(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037448
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】構造物に加わる応力集中を検出可能にするシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G01D5/353 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142327
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】村山 英晶
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輝人
【テーマコード(参考)】
2F103
【Fターム(参考)】
2F103BA37
2F103EB01
2F103EB11
2F103EC09
2F103ED27
2F103FA03
(57)【要約】
【課題】本開示は、構造物の応力集中を検出可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、構造物に取り付け可能な光ファイバと、前記光ファイバにおける光散乱特性を取得する光センシング部と、前記光センシング部で得られた光散乱特性を用いて、前記構造物における応力分布を算出する演算処理部と、を備えるシステムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバにおける光散乱特性を用いて、前記光ファイバがねじれなく取り付けられている構造物における応力分布を算出する、
装置。
【請求項2】
前記光ファイバの形状に基づいて前記構造物の変形を算出し、
前記構造物の変形に基づいて前記構造物における応力分布を算出する、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記構造物の全体変形を算出し、
算出された全体変形を強制変位として与えた有限要素法を用いて、前記構造物の応力分布を算出する、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の装置と、
前記構造物に取り付け可能な光ファイバと、
前記光ファイバにおける光散乱特性を取得する光センシング部と、
備えるシステム。
【請求項5】
前記光ファイバは、ねじれなく構造物に取り付け可能な光ケーブルである、
請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記光ファイバがマルチコアファイバである、
請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
光センシング部が、構造物にねじれなく取り付けられた光ファイバにおける光散乱特性を取得し、
演算処理部が、前記光センシング部で得られた光散乱特性を用いて、前記構造物における応力分布を算出する、
応力検出方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載の装置としてコンピュータを実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバセンシング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建物などの構造物の形状に沿って光ファイバを取り付け、その光ファイバの歪分布を測定することで、構造物に加わっている歪を推定する技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。非特許文献1では、光ファイバに加わっている歪分布から、構造物がどのような力を受けているか推定していた。このため、非特許文献1では、構造物の状態が光ファイバの状態に反映されるように、光ファイバを構造物に強く固定して配線する必要があった。
【0003】
しかし、サンブナンの定理により、歪のような「力が加わった結果」のパラメータから力の分布を推定することは困難である。また、構造物などをセンシングする際には歪のような間接的なパラメータではなく、応力集中や変形などの構造物の形に直接対応するパラメータが最も重要だが、実はそれらは歪のような「力が加わった結果」のパラメータでは直接求められない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Development of a distributed sensing technique using brillouin scattering”, Journal of Lightwave Technology, Vol.13, No.7, pp.1296-1302
【非特許文献2】“Shape sensing using multi-core fiber optic cable and parametric curve solution”, Optics Express, Vol.20, No.3, pp.2967-2973
