMで観察し、画像を測定することにより取得してもよい。なお、この際、エラストマーが取り除かれた箇所は空隙相となり明度が低い黒色で円状に表示される。画像解析ソフトにより、画像視野内に認められる当該黒色の円状物の円面積相当径(円状物の面積に相当する真円の直径をもとめた値)を全て計測し、円状物の個数で割った平均値をエラストマーの平均分散径としてもよい。
【0045】
シャルピー衝撃値とは、得られた樹脂組成物から測定される値である。シャルピー衝撃値とは、例えば、得られた樹脂組成物を成形材料として、シリンダー設定温度300℃、金型設定温度130℃の条件にて射出成形機で成形し、長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mmの試験片を得た後、ISO 2818に従って試験片にノッチを切削し、ISO 179-1に従い23℃において試験を行うことにより測定されてもよい。
【0046】
第2物性測定データMD2の一例としては、NIR拡散反射、ラマン散乱等を例示できる。NIR拡散反射とは、NIRセンサにより測定される値であって、近赤外スペクトル測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数である。すなわち、第2物性測定データMD2は、近赤外スペクトル測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む。また、NIR拡散反射とは、近赤外拡散反射測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を示す値である。すなわち、第2物性測定データMD2は、近赤外拡散反射測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む。
【0047】
また、当該近赤外スペクトル測定における測定方法は、拡散反射法であってもよい。また、当該近赤外スペクトル測定においては、ベースラインの位置に基づく拡散反射率又はクベルカムンク関数が少なくとも説明変数として含まれていてもよい。
【0048】
ラマン散乱とは、ラマンセンサにより測定される値であって、ラマン散乱測定による散乱強度を示す値である。すなわち、第2物性測定データMD2は、ラマン散乱測定による散乱強度を少なくとも含む。また、当該ラマン散乱測定において、ベースライン強度(INTENSITY)の値が少なくとも説明変数として含まれていてもよい。
【0049】
図3に示す一例において、データセットDSとして、データセットDS1及びデータセットDS2が示される。データセットDS1及びデータセットDS2は、それぞれ異なる製造条件において製造された樹脂組成物についての測定結果を示す。データセットDSには、複数の製造条件において製造された樹脂組成物についての測定結果が含まれていてもよく、測定結果は多い方が好適である。
なお、製造条件データCD及び物性測定データMDは、複数回測定した結果に基づいた平均値を用いてもよい。
【0050】
データセットDS1は、エラストマー変性量が“CD11_1”であり、エラストマー配合量が“CD12_1”であり、スクリュウ回転数が“CD13_1”であり、電流が“CD21_1”であり、混練物圧力が“CD22_1”であり、シリンダー内部温度が“CD23_1”であり、溶融粘度が“MD11_1”であり、エラストマー平均分散径が“MD12_1”であり、シャルピー衝撃値が“MD13_1”であり、NIR拡散反射が“MD21_1”であり、ラマン散乱が“MD22_1”である。
データセットDS2は、エラストマー変性量が“CD11_2”であり、エラストマー配合量が“CD12_2”であり、スクリュウ回転数が“CD13_2”であり、電流が“CD21_2”であり、混練物圧力が“CD22_2”であり、シリンダー内部温度が“CD23_2”であり、溶融粘度が“MD11_2”であり、エラストマー平均分散径が“MD12_2”であり、シャルピー衝撃値が“MD13_2”であり、NIR拡散反射が“MD21_2”であり、ラマン散乱が“MD22_2”である。
【0051】
[重要度の一例]
図4は、本実施形態に係る機械学習アルゴリズム20により算出された重要度の一例について説明するための図である。同図を参照しながら、機械学習アルゴリズム20により算出された重要度の一例について説明する。
機械学習アルゴリズム20により、データセットDSに対応する項目に対し、重要度が算出される。同図に示す一例においては、シャルピー衝撃値に対する各項目の重要度を算出した結果のため、シャルピー衝撃値には“target”と示されている。シャルピー衝撃値に対する各項目の重要度は、具体的には、エラストマー変性量についての重要度が“I1”であり、エラストマー配合量についての重要度が“I2”であり、スクリュウ回転数についての重要度が“I3”であり、電流についての重要度が“I4”であり、混練物圧力についての重要度が“I5”であり、シリンダー内部温度についての重要度が“I6”であり、溶融粘度についての重要度が“I7”であり、エラストマー分散径についての重要度が“I8”であり、NIR拡散反射についての重要度が“I9”であり、ラマン散乱についての重要度が“I10”である。なお、当該重要度は、合計が100となる様、算出した各値にそれぞれ100を乗じた値であってもよい。
【0052】
次に、機械学習アルゴリズム20は、所定の方法により、高重要度項目HCを判定する。すなわち、機械学習アルゴリズム20は、製造条件データCDおよび物性測定データMDに含まれる複数の項目のそれぞれの重要度を算出することにより、特性向上対象項目(この一例においては、シャルピー衝撃値)の特性値の変化についての重要度が高い項目(すなわち、高重要度項目HC)を判定する。
【0053】
図4に示す一例における高重要度項目HCは、エラストマー配合量及びシリンダー内部温度である。すなわち、シャルピー衝撃値の特性を向上させるためには、エラストマー配合量及びシリンダー内部温度を好適に制御することが好適である。ここで、機械学習アルゴリズム20により高重要度項目HCと判定される項目は、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ第2物性測定データMD2が所定の範囲内である項目である。第2物性測定データMD2の判定に用いられる所定の範囲は、予め定められていてもよいし、機械学習アルゴリズム20により学習されてもよい。
【0054】
なお、シリンダー内部温度がシリンダー内部の位置毎に複数分かれている場合は、重要度が高い位置について高重要度項目HCとしてもよい。例えば、シリンダー上流側の位置における重要度が高いとされた場合、混練部の複数個所における混練物温度のうち、混練部に樹脂組成物の原料が投入される上流側の方が、混練された樹脂組成物が押し出される下流側に比べて、重要度が高いことを示す。
【0055】
高重要度項目HCを判定するための所定の方法とは、例えば、第2物性測定データMD2が所定の範囲内である項目のうち、算出された重要度が上位である項目(例えば、1又は複数の項目)を高重要度項目HCとするよう構成してもよい。
なお、変形例として、機械学習アルゴリズム20は、所定の閾値と重要度を比較することにより、高重要度項目HCであるか否かを判定するよう構成してもよい。例えば、所定の閾値を10として重要度が閾値以上である項目を高重要度項目HCとしてもよい。
【0056】
次に、機械学習アルゴリズム20は、算出された重要度が高い項目を新たな目的変数として、新たな目的変数の特性値の変化についての重要度が高い項目を判定する。具体的には、図4に示す一例では、エラストマー配合量、シリンダー内部温度が高重要度項目HCであるため、高重要度項目HCの1つであるエラストマー配合量を目的変数、エラストマー配合量以外の項目を説明変数として、ランダムフォレストのアルゴリズムを用いてエラストマー配合量に対する各項目の重要度を算出する。
【0057】
上述したように、機械学習アルゴリズム20によれば、データセットDSのうち所定の項目について目的変数として、当該目的変数とした項目以外の項目について説明変数として、ランダムフォレストのアルゴリズムを用いて当該目的変数とした項目に対する各項目の重要度を算出する。機械学習アルゴリズム20は、算出された高重要度項目HCのうち、特定の項目を更に目的変数として、新たにランダムフォレストのアルゴリズムを用いて重要度を算出することにより、重要度の高い項目を判定していく。
