(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004148
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】無線通信端末及び送信タイミング制御方法
(51)【国際特許分類】
H04W 74/08 20240101AFI20240109BHJP
H04W 56/00 20090101ALI20240109BHJP
【FI】
H04W74/08
H04W56/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103650
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 笑子
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
(72)【発明者】
【氏名】森川 博之
(72)【発明者】
【氏名】成末 義哲
(72)【発明者】
【氏名】生形 貴
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA11
5K067DD11
5K067EE02
5K067EE25
(57)【要約】
【課題】隠れ端末が存在する状況においても、無線通信ネットワーク内の各無線通信端末が衝突を回避するように送信タイミングを適切に制御し、且つ、その成功確率を向上させること。
【解決手段】無線通信ネットワーク内の複数の無線通信端末の各々は、所定の周期の中の複数の位相の各々をパケット送信タイミングとする。各無線通信端末は、無線通信端末全体の複数の位相の平均値である全体平均位相を算出する。更に、各無線通信端末は、自身の複数の位相の平均値が全体平均位相に近づき、且つ、複数の位相が複数の無線通信端末間で異なるように、自身の複数の位相を更新する位相更新処理を行う。この位相更新処理における位相更新幅が減少するように、全体平均位相に雑音成分が付加される。そして、各無線通信端末は、更新した位相情報をパケット送信を通して他の無線通信端末に通知する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線通信端末を含む無線通信ネットワーク内の無線通信端末であって、
通信コントローラを備え、
前記通信コントローラは、
所定の周期の中の複数の位相の各々をパケットの送信タイミングとする処理と、
前記複数の無線通信端末全体の前記複数の位相の平均値である全体平均位相を算出する処理と、
前記無線通信端末の前記複数の位相の平均値が前記全体平均位相に近づき、且つ、前記複数の位相が前記複数の無線通信端末間で異なるように、前記無線通信端末の前記複数の位相を更新する位相更新処理と、
前記更新した位相の情報をパケット送信を通して他の無線通信端末に通知する処理と
を実行するように構成され、
前記通信コントローラは、更に、前記位相更新処理における位相更新幅が減少するように前記全体平均位相に雑音成分を付加し、前記雑音成分が付加された前記全体平均位相を用いて前記位相更新処理を実行する
無線通信端末。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信端末であって、
前記雑音成分は、ランダム成分を含む
無線通信端末。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信端末であって、
前記雑音成分は、前記位相更新処理の回数が増加するにつれて小さくなるように設定される
無線通信端末。
【請求項4】
請求項1に記載の無線通信端末であって、
前記複数の位相の前記平均値は、基準位相であり、
前記複数の位相は、
前記基準位相から調整位相を減算することにより得られる第1位相と、
前記基準位相に前記調整位相を加算することにより得られる第2位相と
を含み、
前記調整位相は、前記複数の無線通信端末間で互いに異なるように設定されており、
前記位相更新処理は、
前記基準位相を前記雑音成分が付加された前記全体平均位相に近づくように更新する処理と、
更新後の前記基準位相に基づいて、前記無線通信端末の前記複数の位相を算出する処理と
を含む
無線通信端末。
【請求項5】
請求項4に記載の無線通信端末であって、
前記複数の位相は次の式に従って更新され、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
ここで、
Nは、前記複数の無線通信端末の総数であり、
iは、前記複数の無線通信端末の各々の識別子であり、1~Nの値を取り、
θ
iは、前記複数の無線通信端末の各々の前記基準位相であり、