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本開示は、構造物の応力集中を検出可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のシステムは、構造物に取り付け可能な光ファイバと、光センシング部と、本開示の装置として機能する演算処理部と、を備える。本開示の応力検出方法は、光センシング部が、構造物にねじれなく取り付けられた光ファイバにおける光散乱特性を取得し、演算処理部が、光センシング部で得られた光散乱特性を用いて、前記構造物における応力分布を算出する。
【0007】
前記演算処理部は、
前記光ファイバの形状を算出し、
前記光ファイバの形状に基づいて前記構造物の変形を算出し、
前記構造物の変形に基づいて前記構造物における応力分布を算出してもよい。
【0008】
前記演算処理部は、
前記構造物の全体変形を算出し、
算出された全体変形を強制変位として与えた有限要素法を用いて、前記構造物の応力分布を算出してもよい。
【0009】
前記光ファイバは、ねじれなく構造物に取り付け可能な光ケーブルであってもよい。また前記光ファイバは、マルチコアファイバであってもよい。
【0010】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、構造物の応力集中を検出可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】構造物に取り付けられた光ファイバの状態の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0014】
(第1の実施形態)
図1に、本開示のシステム構成例を示す。本開示のシステムは、構造物90の形状を測定するための光ファイバ91と、光ファイバ91における光散乱特性を取得する光センシング部92と、光ファイバ91における光散乱特性を用いて構造物90の応力分布を算出する演算処理部93と、を備える。演算処理部93は本開示の装置として機能する。
【0015】
通常、光ファイバで測定できる物理量は光ファイバの伸び縮みだけである。従来技術では、このことを利用して構造物の歪を測定してきた。この原理を用いる場合、光ファイバを、構造物に密着させて配線し、構造物にひずみ、つまり表面に伸び縮みが発生したときに、これと同じだけ光ファイバも伸び縮みするよう、光ファイバのガラスの伸び縮みと構造物の伸び縮みが一体となるように取り付ける必要がある。どのように取り付けるかは構造物の表面状態によるので、ケースバイケースで試行錯誤が必要であるが、少なくとも強固にケーブルも中の光ファイバのガラスも動かないようにすべてを密着させることが必要である。
【0016】
図2に、本開示の応力検出方法の概要を示す。本開示は、
図3に示すように、構造物90の形状に沿って取り付けた光ファイバ91の形状を測定し(S11)、光ファイバ91の形状を用いて構造物90の変形を算出し(S12)、構造物90の変形に基づいて構造物90への応力分布を算出する(S13)。これにより、本開示は、構造物90の応力集中を検出し、さらに構造物90の応力集中箇所を特定することができる(S14)。
【0017】
図3に示すように、本開示では、構造物90が曲がったりゆがんだりしたときに、光ファイバ91が同じように動けばよい。つまり、本開示では、ステップS11において、光ファイバ91を緩やかに構造物90の表面に取り付ければよい。例えば、光ファイバ91を構造物90に密着させていると、構造物90が曲がると光ファイバ91が伸びることになる。しかし、本開示では、構造物90が曲がれば、その分そこの光ファイバ91が長く(曲げ内側なら短く)なるだけで、その時に光ファイバ91が伸びるのではなく、光ファイバ91が動いて曲げ部が長く(または短く)なればよい。つまり本開示では、光ファイバ91の軸方向に動いて曲げに対応して変形すればよい。具体的には、例えば、軸方向にねじれなく動けるような張り方でよい。
【0018】
そこで、本開示では、ステップS11において、光ファイバ91を形状センサとして構造物90に沿わせる際に、以下の条件で沿わせる。
・光ファイバ91の長手方向に拘束しない。
・構造物90との摩擦を小さくすることで光ファイバ91のねじれを抑制する。ただし、構造物90そのもののねじれは計測可能である。
【0019】
ステップS11における形状センシングでは、光センシング部92が光ファイバ91に光を入射し、光ファイバ91における散乱光を受光することで、光ファイバ91の長さ方向における各位置での光散乱特性を取得する。演算処理部93は、光センシング部92で得られた光散乱特性を用いて、光ファイバ91の形状センシングを行う。本開示では、この形状センシングにおいて、構造物90の全体変形を測定する。
【0020】
光ファイバ91を用いた形状センシング方法は任意であるが、例えば、非特許文献2で開示されているようなマルチコアファイバを用いた方法が例示できる。マルチコアファイバの断面でそれぞれのコアがどれだけ歪んでいるかを比較し、歪みの大きい方向に歪みの大きい分だけ曲がっていると判定することができる。複数本のシングルコアファイバを用いても同様の方法で光ファイバ91の形状を測定することができる。以下、光ファイバ91がマルチコアファイバである例について説明する。
【0021】
光センシング部92は、各コアの歪を測定可能な任意の装置である。例えば、