【0058】
次に、機械学習アルゴリズム20は、高重要度項目HCと判定された項目に対し、サポートベクトル回帰を行う。具体的には、機械学習アルゴリズム20は、算出された重要度が高い項目(高重要度項目HC)を解析軸にして、データセットDSを用いた回帰演算を実行することにより、重要度が高い項目(高重要度項目HC)の特性値の変化と、目的変数の特性値の変化との対応関係を推定する。ここで、高重要度項目HCと判定された項目は、最初の演算により判定された項目と、2回目以降の演算により判定された項目との中から、総合的に判定されてもよい。ここで、サポートベクトル回帰を行う際に用いるハイパーパラメータは、決定係数(Score)が最も高くなる様、適宜設定値を変更して構わない。また、グリッドサーチやベイズ最適化のプログラムを用いて、最適化された値を用いても構わない。
また、高重要度項目HCと、第2物性測定項目MD2を解析軸にして、データセットDSを用いた回帰演算を実行することにより、重要度が高い項目(高重要度項目HC)の特性値の変化と第2物性測定項目MD2の特性値の変化と、目的変数の特性値の変化との対応関係を推定することができる。
【0059】
[シャルピー衝撃値及び分光センサによる測定値の関係]
図5は、本実施形態に係る分光センサによる測定結果とシャルピー衝撃値との関係を示す図である。図5(A)及び図5(B)は、いずれも同一の測定結果から作成された三次元グラフである。図5(A)及び図5(B)は、それぞれ異なる角度から見たグラフである。x軸はラマンによる測定結果を示し、y軸はNIRによる測定結果を示し、z軸はシャルピー衝撃値を示す。同図を参照しながら、シャルピー衝撃値及び分光センサによる測定値(NIR及びラマン)の関係について説明する。同図には、エラストマー20%を配合した成形品の測定結果を示す。
【0060】
ラマン、NIR及びシャルピー衝撃値の実測値を、測定結果measとして示す。また、当該測定結果に基づいてサポートベクトル回帰分析を行った結果をfitとして示す。 図5に示される通り、ラマンセンサによる測定値が小さく、かつNIRセンサによる測定値が小さい方が、耐衝撃特性を表すシャルピー衝撃値高い結果と出力される。成形品が良品であるためのNIRの範囲を閾値TH_NIRとすると、閾値TH_NIRは、例えば40であってもよい。また、成形品が良品であるためのラマンの範囲を閾値TH_RAMANとすると、閾値TH_RAMANは、例えば300であってもよい。NIRセンサによる測定値は分散径を示すため、小さい方がよく、閾値以下である場合を良品とする。また、ラマンセンサによる測定値は熱劣化を示すため、小さい方がよく、閾値以下である場合を良品とする。同図に示された結果から、ラマンが小さくかつNIRも小さい場合、シャルピー衝撃値が良好である(シャルピー衝撃値が大きい)ことが分かる。
【0061】
次に、測定結果に基づき、シャルピー衝撃値及び分光センサによる測定結果のスクリュウ回転数に応じた変化について説明する(不図示)。
シャルピー衝撃値は、スクリュウ回転数が300[rpm]のとき46.1[kJ/m]であり、スクリュウ回転数が600[rpm]のとき54.0[kJ/m]であり、スクリュウ回転数が1000[rpm]のとき58.6[kJ/m]であり、スクリュウ回転数が1500[rpm]のとき55.4[kJ/m]であり、スクリュウ回転数が2000[rpm]のとき45.8[kJ/m]であり、スクリュウ回転数が2500[rpm]のとき35.0[kJ/m]であり、スクリュウ回転数が3000[rpm]のとき26.1[kJ/m]である。すなわちシャルピー衝撃値は、スクリュウ回転数が1000[rpm]である点をピークとして、500[rpm]から1500[rpm]の範囲で大きくなる。
【0062】
NIRは、スクリュウ回転数が300[rpm]のとき57.9あり、スクリュウ回転数が600[rpm]のとき53.0であり、スクリュウ回転数が1000[rpm]のとき39.8であり、スクリュウ回転数が1500[rpm]のとき35.2であり、スクリュウ回転数が2000[rpm]のとき30.7[μm]であり、スクリュウ回転数が2500[rpm]のとき29.7であり、スクリュウ回転数が3000[rpm]のとき38.2である。すなわちNIRは、スクリュウ回転数が1000[rpm]以下の場合に閾値である40より大きい。
【0063】
ラマンは、励起波長785nmのレーザーから得たラマンスペクトルより、ラマンシフトに300[cm-1]の位置における散乱光の強度(Intensity(a.u.))を示す。具体的には、スクリュウ回転数が300[rpm]のとき27924であり、スクリュウ回転数が600[rpm]のとき27254であり、スクリュウ回転数が1000[rpm]のとき28525であり、スクリュウ回転数が1500[rpm]のとき30601であり、スクリュウ回転数が2000[rpm]のとき36725であり、スクリュウ回転数が2500[rpm]のとき41432であり、スクリュウ回転数が3000[rpm]のとき40666であった。すなわちラマンは、スクリュウ回転数が1400[rpm]程度以下の場合に閾値より小さい。
【0064】
したがって、シャルピー衝撃値の値が大きく、かつNIR及びラマンが閾値以下である範囲は、スクリュウ回転数が1000[rpm]から1400[rpm]である範囲であることが分かる。
【0065】
[樹脂組成物の製造条件の判定方法の一連の流れ]
図6は、本実施形態に係る樹脂組成物の製造条件の判定方法の一連の流れを説明するためのフローチャートである。同図を参照しながら、本実施形態に係る樹脂組成物の製造条件の判定方法の一連の流れについて、説明する。
(ステップS110)機械学習アルゴリズム20は、記憶装置30から所定の通信方式によりデータセットDSを取得する。
(ステップS120)機械学習アルゴリズム20は、取得したデータセットDSに基づき、ランダムフォレストを用いて重要度を算出する。機械学習アルゴリズム20は、この際、データセットDSに含まれる制御変数、実測変数、物性変数の全てに対して重要度を算出する。
(ステップS130)機械学習アルゴリズム20は、算出された複数の重要度の中から、重要度が高く、かつ第2物性測定データMD2から好ましい範囲が得られる項目を、所定の条件に従い選定する。
【0066】
(ステップS140)機械学習アルゴリズム20は、所定の条件により、更に目的変数を設定するか否かの判定をする。機械学習アルゴリズム20は、更に目的変数を設定して重要度を算出する場合(すなわち、ステップS140;YES)、処理をステップS120に進める。機械学習アルゴリズム20は、更に目的変数を設定して重要度を算出しない場合(すなわち、ステップS140;NO)、処理をステップS150に進める。
なお、機械学習アルゴリズム20が更に目的変数を設定するか否かの判定をするための所定の条件とは、算出された高重要度項目HCをユーザに提示することに応じてユーザからの応答を得ることにより取得されてもよい。
なお、機械学習アルゴリズム20が更に目的変数を設定するか否かの判定をするための所定の条件とは、重要度の順位が1位の項目と、重要度の順位が2位の項目との差に応じて自動的に判定されてもよい。
【0067】
(ステップS150)機械学習アルゴリズム20は、求めたい特性を目的変数とし、算出された高重要度項目HCや第2物性測定データMD2を含む項目を説明変数として、サポートベクトル回帰分析を行うことにより、好適な製造条件を得る。
(ステップS160)機械学習アルゴリズム20は、改良条件の決定をする。
なお、機械学習アルゴリズム20は、ステップS150においてサポートベクトル回帰分析を行った結果をユーザに提示することに応じてユーザからの応答を得ることにより、改良条件の決定をするよう構成されていてもよい。
【0068】
[実施形態のまとめ]