rは、秩序パラメータであり、0より大きく1以下の実数であり、
Kは、前記複数の無線通信端末間の結合強度であり、
ΔTは、単位時間であり、
φは、前記全体平均位相であり、
βは、前記調整位相であり、
a
1は、0以上1以下の実数であり、
α1は、前記第1位相であり、
α2は、前記第2位相であり、
φ
withNoiseは、前記雑音成分が付加された前記全体平均位相であり、
random()は、0より大きく1より小さいランダム値であり、
NumofNodesは、前記位相更新処理において位相が考慮される無線通信端末の数であり、
Xは、任意のパラメータである
無線通信端末。
【請求項6】
無線通信ネットワーク内の複数の無線通信端末の各々における送信タイミング制御方法であって、
前記各々の無線通信端末において、所定の周期の中の複数の位相をパケットの送信タイミングとする処理と、
前記複数の無線通信端末全体の前記複数の位相の平均値である全体平均位相を算出する処理と、
前記各々の無線通信端末の前記複数の位相の平均値が前記全体平均位相に近づき、且つ、前記複数の位相が前記複数の無線通信端末間で異なるように、前記各々の無線通信端末の前記複数の位相を更新する位相更新処理と、
前記更新した位相の情報をパケット送信を通して他の無線通信端末に通知する処理と
を含み、
前記位相更新処理は、位相更新幅が減少するように前記全体平均位相に雑音成分を付加することを含み、
前記雑音成分が付加された前記全体平均位相を用いて前記位相更新処理が実行される
送信タイミング制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の送信タイミング制御方法であって、
前記雑音成分は、ランダム成分を含む
送信タイミング制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載の送信タイミング制御方法であって、
前記雑音成分は、前記位相更新処理の回数が増加するにつれて小さくなるように設定される
送信タイミング制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信ネットワーク内の複数の無線通信端末の各々における送信タイミング制御に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT時代の到来に伴い、今後益々多くの無線通信端末が活用されていくことが予測される。その一方で、無線通信端末に割り当てることのできる周波数帯域や時間は限られており、これらの無線通信資源の有効活用は一つの重要な課題である。
【0003】
近年、無線センサネットワークにおけるスケジューリング手法に対し、蔵本モデルの応用が試みられている(非特許文献1)。蔵本モデルとは、同一板上の複数のメトロノームの同期現象などのように、多数の振動子が相互作用によって同期する現象を記述する数学モデルである。蔵本モデルに基づくスケジューリング手法においては、各センサノードの送信タイミングを位相に見立てる。そして、各センサノードが他のセンサノードの位相を観測して自律的に自身の位相を更新することで、公平かつスケーラブルなスケジューリングが実現される。
【0004】
以下、非特許文献1に開示されている数式及び手法について説明する。相互作用するN個の振動子について考える(Nは2以上の整数)。各振動子i(i=1~N)の位相θiは、次の式(1)、(2)に従って変化する。
【0005】
【0006】
【0007】
平均位相φは、N個の振動子の全ての位相θiの平均値である。wiは、ノードiの固有振動数である。rは、秩序パラメータである。Kは、振動子間の結合強度である。ΔTは、単位時間である。
【0008】
次に、N個の振動子を、無線通信ネットワーク内のN個のノード(無線通信端末)に置き換える。各ノードi(i=1~N)によるパケットの送信タイミングは、所定の送信周期内の位相θiで表される。各ノードiは、自身のパケット送信タイミングにおいて、下記式(3)に従って自身の位相θiを更新する。式(3)において、a0は、0以上1以下の初期値である。
【0009】
【0010】
そして、各ノードiは、更新した自身の位相θiの情報を、パケット送信を通して他のノードj(j=1~N、j≠i)に通知する。ノードjは、ノードiから送信されたパケットを受信し、受信パケットを復調することにより、ノードiの更新後の位相θiを認識することができる。このように、各ノードiは、最新の位相情報を共有し、自身の位相θiを自律的に更新していく。上記式(3)によれば、各ノードiの位相θiは、次の式(4)で示される値に収束していく。
【0011】