図1に示すように、光ファイバ91の片側に接続され、各コアで反射又は散乱された光を受光する、BOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectmeter)又はOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometer)が例示できる。また、光ファイバ91の両方に接続され、各コアを通過した連続光を受光する、BOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)であってもよい。
【0022】
ここで、光ファイバ91中の位置と構造物90の位置を対応させるため、測定時の光ファイバ91上の長手方向の位置と構造物90上での位置を同定可能にする。例えば、光ファイバ91の端のどちらかを基準に定め、構造物90の予め定められた位置で温度を変えるか、構造物90の予め定められた位置で光ファイバ91に局所曲げを加える。
【0023】
図4に、光ファイバ91の形状の測定結果の一例を示す。x軸方向は光ファイバ91の長さ方向を示し、y軸方向は光ファイバ91の長さ方向に垂直な方向を示す。光ファイバ91の形状はz方向の3次元方向を含む。本開示は、光ファイバ91の形状に合わせて構造物90の表面が変形していると解釈し、構造物90の変形を算出する。構造物90の全体変形になるかどうかは、構造物90の全体に光ファイバ91を取り付けることで算出できる。例えば、光ファイバ91が曲がっていれば、構造物90のその部分も同じ曲率で曲がっていると判断できる。
【0024】
3次元空間の曲線の軌跡(光ファイバ91の長さ方向の各位置)は、解析的にはフレネ・セレの公式においてκ(曲率:どの方向にどれくらい曲がっているか)とτ(捩率:曲がり方向の基準となる初期座標(地球の天地を基準とした絶対座標)がどれくらい回転しているか)を求められれば定義することができる。
【0025】
求めたい光ファイバ軌跡ベクトルr(s)は次式で表される。
【数1】
T(s):光ファイバ91の弧長sでの位置ベクトル
s:弧長(経路上の距離)
r
0:初期位置
【0026】
ここで、位置ベクトルT(s)は次式で表される。
【数2】
T:単位接ベクトル
N:単位主法線ベクトル
B:単位従法線ベクトル
d/ds:単位弧長当たりの変化量(空間分解能)
【0027】
図5に、応力分布の一例を示す。ステップS13における応力分布の算出では、例えば、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いることができる。構造物90の全体変形を強制変位として有限要素法に与えることで、構造物90に加わっている応力を構造物90の位置毎に算出することができ、これによって応力集中を評価することができる(S14)。
【0028】
本開示では、ステップS11において、構造物90の予め定められた位置で温度を変えるか、構造物90の予め定められた位置で光ファイバ91に局所曲げを加えている。このため、ステップS14では、温度又は曲げによる歪みが検出されているx軸方向における位置が識別可能であり、これによって応力集中の生じている構造物90の位置を識別可能である。
【0029】
(第2の実施形態)
図6に、本実施形態のシステム構成例を示す。本実施形態では、曲げ変形可能なパイプ81で光ファイバ91の側面が覆われている。パイプ81は、中空部分に1本以上の光ファイバ91が配置可能であり、かつ中空部分を保ちつつ曲げ変形可能な任意の筒状体である。曲げ変形可能にするための構成は任意であり、例えば、パイプ81の一部の素材を柔軟なものにするほか、蛇腹状にするなどが例示できる。
【0030】
本実施形態は、曲げ変形可能なパイプ81内に光ファイバ91を配置し、光ファイバ91をパイプ81内で自由に回転可能にする。これにより、本開示は、光ファイバ91の捩れを防ぐことができる。
【0031】
パイプ81内が液体82で満たされていてもよい。液体82はゲルでもよい。これにより、パイプ81内の空間が狭くなるのを防ぎ、パイプ81の内壁と光ファイバ91との摩擦を低減し、光ファイバ91のねじれをさらに機械的に抑制することができる。なお、パイプ81の端部から液体82が流出するのを防ぐ構成は任意である。また、パイプ81の内壁面に光ファイバ91との摩擦を低減するための液状又はゲル状等の摩擦防止層が形成されていてもよい。
【0032】
本実施形態では、パイプ81がねじれても光ファイバ91はねじれない。このため、本開示は、光ファイバ91を捩じれさせることなく、構造物90の捩れをセンシングすることができる。
【0033】
本開示の演算処理部93はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。本開示のプログラムは、本開示に係る演算処理部93に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラムであり、本開示に係る演算処理部93が実行する応力検出方法に備わる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【符号の説明】
【0034】
81:パイプ
82:液体
90:構造物
91:光ファイバ
92:光センシング部
93:演算処理部