以上説明した実施形態によれば、樹脂組成物の製造条件の判定方法は、データセットDSを用いて機械学習アルゴリズム20を実行することにより、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ第2物性測定データMD2が所定の範囲内である項目を判定する。データセットDSは、製造条件データCDと物性測定データMDとを含む。製造条件データCDは、樹脂組成物の配合成分、混合条件、溶融混練時の混練物温度を少なくとも含む。また、物性測定データMDは、第1物性測定データMD1と第2物性測定データMD2とを含む。第1物性測定データMD1には、製造条件データCDが示す製造条件によって製造された樹脂組成物の耐衝撃性を特性値項目として少なくとも含まれる。第2物性測定データMD2には、製造条件データCDが示す製造条件によって製造された樹脂組成物をオンラインかつ非破壊で測定したデータが含まれる。
【0069】
従来、製造条件として制御するパラメータの種類が非常に多く、それぞれのパラメータ同士が複雑に相互作用するため、樹脂組成物の耐衝撃性をより高いものにすべく付与する好適な製造条件を見つけることが困難であった。また、従来の製造条件で製造された樹脂組成物は二次加工に伴う破壊や劣化等の影響により、特性を正しく評価できなくなってしまう場合があった。すなわち、従来技術によれば、樹脂組成物の耐衝撃性及び二次加工に伴う破壊や劣化等の影響から、耐衝撃性などの特性を最適化することが困難であった。
しかしながら本実施形態に係る樹脂組成物の製造条件の判定方法は、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ第2物性測定データMD2が所定の範囲内である項目を判定するため、樹脂組成物の耐衝撃性及び二次加工に伴う破壊や劣化の影響がなく、樹脂組成物の特性を好適なものとする制御パラメータを決定することができる。
【0070】
また、以上説明した実施形態によれば、樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリスチレン樹脂からなる群から選択されるいずれか一種以上の樹脂を含むことができる。したがって本実施形態に係る樹脂組成物の製造条件の判定方法によれば、上述したような様々な樹脂組成物の製造条件を判定することができる。
【0071】
また、以上説明した実施形態によれば、第2物性測定データMD2は、ラマン散乱測定による散乱強度を少なくとも含む。ラマン散乱測定により、物質の非破壊評価が可能である。本実施形態によれば、機械学習アルゴリズム20は、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ第2物性測定データが所定の範囲内である項目を判定する。したがって、本実施形態によれば、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ熱劣化に強い製造条件を判定することができる。
【0072】
また、以上説明した実施形態によれば、ラマン散乱測定において、ベースライン強度(INTENSITY)の値を少なくとも説明変数として含み、ベースライン強度(INTENSITY)の光強度の値を少なくとも説明変数として含んでもよい。特に、ポリアリーレンスルフィド等の芳香族高分子は、熱反応による分解産物として蛍光物質が生成される場合が認められ、前記光強度の値を採用することで、物質の熱劣化の非破壊評価が可能である。また、前記光強度の値はIR1温度と相関しており、物質の熱劣化による耐衝撃性などの特性低下を非破壊評価で予測することが可能となる。
また、実施形態において、ラマン散乱測定により取得された、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂等の樹脂の主鎖構造に由来するピークの半値幅の値を、少なくとも説明変数として含んでもよい。前記樹脂に含まれる結晶構造の結晶化度が低下すると、前記半値幅の値の上昇が認められ、前記半値幅の値を採用することで、物質の結晶性の非破壊評価が可能である。
【0073】
また、以上説明した実施形態によれば、第2物性測定データMD2は、近赤外スペクトル測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む。当該拡散反射率又はクベルカムンク関数を含む値(例えば、クベルカムンク関数の逆数1/f)は、樹脂組成物に分散相として含有される成分の、分散相の粒子径との高い相関が認められる。これより、分散相の粒子径がより良好なほど耐衝撃性が良好となる結果を、非破壊で判定することが可能な代用評価となり得る。
【0074】
また、以上説明した実施形態によれば、第2物性測定データMD2は、近赤外拡散反射測定により得られた拡散反射率又はクベルカムンク関数を少なくとも含む。近赤外拡散反射測定により、樹脂組成物に含有される成分の分散状態の非破壊評価が可能である。本実施形態によれば、機械学習アルゴリズム20は、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ第2物性測定データが所定の範囲内である項目を判定する。したがって、本実施形態によれば、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高く、かつ均一性の高い(例えば、分散相となる樹脂の分散径が小さくなる)製造条件を判定することができる。
【0075】
また、以上説明した実施形態によれば、近赤外スペクトル測定において、測定方法は拡散反射法であり、ベースラインの位置に基づく散乱係数値が少なくとも説明変数として含まれる。これより、不透明材料においても、分散相の粒子径がより良好なほど耐衝撃性が良好となる結果を、非破壊で判定することが可能な代用評価となり、計測に時間のかかる、分散相の粒子径評価からなる説明変数の代わりに用いることも可能となる。
【0076】
また、以上説明した実施形態によれば、製造条件データCDには、樹脂組成物の製造装置の制御対象である制御変数と、製造装置の制御対象でない実測変数とが含まれる。すなわち、本実施形態によれば制御パラメータとして制御していない成り行きにより変化するパラメータが重要である場合についても、当該成り行きにより変化するパラメータを高重要度項目HCとして判定することができる。
【0077】
また、以上説明した実施形態によれば、実測変数には、シリンダー13の複数個所におけるそれぞれのシリンダー内温度が含まれる。すなわち、機械学習アルゴリズム20は、シリンダー13の複数個所におけるそれぞれのシリンダー内温度(溶融混練時の混練物温度)を実測変数として、特性向上対象項目の特性値の変化についての重要度が高い項目を算出する。したがって、本実施形態によれば、機械学習アルゴリズム20は、高精度に高重要度項目HCを算出することができる。
【0078】
また、以上説明した実施形態によれば、実測変数に含まれるシリンダー13の複数個所におけるそれぞれのシリンダー内温度(溶融混練時の混練物温度)のうち、シリンダー13の上流側の方が、下流側に比べて重要度が高い。すなわち、本実施形態によれば、従来、熟練した技術者の経験と勘に頼らなければ特定できなかった、重要なパラメータを、制御パラメータとして決定することができる。
【0079】
なお、上述した実施形態における機械学習アルゴリズム20が備える各部の機能の全体あるいはその機能の一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0080】
また、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに、「コンピュータにより読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークを介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0081】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物の一例としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂等の樹脂を含むものが挙げられる。
【0082】
実施形態に係る樹脂組成物としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリスチレン樹脂からなる群から選択されるいずれか一種以上の樹脂と、熱可塑性エラストマー(B)とを含有する樹脂組成物であることが好ましい。