【0012】
各ノードiの位相θiは、平均位相φから差分位相だけずれるように収束する。その差分位相は、各ノードiに固有の値であり、N個のノード間で異なっている。これは、N個のノードのそれぞれの送信タイミングが所定の送信周期内で重複しておらず分散していることを意味する。このように、N個のノードは、互いに衝突することのないように自身の位相θi(送信タイミング)を自律分散的に制御し、時分割通信を行う。
【0013】
尚、式(4)で示される収束後の位相θiの場合の平均位相φは、次の式(5)で表される。
【0014】
【0015】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術によれば、上記式(5)で示されるように、収束後の平均位相φはノードに固有の位相を含んでいる。従って、隠れ端末が存在する状況では、各ノードで算出される平均位相φがノード毎に異なってしまうという問題がある。すなわち、非特許文献1に記載された技術は、隠れ端末問題に対応することができない。
【0016】
非特許文献2は、隠れ端末が存在する状況においても、無線通信ネットワーク内の各ノードがパケット衝突を回避するように送信タイミングを適切に制御することができる技術を開示している。非特許文献2に記載の技術の詳細は後述される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】U. Yu, H. Choi and J. Lee, “Kuramoto-Desync: Distributed and Fair Resource Allocation in a Wireless Network,” in IEEE Access, Vol.7, pp.104769-104776, 2019
【非特許文献2】生形他、“無線センサネットワークにおける隠れ端末を考慮した蔵本モデル型スケジューリング方式,” 2022年 電子情報通信学会総合大会、B-5-88,通信講演論文集1, P.399, 2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の1つの目的は、非特許文献2に開示されている技術を更に改善し、位相同期の成功確率を向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の観点は、複数の無線通信端末を含む無線通信ネットワーク内の無線通信端末に関連する。
無線通信端末は、通信コントローラを備える。
通信コントローラは、
所定の周期の中の複数の位相の各々をパケットの送信タイミングとする処理と、
複数の無線通信端末全体の複数の位相の平均値である全体平均位相を算出する処理と、
無線通信端末の複数の位相の平均値が全体平均位相に近づき、且つ、複数の位相が複数の無線通信端末間で異なるように、無線通信端末の複数の位相を更新する位相更新処理と、
更新した位相の情報をパケット送信を通して他の無線通信端末に通知する処理と
を実行するように構成される。
通信コントローラは、更に、位相更新処理における位相更新幅が減少するように全体平均位相に雑音成分を付加し、雑音成分が付加された全体平均位相を用いて位相更新処理を実行する。
【0020】
第2の観点は、無線通信ネットワーク内の複数の無線通信端末の各々における送信タイミング制御方法に関連する。
送信タイミング制御方法は、
各々の無線通信端末において、所定の周期の中の複数の位相をパケットの送信タイミングとする処理と、
複数の無線通信端末全体の複数の位相の平均値である全体平均位相を算出する処理と、
各々の無線通信端末の複数の位相の平均値が全体平均位相に近づき、且つ、複数の位相が複数の無線通信端末間で異なるように、各々の無線通信端末の複数の位相を更新する位相更新処理と、
更新した位相の情報をパケット送信を通して他の無線通信端末に通知する処理と
を含む。
位相更新処理は、位相更新幅が減少するように全体平均位相に雑音成分を付加することを含む。そして、雑音成分が付加された全体平均位相を用いて位相更新処理が実行される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、隠れ端末が存在する状況においても、無線通信ネットワーク内の各無線通信端末が衝突を回避するように送信タイミングを適切に制御することが可能となる。更に、雑音成分を付加して位相更新処理を行うことにより、位相同期の成功確率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係る無線通信システムの構成を概略的に示す概念図である。
【
図2】実施の形態における基準位相と複数の位相との関係を説明するための概念図である。
【
図3】実施の形態に係る送信タイミング制御のシミュレーション結果を説明するための概念図である。
【
図4】実施の形態に係る送信タイミング制御のシミュレーション結果を説明するための概念図である。
【
図7】実施の形態に係る各ノードにおける送信タイミング制御方法を要約的に示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態に係るノードの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
1.無線通信システムの構成例
図1は、本実施の形態に係る無線通信システム1の構成を概略的に示す概念図である。無線通信システム1は、複数の無線通信端末10と中央無線通信装置20を含んでいる。複数の無線通信端末10と中央無線通信装置20により無線通信ネットワーク2が構成されている。中央無線通信装置20と各無線通信端末10は互いに通信可能である。例えば、無線通信ネットワーク2は無線センサネットワークであり、無線通信端末10はセンサ端末であり、中央無線通信装置20はゲートウェイである。他の例として、無線通信端末10は無線LAN端末であり、中央無線通信装置20はアクセスポイントであってもよい。
【0025】
以下の説明では、簡略化のため、無線通信端末10を「ノード10」と呼び、中央無線通信装置20を「中央ノード20」と呼ぶ。
【0026】
無線通信ネットワーク2は、N個のノード10-1~10-Nを含んでいる。Nは、ノード10の総数であり、2以上の整数である。
図1に示される例では、Nは6であるが、当然それに限定されない。N個のノード10-1~10-Nの各々は、「ノード10-i」で表される。iは、各ノード10の識別子であり、1~Nの値を取る。
【0027】
各ノード10-iは、中央ノード20にパケットを送信する。特に、各ノード10-iは、定期的にパケットを中央ノード20に送信する。各ノード10-iの送信タイミングは、所定の送信周期内の「位相」で表される。つまり、各ノード10-iは、所定の送信周期内の位相に相当する送信タイミングでパケットを送信する。このとき、衝突が回避されるように各ノード10-iの送信タイミングを適切に制御することが望まれる。
【0028】
2.非特許文献2に記載の手法
送信タイミングのスケジューリングに関し、まず、非特許文献2に記載の手法について説明する。各ノード10-iは、所定の送信周期の中に「複数の位相」を送信タイミングとして有する。例えば、複数の位相は、「第1位相α1」と「第2位相α2」を含んでいる。各ノード10-iの第1位相α1と第2位相α2の平均値を、以下、「基準位相θi」と呼ぶ。
【0029】
図2は、基準位相θ
i、第1位相α1、及び第2位相α2の関係を説明するための概念図である。第1位相α1は、基準位相θ
iから調整位相βだけ遅く、基準位相θ
iから調整位相βを減算することにより得られる。一方、第2位相α2は、基準位相θ
iから調整位相βだけ早く、基準位相θ
iに調整位相βを加算することにより得られる。基準位相θ
iは、第1位相α1と第2位相α2の平均値である。
【0030】
各ノード10-iは、自身の基準位相θiに基づく第1位相α1及び第2位相α2をパケット送信タイミングとする。各ノード10-iは、自身のパケット送信タイミングにおいて、下記式(6)~(10)に従って自身の基準位相θi、第1位相α1、及び第2位相α2を更新する。そして、各ノード10-iは、更新した自身の位相(α1,α2)の情報を、パケット送信を通して他のノード10-j(j=1~N、j≠i)に通知する。つまり、各ノード10-iは、複数のノード10-1~10-Nの最新の位相情報を共有し、自身の位相(α1、α2)を自律的に更新していく。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
rは、秩序パラメータであり、0より大きく1以下の実数である。Kは、ノード10間の結合強度である。ΔTは、単位時間(制御周期)である。a1は、0以上1以下の実数である。
【0037】
全体平均位相φは、N個のノード10-1~10-N全体の基準位相θiの平均値である。式(7)~(9)から分かるように基準位相θiは第1位相α1と第2位相α2の平均値であるため、全体平均位相φは、N個のノード10-1~10-N全体の複数の位相(α1,α2)の平均値であるとも言える。この全体平均位相φは、N個のノード10-1~10-Nの位相情報から算出可能である。
【0038】