【0083】
なかでも、実施形態に係る樹脂組成物としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)とを含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であることがより好ましい。
【0084】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)>
実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記構造式(1)で表される構造部位を繰り返し単位として有する樹脂が挙げられる。
【0085】
【化1】
【0086】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、又はエトキシ基を表す。)
【0087】
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0088】
【化2】
【0089】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の耐熱性や結晶性の観点より好ましい。
【0090】
また、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、前記構造式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)~(7)で表されるいずれか1種以上の構造部位を、前記構造式(1)で表される構造部位との合計を100モル%とした量に対して30モル%以下で含んでいてもよい。
【0091】
【化3】
【0092】
、特に上記構造式(4)~(7)で表されるいずれか1種以上の構造部位を10モル%以下で含むことが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の耐熱性、及び機械的強度の点から好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中に、上記構造式(4)~(7)で表されるいずれか1種以上の構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0093】
前記したポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、架橋型のポリアリーレンスルフィド樹脂、及び実質的に線状構造を有する所謂リニア型のポリアリーレンスルフィド樹脂が挙げられる。かかるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、反応の制御が容易であり、工業的生産性に優れることから、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp-ジクロルベンゼンとを反応させる方法によって製造することができる。
【0094】
前記原料ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲の粒径を有するポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)であることが好ましい。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)の体積平均粒子径が1.0mm以上の場合、該ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)が再凝集しにくく取り扱いが容易で、熱可塑性エラストマー粒子(b)と均一に混合し易い。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)の体積平均粒子径が3.0mm以下の粒子である場合、該熱可塑性エラストマー粒子(b)と均一に混合し易いため前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える強度改善効果が向上する。これらの中でも、体積平均粒子径が1.5mm~2.5mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)であることがより好ましい。
【0095】
前記した体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)は、例えば、以下の(イ)又は(ロ)の方法によって製造できる。
(イ)前記した前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応溶液を冷却し、次いで水または温水で数回洗浄した後に乾燥して得られた、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の粒子を、ベルトプレス装置等のプレス機を用いて圧縮固着することにより板状の固形物を得、次いで粉砕して体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)を得る方法。
(ロ)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応溶液を冷却する前の、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が反応溶媒に溶解した状態で水を添加し、体積平均粒子径が1.0mm~3.0mmの範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂粒子(a)を得る方法。
【0096】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の分子構造中に活性水素原子を有する官能基として、カルボキシル基を有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性をより高くできる点より好ましい。具体的には、中和滴定法で測定した該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の、前記のカルボキシル基の含有量が10μmol/g~200μmol/gの範囲にあることが好ましく、10μmol/g~100μmol/gの範囲にあることがより好ましい。前記した中和滴定法で測定した該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の、カルボキシル基の含有量が10μmol/g以上の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性を高めることができ、一方200μmol/g以下の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の反応性の制御が容易になる。
【0097】
前記の分子構造中に活性水素原子を有する官能基としてカルボキシル基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造方法は、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の重合終了後、室温まで冷却し水で洗浄した後、該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)をろ別し、酸で処理した後、次いで水で洗浄する方法が挙げられ、この際使用し得る酸は、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、シュウ酸、又はプロピオン酸が前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を分解することなく、残存金属イオン量を効率的に低減できる点から好ましく、これらのなかでも酢酸、又は塩酸がより好ましい。
【0098】
さらに実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、300℃で測定した溶融粘度が、60Pa・s~240Pa・sの範囲にあるものが好ましい。該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度が60Pa・s以上の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の靭性が向上し、一方、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度が240Pa・s以下の場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の高せん断下の発熱を抑制することが容易になる。これらの中でも、前記熱可塑性エラストマー(B)の添加による強度改善効果と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の流動性とのバランスの点から、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度は、特に80Pa・s~180Pa・sの範囲にあることが好ましい。
【0099】
ここで、前記した300℃で測定したポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度とは、高下型フローテスターを用い、長さ10mm、径1mmのオリフィスを使用して、300℃、試験荷重50kgの条件で、6分間保持した後に測定した前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の溶融粘度(Pa・s)を示す。
【0100】
実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物における、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の含有割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、50~95質量%であることが好ましく、70~90質量%がより好ましく、75~85質量%がさらに好ましい。上記で例示した、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の含有割合の数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
【0101】
<熱可塑性エラストマー(B)>
前記熱可塑性エラストマー(B)は、例えば、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するものであることが好ましい。かかる熱可塑性エラストマー(B)は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える耐衝撃性の改善効果が優れる点より好ましい。また、耐熱性に優れる点から、熱可塑性エラストマー(B)は、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーまたはニトリル系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0102】
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとは、オレフィンに由来する構成単位を含む熱可塑性エラストマーを例示できる。オレフィンとしては、α-オレフィンが好ましい。ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物構造、エステル構造及びイソシアネート基からなる群の中から選ばれる一つ以上の官能基または構造を分子構造中に有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性に優れ、相溶性に優れる点から好ましい。これらのなかでもカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造またはエステル構造を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性により優れ、相溶性がより向上し均一混合された前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得られる点でより好ましい。
【0103】
前記したカルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造、またはエステル構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば、α-オレフィンと、カルボキシル基、エポキシ基、酸無水物構造、またはエステル構造を分子構造中に有するビニル重合性化合物との共重合で得ることができる。前記α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等の炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。
【0104】
前記したカルボキシル基を分子構造中に有する前記グリシジル変性ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸、またはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸と前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0105】
前記したエポキシ基を分子構造中に有する前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等と前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0106】
前記した酸無水物構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸の酸無水物等のα,β-不飽和ジカルボン酸の無水物と前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0107】
前記したエステル構造を分子構造中に有するポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸のモノ及びジエステルと前記α-オレフィンとの共重合で得ることができる。
【0108】
また、これらの二種以上の官能基又は構造を複数個、同時に含有した共重合体を用いることができる。これらの好ましい例としては、α-オレフィン、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸グリシジルの三元共重合体が挙げられる。
【0109】
熱可塑性エラストマー(B)は、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、α-オレフィンに由来する構成単位を40~95質量%含むことが好ましく、50~90質量%含むことがより好ましく、60~80質量%含むことがさらに好ましい。
【0110】
熱可塑性エラストマー(B)は、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含むことが好ましく、0.5~15質量%含むことがより好ましく、1~7質量%含むことがさらに好ましい。
【0111】
熱可塑性エラストマー(B)は、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含むことが好ましく、3~40質量%含むことがより好ましく、10~35質量%含むことがさらに好ましい。
【0112】
上記共重合体の一例として、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、
グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含み、
メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含むものが挙げられる。
【0113】
上記共重合体の一例として、熱可塑性エラストマー(B)を構成する構成単位の総質量(100質量%)に対して、