調整位相βは、上述の通り、基準位相θiと複数の位相(α1,α2)との間の差を規定する。式(8)、(9)から分かる通り、調整位相βは、N個のノード10-1~10-N間で互いに異なるように設定されている。
【0039】
上記式(6)によれば、各ノード10-iの基準位相θiは、全体平均位相φに近づくように収束する。言い換えれば、各ノード10-iは、全体平均位相φを算出し、その全体平均位相φに近づくように基準位相θiを更新する。更に、各ノード10-iは、更新後の基準位相θiに基づいて、第1位相α1及び第2位相α2を算出する。すなわち、基準位相θiが更新されると、それに従って第1位相α1及び第2位相α2も更新される。このような位相更新処理が繰り返されることにより、各ノード10-iの基準位相θiは、全体平均位相φに近づくように収束する。すなわち、各ノード10-iの基準位相θiが同期する。
【0040】
基準位相θiと複数の位相(α1,α2)との間の差である調整位相βは、N個のノード10-1~10-N間で互いに異なるように設定されている。よって、N個のノード10-1~10-Nのそれぞれの送信タイミング(α1,α2)は、所定の送信周期内で重複せず分散することになる。このように、N個のノード10-1~10-Nは、互いに衝突することのないように自身の送信タイミング(α1、α2)を自律分散的に制御し、時分割通信を行う。
【0041】
従来の式(5)と比較すると、式(10)で表される全体平均位相φには、ノード10-i毎に固有な調整位相βが含まれていないことが分かる。これは、全体平均位相φの算出時に、第1位相α1の調整位相βと第2位相α2の調整位相βが互いに打ち消しあうからである。その結果、隠れ端末が存在する状況においても、収束後の全体平均位相φは、無線通信ネットワーク2内で共通の値となる。すなわち、隠れ端末が存在する状況においても、無線通信ネットワーク2内の各ノード10-iが衝突を回避するように自身の送信タイミングを自律的且つ適切に制御することが可能となる。これにより、効率的な時分割通信が可能となる。
【0042】
各ノード10-iは、ノード10の総数N及び自身の識別子iを含む無線環境情報を制御装置から受け取る。例えば、制御装置は、中央ノード20である。また、各ノード10-iは、自身の位相の情報を他のノード10-jに通知し、他のノード10-jから他のノード10-jの位相の情報を受け取る。各ノード10-iは、N個のノード10-1~10-Nの位相の情報に基づいて全体平均位相φを算出し、式(6)~(10)に従って基準位相θi及び複数の位相(α1,α2)を更新する。つまり、各ノード10-iは、基準位相θiが全体平均位相φに近づき、且つ、複数の位相(α1,α2)がN個のノード10-1~10-N間で異なるように、基準位相θi及び複数の位相(α1,α2)を更新する。
【0043】
各ノード10-iは、所定の送信周期の中の複数の位相(α1,α2)の各々を送信タイミングとしてパケットを送信する。例えば、各ノード10-iの位相を0~1の範囲に規格化して考える。位相は0から1まで変化し,その後0に戻る。あるノード10-iの位相が1になると、当該ノード10-iは、上記の式(6)~(10)に従って、自身の位相(α1,α2)を更新する。また、当該ノード10-iは、更新後の位相情報を含むパケットを送信する。これにより、当該ノード10-iは、更新後の位相情報を他のノード10-jに通知する。他のノード10-jは、上記の式(6)~(10)に従って、自身の位相(α1,α2)を更新する。次に、他のノード10-jの位相が1になる。このような処理が繰り返されことにより、位相が更新されていく。
【0044】
図3及び
図4は、送信タイミング制御のシミュレーション結果を説明するための概念図である。ここでは、6個のノード10-1~10-6を考える。
図3は、ノード配置例を示している。中央ノード20は座標[0,0]に位置しており、各ノード10は中央ノード20から離れて位置している。距離の単位はmである。ノード間距離が1000m以上離れているノード10同士は、互いに隠れ端末であるとする。各ノード10は、中央ノード20にパケットを送信する。また、各ノード10は、受信可能な範囲で、周辺の他ノード10の送信タイミングの情報を取得する。そして、各ノード10は、上記式(6)~(10)に従って、自身の位相(α1,α2)を更新する。
図4は、各ノード10の移動(α1,α2)の更新例を示す概念図である。横軸は時間を表し、縦軸は位相(送信タイミング)を表す。
図4から、隠れ端末が存在する状況においても、各ノード10の送信タイミングが均等に離れることが分かる。
【0045】