α-オレフィンに由来する構成単位を40~95質量%含み、
グリシジル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を0.1~30質量%含み、
メチルアクリレートに由来する構成単位を0.1~50質量%含むものが挙げられる。
【0114】
次に、前記ニトリル系熱可塑性エラストマーとしては、不飽和ニトリルと共役ジエンとの共重合体が挙げられる。前記不飽和ニトリルは例えばアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが挙げられ、前記共役ジエンは例えば1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらの中でもアクリロニトリル-ブタジエン共重合体が好ましく、さらに前記共役ジエンの二重結合の一部または全部を水素添加し、ニトリル基の三重結合を維持したまま耐熱性を高めた水添ニトリル系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0115】
また、前記水添ニトリル系熱可塑性エラストマーは、ビニル基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物構造、グリシジル基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、イソシアヌレート基、マレイミド基からなる群の中から選ばれる一つ以上の官能基を分子構造中に有するものであることが、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)との反応性に優れ、相溶性に優れる点から好ましく、これらの中でもカルボキシル基を有する水添ニトリル系熱可塑性エラストマーが、耐熱性及び反応性に優れる点から特に好ましい。
【0116】
原料熱可塑性エラストマー(B)は、その体積平均粒子径が0.1mm~3.0mmの範囲にある熱可塑性エラストマー粒子(b)であることが好ましい。該熱可塑性エラストマー粒子(b)の体積平均粒子径が0.1mm以上の場合、該熱可塑性エラストマー粒子(b)の比表面積が小さくなり、該熱可塑性エラストマー粒子(b)の再凝集が発生し難く取り扱いが容易になり、所定配合量の前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の配合が容易になる。一方、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の体積平均粒子径が3.0mm以下の粒子である場合、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対し均一混合することが容易になり、該ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える強度改善効果が良好に発現される。前記した体積平均粒子径のなかでも、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の作業上の取り扱いの容易性、均一混合の容易性、及び耐衝撃性や曲げ強度が改善される効果の各効果のバランスの点から、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)の体積平均粒子径は、特に0.3mm~2.0mmの範囲にあることが好ましい。
【0117】
前記した、体積平均粒子径が0.1mm~3.0mmの範囲にある粒子径を有する前記熱可塑性エラストマー粒子(b)を製造する方法は、3.0mmを超える体積平均粒子径を有する熱可塑性エラストマー粒子を、切断機を用いて細かく切断して製造する方法、あるいは前記の体積平均粒子径が3.0mmを超える粒子径を有する熱可塑性エラストマー粒子を凍結粉砕する方法を挙げることができる。凍結粉砕の方法は、ドライアイスあるいは液体窒素等で凍結させた後、通常のハンマータイプ粉砕機、カッタータイプ粉砕機あるいは石臼型の粉砕機等を用いて粉砕する方法が挙げられる。前記した方法のなかでも、前記熱可塑性エラストマー粒子(b)を容易に製造することができる点から、凍結粉砕して該前記熱可塑性エラストマー粒子(b)を製造する方法が好ましい。
【0118】
実施形態に係る樹脂組成物における、熱可塑性エラストマー(B)の含有割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、5~30質量%が好ましく、10~28質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。上記で例示した、熱可塑性エラストマー(B)の配合割合の数値範囲の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。
【0119】
また別の側面からは、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物におけるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、熱可塑性エラストマー(B)との総含有量(100質量部)に対して、前記熱可塑性エラストマー(B)の配合割合は、5~30質量部が好ましく、10~28質量部がより好ましく、15~25質量部がさらに好ましい。
【0120】
前記熱可塑性エラストマー(B)の含有割合が上記下限値以上であることで、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に与える耐衝撃性の向上効果が良好に発現される。前記熱可塑性エラストマー(B)の含有割合が上記上限値以下であることで、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型時のガス発生量を効果的に低減できる。
【0121】
実施形態に係る樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び前記熱可塑性エラストマー(B)の他に、その他の任意成分を、それらの含有量(質量%)の合計が100質量%を超えないよう含有することができる。
例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び前記熱可塑性エラストマー(B)に該当しない、その他の樹脂を更に含んでもよい。
その他の樹脂としては、エチレン、ブチレン、ペンテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどの単量体の単独重合体または共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、液晶ポリマー、ポリアリールエーテルなどの単独重合体、ランダム共重合体またはブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
【0122】
実施形態に係る樹脂組成物は、前記各成分に加え、更にエポキシシランカップリング剤(C)を含有することができる。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)及び前記熱可塑性エラストマー(B)と該エポキシシランカップリング剤との優れた反応性のため、前記熱可塑性エラストマー(B)の均一分散性が改善されるとともに、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との界面における密着性が向上し前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の強度改善効果が一層顕著なものとなる点から好ましい。
【0123】
前記エポキシシランカップリング剤(C)は、アルキル基として炭素原子数1~4の直鎖型アルキル基を有する、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基のようなエポキシ構造含有基と、2個以上のメトキシ基及びエトキシ基とが珪素原子に結合した構造を有するシラン化合物が好ましい。
【0124】
このようなエポキシシランカップリング剤(C)は、具体的には、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及びエポキシ系シリコーンオイルが挙げられる。
【0125】
前記エポキシ系シリコーンオイルは炭素原子数2~6アルコキシ基を繰り返し単位として2単位乃至6単位で構成されるポリアルキレンオキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0126】
前記エポキシシランカップリング剤(C)のなかでも、特に、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、及び前記熱可塑性エラストマー(B)との反応性に優れる点からγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランに代表されるグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物が特に好ましい。
【0127】
前記エポキシシランカップリング剤(C)の含有率は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全質量に対する含有率として、0.1質量%~5質量%の範囲にあることが好ましく、0.1質量%以上の場合前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との相溶性が良くなり、5質量%以下の場合前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融成型時の発生ガスが減少する。これらのなかでも前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物全量に対する含有率として、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)との相溶性、及び前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融成型時の発生ガスの量のバランスの点から、特に0.1質量%~2質量%の範囲にあることが好ましい。
【0128】
実施形態に係る樹脂組成物は、前記した配合物に加え、適宜無機フィラーを含有することができる。前記無機フィラーは、繊維状無機フィラーと非繊維状無機フィラーとを挙げることができる。
【0129】
前記繊維状無機フィラーは、例えば、ガラス繊維、PAN系又はピッチ系の炭素繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、チタン酸カリウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真ちゅう等の金属の繊維状物の無機質繊維状物質、及びアラミド繊維等の有機質繊維状物質等が挙げられる。
【0130】
また、前記非繊維状無機フィラーは、例えば、マイカ、タルク、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、クレー、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ゼオライト、パイロフィライトなどの珪酸塩や炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化鉄などの金属酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムなどが挙げられる。これらの前記繊維状無機フィラー、及び前記非繊維状無機フィラーは、単独使用でも2種以上を併用してもよい。これらの非繊維状無機フィラーの配合時期は特に限定されないが前記ナウタミキサーにより前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記熱可塑性エラストマー(B)とがドライブレンドされるときに配合されることが好ましい。
【0131】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と前記無機フィラーとの含有割合は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融特性やその成型品の力学的特性の観点から前者/後者の割合で30質量部~100質量部/70質量部~0質量部となる範囲にあることが好ましい。さらに、前記繊維状無機フィラーと前記非繊維状無機フィラーとの混合割合は成型品に要求される力学的特性の観点から任意の含有量でよいが、前者/後者の割合で20質量部~100質量部/80質量部~0質量部となる範囲にあることが好ましい。
【0132】
実施形態に係る樹脂組成物の製造において、前記繊維状フィラーは前記2軸押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが前記繊維状フィラーの分散性が良好となる点から特に好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記2軸押出機のスクリュウ全長に対する、押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1~0.6の範囲にあることが好ましく、これらの中でも0.2~0.4の範囲にあることが特に好ましい。
【0133】
更に、実施形態に係る樹脂組成物は、酸化防止剤、加工熱安定剤、可塑剤、離型剤、着色剤、滑剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、ワックス等の添加剤を適量含有することができる。
【0134】
実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、ペレットとして提供することができる。この前記樹脂組成物のペレットを成形機に供して溶融成形することにより目的とする成形物が得られる。前記溶融成形法は、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形等が挙げられ、特に限定するものでない。
【0135】
実施形態の判定方法によって取得される製造条件により製造された前記樹脂組成物の成形物は、分散相となる成分の分散性に優れ、樹脂の熱分解が抑制されたものであるため、格別良好な耐衝撃性を発揮する。
耐衝撃性としては、実施形態に係る樹脂組成物の成形物の、シャルピー衝撃値を採用することができる。
【0136】
実施形態の判定方法によって取得される製造条件により製造された樹脂組成物は、例えば自動車部品や、自動車部品として用いられる電気又は電子部品の車両部品用又は車両部材用途に好適に用いることができる。
車両部品としては、エンジンルーム内での駆動系部品(例えば、トランスミッションギア、駆動モータ部品等)、制御部品(PCU等)、冷却部品(配管、バルブやポンプ部品等)、電池部品を例示できる。
【0137】
実施形態の判定方法によって取得される製造条件によれば、優れた耐衝撃性を示す樹脂組成物、なかでもポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供可能である。
【実施例0138】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0139】
<原料>
・ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製、MA-520)
・ポリエチレン系エラストマーA(住友化学社製、ボンドファースト BF-7L)
・ポリエチレン系エラストマーB(住友化学社製、ボンドファースト BF-E)
【0140】
上記のポリエチレン系エラストマーの原料として使用される各モノマーの割合を以下に示す。値は、ポリエチレン系エラストマーの原料として使用されるモノマーの総質量に対する各モノマー量(質量%)である。
【0141】
【表1】
【0142】
<データセットの取得>
[二軸押出機を用いた溶融混練]
(製造1)