尚、上述の例では、所定の送信周期における各ノード10-iの複数の位相は、第1位相α1と第2位相α2を含んでいる。但し、位相数はそれに限定されない。所定の送信周期における各ノード10-iの複数の位相の数は3以上であってもよい。各ノード10-iの基準位相θiが複数の位相の平均値であり、且つ、基準位相θiと複数の位相との間の差が複数のノード10間で異なっていれば、同様の効果が得られる。
【0046】
3.位相同期成功確率の向上
3-1.課題
上記式(6)に従った位相更新処理が繰り返されることにより、各ノード10-iの基準位相θ
iが同期することが期待される。但し、その位相同期が必ず成功するとは限らない。
図5は、位相同期の成功例を示し、
図6は、位相同期の失敗例を示している。
図5及び
図6の各々において、縦軸は各ノード10-iの基準位相θ
iを表し、横軸は時間を表している。
【0047】
位相同期が失敗する要因の一つとして、ノード10間の基準位相θの差が大きい状況において位相更新処理が行われることが考えられる。ノード10-iが基準位相θiを更新するタイミングとしては、(1)ノード10-i自身がパケットを送信するタイミングと、(2)他ノード10-jから他ノード10-jの位相情報を受信したときの2種類がある。ノード10-iが他ノード10-jの位相情報を受信した際、他ノード10-jの基準位相θjと自身の基準位相θiとの間のずれが大きい場合、ノード10-iの基準位相θiは、他ノード10-jの基準位相θjの影響を大きく受け、大幅に変化する可能性がある。基準位相θjが大幅に変化すると、ノード10-iのパケット送信タイミングも大幅に変化する。その結果、パケット衝突が発生し、周囲のノード10のパケット送信機会が奪われる可能性がある。パケット送信機会が奪われると、最新の位相情報の共有がうまくいかず、位相同期が失敗する可能性がある。
【0048】
3-2.位相更新処理の改良
そこで、本実施の形態は、位相同期の成功確率を向上させることができる技術を更に提案する。本実施の形態によれば、位相更新処理における位相更新幅は、上記式(6)で与えられる位相更新幅よりも小さくなるように調整される。より詳細には、位相更新幅が減少するように、全体平均位相φに雑音成分が能動的に付加される。
【0049】
例えば、位相更新処理における位相更新式として、上記式(6)の代わりに下記式(11)~(13)が用いられる。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
式(12)で示されるφwithNoiseは、雑音成分が付加された全体平均位相である。上記式(6)中の全体平均位相φを式(12)で示される全体平均位相φwithNoiseで置き換えることにより、式(11)が得られる。random()は、0より大きく1より小さいランダムな値である。すなわち、式(12)中の雑音成分は、ランダム成分を含んでいる。NumofNodesは、位相更新処理の演算において位相が考慮されるノード10の数である。パラメータXは、任意であるが、例えば10に設定される。パラメータXを調整することによって、式(12)中の雑音成分の幅を調整することができる。例えば、5台のノード10に対して演算が行われる場合、同期成立時の位相間隔は36度(=(360度/(5×2))である。式(12)中の雑音成分の幅は、例えば、位相間隔の20分1、10分1、等に設定される。
【0054】
このように、本実施の形態によれば、位相更新処理における位相更新幅が減少するように雑音成分が能動的に付加される。位相更新幅が減少するため、各ノード10-iの基準位相θiが大きく変動することが抑制される。その結果、パケット衝突の発生確率も減少し、周囲のノード10のパケット送信機会が奪われる確率も減少する。最新の位相情報が共有され、位相更新処理が繰り返されることにより、破綻することなく位相同期が成功する確率が高くなる。
【0055】
下記式(14)は、雑音成分の変形例を示している。
【0056】
【0057】
式(14)中のMは、位相更新処理の回数(演算回数)である。位相更新処理の回数Mが増加するにつれて、雑音成分(すなわち、位相更新幅の減少量)は小さくなる。つまり、位相更新幅は、最初大きく減少し、位相更新処理の回数Mが増加するにつれて徐々に大きくなる。これによっても、同様の効果が得られる。
【0058】
3-3.処理フロー
図7は、各ノード10-iにおける送信タイミング制御方法を要約的に示すフローチャートである。
【0059】