ポリフェニレンスルフィド樹脂MA-520に、ポリエチレン系エラストマーAを、樹脂組成物の総質量100質量%に対して、10質量%、15質量%、又は20質量%となるようそれぞれ配合して、ハンドブレンドにより混合し、得られた混合物を二軸押出機に投入した。二軸押出機は、スクリュウ径15mm、L/D=90の同方向回転二軸押出機を用い、15分割されたバレルの上流側から3~15番目のバレル温度が全て300℃となるように設定し、それぞれの混合物を150、300、600、1000、1500、2000、又は3000rpmで溶融混練し、ダイスから出たストランドを冷却してカッティングし、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを得た。
【0143】
(製造2)
上記の製造1と同様の操作にて、ポリフェニレンスルフィド樹脂MA-520に、ポリエチレン系エラストマーBを、樹脂組成物の総質量100質量%に対して、10質量%、15質量%、又は20質量%となるよう配合し、ハンドブレンドにより混合し、得られた混合物を二軸押出機で溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0144】
[溶融混練条件]
二軸押出機を用いて溶融混練する際、15分割されたバレルの樹脂温度のうち、原料投入側から5番目、8番目、11番目、及び14番目のバレルの位置に赤外温度計を設置し、スクリュウ根元から先端までの計4カ所(IR1温度、IR2温度、IR3温度、IR4温度)において各バレル通過時のシリンダー内の温度(℃)を測定した。また、樹脂圧力(MPa)、押出機の電流値(A)を測定した。これらの実験データを成り行き変数(成り行きの特徴量)とした。
【0145】
[シャルピー衝撃試験]
上記で得られた各ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを成形材料として、シリンダー設定温度300℃、金型設定温度130℃の条件にて射出成形機で成形し、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを射出成形機で成形し、長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mmの試験片を得た。次にISO 2818に従ってノッチ(B:8mm)を切削し、ISO 179-1に従いシャルピー衝撃試験を行い、23℃におけるノッチ付のシャルピー衝撃値(kJ/m)を得た。
【0146】
[エラストマーの分散粒子径]
上記で得られた各ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを成形材料として、射出成形機により、ISO 3617タイプAの多目的試験片を成形した。次に該多目的試験片の中心の断面を研磨し、キシレン中に浸し50℃の温度条件で超音波処理を実施し、断面にあるエラストマー分散物を抽出して取り除いた。その後130℃で2時間乾燥し、断面をSEMで観察し画像を取得した。エラストマーが取り除かれた箇所は円状の空隙相となり黒く表示された。該画像を画像解析ソフトにより2値化しエラストマーが粒子状で分散していた跡の円径を全て計測し、その平均値をエラストマーの平均粒子径とした。
【0147】
[溶融粘度]
シリンダー温度300℃、オリフィス長1mm、オリフィス径1mmのフローテスターに、上記で得られた各ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを投入し、5分間予熱後に50kgの荷重を掛け、溶融粘度を測定した。
【0148】
[ラマン散乱強度の計測]
上記で得られた各ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを成形材料として、射出成形機で成形し、長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mmの試験片を得た。レーザラマン分光光度計(日本分光製、RMP-520)を用いて、波長785nmのレーザーを試験片に照射し、ラマン散乱強度を測定した。ベースラインにあたる300cm-1の強度を取得した。
【0149】
[近赤外拡散反射の計測]
上記で得られた各ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを成形材料として、射出成形機で成形し、長さ80mm×幅10.0mm×厚さ4.0mmの試験片を得た。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製、V-770)と積分球ユニット(日本分光製、ISN-923)を用いて、吸収バンドの谷間にあたる波長1290nmの拡散反射率R(%)の値を読み取り、f=(1-R/100)^2/(2R/100)の式よりクベルカムンク関数fを算出した。クベルカムンク関数fは、吸収係数Kと散乱係数Sに比に等しい(f=K/S)ことが知られているが、吸収バンドの谷間にあたるベースラインでは、吸収係数Kの値は大きく変化しないと考えられる。そのため、クベルカムンク関数の逆数1/fは散乱係数Sに比例すると考えられる。
また、近赤外光の波長(1290nm)が分散粒子径(数100nm)に比べて大きい場合、粒子による光散乱はレイリー散乱となり、散乱係数Sは分散粒子径とともに大きくなる。実際に、クベルカムンク関数の逆数1/fの値と、上記の分散粒子径との関係を調べたところ、両者の間には高い正の相関(R2=0.8318)があり、クベルカムンク関数の逆数1/fを用いることで、エラストマーの分散粒子径を非破壊で評価できることが示された。
【0150】
<機械学習アルゴリズムの評価>
上記の製造1と同様の操作にて、ポリフェニレンスルフィド樹脂MA-520に、ポリエチレン系エラストマーBを、樹脂組成物の総質量100質量%に対して、20質量%となるよう配合し、二軸押出機で300rpm、600rpm、1000rpm、1500rpm、又は2000rpmにて溶融混練し、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレットを得て、樹脂組成物のラマン散乱強度、クベルカムンク関数の逆数1/f、シャルピー衝撃値を計測した。
【0151】
また、シャルピー衝撃値を目的変数、ラマン散乱強度と近赤外拡散反射計測より得られた上記逆数1/fを説明変数とし、サポートベクトルマシンのアルゴリズムを用いて回帰分析を行ったところ、決定係数0.89にて回帰された。そして、回帰曲線より、ラマン散乱強度が32000以下かつ、上記逆数1/fが40以下となる条件が、目的変数がより高い範囲である事が認められた。
【0152】
当該範囲となるよう、スクリュウ回転数を1200rpmとし、その他は同様の条件で樹脂組成物を製造し、シャルピー衝撃値を測定したところ、60.2Kj/mとなった。
スクリュウ回転数を変更した一連の製造において、得られた樹脂組成物のシャルピー衝撃値の判定結果を以下に示す。シャルピー衝撃値に関し、55kJ/m以上となるものをA、40kJ/m以上~55kJ/m未満となるものをB、25kJ/m以上~40kJ/m未満となるものをC、25kJ/m未満となるものをFとした。
【0153】
【表2】
【0154】
これらの結果より、回帰分析で得られ、目的変数としたシャルピー衝撃値が高いと予測された、ラマン散乱強度が32000以下かつ、上記逆数1/fが40以下となる製造条件で得られた樹脂組成物が、実際にシャルピー衝撃値が高いことが認められた。
【0155】
また、ラマン散乱強度はIR1温度の測定結果と高い相関関係にあり、上記逆数1/fはエラストマー分散径の測定結果と高い相関関係にある事が認められた。相関係数は約0.9であった。このことから、IR1の樹脂温度を低減し熱劣化を抑制する条件、およびエラストマー分散径がより小さくなる条件を判定できていること、その結果、耐衝撃性を向上させる良条件を予測可能であったことが推測された。
【符号の説明】
【0156】
10…二軸押出機、11…駆動装置、12…フィーダー、13…シリンダー、14…スクリュー、19…ダイス、20…機械学習アルゴリズム、30…記憶装置、DS…データセット、CD…製造条件データ、MD…物性測定データ、HC…高重要度項目、IR…赤外線温度センサ、IR1…第1赤外線温度センサ、IR2…第2赤外線温度センサ、IR3…第3赤外線温度センサ、IR4…第4赤外線温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6