各ノード10-iは、所定の送信周期の中で複数の位相の各々を送信タイミングとする各ノード10-iは、パケット送信タイミングにおいて、上記式(7)~(14)に従って自身の位相を更新する(ステップS101)。このとき、各ノード10-iは、ノード10-1~10-Nのそれぞれの位相情報に基づいて全体平均位相φを算出する。更に、各ノード10-iは、位相更新幅が減少するように全体平均位相φに雑音成分を付加することにより、全体平均位相φwithNoiseを取得する。そして、各ノード10-iは、複数の位相の平均値である基準位相θiが全体平均位相φwithNoiseに近づき、且つ、複数の位相がノード10-1~10-N間で異なるように、自身の位相を更新する(位相更新処理)。更に、各ノード10-iは、更新した位相の情報をパケット送信を通して他のノード10-jに通知する(ステップS102)。
【0060】
各ノード10-iは、受信可能な範囲で、他のノード10-jの位相情報を受信する(ステップS103)。他のノード10-jの位相情報の受信に応答して、各ノード10-iは、上記式(7)~(14)に従って、自身の位相を更新する(ステップS104)。このとき、各ノード10-iは、ノード10-1~10-Nのそれぞれの位相情報に基づいて全体平均位相φを算出する。更に、各ノード10-iは、位相更新幅が減少するように全体平均位相φに雑音成分を付加することにより、全体平均位相φwithNoiseを取得する。そして、各ノード10-iは、複数の位相の平均値である基準位相θiが全体平均位相φwithNoiseに近づき、且つ、複数の位相がノード10-1~10-N間で異なるように、自身の位相を更新する(位相更新処理)。
【0061】
3-4.効果
本実施の形態によれば、隠れ端末が存在する状況においても、無線通信ネットワーク2内の各ノード10-iが衝突を回避するように自身の送信タイミングを自律的且つ適切に制御することが可能となる。これにより、効率的な時分割通信が可能となる。
【0062】
更に、本実施の形態によれば、位相更新処理における位相更新幅が減少するように雑音成分が能動的に付加される。位相更新幅が減少するため、各ノード10-iの基準位相θiが大きく変動することが抑制される。その結果、パケット衝突の発生確率も減少し、周囲のノード10のパケット送信機会が奪われる確率も減少する。最新の位相情報が共有され、位相更新処理が繰り返されることにより、破綻することなく位相同期が成功する確率が高くなる。
【0063】
4.ノードの構成例
図8は、本実施の形態に係るノード10の構成例を示すブロック図である。ノード10は、通信コントローラ100と無線部110を含んでいる。通信コントローラ100は、無線通信を制御する。無線部110は、アンテナや送受信回路を含んでいる。
【0064】
通信コントローラ100は、1又は複数のプロセッサ101(以下、単に「プロセッサ101」と呼ぶ)及び1又は複数の記憶装置102(以下、単に「記憶装置102」と呼ぶ)を含むコンピュータである。プロセッサ101は、各種情報処理を行う。例えば、プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)を含んでいる。記憶装置102は、プロセッサ101による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置102としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。
【0065】
制御プログラム103は、プロセッサ101によって実行されるコンピュータプログラムである。制御プログラム103を実行するプロセッサ101と記憶装置102との協働により、通信コントローラ100の機能が実現される。制御プログラム103は、記憶装置102に格納される。制御プログラム103は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。制御プログラム103は、ネットワーク経由で通信コントローラ100に提供されてもよい。
【0066】
無線環境情報104は、無線通信ネットワーク2の環境を示す。例えば、無線環境情報104は、ノード10の総数N及び自身の識別子iを含む。通信コントローラ100は、例えば中央ノード20から無線環境情報104を受け取る。無線環境情報104は記憶装置102に格納される。
【0067】
通信コントローラ100は、無線環境情報104及び上記式(7)~(14)に基づいて、本実施の形態に係る送信タイミング制御(
図7参照)を実行する。そして、通信コントローラ100は、無線部110を介してパケットを送信する。
【符号の説明】
【0068】
1 無線通信システム
2 無線通信ネットワーク
10 無線通信端末(ノード)
20 中央無線通信装置
100 通信コントローラ
101 プロセッサ
102 記憶装置
103 制御プログラム
104 無線環境情報
110 無線部